米の女神と風の竜 作:春谷
「可愛いのぉ、可愛いのぉ」
「かわいいねぇ……」
「かわいいじゃろぉ」
暑さもまだまだ残る中、しかし少し和らぎ秋の気配を感じさせる頃合い
ここセルフィアの米についに穂がつきました。
おいしいお米になるためにはここからが肝心
たっぷりと日の光を浴びて夜は涼しさに耐えることで甘い実りをもたらすのです。
ヤナトの主神たるカムヒツキ様ならばいざ知らずですが天気ばかりはサクナヒメといえどどうすることもできません。
ですので姫と一緒にまったり眺める昼下がりでした。
今日の午前の農作業も終わり。肥料は穂肥を中心にたっぷりと。
「いよいよって感じがするね!」
「そうじゃの、そういえばもうすぐ稲刈りじゃからカマを準備してくれよ?」
「…………あぁ~~~~!?!?」
「おぬし忘れておったな?」
こういううっかりはどちらかというとサクナヒメの専売特許なのですが、なにせここ半年新たな農法をもたらしてくれる豊穣神との農作業が楽しくみるみる質を上げていく自前の作物との歩みに夢中でそれどころじゃねぇ!となっていたためうっかりすっかり頭から飛んでいました。
差し迫った戦闘の予定があれば鍛冶も磨こうというものですが、そういうわけでもありませんでしたので鍛冶場に立つのは久しぶりです。
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「さて……じゃあサクナちゃんにいいところを見せようかな!」
「で、なんで台所に立っとるんじゃ」
「腹が減っては戦はできぬってね!」
「いや温めた牛乳で腹は膨らむか?おいしいけどの……なぜ夏に……」
「これが今んとこ一番キクの!」
鍛冶に向けて英気を養うホットミルク
これまた長く仲良くしてきたモウ助の高品質の牛乳です。
二人仲良く鍋で温めたホットミルクをごくごく飲んで、これまた暑い鍛冶場の前に座るフレイ
好奇心で横から見ているだけのサクナヒメですら「暑くてかなわんわい」といった様相なのに、フレイは慣れっこなのかしれっとしています。
今回の鎌のためにベースとした材料は金
本来柔らかさから工具や武器には向かないはずのその金属ですがルーンの力なのか打ち込むたびに明らかにその性質は異質なものへと変わっていきます。
手になじむようクワと同様にボスモンスターの素材を持ち手に、強力な爪牙を刀身に
今のフレイにはサクナヒメと過ごした半年間によって多種多様、そして大量の素材がありますので、効果が高いものからどんどん強化に使います。
出来上がったのは頭を垂れる稲穂を思わせる黄金色の刀身をもつ立派な鎌です。
受け取ったサクナヒメはしげしげと、どこか満足げに眺めます。
「ふむ、良い鎌じゃな。これなら十分戦えるじゃろ」
『こちらでは私を使うと理を乱しそうですからなぁ』
「タマ爺は細かいことを気にするのぉ。わしは肉を食いたいぞ?」
「いや細かくないと思うけど……タマ爺さんに魔法かけようと思ってもダメなんだよね
いっそ打ち直させてもらえれば……」
この地の武具にはすべて魔法がかかっており、倒した魔物は“はじまりの森“へと還ります。
“星魂剣”は唯一無二の比肩するものなき神の剣ですが、この魔法がかかっていないことからタマ爺は自身の力をこの世界で発揮することを自ら禁じています。(サクナヒメは気にしていませんが……)
それはすなわちサクナヒメが十全に力をふるえないことを示し、無念そうにするフレイですが、当人は大して気にしていない様子
なぜならサクナヒメは大いなるルーンにもとづく神の力を持っており、本当に切羽詰まればその封印を解くことはいつでもできるゆえの余裕でしょう
「そうじゃの。剣がひとりでに動き出す腕前になれば良いぞ」
「えぇ~……ますますきんた君何者なの……」
ヒノエの悪友たるきんたに打ち直しをゆだねたのはなぜか、思い出しながらにやりと
サクナヒメはフレイの遠い将来に期待するのでした。
姫は万能なれど、まだまだ未熟な雛なのです。
鎌を手に入れた!
銘は“金穂”
鍬の“銀葉”と対になる神器。