ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~   作:水鳥ばんちょ

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Chapter1 -非日常編- 5日目 捜査パート 後編

【舗道(炊事場エリア~噴水広場)】

 

 

 ペンタ湖、炊事場を経て。俺と水無月は本事件の被害者である、朝衣式の部屋を捜索するために、ログハウスエリアへ向け足を進めていた。

 

 しかし、炊事場エリアからログハウスエリアまでの道のりはそこそこに距離が有った。今現在進行形で歩いている舗道、噴水広場、また舗道と、複数の地点を橋渡しにして、やっとたどり着く。駆け足気味で歩いても、7~8分はかかってしまう位に長い。

 

 景色を楽しみながら歩きましょう、と周りに目を向けてみても、人工的に植林された木ばかり。最初こそ、都会では味わえない新鮮さを持てたが、慣れてしまえば、変わり映えの無い、つまらない光景と思い始めてしまう。

 

 何にも包み込まず言ってしまえば、飽きてしまうのだ。

 

 しかし、俺と水無月の表情には、その“飽き”は見られず。代わりに、“苦悶"の表情が見て取れた。その悩ましげなまなざしは、今までの証拠が書き連ねられた、証拠のメモに向けられていた。

 そこに書かれている情報量が、中々のものだったから。その中々な数の証拠と向き合い、つながりを見いだそうと躍起になっている状態であったから。

 

 

「うーむうーむ……こーやってまとめて証拠を眺めてみると、点と点同士はつながってくれるけど……1本の線にはなってくれないねー…」

 

「……ああ…証拠自体はそれなりに揃っているんだがな」

 

「そうだねー。でも揃ったら揃ったで……それぞれが上手く交わってくれるか分からないし、何かこう……繋げるための“ヒネり"が必要なのかも」

 

「ヒネり…か」

 

 ……事務的に要素を揃えても、ロジックは成立しない…彼女はそう言いたいのだろうか?だけど、時間制限がいつまでなのかも分からない今、ゆっくりと整理をつけている余裕は無い。

 

 だから、こうやって歩きながら考えるか、学級裁判が行われる会場で、併行しながら処理していくしかない。

 だけどそんな器用なことが…凡人の俺にできるのだろうか…これからの先行きに対して、俺は何とも言えない不安感を滲ませた。

 

 

「うーん、うまく回らないなー。やっぱりこの事件、希代の名探偵水無月カルタちゃんをもってしても難解と言えるよー」

 

「まだ言ってるのか…しかも歴史までねつ造して。いい加減、チェスプレイヤーとしての水無月カルタに戻ったらどうだ?案外、自分の領分に持っていった方が、慣れないトレースをするよりも思考が明朗になると思うぞ」

 

  

 人差し指をこめかみに押しつける水無月。それに呆れる俺は、静かに彼女の思考の仕方に口を挟む。

 

 

「いやいや公平くんや、こういうのは雰囲気からなのだよ。チェスプレイヤーの思考っていうのは対戦相手の心を読み取るのが仕事。…そして探偵は証拠の心を読み取るのが仕事…だよ?」

 

「証拠に心があるのか……?」

 

「さあねー?」

 

 

 つかみ所の無い飄々とした水無月の言動に、何となしにため息をつく。

 

 

 ――すると。

 

 

「……うぉ!!」

 

「うわっ!!公平くんが消えた!…………と思ったら地面に転がってた」

 

 

 足に“何か”が引っかかり、俺は重力に従って前のめりに倒れてしまった。いきなりの出来事だったために、俺と水無月は困惑の気持ちを共有させた。

 

 

「こ、公平…くん、大丈夫?顔とかぶつけてない?」

 

「もろに顔面を打った…。普通に痛い……」

 

 

 顔の中でも特に鼻を強く打ってしまい……鼻孔周辺が熱くなる。気づくと、顔をぶつけた舗道へ、血が一滴一滴、垂れ落ちていることが分かった。

 

 

「すまん……水無月。ティッシュか…もしくは鼻を押さえられる何かを持ってないか?」

 

「ああ、勿論身につけているとも……」

 

「……すまな…い?」

 

 

 這うように地面に転がる俺は、ティッシュを手渡した当人。つまり、眼前に立つ人間の正体を、足下からつたうように見上げる。

 

 

「やあ折木君、数刻ぶりだね」

 

 

 立っていたのは、普通とはかけ離れた外套を纏い、いつもの如くギターを片手にキザったらしい笑みを浮かべる…落合であった。

 

 

「お、落合?」

 

「あれれれれ、いつの間に。全然気づかなかったよ」

 

「風は僕らにとって隣人さ…どこにでも居て、どこにでも居る…とても不思議で、とても神秘的だと思わないかい?」

 

「ううん!!全然!」

 

 

 いつもの調子で語りをし出す落合に、驚くほどにストレートな返答をぶつける水無月。さすがの落合も、表情には出さないが、ほんの一瞬動揺が見えた気がした。

 

 

「そんなことよりさ、公平くん。なんで急に転んじゃったの?体の老化進んじゃった?」

 

「既に老いを迎えているような口ぶりをするな。…何かが足に引っかかっただけだ」

 

「理由という物は、常に身近に在るモノ……人はよく、理由を“探す”と言っているが、それはただ見えていないだけ…周りに目を向け切れていない浅はかさから来るものさ」

 

「あっ!こんな所に凹みがある!公平くんの足下!」

 

「お前の言う理由身近すぎるだろ……ていうか遠回しに俺けなされてないか?」

 

 

 小さく意見する俺を無視し、足下に注目する水無月。その視線の延長線上を見てみると…そこには舗道を軽く削った“小さな凹み”があった。深さも言う程では無く、靴のつま先が軽く引っかかる程度の深度だった。

 

 

「そして理由とは1つだけでは無い、たった1つ見つけただけで満足してしまうのもまた、人の愚かさと言えるね。だけどその愚かさは間違ってはいない…何故なら――」

 

「あー!凹みがいっぱいあるよ!公平くん!」

 

 

 驚くほど回りくどい落合の語りを遮り、指で舗道を指し示す水無月。舗道をよく見ると、凹みは俺の足下だけでは無く、炊事場から噴水広場までの舗道に一定の間隔で点々と続いていた。さらに俺達が見つけた凹みの隣……いや少しズレて凹みと凹みの間辺りに、同じような羅列が見られた。

 

 

 舗道の凹みを眺めていた水無月は、急に何かを思い出したように“そうだそうだ!”と声を上げる。

 

 

「そういえば朝、公平くんに呼ばれたときも、沼野くんとか、蛍ちゃんが転んでたよ!“コレは転んだわけではないでござるから!急に前回り受け身を取りたくなっただけでござるから!!”、とか“舗道ぐらい整備しとけdeath(です)…”とか言ってたよ!」

 

「そ、そんなことがあったのか…」

 

 

 沼野は相変わらず言動が意味不明だが…雲居のはもろに殺意が漏れているな……。だけど、水無月の話からすると、この連続した凹みは今日の朝の段階で既に付けられていたということか……。

 

 

「人の知覚には限界が在る…、特に足下に転がる大地は人の視覚の外にあるのが常……誰がいつ地に伏しても何ら不可思議なことでは無い……たとえそれが自分自身であろうとも」

 

「お前も転んだのか…」

 

「今まで見た中で一番激しい転び方だったよ!!」

 

 

 

コトダマGET!!

 

 

【舗道の凹み)

 炊事場から噴水広場までの舗道に一定の間隔で点々と続く凹み。そしてその隣、丁度凹みと凹みの間辺りにも同じようなモノが連なっていた。靴のつま先が軽く引っかかるくらいの深さまで削られている。水無月の話しから、今日の朝の段階ではすでに凹みがあった。

 

 

 

「…聞き忘れてたんだが……お前、ココで何してたんだ?」

 

「サボリーマンしてたの?サボリーマンしてたの?ねぇねぇねぇねぇ…」

 

「時間というモノは、時には有限となる……そんな時間をいたずらに過ごしていくのも、また1つの人生というものさ」

 

「これはギルティ!よーし、しょっ引くぞーー!!」

 

「待て待て、それは早計すぎるだろ。何か気になることでもあったのか?あるなら教えてくれ、今は少しでも情報が欲しいんだ」

 

「人とは思考をする生き物。思考なき者は人では無く別の何かに分別される…それはこの世界の理のようなものさ」

 

「「……」」

 

「そして僕もまた理の中にとらわれた存在……より明確に定義するなら」

 

「…つまり?」

 

「“風”…そのものさ」

 

 

 

 …………。

 

 

 

「ねぇ公平くん」

 

「何だ、水無月」

 

「1回蹴っても良い?」

 

「…………良いぞ」

 

 

 

 

 

 

 *    *    *

 

 

 

 

 

 

 

【噴水広場】

 

 水無月と共に、落合と“軽~い、お話し合い”をし終えた俺達は、噴水広場を通り過ぎようとツカツカと足を進めていた……。

 

 

「…?」

 

 

 すると噴水広場に差し掛かった直後…さっきまで倉庫にいた“アイツ”が居ることに気づいた俺は、水無月に話しかける。

 

 

「……?なあ水無月、あのベンチに座ってるの、雨竜じゃないか?」

 

「どれどれー?あっ!ホントだ!!」

 

 

 噴水広場に置かれるベンチの1つに、ズンとうつむきながら雨竜が腰を下ろしていたのだ。見るからに、落ち込んでいることが分かる様相であった。

 

 

「何してるんだろ?明日がジョーしてそうな感じで真っ白になってるね!」

 

「…さぁ」

 

 

 そしてそんな彼の隣には、彼が“相棒"といって愛用して止まない、望遠鏡が立てかけられているのが見えた。勝手な予想をすると…あの望遠鏡が原因か?

 

 

「はは…燃え尽きたさ……何もかも……」

 

「大丈夫……とは言いいにくい状態だな」

 

「むむむ、傷心中みたいだね。雨竜くん、何か悩み事?相談乗るよ?」

 

「くくくく……確かに、確かに、すっぽ抜けていたワタシも甘かったが……甘かったのだが…何故あれほど……」

 

「耳に届いていないみたいだな……おい!雨竜!」

 

 

 側から声を掛ける俺と水無月。しかし、話しかける程度の声量では雨竜の耳には届いてないようだった。俺はまた。絶対気づかれるような声量で、雨竜の耳元めがけて喉を震わせた。

 

 

「ぬぉおお!!!…お、おお、貴様らか……すまない、今は話しかけないでくれ……何か用があるなら後でにしてくれぇ」

 

「いやいやいや、時間も無いんだからそうは言ってられないよー。ハリーハリー!吐き出しちゃいなよYOU!」

 

「……雨竜。言い方は鬱陶しいが、水無月の言うとおりだ。悪いことは承知の上で、聞かせてくれないか?」

 

「うむぅ……まあ他人が聞けば大した事の無い様な話しだからな……わかった、話そう」

 

 

 少し気疲れした風に腰を上げ、俺達に体を向ける。

 

 

「……この望遠鏡を急いで取りに戻った時…つい数10分前の話しだ」

 

「ねーねー公平くん。もしかしてココから回想シーン?」

 

「……黙って聞いてろ」

 

 

 ――折木の言葉を聞いて、大事にしていたはずの相棒を置いて言ってしまったという過ちを自覚したワタシは一目散にグラウンドへと向かった。

 

 

『相棒おおおおおお!!今まで忘れていてすまなかったぁ!!もう2度と手放さ、ん……ぞ…?』

 

 

 ――グラウンドに到着すると、望遠鏡を携え、いつものニヤニヤとした表情でモノパンが待っていたのだ。

 

 

『これはこれは雨竜クン…お待ちしていましたヨ~』

 

 

 ――言葉として聞けば穏やかな心中だと思うだろ?だが、ヤツの顔はとても真っ赤に染まっていた。つまるところ、明らかに怒りが有頂天に達していたのだ。

 

 

『ゴミを捨ててしまうのならともかく!こんな高価な物をここにほっぽり出すなんテ!朝に取りに来れば笑顔で許したものの…その存在すらも忘れてしまうとは!この望遠鏡ちゃんの気持ちを考えたことはありますカ!!……」

 

 

 ――恐らく相当不機嫌だったのだろう、当たる様に俺にお説教をたたきつけだしたのだ。

 

 

『まったく!倉庫の中はめちゃくちゃでべちゃべちゃだわ、ボートは壊されるわ、もー散々ですヨ!!!」

 

 

 ――いや、そんなこと知らんよと考えながら、ヤツの怒声をへーへーと聞いていたのだ。そのときのワタシの心は正しく、摩耗していた。

 

 

『これ以上仕事増やさないで下さいヨ!!まったく、会場の設営もまだ済んでいないのに…」

 

 

 ――そう言い残し、真っ白に燃え尽きた俺を置いて、その場を去って行ったのだ…

 

 

 話しを終えた雨竜は“はぁ~”と大きくため息を1つつく。相当参っているのか、またうつむく。一体この短時間にどれほどの濃密な説教を受けたんだ…。

 

 

「なんというか、すまん。あのとき、俺が無理矢理帰らせたばっかりに」

 

「…いや、多分あの雨の中、望遠鏡を取りに行っていたら、風邪を引いていた可能性が………いや確実に引いていたな…現に今、鼻が詰まり気味だ」

 

 

 そう言いながら、ティッシュを手に取り鼻をかむ雨竜。…そうだな、よくよく聞いてみると、確かに今日の雨竜は鼻声だ。もしかしてうつむく頻度が多いのは、風邪気味でナーバスになっているからだろうか?

 

 

 そんな勘ぐりをしていると…隣から“ねえねえ公平くん”コソコソと耳打ちをしてくる水無月。

 

 

「それにしてもさ、今の雨竜くんの話…気にならない?」

 

「モノパンの説教の部分か?」

 

「うん、特に最後の方」

 

「…『倉庫の中はめちゃくちゃでべちゃべちゃ』…のところか」

 

「そうそうそれそれ!『ボートが壊れてた』のはさっき確認済みだけど…何か気にならない?気になるよね?」

 

 

 そういえばアイツ、前に夜時間は掃除がどうとか言っていたな……てことは死体を発見する前のどこかの時点であの倉庫の中は“とても散らかっていた”さらに”濡れていた”ということか?

 

 じゃあ…朝衣の死体を発見した時に、事件現場が整理されていたのは…モノパンが片付けたから……?

 

 

 

コトダマGET!!

 

 

【モノパンの怒り)

 雨竜に対して強い怒りをぶつけていた。内容には『倉庫の中はめちゃくちゃでべちゃべちゃ』『ボートは壊される』と、気になる話しが出てきていた。この施設に来て間もない頃に、モノパンが掃除に関して言及していたため、昨夜も掃除を行った可能性がある。

 

 

 

「……とりあえず今はそっとしておいてくれ…。風邪気味とモノパンからの説教のダブルパンチは身に重いのだ」

 

 

 鼻をすすりながら、覇気の無い声色で俺達を突き放した。

 

 

「そうか、じゃあまた…お大事に」

 

「風邪引くなよー」

 

「もう引いているわぁ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

【ログハウスエリア】

 

 

 

「放すんだぜえええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 雨竜と別れた俺と水無月は、当初の目的通り朝衣のログハウスへと赴いていた。

 

 そしてやっとこさ、当人家の前までさしかかろうしていた…のだが……突然誰なのか丸わかりの叫び声がエリアに木霊した。

 

 叫び声の源へ目を向けてみると、俺達の目的地である朝衣の部屋の前に、両腕をつかまれながらバタバタとする陽炎坂と、陽炎坂の両腕を押さえる雲居と贄波がいた。

 

 

「俺様達には!!時間がぁ!!無いんだぜええええええ!!!モノパンを!!待つのは!!!時間の無駄なんだぜええええええええ!!!!!」

 

「だからといって無理矢理侵入するのは無謀過ぎです!このドア結構…いや見た目に反してものすごく固いんですよ!激突するだけじゃすまないですよ!」

 

「おち、落ち着い、て」

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!押し入って!!!!やるんだぜええぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「何を…してるんだ…?」

 

「なんか修羅場って感じだね…主に1人だけ」

 

 

 猪突猛進を体現する陽炎坂を力尽くで止めようとする2人の少女。水無月が言うように、確かに修羅場であることが分かった

 

 

「折木に水無月!良かったです、コイツを止めるの手伝うです!」

 

 

 そんな風に呆けた表情で傍観する俺達に気づいた雲居が、陽炎坂のストッパー役にと俺達を呼びかける。追随して、贄波も珍しく慌てたように口を開いた。

 

 

「モノパン、が部屋を空けて、くれるって言う、から。10分くらい、待ってた、のに、来ない、の…」

 

「待ちきれないんだぜええええええええええ!!!!!」

 

「待つんです…!お前のせっかちさにも限度が必要です…!!!ほんの10分くらい……ああっ!」

 

「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 贄波たちの制止を振り払い、そのまま陽炎坂はドアへと直進、そして――

 

 

 バゴォォン!!!

 

 

 決して痛くないとは言えない鈍い音がエリア中に広がる。銃弾のような陽炎坂がぶつかったドアは無傷のまま、そして銃弾本人はドアにはじかれ…広場の真ん中まですっ飛んでいってしまっていた。ちなみにこれは、ほんのコンマ数秒に起きた出来事である。

 

 

「だから言わんこっちゃないって言ったんです」

 

「まさに暴走機関車だね!」

 

「機体は生身だがな…」

 

「陽炎坂、くん…!」

 

 

 口々に適当なことを言いながら、俺達は陽炎坂に急いで駆け寄る。陽炎坂本人はすっかりノビており、目を回して気絶してしまっていた。

 

 

「命に別状は無さそうですけど…。しばらくは起きることはなさそうですね」

 

「あの勢いをとどめたドアも凄いが、怪我一つ無いのもさすがとしか言い様がないな」

 

「普通、褒めるの、逆、なんじゃない、かな?」

 

「んもお、全くですヨ。怪我が無いようで何よりでス…ま~た仕事が増える所でしたからネ。雲居さんの言うとおり、本当陽炎坂クンの慌てん坊ぶりには困ったものですヨ」

 

 

 すると、ぶつかって吹っ飛ぶのを待っていたかのようなタイミングで、モノパンは姿を表わした。

 

 

「うわぁ!びっくらこいた!突然のモノパン出現!!」

 

「来るのが遅すぎですモノパン。また1人被害者が出たですよ」

 

「んがあああああああ~…」

 

 

 雲居は陽炎坂を差しながら、モノパンに文句を垂れる。しかし、モノパンは大した事はないというように鼻息をフンッと鳴らした。

 

 

「そんなの知ったこっちゃありまんせんヨ。ワタクシだって裁判のための準備が必要なんですかラ。来ただけでもありがた~く思ってほしいものでス」

 

「冷たいパンダロボットだな。青い猫型ロボットの方が、お前の数十倍温情があるぞ」

 

「他作品との比較はNGですヨー!!しかもワタクシ、パンダロボットじゃなくて、ロボット紳士ですヨ!!」

 

「パンダ、無くなった、ね」

 

 

 贄波の小さな突っ込みに、モノパンは“しまった!”と何故か強くショックを受ける。

 

 

「そうでしタ…ワタクシ、ロボットである前に紳士なのでした…。いや、しかし紳士である前にパンダでもあるし…あれあれあレ?ワタクシ結局…?」

 

「何かパンダロボット紳士がショートしてるですよ」

 

「うわー、ゴロ悪~」

 

「ロボットは壊れるものなんだな……」

 

「ロボット、も。機械、だよ?」

 

「何!それは本当か!」

 

「どこかからツッコむべきなのかも分からないのに、ボケを増やすなです。折木…」

 

「御託は良いから、モノパン!早く部屋を開けなさーい!」

 

 

 水無月の言葉にモノパンは“はっ!しまった!当初の目的を見失うところでした”と頭を覚ます。そして……。

 

 

「改めて~~。ばっ、ばっ、ばるす!!」

 

 

 意味の分からない呪文を言い放つと、ガチャリと扉が解錠される。…一体どういう仕組みで開いたのかは…多分、皆疑問に思っていることだろう。

 

 

「……はい、開けましたヨ。後はキミタチの手で、お好きに捜査して下さイ……あっ、この部屋、裁判後も開けておくので、良ければここで生活してもらってもかまいませんヨ~。まっ、“生き残れたら”の話しですけド…くぷぷぷプ」

 

「…冗談にしては笑えないな」

 

「同輩の部屋を荒らす趣味を持つヤツは、この中には居ないですよ…たくっ」

 

 

 ブラックジョークで場を濁らせるモノパンはそそくさと消えていく。徹頭徹尾、後味の悪いヤツだ。

 

 

「わた、し。陽炎坂、くん、看てる、ね?」

 

「分かったです、贄波。誠に自業自得なヤツですけど、頼んだです」

 

「カルタ達も行こ、公平くん!」

 

「ああ…」

 

 

 頭の上で星を回す陽炎坂を贄波に任せ、誘われるがままに、雲居と水無月、そして俺は朝衣のハウスへと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *    *    *

 

 

【ログハウスエリア:朝衣式の部屋】

 

 

 朝衣の部屋を俯瞰してみた第一印象は、“とても整頓されている”だった。

 

 備え付けの本はキレイに並べられ、床の掃除は行き届き、ベッドのシーツは新品同然の状態。朝衣の性格を表わすかのように、きっちりとした装いだ。軽く部屋を見回って思った俺の簡単な見聞とは裏腹に、雲居は要領を得ない表情を浮かべていた。

 

 

「……?あれ…朝衣のヤツ…本当にココに住んでたんですかね…」

 

「…?何か腑に落ちない点でもあるのか?雲居」

 

 

 そんな根本的な雲居の疑問に興味を持った俺は、真意を掘り込んでみた。

 

 

「見るですよ、このベッド」

 

 

 雲居は顎をクイッと上げ、部屋の一角に鎮座するベッドを示す。しかし、遠目から見ても変わった様子は見えず、近づいて見ても、“とてもキレイで、新品同然”としか言えず、分からず終い。一体雲居は、何を言いたいのだろうか?

 

 

「このベッドがどうしたんだ?」

 

「よく見てみるです」

 

 

 すると、雲居はすーっとシーツに指を走らせ…そして埃がたんまりと付着した指を俺に見せつける。

 

 

「…どういうことだ?」

 

「これだけ埃が薄く積もってるってことは……ここ数日…少なくとも昨日の時点でシーツは動かされてないってことになるです」

 

「つまり……ここ数日の間は、ベッドは使われてなかった……ということか?」

 

「そうなるですね……」

 

「……もしかして、朝衣はベッドではなく、布団派だったのか…?」

 

「折木…それってギャグですか?百歩譲ってそうだったとしても、寝袋なりの寝具がそこら辺に転がってるか、クローゼットの中にあるはずです」

 

「…確認してみるか…」

 

「いやクローゼットの中は、ここに入って最速で見てみたですけど、着替えと雑貨製品以外無かったですよ…」

 

 

 成程。朝衣は布団派だという事では無く…ベッドが使われた形跡が無い、つまり朝衣の生活跡が見当たらなかった、ということか。記録しておこう。

 

 

 

コトダマGET!!

 

 

【埃の積もったベッドシーツ)

 朝衣の部屋にあったベッドにうっすらと埃が積もっていた。ここ数日ベッドが使われていない可能性がある。

 

 

 

「…!2人とも、コレ見て!」

 

 

 俺達とは別に…朝衣が使用した机の前に居た水無月は、珍しく真剣な声色で俺と雲居を呼びかけてきた。何事かと、ベッドの側から水無月の元に集い、彼女の手元を見てみると…そこには一冊のメモ帳が握られていた。

 

 

「…それは……朝衣のメモ帳か?」

 

「四六時中肌身離さず持ち歩いてたやつですね。見覚えがあるです。それがどうしたですか…?…いや、その前に。何で水無月がソレを持ってるんですか…?」

 

「まさか!……盗んだのか…?」

 

「違う違ーーう!机の上に置いてあったんだよぉ!えん罪えん罪えんざーーーい!!」

 

 

 俺達のイジりにプンスカと腹を立てる水無月。何とも幼げな起こり方であった。

 

 

「冗談ですよ…それじゃあ本題に戻るです。そのメモ帳がどうしたんですか?」

 

「それが聞いて驚いてよ!……メモ中身に……式ちゃんの日記みたいなことが書かれてたんだよ!」

 

「本当か!」

 

「…!!ちょっと見せてみるです」

 

 

 

監禁生活:1日目

 

 考えを整理する際、一度文字に起こすとまとまりやすいということから、日記をつけてみようと思う。今日の正確な日付は分からないので、この施設で目覚めた日を『1日目』と定義し、以降日にちを数えていこうと思う。

 

 

 監禁生活、永遠の共同生活、コロシアイ……とんでもないことに巻き込まれてしまった。精神的な猶予を考えれば、一刻も早くこの悪趣味な空間から脱出しなければならない。いつ誰が発狂してまうかも分からないのに。しかし、施設の隅々まで調べたり、新入生の皆に話を聞いてみても、脱出の糸口は今だゼロ。欠片どころか、塵も掴めない状況だ。何としてでも此所から脱出し、世界にこの事件を報告しなければならない。それがジャーナリストとして私にできることだから。

 だけど、今焦っても仕方は無い。地道に、かつ迅速に手立てを考えなければならない。無論、犠牲者をゼロのままでだ。

 

 しかし、『ジオ・ペンタゴン』…世界の機密重要施設については大方把握しているつもりであったが、そんな施設一度だって聞いたことが無い。このままでは超高校級のジャーナリストの名折れになる。こちらについても、早い内に調べをつけておかなければ。

 

 

 ――この施設について気づいたことが記述してある――

 

 

監禁生活:2日目

 

 新入生の皆と食事をした。思った以上に皆の精神は安定していたので、内心ホッとした。しかし、私が議論を焦ったばっかりに、皆との間に不和が生じてしまった。これから少しずつで良いから改善して、この遅れを取り戻そう。

 

 午後は、できるだけ皆の行動に目を光らせていた。危険な行動を起こしている人が居ないかどうかを見張るためであり、あくまで最悪の可能性を考えての行動だ。幸い、目立った動きをしている人はいなかった。だけど、グラウンドを四六時中叫びながら走っていたり、1人で漫才していたり、お人形さんと対話を図っていたり、空を見上げながらたまに高笑いしたりと、奇行が目立つ生徒は多々見られた。監禁生活抜きにして、学園生活の先行きが不安になってきた。

 

 ……それと落合君、音も無く背後に立たないで。本当に心臓に悪いから。

 

 未だ脱出の目処は立たなかったが、1つ気になることがある。私がいつも持ち歩いているメモ帳についてだ。ここに入学する前は、かなり使い込んでヨレヨレだったのに、新品に変わっていた。気絶している間に、すり替えられたのかしら?

 

 

 ――俺達と話し合った内容が事細かに書かれている――

 

 

監禁生活:3日目

 

 今日は運動会があった。途中までは私達のチームが優勢だったのだが、最後の最後で私が足を引っ張ってしまった。本当に申し訳ないことをしてしまった。柄にも無くシクシクと泣いてしまった。折木君が洗って返してくれたハンカチをまた濡らす羽目になってしまった。

 ポストに手紙が一通投函してあった。この日記を書き終えたら、読んでみようと思う。

 

 

 ……この部屋に居続けるのは危険かもしれない。しばらくは“あの場所”を使うことにする。

 

 

 

 ――俺にインタビューした内容が書かれていた―――

 

 

 

 ――ジオ・ペンタゴンの規則が羅列され、数カ所に赤い線が引かれている――

 

 

監禁生活:4日目

 

 動機発表があった。皆の顔が青ざめていくのが、目に見えて分かった。今日だけは本当に不味いかもしれない。

 

 とにかく、“あの場所”に一旦避難しよう。“規則”の隙をついたあの場所なら、誰にも気づかれず、夜を明かすことが出来るだろう。

 

 

 ――以降、ページが数枚切り取られている――

 

 

 

「朝衣…」

 

 

 日記の中身を見終わった直後…俺は溢すように、このメモ帳の持ち主である彼女の名前を小さく呟いた。

 

 

「式ちゃん………」

 

「………」

 

 

 2人も――――彼女と誰よりも近しく交流していた水無月、最初は反発し合っていたあの雲居も…このメモを、彼女の努力の証を、噛みしめるように、思い出すように、見つめていた。

 

 …この施設から脱出するために…犠牲者を誰1人出さないために…ジャーナリストとして朝衣は尽力していた。全力を尽していた…――――はずだったのに。

 

 

「その本人が死んでちゃ……意味ないじゃないですか」

 

 

 彼女はもういない。脱出しようと…助けようとした俺達の中の誰かに…殺されたんだ。

 

 

「…犯人を必ず見つけよう……それが、俺達に出来る…朝衣への手向けだ」

 

「……」

 

「…そう、だね、公平くん………」

 

 

 凡人の俺に出来ることは、これしか無い。俺は改めて、この裁判への決意を心に決めた。

 

 

「……それにしても…何かこの日記の朝衣…何か様子が変ですね…」

 

「…様子が?」

 

「うん……3日目と4日目はなんか特に、だね」

 

「3日目…というと、陽炎坂が主催した運動会の後……か」

 

「それに“あの場所”って…いうのも気になるです」

 

  

 思った以上に濃密な朝衣のメモ帳を見ながら、俺達3人はそれぞれの疑問の声を漏らす。すると、雲居が怪訝な目つきで日記を見下げる。

 

 

「でも……このメモ帳は本当に朝衣のものなんですかね?」

 

「……?どういうことだ」

 

 

 雲居の疑問に俺は小首をかしげる。すると水無月は何かに気づいたように、ぽんと手を木槌のように振るう。

 

 

「なるほど~、このノート自体犯人の作ったニセモノって線だね」

 

「そうか……だが、この情報量をねつ造と言うには些か無理矢理過ぎるんじゃないか?」

 

「折木…証拠には必ず根拠が必要です。言うなれば証拠を正しく証明するための証拠というヤツです」

 

「フッ……よく分からなくなってきたよ…」

 

「決め顔で何カッチョ悪いことほざいてるですか、水無月…」

 

 

 俺は反論してみるが、情報が足りず、一言で言い切られてしまう。確かに…何か筆跡を見比べられる物があれば重要な証拠になるのだが……。

 

 

「この日記が本当かどうか…盲目的に決めつけるのは、御法度です。だから――」

 

「いいや!!これは!!!朝衣の!!!日記にぃ!!!間違いないんだぜええええええええ!!!」

 

「うわぁ!ビックリしたー!!」

 

 

 突然俺達の間から、陽炎坂がボリョームいっぱいに声と顔を出す。その勢いに、俺達は心臓が止まったように飛び上がってしまった。

 

 

「陽炎坂、くん、目を覚ました、よ」

 

「言うのがちょっと遅いですよ……贄波」

 

 

 ワンテンポ遅れた忠告を口に、贄波も朝衣の部屋に参上する。これでこのエリアに居たメンバーは全員集合とあいなった。

 

 

「陽炎坂、今のはどういうことなんだ…?」

 

「これを!!!見て!!!!くれえええええええええええ!!!!」

 

 

 机にヒビが入るのではないかというくらい勢いよく机に叩きつけられたのは、先々日に行われた陽炎坂主催の運動会の“チーム分け表”であった。

 

 

「ん…この表の字と、日記の字…同じ筆跡に見えるぞ」

 

「…筆跡鑑定をすれば99%くらいの合致しそうです。字の専門家の私が言うんだから、間違いないです」

 

「俺は!!悪筆だからなぁ!!朝衣に!代筆を!!頼んだんだぜええええええ!!!」

 

「むむむ…驚くほど説得力のある話ですね」

 

「だったら、これ、は。朝衣さんの、日記で間違いない、で、良いのか、な?」

 

「な~るほど~、ナーイス陽炎坂くん!」

 

 

 グッジョブと水無月は上に立てた親指を陽炎坂に向ける。

 

 

「…じゃあ、この日記は証拠に足りうるってことですね……陽炎坂に論破されたのが、ほんのちょっぴり癪ですけど……」

 

「まあまあそう落ち込まない、落ち込まない。きっとこれから良いことあるさー」

 

「……別に心底落ち込んでるわけじゃ無いですよ。ほんのちょっぴりむかついただけです。今もあんたにムカついてるです」

 

 

 …にしては、良い具合に頬が膨らんでいるし、完全に拗ねているように見えるが……と一瞬思ったが、考えを悟ったように雲居に睨まれたので、日記の方へ急いで頭を切り替えた。

 

 

「よ、よし。これでこの日記の正当性が証明されたんだ…皆で検討していこう」

 

「賛成ーー!えっとえっと、カルタ的に1番気になるのはー、この“規則の隙”て部分かな?わざわざ規則全部書き連ねて、赤線でマーキングされてるし」

 

「文末の部分とかが高頻度でマークされてるですね。恐らく、朝衣的に引っかかった言い方があったんですね」

 

「規則は!!全部!!破るためにあるんだぜええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

「ちゃぶ台返しも甚だしい言動だな…」

 

 

 しかし“規則の裏”……か、朝衣は一体何に気づいたのだろうか。もう一度規則の方も見直してみるか。

 

 

コトダマGET!!

 

 

 

【朝衣の日記)

 朝衣が身につけていたメモ帳に書かれていた日記。

 

監禁生活:1日目

 

 考えを整理する際、一度文字に起こすとまとまりやすいということから、日記をつけてみようと思う。今日の正確な日付は分からないので、この施設で目覚めた日を『1日目』と定義し、以降日にちを数えていこうと思う。

 

 監禁生活、永遠の共同生活、コロシアイ……とんでもないことに巻き込まれてしまった。精神的な猶予を考えれば、一刻も早くこの悪趣味な空間から脱出しなければならない。いつ誰が発狂してまうかも分からないのに。しかし、施設の隅々まで調べたり、新入生の皆に話を聞いてみても、脱出の糸口は今だゼロ。欠片どころか、塵も掴めない状況だ。何としてでも此所から脱出し、世界にこの事件を報告しなければならない。それがジャーナリストとして私にできることだからだ。

 だけど、今焦っても仕方は無い。地道に、かつ迅速に手立てを考えなければならない。無論、犠牲者をゼロのままでだ。

 

 しかし、『ジオ・ペンタゴン』…世界の機密重要施設については大方把握しているつもりであったが、そんな施設一度だって聞いたことが無い。このままでは超高校級のジャーナリストの名折れになる。こちらについても、早い内に調べをつけておかなければ。

 

 

 ――この施設について気づいたことが記述してある――

 

 

監禁生活:2日目

 

 新入生の皆と食事をした。思った以上に皆の精神は安定していたので、内心ホッとした。しかし、私が議論を焦ったばっかりに、皆との間に不和が生じてしまった。これから少しずつで良いから改善して、この遅れを取り戻そう。

 

 午後は、できるだけ皆の行動に目を光らせていた。危険な行動を起こしている人が居ないかどうかを見張るためであり、あくまで最悪の可能性を考えての行動だ。幸い、目立った動きをしている人はいなかった。だけど、グラウンドを四六時中叫びながら走っていたり、1人で漫才していたり、お人形さんと対話を図っていたり、空を見上げながらたまに高笑いしたりと、奇行が目立つ生徒は居た。監禁生活抜きにして、学園生活の先行きが不安になってきた。

 

 ……それと落合君、音も無く背後に立たないで。本当に心臓に悪いから。

 

 未だ脱出の目処は立たなかったが、1つ気になることがある。私がいつも持ち歩いているメモ帳についてだ。ここに入学する前は、かなり使い込んでヨレヨレだったのに、新品に変わっていた。気絶している間に、すり替えられたのかしら?

 

 

 ――俺達と話し合った内容が事細かに書かれている――

 

 

監禁生活:3日目

 

 今日は運動会があった。途中までは私達のチームが優勢だったのだが、最後の最後で私が足を引っ張ってしまった。本当に申し訳ないことをしてしまった。柄にも無くシクシクと泣いてしまった。折木君が洗って返してくれたハンカチをまた濡らす羽目になってしまった。

 ポストに手紙が一通投函してあった。この日記を書き終えたら、読んでみようと思う。

 

 

 ……この部屋に居続けるのは危険かもしれない。しばらくは“あの場所”を使うことにする。

 

 

 ――ジオ・ペンタゴンの規則が羅列され、数カ所に赤い線が引かれている――

 

 

監禁生活:4日目

 

 動機発表があった。皆の顔が青ざめていくのが、目に見えて分かった。今日だけは本当に不味いかもしれない。

 

 とにかく、“あの場所”に一旦避難しよう。“規則”の隙をついたあの場所なら、誰にも気づかれず、夜を明かすことが出来るだろう。

 

 

 ――以降、ページが数枚切り取られている――

 

 

 日記の正当性については陽炎坂が証明してくれた。

 

 

【ジオ・ペンタゴンの規則)

 

[№1]

 生徒達はこの施設内だけで共同生活を行います。共同生活の期限はありません(赤い線)。

 

[№2]

 夜10時から朝7時までを”夜時間”とします。夜時間の間、出入りを禁止する区域(赤い線)があるので、注意しましょう。

 

[№3]

 ジオ・ペンタゴンについて調べるのは自由です(赤い線)。特に行動に制限は課せられません。

 

[№4]

 施設長であるモノパンへの暴力を禁じます。振るった場合、罰則が生じます。

 

[№5]

 施設内で殺人が起きた場合、全員強制参加による学級裁判が行われます。

 

[№6]

 学級裁判で正しいクロが指摘できれば、殺人を犯したクロだけ(赤い線)がおしおきされます。

 

[№7]

 学級裁判で正しいクロを指摘できなかった場合は、クロ以外の生徒であるシロが全員おしおきされます。

 

[№8]

 クロが勝利した場合は卒業扱いとなり、外の世界に出ることができます(赤い線)。

 

[№9]

 シロが勝ち続けた場合は、最後の2人になった時点でコロシアイは終了です。

 

[№10]

 モノパンが殺人に関与する事はありません(赤い線)。しかし、コロシアイの妨害があった場合この限りではありません。

 

[№11]

 電子生徒手帳は貴重品なので壊さないください。

 

[№12]

 「死体発見アナウンス」は3人以上(二重の赤い線)の生徒が死体を発見すると流れます。

 

[№13]

 なお、学園長の都合により校則は順次増えていく場合があります。ご了承ください。

 

 

 

 気になる情報をメモに納め終わると、贄波がか細く“ね、ねえ…”と、声を出す。

 

 

「日記、に書いてある、“あの場所”、てなんなの、かな?どこのこと、言ってるん、だろう…ね?」

 

「…ぼやかして書いてあるからな。心当たりは、あるにはあるんだが……」

 

 

 確実に“あそこ”が“あの場所”を差しているというロジックがまだ成立していない。決めつけるのでは無く、もう少し考えてから裁判に挑むべきかもしれない。

 

 

「…確定じゃない以上、変な憶測は思い込みの要因になり得るですからね……答えは急ぐべきでは無いと思うですよ」

 

「遠回りが最短の道だった~みたいな話しもあるからねー」

 

「だけど!!!俺には!!!ちん!!ぷん!!!かん!!ぷん!!!なんだぜええええええええええ!!!!!!」

 

 

 陽炎坂の、静けさとは程遠いい言葉で話は締めくくられ、雲居が“他に皆、何かあるですか?”と俺達に目を向ける。

 

 

「…さっき雲居が言っていた、3日目からの様子が変、ていうのはどうだ?」

 

「陽炎坂が主催した運動会の当日ですよね……陽炎坂、何か変わった様子はあったですか?」

 

「何にも!!!!なかったんだぜえええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 腕で大きく×を作り、強く否定する。

 

 

「こ、この書き方、見てみる、と。様子が変わったの、って、3日目の、夜じゃない、かな?」

 

「……フッフッフ~……その答え、この水無月カルタちゃんが教えて進ぜよう…」

 

 

 含みを携え、ニヤニヤとモノパンの様な笑みを浮かべ水無月は口にする。すると、雲居はそのもったいぶった水無月の言葉に少しため息をつく。

 

 

「今度は何隠しているですか?ちゃっちゃと情報全部出すですよ」

 

「まあまあ、そう焦らず。……ジャンジャカジャーン!!この2通の封筒が朝衣ちゃんの動揺が見られた原因で~す!」

 

 

 水無月は懐から2つの封筒……俺達なら“絶対見たことのある封筒”を取り出す。

 

 

「それ…動機の“モノパン手紙”じゃないですか!何でアンタが持ってるですか!」

 

「まさか!!!お前!!盗んだのかあああああああああああ!!!!」

 

「もお、陽炎坂くん!!そのくだりさっきもやったからもう良いよ!こ・れ・も、式ちゃんのメモ帳に挟まってたんだよ♪」

 

「……でも、何でその挟まってたやつを懐に入れてるんだ?」

 

「ん~と?……サプライズ?」

 

 

 俺達はズルッとこける。…こいつ、行動だけ見たら、犯人のようにしか見えんな。…いや、むしろ自由すぎて逆に怪しくないのか。

 

 

「たく…人騒がせな同級生です………ん?待つですよ?何で2通あるんですか?私達は“1通”しか配られてないですよ?」

 

「俺様も!!!同じく!!!!だぜえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 …朝衣だけ2通届けられていた?……どういうことだ?

 

 

「とりあえ、ず、中身、見てみ、よ?」

 

「……それもそうだな。水無月、中を見せてくれないか?」

 

「オッケー!!」

 

「どれどれ……?」

 

 

 水無月が既に封を切られた封筒に手を入れ、手紙本体を取り出し、広げる。俺達は囲うようにして内容に目を通す。

 

 

『朝衣様へ   皆様の中に裏切り者が紛れ込んでいます。…お気を付けて下さいまセ。  モノパンより』

 

 

『朝衣様へ   裏切り者が貴方の命を狙っています。…お気を付けて下さいまセ。    モノパンより』

 

 

「………裏切り者?」

 

「んんんんん…やっぱり引っかかるよね~。カルタも初めて見たとき同じ事思ったよ」

 

 

 水無月も俺と同じく“裏切者”というワードに引っかかっていたらしい……いや、俺達だけじゃ無い。贄波も陽炎坂も同じような表情をしていた。

 

 すると、雲居が突然手紙を手に取り、鼻に近づけ始める。その行動に驚いた俺は、少し目を見開く。

 

 

「スンスン……どうやら1通目の手紙は2日前…2通目の手紙は昨日渡された手紙みたいですね」

 

「雲居ぃ!!分かるのかああああああああああ!!!」

 

「耳元でそうガンガン言葉を並べるものじゃないですよ……耳がひん曲がりそうになるです。……まあ一応、図書委員ですからね。紙の状態把握はお手の物、いつ印刷されたのか手に取るように分かるです」

 

「まるで山羊だね!!」

 

「…コロスですよ」

 

 

 まさかここで雲居の才能が役に立つ時が来るとは……読書好きの俺でも、さすがにここまではできない。

 

 

「蛍ちゃんの話が本当だとすると……1通目の手紙こっち……だとしたら…なーんか、式ちゃんの不安を煽るような文章って感じだね」

 

「1通目の手紙と、2通目の手紙。これを日記と照らし合わせてみると……確かに、何となくだが朝衣の言動にも合点がいくな」

 

「むしろ!!!朝衣を!!!行動させようと!!!している!!!!みたいに!!!みえるんだぜえええええええええ!!!!!!」

 

「じゃ、じゃあ、2通送った理由、って……」

 

 

 ……これは。直接モノパンに聞いてみるしか無さそうだな。もしかしたら、俺達の後ろ側でとんでもない意図が張り巡らされている可能性が出てきた。

 

 

 

コトダマGET!!

 

【朝衣に送られた手紙)

 俺達生徒達に配られた動機の手紙。しかし、朝衣には2通配られていた。

 

『朝衣様へ   皆様の中に裏切り者が紛れ込んでいます。…お気を付けて下さいまセ。  モノパンより』

 

 

『朝衣様へ   裏切り者が貴方の命を狙っています。…お気を付けて下さいまセ。    モノパンより』

 

 

 雲居曰く、1通目が2日前(運動会を行った日)、2通目は昨日(動機が配られた日)に届けられたものとのこと。

 

 

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

 

 鳴り響くチャイムの音に、俺達5人は目を合わせる。

 

 

『えー、えー、マイクテス、マイクテス。……キミタチ!学級裁判上の準備が整いましタ!』

 

『待ちに待った学級裁判のお時間でス!!』

 

『ではでは、集合場所を指定させていただきまス』

 

『場所は、中央棟エリア。赤い扉の前でス。……くぷぷぷぷプ。ではでは、また後ほド……』

 

 

 ――――……!とうとう、来たか。いや、来てしまったか。

 

 

「……どうやら、お呼びの時間みたいですね。それじゃあ皆、早速赤い扉の前に――」

 

「うおっしゃあああああああああ!!!!!!待ってろよ!!!!!モノパアアアアアアアアアアアアン!!」

 

 

 雲居が俺達に声をかけようとした矢先……それを情熱的に無視し、誰よりも早く陽炎坂は部屋を飛び出していってしまった。

 

 

「行っちゃっ、たね?」

 

「あれは間違いなく一番乗りのペースだね!」

 

「……血気盛んすぎですよアイツ……本当、しょうがないヤツです。それじゃあ、私達もぼちぼち行くとするですかね。変に遅れると、またあのパンダに難癖つけられそうです…」

 

「う、うん!」

 

「……そうだな」

 

「よぉし!気合い入れてくぞぉ!」

 

 

 陽炎坂から大きく遅れて、俺、雲居、水無月、贄波の4人も、モノパンが指定した“赤い扉”の前へと足を進め始める。

 

 俺は治まらない動悸を噛みしめ、手に汗握る。いよいよだ。いよいよ、学級裁判が始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし。まだ1つ、あの日記の中で引っかかっている…いや、残っている部分があると言えば良いのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 何故…あの日記の“4日目以降の数ページが破られていたのか”。

 

 

 

 

 

 これは重要な部分と皆に相談するべきだろうか?それとも些細なことと切り捨てて良いのだろうか?皆は疑問に思わなかったのだろうか?

 

 

 

 

 

 そんな大きさの分からない疑問を俺は胸中でグルグルと渦巻かせる。

 

 

 

 

 

 …まあ、さっきの討論でも言っていたように、今すぐに確定できないことは山ほど有る。裁判の時に、一度議題に出してみよう。

 

 

 

 

 

 そう心の中で思いとどまり、思考を止める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――その疑問が、この施設の全貌を知る。“鍵”になるとも知らずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

【中央棟】

 

 

 ついに来てしまった。

 

 

 たった数十歩でたどり着いてしまうと分かってはいたが、この赤い扉を目にすると、何となく俺はそんな感慨を持ってしまう。

 

 そして当の扉の前には、俺の級友たちが集う。その面持ちには、緊張や焦燥、不安が見て取れ、眺めるだけで息を呑んでしまうような真剣さがある。

 

 

「んん?どうやら来たみたいだね」

 

「待ってたよ~」

 

「……これで全員集合」

 

「…俺達が、最後のようだな」

 

 

 俺達4人が中央棟にたどり着くと、殆ど全員がこちらに顔を向け、一言二言。心なしか、皆の口数が少なく感じる。

 

 ……これで一応全員集合のはずだ。しかし、俺達の間に流れる静けさはまだ続いている。まあつまり、未だモノパンは現れずの状態だ。

 

 

 そんな沈黙が重かったのか、数人の生徒達が話しでもしようと口を開き出す。誰かと話して気でも紛らわそうと考えているのだろう。俺もその流れで誰かと談笑でもしようと意気込んでいると……ポンッと肩を叩かれる。

 

 振り返り、手の主を見てみる。そこには、ニコラスが立っていた。俺が目を合わせるとフレンドリーに“やあ”と一言。

 

 

「戦果はいかほどのものだったかい?ミスター折木」

 

「…できる限りの情報は集めた。……後は、詰めるだけだ」

 

「うん、頼もしい限りだね。それでこそ君に捜査を託した甲斐があるというものだよ」

 

「……あまり買いかぶりすぎるな。俺だって人間で、凡人だ……慣れないことをすれば必ずほころびが出てくる」

 

「……大丈夫。安心したまえ…キミは、キミが思う以上に良くやっている……今の時点ではね?」

 

「…………最後の言葉が無ければ、良い気休めになったんだがな」

 

 

 少し引きつった笑みを浮かべる俺に“ハハハ、すまないすまない”とニコラスは誤魔化すように取り繕う。

 

 

「………まあ安心したまえ。キミが何か間違えそうになったときは、ボクがきちんと矯正するさ」

 

「…まるで全部分かっているような口ぶりだな?」

 

「当たり前だろ?何て言ったって、超高校級の探偵だからね!ボクにかかれば、謎なんて有って無いようなモノさ!」

 

 

 嘘なのか本当なのか図りかねるビッグマウスに俺は苦笑する。でも、今は状況が状況だ。その自信が何だか無性に羨ましく感じる。

 

 そう軽い会話の打ち合いをしている俺とニコラスに、“あの…”とおずおずしたような声がかかる。

 

 

「折木さん…ちょっと良いですか?」

 

 

 かかった声の方向には、反町と小早川。手元には白い紙が握られていた。

 

 

「あの…これ受け取って下さい!きっと何かの役に立つかと!」

 

「さっき言ってた全員分の靴の種類さね……本当にアイツらバラバラに捜査してたから、探すのに苦労したさね」

 

「ほう、さっきキミ達が熱心聞いてきたのはミスター折木のためだったのかい……中々隅に置けないじゃないか?え?キミ」

 

「え、えええ?いえ、別に、折木さんに、そんな他意は…えと……無い、というか」

 

「……ニコラスの言葉は無視して良い。ありがとう、小早川、反町……助かる」

 

 

 俺が無視を促すような言葉と、お礼を口にすると。何故か、少しだけ悲しそうな表情を浮かべる小早川。

 

「あ、ああ……えっと、はいっ!私、そのお世辞にも頭が良くはないので、これぐらいしかできなくて…その…」

 

「小早川~?当人の目の前で自分の卑下は無粋だよ。ここはガツンと胸張って言ってやれば良いんだよ。こんな感じに………折木、その証拠。無駄に消費したら、承知しないよ?」

 

「な、なるほど~?」

 

「……無理して薫風を受けなくても良いと思うぞ?だけどまあ、肝に銘じておく」

 

 

 あたふたとする小早川は横にのけ、反町が脅迫じみた威圧をする。少し理不尽を感じるが…多少後ろ向きな気持ちの俺には、良い薬になったかもしれない。

 

 

コトダマGET!!

 

【生徒全員の靴の種類)

折木:スニーカー

陽炎坂:ランニングシューズ

鮫島:スニーカー

沼野:地下足袋

古家:スニーカー

雨竜:長靴

落合:ブーツ

ニコラス:革靴

水無月:ローファー

小早川:下駄

雲居:ローファー

反町:ブーツ

風切:スニーカー

長門:サンダル

贄波:シューズ

 

 

 

 …サンダルに下駄、それに地下足袋?……思った以上に靴にも生徒達の個性がにじみ出ているように感じる。しかし、これをどう議論で活かしたモノか。

 

 俺がそんな風に、心で感想と思考を右往左往させていると…。

 

 

 

「やあやあやア!待ちに待たせて、お待たせいたしましタ!学級裁判の時間……ではなく、会場へのご案内の時間で~ス!!」

 

「……別に待ってない」

 

「待っておらんかったで~」

 

「待ってないんだよねぇ」

 

「右に同じだぜえええええええええええ!!!」

 

「……ここまで強く否定されると、さすがに心に来るものがありますネ……」

 

 

 俺達のドライな反応に凹むモノパン。しかし“き、気を取り直して…”と、タダでは転ばず再起する。

 

 

「くぷぷぷぷぷプ。何となく想像は付いていると思いますガ…この赤い扉が裁判場へキミタチを運ぶ方舟となりまス」

 

 

 紹介するように手を扉へと向けると、赤い扉はそれに連動して口を開く。遠目からだが、格子に囲まれた禍々しいデザインの箱形の部屋…いや、あれって。

 

 

「エレべー、ター?」

 

「ええ、裁判場はこのエレベーターに乗った先……地下になりまス」

 

「な、なんだとぉ…!!!エレベーターだとぉ…。この世で最も嫌いな乗り物ランキング堂々6位の、あのエレベーターか…」

 

「えらく微妙な順位ですが……まあ苦手意識を共感するです」

 

 

 数人の生徒が顔を青くする中、モノパンは全く気にも留めず俺達に背を向ける。

 

 

「くぷぷぷぷ、ワタクシは、先に降りていますネ?ではでは、良い旅路を…」

 

 

 煙のように姿を消すモノパン。……後は俺達が中に入るだけ、と暗に告げられているように感じた。

 

 

「イッツアショータイム!だね。早速乗り込もうとしようじゃないか?キミ達」

 

「俺が!!!1番!!!最初!!!なんだぜえええええええええええ!!!」

 

「よーっし、本番だぞー!レッツゴー!」

 

 

 良く言えば意気揚々、悪く言えば場違いなほど明るく3人の生徒達は乗り込んでいく。

 

 

「ああああ、ナンマイダーナンマイダー。おお神よ、どうかあたしにほんの少しの勇気を~」

 

「宗教ぐらい統一しときな。ほらさっさと行くよ!後続がつっかえてんだからね」

 

「……平常心、平常心」

 

「……人、人、人………ゴクン……よし!この緊張はもう、どうにもならんでござるな!当たって砕けるしかないでござるな!」

 

 

 そして古家や、その後ろから反町、風切、沼野が続いていく。

 

 

「緊張するよ~~」

 

「…朝衣さん、きっと犯人を見つけてみせます…!どうか、どうか見守っていて下さい…」

 

「真実を確かめる時来たれり…だね……」

 

 

 自分に訴えかけるようにつぶやきながら、長門、小早川、落合も。

 

 

「あかん、やっぱ先にトイレあるか聞いとくべきやったな…催してきてもうた……」

 

「…間違ってもエレベーターの中で漏らさないでほしいです」

 

「ぐぬぬぬぬ、乗り物は苦手なのだが…仕方ないかぁ……!」

 

 

 ……別の何かと既に戦っているような気もするが、雨竜、鮫島、雲居も次々と赤い扉の向こう側へと吸い込まれていく。

 

 

 …後は、俺と贄波の2人だけ。ビリビリとした緊張感で少し足がすくんでいるように感じる。だけど、行かなくてはならない。朝衣の無念を晴らすために。

 

 …すると、いつの間にか隣にいた贄波が俺に声をかけてくる。

 

 

「折木、くん。いよいよ、だね」

 

「ああ」

 

「頑張ろう、ね?」

 

「ああ…」

 

 

 発破をかけてくれたのだろうか?それとも俺の気を察して?……ひどくか細くはあったが、何となく力強く、本当に背中を押してくれたような気持ちになる。

 

 俺は、自分の頬を自分でバチン叩き、気合いを入れ、エレベーターへと乗り込んでいく

 

 

 俺がエレベーターへ入りきったのと同時に、格子の扉は逃げ道を塞ぐように締め切られる。そして、ガコンと揺れ出し、鉄の方舟は重力に従ってゆっくりと、着実に落ちていく。深い深い、深淵の先に光る。裁判場へ向けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ゴウンゴウンとエレベーターはうなり声を上げるように、下がり続ける

 

 

「これ、何処まで下がってるんですかね……」

 

「果てしない地獄への道筋…いや、それすらも生ぬるいかもしれない場所かもしれないね」

 

「落合殿…それ洒落になってないでござるよ」

 

 

 

 ――――内臓が浮くような浮遊感はまだ続き、ビリビリとした静かな重圧が肌を揺らす

 

 

「うぷ…この浮遊感…ちょっと、気持ちが……」

 

「ちょっと雨竜、アンタまさか……」

 

「だ、大丈夫だ心配するな……さすがにエレベーターでは……うっ……」

 

「…心配しか無いんだよねぇ」

 

「…ここで出されたら……さすがにヤバい」

 

 

 ――――不安も、じわじわと増していく

 

 

「アカン……ちょっとホンマにアカンかもしれん…」

 

「落ち着くです。…此所で出したら裁判の間、恥をさらし続けることになるですよ…」

 

「その通りだよ!!ほら、ひっひっふー」

 

「ひっひっふーーー」

 

「それ逆のヤツなんだよねぇ!」

 

 

 ――――不安の気持ちが最高潮へと達しようとしたとき、チン、と見計らったようにエレベーターは動きを止める。俺達の視界に、光が満ちていく

 

 

 

「くぷぷぷ、ようこそキミタチ。“学級裁判場”へ」

 

 

 ――――目の前に広がるのは、正しく法廷といった内装であった。

 

 

 ――――証言台を思わせる装飾品は円状に並べられ、殺された朝衣を含めた16の席が用意されていた

 

 

「それではキミタチ。自分の名前が彫られた席に、それぞれ移動して下さイ?」

 

 

 ――――モノパンの言うように、俺達は自分の名前が書かれたプレートのある席へ登り立つ。

 

 

 

『超高校級のジャーナリスト』“朝衣 式”

 

 

 ちょっぴりドジなところもあったし、たまに好奇心で人を困らせたりするときもあったけど……誰よりも責任感が強かった。誰よりも自由な俺達をまとめようとしていた。誰よりも、脱出のための糸口を掴む、努力をしていた。

 

 

 

 ――――そんな朝衣を殺した“クロ”が、俺達の中に潜んでいる

 

 

 

「………」

 

 

 

 ――――全員の顔が、よく見える。

 

 

 ――――不安そうに小さく震える者、祈る者、真っ直ぐと見据える者

 

 

 ――――それぞれの生徒達がそれぞれの覚悟を持っている

 

 

 ――――ふと、捜査が始まる前のモノパンの言葉を思い出す。

 

 

『これからキミタチには、命を賭けた裁判、命を賭けた騙し合い、命を賭けた裏切り、命を賭けた謎解き、命を賭けた言い訳、命を賭けた信頼、命を賭けた…学級裁判を……行ってもらいまス』

 

 

 ――――ゴクリと固唾を飲み込む

 

 

 ――――ついに、始まる

 

 

 ――――命を賭けた、戦いが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのー、すんまへん。お手洗いって、どこにあるか分かりますぅ?」

 

「奥行って右ィ!!」

 

 

 

 

 

 

 ――――何か、締まらないな………

 

 

 

 

 

 

 




どうもこんにちは、水鳥ばんちょです。今回の謎は、割と簡単の方だと思います(当社比)。これよりもさらに複雑な事件あるからね!しょうが無いね!


↓以下コラム


○席順

 折木(モノパンの対面)⇒水無月⇒小早川⇒沼野⇒陽炎坂⇒風切⇒鮫島⇒雲居⇒雨竜⇒長門⇒ニコラス⇒反町⇒古家⇒落合⇒贄波⇒朝衣⇒(折木)


↓図示

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