METAL GEAR SOLID 蛇を救う鳥 作:坂本チハラ
『それまじで面白いからやってみ!?』
そんな言葉と共に友人から押し付けられたゲームソフト。
ベッドに仰向けに寝転んでパッケージを見つめる。
黄色い背景の真ん中に眼帯をしたダンディーなおじ様。軍事モノっぽいが、ジャンルはステルスゲームらしい。
俺、ステルス苦手なんだよなぁ。
でもまぁせっかく貸してくれたのだし、やらない訳にもいかないだろう。
きっと次会った時に「どうだった?」と聞かれるに違いない。
1回やってみて性に合わなかったら返そう。
ごろん、とうつ伏せになりサイドテーブルに置かれたPSPを手に取る。
電源を入れて最近やっていたゲームをセーブして終え、ディスクを入れ替えた。
お馴染みのゲーム開始音がなって、俺は苦手なジャンルのゲームとはいえ、少しわくわくしながら画面を見つめる。
そして。
―!!!!ERROR!!!!―
「は?」
画面が真っ赤に染まり耳を劈くような警告音が鳴って、
――俺は意識を失った。
METAL GEAR SOLID 蛇を救う鳥
1 青い鳥は幸せを運ぶか?
ふわふわと不思議な感覚。
まるで宙に浮いているような、流されているような、不思議な感覚だった。
目を開けることは出来ない。なんとなく開けてはいけないような気がして、俺は何にも逆らわずにただただこの不思議な感覚に身を任せている。
『――ジャック』
「…?」
ひどく優しい声が聞こえた。
誰かの名前を繰り返し呼ぶ。何度も何度もジャックと優しく呼ぶ。
段々名前以外の言葉も聞こえてきた。
ジャック、ジャック。
私は、私に忠をつくす。
お前は連れていけない。
ジャック。
ジャック。
ボスは、蛇は。
――蛇は、一人で…いい。
優しくて、切なくて、苦しくて、悲しくて、何故だか少しだけ幸せそうに、“彼女“は呟いた。
閉じていた瞼が自分の意思とは関係なく開かれる。
白くて美しい花が辺り一面に咲き誇るその場所で、俺は地面に倒れていた。
逆光で顔は見えないが、一人の男が銃を向けている。
体が思うように動かない。いや、動かす気もなかった。
見知らぬ男に銃を向けられ、今まさに殺される瞬間だというのに、これっぽっちも恐怖は感じない。
なぜだかは分からないけど、これが正しいのだとそう思った。
時が止まっているのかと錯覚しそうになる程、長い時間そうしていた。
…けれどやがて終わりはやってくる。
男はゆっくりと引き金を、――引いた。
「――ッ!!」
バチンと意識が一気に弾けて俺は飛び起きた。
がさり、地面から生えた背の高い草が音を立てる。草?
なんだかとてもリアルで不思議な長い夢を見ているようだった。
そう思ったけれど、今も充分夢だと思いたい事が起きている。
周りをさっと見回す。森?というよりジャングルに近い。
次に自分の状態を確認。服装は青いパーカーに黒のロンT、カーキの丈夫そうなズボンに黒いブーツ。
上半身は自分のだがそれ以外は見たこともない服だ。
オプションで指先が出るタイプの黒のグローブ、ベルトと左側に小さなポーチが2つ、右側にホルスター。
「ホルスター!?」
手に触れた固い感触に思わず声をあげる。
なんで、銃なんか、持ってるんでしょうか。
恐る恐るグリップを握って引き抜いてみる。FPSで齧った程度だが、先端にサプレッサーがついているのは分かった。
その場に膝たちになって少し離れた柔らかそうな土の上に銃口を向ける。
弾跳ね返ってきたりしないよな?
ゆっくりと引き金に指をかけ、そのまま引いた。
パシュンッという細い音と反動。弾が跳ね返った様子はない。
撃った場所に近付いてみると、普通の銃弾とは違う先端に針がついたモノが刺さっていた。
どうやらこの銃は麻酔銃らしい。体から力が抜けて座り込む。
「しっかし、どうなってんだ…」
銃をホルスターに仕舞い空を仰ぐ。
一体自分の身に何が起こったのか。さっぱり分からない、といえばウソになる。
あくまで推測でしかないが、もしかしてここは、ゲームの世界ではないだろうか。
夢にしてはリアルすぎる。ここで目覚める前の記憶は起動したゲームとあの不気味な画面。
可能性としてはアリだろう。
メタルギアソリッド、ピースウォーカーだったか。
オプションでついていたポーチに手を突っ込んで中を漁る。
引き抜くとアイフォンによく似た携帯端末が出てきた。
たった一つのボタンを押すと画面がつく。表示された文字を見て、俺の推測は間違っていなかったんだと理解する。
―METAL GEAR SOLID:peace Walker
GAME START
こんな時ばかりは自分の性格に感謝したい。
適応力があるというか割り切るのが早いというか。
立ち上がって服の汚れを軽く叩く。
端末はマップの機能があるようで、それを開いてみる。
詳細マップと広域マップの二種類。広域マップではここからいくつかエリアを抜けた先にゴールと書かれた場所があった。そこへ向かえばいいらしい。
あとwheponやitemといった項目もあったが、
…まさかタップしたら出てくるとかじゃあるまいな。
とりあえずアイテム欄の一番目に配置されていたサラウンドインジケーター?とやらをタップしてみる。
ぐるりと俺の左手首をよく分からないデジタルな数字の並びが覆って弾けた。
腕時計よりは少し大きいレーダーみたいなのが付いている。
予想していただけにもうあまり驚きはしない。
とりあえずそれは付けっぱで行くとして、ゴール地点を目指すことにしよう。
この“ゲーム“の最終目標はやっぱりクリアなんだろう。
とすればパッケージにいた眼帯装備のダンディなおじ様にも会う必要がある。
スネーク、だったか。某動画サイトをちょこちょこ見る俺も名前ぐらい知ってる。
(つか、ここで死んだらどうなんだろ。ゲームオーバー?)
リトライできるのかしら。
――羽根をもがれた鳥は拙い足取りで前へ進む。
……与えられた役割も知らずに。