「二重螺旋」二次小説   作:おとよ

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一陣ノ風 5

 午後七時過ぎ。雅紀は押しに押している撮影の休憩時間に携帯電話を取り出すと、尚人にメールを打った。

【撮影が押してて、帰りは何時になるかわからない。晩飯待たなくていいから】

 送信して、ため息が漏れる。

 今日は五日ぶりに家に帰れる。しかも、スケジュール通りに仕事が終われば尚人の晩飯にありつける。それをモチベーションに頑張ってきたのに。誇張でも何でもなく、メールする手が震えた。

 今日の撮影は、『大人のおしゃれ』をテーマにした雑誌企画で、スーツ&ジャケットスタイル特集の撮影だ。意外性を出すためか、日頃スーツなど着ないだろうと思わせる二十代前半の男性ばかり、タイプの違う五人が集められていた。

 朝ドラ出演でヒットし人気急上昇中の若手俳優。YouTube投稿動画をきっかけにメジャーデビューしたことが話題のシンガーソングライター。小説家転向宣言で世間を騒がせてる元人気アイドルグループメンバー。現役有名私立大学生であることを売りに活動しているタレントモデル。それに雅紀を加えた五人だ。

 それぞれ個性が強い五人だけに、それを何とか一枚の絵に収めようというカメラマンは苦心惨憺。しかも雅紀以外、モデルとして撮られることに不慣れで、フレームへの意識がほぼないのだから、撮影が押しまくるのもある意味当然だった。

 携帯に、すぐに返信がある。

【残念。久々に一緒に晩ご飯食べられるかなって楽しみにしてたけど。お仕事ならしょーがないね。今日は、まーちゃんの好きなサバの竜田揚げだよ】

【帰ったら食う。取っといて】

【いっぱい作ったから大丈夫だよ。トースターで焼き直せば、揚げたてみたいになるしね】

 語尾にハートマークが見えるのは、雅紀の脳内妄想だ。

 エプロン姿で台所に立つ尚人の姿が脳裏に浮かんで、ほんのわずか、下半身が疼いた。

 尚人が足りない。尚人に飢えている。

 五日も会えていない。ばかりでなく、近頃の尚人は忙しい。

 週一で始めた部活で全国大会出場が決まると、尚人は毎日部活に参加するようになった。それはとりも直さず毎日の帰宅がその分遅くなると言うことで、帰ってきてから寝るまでの尚人のスケジュールはそれこそ分刻みになった。以前から学校に支障が出たらまずいと平日のセックスはそれなりにセーブしていたが、近頃は尚人を甘く泣かせることすら難しい。土曜課外の日も、以前は昼過ぎには帰宅していたが、今は午後から部活をして帰ってくるため、その分尚人は日曜も自宅学習に余念がない。何と言っても、尚人は受験生なのだ。それがわかっているから、雅紀だって尚人の勉強の邪魔をしてまでセックスしようとは思っていない。

 が、頭でわかっていることと、心と体は別物だ。

 帰宅してキスを(むさぼ)り、余裕を見せてそれだけで満足した顔をしているが、本当は、身体中()めまわして尚人をくたくたのグズグズにし、ペニスの先端をしつこいくらいに擦り上げて双珠に溜まったミルクを全て絞り出したい。体をしっかり一つに繋げて奥の奥まで突き回し、尚人の腰が立たなくなるまでイかせたい。そして、喘ぎ声が枯れるまで啼かせ、疲労困憊のまま眠りについた尚人を腕に抱いて、尚人が確かに自分のものだと実感したかった。

 しかしその一方で、尚人が部活動を経験し、忙しくも充実した学校生活を送っているのは雅紀にとって喜ばしいことだった。

 尚人には今まで、やりたいことを我慢させ家のことを全て押し付けてきたという負い目がある。自分が、ピアノに剣道とやりたいことをさせてもらい、それなりの結果を残してきたのに比べ、家庭が崩壊した時小学生だった尚人は、そもそもチャレンジする機会さえ与えられず、他の兄妹弟に比べて大人しいことを理由に親族内での評価も常に低かった。そのせいで尚人は、自分自身への評価が低い。自分にできるのはせいぜい家事と勉強だけ。だから、自分に出来ることを毎日淡々とこなす。尚人はそう思っているが、それがどれだけ凄いことか。尚人自身わかっていない。

 しかし世間的に見れば、家事は家族の誰かがするのが当たり前の、世の中で最も評価されない労働であるし、高校生が勉学に励むのはある意味当たり前である。だから、尚人がそう思ってしまっていてもある意味仕方がない。

 けれども、やって当たり前のことを手を抜かずにやり続けるには覚悟がいる。持続するための力がいる。自分を律する強い精神力がいる。

 普段の尚人は聞き分けが良く滅多に自己主張などしないが、一度腹を据えれば兄妹弟の中でも一番の頑固者。

 自分で決めたことだから。

 食べてくれなくても、裕太のために毎日弁当を作る。

 担任の賛同は得られなくとも、高校は翔南一本しか受けない。

 定期代も馬鹿にならないから、高校へは片道五十分自転車で通う。

 高校卒業後を見据え、就職に有利なように英検を受け続ける。

 全て、尚人が一人決意したことだ。雅紀は後になって知った。だから、それらの事に口を挟む余地はなかった。

 弁論部の臨時部員の話も同じだ。

 尚人がその話を雅紀にした時、言い方こそ『相談』だったが、尚人の決意がそれなりに固まっていることに雅紀はすぐに気がついた。

 ––弁論部から即興英語ディベート大会に出るための臨時メンバーになってくれないかって話があってね。週一の参加でいいって言ってるし、チャレンジしてみようかなって思ってるんだけど。まーちゃん、どう思う? 裕太は、帰りの時間さえわかってるなら晩飯がちょっと遅くなっても構わないって言ってくれてるんだけど。

 尚人がやりたいと思っているなら、雅紀に反対する理由などない。頑張っている尚人を応援してやりたいし、やりたいことを思い切り頑張っている尚人の姿を見たい、という思いもある。

 ただ正直、自分より先に裕太に相談していたという事実が気に食わなかったが、それは兄としてのプライドを保つために口にするのはぐっと我慢した。

 わかっている。もし雅紀が毎日定時に帰る仕事をしているなら、尚人は真っ先に雅紀に相談したはずだ。尚人の帰宅時間が日常影響するのは雅紀より裕太で、その裕太の承諾を得ることは、尚人にとって決断のための大切なプロセスだったに違いない。だからこそ雅紀は、尚人が本気でチャレンジしてみたいと思っているんだろう、と感じ取ったのだ。

 その頑張りの成果は確実に出ているようで、先日の電話はなぜか英語だった。しかも、雅紀が指摘するまで気づいてもいなかった。尚人の英語を耳にするのは初めてだったが、本当にきれいな発音だった。日頃の穏やかでまろやかな声質はそのままに、英語特有のイントネーションで発せられる言葉は、まるで聖歌を聴いているようでもあった。

 それを思った瞬間、雅紀の内に潜む、無垢なものを汚す淫靡な快楽が疼いた。それで仕掛けた卑猥なスラングに、尚人が電話越しにも羞恥に戸惑う様子が伝わって。それなりに満足すると同時に、今度セックスする時にも試そうと密かな楽しみにしているのだ。海外ロケに行く度に、現地スタッフに散々(ささや)かれてうんざりしていたスラングだが、こういう使い道が出来るとは、雅紀にとっても意外だった。

 日本語では、しつこい位に尚人に囁いた。それは、雅紀と尚人の関係が、労りも何もないまま猛ったものを無理やりねじ込むという最低最悪の強姦から始まったせいで、最初尚人は雅紀が近くに寄るだけで身を強張(こわば)らせていたからだ。優しいキスをして腕の中の強張りが解けるのを待った。尚人が雅紀とのキスに慣れると、今度は舌と口を使って身体中の快楽の在処を掘り起こしていった。母と雅紀との関係を知って以降、性的なことに無意識にストッパーをかけていたらしい尚人は、思っていた以上に無垢で、雅紀は言葉のアメとムチを使って、羞恥で凝り固まった尚人の体を開かせたのだ。

「セックスは怖くない」

「気持ちいいのが本当のセックス」

「ナオとのするのが一番気持ちいい」

「全部俺がしてやるから。オナニーするの禁止」

「俺の言うこと聞けないなら、お仕置きだからな」

 そうして雅紀の手で股間を揉みほぐされて射精する快感を植え付け、尚人が雅紀の与える快楽に淫らに悶えるようになると、今度は卑猥な言葉を散々囁いた。それは尚人に「自分たちのしていることはそう言うことだ」と植え付けるため。そして尚人にして欲しいことを言葉で言わせるためだ。

「ちゃんと口で言って。ナオがして欲しいこと全部してやるから」

 求めるだけではなくて、同じくらい求められたい。そう渇望する雅紀のエゴ。それでも、そうして手に入れたものに雅紀は癒され生かされている。

 何があっても手放せない、掌中の珠だ。

 ––さて、もうひと頑張りするか。

 雅紀は携帯を仕舞うと、気持ちを切り替えた。

 

 

 * * *

 

 

 深夜十一時過ぎ。雅紀はようやく帰宅した。車をガレージに止め、電子錠の玄関を開けて家に入る。家の中は明かりが消えて薄暗かったが、雅紀は迷うことなく、一階の突き当たりにある部屋に向かった。ノックもせずに扉を開ける。予想通り、机に向かう尚人の姿があった。

「ただいま、ナオ」

 声を掛けて、頭の天辺にキスをする。それでようやく雅紀の帰宅に気づいたらしい尚人が顔を上げてにこりと笑った。

「おかえり、まーちゃん。お仕事お疲れ様」

(はあ。癒されるよなぁ)

 心底思う。

 顎に手をかけてキスを貪る。それだけで、色々内に渦巻いていたものが落ち着いた。

「ご飯、食べる?」

 雅紀のキスですっかり息が上がった尚人が、顔を紅潮させながら口にした言葉がそれであることに雅紀はくすりと笑う。

「思ったより遅くなったから、軽く食って来た」

「じゃあ、お茶漬けにする? 今日は、鯛茶漬け出来るよ」

「うまそうだな」

 雅紀が呟くと、尚人はにっこり笑って立ち上がった。

「作るのに十分位かかるから。先にお風呂入る?」

「ああ、そうしようかな」

「じゃあ、お湯張りするね」

 本当に至れり尽くせりだ。これでセックスの相性もいいのだから、仕事が終われば真っ直ぐ家に帰りたくなるのも当然と言うものだろう。

 雅紀は荷物を持って二階の自室へ上がり部屋着のスエットに着替えると、持ち帰った荷物の中から洗濯する物を取り出して風呂場へ向かう。そして、脱衣所の籠に洗濯物一式放り込み、まだお湯貼り途中の浴室に構わず入った。

 先にシャワーで体を洗う。その間にお湯張りが終了したことを告げる電子音が流れた。自宅の風呂にゆっくり浸かると、それだけでリラックスできる。

 風呂から上がってリビングへ行くと、尚人はキッチンで海苔を刻んでいるところだった。その姿を視線で撫でてから、雅紀は冷蔵庫から尚人が作り置きしている麦茶を取り出してコップに注ぐ。それをその場でがぶ飲みし、食卓に着いた。

「はい。お待ちどおさま」

 出されたのは、尚人特製ごま醤油につけ込まれた鯛の上に、海苔と小葱が載っている、結構本格的な鯛茶漬けだった。見た目も綺麗で食欲をそそる。いただきます、と手を合わせ雅紀は箸をつけた。

「まじ、うまい」

「本当? よかった」

 冗談でもお世辞でもない。料亭で出される茶漬けより格段に上を行っていた。ほんの少し添えられたワサビがいいアクセントだ。

 うますぎて箸が止まらず、あっという間に完食する。そのタイミングでほうじ茶が出て来て、温かなお茶にほっと一息つく。

「幸せすぎる」

 雅紀が思わず呟くと、尚人がぷっと笑った。

 そんな何気ない日常の一コマが、本当に幸せだ。

 明日は日曜だし、これであとは尚人を心ゆくまで堪能すれば言うことなし。だったのだが、

「明日は、出かける用事があるから。だから……」

 部屋に戻って尚人をベッドに押し倒し、そのままキスを(むさぼ)って、尚人の股間を膝頭でぐりぐりと刺激してやっている最中。息も絶え絶えに尚人はそう言って、腰が立たなくなるのはまずい、と訴えた。

「用事って?」

「部活の、練習」

「日曜に?」

 自分の高校時代は、土日祝日関係なく練習していたというのに。雅紀はほんの少し不満げに尚人を見る。

「大学生が練習相手になってくれるみたいで」

 なるほど。それは、貴重な実戦練習だろう。

「どこで? 学校?」

「桜ヶ丘国際大学。九時集合」

「じゃあ、明日は送って行ってやるよ。それなら、いいだろう?」

 雅紀は、尚人が何か言う前にキスで口を塞いだ。

 

 

 珠を揉んでしゃぶる。先ほどから尚人のペニスの先端からは、先走りの蜜がたらたらとこぼれ落ちている。五日ぶりの快楽に、尚人の(あえ)ぎは止まらない。珠を揉むと乳首が尖る。そう擦り込んだせいで、尚人は悶えながら乳首が痛いとぐずる。

「まーちゃん。痛い、乳首痛い」

「お願い、まーちゃん。乳首、噛んで吸って」

 尚人の晒す痴態に煽られる歓喜。いつもならすぐにお願いを聞いてやるところだが、雅紀は焦らすように尚人の珠をやわやわと噛みながら口の中で転がす。そうすると、綺麗に剥けたペニスの先端の割れ目からこぼれ落ちる蜜はまるでお漏らしでもしているかのように量を増した。

(たまらないよなぁ)

 雅紀が我慢できずにぺろりと舐め取ると、尚人は身を仰け反らして可愛らしく啼いた。その声に煽られて、そのままペニスを咥え込んでしゃぶってやると、尚人はその刺激だけですぐさま濃厚な精を吐き出した。

「ンッ、あぁ〜〜〜!」

 かすれた啼き声が耳にいい。

 尚人の吐き出したミルクを一滴残らず飲み込んで、雅紀は口の端で笑った。

「今回は漏らさず我慢できたみたいだな。ナオのミルク、すっごく濃かった」

 雅紀が言うと、尚人は羞恥に顔を歪めた。その予想通りの反応に、雅紀は満足する。

「我慢できたご褒美だ。ナオの乳首、好きなだけ噛んで吸ってやる」

 雅紀は耳たぶを甘噛みしながら囁いて、尚人の珠をやわやわと揉んでやりながら、乳首を噛んで吸う。すると、尚人の上げる嬌声が艶を増した。

「はぁ、はぁッ! あっ、あぁぁぁ! まー、ちゃん……」

 さらに唇で咥えたまま乳首を引っ張ってやる。尚人は身を仰け反らせて更に啼き、股間を揉む雅紀の手を新たな蜜が濡らした。滑りが良くなったペニスを軽くしごく。

「ンッ、あッ!」

 一度イっているのでこの程度の刺激では吐射しない。それがわかっているから、雅紀はギリギリのところを攻めて快楽を与え続ける。時々先端を指の腹で擦り上げてやると、先走りの蜜は次々と溢れた。

 雅紀は左手で尚人の根元をしっかり締めると、蜜口を舌で穿(ほじ)る。それと同時に右手で尚人の乳首を乳暈ごと強く摘んでやると、尚人の背中が跳ねた。

「あ〜〜〜〜〜!」

 尚人の喘ぎは止まらない。

 このあとは、蜜口をしつこく擦り上げて、尚人のミルクを全部搾り取ってやるのだ。臍もたっぷり舐めてやろう。そして雅紀の物をしっかり根本まで咥え込めるよう後蕾をほぐしてやって、尚人の喘ぎ声が枯れるまでイかせてやろう。

 甘くて淫らな二人の夜は、まだ始まったばかり。

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