「二重螺旋」二次小説   作:おとよ

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相思

 尚人を抱きしめてキスをする。

 尚人が怯えないように、優しいキスを。

 髪に、指に、首筋に。

 撫でるように、啄むように。

 繰り返せばやがて尚人の体から強張りが解けて。

「まーちゃん」

 可愛らしく啼きはじめる。

 自分の愛称を呼ぶ、尚人の声が好きだ。

 今となっては、二人きりの時でなければ口にしない。その特別感がたまらない。

 抱きしめた尚人の体をまさぐりながらキスを繰り返していると、その体が徐々に熱を帯びてくる。

 尚人が興奮している証。

「まーちゃん」

 呟く声にも艶っぽさが増して、雅紀の(オス)の部分を刺激する。

 たまらず重ねた唇の隙間から舌をねじ入れて執拗に歯列をなぞり、上顎も下顎もたっぷり舐め上げて舌を絡ませる。脚の間に割り入れた膝頭で尚人の股間を刺激すると、尚人の息はたちまち上がった。

「まーちゃん」

 切なげに名を呼ぶその声にさらに艶が増す。

「ナオ、どうして欲しい? ナオがして欲しいこと全部してやる」

 耳朶を喰み、雅紀は囁く。

 無理やりに裸に剥いて、後蕾にイキリ勃ったモノをいきなり挿入するなんて真似は二度としない。

 尚人とセックスしたい。それは雅紀の中に常にある欲望ではあるが、一方的な行為では意味がないのだ。

 尚人も同じ気持ちでなければ。

 尚人も同じように気持ち良くなければ。

 体ばかりでなく、心も。

「俺は、ナオのこととびっきり気持ち良くしてやりたい。ナオのことが好きだから」

 唇を(ついば)みながら、雅紀は想いを伝える。

「だからナオも、して欲しいことを言って」

 何でも言っていい。

 何でもしてやる。

「ほら、ここ。どうして欲しい?」

 雅紀が膝頭でぐりぐりと刺激を続ける股間は、大きく膨らんでしっとりと濡れている。

 尚人には自慰を禁止している。

 ここ数日セックスもしていない。

 若い体がちょっとの刺激に反応するのはごく自然なこと。

 雅紀にとって肉体的快楽を与えるのは簡単だ。

 しかし——

「それとも、今日もやめとく?」

 尚人がそれを望まなければ意味がない。

 ここ数日、尚人が何やら葛藤していることには気づいている。

 ——好きだ、ナオ。

 そう伝えたあの日から、尚人は戸惑っている。

 ——俺も、好き。

 尚人はそう言ってくれたけど。

 その言葉に嘘はないと信じているけれど。

 尚人の中で踏ん切りがつかないでいる。

 雅紀が簡単に踏み越えてしまったその一線を。

 超えていいものなのかどうか迷っている。

「ナオ」

 首筋に唇を這わせて、キスをする。

 髪を撫で、抱きしめる。

「まーちゃ………」

 吐息が熱い。

 潤んだ瞳が(なまめ)かしい。

「ナオ」

「——キスして、まーちゃん」

 請われて深いキスをする。

 尚人の心が体に追いつくように。

 時間をかけて、丁寧に。かつ、執拗に。

 深く。浅く。押しては、引いて。

 尚人にキスを繰り返す。

「次は、何をしたらいい?」

 キスしながら雅紀がそう問う。

「ナオのして欲しいこと、何でも言って」

 鼻先にキスして、おでこにキスして、首筋にキスして。

 好きを伝え続ける。

 想いを。

 態度で。

 言葉で。

「——まーちゃん」

「どうした、ナオ?」

「——しゃぶって。………俺の」

 可愛らしくおねだりされ、雅紀は思わず笑む。

「いいぞ。ナオの気の済むまでしゃぶってやる」

 雅紀は囁いて、尚人の下着を剥ぎ取る。脚を開かせ、剥き出しになった股間に顔を埋めて舌を這わせる。

「はぁッ。あぁぁ………」

 尚人が啼く。

 甘く。切なく。

 竿をしゃぶり、裏筋を舐め、カリを執拗にねぶって、亀頭を舌先でほじる。するとすぐさま尚人が精を吐き出して、雅紀はそれをあますことなく嚥下した。

「——まーちゃん」

 大丈夫、わかっている。

 これで終わりではない。

 深く痺れるような快感はこの先にある。

 玉を揉んでしゃぶり、尖り切った乳首を吸ってやる。

 荒い呼吸を繰り返す尚人を時々なだめながら、それでも執拗に攻める。

 根本を戒め。今度は簡単にはいけないように。

 そうやって攻めると、尚人の体が色づく。

 全身に火がついて。どこもかしこも敏感になって。

 尚人が可愛らしく啼きながら、ひたすらに喘ぐ。

「あぁぁぁ。——まーちゃん! ………そこ、あ、あぁッ!」

 身を(よじ)り、快感を逃がそうとする尚人の体を押さえつける。

 逃がさない。

 尚人は俺のモノ。

 俺で一杯にして、もっと、もっと啼かせたい。

 快感の渦に沈めて、尚人の全てを支配したい。

「まーちゃん」

 とろけるような視線で尚人が見つめる。

 甘くて。

 淫らで。

 理性と自制を灼き切るほどに魅惑的で。

「ナオが欲しい。ナオの全部が欲しい」

 どうしようもない本音が口をついて出て、雅紀はたまらず尚人にむしゃぶりつく。

 欲しくて、欲しくて、たまらなくて。

「ナオが俺のモノだってことを、ちゃんと感じさせて」

 

 

 * * *

 

 

 雅紀にキスされたところが熱を帯びる。

 指先が。首筋が。

 体の奥からゾワゾワした感覚が湧き上がってきて、どこもかしこも敏感になる。

「好きだ、ナオ」

 雅紀の突然の告白。

 それは、——尚人にとって、喜びよりも驚愕だった。

 雅紀がそんなことを言うなんて、冗談でもあり得ない。そう思っていたから………。

 だから最初は、ただただ驚いて。

 頭が真っ白になって。

 どう受け止めていいのかわからなくて。

 冗談なのか。本気なのか。

 夢なのか。現実なのか。

 都合のいい夢を見すぎて、妄想が暴走してるのかもと疑ってもみて。

 それでも——

「好きだ、ナオ」

 そのひと言にどうしようもなく心が揺さぶられて。

 泣きたくなくても、泣けてくる。

 高校一年の夏の夜。あの日起きた悪夢のような突然の蛮行。そして始まった二人の肉体関係。止むに止められない背徳は、禁忌の呪縛でもあった。

 甘美で。

 淫美で。

 ひたすら堕ちていくだけの………奈落。

 喉が灼け。

 頭の芯がとろけ。

 足も腰も痺れて引きつり歪む………愉悦。

 どうしていいかわからないくせに、どこか求める。

 雅紀の熱に溺れる、その——快楽。

 禁忌に怯えながら、心の奥底で渇望し。

 拒否権はないのだと思いつつ、自ら求める。

 現状を素直に受け入れられないくせに拒否できない。そんな自分に折り合いをつけるため、適当な言い訳で誤魔化してきた。

 自分は代替品にすぎない。

 性欲の捌け口に過ぎない。

 だから——

「好きだ、ナオ」

 その言葉の前に尚人は固まるのだ。

 今まで自分を誤魔化し続けてきた言い訳が通用しなくなってしまうから。

 雅紀の真摯な言葉にどう返していいかわからなくなってしまうから。

「俺も好き」

 そう返した言葉に嘘はない。

 けれども——

 完全に縋り付いてしまう怖さが尚人を尻込みさせる。

 家族の形は簡単に変わる。

 それを嫌というほど思い知らされた。………だからこそ恐れる。

 雅紀の言葉に舞い上がって。雅紀から愛されているのだと浮かれ上がって。無邪気に雅紀の『好き』を受け入れて。

 そのあとは?

 二度の孤独には耐えられない。

 だから——。

 ——誤解しちゃ、ダメ。

 ——期待しちゃ、ダメ。

 ——甘い夢なんか、見ちゃ………ダメ。

 そうやって自分を戒める。勝手に何かを期待して、それが満たされずに傷ついたことが腐るほどあるから。どうしたって尚人は慎重になる。

 それなのに——

「好きだ、ナオ」

 雅紀は繰り返し、繰り返し口にする。

 嘘じゃない。

 冗談じゃない。

 一時の気まぐれなんかじゃない。

 言外にそういうかのように。繰り返し、繰り返し。何度も。

 だから尚人も、繰り返される『好き』の言葉に

 マジで?

 ホントに?

 ………嘘じゃない?

 夢じゃない?

(俺は、まーちゃんの一番になれるの?)

 そんな考えが脳裏を掠めて、体が反応する。

 雅紀の愛撫に体がどこもかしこも熱くなる。

 もっとして欲しくて。

 もっと気持ち良くなりたくて。

 おねだりすれば雅紀はちゃんとしてくれる。

 でも、それだけじゃ足りない。

「ナオが欲しい。ナオの全部が欲しい」

 その言葉に尚人の心臓が激しく高鳴る。

(俺も。俺もまーちゃんが欲しい)

 欲しくて、欲しくて、たまらなくて。

 キスだけじゃ物足りない。

 優しい愛撫だけでは満たされない。

 体の全てを暴かれて、激しい欲情に貪られて。

 雅紀と一つに繋がりたい。

「ナオが俺のモノだってことを、ちゃんと感じさせて」

 雅紀が囁く。

 それなら、

 そんなことを言うのなら——

 ちゃんと

「俺にも、まーちゃんの特別だって感じさせて」

 尚人の本音がほとばしると、雅紀は(あで)やかに笑った。

 

 

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