「で、一体全体、何が起きたんだ?」
加々美は高倉に呼び出され、『アズラエル』本社、高倉の執務室にいた。
目の前に置かれたコーヒーをサーブしたのは珍しくも高倉で、紅茶派のはずの高倉もなぜか今日はコーヒーだった。
どんな心境の変化なのか、聞くのも怖い。
「わからん」
そう言う高倉の顔は苦りきっている。おそらくは、飲み慣れないコーヒーのせいではないだろう。
「先々週、唐澤が『神南堂』の主催する新年会に沙也加嬢を連れて行ったんだが」
「『神南堂』? そりゃ、えらくでかいところへ連れて行ったもんだな」
「良くも悪くも名前ばかりは売れているからな。いっそ、大物揃いのところへ連れて行った方がいいだろうと。そういう判断だったんだが……」
以来、沙也加の様子がおかしい、という。
連絡がつかない、というのだ。
唐澤が電話してもメールしても無視され、自宅に様子を見にいけば対応した祖母から、
「これから大学の試験期間になるので、しばらくそちらに集中させて欲しい」
と伝言を伝えられただけで、本人には会えずじまいだった、というのである。
「本当に、ただ試験に集中したいだけってことはないのか?」
「レストスームで青ざめた顔で茫然としていたって事実がなければ、そうも思うんだがな。パーティー会場で何かあったのは間違い無いんだが……」
唐澤の報告によると、当日は途中まで順調だったという。場慣れしない感じはどうしてもあったが、唐澤にくっついて会場を回り、いい感じでにこやかに挨拶できていた。それが一転したのは、レストルームに行ってからだという。
「ちょっと、お手洗いに」と言う沙也加を、唐澤はレストルームに案内した。その時点でちょっと表情が
レストルームの出入口が見えるホールで、唐澤は沙也加が出てくるのを待った。しかし、沙也加はなかなか出てこない。女性だから時間がかかると思いはしたが、十五分過ぎたあたりで気になり始め、二十分待ったところで、ひょっとしたら急な体調不良でも起こしているのではないかと心配になり、ホテルスタッフに声を掛け様子を見てもらいに行った。すると、沙也加は化粧室の椅子に茫然とした様子で座り込んでいたという。スタッフの声かけで我に返った様子だったが、体調が悪いのかと言う問いかけには「大丈夫です」と答えるばかり。しかし、レストルームから出てきた沙也加の表情は明らかに青ざめていて。この様子ではとても挨拶回りは継続できないと、唐澤の判断でそのまま本社に連れ帰って着替えさせ、その日は唐澤の運転で自宅へ送り届けた。その道中も、沙也加は何やら思い詰めたような強張った表情だったという。
「それじゃあ、レストルームの中で何か一悶着あったんじゃ無いのか? 女性はライバルを蹴落とすために、時にかなり手厳しいことを口にするからな」
この業界では、そんなのあるあるだ。
ちなみに、女性ばかりではなく男性も同様で、加々美だってデビューしたばかりの頃に経験がある。それだけ競争がし烈ということでもあるのだが。
「……それなら、何があったかぐらい唐澤に言ってもいいような気がするんだよな」
唐澤に会うことすら避ける。それが気になる、と高倉は言う。
「しばらく、そっとしといたらどうだ?」
パーティー会場で、何かあったのかもしれないし、そうでないのかもしれない。しかし現状、とても仕事に集中できる心理状態にないのだと言うなら、無理やり引っ張ってきたところで使い物にはならないだろう。
「何かあって潰れるのも、踏ん張って持ち堪えるのも、本人次第だろ?」
「それは、そうなんだが……」
高倉にしては歯切れが悪い。
「何がそんなに気になるんだ?」
「––––仮にこのまま沙也加嬢がモデルを辞めると言い出した場合なんだが。妹が逃げ出した事務所に弟を預けることを『MASAKI』が了承すると思うか?」
(心配はそこかよ)
ある意味納得。
加々美は小さく息をついて、コーヒーを口に運んだ。
「雅紀が気にするのは、尚人君自身がそれを望むのかどうかって点だけだろうよ」
「以前、沙也加嬢と尚人君の関係が結構拗れていると言っていたよな?」
「……まあ、関係良好とは言い難いみたいだな」
「二兎追う者は一兎をも得ず、か……」
「お前にしちゃ、弱気だな」
「計画が色々狂い過ぎてる」
「だったら、大幅な計画変更が必要なんじゃないか?」
加々美はわずかに肩を
「こないだ雅紀と話した時に、『モデルっていうのは、学生との二足の
「耳が痛いな」
「はっきり言って、女性モデルは大学を出るまで待ってたら遅い。その頃には、どこのコレクションも使ってくれねーよ。路線変更するか、進路変更するか。どちらにせよ、本人の腹の括り具合による。まずはそこの見極めが先決じゃないのかって思うが。俺的には、『どうしてもモデルとして成功したいんだって言う気概みたいなものがいまいち足りない』って言ってた唐澤の言葉が全てって気もする」
努力が報われる世界ではない。適性もあれば、運不運もある。とはいえ、他人を蹴落としてでもチャンスを掴みに行く気概がなければ、生き残れるような世界ではないのも事実。モデルになりたい者は、それこそごまんといるのだから。
「クリスの食指も動かなかったみたいだし?」
「決して『ヴァンス』向きじゃない『MASAKI』に興味を持つぐらいだから、沙也加嬢にも興味を持つと思ったんだが」
「クリスが執心してるのはあくまで尚人君だから」
「けど『MASAKI』を『当て馬』にしたわけでもないんだろう?」
「あいつは、俺たちが考えるより、もっとずっと計算高いってことだろ。雅紀はそれをわかった上で受けて立ったと思うけどな」
高倉は何やら思案げに黙り込む。
そんな高倉を尻目に、加々美はカップに残ったコーヒーを飲み干しながら、
(確か、尚人君の二次試験って今週末だったよな)
そんなことを考えていた。
* * *
二月最後の金曜。その日から全国にある国立大学で二次前期試験が開始する。尚人が受験する大学も金曜と土曜の二日間に渡って行われる予定だ。
受験する都内の大学まで、電車を使えば一時間ちょっと。尚人は、通学する時のことまで考えて受験大学を選んだので、試験日も当然、朝から電車で行こうと思っていたのだが、
「当日、悪天候や事故で電車が止まることだって考えられる。人生を左右する大事な試験なんだから、大事をとって前日から会場近くに泊まった方がいい」
雅紀にそう説得された。
さらには、試験会場近くにすでに宿泊先を押さえていると言われれば、尚人は雅紀の提案に従うしかなかった。
雅紀のその準備の良さに驚きつつも感謝し、尚人は試験の前日、雅紀と共に家を出た。
宿泊先は当然ホテルかと思っていたら、一見普通に見えるマンションだった。しかし、「ここだ」と言われた部屋に入ると室内は高級ホテルみたいな内装で、尚人はただただ驚いた。
近頃流行のゲストステイと言われるタイプの宿泊スタイルだという。家具もアメニティもホテルばりに揃っているが、キッチンがついていて自分で料理もできる。観光からビジネスまで幅広く利用されていて、短期ステイにも長期ステイにも対応できるのが魅力らしい。キッチングッズも最新の物が色々揃っていた。
「すごい……」
「ここなら、家にいるのと近い感覚でいられるだろ?」
雅紀はそう言ったが、高級感のある家具とお洒落なインテリアの並ぶワンルームタイプの広々した室内は、どう考えても「家と同じ」なわけがない。
(まーちゃんが、一人暮らししてるマンションに来た感じ?)
それが近い。
とにかく大学までは徒歩十五分ほどで、最高の立地だった。下見を終えて尚人が宿泊先に戻ってくると、雅紀が既に色々とデリバリーを頼んでいた。都内ではテイクアウトを代行してくれる業者がいて、そこに「この店の〇〇をいくつ」みたいに注文すると、注文通りに買って回って届けてくれるのだと言う。デリバリーと言ったらピザか寿司ぐらいしか思いつかない田舎者の尚人にとっては、「こんな物まで届けてくれるんだ」というような驚きの料理が並んだ。
(まーちゃんみたいな有名人には、すっごく便利なサービスだよね)
箱のままでは味気ないと言う雅紀が皿に綺麗に盛り直すと、デリバリーしたとは思えない豪華な食卓になった。それをゆっくり二人で楽しんでから、尚人は明日の試験に備え持ってきたテキストに目を通した。もはや、今更焦って頭に詰め込んでも仕方ないので、覚えたことを確認する作業に終始する。適当に切り上げて風呂に入り、いつもと同じように十二時頃ベッドに横になった。
「ナオが寝付くまで添い寝してやるよ」
そう言われて雅紀の温もりを感じながら目を閉じた尚人は、安心感からあっという間に眠りについた。
* * *
「ナオ、忘れ物ないか?」
「うん。大丈夫。受験票も入れたし、時計もしてるし」
「筆箱は?」
「ちゃんと入れている」
「じゃ、頑張ってこい」
「うん。まーちゃん。行ってきます!」
尚人が元気に出かけていく。
試験二日目。今日二科目受けて、尚人の受験は終了する。午前中が地歴、午後に英語。試験の最後に得意の英語が来るとあって、尚人は気分的に少し余裕があるようだった。
今日も天気に恵まれている。それに雅紀は安堵する。先週は都内でも積もるほどの雪が降ってかなり冷え込んだので、今週末の天気を少し心配していたのだ。
雪が降ったら、ナオが難儀するよな、と。
会場まで歩いて行ける場所に泊まっているとは言え、道が凍れば転倒の危険もある。雅紀の心配は尽きなかった。
本当は会場まで一緒について行きたいくらいなのだが、そんなことをすれば余計な混乱を生みかねないので、ぐっと我慢する。今日の試験の終わりは午後四時で、雅紀は尚人が帰ってくるまで気を揉んで待つしかない。
正午になって、雅紀は一人昼飯を食べる。尚人の午前中の試験が終わる時間だ。昼休みは二時間もとってあり、そんなに長いんなら一旦帰ってくれば? とも思った雅紀だったが、翔南高校にはOB、OG達から受け継がれた「受験当日の昼休みの使い方」が蓄積されているとかで、尚人もしっかりレクチャーを受けたらしい。国立大学の受験対策がしっかりしているのは超進学校ならではだろう。
午後四時。試験が終了する時間。しかし昨日の尚人の話では、試験が終わってから会場を出るまでにかなり時間がかかるという。回答用紙の回収を丁寧に確認しながら行うことに加え、構内が混雑するのを回避するために教室ごとに退出時間をずらしているかららしい。
尚人が無事に帰ってきた時、午後五時を回っていた。
* * *
「ただいまー! まーちゃん」
「おかえり、ナオ」
尚人が部屋の扉を開けて室内に入ると、雅紀が待ち構えていてすぐに抱きしめられた。
「お疲れ、ナオ」
頭のてっぺんにキスされて、背中をよしよしと撫でられる。
それだけで、尚人は幸せな気分になれた。
「よし。じゃ、荷物まとめて帰ろうか」
「うん。豪華なこの部屋も良かったけど、やっぱり自宅が一番だよね」
「デリバリーより、ナオの飯の方が断然うまいしな」
「帰り着くのは、六時半くらいかな?」
「作るの大変なら、食って帰ってもいいぞ」
「ふふ。今日はね、もう唐揚げ用の肉を醤油だれにつけて仕込んでるんだ」
「うまそうだな」
雅紀がにっこり笑って、尚人の耳元で囁いた。
「家に帰ったら、唐揚げもナオもたっぷり堪能しないとな」
その甘い囁きに尚人の顔が焼ける。
「明日は休みだろ? 久々に、腰が立たなくなるまでたっぷり可愛がってやるからな」
* * *
「ほら、おいで。ナオ」
ベッドの上から雅紀が手招きすると、風呂上がりの尚人が耳の先を赤く染めながら、そろそろとベットへ上がってくる。雅紀はその体をそっと抱きしめて風呂上がりの尚人の匂いを思い切り嗅ぐ。
「うーん。いい匂い」
ボディシャンプーの匂いに尚人の熱が混じり込んで、雅紀の鼻腔を至福へと
雅紀は甘いキスをする。尚人が怯えないように。
口角を変えて唇を重ね、舌を差し込んで歯列をなぞる。舌先でつつくように上顎を舐ると、尚人の体が小さく震えた。同時に甘い息を吐き出す。そのタイミングで雅紀は舌をねじ込んで、舌と舌を絡ませた。
尚人がしがみ付くように雅紀の背に手を回す。
その感覚がたまらない。
もっともっと尚人が欲しくて、雅紀は尚人の腰を抱え込んで口内を蹂躙する。やがて飲み込めなかった唾液が尚人の口角から滴り落ちて、雅紀は尚人のこぼした唾液を追って首筋を舐め上げた。
「あぁッ……」
鼻から抜けるような、かすれた声を尚人があげる。
雅紀はスエットの裾から手を入れて尚人の下腹部に触れた。するとそこはすでにガチガチに勃ち上がっていて、すでに先走りのしずくでベタベタに濡れていた。
「ナオのここ、もうガチガチになっている」
雅紀はわざと言葉にして尚人の羞恥を煽る。
「湿ってるし。漏らしちゃった?」
ここのところ激しいセックスはご無沙汰だった。久しぶりへの期待感と受験が終わったことの開放感。それが尚人の感情を
「一回、先に出しとく? それとも、我慢する?」
「……出したい」
雅紀が耳元で尋ねると、尚人が顔を真っ赤にしながら呟く。その姿に雅紀は片頬で笑う。恥じらいつつも快楽に従順な尚人が可愛らしい。
「今日は、今まで頑張ったご褒美だからな。いっぱい出していいぞ」
雅紀はそう言って尚人の下着を剥ぎ取ると、勃ち上がっていた肉茎をパクリと口に咥えた。舌を這わせて舐めあげる。するとほんの数回で、尚人は濃厚な精を吐き出した。
「はぁぁぁッ!」
「落ち着いだだろう? あとはゆっくり、気持ちよくさせてやるからな」
雅紀はそう言うと、今度は珠を寄り分けてしゃぶる。くにくにと口の中で転がし、吸うように舐る。
「はぁぁ。だめ! そんなに強く吸っちゃダメ!」
尚人の叫びは気持ちいいの合図だ。雅紀はさらに舌で転がして、乳首に手を伸ばして摘んだ。
「あぁぁぁぁぁッ!」
尚人が背をそらしてよがる。
「まーちゃん、乳首。噛んで……。噛んで、吸って」
「いいぞ。上手におねだりできたからな。ナオが好きなだけ、噛んで吸ってやる」
雅紀は尚人の上着も脱がせると、熟れて尖りきった左の乳首を舌でねぶり上げ、甘く噛んだ。同時に股間を揉んでやる。珠袋を握り込んでしごいてやると、尚人はとろとろと蜜をこぼした。
快感に喘ぐ尚人が可愛い。
喘ぎながら雅紀の名を呼んで乱れる様が愛らしい。
その痴態を目にすると、もっと啼かせたくなる。
何も考えられなくなるほどに快感を与えて、ぐずぐずにしてしまいたい。
雅紀は、尚人の熟れた蜜口を指の腹で擦り上げて秘肉を露出させた。そこを爪で引っ掻くように弾いてやると、尚人が背をしならせて腰を揺らす。しつこくしつこくそこを攻めると、尚人が激しく喘ぎながら啼いた。
「もう、イかせて。イかせて、まーちゃん!」
根元をきっちり締めているので、イきたくてもイけない尚人が、快感の捌け口を求めて身をよじって叫ぶ。
その痴態が雅紀の興奮を
「まーぁちゃん」
「よし、イっていいぞ」
雅紀が根元の拘束を緩めると、尚人が二回目の精を吐き出した。もちろんそれも雅紀は口で受け止めて嚥下する。残った残滓も搾り取って舐めた。
そうやって全て吐き出させた後に、後蕾を剥き出しにしてほぐす。固く閉じたそこに舌を這わせて何度も舐め上げる。シーツに顔を埋めた尚人の息が忙しなくなってくると、雅紀はまずは指を一本、ツプリと差し入れる。軽く出し入れを繰り返しローションが馴染んだところで、指を二本にして押し広げていく。リズムよく中を刺激してやると、吐精するのとは違った快感に尚人が喘いだ。
「後ろ、気持ちいい?」
雅紀が問いかけると、尚人がシーツに顔を埋めたままこくこくと頷く。指が三本入るまでほぐすと、雅紀は尚人を正面にして後孔にゆっくりと押し挿れた。
雅紀のものが尚人の熱に包まれる。
ゆっくりとながらも雅紀のものを一気に飲み込んで、尚人のそこがぴっちりと閉じた。
「ああ、全部入った」
雅紀は尚人の首筋にひとつキスを落とす。
「大丈夫、何も怖くない」
耳たぶを甘噛みしながら囁く。
「だから、二人で気持ちよくなろうな」
尚人がとろりとした瞳で頷く。その瞳を見つめながら、雅紀はゆっくりと腰を振った。絡みつく肉襞がきもちいい。雅紀のものを包み込む熱に、擦れ合うところが溶けてしまいそうだ。
「ナオの中、すごく気持ちいい」
雅紀は囁きながら抽送を繰り返す。ギリギリまで引き抜いて突き上げ、張ったエラの部分で尚人のいいところを刺激してやる。徐々に激しく腰を振り、叩きつけてねじり込む。
「ハァっ、アァッ! あぁぁぁ……。ああッ!」
尚人の体を激しく上下に揺さぶると、ギシギシとベッドが軋んだ。
「まーちゃん! まーちゃん! まーちゃん!」
自分の名を呼ぶ尚人が可愛くて、雅紀は腰を振りながらキスをする。上も下もぐちょぐちょと卑猥な音を立てて、どこもかしこも気持ちよかった。
「あ、あッ、あぁッ、イくッ。イくぅ……」
尚人の体の震えに合わせて、雅紀も上り詰めた。熱いほとばしりを尚人の奥にぶちまける。
「……まーちゃん」
「ナオ、まだ、これからだ」
雅紀は尚人の片足を持ち上げて体勢を変えると、再び腰を振った。
「ヤダ。待って。まだ、待って。まーちゃん、待って!」
中イきした尚人が泣きを入れるが、もちろんそんなことには耳を貸さない。
雅紀はすでに、ケダモノスイッチが入っていた。
「待たない」
雅紀はうっそりと笑って、奥をえぐる。
「朝まで寝かせる気ないから」
まだまだ時間はたっぷりある。
甘く激しい夜は、これからだ。