ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~ 作:水鳥ばんちょ
プロローグ -1-
プロローグ Hallo.Underworld!!
【???】
・・・・・・違和感を覚えたのはすぐだった。頭を包み込む枕の感触、体に覆い被さる毛布の暖かさ、背中に広がる柔らかな弾力、鼻をくすぐる木の香り。どれも俺には身に覚えの無い感覚だった。
「ッ!!」
すぐに俺は目を開き、身を起こす。そしてゆっくりと……恐れているかのように首を回し、じっくり周りを見渡した。
「ここは……?」
木製の壁に床、天井。数個のドアに大きな窓、そして数種類の家具。すべて初めてお目見えする物ばかりで、少し呆けてしまう。
俺はそんな寝ぼけ頭を振り払い、落ち着いて状況の整理を始めた。
「……確か俺は、希望ヶ峰学園の校門前に居て、その校門を抜けて……?」
それから急なめまいに襲われて、倒れた所までは覚えている。そして目を覚ますとベッドの中……。
「誰かが運んでくれたのか?ということは、ここは保健室……?」
それにしては、あきらかに保健室という雰囲気では無い。なんとなくだが、“誰かのために用意した個室”と言った方が近いように感じた。
もう少し部屋について知りたかった俺は、ベッドから降りて、部屋の中を探索してみることにした。
「ここは……トイレと浴室か?」
俺が寝ていたベッドの対面にあった2つのドア。開けて確認して見た結果、ベッド側から見て、左がシャワールームで右がトイレらしい。
「こっちは……窓か」
ベッドの左側の窓は格子状に仕切り分けされており正方形のガラスが規則的に並んでいる。俺は、なんとなくガラス越しに外の景色を見てみる……。
「……なっ!?」
俺は、窓に両手を貼り付け、顔をガラスに近づける。うっすらと反射する自分の顔を通して、俺は目の前の光景に驚きを表した。
「も、森!?」
森、森、森。ガラスという絵画に敷き詰められた大量の木が俺の目に飛び込んできた。手を伸ばせば木の1本に触れられるほど、その距離も近かった。
そしてこの景色と呼べない景色は、俺を混乱させる種となった。
「確か希望ヶ峰学園は、都会のど真ん中に建っていたはず……?こんな大自然、あり得るわけが無い……!いや、もしかして希望ヶ峰学園の中は密林で満たされているとか…いや、そもそもここは希望ヶ峰学園なのか……?」
次々と湧いて出てくる疑問の数々に俺の頭は破裂寸前になる。考えるだけでは解決出来ないにもかかわらず、“何でだ?”“何でだ?”と俺はブツブツと疑問詞を並べていく。
ドンッドンッ!!
……そんな考えに没頭していたからなのだろう。俺は後ろから響いた音。もう少し正確に言うと、ベッドの右側……つまり玄関と思われる扉から響いたノック音に俺はビクリと体を震わせた。
「こーんにーちはーー!!誰かいますかーー??」
ノックの音から数秒後。甲高い、女性と思われる声が部屋全体に響き渡った。俺は驚きすぎてほんの一瞬固まってしまったが、すぐに脳の活動を再開させ、落ち着いて、返事をしようとした……。
したのだが……。
「とりあえず、失礼しまーーーす!」
そんな俺の一瞬の努力を台無しにするかのように、ドアは開け放たれた。
「ああああ!!やっぱり居たーーー! 最後の生存者はっけーーん!!」
目を見開いて固まった俺に指を差し、その場でぴょんぴょんと跳びはねる小さな少女。白黒のゴスロリに加えてボリュームのある長い髪、全体的にフワフワとした印象の子である。
「いやぁ やっぱり気配感じたんだよねぇ もうビンッ!ビンッ!てさぁ」
「なんやなんや?おっ!ほんまにおるやんけ」
「ちょっと君たちねぇ……いきなり人の部屋に侵入するのはマナー違反じゃ無いかねぇ?」
少女の後ろから偉丈夫と言った言葉が似合うような大柄な男がズカズカと部屋に押し入り、その横からは暗い雰囲気を持った小柄な少年が顔を出してきた。
「だ、誰なんだ?お前達は・・・・・・」
もちろんここには俺以外の人間が居ることはある程度予測はしていた……。しかし、人には許容量というものがある。いきなり初対面の人間が…しかも見た目的に中々のゲテモノな人間達が押しかけきたのであれば…いくらの俺でも焦りを見せてしまう。
「ん?あっごめんね!久しぶりに勘が当たったからうれしくなっちゃって!」
そんな固まった俺の状態を察したのか、少女は申し訳なさそうな顔で両手を合わせた。
「……ほら、鮫島君も」
「悪かったなー」ホジホシ゛
「驚くほど適当だねぇ!?」
鼻をほじりながら誠意の無い謝罪を鮫島と呼ばれた男は言い放ち、小柄な男がそれにツッコミを入れた。
部屋に入り込んできたと思ったら、今度……いきなり漫才紛いなことをして、何なんだコイツらは?
「えとえと、まずは自己紹介からだね!」
話の流れを変えるように、少女は俺へと言葉を投げかけた。
「まずはわたしから!えーコホン、初めまして!”水無月カルタ(みなづき かるた)”で~す!【超高校級のチェスプレイヤー】やってま~す!!」
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【超高校級のチェスプレイヤー】 水無月 カルタ(みなづき かるた)
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心底楽しそうな笑みを浮かべてそう少女は名乗った。俺はその聞き覚えのある名前と…そして”超高校級”という言葉に驚きを表わした。
「水無月……?もしかして、あの日本最強のチェスプレイヤーと呼ばれる、あの水無月か!?それに…超高校級って…」
「ふっふっふっ~そうなのだよ少年、“あの”水無月カルタちゃんだぞ~。テレビの向こう側でしか見られなかった存在が今、君の目の前に!!!さぁ、サインをねだるなら今だけだよ!」
「ハッ!!日本最強?たかが1つの御国の大将になっただけやないか、ダッサ」
挑発するように鮫島と呼ばれたは鼻を鳴らした。その反応に水無月は”むむむっ!”と不服そうに、再び頬を膨らませ抗議の表情を出した……。
「ふ~んだ、カルタが本気出したら世界最強なんてスグだも~ん。後2年もすれば世界ランキングを全部水無月の名前で埋め尽くしちゃうも~ん」
「……さすがにそれは不可能じゃないか……?」
ジョークなのか本気なのかイマイチ分かりかねた発言をきっかけに”やっぱりアホまるだしやな””アホって言う方がドアホだよーだ!”と2人は口げんかを始めてしまった……。
「まーまー2人とも少し落ち着いて。ココ人の部屋だからねぇ…それに、だいぶこの子も混乱してるみたいだから…一旦整理させてあげるんだよねぇ」
「あっ!!そうだよね!!もう脳が詰んだ後のプレイヤーみたいに呆けちゃってるもんね!!」
ワイシャツを着た小柄な男が、特徴的な語尾を添えた諫めの言葉と共に2人の間に入る。そしてこの意味の分からない状況への整理を申し出てくれた…正直、かなり助かる。
「……さっき言っていた、超高校級…。てことは…水無月以外の…お前達も希望ヶ峰学園の?」
「せやでー」
「イグザクトリぃ!!」
「第77期生の生徒なんだよねぇ…まぁ…わかるよ。あたしも最初に目覚めたときには…いきなり同期が目の前にいるもんだからねぇ…そりゃあ面くらっちゃうんだよねぇ」
俺は自分と机を並べる予定の、かの超高校級の生徒が目の前に現れたことに、とんでもない緊張感を持ってしまう。タダでさえ辛気くさい表情が、さらに強ばるのを感じた。
「あはは、別に変に気負わなくても大丈夫だよ。カルタ達結構頭すっからかんって感じで接するつもりだから、君も存分にネジを飛ばしていこーー、おーー!!」
そ、そうなのだろうか。まあいきなり、パーソナルスペースらしき場所にズカズカと踏み入れられてる訳だし……ここは同じく頭を非常識に切り替えていくべきなの…か?
「あ、いや、そこは考え込まなくても、普通に接してくれれば良いからねぇ…」
「…そ、そうか…」
どうやら慣れないことはしなくて良いらしい…少し安心する。
「……そういえば、今さっきお前ら”目が覚めた”って言っていたよな?それって…」
「ああ~…まぁ話してもええんやけど…まずは…」
「そんな話は後々!!今は名刺交換の時間!!お互いの身の上を知っておかなきゃテンポ悪くなっちゃうしね!!ドンドン自己紹介、行ってみよーーー!!」
そんな疑問は後回しと、水無月は言葉を遮り、無理矢理盆を回していく……。
ふむ、確かに…まずはお互いの名前を把握しとかなければな…。と、俺は妙に納得しながら、まだ名前の知らない2人の男子生徒に目を向けた。
「ああ、あたしの番で良いのかねぇ?じゃあ、お言葉に甘えて。あたしは【超高校級のオカルトマニア】"古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)"。ソッチ系の話があったら、是非とも聞かせてほしいんだよねぇ」
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【超高校級のオカルトマニア】 古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)
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片方だけ前髪を長く伸ばした、白いYシャツの男子生徒は、どうやら古家というらしい。だけど…。“オカルトマニア”……?俺はあまり馴染み無い単語に対し頭をひねらせた。
「ええとね、すご~く幽霊に詳しい人ってことで良いと思うよ!」
何のことなのか、さっぱり理解できていない思案顔を見て水無月は、察したように補足を入れてくれる。
「ん~何かざっくりとしすぎなんだよねぇ……幽霊だけじゃ無くて、オーパーツとか、UFOとか他にもいろいろ----」
「あ~あ~なるほどな~他にもオパンツとか、カップ焼きそばとかに詳しいってことやな?完璧に理解したで~」
「微塵も理解してないんだよねぇ!?後者に至っては商品名だし!!」
もの凄くおとぼけた発言を繰り返す紫ジャンパーの大柄な男。古家もそんな彼の適当な発言にツッコミ入れるが…それを完全に無視し”最後はウチやな”と一言間を置く。
「ウチは【超高校級のパイロット】“鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)”っちゅうんや、まあよろしく頼むわ」
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【超高校級のパイロット】 鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)
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「パ、パイロット……?飛行機の操縦をしたりするあの……?」
”せやでー”と鮫島はさも当然の如く首肯する。あっけらかんとしたその態度と、説明不足甚だしい言葉の連続に俺は酷く困惑してしまう。
「あ~鮫島君・・・・・・多分ちょ~と説明不足だと思うねぇ?」
「ん?ああそうやったな、すまん」
「「「「……」」」」
「ええ!?そこはもう少し詳しく説明するところだよねぇ!?歳はいくつーだとか、どうやってパイロットになったーとか!!」
「ん?ああもう自己紹介終わったっちゅうわけやなかったんやな」
「なんというマイペースぶり…」
「あはは~おもしろ~い」
驚愕、戦慄、笑顔、三者三様の反応をする俺たちを余所に……鮫島は頭を掻きながら”仕方あらへんな~”と本当に面倒くさそうに続けていく。
……その適当さに少しイラッとしてしまったのは内緒だ。
「じゃあお題に合わせるか…いくつでパイロットになったーとかでええか?」
「……じゃあ、それで頼む」
だいぶざっくりまとめたな。終始続けていくマイペースさに、もう鮫島というのはこういうヤツだという認識を深めていった。
「ウチはな中学校卒業してすぐに渡米して、好きなよ~~に勉学に励んどったんやけど……ど~やらウチ天才だったらしくてな?1年くらいで航空免許取得してもうたんや」
「好きなよーにやって…1年で免許を取得。それだけでもう規格外なんだよねぇ」
「当時のアメリカでは結構話題になってたんだよ~?もう鮫島君の顔と名前を見ない日は無かったくらい!!」
「たかが15、6の男が飛行機に乗れるよーなっただけやのに。もううざったいくらい報道陣共が押しかけきよったわ、ほんま堪忍して欲しいわー。…うざすぎて、最終的にゴリラの変顔しながら答えとってやったわ」
「確かその所為で、飛行機に乗れるゴリラって新聞に書かれてなかったっけ?」
「へぇ…やるやん」
「どこが!?」
「…まあ、ある意味天才だな……」
最後の余談は置いておくとして…それでもこのおちゃらけた人柄の裏にこれほどの経歴が隠されていたとは。人を見かけによらないとは、このことだな……、と、失礼ながらそう心の中でつぶやいた。
「そんで、免許つこうてアメリカの空でブイブイ言わせとったら、希望ヶ峰のスカウトマンに捕まってもうてな?その才能を日本でもウンタラカンタラって言いくるめられて……今ココにおるってことや、どや?満足か?」
「何で威圧気味なんだよねぇ…」
「でもこれで、想像はつかなくても、理解は出来たよね!!」
水無月の言うとおり…その計り知れない行動力と努力の一端を聞かされ、実際に俺はまったく別世界の住民と話しているような気分になっていた……。
おそらく残りの2人も鮫島に比肩する実績があるのだろう……そう思うと、なんとなく肩身が狭くなっていくような、そんな気分になってしまう。肩だけに……いや、わかりにくいか…。
「さあさあ!最後はお待ちかねの君のターンだよユー!!さっさと自己紹介しちゃいなYO!!」
水無月は何故かラッパーのように親指、人差し指、中指の3本指を此方へ向ける。
ふむ……とうとう俺の自己紹介の番が来てしまった……。たった3人に対してなのに、今までのやってきた自己紹介の中で1番と言って良いほど緊張してしまっている……。相手はあの超高校級の生徒達だ。胸を張れる実績や才能を持っていない俺を…コイツらは受け入れてくれるだろうか…?
「……俺は折木公平、希望ヶ峰学園には”特待生”として入学することになっている……みんなよろしく」
「よろしく(やで)(ねぇ)(!)」
…と3人は俺のぎこちない自己紹介に対し、それぞれの個性の出た返事を返していく。その陽気な様子から…どうやら、心配は無用であったようだ。
無事に自己紹介を終えたこと、そして変に突き放されない事に…多少の安心感を覚えた。
すると、水無月が”そ・れ・に・し・て・も!!”と言葉を挟み、続けていった……。
「折木くんって、特待生さんだったんだね!すごいね!!……何がすごいか全然わかんないけど」
「へぇ、ずいぶんけったいな身分で入学したんやなー、見たことも聞いたことも食ったこともないでー」
「食うことは流石に無理だと思うけど…………確かに、希望ヶ峰に特待生制度なんてあったんだねぇ、知らなかったんだよねぇ」
3人は同時にそれぞれの言葉で俺の肩書きについて言及していく……。当然と言えば当然の疑問であるのだが、実際俺すらも自分の才能の全容がつかめていないのが現状だ。もし才能について質問されても、俺は返せる自信が無い。
「学園からの通知にただそう書いてあっただけで、俺自身もよく分かっていないままココに入学してしまったんだ……すまない。俺は3人の思うほど大した才能を持っていないんだ……」
「フフフ……少年よ、そう自分を卑下するモノでも謝るモノでもないぞ~。ここに居る時点で、アナタはカルタ達のクラスメイト!!仲間仲間。マイベストフレンドだよ!!」
「せやで~、ウチらはもうマブで、ズブズブの関係っちゅうわけや」
「さすがにそれは言い過ぎじゃないか……?」
何の才能も無い…そんな心の内を溢すと、3人は慰めるような言葉をくれた。ここにいるだけでクラスメイト、その言葉に少し心のおもりが取れたようで、何となく楽な気持ちになった気分だった。
そう胸の内で小さな喜びに浸っていると…古家が”少~し話を変えさせてもらっても良いかねぇ?”と横から言葉を差し込んできた……。
「え~と、折木くんに聞きたいことがあるんだけどねぇ?ここにどうやって来たのか覚えてるかねぇ?」
俺は少し考え込み、そして首を横に振る。
「いや……まったく覚えは無い……。希望ヶ峰学園の校門を通った直後に気絶して、気づいたらココで寝ていた……」
「あ!やっぱりそうなんだ!!実は、カルタ達も同じ状況っぽいんだよね~」
”そうなのか!?”と俺は驚く中で、同時に先ほど古家が口走っていた”最初に目が覚めた時”、という言葉を思い出した。そこから導き出されるのは…俺達は4人とも同じ境遇に陥っている…そう導き出せる。
俺は確認するように鮫島と古家へ顔を向けた……案の上、2人とも難しい顔をしながら頷き、肯定した。
「ん~こりゃもう少し詳しく説明した方が良さそうだねぇ?」
「そうだね!!まずは目覚めたココがどこなのか?からだね!そうと決まればレッツゴー!!」
拳を突き上げながら子供のように外へと駆け出す水無月。彼女に続いて部屋の鮫島と古家……2人がこの部ドアを潜っていく。
その背中を見て、改めて俺はクラスメイトに、仲間と出会えたことを実感した。遅まきながらも、孤独では無かったという安堵を心の中で確かに感じ取った。
まぁ周りは超高校級だらけという、後ろめたさは何となくあるが…。
「おーい水無月、あんま急ぐと転んでまうで~~…………――――あっ転んだ」
「落ち着きの”お”の字も見られないんだよねぇ…」
訂正しよう……やっぱりまだ、少し不安かもしれない。
【ログハウスエリア:中央広場】
部屋を出た俺を待っていたのは、都会の一等地と言うにはほど遠い、豊かな大自然であった。
うっそうと茂る森に、雲一つ無い青空。どこからか聞こえる鳥のさえずる声。しかし、俺の目の前に広がるのは森の風景では無く、綺麗に整地された大地であった。森が円の形にくりぬかれ、広場のようになっており、その広場を囲うようにしてログハウスがいくつも建ち並んでいる。そして俺が立つ場所の対角線上……ちょうどログハウスのない部分には少し広めの長い道のりが続いていた。
さきほどまで、“ここは希望ヶ峰学園なのか?”と自問していた俺は、外に出た途端、その疑問は確信へと変わっていくのが分かった。
呆然と口を開けた俺は、空を見上げながら、3人に続き、広場の真ん中へと移動していった。
「…………信じられない……」
都会の気配すらも感じない、目の前に広がる突飛な現状。思わずこぼれた言葉に、水無月達は同調するように頷き出した。
「うんうん最初はそんなもんだよね~、カルタだって今の折木くんみたいに数分くらいボーッとしちゃってたし」
「な~にがボーッとしてたや、初対面のウチにいきなり『鬼ごっこしようよ~今メンバー足りなくて困ってたんだよ~』ってほざいてきたんは、どこのどいつやったっけ~?ん~?」
「そう言っておきながら楽しそーうに鬼ごっこに興じてたのはどこの誰だったかねぇ?」
「古家くんも混ざってたから、どっこいどっこいだね!!」
希望ヶ峰学園でも無い訳の分からない場所に来てしまったという現実の中、こんな時でものんきに話す3人に、俺は困惑してしまった。
「はぁ……とりあえず、今の状況をもう少し詳しく聞かせてくれないか?」
何よりも今は情報が欲しい。そう思った俺は、先に目覚めていたと思われる3人に疑問を投げてみた。
「ええでー、そうやな……まずは手堅くこの場所についてからと言いたいんやけど……残念ながら現在調査中や、他の連中の探索結果を元にしてこれから話していくことになっとる」
「ち・な・み・に、カルタ達はこの広場を見て回ってるんだよ!」
めずらしく真面目な声色で説明をする鮫島を傍らに、水無月は何故かエッヘンと胸を張る。
「ふむ……なるほど、3人、か。だからお前以外の人の気配を感じないのか……ん?待て……その“他の連中”っていうのは俺達と同じ希望ヶ峰学園の生徒か?」
「うん!!そうだよ!」
「ちなみに……人数はあんたを含めて16人、今年入学予定だった“77期生”の新入生なんだよねぇ」
16人……か。この広場に並ぶ16棟のログハウスと照らし合わせてみると、どうやらその数は正確みたいだ。
それに、古家達の話を踏まえてみると、俺を除外した15人は既に目を覚ましていて、この場所について調査が始まっている…ということか。…何かだいぶ出遅れてしまった気分だな。
「しかもやで?み~んな入学式当日の時の記憶は無し、アホみたいな話やで・・・・・・あれ?何でウチここにいるんやったけ?」
「その記憶は流石に忘れて欲しくなかったんだよねぇ…」
所在不明の謎の庭園、16人の希望ヶ峰学園の生徒、そして集団記憶喪失……SF小説でしか見たことの無い展開だ。だけど、今目の前にあるこの現実は小説並みに奇だったらしい。頭の痛くなる話だ……。
そう考えると、俺以外の連中、冷静すぎないか?こんな意味不明な状況なのに、不穏な表情一つしていない。むしろ楽しんでいるように見える。
「……じゃあ、このログハウスエリアを調査してみて、何か分かったこととかはあるのか?」
「ぜ~んぜん、部屋の中を隅々まで見てみたけど・・・・・・結構居心地が良いってことぐらいで、何にも収穫無し!」
「せやな、ウチもあまりに心地よすぎて1時間くらい寝てたくらいやからな!」
「調査初めて早々に寝始めたのには、本当にびっくりしたんだよねぇ……」
気苦労が見え隠れする古家に同情しつつ、俺は他に聞くことが無いか頭の中で考えを整理していく。しかし…。
「はぁ、色々と聞きたいことはあるが、如何せん情報量が多すぎる。うまく言葉がまとまらん……」
「まあまあ、そういうのは見て触って感じて、それからまとまってくるものだから、後ででも大丈夫!大丈夫!!とりあえずこの広場についてはこれ位にして……みんなに折木くんのこと紹介しなくっちゃ!」
「それもそうやな、ここで煮詰まってもしゃー無しやし。それに、あんさんの事も報告せななあかんしな」
「丁度、皆あちこちに散らばってるし。顔見せついでに施設案内してみるのはアリなんだよねぇ」
そう古家達が同意を示すと…何故かキラキラとした目をこちらに向け微笑む水無月・・・・・・するといきなり俺の腕を掴みその小柄な体格からは予想できないほどの力で俺を引っ張り始めた。
それを見て、鮫島と古家は”あー……”と何か諦めたような、もしくは察したように表情になっていた。
「それじゃあ折木くん!早速行こっか!」
「な、何っ!?今すぐにか!?」
「思い立ったらナントカだよ!折木くん!!ゴーゴーゴー!!!」
いきなりのことに反応が遅れた俺は、されるがままに引っ張られ、綺麗に舗装された長い道のりへ無理矢理足を向けさせられる。
「気いつけてなー」
「グッドラックなんだよねぇー」
おそろしく気持ちが篭もっていない応援を背に、落ち着きの無い足取りのまま、ログハウスエリアを後にしていった。
【舗道(ログハウスエリア~???)】
「はぁ……まだ腕が痛むな……」
「ふんふん~ふ~ん♪」
ぼそりと愚痴る俺を後ろに従え、鼻歌を歌い、スキップをしながら俺を導いていく水無月。
さっきまで腕をロックされていた身分だった俺は、幾度かの懸命な交渉の上で、この形に落ち着いてくれた。そう治めてくれたのは、とても嬉しいのだが……何故か“じゃあ公平くんって読んで良い?”とお願いされた。別に呼ばれ慣れていない訳ではなかったので、とりあえずOKは出しておいたが…。微妙に謎だ
そんな考えの読めない楽しげな彼女の後ろで、俺は念入りに周りを観察していた。
広場を出て数分経っても途切れることを知らないほどおびただしい、道の両脇に立ち並ぶ木々。緑は目に優しい色、とはよく聞くが、その存在量に俺の目は逆に疲弊気味である。
「うぉ…」
周りをザッと見回していた俺は、急に立ち止まってしまっていた水無月に軽くぶつかってしまう。どうしたものかと彼女を横から見てみると…手を望遠鏡代わりにしながら遠くを見つめていた。
「……どうした?」
「ん~…あれはもしかして……」
何かを見つけたらしい彼女は静かにそうつぶやき、俺の袖をクイクイッと引っ張る。
「……公平くん、カルタの側から離れないようにね……”轢かれちゃう”から」
「……轢かれる?」
車がやって来るような表現に疑問を浮かべる俺は、指示通りに水無月の隣に立ち、道の奥を目を凝らして見てみる……すると何か、小さな黒い影がこちらに猛スピードで向かって来ていることが分かった。
「ウォォオォォォォォオオォ!!!!」
人影は雄叫びを上げながら俺たちに突っ込んでくる。”何だあれは…?”と、不意にこぼす。あとほんの数秒で俺たちに接触するだろうが、その黒い影はスピードを緩める気配も無かった。
”このままでは衝突してしまう……”そんな不安を感じ、俺は少し後ずさりしてしまう。すると、隣の水無月は大きく息を吸い込み、何か大声を上げる準備のような事をしていた。そして…。
「陽炎坂くん!!!ストォォーーーーップ!!」
水無月は両手を前に出し、黒い影の雄叫びに負けない声量で待ったを掛けた。
その言葉が通じたのか、キキィィィィ!!と人影は俺たちに目の前で火花を散らしながら急ブレーキをかけ……止まった。
「道の!真ん中に!突っ立って!居ると!危ない!っぜええええええ!!」
そこに立っていたのは、小学生かと見間違うほどに小柄な少年であった。白く逆立った髪に赤い目……ウサギを彷彿とさせるような容姿。特徴的に特徴的を重ねたような容姿であったが、その全ての何よりも……めちゃめちゃにうるさかった。
「ハロハロ~さっきぶりだねっ!陽炎坂くん!」
そんな騒音の塊のようなやつに、水無月は物怖じせず気軽な態度で話しかける。そしてその少年のモノと思わしき名前を聞いた俺は、”陽炎坂(かげろうざか)……どこかで聞いたことがあるような?”そう考え込んだ。
「水無月か!隣の!やつは!見たこと!無い気が!!するんだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
疲れを知らないかの如く、黒いタンクトップを着た陽炎坂という男は叫ぶ。叫ぶったら叫ぶ。正直な話、ミスター適当とも言えるあの鮫島よりも、絡みづらい……。それでも、名前を聞かれた気がするので、取りあえず自己紹介を始めてみる。
「……俺は折木公平。初対面だから、見たこと無いという感覚は正しいと思う」
「そうか!なら!良かった!っぜぇぇぇぇぇ!!」
単発を入れず、納得したように大げさな身振りをしながら叫ぶ。やっぱりうるさい。
「俺様は!【超高校級の陸上部】!!“陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)”!俺様の走りを!止められる!!やつは!!誰も!!いないぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
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【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)
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陽炎坂天翔…その特徴的なフルネームを聞き、俺は思い出したように手を叩いた。
「陽炎坂……そうか思い出したぞ!この前の高体連で日本記録を更新していた……」
「そうなんだよ!彼こそ次期オリンピック陸上競技大会のホープ、陽炎坂天翔くんだよ!ちゃっちゃらー」
あまりの勢いに驚くことに遅れた俺は、突然現れたビッグネームに目を見開いた。
「俺様は!!ただ!走りたいから!!走り続けてる!!だけだ!結果なんて!!そんなもん!!興味!!!ないんだぜぇぇぇぇぇぇ!!!」
「どう!公平君!!うるさいでしょ!!」
「……お前も真似して声を張り上げなくても良いんだぞ」
冷静にツッコミを入れると、”もーノリ悪いなー”と頬を膨らませながらふてくされる水無月。こちらとしては陽炎坂の真似は声に異常をきたすので遠慮願いたい……。
「それよりも!!俺様は!!急いで!!いるんだ!!この足はもう!!止められねぇぇぇぇぇ!!」
破裂しそうなパイプのように震える陽炎坂は、突然高速で足踏みを始める……。
「どうしたの?広場の方に用事?」
「俺様は!今!!猛烈な!!尿意に!!!脅かされて!!いるんだぜぇぇぇぇ!!だから!!部屋に!一旦戻らなきゃ!!!いけないんだぜぇぇぇぇぇ!!」
どうやら、文字どおり破裂しそうなパイプを抑えるために部屋のトイレに駆け込もうとしているらしい……。生理的な話であればこの落ち着きの無さは仕方ない、ここで足止めするのは流石に悪い。
「そ、そうか引き留めて悪かった……間に合うと良いな」
「おう!!また!いつか!どこかで!!会おう!!だぜぇぇぇぇぇぇ!!!」
そう言うとすぐに俺たちに背を向け、おそらくトップスピードと思われる速度で陽炎坂はログハウス方面へと駆けていった。
……段々と薄れていく後ろ姿を見送ること数秒。
「いやーすごかったねーまさに日本のチーターだね」
「容姿はウサギにしか見えんが……そうだな……猪突猛進というのはああいうこと言うんだろうな……」
猪突猛進という言葉が優しく思える程に、何もかも振り切ったような男であった……。
「よし!それじゃあ気を取り直して先に進もっか!!みんなが君のことを心待ちにしているんだからね!!」
”……そのみんなに初めて会うのだから、待っているも何も無いのではないだろうか?”そんな空気の読めない疑問を持ちながら、再び俺たちは進路を戻し、歩き始めていった。
【噴水広場】
ログハウスエリアから続く舗道を抜けると、そこには西洋を思わせる大きな広場があった。四方にはベンチが4つほど設置してあり、真ん中には大きな噴水と噴出口と見られる壺を持つ人型のオブジェが配置されていた。
……なぜか体は人なのに顔は熊のような何かなのかは、気にしたら負けだと思っているので、一旦スルー。
そして、この広場を中心に4つの道が分岐しているらしく、それぞれの道の入り口に小さな看板が立てられていた。どうやら、この広場は中継地点のような役割を持つ場所らしい。
「うわーすっごく綺麗!!」
「……ん?待て水無月、お前ここに来るのは初めてなのか?」
「うん!そうだよ!カルタと鮫島君達はログハウス広場をずっと調査してたから、他の場所のことはちょっとよくわかんないんだよね!!」
舌を出し頭をさすりながら”えへへ~”と恥じらいを見せるように笑う。……だったら何故、率先して先導を無理矢理引き受けたのか。その杜撰な様子に対して、俺は顔を引きつらせる。
俺達はそのまま、4つの道の側に立てられている看板に近づいてみた。左から『ペンタ湖』、『野外炊事場』、『グラウンド』、『中央棟』と書かれており、それぞれの道の先にあるであろう目的地を示していた。
「あっ!!見て公平くん!!この『ペンタ湖』の所、『ボートありますよー』だって!!」
「ずいぶん適当な口調の看板だな……しかし……ふむ、少し気になるな・・・・・・」
根っからの都会っ子であった俺は、実はそういったアウトドアレジャーというモノに憧れを抱いていた節がある。
不本意な状況ではあるが、湖に行ってボート遊びを興じてみるの悪くない……。むしろ、良い気晴らしになるかもしれない。
俺がそんな小さな期待感に胸を膨らませていると…。
「……お取り込み中のところ悪いけど、少し良いかしら?」
凜とした、けれどもどこか優しく包み込んでくれるような声が俺たちの背中に響いた。不思議と背筋を伸ばし、俺はすぐに後ろを振り返った。
振り返った先に居たのは、鮮やかな黒の髪をストレートに垂らした麗人であった。右耳には鉛筆を挟み、クリーム色の制服の胸ポケットには付箋だらけの分厚い手帳が入っていた。
「あっ!式ちゃん!さっきぶり!」
まるで犬が飼い主に寄っていくかのように水無月は式と呼ばれる女子生徒に近づいていった。2人は”元気だった?”、”ええ、あなたほどでは無いけど元気だったわ”と軽く挨拶を交わしあう。そして……名も知らない女子生徒が、こちらに目を向ける。またピン、と背筋が伸びた。
「……ところで水無月さん?こちらの方はどちら様?」
「うん!紹介するね!!彼は折木公平君、特待生として希望ヶ峰学園に入学したんだって!!」
「…よろしく頼む」
紹介に預かった俺は、合わせるように頭を軽く下げた。
「ええこちらこそよろしく。それにしても……“特待生”……ね」
挨拶を返してくた彼女は、『特待生』という単語を聞いた途端、獲物を見つけたかのように目を細める。俺はその眼光に、妙な不安感を覚えた。
「それじゃあ次はこっちの番ね、私は【超高校級のジャーナリスト】“朝衣 式(あさい しき)”よ、折木くん……と、言ったわね、早速だけど少しお話を聞かせてもらってもよろしいかしら?」
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【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)
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そう言うと、朝衣は好奇心を瞳に宿らせながら、詰め寄ってきた。既に朝衣は胸ポケットからボールペンと手帳を取り出し、いつでも俺の話をメモできるような体制を取り始めていた。
いや……耳の鉛筆は使わないのか。
「希望ヶ峰学園へ才能が無くても入れる方法は、私が知っている中で2つあるわ……1つは【超高校級の幸運】として選ばれること、2つ目は【予備学科生】として入学すること……だけど、貴方はさっき【特待生】としてこの学園に入学した、そう言った。悔しい話、特待生制度なんて私は初めて聞いたわ……一体どうやって特待生として認められたのか、どんな条件をクリアしたのか是非とも詳細をーーーー」
グイグイと詰め寄る距離を縮ませ、まくし立てるかのように質問を放ち続ける朝衣。俺は彼女の勢いに圧倒され、驚きのままに後ずさりしてしまう。
「式ちゃん!ストップストーーップ!!」
そんな俺に助け船に乗ってやってきた水無月が、俺たちの間に立ち、朝衣を諫めた。
「ッハ!…………ごめんなさい。自分の知らないことが出てきたから、つい興奮してしまって……」
「もぉ~式ちゃんったら~。つい数時間前にも言ったじゃん。ジャーナリズムがうずくのは分かるけど、ちゃんと相手のことも考えなきゃダメだよ?って」
水無月に諭され、肩の力を抜きながらクールダウンする朝衣。綺麗な顔の彼女に詰め寄られたことはあまり経験が無かったために…俺は内心ホッとする。
「……すまないな、お前の質問に答えたいのは山々なんだが……あいにく俺自身も自分の立場についてはよく分かっていないんだ」
「いえ、此方こそごめんなさい……見苦しいところを見せてしまったわね」
「うんうん、雨降って地固まる…良きかな良きかな」
まだ雨も降ってすらいない状況だったが…満足げに頷く水無月を見て、どうでもいかと俺は少し顔をほころばせる……。
「……でも、もしも何か思い出したら、是非ともお話を聞かせてもらいえないかしら?きっと、何か力になれると思うの……」
「………ああ…分かった…思い出せたらな」
しかし彼女の好奇心は、止められてもなお、収まっていないようだった。水無月の忠告はあまり意味を為していないように思えた。
「そういえば……式ちゃん、調査の方はどうしたの?他のみんなと一緒じゃなかったの?」
「少し気になったことがあったから、今は単独で調べ物中なの……大丈夫よ、他の場所のことは大体把握しているから」
「……さすがジャーナリスト、仕事が早いな」
「フフッ……それほどでも無いわ、単にこんな未知の体験に心を躍らせてるだけ……」
朝衣は目を細めながら微笑み、手に持っていた手帳とボールペンを胸ポケットに仕舞う。だけど流石はジャーナリスト、ここに来て間もないはずなのに、人一倍、いや十倍優れた情報収集能力だ。俺なんて未だにログハウスの事しか知らないのに。
「引き留めてしまって悪かったわね……私は情報整理のために一度部屋に戻らせてもらうわ……だからココで一旦お別れね」
「ああ、そうだな」
「うん!またね式ちゃん!」
”また会いましょ、お二人さん”そう言い残し、朝衣はログハウスエリアへと続く道を、実に鮮やかな所作で歩き出す。まさにキャリーウーマンという雰囲気だ。それを、俺と水無月は手を振って見送った。
「よし!!それじゃあ公平くん!どの道に行くかもう決めた?」
見惚れるように道路を見続ける俺を、水無月が切り替えるようにパンと手を叩き目を覚まさせる。聞いたところ、どうやら水無月は俺に道の選択権を渡してくれているようだった。
「……そうだな。わかりやすいように、1番左の道から攻めていこう」
俺は個人的に気になっていた『ペンタ湖』へと続く道を選んだ。
「おー奇遇ですなーカルタもこっちに行きたいと思ってたんだーー!!よーし!公平くん!レッツラゴーーウ!!」
また楽しそうにハミングをしながら、俺を先導する水無月。俺は、その彼女の描く軌跡に従い、その歩みを進めていった……。
【ペンタ湖:船着き場】
「思ったよりも、広いんだな……」
道なりに進んでいく俺たちを待っていたのは、看板の示したとおり『ペンタ湖』という名の湖であった。その名前の通り、五角形の形をしており…そしてその大きさもボート遊泳をするには十分すぎるほどであった。
「そうだね~、カルタの予想の10倍くらいは大きいかな?」
…一体水無月はどれほどの規模を想定していたのだろうか…これの10分の1と言ったらもう水たまりしか該当しないのだが…………案外、物事に対してあまり期待しないタイプなのだろうか?
「ん?あれは……」
湖の周辺をよく見てみると、湖の岸辺に船着き場が設置されており、そこに何隻かの船が取り付けられていることがわかった。……そして、その船着き場の上に2つの人影があることも視認でき、どちらも女子生徒のようだった。
1人はしゃがみ込み、もう1人は片方の女子を見ながらボーッとしているようにも見えた。
そう見つめていると、しゃがんでいた女子生徒は急に立ち上がり、隣の人物に話しかけ始めた。
「あ!今何かはねたような気がします!!魚です!!絶対魚ですよ!!」
「え~何も見えなかったけどな~~、見間違えだよきっと~」
「長門さんはずっと上を見てたから分からなかっただけですよ!ほらあそこ!よく見てください!」
”何も居ないよ~?”、”もっとよく見てください!”……そう言いながら2人は口論を始める。勢いよく話しかける方とのんびりとした感じで受け流す方……なんとも微妙な温度差が見えた。
そんな言葉のドッジボールを交わす2人に、隣に居た水無月は、朝衣の時と同じようにトテトテと歩み寄る。
「おろおろ?2人ともどうしたの?痴話喧嘩?」
「あっ!水無月さん!聞いてくださいよ!!さっき第1村人ならぬ第1生物を見つけたんです!!大発見ですよ!!」
「だから~~見間違えだって~」
水無月が話しかける2人は、お互いの主張を譲ろうとせず、長い平行線をたどっていた。もうここまでくると水掛け論である。
「……そんなに魚がいることが珍しいのか?」
俺は2人の会話を聞いて、先ほどから思っていた疑問を口にする。魚を見ただけであれだけはしゃぐよう、何かしら、興奮する理由があるのだろう。
「わっ!!びっくりしました!!えっとー……どなたですか?」
「わ~まだ人が居たんだね~、新入生~?」
最初に口を開いたやけに大げさな身振りをするショートポニーの女子生徒は、袴を着込み、現代からしてみれば時代錯誤な和の雰囲気を纏っていた。
次に口を開いた、のんびりとした口調でストレートロングの髪の毛をサラサラと揺らす女子生徒で、ウェットスーツに半被を着込む変わった服装をしている。さらに言うと、身長が非常に高く、目視で2m近くあるように見えた。初めて、首が痛くなるくらい女性を見上げたかもしれない。
「驚かせて悪かった……俺は折木公平、77期生の新入生だ」
「クラスメイトさんでしたか!ならこちらも名乗らせていただきます!」
”おっほんッ!”と袴を着込んだ女子生徒は咳払いをする。
「私は【超高校級の華道家】“小早川 梓葉(こばやかわ あずは)”と申します。どうぞお見知りおきお!!」
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【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)
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「続きまして~、え~とわたしは【超高校級のダイバー】“長門 凛音(ながと りんね)”で~す。よろしくね折木く~ん」
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【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)
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華道家にダイバー……なんだか異色の組み合わせって感じだな。だけどどちらも、掲示板に乗るほどのビッグネームだ。
小早川梓葉…かの華道の源流とも言える『小早川流』の正当後継者。彼女の作り出す花は、人々に活力を与えるらしい。
長門凛音…人よりも発達した硬い皮膚と強靱な肺で、人間の素潜り世界記録122メートルを軽々と更新した人外ダイバー。
水無月達や陽炎坂に続いて、若きプロフェッショナルが集っているとは…流石は希望ヶ峰学園。より自分の矮小さが身に染みてくる…。
「…どうしたの~?ぼ~っとして~」
「あっ、いや。何でも無い…。それにしても……2人はどうして魚について議論していたんだ?湖に魚がいることは普通では無いのか……?」
慌てたように取り繕う俺は、すぐに、先ほどの疑問をもう一度掘り返してみた。そしてその疑問が当然のように”あ~”と同調しだす2人。
「やっぱり最初はそう思うよね~わたし達も、自然には生物がつきものって思っちゃってたからね~」
少し含みを持たせたかのように語る長門の言葉に重ねて小早川が…さらに続けていく。
「はい!実はココにはどうやら生物が一匹も居ないっぽいんです!!はい!!」
「何!?」
「ええーーー!」
俺と水無月は同時に驚く………水無月もどうやら知らなかったらしい……。それはそれで驚きだが。
「だが……部屋を出たときには鳥の声を確かに聞いたぞ……」
「うんうん、カルタも同じ」
「でもさ~声はするけど全然姿見えないし~それっておかしいぞ~?って思ってさ~」
「一応森の中も探ってみたんですけど……不思議な事に虫一匹たりとも見つからなくて……いや虫は苦手なので、むしろいなくてほっとしたような気持ちはなきにしもあらずのような……」
「……しかしそれだと少しおかしくないか?ここはおそらく地球上のどこかしらにある場所のはずだ、なぜ生物が存在しない?」
2人の探索結果を聞いてなお、俺は納得できなかった。見たところ、森の木々は良く発育しているし、種類も多様に見える。これは相互作用的にも、生物がいなければ成り立たない事象のはずだ。
「そうそう、そうですよね!!それなのに……みんな居ないことを当たり前みたいに話して……」
「だって今はこんな状況だし~『こうゆう場所もあるんだな』くらいの気持ちで今は探索しとかない~と頭パンパンになっちゃうよ~」
「う゛っ……そ、それはイヤです!!勉学だけでも私の脳はいっぱいいっぱいなのに、これ以上成績が下がったら師匠に殺されてしまいます!!」
えらく楽観的な長門の言葉に小早川は慌てたように態度を翻す。そこまで必死に嫌がらなくても良いのではないだろうか……。そんなに成績がヤバいのだろうか…。
「もー梓葉ちゃんったら、オーバーだなー。そういう難しいことは、みんなが集まってから考えよ!ほら3人揃えばなんとやらって言うしね!!」
ふむ…まあ確かに、今はどうしてこうなっているのか?という根拠よりも前に、今はどういう状況なのか?という情報収集が重要だ……。答え合わせは情報を集めた後で、幾らでも出来るんだしな。
「……そうだな、生物がいないことは気になるが、今は探索に集中しよう」
「なにか見つけたら、ちゃんと頭に入れとくね~~」
「はい!今度こそ大発見をして見せますとも!!一度で良いから、生物に自分の名前を施してみたかったんです!!」
「え~それがもし~ゲンゴロウとかだったらどうするの~?アズハゲンゴロウとか呼ばれちゃうよ~?」
「えっ?……ゲン…ゲン……えと、それはどんな吾郎さん…ですか?」
「……ごめんね~、たとえが悪かったよ~」
「謝られてしまいました…!?」
…何だろうか個人的な見解ではあるが、今まで会ってきた超高校級の面々は…才能と引き換えに、何か大事なモノが欠落しているのだろうか…。いや、小早川の場合…うむ。この言葉は控えておいた方が良さそうな気がしてきた。
それよりも……あまり気合いを入れ過ぎない方が…見落としは少ないと思うのだが……。まあ、そんな注意なことは、何となく長門が挟んでくれそうな気がするので、今は言わないでおこう。
「よーし!じゃあ公平くん!一旦戻って、別の道に進もっか!!」
水無月の言葉を皮切りに、俺たちは軽く小早川と長門に手を振りつつ、元来た道を戻り始めていった。
今回出会った2人を合わせて、俺は7人の生徒と挨拶を済ませたことになる……あと8人……どんな超高校級の生徒が待っているのだろうか?
気づくと…今まで心の表面にあった居心地の悪さよりも、どんな人達がいるのだろうか…そんな…楽しみが上回っているように感じた。何となく、良い兆候だな…そう思えるようだった。
『生き残りメンバー:残り16人』
【超高校級の特待生】折木 公平(おれき こうへい)
【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)
【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)
【超高校級の???】???
【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)
【超高校級の???】???
【超高校級の???】???
【超高校級の???】???
【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)
【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)
【超高校級の???】???
【超高校級の???】???
【超高校級の???】???
【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)
【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)
【超高校級の???】???
どうもこんにちは。水鳥ばんちょです。書いていて思いました。長ぇ。