米の女神と風の竜   作:春谷

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米の女神の昔話

「しかし立派な龍じゃったのぅ」

『そうですな』

「友好的な方でよかったわい。やっとのことでかの神に鎮まってもらったじゃ。

もうあんなのはこりごりじゃよ」

 

緊張の糸が切れるように肩を落とすサクナヒメ。

奇しくも彼女もセルザウィードと同じことを考えていました。

すなわち、世界の異物たる自分の排除を強行されてもおかしくはなかった、と。

事実、以前は自分も人の子らを排除に動きました。

統治者としてはむしろ自然な心のはたらきです。

そんなホッとした様子のサクナヒメに、町の姫たるフレイは問いかけます。

 

「神に鎮まってもらった?」

「あ~……」

『儂から言いましょう。われらの国には氾濫と不作をつかさどる悪神

大禍大龍(オオマガツオオミズチ)が眠っていたのです。風竜殿よりさらに巨大な龍でした。

豊穣をつかさどるおひいさまは艱難辛苦の末蓄えた力でその大神を弑し奉ったのです』

「タマ爺もこう見えてヤナト……わしの国最強の神剣“星魂剣(ホシダマノツルギ)“なのじゃ」

『おひいさま……こう見えては余計です』

「えぇ~……思ったよりずっとすごいね。サクナヒメ様」

 

そんなサクナヒメとタマ爺の自己紹介にびっくりするフレイ。

セルザウィードはああいっておりましたが、何せサクナヒメは見た目だけなら可憐な少女。幼女といっても差し支えないレベルです。

第一印象だけならば、その身に宿す力の大きさや経歴の苛烈さを感じさせない、ちょっとおてんばな女の子といったところです。

戸惑うフレイにタマ爺は語り掛けます。

 

『わしにはわかりますぞ?フレイ殿もなかなかの使い手であると』

「そうなのか?タマ爺はよくわかるの」

『伊達に長生きしておりませぬ、もちろん未だ人の身の理の中ですが』

「魔獣とか、お化けとかいろいろ戦ってきたけど、さすがに竜と戦おうとは思わないなぁ……ついたよ、ここがこの町の宿屋、“小鈴“だよ」

 

そんな話をしながらてくてく歩き、着いたのはヤナトの趣がいくらかある、しかしいくらか海の外の気配を感じる装いの建物です。

ミルテがなんかいっておったのぉ~。

海の向こうの何と言う国と言っておったかのぉ~。

とのんきに見上げるサクナヒメ。

玄関に構える対の狛犬はちょっぴりタマ爺に似ています。

 

「フレイ、お帰りなのだ。お疲れ様。お風呂か?

おや?隣のちっちゃい子はなんだ?

また拾ってきたのか?これまた変わった服装のようだ。」

 

出迎えたのはこの旅館の看板娘のシャオパイ

ドジっ子です。きわめてドジっ子です。

まだまだドジが転じて事態を好転させる特殊能力は身に着けていませんが。

そんな彼女にサクナヒメを紹介します。

 

「この人はサクナヒメ様。ちょっといろいろあって私が連れてきてしまったの。

コハクたちと似たような感じでレオンさんって人もいるんだけど……」

「おう、呼んだか?アースマイト」

「うわぁっ!?」

 

無音で現れたのが救われた守り人のレオンです。

姫のリアクションを見てからからと笑っていましたが……

ひとしきり笑うとマジメな顔になり頭を下げます。

 

「ちゃんと礼を言っていなかったと思ってな、名前を教えてくれるか?」

「えっと、フレイです」

「すまなかったな。いろいろと迷惑をかけて。それと、ありがとう。」

「いえ、それは、私じゃなくてほかの守り人たちに言ってあげてください」

「そうだな。まぁ一眠りしてからまた明日、だ。

ここは宿屋なんだろう?」

「そうだが、泊りならば空いている部屋に案内するぞ」

 

クセのある独特な口調でシャオパイが答えます。

こてんと首をかしげながら二階のほうへ目線を向けます

 

 

「一部屋貸してくれ。金は……まぁセルザウィード様が立て替えてくれるだろ。」

「サクナヒメ様の分もレオンさんの分も一度私が払っておきます。

大丈夫!こう見えても結構お金持ちなんです!」

「そうか?まぁ借りはいずれ返す。今日のところはお言葉に甘えるとしよう」

「はい!サクナヒメ様は……お疲れじゃなければお風呂でも一緒にどうですか?」

「何!?風呂があるのか!?是非もないぞ!」

「やった!いろいろお話聞かせてください!」

「はいは~い。二名様なのだ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

姫と女神は仲良くお風呂に向かいました。

お風呂の中でサクナヒメが語るのは、これまで歩んできた冒険譚

此度の自分のように紛れ込んだマレビト

人の子のヤラカシによって島流しの憂き目にあったこと

田を耕し、鬼狩りに行き、汗を流して

必死に生き抜いた日々の話

1年目はうまくいかなかった

彼岸花の団子を食うことになった。

それでも少しずつ、少しずつ

のちには育てた米を都に納めるまでに

 

そんな矢先に降ってわいた龍の災厄

絶望した。心が折れた。

 

立ち上がって支えてくれたのは人の子だった。

思えばあの時が転機だったのだろう

神も人も、ともに並び立つ民であると

 

野良仕事を支える田右衛門

食事係のミルテ

鍛冶士のきんた

機織りのゆい

動物と心通わすかいまる

 

絡繰士にして親友たるココロワヒメ

守役にして剣たるタマ爺

 

みなとともに生きてきた。

みなとともにせっせと働き、二つ世を豊穣で満たすころ

厄災の龍と相まみえた。

 

大禍大龍(オオマガツオオミズチ)を弑し、やっと落ち着いて過ごせてきたころじゃよ

都にあいさつに伺っておっての?船に乗っていたら気付いたら風竜殿の頭の上じゃ」

「それはまた……すみません巻き込んでしまって……」

「仕方があるまい。おぬしが悪いわけでもない。」

「本当にすみません。ところで……お米って作れるんですね!?

いいなぁ……私も天穂(あまほほ)食べてみたいなぁ」

「はっはっは。自慢の米じゃからな!」

 

嬉しそうに話すサクナヒメ、それもそのはず。

豊穣神たるサクナヒメにとって米は半身に等しく、力の源。

なんなら愛しいわが子のようなもの。

出穂したころには毎年毎年「可愛いのぉ、可愛いのぉ」と呟く様な溺愛ぶりなのです。

ルーンに満ちたこのセルフィアでは作物の成長は極めて速いですが、それでもその気持ちはフレイにはとって共感できるものでした。

すっかり意気投合した二人、大地の姫と米の神は風呂に入っていたことも忘れ

すっかりのぼせあがってしまいました。

 

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