「二重螺旋」二次小説   作:おとよ

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縹色(はなだいろ)ノ雲 15

 雅紀の話に尚人は驚きを隠せなかった。

 え?

 ……うそ

  そんなことが起きてたの?

 尚人にしてみればそんな気分だ。

 それが不快とか、そういうことではなく。純粋な驚き。全く気づきもしなかった自分の鈍感(にぶ)さにも言葉がなかった。

 自分はもっと目端が効いて色んなことに気を配れる人間だと思っていた。こと家族のことに関しては。それなのに……

 それがほんの少しショックだった。

「そんなことが起きてたんて。……俺、全然気づかなかった」

「裕太も、裕太なりに気を遣ったって言うか。ナオには周囲の雑音に煩わされることなく受験に専念して欲しいって思いがあって。当然、それは俺も同じで」

「うん……。わかってる」

 言いたいことが色々と脳裏を駆け巡ったが、一周回って残った感情は、家族の絆があることへの喜びと感謝。それだけだった。

 父が家を去り、母が突然亡くなった時、尚人が何よりも悲しかったのは家族の気持ちがみんなバラバラだったことだ。沙也加は篠宮の家を拒絶して出て行き、裕太は怒りを抱えたまま部屋に閉じこもった。雅紀は家計を支えるために家を空けることが多くなり、帰ってきても気難しい表情を崩さなかった。

 そんな中で尚人ができたことは、それまであった日常を続けるということだけ。淡々と日々の家事をこなし、家族の『拠り所』としての『家』を整える。そうすればいつか元の通りの家族の形が戻るのではないかと。そんな淡い夢を見て。

 しかし厳しい現実の前では甘やかな夢は所詮夢でしかなかった。そのことを突きつけられるたびに尚人は心の中でしくしくと泣いた。

 過ぎる夢は見ない。

 そんなふうにわかったふりをしてみても、食べてもらえなかった食事を捨てる時、数日ぶりに帰ってきた雅紀に目も合わせてもらえない時、尚人は心が折れそうだった。

 そんな時に耳にしたミズガルズの『赤と黒のイリュージョン』

『自分勝手に夢を見て、叶わないからって嘆くのは、ただの愚か者だろう。道はひとつだけじゃない。見える道だけが道じゃない。今は暗闇で何も見えなくても、進むべき明日は誰の心の中にもきっとある』

 そのフレーズに、ハッとして。じわりと胸に染みて。やがて背中をそっと押されたような気になった。

 いつまでも雅紀のお荷物になるわけにはいかない。

 自分のことは自分で何とかしなければ。

 自分がしがみついているこの家から雅紀を解放してやらなければ。

 その決断は寂寥感を伴ったが、覚悟を決めたことで尚人の視界はそれまでよりもクリアになった。

 あとは自立という目標に向かって一歩一歩できることを積み上げていくだけ。そう思っていた矢先に突如始まった雅紀との体の繋がり。

 最初はただただ怖かった。一夜の蛮行を思い出して身が竦んだ。しかし、

 ––––キスから始めよう。

 そう言って雅紀に泣きたくなるほど丁寧に優しく抱きしめられて身体中にキスされて。その人肌の温もりに安堵して。

 できることなら何も考えずに、与えられる快楽に溺れてしまいたい。そう思う一方で、またいつか冷たく突き放されるのではないかという恐怖が消え去らない。

 一度は耐えられても二度は耐えられないと思う恐怖。

 気まぐれかもしれない優しさに慣れることへの怖気(おぞけ)

 けれども尻込みする尚人の思いとは裏腹に雅紀の浸食は容赦なく進んでいく。

 雅紀の手で股間を揉みほぐされ、舌と口とで珠も茎も(ねぶ)られる。男性の生理は単純で、気持ちよければ勃起し、一度帯びた熱は射精しなければ収まらない。そのことを思い知らされ、いつしか濃厚な愛撫に抗えなくなっていく。

 そのことへの狼狽。

 そのくせに求める快楽。

 もはや自分が何を望んでいるのかさえ分からなくなっていく。

 このままズルズルと二人で堕ちるところまで堕ちていくのではないか。

 それを思うと尚人は恐ろしくてしょうがなかった。

 しかし––––

『好きだ、ナオ』

 その一言が全てを吹き飛ばした。

 本当に?

 俺だけじゃないの?

 まーちゃんも俺のこと好きなの?

 ––––マーチャンニ スキッテ イッテモ イイノ?

 揺れ動く心境を隠せない視線に返された柔らかな眼差し。

 おずおずと差し出し手をしっかりと握り返された時、尚人はもう、この場所は誰にも譲れない譲る気もないと自覚した。

 しかし尚人は雅紀の腕の中でただ守られるだけの存在になりたいわけではない。ぬくぬくとした安全な場所に安住したいわけではない。雅紀の横に自分の足でしっかりと立って、並んで歩いて行きたいのだ。

 時に守られ、時に守り。

 時に励まされ、時に励まし。

 支えられるだけではなく、互いに支え合いたい。

 そういう関係になりたいのだ。

 尚人は雅紀に抱きついて肩口に顔を埋めた。

「……まーちゃん、ありがとう」

 尚人が呟くと、返事の代わりに雅紀の手がそっと尚人の背を撫でた。その心地よさに尚人の口から安堵の吐息が漏れる。

「でもね、まーちゃん。俺はそうやって大事に守られるだけじゃ嫌なんだ。まーちゃんからしたら俺はまだ子供で、実際自分だけではどうにも出来ないことだって多いのは事実なんだけど。––––守られてばかりじゃいつまでたっても子供のままだから。だから、きついこととか辛いこととか、そんなことがあっても、ちゃんと向き合って行きたいんだ」

 尚人が必死の思いで口にすると、雅紀は尚人を抱え直して視線を合わせた。

「––––そうだな」

 雅紀は呟く。

「ナオだっていつまでも子供じゃない。……頭ではわかっていても、もう少し子供のままでいて欲しくて。腕の中に閉じ込めて置きたくて。そんな俺のエゴで、本当に大切にすべきはナオの気持ちだってことを失念していた。––––あと三ヶ月もしたらナオも高校卒業だし。そしたらナオの世界はもっともっと広がって。……ぼさっとしてたら俺が置いて行かれるかもな」

「俺はね、まーちゃん。まーちゃんと一緒に歩いて行きたいんだよ。自分の足でちゃんと立って、並んで歩いて行きたいんだ。後をついて行きたいわけでも、先に進みたいわけでもない。……それに、もう少し先の話だけど。まーちゃんが甘えたくなったら、いっぱい甘やかしてあげられるようにもなりたい」

「––––それは」

 雅紀はわずかに目を見張り、そしてやんわりと笑った。

「楽しみだな」

「うん。楽しみにしてて」

 尚人がはにかんで笑うと雅紀は尚人を抱き寄せてキスをした。

「じゃあ、今から甘える練習しとかないとな」

 そう言って雅紀は尚人の唇を甘噛みし、舌を差し込んで尚人の口の中をねぶり、舌を絡ませて吸い上げる。

「ナオからもキスして」

 おねだりというには雅紀の態度は余裕すぎるが。尚人は雅紀の求めるままに、いつもされるみたいに口角を変えて何度も唇を重ね、舌を差し込んで絡ませた。

 鼓動が逸る。

 重なり合ったところが溶けそうな程に熱を帯びてくる。

 きつく抱き合って二人でキスを貪り、互いに立ち上がった下腹部を擦り付けあう。雅紀が尚人のモノに手を伸ばして先端をぐりぐりと撫でるので、尚人の乳首がきりきりと立ち上がった。

「はぁッ、まーちゃん」

 甘い声が鼻を抜ける。

「乳首、噛んで。吸って」

 雅紀を甘やかしたいと言いながらの体たらくに頭の片隅では呆れながらも、尚人は昂った感情を抑えられなかった。

「して、まーちゃん」

 尚人のおねだりに雅紀が応える。珠をクニクニと揉まれながら乳首を吸われると頭の芯が痺れた。

 ああ、いい……。

 快楽が体の中を駆け抜けていく。

 まーちゃん

 まーちゃん

 まーちゃん

 尚人はぐずぐずと思考が崩れ落ちていく感覚に躊躇なく身を委ねた。

 

 

 

 

  尚人の舌が口内をくすぐる。いつも雅紀がしていることをトレースするかの如く、歯列をなぞり舌先を吸う。もう幾度となくキスしているのに、どことなくたどたどしくて、物慣れないのに懸命なその感じが堪らない。

 尚人は「もう少し先の話」と言って雅紀のことを「いっぱい甘やかしてあげられるようにもなりたい」といったが、雅紀はずっと尚人に甘えっぱなしなことを自覚している。

 母の死後、現実を直視するのが嫌で、うっそりと重苦しい空気に満ちた家に帰るのが嫌で、「仕事が忙しい」ことを言い訳に尚人に色々なものを押し付けてきた。

 甘えていたのだ。何の不平も不満も口にしない尚人に。

 辛いはずなのに弱音を吐かない尚人に。

 思い返せば情けないばかりだが、自分の感情を持て余し平気でイライラをぶつけたり自分勝手に無視したりを繰り返した。

 そんな状況でも兄として慕い続けてくれる尚人の存在に雅紀は甘えた。自分から切り捨てることはあっても尚人が自分を切り捨てにすることは絶対にない。そんな勝手な思い込みに慢心してもいた。

 しかし、そうやって甘えられる存在があったから雅紀は救われた。尚人がいなければ雅紀は母の死後空っぽの魂を抱えて死んだように生きていくことになったはずだ。

 だからこそ雅紀は、この先は尚人をいっぱい甘やかしたい。自分勝手に傷つけてきた分だけ尚人を甘やかしたい。そう思うのだ。

 それに尚人は何にも変えがたい、雅紀にとって唯一無二のものだから。本当は、誰にも取られないように大事にしまって、二人きりしかいない世界に閉じ込めて、尚人の頭の中からも自分以外の全てを消し去りたいくらいだ。

 しかしそんなことはできないから、せめて二人でいる時ぐらいは尚人の体も視線も思考も全て自分だけで満たしたくて。雅紀は可愛らしいキスに夢中の尚人の下腹部に手を伸ばして、硬く立ち上がっていたそれを軽く握り込んだ。

 刹那尚人の体が小さく震える。そのまま先端を指の腹でぐりぐりと撫でてやると尚人の腰が捩れた。

「乳首、噛んで。吸って」

 そう言って尚人が尖り切った乳首を雅紀に突き出す。

 抗えない誘惑。

「して、まーちゃん」

 催促されるまでもなく、雅紀はぷっくりと立ちあがった尚人の乳首にむしゃぶりついた。

 口に含んで吸い上げると尚人が可愛らしく啼いた。その声をもっと聞きたくて、雅紀は尚人の双珠をくにくにと揉み込みながら乳首を噛む。尚人の腰が揺れて湯面が細波(さざなみ)立った。

(舐めたい)

 雅紀は渇望する。

 尚人の足を思い切り開かせて恥部を眼前にさらけだし、双珠も茎も後蕾も全部舐めまわしたい。恥じらいながらも尚人が雅紀に全てを差し出して、与えられる快楽にくずくずと落ちていく姿を見るのがたまらなくいいのだ。

 その姿を想像し雅紀の喉が鳴る。

 このまま湯船の(へり)に座らせて思う存分舐めまわしてもいいが、十一月の寒空の下。そんなことをすれば尚人は湯冷めして風邪を引いてしまうだろう。

「ナオ。ベッドに行こう。がっつりナオを抱きたい」

 ムードも何もあったものじゃない。しかし雅紀は、自分の欲望を包み隠さずさらけ出すことに躊躇(ためらい)はなかった。

 尚人の手を引いて湯船から上がり脱衣所でさっと体を拭いてベッドに尚人を引っ張り込む。全身をピンク色に染めた尚人は見るからに美味しそうで、雅紀はすぐさま尚人にかぶり付いた。首筋を噛んで吸い上げ、そのまま舌を這わせて乳首を舐める。そして雅紀は尚人の膝裏に手を差し入れて持ち上げると尚人の足を大きく開かせた。雅紀の目の前に尚人の恥部が包み隠されることなく晒される。立ち上がった股間がこれからされることを想像してふるふると震えているのが何とも可愛らしい。

 緊張と興奮できゅっと持ち上がった尚人の双珠を雅紀はぱくりと口にする。はむはむと甘噛みし舐りながら転がすと尚人が啼きながら密口の先端から愛液を吐き出した。それをしつこく続けると尚人の腰が捩れて啼き声が嬌声に変わる。その瞬間が雅紀は好きだった。

「もうダメッ! まーちゃん! あッ! ハァッ! もう出させて! イかせて、まーちゃん、イかせて!」

 まーちゃん!

 まーちゃん!

 まーちゃん!

 尚人の晒す痴態に雅紀の下腹部はさらに固く立ち上がる。

(何も考えられなくなるくらい気持ちよくしてやるよ)

 雅紀は片頬でうっそりと笑うと、しつこくしつこく尚人を攻め続けた。

 

 

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