一年以上ぶりにSS書いたんだぜ
※注意事項
・マリア・ニアールイベントストーリーの現状解放分までしか把握してないのでキャラ解像度に不安有
・若干シモいというかお下品な発言有
・キャラ崩れ
・総じて→いつもの
「ふぅ……」
ロドス・アイランド所属。名をゾフィア。
カジミエーシュという国にて騎士の階級を持つ才媛だが、現在はロドスにて「ウィスラッシュ」のコードネームを名乗り、同じくロドスに所属するオペレーターたちの教導を担当している。
自身の姪であり、祖国において【耀騎士】の肩書きで呼ばれるマーガレット・ニアール。彼女に遅れる形で、マーガレットの妹であり、また自身の弟子とも呼べるマリア・ニアールと共にロドスに籍を置くようになってからはや幾日。
オペレーターたちへの教練の合間、俗に言う花摘を終えて、彼女は目に見えて成長してきたオペレーターたちへの考えを巡らせていた。
(みんな素質は悪くない、むしろ良い。現場を知る機会も多いようだし、そもそもドーベルマン教官の指導の賜物でもあったんでしょうね。正直厳しい評価を下さざるをえないけど、むしろまだまだ伸び代はあるということでもある、か)
「……フフッ」
笑みが溢れる。
姪のマリア───現在は「ブレミシャイン」のコードネームを名乗っている───が、カジミエーシュで行われる騎士競技に出たいと言い、そのために自分が基礎から稽古をつけた時を思い出す。
体捌きも、剣の持ち方も、構えから何もかもが素人同然だったマリアが、今ではロドスにて自分や姉と肩を並べるようにまで成長した。
もちろんまだまだ未熟者、発展途上ではあるが、このロドスに来てからの彼女はこれまで以上に生き生きとしているように思える。
カジミエーシュでのマリアの人間関係が悪いモノだったとは思わないが、それでもここでの彼女の人との関わりは間違いなく良いモノだと確信している。
厳しくも実りのある訓練、理解ある同僚たち、そして何より───マリアの憧れ、最愛の姉マーガレットと共に過ごせる喜び。
まだ日は浅くとも、少なくとも自分は、マリアがロドスに来て良かったのだと心から思えるのだ。
(───なんて。口が裂けても言わないけど)
素直なのは彼女の良いところだが、ふとしたことで調子に乗ってしまうのは欠点。身内だからこそ特別扱いなどしない。そんなことをしては示しがつかないのだから。
この後の教練のカリキュラムを頭の中で反芻し、休憩は終わりと腰を上げようとするゾフィア。
が。
「………………………ん?」
ぐっ、と。
力を入れても身体はびくともしない。
「ふ、んん……!!」
手足は動く。なのに立ち上がることが出来ない。
理由はわかる。わかっているが脳が理解を拒んでいる。そんな事実は無いと頭で何度も叫ぶが、実際に起こっていることがそれを許さない。許してくれない。
つまり、今彼女は───
「ハマった…………!!!」
ゾフィアの、クランタ族の成人女性特有(成長には個人差があります)の豊満なヒップが、便座にすっぽりと収まってしまっていた。
◇◆◇
【ニアール家の散々な日】
◇◆◇
「嘘でしょ……」
絶望するのは容易かった。
こんな暗い感情、過去に騎士競技で重傷を負った時以来だった。こんな状況で抱きたくなかった。
確かにマリアからもよく「大きい」と言われ、道を歩けば男どもからの不躾な視線を浴びることも多々ある我が臀部だが、こんな事態は流石にはじめてだ。
だがそう簡単には諦めない。カジミエーシュのクランタ娘は柔ではないのだ(年齢的に娘扱いは無理があるが)。
「く、ぅ゛、お゛お゛………!!!」
一応は貴族階級なのに、それらしからぬ野太い声と共に気合いを入れる。こういう時にかつての利き腕に力を入れられないのが歯痒くて仕方ない。
だが無い物ねだりもしてられない状況、休憩時間は間もなく終わる。自分もまだやらねばならないことは山積みだし、加えてオペレーターたちの大半は心根の優しい人物ばかり。戻らないことに気付いた誰かが探しに来て、こんな状態の自分を見られたりでもしたらそれこそ終わる。色々と終わる。
「~~~~~~ッッッッッ」
片腕一杯に力を込めるが、この便器もロドスの設備の一つ。下手に壊すわけにいかない以上、全力を出すわけにもいかない。あと何かサイズ的にジャストフィットしてしまってる感がある。認めたくないが。
故に難航。体力が浪費されるだけの時間が経過していく。
そんな状態が続いて
「…………ダメだッ」
力を抜けばどっと疲れが押し寄せる。
手をこまねいてる場合ではないが、これは厳しい。諦めるわけにはいかないしそんなつもりも無いが、もしかしたら独力では不可能では、という考えさえ出てきてしまう。
(いやいや、いくらなんでもこんなしょーもない事態で狼狽えるわけにはいかないでしょ私)
だが確実に抜け出すのなら、最悪この便器を壊さなければならない。だがもし便器が壊れるだけで尻が抜けなかった場合、それこそ全方位的に詰む。
尻に便器や便座をハメたままロドス内を闊歩するなど誰がどう見ても狂人の沙汰だ。集中治療室送りは免れないだろう。
もはや恥を忍んで助けを求めるしかないのだろうか、そう思い至って声を出そうとした時だった。
『あのー』
「!?」
突如として個室の壁から響いた控えめなノック。
直後に壁の向こうから見知った声が聞こえてきた。
『さっきから苦しそうですけど、大丈夫ですか? もしお腹の具合が悪いとかなら、医療班の誰か呼びますけど』
「マリア!?」
『え、ゾフィア叔母さん!?』
「叔母さん言うな!!」
『ご、ごめんなさい!』
可憐、だが芯の入ったよく通る声音。
まさかまさかの、姪の一人であるマリアの声だった。
『ゾフィアだったんだ。さっきからウンウン唸ってたから気になって……大丈夫? まさか便秘?』
「だ・れ・が便秘よ! ちゃんと毎日快便だから!」
『そ、そういうの大声で言わない方が良いと思うけど……』
『マリア、ゾフィアも少し声を落としてくれないか』
「マーガレットまで!?」
『あ、お姉ちゃんっ』
マリアの声がする反対側の壁から聞こえた凛々しい声の主、マーガレットまでいるとは思わなかった。
困ったようなマリアの呟きと、こちらを諌めるマーガレットの言葉は聞かなかったことにして、それはともかく助かったとゾフィアは思う。
彼女たちがいつからいたのかはどうでも良い。他のオペレーターたちはともかく、身内である彼女らになら───まぁ恥をかくのは同じだが───口止めさえすれば万事何も問題無い。
「マーガレット、マリア。君たちももう出る?」
『え? う、うん。お姉ちゃんは?』
『私ももう出るところだが……ゾフィア、何かあったのか?』
「…………とりあえず出たら私がいる個室に入って。鍵は開けておくから」
『え゛っ……』
「心底からの嫌そうな声出さないでマリア』
『いや仕方ないでしょ!? いきなり身内が入ってるトイレの個室に入ってきてなんて言われて「わかった」なんて言えるわけないよ!』
『マリアの言う通りだゾフィア。親類とはいえ、個人のそういった時間と空間に干渉したいなどと思う者はいない』
『せめて理由を教えてよ……』
「………」
逡巡。
出来れば口にしたくはなかったが、背に腹は変えられない。
「………………ハマった」
『『え?』』
「~~~ッ、だから! お尻がハマっちゃってるのよ!!」
『……………』
『……………』
「……………」
これは流石に死にたくなる。
二人の顔が見えなくても、何やら同情的な雰囲気を醸し出しているのはわかる。
『そ、フッそうなんだ。それはフフッ大変だねクフッ』
「マリア」
『わ、笑ってない! 笑ってないよ!』
「まだ何も言ってないけど」
『……ま、まぁとにかく、事情はわかったよ。ちょっと待ってて、すぐそっち行くから』
「君あとで覚えてなさいよ……」
『ひえっ』
姪の小さな悲鳴の後に水が流れる音。
扉の鍵を開けて、助けを待つ。
しかし、待てども待てども姪の顔が見えない。というか、両隣の個室から感じる気配が動いていない。
「……マリア? マーガレット?」
『う、ん……あれ。んしょ……ん~~~!』
「……マリア?」
『……ゾフィア』
『ごめん』
………………………
「───おバカァァァァ!?」
『ば、バカって言わないでよぅ! こんなことになるなんて思わないじゃない、私お姉ちゃんや叔母さんみたいにお尻大きくないのに!』
「指摘するな! あと叔母さん言うな!」
『お姉ちゃーん! 助けてぇー!!』
「そ、そうよマーガレット! 君は大丈夫なのよね!? ていうかさっきからなんで黙って」
『二人とも』
『え?』
『…………』
「……ちょっと、マーガレット? どうして黙ってるのよ。そんな不安を煽るようなこと」
『すまない』
「…………」
『…………』
『…………』
「終わった」
◇◆◇
『う、うぅ、グスッ……』
『泣くなマリア。騎士はいついかなる時も気丈に振る舞わなくてはならない。気持ちはわからなくもないが、我が家の家訓を思い出すんだ』
『くすん……く、「苦難と闇を恐れるべからず」…』
『そうだ。苦難に屈しなければ、道は必ず開ける。騎士競技でそう学んだはずだ』
『お姉ちゃん……うんっ。そうだよねっ』
(なんか良い話みたいになってるけど、私含めて全員便座にお尻ハマってるのよね)
自分のみならず姪っ子たちまで同じ状況に陥ってしまってから数分が経過した。
この間に、自分とマーガレットよりはハマりが浅かったマリアがどうにか抜けようと試みたが、どうやら周りを飛んでいた羽虫が煩わしく、払おうと手を振ったところ力加減を間違えた結果さらに深くハマってしまったらしい。
なおその虫は今も元気にブンブン飛び回っている。
「今日は厄日だわ……」
『まぁまぁ。ゾフィア姉さんも普段から気を張り詰めすぎなんだし、ちょっとした小休止みたいな感じで』
「私は教練合間のその小休止でこんな事態になったんだけど」
『しかし、君たちがロドスに来てからこうして三人で話す機会もあまり無かったからな。良い機会ではと私は思う』
「少なくともお手洗いの場で起こってほしくはなかったわね」
つい今しがたまでベソかいてたマリアはあっけらかんと語り、マーガレットに至っては天然でも発動したのか状況に似つかわしくない言葉まで吐く始末。
そしてこの間に、自分たち以外にこの女子トイレに入ってきた者はいない。もういっそ何もかもかなぐり捨てて大声で助けを呼んでしまおうか。
『お姉ちゃん。通信端末とか持ってない?』
『いや、生憎と今は……』
『そっかぁ……』
言葉の上では平静を努めているようだが、ほんの僅かな声の震えから流石のマーガレットも少しばかり焦っているようだ。
『……マリア』
『ん? なに、お姉ちゃん』
『その、どうだ? ロドスに来てから』
『どう、って』
(え、この子たちこの状況で会話するの?)
『何と言えば良いか……うまくやって……いや、違うな。何か、不都合なことなどは』
『特に無いよ。ドクターもみんなも、すごく良くしてくれてるし』
『……そうか』
『……えっと。心配、してくれてるの?』
『当然だろう、私のただ一人の妹なのだから。……私に、そんなことを言う資格は無いとわかっているが』
『っ、そんなことない! 私、お姉ちゃんが大切だよ! 大好きだよ!』
『マリア……』
『お姉ちゃんが鉱石病に罹ったのも、カジミエーシュを追放されたのも……お姉ちゃんは何も悪くないんだから。だから、自分をそう悪く言わないで』
『……そうか。そう、だな。すまないマリア。そして……ありがとう』
『うんっ……!』
(だが、トイレだ……!!)
長い間離れ離れだった姪っ子姉妹が、互いにその時間を埋めようとしているのは身内として嬉しいことだ。だが場所があまりに不釣り合いすぎる。というかこの子たちは何故こんな場所でそんな話が出来るのだろうか。
場所とあまりの不釣り合いさに頭痛を感じて頭を抱える。そんな自分を挟んで、姉妹は普段の過ごし方等を和気藹々と話し続ける始末。痛みが増した。
いや、会話自体には何も問題は無い。無いのだが。
『ああ、そうだ。ゾフィア』
「なに……?」
『いや、改めて礼を言いたくて』
「……? 感謝されるようなことなんて」
『マリアを支えてくれて、ありがとう』
「───」
なんだそれは。
本当に、感謝されるようなことではない。
自分はただ、たった一人の、憧れで最愛の姉と離れてしまったマリアを───
「……ええ。本当に大変だったわ。言うこと聞かないし、どこかの誰かの背中を追い続けたせいで頑固だし、戦い方なんて知らないクセに騎士競技に出るだなんて言い出すし……ほんと、誰に似てこんなじゃじゃ馬になったのかしらね」
『ひどいっ』
「……だからマーガレット。君が私にお礼を言う必要なんて無いの。そんなことされる覚えも無いし、君が悪く思うようなことも無いんだから」
『……そうか』
これは紛れもないゾフィアの本心。
それに、こうしてまた姉妹が同じ場所で同じ時間を過ごせている。
……そうだ、これこそが。
(なんて、ね)
気持ちを切り替える。
いくらなんでも時間が経ちすぎた、いいかげんオペレーターの誰かが自分を探していてもおかしくない。
二人と話して、色々とスッキリしたし覚悟も決まった。そう思い至ったゾフィアが息を吸い込んだ、まさにその時
キィ……
「『『!!!』』」
個室の外でドアが開く音。
つまりこのトイレの扉が開かれ、誰かが入ってきた。
それを理解したゾフィアの行動は早かった。
「あの!」
『わひゃあ!?』
すっとんきょうな悲鳴が上がる。
そしてその声に聞き覚えがあるマーガレットが続く。
『グラニか?』
『え、ニアールさん!?』
グラニ、その名前にはゾフィアもマリアも覚えがある。
ロドスの先鋒オペレーター。かつてはヴィクトリアの騎馬警官として働き、現在はロドスにてその槍を振るっていると。
マーガレットと懇意にしているらしく、グラニ自身も彼女に対して尊敬の念を抱いているとは周囲の談。
『グラニ。良いところに来てくれた』
『は、はぁ……』
『詳しく説明している時間は無いのだが、出来れば大至急、力自慢かつ口の堅いオペレーターを連れてきてほしい』
『え、えっと、どうして急に』
『すまないが急を要するんだ。頼まれてくれないだろうか』
『えーと……と、とりあえず何か大変なんだなってことはわかりました! 今すぐに!』
『ありがとう』
パタパタと駆け出す音が少しずつ遠くなっていく。
これで助かる、と三人揃って息を吐いた。
『……これで良いんだろう、ゾフィア?』
「ええ、ありがとうマーガレット。……はぁ。ようやく抜け出せるわね……」
『一時はどうなるかと思ったよぉ……あ、やば。安心したらまた催して……』
『フフッ。なら今の内に済ませておくといい』
『うん』
ほっと一息ついて、ゾフィアも身なりを整える。
教練の休憩時間はとっくに終わってしまっている。すぐに戻らねばならないし、遅れてしまったことへの弁解もしなければならない。
軽く流してくれれば良いのだが、何せこのロドスには一癖も二癖もありすぎる人物が多い。弱味などと思うつもりは毛頭無いが、だからといってイジりのネタにされるのもごめんだ。
それに
「またこうして三人で……」
『ゾフィア? 何か言ったか』
「いいえ、なんでも」
何も気負うことなく、マーガレットとマリアと三人で話すことが出来た。場所にさえ目を瞑れば、自分が心のどこかで願っていた瞬間でもあった。
それに比べれば、恥をかくことくらいなんてことない。
「……ねぇ、マーガレット。マリア」
『?』
『どうしたの?』
「今度、三人で予定合わせて」
バァンッ!!(大破)
「『『!?』』」
『ちょちょ、ごめん! ごめんって、あたしが悪かったよ! ドクターとの時間邪魔しちゃったのは謝るから、せめて穏便に』
扉が強引に開かれた大きな音、次いで慌てながら誰かを宥めるグラニの声が響く。
『グラニ? いったい誰を』
マーガレットの言葉が終わるより早く、マリアのいる個室が何度も何度も叩かれ、終いには砕け散る音が。
『ファッ!?』
「マリア!?」
『え゛、あの、ちょ、待って、待ってください! 私まだ用足し中で痛い痛い痛い痛い!! まっで、裂ける、腕もお尻も裂けちゃうゥゥゥ……!!!』
『ま、マリア? マリア!?』
『せめて、せめて下着だけでもはかせてくだsギャ、ゴヴア゛ッ!?!?』
「マリアァァァァ!!!」
何かが砕ける音。姪の悲鳴。
そしてゾフィアは見逃さなかった。
個室の壁、その縁から見えた、一瞬だけ宙に舞い、直後ドアの梁をぶち破って彼方に消えたマリアの下半身を。
『マリア、マリア! 返事をしなさいマリア!?』
返事がない。
心配する間もなく、下手人の足音が自身のいる個室の前で止まる。
「ちょ」
勢いよく開かれた扉の先、そこにいた人物を認識した瞬間、ゾフィアの全身から血の気が引いた。
淡く青みがかった長髪。
新雪のように真っ白な肌。
鮮血を彷彿させる真っ赤な瞳。
その顔、そしてその名前はゾフィアも知っている。
ロドスきっての問題児。そうだ、名前は───
「スカ、ぎっ!?」
言い終わる前に、件のオペレーターが便器に片足をかけ、次いで自分の両腕を掴み取───
「───────!!!!!!」
『ゾフィア。今なんと。スカ……まさかスカジか!? グラニ、いや人選については君に任せた以上何も言わないが』
『あわわわわ、ご、ごめんなさい! 今ロドスにいて、手が空いてて、あたしが声をかけれる人ってスカジしかいなくて!』
『理解した! だが何故彼女はここまで乱暴に!?』
『ど、ドクターとお話してたところを強引に連れてきちゃって……』
「─────!!!!!」
左腕から腰にかけて走る激痛に、声にならない悲鳴が出る。かつて負った古傷は今もなおゾフィアの身体を蝕み続け、ふとしたことで痛みが走ることもしばしば。
そんな左腕を、乱雑に、無造作に掴まれ引っ張られる。
ゾフィアにとって今までにないほどの地獄に等しい時間だった。
『ちょ、スカジ! 左腕は離してあげて! えーと、ウィスラッシュさん? って確か古傷あったはずだから!』
『………』
『って違ぁう!? スカジじゃなくてウィスラッシュさんの左腕を離すんだってばぁ!!』
激痛のあまり意識が遠退く。
そんな中で、尻辺りに感じていた圧迫感が少しずつ薄れていくのを感じ───次の瞬間には
「がっ──」
先ほどのマリアを思い出させる空中浮遊と腰の強打。
そのまま向かいの壁に叩き付けられ床に落ちる。
薄れる視界の中で、隣にて年頃の娘らしからぬ体勢で気絶しているマリア。視線を移せば、自分たちと同じように放り投げられるマーガレットの姿。
(ああ──本当に、やく、び)
最後に、破壊され、辺りに水を撒き散らしている無惨な姿と化した便器を視界に収めて、ゾフィアの目の前は真っ暗になった。
◇◆◇
その後、なんとか受身を取ったマーガレットによりマリアとゾフィアは医務室へ救急搬送。
スカジはご機嫌な様子でドクターの元へ戻るも、トイレ破壊についてお説教を貰った。
巻き込まれただけなグラニは一頻りニアール家の三人に謝り通した後、ウィスラッシュやブレミシャインとも語らう姿が度々見られるようになる。
背中から腰にかけて痛打を受けたマリアとゾフィアだが、元々頑強な身体を持つクランタ族。軽い打撲で済んだそうな。
ただ、マリアにとってスカジの名前と姿は完全にトラウマとして深く刻みつけられた模様。
そしてゾフィアだが。
左腕の古傷の悪化は辛うじて免れた。しばらくは一切動かさないようにと念押しされて固定されたが。
ただやはりというかなんというか、尻が便座にハマった事実は知れ渡ってしまったようで、ロドス内を歩くと男女問わず視線を浴びるようになってしまった。
だが良いこともあった。
ゾフィア、マリア、マーガレット。
かつてカジミエーシュにて三人で過ごした「家族」としての時間を、三人で再び過ごせる機会が増えたことだ。
確かに三人にとって散々な日ではあったが、結果として密かに欲していた時間を増やすことに繋がった。
苦難はあるし楽しいことばかりではない。
それでも、再び手に入れたこの一分一秒を、今度こそ決して手離すまいと、ゾフィアは固い誓いを立てた。
「………………」
「ゾフィア?」
「どうかしたの? もう休憩時間終わるよ?」
「……ぎた」
「「え?」」
「深く座りすぎた……!!」
「「なにしてる(の/んだ)」」
叔母さまはニアール家ではツッコミだろうけど俺は叔母さまに突っ込みてぇんだよな