ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~ 作:水鳥ばんちょ
――――彼女と……初めて会ったときの言葉を、思い出す
『私は『超高校級のジャーナリスト』“朝衣 式(あさい しき)”よ、折木くん・・・・・・と、言ったわね、早速だけど少しお話を聞かせてもらってもよろしいかしら?』
――――彼女との、小さな約束を思い出す
『もし何か思い出したらお話を聞かせてもらいえないかしら?何か力になれると思うの・・・・・・』
――――彼女のやさしさを、思い出す
『フフッ、冗談よ。でもごめんなさい、ハンカチしか渡せなくて……』
――――彼女の決意を、思い出す
『これからもこんな風に全員で話し合う時間は必要だと思うの……だから、またいつか会議を行いましょう』
――――彼女の『ありがとう』を、思い出す
『…やっぱり貴方って、律儀な人ね……ありがとう』
――――彼女との……別れの言葉を、思い出す
『それじゃあね、折木君』
何度も…何度も…頭の中で、彼女の…“朝衣式”の姿が何度も流れ続ける
話し、動き、笑い、泣き
人として当たり前の姿の数々
だけど
それは、“昨日までの”の朝衣の姿
今
目の前には在るのは
息も無く眠る、彼女の姿――
* * *
【炊事場エリア:第1倉庫】
「ああ、朝衣、さあん…」
横たわる朝衣を前に、俺は呆然と立ち尽くす。後ろでは、小早川が震えた声で朝衣の名前を口にしている。
「ななななな、な、何事なのかねぇ!!!???いいいいい、いい、今の悲鳴は!それに、あの、ピンポンパンポーンって……!」
小早川の悲鳴、モノパンのアナウンス。それらを聞きつけた古家が、血相を変えて倉庫の出入り口へ飛び込んでくる。
「…って、んぎゃあああああああああ!!!!あ、ああ朝衣、さん……!」
「う、ううううう……」
「折木君!!!これは、これは、どういうことなのかねぇ!?!?説明して欲しいんだよねぇ!!」
古家は、声を裏返し、叫ぶように言葉を俺にぶつける。だけど…目の前に起きた出来事が、現実であるかどうかでさえ判別できない俺の耳には、言葉は届かない。
「――――っ!?お、折木君!!何を…!!」
心と一緒に、言葉を貸す耳も無くなってしまったかのように、俺は――
ただ前に前にと歩き出していた。
眠るように倒れる朝衣に近づき、膝をつく。
そしてそっと、小刻みに揺れる手を、朝衣の首元に近づけていく…。
自分ではもう、彼女が今どういう状態なのか、理解しているはずなのに。
――大丈夫、きっと生きている。
何の根拠も無い心の声が、俺をごまかそうとする。
「――――!」
朝衣に触れた瞬間。俺の吐く息に怯えが重なる。
――――冷たい
――――生きている人間とは思えないほど、酷く冷たい
俺は確かに感じたその感触で嫌でも確信してしまった。
目の前に転がるのは“人の死”であることを。“朝衣 式”の――死体であることを。
そして同時に直感する。
――――始まってしまった
――――ついに、コロシアイが…
「折木…君?あ、あの…」
「古家……皆を炊事場まで集めてきてくれないか?」
「そ、それよりも…折木君の方こそ……」
「………頼む」
「わ、分かったんだよねぇ!」
顔に暗い影を落とす俺に古家は心配の目を向けてくる。しかし、俺からの強い頼みを汲み取ってくれた古家は…頭を振り、そそくさと炊事場を後にする。
そして…
倉庫に残った俺は――現実(いま)を受け入れられない“もう1人の”仲間に近づいていく。ドアの側で隅に追いやられたネズミのように怯える、もう1人の仲間に。
「小早川…一旦腰を落ち着けよう……立てるか?」
「す、すいません……腰が、腰が抜けてしまって……」
「肩を貸す……ゆっくり、ゆっくり行こう」
腰を抜かしてしまって立てない小早川の肩を持ち、俺は一歩一歩、踏みしめるようにゆっくりと倉庫を離れていく。
「あ、あの、その、折木、さん。朝衣さんは……」
「…………」
「……うぅ……」
……答えなんてわかっているはずなのに。肯と取れる俺の沈黙に、小早川は今にも泣きそうな程顔を歪めていく。ツラい現実を目の前にした彼女に、俺は深く同情する。
――――だけど、きっと理解できたはずだ、今何が起こっており、これから“何が”始まるのかを。
* * *
【炊事場エリア:炊事場】
「折木くーーん!!!皆を連れてきたんだよねぇ!!!!」
酷く不安定な状態の小早川を落ち着かせながら、テーブルの椅子に腰掛けること数分。炊事場の入り口から、古家の大声が飛んでくる。
「ちょっとちょっと!!!折木!!何の騒ぎさね!!」
「ミスター古家に連れられて来てみたけど……どうやら、ただならぬ雰囲気みたいだね」
「…あれあれ~~?小早川さん大丈夫~~?顔が真っ青だよ~」
古家に連れられ、続々と炊事場に集合していく生徒達。
昨日の動機発表と同様、それぞれの顔色には『不安』『疑念』『当惑』、様々な負の感情がにじみ出ている。
「……皆、集まってくれたか」
1人を除いた生徒全員が集まったのを確認した俺は、重い腰を上げるように立ち上がる。いつも以上に険しくしかめた顔で、全員を一瞥し、告げていく。
「全員。さっきのアナウンスは耳にしているよな?」
厳かな声色で発せられる俺の言葉。一部の生徒が焦ったように、頷きだす。
「……うん」
「勿論!!!朝!!!!起き抜けに!!!!聞いてきたぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「『死体が発見された』……とのたまるアナウンスが……まさか…!」
俺は決心するようにかぶりを振る。一拍空け、重苦しい唇を持ち上げる。
「――朝衣が。倉庫で、死んでいた……」
「なっ……!」
「朝衣、さん、が…!」
「ぬわんだとぉ!!あの…朝衣が……」
この発言に、何人もの生徒達が驚きと悲しみ出す。
「……左様で、ござるか」
「えらいことになってもうたなぁ」
「そっかー……式ちゃん、死んじゃったんだー……」
「フゥ……とうとう、始まってしまったみたいだね……」
その一方で、突然の訃報に、冷静に何かを悟ったような反応を表わす者もいた。痛く平静な彼らに数人の生徒達は噛みつくように声を荒げる。
「何冷静に話してるんだい!!!人が殺されてるんだよ!!!」
「そ、そうなんだよねぇ!!早く…早く119番…救急車を…!」
「……電話無い」
「ああ!!しまったんだよねぇ!?」
「せやったら……蘇生術を施すんはどうや?まだ完全に息が無いってことも―――」
「――いや」
鮫島の言葉を遮るように、俺は声を絞り出す。
「さっき…脈を…確認してみたんだが………」
これ以上は口にしたくない俺は、黙って首を振る。その様子に、たった今まで慌てふためいていた者達は1ミリの『希望』も無い、『絶望』の表情へと変転させる。
「……とりあえず落ち着くです。頭に血が上ってたら、まともな判断ができるものもできなくなるです」
「コレが……コレが落ち着いていられるかい!?仲間が殺されたんだよ!!!」
「“誰に”…ですか?」
「えっ……」
雲居が放った言葉に、意味の無い威勢を振りまく反町が、言いよどむ。
「よくよく考えてみるです…私達以外の人間がいないこの閉鎖的な空間の中、朝衣は“誰に”殺されたんですか?」
雲居は青黒い顔色のまま、反町に重く、ツラい現実を言い聞かせていく。まるで自分に対しても…言い聞かせるように。
「そ…それは……」
「そんなもの…モノパンに決まっているぅ!!!我らの中の誰かが、朝衣を殺すなど…ありえん!!」
「確かになんだよねぇ!!あたし達の中に仲間を殺す輩がいるとは思えないんだよねぇ!!」
「よし!今すぐあの紳士かぶれのパンダを引っ張り出してぇ――」
「いやぁ……それこそありえませんヨ……断言しても言いでス」
雨竜が言葉を言い切る前に、当の話題の人物(というかロボット)、モノパンが俺達の中心に忽然と姿を現す。
「のわぁぁ!?モノ…パン…」
「……また急に現れる」
「ビックリするから~そういうの止めて欲しいよ~、心臓に悪いのは嫌いだよ~」
嬉しくもないサプライズを受けた俺達は、怪訝にモノパンを見据える。
「くぷぷぷぷ……雨竜クンが、変なえん罪を押しつけようとしてくるので、諸々の雑務放り投げて駆けつけてきちゃいました♪」
俺達を嘲笑うように口元をニヤリと曲げる。その笑みからは、昨日とは違う“目的を達することが出来た”という含みが感じ取れた。
「くぷぷぷぷ……雨竜クン、そしてワタクシをお疑いの皆々様……もう一度言わせていただきましょウ。ワタクシがキミタチを殺すなんて、あるわけ無いんですヨ…」
「……何を根拠に――」
「キミタチ…お忘れですカ?この施設『ジオ・ペンタゴン』の規則ヲ……」
俺達は急ぎ電子生徒手帳を手に取り、校則の画面を見直す。画面を見た数人の生徒達は、苦々しく顔を歪め出す。
「規則№10『モノパンが殺人に関与する事はありません。しかし、コロシアイの妨害があった場合この限りではありません。』…これを犯すことは…ワタクシ自身の規則に反することになル……自分で自分の首を絞めるようなものでス」
“故に”と言葉を挟む。
「ワタクシはキミタチには一切の気概を加えることは無イ……いや、できなイ。朝衣さんを殺すことができるのは…キミタチの中の“誰か”なんですヨ……」
とどめであるかのように、モノパンは俺達の心を暗く、底の見えない谷へと突き落していく。さっきまで反論しようとしていた生徒も、その余地が無いと受け止める。
――――この中に、朝衣を殺したクロがいる
この事実を突きつけられた俺達は、互いに瞳を交差させる。
……疑心暗鬼、その一言で表せてしまう、険悪が蔓延る状況。
俺達は今、酷く薄暗い疑いの地底の中に突き落とされた。
「ミスターモノパン……キミの言いたいこと…深く、深く理解させてもらったよ。もはや我々に選択の余地は残っていないみたいだ」
「お分かり頂けて光栄ですヨ…さすがはワタクシを差し置いて紳士を名乗るだけありまス。話しがスムーズに進みまス」
手のひらを返すようにニコラスを褒め出すモノパン。だけど、本心ではない。明らかに小馬鹿にしたような口ぶりだ。
「そこでだ、ミスターモノパン。1つ質問……というよりかは、確認を、させてもらっても良いかな?」
「えヱ。勿論ですとモ!」
ニコラスは真っ直ぐ、モノパンを射貫く。鷹のように鋭い、真実を見極めかんとする、“探偵の目”で。
「……これがキミの言う“コロシアイ”という状況であるというのであれば、この校則に書かれている“学級裁判”というものを行うのだろう?」
「はイ!勿論行わせていただきまス!!ルールは既に、初日の時点でキミタチに説明してあるので省かせてもらっても良いですよネ?」
「うん!!!バッチリだよーー!えとえと、カルタ達の中に居る、クロを見つけ出して、投票をすれば良いんだよね!!」
俺は校則の№5『施設内で殺人が起きた場合、全員強制参加による学級裁判が行われます』の欄に目を走らせる。
「その通りでス!!後で水無月サンにはご褒美として、アメちゃんを上げましょウ!!」
「わーい!いらなーい!!」
「ガフゥッ!!!……酷いフェイントを受けた気分…ワタクシショック、ガックシでス…」
わざとらしくショックを受けて体をのけぞらせるモノパン。いつもと変わらない、その人を小馬鹿にするテンションに、俺は今まで以上に苛立ちを覚え出す。
「コホン……ですがキミタチ、“学級裁判”の規則を見たのですから、その投票後についても、既にお分かりですよネ?」
俺は…№5規則の下の、“学級裁判”ルールの欄に目を向ける。
『学級裁判で正しいクロが指摘できれば、殺人を犯したクロだけがおしおきされます』
『学級裁判で正しいクロを指摘できなかった場合は、クロ以外の生徒であるシロが全員おしおきされます』
『クロが勝利した場合は卒業扱いとなり、外の世界に出ることができます』
「…おしおき」
おしおき…つまり――“処刑”。俺達の命は既に、テーブルの上に置かれたチップのように…賭けられている。
「そうでス……これからキミタチには、命を賭けた裁判、命を賭けた騙し合い、命を賭けた裏切り、命を賭けた謎解き、命を賭けた言い訳、命を賭けた信頼、命を賭けた…学級裁判を……行ってもらいまス」
勝てばクロ以外の全員は生き残り、負ければクロ以外の全員が死んでいく。画面の向こうで行われるゲームでも何でも無い、“本物の”俺達の命が刈り取られていく。
モノパンが言っていることは、初日に説明していたことと何ら変わらない、一貫したものだ。
だけど
いざコロシアイが始まってしまえばどうだろう…その1つ1つの言葉に、嫌になるほどの重みが掛けられているように錯覚してしまう。
――――コロシアイなど、起こるはずが無い
――――なぜなら皆を、信じているから
そう考えていた、初日の自分を殴ってやりたい。そんな甘く、未来も見えていないような自分を、酷く罵倒してやりたい気持ちになる。
「折木、くん…」
軽く、服の裾が引っ張られる。俺は目を向けると…贄波が、揺れる前髪の向こう側の瞳でこちらを見つめている。揺らぎのないその瞳から、強く、そして憂う心が在った。
「見失わ、ない、で……」
「…!」
俺は少しだけ目を見開く。まるで心の中を読まれているような、そんな気持ちになってしまう。
……だけど。
虚を突いた彼女のその一言は、俺を少しだけ冷静にさせる。
「…すまん。……ありがとう」
「ううん、どういたし、まし、て…」
短い言葉のやりとり。だけど、お互いをわかり合っているような……感情のやりとり。一言では言い表せないこの複雑な信頼が、俺に安心感をもたらした。
「ところでだミスターモノパン……裁判をやるからには、我々にもそれ相応の準備が必要ではないか?その時間はきちんと取ってくれるんだろうね?」
「ええ、もちろんあげちゃいますヨ!施設長である前にワタクシ紳士ですからネ!!先ほどのアナウンスで話したとおり、今この時点から捜査時間を設けさせていただきます。一定時間後、もう一度アナウンスを行いますのデ、その際は指定通りの場所に集合して下さイ!!」
「…キミ達聞いたかい?ここから正念場、つまり気を引き締める時間。部屋の隅っこでブルブルと震える時間はおしまいさ」
「うんうんそうだねそうだね!!よぉーし!!頑張るぞー!!」
「絶対に!!!朝衣を!!!殺したヤツを!!!!見つけ出してみせるぜええええええええ!!!!!!!」
「……ファイト、わたし」
「そろそろ、本腰入れなアカンみたい雰囲気やな……よっし!気張るかぁ!」
「ああっ、もうヤケだよ!!ビシッバシッ捜査して、証拠見つけて!!クロに罪償わせるさね!!!」
「…どうやら風向きが変わったみたいだね。それに身を任せてみるのもまた一興……詩人としての矜持を果たすとしようじゃないか」
「……それって、協力するって事でOKなのかねぇ…?」
いよいよ捜査が始まるとなった途端、皆が気合いを入れ直すように揚々に立ち上がり出す。
だけど、その殆どは無理矢理に近いように見える。朝衣の死を受け入れながらも、まだ引きずってしまっているような…そんな、悲しい感情の流れを感じる。
「おお~良いですねェ!!ここまでやる気に満ちてくれるとは思いませんでしたガ…まあやる気ゼロよりはマシですネ。ではでは、そんなキミタチに大事な大事な“証拠”を1つ!授けましょ~ウ!」
モノパンは懐に手を入れガザゴソと何かを取り出そうと、物色を始める。そして、何か平たい、板のような物体を複数枚取り出してくる。
「ザ・モノパンファイル~バージョン1!」
「……モノパンファイル?」
「バージョン、1……ですか?」
「くぷぷぷぷ、捜査をするにはまず、死体の情報って重要ですよネ?一端の高校生が“検死”なんて人生であるかないかの事をやって来たとは到底思えません……ですので、ワタクシが代わりに検死を行い、その情報をココに記させて頂きましターー!」
「ヤッター!ありがとー!」
「……無闇に、見ず知らずのロボットにお礼は言うものじゃない…」
「せやでー、最悪、頭アッパラパッパッパーになるで」
「そんな奇っ怪なことにならずとも……健康上よろしくないと思う故、止めた方が良いでござるよ?」
「ん?ん?もしかしなくてもワタクシ虐められてます?しかも小学生ばりの?」
「そんなことは無いですよ?あっ、半径5メートル以内に近づかないでほしいです。一応バリア張っているので大丈夫だと思うですけど」
「何だかいろんな意味で懐かしい気分になりましたヨ……まあそれでもワタクシくじけませんけどね!!何故ならモノパンは強い子ですかラ!!強い子ですかラ!」
「そうなんだよねぇ…決してくじけちゃいけないんだよねぇ……あの頃のあたしとはおさらばなんだよねぇ…」
「お、おい!あずかり知らぬところでダメージを受けている者が居るぞぉ!!!」
膝をつくモノパンと古家に数人がフォローを入れる。何があったのかは、皆聞かないでおいた。
「き、気を取り直しましテ……配りますヨー、ほいほいのほいっト」
「ご丁寧にどうも…と言ったところかな」
「へ~、結構軽いんだね~」
路上でティッシュを配るようにタブレットを1人1人律儀に手渡していく。タブレットに厚みは無く、電子生徒手帳を拡張したようなさわり心地だ。
「ええ感じやな~、これ市販版はないんか?ウチ結構欲しいんやけど」
「確かに、1台くらい欲しいね~。チラッチラッ」
「……わざとらしく目配せしないで下さイ!!コレは売り物ではありませーん!!裁判が終わり次第回収させていただきますヨ!」
「チェッ、あかんか」
「行けると思ったんだけどな~」
ツーマンセルのノリでモノパンをおちょくる鮫島と水無月。そんなノリにモノパンは気疲れした体を見せる。
「…ふぅ、まともに始めさせて下さいヨ。まったく……それではワタクシ消えますネ。健闘をお祈りさせて頂きますヨ。ばいっくまー!!」
特徴的な捨て台詞を残し、モノパンは炊事場からまた忽然と姿を消していく。嵐の後に訪れる、静かな余韻がこの場を満たし、決まったように…ニコラスがゆっくりと、口を開く。
「それではキミタチ!早速捜査を始めるとしようじゃないか!!ではまずは「待ってくれ!ニコラス!」……どうしたんだい?ミスターマイフレンド」
ニコラスが、捜査をスタートさせる切り出しをしようとした所に、俺は強く、待ったを掛ける。
「……このモノパンファイルの…」
「モノパンファイルの……?」
「扱い方を教えてくれ」
皆はずっこけた。
* * *
「うぉっほん!!では改めて…早速捜査を開始しようじゃないかキミ達…」
「……まさかタブレットの扱い方で10分以上使うとは、予想外ですよ…まったく……」
「すまん……精密機械はどうも苦手で………」
モノパンファイルの扱い方について皆に教えを請い、俺は何とか初歩的な段階まで操作することが可能になった。あまりの不器用ぶりに、雲居達から酷く呆れられてしまう。……不甲斐なくて申し訳ない。俺は内心で平謝りをする。
「まあええやないか折木。人生何事も勉強や」
「おお……鮫島君から“勉強”って単語が出てくるとは…驚きを隠せないんだよねぇ……」
「なんか、えらく失礼なこと言われた気もしなくもないんやけど……」
「きっと気のせいさね、阿呆」
「ん?んん?今の露骨やなかった?シンプルすぎるくらいの悪口やなかった?」
「まあまあ、おふたり共。現状は切羽詰まる事態故、鞘は腰に添えていくのが吉かと…」
「その通りさ!ミスター沼野。このままではクロに逃げ切られてしまうよ!だからこそキミ達……まずはボクの話を聞いてくれたまえ」
そう言いながら、ニコラスは自分自身に衆目を集める。
「…捜査をする前の鉄則として、まず“死体の見張り番”を決めたい……誰か立候補する人はいるかい?最低でも2~3人は欲しいのだけど……」
「ん?見張り番かねぇ」
「あ、あの~…どうして死体の見張りが必要なんですか?それに複数人も…」
ニコラスが捜査についてのあれこれを滑らかな口調で話す中…頭を傾げる数人を代表するように、おずおずと小早川は手を上げる。
「まず大前提として、ボクらの中にミス朝衣を殺した人間がいることはわかっているね?そしてそのクロが犯行後、すなわち今の捜査時間の間に現場に近づき、偽装工作をする可能性がある…故に見張りというのは、単純なようでとても重要な役割を決め、置いておく必要があるのさ……」
「な、なるほど~?」
「そして複数人必要なのは……見張りに立候補した人間がクロである場合を未然に防ぐために、見張りを2人用意することでお互いを見張る。つまり、相互監視状態を作るのさ!」
“お分かり頂けたかな?”と饒舌な口を締めくくるニコラス、しかし…当の質問者である小早川は苦笑いを浮かべており…この眺めの説明の内容がうまく理解できていない様子が見られる。
「とりあえず~見張りは2人ほど~用意しなきゃダメって~ことだよね~~?」
「は、はい!何となく!わかり…ました…はい……」
「ま、まあ無理をして理解せずとも…大丈夫でござるよ。…というわけで、その見張りでござるが、恥ずかしながら拙者が名乗りを上げさせてもらうでござる!」
「……沼野が?」
「くくく…偽装工作といった姑息な手口を見破るのは得意なんでござるよ~。なんたって忍者でござるし!忍者でござるし!!」
「そして忍者は偽装工作をするのも得意らしいですよ?」
「ククク、どうやら尻尾を出したようだね。者ども引っ捕らえー!」
「堪忍しいや沼野ぉ!」
「変に勘ぐるのは良くないでござるよーー!」
えらく忍者としてのあり方を強調してくる沼野を雲居達が茶々を入れ出し、情けなくベソをかき出す当人。えらく心配ではあるが…万が一のことがあっても腕は利きそうだし死体の見張り役としては適任かもしれんな。
「ワタシも立候補しよう…モノパンはああは言っていたがぁ、“検死”……については多少の心得がある。見張り兼検死役を担おうではないか……」
「え゛…やったことあるんですか…?」
「酷く昔に経験がある程度…だがなぁ……」
「あんた年いくつなんだよねぇ」
もう1人の見張りには雨竜が立候補してきて…さらには検死もやってくれるという……。驚きを隠しながら、真剣な眼の雨竜を見やる。
「ニコラス、早く捜査を始めよう…刻限が迫っている」
「ああ!了解したとも!!しかし、検死役がいるのであれば……ボクも見張り役を買って出させてもらうよ!ミスター雨竜の検死に興味が出てしまったからね!!」
「…お前は、捜査しないのか?」
「分担作業だよ…キミ…。1人でやるのと、手分けをしたのでは効率が段違い…ボクは現場を、キミ達はその周りを……だからね?良いかい?」
「あ、ああ……」
何となく煮え切らない気持ちではあったが、ニコラスの言うとおりモノパンがいつ捜査を切り上げさせるのか分からない今。早々に捜査を始めるべきと考え、俺は頭をより真剣なものへと切り替える。
――――始めよう
――――誰がクロなのか
――――誰が、朝衣を殺したのか…
――――その真実を
――――つかみ取るための準備を
【捜査開始】
「……捜査を始めたは良いが……まず何をすれば良いのだろうか……」
長い前置きを終え、やっとこさ捜査が始まった今…それぞれの生徒達は自分の思うようにバラバラに行動を始めていってしまった。俺自身も、刑事ドラマよろしく、足を使って証拠集めに乗り出そうとしていたのだが…いかんせんとっかかりが見つからず、動くに動けない状態だった。
「そんな公平くんに~~水無月カルタちゃん!!参上だよ!!」
「……なんだ、水無月か。何か用か?」
「もう公平くんたら…ほんのちょっぴり冷たいんだからー。そんな素っ気ない態度だと、女の子にモテないよ?」
頭を抱え、悩むことに時間を割いてしまっている俺に水無月がじゃれつくように俺の肩を叩く。少しけなされたようにも聞こえたが、恐らく気のせいだろう。
「クックック~、もしかしても、もしかしなくても…公平くんは今、これからどうしようかお悩み中かな?」
「…っ!何故バレている…」
「公平くんって、いっつもしかめっ面で感情がよく分からないけど……な~んか読みやすいんだよね~~」
「クソ…雲居にも同じ事を言われたぞ…」
「でも全く分からないより全然良いと思うよ?きっと……」
なぜだか哀れんだような表情を俺に向ける水無月は“話し、戻すね?”と改める。
「でもでもーそんな分かりやすーい公平くんを~~……パンパカパーン!!この名探偵水無月カルタちゃんの“助手”に任命しちゃいまーす!」
…“助手”?
「…どういうことだ?」
「開始早々にっちもさっちも分からない子羊ちゃんの公平くんに、とにかく頭は切れる水無月カルタちゃんが、捜査のノウハウを教えちゃいまーす!!」
「ノウハウ…って、お前だって殺人事件の捜査なんて初めてだろ…」
「そのとーり!!でも、でも、今何をするべきなのかは…よくよく考えれば簡単に思いついちゃうのです」
すると水無月は、懐に収めていたであろうモノパンファイルを取り出し、こちらに見せつける。
「まず捜査の基本は事件の概要…捜査資料を読むことなんです!!……だーかーらー…折角だから、一緒に確認しちゃいましょう!」
水無月は手慣れた動作でモノパンファイルを見始める。俺も、それに倣ってモノパンファイルを立ち上げる。
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モノパンファイル Ver.1
被害者:【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)
死体発見現場は炊事場エリアの一角に設けられた『第1倉庫』。死亡推定時刻は不明。死因は、大量の水を体内に含んだことによる『溺死』。それ以外に外傷は無く、毒物などの薬品類を摂取した痕跡も無い。
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モノパンファイルには、朝衣の殺害現場の写真も載せられており、直に目にしなくても確認できるようになっている。先ほど目にしたばかりの光景ではあるが、その朝衣の静かな死に顔から思わず目を背けたくなってしまう……。
――――本当に朝衣は、死んでしまったんだ。
クロを除いた全生徒の中で、一番最初に、その死を理解させられたはずなのに……。現実をまともに直視できない、そんな情けない自分を腹立たしく思ってしまう。
「んーー?こうやって式ちゃんの資料を見てみるとさ……何だか、よく分からない事件だよね?」
「……?何か気になるところでもあるのか?」
「だってさ、死体発見現場は倉庫の中なんだよ?なのに、溺死って……湖で死体が発見されましたー、とかなら納得できるんだけどねー」
「……1度湖で溺死をさせてから、倉庫に運んだ可能性もあるんじゃないか?」
「んんんんん………その可能性もあるかもしれないけど……他にも死亡推定時刻も書いてないことも気になるし……うーむ」
水無月は俺の案を聞いても首をひねり、唸りを止めない。俺は水無月の悩む姿に目を送りつつ、もう少し考えを深めてみる。
……でも、よく考えてみると水無月の言うとおり不可思議な事だ。例えば俺の言う通り、湖で朝衣を殺した後、第1倉庫に死体を移動させたとして……そこに何の意味があるのだろうか?
――――死体を見つけやすくするため?
――――死因をわかりにくくするため?
――――それとも、何か他にクロのメリットになる点でもあったのか?
水無月のように頭を抱えてみても、出てくるのは何の根拠も無い拙い考えだけ。…この仮説を裏付けるにはもう少し情報が必要なようだ。
「うん!わかんない!でも、調べた方が良い場所とかは見当がついたね!」
「ああ、まず『第1倉庫』、そして『ペンタ湖』…だな」
「後は『式ちゃんのログハウス』も…かな?行ってみれば何かしら証拠があるかもしれないし」
俺達は思いつく限りに、調べておくべき場所を羅列していく。そして、思いついたように俺は、考えを口にする。
「……周りを調査していくついでに、皆のアリバイも聞いておくか……」
「うん!昨日はなーんか動きがゴチャついてたからね!“天体観測”とかやってたし、雨も降ってたし」
「そして“沼野と風切の監視”も…あったしな」
「……え?そうなの?」
「何だ…?水無月は知らないのか?確かー…そうだな…大体夜の9時くらいだったか……風切の提案で噴水広場を中心2人で監視を行っていたんだ…何か胸騒ぎがするとか、どうとかで……」
「へぇ~そうなんだー、カルタ達が帰った時には2人はいなかったけどなー」
…どうやら、水無月達が帰った8時には“監視”は行われておらず、俺達が帰る9時頃には行われいたらしい……。後で、沼野達から詳しい話を聞いてみるか。
コトダマGET!!
【モノパンファイル Ver1)
…被害者:【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)
死体発見現場は炊事場エリアの一角に設けられた『第1倉庫』。死亡推定時刻は不明。死因は、大量の水を体内に含んだことによる『溺死』。それ以外に外傷は無く、毒物などの薬品類を摂取した痕跡も無い。
【沼野と風切による監視体制)
…昨夜噴水広場で行われた、沼野達の監視。天体観測を早々に切り上げた水無月達が2人に会わなかったことから、夜8時に監視は行われてなかったと考えられる。
「よーっし、それじゃあまずは事件現場に行ってみよー。現場百回、これ探偵の鉄則!!」
「そう何度も赴けるかは怪しいが、気持ちはそれくらい強く持っていた方が良いのかもしれんな………――だけど、捜査に行く前に少し良いか?」
「んんん?どしたのどしたの?公平助手クン?」
俺は水無月の疑問の声を背に小早川と、それに寄り添うように座る反町の元へと足を進めていく。
「…小早川。気分は……どうだ?」
「あっ…折木さん。はい…さっきよりは、でも…ちょっと、まだ気分が優れなくて…」
「そうか………朝衣や裁判のことは気にするな、全部俺達に任せて、お前はゆっくり休め」
「で、でも…」
「小早川…今はその言葉に甘えな。死体を見て…正気でいられるヤツなんて、居やしないんだからね。……折木、小早川のことはアタシに任せてさっさと行きな」
「ああ……すまない」
「良いってことさね……といっても、ただココでジッとして居るのもなんだからね……微力ながら、力にはならせてもらうよ」
「……?何か考えがあるのか?」
反町の言葉に疑問が生じた俺は、首をかしげる。反町は、見せつけるように手首に巻かれた少し古いタイプの腕時計を見せつける。
「“時間”…だよ。アタシら、昨日バタバタと動いてたじゃないかい?時系列をできるだけ思い出して、かき出してみようと思ってね……参考になるかい?」
「…いいや、充分以上の情報だ。頼む」
“あいよっ!”と俺の依頼に粋な態度で応える反町。ある程度時間が経ったら、反町にもう一度話しかけてみよう。俺は予定を頭に挟み込み、再度水無月と合流し共に捜査へと乗り出していく。
――まずは、死体発見現場の『第1倉庫』だ。
* * *
【炊事場エリア:第1倉庫】
俺と水無月は、死体発見現場とされる第1倉庫を訪れる。水無月は現場に足を踏み入れるのに何の躊躇いも無い様子である…が、1度入ったことのある俺は気を滅入らせてしまう。
重い気持ちを胸にしまったまま、俺達は光が差し込む窓も無い倉庫の中の、少し奥の方へ足を進めていく。すると、薄く照らし出す電灯の下で朝衣の死体を慣れた手つきで検死する雨竜と、それを監視するニコラスと沼野が立っていた。
「雨竜…どうだ?朝衣の検死は……時間がかかりそうか…?」
「…ん?やあミスター折木。それにミス水無月も。ミスター雨竜の検死は既に終わっているよ?検死結果は、というと…」
「残念ながら有用と言える情報は無い……ポジティブな結果を話すとしたなら、あのモノパンファイルに載せられている情報は非常に正確だ……ということだけだ」
検死を終えたように雨竜は手を片膝に乗せ、こめかみを指で挟む。
「死亡推定時刻もか…?」
「ああ、体が通常よりも冷えているし、死後の硬直状態も死ぬ前に激しい運動でもしていたのかイマイチわかりにくい……少なくとも折木達が発見した7時の“数時間前”には事切れていたとしか断定出来んな……」
「雨竜殿の手元の操作に目を光らせてみたでござるが…狂いは見当たらなかった故、特に問題は無さそうでござる」
顔から手を離し、事垂れるように表情を険しくさせる雨竜。証拠らしい証拠が無かったことが少し堪えてしまったのかもしれない。
「まあ良いじゃないか!捜査はまだ始まったばかり…ゆっくりじっくり、埃を取り払うように隅々まで調べていこうじゃないか!!まだ時間は残されているのだからね!多分!」
「そうそう!切り替えてレッツゴー!」
「えらく不安の募る発破でござるなぁ…」
励ますように、雨竜の背中を軽く叩くニコラス。それに乗ずるように水無月の声も倉庫内に響く。その励ましが効いたのか、雨竜はほんの少し表情を柔らかくする。
「そうだな……少し気負い過ぎたのかもしれんな……すまん、いらぬ心配をかけた」
「良いって事よー友達じゃないの」
「そうだな……よし!気持ちを改めるとするか!沼野、見張りを任せても良いか?倉庫内を少し見て回りたい」
「承知したでござる。ここは拙者とニコラス殿に任せるでござるよ」
沼野の返事を受け取るやいなや、雨竜は倉庫の捜索に行ってしまった。今さっき事垂れていたとは思えないほどの切り替えぶりだ。
「元気を取り戻したようでなによりでござる。ではでは雨竜殿に一任された見張り、しかと遂行させてもらうでござる!秘技、鷹の目の術!ジーーーーー……」
「沼野…普通の体勢で居てくれ…気が散る」
「安心するでござる。拙者、気配を消すのは得意でござる故」
“いや、そういう意味でなくて…”と言おうと思ったのだが、沼野の真剣なまなざしにあきらめとため息をつく。
…そして数秒、意を固め、コツコツと朝衣の死体に近づいていく。
手を伸ばせば触れられる、それほどまで近づくと、隣に居た水無月は小さく、俺に問いかける。
「……触るの?」
“触れるの?”と言われたような気もした。…きっと心配してくれているのだろう。だけど、……もう大丈夫。
「……まずは一歩ずつ、地道に……」
俺は決意をするように深呼吸をし、朝衣の死体に手で触れる。――冷たい。先ほどとほぼ同じ感触だ。俺は、1度1度の動作に気持ちを入れながら、朝衣の身の回りを調べていく…。
そこで俺は、1つの違和感を持つ。
――――濡れている…?いや…湿っている?
朝衣に触れた指先が、わずかな疑問を感じ取る。朝衣の死因は『溺死』というのだから、濡れているのは当たり前なのだが……服全体に加え、靴の中まで湿っている。まるで体全体を水で浸したみたいに。
「ミスター折木も、気になったのかい?」
「ニコラスもか?……ああ、溺死にしては、何だか、違和感の残るというか……うーん、すまん。モヤモヤしてうまく言葉に出来ない…」
「いいや…ボクも同じさ。とにかく、疑問に感じたことは逐一メモをしておいた方が良い。コレは超高校級の名探偵であるボクからのアドバイスさ」
「なーにおー!!名探偵はカルタだぞーー!それに公平クンにアドバイスを送るのはカルタの役目なんだからぁ!」
「ハハハハハ!これは申し訳ない!ついつい、探偵の卵ちゃんには口を出してしまうものでね…名探偵のサガ、というヤツかな?」
「きぃぃぃ!!カルタの方が名探偵だもん!!サガだってあるもん!!」
“…落ち着け落ち着け”そう言いながら、俺はプリプリと腹を立てる水無月を抑えつつ、メモを書き記す。
コトダマGET!!
【湿った朝衣の服)
…朝衣の服全てが湿っていた。まるで体全体を水で浸したように。
奇妙な見解をメモに書き記した後、ぎこちなく朝衣の懐に手を入れ、何か証拠になりそうなものがないか探してみる。しかし、手はポケットの中で空を切り、空振りであることを理解する。
――朝衣の死体に関しては、他に証拠は無し…か。
「よし、じゃあ倉庫内を見て回るか…ニコラス、死体の見張り、頼んだぞ」
「任せてくれたまえ友よ!大船…いやタイタニック号に乗ったつもりで、頼りにしてくれたまえ!!」
…いや、その船はまずいのではないか?顛末的に…。俺はわずかに不安を募らせる。
「…ついでに聞いてみるんだけど、ニコラスくんはさー、昨日何してたの?雨竜くんの天体観測に参加しないで」
「ああ!勿論部屋にずっと居たさ!ハッキリ言って怠かったからね!」
“いやハッキリ言いすぎだろ”と、内心で突っ込んでみる。
「じゃあ、特にアリバイは無し…ということか」
「そういうことになるね、キミ。キチンと、疑っておくれよ?」
「そこは普通“俺を疑っているのか…”じゃないのか?なのに自分から疑ってくれとは…変なヤツだな…」
「勿論ボクは、変なヤツだからね!その見解は大いに間違っていない!」
「うわー開き直ってるー」
さすがの水無月も、少し引き気味だ。でもまあ、とりあえず、材料は多少なりとも手に入れられた。倉庫を調べるついでに、後の2人にもアリバイも聞いてみよう。
「雨竜、少し良いか?」
「むむ…折木か。何用だ」
「昨日のアリバイについてなんだが……――って何しているんだ?」
昨夜の行動について話しを聞こうと雨竜に話しかけてみようと思ったのだが、当の本人は何故かチョークを持って至る所に物理の計算式を書き殴っていた。
「ん……?これか?これは某物理学者よろしく、計算式を書くことによって考えの集中、トリックの看破を試みているのだが……一向にまとまらん、何故だ?」
「考えに必要な材料がそもそも少なすぎるからだろ……無から証拠を出せたら、苦労なんてしない…」
「うわーーものの数分でこんなに。良く書いたね!カッコいー!」
俺は、奇天烈すぎる雨竜の行動にジト目を送りつつ、計算式が書かれた棚に目を向けてみる。
「……ん?」
「おやおや?公平くん?何か気になるものでもあったのかな?どれどれ、この名探偵カルタちゃんに言ってみなさいな」
「…ああ……なあ、棚にメモ書きは張ってあったはずなんだが……何でか、無くて」
「あー、あの几帳面に張られたメモ書きね………そういえば、無いね」
「うむ……良く見てみると……ココだけでは無く…他の棚からも、メモ書きが消えているな……」
折角苦労して貼り付けたのに…!俺は内心で憤りを燻らせる。
コトダマGET!!
【取り外されたメモ書き)
…長門と俺が3日前に棚に貼り付けたメモ書きが何故か全て外されていた。
複雑な心境を残しながら、俺は雨竜に昨夜のアリバイを聞いてみる……どうやら、俺達と天体観測をした後、雨が上がるまでずっとグラウンドで空を見上げていたらしい(結局雨は上がらなかったけど)。
そして、途中何か大きな物音を聞いた後、グラウンドを飛び出し、俺達と合流。その後すぐに噴水広場に戻り、そのまま家に帰った。
……昨日目撃した動向と大きな差異は内容だな。俺はメモを走らせながら、昨日の記憶の確認作業を行っていく。
「……ねぇねぇ。公平くん達が言ってる“大きな物音”ってさー……何?」
「あー…そうだよな。水無月は、当事者じゃないんだもんな…」
「詳しいことについては、沼野も交えた方が良いだろう……おーい!沼野!こっちに来てくれないか!!」
朝衣の死体の側でポケーッと突っ立っている沼野に雨竜の出した大声をかける。すると沼野はビクッと跳ねたかと思うと、こちらに寝ぼけた表情を向ける。
「えーっと、拙者に何用でござるか?……!ま、まさか拙者をお疑いで…!」
「違う違う…貴様の昨日の動きについて聞きたいのと、昨夜起きた『大きな音』の証言をワタシ達の証言と重ねて欲しいのだ」
変な勘違いをしそうになる沼野を、雨竜はすぐさま訂正する。すると沼野は“ああ~アレのことでござるね~”と、気の抜けた声を上げる。
「んむむ…多少長くなるでござるが……順を追って説明させてもらうでござる。まず拙者と風切殿の見張りに着いていたでござるね……――――風切殿の見張りの提案を受けたのがおよそ8時頃、実際に行動に移したのは8時半くらいでござったな。……噴水を挟んで拙者がログハウスエリアの方を、風切殿は炊事場エリアの方を見張るような配置でお互いを監視しつつジッと待機していたでござる」
「んー、じゃあカルタたちと鉢合わせなかったのも頷ける、かな?キレーに入れ違えてるし」
「うむ…成程……見張りは何時まで続けていたのだ?」
「そうでござるね……今が大体8時頃とすると、2時間ほど前の6時でござる」
「本当に夜通しで見張りをしていたんだな……」
「おかげで寝不足も寝不足。思考はまともに働くのでござるが、何もしていないと少し意識が飛びそうになるでござる…ハッハッハッハ……ふぁーあ」
だからさっきは、心ここにあらずという容貌だったのか。しかし、昨日はかなり堂々と大丈夫と宣っていた気もするが…まあ、沼野も人間と言うことだ、と1人納得してみる。
「深夜の見張りのさなか…通行人の様子はどのようであった?」
「……そうでござるねー……。ええと、9時頃に折木殿達がグラウンドからログハウスエリアに向かったのと、夜の1時頃にログハウスエリアから折木殿、グラウンドから雨竜殿が噴水広場に集まってきていたでござる……そして夜が明けてそろそろ引き上げようとした朝の6時前に、ログハウス方面から古家殿、そして小早川殿が一緒に炊事場に向かっていったでござる」
「不自然な通行人は無し……。それに、通ったとしても1人以上…か」
「……めぼしい証拠とは…言えない……のか?」
「かなー?……じゃあさじゃあさ、話しを戻して『大きな音』について、詳しく聞かせてちょうだいなよボーイズ!」
見張りについての情報を得た俺達は、『大きな音』について話しを戻す。
「昨夜1時頃、雷も鳴り響く激しい雨の中、拙者と風切殿、雨竜殿、そして折木殿は“大きな音”……というよりは“何かが壊れた音”のようなものが“ペンタ湖”から木霊したのでござる」
「むむ…?いや、アレは“水に何かが落ちた音”ではないのか?」
「……“鈍い音”だったが、具体的に何の音かは…分からないな」
「おろろろろ?意見が割れてますなぁ」
「しかし…思い返してみると、“大きな水の音”に聞こえなくも無いような…」
「酷く“鈍い音”でもあったような…無いような…」
「“何かが壊れた音”…と言う表現も的を得ていなくも……」
俺を含めた男衆3人は“うーん”と唸りながら頭を傾げ合う。
「……わからないなら、取りあえず保留にしとく?」
「………そうだな」
これ以上は埒があかないと俺達は判断し、聞いた話の内容を記録しておく。……それにしても“沼野たちの見張り”に加えて、“何か大きな音”……少しずつ情報を得られているのは分かるが、イマイチ整理がつかないな……。
コトダマUP DATE!!
【沼野達による見張り)
…午後の8時半頃に風切の提案で始まった見張り。噴水を挟んで、沼野がログハウスエリアの方を、風切が反対の炊事場エリアを見張っていた。話しによると、逐一お互いの動向を確認し合っていたらしい。朝の6時頃まで、ずっと監視を続けていたとのこと。
コトダマ GET!!
【通行人の調査結果】
…昨夜の9時頃:俺(折木)と反町、古家に小早川、長門がグラウンドからログハウスエリアへ
深夜1時頃:俺(折木)がログハウスエリアから噴水広場に、雨竜がグラウンドから噴水広場へ…その後2人はログハウスエリアへ戻る。
朝6時頃:古家、小早川がログハウスエリアから炊事場エリアへ
【何か大きな音)
…深夜1時頃に『ペンタ湖』から響いた大きな音。『何かが壊れる音』のようにも聞こえたし、『大きな水の音』にも『酷く鈍い音』にも聞こえた。…音が発生した直後にペンタ湖に向かった際は、周りが暗すぎて音の正体を確認することが出来なかった。
…ふと、俺は思い出したように雨竜に言葉をかけてみる。具体的には、昨日グラウンドに残していってはずの。
「……雨竜。あの望遠鏡はどうしたんだ?」
「…………………………しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
昨夜置いてけぼりにしてしまった望遠鏡について触れてみると…雨竜は激しく取り乱しながら叫び出し、そのまま倉庫を出て行ってしまった。…見張りの方は……まあ、ニコラスと沼野に任せるか。
「……忙しないものでござるなぁ」
「検死をしていたときの落ち着きぶりが嘘のように思えるな…」
「表情も身振りも豊かだねー、面白い人」
* * *
【炊事場エリア:第1倉庫前】
「そういえば……」
「どしたのどしたの公平くん?」
この朝衣の死体を発見する前…というよりもこの倉庫に入る前に、少し気になることがあったのを俺は思い出す。あれはそう……食事の準備をしようと小早川が第1倉庫に入ろうとしたときのことだ。
『…あの、ドアノブが……』
「朝衣の死体を発見する前、小早川が…倉庫のドアノブの異変に気がついていたんだ……」
「ドアノブ、が…?………ああっ!、外れちゃってる………」
あのときは、俺自身余裕が無くて、じっくりと見る暇がなかったからな……この機会によく観察してみよう。
「何だか……外れているというよりは『外された』って感じの壊れ方だね?」
水無月の視線の先、ドアノブの持ち手部分を見てみると、そこには金属特有の強い力を加えたときに生じる“歪み”が残っていた。これは、黙って放置したままで起こるような事では無い。自然に外れたのでは無く、何者かの手によって外された事がわかる。
「ああ……、しかもこちらが外れれば、倉庫内側のドアノブも外れる仕組みみたいだな……ドアノブの穴から倉庫の中が見通せてしまってる…」
前日の朝ご飯時点では生じていなかった不自然なドアの破壊。…もしかしたこれも何かしら事件に関係しているやもしれない。一応、メモに残しておこう。
グチャッ
……ん?
ドアノブをもっと別の角度から見てみようと、ドアの横側まで移動してみる、と……左の足下に…こう…決して良い意味と捉えられない生ぬるい感触が……。
「おーこれは見たところ、ドロドロの泥が付いてますなー」
「………」
俺はゆっくりとした動作で、自分の左の靴を眺める。そこには見事に泥を被った靴ができあがっており、さっきまでキレイだった白色スニーカーが跳ねた土でくすんだ茶色に着色されていた。…何でドアの側の土がぬかるんでるんだ………。クソッ、新しいのに履き替えたばかりになのに。
コトダマGET!!
【外れたドアノブ)
…第1倉庫のドアノブがいつの間にか外されていた。外側と内側は連動しているようで、内側のドアノブも外れ倉庫の中が見えてしまっている。
【ドアの側のぬかるんだ土)
…ドアのすぐ側の土が何故かぬかるんでおり、おかげで片方の靴が泥だらけになってしまった。
「ドンマイドンマーイ、公平くん」
「…そうだな…仕切り直していこう……」
俺は片方の靴底にまとわりつくネバネバした嫌な感触を抱え、トボトボと倉庫から離れようとする。すると、水無月は何かに気づいたように、こちらの袖を引っ張り出す。
「ねーねー、炊事場の側にいるのって……鮫島くんじゃない?」
「……そうだな、鮫島だな。何を見てるんだ?」
水無月の指さした方向に目を向けてみると、腕を組みながらジーっとしきりに炊事場のシンクを見続ける鮫島の姿があった。
「…行ってみるか」
「ほい来たー」
* * *
【炊事場エリア:炊事場】
「さーめじーまくーん。なーにやってるのー?」
「……ん?なんや、あんさんらか。ちょっとなー」
「……?」
そして鮫島は、再び熟考するようにシンクを熱心に見つめ始める。俺達はそんな鮫島の態度に俺達はコテリと、首をかしげた。
すると、つぶやくように鮫島は“なぁ…”と口を開き出す。
「モノパンファイルをなー、見てウチ思ったんやけど…朝衣の死因て、ホンマに溺死なんかなぁ……」
「……ああ、さっき雨竜が検死した所、溺死で確定らしい。モノパンファイルに書かれているとおりとも言える」
「んんん~。そうなんやな…」
「なんか納得できないって感じだね」
俺が補足するよう朝衣の死因を明確にすると、鮫島は頭をガシガシと掻き、先ほど以上に頭を傾げる角度を深くする。
「……溺死っちゅうからには、凶器はつまり“水”とか液体状のなんかで、死んだっちゅうわけやろ?」
「…そうだな、俺も一番最初に連想するのは“水”だな」
「んで、その一番“水”て言葉が出てくるところって考えて真っ先に思いつくんは……やっぱこの炊事場やろ?…んでな?このシンクで朝衣は殺されたんちゃうかなってウチなりに仮説を立ててみたんや」
「うー、確かに。排水溝に栓もすることができるから、このシンクに水も貯められるし。ここを使えば人1人くらいなら溺死させることもできる…かな?」
鮫島の推論に俺は内心で成程確かに、と頷いてみる。
「でもな?このシンクの中と、周りを隅々まで観察してみたんやけど…………変わったところがないねん。なーんも」
「何も無いと…変なのか?」
「考えてみーや。例えば朝衣が首根っこ捕まれて、溜まった水の中に顔を入れられて……人形みたいに黙ったまま溺死するの待ってると思うかぁ?」
「………少なくとも俺がそんなマネをされたら、死なないように抵抗するか…もがくくらいはするな……」
「そうやろ?そうやろ?……だからなぁ?このシンクが、昨日となーんも変わらんことが腑に落ちないねんなぁ」
…鮫島の疑問についても、答えを出すには情報不足としか言えない。しかし、この“何も無いこと”も証拠の1つとして数えても良いかもしれない。
コトダマGET!!
【シンクへの違和感)
……朝衣の死因である『溺死』に繋がる可能性がありながら、コレと言った変化の無いシンクの状態。…つまり朝衣は、この炊事場で殺された訳では無い?
* * *
「おおーい!折木、水無月…あとついでに鮫島!」
炊事場の前に立ち並ぶ俺達は、名前を呼ぶ声に気づき振り返った。声の主は、炊事場から少し離れたところの、テーブルの椅子に座る反町であり、さらにこっちへ来ることを促すように大きく手を縦に振っていた。
その呼び声に応じ、俺達は反町の元へ集まる。
「ん?今あんさん、ついで言わんかった?ウチおもちゃのおまけか?自分喧嘩売ってるん?」
「………今喧嘩売ってるって言ったかい?ウチは喧嘩を買う側さね……そっちこそ、アタシにメンチ切ってるみたいだけど。拳を受け取る準備はできてるのかい?」
「ええやろ…とりあえずグーチョキパーのどれでドツかれたいか言うてみ?」
「あたしは女らしくグーで勝負さね」
出会うやいなや、けんか腰になる2人に俺は眉を寄せる。
「なあ水無月…この2人こんなに仲悪かったか?」
「鮫島くん、ここ数日間で色々素直ちゃんに怒鳴られてたからね。別に険悪って訳じゃ無いと思うよ。多分、じゃれ合いの一種」
…今にでも殴り合いが発生しそうなのに?俺は内心穏やかでは無かったが、とりあえず仲裁する気持ちで反町に声をかける。
「……それで?反町、何か話が合ったんじゃないのか?」
「ん?ああすまん。気を散らしすぎたさね。……さっき、アンタが頼んでくれた時刻表、書き終わったんさね……まあ細かい時間までは覚え切れてないから大分大雑把になっちまったけどね」
「おうおうおう反町。まだお話し合いは終わっとらんで~はよ拳握れや」
「うるさいぞぉ!カルタパァーンチ!!」
「ぐはぁ!」
バキィっ!と効果音が鳴りそうなほどのグーが横の水無月から飛び出し、鮫島の顔に直撃。そのまま頬を抑えながら鮫島は悶絶し出す。そして何事も無かったかのように、水無月は反町の方へ向き直す。
「いやぁさっすが素直ちゃん!仕事が早いね~」
「……痛たた…………え?ウチ今殴られたん?嘘やろ?妹にも1発しか殴られたこと無いのに?」
……いや1発は殴られたのかよ。
コトダマGET!!
【昨日のタイムテーブル)
7:10 モノパンからの動機発表
12:00 お昼ご飯
13:00 夜食作り(参加者は反町、小早川、朝衣、水無月、長門の5人)
17:30 夕飯
19:00 天体観測開始(参加者は反町、小早川、朝衣、水無月、長門、雨竜、鮫島、古家、陽炎坂、折木)
20:00 雨天により天体観測中断(この機に朝衣、水無月、鮫島、陽炎坂が帰宅)
21:00 雨が上がらず天体観測中止(反町、小早川、長門、古家、折木 帰宅)
※ 雨竜のみグラウンドに滞在
「なあ折木、反町に何頼み事したん?ウチにも教えてーや」
「…昨日の出来事を反町に思い出せる限りで良いから、時間毎に書き出してもらったんだ………」
鮫島と大まかながら情報を共有をし、時刻表に目を流す。そして“成程”と一言。反町の書いてくれた情報は、大雑把と言う程雑に書かれているわけでも無く、むしろ良くまとまっていた。
「…ありがとう、反町。これで昨日のことを俯瞰して見れるよ」
「ほぉ~昨日って、こんなぎょうさんいろんな事が起こっとったんやね~~ウチ気づかんかったわ」
「それは、アンタがアホだからだよ」
「今の内に言っとくんやけど…こう見えてもウチ、航空学校の成績は一部を除いたらトップやからな?あんまり馬鹿にしたらあかんで?」
「ちなみにどの部分のを除いたさね?」
「………筆記や」
「科目ですら無いのか……!」
反町の質問に情けない言葉を返す鮫島。俺はそんな2人に苦笑いをしながら、反町にもう1つお願いをしてみる。
「反町、このタイムテーブルに少し付け足しをしてもいいか……?」
「ああ、良いよ。アンタのために書いたんだ。好きに扱いな」
俺は反町に軽い許可をもらい、昨日の“沼野の話し”を付け加えていく。
コトダマUP DATA!!
【昨日のタイムテーブル)
7:10 モノパンからの動機発表
12:00 お昼ご飯
13:00 夜食作り(参加者は反町、小早川、朝衣、水無月、長門の5人)
17:30 夕飯
19:00 天体観測開始(参加者は反町、小早川、朝衣、水無月、長門、雨竜、鮫島、古家、陽炎坂、折木)
20:00 雨天により天体観測中断(この機に朝衣、水無月、鮫島、陽炎坂が帰宅)
20:30 風切、沼野、噴水広場にて監視を開始
21:00 雨が上がらず天体観測中止(反町、小早川、長門、古家、折木 帰宅)
※ 雨竜のみグラウンドに滞在
------next day------
1:00 折木、噴水広場へ…それから数分後にペンタ湖で大きな音発生(折木、雨竜、沼野、風切の4人でペンタ湖を数分捜索)
1:30 雨竜と共に帰宅
6:00 小早川、古家炊事場へ…同時に風切、沼野帰宅
7:30 朝衣の死体を発見
「ねーねー、素直ちゃん。そういえばだけどさ、梓葉ちゃんはどうしたの?」
話しは一転し、水無月はキョロキョロと周辺を見回しながら、小早川の所在を聞き出す。
「確かに…小早川のヤツ、もう大丈夫なのか?」
「ああ……ちょっと調子が良くなったから、証拠探しをしますーって言って、炊事場の外周を散策しに行ったよ」
「外周…?」
「ちょうどー…………ああ、ほら第1倉庫の裏手辺りにいるさね」
反町が気づいたように指で示す。そちらの方向に目を向けてみると、外周の一角にて膝を折り曲げながらかがむ姿の小早川が居た。
「気になるんだったら、話しを聞きにでも行くかい?」
「んんーウチはええかな…まだ気になっとることもあるし……具体的には現場やな」
「そうか……じゃあ一旦別行動だな……鮫島」
「またねー鮫島くん」
「ドジって現場荒らすんじゃないよ」
「するかアホ……ほななー」
* * *
【炊事場エリア:第1倉庫裏手】
「あーずーはーちゃーーーん!!」
「うひゃぁ!」
倉庫の裏手に腰を下ろす小早川に、水無月はじゃれつくように背中を叩く。それがあまりにいきなり過ぎたのか、小早川は尻餅を着いてしまう。
「び、びっくりさせないで下さい!水無月さん!」
「えへへ~、ごみーんね。ところで梓葉ちゃんや、一体全体ここで何見てたの?」
「…ナチュラルに流したな、笑顔で」
「ま、水無月らしいさね」
何事も無かったかのようにケラケラとしながら本題に話しを移す水無月。それをため息をつき呆れる小早川。
気持ちは分かるが、諦めろ。そう思いながら、同情する。
「はぁ………これ、見て下さい」
「これ……?」
「おお!何やら重大な発見の匂いがするね!名探偵カルタちゃんの鼻がヒクヒクするよ」
「いつから探偵犬になった、お前は…」
「これって……“足跡”…かい?」
俺達は小早川に誘導されるように、指で示された地面に顔を寄せてみると……そこには、森の奥へと点々と続く、靴の“足跡”があった。
「……多分、ぬかるんだ土をそのまま踏んで、乾いてしまったものだと思います」
…きっと、昨夜の雨のせいだな。
「これはこれは……大きさ的には………うーん小さめなようにも見えるし、大きめと言えば大きめなのかな?」
「靴底の部分は崩れているな……誰の足跡かは判別は付かないな」
「この地面の粘り気具合だと……かなり頑固な汚れになるヤツさね」
色とりどりに俺達は意見を口にする。そして、その一言一句を大まかに俺はメモに取る。
「それで、他にもこんな足跡があるのかと思って、炊事場の周りを見て回ってみたんですけど………足跡はここにしかありませんでした」
「成程……足跡は“ここだけ”…と」
「だからあんなに熱心に外周を回ってたんだね」
「少なくとも昨日の時点でつけられたのは確実だね!式ちゃんの死体発見現場と一緒に考えてみると、深い関係にありそうだと、名探偵水無月カルタちゃんは推理するよ!」
「…って……。いつからアンタも名探偵を自称するようになったさね……」
「何か、ニコラスさん以上のハチャメチャぶりが感じられますね……」
コトダマGET!!
【森の足跡)
…炊事場を囲む森の一角(倉庫裏)にて発見。ここ以外足跡無し。男物の靴なのか女物の靴なのか、そして具体的な靴の型は不明。土にはかなりの粘り気が有り、踏んだ靴には頑固な汚れが付いている可能性有り。
「でさでさでさ………かーなーり気になるところ…この足跡って、どこまで続いてるんだろうね?」
「……試しに、たどってみるか」
“誰の足跡なのか”が最も気になる点ではあるが…次点として“どこにつながっているのか”というのもまた気になる。
それを確かめるべく、実際に森に入ってみようと意気込む俺と水無月。
「アタシ達も付いていく……と、言いたいところだけど……」
すると、反町は頭をポリポリと掻きながら、バツの悪そうに表情を曇らせる。
「何か心配事か?」
「いや…この靴の“種類”を調べてみようかなーって思っただけさね」
「…種類?」
「うまく言えないんだけど……この足跡って、明らかに靴で踏みましたよーって感じじゃないかい?例えば、そうだね……・小早川の足、見てみな」
反町の言う通りに、俺と水無月は小早川の足下に注目する。
「「下駄だね(な)」」
「そうさね。この跡の形になる靴を生徒全員から締め上げて、足跡を絞り込もうって寸法さね」
「成程!ええと、つまり!この場合だと、私の足跡の可能性もあるって事ですね!」
「「「…………」」」
「すいません…隅っこに寄ってますね……」
「ええと……おおー、これはこれは大変助かりますなぁ」
「といっても、重要な情報になるかは結果次第だけどね」
「いいや、それでもだ。手始めに俺達の靴の種類を伝えておくか」
俺と水無月は、靴を実際に見せ反町に種類を伝える。ちなみに俺はスニーカーで水無月はローファーだ。
「は、はい!“すにーかー”と、“ろーふぁー”…ですね。皆さんすこぶるおしゃれさんですね!」
「よし!!他のヤツの靴も見てくるとするさね!!行くよ小早川!!」
「はい!!ええと、折木さん、水無月さん。では、また」
景気よく手を振る反町と律儀に頭を下げる小早川。なんとも対照的な2人に俺達はしばしの別れを告げる。2人を見送った俺達は、もう一度森の方へと向き直り、気持ちを整えるように息を吸って、吐く。
「それじゃ!行こっか!」
「ああ…」
足跡を踏み荒らさないように、なおかつ見失わないよう目を走らせながら、俺達は森の中へと乗り込んでいった。
* * *
【ペンタ湖:対岸】
「ここまで……か」
「おお~。綺麗ですなぁ。これがオーシャンビューってやつなのかなー?」
「いやどう考えてもレイクビューだろ……」
中々途切れない足跡を沿って歩くこと数分。森をかき分けて歩いた先に待っていたのは、広大な青い湖、ペンタ湖であった。
「足跡の行き先は、ペンタ湖、と…」
「なんとな~く予測はしてたけど、本当に出ちゃうとは……貸しボート屋が真正面に見えてるから、丁度対岸あたりだね」
俺達がこの場所について話し合っていると……横の方から誰かからの声がかかる。
「ありゃりゃ~、折木君じゃないかねぇ。こんなところで一体全体どうしたのかねぇ?」
「あ~カルタちゃんだ~」
「凛音ちゃん!それに古家くん!さっきぶりー!」
森から出てきた俺達を驚いたように出迎える長門と古家。珍しい組み合わせではある……が、最も驚くべきことは、“この場所”にいるということだ。
「古家、長門。何でお前ら、ここに」
「それはこっちのセリフなんだよねぇ…“壊れてるボート”を見つけたと思ったら、今度はあんたたちが森からひょっこりさんなんだよねぇ」
「んん?んんん?“ボートが壊れてる”って?」
聞き逃せない単語に、水無月は耳を傾けながら古家達に近づいていく。それに追随するように、俺も言葉を重ねる。
「古家。その話、もう少し詳しく聞かせてくれ」
「えーっとそうだねぇ…まずどこから話したものかねぇ?」
「貸しボート屋の話しからしてみたら~?」
「ああー、そうするかねぇ……お2人さんは、ペンタ湖の入り口にボート小屋があるのは知っているよねぇ?」
確認するように俺達の顔を見まわす古家。その問いに答えるように水無月は大きく2度頷く。
「知ってるよ!まったく利用してなかったけど!」
「同じくだ」
そして古家は話し手のように蕩々と語りを続ける。
「…んで、そのボート小屋のボートがねぇ?多分昨日からだと思うんだけどねぇ――“1隻、無くなってた”んだよねぇ」
「ほうほうほうほうほう、中々奇っ怪な話しですなぁ」
「殺人事件に続いて、ボートの紛失、か……ん?だけど、今さっき“ボートが壊れてる”って言ってなかったか?」
「さすがに~ボートをそのまま持ち去るのは体力的に無理かな~って思ったから~このペンタ湖の~周辺を探してみたんだよ~そしたら~」
「ご覧の通りなんだよねぇ」
俺達のすぐ脇のユラユラと流れるペンタ湖を、古家達は指を差す。
「あ…ホントだ。ボートの破片があちらこちらに」
「湖に表層は基本流れは緩やかだから~このボートは~ここで壊されて~、そのまんまだと思うよ~」
足跡が途切れたこの場所で、ボートは壊された、という訳か……。そんな偶然とも言い難い偶然に、俺は皺の寄った顎を指で掻く。
「そういう折木君たちは一体全体、どうして森から出てきたのかねぇ?こっちも教えたんだからそっちも教えるのが筋なんだよねぇ」
「ああ…実は――」
ここにたどり着くまでの経緯を、要点をまとめて伝える。すると、2人とも俺と同じように悩ましげに表情を切り替える。
「ほぅ…森の足跡ねぇ…」
「足跡が途切れた先がココとはね~」
「偶然にしては、できすぎていると思わないか?」
「カルタちゃんはこの2つの証拠に、強い関係があると睨んでるよ!」
いやむしろ、関係しかないのでは?
俺はこの関連性を忘れないよう、2つの証拠についてメモに書き留める。
コトダマGET!!
【足跡の行く末)
・・・森の足跡をたどった末はペンタ湖対岸であった。
【破壊された貸しボート)
・・・ペンタ湖対岸にて発見。昨日のうちに盗まれたモノと同一と考えられる。
「…それにしても…見るも無残だな」
目の前の水面に散らばる貸しボートのなれの果てを見て、俺はそうつぶやく。
「何で、こんなにコナゴナになっちゃってるの?」
「それを今から確かめてみようと思っていたんだよねぇ」
「どうやって?」
「こうやって~」
自分に注目させるような言い方をする長門は、今まで羽織っていた半被を脱ぎだし、中に着用していたウェットスーツを露わにする。
「1番~長門凛音~いきま~す」
呆けた表情の俺達を尻目に、長門は勢いよく湖の中に飛び込みだす。
「実力行使か…」
「これが1番手っ取り早いんだよねぇ」
長門が飛び込んでから数十秒、気泡と共に彼女が湖から顔を出す。
「採ったど~~!」
湖に潜っていた長門が手にしていたのは、両手でやっと持ち上げることのできそうな程の“大きな石”であった。長門から手渡された大きな石に、俺達は疑問を呈する。
「……何故に、石?」
「いや、それをあたしに言われてもねぇ……」
「もう1つあったから~もう1回潜りま~す」
大きな石を俺達に渡した長門は、間髪入れず湖に体を沈める。そして数十秒、再び大きな気泡が水面を跳ね出したのと同時に、長門は湖から浮上する。
「またまた~採ったど~!」
その手には、少し太めの“ホース”が握られていた。
「……今度はホースか」
「これは…。水やりに使うときの水道用のホースなんだよねぇ。実家で水やりをする時に使ってたのを、覚えてるんだよねぇ」
「きっと倉庫にあったヤツだね!」
「これ以上は何も無しだよ~」
イマイチ整理できないが…取りあえずこの道具らしきものもメモしておくか。
コトダマGET!!
【大きな石ころ)
・・・ボートの破片が浮かんでいた湖の底から発見。この石でボートを破壊した可能性有り。
【水道用のホース)
・・・ボートの破片が浮かんでいた湖の底から発見。水やりなどによく使われるホース。倉庫から持ち出した物と考えられる。
「にしてもよく分からない証拠が続々と出てきたねぇ……片方に至ってはただの石ころだし」
「でも~明らさまに~って感じの石ころだったから~。絶対壊れた船と関係あるって~~」
「考えられるとしたら…この石で船を壊した…といえるのか?」
「……うーん、悩みの種が増える増える……」
些細な議論をし出す古家と長門に、何となく考えを口にする俺、そして指で頭を抑える水無月。中々話はうまくまとまらない。
「まっ!ここでグチグチ言ってても仕方ないし!考察は後々。ささっと次に行こ!公平くん」
「…それもそうだな。古家、長門、また裁判場で」
「また会う場所に嫌な響きしか感じないけど、またなんだよねぇ」
「じゃ~ね~私達はもう少し~ここら辺見て回ってみるよ~」
コレと言った証拠が出きった空気を悟った俺達は、一旦別れることにし、元来た道をたどって炊事場へと戻っていった。
* * *
『生き残りメンバー:残り15人』
【超高校級の特待生】⇒【超高校級の不幸?】折木 公平(おれき こうへい)
【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)
【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)
【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)
【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)
【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)
【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)
【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)
【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)
【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)
【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)
【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)
【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)
【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)
【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)
『死亡者:計1人』
【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)
どうもこんにちは、水鳥ばんちょです。事件、始めました。原作っぽく~を考えて捜査を描写してみたけど、やっぱり難しい。あっ、活動報告に一章の証拠まとめときます。はい。
↓以下コラム
○料理の腕前と得意料理
・男子
折木公平
腕前:そこそこ種類は作れるが、味が薄い
得意料理:そば、うどん
陽炎坂天翔
腕前:プロテインやスポーツドリンクを隠し味に持ってくるため、不味い。
得意料理:ハンバーグ(プロテイン入り)
鮫島丈ノ介
腕前:割と上手
得意料理:ミルク粥
沼野浮草
腕前:作れるのだが、量が少ないし、肉が無い
得意料理:漬け物
古家新坐ヱ門
腕前:簡単な料理(カレーとかシチュー)なら作れる
得意料理:カレーライス
雨竜狂四郎
腕前:インスタント系しか作れない
得意料理?:カップラーメン
落合隼人
腕前:感覚で料理するため、壊滅的
得意料理(と本人は思っている):クリームシチュー
ニコラス・バーンシュタイン
腕前:プロ級とまでは行かなくても上手
得意料理:パスタ系
・女子
水無月カルタ
腕前:そこそこ種類は作れるが、味が濃い
得意料理:鯖の味噌煮
小早川梓葉
腕前:めちゃくちゃ上手い、和食だけならプロ級
得意料理:お豆腐の味噌汁
雲居蛍
腕前:割と出来るのだが、キッチンに手が届かない
得意料理:クッキー
反町素直
腕前:凄く上手い
得意料理:唐揚げ
風切柊子
腕前:そもそも料理してくれないため、不明
得意料理:???
長門凛音
腕前:比較的できる方だが、動作が遅いため料理が冷める
得意料理:肉じゃが
朝衣式
腕前:絶妙に不得意
得意料理:ココア
贄波司
腕前:料理をさせてはいけない腕前
得意料理(と言う名の物体X):なんかのスープ