クリスが一件のメール着信に気づいたのは、目覚めのコーヒー片手にタブレットを立ち上げた時だった。
『NAOTO』
その送信者の名前に、クリスは急いでメールを開く。
待ちに待っていた写真がようやく届いて、クリスは画面に釘付けになった。
(いや、はや、これは……)
想像以上だ。
今すぐにでも広告に使いたいぐらいだった。
クリスは逸る気持ちを抑えきれずに、すぐさま携帯電話を取り出して電話を掛ける。相手が忙しいのは分かっているが一分一秒でも時間を無駄にしたくなかった。
かなりしつこくコールするとようやく電話がつながった。
『〔今、何時だと思ってんだ〕』
いきなり、耳元でかなり尖った声がした。
開口一番のそのセリフに、クリスは時差を失念していたことを思い出す。
(そう言えば、日本って今何時だっけ?)
そう思いはしたが、悪びれた気持ちはなかった。
何しろこちらは、一分一秒を争っている。
「〔ごめんね、カガミ。慌ててたものだから。時間を確認するのを忘れてたよ〕」
『〔じゃあ、教えてやるよ。日本は今深夜二時だ。よほどの急用じゃない限り掛け直せ〕』
「〔それが、急用なんだ〕」
クリスがそう答えると、電話の向こうから特大のため息が聞こえた。
『〔何の用だ?〕』
「〔すぐにでもナオト君に会いたい。僕はこれから空港に直行して日本行きの飛行機に乗るから、ナオト君と会えるようセッティングして欲しい〕」
『〔随分と無茶を言う。尚人君だって暇じゃない〕』
「〔もちろん、それは分かっているよ。分かってて、あえてお願いしているんだ。それくらい、大事な急用だからね。何時でもいいし、必要があれば僕の方がどこへだって行くから〕」
『〔必死だな〕』
「〔そうだよ。必死なんだよ。だから、お願いできるかな?〕」
『〔断ったら?〕』
「〔––––ナオト君の自宅に勝手に押しかける〕」
『……迷惑な男だな』
ぼそりとした呟きが耳元に落ちる。しかし日本語だったため、クリスは意味が掴めなかった。
「〔何? 何だって? 英語で言ってくれよ〕」
『〔その様子じゃ、尚人君の写真が送られて来たんだろう?〕』
「〔––––って。その言い方は、カガミも見たってこと?〕」
『〔ああ、お前より前にな〕』
「〔それで?〕」
『〔尚人君を口説き落として、俺の個人事務所と契約することになった〕』
「〔個人事務所? それってカガミの? 『アズラエル』じゃなくて?〕」
『〔ああ、俺が個人的に持ってる事務所。尚人君のやりたいことをサポートするための
(!!!!!)
クリスは驚いて、言葉を失った。
まさか、そんな展開になっていたとは思いもしなかった。
「〔カガミ! きみって人は。タカクラより策士だったとはね!〕」
『〔今後は、尚人君に仕事を依頼したいなら俺を通す必要がある。ただ、『ヴァンス』は『アズラエル』と専属モデル契約を結んでいるから、モデルの依頼はNGだ〕』
クリスは唸る。
唇を噛んで、思い切り顔をしかめた。
あの写真を見せられた後に、まさかこんな風に門前払いを受けるとは、悪夢としか言いようがない。
考えたくはないが、まさか妹の
しかし、クリスはふとあることを思い出して、口元に笑みを浮かべた。
「〔それは、日本での話だろう? 今うちの主要旗艦店は世界に十店舗ある。当然、それぞれの国でCMを流したり、雑誌にグラビアを載せたりしている。そこにナオト君を使うのは何の問題もないはずだよね?〕」
電話の向こうで再び盛大なため息が聞こえた。
痛いところを突かれたと、そういう感じのため息だった。
「〔カガミ、僕はとりあえず今から日本行きの飛行機に乗るから。この先の話は、日本に着いてからやろう〕」
クリスはそう宣言すると電話を切った。
そして大急ぎで必要最低限の荷物をスーツケースに詰め込む。
すでに次々とイメージが浮かんで止まらない。
こんなワクワクした気持ちは久しぶりだ。
クリスの心はすでに日本に飛んでいた。