HUGっと!プリキュア 鬼人の夢想曲 作:水無月 双葉(失語症)
「犬、飼っていたんだ」
「拾っただけ、迷い犬なんだ飼い主を探している間だけあの病院であずかって貰っているの」
何となく犬の事を聞いてみると意外な答えが返って来て私は少し感心する。
「モグモグって?」
「と、取りあえず今だけの名前」
はなちゃんの質問に少し赤面しながら答える輝木さん。
「かっわっいい」
顔を赤くした輝木さんにはなちゃんが笑いかける、その笑顔を見て更に赤面する輝木さん、私はまたひとつ彼女の知らない一面を目の当たりにして好ましく感じました。
「不思議な出会いって言うか……」
少し懐かしそうに話しだす輝木さん。車に轢かれそうになった時に助けた迷い犬、その話の中で輝木さんが私達と同じ時間が止まる体験をしていた事に大いに驚かされる。
「何だったんだろう……」
複雑な表情の輝木さんにはなちゃんが小さく呟く。
「同じだ……」
目を輝かせているはなちゃん、私は木野さんを盗み見ると、木野さんは何かを考えているかのように目を閉じて後頭部を掻いていた。
「出てけ出てけ、ココは俺達が使うんだ、あっち行け!」
不快な声に私達は声のした方を見ると少し下の公園では私達とそう変わらない年齢の男子達が小学生に怒鳴り散らしてした。
「コラー! 意地悪ダメ!」
聞き覚えのある怒鳴り声、さっきまでいたはずのはなちゃんは既に下に降りていて猛っており木野さんは片手で頭を抱えていた。
「なんだ、生意気な小学生だな」
「小学生じゃ、ない!」
私達が降りたころにははなちゃんは更にヒートアップしており唸り声まで上げていた。
「どうしたの?」
「バスケしたいのにこの人達が出てけって……」
私の質問に答えてくれた男の子の表情は曇っており私はいた堪れない気分になる。
「公園の1人占めは良く無いよ」
「じゃ、俺達に勝てたら変わってやるよ」
私の言葉に相手の男の子が不敵に笑う。
「バスケで?」
はなちゃんが私に相談してくるが私も球技はそこまで得意ではない。
「なんだ、怖気ついたの……」
話している男の子にほまれさんが勢いのあるボールを投げつけた。
「3on3で良いの?」
「もちろん」
睨みつけるほまれさんに対して勝ったつもりでうなずく男の子。
「ん、お前どっかで……」
仲間の1人が輝木さんの顔に見覚えがあるらしく思いだそうとするがリーダー格の男の子がそれを阻止した。
「誰だが知らねえけど俺達の相手じゃねえ」
少し嫌な笑いをする男の子を気にせずほまれさんは近くの女の子の頭を撫でながら話しかける。
「大丈夫、勝つから」
木野さんが肩を軽く回しながら勝負を仕掛けて来た男子の前に立った。
「そんなに自信あるなら俺も混ぜて貰おうかな? 最近運動不足でね、お前らだってアレだろう女の子に勝っても自慢にはならないだろう」
「かまわねえよ、オッサン1人入ったからって結果は変わんねえ」
木野さんは楽しそうに頷くと私の方を見てくる。
「さあや、悪いが俺と交代して欲しい、はなは今回の原因だからコートに入れておきたい」
「良いですよ」
私は小さく答えはぐたんの待つベンチへと向かいハリーからはぐたんを受け取り抱っこしながらベンチに座る、でも木野さん運動不足ってあれだけ戦いで動いているのにまだ運動足りないのかしら……
試合が始まるとボールを持っている人に対して木野さんが少しだけ腰を落とした、それだけで一瞬空気が張るのが分かる、男の子が慌ててパスを出し走り出すと木野さんは周りを見渡していた。
はなちゃんの方にボールが飛んで行くが頭の上で取られ直ぐにリターンのパスが出る、あっという間に切り込んでいく姿を見て私はどうしてあの男の子達はみんなで遊ぼうって思わないのだろうと感じている。
「話にならねえな」
馬鹿にした様に声を上げるとそのままシュート体勢に入るが輝木さんが簡単にカットをしボールを奪い相手の攻撃は終わってしまう。
「まぐれだ!」
「どうかな」
イラついた声を出した男の子に対し輝木さんが少し笑いながら返し、その場でドリブルを始めこちらの攻撃が開始する、輝木さんがフェイントなどを使い相手を翻弄しゴールに切り込んで行く。
1人を避け綺麗なドリブルでゴールを目指す輝木さん2人目もいとも簡単に躱す。
「話にならねえな」
意趣返しをし不敵に笑う輝木さんに対して抜かされた2人は声を上げて悔しがる。
「電光石火……」
その動きに私は小さく呟いた、輝木さんがシュート体勢に入るとガクンと体勢が崩れそれを見た私は思わず立ち上がる。
「そのまま打てぇぇ!」
木野さんの叫びに輝木さんが顔を上げる、見たことの無い必死の形相でその場に留まりボールを放つ大きな軌道を描きながらボールがゴールに向かう、入ると思われたボールがリングに弾かれ大きく弾む。
「ああぁ」
思わず声が漏れる、視界に入る輝木さんの絶望的な顔。
ひとつの影がゴールに飛び上がると弾かれたボールを掴みそのままゴールに直接押し込んだ。
爆発した様な大きな音を立てたゴール、転々と転がるボール、ギシギシとリングが軋む音がする中沈黙が支配する。
「「「うわああぁぁぁぁ!」」」
子供達の絶叫で時間が動き出す、木野さんが転がっているボールを拾う。
歓声の中少しうつむいた輝木さんの沈痛な面持ち、その姿に私にはゴールを外した事に対する表情には見えず、もっと心の奥底の別の感情だと思えました。
「楽勝だね、な、輝木さん」
木野さんは優しく微笑みながらボールを輝木さんに投げる、ボールを受け取った輝木さんは一瞬キョトンとした後に顔を赤らめて少し横を向く、その姿を見ながら私は木野さんはああいう事を無意識でやっているなら性質が悪いと思わずにいられなかった。
「あー! 思いだした! お前天才スケート選手の輝木ほまれだろう!」
対戦相手の男の子の1人が輝木さんを指さしながら騒ぎ出すと輝木さんの表情が曇る。
「黙れ」
木野さんの一喝、周りが静かになる中何故かはぐたんだけは嬉しそうな笑い声を上げていた。
「お前らは何で勝負した? 彼女の得意なスケートか? 違うだろう」
木野さんはそう言うと輝木さんの頭を少し乱暴に撫でると輝木さんの顔が更に赤くなる。
「お前らだって勝てると思ったから勝負を挑んだんだろう、一緒に遊ぶ選択肢があったのにも関わらずお前らは手を伸ばなかったんだ、そこの子達に謝ってとっとと失せろ」