米の女神と風の竜   作:春谷

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はじめての田起こし

なにはともあれ田起こしです。

米の味を決めるのは水と土

サクナヒメは豊穣神の神眼にて土を見極めます。

この土はまだ田んぼとしての歩みを始めたばかり、いわば赤子です。

しかし大きな潜在能力を感じます。

 

幸いにしてここセルフィアはこの世界のルーンの心臓

必然として水と土は生命力にあふれているのです。

まずは1年しっかり面倒を見てあげようと、サクナヒメは決めました。

 

「さて……フレイよ、まずは田起こしじゃ。お願いしていたわしの分のクワは準備したか?」

「はい!」

「ふむ、銀とは変わった拵えじゃが、出来は良さそうじゃの。」

「武器としても使うってことだから……いろいろ手を加えてます!」

 

サクナヒメはこの世界に対応するためにクワをお願いしました。

フレイにとっても新しい友人へのプレゼントであり、同時に神様へ奉納する神器でもあります。

出来たのは今のフレイにできる技術をすべて込め、魂を込めた逸品です。

銀をベースとした立派な農具。それにいくつかの鉱石と爪牙類を繰り返し打ち込むことで強度を上げました。

仕上げに蝶の茨と雷馬のたてがみを繊維に仕立て、持ち手に巻くことでなじませています。

単純な素材の性能で言うなら呪いの人形も候補だったのですが……さすがに気が引けてやめておきました。

 

『立派なクワですな、きんたが見れば目を輝かすことでしょう』

「そういうものかの?あやつは対抗心むき出しにする気もするが」

「そんな事ないよ!きんたさんはタマ爺さんを打ち直した人なんでしょ?

さすがにそれを見ちゃうとまだまだだなって思うなぁ。

あとでカマも作るからね!待っててね!」

「きんたにさん付けなどいらんわい。まぁ楽しみにしておるよ」

 

カマを使うのはまだ先とのことだったので、フレイは待ってもらいました。

せっかくなので鍛冶の技術をもっと磨いてもっと良いものをサクナにプレゼントしたいと気合十分です。

サクナヒメもそんな友人の善意に胸があったかくなりにっこりです。

こんな友人のためならば、慣れた田仕事の伝授くらい少しは我慢しようもの。

 

「さて田起こしをやろうかの。土にクワを入れ、柔らかくしてやると同時に栄養や空気を混ぜてやるのが目的じゃ。こんな風に……の!」

 

そういうと、サクナヒメはクワを一振り。

軽そうに振ったそのクワの先では豊穣の力が駆け巡り、明らかにクワが刺さった位置より広範囲に耕した影響が与えられます。

加えてフレイに信じられなかったことは、小石が粉々に砕け散ったことでした。

フレイにとってはハンマーに持ち替えるのが当然のことだったのですが、なんとサクナヒメはクワ一本で耕しつつ石を砕いてみせたのです。

 

「ささ、やってみせよ。大体2周りくらい耕してやる感じじゃの」

「わかりました!」

 

そういうと、フレイは頑張って耕しまわります。

時折石を除去するためにハンマーに、枝を除去するためにオノに持ち替えたりしていますが、なかなか手慣れた様子。

流石、広い畑を一人でやり繰りしているだけのことはあります。

(これはサクナヒメも後で知ったのですが、フレイはモンスターと仲良く農業をしているため、ホントは牛のモンスターと田起こしすることができました。)

 

この町の水田は他に2面ある畑と同様の大きさ。

ヒノエの峠の田んぼの2倍くらいでしょうか?

峠の神田で出来た米は大体5人家族1年分ぎりぎりといったところでしたから、この町でとれる米で大儲け!とはいかないでしょう。

それでもやってみることに価値はあるのです。

ゼロからでも、負けても、立ち上がることができました。

この小さな田んぼから始めることのなんと尊いことか。

それが分かるくらいにはサクナヒメも立派な神様なのです。

 

「ほれほれ~。や~っと半分ってところじゃぞ~。がんばれ~」

「八分目ってところかの?もう一息じゃ~。」

「まったくつめが甘いのぅ?ほれ、ここが耕せておらんぞ……っと

よしっ!これでばっちりじゃ!」

 

立派な神様なの……です?

本人(本神)がやっているときの独り言は弱音満載なのに……横で応援している時の他人の仕事の評価は正確です。

フレイに意地悪しているわけじゃありません。

なんてったって正確なので。

自分の仕事になると途端に甘くなっちゃうお茶目なところがあるだけなのです。

岡目八目とは神様にも通用する概念なのでしょう。

ちなみにこのばっちりな耕し具合は9割9分でした。

 

「ついでに基本の栄養となる、元肥を入れてやるんじゃが、今回はほどほどにしておく。

アーサーのくれた種もみがどれだけ大食らいかわからぬのでな」

「大食らい?」

「肥料は与えればよいってものでもないのじゃ。

葉ばかり伸びて穂に栄養が行かなかったり、背ばかり伸びて弱くなったりの」

「そうなんだ……」

「あんなに大きな野菜を作っているんじゃからどうなるかわからぬがな。

だが食わせてもらったコメはわしの知ってる米じゃったから、ひとまずわしの知っているやり方を教える。

あとはいろいろ試してみよ」

「畑は栄養剤いっぱいあげちゃってるけど大丈夫かなぁ?」

「そんなの知らんぞ?もとより畑はわからんし、風竜殿に聞く限りいろいろと違う世のようじゃからな。

わしも天穂が自慢の米になるまで5年はかかった。気長にやることじゃの。」

 

農業は一日にしてならずなのです。

 




田起こし完了!
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