「二重螺旋」二次小説   作:おとよ

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縹色(はなだいろ)ノ雲 13

 智之の後をついていくと、智之は実家を出ていくまで自室として使っていた部屋に明仁を招き入れた。

 部屋の中は、智之が使っていた頃とあまり変わらない。私物がないだけでベットや机がそのままだからだろう。

 智之はベットに腰掛け、明仁はデスクチェアーに座った。

「色々考えなきゃいけないことが多くて。正直、一人では結論出せなくってさ」

 智之の口調は重い。

 まあ、その気持ちはよくわかる。確かに、色々なことが智之の肩にのしかかっている。本人もうつ病が完治していない中、相当な負担だろう。 

「どうしてこうなっちまったんだって。……そう思うと余計に考えがまとまらないっていうか」

 智之は大きく息を吐き出した。

「瑛がしたことは、確かに悪い。悪いが、……理由があるっていうか。あいつもいわば被害者っていうか。慶輔兄貴の暴露本のせいで何の関係もないあいつまで騒動に巻き込まれて。大好きな野球だって集中できない環境に置かれてさ。あいつはあいつなりに我慢に我慢を重ねてきたんだ。けど誰もがそんなの関係ないって感じで今回の事件だけをあげつらって。やっぱり血は争えない、息子を刺した短慮な爺さんの孫だって決めつけて。……でも、よくよく考えると、それを言わせてしまう原因を作ったのは俺なんだなぁって。俺が探偵使ってまで慶輔兄貴の居場所捜して親父連れて行ったりしなきゃよかったんだって。––––あの時明仁兄貴に慶輔兄貴のことはほっとけって言われたのに。そうすればよかったんだなぁって。そうすれば、瑛だってあんなことしでかすまで追い詰められたりしなかったんだろうなって思うと、瑛に申し訳なくって。……実は、瑛の学校から進路変更の検討がいるって電話があっててさ。近々面談したいって言われてるんだ。––––が、俺としては、そんなすぐに結論は出したくないって言うか。正直、雅紀と話し合いで決着がつけば所詮は身内の騒動っていうか。だから、学校を辞めさせられる理由なんてないんじゃないかって思えて。––––でも、それを学校側へ説明するのは、雅紀にきちんと謝罪してからだって言うのは、当然で」

 ぽつりぽつりと語っていた智之が一旦黙り込む。

 明仁は色々と言いたい事はあったが口を挟まず智之が話し出すのを待った。

「雅紀に何回か電話を入れたんだ。でも、雅紀も忙しいみたいで。いつも留守電でさ。メッセージは残してるんだが、折り返しはなくて。……で、連絡を待ってる間に色々考えてたら、雅紀は俺と口を聞きたくもないくらい怒ってるんじゃないかって気がして来て。すでに警察に被害届を出しに行ってるんじゃないかって思ったり。そんなこと考えだしたらさ、雅紀に謝罪するときに、その……、金銭的なことも話し合わなきゃいけないんじゃないかとか。……瑛が千束の家で暴れて物を壊したのは事実なんだし。弁償するのは当然なんだが。それに加えて、雅紀には俺の治療費の援助してもらってるわけだし。それの返金とかも……」

 智之は、一旦押し黙って、明仁に視線を向けた。

「なぁ、明仁兄貴。雅紀は今回の件、どう思ってると思う?」

「––––俺は雅紀じゃないからな。雅紀の気持ちはわからん」

 明仁は、息を吐き出しながら呟いて言葉を続けた。

「ただ雅紀が、慶輔と関わりのある物全てを拒否したいと思っているということは知っている。そして、お前に治療費として援助した金の出所が、慶輔の死亡保険金だってこともな」

 明仁は答えつつ、雅紀が智之の治療費援助を口にした時の事を思い出していた。

「雅紀がお前への、……というか、お前達家族への援助を決めたのは、お前達家族が精神的に疲れ切って、家族がバラバラになってしまわないように。––––というか、はっきり言ってしまえば、精神的経済的に追い詰められて家族の誰かが死を選ぶようなことになったりしないように。それを心配しての決断だ。あそこの家族は雅紀の踏ん張りがあってこそ、最後はなんとか踏みとどまったと思うし。だから俺は雅紀のことを尊敬するし、あの年でと思えば頭の下がる思いがするが。雅紀にしてみれば後悔しても仕切れない部分もあるんだと思う。どうしたって奈津子さんのことがあるからな。けど、自分達の事は取り返しようのない過去でも、お前達家族はこれからのことで。自分の稼ぎで援助するのは筋が違うが慶輔の保険金ならば。そう思ってのことだったように俺には感じた」

 明仁の言葉に、智之は唇を噛んだ。

「保険金の件については、本当に降って湧いたような話で。雅紀にとっては欲しくもない慶輔絡みの金だったが、弟達のことを考えて均等配分に合意したんだ。散々金に苦労して来たから、自分の意地で弟達まで巻き込むわけにはいかんと思ったんだろう。けれども、自分のためには一円だって使いたくない。それが雅紀なりの意地なんだと思う。だから、お前が返金を申し出たところで、雅紀は雅紀なりの意地を通すんじゃないかと思うが。––––なあ、智之。俺がわからんのは、瑛がなぜ、千束の家に行って暴れたのかって事だ。あいつは、雅紀にお前の治療費を援助してもらっているってのは知っていたはずだ。慶輔絡みのことであいつも色々あったかも知れんし、慶輔の保険金で父親の治療費を援助されるってことに抵抗感もあったかも知れんが。それだって何で今このタイミングで千束に行って暴れなきゃいけなかったんだ?」

 明仁の問いかけに、智之は一瞬表情を歪めた。

「俺は知らなかったけど、少し前に俺の治療費を雅紀が援助してるってことが週刊誌に掲載されたんだろう? 瑛は、それをどうやら雅紀がマスコミにリークしたって思ったみたいで」

「は? 何だそれ」

 週刊誌が慶輔一周忌にかこつけて特集記事を載せたことは知っている。そしてそれをテレビのワイドショーが取り上げたことも。昨年ほどではなかったが、明仁の元にもマスコミ数社が取材に来たからだ。

『書道教室の方は順調ですか?』

『一時期は生徒さんが大量に辞められたと聞きましたが、現在はいかがですか?』

『慶輔氏に今だからこそ言いたい事はありませんか?』

 そんな質問に心底うんざりした。

 ––––お前らがそうやって押しかけて来るから生徒が逃げるんだよ!

 ––––死んだ人間に今更何か言っても意味ないだろ!

 もちろん口には出さなかった。何か一言でも発すれば、真偽関係なく言ってないことまで言ったかのようにされるのは目に見えていたからだ。完全黙殺が最大の防御であると嫌と言うほど学んでいた。

 しかし、不意打ちのダメージは確かに大きかった。ようやく平穏が訪れたと思っていた時のいきなりのマスコミ取材だったからだ。

 ––––勘弁してくれよ。

 それが偽らざる本音だった。とはいえ、明仁はあの一件を雅紀と結びつけるなど思いもしなかった。なのに瑛はなぜ「雅紀がリークした」と思い込んだのか。そもそもマスコミ潰しなどと言われた雅紀が、わざわざマスコミが喜ぶような話題(ネタ)を提供してやるはずがない。

 明仁がその疑問を口にすると智之は重たげに口を開いた。

「それが……。明仁兄貴覚えてるか? 俺の退院祝いってことで俺の家で食事会した時、明仁兄貴新聞持って来ただろう?」

「尚人が全国優勝した記事が載ったやつか?」

「そう、それ。それを……、瑛がネット掲示板に上げたらしいんだ。––––実名と住所入りで」

「は? 何でそんなことしたんだ?」

 従兄弟自慢? 確かにあの記事には生徒の個人名の記載はなかったので、尚人の顔を知らない者は尚人だとわかりようがない。だから、わざわざ名前を入れて世間に公表したということだろうか。『MASAKI』の弟が翔南高校に通っていることはすでに公然の秘密のようなもので、全国優勝した翔南高校英語ディベート部員の一人が「篠宮尚人」であると明かせば、取りも直さずそれは『MASAKI』の弟だと世間に公表するも同然。それは回り回って瑛の従兄弟の快挙であることを公表することに繋がるわけではあるが……。篠宮の名がスキャンダラスに世間に垂れ流された現状にあって、わざわざそんなことをする意味がわからない。

「その辺のことについては、よくわからん。瑛に聞いても、要領を得ないっていうか、適当にはぐらかすって言うか。––––ただ、瑛が千束の家に押しかけた日。学校の靴箱に週刊誌のコピーが入れられてて。それを見た瞬間に、仕返しをされたって思ったらしい。というか、瑛は今でもそう考えていて。正当な抗議をしに行っただけだ、って。物を壊したのは確かにやり過ぎだったって反省はしているんだが、そもそもあっちが悪いって。そう言い張ってて……」

 智之の言葉に明仁は驚いて、そしてため息をついた。

 何とも言いようがない。

 それが正直な気分だった。

 瑛の行動が理解できない。

 瑛の理屈が理解できない。

 自分で掘った穴に自分が(はま)っただけ。

 そんなふうに思えてならない。

 しかしその穴を掘らせた動機(もの)は何なのか。

 智之が言うように慶輔がらみのことでは無関係だったはずの瑛まで巻き込まれた。そのせいで学校では散々好き勝手に言われただろう。部活動で先輩を殴った件もそれの延長だったはずだ。

 しかし……

 その怒りの矛先がなぜ千束の従兄弟たちに向かうのか。

 慶輔憎しから派生した雅紀達兄弟への敵愾心?

 例えそうであっても、尚人の載った新聞記事に個人情報を記載してネットで拡散させた行為の正当な理由にはならない。しかもそんなことをしておいて、勝手に仕返しをされたと思い込んで家の乗り込んで暴れるなど(もっ)ての(ほか)

 ––––そんな状況で謝罪なんて無理なんじゃないか?

 明仁はそう思わずにいられなかった。

 

 

 * * *

 

 

「ほら、ナオ。こっちにおいで」

 雅紀が呼ぶと、尚人がゆっくりベッドへ上がって来る。耳の先をほんのり赤く染めて。ちょっとドキドキした表情で。その姿が可愛くてたまらない。

 雅紀は手を伸ばして尚人をからめ取り、そのほっそりとした身体(からだ)を抱き込んで肩口に顔を埋めて思い切り匂いを嗅ぐ。風呂上りの尚人からはすっきりしたグリーン系ボディーソープの匂いがする。それに尚人の熱が混じり込んで雅紀の鼻腔を至福へと誘う。

「んー、いい匂い」

 雅紀はそのまま尚人を組み敷いてキスをする。口角を変えて何度も唇をついばみ、舌をねじ込んで歯列をなぞる。上顎も下顎も執拗に舐め回し、尚人の震えるような吐息を飲み込んで舌を絡ませる。尚人の心臓が逸る。雅紀にしがみつくその四肢が熱を帯びる。いつもは静かな色を湛える双眸がとろりと淫靡に艶めく。

 たまらなく、いい。

「キスだけで、ナオの乳首ビンビンに立ってる」

 雅紀が耳元で囁きながらスエットの上からその(とが)りに触れると、尚人が小さく啼いた。

 鼻から息が漏れるような(かす)れたその声がいい。

「下も触って欲しい?」

 雅紀は尚人の耳たぶを()みながら、ゆっくり手を下へと持っていく。そのままスエットの裾から手を差し入れて下腹を撫でる。すると、すでに半勃起状態だったそれは雅紀の手の刺激によって一気に硬さを増した。ほんの少し撫でただけでこの反応なのは感度の良い証拠。尚人が興奮している証だ。

「ここ、どうして欲しい?」

「揉んで、……しゃぶって」

「どこを?」

「……珠」

「ナオ、ちゃんと言って。でないと、してあげられない」

 意地悪く雅紀が言うと、尚人が羞恥に顔を焼きながらも言葉を続けた。

「珠、揉んでしゃぶって」

「それだけでいい?」

「先っぽもぐりぐりして。……乳首も噛んで吸って欲しい」

「いいぞ、ナオ。全部してやる。ナオがいっぱい気持ちよくなるように。ミルクも全部搾り取ってやるからな」

 雅紀はにっこり笑って、尚人を裸に剥く。そして、足をM字に開かせて尚人の股間に顔を(うず)めた。珠を寄り分けてしゃぶる。口いっぱいに含んで転がす。すると尚人の先端の割れ目から先走りの蜜がたらたらと溢れる。そのまま熟れた蜜口の先端を指の腹で擦り上げて秘肉を露出させ爪で引っ掻くように弾いてやると、尚人が背を仰け反らせて嬌声を上げた。

 快感に喘ぐ尚人が可愛くてたまらない。

 雅紀の愛称を呼んで乱れる様が愛らしい。

 艶めく痴態が雅紀を煽り、どこもかしこも敏感になったその身体に雅紀は貪りつく。一度吐射させて、それから執拗に攻める。イきたくてもイかせてもらえないその状況に尚人の体がより貪欲になっていく。吐き出す先を求めて尚人の身体が震える。ギリギリまで我慢させてイかせてやると、体の芯まで痺れるような深い快感が得られる。そうやって溜まった精を搾り取ってやると、より感覚が敏感になるのだ。

 尚人の双眸がとろけたように熱に濡れる。その瞳に自分しか映っていないことに雅紀は満足する。それから尚人を四つん這いにして後蕾をほぐすのだ。

 胡座(あぐら)を組んだ膝の上に尚人をホールドして双丘を剥き出しにする。ぴったりと閉じたピンク色の蕾をつつつっと指先で撫でると尚人が背中をぴくりと震わせる。その指を玉袋の付け根まで落としていくと尚人の腰が捩れた。

 最近見つけた、尚人のいいところ、だ。

 そこを何度も撫でた後に、雅紀はちろちろと舌先で舐める。そして今度は舌先で同じように裏筋を撫でると、尚人の腰は面白いほどに(よじ)れた。

「あッ、はぁ! ま、ーちゃん。はあぁ! あッ、あぁぁッ……」

 (かす)れたよがり声を上げ続ける。その声に連動するかのように後蕾がひくつく。固かった蕾が少し柔らかくなったところで、雅紀はジェルを掌で温めて伸ばし、可愛らしいそこにつぷりと一本指を差し入れる。軽く出し入れし、馴染んだところで中を刺激する。一本を二本に増やし、つぷつぷとそこを押し広げてやると、尚人の息もせわしなくなって来る。さらに二本を三本に増やす。その頃には雅紀も限界で、尚人を正面にして思い切り広げさせた足を持ち上げると、剥き出しにした後孔に固く立ち上がった雄蕊をゆっくりと差し入れた。

 何度もそうやって繋がっているのに、この瞬間、尚人はいつも息を詰めたように身を固くする。最初はそのせいで、いくらほぐしてもなかなか挿入できないでいたが、近頃は随分スムーズに全部飲み込めるようになっていた。

 ––––それなのに……

「ナオ、大丈夫だから。力抜いて」

 カチカチにこわばった尚人の体を雅紀はゆるゆる揺する。下腹を優しく撫でてやり、緊張を解きほぐす。

「ほら、ゆっくり呼吸して。大きく吸って、……吐いて」

 その呼吸に合わせて、雅紀は己を差し入れる。それでも一気に入ってしまわなくて、雅紀は辛抱強く繰り返した。

「ああ、大丈夫。ナオ、全部入った」

 そう言って、雅紀は尚人の首筋にひとつキスを落とす。はぐはぐと喘ぐ尚人の体に雅紀のものが馴染むまで待ってやると、やがて尚人が大きく息を吐き出して身体を弛緩させた。

「大丈夫、何も怖くない」

 耳元で囁く。

「二人で気持ちよくなろうな」

 尚人がこくりと頷いて、雅紀はゆっくりと出し入れを繰り返した。

 絡みついてくる肉襞が気持ちいい。ぴったりと雅紀のものを咥え込んで離さない、その熱に溶けてしまいそうだ。雅紀は尚人を抱きかかえて腰を振る。気持ちよくてたまらない。痺れるような快感が体の中を駆け抜けていく。突き上げてかき回し、ギリギリまで引き抜いて、また一気に突き刺す。繋がったそこが卑猥な音を立てる。腰を痙攣(けいれん)させながらあられもなく啼き続ける尚人の乳暈(にゅううん)を摘んでやると、より一層高い声で尚人が啼いた。その声に理性がふっとんだ。

 あとはもう欲情のままに激しく突いて掻き回し、中いきした尚人を休ませることなく腰を振る。思い切り足を開かせて、奥の奥へと叩きつけて精を吐き出す。尚人の中が雅紀の吐き出した物で一杯になる頃には、尚人は精魂尽き果てたようにぐったりとしていた。

 腕を上げるのでさえ憂鬱そうな、その気怠い雰囲気がまたいい。ぼんやりとしたその瞳がたまらなくエロい。雅紀は満足な笑みを浮かべて尚人の額にキスすると、その腕に尚人を抱いて横になった。

「寝ていいぞ。身体、ちゃんと拭いといてやるから」

 雅紀が髪を梳いて囁くと、聞こえているのかどうなのか、尚人の頭が頷くようにこくんと落ちた。寝入ってしまった尚人は起きている時より幼く見え、先ほどまでの痴態が嘘のように無垢だ。

 雅紀は腕の中で静かに眠る尚人の髪をやさしく何度も梳く。尚人の髪はさらさらと指感触(ゆびざわり)が良くて、撫でると気持ちがいい。

 男は射精すると気持ちがスッと冷めると言われる。よく言われる賢者タイム。しかし雅紀は、激しいセックスの後に、くったりと寝入った尚人を腕に抱いて余韻に浸る時間が好きだった。

 尚人が確かに自分のものだと実感できるから。

 しかし今日はどうにも、あることが引っ掛かっていた。

 挿入するときの尚人の様子だ。

 尚人とセックスするようになった最初の頃、尚人はどれだけ時間をかけて後孔をほぐしても、いざ挿入しようとすると身を固くしてスムーズには挿入できなかった。それは、始まりが何の労りもないまま猛ったものを突っ込まれるという最低最悪の強姦だったから致し方ないとはいえ、怯える尚人を見るのは辛かった。どんなに快感を植えつけても、一度擦り込まれた恐怖が尚人の体を支配している。それを見せつけられて、自分がしたことの罪深さを思い知らされた。

 だから雅紀は、挿入には殊更気を使った。これで己の欲望のままに無理に突き刺せば尚人はセックス恐怖症になってしまう。「大丈夫」と囁いて「一緒に気持ちよくなろう」と甘く告げる。これからすることは気持ちいいことだ、と尚人に刷り込み、怖くないと教え込む。尚人の体が雅紀を素直に受け入れるように、雅紀は根気よく尚人の体を馴染ませた。

 その甲斐あって、近頃はずいぶんとスムーズに挿入できるようになっていた。一度で一気に、とはいかなくても、怯えたように固く身を竦ませることはなくなっていた。尚人を快感の渦に沈めて気持ちを昂らせてやると自らねだることもあったぐらいだ。

 それなのに……

 尚人がまた、挿入時に体を強張(こわば)らせるようになった。

 確実にあの時からだ。

 深夜突然発作を起こした、あの日から。

 しかもあの日以来尚人は頻繁に、子供の頃甘えたい時に見せていた仕草をするようになった。雅紀の胸に顔を埋めて擦り付ける。その仕草だ。子供の頃はそれをされると可愛くて可愛くてしょうがなくて、よしよしと尚人の気が済むまでいつまでも頭を撫でてやっていた。そうやっているとそのうち尚人が自分の気持ちに折り合いをつけて、「まーちゃん、ありがとう」とはにかむように笑う。その姿がまた可愛くてたまらなかった。

 いまだって尚人が甘えて来るのは可愛い。腕に抱いてよしよしと頭を撫でてやるだけでは済まないけれど、自分の腕の中で甘える尚人を見ると独占欲が満たされる。けれどもここ最近、甘える尚人のその瞳の奥に消えない影がある。雅紀にはそう見える。

(ナオも不安に思ってるってってことか?)

 深夜の発作は雅紀にとって予想外だったが、尚人自身にとっても予想外だったのだろう。何がきっかけになるかわからない。そんな不安を感じてしまったのかもしれない。

 先日一晩入院したついでに、雅紀は榊医師にそのことを相談した。

 その時榊からは「心的外傷からの回復は、目に見える傷と同じようにはいかない。良くなってるように見えて振り戻すことはよくあること。しかしその時に周囲が過度に反応すると今度はそのことを気に病んでしまう可能性もある。自分の思いを受け止めてもらえたと思えると症状が緩和する傾向にあるから、静かに見守りつつ何かあればしっかり話を聞いてことが大切」そんなことを言われた。ついでに「受験期なら自覚しないストレスを抱えていることもあるから、適度に息抜きさせてやるのもいいかもしれない」ということだった。

 今度週末に休みを合わせて尚人を何処かへ連れて行ってやろうか。

 雅紀はそんなことを考えながら、静かに眠る尚人の額にそっとキスをした。

 

 

 

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