ドールズフロントライン ~スペシャリストの流儀~ 作:弱音御前
しょうか?
どうも、弱音御前です。
何かと外に出づらい昨今ですが、そんな中でのちょっとした暇つぶしにでもなってくれれば
いいな~と思っております。
それでは、今週もネゲヴちゃんの活躍をお楽しみください~
ここまでのスペシャリストの流儀は・・・
私はネゲヴ。戦闘のスペシャリストにして、グリフィン支部の副官を務める人形よ。
生け捕りにしたアーキテクトからの情報をもとに、私が率いる〝アネモネ小隊〟は秘密裏に動いている鉄血部隊への調査任務に赴いた。
あの小生意気なアーキテクトが吐き出した情報という事でいささか不安に思っていた私だったけど、今のところ進捗は良好だ。
このままなんの問題もなくさっさと帰還して、指揮官とのお喋りを楽しみたいものね。
私の予想に反して、今日はそれほど長くない一日で終われそうだ。
「おかえり~。私達をほったらかして何やってたの?」
「ビックリ箱を置いてきただけだ。あんまり気にするな」
「ふ~ん? なるほどね」
トンプソンの答えを聞いて、FNCは何かを察した様子。RFBもトンプソンとは何度か組んだ事があるので彼女が何をやっていたのか予想に容易いだろう。
仲間はずれみたいで少し可哀想だが、この5人の中でそれを知らないのはファマスだけである。
「都市のど真ん中なのかな? 鉄血の密集度が段違いだよ」
「情報だと、今まででも最大規模の勢力みたいだからね。・・・それにしたって、これは
なかなか」
RFBのタブレットに写っている光景には見渡す限りの鉄血鉄血鉄血。視界に写る範囲だけでこれだけの数なのだから、エリア内にどれだけの数が配備されているのか考えるのも憂鬱になって
くる。
進行に備えて戦力を整えているという話しだったが、それにしては、資材を運んでいる人形の姿だったり、荷物を運んでいる装甲車両が走りまわっていたりと慌ただしさを感じる。
何かを建設しているかのような様子。ここに鉄血の工場でも建てて生産能力を上げようという
算段なのだろうか?
映像から戦力分析をしていることなど露知らず、カメラは中枢部隊の中を悠々と進んでいく。
そんな中、周囲の鉄血人形とは一線を画す装いの人形が画面に写り込んだ。
「お? コイツが部隊を仕切ってるんじゃないかな?」
銀細工のように艶やかな長髪を揺らしながら歩いてくるのは、ハイエンドモデル鉄血人形の
〝アルケミスト〟だ。
残虐な性格に倣った高い戦力を有する人形で、コイツに痛い目にあわされたグリフィンの仲間達は私も含めて数多い。
・・・まあ、戦力面もそうだが、私はコイツのやたらと長い足とかスリムなボディとか胸の
あたりでたゆんたゆん揺れている塊とかがすごく気にくわない。
「大抵、鉄血エリート連中は2人組みで動いてるものだから、どこかに片割れがいるんでしょうね。さて、おおよその勢力と部隊の頭が分かっただけでも首尾は上々よ。日が沈むまで待機して、暗がりに紛れて撤収にしましょう」
4人に待機指示を出し、再びRFBのタブレットに視線を移す。
そこで、カメラとすれ違い際のアルケミストとディスプレイ越しに目が合った。
ゾクリ、と背中に嫌な感触が奔る。
アルケミストは、すれ違った鉄血人形の前にわざわざ周りこみ、ジッと顔を見つめている。
明らかな異常を察知している、そんな様子だ。
「え? もしかしてこれ、バレちゃってる?」
「16LAB製の装備なんでしょ? 試作段階とはいえ、そう簡単にバレるようなヘマはしないんじゃないかな」
訝しげな表情でカメラを覗きこんでいたアルケミストは、一変、妖しげな笑みを浮かべると、
振りかぶった腕を真正面に突きだした。
途端、カメラの目線が高くなり、アルケミストを見下ろすような位置になった。
跳ねた鉄血人形の首を串刺しにして掲げているのだ。
言葉を失い、画面に釘づけの私達の耳に、小さなノイズが聞こえてくる。
タブレットから突然に鳴り始めるノイズは段々と大きくなり、それに交じり・・・
〝ようこそ、ネズミども。すぐ捕まえに行くから待っていろ〟
氷の様な冷たさを纏ったアルケミストの声が流れてきた。
「っ!?」
その声に驚いてタブレットから手を離してしまうRFB。
床に落ち、画面が砂嵐に切り替わったところで私も思考を切り替える。
もう、陽が落ちるまで、なんて悠長な事を言っている場合ではない。
「予定変更。総員、速やかに撤退よ」
「ちょっと待てって。確かにハッキングはバレたのかもしれないが、私達の場所まで分かるものなのか? カマをかけて炙り出そうって魂胆なのかもしれないぞ?」
「こっちは視覚情報だけをハッキングしてたはずなのに、アイツの音声まで流れてきた。きっと、向こうから意図して情報を流してきたのよ。鉄血の技術力がどれだけのものか分からないけど、それだけの事が出来れば私達の位置が分かったって不思議じゃない」
「・・・くそっ! ぼーっとしてないでさっさとズラかるぞ!」
不安そうな様子で私達のやりとりを見守っていた3人に一喝入れるトンプソン。それで目が覚めたかのように総員すぐさま撤退の準備に取り掛かる。
「それは置いていきなさい。たぶん、それを追ってくるはずだから」
「り、了解!」
律儀にタブレットを拾おうとしたFNCを引き留めると、陣形を組んで移動を開始する。
さっきまでと違い、臨戦態勢で廃ビルの外を確認する。
遮蔽物があまりにも多すぎるこの環境ではいくら警戒しても足りないくらいだが、いつまでもここに留まっていたら命取りになりかねない。
そんなジレンマの中、最低限の安全だけは確認して路地へ足を踏み出す。
5人それぞれが互いの死角をカバーし合いながら路地を渡り、100メートルほど進んだところで廃ビルの影に一旦身を隠す。
瓦礫の隙間から行く先に敵影が無い事を確認し、4人にGOサインを出す。
そんな時だった。突如として鳴り響いた無数の銃声を耳にして、緊張の糸が一気に張り詰める。
「っ!!?」
見つかった? そう勘違いしたのは一瞬だけの事。銃声は私達の背後、さっきまで身を潜めていたビルから響いてきたものだ。
遠く、ビルの残骸の隅から高機動型機械兵の姿が覗いている。
「ネゲヴの言うとおり、タブレットを追ってきたんだろう。命拾いしたな、FNC」
引き攣った表情のFNCの肩をトンプソンがぽんぽんと叩く。
実際、命拾いしたのはFNCだけでなく私達全員に言える事だ。ほんの数分ほど行動が遅れていただけで私達は完全包囲されていたのだろうから。
「このまま来た道を引き返すのは危険だよ。アイツらの方が足が早いから絶対に追いつかれる。
ビル群の中を隠れ進んでいくのが良いんじゃないかな?」
「それだと離脱まで時間がかかるだろう。あんなクズ鉄くらい蹴散らしながら進んで、本隊に追いつかれる前に駆け抜けた方が現実的だ」
「わ、わわわ私は皆さんの意見に従いますので」
「お、おおお落ちついて、ファマス。ほら、チョコあげるから一杯食べて」
慌てふためいているファマスとFNCは置いておいて、私が参考にすべきはRFBの迂回ルートとトンプソンの強行突破ルートの2案。
両案共に甲乙つけがたいが、練度の低いファマスを連れているという今の状況であれば、激しい戦闘に陥る危険の低いトンプソンの案が優勢だろうか・・・
「! 副官、伏せて!」
思案している私の耳を劈くFNCの声。銃口が向けられるのを視認するや、反射的に身を屈める。
タタタ、と響く小気味良い銃声。振り向くと、床に高速近接型人形兵が倒れていた。
私とした事が、背後をとられるとは不覚。そして、それをFNCに助けられたのは一生の不覚である。
「ありがとう、FNC。ついでに、これからの進み方も決まったわ。みんな覚悟はいいわね?」
これだけ大きい銃声を聞き逃がすほど平和な思考回路をしているヤツらではない。
4人とも私の問いに頷き、覚悟を決めてくれた事を確認するや路地へと駆けだした。
まだ前方がクリアなのが幸いと、陣形を保ちつつ全力で駆け抜ける。
後方から小さく銃声が響いてきているが、まだまだ有効射程には遠いので反撃している暇があるなら逃げる事に集中である。
「おい、ネゲヴ! もっと頑張って走れ!」
「うっさいわね! これが私の全力なのよ!」
一番手を行くトンプソンにからかわれるが、こればかりは武器の性質上仕方の無いことだ。そもそも銃本体が大きいんだし、ベルト弾薬だって走るのに邪魔にならないよう首に巻きつけている。
見た目はカッコ悪いが、効率重視で私なりに頑張っているのである。
そうして、3ブロックほど走り抜けたところで片側2車線、計4車線の大通りにさしかかる。
大通りを越えれば都市外縁を囲うバリケードまで間近なのだが、これだけ大きい幹線道路は都市中心部から伸びているものである。中心部に陣取る鉄血部隊が先回りしているのも当然の事だ。
「ちぃ! 進路を変えるぞ!」
大通りを封鎖するように配備されたガード兵を視認してトンプソンが左の細い路地に向けて進路を変える。
後続の私たちも一斉に方向を転換してビルの合間に伸びる路地へと駆けこむ。
2人が並んで通れる程度の暗い路地を駆け抜ける最中、真横の廃ビル内を私達と並走して追いかけてくる近接型人形の姿を捉えた。
「8時の方向に敵影! 余裕のある者は迎撃にあたれ!」
私の号令を聞いて真っ先に動いたのは4番手を行くRFB。走りながら斜め後方への銃撃という難しいシチュエーションであるが、上体の揺れを最低限に抑えながらの銃撃で、確実に鉄血人形を仕留めて行く様は流石である。
普段もこれくらいキッチリとしてくれればいいのにと、緊急時ながらもつい思ってしまう私。
RFBに続き、2番手のファマスと3番手のFNCが迎撃に加わる。
先頭のトンプソンと最後尾の私は状況の把握が主な役割だ。
「真上からも来ます!」
ファマスの言葉を耳にして視線を上げる。
左右のビル、およそ5階相当の高さから私たち目掛けて飛び降りてくる鉄血人形が10体。蒼い髪を風に靡かせ、手にしたダガーナイフの切っ先を真下に向けて落下してくるその様を前にして、さすがの私も見ているだけというわけにはいかない。
「やるぞ、ネゲヴ!」
「言われるまでもないわ!」
トンプソンと示し合わせて対空砲火を浴びせる。
弾丸を受け、無様に部品をばら蒔く近接人形達。だが、いかんせん命中精度の低い私達2人なので、迎撃しきれない敵も出てきてしまうのは仕方ない。
私とRFBの間に無事着地した1体が間髪入れず私に向けて斬りかかる。
横薙ぎに襲いかかるナイフを飛び退いて回避。首元の数センチ先を銀色の刃が通り過ぎていく。
「とんだ甘ちゃんね!」
ガラ空きになった横っ面をストックで思いっきりぶん殴ってやる。
地面に倒れ込んだところを容赦なくハチの巣にして一丁あがり。
しかし、そうしている迎撃している間にも周囲から襲いかかってくる敵の数はどんどんと増えていく一方である。
やられっぱなしは性に合わないが、今は逃げの一手だ。
「もうすぐ路地を抜けるぞ! あと少しだけ凌ぎきれ!」
「ファマス、大丈夫? もうちょっとだけ頑張ろ」
「はい。もう、弱音を吐いてなどいられませんから」
先の3人がまず路地から抜け出る。
「ひゃあ~、激しいラッシュだったね。撃墜数は私と副官が良い勝負ってところだったかな?」
「そんなバカな事いってないでさっさと走れ!」
こんな時にまで呑気なRFBに怒りをぶつけ、私たちも路地を抜け出る。
出た先は繁華街のど真ん中。かつては人で賑わっていたのだろうショッピングモールは今や、
鉄血の軍勢で大賑わいといった有様である。
「マズイ! こっちに逃げるぞ」
そして、再び細い路地へと逃げる私達。
路地から抜けたら、また先回りされていて、また路地に逃げ込んで・・・と、気がつけば私達は完全に逃げ場を失ってしまっていた。
「これって、どんどん都市中央に追い込まれてない? 本隊と出くわしたら私達終わりだよ~」
泣きそうな声でFNCが言うものだから、釣られてファマスの表情も曇ってしまっている。
そういうのは思っていても声には出さないのがお約束だ。もっと場の空気を読んでもらいたいものである。
「これじゃあ都市から出るのは難しいわね。RFB、ヘリを呼んでちょうだい」
「呼ぶって、こんな鉄血大部隊のど真ん中に!? 撃墜されちゃったら私達帰れなくなっちゃうんだよ!?」
私達が都市の傍まで乗ってきたヘリは遠隔操作式で、RFBに渡してある通信装置で呼び出すことが出来る。
都市を抜けてヘリの所に行かずとも、こちらにヘリを呼んで乗り込む事が可能なのである。
「確か、ヘリにはエネルギーシールドが装備されているのでは? それでしたら銃撃にも耐えてくれるのではないかと思います」
「シールドっていっても大した耐久力はないんだから、過度な期待は禁物だよ」
RFBが渋るのも尤もだ。小型のヘリとはいえ、そんなものが都市部に侵入すれば敵の良い的になるだけ。シールドがあったとしても集中砲火を浴びれば数秒ともたないだろう。
ただ、それは敵の目がヘリに集中してしまえばの話し。
何らかの手段を以って敵の注意をヘリから逸らせれば、無事に私達の元に到着させることも可能である。
「隊長の言う事は素直に聞いておくもんだぜ、RFB。何も、ネゲヴだって考えなしにそんな事を言ってるわけじゃないんだからな」
さすが、付き合いが長いだけあってトンプソンは私の考えを理解してくれているようだ。
というか、私はトンプソンがただやみくもに逃げ回っているのではないと気づいてヘリを呼ぶように指示をしたので、悔しいが、彼女の方が私よりも上手だったという事なのである。
「・・・了解。副官の事を信じるよ」
納得してくれた様子のRFBがポケットから取り出したリモコンのスイッチを押す。
都市の外れに置いてきたヘリが自動操縦でここに到着するのは5~10分後といったところか。
ヘリが飛んでくる方角から考えて、自動操縦システムが算出する着地地点は、おそらく都市北部にある公園の広場。今、私達の位置からだと鉄血密集地帯を掠めて20ブロックほど先だ。
都市の中でも比較的に手薄な北部からの侵入という事で、私はヘリの心配はあまりしていない。問題は私達が無事そこまで辿りつけるかどうかだ。
私が算出したのと同じルートを辿っていくトンプソンに連なり、私達は瓦礫まみれの路地をひたすらに駆け続ける。
「副官! 9時の方向1000メートル先、アルケミストです!」
道路を横断している最中、ファマスが声をあげた。
私達から遠く、幹線道路の頭上に建設されたハイウェイを走る敵影を視認できる。
長い銀色の髪を靡かせながら疾走するアルケミストの足元、幹線道路上では、ここから見通せるだけでも一個大隊相当の数はあろうかという鉄血大部隊が移動の真っ只中である。
「あわわ・・・このまま進んだらあの大群と鉢合わせしちゃうんじゃないの? おまけに後ろの
部隊にも追いつかれちゃったら十字砲火で今度こそ終わりだよ~」
「ああ・・・短いお付き合いとなってしまい申し訳ありません、指揮官。どうか、次の私にも優しくしてくれますようお願いします」
いくらなんでも、私達5人で真っ向勝負できるような戦力ではない。FNCの言うとおり、このまま行けば私達は間違いなく終わりだろう。ファマスなんかもうやられる気満々だし。
しかし、先にも言った通り私は部隊員達を無事に帰す事を第一に考えている。
私だって、まだ指揮官とお別れしたくなんかないし。
「トンプソン、そろそろ頃合いなんじゃないの? ってか、もう仕掛けないと本当にアレと鉢合わせになっちゃうんだけど」
「そうだな~・・・よし! アイツが2本目の橋脚に差し掛かったところでドカンだ」
「お2人ともなにやら落ちついていますが、もしかして、この状況を打開する策があるのですか?」
「私は2人が何を考えてるのかピンときちゃったんだなぁ。ドカン! って事はアレをやるん
でしょ? 私にスイッチ押させてよ」
ゲーム好きという絡みもあるのか、起動スイッチ系をやたらと押したがるRFBがわがままを
言い始める。
そんな彼女を見てファマスとFNCが小さく笑いを零してくれた。
こうやって自然と周囲の空気を変えてくれるのだから、小生意気でもRFBは憎むに憎めない
ヤツなのである。
「構わないが、ちゃんと私の合図に合わせろよ?」
「分かってるって。1フレのずれもなく押してみせるんだから」
配線剥き出しでやたらとハンドメイド感のある起動スイッチがトンプソンからRFBの手に渡り準備完了。
ハイウェイ上のアルケミストも、トンプソンが狙っている位置に差し掛かる直前だ。
「構え・・・今!」
トンプソンの口から出た〝今〟の〝い〟と同時にRFBがスイッチを押す。
瞬間、まるで大地震でも起きたかのような地鳴りと揺れを伴い、周囲から大量の粉塵が吹き
上げた。
「きゃあ!?」
地面の揺れで足元がふらついたファマスの腕を掴み助けてあげる。
「気をつけなさい。まだ立ち止まっていられないわよ」
「あ、ありがとうございます。しかし、この揺れは一体・・・?」
砂嵐でも起きたかのような粉塵の向こうで地中に沈んでいく廃ビル群とハイウェイ。
進行中の鉄血大隊もアルケミストも成す総べなくそれらの崩落に巻き込まれ姿を消していった。
「そういう事か~。もう、そんな手段を考えてたなら言ってくれたら良かったのに~」
「なぁに、ビックリ箱ってのはみんなを驚かせる為にあるもんさ」
「ビックリ箱というのは、さっきトンプソンが置いてきたと言っていた?」
「そうよ。これは作戦とは関係なく、コイツの個人的な趣味なんだけどね・・・」
空いた口が塞がっていないファマスの為に、この顛末を走りながら説明してあげる。
まだ私達がこんな状況に陥る前、トンプソンが別行動をとっていたのは、この都市の地下に爆薬を仕掛ける為だった。
いずれここへ進行する時の布石というのが彼女の言い分なのだが、私はそういうのもやぶさかではない性格なので、勝手な行動をとった事についてはあえてノーコメントとしておく。
彼女の話しでは、巨大な浄水施設が設けられているおかげで都市の地下空洞も広大で、それは
もうデモリションに最適な環境だったとの事。
上空から見下ろしてみれば、都市の中央部は数キロ四方の大穴がポッカリと空いている事だろう。
そんな、超落とし穴に鉄血大隊が上手く嵌ってくれるよう予測誘導しながら逃げ回ってくれたことも合わせ、やっぱりトンプソンは頼りになる戦友だと改めて思わされた。
「それにしても、気持ち良いくらい上手くいったな。アルケミストの奴には気の毒だが、言葉通りの〝出オチ〟ってやつだな。アハハ!」
ご機嫌でツマラナイ冗談をのたまうトンプソンに対して冷たい視線を送る私、苦笑いを返す
RFBとFNC。
「ぷっ・・・出オチって・・・くくく・・・そ、それはいくらなんでも・・・」
なんと、ファマスはそんな冗談がお気に召したのか、お腹を抱えて笑いを堪えるのに必死な
ご様子。
各々、趣味というのは本当によく分からないものである。
「お~? 後ろから追ってきてた部隊が足を止めてるよ。これなら余裕で逃げ切れるね」
アルケミスト率いる主力部隊が打撃を受けた事で鉄血の指令系統が混乱したのだろう、雑兵共がうろたえているのも私の予想通り。
これなら、都市に侵入してくる私達のヘリに向く目も減ってくれる事だろう。
「とりあえず作戦成功だけど、敵陣の真っ只中という事に変わりは無いわ。みんな、気を抜かないように」
しっかりした合図が返ってきた事を確認し、私達は崩落を免れた幹線道路をひたすらに突き
進む。
道のど真ん中に突っ立ってたり、私達を無視して中央エリアに向かったりと混乱の最中にある
鉄血のヤツらを尻目に走る事、およそ5分。目的の公園に到着すると、ちょうどヘリが広場に降下している最中だった。
騒々しいローター音に混じって微かに聞こえる銃声。どうやら、数少ない未だにヤル気な鉄血兵が広場でヘリを攻撃しているようだ。
「よくも私達のヘリを! みんな、行くよ!」
「あの程度の数、遅れはとりません!」
「ちょっとまって! チョコバーの包み開けたばかりなんだけど!」
RFBを筆頭にアサルト3人組みが広場に向けて突撃していく。
「いやぁ、若いってのは良いもんだなぁ」
「訳分かんない事言ってないで、私たちも行くわよ」
ノーマル鉄血兵、高機動機械兵が3体ずつなので彼女達だけでも楽勝の相手。私達のような
エリート2人がゆっくりと到着するころにはすでにガラクタに変わり果てていた。
「被弾の痕はあるけど、機体へのダメージはほとんどないみたいね」
私がヘリの外周チェックをしている最中に4人が乗り込み、最後に私が乗り込むとヘリが上昇をはじめる。
地上からの攻撃を警戒するが、周囲には鉄血の姿すら見当たらない。
撤退作戦は至って順調だ。
「ふぅ~・・・一時はどうなるかと思ったけど、これで一件落着だね」
「気を抜くのは早いですよ、RFB。基地に着くまでが任務だと指揮官が言っていましたし」
「ファマス、お前はもう少し力を抜く事を覚えろな。いっつも張り詰めっぱなしだといざという時に疲れが出て活躍の機を逃しちまうぞ?」
「みなさん、無事に帰れたお祝いにお菓子でもどうですか~?」
4人でドカッと腰を降ろし、カーゴスペースの雰囲気はもうリラックスモードが漂っている。
「副官も座れば? 重い武器持ったまま走りまわったから疲れたでしょ?」
「あいにくと、私はアンタ達みたいな甘い思考をしてないのよ」
本当はRFBのお誘いに乗って私も一息つきたいところだが、最後の最後、本当の安全を確認するのも隊長としての責任というものだ。
コックピット周りの計器は自動操縦モードになっていて、帰還先はちゃんと私達のグリフィン
基地になっている。
上昇しつつビルの合間を抜けていく様子をガラス越しに眺めるも、鉄血のヤツらは姿も見えなくなっている。
高度は都市の高さを抜け、作戦エリア外に出るまであと1分足らずだろうか。
エリア外に出れば鉄血のジャミングも解消されて基地への通信も繋がる。
ようやく安心できるようになった今、一刻も早く指揮官の声を聞きたくて仕方ない。
・・・まぁ、偵察エリアをメチャクチャにした事で御咎めを受けるかもしれないが、
〝結果オーライ〟というのが指揮官のスタンスなので問題無いだろう。
「もう警戒の必要もないだろ。お前もこっち来て休めよ」
いつものスティック菓子の代わりにチョコバーを咥えているトンプソンに誘われ、私もカーゴ
エリアに屈みこむ。
ふと、開いているドアからヘリ後方の様子がチラリと目に写った。
数キロ先、崩落のエリア外に建設された巨大な物流倉庫だろうか。みるからに頑強そうな金属製の外壁が内側から何かに圧されているかのようにひしゃげていく。
自然の崩壊では決して有り得ないその様子を目の当たりにして、リラックスモードに移行していた私のメンタルが一瞬で警戒モードに舞い戻る。
そして、アルミ箔のように引き裂かれた外壁から顔を覗かせたのは真っ黒い物体。
巨大なクレーンアームがこちらに回頭しているのだと思ったが、それよりもピッタリなモノを私は良く知っている。
「やば・・・」
まだ記憶に新しい雪原での大規模交戦。純白の大地に根を張った漆黒の砲台は余りにも鮮烈に私の眼に焼き付いている。
倉庫を喰い破り、〝ジュピター砲〟の砲身がこちらに向けられたのを視認した瞬間、私は反射的に叫んでいた。
「総員、防御!」
直後、横殴りの強烈な衝撃を受け、私たちが乗っている機体は明後日の方向へと吹き
飛ばされた。
NEXT スペシャリストの流儀 4話 Coming Soon
都市部に数キロの大穴を空けるデモリション・・・ちょっと大袈裟すぎでしょうか?
いやいや、トンプソンの豪快さだったらそれくらいやりかねない!
ということでそこのところは大目に見てもらえたら幸いです。
また次週のお話でお会いしましょう。
弱音御前でした~