ドールズフロントライン ~スペシャリストの流儀~   作:弱音御前

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いつのまにか一年の半分が経過しようとしている今日この頃。
時間が過ぎるのは早いですね。どうも、弱音御前です。

ネゲヴちゃんのお話もそろそろ折り返しに差し掛かるところ。
いましばらくお付き合いいただければ幸いです。

それでは、今週もゆっくりお楽しみください



スペシャリストの流儀 4話

 ここまでのスペシャリストの流儀は・・・

 

 

 私はアネモネ小隊の隊長、ネゲヴ。副官として指揮官の補佐を任されている戦術人形よ。

 鉄血エリートのアーキテクトから得た情報をもとに、鉄血部隊の偵察任務に赴いていた私たちは、ほんと~にちょっとした手違いから敵に追い立てられる羽目になってしまった。

 窮地に追い込まれる私達だったが、私の華麗なる指揮と戦友であるトンプソンの豪快さによってその窮地を突破。呼び寄せた輸送ヘリに乗り込むことに成功した。

 ようやく帰れると安心したのお束の間。一難去ってまた一難というもので、突如として姿を現したジュピター砲の砲撃を見舞われることになってしまったのだった。

 え? ヘリに砲撃を受けたらもうそれでデッドエンド確定だろ、って? まぁ、私たちがどんな目に遭ったのか、どうかご覧あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃああぁぁぁ!!?」

 

 コントロールを失い、横回転しながら降下していく機体の中でけたたましい警告音と誰のものとも分からない悲鳴が木霊する。

 

「っ~~~!?」

 

 回転に伴う遠心力は強烈で、すぐそばにあったハンガーにしがみついて身体を固定するので

やっとの状態。

 それでも、隊長として各員の無事を確認しなければいけない。

 トンプソンも私と同様、近くのハンガーに腕を引っ掛けて振り落とされないよう堪えている。

 後の3人は・・・

 

「ファマス!」

 

 FNCの叫び声を聞いて視線を移す。

 しっかりと掴まれる物が無かったのか、開けっぱなしのハッチから遠心力で外に飛ばされる

ファマス。

 FNCはそんな彼女を助けようと咄嗟に飛び付いて手を掴むが、それで自分もファマスと一緒に外に放り出されたら元も子も無い。

 

「っ! 間に会えっ!」

 

 腰元に備え付けていたロープのカラビナをハンガーに引っ掛け、FNCに向かって飛びかかる。

 ロープの長さギリギリ一杯まで飛んでかろうじてFNCの足首をキャッチ。私もFNCも受け身をとれず金属張りの床に叩きつけられて痛い思いをしたが、今はどうでも良い事である。

 

「バカFNC! もっとよく考えて行動なさい!」

 

「ご、ごめんなさい、副官。ファマス~、大丈夫~?」

 

 FNCに掴まれて外で宙づりになっているだろうファマスの姿は私からは見えないが、FNCの様子を見る限りではいちおう無事なようである。

 

「・・・RFB? RFB! どこにいるの!?」

 

 最後の1人、RFBの姿がカーゴ内に見当たらない事に気がつく。

 彼女が座っていた位置はカーゴ内のほぼど真ん中で、掴まれるような物は傍に何もなかった。

 ヘリがコントロールを失った直後、真っ先に外に放り出されたのではないかという嫌な予想が

浮かんでしまうが・・・

 

「ここに居るよ~!」

 

 RFBのいつも通りの元気そうな声を聞いて、本気で安堵の息をつく。

 

「ここって、どこにいるのよ!?」

 

 ヘリの中は依然として混乱を極めている為、RFBの声がどこから聞こえてくるのか全く判断が出来ない。

 キョロキョロと周囲に目を移していると、トンプソンが目配せをしながら指を差している事に

気がつく。

 トンプソンが指差す先はヘリのコクピット。メインシートの背もたれからはRFBのチャーム

ポイントである〝お団子〟がピョコピョコと見え隠れしている。

 

「アンタ、ヘリの操縦なんかできるの!?」

 

「現実のはやった事ないけど、やらなきゃみんなここでゲームオーバーなんだからやるしか

ないっしょ!」

 

 運の良い事にビルとの激突は避けているが、もう地面はすぐそこまで迫っているのがハッチから確認できる。

 

「まぁ、そう悲観すんなよ、ネゲヴ。次の私達が指揮官と上手くやってくれるさ」

 

 見ていて気持ちの良い笑顔を浮かべながらトンプソンが言う。

 私達は出撃前にメンタルのバックアップをとっているので新しい身体さえあれば何度でも同じ〝私〟としてやり直す事ができる。

 それが人間には無い戦術人形の強みだ。

 ・・・でも、私は・・・

 

「よ~し! これでどうだぁ!」

 

 RFBの気合の入った声が私のメンタルを現実へ引き戻してくれた。

 途端、警告音が止まり、機体の回転が急激に速度を落していく。

 

「上がれぇぇぇぇ~~!」

 

 横回転が止まり、コントロールを取り戻した機体が上昇ベクトルの推力を取り戻す。

 ガシャン! と、スタンド部が地面に激突して機体が大きくバウンドするが、ローターの推力が落下の速度にかろうじて勝ってくれたのだろう、衝撃だけで済んでくれた。

 無事、大通りの地面スレスレをホバリングしてくれているという現実を確認して、私を初めとして5人揃って大きく息を付く。

 

「はぁ~・・・・・・ひとまずナイスワーク、RFB。みんな無事かしら? ケガをした者はいない?」

 

 私、トンプソン、FNCは言うまでもなく、カーゴ内に這い上がってきたファマスも強風を受けて髪がボッサボサになっている以外は異常はなさそうでなによりだ。

 いや、コントロールを失って急降下したヘリが無事に生還するなんて、マジで奇跡という以外の何ものでもないと思う。

 

「やるじゃないか、RFB。指揮官に操縦を教えてもらっていたのか?」

 

「ううん、ゲームで色々な乗り物のシュミレーターがあって、それをやった事があったんだ。

でも、実際の操作ってレバーとかスロットルとか多すぎてゲームと勝手が違くてさ。だから、こうしてみた」

 

 RFBを覗き見てみると、彼女が手にしているのはゲームのコントローラー。そのコードの先はヘリ制御パネルの何だかよく分からないポートに突き刺さっている。

 まぁ、いちおう制御はしっかりできているようだし、この非常時に色々ツッコむのも野暮というものだろう。

 

「さて、墜落を回避できたのは良いものの・・・これからどうするよ、隊長さん?」

 

 そう問われ、私は即答することができなかった。

 正直、今の状況はさっき鉄血に追いかけられていた時以上にマズイ。

 

「もう、このままさっさと逃げようよ。ずっと低空で飛んでいけば、ジュピターは囲まれてる建物が邪魔して私達を狙えないんだから」

 

「いいえ、ジュピターの射程を考えれば、いくら低空で進んで行ったとはいえ、私達が基地に辿りつく前に射角に捉えられてしまいます。先ほどの1発目は運良く外れてくれたようですが、すでに矯差されているでしょう。次に狙われたらひとたまりもありませんよ」

 

 さすがは優等生のファマス、良く勉強をしているようだ。

 小型のヘリなので、都市から離れれば離れるほど被弾率は下がってくれるだろうが、それでも

私達の命運を託せる程の確率には思えない。

 なによりも、これだけ派手に暴れ回った私達だ。ヤツらは意地でも仕留めにくるだろう。仮に

私が向こうの立場だったら死んでも逃がさない。

 

「そっか・・・逃げ切れねえっていうのなら、ジュピター砲を潰すしかねえな?」

 

「そうだね。私もそれしかないと思う。まだ鉄血の奴らも体勢が整いきってないだろうから、今ならまだチャンスはあるよ」

 

 私達がここから逃げおおせるにあたっての一番の障害はジュピター砲。なら、それを排除するという事になるのは当然の帰結だ。

 まず、トンプソンとRFBはその意見に乗ってくれている。

 

「そうね。ファマスとFNCはどうかしら?」

 

 私の流儀として、部隊員全員が納得してくれない作戦行動はとりたくない。

 もし2人が渋るようなら、なんとしてでも別の作戦を立案しなければいけないところだが・・・

 

「・・・はぁ~、やるしかないかぁ。もうひと頑張りしよっか、ファマス」

 

「はい! あなたには助けてもらった恩がありますので、どこまでも付いていきますよ、FNC」

 

 やや気弱な2人もヤル気十分なのを確認したところで作戦の遂行を決定する。

 

「それでは、攻撃目標を都市内のジュピター砲に設定。これを撃破した後すみやかに撤退とする」

 

 了解! と4人揃っての気持ちの良い返事が機内に響き渡る。

 高い士気で部隊が纏まるというのは、隊長としてこの上なく喜ばしい瞬間である。

 

「まずは砲台の弱体化からね。傍に電力供給施設がある筈だから、そこを叩く」

 

「一旦、ヘリから降りて進むようだな。このデカい図体をどこに隠しておく?」

 

「? ヘリから降りて進まなくたって、このまま行っちゃえばいいじゃん」

 

 ・・・訂正。4人が1つに纏まったと思っていたが、早速、RFBだけ考えに齟齬が出ていたようだ。

 やっぱり、変わり者が5人も居たらそう易々と纏まらないのが現実なのだ。

 

「こ、このままって、ヘリでジュピターに近づくのですか? 建物の上まで高度を上げた時点で

狙い撃ちにされてしまいますよ?」

 

「そうだよ! ほら、チョコあげるからこれ食べてちょっと考えを落ちつけようよ」

 

「チョコはありがたく貰っておくけど、そんな事は言われなくたって分かってるよ。だから、低空で大通りを進んで行けば建物の影になって狙われないじゃん、って事。まぁ、道中で鉄血の部隊に出くわすだろうから、それはみんなで撃退してよ」

 

 トンデモない事を平然と言うRFBを前にして私も、過激さに定評のあるトンプソンも言葉を失っている。

 確かに、ヘリのコントロールを取り戻して墜落を回避した技術は一級品だと言えるだろう。それは素直に認める。

 しかし、左右を建物に囲まれたこの都市内をヘリで突き進むというのはあまりにもデンジャラスに過ぎる。

 今は広さのある通りなのでヘリの左右にも余裕があるが、ここよりも狭い通りは沢山あるのだし、電線が渡っている場所だってあるのだ。

 徒歩よりも進行が早いというメリットはあれど、さすがにこれはどうかと思ってしまう。

 

「安心してよ。エスコンで〝円卓の鬼神〟と呼ばれた腕前は伊達じゃないんだから」

 

「そのエスコンってのが何なのかさっぱりなんだけど。さすがにアナタの腕でもこればかりは・・・」

 

「隊長、後方から敵部隊が来てる! 輸送車両に人形兵が満載だよ!」

 

 あまりにも運が悪い。・・・否、ここに留まり過ぎたのが悪いのだから当然の事か。

 もう、ヘリから降りて迎え撃つ事も出来ない状況になってしまった今、私はこのゲーム馬鹿に

部隊の命運を預けざるを得ないのだ。

 スペシャリストとしてあまりにも不本意な事であるが。

 

「もう! 言ったからには責任をもって遂行しなさいよね! 私を基地に帰せなかったら承知しないから!」

 

「オッケー! んじゃあ、最短ルートでかっ飛ばすよ!」

 

 言って、RFBがコントローラーのスティックを倒す。

 軽くピッチダウンし、機体が前進していく。

 どんどんと速度を上げて大通りを真っ直ぐに突き進むが、路面が綺麗な通りということもあり、鉄血の輸送車両の方がまだ速度が速い。

 真後ろにピッタリとくっつかれてしまったここからが私達の出番である。

 

「トンプソンは私と。FNCとファマスは反対側をお願い」

 

 ヘリの右ハッチから身を乗りだし、後方を覗きこむ。

 オープントップの車両から鉄血のイェーガーがこちらを狙撃している。この状況で私に当てられるような性能を有しているヤツではないが、デカイ図体のヘリに当てる事くらいは造作も無い。

 

「ぼーっとしてんなら、全部私が貰っちまうぜ?」

 

 屈んでいる私の頭上でサブマシンガンの中では特徴的な遅く重い銃声が響く。

 彼女の有効射程ギリギリくらいの距離の為、ばら撒いた弾丸はほとんど外れてしまっているが、45口径弾の威力はそんな精度の低さを補って余りある。

 車上のイェーガー3体が被弾の衝撃で車外の吹っ飛ばされたところでトンプソンがリロードの為にドラムカートリッジに手をかける。

 お次は私のターンだ。

 

〝左へ曲がりま~す。皆さま、振り落とされないよう手近のモノにお掴まり下さい〟

 

 そんな矢先、RFBのやたらと緊張感の無い声が通信機から飛んできた。

 それにつられて、背後、ヘリの行く先に目を向けるとそこには廃ビルの壁。

 この通りの先はT字になっており、RFBは減速する様子も見せずこのまま突っ込んでいくつもりらしい。

 

「バカじゃないの、アイツ!」

 

 すぐ傍にあった手すりに掴まると、一旦、機首が右側へ振りかぶられる。直後、反対方向へと

大きく機首が振られ、機体は空中で横滑りしながら左旋回を始めた。

 

「うわあぁぁぁ~! 怖い怖い~~~!」

 

 ハッチ反対側のFNCがローターの音に負けないくらいの悲鳴をあげる気持ちも分かる。

なにせ、無茶な旋回で機体が左側にバンクして、ハッチの先には地面が丸見え状態なのだ。おまけに、ローターの先端が地面に掠めてチリチリと音を鳴らしているというのもまたシビれる。

 絶対に落ちるまいとカーゴ内の全員、必死の様子でしがみつく。

 ともあれ、無事にコーナーを曲がりきって機体が安定したのを確認すると再び射撃体勢へ。

 私達の背後にピッタリと付いてきている鉄血輸送車両の狙うはタイヤ部分。

 私の角度からでは車両のボディがタイヤとの射撃線上を塞いでいるが、問題は無い。

 IOP製徹鋼弾はこういう時にこそ真価を発揮するのである。

 狙いを固定したままトリガーを引きっぱなし、弾丸の雨をお見舞いしてやる。

 タイヤ真上のフェンダー部分でオレンジの火花が幾度か舞った後、車両は急にコントロールを失って路肩の石壁へとまっしぐら。盛大にクラッシュしたのを遠目に確認する。

 

「ちっ! 派手好きなヤツめ」

 

「アンタに言われたくないわね」

 

 悪態をつくトンプソンと拳をちょんと合わせる。

 

「そうそう。しっかりと姿勢を固定して、動いていく少し先に照準を合わせる。これが移動中の

射撃のコツだよ」

 

「ありがとうございます。とても分かりやすい指導で助かりました」

 

 反対側の2人もとても仲良さげにやっているようでなにより。

 これでヘリにくっついている鉄血車両は残り1台になったが、これが少しばかり小賢しいヤツで、ヘリの真下に潜りこんでいるので私の位置からではどうしても狙いをつけることができない。

 

「FNC、そっちから下のヤツを狙える?」

 

「ちょっとキツイかな~。・・・こらこら! ヘリからぶら下がって撃つとか、無茶な事を考えるんじゃないの!」

 

 FNC、ファマス組も下の鉄血車両を狙うのは厳しい模様。

 こうして手をこまねいている今も車両からの狙撃でヘリのシールドは少しづつ削られている。

早急に何かしらの手を考えなければならないのだが・・・

 

〝なになに? もしかして、苦戦しちゃってる感じ?〟

 

 少しばかり腹の立つ言い方だが、事実なので私も下手な強がりはみせないでおく。

 

「真下に付けられていて狙えないのよ。機体を左右に振れないかしら?」

 

〝両脇には電線が通ってるからなぁ~。・・・オーケー。それでは、下に参りま~す〟

 

 直後、機体が一気に高度を落した。

 浮きあがろうとする身体をハッチの淵に掴まって抑えていると、足元から盛大な衝突音と衝撃が起こり、機体が大きくバウンド。そのままの勢いで今度は高度を上げていく。

 

〝はい、一丁あがりっと〟

 

 ボンネットが潰れ、クラッシュした鉄血車両が遠く離れていく。

 機体で鉄血車両を押し潰すとは、RFBもなかなかに無茶をやってくれたものである。

 けれど、そんなアイディアも私は嫌いではなかったりする。

 潰した3台とは別の増援車両も私達を追いかけてきているが、距離は10ブロックほど離れて

いる。

 もう、ジュピター砲は目と鼻の先。速効で潰せば、ヤツらに追いつかれる前に撤収することも

可能だろう。

 

「ち、近くで見るとスゴくデカイんだね」

 

「そういや、お前はジュピター砲を相手にするの初めてだったな。アレは従来のものよりも一回りくらい大きい。たぶん、新型なんだろう」

 

 ジュピター砲から2ブロックほど離れた区画に到達。間近で視認できるようになれば、その迫力も段違いである。

 まだ私達とジュピターとの間はビル群で遮られているが、しっかりと補足されているようで、砲頭を私達の動きに合わせて回頭させている。

 下手にビルの上へ頭を出そうものなら、今度こそ直撃は免れないだろう。

 

〝トンプソンの言うとおり、雪原で見たのとはちょっと違うよね。なんか、厄介な新装備とか搭載してたり?〟

 

「不穏な事を言うんじゃないの。さっさと供給施設を見つけるわよ」

 

 ジュピターへの供給施設を見つけるべく周辺区画を1周。

 追いついてきた鉄血を迎撃しつつ周辺区画を2周。

 更に数を増した鉄血から逃げつつ周辺区画を3周。

 そうして、認めたくなかった事実を認めざるを得なくなる。

 

「おい、ネゲヴ。これはちょっとマズイんじゃないのか?」

 

 獲物に群がる虫のようにヘリに付き纏う鉄血を牽制しながら、トンプソンが弱気な言葉を

漏らす。

 

「ねえねえ、ジュピターの供給施設ってこんなに見つからないものなの?」

 

「私も実際に見た事は無いのですが・・・稼働している施設なのですから、これだけ気配が無いのはおかしいと思います」

 

 そう、ジュピターの周辺施設は電力供給なり制御施設なり、もっと目立っても良いものの筈だ。

 それなのに、この周辺にはそういった気配というものが一切見受けられない。

 

「もしかして、スタンドアローンで作戦可能なジュピター砲? ・・・最悪」

 

〝どうするの副官? このままだと鉄血の数が増えてくだけ・・・っとぉ!?〟

 

 後方からのランチャー砲撃を受けて機体が大きく揺れる。

 まだシールド耐久は残っているようだが、これではもう時間の問題だ。

 弱体化無しの状態でジュピターを破壊したという実績は私達の支部にも存在する。

 しかし、それは専門部隊を編成し、ある程度の被害を覚悟したうえでの話しだ。

 今の私達にはそれだけの戦力も被害を許容できる余裕も存在しない。

 

「・・・・・・」

 

 カーゴ内の3人の視線が私に集まる。

 私はこの部隊の隊長だ。私にはみんなの身を守る義務がある。

 考えろ。考えろ。考えろ。

 どんな窮地であろうとも、必ず突破口は存在する。随所に散りばめられたピースをかき集め、

繋ぎ合わせ、突破口を開く為のキーを紡ぎ上げる。

 指揮官が教えてくれた、部隊長の心得の中の1つだ。

 

「・・・・・・ヤツの背後。砲身とは別にやたらと大きな部分を背負ってた」

 

 ヤツが倉庫の外壁を破り、私達に姿を現した時の映像を思い返す。

 全体的に従来のジュピターよりも大きいのだが、特に背後の真っ黒いバックパックのような部分が占める割合が大きいというのが第一印象だった。

 

「そうですね。ヘリの外で宙吊りになっている時に私も見ました。資料で見たことは無いものでしたね」

 

「発電もしくは制御系統が納められたコンソールボックス。本当なら必要になる周辺施設を背負っているんだよ、きっと!」

 

 それなら、私達に常に砲頭を向けている理由も納得できる。

 ウィークポイントである背後を晒したくないんだ。

 

「でもでも、ずっとこっちに回頭してるからこれじゃあ背後に周りこめないよ?」

 

〝話しは聞かせて貰った~。ヤツの後ろに回り込むのは私に任せて、成功したらみんなで弱点に

向けて集中砲火。それでイイよね、副官?〟

 

 もう、私に確認なんかとらなくたって手段はそれしかない。

 作戦の確実性を求める私であるが、戦地では常にケース・バイ・ケースの対応というものが求められる。

 行き当たりばったりな作戦も今回ばかりは仕方がないのだ。

 

「任せたわ、RFB。ジュピターの背後に回り込み次第、私達4人で全弾ぶち込んでやるわよ!」

 

「そうこなくっちゃ! デッド・オア・アライブな作戦は大好きだぜ!」

 

「ファマス、これあげる。無事に帰れたら一緒に食べようね」

 

「・・・確か、こういうのは死亡フラグというのですよ、FNC」

 

〝みんな気合十分ってところで、いっくよ~~!〟

 

 ヘリが急激に高度を上げていく。

 このままビル群の上に出てしまえばジュピターの砲撃を受けてしまうと思われるのだが、今は

RFBの考えに賭けるしかない。

 

〝ヘリの揺れはさっきまでの非じゃないから、しっかりと掴まっててね!〟

 

 今までよりも揺れるってどんだけ? と、恐らくは4人仲良く同じ気持ちだったのだろう、各々、機体の頑丈そうな箇所にしっかりと掴まって身体を固定する。

 ヘリがビル群から抜け出る。

 灰色に囲まれた世界から一変、周囲に広がるのは青空、吹きすさぶ乾いた風。

 圧迫された空間から解放された爽快感を堪能したいのは山々だが、すぐ目前で巨大な砲身を視認してしまったらそんな気分には到底なれない。

 

「っ! これ、やっぱりマズいんじゃあ・・・!?」

 

「RFB!」

 

 耳を劈く砲撃音と同時、機体が急激なきりもみ回転を伴って上昇し、身体に強烈なGがかかった。

 

「っ~~~~!?」

 

 RFBが言うとおり、これまでとは比較にならないくらいの強さでその場から一歩たりとも動く事ができない。

 ・・・それでも、危険だと感じる事が無かったのは機体がコントロールを手放していないという事が分かるから。

 さっきのように砲撃の衝撃波で吹き飛ばされたのではなく、機体は意図してこのような動きをしているのだ。

 

〝ひゃっほぅ~! いくぜ、カワイコちゃん! 必殺、龍鳥飛び!〟

 

 どうやったのかは全く分らないが、ヘリでは到底考えられない、まるでジェット戦闘機のような高速機動で機体は見事にジュピター砲の頭上へと躍り出た。

 機体の動きが落ちつき、Gから解放されたところで眼下を確認する。

 長い砲身の後端には、私の記憶にあった通りの黒い箱のような物が備え付けてある。

 まだ建設途中だったのだろうか、近くで見れば周囲はカバーしきれていない配線だらけで、見るからに弱点といった風体である。

 

「総員、存分にお見舞いしてやれ!」

 

 弱点の黒箱を見渡せる右ハッチに4人集合。

 私の号令を合図にして4つの銃口が一斉に火を噴いた。

 ヘリのローター音すらも掻き消す銃声のカルテット。

 弾丸の集中豪雨がジュピター砲に容赦なく降り注ぐた。

 無数の火花と黒煙をあげてどんどんとひしゃげていく装甲。それを嫌がるように砲身は回頭するが、エースパイロットRFBが逃がさない。

 的確なポジショニングで弱点を狙える位置に回り込み、私達はそれを良い事に弾丸を浴びせ

続ける。

 

「ったく、装甲の厚さは流石だな!」

 

「でもでも、所々でショートしだしてるからもう少しだよ!」

 

 みんな総出でマガジン3つ分くらいは浴びせただろうか、私も2本目のベルトを使いきり、3本目を給弾する。

 ジュピター砲を潰せるまであと一息だと、カーゴ内の誰もがそう思っていただろうその時、何の前触れも無く機体が急激に高度を上げ始めた。

 

「っと!? どうしたの、RFB?」

 

〝地上の鉄血部隊に包囲射撃されてる! さっきの位置にはいられないよ!〟

 

 RFBに言われて視線を移してみれば、ジュピター砲の周囲には鉄血部隊が勢揃い。

 攻撃に手間をかけている間に追いつかれてしまったのだろう、完全に私の誤算である。

 

「くっ! ジュピターの弱点はヘリの真下です。ここからでは攻撃ができません」

 

「あとちょっとだったのに! RFB~、なんとかならないの?」

 

〝なんとかしたいのは山々だけど、シールドももう限界なんだよ。これよりも高度を落として射程圏内に入ったら確実に撃墜される〟

 

 キーはすでに鍵穴に差さっている。

 後はそれを回すだけ。

 あと、たった一片のピースがあれば私達の勝利だ。

 

「・・・」

 

 ヘリはターゲットの真上を旋回している。

 部隊輸送用のヘリなので、降下用ロープもカーゴ内に装備している。

 頭の中で速効でシュミレーション。たぶんイケる! と判断するや、私はカーゴ内のラックに引っ掛けてあったロープを掴み取った。

 

「これ、ヨロシク!」

 

 ベルトにロープのフックを引っ掛けると、トンプソンに向けてロープ束を放り投げた。

 

「ヨロシクって・・・おいおい、お前も相当無茶するな!?」

 

 私の考えてる事をすぐに見抜いてくれたトンプソンは、やっぱり私の一番の戦友だと思う。

 ハッチから身を躍らせると、スタンドに足を掛けて降下姿勢をとる。

 ヘリが下がれないのなら、私が吊り下がって射撃位置に着けば良いだけの話しだ。

 

「しっかりとロープ掴んでなさいよ、シカタイ!」

 

「今度そのダサい名で呼んだらぶっ飛ばすぞ?」

 

 〝シカゴタイプライター〟略して〝シカタイ〟。呼びやすくて良いと思うのだけど、本人はお気に召さなかったようで残念である。

 気晴らしに冗談を言い合ったところで一呼吸。私は空中に身を投げ出した。

 浮遊感なんてそれこそ1~2秒くらいのもの。降下が止まり、逆さ吊り状態でターゲットに向けて照準を定める。

 ホバリングしている影響で視点はフラフラと揺れるが、これくらいで狙いを付けられないよう

ではスペシャリストを名乗っていられない。

 タイミングを掴んだところで容赦なく弾丸を叩きこむ。

 ベルト弾薬全弾、50発の徹甲弾を撃ち終えると、それに合わせたかのようにターゲットが盛大に炎を上げた。

 ジュピターの動きがガタガタと不規則に揺れ、砲頭の動きが止まる。

 

「ターゲットダウン! 即時撤退よ!」

 

 私の指示を受けて機体が移動を開始する。

 姿勢を直してロープに掴まり、悠然と眼下を見下ろす。

 そこには無駄なのに私に向けて銃撃をしている哀れな鉄血人形の姿。

 本当に良い気味だったので、中指を立てて煽りをくれてやった。

 これは、指揮官に見られたら怒られてしまうので内緒の話しだ。

 

〝よっしゃあ! すぐに引き上げてやるから大人しくしてろ〟

 

 トンプソンの声と共に身体が引き上げられていく。

 どんどんと離れていく戦場を眼下に、ここでようやく安堵の息をついた。

 今度こそ指揮官のもとに帰れる。帰ったら何を話そうか? この顛末をどう報告しようか?

私の頭の中はもう、大好きな指揮官との事で頭が一杯になっていた。

 ・・・・・・たぶん、それがいけなかった。

 まだ戦場の真っただ中だというのに、私は完全に勝った気になってしまった。

 スペシャリストとしてあるまじき失態だ。

 バツン、という感触が手に伝わると同時に、引き上げられていた私の身体が急降下を始める。

 

「え・・・?」

 

 遠のいていくヘリを目の当たりにして、私は状況をすぐに理解できず、間抜けな声を漏らして

しまう。

 

〝ネゲヴ!!?〟

 

 滅多に聞けない、気が動転したトンプソンの声を耳にして思考が引き戻される。

 これはちょっとした事故だ。

 地上部隊が無闇に撃った流れ弾が何かの間違いでロープを撃ち抜いてしまった。確率にしたら

文字通り、万が一くらいの出来事。

 それをこんな土壇場で引いてしまうのだから、私も指揮官に負けないくらいのヒキの持ち主だという事なのだろう。

 

「確実に撤退すること! これは隊長命令よ!」

 

 通信機に向かって最後になるだろう命令を下す。

 強気な口調で言ってやったが、本当は遠ざかっていくヘリに向けて手を伸ばしたいくらい悔しい気持ちだ。

 

〝・・・了解。すまない、ネゲヴ〟

 

 ああ、最後に耳にするのがトンプソンのこんな悲しそうな声だなんて、本当にツイてない。

 せめて、最後くらいは指揮官の底抜けに明るい声で締めにして欲しかったなぁ、などと幸せな

ワガママを想いながら私はゆっくりと目を閉じる。

 暗闇で感じる浮遊感の後、身体を襲う強烈な衝撃で私は完全に意識を手放した。

 

 

 

 

 NEXT スペシャリストの流儀 5話 Coming Soon




市街地をヘリで飛び回るというのは個人的に好きなシチュだったので、RFBに無茶をやってもらいました。

さて、ヘリから落下したネゲヴちゃんの運命やいかに、というところで来週もどうかお楽しみに~
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