米の女神と風の竜 作:春谷
「ほ~ん……なるほどのぉ、ここはわしのまったくあずかり知らぬ場所であるということが分かった」
『なんとも不思議なことがあるものですのぉ』
「ごめんなさい。巻き込んでしまったみたいで……」
「わらわからも謝罪させてもらう。この通りだ」
謝罪をするのはこの町の姫たるフレイ。キラキラとした淡い色の髪を二つに結い、その瞳は優し気な光をたたえています。
そして風の竜も頭を下げます。まぁその頭の鼻先だけでサクナヒメの胸元くらいまで高さがありますが。
「そんな小さな身ではぐれてしまうとは!何たる悲劇!
ウオオーーーーーン!」
「ええい!やかましい!それにわしは神じゃと言うておろうに!
まったく人とはどいつもこいつも見た目だけで見くびりおって!」
号泣する執事長。サクナヒメはなんとな~く元の世界にいた大柄な男を思い出します。
まぁ彼は目の前の執事長ほど情緒は激しくなく、むしろ落ち着いた男でしたが。
そんな執事長にぷんすかと憤慨するサクナヒメ。
しかし一方で対照的に、竜の瞳は真剣そのものです。
「そうなのじゃ……おぬしのその身に宿すルーン。
改めて、神というのも納得じゃ。
フレイ……そちはとんでもないものをひっかけてきたぞ」
「そんなにすごいの?」
「そうじゃな。おぬしらにはわからんかもしれんが……
今のわらわよりは確実に上じゃ。
最もルーンに満ちていた時ならわからぬがな」
「え!?」
風の竜はそういいます。
彼女は風幻竜セルザウィード
この世界に4柱いる神竜ネイティブドラゴンの1柱にして、この町の統治者。
かの竜はどんなに低く見積もってもこの世界の根幹を支える力の持ち主であることは間違いありません。
なにせ死と引き換えにこの世のルーンを1000年巡らす力の持ち主です。
そのように生命力の源たるルーンのカギを握る神ですが、かつて問題を抱えていました。
彼女は神として老齢に差し掛かっており、天命を迎えようとしていたのです。
それにかつて待ったをかけたのが、ここにいる狐耳の青年レオンをはじめとした4人の守り人達でした。
そして今まさに待ったをかけたのは、大地の姫、アースマイトのフレイ
風幻竜セルザウィードの新たな友です。
「それは……俺達といたときのさらに前ということか」
「ぶわっはっは!流石貴い者はわしの価値が分かるようじゃの?
我が名はサクナヒメ、武神タケリビと豊穣神トヨハナの子
最強でなくてなんとする」
『まったく……あまり調子に乗られませぬよう』
米の女神から漂う力の気配は竜たる自分と匹敵せんばかり。
しかも神ながら幼く見え、すなわちまだまだ発展途上でしょう。
こんな異常な存在がひょっこり紛れ込んできたので、風竜は内心ハラハラでした。
やべ~ヤツだったらどうしよう?と
心配をよそに当のサクナヒメは割と話の分かる子です。
ちょっぴり、ちょっぴり?お調子乗りなくらいで。
「そちは豊穣神なのか?」
「そうじゃよ?米の神じゃといってよかろう。
あぁ~……峠の田んぼは大丈夫じゃろうか……」
「そちを帰してやりたいのはやまやまなのじゃが……なにせどういう理屈でこちらに来たのかも解らぬでな」
「雲をつかむような話でございますな!ウオオーーーーン!」
執事長の言は大げさとしても、風竜も同感です。
幸いにして友好的というか思ったよりのんきであること。
記憶を失ったとかそういうわけでもなさそうなこと。
大きな力を持ったマレビトが悪意を持っていたら大変ですが、そんなわけでもなさそうです。
ですから、レオンが棚上げしてしまうのもやむなしでしょう。
なにせ今日はいろいろ起こりすぎました。
「俺はもうだめだ。だるくてかなわん。
今日はもうこの辺にしておかないか?いろいろとありすぎた。
セルザ。また明日な。」
「ああ。そうじゃの……また明日、じゃ」
「それじゃあサクナヒメ様は私が宿屋に案内しますね。
サクナヒメ様、ついてきてください。
セルザ!またあとでね」
「あぁ、またの」
レオンもフレイもくたくたでした。
レオンの発言を皮切りに、今日は休もうということになりました。
幸福なことです。仕切り直せるのです。明日が、あるのです。
それを噛みしめながら、風竜は空を仰ぎました。