「MASAKI。この後食事、一緒に行くでしょう?」
撮影終了後、雅紀はそう声をかけられてにっこりと微笑んだ。
「ええ、もちろんですよ」
雅紀のその答えに、声を掛けて来た女性が「よく出来ました」とばかりに優雅に笑む。大物女優
天地貴子は老舗ジュエリーブランド『アウラ』の
『アウラ』のグラビアを飾るのは、デビューしたての新人男性モデルである雅紀にとって大抜擢と言っていい大きな仕事だった。とはいえ、この仕事にさして情熱が持てないのは、雅紀にとってはステージモデルを極めたいという思いが一番だからだ。とは言え仕事は仕事。幼い弟たちを食べさせていくためにも選り好みしていられない。それは、嫌というほどわかっていた。
今日の撮影も『アウラ』新作のためのグラビア撮影で、大きく胸元の開いたドレスを纏う
箱から取り出したジュエリーを彼女に差し出して見せる。彼女の首筋に手をはわせジュエリーをつけてやる。ジュエリーをつけた彼女と今にもキスしそうな雰囲気で見つめ合う。様々なシーンを撮影し、予定時間内に無事カメラマンのOKをもらって終了した。
「あなたが相手だと時間通りに終わるから楽だわ」
「俺のせいで忙しい貴子さんの時間を無駄にするわけにはいきませんからね」
「あら。一人前みたいな口を利くのね」
「生意気言いました。すみません」
「ふふ。冗談よ。せっかく早く仕事が終わったんだもの。MASAKI。この後食事、一緒に行くでしょう?」
「ええ、もちろんですよ。そのために、時間通りに終わらせたんですから」
「口がうまいわね」
「生意気ですか?」
「素直でいいわ」
帰り支度を済ませて二人揃ってスタジオを出る。その際雅紀が天地の腰に手を添えてエスコートする。もう何度も繰り返された光景にいまさら驚いた視線を向けるスタッフなど一人もいなかった。
二人は、天地の専属マネージャーが運転する車で彼女御用達だというシティホテルに向かった。このホテルに入っているフレンチレストランのVIPルームで食事をとり、時間差で部屋に流れ込むのがいつものパターンだ。歳の近い遊び仲間とバーで騒いで女性をお持ち帰りするのとは違う、女優天地貴子が求める大人の遊びに付き合わなければならない。頭の片隅でそれを面倒臭いと思いながらも、男の生理的欲求を処理できるチャンスを無駄にしたくもなくて、雅紀は天地の誘いを断ったことはなかった。据え膳食わぬは男の恥、というやつだ。
それに、雅紀はここ最近順調に仕事が増えていて、以前のような遊びはできなくなっていた。モデルは体力勝負。体を維持するための自己管理が大切だ。いつまでも徹夜で遊びまわっているわけにもいかない。大事な撮影の日に体調不良でダウンすれば、その枠を別の誰かが奪っていくのがこの業界の常識。それもあって、近頃はセックスフレンドから連絡が来ても睡眠を優先させる方が多くなった。ただ正直な気持ちを言えば、やるだけならいいのだが、やった後にぐずぐずと時間を過ごされるのが嫌だった。
その点、天地貴子との情事は、彼女の準備した部屋に行くのだから適当な時間で帰ることができる。
「朝まで一緒にいたいけど、誰かに見られてもまずいでしょうし」
そう言えばいいだけだ。彼女も大人だから変に引き止めることもない。
大物女優天地貴子をセックスフレンドというのはおこがましいが、それでも雅紀的に今一番都合の良い相手であることには違いなかった。
シャンパンで乾杯し、他愛のない話をして食事を楽しむ。面倒臭いと思いながらもそれを顔にも態度にも出すことが一切ないのは「女性をきちんとエスコートできるようになれ」というのが雅紀が尊敬する加々美蓮司の教えの一つだからだ。実践の場だと割り切って天地に付き合う。
「あなた、本当に食べ方が綺麗ね。その齢でテーブルマナーが完璧なんて、外国の貴族出身って噂、本当なのかしら?」
「そんな噂があるんですか?」
「ええ。実はロイヤルに繋がる高貴な血統という噂も」
ふふ、と天地が笑う。雅紀は思わず苦笑した。
その見た目から自分が周囲にハーフだと思われているのは知っている。特に肯定も否定もしないでいるのは面と向かって聞いて来る者がいないからだ。が、さすがに「外国の貴族」や「ロイヤルに繋がる血統」などという噂があるとは知らなかった。『MASAKI』というモデル名以外、一切のプライベートを公表していないミステリアスさがそんな噂を生んでいるのかも知れないが、事実を知れば皆唖然とするに違いない。日本人の両親のもと極々一般的な家庭に育った。そこまでは「へぇ、そうなんだ」程度かもしれないが、父が不倫して家を出て行った後、奈落の苦しみを味わった。しかも未だそこから完全には抜け出せないでいる。家の中の雰囲気は最悪で、近頃は尚人とまともに口も利いていない。
まあ、そんなこと、この場でペラペラと喋る気もないが。
「そんなわけ、ないじゃないですかって答えたら、もう貴子さんから声を掛けてもらえなくなりますか?」
「馬鹿ね。そんなわけないじゃない。出自は自分で選べないけど、生き方は自分次第でしょう? 私、あなたの仕事のやり方、結構気に入ってるのよ」
「貴子さんにそう言ってもらえるなんて。嬉しくて勘違いしそうですよ」
「あら、何を勘違いするの?」
「貴子さんみたいな素敵な人が、俺だけのものになるんじゃないかって」
「若いのに口がうますぎるわ。でも、そんなところも気に入っているの」
天地はそう言うと、ハンドバックからカードキーを取り出してすっと雅紀の前に置いた。
「先に行くわ。あなたは、ゆっくりコーヒーを飲んでから来てちょうだい」
先に席を立つ天地を雅紀は見送る。天地がコース料理を最後まで堪能しないのもいつものことだった。
一人になっても雅紀はマナーを崩すことなく食事を続けた。「いつでもどこでも人目を気にしろ」というのも加々美の教えだからだ。食事の相手がいなくなってもホテルスタッフが見ている。目の前にない視線が自分を評価している。それくらいの気概がなければ一流のモデルにはなれない。
とはいえ、そもそも雅紀にとって、外面を取り繕うことはそんな難しいことではなかった。子供の頃から優等生の皮を被ってきた。意図的な打算があったわけではないが、周囲の大人達が期待する子供を演じることが別に苦ではなかった。優等生でい続けることで尚人が真っ直ぐな憧れを自分に向けて来るのが心地よかったからだ。
父が愛人を作って家を出て行き、母が日に日に弱っていく中では、できた息子の顔をし続けた。自分の不安や不満などとても母には見せられなかったという事情もある。尚人にとっても頼りになる兄でい続けたかった。
だが、その母が死んで、雅紀はいい息子の顔をする必要がなくなった。いい息子の顔をするのをやめたら、同時に頼りになる兄の顔もできなくなってしまった。理由はわかっている。わかっているが、どうにもできない。ジレンマが雅紀の中でのたうちまわっている。自覚した時から一生身の内に飼い続けるしかないケダモノ。このケダモノが自分の内側から自制を食い破って出てきた時、雅紀は尚人の兄ではいられなくなってしまう。尚人を失うくらいなら気難しいと思われても兄のままでいたかった。
雅紀は尚人の前で兄の皮を被り続けている。それに必要な胆力に比べれば、常に人目を気にした所作を心がけるなどさしたる苦労でもない。
最後に出されたデザートを堪能し、コーヒーを飲み干すと、雅紀は卓上のカードキーをジャケットの内ポケットに入れて席を立った。レストランの入っている五階からさらに上に行く。そのために使うエレベーターにはカードキーをかざす必要があった。エレベーターの中に各階のボタンはない。カードキーをかざすと、部屋のある階に止まる仕組みになっているのだ。
エレベーターを降りるとホールと廊下の間にガラス戸があった。その扉を開けるためにもカードキーが必要で、宿泊者以外の侵入を徹底的に排除するシステムになっていた。天地貴子がこのホテルを愛用するのはこういうところに理由がある。
そうした幾つものセキュリティーを通り抜けた先に辿り着いた部屋の扉を雅紀はノックもなくカードキーを使って開けて入る。夜景の綺麗な最上階のスイートルームが彼女のお気に入りで、雅紀も幾度となく来たことがある部屋だった。その部屋の窓際のソファーに彼女はいた。すでにシャワーを済ませたバスローブ姿で、ルームサービスの赤ワインを開けていた。
「お待たせしました、貴子さん」
雅紀は天地に歩み寄って、後ろから抱きしめる。
撮影の時には感じなかった、甘い香水の匂いがした。
「料理は堪能したかしら?」
「ええ、存分に。なので今度は、貴子さんを味わせてください」
耳元でくすぐるように囁く。彼女がほんの少し振り向いたタイミングで雅紀は唇を重ねた。
どちらからともなく舌を絡め合う。くちゅくちゅと卑猥な音が室内に響く。彼女の手が雅紀に絡みつく。はだけた胸元から豊かな乳房がのぞいて、雅紀がたもとから手を差し入れて軽く触れると、彼女の吐息が熱を帯びた。
立ち上がった乳首を親指の腹で擦る。
「あぁぁッん」
彼女が甘やかな声を上げたところで、雅紀はキスをやめて彼女の胸をはだけさせた。白い乳房が眼前にあらわになる。雅紀はソファーに座る彼女の前に膝立ちになると乳房を両手で揉みしだきながら固く立ち上がった乳首を口に含んだ。彼女は乳首を攻められるのが結構好きなのだ。片方の乳首を舌で転がして吸い、もう片方の乳首を指で摘んでくにくにと揉んでやる。それで彼女の喘ぎ声が忙しなくなった。
その状態で雅紀は彼女の片方の足を持ち上げて自分の肩に担ぎ上げる。乳首を吸いながら開いた股間に手を伸ばして秘壺をいじると、すぐにくちょくちょと卑猥な音を立て始めた。
「あ、ああぁ。いい、いいわ」
指を二本にして中をかき回す。柔らかい彼女のそこは細いとは言えない雅紀の指二本を簡単に飲み込んで、雅紀の手を愛液で濡らした。乳首と秘壺の三点を同時に攻められて、彼女の腰が浮く。
彼女の呼吸が荒くなってきたところで雅紀は彼女の中から指を引き抜くと、両足を持ち上げて足を大きく開かせ、両の肘掛けに彼女の足をかけた。ホテルのソファーであり得なほど淫らな姿を天地貴子が晒している。しかし彼女はそれを恥じる様子もなく、早く続きをしろと目で訴える。雅紀は彼女の前で腰を落として正座状態になると、両手で彼女の秘所を完全にあばき、剥き出しになった花芯に舌を這わせた。
「あぁぁぁぁッ!」
彼女が喘ぐ。最初はチロチロと、そして次第に吸うように激しく彼女の秘所を舐めながら雅紀は自分のベルトを緩めると、立ち上がっていた肉茎を引きずり出した。自分でいじって快感を引き揚げる。そして完全に立ち上がったところで、素早くコンドームをつけた。
「このまま挿れていいですか?」
雅紀は這わせていた舌を離すと同時に指で花芯を擦る。彼女の快感が逃げてしまわないように、問いながら再び乳首も攻めた。
「あぁぁぁん。いいわ。早くちょうだい」
お許しをもらって雅紀は彼女の膣内に肉茎を
白い乳房をさらけ出し喘ぎが止まらない彼女を何処か冷静に見つめながら、雅紀は腰を振り続ける。しかし達する感覚には程遠くて、雅紀はいったん動きを止めた。
「やっぱりここじゃ動きにくいです。ベットへ移動しましょう」
濡れた肉棒を引き抜いて、雅紀は彼女を抱えてベッドへ移動する。そして中途半端に脱いでいた服を全て脱ぎ払うと、彼女の腰を抱え込んで今までよりも深く突き刺してかき回した。
「あぁぁぁぁん!」
彼女がよがる。嬌声が室内に響く。花芯を一緒に刺激してやると彼女の腰が
「ああ、イく、イく。もう、イっちゃう! あーーーーーッ!」
激しく
「もう少し、付き合ってください」
そして雅紀は彼女を背面に抱き直す。セックスの時、相手の顔が見えるのがどうにも苦手だった。いつもとは違うとろりと熱を帯びた女性の視線が雅紀から性的興奮を奪う。
––––慶輔さん。
––––慶輔さん。
––––行かないで、慶輔さん。
––––抱いて。もっときつく抱いて、慶輔さん。
夏の定番、タンクトップと短パン姿で尚人はリビングのソファーでうたた寝をしていた。肉付きの薄い華奢な体。毛も生えていないつるりとした脇からタンクトップ越しにピンク色の乳首が見えた。短パンから剥き出しになった生足が妙に艶かしくて、触ってみたくてしょうがなかった。
ちょっとだけ。ちょっとだけ……。
幼児の頃から尚人の裸など嫌というほど見てきた。プール遊びも一緒にしたし、風呂にも入った。股間にぶら下がっているものが小さくて可愛いと思っても、ただそれだけだった。自分と同じものがついてる。何の不思議もなかった。
そのはずだったのに……。
一緒に風呂に入らなくなって何年経っただろう。あの可愛らしい股間の膨らみは今どうなってる?
ちゃんと剥けてるのか?
隠毛は生えたのか?
精通はしたのか?
今まで思いもしなかったことが立て続けに頭に浮かんだ。
見たい。
触りたい。
舐めたい……。
あの艶かしい足を思い切り開かせて、自分の目の前に全てをさらけ出させたい。珠をしゃぶってやったらどんな声で啼くだろう。茎を
そんなことを妄想している間に、雅紀の先端から精が吐き出されていた。