恋するメジロマックイーンは怪我にも抗いたい   作:ジャスSS

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愛しい貴方に、触れる為の勇気を

 ──屈腱炎、骨折、繋靭帯炎……

 この言葉達は皆、全てのウマ娘に関わる者に恐怖を与える。

 レースからの長期離脱は当たり前、引退の原因になることも珍しくなく、下手をすれば走ることもままならなくなる。

 高く高く素質が評価されていても、どれだけレースの実績を積んでいても、全ての人が活躍を願っていても、これらの怪我の前にウマ娘は無力と化す。

 神様はただ、無作為にウマ娘を選び、一人嘲笑うだけだ。

 故に、彼女たちの育成を承るトレーナーたちは疲労や事故に誰よりも敏感になる、いや、ならざるをえないのだ。

 最高で時速60kmのスピードを叩き出すウマ娘。

 当然そのスピードを生み出すパワーは果てしなく、たった2本の脚で支えるにはあまりに過ぎた代物だった。

 例え頑強と名高いウマ娘でも、最後までケガと無縁で競争生活を終えられる者は相当に少ない。

 だからこそ"無事是名バ"ということわざは存在するのだろうし、そうした者を称える為に必要とされている。

 それほど、レースの世界というのは過酷で、厳しい世界なのだ。

 しかし現実には多くのウマ娘は怪我を負う。

 今日もまた、一人のウマ娘に苦しみが襲う──

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 

 ────

「あと1ハロン! 目標は11秒後半だぞ!」

 

 ここは"日本ウマ娘トレーニングセンター学園"。 通称トレセン学園。

 URA直属のウマ娘養成機関で、国内最高峰の設備を整えており、当然ここに入ってくる子たちもまた国内最高峰。

 常にハイレベルなレースが見られるトゥインクル・シリーズの多くは、ここに入っている子らによって構成されている。

 そんな彼女たちは日々トレーナーと呼ばれる人たちの指導を受け、その能力を磨いている。

 

「──よし! ラスト11.8! 自己最高も更新だ!」

 

 そんなプロフェッショナル軍団の中にも当然序列はつけられる。

 特にトゥインクル・シリーズで最高ランクに位置付けられているレース、GⅠレースに出走するというだけでも相当な試練が待ち受けている。

 そんなGⅠレースを制する者は多くの人に敬われ、嫉妬され、様々な注目を一挙に集める。

 そんなGⅠウマ娘ですら、真に強いウマ娘に完膚なきまでに敗け、屈辱を味わうことがある。

 

「ふふん、大レースが近づいてるですもの。 これくらいの時計は出せますわ」

 

 坂を凄まじい勢いで駆け上ったこのウマ娘、"メジロマックイーン"は現役最強と目された選手であった。

 

「しかし凄いな。 まさかこの時期にしてまだまだ進化し続けるとは…… 全く末恐ろしいよ」

「貴重な誉め言葉として、ありがたく受け取りますわ」

 

 大規模な組織改編があったチーム・シリウスのエース。

 ここまで天皇賞(春)2連覇を含むGⅠ4勝。

 先行してゴール前に相手を抜き去る模範的なレースで、多くのウマ娘を絶望の底に叩き落したターフの名優。

 そのお嬢様然とした振る舞いも含め、多くの人の憧れを背負っているウマ娘だ。

 

「おいおい、俺はちゃんと褒めるときは褒めるぞ」

「あら、そうでしたの? 最近はライスさんにお熱のようでしたから、てっきり褒められていないと勘違いしてしまいましたわ」

 

 そんな模範生といえるマックイーンだが、彼女とて一人の少女、人間である。

 一心同体ともいえる程の信頼関係を結んだトレーナーに対し、嫉妬心を込めた意地悪も言いたくなるものだ。

 

「ライスにお熱、か…… まあ現役も長いマックイーンに対して、ライスはまだまだ未熟なところもあるからな。 マックイーンが一人でも完璧にこなせるのもあって、そうなってしまうのも仕方ないかな」

 

 だがそんなマックイーンの隠された心はあまり届いてない様子であった。

 

「むっ……確かに、そうですわね」

「ん? どうしたんだそんなに機嫌を悪くして」

「はぁ……なんでもないですわ。 全くもう」

 

 あまりの鈍感っぷりに、さすがにお嬢様の口からため息が漏れる。

 彼女の可愛らしいお耳も、つい垂れてしまう。

 だがそれを見てもなお、彼女の想い人は理解をしきれない。

 

「……この唐変木」

「え? 何か言ったか?」

「別に聞こえなくてもいいですわ! もう一本上ってきます!」

 

 そう恨み節を言って、マックイーンはいそいそと坂下に戻っていく。

 嵐が過ぎ去ったかのように、その場には静寂が走る。

 

「ハァ全く、おめぇーは鈍感すぎんだよなあ」

 

 やれやれといった様子で、マックイーンと同じシリウス所属のゴールドシップが近づいてきた。

 

「ん、確かに言われてみれば……まだ彼女一人ではままならないようなこともあったりするのだろうな。 やっぱりしっかりと見ていかないといけないのかな」

「やれやれホントに……いや、それはそれでオッケーなのか?」

「何を言ってるんだゴルシ」

「いやぁ? なんでもないですわよぉ?」

 

 本来のゴールドシップからはとても似つかわしくない高貴な口調を可笑しく感じたのか、彼女たちを監督する立場であるチーム・シリウスのトレーナーは笑みをこぼした。

 

「……おいトレーナー、ちょっと気持ち悪いぞ」

「え、そうか?」

「あぁ。 ま、マックイーンが見たらズッキューンとなってたかもしんねーが、普通に見たらただの不審者に過ぎないからな。 外ではすんなよ、後生の為にも……な」

 

 意味深長なことを言い残し、彼女もまた坂下へと戻っていく。

 台風が過ぎ去ったかのように、再びその場には静寂が戻る。

 

「──まあ賑やかなのは良いことだよな。 数年前と比べると特に……」

 

 かつての寂れた日々を思い出していると、坂下から声が響いた。

 

「トレーナーさーん! 今から走りますわよー!」

「分かったぞー! よーい……ドン!」

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 

 ────

「メディカルチェック? レース直前のこの時期にか?」

「ええ……正直、必要ないと考えてはいたのですが……」

 

 坂路トレーニングの後、マックイーンは俺を部室の外へ呼び出すなりそう告げた。

 

「考えてはいた……ということは、今は必要だと?」

「はい。 今朝の話になるのですが……」

 

 聞くところによると、今朝学園の保健室周辺を歩いてたところ、保健室の先生に歩様の乱れを指摘されたらしい。

 マックイーン自身は全く認知していなかったので最初は気にしないようにしたらしいが……秋の大レース、天皇賞(秋)を控えている手前、念のためということで受診を決意したようだ。

 

「まあ最終追い切りは今日終わったしな。 今んとこ調子はばっちりだし、これからはレースに向けての調整期間に入るからな。 分かった、行ってこい」

「感謝いたしますわ、トレーナーさん」

 

 そう言うと、マックイーンは深々と礼をしてくれた。

 こう一つ一つの所作を見ると、本当にお嬢様なんだなあ……

 

「しかし歩様が乱れてる、か。 確かに言われてみれば乱れてるように見えるな」

「あら、トレーナーさんも気づかなかったのですの? それならわたくしが気づけないのも納得ですわ」

「おいおい、さすがに自分のことなんだからさ……」

「言ったでしょう? わたくしと貴方は一心同体。 お互いの体の変調は、お互いに気づくものですわ」

 

 それは少し、一心同体の意味を履き違えてるような気もするが……

 とは言え、自分が担当する子の異常に気づけなかったのは素直に悔しい。

 今回はたまたま発見してくれたから良かったものの、本来は自分が見つけなくてはいけないはず。

 偶然による幸運がなかったら、彼女はその異常を抱えたまま、天皇賞に出走していたことになるのだから──

 

「しかしわたくしたちで気づけなかったことに気づいたあの保健室の先生は一体何者なのでしょう……」

「噂によると、アメリカでもう絶対に走れないと診断されたウマ娘を再起寸前まで蘇らせた凄腕だとか」

「へえ──ん? 再起寸前ということはまさか」

「ああ。 結局は故障が再発してしまって、レースから身を引いてしまったんだとよ。 とは言え復帰寸前まで行くんだから、すごいよなあ」

 

 俺には医学の知識があまりない。

 だから羨ましいとまでは思わないが、もしドクターになれるのならこんな人になってみたいな──

 

「ですが能力喪失と診断されたウマ娘の治療は、過酷を極めるものと聞きましたわ。 相当な苦しみを何日も、何か月も耐えて……」

「そうだな。 俺も実際に見たことはないんだが、先生からそういった話は何度も聞かされたことはある。 きっと、俺たちじゃ完璧に想像することもできないほど、その苦しみは壮絶なものなんだろうな」

 

 そんな過酷な闘いでも、結果としてレース復帰を勝ち得れば最終的には喜びに変わる。

 だが、実際に起きた闘いの末には──

 

「でもそれらの救われない点はさ、そうした大怪我からレースに戻れた子がいまだにいないことだろうな……」

「ええ……どれだけ辛い思いをしても、何も得ることなく終わってしまう……神様に慈悲というものはないのだと、強く思い知らされますわ」

 

 慈愛に満ちたマックイーンの顔を見る。

 

 

 

 ──もし俺の担当が──マックイーンが、そのような怪我を負ってしまったら。

 俺は彼女の為に、どのような判断ができるだろうか。

 彼女の願いを叶えようと考えるのは当然だ。

 だがその願いが切り開かれたことのない茨の道だったら? 

 苦しみの先に何も生まれないと分かった闘いだったら? 

 俺は──どんな判断を下すべきなんだ──? 

 

 

 

「……トレーナーさん?」

「……うお、どうしたまじまじと顔覗いて」

「そ、それはこちらのセリフですわ…… 貴方、さっきからわたくしの顔を見つめ続けていたのですわよ」

「いや……ちょっとな……」

 

 先ほどまでの思案をマックイーンに素直に伝えた。

 一瞬でも考える素振りを見せるのかな、と思ったが、意外にもすぐにキッパリとした顔で──

 

「──ふふっ。 本当に、トレーナーさんは心配性なんですから」

「え……そうなのか?」

「ええそうです。 いいですか、わたくしは貴方と共にあり続けると決めたのです。 この決意は決して揺るがず──そして、誰にも歪められないほど固いですわ。 例え相手が神様であっても、です」

 

 力強く話すマックイーンの目は、レース前と同じように炎をたぎらせている。

 この言葉たちにはレースと同じだけの想いがあるということなのだろうか。

 

「身体を壊すことなく、気持ちを切らすことなく、最後のレースまで貴方の隣で走り続けますわ。 ですから、そんな簡単に貴方の前から消えるようなことなど、決してありえるはずのない出来事ですの。 というより、そんなものはわたくしが阻止いたしますわ」

「ははは、それは頼もしいもんだな」

「もう、わたくしは真剣に申しておりますのに……」

「でもありがとう。 おかげで心配事が一つ減ったよ」

「それならよかったですわ。 まったく、トレーナーさんは心配しすぎですのよ。 このわたくしを誰だと思ってるのです?」

 

 さっきのような鬼気迫る表情は溶け、いつもの柔和な顔に戻った。

 やっぱり、普段はこの顔の方が安心するな。

 

「わざわざ言わせる必要あるかい、それ」

「む……本当にトレーナーさんはつれないんですから……」

 

 この顔でいるときは、からかうとこういう面白い表情を見せてくれる。

 その表情を見るが為にからかう──というのは間違いではない、大正解だ。

 

「まあ恐らく、明日診察を受けるからそんな心配をしてしまったのでしょうね。 ですがこれに関しては問題ないでしょう。 わたくし自身に違和感はないですし、今日の坂路でも自己記録を更新するほどでしたから」

「そうであったらいいな。 それこそ、去年の骨折のようなことはもうこりごりだ」

「あ……も、もう! その話は今しないでくださいませ!」

 

 やっぱり、マックイーンはからかいがある。

 それだけの隙があるということでもあるんだろうけど。

 

 ──と、もうこんな時間になってたか。

 

「さてそんな与太話をしてるうちに……もう19時だ。 どうせ明日は早いんだろ? 今日のトレーニングの疲労抜きの為にも、早めに戻っておいた方がいいんじゃないか?」

「……ふう。 そうですわね。 向こうではゴールドシップさんがこの時間帯というのに騒がしすぎてますから、早く戻らなくてはいけませんわ」

 

 マックイーンが目線を送った先から、ゴールドシップのいたずらな大声と、それを制止しようとするライスシャワーの声が聞こえてくる。

 

「またあいつ……ホント苦情を言われないだけ奇跡だな」

「きっと巧くやってるのでしょうね。 少し締めてきますわ」

 

 そう言うやいなや、マックイーンはチームメイトのいる部屋の方へ向かった。

 しかし締めてくるって……間違っても出してはいけない言葉でしょうが……

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 

 ────

「それではトレーナーさん、また明日に会いましょう」

 

 ゴールドシップさんが起こした騒ぎを鎮圧した後、私たちは帰宅の途へとつくことになった。

 シリウスでは暗くなるまで学園にいた際、トレーナーさんが寮まで私達の帰途についてきてくれる。

 "夜道ではどんなのがいるかわからないから──"という理由でわざわざついてきてくれるのだ。

 一秒でもトレーナーさんといたい私からすれば、こんなのは嬉しい以外の何物でもない。

 いつもは学園までの時間が、少しだけだけど延長される。

 些細かもしれないけど、その些細な時間を愛おしく思わざるをえない。

 そんな時間が今日もまた──終わってしまう。

 

「いやいやマックイーン、明日は診察だろ? 次に会うのは明後日だろうが」

 

 確かにそうかもしれない。

 でも私はここで離れることが辛くて──明日も会えないかもしれないという不安で、つい嘘をついてしまう。

 

「きっと、すぐ終わりますわ。 そうなれば早めに学園に戻れるでしょうし、練習も少しできるかもしれません」

「ははは、そうなるのに越したことはないけど……マックイーン自身の体調に関わることなんだし、ちゃんと診てもらうんだぞ?」

「そこは心配しなくても大丈夫ですわ。 入念に状態を見てもらったうえで、万全の状態で戻ってきます」

 

 確固たる根拠はない。

 でも、自信はある。

 胸の奥から、自信が湧き出て仕方ないのだ。

 

「まあ戻ってこなくてもいいけどなー? 練習相手には困んねーし、な? ライス?」

「え? う、うん! あ、でもこれは決して、マックイーンさんが必要ないわけじゃなくて……」

 

 普通ならとても失礼なゴールドシップさんの発言と、それをフォローするライスさん。

 ある意味二人らしさを感じる掛け合いには、つい心地よい気持ちになる。

 

「わかってますわよ、ライスさん。 でももうライスさんはわたくしをも破って、現役最強のステイヤーとなってます。 わたくしなどいなくとも、チームを引っ張っていけるだけの実力を既に有してるのも、また事実ですわ」

「え、えぇ!? そんな、ライスまだまだマックイーンさんには遠く及ばないし、それに、この前のオールカマーではターボちゃんの逃げ切り許した上に他の子にも負けて4着だったし……」

「それは、ライスさんの場合は距離が足りないからしょうがないですわ。 200m、300mと伸びるジャパンカップと有マ記念ではきっと勝ち負けできますわよ」

「マックイーンさん……」

 

 ライスさんを励ます為、好走を意味する"勝ち負け"という単語を使ってしまった。

 でも、実際には"勝ち"はもたらされることはない。

 なぜならば──

 

「ですが、本番で勝つのはどちらもわたくしですわ。 クラシックディスタンスの府中、暮れの中山では絶対に負けませんから」

「う、うん! ライスも、絶対にマックイーンさんに勝つから!」

 

 さすがはライスさんです。

 あの天皇賞から秘めたる自信が解放されていて、相当手ごわくなってます。

 

「ですが、わたくしだって負けるわけには──」

「はいはい二人とも、ライバル心むき出しにするのは嬉しいけどさ、まだジャパンカップどころか天皇賞も終わってないんだから。 特にライスはジャパンカップに一点集中してるわけだし……」

「もちろんわかってるよトレーナーさん。 秋の天皇賞は、マックイーンさんの応援に全力を注ぐんだもんね」

「確かに……わたくしも、まずは目の前の天皇賞へ気持ちを注がなくてはいけませんわね」

 

 途中でトレーナーさんに遮られたことで、失った落ち着きを取り戻せた。

 いくら雪辱の秋シーズンにしたいからといっても、さすがに我を失ってしまうのはダメだ。

 自らのリズムを乱さないためにも、そしてトレーナーさんからの期待に応える為にも。

 

「そんじゃ、夜更かししないでちゃんと早く寝るようにね」

「はーい!」

 

 ゴールドシップさんが勢いよく返事する。

 それに釣られて、他の子たちも言葉を返していく。

 もちろんわたくしも──と思っていたら。

 

「特にマックイーンは気を付けて。 レースも近いんだしさ」

 

 特別に、私だけに気を遣っていただいた。

 私はそれが嬉しくてつい──

 

「えぇ! もちろんですわ!」

「お、おう。 それじゃ、みんなおやすみなさい」

「おう! グッドナイトだぜ、トレーナー!」

「え、えぇ。 おやすみなさい、トレーナーさん」

 

 少しはしゃぎすぎてしまいましたわ……そんなつもりなかったですのに。

 

「はい、おやすみ、トレーナーさん」

 

 脳内で反省を考え込んでいたら、みんながトレーナーさんの元を離れて寮へ向かっいく。

 私はそれについていかなくてはいけない。

 でも、離れたくない──私を襲うジレンマが、この脚の歩みを止めてしまう。

 

「おいマックイーン? 早く来ねえとお前の夕飯食っちまうぞー?」

 

 あぁ、離れなくてはいけませんよ、マックイーン。

 目の前の愛しい人(トレーナーさん)も困り果てた顔をしてらっしゃいますわ。

 早く脚を動かして。

 あの人を困らせてはいけませんわ──

 

 

 でも、離れられない。

 ならいっそ──

 

「っ!? マックイーン!?」

 

 彼の手を握る。

 手のぬくもりだけでも、覚えておきたい。

 本当は抱き着いて全身でぬくもりを感じたいが、それは今の私にはまだ許されてない行為。

 だからこんな風に、物足りなくても手を握ることしかできない。

 それが、今の私に出せる最大限の愛情表現なんだ。

 

「……それでは、良い夢を!」

 

 そんなことを言ってるけれど、きっと良い夢をみれるのは私の方だろうな──

 

「あ、あぁ! 良い夢を!」

 

 恥ずかしくてパッと振り返ってしまったから、トレーナーさんがどんなお顔をしてるかまでは知ることができない。

 でも声色は少し上ずってるように聞こえるし、もしかしたら顔を赤らめてるのかも──

 いや、それの方ならわたくしの方がずっと赤いのでしょうね。

 それも、風邪かと見間違えるほどに──

 

 

 

「マックイーン……お前もまったく、隅に置かねえなあ!」

「いったいなんのことですの? 先ほどのことなら、ただの親愛表現に過ぎない行為ですわよ」

「マックイーンさん……それはさすがに無理があるんじゃ……」

「もううるさいですわね! 皆さんのお夕飯、全ていただいてもよろしくて!?」

「なに!? まさかの大食い大会緊急開催か!? その分野じゃぜってー負けねえぞおい!」

「そういうことでもありませんわ!」

 

 なんやかんやでいつものような会話になり、それにみんなも乗っかっていった。

 さりげなくスルーしかけましたが……ゴールドシップさんの気遣いにはちゃんと感謝しないといけませんわね。

 あの人も隅に置けませんから……

 

 

 

 ──しかし、先ほど感じたあの人の手のぬくもり。

 徐々に冬が近づいてるからか、少し冷たかったような気もする。

 自分の温かい手で少しでも温められたら、勇気を出した意味もあるというものだ。

 

「……大きかったな、あの人の手」

 

 いえ──決してあの人の為ではない。

 自分勝手に、あの人の手を握ったに過ぎないんだ。

 そうして掴み得たあの人の感触──

 

「……明日まで、しばしの我慢ですわね」

 

 その手で口を覆い、明日へ、その先へと、思いを馳せた。

 

 

 

 

 




「おいおい……俺様のマックイーンが見知らぬ男に惚れちゃってんじゃねえか!?」
「え……? スズカさん! なんか変な人が!」
「スぺちゃん…… (現実における)私たちのお父さんよ……」



 桜花賞も近づいてますね。

 最低でも今年のダービーまでには終わらせる気持ちで頑張ります。





 今回の謎ウマ娘はサンデーサイレンス、日本競馬を大きく変えた超スーパースゴイ種牡馬です。
 実はメジロマックイーンとは繋養先の放牧地が隣同士で、すこぶる仲がよかったそうです。
 スペシャルウィークやサイレンススズカの父ですが、それ以外にもアグネスタキオン、アドマイヤベガ、マンハッタンカフェ……とまあ、とんでもないほどGⅠ馬を生んできたのです。
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