恋するメジロマックイーンは怪我にも抗いたい   作:ジャスSS

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愛しい貴方を、逃さない(中)

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 11月28日、東京レース場。

 好天に恵まれた今日は、まさに絶好のジャパンカップ日和といえるだろう。

 そんなジャパンカップには、我がチームシリウスから、今年の天皇賞春を勝ったライスシャワーが出走する。

 前走のオールカマーではツインターボの逃げ切りを許したが、GⅠで必ずやリベンジを、と気合を入れ直してトレーニングを積んできた。

 そんなライスシャワーが所属するチームシリウスに属するものは、当然その成果を見に来るわけで。

 

「去年は出れませんでしたからね……やはり、いつもの府中よりは国際色に溢れて、活気がありますわ」

 

 東京レース場内部のファストフードコートエリアで、あちらこちらに立つのぼりをメジロマックイーンはうっとりと見ていた。

 ジャパンカップはURA唯一の国際招待競走で、海外からの参戦が非常に多いレースである。

 それ故に来場者も外国の方が多く、食事処となる場所では異国情緒溢れるラインナップとなっていた。

 特にスイーツに目がないマックイーンにとってみれば、ここは見知らぬスイーツに出会える絶好のチャンス、というわけである。

 

「ウエストホールも結構外人さんが多かったですもんね! 皆さん、体が大きくてびっくりしました……」

 

 今レース場を閑歩している俺たちはシリウス所属の人がほとんどだが、一人だけ、サトノダイヤモンドのみそうではない。

 では何故彼女がいるのか──理由は単純、正式に加入していないだけで、実質的にはチームの一員だから。

 なのでシリウスでの行動をする際は、必ずと言っていいほどこの子もついてくる。

 でもチームに入れさせはしない、というこの状況を、周りからは焦らしプレイと揶揄されることもあるが、全くもってそんな意味はない。

 しかしそうなっている真意を伝えるにはまだ早いので、仕方なくこの状況を受け入れてるのである。

 

「アメリカのウマ娘は体が大きい子が多いんだ。 芝重視の日本と違って、力のいるダートが主流のアメリカらしいよな」

「でも、欧州のウマ娘はあまり日本のとは変わらないですわよね。 芝しかないからでしょうか」

「そうだね、体の大きさはあまり変わらないかも。 でも日本と違って坂が多かったり、力がいるバ場を走ったりしてるから、走り方という面では結構違ってくるんだよ」

 

 そこそこ丁寧な解説をすると、メンバー全員が興味津々という感じでこちらを見るようになっていた。

 こうやって自身のことについて、知識を沢山得ようとするその意欲には、トレーナーとしては感服せざるを得ない。

 彼女たちは頑張って走ることを担当し、頭を使う部分は担当のトレーナーがやればいい──と思っていたが、こういう風にされるとその考えを改めなくてはいけない。

 

「……あら、トレーナーさん? どうされたのです、考え込んで」

「いや、みんな凄いなって……ウマ娘の走り方とか、正直違いがわかりづらいから気にする人あんまいないんだよ。 だからこうやって興味ありげなみんなに、感心してるんだ」

 

 少しいじらしい答え方をすると、マックイーンはニヤニヤしながらこちらを覗き込む姿勢をとる。

 

「あら? 頑固なトレーナーさんもそういうところがあるのですね……わたくし、新しい一面を知ってしまいましたわ!」

 

 ぴょんぴょんと尻尾を振り回しながら、楽しそうな笑顔を見せる彼女の姿は、それはもうたいそう美麗なものではあるが、言っていること自体は相当に憎たらしい。

 その憎たらしさも、可愛さへと変換されるのだが。

 しかし自分もいじられっぱなしでは満足しない。

 

「はぁ……せっかくマックイーンのこと見直してあげようと思ったのに、そんなこと言うんじゃな……」

 

 ちょっと意地悪なことを言うと、彼女は余裕綽綽の笑顔から、焦りと紅潮を含んだ顔へと変貌させた。

 

「そ、それは反則ですわ! そういうのに弱いことを知っておいて、どうしてそんな……酷いです!」

 

 悔しさからか、涙目になりながらそう訴えるマックイーン。

 さすがに公衆の面前で泣かれるのはマズイ──そう思って、急いで彼女のことを慰めに入る。

 

「ごめん、そんな風になるとは思わなかったよ。 許してくれるか?」

「……頭を撫でてくださったら、許します」

 

 くっ、この上目遣いは反則だ。

 涙で少し潤む瞳や膨らんだ頬、犬のように垂れ下がった耳も併せて、殺傷能力はとんでもないほど高くなっている。

 流石に勝てるわけもないので、仕方なく頭を優しく撫でることとした。

 するとさっきまでしおらしかったお顔が、いきなり笑顔の花を咲かせていた。

 

「……なあ、もういいだろ? 恥ずかしいんだが……」

「……ふふっ、まだまだ許しませんわ」

 

 まさか、これが狙いだったのか──

 内心唖然としながらも、御許しを貰ってない以上、どれだけ恥ずかしさが積もっても頭を撫で続けなくてはならない。

 だが当のマックイーンは顔を赤くし、耳もピンと立てて嬉しそうなので、結果的にはよかったかもしれない。

 

 

 

 頭を撫で終え、改めて仲直りをしてふと後ろを見ると、ゴールドシップ達が興奮しながら喋ってるのが見えた。

 俺たちの視線に気づいたのか、彼女たちがすっと歩み寄ってくる。

 

「おいおいトレーナー……アタシらもドキがムネムネしちゃったぞ!」

「マックイーンさん! 凄くその……キュンキュンしちゃいました!」

 

 彼女たちなりの、思い思いの思春期らしい感情を吐露していると、自然と自分の顔もまた赤くなる。

 マックイーンも同様だったようで、すっかりさっきと同じ様相を曝け出していた。

 

 

 

 

 

 ──また、彼女と甘美なエピソードを重ねてしまった。

 今日まさに離別の決心をしなくてはいけないのに、更に切ない気持ちを増していってしまう。

 だけど彼女といると、つい本能が主張を強めてしまうのだ。

 しかし、我慢するのが俺だけならば、何も問題はない。

 でもこの場合、彼女はもっともっと辛くなってしまう。

 やめなくては──自制しなくては──

 儚い使命は、すぐに散っていってしまう。

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 

 ────

「東京第8R、ベゴニア賞──」

 

 関係者専用のスタンド席。

 一般の方を下に見れるこの席にて、今日のメインレースを見る予定である。

 そのメインレース、ジャパンカップは第12Rに行われる為、まだ発走には二時間も空いている。

 俺はさっと、スマホの通知を確認する。

 

『──トレーナー様、ロビーの端の方でお待ちしております』

 

 ──来た。

 噂の外国から来たウマ娘、そのマネージャーと思しき方からのメッセージ。

 すぐに向かうべく、マックイーンにしばし不在にすることを告げよう。

 

「マックイーン、ちょっと今からここ離れるから、何かあったら電話してきてね。 あと、絶対に付いてはこないように」

 

 後ろから突然言われたからか、マックイーンはビクッと耳を動かして応対する。

 

「え? あぁ、分かりましたわ。 お気をつけて」

 

 そうそう見ない、子を見送る母のような顔で話してくる。

 そんな遠くに行くわけではないのに、大げさなことだ。

 

「あぁ、行ってくる」

 

 彼女を裏切るような、罪の気持ちを備えて離れていく。

 

 

 

 今日のジャパンカップに出走するウマ娘の関係者しか入れない、限られた空間のロビー。

 何脚かの椅子で囲まれたテーブルの組が無尽蔵に配置されており、それぞれの人たちが交流する場として機能している。

 しかし普段からここを使う人はあまりいないので、全てのテーブルが占拠される、なんていう状態には全くと言っていいほどならない。

 現に、そんなロビーを進んでいく中ではあまり人影を見ることなく、進んでいけた。

 そして奥の方に到達すると、俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

 声のする方を進んでいくと、今日のメインターゲットの姿を拝むことができた。

 

「……あなたが、紹介にあったウマ娘ですね。 "インビジブル"さん、初めまして」

 

 挨拶を受けるやいなや、そのウマ娘──インビジブルは、小さな体をずんと前に出し、挨拶を返してくれた。

 

「アナタがこの国のトップトレーナーね? ワタシの名前はインビジブル! みんなから"GOD"と呼ばれるウマ娘よ!」

 

 ブロンドのセミロングヘアが美しく靡き、自信満々ですと言わんばかりの表情を修飾している。

 首元にはスカーフを巻き、頭にはミスターシービーを思い起こさせる小さめのハットを被るなど、小洒落た感じも伝わってくる。

 しかし何よりも圧倒されるのは服の配色。

 かなり目立つ青一色のコートを羽織りながら、その下には明るい緑を基調としたワンピースが見える。

 とにかく派手で目立つし、こんなのがそこら中を歩いてたら、誰だって好奇の目で彼女を見るだろう。

 しかしそれでもなおこのコーディネートができるのは、自身を神と呼ぶその絶対的余裕からだろうか。

 体が小さいにも関わらず、そのオーラは今まで見た中でも最大級。

 その姿に圧倒されていると、後ろに待機していた秘書のような女性が礼をしてくれた。

 

「一応、面と向かって会うのは初めてですね。 私は、彼女のマネージャーを務める"リバーズコア"です。 ウマ耳が付いているのでお察しかと思いますが、現役の選手としてレースに出走することもあります」

 

 ダークブルーのスーツを身をまとい、一切自分を飾ることないその佇まいには、隣の少女とは真逆という言葉がふさわしい。

 髪色は同じくブロンドであるが、何故かインビジブルのそれとは存在感に差がありすぎる。

 しかし彼女の付き人ということを考えると、主人を引き立たせるという意味では大正解なのかもしれない。

 

「リバーズコアさんも、初めまして。 俺の名前は──」

 

 一見すると形式的に感じる挨拶を交わして、ここまでに至って思ったことをまず話していく。

 

「いきなりこんなことを言うのは変かもしれませんが……日本語、結構お上手ですね」

 

 挨拶の段階から気にかかっていたが、外国の人にしては日本語がペラペラすぎる。

 インビジブルは初来日と聞いていたのだが、学園にいるエルコンドルパサーやタイキシャトルなどと比しても遜色ないほど上手いし、リバーズコアに関してはもはや日本人と同等レベルだ。

 

「インビジブルは昔から日本に興味がありまして、幼少期より来日を切望しておりました。 故に日本語の勉強を独学でかなりこなしてまして、今では日常生活に苦労しないレベルまで上達しております」

 

 その説明が終わると、インビジブルは胸を張って自慢げな態度をとった。

 

「私の場合は、以前日本のトレセン学園に交換留学した経験がありまして、その時のトレーナーさんに日本語を徹底的に叩き込まれたので、ネイティブに近いくらいには話せるかと」

 

 なるほど、元々日本との繋がりが深かったのか──ん、交換留学? 

 一応その制度は今もあるにはあるが、それを利用して日本にやってきた留学生なんていうのは今まで覚えてる限りでは一例しかないはず。

 ──まさか。

 

「失礼ですが、リバーズコアさんが留学生としてやってきたのは四年前ですか?」

「あら、よくご存じで。 四年前、世にも珍しいイギリスからの留学生としてここにやってきたウマ娘、というのはこの私です」

 

 頭の端で引っ掛かってたモヤモヤが一気に解放される。

 どこか見たことのある顔立ち、プロフィール──

 

「俺がペーペーの新米だった時、先生が率いてたシリウスにいましたよね?」

 

 天を衝くかのような解答を捻りだすと、リバーズコアはやれやれという態度をとった。

 

「ようやく思い出しましたか……えぇ、あなたがメジロマックイーンさんにかかりっきりになってた時期に、ひっそりと加入して帰国していた、リバーズコアですよ」

「あ、あはは……ちょうどマックイーンが大変な時期だったもので、あまり周りの状況を見れなかったんですよ……」

 

 実のところ、当時の彼女についての記憶は全くと言っていいほどない。

 俺がマックイーンだけに集中していたということもあるが、そもそも彼女は先生についていってばかりいたので、同じチームと言っても関わりが何も生まれなかったのだ。

 とはいえ一時期のチームメイトを完全にど忘れするのは、さすがに頂けないが。

 しかしこれで、謎が一つ解けた。

 何故、マックイーンらを育てたとはいえまだ二十代の俺が、こんなスカウトを貰ったのか。

 

「私があなたを推薦した理由の一つとして、実際の仕事ぶりをこの目で見たことがあるから、というのがあります。 観察できた時間はごくわずかでしたが、あなたの担当ウマ娘に対する真摯さが並外れたものであることは、誰の目から見ても明らかでしたので」

 

 まるで、昔マックイーンに言われたことを思い出すようなお褒めの言葉。

 あまり他人の評価を聞かない性分ではあるが、やっぱり外からでもそう思われていたのか。

 

「もちろん、メジロマックイーンさんやライスシャワーさんをステークスウィナ──ー日本的に言うとGⅠウマ娘にした実績や、伝統に囚われないフレッシュさも、あなたが選ばれた理由です」

「だから! ワタシのトレーナーになってほしいのデス!」

 

 そこまで消えていくような存在感だったインビジブルが、怒りと共に、突如としてカットインしてくる。

 派手な格好をしているせいか、ギラギラとしたオーラが一気に増してそれまでの空気を全て覆っていく。

 

「まったく二人は。 昔の話に夢中になりすぎて、大事なこのワタシのことを忘れてませんカ!?」

 

 明らかな不機嫌顔をする光景は、神と呼ばれるにはやや幼すぎる様相を示していた。

 多分感情が前面に出やすいタイプなのだろう。

 

「すまない、インビジブル。 だが安心しろ、ここからはお前のターンだ」

 

 初めて聞くリバーズコアのタメ口を聞いて、今度はインビジブルが次々と語りだしていく。

 

「知ってると思うケド、ワタシは今年、ダービー、キングジョージ、Arc──ここで言う凱旋門賞の、トリプルクラウンを制覇したわ! でも今は大ケガをしてしまって、またレースにリターンする時に、ヘビーなこ……後遺症が問題になるの! だから!」

 

 英語交じりでの自己紹介をし終わった途端、こちらの手を勢いよく握手してきた。

 

「ワタシのトレーナーに、なりなさい!」

 

 随分と勢いよく、握る手を強烈に強めて言われた。

 正直握られた右手の痛みが相当に凄いが、ハナからこのスカウトを受ける予定であることは決めていたので、そんなことは些細なものだ。

 

「……インビジブル」

「What's up?」

 

 ネイティブな英語と共に、顔を傾げてはてなマークを浮かべるインビジブル。

 それに俺は、返答の意味を持って右手で握り返す。

 

「これから、よろしく頼むな」

 

 この言葉を告げた途端、インビジブルの目はぱあっと輝きを持ち、こちらに抱き着こうとしてくる。

 ──が、自分の胸を貸したくないという反骨心が芽生えたので、そのハグをするりと抜け去った。

 

「ちょ、ちょっと! なんでよ!」

「……彼女のことは置いておいてください」

 

 ぶーぶーと文句を垂れ続けるインビジブルをよそ目に、マネージャーに言われ、俺たちは契約の詳細を確認する。

 リバーズコアはビジネス的な契約書類を取り出し、自分に見せてくる。

 

「契約開始は来年の二月から。 それまでに、シリウスのメンバーの子たちの整理をしておいてください。 報酬については──」

 

 

 

 

 

 一つ一つの条項について、しっかりと確認していく。

 日本の法律が適用されない世界との契約な為、普段よりも文章をしっかりと見ていかなくてはいけない。

 もしトラブルに巻き込まれたら大変──ん、何か監視されてるような気配を感じる。

 いや、気のせいか──? 

 

「……大丈夫ですか?」

「え? あぁいや、大丈夫です」

 

 いかんいかん、ボーっとしていたようだ。

 集中しなくては──

 

 

 

 

 

 ────

 見てしまった見てしまった見てしまった──

 トレーナーさんが付いてくるなって言うせいで、逆に付いていきたいと思ってしまって、気が付いたらここまで来てしまった。

 そしたらトレーナーさんがあの時の留学生さんと、全然分からない変な小娘と会話してて。

 聞いちゃいけないと思いながらも、気になって仕方なさすぎてつい盗み聞きしてしまった。

 最初は昔話をしてたりしてて、あぁやっぱり引き返そうかなと思っていたら、突然あの小娘が私のトレーナーになれなんていう無礼なことを言うものだから、耳が離せなくなってしまって。

 その後も色々聞いていったら、なんとトレーナーさんが海外に行ってしまうというとんでもない話を聞いてしまった。

 正直、この時点で涙が出てきてしまうほどのショックを受けていたのだが、どうしてか秘密の会談をそのまま聞き続けることにした。

 心中穏やかでない状態で耳に入り続ける、トレーナーさんの契約話。

 嘘であってください──頭の中でずっとそう唱えていても、この現実が夢になることはなかった。

 ショックに打ちひしがれていた私は、彼に見つかるまいと、あちらが解散する前にその場を離れ、そして今に至るわけである。

 

「……トレーナーさんの、嘘つき」

 

 誰にも聞こえないように、ぼそっと呟く。

 一か月前、あの雨の中で語ってくれた思いは、偽りのものだったのでしょうか。

 濡れていても感じ取れた、抱き着いた時の全身の温かみは人工的なものだったのでしょうか。

 わたくしとした──あのキスは、無意味なものだったのでしょうか。

 一つ一つ思い返すだけで、頭が絶望に浸食されていく。

 そして、とある悲観的な答えにたどり着いてしまう。

 

 あの方はわたくしのことを、愛してらっしゃらないのかもしれない──

 

 この考えに至ってすぐ、全身に脱力感が襲い掛かる。

 こんな思いをするのなら、付いていかなければ良かった。

 知らずにいれば、幸せなまま今日を過ごせたのに。

 結局、私は彼に愛されてるはずもなかった。

 トレーナーと、ウマ娘。

 ただその関係にすぎないことなんて、考えれば分かることだ。

 なのに私は期待するだけして、こうやって涙を流す。

 

「……もう、帰ろうかしら」

 

 ごめんなさいトレーナーさん。

 こんなバカでダメなマックイーンを、許してくださいまし。

 明日には──いや明後日には、元通りになって帰ってきますので。

 少しでも愛してもらえるような、マックちゃんに──

 

 

 

 

 

 ──待て。

 彼がいない世界で、私はどう生きていくつもりなのだ? 

 私は彼の存在なくして、今を得ることはできなかった。

 そしてこれからの幸せな未来にも、彼がいなくては何も始まらない。

 もはや自分にとって、その存在はとても大きく、欠けてはならない人になっている。

 私はそれを簡単に、手放すのか──? 

 否、私はメジロマックイーン、狙ったものは絶対に逃さない。

 彼が海を渡ろうものなら、私も海を渡ろう。

 彼が極点に行こうものなら、私も極点に行こう。

 彼が宙へ向かったのなら、私も宙へ向かおう。

 きっと家は、そんなことを許してくれない。

 それなら家を裏切ってでも、彼に付いていくつもりだ。

 そのくらいの覚悟、とっくにできているはず。

 

「……どうしてこんな時に、忘れてしまったのでしょうか」

 

 伝えよう。

 あの日、雨で流された想いを伝えよう。

 結局、またヘタレて言えなくなるかもしれない。

 それでも、一時のその意志に意味がある。

 神様、わたくしに、勇気をください──

 

「……トレーナーさん」

 

 下だ。

 下のソファ席──そこに愛しき人の気配を感じる。

 やっぱり根拠はない、でも自信はある。

 そこに向けて、下へ下へ動くエスカレーターを駆け下りていく。

 はしたない行為かもしれないが、彼の為ならば結構。

 大好きな貴方と共に在れるのなら、私はなんだってする。

 

「待っててくださいませ……!」

 

 今度こそは、その手を掴んでみせる。

 心に決めて、彼を探した。

 

 

 




「ひいおばあ様の香りがすると思ったら……私の嫌いな東京レース場じゃないここ!」
「えっと……お姉さん、マックイーンさんに用ならドーベルさんに聞いた方が良いと思います……!」
「フラワーちゃん……あまりドーベルさんって呼んでほしくはない、かな……」



 三分割しました! 申し訳ない!
 (下)はすぐ出ますのでお待ちを……!

 しかし東京競馬場、今は入れないので構造忘れがちですね……今年のダービーだけは観客有でやってほしいなと思いました。







 今回の謎ウマ娘はラッキーライラック。 オルフェーヴルの現状代表産駒で、つまりメジロマックイーンの血を受け継いでます。
 ただマックイーンらしさはあまりないですね。 東京で勝利したことがないくらいしか共通点がないです。(マックイーンは秋の天皇賞ほぼ勝ってましたが)
 メジロドーベル、ニシノフラワーはそれぞれ、阪神ジュベナイルフィリーズ(二頭の当時は阪神3歳牝馬ステークスって名前でした)の勝ち馬でありながら、その後も活躍した名牝ということで出演です。 ドーベルとはエリザベス女王杯連覇も一緒ですね。
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