「二重螺旋」二次小説   作:おとよ

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11巻「悋気応変」で臨時の通訳バイトを終えてホテルで一夜を明かした尚人と雅紀。


幸せの余韻

 カーテン越しの光の眩しさに目を覚まし、雅紀は腕の中にある温もりを確かめて微笑んだ。

 尚人は寝息も立てず静かに眠っている。目を閉じた尚人は普段より幼く見えて、昨夜の淫らさなど欠片もないほどに無垢だ。雅紀はそんな尚人の髪を何度も()いて額に軽くキスをする。それでも身動ぎさえしないのは、昨夜の情事に疲労困憊なのだろう。

 昨夜、ホテル最上階のスカイラウンジでの食事を終えて部屋に戻って来たあと、

「キス……して」

 ひっそりと囁くような尚人の呟きに誘われて、雅紀は尚人にむしゃぶりついた。

 歯列を割って上顎をねぶり、小刻みに震える唇をねっとりと舐め上げて、舌を思う存分絡めあった。吐息にも似た甘い喘ぎと共に口角の端から唾液がこぼれ落ちていく様が淫らで、雅紀は尚人のこぼした唾液を追って首筋を舐め上げ、鎖骨のくぼみを通ってそのまま乳首を吸い上げた。

 刹那、尚人が小さく鳴いた。その声に雅紀の下腹部は熱を増し、脇腹が痺れた。尚人をもっと鳴かせたくて、股間にそっと手を伸ばして濡れそぼった蜜口を軽く(いじ)ってやると、尚人は身を仰け反らせてさらに愛液を吐き出した。

 そのあとは、尚人にねだられるままに双珠を揉んでしゃぶり、尖り切った乳首を指先でこねくり回しながら強く吸い、先走りでヌルヌルになった密口をしつこい位に弄った。人生初のアルバイトを無事にやり遂げた高揚感と、自宅とは違うホテルの豪華な雰囲気に当てられたのか、止まらなくなった尚人の(あえ)ぎはいつにも増して艶っぽく、雅紀の(おす)の部分を煽り立てた。

 尚人の中に早く入りたいと渇望する雅紀の熱く猛ったものが、先走りの(よだれ)を垂らし続ける。早く早くと脈動し、痛いほどに怒張する。それでも雅紀はぐっと我慢して、尚人をトロトロの快感の波に沈めていく。

 尚人のことが好きだから、尚人のことが愛しいから、尚人を大切にしたいから、暴走しそうな己の欲をコントロールする。ミルクを搾り取られ、もう出ないと息も絶え絶えに訴える尚人を四つん這いにして後蕾を舌先で(つつ)き、ジェルを絡めた中指をゆっくりと差し込んで第二関節まで沈めると、雅紀は腹側に指を曲げて硬く当たる部分を優しく刺激した。何も知らなければただ痛いだけのそこは、繰り返し刺激されることで快感を生む。男性にだけ存在する性感帯、前立腺だ。尚人とセックスを重ねる間に、雅紀がゆっくり時間をかけて開発してきたそこは、すぐさま尚人に射精する快感とは別の快感を与え始める。尚人の息が荒くなり、喘ぎながら身をよじる。指を二本にして刺激を強くしてやると、尚人は押し寄せる快感に抗うようにシーツに爪を立てつつも、自ら腰を振り出して、もっともっととねだった。

「まーちゃん、まーちゃんのでして」

 もっと強い刺激が欲しくて、指よりも太く熱いものが欲しくて、尚人が急かす。雅紀は尚人からのお許しをもらって、嬉々として後蕾に己を沈めた。絡みついてくる肉襞(にくひだ)の、そのあまりの気持ちよさに、雅紀の先端からはすぐさま精が吐き出される。それで少し落ち着いて、雅紀はゆったりと腰を揺すった。浅く深く出し入れを繰り返し、尚人の中をたっぷり味わう。雅紀をぴったりと包み込む肉襞が気持ちいい。尚人の喘ぎ声が脳髄を刺激する。いきり立った雄蕊(ゆうずい)を突き刺すたびに、快感が腰から背筋へと駆け上がっていく。

「ナオの中、すごくきもちいい」

 雅紀はささやきながら、ギリギリまで引き抜いて、また突き上げる。外からも下腹部を押してやり、リズミカルに腰を揺すって尚人の快感を引き揚げていく。

 しかし、雅紀に余裕があったのもそこまでだった。

「もっと、もっとして。もっと奥まで突いて、掻き回して」

 尚人のおねだりに、雅紀のなけなしの理性はあっけなく吹き飛んだ。あとはもう尚人の望むままに、激しく突いて掻き回し、足を思い切り開かせて腰を叩きつけ、中いきした尚人を休ませることなく突き回し、奥の奥へ気の済むまで何度も精をぶちまけた。

 そんな昨夜の情事を思い出し、雅紀はうっそりと笑う。

 ––最高の正月だな。

 加々美から連絡をもらった時は、正直不快だった。尚人を正月早々アルバイトに駆り出すなんて言語道断もいいところで、加えて一人で撮影現場に行かせるなんて心配の種しかなかった。

 尚人を信用していないわけではない。周囲の大人たちを信用していないのだ。

 ただし、加々美以外。––という注釈がつくのが、雅紀の弱点だった。

 結局、切羽詰まった加々美に押し切られ、アルバイトの件を承諾した。年内最後のカウントダウンステージの本番が迫り、ごねる時間も余裕もなかったせいもある。おかげで本番までの気持ちの持っていきように、雅紀は珍しく苦労してしまった。

 イベント後の打ち上げも、雅紀は加々美と2、3杯飲んだだけで早々にホテルに引き上げた。加々美と話したい者は行列をなしていて、雅紀が独占するわけにはいかなかったし、加々美以外の人間と酒を酌み交わしたい気分でもなかった。

 ––本当なら、元旦の昼には自宅に帰り着いて、ナオの作った雑煮を食べてまったり過ごす予定だったのに……。

 と思えば、悶々として気分は晴れなかった。それで昨日の目覚めは、あまりすっきりとは言えなかったのだ。

 それが一日経ってみれば、これである。雅紀は昨日と今日の自分の気持ちの有り様の違いを自覚して、苦笑せざるを得なかった。

 髪を梳いてキスをする。幸せな気分で尚人の寝顔を眺め、何度かそれを繰り返していると、尚人の(まぶた)がぴくりと揺れて、ゆっくりと見開いた。

「……まーちゃん」

 そのかすれ声に、雅紀は微笑む。昨夜、鳴き過ぎたせいだろう。

 鳴かせ過ぎた自覚は、大いにある。

「おはよう、ナオ」

「おはよう、まーちゃん」

 まだどことなくぼんやりとした瞳で自分を見つめてくる尚人が可愛すぎて、雅紀は尚人の唇を軽く(ついば)む。すると、尚人がわずかに顎を上げて、雅紀の唇にキスを返した。

 幸せすぎて、雅紀は尚人を腕の中に包み込む。すると尚人がもそりと動いて、雅紀の背中に腕を回した。

 素肌が触れ合うことで感じる穏やかな快感。雅紀は、背中から臀部にかけて尚人をゆったりと撫でる。尚人の背中は、しっとりとしなやかで、指感触(ゆびざわり)が気持ちいい。尚人もそうして撫でられるのが気持ちいいのか、微かに甘い吐息を漏らした。

 いつまでもそうしていたかったが、そういうわけにも行かないのがホテル泊の欠点だ。先ほどちらりと時計を確認したら、すでに九時過ぎだった。このホテルはチェックアウトが十二時だからまだ余裕はあるが、それでもそろそろ起きなければならない。

「ナオ、腹減っている? ルームサービス頼もうか?」

 雅紀が問いかけると尚人が小さく首を傾げた。

「ルームサービス?」

「朝飯、部屋に運んでもらうんだよ」

「部屋で朝ごはん食べるの?」

「ラウンジでも食えるけど、ナオ、まだ腰立たないだろう?」

 雅紀が口の端に笑みを乗せて言うと、尚人は耳を赤く染めながらも、こくりとうなずく。その姿が可愛すぎて、雅紀の笑みは自然と深まった。

「いつまでもナオにくっついていたいけど、そんなわけにも行かないからな」

 雅紀は、尚人のおでこに一つキスをしてから起き上がり、モーニングのルームサービスを頼むためにフロントに電話する。それからあちこちに散らばった衣服を拾い上げてバスルームへと持っていき、湯船にお湯を張った。

「ナオ、飯来るまで時間あるから、風呂に入ろう」

 そう囁いてから尚人を抱き上げ、風呂へと運ぶ。高級ホテルだけあって浴槽もそれなりに大きい。尚人を膝に抱えて入っても、ゆったりしていた。

 尚人が自然と肩口にもたれ掛かってくる。二人で風呂に入るのに慣れた証拠で、雅紀の独占欲を満たす。右手で湯を掬って肩に掛けてやりながら時々首筋を撫で、左手で尚人の体を支えついでに腹部をゆったりと撫で回す。

「ナオ、体大丈夫?」

 雅紀がこめかみに唇を寄せて囁くと、雅紀になされるがまま、ゆっくりと呼吸を繰り返していた尚人は、わずかに身をよじって視線を向けた。

「––まだ、体の奥にまーちゃんがいる感じ」

 刹那、雅紀の体がぞわりと反応した。

 ––ナオ、それって……反則だから。

 昨夜あれほど激しく抱き合ったのに、思い切り精をぶちまけたのに、尚人のひと言で下腹部が熱を持ち始める。

「ナオ……」

 もう一回喰っちまおうか。雅紀が本気で葛藤していると、部屋のチャイムが鳴った。ホテルスタッフがルームサービスを運んできたのだろう。

「残念。時間切れだ」

 雅紀は、尚人の首筋に手を添えて頬にキスをし、

「ナオはここにいて」

 そう言い置いて風呂から上がると、さっとバスローブを(まと)ってドアへ向かった。

 部屋の前で姿勢良く並んでいたホテルスタッフたちはさすがのプロで、無駄口など一切たたかず、手際良くテーブルに朝食をセッティングすると、必要な説明だけしてあっという間に部屋を出て行く。その姿を見送って再び風呂場へ向かった雅紀は、尚人を湯船から引き上げ、脱衣所の椅子に座らせて体を拭いてやった。

「 自分で拭けるよ」

 と言う尚人に

「知ってる」

 と雅紀は返して体を拭き上げると、バスローブを羽織らせる。

 バスローブ姿の尚人はなぜか裸でいるよりエロくて、自分で着せておきながらすぐさま剥きたい衝動に駆られたが、雅紀はそんな自分の欲望をぐっと飲み込んで我慢し、尚人をテーブルへ(いざな)った。

「わあ、すごい」

 テーブルクロスの掛けられた窓際の席には、サラダとオムレツ、ベーコンとウィンナーが彩りよく盛られたプレートに、パンとスープ、オレンジジュースとフルーツが並んでいる。典型的なホテル朝食だが、尚人の目には物珍しく映ったのだろう。ぱっと目の色が輝いた。

「すっごく、おいしそうだね」

「時間あるから、ゆっくり食っていいぞ」

 うん、と笑顔でうなずいて、尚人は「いただきます」と手を合わせる。

「あ、パン暖かい。焼き立てかな」

 呟いて口に頬張り、

「んー、おいしい」

 と顔を綻ばせる。

「洋風の朝ごはんって、なんかセレブっぽよね」

 そんなことを真顔で言う尚人が可愛すぎる。

 まあ、確かに、正月早々都内ど真ん中の高級ホテルのジュニアスイートで、ルームサービスを頼んで朝食を楽しむのは、雅紀でもしたことがない贅沢だ。と言うかこんなこと、尚人以外としたいとも思わないが。

「ちょっと通訳のアルバイトしただけなのに、すっごいおまけがついてきたよね」

 そんなことを言う尚人はどこまでも本気なのだろうが、通訳は英語が話せれば誰でも出来るというわけではない。話せる英語が日常会話程度ならばそもそも話にならないし、話の内容を直訳すればいいということでもない。意味を汲み取って最適な表現を選択する。それをタイムラグなしにするのが通訳だ。特に今回のような雑誌インタビューの通訳ならば、その訳した内容が雑誌に掲載される。相当な語学力がなければ務まらない。

 ––やっぱ、英検一級の語学力ってすげーんだな。

 英検一級に必要な語彙数は一万語以上とされ、英語ネイティブでも合格は難しいと言われている。毎年二万人以上が臨む試験で、合格率は約一割。聞く、読む、書く、話す、全てにおいて高い英語力が必要だ。

 だが、そんな英語力があったとしても、初アルバイトで見事大役を難なくこなした尚人の度胸には感服する。尚人ならば大丈夫だろうという思いはあったが、こうもあっさりこなされてしまうと、尚人があっという間に独り立ちして自分の元から去ってしまうのではないかという恐怖が湧き上がってきてしまう。

 兄でありながら尚人の唯一の(おとこ)でありたいと渇望する雅紀のジレンマだ。

「これも全部、まーちゃんのおかげだね」

 そう言って笑う、尚人の笑顔に雅紀は目を細めた。尚人の笑顔が好きだ。すごく幸せな気分にさせてくれる。胸の燻りが一気に晴れて、雅紀は自分のお手軽さにクスリと笑った。そんな自分が嫌いではない。

「ホテルの朝飯もいいけど、俺はナオが作った雑煮が食いたい」

「お正月だもんね」

 ちょっと天然なところもいい。

「帰ったら作るね。まーちゃんに食べてもらおうと思って、いっぱい食材買い込んでるから」

「すっげー、楽しみ」

 帰ったら、雑煮を食って、それからまたナオを好きなだけ喰おう。正月なのだから、明日一日ベッドの中で過ごしても罰は当たらないはずだ。

 雅紀は心の中で呟いて、にっこりと微笑んだ。

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