加々美にアルバイトの相談をして二週間後。尚人は加々美が紹介してくれた喫茶店で働くことになった。
某駅近にある大きなオフィスビルの2階。エントランスホールから吹き抜けになっている大階段を上がった先にあるその喫茶店は、開放感と高級感を兼ね備えたホテルラウンジ風で、誰でも利用可能ではあるが、主にビル内にオフィスを置く会社の社員が個人利用から打ち合わせや商談など、幅広い用途で利用するのだと言う。外資系企業が多く入るオフィスビルゆえに日本語を全く話せない外国人の利用も多く、英語が話せるホールスタッフは大歓迎と、店舗マネージャーと面接し、週一でオーケーとの返事をもらって尚人のアルバイトは始まった。
授業が終わった後に大学前の駅から電車に乗って数駅移動し、三時半から閉店までのシフトに入る。
「篠宮尚人です。不慣れなことばかりでご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」
尚人が緊張の面持ちで初日の挨拶をすると、スタッフ全員暖かく迎えてくれた。
『カフェ・スペース・アコード』のスタッフは、バリスタ二名、厨房担当二名、ホール担当三名で、営業時間は月曜から金曜の朝十時から夜七時まで。土日は休業日。飲食店なのに土日休みなのかと最初は驚いた尚人だったが、ビル内で働く社員向けのカフェ・スペースであることから、休みを企業に合わせているという話を聞いて納得した。近頃の企業は、土日休みの週休二日制が当たり前だ。
現場スタッフを束ねているのはチーフの前園で、初日の尚人はこの前園にとにかくくっついて仕事を覚える必要があった。
カフェ・スペースの入り口に来客の姿があると前園はすかさずそこへ向かってにこやかに客を出迎え、来店の用件をさりげなく聞き出して最適な席へと案内する。ちょっと休憩に来た、と言う一人客には、時にバリスタと会話ができるカウンター席に案内し、時にひとりゆっくり過ごせるテラス席に案内する。商談で来たという客には複数名が対面して座れる応接スペースへ案内し、仕事の打ち合わせだと言う客には資料が広げやすいテーブル席へと案内する。自然で無駄のないコミュニケーション。しかも前園は以前利用したことがある客の顔と名前は頭に叩き込んでいるのか、基本的に来客者には名前で呼びかける。そのレセプションサービスのさりげない質の高さに尚人はひそかに感心しながら前園の動きを頭に叩き込んだ。
〔前園さん。今日は随分と可愛い子を連れてるね〕
〔今日からアルバイトで入ってもらうことになった篠宮君です〕
その客が来店したのは、五時過ぎだった。〔今日は定時で上がれたから早めに来た〕と言うその
どう見ても日本人。––––であっても、海外に育って母語が英語ということはあり得るが。使う英語が少したどたどしくてネイティブには思えなかったからだ。
ひょっとして、英語以外の外国語が母語とか?
そんなことを思っていると、前園が説明してくれた。
〔今日はこれから木曜会の集まりがあって、唐木様はそのメンバーです〕
〔木曜会?〕
英語で話しかけられたので尚人も英語で返す。高校三年生の時の部活動の経験からか、英語には反射的に英語で返すようになってしまった。
〔このビルに入っている会社の社員さんたちが、会社の垣根を超えて自発的に作っているサークルです。英会話の上達と業種を超えた情報交換を目的に、木曜の仕事終わりにここに集まって一時間ほど英語で雑談されていかれるんですよ〕
それで、この木曜会の集まりの時は、店内では英語以外使用禁止というのがサークル内でのルールらしい。
〔へぇ。そんな活動をされているんですね〕
社会人の部活動みたいなものかと尚人は理解する。何となく楽しそうだ。
〔君、英語できるんだ〕
唐木がちょっと驚いたように尚人を見やる。
〔ひょっとして帰国子女?〕
〔いいえ。高校生の時に英語ディベートの部活動をして。それで鍛えてもらいました〕
尚人がそう答えると、唐木の表情が動いた。
〔へぇ、そうなんだ。その話面白そうだな〕
〔あ、唐木さん。もう、来てたんですね〕
新たな来店者がやって来て、にこやかに唐木に挨拶する。どうやら彼も木曜会のメンバーのようだ。
〔渡辺様。いらっしゃいませ〕
前園が穏やかに出迎えて、二人をソファー席へと案内する。そこが木曜会メンバーの指定席だという情報を尚人は頭の中のメモに書き加えた。
* * *
夜十時過ぎ、雅紀が仕事を終えて帰宅すると、尚人はいつもの如く机に向かっていた。集中力半端ない尚人は、勉強に没頭してしまうと、こうして雅紀が部屋に入っても気配に気づいて振り返ることはない。その集中力には感心する一方で、
(入って来たのが不審者だったらどうするんだよ)
と少々心配になる。
家の中に不審者。というそのシチュエーション自体どうなのか、というツッコミはこの際なしだ。
何にせよ、大学生になっても尚人は相変わらず勉強に余念がない。雅紀の勝手なイメージだが、大学生は授業で専門を学んで時々レポートを出す必要はあっても、高校までのような日々自宅学習に時間を割いて勉強に取り組む必要などないと思っていた。だから大学生は、授業以外の時間をサークルやバイトに
「ナオ」
声をかけて肩を軽く揺する。それでようやく尚人が気づいて振り返った。
「あ、まーちゃん。おかえりなさい」
にっこり笑顔でそう言われて、雅紀はほっこりする。
「ただいま」
「ご飯食べた? お腹減ってない?」
「飯は食って来た。それより、ナオ。アルバイトはどうだったんだ?」
雅紀は、ベッドの端に腰をかけ、何より気になっていたことをまず問う。加々美に紹介されて始めることになっていた喫茶店のアルバイトが今日からだったのだ。
店自体の営業が夜七時までとそんなに遅くないことと、駅前という立地から帰宅もそれほど危険はないと、一応雅紀的にも納得のアルバイト先ではあったが。些細なことがあれやこれやと気になって今日一日気を揉んだ。心配しすぎて仕事が手につかない何てことはさすがになかったが、それでも休憩中のふとした時間に気づけば尚人のことばかり考えていた。
「最初は緊張したけど、スタッフさんたちみんないい人ばっかりで。さりげなく色々フォローしてくれて。覚えないといけないことはまだ一杯あるけど。でも、楽しかった」
「そうか」
尚人のその表情に雅紀はひとまずほっとする。
モデルの仕事をする前、雅紀もいろんなアルバイトを経験したが、正直職場環境は一緒に仕事をする人間の雰囲気に左右される。スタッフ同士気遣いがある職場は不思議ときつさも半減するが、人間関係がギスギスしていると倍増しする。しかし、アルバイトであっても仕事は仕事。雰囲気が悪いからと言って簡単に「辞めます」とは言えないものだ。何よりきついことから逃げてばかりでは「逃げ癖」がついてしまう。そんな人生では何も得られない。それが雅紀の持論だ。
しかし、尚人に限って言えば、きつい思いをしてまでアルバイトをする必要はない、とどうしたって思う。金なら俺が稼ぐ。その想いが根底にあるからだ。本当は、尚人にはずっと家にいて欲しい。それが雅紀の本心だ。
今のところ、それを言葉にして伝えるのは我慢してるが……。
尚人がにこにこと笑顔で、アルバイト初日の感想を語る。初めて注文をとりに行った時は緊張したが高二の文化祭の和菓子喫茶の経験を思い出してそれなりにうまく行ったこと。若手社員達が英語で雑談するサークル活動をしていると知って、即興英語ディベートの部活動を思い出したことなど。目をキラッキラにして話をする尚人の姿はとにかく可愛くて。雅紀は我慢できなくなって、尚人の手を引っ張って腕の中に抱き込む。肩口に顔を
そのままベッドに押し倒してキスをする。
始めはついばむだけの優しいキス。
足を絡めあって、ゆったりと抱きしめる。
尚人が怯えないように。とびっきり甘く優しいキスから始める。
するとすぐにドキドキと尚人の鼓動が逸り出す。
尚人が興奮しているのを感じて雅紀はキスを深めた。口角を変えて何度も唇を重ね、同時に膝頭で尚人の股間をぐりぐりと刺激する。次第に尚人の呼吸が荒くなり、尚人が甘い吐息をもらしたタイミングで口内に舌をねじり込むと歯列をなぞり上顎も下顎も執拗にねぶって舌を絡ませた。
「まー、ちゃ……」
雅紀がスエットの裾から手を差し入れて胸の尖りを指の腹で押しつぶすと、尚人が体を震わせて小さく啼いた。その声が可愛らしくて、雅紀はキスを貪りながらそのまま尖りをいじくり回す。
「あぁッ……」
尚人の吐息が熱い。
瞳が淫らに濡れている。
「ナオは、ホント乳首いじられるのが大好きだな」
雅紀はわざと言葉にして尚人の羞恥を煽ると、スエットをたくし上げて熟れて尖り切った乳首をさらけ出して甘く噛んだ。
尚人の体が小さく跳ねる。
雅紀はそのまま乳首を舌でねぶり上げて吸いながら、右手を下腹部へと滑り込ませる。半勃起状態だった尚人のものを雅紀がゆったりと握り込んで撫でると、雅紀の手の中でそれは完全に勃ち上がった。
「はぁぁぁぁ……」
尚人がかすれた声を上げる。その声がたまらない。
雅紀はそのまま執拗に尚人の乳首を攻めた。舐めて噛んで吸い。指先でこねくり回してつまみ上げる。同時に股間をやわやわと揉んでやると、尚人は腰をよじりながら先走りの蜜を吐き出した。
「ナオのここ。もうべたべたに濡れてる」
耳たぶを甘噛みしながら雅紀はささやく。
「ここも舐めて欲しい?」
露出した先っぽを指の腹で撫でると、さらにじわりと蜜が溢れ出て雅紀の手を濡らす。
「それとも、このまま指でグリグリして欲しい?」
ちなみに尚人はどちらも好きだ。露出した秘肉の先端を舌先でほじるように刺激してやるとそれはそれは可愛い声で啼き続けるし、爪の先で念入りに擦り上げて刺激してやるとたまに本気で気をやってしまうほどそこが弱い。
「……舐めて欲しい」
「ナオは俺に舐められたいんだ?」
「まーちゃんに、いっぱい舐めてほしい」
雅紀はにんやりと笑う。快楽に従順な尚人が可愛い。
「じゃあ、ナオのいいとこ。俺に全部見せて」
雅紀が言うと、尚人がもぞもぞとスエットを脱ぎ捨てる。そして羞恥で顔を焼きながらも、足をM字に大きく開いて雅紀の前に股間をさらした。
「いい子だ」
雅紀は尚人の股間に顔を埋めると裏筋に舌を這わせた。尖らせた舌先で浮いた筋をなぞり、エラの切れ目を舐め、そこに唇を当てて上下する。
「あッ。そこ、……きもちぃ」
カリ部は男性ならば誰もが気持ちよく感じる部分だ。
尚人が内腿をひきつらせながらあえぐ。本当に気持ちが良いのだろう。尚人の気が済むまでしばらくそこを刺激してやってから、雅紀はぷっくりと膨れた秘肉の先端を舌先でチロチロと舐めた。別の刺激に尚人の声が変わる。一緒にくにくにと珠を揉んでやると先走りの蜜がつぎつぎと溢れ出た。
雅紀は尚人が勝手にイったりしないように、根元をきっちりと締めて刺激を与え続ける。するとやがて、イきたくてもイけない尚人が快感の捌け口を求めて身をよじりながらあえいだ。
「イかせて。まーちゃん! もう、イかせて!」
啼きながら懇願する尚人を雅紀は少し休ませてまた刺激する。こうして緩急をつけながら快感を与えるだけ与えた後に吐射させてやると、簡単に射精するのとは違った痺れるような深い快感が得られるのだ。
「よし、イっていいぞ」
雅紀が根本を締めていた指の輪を緩めると、尚人は体を震わせて濃厚な精を吐き出した。それを全て口で受け止めて、雅紀は嚥下する。
「んー、ナオの、濃くて甘い」
雅紀はベッドの上でくたりとなって荒い呼吸を繰り返す尚人を見やって笑みを浮かべる。気怠そうにベッドに沈む尚人は、とにかくエロくて。濡れた瞳は、どう見たって誘っているようにしか見えない。
当然、これで終われるわけがない。
「ナオ、明日は二限からだよな?」
雅紀が問うと、整わない呼吸の中で尚人が瞬きだけで返事をする。雅紀はその返事を確かめて、舌舐めずりするようににやりと笑った。
「明日は送っていってやるよ。だから、ナオ。最後まで付き合ってくれよ」
雅紀はそう言うと、再び尚人にむさぼりついた。