METAL GEAR SOLID 蛇を救う鳥 作:坂本チハラ
しくった。
完全にしくじった。
「逃がすな!捕まえろ!!」
「捕まえるつもりなら撃ってくんじゃねぇよバカァッ!!」
頬を銃弾が掠める。鋭い痛みが走るが気にしている暇はない。
捕まえたいんだか撃ち殺したいんだか、重そうなジャケットを着た数人の兵士は容赦なく撃ってくる。
頬を掠りはしたものの、まだ致命傷は負っていない。
威嚇射撃のつもりだろうか、だとしたらどんだけ下手くそなんだ。
銃弾飛び交うジャングルの中必死に逃げ回る。
なんでこんな事になったんだっけか。あぁ、そうだ。
『すみませーん、ちょっとお聞きしたいんですけど、この辺で眼帯つけたダンディなおじ様見ませんでした?』
これだ。
へらへら笑いながら敵兵にこう尋ねたのだ。
説明書ぐらい読んでおけば良かった。いや、もしかしたら俺はイレギュラーだから敵と認識されてないんじゃないかとか思ったけど、そんなことなかった。
多分、スネークの敵は問答無用で俺の敵でもある。
なんてこった、初っ端から大ピンチじゃねぇか。
METAL GEAR SOLID 蛇を救う鳥
2 鳥は蛇と邂逅し、
「HQ,HQ!」
『こちらHQ』
「こちらパトロール。異常なし」
木の上で息を潜め、敵がいなくなるのを待つ。
恐らくゲーム上の設定だろう、どうやら敵は一定時間こちらの姿を捕捉できなかった場合、どんどん警戒レベルが下がっていくらしい。
さっきまで視界の端に表示されていたメーターが恐らく警戒レベルだ。今はもう何も表示されていない。
「メタだなぁ…」
思わず呟く。敵の視界も狭く、絶対これ見えてるって状況でも案外見つからない。
周りに敵がいないのをしっかり確認して、枝にぶら下がってから飛び降りる。
まだこの世界に来たばかりだが、敵に追い回されている内にいくつか分かったことがある。
1つ、身体能力の向上。
学生時代に長い間柔道やら空手やらを齧ってはいたが、重そうな装備を身につけた敵兵を軽く投げるくらいは出来たし、木の上にもスルスル登れたし降りれたし。
2つ、多少の痛覚抑制。
これは足を撃ち抜かれた時に気付いた。
一瞬激痛が来たけどすぐに痛みが治まったのだ。さすがに傷口見たときはぎょっとしたが、時間が経つにつれて徐々に治っていくのを見て悟った。
でもまぁ多分不死身ってわけではないだろうから、あまり無茶はしたくない。
あとはその時に必要な情報は視界に表示されたりだとか、そんな感じ。
本当にゲームの世界に来たんだなぁ、俺。
木の陰から顔を出してもう一度周りを確認。
出来るならもう二度とあんな状況になるのはごめんだ。まじで勘弁してほしい。
最後に忘れずレーダーもチェック。
「っし、誰もいな――」
「動くな」
すぐ、後ろで低い声が聞こえた。
声を上げそうになるのを寸でのところで我慢して俺はゆっくりと両手を上げた。
ホールドアップ。
レーダーには音の反応がなかった。なんだ、バグか?無音で移動する敵とか無理ゲーじゃね?
どうしたものか。急いで頭を回転させる。
イチかバチか、力任せに投げてみるか?
そこまで考えたところで、ゴリ、と後頭部に銃口が押し付けられる。
あ、これダメなパターンですわ!
「余計な事は考えるなよ。…見ない格好だな、どこの所属だ」
「えーっと、どこにも属してないっていうか迷子っつーか」
「迷子?こんなコスタリカのジャングルでか?」
「コスタリカ…?……ってどこ?」
正直に白状すると、俺は頭がいい方ではない。
どっちかって言うと悪い方だ。いや、普通に悪い方だ。
聞き慣れない、恐らくは国名か地名だろうコスタリカという言葉に俺は疑問符を飛ばす。
本気で分かっていないのが伝わったのか、押付けられた銃口が離れた。
「…どうも様子がおかしいな。話を聞こう」
「あぁ、どうも……って、あ!」
振り返って相手の顔を見た瞬間俺は思わず声を上げた。
相手は怪訝そうに俺を見る。
深緑のバンダナに右目の眼帯、髭の生えたダンディなおじ様。
――間違いない、スネークだ。
「スネーク!やっと会え――ッ!!」
あまりの嬉しさに思わず抱き着こうと近付いた瞬間、俺の視界がぐるりと回った。
同時に背中から伝わる重い衝撃。ちかちかと星が飛んでるような感じがして、俺は顔を顰めて呻いた。
反応できなかった。投げられたのだ。柔道で習うソレに似ていて、少し違う。
咄嗟の受身も上手く取れなくて、俺はすぐに起き上がれないでいた。
くそう、普通だったら気絶してる。
スネークが俺の傍にしゃがみ込んだ。
「…すまん。いきなり飛びついてくるもんだからつい、な」
「いいえ、俺こそ悪かった」
「ところで、何故俺を知っている」
スネークの目が一瞬にして変わる。
こちらを射抜くような視線。ぞわりと鳥肌がたったが、俺はなるべく緩い雰囲気で笑いながら上体を起こした。
スネークは俺から視線を外さない。
地面の上であぐらをかいて、俺は息を吸う。
何からどう話したもんか。多分、ゲームであることは伏せた方がいいだろう。余計にややこしくなる。
信じてもらえるかは分からないが、他に上手い作り話も浮かばないし、腹括ろう。
「えぇっと、これから話すことはきっと普通だったら有り得ないような事だ。俺もイマイチ理解できてないし混乱してるけど」
とりあえずスネークに危害を加える気はない、と付け足して強調しておく。
スネークは難しい顔で黙って頷いた。
「じゃあ、話すよ―――」
それから俺はここがゲームであることは伏せて一通り話をした。
出だしから「俺は西暦2014年の日本から来た」って言った時は問答無用でスタンロッドを当てられやしないかと少しヒヤヒヤしたが、スネークは顔を顰めただけで「それで?」と続きを促してくれた。
自分の家で寝て起きたらここにいたって事にして、身につけている装備は気付いたら勝手に装備されていた事。
俺自身は今まで一度も銃なんか握ったことがなくて、戦闘経験皆無な事。
スネークを知っている事に関しては歴史関連の書籍に名前と写真が載っていたということにした。
名前と顔ぐらいしか知らないが、なんか大きなことを成し遂げていたり、これから成し遂げたりするんじゃない?とおどけて笑うとスネークはがしがしと頭を掻いた。
もう何かやってるのかもしれない。
「質問がある」
「はい、なんでしょう」
「戦闘経験がないと言っていたが、ここに来るまでに何人か気絶した兵士を見た。あれはお前がやったんじゃないのか?」
「んっとね、なんか身体能力?ちょっと上がってるみたいでさ。元々学生時代に柔道とか空手齧ってたからダメ元で投げてみたらああなりました」
「柔道か………分かった。もう一ついいか。今持っている物が知りたい」
まだ完全に信用はされていないらしい。そりゃそうか。怪しすぎるもんな。
俺はにっと笑って了承し、麻酔銃を初め、ポーチを取り外して中身をひっくり返した。
俺も自分が何を持っているかイマイチ把握していなかったから、ついでに確認しておく。
麻酔弾、双眼鏡、折りたたみナイフ、なんか多分食べ物、ハンカチ、携帯端末……
「コレは?」
スネークか手にとったのは――
「あ、それ俺のウォークマンじゃん!」
「ウォークマン?こんなちっさいのが?」
スネークが首を傾げる。この世界にもあるらしいが、これよりはだいぶ大きいらしい。
すんごい疑ってるからイヤフォンを着けさせためしに1曲音楽を流してやると言葉に出来ないほど感動しているようだった。
あともう一つ、俺の私物があることに気づく。デジカメだ。
データもそのままらしく、スネークが弄り回して飲み会でパンイチになってる写真を見られたときは死にたくなった。
「……正直ウォークマンや写真を見るまでは疑っていたが…」
「俺のパンイチ写真見たからにはもう信じてくれよ頼むから」
「分かった、信じよう」
「まじで!?」
スネークが頷く。
俺は思わずガッツポーズをした。
広げた物を片付けて、とりあえずは1つ小さな目標を達成できた事に感動する。
多分最終的なゴールがゲームのクリアだろうから、この後はスネークと行動を共にすればいい。
そうと決まればスネークに了承を得ねば。
「なぁ、スネーク――」
かしゃん。
不意にベルトに違和感を感じた俺は視線を下げる。
何か金具が引っかかっている。……なんだコレ。
俺は相当間抜けな表情をしていたのだろう、スネークが笑う。
「とりあえず俺達の本拠地で保護してやる。安心しろ、副司令官には無線でさっきの話も聞こえてるだろう。そういやお前名前は」
「え、あ、は、羽鳥…渡辺羽鳥、だけど、スネークこれは」
「ハトリ、か。丁度いい、本当に鳥になれるぞ」
「は?」
スネークの言葉に俺が疑問符を飛ばした瞬間だった。
ピピッと小さな電子音がして、ふわりと身体が宙に浮く。
ぎょっとして上を見ると、ベルトに引っ掛けられた金具から頑丈そうなワイヤーが伸びており先端には膨らんだバルーン。
嫌な予感がするぞコレ!
スネークに抗議しようと口を開いたところで、
ぐんっ
「おわぁぁぁあああ!?」
出たのは間抜けな悲鳴だった。
スネークあとで覚えてろよコンチクショウ!!
―――邂逅を経て世界は回る。
幸せはまだ息を潜めてどこへやら。