HUGっと!プリキュア 鬼人の夢想曲 作:水無月 双葉(失語症)
私は後から来たはぐたんとハリーと共にプリキュア達が飛ばされた方に向かうと聞いた事も無い様な叫び声が聞こえ足を速めた。
倒れているプリキュアに満身創痍で立ち上がっている獣鬼、それだけで私は信じられない思いだった。
「プリキュア達って何でそんな……でも……」
思い出すのはバスケの帰り際の、野乃はなの笑顔に木野さんに乱暴に撫でられた頭の感触と心配そうに私を見ていた薬師寺さん、そして、はぐたんの笑い声……
「もう終わりかよ、さっさとギブ・アップしてミライクリスタルをこっちにちょーだい」
軽薄そうな声と共に怪物がプリキュア達に迫る。
「未来への希望を、貴様なんぞに渡す訳ないだろう!」
獣鬼が一歩踏み出しもの凄い声を上げる。
「立てえぇ! エェール! アンジュゥ! プリキュアは人々の希望! どんな困難も立ち向かい決して諦めない光りの心と輝く命を持つ伝説の戦士! 光りの使者達だ!」
獣鬼が敵に向かい足止めをする様に殴り合う姿に涙が溢れそうになる。
「言われなくたってえぇ! プリキュアは諦めない!」
エールが立ちあがる、諦めない……その言葉が胸を打つ、心が熱い、体がはちきれそうだ……
「諦めない……私も……私も……」
飛び上がったエールに獣鬼、その2人の姿にかつての自分を重ね見出す、私の願いは、私の……
「もう一度……」
2人の姿に手を伸ばす届くか分らないでも、でも、この胸の高鳴りは嘘じゃない!
「うあああぁぁぁ!」
心の底から抑えていた思いが声と共に溢れ出す、私は……
遠くで聞こえるはぐたんの声、不思議と私の思いと重なる気がした。
空に光が集まり美しく輝く黄金色のクリスタルが現れる、力強い光を湛え輝く一番星。
「何アレ……」
「走れえぇぇ! ほまれ! 走れぇ! あの光がお前の輝く未来だ! 恐れずに手を伸ばせ!」
獣鬼が叫ぶ、私に声を掛けたばかりに攻撃を受け地面に叩きつけられる。
「行けええぇぇ!」
それでも獣鬼は私に叫んでくれた、バスケの時もそうだあの男は……
走る! 走る! あの光に! あの空に輝く星に!
怪物が迫ってくるでも、そんな事はどうでも良い、私は、私は、あの光を!
「やらせるかあぁ!」
獣鬼の絶叫が聞こえ目だけで確認すると下から怪物を蹴りあげていた、体勢が崩れた瞬間にはアンジュが殴り付け、止めとばかりにエールの全身を使った蹴りが怪物を吹き飛ばす。
「自分を信じろ! ほまれ!」
「行けえぇ! ほまれちゃん!」
「行ってえ! ほまれさん!」
3人の応援の背に手を伸ばす、私の未来へ後一歩、後一歩! 後は跳べば! ……とべば?
脳裏に蘇るあの悪夢。私は……跳べない、昔とは違う……冷たいリンク、溜め息ばかりの観客席、同情の視線。
足元を滑らせ坂を転がり落ちる。
ぼんやりと空を見上げると、星は……消えたていた…………
「無理……私……跳べない…………」
一粒の涙と共に私の思いと希望は四散した……
「やっぱり……痛いのは……心……」
アンジュが呟く、あの時にきっと木野さんが止めた言葉、何で止めたか分らないけど……
「また……泣かせてしまった……俺は何て不甲斐無い教師なんだ……」
オシマイダーが苦しんでいる……先生の心が、ほまれちゃんの心が泣いている……
「さっさとプリキュアを叩きのめせ! やれってんだよ! 出来そこないが!」
先生のオシマイダーが苦しみ出す、先生。
「もう……オシマイダー!」
「終わっちゃいねえぇ!」
獣鬼の叫びと共にオシマイダーと獣鬼の拳がぶつかり合い爆風を生む。
「お前は教育者だろう!」
獣鬼が力強く踏み出しオシマイダーを吹き飛ばす。
「教え育てる者だろう! そして! お前自身も生徒に教えられ育つ者だ!」
私に出来る事、今、出来る事は。
「フレ! フレ! ほまれちゃん! フレ! フレ! 先生!」
心から応援する事。
「オシマイダー!」
「勝手に絶望しているんじゃねぇ!」
私を庇う様に獣鬼がオシマイダーの攻撃を防ぐ、獣鬼が作ってくれたこのチャンス私は想いをぶつけて見せる。
「ほまれちゃん、私まだ何だか良く分からないけどでも!」
一気にオシマイダーを駆け上がる、攻撃を避け掻い潜り、思いを口にする。
獣鬼が私の後を追って来る、私と同時にジャンプすると私に見える様に手を組んで見せる。
手に足を掛け獣鬼の力も借りて更に高く飛ぶ、ありがとう獣鬼の思いも……私届けるよ。
手を組み体を何度も回転させ私達の思いを届ける、思いを乗せた一撃を入れ地上に降りる。
「負けないで! 負けちゃダメェ! ほまれちゃん! 先生!」
届いて私の思い、私の心。
「フレ! フレ! ハート・フォーユー!」
ベンチに寝かした先生が目覚めたのを遠くで確認する。
「アスパワワが戻ったみたいやな」
ハリーの言葉に一同が安堵の息を吐く、私達から少し離れて歩くほまれちゃん。
「先生を助けてくれてありがとう、それじゃあ、ここで……」
ほまれちゃんが寂しそうに笑って歩き出すのを私は見送れなかった。
「なんか、ごめんね……」
小さく呟いたほまれちゃんはとても小さく見え、私は胸を締め付けられる思いがした。
「ほまれちゃん」
足を止めたほまれちゃんに数歩近づく。
「フレフレ! ほまれちゃん」
「止めて!」
「止めろ!」
ほまれちゃんと木野さんの声が重なる。
「はな、応援が痛い時もあるんだ……分かってやれ……」
ほまれちゃんは小さく木野さんに会釈をするとそのまま行ってしまった、私の頭に木野さんの大きな手が乗せられ優しく撫でられる。
「応援するのも優しさだ、でも、そっとしてやるのも優しさだ、今は察してやれ」
分かるけど、私は、私は……
「また明日」
ほまれちゃんが足を止める、私はもう一度思いを伝える。
「また、明日ね!」
届いたか分らない、でも声を掛けずにはいられない、だって私には夕日に照らされるほまれちゃんが泣いている様に見えたから……