恋するメジロマックイーンは怪我にも抗いたい   作:ジャスSS

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愛しい貴方へ、愛してます(上)

 ────

 私、サトノダイヤモンドは本日、休みを利用して街に繰り出している。

 ──ゴールドシップさんに半ば強制的に連れられて。

 

 

 

 昨日のこと。

 

「ダイヤ、こいつのことどう思う?」

 

 ゴールドシップさんが見せてきたのはUmatterの一画面。

 どうやら何かへの愛を叫んでいるように見えるが──

 

「えーと……"マックイーンとそのトレーナーははよ結婚すればいいのに"、"あいつらのイチャイチャ見たことあるけど、付き合ってすらいないってマジ?"、"メロンパフェ食べ合いっこしてるのみたけど尊かったわ"……って、なんですかこれ!?」

 

 見た感じマックイーンさんとトレーナーさんに関する投稿であるが、結婚だとか付き合うだとか、恋愛的な文章が多い。

 どうやら検索してそういう投稿を抽出しているようだが、下へスクロールしていくと高い頻度で投稿されていることなのだと分かる。

 少なくとも一定の割合ではそれを望むファンがいるようだ。

 

「あとな、これはちょいと衝撃なんだが……」

 

 と、次に見せられたのはネット上のとあるコミュニティサイト。

 

「これは……"メジロマックイーンの恋路を応援するの会"!? これこそなんですか!?」

「何って、そのままだぞ。 マックイーンの恋が成就するようにっていう、私設の応援サイトだ」

 

 そんなものが──というより、ファンがウマ娘の恋愛を応援するって、中々に変な状況な気が。

 

「おかしいなって、思っただろ?」

「まあ、そうですね……」

 

 どこかワクワクしてるようなゴールドシップさん。

 何か嫌な予感がするのですが。

 

「その実態を調査するためにな、週末、中山レース場行くぞ!」

「えぇ!?」

 

 

 

 というわけで、ファンにマックイーンさんのことについて聞くべく、今週から開幕した冬の中山開催の初日に私たちは乗り込んだ。

 土曜日であるというのにこの大人数具合は、苦手な人がいったら吐くレベルである。

 

「いやぁ、中山はやっぱちっせえな!」

 

 共にいるゴールドシップさんがその場を俯瞰して言う。

 中山レース場は主要四レース場の中でもっとも小さいレース場で、小回りと呼ばれることもある。

 とにかくカーブが急なので、コーナリング能力が大事だというのは有名な話。

 あとは直線途中で急坂があるので、それにヘロヘロ状態でもしっかりと登り切れる基礎パワーも要求される。

 総じて適性が問われやすいトリッキーなコースの為、中山巧者と呼ばれるウマ娘が定期的に登場しやすく、暮れの有馬であっと言わせる好走をしたりするのは昔からよく見てきた。

 しかし今日はそういうウマ娘的見解は必要でなく、ファンの気持ちを私たちは求めている。

 

「確かにここならファンの方に会えますけど……本当に聞くんですか?」

「おうよ! アタシたちの圧倒的コミュニケーション能力、見せてやろうじゃねえか!」

 

 指をポキポキと鳴らすと、なんと一気に駆け出して行ってしまった。

 早速聞き込みしてるし──こちらも動かなければ。

 

「あの……すいません、今大丈夫ですか?」

 

 とりあえず近くにいたほわほわとした感じのお兄さんに聞いてみる。

 正直結構な恥ずかしさがあるが、なんとかそれを押し込む。

 お兄さんはどうしました、と柔和に返してくれた。

 

「お兄さんって、メジロマックイーンさんのファンだったりしませんか?」

「え? まあそうですね。 引退報道が出た時にはショックを受けましたよ」

「それじゃあ……マックイーンさんとトレーナーさんのことについては、ご存知ですか?」

 

 そう言うと、いきなりお兄さんは目の色を変えてきた。

 そして妙に落ち着き払った雰囲気で語りだす。

 

「あの二人は……すごくお似合いだね……」

「ふぇ?」

 

 突然話の感じが変わったものだから、変にびっくりしてしまった。

 

「この前、レース前の記者会見を四年分見たんだけどね。 年を追うごとにトレーナーさんとの息がピッタリと合うようになってきて、ラストランとなった京都大賞典の時なんかは、もう夫婦と見間違えるような空気が漂ってて……」

「はあ……」

 

 怒涛の語り口に呆然としてしまう。

 が、とにかく二人の仲の良さを肯定的に見てることはよく分かった。

 

「で、ではマックイーンさんはもう引退されますが、これからについてはどう思ってますか?」

「これから? 自分は彼女の関係者でないから、あまり過ぎたことは言えないんだけどさ……もし担当のトレーナーさんと結婚したりする場合は、絶対に祝福するし、個人的にはそうなってほしいなとは思ってるよ」

 

 二人の結婚を祝福する──

 ウマ娘はある種アイドルの側面も含まれているので、結婚話に嫌悪感を抱く人も少なからずいると聞くが、こんな風に喜んでくれる人もしっかりといるのだなと、少し嬉しくなる。

 

 

 

 その後も色々と聞き込みしていったが、聞く人みな、マックイーンさんとトレーナーさんのラブラブ度合いを肯定的に見ていたというのだから驚きだ。

 またとんでもない熱意を持つ人も結構いて、それこそ最初に聞いたお兄さんの熱意などへでもない人たちが沢山いた。

 

「そうか、ダイヤの方もそうだったのか……」

「ゴールドシップさんはどうでした?」

 

 聞き込みを終えて中山レース場を去った我々は、寮の私の部屋にて夕飯時前の会議を行う。

 ゴールドシップさんに調査結果をまとめたスマホを見せるのに対して、ゴールドシップさんはノートパソコンで結果を見せてくれた。

 私のそれよりサンプルが多いのには驚いたが、それよりもグラフをしっかりと作って視覚的に分かりやすく整理してあるのには驚きを越して鳥肌が立った。

 

「すごいですね……こんな沢山のデータを、短時間で整理するなんて……」

「そうか? まあ結果としてはダイヤのと同じで"あの関係尊くて死んじまうわぁ"とか"早くうまぴょいしやがれ!"みてえな意見で埋め尽くされてるけどな」

「う、うまぴょい……?」

 

 うまぴょいと言えば、伝説的な曲として崇められてる"うまぴょい伝説"しか思いつかないが、一体何のことだろうか。

 こちらが思案を巡らせる間に、ゴールドシップさんは新しい情報を提示してきた。

 

「あとな、Umatterでアンケート取ってみたんだよ。 マックイーンとトレーナーについてどう思ってるかっていうな」

 

 昨日とは違ってタブレットを見せられると、やはりUmatterの投票画面が映されている。

 

「結構な数投票されてますね……」

「んで、結果はご覧の通り97%が肯定的だ。 リプライも凄いんだぞ? 気持ち悪いくらい愛を込めてるもんが大量発生してる」

 

 下にスクロールされると、他人と他人の色恋沙汰に過ぎないにも関わらず、必要以上に気にかけて文を打ってるファンの方しか見受けられなかった。

 やはり語り口は今日会ったファンの人たちと同様だ。

 

「さて、これで全てのエビデンスは整ったな」

 

 情報を表示する電子機器全てを床に置き、腕組をしたゴールドシップさんが言った。

 

「世間は望んでいる……あいつらの甘々な生活を!」

「それはまあそうなるでしょうね……」

 

 こんなに声が集まったら、そう判断せざるをえない。

 

「でも、一ウマ娘であるマックイーンさんの色恋にここまでの関心を集めているなんて、他の人じゃ聞いたことありません」

「まあインタビューとか会見とか特集なんかで、あんなにトレーナーのこと話したらな……この前バズってたインタビューあったろ?」

 

 頭の中に件の記事が浮かんでくる。

 確か、引退に際してこれまでの競技人生を振り返っていく、長編記事だったような。

 

「アタシな、そのインタビューの現場にいたんだけどよ……マックイーンがしてる話の90%くらいはトレーナーのこと話しててな。 だいぶそこの部分削られて記事出されてたけど」

「え……?」

 

 

 

『何故GⅠを四勝もできたか? それはもちろん、トレーナーさんがわたくしの体調を完璧に管理し、体の調子をレースにピッタリと合わせれるようにしてくれて、何よりもレース前に彼と甘いひと時を──』

『わたくしがトレーナーさんの為、競技人生を全て尽くそうと考えたのは……そうですわね、まずは五年近くも前に初めてお会いした時の話をしなくてはならないかと──』

『トレーナーさんの能力を否定する勢力……? そんな不逞の輩は一体どこのどいつですの!? そいつらをとっ捕まえて、みっちりとトレーナーさんの素晴らしさを──』

『え、最近トレーナーさんと仲良くしてる同僚の女性トレーナー? はぁ……そのくらい知ってますわ。 情報交換することが、シリウスをもっと強くさせる為になることだと、わたくしも重々に承知して──って、どうしましたの? ……顔がおぞましい?』

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ちましょう!?」

 

 濃密にもほどがある。

 明らかにデレデレなのを隠しておらず、五年分のエピソードを余すことなく放出し、敵対分子は先に撲滅しながら独占欲と嫉妬心を隠そうとしても全然しきれていない──

 体の一部で起きていた鳥肌が全身へと伝播しているのが感覚で分かる。

 

「んだよ……さっき話した内容は惚気話の三分の一も満たしてないぞ?」

「まだあるんですか!?」

 

 そんなに話して、本人は何も意識してないのだろうか。

 だんだんと頭が混乱してきたが、ゴールドシップさんはそれら全てを聞いてきたわけなので、私よりも困惑していたはずだ。

 

「そういえば今日の夜に特集番組あるだろ? あれにも同行できたんだけどな」

「あなたはあなたで何者なんですか……」

 

 よくよく考えればこの人もたいがい凄すぎる。

 まあ生態が謎に包まれてるから、何でもありではあるけども。

 

「さすがにカットされてるだろうがな──」

 

 

 

『これはデートではありませんわ! スイーツ激戦区・表参道の現況を確認する、立派なデ……下見活動です! え、なぜ腕を絡めてるのかって? そ、それは歩幅が合わないかと思い、彼を置いてけぼりにいしないようにという、わたくしなりの配慮ですわ!』

『きゃっ!? ……さすがに、日曜日のレース場は混んでますわね……え、トレーナーさん……? あら、それならこうやって──繋いだほうが、離れづらくなりませんこと? ん、恋人繋ぎ? そ、そんな意図があるわけないですわ! これは……とても効率がいい繋ぎ方だからしてるのであって、決してトレーナーさんとそういう関係になりたいとか、そういうのは──』

『このおしるこは、昔おばあ様がよく作ってくれたもので……今年の宝塚記念の前、トレーナーさんと一緒に作った時に初めて作り方を学びましたの。 その時に彼が美味しいと言ってくださったので、それから定期的に、彼専用の味付けで、彼が満足する量を作ってまして。 それでこの前は……その、初めて弁当を作ったところ、愛がこもっててとても美味しいねと言われまして……! あまりに嬉しくて、ここ一週間は毎日作って──』

 

 

 

「それはカットされても仕方ないですね……」

 

 よくこれをテレビカメラの前でやったものだ。

 というか、トレーナーさんもトレーナーさんで何考えてるのでしょうか。

 

「まあそんなのが三年くらい続いたら、ツインターボでも気になるだろ」

「納得しました……」

 

 私はマックイーンさんに憧れを持つと同時にトレーナーさんにも憧れを抱いたが、まさかそういった草の根活動が原因だったのでは──?

 そういう考えはすると止まらなくなるので、一旦打ち止めにする。

 

「それでゴールドシップさん、このデータを得てどうするつもりなんですか?」

「そういやまだ言ってなかったな……アタシの崇高な計画ではな──」

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 

 ────

「ライスさん……今日はあまり負担をかけないようにと、トレーナーさんに言われていたでしょう?」

 

 なんやかんやあったジャパンカップから一週間後。

 世間ではGⅠチャンピオンズカップで盛り上がっているが、ダートを主戦場としてる子が一人もいない我がチームにはあまり関係のない話なので、毎年この日は観戦に徹してるのがお決まりとなっている。

 そんな日の午前中となると各々が自由に時間を過ごすことになるわけで。

 "黒い刺客"と呼ばれた少女を例に取ると、彼女はオーバーワーク気味に練習を積んでいて──

 

「ふぅ、ふぅ……分かってるけど、ジャパンカップの結果が悔しくて……」

 

 先週行われたジャパンカップ。

 シリウスを代表して出走したライスシャワーさんの着順は、まさかの14着。

 第四コーナーまでは良い感じに持って行けたものの、直線途中で力尽き失速。

 調整に失敗したわけでもなく、レース展開に嵌められたわけでもない。

 元々2400mでも短いとは言われていたが、それでもこれほどの大敗は不可解だ。

 それ故に、このように生まれた焦りから彼女は今、過剰に練習してしまってしまっている。

 だが過度なトレーニングというのが逆効果にしかならない、というのは私が一番よく理解している。

 なんとかライスシャワーさんを諭さなければ、という信念を持ちながら、トラックのゴール板前で息を整えてる彼女に話しかけているのだ。

 

「確かに、ジャパンカップの結果は残念でしたが……だからといって必要以上の練習をしては、故障の危険性が高まるだけで何もいいことはありませんわよ」

「それは、そうかもしれないけど……」

 

 やはりライスさん自身、分かってはいてもなかなか納得はしないようだ。

 春の天皇賞を制してからというもの、怪我で離脱したブルボンさんに代わって、世代を代表するウマ娘として、シリウスのエース候補として良績を求められる立場になり、以前のような"走ることを楽しむ"というような表情はあまり見せなくなってきた。

 わたくしが引退を発表してからその傾向は顕著になり、このジャパンカップはまさしく"新エース"という肩書を証明する為のレースとなったわけで、レース前の気合の入りようは菊花賞のような"勝つ時"と全く一緒であった。

 それでも好走できなかった──だからこそ不可解な大敗と言われてるのだが。

 以前と少しだけ、気の持ちようが違うからだろうか。

 

「ライスさん、今は有マ記念に向けて息を入れる期間ですわ。 レースも同じでしょう? ずっと全力で走って途中で息を入れなければ、絶対に直線早々で沈んでしまう。 それと全く同じです」

 

 なんとか説得できたようで、ライスさんは外ラチに向かって歩き出してくれた。

 

「……うん、分かった」

 

 私も当然それに追従する。

 

 

 

 

 

「──それにしてもマックイーンさん、日に日にサブトレーナーらしくなってきたね」

「え、そうですの?」

 

 レースの世界から身を引いたあの日以降、レースという大きな目標を失った私の為にとトレーナーさんが用意してくれたのが、サブトレーナーという役職、そしてそれに付随するお仕事。

 かつてのトレーナーさんがやっていたように、ウマ娘のトレーニングの手助けをするのが主な仕事内容となっている。

 とはいえ私はトレーナーとしての勉強をしてきたわけではないので、やってることと言えばトレーニングでの走りのタイムを測ったり、柔軟運動のパートナーになったり、レースデータを収集したり──と、普通のウマ娘なら簡単にできることだけをやっているわけではあるが。

 ただこれだけでもトレーナーさん的にはだいぶ助かってるらしく、睡眠時間を増やすことができて良かったとかなんとか言っていた。

 ──これで睡眠時間を増やせたのなら、昔からいくらでもやってあげたのに。

 

「うん。 トレーナーさんも凄い助かってるって頻繁に言ってるし……いっそのこと、トレーナーとしての勉強を始めてみたらどうかな? いつか本当の意味でのサブトレーナーになる為にも……」

「トレーナーの勉強ですか……」

 

 確かにこの日常が始まってから、"トレーナー"という職業に対する興味は増し続けていた。

 ただ自分がトレーナーとして一人のウマ娘を育て上げるというのは全く想像できないので、ライスさんが言うような補佐の役割を担うことにはなりそうだが。

 

「ライスね、トレーナーさんの右腕として頑張るマックイーンさん、っていうの凄く良いなって思って……トレーナーさんも喜ぶだろうし、良いんじゃないかなって」

「わたくしが右腕に……はっ! それはまるで、その……"奥様"みたいでは……」

 

 そういえばこのトレセン学園には、担当トレーナーとの結婚を機に所属チームのサポートメンバーに回り、"チームのお母さん"と呼ばれるまでになった元選手がいるらしい。

 まさか自分がそういう立ち位置を狙っているのだというのか。

 それを考えると途端に顔が熱くなってしまう。

 

「え……? そうじゃないの?」

「ら、ライスさん!?」

 

 平然とした顔で言う彼女には遠慮というものがないのか。

 確かにそういう関係を夢想することもあるが、さすがに現実との区別は付けるべきだ。

 

「マックイーンさん、もういい加減にそうやって躱し続けても、ライスを騙すことはできないよ!」

「ですから、本当にそんなことは考えてなくて──」

 

 私が言い切る前に、ライスさんに口を人差し指で押さえられた。

 完全に心を見抜かれてるような気がしてならず、そこから先はどうも言えずじまいになる。

 

「顔真っ赤で、耳がピンと立ってて、尻尾ブンブンに振り回してる人が言っても説得力ないよ……」

 

 一旦冷静になって自分の状況を確認する。

 ──指摘された通り、明らかに冷静さを失っていたようで、否定の為の身振り手振りも相応に大きくなっていた。

 

「……ここだとみんなに聞かれるかもだし、人気のいないところいこう?」

「……わかりましたわ」

 

 

 

「それで……マックイーンさんってやっぱり、トレーナーさんのこと好きなのかな?」

 

 学園の中庭で一番人がいないだろうスペースにあるベンチに座った私たち。

 彼女がこれまであまり見せたことのない、恋に興味を持つ思春期学生のような顔を見せながらも、鋭く核心を問われる。

 いきなり直球すぎないかと言いたいが、多分また怒られると思うのでやめておこう。

 しかしちゃんと口にすると、聞いてるのが一人とはいえ恥ずかしく感じてくる。

 

「──きですわ……」

「聞こえません!」

「あぁもう、好きですわ! 大好きです! もう一生離したくないくらい!」

 

 まずい、少し叫びすぎたか。

 と思って隣のライスさんを見たが、特に気にせず興味津々だったので気にしないこととした。

 

「……本当はもっと言えるんじゃないですか?」

 

 な、なんと恐ろしい子なのでしょう──

 初めて親の顔を見たいと思いましたわ。

 

「……いつかは結婚して、子供を作り、幸せな家庭を築いて……彼が世界一、いや宇宙一のトレーナーと言われるように支え、退職された後は孫と楽しく戯れながら、二人で静かな時を過ごしたい……このくらいで十分です?」

「うん……さすがに老後のこと考えてるのは想像できなかったけど……」

 

 さすがに愛を叫びすぎたが、どこまで要求されるかわからなかった以上しようがない。

 しかし目の前の少女は少し顔を赤らめてるので、やりすぎだった面もあるか。

 ただ昔のように気弱ではなくなったライスさんは、依然変わらずに疑問をぶつけてくる。

 

「じゃあ、なんでマックイーンさんはトレーナーさんにそういうこと伝えないの? ……好きってことを」

「っ、それは……」

 

 それだけは──どうしても伝えられない。

 何かルールがあったり、明確な理由があるわけでもないが、何故かそれを伝えることだけはできない。

 心の問題だろうが、どこを、どう打ち直せばいいかが分からないから、どうすることもできない。

 

「でも、こうやって他の人に伝えることはできる」

 

 ライスさんの言うとおりだ。

 恐らくこれは、ゴールドシップさんやダイヤ、オグリキャップさんにも言えることだ。

 ただ一人だけ──トレーナーさんにだけは、好きの二文字を、一秒で言えることを、伝えられない。

 

「うーん……こういうのでよくあるのが、一気に関係が変わるのが怖いってあるけど……」

「それは、恋人になるということです? それはむしろ公然と触れ合えるので、大歓迎なのですが……」

 

 自分の胸に問い質しても返ってくるのはそれだけ。

 少なくとも恋人になりたいとは思ってるのだろう。

 

「じゃああとは、もし振られたらってことを考えてしまって──って、二人に限ってそれはないよね」

 

 確かに、あんなスキンシップを許容していて私を振るなんてことはないはず。

 

 

 

 ──いや、本当にそうなのか?

 怪我を告げられたあの日、海外に行くと言われたジャパンカップの日──

 私たち二人は一心同体を誓ったという割に、互いを考えすぎるあまりに危険なすれ違いを起こしてるような気がする。

 どちらのすれ違いも、何の前兆もなく起きた事象だ。

 今は大事なく過ごせているが、それは前だって同じ。

 今告白して、もしまたすれ違いが起きてしまったら──?

 それで今度こそ、離れ離れになってしまうかもしれない。

 考えれば考えるほど、体に悪寒が襲う。

 この僅かにありうる、キズナが崩れる可能性──それに私は、恐れているのではないか。

 納得すると同時に、これが勇気を持って告白してみないと答えが分からないものであることに忸怩たる思いを抱いてしまう。

 結局は自分がどれだけ頑張れるかだ。

 

 

 

「マックイーンさん……?」

「──え?」

 

 どうやら考えすぎたようだ。

 ライスシャワーさんがこちらの顔を心配そうに覗き込んでいる。

 

「マックイーンさん、ずっと黙ってて考え込んでたから……でも、何か分かったりしたのかな?」

「え、えぇ……一応、少し答えが分かったような気がしますわ」

 

 私のその言葉を聞くと、ライスさんの顔が安堵の表情に変わった。

 

「良かった……ライス、マックイーンさんの手助けできたかな?」

「ライスさん……当然、助けになりましたわよ。 ありがとうございます、ライスシャワーさん」

 

 ベンチを立ち、目の前で座っている少女に一礼する。

 当のライスさんは恥ずかしそうにしながら、同じように席を立ってそうでもないよと謙遜した。

 

「ライスの方もね、こうやって落ち着いて話せて、すごくリラックスできたの。 だからお礼を言いたいのはこっちも一緒だよ」

「そうですの? ただ話しただけですのに……」

「うん。 だって今ライス、心が軽く感じるんだ。 マックイーンさんと話せたことで、なんか……モヤモヤが晴れたような気がするの。 気分転換になった、って感じかな」

 

 ライスさんは胸に手を当て、優しい天使のような顔をする。

 ここ最近はあまり見ることのない柔和な表情ゆえに、こちらも安心だ。

 

「それなら良かったですわ。 最近、ライスさんもずっと張りつめてましたから……そうだ、今度一緒にパフェを食べにいきませんこと? しばらく食事制限はないとトレーナーさんも言ってましたし、その……わたくしも食べにいきたい店がありますし……」

「ふふっ、嬉しいお誘いだけど……有マまで三週間切ってるし、トレーナーさんが良くても私はやめておこうかな。 それに、トレーナーさんと行った方がマックイーンさんとしては一番楽しいいと感じない?」

 

 完全に心を見抜かれ、紅潮してしまう。

 ライスさんと食べるスイーツ、というのも非常に楽しいものだろうが、さすがにトレーナーさんに比べてしまうと負けてしまう。

 でもライスさんと行く、というのにも別の楽しみがあるので──

 

「それなら洋食店などどうです? 美味しいオムライスのお店を知ってるのですけれど、トレーナーさんよりはライスさんと一緒に行きたいな、と……」

「……分かった。 じゃあ今度の土曜日、練習が終わったら行こうね!」

 

 私の気持ちを理解してもらえたのか、お出掛けの約束を取り付けることができた。

 ありがたいと思いながら、中庭にある時計を見ると──

 

「あっ! そろそろチャンピオンズカップが始まっちゃうよ! 早く場所取りに行こう!」

「わっ、ちょっと早いですわよライスさん!」

 

 あっという間に加速して離れてしまう黒髪の少女。

 声を掛けたらすぐに止まってくれたが、やはり気持ちが軽くなって走りやすくなったのだろうな、と思わざるをえない。

 それの一助になれたのなら、この自分の気持ちと向き合った時間にも、貴方なりの意味があったと、胸を張って言えるから。

 

 

 




 なんとか話をコンパクトに収めれるようにとは思ってますが……なかなかに長くなってしまいますね。
 あと何話とはいいません。 だって絶対に予定より多くなるもん!(一応あと二話)
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