コンコンっとドアをノックする音で目を覚ました。どうやら昨日本を読みながら机で寝てしまっていたようだ。返事をして急いで立ち上がりドアを開けると受付の人が立っていた。
おはようございます、良く眠れましたか?
はい、借りた本を読みながら眠っちゃいました
じゃあ予習はバッチリですね♪ここを真っ直ぐ行って左に曲がった所でキル姫が待っているのでそこに行ってくださいね
はい、ありがとうございます
そう返事をすると受付の人はどこかに行ってしまった。そうだ、お風呂も入っていないんだった。慌ててシャワーを浴びて服を着替え受付の人に教えてもらった所へと走ってゆく。
ごめんなさい!遅くなりました!
そう叫ぶも人の姿は無かった、不思議に思いながら辺りを見渡すと木造の建物が建っており和風な庭園が広がっていた。それを歩きながら眺めていた。
しばらく歩くと縁側で座禅を組んでいる人を見つけた、話を聞く為にその人の元へと歩いて行く。
すいません、マサムネってキル姫を探しているんですけ
僕の言葉は途中で止まってしまった。言葉が思い付かなかったんじゃない、その人の集中力に押されて言葉が詰まってしまったのだ。ただ座禅を組んでいるだけなのに凄まじい迫力を感じていた。
少し気まずくなり距離を置いてその人を観察してみる事に。その人の右側に刀が置いてあり長い黒髪を胸下まで伸ばし紺色の軍服?を着こなしていた。何故かお腹の周りだけは露出しおへそがチラリと見えている。
あっ
そんな女の人のおでこに蚊が一匹止まった。よく見ると美味そうに血を吸っていた。だんだんとそのお腹が膨らんでゆくのが見える。
しばらくすると満腹になったのだろう、おでこから飛び立ちどこかに飛んで行こうとした時だった。
せやっ!
掛け声と共に瞬時に立ち上がり飛んでいる蚊に一閃を繰り出した、その一閃は飛んでいる蚊を見事斬り落としていた。
…見えなかった。座禅を組んだ状態から瞬時に立ち上がり抜刀し刀を鞘に戻すまで2秒もかかっていないだろう。いきなり神がかった技を見せられ呆気に取られていると声をかけられた。
そなたがコウか、受付から話は聞いておる、主君の見習いをしている様だな
はいっ!僕コウって言います!今日一日宜しくお願いします!!
うむ!良い返事だ、拙者この時間は座禅を行なっているゆえ、早くに声をかけてやれずすまない
気にしないで下さい!あの、良かったら名前を教えて下さい
拙者の名はマサムネ、ただ一振りの刀
(か、かっけぇ…)
凛とした表情でそう告げるマサムネに見惚れ言葉は出せなかったけど頭の中ではそう叫んでいた。
威風堂々とはこの人の為にある言葉だ!と断言できる程の衝撃を受けていた。もし外人さんがこの人を見たらオォーゥ!ジャパニーズサムライガール!!と、涙を流しながら喜ぶだろう、、、興奮のあまり訳の分からない事を考えていた。
茶を淹れよう、待っておれ
あざっす!!
奥の部屋に歩いて行くマサムネの後ろ姿を尊敬の眼差しで眺めていた。だがよく見るとなんとなく足取りがおぼつかない、まさか…
あの、もしかして足が痺れたのですか?
戯けた事を吐かせ、拙者は武士であるぞ
はい!すいませんでした!
そう叱られたがあの足取りは絶対足が痺れている、そのまま見ていると爪先を地面にぶつけてしまったようだ、一瞬立ち止まったが直ぐに歩み始めた。もう見るのはやめよう、そう思い縁側に腰掛け美しい庭園を眺めながらマサムネの事を思い返していた、図鑑で読んだ限りキラーズはとある島国に伝わる幻の名刀政宗だったはず、その政宗の影響でマサムネは武士なのだろうか?
待たせた、茶が入ったぞ
ありがとうマサムネさん
マサムネに淹れて貰ったお茶を飲みながら何を話そうか考えていた、勢いがあればなんでも話せるのだが一回休んでしまうと何処となく漂うマサムネの威圧に押され怖気付いてしまっていた。モジモジしているとマサムネが口を開いた。
午前は拙者の修行に付き合って貰おう、その代わり昼からはそなたの用に付き合おうか
はい!僕にできる事ならなんでも言って下さい!
うむ、お主は奏官を目指しておるのだったな?
はい!奏官になる為故郷を出てここに来ました!
それは良い心がけだ、ならその覚悟、拙者に見せてみよ!
はぇ?
そんな訳でマサムネとの修行が始まった。いきなり刀を渡されて困惑していると「主君たる者質実剛健であらねばならぬ」と言われまずは素振りをする事に。
(お、重い…)
僕が初めて刀を持った感想だった。見た目は軽そうなのにいざ自分の手で持つとかなりの重さを感じていた。それでも隣で素振りをするマサムネを見ながら見様見真似で素振りをする事に。
その赤子の様な構え方はなんだ!拙者の形をよく見よ!
はい!
マサムネに激を飛ばされながら素振りをしているとなんとか形にはなってきたようだ。マサムネを見ると満足そうな顔をしていた。
まだ少し構えが甘い、こう持つのだ
そう言って僕の背後に立つと背中から手を伸ばし柄の握り方を教えてくれたのだが。
(めっちゃいい匂いする…それにこの背中に当たる柔らかな物は……?)
ただ僕をドキドキさせるだけでマサムネの説明なんて全く頭に入って来なかった。丁寧に教えてくれているのに今夜のオカズはこれにしようと謎の決心をしていた。
ふむ、少し顔が赤いな、少し休むとしよう
は、はいっ!
そう言って残念ながら僕の背後を離れてしまった。少しだけ背中に残る体温とお茶を取りに行ってくれたマサムネの後ろ姿を変な考えを持ってしまった申し訳なさで見ていた。
(………この刀って本物なのかな?)
庭園に残された僕は太陽の日を受けて美しく煌めく刃文を見てそんな事を思っていた。試しにそのへんに生えている草に刀を振ってみるとなんの抵抗も無く斬る事ができた。間違いない、モノホンの刀だ。
えぇぇぇ、、、僕初心者だよ?万が一怪我とかしたらどうしよう?
真剣だという事に気づき臆病風に吹かれていた。待てよ?マサムネの事だから何か意味が合ってこの刀を渡したのだろう、そうだ、そうに違いない。戻って来たら聞いてみよう。
すまぬ、待たせたな
あっありがとうございます
振り返るとお盆に湯呑みとお煎餅を乗せたマサムネが立っていた。お礼を言いながらそこに駆け寄って行くと湯呑みを渡された。それを受け取り縁側に腰掛けてのほほんとした時間を過ごしていた。
(あっ茶柱、何か良い事がありそう)
お茶の中に立つ茶柱を発見し少し笑顔になれた。良い事がありそうっていうよりこんな美人なキル姫に稽古をつけて貰いそれに今夜のオカズも手に入った、これ以上の良い事なんて他にないだろう。そう思いながら少し渋めのお茶とお煎餅を楽しんでいた。
少し休んだら次は拙者と試合をしようではないか
そう言われてお茶を吹き出しそうになってしまったのをなんとか飲み込んだ。
はい!はい、はーい!質問でーす!この刀でですか!?
そうだが。何か問題でもあったか?
これって本物ですよね?本物の刀ですよね!?
それがどうしたというのだ?
こんなので試合したら死んじゃいますよ!
そなたは命を掛けて戦場に出る覚悟を持っておるのだろう?
そう、ですけど、、、
そなたは一年に何人の奏官が犠牲となるか知っておるのか?
いや、それは…
今までに数え切れぬ奏官を見て来たがその数ほど戦場に散っていった者を見て来た。何故その者達が散ったかそなたに分かるか?
分からないです
それは己の弱さからくる焦り、不安だと拙者は思うのだ、どれ程の猛者であろうと一瞬の判断不足が命取りとなる、ならばどうすれば良いかそなたには分かるか?
分かりません
日頃から実戦さながらの鍛錬を行いその精神、肉体を高みへと押し上げるのだ、さればおのずと答えは見えてくるだろう
瞬きもせず僕の瞳を真剣な眼差しで見つめながらそう言ってくれた。この人は僕の事を心配して言ってくれてるんだ。そう思うとマサムネに対する尊敬とやる気が満ち溢れてゆく。
マサムネさん、、、
どうしたのだ?
僕っ!頑張ります!
うむ!その心意気、流石拙者の見込んだ男だ!
はいっ!!
お茶を一気に飲み干し立ち上がり庭園へと歩んでゆく。そして真剣を構えるとマサムネが僕の前で刀を構えた。ただそれだけでおしっこをちびりそうな程の威圧感を受けているがギュッと股に力を込め気合を入れる。
よろしくお願いします!
参るぞ!
………………………
…………………
……………
………
「」
初心者とは思えぬ太刀捌き、見事であった
あ、ありがとうございます…
最初の頃は優しく相手をしていてくれたのだがスイッチが入ったのか目にも止まらぬ程の剣舞を繰り出されそれを泣きそうになりながら躱し続けていたため力尽きてしまっていた。でも身体に傷一つ付いていない事を考えるとまだ手加減をしてくれているのだと思うのだけど。
街に昼食でも食べに行こうか
はひぃ
肩で息をする僕とは違いあれだけ動いたにもかかわらず息一つ乱れていなかった、やはりキル姫と人では身体構造から違うのか?それか僕が貧弱なだけかも知れないけど。
息を整えるまで待っていて貰いそれから二人で教会の近くにある街までやってきた。今日が何日か分からないけど大勢の人で賑わう商店街を二人で歩いていた。
そなたは何が食べたいのだ?
僕はなんでも良いですよ、マサムネさんに合わせます
承知した、付いてまいれ
和風なマサムネの事だからうどん屋とかお寿司とかだろう、と、そんな事を思いながら前を歩くマサムネの背後を歩いていた。それならキツネうどんが良いな、一味をかけて程よくピリ辛で頂きたい。お寿司ならサーモンとか穴子も良いな。
今から食べに行くお店の想像を膨らませていた。どう転んでも食べれない物は無いから良いのだけど。
ついたぞ、ここは拙者の行きつけの店だ
(えぇぇぇぇぇぇっ)
そう言われてその店を見ると洋風な外装のオムライス屋だった。僕が勝手に想像していただけなのだがマサムネのイメージと違う店に動揺してしまっていた、しかも行きつけだと?
参るぞ
はいっ
ドアを開けカランとなる鈴の音で意識を取り戻しその背後をついて行く。もちろん店内も洋風でマサムネがこの店内で浮いている気がしていた。
「好きな物を頼め」そう言われて差し出されたメニューを見ているのだがどこをどう見ても和風な料理など無かった。気を取り直し日替わりランチを食べる事にしてメニューをマサムネへと返す。
「拙者はこれにしよう」そう言いながらテーブルにある呼び鈴を押していた。しばらくすると店員さんが来てくれてそれにメニューを頼んでいた。
カルボナーラとオムライスのセット、スープはコンソメで頼もう
バリバリの洋食である、本当に僕の勝手なイメージなのだがざるそばとか頼んで欲しかった、麺つゆでは無く塩で蕎麦を食べながら(塩だと香りの立ち方が違う)とか言って欲しかった。
まだメニューは決まっておらぬのか?
えっ?あーっと、日替わりランチ一つ
かしこまりました。
そう言って店員さんが下がっていった、その背中を見送り前を向くと不審な顔をしたマサムネがいた。
先程から何を惚けておるのだ、何か不満があるならもうせ
いや、あはは、、、昨日受付で貰ったキル姫の図鑑を読みながら机で寝ちゃってすこーし寝不足かなーなんて思ったり思わなかったり
左様か、文学に励むのは良い事だが自身の身を案じなければ元も子もないぞ
はい、仰る通りです
本当は和のイメージと違いすぎる物を頼んだマサムネに驚いているだけなのだがそんな事を口にする勇気は無かった。しばらくすると料理が運ばれて来てテーブルへと並べられた。
頂きます!
うむ
運ばれて来た料理を食べながら最後の望みで箸で食べていて欲しい。そう思っていたのだがマサムネはフォークとスプーンを使いカルボナーラを丸め旨そうに口へ運んでいた。しかしその食べ方は凛とした佇まいで上品そのものだった。
拙者の顔に何かついておるのか?
いえ!その美しさにしばし見惚れておりました!
拙者はただ飯を食らっておるだけだ、何もしておらぬ
そうは言っているのだが少しだけ緩んだ口元を僕は見逃さなかった。それにしても苦しい言い訳だった。気をつけよう。
そんな事を思いながらランチのオムライスを一口。んっ美味しいっ。それからスープも。うん、美味しい。
マサムネさん美味しいです!
当然だ、拙者の妹に教えて貰った店であるぞ
マサムネさん妹居たんですね
あぁ、お主もいずれ会う事になろう
楽しみにしてます
マサムネの妹、どんな人なんだろう?姉と同じで凛々しいのかな?それとも可憐なのだろうか?その両方を併せ持っている可能性もあるぞ。まだ見ぬマサムネの妹のイメージを膨らませていた。
先程から何を考えておるのだ?
えっ?あっと、無の境地に達してました
ふむ、鍛錬に励むのは構わぬが今は御飯時、料理が冷めぬうちに食せ
はいっ!
そのあとオムライスとスープ、サラダを頂き店を出る事に。
ご馳走様でした
ご馳走様でした、しばし待っておれ
そう言うとマサムネがレジの方へと歩いて行った。それを慌てて追いかけて「奢ります」とカバンを漁るマサムネを制したのだが「お主はまだ修行の身、半端者に施しを受ける訳にはいかぬ」と言われてしまった。なら大人しく引き下がるしか無かった、せめてと思い心からお礼を言って店を出る事に。
お主はいつこの街に来たのだ?
まだ昨日来たばかりです、部屋は教会で借りれたのですけどまだ何にも無くて、、、
ならばこの街で日用品を揃えると良い、この街には東西南北の地方から物品が集まる故
じゃあちょっと見させて貰おうかな?あの一つ良いかな?
なんだ?申してみよ
初めての街だから案内して欲しいんです、良いかな?
構わん、付いてまいれ
はいっ!
マサムネに案内して貰いながら街を歩いていた、えっと、必要な物はっと、、、ティッシュだな。それと食材も欲しいけどそれは今度で良いだろう。
マサムネさん、ティッシュが欲しいです
それなら彼方の雑貨屋にあるだろう、付いて参れ
はいっ!
しばらく歩くと他の店より大きめな雑貨屋が見えてきた。ここなら一通りの物は揃いそうだ。
拙者は表で待っておる、好きなだけ吟味すると良い
ありがとね、行ってくるよ
マサムネに待ってて貰い店内へ、色んな商品が所狭しと並ぶのをビビりながら見ていた。
もしこの棚を倒してしまったらどうなってしまうのだろう?
そんないらない心配をしながら店内を歩いていた。故郷にある雑貨屋はもっと店内は狭いしこんなに商品も置いていないのだ。
あった、あった。
お目当てのティッシュを発見しお会計をしようと思ったのだがマサムネにお礼の品を買おうと思い再び店内を彷徨う事に。稽古もつけて貰ったしご飯も奢ってもらった、せめてものお礼だ。
マサムネの事を思い出しながら商品を見ているのだが何が似合うだろう?服?アクセサリー?思い切って下着とか?それは無いか、、、
ってかマサムネってどんな下着をつけているんだ?ふんどし?いや、この想像はもうやめよう。
下着以外のマサムネに似合いそうな物を探していると瓢箪の飾りのついたヘアゴムを見つけた。あの長い黒髪は戦闘の時に邪魔になるかもしれないし値段も手頃だ。これにしようと決めてレジへと足を進めた。
お会5000ゼニーです
はーい
ティッシュとマサムネへのプレゼントを買えてルンルンで店を出ると壁にもたれ掛かり腕を組むマサムネがいた。うん、カッコいい。
お待たせ、マサムネにお礼をあげるよ
そう言いながらさっき買ったヘアゴムを渡してあげた。一応プレゼント用にラッピングしてもらったから中身は分からないと思うけど。
これは…?
今日付き合って貰った事とご飯奢ってもらったお礼だよ、似合うか分かんないけどね
そう申すということは粧物か
そんなところだよ、マサムネは何か見たい所はあるの?
特には御座らぬ、時期に日も暮れる、そろそろ家に帰ろうではないか
うん、そうだね、付き合って貰ってありがとね
うむ、そなたに渡したい物がある、家まで同行願おう
はい
そんな訳でマサムネと二人並んで家へと帰る事に。オレンジ色に輝く夕日を浴びながらのんびりと家へと歩いて行く。一体何をくれるのだろう?少し楽しみである。
大きな門を開けてマサムネが居た家まで戻ってきた。こう言う大きな門を開ける時に城門突破ーっ!!って言いたくなる。いや、それだけなんだけど。
お主は帰って食す物はあるのか?
何にもないです
ならば拙者の手料理を食べて行くと良い
マジ?あざっす!
なんとマサムネの手料理を頂ける事となった。断言しよう。作る料理は洋風だと。こう思っておけば洋食が出てきた時のダメージも少ないだろう。台所の見えるリビングに案内され椅子に腰掛けながらそんな事を考えていた。
いつの間にかエプロンを着たマサムネが忙しそうに台所を動き回っていた。スープの味見をしたと思ったら包丁で何かを斬り斬り終わるとそれを素早くコンロで焼いていた。少しでも時間が開けば竈門に息を吹き込んでいる。流れるような動きで料理が作られてゆく。ってかお米お釜で炊くんだ、、、コンロはガスなのにお米だけがお釜なのにこだわりを感じる。
お米の炊ける良い匂いと何かが焼ける匂い、それにこれはお味噌汁かな?どこぞの島国の夕ご飯のような匂いにだんだんお腹が空いてきた。
待たせた、味は保証せぬが頂いてくれ
いただきますっ!
マサムネの後ろ姿を見ていたらいつの間にか料理がテーブルへと運ばれていた。心から頂きますと伝えまずはお米を箸でひとすくい。いざ。
んっ、おいしっ
初めてお釜で炊いたお米を食べたのだがジャーで炊くやつと全然違う。一粒一粒が存在感を放ち噛めば噛む程甘みを感じる。この美味さはトラやゾウでも再現はできないだろう。
そして次はお味噌汁だ、ゆっくりと一口、うん、出汁の味と味噌の味が凄くいい感じ、それに具のワカメと豆腐もいい味してる。
次はおかずのアジの開きだ。丁寧に火を通したのだろう、皮はパリッと、身はふっくらと焼き上がっている。そして焼きムラが一切無い。これはポイントが高いですね。
拙者の作る飯の味はどうでござるか?
全部美味しいです!どうやったらこんなに美味しく作れるんですか?
それはな、道を見つけたのだ
道ですか?
そうだ、拙者が極める武士道、そしてこの料理道、この交わらぬはずの二つの共通点は何か分かるか?
えっと、武士道と料理道ですよね?
そう言われても何も思いつかなかった。武士道とは戦う事だと思うし料理道は料理を上手く作るって事だよね?
分からないです
左様か、この二つの道の共通点は刃物を使っと言う事だ
確かに、刀と包丁、でも同じ刃物でも全く違いますよね?
拙者も昔はそう思っていた、だが、刀も包丁も己の心が弱ければ真価を発揮する事はできぬ、ただ我武者羅に振るえば良いという物では無いのだ。
ふむ
力説してくれたけどあんまり理解は出来なかった、きっとこれは僕のレベルが低いからなのだろう。もっと精進すればきっと意味が分かるのだろう。そんな事を考えながらマサムネの作ってくれた料理を食べ終えていた。
片付けは僕がするよ
ならん、片付けるまでが料理道という物、客人は大人しくしておれ
はい
そう言われて大人しく後ろ姿を見ている事に。やはり手際が良い。これが道を極めた者の姿なのだろう。きっとこの人は良い奥さんになる。そんな事を思っていた。
ほら
あざっす
マサムネからお茶を受け取るとマサムネも椅子に腰掛けた。食後の一服と言わんばかりの渋いお茶である。
開けても宜しいか?
うん、良いよ
先程マサムネにあげた物を丁寧に開けていた。喜んでくれると良いな。
これは、へあごむという物だな?
うん、戦闘や料理する時に髪が邪魔になると思ってさ
有り難く頂戴しよう
つけてみてよ
あぁ、勿論だ。
そう言ってヘアゴムで髪を纏めているのだが何となくその手つきがままならない。
自分でできます?
無論だ、うむ、できたぞ
そうは言うけど纏めきれてない髪が垂れていた。この人不器用なのかな?
うーん、良かったら僕が付けてあげるよ
かたじけない
一度ゴムを解きサラサラの髪を束ね丁寧に巻きつけてゆけば完成だ。
できたよ、普段髪を結ばないの?
うむ、拙者はお洒落という物に疎くてな
お洒落しなくても可愛いもんね
お主は口が達者であるな、何故お主は最も簡単に髪を結ぶ事ができたのだ?
妹の髪を良く結んでたからだよ、だからこれぐらい簡単だよ
そうか、拙者も精進せねばな
マサムネさんの妹さんに教えて貰ったら?
それもそうであるな、そなたにはこれをやろう
そう言って懐から短刀を取り出して僕に渡してくれた。
ありがと、これは何に使えば良いのかな?
これは守り刀と言う、お主の道中に降りかかる災いをきっと跳ね除けてくれるだろう
ありがとうございます、大事にするね
うむ、次に会う時はお主が立派な奏官になっていると信じているぞ
頑張るよ
外を見るともう月が輝いていた。そろそろ帰ろうかな
今日一日ありがとね、そろそろ帰るよ
うむ、達者でな
またね
玄関まで見送ってもらい部屋へと帰る事に。修行は大変だったけど楽しい一日だった。
立派な奏官か、、、
そんな事を考えながらシャワーを浴びて机に短刀を置き眺めていた。刃渡りは一尺程だがマサムネの持つ刀と変わらず刃文は美しく見ているだけでゾクゾクする様な煌めきを放っていた。
それを眺めていると刀身に反射して僕の顔が写っていた。少し間抜けそうな顔で刀を眺める顔に気が付きそっと鞘に納めため息を一つ。気持ちを切り替えて図鑑を読むとしよう。
この図鑑通りにキル姫と会って行くなら次はレーヴァテインってキル姫だ。一体どんなキル姫なのだろう?この図鑑に写真が載っていないのが残念だ。
はぁっとため息をつきベッドにゴロリと寝転がりあの感触を思い出しながら枕元にあるティシュを引き寄せた。おやすみ。
姉上、借りていた竹刀を返しに参りました!
うむ、ご苦労であった
ってお姉ちゃ、、、姉上!その髪飾りはどうしたのですか!?
奏官の見習いの男に貰ったのだ、に、似合っておるか?
はいっ!とても似合っております!
そうか、なら良かった
それで、その男はどうだったのですか?
うむ、少し頼りないがこの世界に揉まれれば少しは引き締まるだろう、ムラマサもいずれ会う事になるだろう
はいっ!楽しみにしております!
縁側に腰掛け夜空に浮かぶ月を見ながらささやかな姉妹の時間を楽しんでいた。