ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~   作:水鳥ばんちょ

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Chapter1 -非日常編- 5日目 裁判パート 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       【学級裁判】

 

 

 

 

 

        【再開】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 裁判上と教室を組み合わせたかのような空間の中、たった15人の生徒+1匹はお互いの顔と顔をつきあわせ、立ち続けていた。

 

 学級裁判を開始してから暫くが経ったと思う。加えて議論の内容を顧みてみると、そこそこの進展は見られた様にも思える。だけど、未だ目の前の霞は濃く……手探りの状態を外せないまま、俺達は覚束ない足取りを続けていた。

 時々、濃霧の向こう側に光明のようなものが見えたときもある…だけど、それはすぐに輝きを無くし、俺達をまた視界ゼロの世界へと戻していく。

 きっと他に皆も、同じような体感をしているのだろう。充分な情報が手元に無い生徒ならばなおさらだ。

 

 

 クロが作り出した道なき道は、俺達を、確実に迷わせ、焦らせ、じわりじわりと苦しめていた。

 

 

 

「さて、事件は中盤へとさしかかったところだけど…キミ達。これからどうしたものかね?」

 

「朝衣が何故炊事場…もとい、“第1倉庫に赴いた”…のか、そして“どのようにして殺されてしまったのか”……不明瞭な外堀は埋められつつはあるがぁ…」

 

「加えて“いつ殺されたか”…についてもです。夜10時頃に倉庫が閉まることを考えれば、そのとき以降に、倉庫内で朝衣を溺死させたと考えるのが妥当です」

 

「しかしやで、肝心な“誰によって”…が穴抜けや。このまんまやと、あそこでふんぞり返っとるエセ紳士に裁決されるんも、時間の問題やで」

 

「エセ紳士だなんて失敬ナ!ちゃんと紳士検定初段も得ているワタクシをまがい物呼ばわりするのは、ワタクシが許しても協会許しませんヨ!」

 

「ほほう…そんな組織があるだなんて初耳だね…ちなみに、その協会の規模はどれくらいなのかな?モノパン?」

 

「聞いて驚かないで下さいヨ……なんと!ワタクシ1人です!」

 

「超個人的なんだよねぇ!もったいぶる理由皆無の趣味の世界なんだよねぇ!?」

 

 

 心底どうでも良いいような事を、えらいくらいに堂々と、なおかつ最もらしく声に出す。無視しても言い事柄なのだが、大げさに両手を上げ、天を仰ぐモノパンに、ピンポイントライトが合っているかのように幻視してしまい、偉く目に付く。

 

 

「ですガ!!しかぁシ!!…今さっき口にしていた、時間が無い、というのはタイムキーパーのワタクシから言わせて貰うと、実際本当の話なんですヨ………早急に事を納めないト…ご機嫌なくらい中途半端な状況で、投票タイムに入っちゃいますヨ~?……それとも、もう逝っちゃウ?」

 

「そんなわけ無いだろうがぁ!!!叩いてでも時間を延ばす!」

 

「その役目!アタシに任せな!物理的措置は得意中の得意さね!」

 

「……聖職者とは思えない乱暴さ。それに暴力沙汰は規則違反。死ぬ」

 

 

 袖をたくし上げ、今にでも飛びかかりそうな反町を、風切が言葉で制する。しかし、今のモノパンの言葉を受け、何人かの生徒は慌てたように口を回し出す。

 

 

「じじ、じ、時間が無いんだったら、は、早く、なんとかしないといけないんだよねぇ!?あたしはいやだよ!まだ老い先長いし、まだ調査し切れてない文献もたんまり残ってるんだからねぇ!」

 

「私だって!お師匠様を残して先に逝くなんてこと……命に代えてもできません!」

 

「結局死んじゃっているでござるよ!小早川殿!?」

 

「嫌やなぁ、それは嫌や。最後の晩餐は、妹のクソ不味い料理で締めるって決めてたんやけどな~」

 

「諦めるの早すぎでござるよ!ていうか鮫島殿の妹君、どんだけ料理が下手くそなんでござるか!」

 

「妹が料理下手くそなんやない。料理がまずいだけや」

 

「それどっちも同じ意味でござるよ!」

 

 

 モノパンからの“時間が残されていない”…という事実が、俺達の中に溜まる“焦り”に火を付ける。その空騒ぎは勢いを増していくばかりで、生きたい理由を口にし出す始末だ。

 

 …全員、今現在議論が停滞しつつあることを、直感的に理解しているのかもしれない……1度本格的にスタートしてしまったがために、止まることに対して、恐怖のような“感覚”を覚えてしまったのだろう。

 

 

「だけどさ~正直な話~、このまま誰かが“きっかけ”を出さないとさ~、そんな“最悪な未来”も、もう間近って感じじゃない~?それってマジヤバくない~?」

 

「ヤバいも何も、もう終わりだね!」

 

「簡単に言い終えてどうするですか。私達の人生の大半がかかってるんですから、真面目に発言するです」

 

「生と死は争うでもなく、共存もしない。いつ足下をすくおうか…考え、考えられ、隣り合う概念……。僕からも言わせて貰うよ……誰か早く何とかして……とね」

 

「お前は一々七面倒くさくごねなきゃ、物を言うこともできないんですか?みっともなく助けを請うのが、現時点の最適解ですよ」

 

「助けて欲しいんだぜえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」

 

「アンタが請うのかい!」

 

 

  中身も無い言い争い。というよりボケ合い。一周回って全員冷静なのではないかと思える光景だが、無意味なことには変わりない。長門の言うとおり、この場を翻す“きっかけ”のようなものを、早く提示しなくてはならない。

 

 

「……皆、の行動時間、が、分かれば。“誰に可能だった”のかが、分かるんだけど……」

 

 

 ふと議論の外で縮こまっていた贄波が、とても小さな声で、小ぶりの一石を投じる。まるで俺に向けて投げたかのような声で。俺はそれを聞き逃さず、贄波の言葉を足がけに、俺は“あの証拠”を手に取る。

 

 

 

 

 

 

【証拠品セレクト】

 

 

【昨日のタイムテーブル)

 

 

「これだっ!!」

 

 

 

 

 

 

「……皆、少し良いだろうか?」

 

 

 余りある意欲を振りかざし、舌の回りきらない論争を繰り返す全員に向け、俺は視線を集めるよう、大きく声を鳴らす。

 

 

「折木さん?いつも以上に顔をしかめてどう為されたんですか?もしかしてお腹の具合が…?」

 

「それは大変なんだよねぇ。度を越した我慢は身体に毒だから…早くお手洗いに行かないとねぇ」

 

「せやったら、あんさんの後ろの通路の突き当たり、右手側にあるで~」

 

「トイレの話じゃ無い!…それにしかめっ面は俺の標準装備だ。深めていようといまいとそんなに内心に変化は無い……じゃなくって!」

 

「おお…折木がノリツッコミ……これは明日は雪が降るで…」

 

「雪!!カルタも大好きだよ!お姉ちゃんも“とても静かで脳に優しいですわ…”って言ってたからね!」

 

「……シスコン」

 

 

 …また話はよく分からない方向へと転がり出した。俺は大きく咳払いをし、おふざけを止めさせる。

 

 

「…………良いから話を戻すぞ。俺が言いたいのは、朝衣の殺害が“誰に可能だった”のか、分かるかもしれない、ということだ」

 

「誰に可能だったのかでござるか!?中々に核心をついた話でござるな!!」

 

 

 マイペースを絵に描いたような連中に、やっと話の冒頭を聞いてもらえた俺は、ズボンのポケットをまさぐり、正方形に折りたたまれた、“例の紙”を取り出そうとする……と――。

 

 

「おやおや~?何か面白い物が手元に見えますなぁ…ちょいちょい、カルタちゃんに見せてみなさい…」

 

 

 瞬間、水無月によって紙ががスルリと抜き取られる。忽然の出来事に、俺は目を見開き、水無月と自分の手を交互に見やる。

 

 

「んんん?んんんん?ああー!そっか、そうだよね!確かに確かに!」

 

「な、なんでござるか!めちゃめちゃ興味をそそられる反応でござる!拙者達への回覧を要求するでござる!!」

 

「ふっふっふ~……諸君、どうやらこの名探偵カルタちゃんの虹色の脳細胞が唸りを上げ……そして!クロの目星がついてしまったのだよ」

 

「本当ですか~?虹色の脳細胞とか言う、頭がラリってそうな探偵の推理は、人として信じ切れないですよ」

 

「…てか何やその言動、どっかのナルシストみたいで気色悪いわ~」

 

「それはボクのことかなミスター鮫島!やはり…顔にも、性格にも、才能にも恵まれたボクには、非難はつきものみたいだね!誇らしすぎて涙がでるくらいだよ!」

 

「涙からは悲しみしか感じられないよ~」

 

「心と体は離れているようで、とても近しいもの。心で哀しみを誤魔化しても、身体は本当の心をさらけ出すものさ。…君達もいつか、その言葉の意味がわかるはずだよ」

 

「お前の言葉に意味があること自体に驚きを隠せないですよ」

 

 

 捜査を開始してからの水無月の名乗りに、小さくないブーイングが向けられる。しかし、その非難は全く関係の無い、別の誰かへのダメージとなってしまっている。…憐れニコラス。

 

 

「まあ名乗りについての云々は、ニコラスくんの手元に置いとくとして……コレを見るのだよ!諸君!」

 

「すまん、目一杯腕を伸ばして貰っているところ悪いのだが…字が小さくて見えん……。一体何が書いてあるのだ?」

 

「……時間帯毎に、私たちが何をやっていたのか書かれてる」

 

「さっすが超高校級の射撃部だね~。まるで鷹並の視力だよ~」

 

「ああーそれはあれさね。捜査中に折木に頼まれて書いた、昨日の“タイムテーブル”さね」

 

「た、タイムテーブル……ですか…?何だかその、近未来的な机の名称みたいで……是非ともお目にかかりたい代物です」

 

「それはきっと未来永劫叶わないんだよねぇ……。タイムテーブルっていうのは、ある一定の時の、人の動きを表でまとめた物なんだよねぇ……その表から例を出すと、『午後1時に女子生徒の数人が料理をした』…って書かれているんだよねぇ」

 

「へぇ……人の動きが分かる机なんですね…」

 

「机から離れて欲しかったんだよねぇ!半分以上理解してくれてないんだよねぇ!!」

 

 

 “良いところを見せるチャンスだったのにねぇ!”…となんとも言えない悲痛な叫びを上げる古家。…強く生きろ。俺は内心、そう言いながら、紙をスラれたことにショックを隠せないまま独りごちる。

 

 

「だ、だけ、ど。水無月、ちゃん。その表、がどうかした、の?」

 

「ふふふふふふふ~。名探偵カルタちゃんは断言しちゃうよ!……今回のクロは、この、“表に書かれた人物”!……または、“書かれていない人物”!…だよ!」

 

「な、何だってええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」

 

「それは誠かぁ!!!水無月ぃ!!!……………いや…ちょっと待て?」

 

「それ私たち全員のことじゃないですか……」

 

「何で呆れとるんや?別に間違っとることは言うとらんやん?」

 

「ボケにボケを重ねるなです…!少しは編集してからモノを言えってことです…!添削無しの自伝じゃあるまいし…」

 

 

 あまりにもわかりきっていることを、自信満々に、胸を張りながら言う水無月の姿を、少なくない生徒達は“また意味の分からないことを…”と裁判の内容とは関係なく、頭を抱え出す。

 

 

「…でも、昨日、の皆の動きが、分かるんだった、ら……」

 

「そうでござる!拙者らの監視の目をかいくぐり、炊事場で朝衣殿を殺害したクロの目星が付くはずでござる」

 

「まあ~監視する本人が~犯人の可能性も~あるけどね~」

 

「迂闊!その可能性を忘れていたでござる!」

 

「アンタどの立場でそのセリフ言ってるんだい…」

 

「でも…お互いに監視し合ってもいたから…その可能性はかなり低い」

 

 

 俺達は水無月から送られてきたタイムテーブルを回し見る。…ちなみに、俺の手に回ってきたときは、水無月には手渡さず、そのままポケットにしまった。隣を見ると、ブーッと頬を膨らます水無月が居たが、無表情で無視した。

 

 

「先ほどの沼野達の見張りの件とそのリストを一緒くたにして考える、と…“夜8時半以降”、炊事場エリアに足を向けた者はいないことになるがぁ…」

 

「そうだね!透明人間でも無い限り、怪しい人リストからは外れるね!」

 

「ふむふむ、だったら、夜8時半前に“時間的余裕がありそう”な生徒が怪しいね!1人ずつ名前を挙げていこうじゃないか!キミ達」

 

「まず発言者本人であるニコラスが、第1候補ですね。表に名前が書かれていないってことは昨夜はずっと、フリーだったことになるです。……まあ私も、その1人なんですけど」

 

「加えてアリバイ無しなのは…落合、そして贄波の二人、だな」

 

「だ、ね…」

 

「そう僕は何時でも…自由の中を飛び回る鳥のようなものさ……」

 

「天体観測を早めに切り上げた連中もどうさね?…さっきの沼野の証言から、鮫島は外れることになるけどね…」

 

「俺様と!!!!!水無月の!!!!!2人かあぁああああああああああああ!!!!!!!」

 

「鮫島くんたちを置いてスタコラサッサと帰ってたからね!!なんにも言い返せないよ!」

 

「何で疑われてるはずなのに元気モリモリなのかねぇ。あたしだったら怯えすぎて白目むいてる所なんだよねぇ」

 

「禁断症状が出たような反応で恐怖しか感じないよ!ミスター古家!」

 

 

 ニコラスに贄波、雲居、落合、陽炎坂、そして水無月。疑い深い6人が選出され、ほんの少し、ピリッとしたような空気が走る。俺は様々な視線が交差する中央を介し、ゆっくりと、目を流していく。…この凄惨なる事件が、着実に真相へと向かっている。…生徒達が顔をこわばっていることからも、そのことが確信できた。

 

 

 ――この中に、朝衣を殺したクロが潜んでいる……

 

 

 誤魔化しでも良いからと、緊張を抑えるよう、ゴクリと、唾を飲み込む。

 

 

「……こ、この中に、朝衣さんを殺めた、クロがいらっしゃるんですね……」

 

 

 震えた声で、全員の声を代弁するように小早川は声を発する。

 

 

「何や全員怪しく見えてきたなぁ、そう思うと足の震えが止まらんわ……腰を抜かす3秒前ってやつやな…」

 

「…子鹿以下の腰」

 

「ううう~何だかドキドキしてきたよ~。数10メートル以上の高さから海に飛び込んだ時くらい、緊張するよ~」

 

「…それはもう、リアルで心の臓が止まりそうな話でござるなぁ……」

 

 

 やはりというか、俺が感じる緊張感も、殆どの生徒が感じ取っているらしい。速やかに胸打つ心臓の鼓動が空気をドクンドクンと、ゆらすのを感じる。――すると。

 

 

「……いや、もう1人怪しい人物はいる。しかもとびっきりの」

 

 

 ――風切が、決して聞き逃せないような一言を述べる。強調するかのような形容詞を乗せて。

 

 

「そ、そうなんですか!この方々以外に…一体誰が…」

 

「この6人以外に居るとは、ボクも盲点だったよ!」

 

「お前、それ自分で言って不思議に思わないのか…?」

 

 

 俯瞰したように発言するニコラスを尻目に…風切はゆっくりと指を狙いを定め、怪しい人物に対して、指を向ける。背中には、風切愛用のライフル銃が背負われているはずなのに、まるで手元にピストルがあるかのように錯覚してしまう。

 

 

「それは――」

 

 

 その指の先には居たのは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……狂四郎。貴方」

 

「………………………………………………………ワタシぃ!?」

 

 

 銃弾の先に居たのは、雨竜だった。そのいきなりのパスが予想外だったらしく、目を見開き慌て出す。

 

 

「…狂四郎って誰ですか?」

 

「雲居殿…雨竜殿のことでござる。同輩の生徒の名前くらい覚えるでござるよ。ていうか今めちゃめちゃオーバーなリアクションしていたでござるよ」

 

「で、でもなんで雨竜君なのかねぇ…彼は、天体観測をするために“ずっと”グラウンドに居たんだよねぇ…」

 

「…そう“ずっと居た”…だから怪しい」

 

「何が言いたいのかな?ミス風切?」

 

 

 相変わらず含みを持たせた、確実に説明不足の言葉に俺達は疑問を呈する。どうやら、“ずっと”グラウンドに居たという事が、彼女にとって強い疑いが譲れない部分らしい。

 

 

「……炊事場とグラウンドは、森を隔てて繋がってる。…そして森は、抜けようと思えば、頑張って踏み込めば、抜けられる」

 

「…つまりあれかい?天体観測を終えて夜10時を回った時に、グラウンドから直接炊事場へ突っ切って、朝衣を殺害した……ということかい?」

 

「……そう。昨日の深夜1時頃に見かけた時のことと、タイムテーブル、そして新坐ヱ門の天体観測の話しを聞いて、怪しいと思った」

 

「…新坐ヱ門って誰の事ですか?」

 

「古家殿の事でござる!!全員の名前くらい把握しておくでござる!社会的マナーがなっていないでござる!!」

 

「忍者が社会的マナーを語っているよ~」

 

「昨今の忍者はシティーに流れていく今日この頃でござるからな!当然でござる」

 

「…沼野、忍者はバイトとか言ってなかったか?」

 

 

 風切の意見に、少なくない納得の声と、対する声が二分する。その反応の差異に、疑いの対象である雨竜も、焦りをさらに表出す。

 

 

「ふむしかし、…空論を謳うのかと予期していたでござるが…確かに考えられる可能性でござる。噴水広場周辺までなら目は光らせることができるでござるが……さすがに炊事場近辺の森までは難しい故、移動は可能。それに、深夜1時に姿を表したことも…よくよく考えればタイミングが良すぎた気も…」

 

 

 沼野が珍しく真面目に現場への移動の可否を解説。説明をする最中、風切の考えにも一理あるという気持ちに切り替わったのか…狐のような鋭い目つきで、雨竜を射貫き出す。

 

 

「た、確かにグラウンドには1時までずっと居たがぁ……しかし、エリア間を移動するなど…ワタシは」

 

「ううーん。いきなり言われて焦る気持ちは分かるけど……いつもは冷静っちゃ冷静な雨竜くんがたじろぐと…怪しさは増していきますなぁ…」

 

「いつも冷静であろうがぁ!!」

 

「今までを顧みると、“いつも”では無いです」

 

 

 疑いの矛を向けられたための焦りからか、冷や汗を流す雨竜の反応に、じわじわと不信感が積み上がっていく。議論の答えが雨竜へと傾こうとしている中、俺は俯瞰的な視点を保ち、証拠と今まで出てきた証言を見比べ、俺自身の答えを構築していく。

 

 そして俺は――。

 

 

「……いや。雨竜は炊事場には行っていない」

 

 

 雨竜がクロでは無い、そう考える。

 

 

「…折木は反対派ってことですか?」

 

「ああ。考えを整理して出した結果だ。真っ向から対立させて貰う」

 

「なら…私と勝負。公平……覚悟」

 

 

 

 

 

 

【反論】

 

 

「その矛盾を打ち抜く…」

 

    

         【反論】

 

 

 

 

 

 

【反論ショーダウン】    【開始】

 

 

 

 

 

 

「…狂四郎は天体観測を終えた後も」

 

「グラウンドに残っていた」

 

「私たちの目の及ばない」

 

「…深夜1時ごろまで」

 

「グラウンドに……」

 

「だからこそ…怪しい」

 

 

「確かに雨竜はグラウンドに残っていた」

 

「だけどそれは、雨の中で天体観測を諦めなかったが故の行動だ」

 

「あのときの雨竜の状態を見ても、他意があったとは思えない」

 

 

「…目的や他意なんて」

 

「幾らでも隠し通せる」

 

「…ただ」

 

「グラウンドエリアにずっと残っていた…」

 

「その事実があれば問題ない」

 

「グラウンドと炊事場は繋がっている…」

 

「つまり…」

 

「グラウンドから…」

 

「【森を通って炊事場に行けば】、犯行ができる」

 

「そう考えれば」

 

「犯人が狂四郎である可能性が高い」

 

 

 

 

 

 

【森の足跡)⇒【森を通って炊事場に行けば)

 

 

「その矛盾、切らせて貰う!」

 

 

【BREAK!!!】

 

 

 

 

 

 

「風切…雨竜が犯人の可能性は無い、確実にそう言えるんだ」

 

 

 俺はある人物からの証言を思い出し、風切の推理の穴に切れ込みを入れる。

 

 

「うむぅ、ここまで断言してくれるとは…頼りがいしか感じられんが、逆にそこまで信頼される理由が理解できなくなってきたな……」

 

「雨竜が迂闊すぎるから、そんなこと出来るはず無いって言う侮りですよ、きっと」

 

「芸術的に捻くれすぎてる回答なんだよねぇ…」

 

 

 俺が“確実にそう言える”と断言したこと、そして自分の推理に隙があった、これらのことに驚きを隠せない風切は、言葉には出さずとも少なくない動揺が見せる。

 

 

「なんで可能性が無いと言い切れるの…?理由が知りたい」

 

「ふっふっふ~それはこの名探偵カルタちゃんが教えてしんぜ――」

 

「待ちたまえミス水無月!真実を伝えるのはボクの役目だよ!キミ。名探偵を自称する者として、それは見逃せないねえ」

 

「自称ってのは自覚してるんさね…」

 

「――ニコラスくん…どうやら雌雄を決するときが来たみたいだね…」

 

「――そのようだね。このボクの“バリツ”が、火を噴くときが来たみたいだ…」

 

「なーんか勝手なところで、勝手にシリアスな場面が展開されてるんだよねぇ………折木君、続けてどうぞ」

 

「…ああ、そうさせてもらう…………雨竜がクロでは無いと言い切る理由は…“足跡”だ。捜査中、小早川が炊事場周辺の森を見て回ってくれたときの話だ」

 

 

『炊事場の周りを見て回ってみたんですけど………足跡はここにしかありませんでした』

 

 

「はいっ!その通りです!!足跡はその1箇所しかありませんでした。はい!」

 

「…声に張りがあって、明るさが戻ったように感じるんだよねぇ」

 

「…やっとまともに議論に参加できたことが、嬉しいんさね」

 

「健気やでホンマ……ウチの親戚の娘さんの友人にしたいくらいやで」

 

「微妙!微妙すぎる立ち位置なんだよねぇ!ほぼ他人なんだよねぇ!!」

 

 

 小早川の証言を聞いた風切は、少し怯む、だけど、佇まいは崩れず、反論を繰り返す。

 

 

「…“1箇所”あったのなら…それはきっとグラウンドからの――」

 

 

 “いいや”と風切の言葉を遮る。そして…。

 

 

「その足跡は――」

 

 

 

 

 

 

【証拠品セレクト】

 

 

【足跡の行く末)

 

 

「これで証明するっ!!」

 

 

 

 

 

 

「――――炊事場と、ペンタ湖の間にできた足跡なんだ」

 

「なっ……!」

 

「ペンタ湖、と?」

 

「と、いうことは…昨夜に横断があったのは、炊事場エリアとペンタ湖のエリアの間のみ…ということになるのかぁ…」

 

「みたいなんだよねぇ。あたしと長門さんが湖の捜索をしてたときに、バッタリと会っちゃってるから、証明できるんだよねぇ」

 

「会っちゃってました~~。ちなみに~、場所は~船着き場の~真正面。丁度“対岸”でした~」

 

 

 俺の足跡に関する証言に、2人は賛同の手を上げる。そしてもう1人の賛同者であるべき同行人の水無月は、未だニコラスとにらみを利かせあっている。

 

 

「要は……グラウンド側から来たと見られる足跡は無かった、だから雨竜が昨夜、朝衣を殺害するために、エリア間を移動した可能性は限りなく低い」

 

「空を飛べれば話は別だけどね……天使や神様みたいに」

 

「飛行機とか、タケなんちゃらとか、お空を飛ぶ機械を持ってる、もしくは創造できるってとこも追加やな」

 

「超人的に!!!!!幅跳びが!!!!上手ければ!!!!可能性はなくはないんだぜええええええええええええ!!!!!!!!」

 

「世界を見据える観測者であるワタシだが、残念ながら肉体は常人と変わらぬ生身だ、故に貴様らの言うような人類を逸脱することはできない…………だがまあ!真の本気を出せば、天空などたやすく飛翔してみせるがなぁ!!!!!ヌハハハハハハハハ!!!!」

 

「フォローしたのに、何故自分からややこしくしていく…!」

 

「犯人説が否定されて調子が良くなったみたいですね。景気づけに膝カックン、1本いっとくですかね」

 

「アンタの身長だったら、足よりも手を突き出した方がやりやすいさね」

 

「成程!それはナイスアイディアです。反町、1番痛みの出る拳の握り方を教えるです」

 

「拳をまともに握るより、石を握って殴るのをオススメするさね」

 

「そこ!!物騒な密談をするなぁ!!身の毛がよだつ!!」

 

 

 俺達は雨竜の疑いを晴らすための発言を繰り返し、無実へと流れを変えていく。それを聞いて、傾きかけた盤面が、またまた平行なものへと戻っていくのが見える。 

 

 

「…むぅ。そっか。可能性が低いのか……。狂四郎、変な疑いをかけた。ごめん」

 

「謝る必要無いですよ、風切。グラウンドで、バカの一つ覚えみたいに曇り空を見てたっていう、明らかに怪しい行動を取ってた雨竜がいけないんですから」

 

「たかがバーチャル映像だのニ、熱心なものですねェ」

 

「何、突き抜く力は天才にとって必要不可欠なものさ。たとえそれが、罵りの対象になりえることだったとしてもね…ジャララ~ン」

 

「貴様らどれだけワタシを侮辱すれば気が済むのだ!!観測者は常に星々を守護する、偉大なる役割なのであるぞ!!」

 

「仰々しく言ってるけど、星を見て考え込んでるだけなんだよねぇ…」

 

「雲の動きをじっくり眺めるんも、案外ええもんやけどなぁ…」

 

「星と言っているだろうがぁ!」

 

「ニコラスくん…まさかあなたがここまでカルタに追いついてくるとは思わなかったよ…」

 

「いいや、キミ。ボクがキミを追いかけていたのではないさ…キミがボクを追いかけていたんだよ……。そうだね、あえて言わせて貰うなら、“いつからキミは獲物を捕る側であると錯覚していた”だね…」

 

「なん…だと…!」

 

「そしてあんたらはいつまで小芝居をうってるんだよねぇ!!」

 

 

 滑らかに騒ぎ立てる議論は、またさらに流れを増していく。推理とボケの応酬に、生徒の数人は気疲れが見て取れる。あまりツッコミを入れない俺でも、幾分か疲れてしまっている。

 

 

「では、雨竜殿への疑いは晴れた、と見て良いとして……。――1つ、足跡についてシンプルな質問があるでござる。何故、ペンタ湖に向かって件の足跡が伸びていたのでござろうか…?」

 

「本当さね、炊事場から足を運んでも、湖には一面に敷き詰められた水しか無いってのに……当たり前の話だけどね」

 

「そもそも誰の足跡なのでしょうか?沼野さん達の見張りの事を考えると、朝衣さんか、もしくはクロの2択になりますけど…」

 

 

 小早川達の率直な疑問を起点に、論点は“足跡そのもの”へとシフトしていく。“足跡はいつできたのか?”“誰の足跡なのか?”“どうして足跡が付けられたのか?”等、小さな疑問をそれぞれ飛ばし、静かに渦が回り出す。

 1つ1つに時間を掛けてはいられない状況ではあるが、少しでもピースのはめ場所を間違えてはいけない議題だ。だからこそ、確実に、なおかつ迅速に真実を見極めなくてはならない。

 

 ……まずは、今の時点で見極められる部分…“誰の足跡なのか”についてから崩していこう。

 

 

 足跡は恐らく…。

 

 

 

1) 朝衣のモノ

 

2) 犯人のモノ

 

 

⇒犯人のモノ

 

 

「そうかっ!」

 

 

 

 

 

 

「その足跡は……犯人のモノなんじゃないか?」

 

「へぇ、そっち選ぶんか…その心を聞こうやないけぇ」

 

「この足跡について1つ…写真を見るだけでは伝わらない、ある特徴があるんだ」

 

「伝わらない、特徴、って?」

 

「気になるんだぜえええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」

 

「それは――」

 

 

 

1) 跡の深さ

 

2) 跡のぬかるみ

 

3) 跡の匂い

 

 

⇒跡のぬかるみ

 

 

「これだっ!」

 

 

 

 

 

 

「この足跡は、写真では分からないが“酷い粘り気”があったんだ。……きっと昨夜に降った雨のせいで濡れてしまったからだろう…」

 

「その話は本当さね。発案がアタシだったからね。他にも、小早川と水無月が証人だよ」

 

「え、ええと…はいそうなります!ちょっと記憶が薄いですけど!」

 

「早いよ梓葉ちゃん!まだ数時間しか経ってないのに!でも大丈夫!カルタはキチンと覚えてるよ!」

 

 

 心強いことに、足跡を見つけた場所に同席していた3人は俺の意見に同意を示す。

 

 

「せやけど…そのぬかるみ具合がどないやっちゅうんや?クロの靴には泥遊びした跡が残ってますゆうんか?」

 

「いや…“その逆”だ」

 

「逆……やって?」

 

 

 繋げるような俺の言葉に、鮫島は90°くらいまで、首を深くかしげる。

 

 

「その前に……雨竜、ニコラス、沼野。朝衣の死体を隅々まで調べたお前達に聞きたい。朝衣の靴に何かしらの汚れは見られたか?」

 

 

 もったいぶったような言い回しになってしまったが。今の俺の言葉を聞いて、合点がいったように、生徒達は小刻みにうなずき出す。

 

 

「…いや。……“何も無かった”。全体的に濡れていただけで…泥の付着は見られなかったなぁ」

 

「そうだね……全く見られなかった。1歩でも森に足を踏み入れてたなら、ほんの少しでも痕跡が出てくるはずなのにねえ?キミ」

 

 

 “何も痕跡が見られなかった事”が証拠。先ほど鮫島が持ったシンクへの違和感と一緒だ。だからこそ、泥を踏みつけた痕跡が無かった朝衣は除外され…消去法から“クロの足跡”と断言できる。

 

 

「うむうむ、そのような論理もあるのでござるな!であれば、炊事場とペンタ湖に出来た足跡は、クロのモノと言えそうでござる!」

 

「ろ、“論理”!是非とも1度は使ってみたい、ハイカラな言葉です!」

 

「決してハイカラな言葉では無いと思うけどねぇ…」

 

「まず論理っていう言葉の意味から知った方が良いかもしれないですね。小早川の場合」

 

「はっ!そこはかとなくバカにされたような気がします!」

 

「気、もなにもダイレクトに言ってるさね…」

 

 

 論理的かどうかは別として、予想以上に推理はすんなりと通った。…これで1つ、“誰の足跡なのか?”についてが瓦解した。後は、“どうして付けられたのか”そして“いつ付けられたのか”の2つ。

 

 

「足跡がクロのモノだったとして……一体どうして付けられたんだろうねえ!何人もの犯人を独房に入れてきた者の経験則からして、そういう…自分に繋がりそうな証拠は最低限付けたくないモノだよ!」

 

「わかったぁ!!きっと水浴びをしたかったんだよ!ひとっ風呂浴びたいな~って感覚で!」

 

「おお~それはそれは~クロとは気が合いそうですな~私もそろそろ水が恋しくなってきたんだよ~」

 

「殺人した直後か直近の人間が水浴びなんて、肝が据わりすぎて畏怖すら覚えるんだよねぇ…」

 

「というか、昨夜は雨が降っていたので…身を濡らす必要は無いのではありませんか?」

 

 

 1つの疑問が解かれ、俺達の間に多少の余裕が生まれる。相乗して…全員のテンションも上がり、微妙にふざけ出すのが玉に瑕だが。 

 

 

「ペンタ湖…か。何か“目的”があって移動をしたのだろうがぁ……」

 

「その目的が分からないんですよね…取りあえず何か思い当たることを片っ端から言ってく位しか出来ないですね…」

 

 

 ここまでの時点、犯人を確定できる証拠が無いことから、朝衣を殺したクロはとても慎重と言える…そのクロがわざわざ足跡を残してまで湖へと移動した…そこには、確実に何かしらの“理由”があるはずだ。

 

 

 

 

 

 

【ノンストップ議論】 【開始】

 

 

 

 

 

 

「足跡を残してまで」

 

「湖にわざわざ行ったんだから…」

 

「きっと『大それた目的』があったはずなんだよねぇ!」

 

 

 先生!考えが浮かびません!!

 

                 自分の発想力の無さを呪うんだね!名探偵!

 

 ま~だやってるで…ほんと飽きひんもんやな

 

 

「きっと!!!」

 

「重要な!!!」

 

「『証拠を隠滅するため』だぜええええええええええええ!!!!!!」

 

 

 興味深い案だなぁ…

 

              陽炎坂にしてはまともな意見ですね

 

 

「逆に…『何かをペンタ湖に隠していた』とかはどうでしょうか?」

 

 

 …凶器とかかい?

 

               で、でも部屋で溺死、しただけだか、ら

  

 

「…そもそも犯人は湖を目指してたのか分からない」

 

「適当に歩いて、『偶然ペンタ湖に行き着いた』可能性もある」

 

 

 …そしたら湖で足跡が途切れてる理由が…

 

               説明できないんだよねぇ…

 

  …うるさい新坐ヱ門

 

            シンプルに罵倒されたんだよねぇ!?

 

 

「ふむ…拙者的には、『昨夜に気になる出来事』はあったでござるが…」

 

「1つ、『泳いで渡る』ため…と提言させて頂くでござる」

 

 

 可能性はありますな~

 

 

「アホやなぁ…あんさんら」

 

「考えすぎっちゅう話しやで…」

 

 

 ああん?

 

       …それはライン越え

 

 ちょっと表出るです

 

 

「犯人が『わざと足跡を残した』可能性も」

 

「あるかもしれへん、っちゅうのに…」

 

 

 わりとまともな意見だったんだよねぇ

 

            成程です。表から屋上に変えてやるです

 

 呼び出されるのは変わらないんだねぇ!?   

 

 

 

 

 

 

【何か大きな音)⇒『昨夜の気になる出来事』

 

 

「それに賛成だ!」

 

 

【BREAK!!!】

 

 

 

 

 

 

「沼野…今お前が言った気になる出来事…もう少し詳しく話せるか?」

 

「おい折木。今はお前の興味を追求する時間では無いですよ…そんなのは後で――」

 

「まあまあミス雲居。ミスター折木にも何かしらの思惑があるはずさ…今は黙って聞こうではないか」

 

 

 雲居の言う通り、本筋である、“何故クロがペンタ湖に赴いた”という話題から逸れてしまう。それでも、俺は沼野の発した言葉の詳細に目を向けた。それが、きっとクロの“目的”を見いだす鍵になるはずだ。俺は何となく、そう直感したから。

 

 

「やはりでござるな!拙者も意味も無く発言してみた甲斐があったものでござる!」

 

「意味が無いのは余計なんだよねぇ!」

 

「この世に無意味なことは無い…あるのはそれを意味のあるなしを決める“感情”だけ……さ」

 

「コレって拙者、励まされているのでござろうか?」

 

「いや、違うです。…お前はこの世界で最も無意味な人間に選ばれたっていう、誇らしい栄誉が与えられたんです」

 

「ものすごい曲解を見た気がするんだよねぇ…」

 

「ついに落合の言葉で人を罵倒し始めたかぁ…できる…!」

 

「できないよ~」

 

 

 沼野達の漫才が一通り一巡したところで、贄波がぽつりと、沼野の言葉の真意を聞き出す。 

 

 

「…“気になる出来事”、って、なんの、こと?」

 

「何や風切も、雨竜も頷いてるってぽいし…どうやら見逃せん場面があったようやな…」

 

「見逃せないというよりは、聞き逃せないことでござるな。昨日、深夜1時過ぎくらいに……見張りをしていた拙者と、風切殿、そしてそんな拙者らを心配してやってきた折木殿は、ペンタ湖から“何かが壊れた音”が響くのを聞いたのでござる!」

 

「…その“水に何かが落ちた音”を聞きつけて、ワタシも天体観測ならぬ、天雲観測を止め、グラウンドから駆け付け3人と合流したのだ」

 

「そして、その“鈍い音”を聞きつけて、湖まで急いだんだが………結局何も見つからず、次の日の朝にまた改めて捜索しようということになって、その場を後にしたんだ」

 

「えっ、えええ???あの、すみません。結局どんな音が響いたんですか?」

 

「見解が一致してないんだぜええええええええええ!!!!!!!!」

 

「未だに意見がバラバラだけど!!何かしたの大きな音が響いったぽいんだよね!知ったようなカルタだけど、人聞きだから、詳しくは公平くん達に聞いて!」

 

「丸投げされたでござる!もっともでござるが!」

 

「……でも、捜索しようとしてた次の日に、朝衣の殺人が起こった。だから結局、正体が分からないままになってしまった」

 

 

 風切の言うとおり、朝衣の殺人が発覚したことで、音の正体を突き止めることは出来なかった。だけど、事件の捜査を続けていく内に、その“正体”と見られる証拠は、見つけることが出来た。

 

 

 あの音の正体は…きっと――

 

 

 

 

 

 

【証拠品セレクト】

 

 

【破壊された貸しボート)←

 

 

「これで証明するっ!」

 

 

 

 

 

 

「だけど、捜査の最中でその激しい音の原因を見つけた……それは、“貸しボート”が壊れた音だったんだ」

 

 

 音についての表現の一部に、“何かが壊れた音”というものがあった。だったら、湖周辺で壊れているモノが見つかれば、それが音源であると断定できる。その周辺にあった代物が、この貸しボートだった。

 

 

「あたし達が発見したボートなんだよねぇ!」

 

「しかもちょ~ど~、件の足跡の先に浮かんでた~見るからに壊されましたよ~って感じの一品だったよ~」

 

 

 足跡の行く末、つまり、ペンタ湖のボート乗り場…その対面付近で貸しボートが壊れていたことになる。その偶然とは思えない重なりに、生徒達は食いつき出す。

 

 

「それは!それは!すこぶる怪しい代物ですね!」

 

「本当でござるな!昨夜何故気づかなかったのか可笑しいくらいでござる!」

 

「でも……あれって人が2人乗れる、そこそこの大きさのボートだったはずだけど……そんな簡単に壊せる物なの?」

 

「前に実物を見てるアタシが言うけど、拳を2つ使わなきゃ粉々にできないさね」

 

「2つ使えば粉々にはできるんだねぇ……」

 

「力のある人間ならまだしも、非力な人間では無理…といえるのかな?」

 

「いや、多少の力があれば…あのボートを破壊することが出来る」

 

 

 確かに反町のように力のある人間が壊せば、バラバラに出来るかも知れない。でも、“とある道具”を使えば…誰でも壊すことができるようになる。

 

 

 

 

 

 

【証拠品セレクト】

 

 

【大きな石ころ)←

 

 

「見つけた…!!」

 

 

 

 

 

 

「壊れたボートの真下の湖底に…“大きな石ころ”が沈んでいたんだ。長門がその場で潜り、発見したんだ」

 

「大きな石ころ、ですか……もしかしなくても、それを使ってボートを破壊したとか言い出すんですか?」

 

「そうだよ~。見るから~に、ごく最近沈めましたよ~ってぐらい目立ってたから~。直上にあったボートの事を考えると~ぶつけたのは確定だね~」

 

 

 石ころは、男性でも女性でも持ち上げられそうな大きさであった。つまり、先ほど挙げた6人の容疑者なら、誰でもボートを破壊することが出来る。

 

 

「ちなみにだけど、朝衣さんを溺死させるために使われた、“水道用のホース”も、そこで見つかってたりするんだよねぇ」

 

「成程ぉ…では、先ほど陽炎坂が議論中にのたまった。『証拠の隠滅』のためにペンタ湖に赴いたというのも、間違いでは無い…ということかぁ」

 

「何か!!分からないが!!!勝ち誇ったような!!!!気分だぜええええええええええええええええええええええ!!!!!!」

 

「その証拠の話が本当なら、足跡が付けられたのは…“朝衣を殺した後”になるですね。凶器はもう使わないって風に隠滅したわけですから」

 

「あっ!本当ですね!まさかここで“いつ足跡が付けられた”のかが分かるとは思いませんでした!」

 

 

 次々に証拠と証拠はつなぎ合わさり、音の正体へとたどり着くことができた。さらには、くっついてやってきたかのように、“いつ足跡が付けられた”という疑問も証明された。

 

 徐々に謎が氷解していく実感は、少なからず湧いてくる……反面、段々と犯人へと近づいてきている実感も直に感じ取れ…真実を知る“怖さ”もジワジワと増していく。

 

 

 ――すると、今の発言に続いて雲居が“ていうかですけど……”と話し出す。

 

 

「そもそもの話し…どうして貸しボートが対岸にあるんですか…?アレって、確かボート置き場に立てかけてあったモノですよね?まさか1人で、勝手に持ち出したってことですか?」

 

「あ~確かにね~。ボートを運び出す時の物音で~見張りの2人が気づきそうだけどね~」

 

「……ペンタ湖からは何も聞こえなかった」

 

 

「それもそのはずですヨ。だって、貸主がワタクシに貸して欲しいと頼んできたので、“その場にお運び”して、お貸したんですかラ…」

 

 

 モノパンからの一言に、俺達は騒然となる。またモノパンか…の一言では済まされない、重大な発言だったからだ。

 

 

「お貸しただとおぉ!?貴様またクロに協力したのかぁ!!」

 

「協力じゃ無いですヨ?手続きでス。ボート小屋に関しては時間制限を設けてはいないんですからネ」

 

「なにすまし顔して、至極当たり前です、みたいな風に言ってるですか!夜遅くに、しかも大雨の中貸してほしいって言って貸すバカがどこに居るんですか!?」

 

「私は絶対借りません!!だってずぶ濡れになりたくないですから!!」

 

「そんなこと言われたって…24時間営業できるところが常にフル稼働させるのがワタクシのモットーですシ……それに、そのクロの行動は殺人に直接関係していないですシ……規則違反とはなりませんヨ?」

 

「また…絶妙な言い逃れをするでござる!!」

 

「一体誰が借りたのだぁ!」

 

「本人からの希望で、匿名で~ス」

 

「アンタ……!クロの良いように動いて、中立な立場として恥ずかしくないのかい!!!」

 

 

 納得のいかない野次を物ともせず…モノパンは自分の行動の正当性を語り出す。その態度が、重ねて俺達の神経を逆なでし、怒りの声を増やしていく。

 すると…怒りの輪に加わらずにいたニコラスが、酷く冷静な声で、“だけどまあキミ達…”と俺達を包み込む。 

 

 

「……クロが、そのボートを借りて湖を横切ったというなら、逃亡の手助けとなり、モノパンへの追求はもっともな話しだけど……クロは当のボートを破壊している……むしろ、モノパンは被害者側となっている。キミ達のブーイングは、的外れなのだよ」

 

「ニコラス!アンタ、モノパンの肩を持つのかい!!」

 

「そうだよ~、肩を組み合う相手を間違えてるよ~」

 

「いいや違う。今モノパンをまくし立てても、意味が無い、と言いたいのだよ」

 

「……だがっ!しかしぃ……!」

 

「何だか、納得がいかないでござる……」

 

「みんな…、一旦、落ちつい、て?」

 

 

 ニコラスと贄波の発言から、俺は、全員頭を冷やすよう促していることが感じ取れた。…俺だけで無く、ボルテージを上げていた生徒達は、みるみるうちに、顔をうつむかせていく。少しずつ、周りの熱が引いていっているのだ。

 だけど皆が怒りを露わにしてしまうのも、無理も無い、今までのモノパンの行動は、全てクロを基準としている様にも見え、端から見れば、公平性に欠いているとも取れる。

 

 

「ニコラス君の言う通りでス!ワタクシは被害者なのでス!まさか壊すためにボートを借りるとは…一体あのボートいくらすると思っているんですカ!」

 

「ちなみにちなみに。おいくらなのかな?」

 

「第1エリアの木を使っているので、実質タダです!」

 

「貴様ぁ!!!そのタダ程度に、あのときワタシに怒りをぶつけたのかぁ!!!万死に値するぞぉ!!」

 

「もうモノパンは諦めるです……贄波達の言うとおり、コイツとの問答は時間の無駄、今は議論に集中するです」

 

「しっかし不自然な話やで……そのなんていうんや?証拠を隠滅する言うてたやろ?……そんなん、わざわざボート使わんでも、石ころにくくりつけポイ捨てすればいい話やと思わんか?」

 

「た、確かに。石ころだけ投げれば、“音も極力出さずに”静かに証拠を破棄できるのに」

 

「そうだよ~、ボートを借りたかと思えば~…壊してさ~…やっていることがめちゃくちゃだよ~」

 

「ボートを!!!壊すことで!!!!!クロにメリットがあったのかもなああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

「気が触れてボートを壊しました~やったとしたら…?」

 

「心はいつでも、綱渡りのように不安定な物……あり得なくも無い話だね」

 

「そんなアホな事は、沼野か鮫島、もしくは雨竜しかやらないですよ」

 

「理不尽でござる!濡れ衣も甚だしいでござる!」

 

「沼野や鮫島は良いとして…何故ワタシまで含まれているのだ!!そこまで意味不明ではなかろうに!」

 

「……あれやな…雨竜、裁判終わったら、後でリンチやな」

 

「ぬわにぃ!?……くくくく、ははははははは!!!!!良いだろう…我が力、スタープラティナが貴様の目をえぐる…」

 

「嫌に猟奇的なんだよねぇ!!」

 

 

 モノパンへの糾弾から一転、何故、“クロはボートを破壊したのか”について議論は回り出した。皆が言うように、何かしらメリットがあったのだろうが……。しかし、…どうしてボートを…。

 

 

「ボートを壊したことで起きたことと言えば…拙者らが“ペンタ湖に出向いた”こと…位でござるが……」

 

「…うん」

 

 

 ――……?俺達が…ペンタ湖に……

 

 

 俺は今の沼野の発言、そして先ほどの“音を極力出さずに”と言った小早川の発言を重ね合わせる。

 

 

 ――もしかしたら

 

 

 俺はそこで、脳の奥底に積み上げられた1つの“可能性”を思い浮かべる。……だけどまだ当の可能性はぼやけたまま…そのためにはまず、考えを少し整理しよう…。

 

 

 

 

 

 

『どうも皆様お久しぶりです。そして、後半から裁判を見た人は初めまして』

 

「……いや、そんな、いきなり裁判のクライマックスに目を通すような、酔狂な人は居ませんよね?きっと」

 

『私がでてきたと言うことは、またもや新要素、というか追加要素、です』

 

『今回の要素は、原作においても用いられた『ロジカルダイブ』『ブレインドライブ』…に該当する要素になります』

 

『1つの設問にいくつかの選択肢が出てきて、もっとも可能性が高い選択肢を次々に選んでいく。殆ど原作と仕様は変わっておりません』

 

『変わっているところと言えば、別に折木君が、スケボーに乗ったり、車にとって美女を侍らせたりすることは無いくらいです』

 

『そしてこのシステムの名前を、折木君風に改造して………『ロジカルドライブ』…と名付けます』

 

『『ロジカルダイブ』と『ブレインドライブ』……合わせて『ロジカルドライブ』……」

 

『…………………………………………………』

 

『何かすみません。割と考えるの面倒でドッキングさせてしまいました…申し訳ありません』

 

『でもそんな感じになります!!後は読者のご想像にお任せ致します!!』

 

『ではでは、本小説を引き続きお楽しみ下さい…また会う日まで…サヨナラサヨナラ』

 

 

 

 

 

 

【ロジカルドライブ】

 

 

 

 

 

 

Q.1 船を壊したことで、何が起こった?

 

 

1) 水しぶきが上がった

 

2) 船が使えなくなった

 

3) 轟音が鳴り響いた

 

 

A.轟音が鳴り響いた

 

 

 

Q.2 音が鳴り響いたことで何が起きた?

 

 

1) 沼野達が炊事場エリアに来た

 

2) 沼野達がペンタ湖に駆け付けた

 

3) 沼野達がログハウスエリアに戻った

 

 

A.沼野達がペンタ湖に駆け付けた

 

 

 

Q.3 クロは何のためにボートを破壊した?

 

1) 沼野達をペンタ湖に呼び寄せるため

 

2) 沼野達はログハウスエリアに呼び寄せるため

 

3) 沼野達を炊事場エリアに呼び寄せるため

 

 

A.沼野達をペンタ湖に呼び寄せるため

 

 

 

Q1: 3) 轟音が鳴り響いた

Q2: 2) 沼野達がペンタ湖に駆け付けた

Q3:1) 沼野達をペンタ湖に呼び寄せるため

 

 

「推理は繋がったっ!!」

 

 

【COMPLETE!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………」

 

「折木、くん?うつむいて、どうした、の?」

 

 

 …どうやら俺は自分の中に出てきた答えを思案している間に、ひどく黙りこくってしまっていたようだ。俺が思っていた以上に、議論に入り込めていなかったらしく、その様子を変に思った贄波から小さな気にかけが入る。その声が全員の耳に、絶妙に聞こえていたようで、視線の殆どが、俺に集中する。

 

 

 ――だけど、考えがまとまった今、その注目は都合が良い

 

 

 俺は長めに息を吸い、そのほんの隙間に、…意図して出てきたような“発想”を自分の中で明確に、そして全員に伝わるよう言葉を添削する。まずは、“何を”言いたいのか……頭の中で整理し“分かったこと”を口にする。

 

 

「――クロが、どうしてボートを破壊したのか…分かった、かもしれない…」

 

「本当かああああああああああああああああ!!!!!!!折木ぃいいいいいぃぃいい!!??」

 

「あの意味不明な破壊工作、その真意がかぁ!!」

 

「ほほう!それは興味深い!実際、ボクも頭を悩ませていた部分なんだ、ご教授願おうじゃないか、キミ」

 

「ご教授願う態度には、見えないくらい偉そうなんだよねぇ…」

 

「まあー?ニコラスくんは掴めていないようだけどー?名探偵カルタちゃんはもう分かっちゃっているし~?一応確認のために…公平くん!さっさと説明しちゃいなよYOU!!」

 

「本当ですか、水無月さん!……お二人とも頭の回転がお早い……ここまで“あいきゅー”の差が見えてしまうと……してはいけないと思いながら、自分と比較してしまいます…」

 

「折木はともかくとして、水無月のは完全に強がりさね…」

 

「……微妙に顔が引きつっている」

 

 

 俺の発言を皮切りに、生徒達はそれぞれの言葉で、それぞれ驚きの様相を出していく。進みきらない、生煮えの議論がしばらく続いていたからか、その驚きは予想以上だった。その空気に、少し“自分の推理は合っているのだろうか?”、と自信が薄れてしまう……だけど、“これ以外に考えられる理由が無い”…そう自分に言い聞かせ、発破をかける。

 

 

 ――きっと、クロは…

 

 

「クロは……何の意図も無くボートを無駄に破壊したわけでは無く……俺達を…いや、見張りをしていた“沼野と風切”を、ペンタ湖に呼び寄せるために…ボートを壊したんだ」

 

「…私たちを?」

 

「呼び寄せるためにでござるか…?」

 

「…ワタシは違うのか?」

 

「俺とお前は偶然居合わせただけの、余計な人間で…クロの範疇外だ」

 

「うむぅ……何だか分からぬがぁ…『範囲外』とは、実に“観測者”らしい言葉ではないか……。喜んで、その言葉を賜ってやるぞぉ!!」

 

「中二病がまた再発しているですよ……そういうのは、できれば中学時代で打ち止めにしといて欲しかったですよ」

 

「時間は常に有限さ……限られた時を“自分らしく”生き続けるのも、また自分自身さ」

 

「以上~代表からのお言葉でした~」

 

 

 周りから色々小言は出てくるが、俺は少しずつ、推理の理由を積み重ねていく。その話を聞く沼野から“しかし…”と、接続詞が漏れる。

 

 

「呼び寄せられたー、というでござるが…拙者らがペンタ湖に行っていたのは確か“数分程度”……その一瞬に犯人は、何を…?」

 

「ああ……その一瞬を使って、犯人は――――“炊事場を出たんだ”」

 

「……炊事場、を?」

 

 

 “炊事場を出た”という意見に、俺は今まで議論されてこなかった“とある議題”に触れていく。

 

 

「まず皆、改めて考えて欲しい。…沼野達が見張りをしていたのは夜の8時半から朝の6時の間、そして小早川達が炊事場に向かったのは沼野達が帰宅するときと同時刻…」

 

「時間の説明ですか……?その間は通行人は居なかったって結論がでたような…」

 

「そう…“通行人がいなかった”んだ。クロは朝衣を溺死させた後、“炊事場に居たはずなのに”、だ」

 

「…成程。キミはこう言いたいんだね?8時半よりも前にクロは炊事場へと向かっていた…だけど、その時間以降に“クロが炊事場を脱出する時間がない”…と」

 

「あたしが皆を呼びに行ったときは…朝衣さん以外全員居たから……ありゃ、確かにクロが炊事場から煙みたいに消えちゃってるんだよねぇ…」

 

「…薄々感じてた……けど、考えるのを放置してた」

 

「不思議だな~程度の認識だったね~」

 

「あれ…1ミリも疑問に思ってなかったのって、もしかしてあたしだけ…?」

 

「安心して下さい!!古家さん!!私もです!!」

 

「時には徒党を組むというのも…悪くないの、かな?」

 

「なんやあんさんらもか。奇遇やな」

 

「……全然嬉しくない人達から、同調されたんだよねぇ…」

 

 

 ニコラスが言ってくれたように…昨夜、沼野達は寝ずの見張りを行っていた。だから、好きなときに、炊事場エリアを出ることは出来なかった。なのに、朝の古家の呼びかけに、“朝衣以外の全員”が応じていた。

 

 

 だからこそ――

 

 

「クロは、“とある手段”を使って沼野達の目に隙間を作り…炊事場を脱出したんだ」

 

「……しかし、拙者らには…そのような、スキ……は……………………――ああああああっ!」

 

「……ペンタ湖に行った数分。私たちは噴水広場に居なかった…」

 

「そう、クロは、ボートを破壊することによって沼野達をペンタ湖におびき寄せ――」

 

「――“時間稼ぎ”をした。…そうだね?ミスター折木」

 

 先回りをしたように、俺の心を鋭く言い当てるニコラス。微笑みに加えて、真剣な目つき…俺に“答えを示せ”と言わんばかりの、後押しが感じ取れた。

 

 

 ……お前、まさか…もう――。

 

 

「しかしぃ…その数分を使って…どうやって炊事場から……」

 

 

 もっともな質問だ。……犯人はボートを壊し、そして呆れるくらい“単純な手段”を使って、噴水広場を脱出したんだ。しかも、その手段は“誰が”クロなのかを、決定的にする…。

 

 

「どうやら、ミスター折木には既に、答えが分かっている、みたいだね」

 

 

 “どの口が言うのか…”もう既に、自分で分かっているはずなのに…俺に答えさせようという魂胆が見て取れる。

 

 

「………クロは…………俺達が噴水広場を離れている間に――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――“走ったんだ”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンッ………と静まりかえる音がした。比喩でも何でも無く、本当に、この場の全ての音が消え、静まりかえった。

 

 口を開かず目を見開く生徒…開いてはいるが、呆けたように口をパクパクとさせる生徒、何かを察したかのように、眼差しを黒くする生徒、反応はひとそれぞれ。だけど、共通して、震えたような瞳を俺に集中させている。

 

 

「………………は、走っ、た?」

 

「クロは、炊事場からログハウスエリアまで連なる舗道を…走ったんだ。俺達が、音に気を取られて噴水広場を離れている間に、な…」

 

「で、でも…走った、って。そんな数分の間になんて…」

 

「そ、そんなことって、ねぇ…」

 

 そう。俺のような一般人が全力で走っても、5、6分程度はかかってしまうあの舗道の長さを、たった数分の間に走りきる速さと、スタミナを持っているヤツは………たった“1人”しか、いない。

 

 

 

 

 

 

 

【怪しい人物を指名しろ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カゲロウザカ テンショウ←

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お前なら……お前なら…できるんじゃないのか?…陽炎坂」

 

 

 

 

 

「………………俺様かああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!??????」

 

 

 俺からの言葉の指先は、超高校級の陸上部、陽炎坂天翔を差す。そして陽炎坂は、いつも以上の大声を張り上げ、のけぞる。あまりにも急な使命であった故に、冷や汗が額から流れる、陽炎坂本人から、そして…俺からも。

 

 

「きゃきゃかかか、か、陽炎坂君ならって…そんなこと言ったら…」

 

「……犯人と言っているようなもの」

 

「ああ。そうだとも…ミスター折木は、ミスター陽炎坂を、今回の事件のクロと言っているんだよ…キミ達」

 

「まさか…陽炎坂がかい?」

 

「お、驚きすぎて顎外れちゃったよ~」

 

「外れちゃったのでござるか!?」

 

「驚くのは!!!早すぎるんだぜええええええええ!!!俺様も!!!!いきなりすぎて!!!追いつけていないんだぜええええええ!!」

 

「ホントだ!!ちょっとエクスクラメーションマークの量が少ない!ちょっと勢いが衰えてるよ!」

 

「メタ読みは御法度ですよ……」

 

 

 俺が繰り出した答えは、裁判上のボルテージを、三度最高潮へと到達させる。しかも今回の追求は、今までの比では無い程、明確な根拠をもった、強い疑いだ…。俺の真剣な眼差しを見た他の生徒達は、その気迫から、伸びきったピアノ線の如く、空気は張り詰め始める。

 

 

「………いや!!!違うぜ!!俺は犯人なんかじゃないんだぜええ!!!!!」

 

 

 疑いを振り払うよう、腕を大きく回し、自分は犯人では無い、朝衣を殺してなんかいない…そう咆哮する。 

 

 

「ならばミスター陽炎坂。そう宣うのであれば、自分は犯人では無いという論証してみたらどうだい?まあ、ボクは未だに容疑者リストに入ったままだから、そんなことは口が裂けても言えないんだけどね!」

 

「めちゃめちゃ口にしちゃってるんだよねぇ!!」

 

「そのとおりだぞ!きみには弁解のチャンスがあるのだぞ!」

 

「水無月、あんたも容疑者の1人じゃないですか…図々しいったりゃありゃしないですよ…」

 

「まあニコラス達が言うとるんも、一理ありや。陽炎坂はまだ反論の“は”の字も無し……点検も無しにフライトしとるもん……まあつまり始まってもないっちゅうわけや」

 

「おお…ボケナスの鮫島がボケ無しの話をしているだとぉ……これは予想外だ…」

 

「マジで後でリンチやな…雨竜」

 

 

 生徒の大半が焦燥に駆られている中、少数の生徒は、落ち着いたような発言を残す。俺は内心気が気でない中、どうしてそこまで俯瞰的に見れるのか……もはや羨ましさまで湧いてくる。  

 

 

「そうだな!!!てめぇらの言うとおり!!!!その!!!証明を!!!!今からしてみせるんだぜええええええ!!!!!」

 

「証明、か…僕達は僕達自身について証明すらできていないのに……どんな言葉が紡がれるのか、楽しみだね」

 

「…今そのテーマを議論するには、油が濃すぎる」

 

 

 

 

 

 

【ノンストップ議論】 【開始】

 

 

 

 

 

 

「拙者達が噴水広場を抜けたのは…」

 

「大体数分ほどでござった…」

 

  

 本当に少しのお時間ですね

 

              体感だともっと短いかもしれないです         

 

 

「…そしてその数分間私たちは噴水広場を開けてしまっていた」

 

 

              一人くらい置いておくべきでござった

 

  焦りは禁物だね!  

 

 

「そんな短時間で陽炎坂が足を回したというならぁ…」

 

「あり得なくも無い…いや、むしろ陽炎坂だからこそできることなのかぁ…?」

 

 

 才能をフルに活かした脱出方法だけどねぇ

 

                    可能性、は高い、のかな?          

 

 

「いや!!!」

 

「そんなことはないんだぜえええええええええ!!!!!」

 

 

  びっくりしてしまいました!!

 

 

「炊事場から!!!!ログハウスエリアまで!!!」

 

「そんなに大した距離は無いんだぜええええええええええええ」

 

 

 歩くとそこそこの距離はあったと思うけどねえ

 

           歩みは一歩一歩が肝心さ…たとえ時が何時間も流転していたとしてもね…

 

 あんたのは牛歩すぎです   

     

 

「贄波や雲居みたいに!!!平均的な運動力ならまだしも!!!!」

 

「運動神経がそこそこあれば!!!!ギリギリ!!!走りきれる距離なんだぜえええええええええええ!!!!!」

 

「ニコラスや!!!落合!!!!!そして水無月とかなぁあああああああああああ!!!!」

 

「【俺様以外でも走れるヤツ】は!!!!いるんだぜええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

【生徒全員の靴の種類)⇒【俺様以外でも走れるヤツ】

 

 

「それは…違うぞ!!!」

 

 

【BREAK!!】

 

 

 

 

 

 

「確かに…炊事場に行ける余裕のあった、ニコラス、落合、水無月……この3人だったら、ギリギリ走り切れる可能性はあったかもしれないな…」

 

「そうだろおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

「だけど…その3人が、“走れる靴”を履いていたならば……の話だがな」

 

「な……にぃ……!!!!!!!」

 

「走れる靴……ですか?」

 

 

 俺は、捜査の間、反町達が書き集めてくれた、【生徒全員の靴の種類)が書かれた紙を取り出し…陽炎坂へと突きつける。外面だけは気迫に満ちていたからなのか…陽炎坂は、一瞬たじろぐ。心の中では、いつ何時想定し得ない事が起きるのではないか、そんな不安を抱えているのだが。

 

 

「…ニコラスの場合は革靴…落合はブーツ、そして水無月はローファー……だなぁ」

 

「んん~確かに、走ること向いてるとは、到底思えない靴なんだよねぇ…」

 

「……靴擦れする可能性がある」

 

「その靴で走るくらいだったら、ボクはもっと足に負担をかけない策を講じるねえ!キミぃ!」

 

 

 陽炎坂を除いた、そこそこの運動神経を所持している3人は、決して走れる状態とは言えない。ニコラスの言うとおり、3人がもしクロだったのならば、全力で走るという、足に大きな傷を残す策は練らないだろう。

 

 

「ぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……だったら!!贄波は…!!!スニーカーおおお!!!!!!」

 

「自分が発言した内容をもう忘れたのか?…お前は今、『贄波みたいに平均的な運動量ならまだしも』と……走りきれないと、早々に自分から断言していただろ…」

 

 

 俺は陽炎坂の一言一句を逃さず、欠かさず攻める。何か矛盾を孕んだ発言は無いか、何か嘘は無いか、今までの陽炎坂の言葉を、思い出す。

 

 

「お前しか居ないんだ……万全な状態で舗道を走り切ることができるのは…!」

 

 

 議論を重ねた先にある、真実を見極めるために。

 

 

「どうなんだ!!!陽炎坂!!!」

 

 

 その向こう側にある真実、たとえ残酷なものであったとしても。

 

 

「ぐ、ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ち、違うんだぜえええええええええええええええ!!!!!!!!!!!俺様は!!!やって!!!!無いんだぜえええええええええええええええ!!!!!!」

 

 

 仲間が仲間を殺した……そんな酷すぎる真実が、あるとしても。

 

 

「だけど!お前にしか……出来ないんだ!!!」

 

 

 俺は真実を求めて、突き進むしか無い……!!

 

 

「可能性の話なんだぜええええええええええええええええ!!!!!!」

 

「可能性でも!!見逃すことは出来ない!!!」

 

 

 それが何もすることができなかった、俺の――

 

 

「ふ、2人とも、1度、落ちつい、て」

 

「そうでござる!!頭を冷やすで――」

 

 

 ――凡人の俺に出来る、朝衣への“償い”なんだ…!

 

 

「どうなんだ!!!」

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ………………!!!!!」

 

「陽炎坂!!!!!」

 

「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬうううううぬぬんうぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……………………………………………―――――――――――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥーー……………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………――どうやら、随分と熱くなっちまったみてぇだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………えっ?」

 

 

 突然の…変容だった。今まで熱血を体で表わしたような陽炎坂が、冷や水を浴びたように、冷静で、冷徹な、……冷血な雰囲気を纏っていた。

 

 

「え、え、陽炎坂、君?一体、どうしちゃったのかねぇ?」

 

「か、陽炎坂…!」

 

「おいおい折木…まだ熱くなってんのかよ…少しはクールダウンしたらどうだ?俺みたいによ…」

 

 

 夢でも見ているかのようだった。

 

 頭に血が上った状態の俺が、変わり果てた陽炎坂にたしなめられる。今までの立場が一転してしまったように錯覚してしまう。俺は、目をつぶり、1度首を振る。…そして再び目を開く、だけど目の前の現実に変化は無く、コレが夢ではない事を物語る。いつも頭に血が上ったような陽炎坂は、今俺の目の前には…いなくなっていた。

 

 すると、“ハッハッハ”と、乾いた笑い声を飛ばし、一息を置く陽炎坂。妙に手慣れているような所作に、俺は違和感を感じてしまう。

 

 

「フッ…驚かせちまったみてぇで悪りぃな……俺は、俺様の中に燻る熱い“パトス”がマックスを突き抜けちまうと…一周回って冷めちまうんだ……安心しな。俺は、お前らの知る“陽炎坂天翔”は、俺の中にいつまでも生き続けてるぜ」

 

「陽炎坂君自身が死んじゃったような物言いなんだよねぇ…」

 

「お世辞にも口数が多かったとは言えない陽炎坂が……流暢に話してるさね…」

 

「何だか、頭が何か痛くなってきた気がします……こう、朝の起ききれない、イマイチな寝起きのような…」

 

「安心するです…それは皆同じです…。ああもう、全然ついて行けないですよ…!あんた誰ですか!本当に本人ですか!?」

 

「ところがどっこい本人なんだよなあ……。だけどすまねぇな…全員をここまで置いてけぼりにしちまってよお…これも超高校級の陸上部っつう…速さに特化しちまった罪な才能のせいさ…」

 

「お前の性格の変わりように置いてけぼりなんだがなぁ…」

 

「…才能全く関係ない」

 

「人はいくつもの内面を持っているものだよ。人はそれを“人格の仮面”または“ペルソナ”とも呼ばれる。友の前と、両親の前とで違う、自分の態度がそうだね……僕に覚えがある」

 

「変わるにしても限度があるでござる!!」

 

 

 未だ陽炎坂の豹変について行けない俺達を横目に、陽炎坂は自分のペースで、蕩々と語りを始めた。

 

 

「だけど…確かに俺なら、てめぇの言うトリック…――つうか力技か……が、可能だったのかもかもしれねぇ…」

 

 

 “だけど!!!”と急に声を張り上げる。俺はビリッとした感覚を覚え、身体をゆらす。

 

 

「俺が、俺様が朝衣の殺人を、はいそうです私がやりました…なんて、認めたわけじゃねぇ…」

 

「…それでも…俺は犯人じゃない、と言いたいのか」

 

 

 “その通りだぜ…”と頭を搔き、キザったらしい表情を浮かべながら…優雅さすら感じてしまう言葉を並べていく。

 

 

「…結局は証拠だ。この学級裁判てぇやつは……証拠以外で真実を語ることはできやしねぇ…てめぇの持ってる…手札全てで!俺を納得させてみな」

 

「陽炎坂のやつ…さっきまでの熱血キャラを捨てて、急にインテリ系に衣替えしてきたですね……」

 

「タダでさえキャラが渋滞してるっていうのにねぇ……さらに成分が加わっちゃったんだよねぇ」

 

「まるでウチくらい…いやウチに引けを取らんほどに頭良さそうなやな……」

 

「どの口が言ってるよ~」

 

 

 陽炎坂にはどうやら…まだ反論をする余地がある…というより性格が一転し、冷静に考えて“できた”ような様子が窺える。……落ち着きの差がひっくり返ってしまった分、陽炎坂がどんなアクションを起こしてくるのか…その言動に注意しなければ…。

 

 

 

 

 

 

【ノンストップ議論】 【開始】

 

 

 

 

 

 

「そもそもの話だぜ…」

 

「そのトリックは…本当に行われたってのか?」

 

 

 うう…やっぱり今の陽炎坂さんは慣れません

 

                       …右に同じです

 

「ホンマにって…」

 

「そらぁ【折木の推理】で、証明されたやろ…?」

 

 

 

 拙者達は見て。そして聞いたでござる…!

 

            …私たちが証明する

 

 

 

「ああ…【ボートが破壊され】…」

 

「【沼野達がペンタ湖に行ったって事】はな……」

 

「音の関係で…それは10歩だけ譲って、本当だとするぜ…」

 

 

  な、成程ぉ

 

           何あっさり納得してるですかエセサイエンティスト

 

  ワタシはサイエンティストではない!!ウォッチャーだああ!!

 

           …いや、もうどっちでも良いですよ

 

 

「ミスター陽炎坂…今のキミの言動…」

 

「ミスター折木の一部の推理は認めるが…」

 

「もう一部の推理は認められない…と聞こえるんだが?」

 

 

 僕にも聞こえてしまったよ…風の音がね

 

            それはさすがに聞こえてないんだよねぇ…

 

 

「その通りだぜ…ミスターニコラス」

 

「てめぇ…クロが舗道を【本当に走った】かどうかについての推理は…」

 

「…一歩たりとも認めたわけじゃねぇ!!!!」

 

「…【舗道を走った証拠】が!!!どこにもありゃしねぇんだからな!!!!」

 

 

 何か確証があればぁ…

 

             証明できる、ん、だけ、ど… 

 

 

「た、確かに~今までのは【折木くんの推理】だから~」

 

「炊事場を脱出した根拠が無いよ~」

 

 

 根拠無しだぞ!!公平くん!

 

         アンタどっちの味方さね…

 

 勿論公平くんだよ!!

 

 

「その通りだ!!」

 

「『クロが舗道を突っ走った証拠』…」

 

「あるんだったら見せてみな!!『折木』!!」

 

 

 無駄に熱すぎるで…

 

            最終決戦っぽいんだよねぇ

 

 

 

 

 

 

【舗道の凹み)⇒【舗道を走った証拠】

 

 

「それは……違うぞっ!!!」

 

 

【BREAK!!!】

 

 

 

 

 

 

「……どうやら、何かまた“穴”を見つけたみてぇだな……それとも苦し紛れの遠吠えってやつか?」

 

「いや…苦し紛れでも、遠吠えでも無い……あるのは明確な証拠と……お前の発言に潜む…矛盾だ…」

 

 

 ほんの一瞬、瞳が弱く揺れるのを俺は見逃さなかった…。余裕ぶったように見えるが……追い詰められているのは自分だとキチンと理解している…だからこそ、あんな風に虚勢を張っているんだ…。追い詰められた窮鼠の如く、俺に噛みつく時を見誤らないようにしている……。1つ間違えれば、確実に逃げられる。

 

 だからこそ、アイツの見せた動揺に焦るな…。言葉を切り詰め、冷静に、陽炎坂の足下を崩していくんだ…!。

 

 俺は手元にあった証拠……【舗道の凹み)を陽炎坂に突きつける。

 

 

「炊事場からログハウスエリアまで……1つ…不自然に凹んだ…浅い穴があった」

 

「穴…ですか?」

 

「その穴がどうしたってんだ?まさかそれがお前の言う、明確な証拠ってヤツか?拍子抜けったらありゃしないぜ……そんな凹み1つ――」

 

「いや1つじゃ無い…………その凹みは、舗道に一定の間隔で複数付けられていた……俺はその一定の間隔には見覚えがあった」

 

「……見覚え?」

 

「折木君…どうやら、君は理由…根拠を見いだしたみたいだね……。人間ならば必ずしも身につけている…理由を」

 

 

「“歩幅”だ…人間1人1人に必ず備わっているであろう…足と足の間隔だ」

 

「…………っ!」

 

 

 陽炎坂は動揺をさらに大きくさせ、ついには表情に表れる。歯を食いしばり、拳を握り固める…その様子から、確実に追い詰めている、その手応えを、俺は覚える。ここから、さらにたたみかける…!

 

 

「そして、お前はあのとき、確かに言ったよな…」

 

 

『俺は!!!!!革靴!!!!!じゃなくて!!!!“スパイク付き”の!!!!ランニングシューズだぜええええええええええええええ!!!』

 

 

「スパイクのついたお前のランニングシューズ靴……そして“超高校級の陸上部”であるお前の才能をもって……舗道を全力で走ったとき………使われた舗道はどんな風に、なると思う…?」

 

 

 ゆっくりと…詰め寄るように、真実を、証拠を突きつけていく…自分で掘った墓穴と一緒に…。そして、ガクンと、陽炎坂は首を下げ、表情が見えなくなってしまう…。まるで勝負に負け、事垂れたような脱力が見て取れる……。ついに、諦めたのか…俺は、恐る恐る…観察するように、陽炎坂の動向を…見据える。

 

 ――――すると。

 

 

「くくく…はははははははは!!っはははははははははっはあははははあはは……」

 

 

 高く…笑い出した。まるで勝ち誇ったように、勝利の美酒で喉をうるおすように…。追い詰められているのは、崖のふちに立たされているのは…自分のはずなのに。

 

 

「そうか…そうか………走っただけで、そんな跡まで付いちまうとは………才能がありすぎるってのも…考えもんだな…」

 

「罪を………認めるんだな…」

 

 

 天を見上げ…独り言をつぶやく陽炎坂…。その言葉には…自分が跡を付けたこと、同時に、炊事場から逃げ出したことを、認めた意味が含まれているように感じた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――いいや!!!まだだぜぇ!!!」

 

 

 突然天を仰ぐ首を正面にむき直し…俺へと好戦的な笑みを見せつける。その様子は、まるでこの舌戦を楽しむように…嬉々としていた。

 

 

「ココにいる全員は!!!きっと俺がやった、そう分かっちまったんだろう…………俺は…!俺様は完全には認めてなんか無いんだぜ!!!!!」

 

「な、何かテンションが可笑しくなっていませんか!?」

 

「エンジンがまたかかってきた感じがするんだよねぇ…」

 

 

 今まで冷静な態度を貫き通してきた陽炎坂から、また熱い血潮を滾らせる陽炎坂へと一貫しないまま人格が乱れ始める。目を血走らせ、体中を震わせるその姿から、気持ちが高ぶっていることはよく見て取れる…だけど、高ぶりすぎて、その気持ちが制御できていない…もはや暴走の域に達してしまっているのだ…。

 

 

「全てが認めようと!!!俺自身が認めなければ!!!!!この戦いに終わりはねぇ!!!」

 

「お前…!今何を言っているのか分かっているの――」

 

「ああ分かってるぜ!!!コレは俺のエゴだ…俺様自身のわがままさ!!だけど!!!時間のある限り!!!俺は諦めたりしねぇ!!!最後の最期まで…食らいつく!!!それが超高校級の才能を授かった!!俺様の魂の誓いだぜええええ!!!」

 

「……っ!」

 

 

 …ここで俺は理解した…。アイツは…自分に負けを認めさせて見ろ、そう語りかけている。真っ向から俺と勝負してこい!俺と最後のレースをしよう!!そう持ちかけているんだと…。

 ハッキリ言って、こんなのはアイツ自身が言うように“エゴ”だ。もう負けは確定しているはずなのに、それでも時間のある限り、首もとに噛みつくことを虎視眈々と狙い続けている、アイツの闘志は、未だに燃えることを止めていない。

 

 

 ――俺は静かに呼吸を整える。

 

 ――そして、朝衣を殺した“クロ”と視線を合わせる

 

 

「…ああわかった。…認めさせてやるよ。お前自身の罪を…今ココで…!!」

 

 

 だったら俺は…それに応えるまでだ……!だけど、コレは決してヤツのエゴに付き合うためじゃない。目を覚まさせるためだ……!!そして理解させなくてはならない…今陽炎坂が、全力を持って見てみぬをフリとしようしている…あまりにも重い罪の大きさを……!

 

 

「これが“最後の競走”だ…折木。待った無しなんだぜえええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

【反論】

 

 

『てめぇは既に、周回遅れだ…!』

 

 

                 【反論】              

 

 

 

 

 

 

【ファイナルショーダウン】 【開始】

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

「俺様は!!!!」

 

「まだ認めていねぇんだぜええええええええええええええええ!!!!!」

 

「走った証拠はあっても!!!!」

 

「それが“いつ付いた”のか!!!!!」

 

「わかりはしないんだぜええええええええええ!!!!!」

 

 

「舗道にあった凹みは、昨夜よりも前には付けられていなかった!」

 

「実際、その凹みによって、今朝雲居や落合が転倒してしまっている」

 

「お前が走った証拠は、確実に“昨夜”付けられたんだ…!」

 

 

 

「言うじゃあねぇか…」

 

「だけどその程度じゃあ俺は認めねぇさ…」

 

「そんなのは、昨夜じゃなくても」

 

「もしかしたら俺が主催した」

 

「“体育祭”の時に出来たの跡なのかもしれねぇ…」

 

「そのとき俺は、昨夜と同様の身なりだったからなあ」

 

「その程度じゃ、俺は墜ちたりはしねぇ…」

 

「俺が犯人だなんてな…」

 

「まったく!認められねぇんだよ…!」

 

 

 

「何がお前をそこまで強気にさせる…」

 

「今までの何に納得していないんだ!!」

 

「まさか、ただ無理矢理事実をねじ曲げようとしているんじゃないだろうな!!」

 

 

 

「そんな往生際の悪い行為は!!!」

 

「マナー違反だぜええええええ!!!!!」

 

「折木…」

 

「俺達は、“昨夜の雨の日”の事を話してるんだぜ…」

 

「昨夜!!!」

 

「炊事場に!!!」

 

「俺様は“確実”にいたのかああああああああ!!!!!?????」

 

「それとも、居なかったのか?」

 

「証明して見せろよ……俺が納得できる…決定的な証拠でな…」

 

 

 

 

 

 

 

「俺様が!!!!俺が!!雨の中、炊事場に居た証拠おおおおおおお!!!!!!出せるもんなら出してみなぁ!!」

 

 

                  泥

 

 ランニングシューズ              の

 

                 だらけ

 

 

 

 

【泥だらけのランニングシューズ)

 

 

「これで…決める…っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………昨夜、大ぶりの雨が降っていたとき…お前は確実に、炊事場にいた」

 

 

 未だ燃え続ける情熱その目に宿し、今までに無く、陽炎坂は俺の言葉静聴する…。俺は、俺自身を射貫く、その視線から目をそらし、陽炎坂の“足下”へと瞳を集中させる。

 

 

「靴だ。お前が愛用しているランニングシューズ……それが、朝衣殺害、および器物破損を行った、決定的な証拠だ」

 

「……………」

 

「く、靴って……またどうして」

 

 

 小早川は、今までの俺達の激しい攻防が記憶に新しいらしく、怯えるように、“靴”についての詳細を俺に求める。俺は、さっきまでの舌戦が効いたのか…少しだけ、脱力したように、説明を加えていった。

 

 

「さっきも言っていたんだが…昨日は雨が激しく降りすさんでいたせいで、、エリアとエリアの間にある森の土は、酷くぬかるんでいた…」

 

「………………」

 

 

 俺の言いたいことが、何となく理解できているのだろう……少しずつ、陽炎坂に宿る闘志が、薄らいでいくように感じた。今まで見えていた、大きな虚栄が、縮んでいくように見えた。

 

 

「そしてその泥はとても粘り気が強くて、洗っても簡単には落ちないくらい…頑固な汚れになった。実際に踏んだ俺の靴がそうだ」

 

「ちなみにカルタの靴もドロドロで~す!最悪な気分でーす!」

 

 

 いつも通り過ぎるほど明るく、手を上げ賛同する水無月。段々と沈んでいく気持ちの俺には、いつもの彼女のテンションは羨ましくもあり、また安心感を覚えた

 

 

「しかし…今の陽炎坂の靴は…そんな汚れが…」

 

「…それは、きっと部屋に常備されている“スペアの靴”だ…キミ達にも、見覚えがあるはずだよ」

 

「………っ!」

 

 

 俺は思い出す。ココに連れてこられた最初の日の事を。部屋全体を見回し、入り口付近に設置されたクローゼットの中には、今着ている服…そして“靴”と、全く同じのスペアの姿を。

 

 

「犯人自身もそのぬかるんだ土を…特に雨の日の土を確実に踏んでいるのなら。その靴は、きっと“泥だらけ”になっている」

 

 

 そして犯人は、泥だらけの靴のままであったら、今までの推理を合わせて、自分の疑いが向いてしまう…。そう思ったはずだ。

 

 

「そして、完全に靴の泥を落とすには…モノパンのクリーニングが必要だ…つまり――」

 

「俺の部屋には“泥だらけのシューズ”が残っているはずだ…そう言いたいんだろ?折木…」

 

「…………………陽炎坂」

 

「…何辛気くせぇツラしてんだ?ここまで言われて駄々をこねる程……俺様はガキじゃねぇ…」

 

 

 辛気くさい顔をしているのはどちらの方なのか…。俺は、陽炎坂の何もかも諦めきった表情から、寂しさとも怒りとも取れない、訳のわからない寂寥感を肌で感じてしまう。

 今まで自分勝手に人を殺して、自分勝手に俺達をだまして、自分勝手に駄々をこねて、自分勝手に諦める。声を上げて怒鳴りつけるくらい許される事を、ヤツはしたはずなのに……どうしてか――涙が、頬を伝いそうになる。 

 

 

「………大詰めといこう。感傷に浸るのは…後にしようじゃないか、マイフレンド」

 

 

 帽子を目深いに被り、ニコラスは俺に“最後の仕事”を背負わせる。決して、今かけるべき言葉ではないはずなのに…誰も、その言葉は“間違っている”なんて声には出さなかった。だって、その声からは、少なくと今まで感じたことの無い、酷い優しさが、含まれているようだったから。

 

 ニコラスの言葉を聞いた俺は一瞬―――贄波に目を向けた。何故なのかは分からない…ただ彼女の事を見れば、少しだけ力がもらえそうだったから。贄波は、ただ小さく微笑む。優しいだけじゃない、強い意志をもった、誰よりも真っ直ぐな微笑みだ。そして彼女は頷く、俺も、それに合わせて、頷く。

 

 

「…分かった。もう一度、事件を振り返って…全てを…ハッキリさせよう。この凄惨な事件の、全貌を…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【クライマックス推理】

 

 

「…これが、事件の真実だ…!」

 

 

 

――ACT.1

 

 

 

『まずは、事件が発生する直前……モノパンからの動機が配られた、昨日の朝から事件を振り返っていくぞ…』

 

『モノパンから配られた動機は“手紙”だった…内容に個人差はあれど、受取手本人に、とても関連深いことが書かれていた』

 

『しかし…今回の事件の被害者である朝衣の場合、他の生徒と一線を画する2つの違いがあった』

 

『…1つは“配られ方”だ。昨日の朝に配られた手紙とは別に、朝衣は別のモノを動機発表の前日に受け取っていた。つまり、朝衣への手紙は“2通”配られていたんだ』

 

『2つめは手紙の“内容”だ。1通目――つまり動機発表の前日に配られた方には“俺達の中に裏切り者が混じっている”と書かれ、2通目、俺達と同時刻に配られた手紙には“裏切り者が自分の命を狙っている”という、まるで朝衣の恐怖を煽るような一文が書かれていたんだ』

 

『…朝衣は自分の身を守るために、“とある”場所に事件が発生する2日前から身を潜めるようになった。それが自分の首を絞める行為になるとも知らずにな』

 

 

 

ACT.2――

 

 

 

『話を、事件発生の前日に戻すぞ…』

 

『手紙を配られた直後の俺達の間には、物々しい雰囲気が漂っていた。その空気に危機感を持った人物…具体的に名前を挙げさせてもらうと雨竜と、風切だな。その2人はその日の夜“ある行動”を起こしたんだ』

 

『雨竜は、俺達の気持ちを和ませるため、半数以上の生徒を集めて“天体観測”を催した。参加者は、雨竜、反町、小早川、水無月、長門、鮫島、古家、俺……朝衣――そして、今回の事件の犯人を含めた10人だった』

 

『夜7時に開催された天体観測は、滞りなく進行していたんだが…、1時間後の夜8時に、ある“アクシデント”が起こった』

 

『“雨”だ。不運にも雨が降ってきたことで…天体観測は一時中断とする運びとなったんだが…参加者の内、朝衣、水無月、鮫島…そして犯人を含めた4人は、天体観測を切り上げて、その時間にハウスへ戻ることにしたんだ』

 

 

 

―ACT.3―

 

 

 

『…ここで、朝衣の行動に注目して欲しい』

 

『鮫島と共に帰路についていた朝衣は……噴水広場にさしかかったときに、“炊事場エリア”へと足を向け直したんだ』

 

『理由は、“今の”自分の部屋に戻るためだ…』

 

『朝衣は、手紙を受け取った日から、とある場所…炊事場エリアの“第1倉庫”を一時的な根城にしていたんだ』

 

『第1倉庫は、モノパンが定める規則の1つ、“夜時間の間、出入りを禁止する区域”に含まれているんだが…』

 

『…実は、この規則はあくまで“施設への出入り”を禁止するだけで…“夜時間前に施設内に居ても”規則違反を犯したことにならないんだ』

 

『朝衣はこの規則の裏を利用して、犯人が最も行動を起こしやすいと踏んだ“夜時間”を、第1倉庫の中で過ごし。自分の身を守っていたんだ』

 

『だけど、朝衣が利用した裏技には、欠点があった。それは、“夜時間中施設内から出られないこと”。どんなことがあっても、倉庫から外へは一歩も出ることができない。まさに背水の陣の手段だったんだ』

 

 

 

――ACT.4

 

 

 

 

『鮫島と噴水広場で分かれた朝衣は、2日前と同じように、夜時間に入る直前に第1倉庫の中へと身を潜めた』

 

『時間は夜10時を回り、夜時間に突入した。同時に、出入りを禁止する区域に繋がる扉も施錠された。朝衣はきっと、“コレでもう大丈夫”…そう思ったはずだ』

 

『実は炊事場エリアには、もう1人の人物が潜んでいた……。犯人だ。天体観測を途中で抜けた後、誰よりも早く帰ったフリをして、朝衣が来るよりも前に、炊事場エリアで先回りをしていたんだ』

 

『恐らくだが、朝衣が、2日前からどういう行動を取っていたのか、事前に知っていたんだろう』

 

『だからこそ犯人は、倉庫に籠城する朝衣を“どうやって”殺すのかも、事前に考えていた。言ってしまえば、犯人は、朝衣が倉庫から一歩も外に出られないという、“規則の裏の裏”を使い、“施設外に居た状態で朝衣を殺す”という方法を実行したんだ』

 

 

 

 ACT.5――

 

 

 

『まず犯人は、夜時間を回った直後、施錠されたドアの“ドアノブ”を石か何かを使って破壊したんだ』

 

『ドアノブは外側と内側が連動するタイプだったから、外側と一緒に内側のドアノブも外れ、ドアには穴が空いた。つまり、倉庫は完全な密室とは言えない状態になってしまったんだ』

 

『ドアノブを破壊した犯人は、予め倉庫から出しておいた“水道用のホース”を取り出した。ホースの片方をドアの穴に、そしてもう片方を野外炊事場のキッチンに備え付けられた”水道”に付けたんだ』

 

『犯人は、倉庫と水道はホースを”架け橋”のようにして繋げ、水道の栓をひねれば、水が倉庫に直接入る仕組みを作り上げたんだ』

 

『そして犯人は、限りなく密室に近い倉庫に水を供給し続け、倉庫内を水で満たし、朝衣を溺死させるという、恐ろしい殺害方法を実行した』

 

『少なくない時間はかかったかもしれない…だけど、犯人は目論み通り、倉庫内で朝衣を溺死させた。――そのときの朝衣は、どれほどの恐怖を感じていたのか……想像に難くない』

 

『その後犯人は、ホースを抜き取り、倉庫内の水を取り出す作業にかかった。だけど、犯人が行ったのはホースの抜き取り“だけ”で、全ての片付けを行ったのは、他ならぬ”モノパン”だった』

 

『モノパンは夜時間の間、出入り禁止の施設の掃除を常日頃から行っていた。第1倉庫も例に漏れず、水が抜けきって水浸しになった倉庫を、ヤツは犯人に協力するかのように綺麗に掃除したんだ』

 

『その結果”何処かで溺死させられ運び込まれた朝衣”というような現場が作り上げられてしまったんだ。そして、少なくない人数の生徒が、事件現場の誤認をしてしまった』

 

 

 

 ―ACT.6―

 

 

 

『朝衣の殺害を終えた犯人は、余計な疑いをもたれないよう、早々に炊事場から離脱しようとした。だけどここで、思いも寄らないイレギュラーが目の前で起こっていた。それは“風切と沼野による見張り”だった』

 

『雨竜と同様に危機感を察知した風切は、沼野を誘い、夜8時半から噴水広場にて、夜通しの見張りを行っていたんだ。…8時半よりも前に炊事場にいた犯人は、その監視体制を見て、きっと慌てていたはずだ』

 

『“このまま炊事場に居続けたら確実に怪しまれる”…そう考えた犯人は、とっさに炊事場から抜け出す方法を思いついた』

 

『そのために犯人は、炊事場から“ペンタ湖”へと移動した。森を挟んで隣接する2つのエリア間であれば、風切達の目は届かないからな』

 

『激しく降る雨と、足下の酷いぬかるみを犯人は突き進み、何とかペンタ湖に到着した。そして犯人はとある目的を持って、モノパンを再び呼び出した』

 

『それは“ボートを貸して貰うため”だ。ボートを借りたのは、別に湖を突っ切ることで、監視の目をかいくぐるためじゃなかった。

 

『犯人はボートに乗らず、近くにあった大きな石ころ抱え上げ、ボートに投げつけた。…そう、犯人は“壊すために”ボートを借りたんだ』

 

『ボートは轟音を響かせて破壊された。大きな石も、ついでにというようにくくりつけた水道用のホースと共に湖の底へと沈んでいった』

 

 

――

 ACT.7

     ――

 

 

『ボート破壊の際に鳴り響いた音は、噴水広場で監視をしていた風切、沼野、そしてついでのように来ていた俺、未だ天体観測を諦めずグラウンドに佇んでいた雨竜の耳にまで届いていた』

 

『その不自然な音を聞きつけた俺達4人は、“ペンタ湖へ”と急いで足を運んだんだ』

 

『犯人の狙いは、“コレ”だった』

 

『ただ闇雲にボートを破壊したのでは無く、音を響かせることで、見張りを行っていた風切と沼野をペンタ湖へと呼び寄せ…噴水広場を“がら空き”にするために、ボートを破壊したんだ』

 

『俺達がペンタ湖に居たのはたった数分程度だったけど、その“数分間”でも噴水広場が空いていれば、犯人にとって好都合だったんだ』

 

『何故なら…犯人には、俊足を超える“足”があった。常人なら10分程度はかかる、炊事場からログハウスエリアまでの距離を、たった数分で走りきる“自信”が、犯人の足には合った』

 

『単純な話、俺達がペンタ湖で音の原因を捜索している一瞬の隙に、犯人は炊事場からログハウスまでの間を“走り抜けた”んだ』

 

『……無事にログハウスエリアまで走り抜けた犯人は、泥だらけの靴をスペアの靴に取り替え、何事も無かったかのように朝を迎えた』

 

『そして――いつも通りの自分のままで、死体発見のアナウンスを聞き、古家が呼びかけに応じてやってきたかのようにして、俺達全員を欺いたんだ』

 

 

 

 

 

 

「そうなんだろう……!“陽炎坂…天翔”…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――終わった。

 

 

 ――おびただしい数の言葉を口にし、事件の全てを言い終えた

 

 

 ――だのに不思議と疲れは無く。

 

 

 ――あるのは

 

 

 ――とても俺1人では抱えきれないような…“哀しみ”だった

 

 

 

「……そこまで言われちゃあ…タイムアップ…だな…俺から言えることはもう何もねぇ…」

 

 

 燃え尽きたように、やりきったように微笑み…陽炎坂は、静かに沈む。その笑みからは、“やっと終わった”“これで俺はもうおしまいだ”…そんな諦観があった。

 

 

「認めてやるよ…俺の罪を、朝衣を殺した…罪を、な…」

 

 

 だけどもう1つ、“ありがとう”…そんな一言が、その笑みには含まれているような気がした。

 

 

「陽炎、坂……」

 

 

 誰も声を上げない、いや上げることが出来ない。何故なら、今この場に存在しているのは、すすり泣き、唇を噛みしめ、何もかもから目を背けようと俯いていたから。

 

 

「…なんだぁ?この湿気た空気は…。でめぇらは勝ったんだぜ?もう少し喜びを分かち合ったらどうだ?」

 

 

 そんななかで、天に浮かぶ太陽の如く、場違いなくらいな笑顔を見せる陽炎坂が1人。しかし彼の言葉は、誰も声を発さない裁判上で、空しく響く。誰も彼に応答する者は、存在しない。

 

 

「だけど、まだ勝利が確定したわけじゃねぇだろ?。てめぇらには、最後の仕事が、“投票タイム”が、残ってるんだからな…………――モノパン!!!」

 

 

 …忘れていたわけじゃ無かった。だけど、思い出したくも無かった。友が友を殺す、残酷で、心知らずな…最低最悪な規則のことを。そして同時に、その惨たらしい規則を、自分から促すように言う陽炎坂の真意も、理解することが出来なかった。

 

 

「呼ばれて飛び出てジャンジャカジャーン!!モノパン参上していたけど、参上で~ス!!」

 

 

 その一言で、ヤツは、モノパンは“やっと終わりましたカ”というように、小さな腰を上げる。俺達の全てを嘲笑うかのように、何もかもをぶち壊すように、言葉は落とされた。

 

 

「…ではでは、お言葉に預かり…それでは緊張の投票タイ~ムといきましょウ!」

 

 

 モノパンの言葉を合図に…俺達の手元の台に並べられた、俺達全員の名が記されたスイッチが光り出す…。字面だけで、想像すらできなかった“投票タイム”。それをいざ、目の前に差し出された今、それがどれほど重い“時間”なのかが、よく分かった。

 

 

「ではでは、キミタチはお手元のスイッチを押して投票して下さイ」

 

 

 数人の生徒が、答えは既に決まっていたようにスイッチを次々と押していく。隣の水無月も、迷い無く、クロのスイッチを押していく。

 

 

「ああ~念のために行っておきますけド……必ず誰かに投票してくださいネ?……もし投票しなければ……くぷぷのぷ~~」

 

 

 そして俺も、他の生徒達と同じように、淡々と…犯人の名が記されたスイッチに、手を置いていく。

 

 

「投票の結果、クロとなるのは誰カ!?その答えは正解なのか不正解なのカー!?くぷぷぷぷぷっ!ドッキドキのワックワクですよネっ!!」

 

 

 ――俺は軽く力を入れる

 

 

 ――スイッチからは“ポチッ”という音が鳴る

 

 

 ――とても小さな音だった

 

 

 ――でも

 

 

 ――やけに耳に残る、小さな音だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       【〉VOTE〈】

 

 

  /カゲロウザカ/ カゲロウザカ/ カゲロウザカ/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       【学級裁判】

 

 

        【閉廷】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生き残りメンバー:残り15人』

 

 

 

 

 

【超高校級の特待生】⇒【超高校級の不幸?】折木 公平(おれき こうへい)

 

【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)

 

【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)

 

【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

 

【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)

 

【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)

 

【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)

 

【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)

 

【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

 

【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)

 

【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)

 

【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)

 

【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)

 

【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)

 

【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)

 

 

 

 

 

『死亡者:計1人』

 

 

 

【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)

 

 




どうもこんにちは。
水鳥ばんちょです。長かった一章がやっと終わりました。
感想頂ければ、モチベーションになったりします。





↓以下コラム



タイトル由来のコーナー:『イキル。シヌ。イキル』 

 元ネタは『生きる。死ぬ。』という哲学本から。加えて、原作の第一章『イキキル』の風味を持たせたサブタイトルです。1番初めの“イキル”は『16人の生徒達』、“シヌ”は『今回の被害者とクロ』、最後の“イキル”は『生き残った生徒達』を表わします。


 こんな風に、それぞれのサブタイトルにも元ネタは必ず存在します。元ネタを調べると、ネタバレに近い物も存在するので、出来れば全て終わってから元ネタを調べることをオススメします。
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