ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~ 作:水鳥ばんちょ
【学級裁判】
【開廷】
「えーではでは、鮫島クンがお手洗いに行っている間に、学級裁判の簡単な説明から始めてしまいましょウ!」
「学級裁判では『誰が犯人か?』を議論し、その結果は、キミタチの投票により決定されまス」
「正しいクロを指摘できれば、クロだけがおしおキ。だけど…もし間違った人物をクロとした場合…」
「クロ以外の全員がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけにこの施設から出る『権利』が与えられまス!」
偉く足の長い金色の椅子を踏み台に、モノパンは、劇場の役者が如く大手を振り、予め用意されていたと思われる学級裁判の説明についてつらつらと並べだす。
……捜査の最初の方から…いやこの施設での生活が始まる前から“学級裁判”について耳にしてはいたのだが、実際に、始めようとなると、張り詰められた緊張感に、身体が包み込まれる感覚に陥ってしまう。
「始める前に、一応確認しておきたいのだが……本当にこの中に、朝衣を殺した犯人が居るというのか?」
モノパンが話しを先導する途中、少し鼻の詰まった声の雨竜が、両手を組み、渋く表情を歪めながら意見を呈した。
「モチモチモチのロンでス。朝衣さんを殺めたクロは、“確実に”キミタチの中に潜んでおりまス…くぷぷぷプ」
“本当に……残念ですねェ”悲しみを表現するかのような言葉の裏には、明らかに“事件が起きて良かった”という喜色が漏れ出ているようだった。…いやむしろこれは、敢えて俺達に悟らせ、俺達に不快感を与えようと図っている。針の糸を通すかのように、細部にまで気を配った意地の悪い態度に…俺はさらなる不快感を募らせた。
「ちなみに、と付け足しておきます…この学級裁判は100%公正に行われます、ですので安心して裁判に挑んでくださいネ?」
自分は不正をしません、と暗に宣うモノパンに“はっ、どうだか、です…”と、緩くひねたつぶやきを耳が拾う。特徴的な語尾と、身の程に合うかん高い声質から“雲居の声だな…”と俺は小さく当たりを付ける。
「それではではでは、早速始めちゃいま――!」
「すまん、議論を始める前にもう一つ良いか…?」
雲居の文句が聞こえなかったのか、それともあえて聞こえないふりをしたのか、モノパンはそそくさと学級裁判の開始を宣言しようとした……が、俺はその勢いを殺すように、待ったをかけた。
「……どうしたんですカ~?折木クン?折角気持ちよく裁判の開始を宣言しようとしたの二…」
「…“これ”は、どういう意味なんだ?」
俺は、自分の隣に立てられた“朝衣の遺影”らしきものに指を差す。しかもただの遺影では無く、写真にショッキングピンクカラーの×(よくよく見てみると、鉛筆とボールペンをクロスさせた×)が描かれた、まるで死者を冒涜したような落書きまでされていた。
「くぷぷプ……死んでしまったからって、仲間はずれにするのはかわいそうですよネ?友情は生死を飛び越えるんですヨ!」
「せいし、が…飛び越える、でござるか……!」
モノパンはまるで俺達のために用意した、という態度と言い回しで、全員を周りを丸め込もうとする……そのふざけた態度に、俺はいつもの仏頂面の皺の堀を深め“そうか…”と納得する。
完全には、納得してはいない、が。
「くぷぷぷプ、前置きはこれぐらいで大丈夫ですよネ?それでは改め……議論を開始して下さーイ!」
言いたくてうずうずしていたのか、学級裁判の開始を、高らか過ぎるほどに宣言をする。しかし…裁判開始からはや10秒。俺達からの第一声は、未だ上がらず。
「おやおやおヤ?どうしたんですカ、キミタチ。早く議論を始めちゃいまセ?時間は砂時計のように有限ですゼ?……まっ、いつ終わらせるのかなんて、ワタクシの機嫌次第なんですがネ」
「と~、言ってもさ~。まず何をどうしたら良いのか分からないんだよ~」
「裁判なんて、受けるのもやるのも初めてですからね……」
「警察の世話には、何度かなったことはあるんだけどね……」
「俺様もだぜえええええええええええ!!!!!!!あのときは!!!逃げるのに!!!苦労したんだぜえええええええええ!!!!」
「そんな知りたくも無かった前科を、わざわざひけらかす必要無いと思うですけど……でも陽炎坂、お前には、そこは大人しくお縄についておけ、とだけ言っておくです」
議論を始めるにあたり、数人の生徒から裁判に対する不安の声が上がる。…学生の身分で裁判を“受ける”側に回るのも希な体験だのに、実際に“やる側”に回るとなると、さらに希少な事……不安の吐露が多くなってしまうのも無理は無い。
「…そう怯えるモノでもないさ、キミ達。…“何をしてどうしたら良いのか分からない”は“何をしても問題ない”とも言い換えられる……この“学級裁判”、“裁判”という名は冠されているが……実はとても自由で、ボク達“超高校級の生徒達”にはピッタリな形態をとっているのだよ」
「“ピッ、タリ”…って?」
「やりたい放題で、協調性皆無で、しかもアホ丸出しの私達にピッタリ…ってことですか?」
「……それ自分で言ってて、悲しくならないのかねぇ?」
「全く思わないです。…協調性云々はともかくとして、アホ丸出しの部分は鮫島と沼野を差して言ったですからね」
「人権侵害でござる!!アホは良いとしても、丸出しはないでござろう!!」
「アホの部分は否定しなのかい…」
「まあ沼野くん、変なところでこだわるからね!ねっ!」
「そうだなぁ…沼野であるからなぁ…」
「…沼野だからしょうが無い」
「数日前よりいじめっ子の数が激増しているでござる!!これはPTA沙汰でござるぞ!」
クラスの4分の1による沼野へのいじりが加速し始める…が、さっきまでの発言者であるニコラスが“黙って聞きなさい”と取れる、強い咳払いで場を立て直す。
「話しを続けても良いかな?キミ達?……ボクが言いたいのはつまり、弁護士、検事、裁判員、被疑者、容疑者、全ての役割をボク達全員が自由に担い、“自由に正しい結論”へと導く……てことなのさ。…実に簡単じゃないかい?」
「う~ん……それが難しいって言っているんだけどねぇ…」
「でも、弁護士にも検事にもなれるんですよね!私憧れだったんです!“異議あり!”って!」
「スゥー……ちょっと世界観の違う憧れなんだよねぇ…それ以上は踏み込まない方が良いと思うんだよねぇ」
弁護士、検事、裁判員、被疑者に………そして容疑者。俺達が今から行う学級裁判は、シロとクロがモノクロカラーのように入り交じっている。だから、ニコラスの言う“自由な結論”は、“クロにとっても”、“シロにとっても”、都合良く塗り替えることができるのだ。
大半の生徒は、“後者”のために、発言を繰り返すのだろうが、たった1人は“前者”のために立ち回る。決して、仲間が多いからと、高をくくると、たったの1人によって、簡単に足下をすくわれる可能性だってある。
「じゃあさじゃあさ。何を議題にしたら良いのか分かんないなら……無難に今晩の献立についてに話し合ってみようよ!やっぱりカルタ的には、ハンバーグが一押しかな?」
「……肉じゃがが良い」
「初っぱな本題から大きく外れてるんだよねぇ……ルールというか、学級裁判のやる意味取り違えているような気がするんだよねぇ…」
「飢えとは、生きる以上の試練となり得る……その苦しみを喜びに変えるとなるならば……若鶏を油で包み込む必要があるね…」
「指摘をボケで上塗りしないで欲しいんだよねぇ!」
…いきなりというか最初からの脱線はさすが予測はしていなかった。大半の生徒が様々な様相で頭を抱えていた。勿論、そのうちの1人に俺も含まれている。
「はぁ……今晩のおかずについてははるか遠くに置いておくとしてです……まずは現時点で、この事件について分かってることをまとめてみるですよ」
「分かってること~?」
「もう少し具体的にすると、朝衣さんの死体の状況についてとか…かな?キミ」
「あーそれは良いかもしれないね。アタシも事件の概要、隅から隅まで把握しているわけじゃ無いから、部分部分を掘り返してくれると、助かるよ」
「俺様も!!!何も!!!分かっていないんだぜえええええええええ!!!」
「……それは問題外すぎ」
「と、取りあえず、議論を始めてみるでござるか!“最初こそが肝心”と、良く言うでござるし!」
「よーし!気合い入ってきたよ!!皆、準備は良い?」
「出鼻くじいた本人が、何か仕切りだしたんだよねぇ」
「……良い、から。始め、よ?」
さすがに会議が踊りすぎたと思ったのか…贄波から言いようのない、強い圧が入る。俺達は、慌ただしくたたずまいを正し、切り替えていった。
――いよいよ、だな
――朝衣を殺した犯人を決める学級裁判が、今火蓋を切ろうとしている
――何か気づいた事があったら、俺自身が発言しなければならない。
――もしも、それを怠ってしまえば…。
「………」
――……いやよそう。まずは“目の前のことを”だ。
『さあ、いよいよ学級裁判が始まってしまいましたね』
『えっ?これは小説の中だぞ?ゲームじゃ無いのに何でお前(ナレーター)がいるのかって?』
『……まっ、細かい事は気にせず、さっさといきましょう!!』
『学級裁判では、ストーリーが進むと、“ノンストップ議論”が発生致します』
『“ノンストップ議論”では、ご学友の皆様が次々と発言し、議論が自動的に進行致します』
『折木君が、その発言の中から、“嘘や間違い”を見つけて、捜査で集めた“言弾(コトダマ)”を使って論破していきます』
『本作はゲームでは無いので、コトダマの選択肢(シリンダー)はありません(ていうか書くのが億劫)。全ての証拠を選択肢として考えていただいても差し支え有りません。折木君がドンドンコトダマをバンバン打っていくだけなので』
『皆様の発言の中に、【】で囲まれたウィークポイントがございます』
『ウィークポイントの中には、“嘘や間違い”が潜んでいる可能性がございますが…』
『必ずしも、全てが論破できるわけでは無く、ダミーのウィークポイントが存在します』
『さらにさらに、今回の議論では出てきませんが、後ほど『』で囲われた“賛成ポイント”が出てきます』
『これは生徒が正しいことを言っている、もしくは議論の流れが好転する、ポイントになり、そこに折木君が証拠をぶつけると、ご学友の意見に同調したということになります』
『そして生徒と生徒の意見の間に「」で囲われていない、地の文が出てきますが、これは発言していない生徒の“雑音”になります。阿呆な生徒が阿呆な事を口走っているだけなので、お気になさらず』
『以上が説明となります。ゲームでは無いので、OPTIONボタンを押しても、操作説明は出てきません』
『新要素が出てくると、またこのように説明が入りますので、あしからず……ではでは、本小説をお楽しみ下さい』
【ノンストップ議論】 【開始】
「分かっていることですけど、敢えて言わせて貰うですよ…」
「今回の事件の被害者は、超高校級のジャーナリスト、【朝衣式】、です」
……一体誰に
何故、こんなむごいことを…
「死体の発見場所は、【第1倉庫】内……であったなぁ」
…ええと、寒い方でしたっけ?
ん~ん~、寒くない方~
「死因は、【窒息死】…何とも残酷な殺し方でござる」
んん~?
そうであったかぁ?
「あれれ?そうだっけ?なんか違わない?…そう思ってるのって【カルタだけ】?」
「いや、皆思っているですよ…きっと」
…何か間違っているの?
さっぱりなんだぜえええええええええ!!!!!
「ミスター折木。これは初歩中の、初歩の議論だ」
「何処が、間違っているのか…勿論、理解できているね?」
【モノパンファイル Ver1)⇒【窒息死】
「それは違うぞ!」
【BREAK!!!】
突然、俺から強めの指摘したためか、沼野は動揺と身じろぎを隠せずにいる。そして、焦ったように、震えた声で、唇をゆらした。
「え、ええ~?何か違ったでござるか?朝衣殿は、首を絞められたことによる、窒息死のはずでは?」
「一体どこからその情報仕入れたですか?事実から大きく乖離してるです」
呆れたように、首を左右に回す雲居。俺は彼女の否定に続くよう、【モノパンファイル Ver1)を取り出し、沼野へと見せつけた。
「沼野、このモノパンファイルをよーく見てみてほしい」
「ううむ、これはこれは。中々の一品ですなぁ……ん~200万円!!」
「何でいきなり、出張鑑定が始まっているさね……」
「何故……バレてしまったんですカ…!コイツの制作費ガ…!」
「しかも合っているのかねぇ!?……いや、このパッドべらぼうに高すぎなんだよねぇ!!ああぁ…クワバラクワバラ……」
「貴様ら、黙して聞けぬのかぁ!!…沼野!金額如きに気を取られず、穴が空くまで見てみろ!」
「“如き”とは聞き捨てならないでござる!お金は大事にでござる!」
「思わぬ所で叱られたのだがぁ!?」
「……ではなく、ええと。穴が空くように見るも何も…ちゃんと裁判が始まる前に目は通したでござるよ~……雲居殿達も人が悪いでござる~……ひゅーひゅーひゅー」
「急に起こったと思えば、わざとらしく口部吹き出して……何だか忙しないですね」
「……まあでも、そのときは寝不足が祟って、少々目は曇り気味でござったがな!」
「語るに落ちちゃってんだよねぇ!?」
堂々と、というか、身も蓋もない沼野の発言を聞いた俺は“ああ…そういえば”と、寝不足気味であったという、本人からのタレコミを思い出す。
「……沼野、モノパンファイルには、朝衣は『大量の水を体内に含んだことによる溺死』と書かれているんだ、首を絞められてもいないし、窒息死とも、厳密には今回の死因とは違う」
「本当ですか!?」
「な、何だってええええええええええええ!!!!!」
「……初めて知った」
「…何でお前らまで驚いてるんだよ…!」
意識がぼやけていた沼野はともかく、湧いて出てきた小早川、陽炎坂、風切の驚きに、俺は戦慄した。
「まともにファイルに目を通してるのって、もしかして少数派なのかねぇ……常識人の自負は有ったんだけど…何だか自信が削られていく感じがするんだよねぇ」
「これで削られる自信って、どんだけ薄っぺらい地盤なんですか……コイツらがとりわけ別次元なだけですよ」
「別次元だなんて…っ、そこまで褒めなくても……テレテレ」
「小早川……それは決して褒め言葉では無いさね…」
………ともかく、一騒動はあったが、この議論のおかげで死体に関する概要は全員に行き渡った、ということになる。
…これで、以降の議論が滞りなく進んでくれると良いんだが。
俺が内心、そう独りごちていると、指摘を受けた本人である沼野が“ん~、少し良いでござるか?”とモノパンファイルを片手に、マトを得ない声を上げる。
「当てつけ、とは言わないでござるが…このモノパンファイル…Ver.1…?でござったか。よく見てみると、死体についての情報が、かなり曖昧でござるな」
「あ~言われてみればね~、死亡推定時刻とか不明だし~」
「死体“発見”現場は『第1倉庫』て書かれているからなぁ…実際に殺された場所は、また別やもしれん」
「えっ!殺された場所と死体発見現場は同じというわけでは無いんですか!?」
「一種の言葉遊びだね。僕も時々、詩を作りながら、どう嗜好を凝らそうかと考えているよ」
「お前の場合、“時々”じゃなくて“四六時中”の間違いです。……でも、この絶妙に適当かつ雑な仕事は、裁判をする側としては看過できないですね………モノパン?勿論クレームは随時受付中ですよね?」
にらみ上げるように、雲居はイライラした感情をモノパンへとぶつける。他の生徒達も、睨むまでは行かないが、不機嫌な顔をモノパンへと向けている。しかし豪奢な椅子でふんぞりかえるモノパンには、ジャブともつかない衝撃というように、軽々しい態度を表わしていた。
「くぷぷぷぷプ……裁判が始まる前に言いましたよネ?この裁判は“100%公正に行われる”…と。そしてこのファイルも同様に100%公正に作られておりまス。これ以上書き込んでしまったら、シロとクロとの均衡が崩れてしまいますかラ……全ての真実は“キミタチだけ”で、導き出すのでス。不満をぶつけて何でも手に入れられるのは、赤ん坊までですヨ?」
煽りに煽りを重ね、決して底を見せないモノパン。試すかのような応対に、俺達は三度ため息を繰り返す。…恐らく、ツッコまれること前提でこのファイルを作ったのだろう。
…だけど、モノパンの言葉を逆に考えてみると、モノパンファイルに記載されていないことは、“クロにとって不利な情報”ということになる。図らずも俺達は、ヒントらしき物を得たことになってしまった。
「ケッ…ケチなパンダです」
「だからエセ紳士を脱する事が出来ないのだよ。懐が深すぎて、昔ながらの友人に借金を背負わされたボクを見習いたまえよ」
「完全に都合の良い人間扱いされてるだけなんだよねぇ…それ」
「連帯保証人は闇が深いよ~」
「と、とにかく。ファイル事態が曖昧なのであれば、その曖昧な部分から切り崩していくのはどうかと進言させもらうでござる!」
ニコラス達の深淵に恐れを覚えた沼野が、尽かさず話の軌道修正にかかる。
「てことはあああああああああ!!!!!!まずは!!!!!!“いつ”!!!からだなあああああああああああああああ!!!!!」
「なーんだ。そんなの簡単じゃーん?へーいドクター雨竜!」
「むぅ?どうした、水無月。そんなに目をキラキラさせても、ワタシのポケットに忍ばせたキャラメルはやらんぞぉ…」
「誰が物乞いをするために呼ぶかーー!検死結果だよ!け・ん・し・けっ・か!。キミの努力の結果を発表しちゃいなよユー!……でも後でキャラメルはちょうだい!!」
「結局釣られてるんだよねぇ」
「ううむ…わかった。いや、この“わかった”は、菓子の件についての了承では無い。予め言っておく。では……拙いながら、朝衣の検死結果を報告させて貰おう」
「変に細かいところが無ければ、そこそこ恰好は付くんだけどね…ままならないもんだよ」
「くぷぷぷぷ、良い感じに議論が成立し始めてきましたネー。ワタクシは実に嬉しいですヨ!ウンウン」
「人との言葉の交わりは、美しさの源でもある…まさか白と黒のカラクリと、同様の意見を持ってしまうとは……生きてみるものだね」
「な~に勝手に共有し合ってるですか。マジキモいですよ」
雨竜の経験に基づいた、朝衣の検死。捜査のすがらで聞いた話では、“モノパンファイルは正確”という位しか聞いていない。…一体どんな議論になるのだろうか。
【ノンストップ議論】 【開始】
「数十分前に行った、朝衣の検死結果だが…」
「残念ながら具体的に何時間前、と断定することは【できなかった】」
マジでござるか…
マジなの~
マジなのかねぇ
「んん?…どうしてなんだい?」
「素人意見だけど…」
「瞳孔とか体温で、『死亡推定時刻を割り出す』って、どこかで聞いたことあるよ?」
テレビかなんかで聞いたことがあるんだよねぇ!
カルタの体温は平温であります!
お前には!!聞いて!!!無いんだぜええええええええ!!!!
「…ううむ。確かにそうなのだが」
「朝衣の体温が、『異常に低下』していてな…」
「精密な時間を割り出すまでには至れなかったのだ」
「断言するにしても…ワタシが検死をする【3時間以上前】…としか」
3時間前ですか…
あたし達が炊事場に着くよりもずっと前なんだよねぇ
「だったら簡単じゃないですか」
「その数時間前に殺されたんですよ…」
「例えば…」
「昨日の【深夜頃】…とか」
確、かに…
蛍ちゃんの意見に、賛成だよ!
「言われてみればね~」
「炊事場へは誰でも【好きな時に】行けましたからね」
「…真実はいつも1つ。それは決して覆されることのない、この世の真理…」
「まさに、雲居さんの答えが。その『真理を謳ってる』に等しい…」
「そして裁判は、終焉へと向かっていく…」
う~む…頭が追いつかないでござる
深い意味は無いと思うよ~
そっとしておくのが吉なんだよねぇ
【沼野と風切による監視体制)⇒【好きな時に】
「それは違うぞ!」
【BREAK!!!】
「え~っと…今の反論は~一体どっちに言ったのかねぇ?小早川さん?それとも、落合君?」
「……小早川の方だ」
議論の終盤という中々に紛らわしいタイミングで意見を挟んでしまったせいか、数人がタイミングについて疑問符を上げる。俺は口をへの字にしながら頭を掻き、正しい指摘先を口にする。
「えぇ…?でも、どうしてですか?炊事場は、いつでも自由に解放されてるスペースですよね?」
俺からの反証に、小早川は、多少の怯えは見られるが、率直な疑問を挙げる。
「忘れたのか……?昨夜の、天体観測を終えた後のことを」
「えっと~……………………………………何がありましたっけ?」
えらく長い溜めを置いたと思ったら、この返し。俺はガクッと肩を揺らした。
「折木殿…ここは拙者と風切殿が…」
俺は、これからどう答えたものかと思考していると、沼野と風切が、助け船の如く、議論に乗り出してきた。
「梓葉…その好きな時に炊事場に移動するっていうのは…不可能」
「不可能…なんですか?」
「随分ときっぱりしてるですね…根拠はあるんですか?」
「勿論でござる。昨晩、拙者と風切殿は噴水広場で“見張り”を行っていたのでござるからな」
「…みは、り、って?」
「見栄を張るを略して、見張る、だよね!」
「全く違うぞぉ!貴様ぁ!わざとやっているのか!」
「いや、どう見てもわざとさね」
沼野、風切の2人が雲居の疑問を受けとると、当事者である2人は、スラスラと、根拠を口にする。その“見張りというキーワードに、雲居だけでは無く、贄波も疑問の声を出す。何だか、余計な話しも付随してきているが。
「……遡ること、昨日の夜。風切殿が何やら“胸騒ぎ”がすると言うので…急遽、8時半頃、噴水広場にて見張りを敢行したのでござる」
「…わたしが炊事場側を、浮草がログハウスリア側を見張ってた」
1つ1つ、長すぎないよう要点をまとめ、沼野が話し、風切は補足を添えていく。ここまでは、俺が沼野達から聞いている情報に相違は無い。
「ふーん、胸騒ぎ…ねぇ。それってやっぱり、動機発表があったから起きちゃったとか?とか?」
「…うん。何か皆、よそよそしかったし。夜が1番危険だと思った」
“胸騒ぎ”の経緯を、静かに、それでいて訴えかけるように、風切は理由を話す。俺は、日中ずっと部屋に居たからよく分からないが…多分、風切からしたら、いつもの皆と雰囲気が少し違っていたのだろう。
風切の言葉に、少ない人数が妙に納得していることから、その根拠を頑強にしていた。
「でも、どうして噴水広場だったんですか?」
「ん……エリア間の移動には、中継地点の噴水広場を通らなきゃいけない。だから、見張ることで、怪しい通行人を検挙できるし、抑止力にもなると思った」
「つまり、炊事場で犯行を行うなら…必ず噴水広場か、その周りの森をを通らなきゃならない。だから、“好きな時”に炊事場に行くことはできない、という意味でござる」
「真夜中にそんな機微なことまでわかるもんなんですか?」
「私たちは夜目が利く。噴水広場の周りの森を通ってても、すぐに分かる」
「おお、いつもより風切の言葉数が多いぞ…珍しいな。うむ、実に珍しい」
「普段はもっと、細切れの、ぼそぼそな口調だからねぇ…」
「それに~、一語一語が少ないから~、説得力が感じられるよ~」
「きっと風切も、この状況で話すのを怠けてる場合じゃないって思ったんさね。中々良いところが有るじゃないか!」
「……話し疲れた。……寝る………グゥ」
「と思ったら、寝るのかい!」
「立ったまま寝たんだぜえええええええええ!!!!」
「無駄に器用なんだよねぇ!?」
風切は鼻提灯を出し、議論そっちのけで睡眠学習をし出す。一方で、2人の意見に、雲居は“成程、なら難しいですね”と、納得する。しかしその顔には、納得以外に、別の疑念が漏れ出ているのがわかった。
「じゃあさ~2人が言ってる~その通行人の中に~?怪しい人は居なかったの~?」
「確かに!何か黒タイツっぽい人とか見かけなかった?明らかに“犯人ですよー”って感じの」
「そんな現実離れした輩がいたら、犯人逮捕に苦労はしないよ?キミ……まあでも!このボクには!黒ずくめ以前に、誰が怪しいのか見当はついてるからね。何て言ったって、超高校級の名探偵だからね!」
「ニコラス、くん。ちょっと、うる、さい」
長門達は、見張りの最中、具体的にどんな人が通ったのか、不自然な行動した者は居なかったのか等など、具体性を求めてくる。
そして、その質問に対して俺は、手元にあるこの証拠で、それに応えることが出来る。
【証拠品セレクト】
【通行人の調査結果)←
「これで、証明するっ!」
「その日の夜に不自然な動きをしていた生徒は…居なかったんだ。…これがその証拠だ」
「ああ、拙者達が伝えた。通行人の調査結果でござるな。いや~我ながら良く眠らず見張れたでござるよ!」
「……新記録。…グゥ」
「今の寝言なのかねぇ!?」
俺は沼野達から予め聞いていた、通行人の調査結果を示す。全員その結果を見据え、それぞれ、頷いたり、首を傾けたり、様々な動きが見られていた。
「9時頃に反町達がログハウスエリアへ…、深夜1時頃に折木達が、そして朝の6時頃に小早川と古家が……かぁ。折木達の言うとおり、不可思議な動きをしている者は見て取れんな…」
「怪しい動きどころか、炊事場へ行く素振りがあるのは、小早川と古家の2人だけ。しかも朝さね……この時間帯に殺された……ていうのは、雨竜の検死結果と外れるさね」
「……だったら私の推理が大分崩れてしまうですね。…私はてっきり、朝衣が夜中に倉庫へ行って、殺されたと思っていたですから……」
「そ、そんな推理を既に…さすがです!…私なんて、今晩のおかずは何にしようかとしか考えてなかったです…はい…」
「まだその議題まだ引きずってたのかねぇ!!」
途中出た雲居の意見は、数人の生徒の頭によぎっていた考えだったのだろう。贄波や、…多分落合もうなずいていることからも、その推理の妥当性が窺えた。
「んん~?じゃあさ~、朝衣さんは~?いつ炊事場へ~行ったんだろ~ね~?」
「何時でも、良いじゃないかな?人間というのは、人生という牢獄の中だけでも、自由にあるべきだからね」
「お前は帰って寝てるです」
「…拙者達の見張りをかいくぐって、こっそり森の中を抜けて行くにしても…そんなにコソコソして行く必要が無いでござるし…」
「ものすごい影が薄かったから、誰にも気づかれなかった!……とかは、あり得ないですよね……すみません。ちょっと隅に寄ってます……」
「何か勝手に意見出して、勝手に暗くなっちゃったんだよねぇ!大丈夫だから!まだ否定されてないんだよねぇ!!」
「…否定はする気だったのかい」
“朝衣はいつ炊事場に行ったのか…”その議論が停滞を見せ始め、どう終止符を打つかどうか、もしくは議論そのものを切り替えるか、という遅延した空気が流れ出そうとしている……と。
「――そのことについてやったら…ウチが知っとるで」
そこまで重要な役どころとは思えないが、それっぽい雰囲気を身に纏い、仁王立ちで、お手洗い帰りの鮫島が満を持しすぎて登場を果たす。
「さ、鮫島君!随分長いトイレだったねぇ」
「…遅すぎ」
「重役気取りですか?自分の身分をわきまえるですよ」
「あっ!拙者と同類の鮫島殿でござる!」
賑やかな歓迎か、もしくは野次が飛ばされ、手痛い傷を次々と刻まれる鮫島。さすがのヤツも表情を引きつらせ、若干身じろぎをしている。
「……何か皆、辛辣すぎひん?しかも同類ってなんや。いつからウチとあんさん同系統になったんや?しゃしゃんなや」
「返しが雲居殿くらいに辛辣でござる!?」
「…ていうか、一体今まで何をしていたんだい?…ミスター鮫島。既に物語は佳境を迎え、このボクが華麗なる推理ショーを始めようとしている最中だというのに」
「鮫島がどうしようも無い人間ってことで、議論は可決したところだよ…さっ、早く両手差し出しな」
「それホンマ?弁護士も無し?」
「無しも無しです。さすがの裁判官も首を振ってるですよ」
「末期やん。人類全てに平等な裁判官が首振るって、もう人として見られてないやん」
いつもは常識人側に居るはずのニコラスと反町でさえ、鮫島への弄りは及んでいる。これは愛されているのか、ぞんざいに扱われてるのか…………十中八九、後者であろう。
「……悪ノリはそこまでにしよう皆。鮫島、さっきの話を、もう少し詳しく聞かせてくれ」
「…ほら、アホづらはそのままで良いから、席つきな」
俺と反町の言葉に、“はぁ…よかった”とひどく真面目に安堵する鮫島。もしかして、本当に議論が終わるとでも思っていたのだろうか。
「いやーすまんな。何か議論がえろう白熱しとったから、出るタイミング完全に見失ってもうてたんや。まっ、遅ればせながら、ヒーロー参上っちゅうとこや」
「じゃあ途中までだったら、話しの内容は理解できてるってことで良いですね?」
「ああ勿論やで。今晩のおかずの話をしてた辺りからなら、聞いとるで」
「ものっそい最初の方なんだよねぇ!」
とんでもなくタイミングを見誤っていたらしいな……。まあ、盛り上がった会話の中に、シレッとしながら入るのは、俺でも、誰でも至難の業だと思う。
「んでんで、鮫島くんや式ちゃんが炊事場エリアにいったタイミングを知ってる~って言ってたけど、それってどういうことなのかな?」
「そらーもう、そのまんまの意味や。ウチと朝衣が天体観測を抜けた後……大体8時半ごろやな。途中まで一緒にお話して、帰っとったんや」
「それは!!!知らなかったんだぜええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
「ええええ!全然きづかなかった!」
「あんさんら、爆速で帰ってしもうてたやん。ま、美人の朝衣と2人切りでお話出来たからええんやけど……」
先に天体観測を切り上げ、グラウンドを後にした陽炎坂、水無月、鮫島、そして朝衣。その中でも、鮫島と朝衣は、何処までか分からないが、途中まで一緒だったということか………………ん?待てよ?
「つまり、鮫島は、途中まで朝衣と帰って、途中で別れて、そのまんま帰宅したってことかい?」
「せやでー」
「「「「…………」」」」
「ん?何や何や?この居心地の悪い空気…」
謎の静寂を、裁判中が満たす。どういう沈黙なのかは、俺も、何となく察することができる。
「鮫島あああああ!!!お前!!!!!今!!めちゃくちゃ怪しい発言を!!!したんだぜええええええええええ!!!!!!」
「な、なんやてぇ!!!どこや!どこらへんや!」
「朝衣さんと一緒に帰ったって部分なんだよねぇ!もう怪しいどころか、決定的かもしれないんだよねぇ!」
「御用だ!御用だ!」
「い、いや、違うで!ただ少しお茶したいなぁ…思うてたんやけど…殺すまでは…」
「そうでござる、皆の者、さすがそれは早計すぎでござる……」
不味いな、いきなりのカミングアウトに、皆少し興奮気味な状況になってしまう。当の鮫島も、何だか本筋とは関係ない感想まで話し出し、議論が乱れ始めてしまっている。
「ん~、でも~多分朝衣さんが~最後に会ったのって~もしかしなくても鮫島くんっぽいし~」
「アンタぁ……どこまで本当か分からないけど。ちゃんとありのままのこと言いな。余計な話は無しだよ!」
「多分んなこと言っても。要約適正ゼロの鮫島だったら、すぐ関係ないこと口走るとおもうですよ」
「…何かうるさい」
「この状況でよく寝れてましたね!?」
本当に鮫島が犯人かどうかは分からない今。皆は怪しいという方向に流されてしまっている。しかし、それを否定する材料は、“現時点で”俺の手元には無い。……だったら、“議論の最中”に証拠を見つけ、この議論を乗り越えていくしかない。
『議論に突入する前にこんにちは』
『鮫島君が大ピンチというこの状況。今折木君の手元には、その現状を打破する証拠はぶっちゃけ有りません』
『とんだ準備不足ですね』
『それなら自分の力では無く、“他人の力”を借りてしまいましょう』
『ノンストップ議論において、【】や『』で囲われた発言は、論破、同意するだけでは無く、利用することも出来ます』
『所謂、“コトダマ吸収”です。原作にもそれらしきシステムは存在するので、きっと分かってくれますよね?』
『……それでは、引き続き本小説をお楽しみ下さい』
【ノンストップ議論】 【開始】
「せやからウチは!」
「途中まで【朝衣と帰ってただけ】なんやて!」
「炊事場にまで付いてった記憶も無いで!」
「もちろん、『お茶もしとらん』!」
偉く必死に否定するですね
墓穴を掘ってる感じがするさね
「お茶をしてたかはともかくとして」
「朝衣と昨晩、一瞬でも【2人で居た】ってことが重要なんだよねぇ!」
も、もしや!2人だけで怪しげな夜を…
……黙れ、沼野
「もしかしたら本当に!!!」
「炊事場に行ってたかもしれないんだぜええええええ!!!!!」
た、確かにですね!
「嘘の可能性は捨てきれないってのは…」
「『アキレス腱』を打ったときくらいに痛い話しだね!」
お、おう…?
どういう、こと?
「痛い、痛く無いは別として」
「『鮫島殿は無実』でござるよ!」
「決めつけたような議論は、あまり感心しないでござる…」
その通りだぁ!!
熱くなっているのは確かさね…
「でもでも~、【証拠も無い】し~」
「【証人もいない】んじゃ~」
「疑ってくれって言ってるようなものじゃない~?」
『鮫島は無実』⇒【証人もいない】
「お前なら、証明できる!」
【BREAK!!!】
「沼野……。お前、鮫島の話で、何か知っていることがあるんじゃないか?」
「本当ですか沼野さん!?是非是非、お聞かせ下さい!!」
俺は、心当たりを見せる沼野に矛を向け、意見を言うように促す。きっと何か、鮫島が怪しいというこの場の流れを翻す、証言を持っているはずだ。
「事件にとってここまで重要なことになるとは思わず、今まで黙っていたのでござるが……実は、見張りをしに噴水広場へと向かう途中。鮫島殿と“会っていた”のでござるよ」
「ほ、本当なのかねぇ!だったら、鮫島君から怪しさが無くなってくれるんだよねぇ!」
鮫島への疑いの波紋を抑える沼野の発言に、動揺と同時に、どこか安堵したような空気が走る。しかし、当の鮫島は、納得がいかないのか、腕を組み、小さくうなり声を漏らす。
「…あれ?せやったっけ?ウチ沼野とおうとったっけ?」
「いやバリバリ会っていたでござるよ!ちゃんと夜の挨拶もしたでござろう!」
「……………すまん、知らん人には、声かけられても無視するように、母ちゃんに言われとるんや」
「擁護したのにこの仕打ち!ガッデムでござる!善意は人のためならずでござる!!」
「沼野、落ち着くです。……………そうです!落ち着くにはまず痛みを感じた方が良いです、さっ、ゆっくりでいいから舌を噛むです」
「自害しろと!拙者に今ココで命を絶てというのでござるかぁ!」
「無理です!私にはできません……うううう」
「うおおおおおおおお!!!!!恐怖が!!俺を!!邪魔するんだぜええええええええ!!!!!!」
「何か面倒くさい連中まで追随してるんだよねぇ……むしろ落ち着きが無くなってる気がするんだよねぇ」
話は、着実に進んでいるはずなの…だが、とてもどうでも良いことで脱線してしまうこの状況。余計な時間がかかってしまうのは、裁判の終わりの決定権を持っている、モノパンの機嫌を考えると、避けたい所なのだが…。
「と、ともかく。鮫島の意見を信用に足るものとして考えると……朝衣が炊事場に向かったのは“8時半頃”、ということになるのか」
「でも。どう、して、炊事場に、向かったの、かな?」
「喉渇いたー、とか小腹空いたーとか、そんな感じやないか?ウチもたまに、夜にこっそり甘いお菓子食いたくなるし、気持ちは分かるで~」
「あ~わかります。甘~い和菓子とか、良いですよね!」
「はっ?ウチは洋菓子派やで?」
「急に好みで対立してしまいました!?」
「……ほう。夜中の間食とは、良い度胸じゃないか。アンタら………!」
「「あっ…」」
鮫島と小早川の他愛も無いやりとりを聞き、静かに反町が怒る中。少しうつむき、雲居はお下げをゆらしながら、俺達に聞こえるような声音で、“いや…”と一言。
「……もしかしたら。もっと別の理由かもしれないです」
「別の…理、由…?」
「そうです。折木、“あれ”…ちゃんとメモしてあるですよね?それを皆に見せるです」
「なんや、朝衣の黒歴史ノートでも公にする気か?それはあかんよ。ウチも経験あるから分かる」
「……ワタシは決して顧みんぞ。我が日記(ダイアリー)に、嘘は無い…」
「過去にどんなくすみがあったのか…計り知れないんだよねぇ…」
「折木…アホ共はほっといて、さっさとするです」
「……分かった」
雲居が差しているのは、恐らく“アレ”のことだな。……あながち鮫島達が言及していたものが完全に、的外れでは無いと言うのが、何とも恐ろしい話しだ。
【証拠品セレクト】
【朝衣の日記)←
「これだっ!」
「雲居。お前が言っていたのは、この“メモ帳”のこと、だよな?」
「それは……朝衣の…?」
「そうです。皆も何度か目にしていると思うですが……それは朝衣が四六時中肌身離さず身につけていた、メモ帳です」
「胸ポケットにしまってあったやつやな…えらく印象に残っとるわ」
覚えのある生徒は、大きく頷き、鮫島に同調する。だけど、問題なのは、この朝衣のメモ帳の“中身”の方だ。
「ああそうだ……そしてこのメモ帳には、朝衣の日記も併行して書かれていたんだ」
「ええっ!それはダメなんだよねぇ!デリカシーに欠けるんだよねぇ!下手したら村八分にされちゃうんだよねぇ!?」
「……何でそう変なところでストップが入るのか、アタシには理解しかねるよ」
「しかしミスター折木。それがミス朝衣のメモ帳ということは分かったが……随分と書き込まれているじゃないか……その文章の何処に注目すれば良いんだい?ミスター折木」
中々の文章量の日記に目を落とし、何かに気づいたかのような笑みを浮かべるニコラスは、俺に答えを促すが如く、キレイなパスを放つ。
「……恐らく、だが」
【スポットセレクト】
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監禁生活:1日目
考えを整理する際、一度文字に起こすとまとまりやすいということから、日記をつけてみようと思う。今日の正確な日付は分からないので、この施設で目覚めた日を『1日目』と定義し、以降日にちを数えていこうと思う。
監禁生活、永遠の共同生活、コロシアイ……とんでもないことに巻き込まれてしまった。精神的な猶予を考えれば、一刻も早くこの悪趣味な空間から脱出しなければならない。いつ誰が発狂してまうかも分からないのに。しかし、施設の隅々まで調べたり、新入生の皆に話を聞いてみても、脱出の糸口は今だゼロ。欠片どころか、塵も掴めない状況だ。何としてでも此所から脱出し、世界にこの事件を報告しなければならない。それがジャーナリストとして私にできることだからだ。
だけど、今焦っても仕方は無い。地道に、かつ迅速に手立てを考えなければならない。無論、犠牲者をゼロのままでだ。
しかし、『ジオ・ペンタゴン』…世界の機密重要施設については大方把握しているつもりであったが、そんな施設一度だって聞いたことが無い。このままでは超高校級のジャーナリストの名折れになる。こちらについても、早い内に調べをつけておかなければ。
――この施設について気づいたことが記述してある――
監禁生活:2日目
新入生の皆と食事をした。思った以上に皆の精神は安定していたので、内心ホッとした。しかし、私が議論を焦ったばっかりに、皆との間に不和が生じてしまった。これから少しずつで良いから改善して、この遅れを取り戻そう。
午後は、できるだけ皆の行動に目を光らせていた。危険な行動を起こしている人が居ないかどうかを見張るためであり、あくまで最悪の可能性を考えての行動だ。幸い、目立った動きをしている人はいなかった。だけど、グラウンドを四六時中叫びながら走っていたり、1人で漫才していたり、お人形さんと対話を図っていたり、空を見上げながらたまに高笑いしたりと、奇行が目立つ生徒は居た。監禁生活抜きにして、学園生活の先行きが不安になってきた。
……それと落合君、音も無く背後に立たないで。本当に心臓に悪いから。
未だ脱出の目処は立たなかったが、1つ気になることがある。私がいつも持ち歩いているメモ帳についてだ。ここに入学する前は、かなり使い込んでヨレヨレだったのに、新品に変わっていた。気絶している間に、すり替えられたのかしら?
――俺達と話し合った内容が事細かに書かれている――
監禁生活:3日目
今日は運動会があった。途中までは私達のチームが優勢だったのだが、最後の最後で私が足を引っ張ってしまった。本当に申し訳ないことをしてしまった。柄にも無くシクシクと泣いてしまった。折木君が洗って返してくれたハンカチをまた濡らす羽目になってしまった。
ポストに手紙が一通投函してあった。この日記を書き終えたら、読んでみようと思う。
……この部屋に居続けるのは危険かもしれない。しばらくは“あの場所”を使うことにする。
――ジオ・ペンタゴンの規則が羅列され、数カ所に赤い線が引かれている――
監禁生活:4日目
動機発表があった。皆の顔が青ざめていくのが、目に見えて分かった。今日だけは本当に不味いかもしれない。
とにかく、“あの場所”に一旦避難しよう。“規則”の隙をついたあの場所なら、誰にも気づかれず、夜を明かすことが出来るだろう。
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“あの場所”←
「ここだっ!」
「このメモの中で、皆に注目して欲しいのは……3日目と4日目の最後の文章に書かれてる“あの場所"という言葉だ」
「……“あの、場所”?、って?」
「この部分がどうかしたのかねぇ?えらく曖昧な表現だけど」
俺が言おうとしていることを、早くに理解している生徒もいるが…大半は首をかしげている。もっと、奇をてらわず、ハッキリと言わなければ。
「“あの場所”っていうのは、恐らく、事件が発生した“炊事場”を差している…俺はそう思っている」
「へぇ、それは初耳ですね。……でも、概ね私と同じ意見みたいなので特に反論は無しです」
「うへぇ……お二人とも、どこまで推理できてるんですか?私まだ、メモ帳に書いている漢字を、読み切れていないのに…」
「小早川……後で、小学生用の漢字ドリル渡しとくよ」
「……ここまで来るとさすがに不憫」
「何でお通夜みたいな雰囲気になってしまうんですか!?それに小学生って…数字くらい漢字で書けますよ!」
「どうフォローしたら良いのか分かんなくなってきちゃったよ~…」
数人の生徒から、何というか、微妙に生暖かい目で見られる小早川。…国語なら、俺も不得意では無いから、教えてやれたら教えよう。
…だけど今重要なのは、この日記についてだ。
「3日目の時点では“あの場所を使うことにする”と書かれていたが…4日目には“あの場所に避難する”と表現が変わっていたんだ」
「その“場所”を、“炊事場”に置換するとぉ……」
「ミス朝衣は、3日目から炊事場に身を隠していた……と解釈できるね」
「……そう、そして朝衣が部屋で夜を明かしていなかったという“根拠”もある」
【証拠品セレクト】
【埃の積もったベッドシーツ)←
「これで証明する!」
「朝衣の部屋を探索したときに、雲居が見つけてくれた証拠だ」
「朝衣のやつ、ここ数日ベッドを使ってなかったみたいなんですよ。だから、こんな風に薄~く、埃が積もってしまっているです」
「ほんと、だ。1回、でも、使われてたら。こんな層、できないもん、ね」
「灰かぶりの毛布こそ、真実を導き出すための鍵になる……。目の付け所がこうもかみ合ってしまうのは…偶然か、はたまた必然か…」
「正直どっちでも良いよ~」
ベッドの上の埃、というミクロな視点の話しから、少しずつ朝衣の行動が分かってきた。…が、微妙に表情をしかめる鮫島は、“はい”と大きく手を上げる。
「朝衣がベッドやなくて、布団派だっただけっちゅう可能性はあるんけ?」
「……クローゼットの中も見てみたが、それらしき寝具は備わっていなかった。これも雲居が確認済みだ」
「成程、わざわざ部屋で雑魚寝をする、というのも不自然でござるしね」
俺達が提出し続ける証拠の数々に、生徒の“殆ど”が納得の声を出す。だけど……鮫島がさっきまでの俺と同じ意見を出してくるとは……もしかして、発想だけだったら、俺は鮫島レベルなのだろうか?
俺は、胸の内で不安を覚える。明らかに鮫島を馬鹿にしているような話しだが。
「にゃるほどぉ……それじゃあ、式ちゃんが部屋に戻らず、炊事場で夜を過ごしていたってのは……確定ってことなのかな?」
「ああ、これまでの証拠と見比べてみると――――」
【反論】
「ちょいと待ちなあ!!!」
【反論】
朝衣が炊事場へと向かった、ということを結論づけようとした矢先、反町の怒号のような反論が裁判上内に響き渡る。いきなりのストップであったためか、先ほどの沼野と同様、面を食らってしまった。
「アンタらの言う“あの場所”ってのが炊事場を差してる…ってことは、ぶっちゃけた話、どうでも良いことさね」
「ど、どうでもいい事なのか…?」
「だけど!朝衣のやつがそこまで怯える理由が理解できないさね。女らしくないったりゃ、ありゃしないよ」
「その女らしい女に含まれるのって、反町さんくらいな気がするんだよねぇ」
『突然の反町さんからの反論……驚かれましたか?』
『驚きませんでした…?…それはちょっぴりガックシ』
『でも、ゲームでもあった有名なカットインなので、本小説でも突然利用させていただきました』
『…さて、このような反論が入った場合、“反論ショーダウン”なる1対1の議論が開始されます』
『原作では、“切り返し”というものがありますが、今回はそのシステムは無く、そのまま自動進行していきます』
『そしてノンストップ議論でも出てきた【】で囲われた、“ウィークポイント”…こちらを彼女の発言から折木君が引き出し、論破していきます』
『正しい言弾(コトダマ)…ならぬ言刃(コトノハ)で、です』
『以上になります。引き続き本小説をお楽しみ下さいませ』
【反論ショーダウン】 【開始】
「朝衣の日記に書いてた」
「“あの場所”ってのが炊事場を指してる…」
「確かに、今までの話しをまとめれば」
「そんな結論に至るのは頷けるさね」
「そこまで分かっているなら…」
「一体何に納得してないんだ…?」
「だけど!」
「だけど!」
「朝衣が炊事場で身を隠してたー、なんて」
「そんなすぐに納得できるわけ無いよ!」
「どうしてそこまで怯える必要があるさね!」
「朝衣がそこまで【怯える理由】が分からない以上は」
「3日目だとか」
「4日目に」
「炊事場に避難する意味が、理解できないよ!」
「もしかしたら本当に、ただ飲みものを取りに行っただけの可能性もあるさね!」
【朝衣に送られた手紙)⇒【怯える理由】
「その言葉!切らせて貰う!」
【BREAK!!!】
反町は朝衣の行動云々では無く、“どうして”そんな行動を起こしたのかに納得がいっていなかったらしい。だったら、その“理由”を提示してしまえば良い。
「反町……朝衣は何も、風切みたいに嫌な予感がしたから避難したってわけじゃ無いんだ……“確実に自分の身が危ない”と察することが出来たから避難をしたんだ………これを見て欲しい」
俺は、敢えて注目をむけるよう“例の手紙”を、反町に向けて突きつける。
「手紙……あっ!もしかして……!」
「それなら!!!!俺も!!!!同じ物を!!!!!!持っているんだぜえええええええええええええ!!!!!!!!」
「それって、あの……ええと、どー、どー、……」
「“動機”やな。朝衣が殺されてしもうた日の朝に配られた、モノパンからの手紙や…」
「そ、それです!はい!」
「だった1通の便箋……忌まわしくも有り、そして心を一瞬で蝕む言葉の兵器。僕の記憶にも新しいよ」
「何かやっとまともな発言をしたような…していないようなねぇ…」
「ああ、鮫島と落合の言うとおり、これはモノパンから朝衣に向けて書かれた“動機の手紙”だ」
モノパンによってしたためられた小さな手紙。短い文章しか書かれていないが、受け取り側からしてみれば、自分の身に関わる、重大な内容が書かれている。…俺の場合はよく分からなかったが。
そんなことは良いとして……当の朝衣の手紙だけは、他の全員とは明らかに配られ方が“異質”なのだ。
「でも、2通あるんだよねぇ!」
「そうです。朝衣だけ、何故か“2通”配られてるんです。落合が言うように、普通なら1通だけの代物なのに…です」
雲居は頷き、この手紙の違和感を強調する。
「モノパンの手違いで~、内容がダブったのを~、渡しちゃったっていうのは~?」
「いや…内容を見比べてみると、似通っているようで、全然違うんだ。その可能性は低い」
「そもそもワタクシが、そんなチープなミスするはず無いじゃないですカ~。ミスるとしても、クリーニングし終わった服を渡す相手を間違える位ですヨ」
「十分エクスペンシブな間違いであるぞぉ!!」
「アタシはトランクスじゃなくて、ブリーフ派なんだよねぇ!」
「Lサイズ断固反対です!SSサイズ万歳です!」
「俺は!!!!!革靴!!!!!じゃなくて!!!!スパイク付きの!!!!ランニングシューズだぜええええええええええええええ!!!」
「ものすっごいどうでも良いシュプレヒコールだね!」
モノパンの大小様々な問題を孕んだ問題発言に、生徒の殆どからブーイングが上がる。……微妙に脱線をし始めてしまった。
「ん゛ん゛っ!…そして!何より注目し欲しいのは……朝衣に宛てられた手紙の内容だ」
「ええと、何々…『朝衣様へ、皆様の中に裏切り者が紛れ込んでいます。…お気を付けて下さいまセ。モノパンより』『朝衣様へ、裏切り者が貴方の命を狙っています。…お気を付けて下さいまセ。モノパンより』…………………………えっ、これってっ」
「裏、切り、者…」
裏切り者…その言葉を聞いた途端俺達の間で動揺が走った。
「え、えええ、ええええええ。そ、そんな、うら、裏切り者だなんて……!」
「まだ確定とは言えないが、今回の事件。その“裏切り者”によって、引き起こされた可能性がある」
「確かに、この文面からするとその線が濃厚だね。…しかしミスター折木。この2通が、“いつ配られたのか”、分かっているのかい?」
「それは私が証明するです。“裏切り者が紛れ込んでる”って書かれてる方が恐らく3日目に、“命を狙っている”と書かれている方が4日目に配られたんだと思うです」
雲居による超高校級の図書委員としての見解を聞き、ニコラスは何か含みを持ったように“OK、分かったよ”と二言残し、そのまま口を閉ざした。
「でも、その2通の配られた順番に加えて、内容を照らし合わせてみると……作為的なモノを感じるさね」
「3日目に裏切り者が居ると朝衣の不安を煽り、4日目に意図して動かそうという魂胆が見えに見え見えだなぁ」
「まるきり、朝衣さん個人を狙った脅迫文なんだよねぇ……」
3人が口にしたとおり、もしもその裏切り者によって引き起こされたことが真実だとするなら……この事件は、根本からきな臭くなってくる。俺達は同時に、小さな玉座にふんぞり返るモノパンを睨んだ。
「随分とちゃちなマネをするのだなぁ…モノパンよぉ」
「事件には関与せえへんとちゃうんけ?もろに関係しとるやん」
明らかに俺達全員を殺し合わせるのでは無く、まるで朝衣個人に動いて貰い、その行動を利用して裏切り者に殺人を実行させる。やっていることは、“間接的な殺人”だ。
「くぷぷぷぷぷ……べぇつにィ~?ワタクシはただ手紙を出した“だけ”ですし、キミタチ全員に“1通だけ”手紙を配るだなんて……言いませんでしたよネ?」
コイツ……!と、誰かが声を漏らす。悪びれもせず、さらには自分の発言の正当性を主張する。そのふざけきった態度に何人もの生徒が怒りを表していた。反町に至っては、青筋をたて、今にも飛びかかりそうな獰猛さを見せている。
――――だけど冷静になって考え直してみると……今の発言で、モノパンは、今回の事件に深く関与している。
と言うことが分かった。表面上そうは見えなくても、今回の事件のクロと、結託し、そして朝衣個人を殺そうと画策し、そして殺人を成功させたことは、今のモノパンの態度で明白になった。
「モノパンばかり責めるのは当然ですけど……改めて考えると、この事件に協力した、どーしよーもないバカが、この中に紛れ込んでるんですよね?」
「そうとだも。残念ながらね…」
「……だから裏切り者」
「絶対に!!!引きずり出して!!!罪を!!!償わせて!!!やるんだぜええええええええええ!!!!!」
陽炎坂は身をふりしだき、闘志をみなぎらせる。その意志に同調したように、全員、やる気、というか、絶対にクロを見つけ出してやるという、雰囲気を感じ取ることが出来た。
「……ここまでの事をまとめてみるとー、朝衣殿は拙者達が見張りを始める前に炊事場へ、危機感を持って避難したことは間違い無いとして……依然として曖昧なのは、朝衣殿の“死”についてでござるな」
「うーむ、殺された時間とかは…さっきの雨竜くんの検死結果から、午前7時よりも数時間前……多分深夜頃に殺されたと見て良いと思うし……死因も溺死で間違いない…けど」
「………けど?」
「どーやって溺死しちゃったんだろうな~、て。ファイルを最初に見たときからずっと考えてたんだよね」
「どうやって、て。ファイルに書いてある通り、水を体内に含んだことによる溺死、ですよ。どこがつっかかってるって言うんですか?」
捜査を始めた直後から、水無月が頭をヒネらせている観点を、水無月自身が議題に出す。それを、何てことも無いと言う風に、雲居はその真意を捉えかねている。
「引っかかるモノは、引っかかっちゃうんだからしょうが無いじゃん。奥歯に食べ物が挟まってずっと気になっちゃうのと一緒だよ」
「ことわざにもなってるくらいだからねぇ」
「まあ、とにかくや。水無月がそこまで気になるっちゅうんやったら、そこんとこ深掘りしていこうやないか」
「疑問に思ったところはとことん議論していくべきですからね!」
「なんだか、少しずつまともな議論らしくなってきたって感じなんだよねぇ」
「俺も!!本格的に!!議論に!!!参加していくんだぜええええええええ!!!」
「最初っから本格的にやるさね……」
“朝衣がどのようにして殺されたのか…”雲居は単純なことと言っているが、水無月はもっと複雑な問題であると思っているようだ。正直な話…俺はどっちが正しいのか、まだ分かっていない。…だけど、この議論を進めていけば、俺自身の答えを見つけることができるかもしれない。
【ノンストップ議論】 【開始】
「朝衣さんがどんな風にして」
「溺死したのか、ですか…」
「何だか考えすぎて湯気が出てきそうです」
まだ沸騰するのは早すぎな気が…
「そこまで熱心にする必要あるですかね」
「水を貯められる場所に、直接『顔を水に浸けられた』ってだけですよ。きっと」
それなら単純で分かりやすい話なんだよねぇ
でも、決め、つけて良いの、かな?
「せやろか?」
「ウチ的には、昨日の夜の雨が怪しいと思うで」
「中々の勢いやったし」
「『大量の雨で溺れさせた』に一票やな」
……?
??????……
???……?
「意味がわからないよ~」
「そんな回りくどいことするより~」
「『湖を使えば』良いよ~」
そういえばそんな施設有ったね!
炊事場エリアの横にあるし…
…可能性は高い
「至極、平明とした話しだね」
「湖に身を放逐し…」
「『体全体を水に浸して』しまう…」
「風が長年の親友(とも)のように寄り添い…」
「僕の心の霧が晴れたような気分だよ」
我々の霧はむしろ濃くなったがな…
話しは聞くだけ聞くさね
「わかんないけど!!!!!わかったんぜぇぇぇぇぇえええええええ!!!!!」
「犯人は!!!!」
「『水を使わず』!!!!」
「溺死させたんだぜええええええええええ!!!!!!」
いや全然分かってるように聞こえないですよ…
【湿った朝衣の服)⇒『体全体を水に浸して』
「それに賛成だ!」
【BRAKE!!!】
「…落合の今の発言、当たってるかもしれない」
皆と議論を積み重ね、意見を出し合う中で、俺は、直感的に、落合の意見に賛成の言葉を並べた。
「湖を使って溺死させたってところ~?」
「……いや、もう少し後の発言だ」
「やっぱり君にとっても、風は親友(とも)なんだね……共感を禁じ得ずにはいられないよ」
「それよりも、一個前の発言だ!」
「…体を水で浸すって言った部分」
「成程…! 死角を突かれた気分だね…人生とは、齟齬と誤解の連続だね」
「軽々しく人生を引き合いに出しすぎですよ。お前」
中々進まない進行に、風切が軌道修正を施してくれる…が、その発言内容に、数人の生徒が難しい表情を作る。両手を挙げて、落合の意見に賛成、という雰囲気では無い。
「…だけど、ミス朝衣が水に身を沈めたいうのには勿論。キチンとした根拠があるんだろうね?キミ」
ニコラスは話しの腰に手を添えるよう発言の真意を問う。それに俺は“ああ”と一言。直感的に賛同はしたが、改めて、証拠を見直すと、ちゃんちゃら的外れな話しでは、無さそうだ。
「…朝衣の死体を直に触ってみたときなんだが……服も、その内側の肌も、湿っていたんだ。満遍なくな」
「……何か言い方が妙になまめかしくて、セクハラしているみたいなんだよねぇ」
「折木はまだまともな感性を持っていると信じてたんですがね…」
「これはこれは…折木殿も隅に置けないでござるなぁ…」
「お、折木さん!嫌らしい発言はまずいですよ!師匠にぶん殴られてしまいます!」
「お前の師匠は俺の何なんだ…?」
話しが妙に折れてしまったのと…俺の評価が何故か妙にあらぬ方向に落ち込んでしまった……が、話しの流れを正すように、ニコラスは大きく咳払いをする。
「ミスター折木の発言にはこのボク、ニコラス・バーンシュタインも支持しよう。ドクター雨竜、勿論、キミもだね?」
「…ああ、ワタシが検死したときに、死亡推定時刻が不明瞭になってしまったのも、その湿り気が原因だ。恐らく、水で体全体を濡らしたことで、体温が著しく低下してしまったのだろう」
そして、死体の見張りをしており、最も死体の側に長く居た2人が、意見が事実であるということに、心強い説得力を持たせてくれる。
「おお、何か反論の隙が見えない人達が証人に回ってしまったんだよねぇ……」
「意見を言うのも…恐れ多いような…」
「…信憑性が高い」
朝衣が“身体全体を見ずに浸して溺死した”、という意見が、かなり強固なものだと理解するやいなや、満場一致の雰囲気が“ほぼ”全員に広がる。
「では――」
【反論】
「フルスロットルなんだぜええええええええええええ!!!!!!!!」
【反論】
「折木!!!!!!1つ!!!いや!!!もっと!!!!疑問がありありなんだぜええええええええ!!!!」
「陽炎坂…?何か納得できない部分が…?」
「そうだぜえええええええええええ!!!」
「…オーバーすぎる返事」
「だから!!!!話の!!!細部に!!!至るまで!!!!俺様の質問を!!!!論破してみせるんだぜえええええええええええ!!!!!!!!!」
【反論ショーダウン】 【開始】
「今ので!!!!!」
「納得することは!!!!!!」
「俺様にはできないんだぜえええええええええええ!!!!!!」
「俺様の!!!」
「意見は!!!!」
「聞き流しても!!!!!
「良いが!!!!!!」
「さっきの!!!!!」
「雲居の意見を支持するんだぜええええええええええええええええええええ!!!!!!!」
「雲居の意見、というと……」
「水を貯めてから、そこに顔を浸けた事による溺死…」
「…だったな」
「その通りなんだぜえええええええ!!!!!!」
「倉庫の近くにあった!!!」
「キッチンの【シンクに水を貯めて】!!!!」
「そこで溺死させたんだぜええええええ!!!!!!」
「じゃあ体全体に付着していた水分はどう説明するんだ?」
「あれは顔を浸しただけで濡れたものとは思えないぞ」
「あれは!!!!!」
「昨夜の!!!!」
「雨が原因なんだぜえええええええええええ!!!!!!!!!!」
「朝衣を溺死させた後!!!!」
「【キッチンから倉庫へ移動させたとき】に!!!!!!!」
「濡れてしまったものなんだぜえええええええええ!!!!!!!!!」
「きっとなあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
【シンクの違和感)⇒【シンクに水を貯めて)
「その矛盾、断ち切る!」
【BREAK!!!】
「陽炎坂……確かに、お前の推理にも違和感は殆ど無い。…1点だけを除いてな」
「1点、だけ、って?」
贄波は、皆を代表するよう小首をかしげる。
「…“シンクを使った”って部分だ。捜査の時、シンクそのものに違和感があると言ったヤツが居る。―――鮫島、そうだったよな?」
「…………………………………ほえ?何や急に」
「…覚えてないのか?操作の時に言ってたろ」
「そのときの心境は何処へ行ったーー。お前にも思い出す機能が備わっているはずだーー」
「ああ~~~~~……せやったな。記憶の片隅で埃かぶって、サビてしもうてたわ」ホジホジ
「いや風化するの早すぎなんだよねぇ!」
「仕方あらへんやろ?いつものことや」
「いつものことです」
「いつものことさね」
「いつものことだね~」
「…ここまで他に認められると心に来るものがあるっちゅう話やな……とにかく。説明はさせてもらうわ」
小さなコントを挟みつつ、鮫島は、俺に促されるまま、口を回していく。
「ほんなら皆さん。想像して欲しいんやけど、例えば自分は無抵抗の被害者で、首根っこ捕まれてしもうてて、目の前には水の溜まったシンクがあるとするやろ」
「……想像したくない光景なんだけどねぇ」
「…右に同じ」
「んで、そのまま水に顔を突っ込まれて、そんときあんさんらだったらどうする?」
「息をとめる~」
「辞世の句を詠むよ」
「そもそも、ワタシの身長で首根っこを捕まれるのかぁ?」
「私も身長が足らないです。自分で言うのもなんですけど」
「例えばの話言うとったんやけどなぁ…等身大の人間で考えてみーや」
「前半の連中は自分の個性出し過ぎだし、後半は自分に置き換えすぎなんだよねぇ」
「普通は抵抗するか、もがくかのどっちかだと思うよ?キミ達」
中々に足並みが揃わない生徒達に、呆れたようなツッコミをかます鮫島、古家、ニコラス。そして、諦めたようにため息をつき、鮫島はそのまま、例え話を続けていく。
「そして……当の、キッチンに付属するシンクなんやけど……ソイツの外装にはひっかき傷や、周りに水しぶきの後なんかは見当たらなかったんや」
「成程ぉ!クロがシンクを利用してミス朝衣を殺した場合、それなりの“痕跡”が出てくると考えるのが妥当であるなぁ!」
「そうか!!!!なら俺様も!!!!!納得するしか無いんだぜぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!」
「へぇ~言われてみれば変な話なんだよねぇ…鮫島君、さっきの失言が嘘みたいな鋭さなんだよねぇ」
「人は見かけによらんさね…」
「アホ同盟と認識していたでござるのに……グスン」
「ま、まあ沼野さんも充分捜査に貢献してますし…何も出来ていない私よりも全然アホじゃないですよ…」
「なんやろな~褒められてるんやけど、手放しに喜び切れんな~」
“やっぱり、コイツらの発言、気になるわぁ”の言葉と同時に、しかめっ面のまま話しを終止させた。
「う~む、その話が本当でござるなら、一体全体、朝衣殿はどこで溺死したのでござろうか?」
「やっぱり湖じゃない~?そこに朝衣さんをおびき寄せるか~、追い詰めて~、溺死させたとか~」
「いや…もし湖を使ったとしたら、叫び声が聞こえるはずではないのか?ヤツの声は良く通る。雨の中ではあったが、明瞭に響いたはずだ」
「ううむ…確かに、叫び声であったら……しかし」
「ん……昨日の見張り中は、何も聞こえなかった」
「ほうほうほほうほう、声も上げずにタダ逃げるってのも、明らか~におかしな話だね。聡い式ちゃんだったら、真っ先に大声上げるはずなのに」
朝衣が溺死した場所は湖なのかどうか、もし湖であれば音が全く聞こえなかった理由が不明、湖で無ければまた振り出し…何となく、決定打に欠ける、微妙な空気が流れ出す。――すると。
「音、が、聞こえない、状況だった、とか、は?」
贄波から、1つの可能性が提示される。その発言を聞いたとき、雲居は“音が聞こえない…ですか”とつぶやくように繰り返すと…。
「……成程です。音を立てずに溺死させる方法、思いついたです」
「…えっ?」
「思いついちゃったのかねぇ!」
「是非とも、聞かせて貰おうじゃ無いか!ミス雲居」
そして、何かにひらめいたように、雲居はうつむいた顔を上げる。確信とまではいかないが、自信のある声質に、俺は少し身構える。
【ノンストップ議論】 【開始】
「声を出さずに湖へ誘導して…」
「そして溺死させる…」
「一体『どんな方法』を使ったんですか?」
そんなの1ミリも思いつかないんだよねぇ
…それに賛成
いや賛成しちゃうのかねぇ!
「簡単ですよ」
「叫び声を上げる前に」
「犯人は【朝衣を殴った】んです」
「そして朝衣を『湖まで運び』」
「溺死させたんですよ」
えらく単純な方法でござった!
「成程」
「【声を上げる前】に気絶させておけば…」
「沼野達に気づかれる心配は無いさね」
確かに、それだと声は上がらないでござる!
殴打の音は鈍いから~、そっちの音の心配はないしね~
わたし、が、言いたいこと、と。ちょっと、違う…
「でも、何のためにそんなことしたんだい?キミ」
意図が読めんなぁ…
きっと気分なんだぜえええええええええええええ!!!!
奇遇やな、ウチもそう思とったところやで
これ以上のアホの露呈は勘弁して欲しいんだよねぇ
「…勿論『捜査の攪乱』のためです」
「死因が曖昧だったら、捜査も滞るですし」
捜査、の、攪乱…
あの、攪乱…てなんですか?
…漢字ドリルに加えて、辞書も差し入れしとくさね
「あ~言われてみれば~」
「モノパンファイルも『捜査前』に配られたものだしね~」
ああ、そういえば何だよねぇ!
知らないが当然中の当然だしね!
「クロが朝衣殿を殺す前に」
「モノパンファイルを予見するというのは」
「【至難の業】でござる」
至難の~をぉ、業~、ちょっと歌舞伎風に言ってみたよ!
……大丈夫?疲れてない?
【モノパンファイル Ver1)⇒【朝衣を殴った】
「それは違うぞ!!」
【BREAK!!!】
「……人が気前よく推理しているっていうのに、また横やりですか?そんなに横やりが好きなら、やり投げ選手にでも転職することをオススメするですよ」
「やり投げと!!!!!聞いたらあ!!!!!!超高校級の!!!!!陸上部である!!!!!!俺様が黙っていないんだぜええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」
「ええ!!陽炎坂殿。走るだけで無く、そんな肉体的な競技にまで精通をしているのでござるか!」
「走る専門だから無理なんだぜえええええええええええええ!!!!!!!!」
「無理なのかい!!」
雲居は渋い顔でこちらを睨み、俺を煽るような言葉をぶつけ出す。あまりそう言った機嫌の悪い態度の相手を相手取った試しが多くないため、少しひるんでしまった。
「…っ。いや、雲居。確かにお前の推理通りなら、朝衣は音を立てなかった理由も頷ける」
「ですよね?殴って気絶させれば、溺死させるのも容易なはずです」
「……だけど、このモノパンファイルをよく見て欲しい。このファイルには、朝衣は“溺死以外に外傷は無い”と明記されているんだ」
先ほどの沼野に見せたように、ファイルを突きつけた。
「あっ…モノパンファイルですか。しまったです。私としたことが、抜けてたです」
「ああ~、本当に書いてあるね~」
「そ、そんなことが書いてあったんですね……意味がよく分かってなかったことは、口が裂けても言えません…」
「秒でぼろが出てるさね」
「……モノパン。もう少し分かりやすく書いてあげて」
「精一杯分かりやすく書いたつもりなんですがネ……紳士であるワタクシとしたことが、不覚の極みでス」
「大丈夫さ、雲居さん、小早川さん、人は何度も何度も輪廻の如く失敗を繰り返す物…これもまた、人生に必要な“彩り”なのだよ」
「…落合に励まされるとは……自害ものです」
「完全に落合のヤツを見下してる物言いさね…」
俺と同じようなへの字口に唇を曲げ、落胆するように、優れない声色を見せる雲居と小早川。少し罪悪感のようなモノがよぎる。すると、贄波が、“わたし、はね?”と、言い直すような言葉を並べ出す。
「わたし、は、音を立てずに、じゃなく、て。“音を、立てられなかった”、ていう、意味で、言ったの…」
「音を立てられない…ですか?」
「厳密、には。“音を立てても、聞こえない場所”、に居た、とか…」
何か確信めいたものを感じさせる贄波の発言。俺は“音立てても聞こえない場所、か”と心でもう一度反復し、思慮を深めていく。
……もしかして朝衣は。
1) キッチンで殺された
2) 湖で殺された
3) 朝衣の部屋で殺された
4) 第1倉庫で殺された
⇒第1倉庫で殺された
「そうか…!」
「……わかったぞ。朝衣が、どこで、どうやって殺されたのか!」
「えええ!!今ので言葉数で分かったんですか!」
「ああ…。贄波、つまりお前は、犯人は湖もシンクも使ったのでは無く、現場そのものを利用して朝衣を殺した、と言いたかったんだろ?」
「現場……というと、“第1倉庫”のことかぁ?」
「利用したって……急にそんなことを言われても、本当なのかねぇ?ねえ贄波さん?」
「う、ん。折木、くんの、言ったとおり、だよ」
「思った以上に本当だったんだよねぇ!?」
「だけどもされども。現場を使った~、っていきなり出されても…どうやって使ったのか…要領が得られませんなぁ。そこんところ詳しく聞かせておくれよユー!」
水無月は大きな動作でこちらに指を差す。その反応には俺は、息を小さく、されども深く吸い込み、ゆっくりと、犯人が用いたトリックを話し出す。
「……朝衣が第1倉庫で体全体を濡らし、そして溺死した状態だったのなら……その第1倉庫の中で溺れた……つまり犯人は、倉庫そのものを“水で満たしたんだ”!」
「「「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」」」」」
殆ど全員が俺を見つめ、さらに痛い沈黙が裁判場を満たす。…果たして信じてもらえるか。冷や汗を垂らす俺は、皆にバレないよう、心で不安を吐露した。
「……ぬ、ぬわにぃ!!!そんな大がかりな話があるのかぁ!!」
「ダイナミックすぎるというか……ダイナミックすぎるというか……ねぇ」
「驚きすぎてハゲそうやわ。フサフサやけど」
「正直な話、ピンとは来ないさね」
案の上というか、定石通りというか、イマイチ理解が追いついてもらえず。数人の生徒からは、色よい返事は返ってこず。しかし…。
「だけど!!!!!単純かつ!!!!意外な方法!!!!!俺様は嫌いじゃ無いんだぜえええええええええええええ!!!!!!!!!!!」
「……湖で殺されたわけでも。キッチンのシンクを使ったわけでもないなら」
「的外れってわけでもなさそうですね」
対するように、賛成派に寄る生徒も数人。
「うむぅ……あの倉庫は見た目ほど中が大きいわけでも無いし…窓も無い…確かに水で満たすのであれば絶好の箱なのかもしれんが…」
「でも~倉庫の中は夜中は“出入り禁止”だよ~」
「そ、そうでござる!これは致命的な推理の穴でござる!」
思い出したかのように、長門達は規則を引き合いに出す。確かに、2人の言うとおり、モノパンが定める、施設の規則に“そう”書いてある。
「規則の話も最もだが……ここで、朝衣の日記をもう一度見直してみないか?」
「え、また日記ですか?」
「これまた急に何故……日記については既に終わったわけでは無いのでござるか?」
話しは大きく後退し、ほんの数10分前に議題に上がった日記を、再度、浮上させた。
「日記の“この部分”に注目して欲しい」
さっきは触れなかった、“あの部分”を示してみよう。
【スポットセレクト】
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監禁生活:1日目
考えを整理する際、一度文字に起こすとまとまりやすいということから、日記をつけてみようと思う。今日の正確な日付は分からないので、この施設で目覚めた日を『1日目』と定義し、以降日にちを数えていこうと思う。
監禁生活、永遠の共同生活、コロシアイ……とんでもないことに巻き込まれてしまった。精神的な猶予を考えれば、一刻も早くこの悪趣味な空間から脱出しなければならない。いつ誰が発狂してまうかも分からないのに。しかし、施設の隅々まで調べたり、新入生の皆に話を聞いてみても、脱出の糸口は今だゼロ。欠片どころか、塵も掴めない状況だ。何としてでも此所から脱出し、世界にこの事件を報告しなければならない。それがジャーナリストとして私にできることだからだ。
だけど、今焦っても仕方は無い。地道に、かつ迅速に手立てを考えなければならない。無論、犠牲者をゼロのままでだ。
しかし、『ジオ・ペンタゴン』…世界の機密重要施設については大方把握しているつもりであったが、そんな施設一度だって聞いたことが無い。このままでは超高校級のジャーナリストの名折れになる。こちらについても、早い内に調べをつけておかなければ。
――この施設について気づいたことが記述してある――
監禁生活:2日目
新入生の皆と食事をした。思った以上に皆の精神は安定していたので、内心ホッとした。しかし、私が議論を焦ったばっかりに、皆との間に不和が生じてしまった。これから少しずつで良いから改善して、この遅れを取り戻そう。
午後は、できるだけ皆の行動に目を光らせていた。危険な行動を起こしている人が居ないかどうかを見張るためであり、あくまで最悪の可能性を考えての行動だ。幸い、目立った動きをしている人はいなかった。だけど、グラウンドを四六時中叫びながら走っていたり、1人で漫才していたり、お人形さんと対話を図っていたり、空を見上げながらたまに高笑いしたりと、奇行が目立つ生徒は居た。監禁生活抜きにして、学園生活の先行きが不安になってきた。
……それと落合君、音も無く背後に立たないで。本当に心臓に悪いから。
未だ脱出の目処は立たなかったが、1つ気になることがある。私がいつも持ち歩いているメモ帳についてだ。ここに入学する前は、かなり使い込んでヨレヨレだったのに、新品に変わっていた。気絶している間に、すり替えられたのかしら?
――俺達と話し合った内容が事細かに書かれている――
監禁生活:3日目
今日は運動会があった。途中までは私達のチームが優勢だったのだが、最後の最後で私が足を引っ張ってしまった。本当に申し訳ないことをしてしまった。柄にも無くシクシクと泣いてしまった。折木君が洗って返してくれたハンカチをまた濡らす羽目になってしまった。
ポストに手紙が一通投函してあった。この日記を書き終えたら、読んでみようと思う。
……この部屋に居続けるのは危険かもしれない。しばらくは“あの場所”を使うことにする。
――ジオ・ペンタゴンの規則が羅列され、数カ所に赤い線が引かれている――
監禁生活:4日目
動機発表があった。皆の顔が青ざめていくのが、目に見えて分かった。今日だけは本当に不味いかもしれない。
とにかく、“あの場所”に一旦避難しよう。“規則”の隙をついたあの場所なら、誰にも気づかれず、夜を明かすことが出来るだろう。
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“規則”←
「ここだっ!」
「モノパンが示したその規則については、朝衣の日記の中でも触れられているんだ………」
「ほう、書き様をよく見てみると……まるで、規則の中に“穴”があるような言い草だね?キミ」
「そっか!!わかって!式ちゃんはその”規則の隙”を利用したんだ!!」
「規則の“穴”、そして“隙”でござるか…」
「あっ!勿論エッチな意味は無いよ!」
「わわわわわ、分かっているでござるよ!わざわざ言わなくても、そんなこと粉みじん程度にしか考えていないでござるよ!」
「塵芥レベルで考えちゃってるんだよねぇ…」
俺が言いたいことを水無月は声たかだかに言い直す。だけど、情報が入り乱れているためか、まだ首をひねる生徒がチラホラと見られる。
「ですが、規則の話をするにしても全部で13個もありますよ?一体、どの規則の隙を朝衣さんは突いたんですか?」
「13個も考える必要ないよ~、後半部分は裁判についてだし~前半の、施設内の規則の所を中心に見ていけば分かるよ~」
“どの規則の隙を突いたのか……”ついさっきも、その規則について、話が出たばかりだ。今回の議論で、朝衣が、どうして倉庫の中で死んでしまった理由に、蹴りをつけよう…。
『どうもこんにちは。12738文字ぶりです』
『皆々様に馴れ馴れしい、このような文体が現れたということは…』
『お察しの通り、またまたまたまた新要素です』
『今回の議論においても、手元に論破するための証拠がありません』
『故に、前の議論では、他人の発言を利用して、他人の発言を論破していました』
『しかし今回は、他人の発言で他人の発言に賛成する…』
『コトダマとコトダマを繋げる架け橋となる……いわゆる“コトヅテ”になります』
『“言葉の仲人さん”のような事を、折木君にはしてもらいます』
『……え?最後の表現はわかりにくいって?』
『………………………………………』
『さあ!お知らせタイムは終わりです!』
『引き続き、本小説をお楽しみ下さい!!』
【ノンストップ議論】 【開始】
「規則を利用したって言われてもねぇ」
「この施設の規則は…」
「思いのほか項目が多いんだよねぇ」
そこまで強い縛りは感じないけどねえ…
…社会ルール的な物が多い
「でも~全部について触れる必要は無いよ~」
「その通りさ!」
「『学級裁判の規則』を省いて見ていこうじゃないか!」
ドンドン言っていこう!
了解です!
「きっと朝衣は!!!!!!!!!」
「『モノパンへの暴力』の!!!!」
「規則を利用したんだぜええええええええ」
あえて暴力を振るってみたとか?
それは自殺行為だぞぉ…
規則を破って殺されたわけではないでござるからな…
「……『ジオ・ペンタゴンを調べるのは自由』ってところとか?」
調べるって名目で倉庫に入ったとか~?
中々したたかなやっちゃな~
「きっと『出入りを禁止』する部分ですよ!間違いありません!』
間違いない!!きっと!
最後の3文字で説得力が大きく欠けちゃうんだよねぇ
「モノパンが知らずのウチに『規則を増やした』とかですよ」
「今の時点で姑息が過ぎてるですからね」
確かに確かに!
何と失敬ナ!
「キミ達。色々発言しているようだけど…」
「重要なのは、何故ミス朝衣が『第1倉庫の中』に居たのか…」
「そこを念頭に置くのを忘れてはいけないよ?」
『第1倉庫の中』⇒『出入りを禁止』
「お前達なら、証明できる!」
【BREAK!!!】
「小早川。お前の言うとおり……施設への出入りを禁止する規則を、朝衣は利用したんだ!」
「ほ、本当ですか!!………でも、その規則をどのようにして利用したんですか?」
「や、やっぱり分かっていなかったんだな……」
「はい……申し訳ないです」
「「………」」
「何で2人でぎこちなくなっているんだい…、さっさと話を進めるさね」
…何故か気恥ずかしい沈黙が流れてしまった。俺は仕切り直すように咳き込み、規則について具体的に話し出す。
「あくまで、この規則は施設の夜時間中の“出入り”を禁止しているだけなんだ…」
「出入りを…ですか?」
「ん?ということは………成程!理解が追いついたぞぉ!!」
「夜時間中!!!!!倉庫内には!!!!!入れる!!!!ってことかああああああああああ!!!!!!!」
「え?えええ???えっと?」
「夜時間中、施設内を出ることは出来ないが、“入っている”事はできるんだ」
規則をよく読まないと、見つけられない言葉の表現。朝衣はこのことに早く気づいていた。
「へ、へぇ~~。えっ、てことはその裏技じみたことを、朝衣さんは…」
「ああ、利用したんだ。朝衣にとって夜時間こそ、クロが自分を襲う絶好の機会だと判断し…」
「そして夜の間は絶対に中に入ることが出来ない第1倉庫で寝泊まりを行い…」
「避難、していたん、だね」
確認し合うように言葉と言葉繋げ、事実の帳尻を合わせる。俺達の話を聞き終えると、雲居が、また、モノパンをにらみ出す。
「……だ、そうですよ?モノパン?……何か補足あるですか?弁解するなら尚良しです」
「くぷぷぷぷぷ、まっ概ねその通りですヨ。あんまりオススメはしないですけどネ…」
「……?どうしてどうして?倉庫内にいるだけなのに?」
「出入りを禁止するとは、入り込み出来ても、出ることは出来ないと言うこト……ま、退路を断つに等しいのですヨ……」
「あ~、そういうこと~まさに背水の陣~って感じだね~」
「と、いうことはぁ……」
「ああ、今回の犯人はそれを理解した上で、倉庫内を水で満たし、朝衣を溺死させたんだ」
「……なんとも、むごい。か弱い朝衣殿を、かの如く残酷に殺めるとは」
「…許せない」
朝衣が倉庫に居た理由。そしてクロが用いたトリック。想像するだけでも、恐ろしい殺り方だ。モノパンだけにではなく、クロに対しての怒りが湧き上がっていくと同時に、そんな計画を立てるクロが、俺達の中に居るという事実に、恐怖を覚える。
「でも、凶器であるその水は、一体どこから……?」
「倉庫内を水で満たすとしたら、コンスタントな“供給源”と、水を入れる“供給口”が必要になってくるさね」
「あの倉庫には、窓も何も無かったからなぁ…」
「閉所恐怖症のあたしだったら耐えられない場所なんだよねぇ…」
「ああ。そのことについてだが…」
このトリックを成立させるには、反町が言うような“条件”が必要になってくる。しかし、捜査中そのようなトリックが用いられた決定的な証拠は無い…。だけど、その“痕跡”はいくつも見られた。
【証拠品セレクト】
【外れたドアノブ)←
「これだ…!」
「その証拠は…!第1倉庫の!」
「…ドアノブなんだよねぇ…しかも壊れてる」
「このドアノブは、内側と外側とで、穴を共有しているタイプのドアノブだ。だから、片方を外せば、向こう側も外れる仕組みになっている」
「おお~ドアに穴が空いて~外と中が繋がった~」
「この壊れたドアノブは、小早川が朝、倉庫に入るときには見つかっていた……。昨日以前の時点で壊れていた話は聞いていないことから、昨夜に壊された可能性が高い」
「確かに、昨日夜食を作っていた時には壊れては居なかったさね」
「さすが小早川さん!目の付け所違うんだよねぇ!」
「そ、そんなぁ…えへへへへ」
「…そしてもう1つ、怪しい物もあったんだ」
湖で見つけた、“あの証拠"。恐らく、クロはコレを利用して、倉庫を水で満たしたんだ。
【証拠品セレクト】
【水道用のホース)←
「これで証明してみせる!」
この証拠を見せた途端…長門と古家が”あっ!”と声を上げた。
「ああ~、それって~」
「湖に捨てられてたホースなんだよねぇ!やっぱり事件に関係していたんだよねぇ!」
「しかもかなりの長さがあるなぁ……」
「このホース、を、倉庫のドアノブの穴、と、キッチン、の水道をつなげる、と」
「水が無限に供給できるんだぜえええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
「流れるは水の如く、まるでボクみたいな有様だね」
「お前は結局何になりたいんですか…」
「自然そのもの……かな」
「すみません。聞いた私がバカだったです。だから命だけは助けて欲しいです」
「意味が分からなさすぎて、もう未知の生命体扱いしているさね」
「…せやけど、折木。本当に第1倉庫は水で満たされてたんか?痕跡だけ並べてもろうても、空論じみているようで…イマイチ信じ切れんわ」
…鮫島の言うとおり、今のところ、俺が提示しているのは状況証拠だけ。倉庫そのものを凶器にした、という発想は、もし俺が何も知らない状態だったら、両手を挙げて賛成は出来ない。もっと、もっとこのトリック使ったという事を議論していかなくては。
【ノンストップ議論】 【開始】
「部屋の中が『水で満たされていた』っちゅうのは…」
「あくまで可能性の話やろ?」
「まーだウチは手放しに信じきっとらんでー」
「超えれる物なら超えてみーや!」
何でそんな偉そうなんですか
何様なのか分からないんだよねぇ
「でも~私も同じくかな~」
「ドアノブは単純に~」
「倉庫を開けるために~」
「『無理矢理壊されてただけ』かもしれないし~」
…無理矢理だったら開けられる?
後でモノパンに、無理矢理聞いてみるですかね
語気がマジっぽくて、怖いね!
「水道用のホースについても、でござるな」
「もしかしたら、『ただのゴミ』の可能性もあるでござる」
沼野に賛同されると心配になるわー
ね~
心なしか沼野君、涙目に見えるんだよねぇ
「うむぅ…曖昧なのをどう明確にできるか…」
「水で満たした痕跡、もしくは…」
「『倉庫内の水を抜いた跡』があれば…話は別なんだがなぁ」
「そんな都合良い証拠が、あるもんですかね?」
【ドアの側のぬかるんだ土)⇒『倉庫内の水を抜いた跡』
「それに賛成だ!」
【BREAK!!!】
「いや、都合良く証拠はあったりする…」
「おおマジでござるか!拙者の手元には何も無いのでござるのに!?」
「キミは見張りだから、無いのは当たり前のことだよ!ミスター沼野」
「そうなのかぁ……ならば折木よ!その証拠を提示してみせるが良い!!ワタシが許す!」
「同調されて気を良くしたの分からないけど…えらく尊大な態度が過ぎるんだよねぇ…」
「…だけど、倉庫の中を水で満たした証拠では無く、“倉庫内の水を抜いた跡”を示す証拠……」
「ああ!公平くんの靴がドロっドロに汚れた、あのどろんこだね!」
捜査を常に共にしていた水無月は、何を言いたいのかを早くに理解し、言葉で指し示してくれた。
「泥…でございますか?」
「そう、ドアの側にあったぬかるんだ土……昨夜の雨で濡れた炊事場エリアの土は満遍なく乾いていたはずなのに、そこだけひどく湿っていたんだ」
「ふむ…如何にも不自然といえる部分でござるな…」
「倉庫内に水を溜めて、そしてドアノブの穴から水を抜いた跡と考えると……つじつまが合うさね」
「そして――」
倉庫内を殺人現場とした証拠…いや痕跡。
【証拠品セレクト】
【取り外されたメモ書き)←
「これだっ!」
「これも見て欲しい。長門と一緒に、倉庫の棚に張り尽くしたメモ書き……捜査の時点で全て外されていた」
「ああ~、まさしく生真面目に切り貼りされたって感じのメモ…折木君と長門さんの作品だったんだねぇ」
「小物とか皿とかを探す際、とても助かりました!はい!」
「でも~それがどうかしたの~?」
「このメモ書きが、捜査の時点で全て外されていた。綺麗さっぱりな」
“だから…”そう俺は一拍置く。
「倉庫内が水で満たされた時、恐らく、棚も全て水没し、完全に外されてしまった可能性が――――」
【反論】
「もろたで、折木ぃ!!」
【反論】
「甘いで、折木。あまあまの甘や。妹の手料理並にな」
「そこまで誇示するほど甘いのか……」
「まあ今は料理の話しはどうでもええんや……ウチが言いたいんは……。あんさんのその推理は、まだまだ決定的やない…ちゅうことや」
【反論ショーダウン】 【開始】
「ここまであんさんが言った証拠は…」
「どれも」
「これも」
「クロが細工できる代物っちゅうことや」
「細工…?」
「じゃあ、今までに見つけた証拠は」
「クロがねつ造した証拠、と言いたいのか?」
「そのとおりや」
「例えば」
「最初のメモ書き云々は」
「クロが全部取り外せば済む話しやし」
「外のぬかるみの話しも」
「犯人がそこに水を撒いとけば済む話しや」
「確かにどれもこれも」
「クロが工作するには容易かもしれない…」
「だが、そこまで証拠をねつ造する理由が、俺には理解できない」
「理由なんかは後でクロの口から聞けばいい話や」
「そもそもここで重要なんは…もし倉庫の中を満たしたっちゅうんやったら…」
「倉庫内はグチャグチャのグチャになっとるはずやろ!」
「それともなんや?」
「あんさんの仮説が正しいっちゅう」
「【決定的な証拠】があるっちゅうんか?」
【モノパンの怒り)⇒【決定的な証拠】
「その言葉、切り伏せる!!」
【BREAK!!!】
「勿論…“決定的な証拠”もある……雨竜」
「んん?どうしたのだ、折木」
「…思い出させて悪いんだが、モノパンの説教を受けていたときのこと、覚えているか?」
「ガンガンに受けてサーッて消沈する前のことだね!カルタも覚えてるよ!!」
「……………………うむ、勿論覚えているとも」
「そのとき、どんなことを口走っていたのか……具体的に、俺達に話してくれないか?」
「この通り、だよ!」
「どの通りなのだっ!」
強く言い放ち終えた雨竜は額をコリコリと搔き、俺達の懇願に対し、仕方なしにと言う風に語りを始める。
『相棒おおおおおお!!今まで忘れていてすまなかったぁ!!もう2度と手放さ、ん……ぞ…?』
『これはこれは雨竜クン…お待ちしていましたヨ~』
『ゴミを捨ててしまうのならともかく!こんな高価な物をここにほっぽり出すとは!朝に取りに来れば笑顔で許したものの…その存在を忘れてしまうとは!この望遠鏡ちゃんの気持ちを考えたことはありますか!!……』
『まったく!“倉庫の中はめちゃくちゃだし、べちゃべちゃ”だわ、“ボートは壊されるわ”、もー散々ですヨ!!!』
『これ以上仕事増やさないで下さいヨ!!まったく、会場の設営もまだ済んでいないのに…』
「…覚えている限りだと、ここまで、であるなぁ」
「いや。十分だ…ありがとう。………鮫島、今のが“決定的な証拠”だ」
「ええと…偉く過剰な説教を受けたってことは分かるけどねぇ……?」
「ん~~~もしかして~、“倉庫の中がめちゃくちゃ”~ってところ~?」
「倉庫の中…が……あああああっ!…でござる」
「…とってつけた忍者要素……さっさとティッシュにくるんで捨ててくるです。見苦しいですよ」
「予期していた5倍の辛口コメントを食らってしまったでござる!?」
長門に続いて沼野、そして他の生徒も、この証拠の注目すべき点を理解し始める。
「前にモノパンが軽く触れていたんだが……夜時間は施設内の掃除か何かが行われているんだ」
「はいはいその通りでス!!夜時間中は、施設内の清掃および補充などを行っておりまので……過剰に散らかっていた場合、ワタクシの機嫌はとても、とても悪くなっちゃいますヨ!!」
「だからといってワタシに当たり散らすのは……理不尽が過ぎるぞぉ…」
あまり嬉しく無い援護射撃が、俺に続いてモノパンから発せられる。だけど、実際に、掃除を行う本人が言うのであれば、その信憑性は格段に上昇する。
「じゃあ、わたしたち、が、朝衣さん、を、発見する前、は……」
「相当散らかっていたはずだね!キミ!。ミスター折木が言っていたメモ書きが全て外れされていたんだから、倉庫内の何もかもがグチャグチャであったと考えられるね!!」
「……部屋中が水浸し。実家を思い出す」
「一体どんな家に住んでいたのかねぇ…」
「自然災害が多い…」
「思いのほか過酷な環境下だったんだよねぇ!?」
贄波達がかみ砕いた形で証拠内容をまとめていく。その話に耳を傾ける鮫島は、頭をワシャワシャとまさぐり、完全に納得した表情を浮かべる。
「ほんまか~……あ~、そういう証言まで出てきてもうたら。認めざるえんちゅうわけやな……なんかウチ、えらいかっこ悪いなぁ」
「カッコがつかないのは様式美です。気にする程の事でも無いですよ」
「まあまあ、議論には賛成派と反対派が必ず必要だし、鮫島くんはちゃんと反対派……言っちゃうと、やられ役をキレイにやり遂げてくれんだから!褒め称えられるべきなんだよ!」
「うお~か~っこい~」
「……これ完全に舐められとるな……ウチの心はもう、四等分に真っ二つやで」
「空間的に矛盾した比喩なんだよねぇ……」
議論はある程度の進行を進め、そして何となく、一段落ついたような雰囲気が場を包む。
絶え間の無い議論の応酬であったためか、気がつくと、思ったよりも心に疲れが溜まっている自分に気がつく。俺は、心を落ち着かせるように、一息つく。
――だけど、安心している暇は、俺には…俺達には無い
「しかし、そこまで証拠の山が重なってしまったとなるとぉ……」
「……籠城していた式は」
「犯人に倉庫を水で満たされて~」
「溺死させられてしまった…でござるか」
「まるで推理小説のような大それたトリックですけど…これまでの証拠と証拠をすりあわせてみると…真実としか…」
これまでの時点で分かったことを、全員で、改めて並べ直す。納得した雰囲気から察するに、この時点で反論を言おうとする生徒は、見られなかった。
――どこでどうやって、朝衣が殺されたのか…その殆どが、今ココで瓦解された
――後は、その“どうやって”を、“誰が”行うことができたのか……
俺は、全員の顔を見回す。……共通して、緊迫した面持ちで互いを見合う――が、焦ったように、表情をこわばらせる生徒は未だ見られない。
――だけど、朝衣を殺害したクロが、“この中に”必ず存在する
――……
――ここからが、正念場だ
――ここから、俺達は、背けず、向き合わなければならない、空しい真実を前にしなくてはならない……
――向き合うことができなければ…俺達は…
――俺達は…
俺達の、“最初の学級裁判”は、終盤へと、さしかかっていく。
【学級裁判】
【中断】
* * *
「くぷぷぷぷぷ、学級裁判も佳境へとさしかかってきましたガ……」
「読者のキミタチは、もう誰がクロなのか分かっちゃってますかネ?」
「でもでも分かっちゃったからと言って、無闇やたらに吹聴するのな、無しですヨ?」
「推理小説の禁忌である“ノックスの十戒”のにも『ネタバレは御法度』って書かれていますからネ」
「……えッ?そんな記述見たことも聞いたことも無いって?」
「くぷぷぷぷ、甘いですね。鮫島君の妹さんの料理並みに甘いですヨ?キミタチ。食べたことも無いですけド…」
「ワタクシが言う“十戒”とキミタチが知る“十戒”…」
「果たして、本当に“同じ”なんですかねェ……。くぷぷ」
「もしかしたら…世界が違えば、中身も、違ってくるのかもしれませんねェ…」
「くぷぷ、くぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ………」
『生き残りメンバー:残り15人』
【超高校級の特待生】⇒【超高校級の不幸?】折木 公平(おれき こうへい)
【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)
【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)
【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)
【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)
【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)
【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)
【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)
【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)
【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)
【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)
【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)
【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)
【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)
【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)
『死亡者:計1人』
【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)
どうもこんにちは。水鳥ばんちょです。学級裁判編、前編です。後編は、もうちょっと待って下さい。頑張りますので。オニイサンユルシテ。
↓以下コラム
名前の由来コーナー 朝衣 式(あさい しき)編
朝衣⇒「浅い」 式⇒「死期」
作者から一言:少しかわいそうな名前の由来。
コンセプトは「一番最初の事件の被害者」で、一章から退場してもらうつもりで作成しました。性格のイメージとしては「原作よりもお姉さんぽい、霧切響子」みたいな感じです。
どうでもいいことですけど、ジャーナリストとか、情報系の才能持ちは、キャラに関係なく、どの作品でも寿命が短いように感じますです。
名前について、最初は「世良(せら)」とかを名字として考えていたけど、友人に「何かイメージと合わない」と言われたので、「朝衣 式」という名前を30分くらいで生み出しました。ちなみに、朝衣さんの「朝衣」という漢字は、「ヒカルが地球にいたころ…」というライトノベルの「齋賀 朝衣(さいが あさい)」というキャラクターから頂きました。式はそのまんま「方程式」の「式」です。「朝衣」を由来通りにすると、「浅い方程式」となるため、詰めの甘い彼女を表現できているのかなと思います。