ドールズフロントライン ~スペシャリストの流儀~   作:弱音御前

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今週もやってまいりました。
どうも、弱音御前です。

ネゲヴちゃんのお話もいよいよ折り返しに差し掛かりました。
果たして、この先どうなるのか? と楽しんでいただけていたら嬉しいです。

それでは、今回もどうぞごゆっくりとお楽しみください~


スペシャリストの流儀 5話

 ここまでのスペシャリストの流儀は・・・

 

 私は戦術人形ネゲヴ。指揮官の補佐から先頭まで完璧にこなす、まさにスペシャリストな

人形よ。

 そんな私は、アネモネ小隊を率いて鉄血大部隊への潜入調査任務へと赴いた。

 途中、敵に見つかってしまったり、ヘリが墜落の危機を迎えたりと前途多難だったが、私の機転によって新型ジュピター砲を撃破。

 ヘリの撤退ルートの確保に成功した。

 ・・・と、そこでお決まりのようにもう一波乱。私が吊るされていたロープをまぐれで撃ち抜かれ、私は旧市街地へと真っ逆さまに落ちていってしまう羽目に。

 この後、私は一体どうなってしまうのか?

 まずは、私とはぐれたという連絡を受けた執務室の様子から見てもらうことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 PM2:15

 

「・・・いいえ、あなた達だけでも無事で良かったわ。隊長の権限をあなたに移譲します、最後まで気を抜かずに帰ってきなさいね、トンプソン」

 

 今にも泣き出してしまいそうな声のトンプソンと通信を終え、すぐさま戦闘部隊の編成にとりかかる。

 

「指揮官様、ネゲヴはきっと無事ですよ。彼女の事は指揮官様が一番良くお分かりの筈でしょう」

 

「もちろん。だから、お迎えを行かせなきゃね。悪いのだけれど、第1部隊長をお願いしても良いかしら?」

 

 淡く微笑み、スプリングフィールドは恭しくお辞儀する。

 予期せぬ事ではあったが、トンプソンが仕掛けた爆薬のおかげで鉄血主力部隊は大打撃を被り、秘密裏に建造中だったという新型ジュピター砲もダウン。進行するのにも不利な状況ではないと

推測できる。

 スプリングフィールドとHK416をそれぞれ隊長とした2部隊であれば、敵地でのネゲヴ捜索も問題なく行えるだろう。

 編成を完了し、選抜した部隊員各々へ緊急出撃指令を送る。

 そんな矢先だった。突然、執務室内にけたたましいコール音が反響し渡った。

 普段のコール音と違い、生物の警戒本能を否応なく掻き立てるようなこのコール音はヘリアン

からの着信に設定したものだ。

 このタイミングでヘリアンからどんな要件を差し向けてくるのかは容易に想像ができる。

しかし、直属の上司であるのでこれを無視するわけにもいかない。

 傍らで待機するスプリングフィールドに聞こえないよう、小さく舌打ちをして通話ボタンに手を

伸ばした。

 

「おかけになった電話は電源が入っていないか、電波の届かな・・・はい、冗談です。ちょっと今取り込み中なので後でかけ直しても良いですか? ・・・ええ、はい、状況は仰るとおりです」

 

 大方の予想通り、各地に散らばる支部を統括する立場にあるヘリアンには、ネゲヴをロストした事も、そのネゲヴを捜索する為の部隊を向かわせようとしていることもすでに筒抜けであった。

 

「敵主力部隊は打撃を受けて体勢が崩れています。潰すのに絶好の機会かと。・・・私的運用とは心外ですね。私は戦闘の効率化を第一に考えて・・・」

 

 企業としてコストの浪費を抑えたいと考えるのは当然の事。

 戦術人形1人を迎えに行く為に部隊2つを動かすなど、認めてくれる筈もない。

 バックアップを用いて、新しい身体で復旧する方が明らかに効率的だ。

 そう言われるのを見越して、攻撃部隊としての運用と説明をしてみたのだが、それもヘリアンはお見通しだったようである。

 どのように説明したところでヘリアンは頑として聞き入れてくれる事はなく、出撃を禁じたまま一方的に会話を切られてしまう。

 

「あの・・・どうしましょうか、指揮官様?」

 

 会話を終え、大きく溜息を付いたのを目の当たりにして、スプリングフィールドが不安げな面持ちで問いかけてくる。

 企業に属する者として、上層部の意向に逆らうのは許されない事だ。

 可愛い部下達を戦場に残しているこの状況で、職務を外されるような無茶をするわけにはいか

ない。

 なので、あくまでも先ほどの会話に則ったやり方で進める事とする。

 

「あのね、ヘリアンは私に〝緊急性を要さない限り〟出撃を認めないと言ったわけ」

 

「はあ・・・緊急性、ですか?」

 

 スプリングフィールドが小動物のように可愛らしく首を傾げる。いつもなら反射的に愛でてしまっているような場面だが、今は場が悪いので頑張って抑えておく事とする。

 

「実は私、あの娘にとってもとっても大事な資料を預けていたの。それはもう、この場ではどんな内容なのか言えないくらい大事なの。それを出撃の時に置いていけばいいのにさ、あの娘ったら持って行っちゃったみたいなのよ。普段はしっかりしてるくせに、いざって時に抜けてるとこが

また可愛いのよね~」

 

 室内にはスプリングフィールドしかいないのに、やたらと大きな声でおおげさに言って聞か

せる。

 ここでの会話がグリフィンに筒抜けなのは知っている。

 これは、保険の為の会話なのでヒソヒソと話す必要などない。

 

「その超重要資料を回収するという緊急任務を貴女達に命じる。責任は全て私が取るから、安心して任務に従事してちょうだい」

 

「かしこまりました。スプリングフィールド、超重要資料の回収の為、これより出撃準備に移り

ます」

 

 スプリングフィールドも意図を汲み取ってくれたのだろう、余計な詮索をすることなく指示に従ってくれる。

 

「ねえ、スプリングフィールド」

 

 踵を返し、退室しようとするスプリングフィールドに歩み寄る。

 今度はあまり聞かれたくない内容の為、控えめな声で語りかけた。

 

「無茶を言ってごめんなさい。もし・・・貴女だったとしても、他のみんなだったとしても、私は絶対にロストなんて許さない。助けるために全力を尽くすわ。決して、ネゲヴが特別だからっていうわけじゃなくて、っていう事を分かってもらいたくて」

 

 言葉に詰まったところで、スプリングフィールドの手が優しく頭に乗せられる。

 

「指揮官様の想いは、指揮官様が考えられているよりもしっかりと私達に伝わっていますよ。ですから、そのようなお顔をなさらず、いつも通りに堂々とした指揮官様で居て下さい」

 

 まるで、子供をあやすような穏やかな笑顔で頭を撫で、スプリングフィールドは執務室を出て

いく。

 執務室に1人残され、大きく深呼吸。

 スプリングフィールドに指摘された顔を両手でグニグニと揉んで気持ちを切り替えると、自分のデスクに戻りこれからの指揮に備える。

 普段の通りの自分で・・・と頭では分かっていても、どうしても動揺が思考を乱しにかかる。

 それだけ、ネゲヴがロストしたというこの状況は辛く、苦しい状況である事に他ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ???

 

「ぅ・・・ん・・・?」

 

 眼を覚まし、まず視界に入ったのはカビだらけのコンクリート。

 ひどいノイズのようにやかましい水の流れる音に、鼻を付く薬品のような刺激臭。身体は胸の下まで水に使っているようで、ユラユラとした浮遊感に見舞われている。

 感覚がしっかりとしているということは、私はまだ行動可能な状態にいるらしい。

 

「っ! いてて・・・」

 

 まるで、水棲生物のように陸に這い出ようとして、後頭部から背中にかけて痛みが奔った。

 けれど、いつまでも水に浸かっていたくない私は痛いのを我慢してコンクリートの陸地へ這い

上がり、傍の金属製のフェンスに身体を預ける。

 

「はぁ~・・・・・・えっと・・・どうなったんだっけ?」

 

 やたらと暗いしジメジメしてるし臭いし、と周囲の最悪な環境を気にする前に、私がこんな場所にいる理由を考える。

 偵察任務の最中、鉄血に見つかって交戦になった。ヘリで逃げようとしたのだけれど、そんな

矢先にジュピターに狙われ、これを潰さざるを得なくなった。

 主に私の活躍でジュピターを破壊。晴れて帰路につけると思われたのだが・・・。

 

「あぁ~、ヘリから落ちたんだ。よく無事だったものね、私」

 

 落下から意識を失うまでの僅かな時間の出来事が段々と蘇ってくる。

 ヘリから落ちた私の落下ポイントは、トンプソンが爆破で開けた穴の真っ只中。おまけに、その穴の先は浄水設備の水路に到達していた為、私は地面への激突を避けて着水した。その際の衝撃で意識を失うほんの寸前、傍に浮いていた何らかの破片に掴まって身体を預けたのだ。

 そうして流され流され、私は下水道のいずこかへと流れついた、という次第である。

 

「あれから4時間も経ってるのか。順調にいけば、みんな基地に到着してるはずね」

 

 あの時のトンプソンの様子から考えて、おそらく私の事はもう諦めているはずだ。

 当然、指揮官にもそのように報告を行っているだろうから、基地はそれはもう大騒ぎになっているに違いない。

 なにせ、我がグリフィン支部はこの半年でまだ1人もロストを出していないのだ。

 ついにその第1号が登場、しかもそれがこの私ときたらもう指揮官は気が気じゃないだろう。

 まずは、もう泣き喚いているかもしれない指揮官を安心させてやるのが先決だ。

 

「こちら〝アネモネ1〟。指揮官、応答を」

 

 指揮官への直通通信で呼びかけるが応答無し。私の声だけが虚しく暗がりのコンクリに溶け込んでいく。

 

「こちら〝アネモネ1〟。私は無事よ、指揮官」

 

 2度目の呼びかけに対しても無反応。

 まず、指揮官の事だから私の無事を信じてくれているはずだ。私からの連絡に備えて通信機に喰いついているだろうから、呼びかけに気が付いていないという可能性は低い。

 地下にいるので通信が繋がりづらいのだろうか? というところまで考えを巡らせて、明らかな異常に気がつく。

 

「・・・これ、もしかして」

 

 通信機が正常に機能していれば、通信状況に限らず微かなノイズがバックグラウンドに流れるものだ。しかし、今はそれすらも聞こえてこない。

 通信機の故障という最悪の事態が脳裏を過り、やや楽観気味だった私の気分をどん底に突き落としてくれた。

 

「通信機がダメって事はビーコンも・・・・・・」

 

 こんな状況でも私が割と楽観していた一番の理由がビーコンの存在である。

 自分がどこに居るのか分からない状況でも、グリフィン側で私のビーコン信号を拾ってくれれば、位置を特定して捜索に来てもらう事が可能になる。

 そのビーコンは通信機に内蔵されているので、通信機が機能していない今、ビーコン信号も消えてしまっている可能性が非常に高い。

 

「水に浸かったくらいじゃあどうってことない筈なのに。なんで?」

 

 考えられるのは着水時の衝撃か、或いは浄化された水に混じっている消毒薬が影響しているのかもしれない。

 掌くらいの大きさの通信端末を叩いたり振ったりしてみるが、案の定、何の変化も無し。下手に分解してみた挙げ句、直るものも直らなくなってしまっては元も子の無いので、私が弄くれるのはここまでである。

 

「くそっ! 自分で何とかするしかないか」

 

 完全に孤立してしまった以上、頼れるのは自分自身だけ。

 まるで、人間の血管のように幾重にも張り巡らされた下水道はかつての人間の生活区画、四方

数百キロ以上の規模である。そのどこに自分が居るのかも分からない状況だが、まずは動かない事には話しは進まない。

 やや気だるい身体を起こし、非常灯で薄ぼんやりと照らされた先を眼を凝らして確認してみる。

 左右にまっすぐ伸びている通路の先はどちらも変わり映えしない様子で、判断材料になるようなものも全く視認できない。

 

「迷ったら左の・・・やめた。右にしよ」

 

 そう決めるや、私は銃を片手にゆっくりと通路を歩きはじめた。

 非常灯の灯りだけでは頼りなさ過ぎるので、ポーチから取り出したフラッシュライトを銃身のレールに組みつける。

 その最中で大きな問題に気がついた。

 イジェクトポートから所在なさげにぶら下がっている空のベルトリンク。どっからどう見ても

間違いなく弾切れである。

 

「はぁ~・・・ツイてない時はこんなもんか」

 

 こんな訳の分からない所で鉄血と遭遇するという可能性は低いだろうが、鉄血以外の脅威というのも少なからず存在するものだ。

 私にとってかけがえの無い武器が使えないと判明した途端、抱いていた不安が2倍くらい増しで膨れ上がった。

 

「せめて1発くらいどこかに・・・」

 

 ポーチを探ってみるが、几帳面に整理している私の事なので無駄弾は1発たりとも転がってやしない。

 こういう時だけ自分の性格を恨みたくなってしまう。

 ジャケットのポケットに手を突っ込んだところで、覚えの無い感触が手に当たる。

 棒状のそれら3本を掴んで引っ張り出しライトで照らし確認して、その存在を思い出した。

 

「不幸中の幸いか」

 

 銀紙に包まれた3本のチョコバーは、私に睨まれたFNCがポケットに入れてくれたものだ。

 私は消毒液の混ざった水に全身浸かってしまったが、かたやチョコバーは厚めの銀紙でしっかり包まれているので、中身まで浸っている事は無いだろう。

 指揮官曰く、腹が減っては戦ができぬ。

 果たして、基地に帰れるまでどれくらいの日数がかかるのか分からないこの状況では、とても

頼りになる贈り物だ。

 心の中でFNCにお礼を一言。命綱であるチョコバーをまたポケットにしまい、私は行く先を

照らしながら慎重に通路を進み始める。

 所々が朽ちて、今にも崩れてきやしないかと不安に思わせる通路を、水の流れと並行して進む事およそ1時間あまり。

 心配していた危険生物と遭遇する事も無く、私は下水道から地上に繋がる出口に辿りついた。

 サビだらけの鉄扉には、EXITと読む事が出来る文字がかろうじて確認できるので、ここで間違いないだろう。

 ギィィ、と顔をしかめたくなるくらい不快な金属音を反響させながら扉を開け、上階に向かって伸びる階段を昇っていく。

 階段の突き当たりを塞ぐ鉄扉を開く。

 もう、久しく浴びていなかった乾いた空気が流れ込んできてくれた事で、私の鬱屈した気分がちょっとだけ晴れてくれた。

 

「さてさて、ここはどこなのかしらね?」

 

 コンクリート製の小屋から出てきた私は、うっそうと生い茂る雑草群に囲まれてしまっていた。

 どこかの森林地帯ど真中に出てきてしまった、という事か。

 群生している植物の品種や木々の隙間から見える山峰のカタチから推測すれば、ここがどこの

エリアなのかある程度のアタリをつけることは可能だ。しかし、今はもうすっかり陽が落ちてしまっていて、ライト無しでは数メートル先も視認できない。

 急ぎ基地に帰りたいという気持ちはあれど、下手に夜の森を歩きまわるなんて愚か者のする事だ。

 日の出までは10時間余り。下水道出入り口の建屋はフェンスで囲われているので、休んでいる最中に野生動物に襲われる危険も無い。

 壁に背中を預けて眼を瞑ると、思いのほか疲れが蓄積していたのだろう。私は自分でも信じられないくらいあっさりと眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陽が昇り、現エリアの推測を行った私はここでようやく自分の居場所を掴む事が出来た。

 昨日、都市の下水道に落ちた私は目が覚めるまでの4時間ほとんど流されっぱなしだったようで、都市から東に100キロ以上離れた森林地帯まで来てしまったようだ。

 よくもまあ、起きもせずにそんな長い時間流され続けたものだ、というツッコミはどうかご容赦願いたいところである。

 ここからの帰り道として、まず考えられるのは来た道を引き返すという案。自分が流されてきた下水道を遡って都市中央の大穴まで戻り、私を捜索に来た部隊と合流するというものである。

 ただ、これは私の捜索部隊が来てくれているという大前提が必要で、かつ、その部隊が引き上げてしまう前に私が都市まで戻らなければいけない。

 リスクはあれど、この作戦が一番確実かな? と思った私だったのだが・・・再び下水道に降りてみれば、そこには昨日は影も気配も無かった水棲クリーチャー達の大行列。

 私よりも身体の大きい化け物が水路を泳いでいったのを目の当たりにして、私はこの案の廃止を即決したのだった。

 地上から都市に戻るルートはもとより頭には無い。

 現在地の森林地帯は、四方を山峰に囲まれた窪地に存在する。

 都市まで一直線に向かおうにも、そこにそびえるのは1000メートル級の山峰。

 少し温かさを感じる時期であるにも関わらず、山の中腹より上は白いお化粧をしているのが

ハッキリと見える。

 こんないつも通りの装備で山越えをしたらどうなるものか、どれだけバカな戦術人形だってすぐ分かる。

 そうして考えに考えた末に出した結論が、このままグリフィン基地まで走破するという案だ。

 森林地帯から基地までの間にも山はあるが、都市との間にそびえるものより標高は大幅に低く、傾斜も比較的緩やかなので山越えも可能である。

 問題点として、そんな山を幾つか越えつつ迂回して進まなければいけないのと、基地までの距離が概算で400キロもあるという点だ。そこは道中で乗り物を発見したりとか、別任務に就いている仲間の部隊と鉢合わせしたりとか、自分の運でなんとかなるように祈るしかない。

 周囲に自生している食べられそうな木の実を集めたり、朝露や樹の幹から飲み水を調達したり、長期戦の備えをしてから基地に向けて移動を開始した。

 一刻も早く基地に帰って指揮官を安心させてあげたいし、私も指揮官に会って安心したい。

 その気持ちだけが、今の私の脚を動かす原動力になってくれていた。

 

 

 

 NEXT スペシャリストの流儀 6話 Coming Soon




ネゲヴちゃんサバイバル編、ということでお家に帰る旅が始まります。
ヘリから落ちた割にはノーダメージだったな、というのは書いた後に思ったことで、どうか目を瞑っていてもらいたいところです。

来週もどうぞお楽しみ。弱音御前でした~
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