俺はもっと笑いたい   作:夏のレモン

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導入的な何か
Good luck で締めくくる


 

 

異世界転生。

 

昨今ではよく聞く話だ。だけど念のため、異世界転生を知らない方のために全体の流れを説明しておこう。

 

 STEP1

 

なんらかの理由で死ぬ。神の手違いとか、事故とか、過労死とか。

 

 STEP2

 

チートをもらう。『元の世界には帰れないから、代わりに別の世界で新しい人生のスタートだ』からの『お詫びにチートをあげよう』とか、『特典は何がいいかな?』とか。

 

ここで君達は思うだろう。ちょっと待て神様。なんで主人公にそんなに優しいんだよ。その優しさを少しは世界中の不幸な子供達に分けてやれ。

 

まあまあ、込み上がる思いは抑えておいてくれ。もしかしたら日本のサラリーマンの神様という、ひどく限定的な神様だったりするのだろう。

 

 

そしてSTEP3

 

転生する。美少女と出会って冒険者になったりする。そこから何やかんやでヒロインが増えていき、最終的には神レベルの最強の力を手に入れて、不特定多数の一途で可愛いヒロイン達に囲まれて物語はハッピーエンド。

 

作品によっては異なる部分もあるが、だいたいの流れはこんな感じ。主人公は最初から最強クラスで、話が進むにつれ最強クラスの中のナンバーワンになる。

 

……うん、言いたいことは分かる。ここは俺が若干テンションを上げて代弁しよう。

 

都合良すぎるだろ!? なんなのその初期ステータス? 課金したの? なんで序盤から中ボスを雑魚扱い出来るレベルなんだよ!

 そもそも美少女なんて街中を一日中歩き回って一回すれ違えるかどうかくらいだぞ? それがなんで何人も主人公に惚れるんだよ!! くたばれ!!

 

……ゴホン、えー、とにかく、ここまで長々と語ってきたが、何故こんな話をしているのかと言うと、かく言う俺も異世界転生者であり、STEP3の途中までは上手くいっていたからだ。

 

何? やっぱり都合が良いじゃないかって? いやいや、そうじゃない。

 

確かに、俺は神様に手違いで殺されたニートで、お詫びにチート付きで転生させてもらえるという、天文学的数字を引き当てたスーパーラッキーボーイだ。

 

正直な話、転生するってなった時は『はい勝ち確〜、後はボス倒すのにちょっぴり苦労すれば万事オッケーじゃん。折角だから日本の知識を広めて金儲けしたろ笑笑』なんて思っていた。

 

だが、この話ぶりから察してる奴もいるだろうけど、人生はそんなに甘くなかったわけだ。

 

どうせなら一から話そう。なにせ、俺には時間がたっぷりと余ってるからな。

 

 

…………

 

 

前世の俺はしがない高校生だった。可もなく不可もなく、どこにでもいるただの高校生。

 

ある日、ちょっと小腹が空いたんでコンビニへ行こうと外出したところ、雷に打たれて死んでしまったのだ。

 

目を覚ますと、そこには三十過ぎぐらいのおっさんが土下座してた。なんでも、俺が死んだのは手違いらしい。

 

正直カッとなったが、すぐに思い直した。

 

なんせ信じられないような奇跡が目の前で起こっているのだ。異世界転生というビッグチャンスを逃すわけにはいかない。

 

俺は神を許した。誰にだって間違いはあります、的なこと言ったりして。

 

すると、神は感激して色々な特典をつけて転生させてあげようと言ってきた。

 

神は俺が答える前に特典をくれた。

 

その結果、極限の炎魔法適正、膨大な魔力、高い身体能力というテンプレな肉体を貰った。その上、貴族の生まれにしてもらえるらしい。

 

内心、ニヤニヤが止まらなかったね。でも俺は必死に笑みを抑えて、こんなに良くしてもらって申し訳ない、と頭を下げた。

 

思えばこれが余計だったんだ。

 

神は頭を下げる俺を見て、それはもう感激していた。

ここまで謙虚で素晴らしい人間がいるなんてっ! といった具合でな。

 

神は感激のあまり、俺を送り出す直前でもう一つチートを俺に付け加えやがった。

 

『これで君は一生幸せだよ!』

 

ニッコリ笑顔で手を振る神を思い出すと、今でも腹が立ってくる。

 

どんなチートなのかって? まあ落ち着け。どんなチートを貰ったのかは、もう少し後で話すとするよ。

 

 

そうしてまんまとチートを手に入れた俺はとある辺境貴族の子供として、第二の人生を送ることになった。

 

母親は透き通った青い目のブロンド美人。父親は黒い髪に真っ赤な目を持った、スラリとした筋肉質のスーパーイケメンだ。

 

当然、その二人の子である俺は超美形。父親ゆずりの真っ赤な瞳に、母親ゆずりの金髪。地球だったらトップアイドルになれるレベルだろう。

 

父親は元は下級貴族の三男坊らしく、魔王討伐という大手柄を立てその褒美として当時第三皇女で聖女だった母と結婚したらしい。

 

ここまで聞けば分かると思うけど、父は勇者だ。

 

本来なら伯爵にもなれたはずなんだが、本人は静かに暮らしたかったようで、辺境の貴族として生きていきたいと志願したそうだった。

 

最初聞いた時は、コイツ、転生者じゃねえの? と疑った。

 

だってそうだろ? 完璧にテンプレ主人公の人生じゃん。普通は下級貴族の三男坊が姫と結婚なんて出来るわけがない。

 

まあ、神が言うには、この世界で転生者は俺だけらしいし、その可能性はすぐに切り捨てたけど。

 

なにはともあれ、俺はそんな恵まれすぎている環境で生活することになったんだ。

 

赤ん坊の時は父親の書斎に忍び込んで言語の練習をしたり、魔法の練習をしたりした。ついでにこの世界の事や貴族社会の仕組みとかも勉強した。

 

俺は自身の欲望を抑え込んで必死に取り組んだ。

 

美人過ぎる母親の乳を飲む時は無の境地にまで達した程だ。

それも全部、完璧なテンプレ主人公になるためだ。幼い頃から色んなものを学ぶのはチート主人公のお約束だろう?

 

勿論、肉体的鍛錬も抜かりはない。少年期には父親に頼み込んで剣術と体術を教わった。まあ? ちょっと自重出来なくて勝っちゃったんだけどね?あの時の父上の驚いた顔といったら、めっちゃ気持ちよかったなー。

 

更に早くから言葉を流暢に話せるようになった俺に母親が家庭教師を雇ったが、正直お話にならない低レベルの授業で退屈で論破しまくってやった。

 

両親は大喜びだったよ。天才だ! ってね。

 

成人するまでに学ぶ事はほぼ全て学んだ俺は、ようやく時間が出来たのでそろそろ本腰を入れて動き出すことにした。

 

両親に頼み込んで超難関貴族学校に入学した。

 

学生になることでより多くの美少女達と出会うきっかけになる。これこそ王道だろう。

 

入学初日から俺は有名人だった。

 

まぁ、入学テストは全科目トップだったからな。注目されて当然だった。

 

貴族学校は最高だった。どこを見回しても一定以上の美女ばかり。

 

最高の学園生活が始まる。期待で胸が膨らんだ。

 

だが学生になれば当然授業がある。

 

やはりつまらない。俺は欠伸を噛み殺すのに必死だった。

 

でも剣術の授業と魔術の実践授業は中々面白かった。教官にあっさり勝った時の周囲の驚く顔は今でも覚えている。

 

まあ、勉学の方面でも首席を取り続けたけどな。周囲からは次期生徒会長は俺以外にいないと言われていた。

 

当然モテた。俺は常に美女で囲まれていた。でも女の子達の相手をしながら金儲けも忘れなかったよ。

 

まずは食べ物だ。色々な物を作った。

 

マヨネーズ、醤油、味噌から始まり、卵焼き、ラーメン、ケーキなどなど。

 

とんでもなく儲かった。

 

食文化の革命を起こすことに成功した。

 

出だしが上手くいった俺はもう止まらなかった。

 

現代知識で魔道具作ってぼろ儲けしたり、迫り来る魔王軍残党を一網打尽にしたり。

 

最高の発明家にして無敵の英雄爆誕!!って感じ。

 

もう高笑いが止まらない。これほどまで最高な人生が俺に訪れるなんて、俺は世界一、いや、異世界一幸運な男だ。

 

この後のプランとしては、卒業した後は冒険者になって強力な魔物をたくさん狩って実績を積みまくる。そうしていれば、やがて王様も認める真の英雄になるだろう。

 

そんな都合よく事が動くわけないって?

 

確かに普通はそうだ。だが俺には確信がある。自信の根拠は両親だ。

 

聖女と勇者の息子なんだぜ? 何も起きないわけないだろ?絶対魔王復活するでしょ?

 

強大な魔王を前に逃げ惑う人々。膝を屈する両親。もうダメだと思ったその時!!

 

颯爽と現れた英雄の息子が父親の意思を継いで復活した魔王にとどめを刺すのだ。

 

なんてドラマチックなんだ。一連の流れは出来上がってるじゃないか。

 

そのあとはもうサービスタイムだ。国王になるのも、女達を連れて故郷に帰ってのんびり暮らすのも自由だ。なんなら神になるのもありだな。

 

……俺は本気でそうなると思っていた。

 

自分の妄想に酔いしれていたのだ。途中まで上手くいきすぎて小説の世界と現実を混同し過ぎてしまったのだ。

 

 

 

異変は唐突にやってきた。

 

俺がいつものように女達に囲まれて昼食を取っていると、食堂の扉が乱暴に開かれ、鎧に包まれた兵士達と両親が流れ込んできた。

 

何が起きたのか訳も分からないまま、俺は魔法を使えなくなる首輪を父に嵌められ連行された。

 

こんなもの嵌められる謂れはない。

 

俺は当然抗議した。だが兵士達は抵抗出来ない俺を容赦なくぶん殴り黙らせた。

 

兵士達に連れられた俺は広場に引きずられていった。

 

広場の真ん中には処刑台が組み立てられていた。兵士は抵抗する俺を蹴り飛ばし、膝をつかせた。

 

顔を上げると大勢の人々が憎しみに満ちた表情で俺を見ていた。

 

そんな中、兵長らしき男が俺の前に歩み出てくると大声で告げた。

 

「これより魔王裁判を始める!!」

 

魔王裁判。それは裁判とは名ばかりの、魔王の疑いがある人物に行われる残虐な処刑だ。

 

なんで俺が……?

 

困惑している俺の耳に、兵長の読み上げる罪状が入ってくる。

 

珍妙な料理を作り人々を惑わせた罪。

 

再三の忠告を無視して危険な兵器を生み出し続けた罪。

 

婦女子達を強引に侍らせた罪。

 

魔人殲滅に兵士を巻き込んだ上に地形を滅茶苦茶にした罪。

 

こういった逸脱した力と知識を持って人々を恐怖に陥れたこの者は魔王の生まれ変わりで間違いない!!

 

だって、さ。

 

何を言っているのか本気で分からなかったよ。呆然としている間にもあれよあれよと魔王裁判は進んでいった。

 

兵士達は泣きじゃくる俺をボコボコにしながら磔にした。

 

着々と準備が整えられていく中、群衆の中に両親の姿が見えた。

 

俺を見る両親の目は恐怖と憎悪で歪んでいた。

 

自分に酔いしれて気付かなかっただけでずっとこんな目を向けられていたんだろうね。今思えばあまりにマヌケすぎる話さ。今更気付いてももう遅いってね。

 

みんなは十字架に磔になってる俺に石を投げつけてきた。その中には俺の事を慕ってたはずの女達が混ざってたんだよ。

 

散々ベッドの中で大好き!とか愛してる!とか言ってたのに、憎悪に塗れた表情で拳サイズの石をぶつけてくるんだ。

 

大人も子供も老人も、みんなが同じ目をしてた。

 

そうして俺は火炙りにされた。

 

 

…………

 

 

 

長々と無駄話に付き合わせて悪かったな。これが俺の人生の全てだ。

 

ん? まだ終わってないだろ?

 

ああ、チートの話か。なんて事はない。ここまでひっぱっておいてなんだが、本当につまらないチートなんだ。ありきたり過ぎてみんなはもう飽きてると思うぜ?

 

そうだな、折角なら格好のいいルビを振ろうと思ったけど、こんなつまらないチートならシンプルな方がいいかな?

 

()()()()

 

な? つまらないだろ?しかも発動したのが俺が火炙りされて死んだ後だったんだ。

 

つまるところ、俺のイケメンフェイスは火傷で台無し。無敵の炎使いが全身火傷なんて皮肉が効いてるよな。

 

いま俺は王宮の地下深くに閉じ込められているんだ。

 

火炙りが失敗した後、なんとか俺を死なせようと試行錯誤されたけど全部失敗に終わった。

 

神の与えた祝福ぞ? 人間風情にどうにか出来るわけあるめえ。

 

でも痛いものは痛いわけで、マジで生き地獄だったよ。その間、何度神様を呪ったか分からない。

 

憎しみの力でパワーアップする奴とかいるよな。でも、俺の場合はそのパターンじゃなかったらしい。

 

何度か頭おかしくなって復讐に燃えてみたけど、特に変化はなく殺され続けた。

 

怒りの感情は長続きしないって身をもって知ったね。

 

怯えから怒り、怒りから後悔、後悔から懺悔といった具合で感情はループしていった。

 

もう一周回って普通の人格に戻ってきちゃったよ。

 

物語ならこうなる前に身を呈してヒロイン達が守ってくれるんだろうけど、これが現実なんだぜ?

 

拷問されながらも高笑いをあげる俺を見ると、みんなは石を投げるのをやめるんだ。そうなると益々笑いが止まらない。

 

怖いのかねぇ? 抵抗出来ない俺が。ただおかしくて笑ってるだけなのにな。

 

思えばテンプレが現実に通用するわけがねえんだよなぁ。なに勘違いしてたんだか。

 

どこから間違えてたんだろうなぁ……。

 

神様騙したからバチがあたったのかなぁ……。

 

と、何億回目かの後悔をしてみる。

 

さて、オチはついたかな? 悪いが時間切れだ。そろそろ処刑の時間なんでね。やっこさん、なんとしても俺を殺したいらしくてさ。

 

というわけで最後に一つだけ言わせてもらおう。

 

楽して得た力なんかに頼ってはいけない。過程があっての結果だからこそ意味がある。安易に楽な道を選ぶと俺みたいになるから要注意だ。

 

by 君達の先輩より

 

なんてな。それじゃあ本当にさよならだ。俺の自我が何回か崩壊したころにまた会おう。

 

Good luck

 

 

……………

 

 

プツッ……

 

映像が途切れた。彼を転生させた神は頭を抱えた。

 

「あちゃー……どーしよぉ……」

 

オロオロと真っ白な世界を歩き回る。

 

「まさかあんなことになってるなんて……」

 

ふと気になって見てみた結果があれだ。神は本気で泣きそうだった。

 

「どうにかしてあげたいけど……現世に力の行使は出来ないし……」

 

しばらく頭を捻っていた神だったが、やがてパンと両手を合わせた

 

「ごめん!! 私では何も出来ないんだ!! 許してくれ!!」

 

数秒拝んだ後、神は晴れ晴れとした表情で額を拭った。

 

「ふぅ……起きてしまったことはどうしようもないからね。神の謝罪を二回も受けれたってことで勘弁してもらいたい。素晴らしい人格を持つ彼なら許してくれるだろう」

 

神は再び映像を浮かべた。映されたのは彼のいる世界の全体像だ。

 

「彼なら神にだってなれると思ったんだけどなぁ……僕の部下にして仕事減らしたかったのにぃ……」

 

神は残念そうに唇を尖らせた後、改めて仕事を再開した。

 

「仕方ないか! 切り替えていこう!! おーー!!」

 

すでに神の頭からは彼の事は消えさっていた。

 

 

 

 

 

 

 








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