現在、就活前の学生インターンシップは当たり前。『リゾルト』も例外ではなく、毎年学生インターンを受け入れている。尚人の希望した職場体験は、このもともと予定されていた学生インターンシップに参加させてもらう形で実現した。
参加学生は三十人程。四人から五人の班に分かれての班別活動を中心とする五日間のプログラムで、最終日に自分たちで考えた新商品の発表、それの販促方法などの模擬プレゼンテーションを行わなければならない。
一日目の午前中は、最初にオリエンテーション。班分けは会社側が事前に行っていて「辞令」という形で発表された。「辞令」を受けて同班になったメンバーは、このインターンシップ期間中は、大学や学年、年齢など関係なく一緒に仕事をする「同僚」だと説明される。自己紹介も「この度〇〇班に配属となった〇〇です。よろしくお願いします」という形で行うようアナウンスされた。
この仕掛けで、インターンシップ参加者らは「学生」から「新入社員」のような気分になっていく。尚人の「同僚」は、山内、鍋田という男性二人と、橋本という女性一人の合計三人だった。
オリエンテーションが終わると、「社員研修」という名前の全体説明会に移る。会社概要やこれまで開発してきた商品等の説明があったのち、各部門の社員が登場し、自分たちが日々どんな仕事をしているのか「先輩社員」の生の声を聞かせてくれた。午後からは早速班別に分かれて社内見学。午前中に聞いた話の実務をその目で確かめる時間だ。
二日目は「外回り」という名前の販売実習を行う。量販店などの店舗に立ち来客者に商品説明等を行う活動だ。このために『リゾルト』が展開する商品の特性などを頭に叩き込んでおかなければならず、そもそも家電に疎い尚人は会社からもらった資料を前日夜遅くまで読み込んだ。メーカーのスタッフが店舗に立つのは販売促進のためであるが、客がどんな商品を求めているのか世の中の動向を確認する目的もある。
三日目から最終日に行う模擬プレゼンテーションのための準備に入る。班に一人ずつ指導員となる社員がついて学生たちのプレゼンテーション準備をサポートしてくれる。尚人たちの指導員は管理統括部に所属する斎木だった。
「今日からプレゼンの準備に入っていきます。新商品について何かアイデアはありますか?」
斎木の進行で学生たちがそれぞれのアイデアを出す。過去に発売されたもののリメイク品を提案する者。量販店で見かけた他メーカーの売れ筋商品を『リゾルト』でも販売することを提案する者。既に販売されているもののデザインを乙女仕様などコアな客層向けに変えることを提案する者。いろんな意見が出る。
そんな中。
「僕はスマートフォンをワイヤレス充電できるブルートゥーススピーカーを提案します」
鍋田が淡々とながらもどこか熱のこもった口調で提案した。鍋田は『リゾルト』が本命らしく「同僚」の中では誰よりも『リゾルト』や家電に詳しい。
「ワイヤレス充電」や「ブルートゥーススピーカー」という単語は尚人がこのインターンシップに参加して初めて知った言葉だ。それ以外にも家電に関することは今回初めて知る事が多い尚人だが、知識としては知っても実際どんなものかいまいち分からない。それで販売実習先の店舗で実物を初めて見て、尚人がそれらの機器を興味津々に眺めていたら、鍋田が色々と詳しく教えてくれた。鍋田の説明は取り扱い方だけに終始せず、消費者目線がふんだんに入っていたので、こういったものに興味のある客が商品のどういうところを見ているのかという参考になったし、とても面白かった。ついでにイヤホン選びのコツみたいなのを聞いてみたら、いろんなメーカーのいろんなタイプのイヤホンを引き合いに出して、用途に応じた最適イヤホンの選び方を教えてくれた。
そんな鍋田が提案する「ブルートゥーススピーカー」は「自分が今本気で欲しい物」なのだという。
「今の若者は音楽をスマートフォンに入れているのが一般的だし、家で音楽を聴く場合もスマートフォンを音源にしている人が多いと思います。しかしスマホはそのままだと音が小さい。だからブルートゥーススピーカーを使う。そんな人は多いと思います。かく言う僕もそのタイプなんですが、しかし地味に手間なんですよね。家に帰って携帯取り出してブルートゥーススピーカーを同期させて音楽を再生させて。携帯は携帯で充電器で充電させないといけない。だから、家に帰った時にスピーカーの上にポンと置いて充電が開始して、それでブルートゥーススピーカーと自動的に同期してすぐに音楽が再生できるなら便利だなって思うんです。スピーカーの上が携帯の定位置になると、出かけるときに「あれ、携帯どこ置いたっけ?」と捜す手間も省けますし。ただ、今の若者はアパート一人暮らしが多くて音漏れには神経質なので、その対策として指向性スピーカーを採用。さらにハイレゾ音源にも対応。ここまで機能が揃っていると、音楽を楽しみたい若者にかなり需要があると思います」
「それいい! そんなのあったら絶対買う」
橋本が速攻で反応した。
「確かに便利かもな。買うかどうかは、値段次第だけど」
山内も頷く。
尚人はスマートフォンを持たないし、音楽を聞く時はCDプレーヤーを使うので欲しいと言う気持ちにはならないが。それでも、最近の若者の動向を考えると需要はあるだろうなと思う。
「最近の若者向けの家電だよね。需要はありそう」
「では、この班の新商品は鍋田君が提案したブルートゥーススピーカーで行きますか?」
満場一致で決定し、それからはプレゼンのための資料作りに入る。鍋田がざっと書きつけたイメージをもとにディスカッションを繰り返して商品の形を具体化し、そこから会社にあるデータベースを活用して原価計算、販売価格を算出する。
「ここまで機能つけると、結構な値段になるな」
「完全に高額商品。これじゃ、ターゲットにしてる一人暮らしの若者は手が出ないんじゃない?」
機能を削るか、高額商品として割り切るか。時々斎木のアドバイスも受けながら資料作成を進めていく。
「販促はどうする?」
「一般的にはテレビコマーシャル?」
「今テレビ持ってない若者も多いよ。ニュースもドラマもネットでって人も多いんじゃない?」
「えー、私一人暮らしだけどテレビあるよ。テレビドラマとネット配信専用のドラマじゃ別物だし。パソコン画面じゃどうしても小さいし」
「今の一人暮らしの若者のテレビ所有率を確認しよう」
プレゼン内容に説得力を持たせるため
情報を収集して、分析して、検討する。何度も話し合い、意見を出し合い、手分けして作業する。そうして二日かけて何とかプレゼン資料を作り上げ、最終日の午前中に斎木の指導を受けながらプレゼンの練習を行なって、午後から幹部社員も参加する中で各班の発表が行われた。
大学の授業では味わえない濃密な五日間を過ごし、尚人はそれだけでこのインターンシップに参加した甲斐があったと満足したのだった。
* * *
夜十時過ぎ、雅紀は仕事を終えて家に帰る。電子錠のドアを開けて玄関に入り、そのまままっすぐ突き当たりの部屋へと向かう。
「ただいま、ナオ」
ノックもせずに扉を開けて部屋に入る。雅紀が声をかけると、机に向かってパソコンに何やらパチパチとリズム良く打ち込んでいた尚人が手を止めて振り返った。
「おかえり。まーちゃん」
にっこり笑顔で出迎えられて雅紀は和む。どんなに疲れていてもこの笑顔一つで癒される。
そのまま歩み寄ってキスをする。帰ってきた時のいつもの挨拶だ。
「何してたんだ?」
尚人は夏休みに入ったというのに何だか毎日忙しい。友人と出かけたり、いきなり加々美に呼び出されたり。ここ一週間は企業インターンとやらに参加することになったと言って特に忙しそうにしていた。
企業インターンとは、学生が興味ある企業で就業体験することで、仕事や企業への理解を深め、職場の雰囲気を味わい、より納得のいく就職先選びに繋げるために行うものらしい。なので対象のメインは就職活動を目前に控えた大学の三年生らしいが、今回尚人は一年生ながら加々美を通して参加させてもらえることになったと言っていた。
「インターンシップに参加した感想をレポートにまとめてた」
「学校に提出するのか?」
「ううん。今回参加したインターンシップは加々美さんにお願いして個人的に参加したものだから。学校にレポートを出す必要はないんだけど。加々美さんにはきちんと報告しようって思って。あとでまーちゃんも読んでくれる?」
「もちろん。でもその前に、どんなだったかナオの口から聞きたいかな」
インターンシップがどんなものかは聞いていたが、具体的にどんなことをしたのかまでは聞いていない。
雅紀はベットの縁に座って「おいで」と尚人を呼ぶ。それで素直に膝に乗っかる尚人が可愛い。
「今回俺は、音響機器メーカーの『リゾルト』っていう会社のインターンシップに参加させてもらったんだけどね」
五日間のプログラムについて尚人が話し始める。どんな話を聞いて、どんな物を見たのか。どんな体験をして、どんなことを学んだのか。見学がメインだった高校の職場体験とは違って、より実践的な課題解決型のグループワークだったようで、どんな取り組みをしたのか尚人は事細かに話してくれた。
「俺ね。今回参加したインターンシップがすっごく楽しくって。参加してよかったって思ってる。課題解決に向けて、一緒のグループになったメンバーとたくさん話し合って知恵を出し合って。いろいろ調べて検討して。一生懸命みんなで作り上げていく感じがすごく楽しかった」
尚人が言う。目をキラキラさせて。
「たった五日で終わっちゃうのがなんか少し寂しくて。いろんな人と、もっといろんな物を作り上げる体験がしたいって。インターンシップが終わった後も、なんか体の奥がもぞもぞしてる感じ」
尚人がそんなことを言うとは、今回のことはよほど刺激的な体験だったのだろう。
「––––でね。まーちゃん」
尚人の
「以前まーちゃんのスタンドインに同行させてもらったことがあるでしょう? 俺が見たのはCM撮影現場のほんの一部だったけど。カメラマンだった伊崎さん以外にも、照明さんとかアシスタントさんとか、スタイリストさんとか。CMに出演するタレントさん側のスタッフさんとかもたくさんいて。……あの時の現場を思い出したら、CMもいろんな人が関わって、みんなで作っていくんだろうなって。そう思ったら。きっとそれは、今回のインターンシップで感じたような。楽しい経験かもしれないって」
雅紀は尚人がなぜ急にそんな話をしだしたのかわからない。わからないが、わからないなりに察する。先日の加々美からの急なランチの誘い。あれはおそらく、単に「うまい物を食べに行こう」ではなかったのだろう。
「実はCMに出演して欲しいって話があって。俺には無理とか、俺以外に適任はいっぱいるんじゃないかとか。そんな思いが先に立って。受けるつもりはなかったんだけど。断るにしてもいろんなことをきちんと理解した上で断るべきだって思って。それで、今回のインターンシップに参加することにもなったんだけど」
「オファーを受けてもいいかなって気になってる?」
雅紀が問うと、尚人がほんの少し目を伏せた。
「ねぇ。もし俺がしてみたいって言ったら。まーちゃんが困ったことになる?」
「それは、俺が困るって言えば、ナオは自分がどんなにしてみたいって思っててもやめるってこと?」
「俺が一番大切なのはまーちゃんだから。もし、まーちゃんが困ったことになるっていうなら、それは俺が望むことじゃない」
尚人の言葉に雅紀は微笑む。
聞くものが聞けば、主体性がないとか依存してるとか。そんなふうに言うかもしれないが。他人の知ったふうな評価に何の意味があるだろう。
相手を想い、相手を気遣う。想われていることを知り、気遣われていることを感じる。それに慰撫される魂が間違いなくある。そこに深まる絆がある。
「俺はナオが本気でしたいって思うことは応援したい。ナオがしたいことをやってる姿を見たいって思うし」
「まーちゃんが困ったりしない?」
「ナオ。俺を誰だと思ってんだ」
雅紀が覗き込むように尚人を見つめると、尚人がはにかむように笑った。幼い頃からこの笑顔が好きだ。自分だけのもの。そんな気になる。
雅紀は尚人を抱き寄せてキスをする。軽く甘い口づけ。啄むように何度も唇を重ね、腰に手を回してぴったりと体をくっつけると、ドキドキとはやる尚人の鼓動が伝わってくる。
「……まーちゃん」
重ねる唇の隙間から尚人の吐息がこぼれ落ちる。
甘やかで、柔らかで。なのにどこか涼やかで。ひどく耳触りがいい。
尚人が可愛くて仕方ない。
愛おしくてたまらない。
本当は、誰の目にも触れないように家の中に閉じ込めて。大事に大事に。独り占めしたいのは山々だけど……。
いろんなことに出会って、自分の世界が広がっていく喜びをストレートに言葉にして伝えてくる尚人のキラキラとした顔を見るたびに、尚人が進んでいくその道を応援したい気持ちも本当で。
雅紀は重ねて溶け合った唇にゆったりと舌を差し込んだ。歯列を割って上顎をくすぐるようになぞり、口内を執拗に舐めまわして舌を絡ませる。
尚人の呼吸が荒くなる。熱を帯びて、誘うようにあえぐ。服の裾から手を差し入れて胸の尖りを指の腹で擦ると尚人の体がびくりとふるえた。
「はぁッ…」
切ない吐息がこぼれる。腰が捩れて、股間の膨らみが雅紀の下腹部に押し付けられる。それを感じて雅紀はうっそりと笑った。
「ナオ。もっと気持ちいいことしたい?」
耳たぶをべろりと舐めて雅紀が囁くと、尚人がこくりと頷く。
「まーちゃんと一緒に、気持ちよくなりたい」
尚人の言葉に雅紀の笑みは深まる。
これから先尚人の世界がどんどん広がって、独り占めできる部分が少なくなってしまっても、こんな尚人を知るのは自分だけ。そう思えば、我慢できる。
「ナオが気持ちいいと、俺も気持ちい。だから、ナオ。いっぱい気持ちよくしてやるからな」
甘く淫らに雅紀は囁く。
「ナオが好きなだけ珠を揉んでしゃぶってやる。乳首がきりきりに尖って芯ができるまでしゃぶってやるからな。ナオ、好きだろう? 俺に珠を揉まれながら乳首噛んで吸われるのが」
睦言を囁くだけで尚人の体温が上がる。これからされることを想像して興奮しているのがわかる。無垢さと淫らさを同居させた尚人が濡れた瞳で雅紀を見つめる。
「まーちゃん。して……」
その一言に、雅紀の下腹部が一気に熱を帯びた。