米の女神と風の竜 作:春谷
「稲刈りお疲れさまでした~!!かんぱ~い!!」
「「「「かんぱ~い!!」」」」
ポコリーヌの食堂で、飲み物のグラスを掲げて音頭を取るフレイ。
テーブルには所狭しと並べられている料理。フレイの顔はつやつやです。
町のいろんな人に声をかけて振舞うことになったこの料理の数々は実はポコリーヌ製の物ではなく、フレイが作ったもの。
稲刈りお疲れ様と本人が言ったものの、実は稲刈りはほぼすべて、9割くらいはフレイが行っておりました。
なぜこんなことになったのか、ことの顛末はこんな具合です。
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「稲刈りじゃ!」
「お~!」
出水した稲もしっかり育ち、晴れて稲刈りが可能な状況に。実りを付けた穂は頭を垂れ、田んぼは陽の光を受けて黄金の輝きをたたえています。
となれば当然稲刈りを行うわけで、すっかり農作業は手慣れたものですからまぁ説明もそこそこに稲刈りを早速進めるわけです。
この後稲架がけや脱穀精米といった手順も残っていますし、サクナヒメの経験上自分の力の向上につながるのはその際。すなわち精米してお米を食べられるようになった際です。
秋となり黄金の海を眺めるのは感慨深いものがありますし、稲刈りは大事な工程ではありますがとはいえ数多ある工程の一部にすぎません。
よってサクナヒメはそこまで気合もいれることもなく、稲刈りをフレイに任せてしまおうというぐらいに考えておりました。
「鎌で成長した稲を下のほうを刈る。乾燥する際には逆さづりにするから向きをそろえてまとめておく。まぁフレイならすぐ要領をつかむじゃろう」
「がんばるぞ!」
そんな感じでとりあえず稲刈りを見せてみる米の女神。
一束刈ったその瞬間、ひょこっと出てきた存在と目があいます。
「ぬお?」
「あっ、ルーニーだ。ラッキーだねサクナちゃん。何回か見てるでしょ?」
「おぉ、カブを作っていたときにの。なんじゃオヌシ米にもおるのか。
居心地が良いところ済まんが稲刈りじゃからの。許せよ」
そういってルーンの妖精をひと撫でするとかの精は光となり世界へ還ります。
ルーニーは作物を収穫した時にたま~に現れる妖精です。理屈はよくわかりませんが収穫後現れ、触れることによって収穫者をルーンで満たしてくれます。
最初見たときにはサクナヒメは悪いことをしたかの?なんて思ったものですがフレイ曰く別に問題はないとのこと。
今回も一部の力をサクナヒメに預け、わずかばかりの力の底上げと体力の回復を図ってくれました。
米の女神はさて元気いっぱいになったの、といった調子。次の稲をさくっと刈ります。
「おぉまたか、こんな出るもんじゃったか?よしよし、可愛いのぉ」
「……?」
こんな軽い調子だったのは三連続でルーニーが現れるその瞬間まででした。
その際にはさすがにサクナヒメも怪訝な目をし、フレイのおめめはぐるぐるになっておりました。
そこからはもう怒涛です。
サクナヒメにとっては「わずかな力」と「いくらかの体力の回復」程度ですがそれはかの神が圧倒的な力を持っているから。むしろ竜に匹敵する彼女にそれだけのルーンをもたらしていることは“異常”です。
これをフレイに置き換えれば、「いくらかの力」と「体力の全快」をもたらします。ルーニー1体で。
余りにも過剰な可能性がこの田んぼに埋まっています。鎌をひと振りするだけで、一日の睡眠に匹敵する体力の回復と何かしらの技能の成長をもたらす。
それが見渡す限りの一面の田んぼに所狭しと生えているのです。
もはやフレイにはこの黄金の海が見渡す限りの宝の山にしか見えませんでした。
そうなるとこの宝の山々をどう扱うかという話になります。
いかんせん稲ですから保留というわけにもいきません。
まず力の話ですが
実は最初はフレイがその善性から山分けと言ってきかなかったのです。宝の山を目前になかなか言えることではありませんが、しかしだからこそサクナヒメは断りました。
手ごたえからすると確かに一面すべて収穫すれば元の世界での成長に匹敵しそうですが、もし精米のあとにも成長すれば“倍取り”です。
もとよりサクナヒメはこの世界での成長など期待してはおらず、自分がこの世界での圧倒的強者であるという自負からもフレイにその力をすべて託すことにしてみました。
そうなると今度は体力をもて余します。
片っ端から稲刈りして片っ端から力を得るというので別に問題はないのです。
が、少し冷静さを欠いたフレイはキッチンを持ってきて(?)気絶寸前まで料理に打ち込み稲刈りをしては回復するという暴挙に出ました。まごうこと無き変態です。
体力の回復と同時に料理の腕前も磨こうという両どり狙いの作戦。
姫はこの一年で多くの実りと備蓄を蓄えていたので、せっかくですからいろいろな料理にしたうえで大放出しました。
宝の山を独占した感謝の念から、食事会を開こうと企画したわけです。
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「いやしかしホントにすべての稲にいるとはのぉ」
「ルーンが浮くだけじゃなくて本当に全部ルーニーだったもんね
お米ってすごいなぁ……」
そんな話をする米の女神と大地の姫。
ここに参加できない竜の親友には大好物のホットケーキをたっぷりと差し入れています。
このホットケーキも今回やっと上手に作れるようになった品の一つでした。
みんなニコニコと笑顔で楽しそうにしてくれています。
これだけで、よかったよかったと思うフレイなのでした。
「こんな席で浮かない顔をしてるナ」
「……可愛いルーニーがいっぱいいたのに見損ねたからですよ?
……どういう風の吹き回しですか?」
季節はまさに実りの秋、しかし冷たい冬の風の気配を感じさせる夕暮れ時です。