METAL GEAR SOLID 蛇を救う鳥 作:坂本チハラ
カリブ海洋上のプラント、”MSF”マザーベース。
正式名称”Militares Sans Frontieres”
どこの国にも政府にも縛られない、国境なき軍隊とやららしい。
スネークによって無理やり鳥になった俺は、何が起きたのか分からないまま気付けばヘリに回収されていて、初めて乗るヘリに思いっきり酔いながら吐き気と格闘している内にマザーベースで一番高いビルの一室に連れてこられていた。
もう二度とヘリには乗りたくないと思ったし、スネークのアレ(兵士に聞くとフルトン回収というらしい)も二度と体験したくない。
きょうれな初体験を二度も経験した直後に副司令官とお話は正直遠慮したい。
ふかふかのベッドで眠りたい。そしてあわよくば元の世界に戻ってたりして欲しい。
兵士に「もしも」の時用に渡されたエチケット袋を握り締めながらそんな事を考えていると、ガチャりと音を立てて部屋のドアが開いた。
入ってきたのは金髪を後ろに撫で付けたガタイの言いお兄さん。
俺より少し上ぐらいだろうか。サングラスのせいで素顔が分からない。
彼は白いマグが2つ乗ったトレーを持ってくると、俺の前に1つ置いた。
中身はコーヒー。嗅ぎなれたその香りに少し緊張が解れる。
「悪いな、ウチの連中気が利かなくて」
「いや、コレくれただけで充分」
俺がくしゃくしゃのエチケット袋を揺らして見せるとお兄さんは笑った。
向かいに残ったマグを置いてトレーを脇に寄せる。
「俺はカズヒラ。カズヒラ・ミラーだ」
「渡辺羽鳥。好きに呼んでくれ。…カズヒラはハーフ?」
「あぁ、親父がアメリカ人だ」
てっきり外人さんだと思ってた俺はカズヒラという名前を聞いて首を傾げた。
カズヒラの字面は”和平”。平和という意味で母親がつけてくれたのだと教えてくれた。
コーヒーをすすめられたので一口飲む。
家で自分が淹れたヤツよりかなり美味くて、知らず口元が緩んでいたらしい。
カズヒラが笑う。
「話は無線を通してもう聞いてる。今のところは俺とスネークしか知らない」
「…出来ればあんま広めたくはないんだけど」
スネークには仕方なく話したが、きっと言いふらして良いことでもない。
異世界、未来の世界から来ましたなんてやっぱり怪しすぎるし、そんな得体の知れない男が同じ組織内にいると知れたら兵士たちは混乱するだろう。
何人いるかは知らないが誰かと会う度に疑われ、一から話をするのも面倒だし、必要があるかは分からないが俺のパンイチ写真を見せるのも嫌だ。
色んな意味で精神がもたない。引き篭る。
「あぁ、他の兵士たちに話すつもりはない。ちょっと特殊すぎるしな」
「おう。…俺も怪しまれないように頑張るよ」
「ここの奴らも色々とワケアリな人間が多いし、あんたの事は適当に言っとくさ。ボスがジャングルで拾った…これで充分だ」
人のことを犬か猫みたいに……
まぁあながち間違いではない。拾われた、拾ってもらったというよりあれはほぼ拉致又は誘拐、人さらいに近いような気もするが。
カズヒラがコーヒーを呷り、マグを置く。
そして俺を見てにやりと嫌な笑みを浮かべた。
「話は変わるがハトリ」
「…はい」
「そこそこセンスはあるようだな?」
ぎらりとカズヒラのサングラスが光ったような気がする。
大体この続きがなんとなく予想できた。
多分俺にとっては都合がいいんだろうけど、カズヒラの雰囲気が怪しすぎて顔が引き攣る。
何をどう見てセンスがあると判断したのかが気になるが、俺が空を飛んでいる間にスネークが何か話したのだろうか。
にやりと悪い笑みを浮かべたままカズヒラは続ける。
「働かざる者食うべからず、だ。元の世界とやらに戻るまで、しっかり働いてもらうぞ」
――まぁ、そうくるよなぁ……
白いマグに口をつけてコーヒーを飲む。
視線を逸らしてそのまま無言でいること数十秒。
考えたところで断るという選択肢は恐らく用意されていないだろうし、されていても選ぶつもりはない。
コトリとマグを置いて俺は座ったままだが頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
―――青年は迷いながら巣を見つけ、
彼らはゆっくりと道を交えていく。