ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~   作:水鳥ばんちょ

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第三章『きっと君は素敵な何かで出来ている』
Chapter3 -(非)日常編- 11日目


 

 

 

 

 ――――登ってくるんだ!!早く!!!

 

 

 

 そこに居てはいけないと、せきたてるような声が降ってくる。

 

 

 

 ――――あともう少し!!!頑張れ!!

 

 

 

 だけど、その声は自分に向けてではなく…見覚えのある"誰か"に向けて発せられていた。"誰か"は、そんなことは分かっていると、泥だらけになりながら、小刻みに生えた雑草をかき分け、土の壁を這い上がっていく。

 

 

 

 ――――良かった…無事で本当に良かった…!!ここならもう安全だ…!

 

 

 

 壁を登り切った"誰か"を見ながら、声の主は心底安堵したように表情を緩ませた。反するように、"誰か"は表情を酷く歪ませ、膝をついていた。

 

 

 

 ――――おい……見ろよ…町が……

 

 

 

 どうやらここは、山の上のようだった。声の主とは違う別の誰かが……そんな平地とは違う、少し小高い場所で下を見下ろしていた。それはまるで信じられないモノをみるような瞳であった。

 

 

 

 

 ――――ああ…何で…こんなことに………

 

 

 

 眼下に広がっていたのは…"海"だった。

 

 

 黒く濁った海が、地上にあったはずの、全てを覆い尽くしていた。残っているのは、山の上に逃げ込んだ、人々だけ。

 

 

 きっとこの人々は、住んでいたのであろう。

 

 

 ほんの数十分前まで。今も絶え間なく流れつづげるあの"波"が、人々の住んでいた"町"を崩壊させるまで。

 

 

 

 その悪夢のような光景を見つめる…見覚えのある"誰か"は、涙をこぼしていた。

 

 

 

 ――――…どうして?どうして…こんなことになるの?

 

 

 

 ――――どうして、"僕"ばかり…

 

 

 

 震えた声で、地面を両手で握りしめる"誰か"は嘆いていた。

 

 

 

 

 ――――全部…全部……”僕”の所為だ…

 

 

 

 神の所業とすら思えるこの"厄災"を自分の所為なのだと。

 

 

 

 

 他人かも分からない誰かのハズなのに…その姿を見ているだけど、何故か自分も悲哀をもってしまった。同じように涙をこぼしたくなってしまった。

 

 

 

 …もう少し、もう少しで……思い出せそうだった。

 

 

 

 この姿が、記憶が、あと少しで真実を語ってくれる気がしたのだ。

 

 

 

 だけど…その思いを阻むように…視界は少しずつぼやけていった。

 

 

 

 

 ――――たのむ、あと少しだけで良い

 

 

 

 ――――この光景を見させておくれ。

 

 

 

 ――――もう少しだけ、この"夢"を見させておくれ。

 

 

 

 

 

 

 歪みは視界を覆い尽くしていく。そんなことは無理だと、強く拒むように。

 

 

 

 

 

 …視界は再び――――――暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三章 きっと君は素敵な何かで出来ている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【エリア1:炊事場エリア】

 

 

 なんてことも無い朝の始まりだった。なんてことも無く起きて、なんてことも無く朝の支度をして、なんてことも無く炊事場に向かう。

 昨日までの事なんて夢だったような、そんな始まり方だった。

 

 

「あ…!折木さん!!おはようございます!!」

 

 

 先にやって来ていたのであろう。小早川が少々気の抜けた面持ちの俺がやって来たことに気付くと、跳ねるように立ち上がる。そして晴れやかに笑顔を溢しながら此方に手を振るう。

 

 

「ああ……おはよう」

 

 

 ぎこちない表情でではあるが、かすれた声でそう返す。

 

 炊事場に居たのは、小早川と、そしてふてぶてしい顔を崩さない反町の2人だけだった。

 

 いつもよりも遅めに来てしまった、そんな気持ちはあった。だけど、遅刻気味とも言えた俺が来るような時間になっても、生徒達は集まりきっていなかった。

 

 それは昨日の出来事が、裁判が、軋轢が、決して夢ではないことを物語っていた。だからなのか、小早川のこの明るさが、余計にその寂しさを際立たせているようだった。

 

 

「反町さん!!折木さんが来てくれましたよ!!」

 

「…そうだねえ。やっとこさ、って感じだよ。もう誰も来ないんじゃないかと思ってところさね」

 

 

 反町は周りを一瞥し、小さくため息を吐きながらそう言った。朝起きてから、一体どれ位待ったのだろうか…テーブルに並べられているご飯を見ながら、俺はなんとも言えない気まずさを持ってしまった。

 

 

「遅れて悪かった…。どうにも、朝から体が重くてな」

 

「まさか風邪ですか!?であれば、今日一日ゆっくりしていた方が…」

 

「ああいや…そうじゃなくて…気持ちの問題だ。昨日の疲れがどうしても抜けてなくて…覇気が思うように出せない感じだ………」

 

「…多分、他の奴らも、同じだろうねえ」

 

 

 "それに…朝衣の事件も重なってるのもあるだろうね"反町は、自分を含めた此所にいない生徒達を擁護するように、そう付け加えていった。それを聞いた俺と小早川は、不満な気持ちを募らせつつも、首肯した。

 

 

「……そういう2人は、大丈夫なのか?無理とかは、してないか?」

 

「心配しなさんな。…アタシは部屋の中でウジウジ悩んでるより、こうやって体動かすとか、料理を作ってる方が、性に合ってるんさね。これで、昨日の疲れもチャラにしてるんだよ」

 

「は、はい!私も同じです!!こう難しい事を考えると、100%…いえ、120%、パンクしてしまうと思うので!!!いや、お花について悩んだときも、実際そうなってしまいましたし」

 

「…お前も結構、苦労してるんだな…」

 

 

 ここでの生活以前に、むしろ別の不安要素が出てきてしまっているように感じてしまった。

 

 

「そ、それに……ニコラスさんの言う『必要最低限の交流』を、その言葉通りにしてしまうと、何だか…取り返しがつかなくなってしまうようで……居ても立っても、居られなかったんです…」

 

「そうか…」

 

「アイツも、アイツなりに考えてのああいう提案をしたんだろうけど……現段階だと、賛否両論って感じさね」

 

 

 確かに、あの考えは極論にも思えた。だけど今までの出来事が顧みても、ニコラスの言いたいこと、やりたいこと…そして成し遂げたいこと。それら全てをクリアするには、どうしても人的エラーをケアしなければならない。だからこそ、ああいう風な言葉を残したのだろう。

 

 

 

「あの……このまま私達、バラバラになってしまうんでしょうか?」

 

「…そんな事は無い…とは、言い切れないな」

 

 

 とても答えにくい質問だった。それに対して俺は肯定的とは言えない言葉を返すことしかできなかった。小早川は…沈むように俯いた。

 

 

「……私、前みたいにもっと皆さんと仲良くしたいです」

 

「そうだね…アタシも同じ気持ちさね」

 

「ああ…」

 

「…前みたいに、ここでご飯を食べて、怒られて、笑っていたいです…コロシアイなんて忘れて……皆さんと、生きていたいです」

 

 

 とても我が儘で、健気な願いだった。ココに居る誰もが抱いている、理想に近い願い。でも…。そんな願いなんて、所詮は理想。今この光景を見れば、それがどれほど難しい願いなのか、一目瞭然だった。

 

 だけど、昨日にあんなできごとが合った故に、抱えきれなくて、そう言わずにはいられなくなってしまったのだろう。俺と反町は彼女の言葉にどう返したものかと、顔を見合わせた。

 

 

「小早川……そうだな…俺も、出来るならそんな風になってほしいさ。でも今は時間がお互いに考える必要だ…無理に思いをぶつけても、修復できる物も修復できやしない」

 

「じゃあ……このまま何もしないで、いつもを過ごせというのですか?」

 

「いや。そうとまでは言わない。俺が言いたいのは…何もしないまま時を無為にしていれば、きっと今みたいにバラバラのままが続いてしまうだろう。ということだ」

 

 

 ”でも…”俺は翻すように、言葉を繋ぐ。

 

 

「それは何もしなかったらの話だ。今のお前達みたいに、ただ料理を作って、待ってくれれば話は別だ。案外人は現金なものでな…美味しい料理を前にすると腹を空く、そして本能的にノコノコとこっちにやってくるもんだ……俺みたいにな」

 

「折木さんみたいに……ですか?」

 

「…ああ。だけど料理が置いてあるだけじゃダメだ。人が居る居ないも大切だ。炊事場に来て、そしてお前達を見つけたとき…正直、凄く安心したんだ。待ってくれる人がいて良かった……ここに来て喜んでくれる人が居て良かった、とな……不器用な俺がこう思えるんだ。なんてことも無いことを重ねていれば、きっと今までみたいに、皆とまた仲良くできるはずだ……きっとな」

 

「梓葉…あんた朝の支度の時アタシよりも早く来て、色々準備してくれてたろ?あれ、恥ずかしい話、結構嬉しかったんよ。折木の言う通り、そんな些細な事を繰り返すのが和を取り戻すための第一歩さね。得意だろ?そういうの」

 

「そ…そうでしょうか……面と向かって言われると、こみ上げる物が…」

 

 

 頬を赤らめながら、小早川は俯いた。今度はさっきとは違う、明るい雰囲気の俯きのように思えた。でも、一瞬出てきた不安を少しでも取り除けたのなら、親身になった甲斐があるというものだ。

 

 パンっ、と反町に肩を軽く叩かれる。…これは、よくやった、という意味と捉えて良いのだろうか。

 

 

「そうだねぇ…こんな状況だと、いつも通りの空気を出してくれることはとっても大切だし、個人的には大助かりなんだよねぇ……」

 

「…古家!あんた、居たのかい」

 

「……今さっき来たばかりなんだよねぇ。神妙な話をしてるっぽかったから、ちょっと足踏しちまったけどねぇ…」

 

「…何だかすみません」

 

「いやいやいや、驚かせちゃったみたで、こちらこそなんだよねぇ…」

 

 

 古家は手を振りながらそう否定する。そんな仕草をする彼を見て、俺は裁判後の、図書館で鮫島に黙祷を捧げた時のことを思い出す。

 祈り終えた後、すぐに分かれたために…あの後どんな風に過ごしたのかは分からないが……どうにも心配になってしまう。

 

 

「…古家」

 

「――折木君、あたしはもう大丈夫なんだよねぇ。心配してくれて、ありがとうねぇ」

 

「……そうか」

 

「何か、あったのかい?」

 

「いやぁ、裁判の後にちょこっと雑談し合っただけだから、気にしなくて良いんだよねぇ」

 

「………じゃあ、気にしないことにしておくよ」

 

 

 俺達のやりとりに何かを察したのか、反町はこれ以上の事は聞かなかった。…小早川は、全くと言って良い程理解していないみたいだが…。

 

 

「ああ、なんたる偶然だろうね…。春の曙に興じようと、徒然なるままにココまできてみれば…こんな場面に出くわしてしまうなんてね……控えめに言っても…素晴らしい情景さ」

 

「落合、お前もか…」

 

「アンタも、きぃつかって距離を置いていた口かい?」

 

「はは、その真偽は世界聞いてみると良いさ…こうやって、耳をすましてね………」ジャラン

 

「…いや、分からないから聞いているんだが……」

 

「そうだね、敢えて言うなら…折木君がここに来たときに…かな」

 

「…まったく気付きませんでした」

 

「本当に空気みたいなやつさね…」

 

「……何て言ったって僕は自然そのもの…どこにでも居て、どこにでも居ない…そんな、風のような存在と思ってもらってもかまわないさ。勿論、空気ではなくね」

 

「…あっ、そこはやっぱりこだわるんだねぇ」

 

 

 普段通り過ぎる落合の独創性に、俺達は苦笑する。だけど…今だけは、彼の常人とは思えないいつも通りさに、安心してしまった。

 

 

「ふはははっ!!おはよう愚民共!!どうやら遅れてきてしまったみたいだなぁ!!!」

 

「みんな、おはよ、う。遅れて、ごめん、ね?」

 

 

 すると今までの静けさからは嘘のように雨竜、贄波と、炊事場に集まり始め、賑やかさが累乗し始める。この現状に憂いを抱いていた小早川は花が開くように、喜びを露わにした。

 

 

「雨竜さんに、贄波さんも!!!来て下さったんですね!!」

 

「ちょっと、行きづらかった、けど…部屋に居ても、ね?」

 

「ふあはは!!!ワタシは普通に寝坊してしまっただけだがなぁ!!!こんの馬鹿共ガァ!!!」

 

「贄波はともかく、お前は何を偉そうにしてるんだ」

 

「雨竜君も雨竜君で、平叙運転みたいなんだよねぇ…」

 

 

 それもそうだが…雨竜の場合もう少しボリュームを下げたテンションの方が良いような気もする。正直うるさいことと、その態度がどうにも…。

 

 どうやらこの気持ちは反町達も同様だったらしく…反町は雨竜にに"朝からうるさいんだよぉ!!"とスープレックスを決めていた。 

 

 

「ぬぉぉぉぉ……首が……首がぁ……」

 

「どえらい寝違いが発症してるんだよねぇ…」

 

「…無念だな」

 

 

 そうしみじみとしながら、悶絶する雨竜を眺める。

 

 これでやっとこさ…俺達らしい、微妙に騒がしい朝になってきた。…そう思えた。

 

 

 すると――――

 

 

「パンパカターン!!!よってらっしゃい見てらっしゃい、お持たせしました、お待たせしすぎてしまいましタ、ミスターモノパンのスパーーーーイリュージョンターイムでス!!」

 

 

 モノパンが、雨竜に負けずとも劣らない頭に鳴り響くが如くの声量を持って、堂々と登場する。…今度は料理の並んだ食卓の上ではなく、別の丸テーブルの上に姿を現していた。

 

 

「うげ…折角良いムードになってきたのにねぇ…余計な奴が来ちまったんだよねぇ」

 

「また飯が不味くなりそうだよ」

 

「ありゃりゃりゃ、人が居ると思ってこうやってわざわざ赴いて見ましたが…ちょっと少ないみたいですねェ」

 

「…悪いか?」

 

「べぇつに~~、ただ今まで仲良くしていた割に、たった1,2回裁判程度で壊れかけて仕舞うだなんて……実に儚い友情だなぁ~と思いましてネ…」

 

「中々の言いようなんだよねぇ…」

 

「人が死んでいるのに、その程度扱いだと…?はっ、その時点で話にならんな……モノパンよ、ワタシのコスモが貴様を焼き尽くす前に…とっとと消え失せておけ」

 

「はい!!それにこんな状況、何のこれしきです!!まだ崩れきった訳ではありませんからね!!きっと明日にでも、元通りにしてみますとも!!」

 

 

 そんなモノパンの挑発に、全員で対抗する。何となく、チームワークのような物を感じた。

 

 

「…というわけだ、モノパン。俺達は今取り込み中だ…用なら後にしてくれ」

 

「くぷぷぷぷ…そうですネ。そうさせて貰います。……大事な、大事なご褒美のお話を終えてからネ」

 

「ご褒美?……お話…?」

 

「それ、って…もしかし、て」

 

 

 俺は頭の中で裁判が終了した次の日…生き抜いたご褒美と、エリア2が開放されたときのことを思い出す。

 

 

「モチのロンロン。裁判の後にやって来るのは、お楽しみ、"新エリア"の解放でス!!!ああ、ついにやってきました、やってきすぎてしまいました……この気持ち…まるで小学校の時の工場見学のような高揚感…た、たまりませン…」

 

「いや、それはちょっとワクワクしづらいんだよねぇ…つかメモリアルの盛衰が尖り過ぎてんだよねぇ…」

 

「ふっ…ワタシの場合ちくわ工場であったぁ…」

 

 

 ふむ………俺の場合はどこだっただろうか…。…何処か辺境の、しかも漁業関係の会社だった気もするが…。上手く思い出せないな…。

 

 軽く頭を悩ませてみるが…どうにも小学校時代の記憶が曖昧で、結局思い出せなかった。そんな俺は置いていくようにモノパンは続けていく。

 

 

「取りあえず、お食事が終わり次第、中央棟にある3と刻まれた扉の中にお入り下さイ。ワタクシは、新エリアの中でお待ちしておりまス…今回は今まで以上に特別な施設となっておりますの…どうぞお楽しみに…ではではでハ」

 

 

 そう言って、モノパンは俺達の要求通りそそくさと姿を消していった。俺達は、小さな沈黙の中でお互いに顔を見合わせた。

 

 

「…特、別なエリア…」

 

「何だか気になる匂わせなんだよねぇ…」

 

「ああ……気になるな」

 

「目の前に現れるは新たな世界。僕らが思うは、未知への関心。さぁて、僕らのは明日は、どんな風に渦巻いていくんだろうね…」

 

「明日じゃなくて、今日行くんだろ?…そんなことを考えるのは後さね。アンタ達、そろそろ朝飯にするよ。早く食べてくれないとこいつらがカッチカチに冷めちまうよ」

 

「ふはっ!!言われてみればそうだな…我々の腹は既にブラックホールの様子を呈していたのだったなぁ!!」

 

「はい!!!皆さん、たんと食べて下さいね!!!」

 

「残したら鼻フックだからね」

 

「しれっとえぐいリスクが聞こえたきがするんだけどねぇ…」

 

「まぁ…残さなきゃ、大丈夫だろう」

 

 

 急遽、新エリアへと向こう事が決まった俺達は…小さなリスクを背景に…いそいそと食事をかきこんでいく。

 そして残さずきっちりと食べ終え、新エリアへと繋がる中央棟へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【中央棟】

 

 

 カツーン…カツーン…とぶつかり合うような、小さな足音が幾度も鳴り響く。果てしないとも思える程の暗い道の向こう側へと消えていく。

 

 モノパンの新エリアの開放を聞かされてからしばらく…俺と贄波、雨竜、古家、小早川、そして落合の6人は、新しく開放されたエリア3に続く鉄の道を踏みしめていた。

 

 

「エリア2の時もそうだったけどねぇ……やっぱり見たことも無い様な場所に行くとなると、こう、高揚感っていうのかねぇ…ドキドキが止まらないって言うのかねぇ…」

 

「…確かに、こんな風に階段を上っているとより感じるのは、あるな」

 

「新世界、それは誰もが夢見る未開の大地。僕は何度も何度もそんな気持ちを経験してきた。だけど、このほどよい緊張感は…何にも代えがたい、素晴らしい一時だと…僕は思うよ」

 

「…と、途中で何を言っているのか聞けていませんが…"にゅあんす”は何となく伝わってきました!!もはや絶望的なテストを受けた後の、テスト返しのような緊張感ですね!!」

 

「小早川…それは微妙にズレた表現じゃないか?」

 

「雰囲気だけ伝われば良いかと思って!!」

 

 

 まぁ…彼女が良いのなら…良いのだろうか。他の全員の顔を見ても、しょうが無いと言わんばかりに黙って頷くだけだった。

 

 

「しかし…前に開放された時と違い…エリア特有の気温の変化は今のところ感じられんなぁ…」

 

「エリア2の時は蒸し暑い感覚が先走ってたけど…今回は感じられないねぇ…」

 

 

 確かに…いやむしろ、少し肌寒い感触に思えた。どうやら、どのエリアも、それぞれがそれぞれの気候があり、今回はエリア1と同じか、それよりちょい下くらいの気温が蔓延っているようだった…。

 

 

「それにしても…あの…反町さんのことなんですけど…本当に連れて来なくて良かったのでしょうか…?」

 

「…待つことは追いかけることよりもツラいことさ…でも彼女は、それを自分1人で受け持った…その気概は賞賛されるべきだと思うよ」

 

「…『折角来たのに誰も居なかったら、アイツらも寂しいだろ』…と口にはしていたが…やはり気にせずにはいられんなぁ…」

 

 

 このメンバーからも分かるとおり、反町だけは1人炊事場に残った。俺達が第3のエリアに向かおうと意気込む中、今俺が言った言葉の通り、反町は未だ部屋の中にこもる何人かの連中のために、1人残ったのだ。

 

 正直、俺達も待った方が良いのか迷ってしまったが…結局反町に『行け』とリアルで尻を叩かれたので…こうやって来ている。こういうところが、アイツらしい考え方だと思った。

 

 

「気になるは分かるけど…途中、来なかったら来なかったで食事をねじ込みに行くとか…ちょいと物騒な発言が聞こえたような気がしたから、あたしとしては別の意味での心配はあるんだけどねぇ…」

 

 

 …確かに。というかそっちのほうが心配の比重が高いかも知れない。……あの物理的交渉術の天才である反町ならやりかね無い。俺達は起こりうるであろうその光景に、今居ないメンバーに対しての同情を共有した。

 

 

「ま、まぁエリアについてなら報告会の時にでも、伝えられるしな…今は黙ってエリアの探索に集中しよう」

 

「そうだねぇ。でなきゃ、送り出してくれた反町さんに申し訳が立たないしねぇ」

 

「……報告のみではわかり得なかったのであれば、己の身一つで新たな大地へと赴けば良い話だ……我々のようにな?」

 

「…そう……ですね」

 

「ふふふ…案ずるでない小早川よ…我が論理的思考は常に常人にも理解を越えた、完全なる超理解を約束しよう。そして全てを理解したとき、きゃつは我が天文学的観測術の神髄を――――」

 

「あっ!扉が見えてきましたよ!!」

 

「話を聞けいぃ!!」

 

 

 唾を飛ばしながら激しくツッコむ雨竜の居ない方角…そのすぐ先には、大きく『3』と刻まれた金属製の扉が重々しく佇んでいた。今までのエリアの倍近い大きさのそれが、迫力をことさらに倍増させているように思えた。

 

 

「この向こうに、また新しいエリアが……ゴクリ」

 

「モノパン曰、く、特別エリアだって、言ってた、ね…」

 

「ああ、ついに前人未踏の大地、そのスタート地点が僕らの目の前に現れてくれたね。さぁ風と共に、歩みを進めていこうじゃないか」

 

 

 落合の仰々しい前座を聞いた俺はゴクリと唾を飲み込む。そしてゆっくりと、扉に自分の手を近づける。

 

 

 そしてあっけないほど簡単に、新しい世界への扉は、開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

【エリア3:入口】

 

 

 

「うわぁ……!!」

 

「ふむ、これは何と…凄まじい…」

 

「こりゃぁぶったまげなんだよねぇ…」

 

 

 扉の向こうの光りの先、新エリアと呼ばれる世界には、とても施設の中とは思えない光景が広がっていた。

 

 

 俺達の凱旋を祝うように舞う、楓の葉と、紙吹雪。

 

 傍目から見ても分かる、巨大な観覧車。

 

 空を縦横無尽に曲がりくねりながら駆け巡る鋼鉄製のコース。

 

 そして、エリアの奥にそびえ立つ展望台とおぼしき高層タワー…。

 

 その様相は…どこからどう見ても、"遊園地"そのものであった。

 

 

「こ、これっ、て、遊園地だよ…ね?」

 

「ああ……しかしこの光景は我が予想を遙かに超えている…あのモノパンが特別と称するのも頷ける話だぁ……」

 

「…施設の中にテーマパークとは…まさに…大胆不敵です!!」

 

「多分使い方間違ってるねぇ…」

 

「箱庭にあるは夢の国…それは人の思いを具現化させた事象か…それとも有り余る欲望が見せる幻か……どうせなら前者であることを願うよ」

 

「そしてあんたは何と葛藤してるのか、てんでわからんのよねぇ…」

 

「…扉を見て思ったが……やはり、エリアそのものも今までの、倍くらい広いな…右を見ても左を見てもまだ先がある」

 

 

 

 そんな風にして、それぞれがそれぞれの感嘆の声を漏らしながら呆気にとられていると…。

 

 

「ようこソ!!我がジオ・ペンタゴン最大の強み!!エリア3、こと『ジャパリパー…』じゃなかった…『モノパンパーク』へ!!」

 

「今聞こえてはいけないような単語聞こえた気がしたんだよねぇ…」

 

 

 俺達の目の前に、怪盗の如き衣装に分したモノパンが現れる。その様相はいつもと変わらないのだが…このテーマパークの雰囲気も相まって、何かのイベントのキャストのように錯覚してしまった。

 

 

「くぷぷぷぷ…いやぁ待ちわびましたヨ。この時ヲ。このエリアを紹介したくて、だけどできない。そんなジレンマを抱えながらどれだけヒビを数えていたか……うう、余りの嬉しさに…何かが口からでてきそうでス……うっぷ」

 

「どんだけ喜びに震えているんだよねぇ…」

 

「ふっ…出てきたとしてもネジか、もしくは油くらいであろう」

 

「本当ですか!!!何だかロボットみたいですね!!」

 

「前々、から、ロボット、って、自白はしてたと、思う、よ?」

 

「どちらににしても、口から溢されるのはイヤだな…」

 

 

 微妙な視線をモノパンに注ぎながら、俺達は後ずさりする。流石に吐かれてもらってはかなわないからな…。

 

 

「冗談、冗談ですヨ。そんなムードを壊すようなマネはしませんかラ。是非とも、お楽しみな気持ちを保ちつつ、探索を行っていただければと思いまス……」

 

「見知らぬ僕らの世界の一部、そこに存在するは、この箱庭からの解き放たれる鍵か…それとも沈黙か…」

 

「なんのなんのです!!皆さん!!頑張って探索していきましょう!!」

 

「…ちょっと骨は折れるかも知れないけどねぇ……」

 

「ふはは、人数の有無など関係は無いさ…必要なのは如何に効率的に調査し、情報を取捨選択できるか否か…我々なら…いやこのワタシであれば、そのような些事、造作も無い事よ…」

 

「そうでス…あがきなさい、あがいてみなさイ………どうせ脱出の手段なんてどこにもないですからネ…」

 

「ふん…やってみなければわからんであろう…貴様は黙って、施設の運営に手を焼いていろ…」

 

「くぷぷぷぷ…それもそうですね…ではお言葉通りにさせていただきまス」

 

 

 モノパンは頬骨らしき部分を上げながら、そう含み笑いを漏らす。すると突然……あっ!と何かを思い出したような声を上げた。

 

 

「そういえば、言い忘れてましタ……このエリア3、一部の施設は現在準備中なのデ…アトラクションをご利用になられる際、ご不便をおかけすると思いますがそこんところはどうかご了承下さイ」

 

「え゛っ………そんな中途半端な形で、よくあれだけ自慢気な態度を取れたねぇ…」

 

「良いじゃないですカ。ノリと勢いは盛り上げ上手の第一歩…今は遊べずとも、完成した後日に、また楽しめば良いんですヨ…いまはあくまで体験コースということデ…はしゃいでくださいナ」

 

 

 そう言い終えると同時にモノパンは姿を消していった。ここに来てからの一部始終を見終えた俺達は、現在進行形で当惑という感情を抱えていた。

 

 

「未完成って……でも確かに、よく見てみると観覧車とかも動いてないように見えるな…」

 

「じゃあ本当に一部は動いてないみたいなんだねぇ…」

 

「モノパンが居たので、気丈に振る舞ってはみましたが…これほどの設備を目の前に…全力で娯楽に身を投じることができないなんて…誠に”しょっく”です…」

 

「ふん…癪ではあるが…モノパンの言うとおり、今ある手札のみ楽しむほかあるまいよ」

 

 

 確かに雨竜の言うようにすれば良いのだろうが…何とも盛り上がり切れない駆け出しのように思えた。俺達は大きなため息を吐きながら…エリアの奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

【エリア3:噴水広場】

 

 

 入口から出てきて数分の場所には、エリア1のような中央広場が存在していた。役割は言うまでも無く、中継地点。

 だけどエリア1と違い、水を噴き出す中央にあるのは、あの趣味の悪い熊顔の彫像ではなく、バロック風のオブジェだった。

 

 そしてその噴水の前には――

 

 

「…地図だな」

 

「地図ですね…」

 

「地図であるなぁ…」

 

「……まとめて言う必要あるのかねぇ?」

 

「すみません…つい流れで…」

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 このエリア全体を端的にまとめた地図が、掲示板に貼り付けてあった。

 

 

「俺達居るこの赤い点の場所を中央とするなら……このエリアは西と東で大まかに分かれているみたいだな…」

 

 

 地図に指を付けながら、このエリアの所感を並べていく。古家達は頷き、続けていく、

 

 

「ひ、広すぎて迷ってしまいそうなんだよねぇ…あたしちょっと広すぎる場所に来ると腹痛が酷くなる持病があってねぇ…」

 

「そのような気味の悪い症状は存在せん、洞窟で育ってきたのか貴様は」

 

「洞窟に近い環境で育ってきたから、強く否定できないんだよねぇ…」

 

「…本当にどんな生活をしてきたのだ…?」

 

 

 どーでもいい場面で、古家の生活の一端が見えた気がした。なんとも触れづらそうだったので、まとめて置いておくことにした。

 

 

「こんな、に、広いんだった、ら…ちょっと、手間だ、ね……手分けして、みる?」

 

「ええそんな!!折角のテーマパークなんですし、一緒に回りましょうよ!!何だか楽しそうですし!!」

 

「時間とは人の数だけ存在し、人の数だけ過ごす時がある…だけど、必ずしも全てがバラバラになるわけでは無い……僅かな時間だけでも重なり合う時もまた存在するのさ。…そんな刹那の一時を、大切にするべきだと…僕はそう思うんだ」

 

「…取りあえず落合も賛成、ということだな。…俺も小早川の意見に賛成だ。折角のテーマパークなんだ、時間が有限でもないわけだ。楽しみながら探索しよう」

 

「……良いだろう、そこまで言うのなら一緒に行ってやらんでもない……!!ふははは!!泣いて喜ぶが良いさ!!この超高校級の観測者たる雨竜狂四郎が貴様らと時を共にするなど、天に人を作るが如きあり得ん事象なのだからなぁ!!」

 

 

 この反応を見るに、少なくとも雨竜は案外嬉しそうだということだけは伝わってきた。

 

 

「…うわぁ友達と遊園地を歩くなんて初めての体験なんだよねぇ…ちょっとおめかししとけば良かったかねぇ…」

 

「古家…お前そんなにボケるタイプだったか?」

 

「あ、いやちょっとねぇ…場をできるだけ和ませようとねぇ…そんなに気にしなくても大丈夫なんだよねぇ…」

 

 

 恐らく鮫島のマネをしているのだろうが…この中でお前がツッコミ役を降りたら、恐らく俺が過労死する。というかツッコミ役こそがお前のアイデンティティのはずなのに、それを捨て去ってしまったお前に何が残るのだ。

 

 

「…あんた、結構失礼なこと考えて無いかねぇ?」

 

「…いや、そんなことは無い。…贄波もそれで良いか?」

 

「うん、大丈夫、だ、よ?」

 

「あからさまに逃げられた感じがするんだよねぇ…」

 

「そんなことよりも、です!決まりですね!!さあ最初の"あとらくしょん"へと参りましょう!!」

 

「はは、どうやら風は僕達の方へと吹いてきているみたいだ。この流れに乗らざるして、いつ乗るのか…だね」

 

「…それ多分、逆風だと思うんだけどねぇ…」

 

 

 …満場一致、ということで、俺達は全員でエリアを探索することになった。まずは噴水エリアからみて左、西方面へと俺達は揚々とした足取りを進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

【エリア3:お菓子の家】

 

 

 西エリアの道を歩いてすぐに見えてきたのは、1つの家だった。一見何の変哲も無い家のように、遠目からは見えていたのだが……近づくにつれてそれが"変わった"様相をしていることに気付いた。

 

 

「これ、って…!」

 

 

 …パンで出来た壁に、クリームが塗りたくられたケーキのような屋根、チョコレート製の煙突に砂糖で出来た窓…某童話兄妹が迷い込みそうな、お菓子の家がそこにあった。

 

 

「夢、みた、い…!」

 

 

 どうやら、そんなお菓子の家は贄波にとって憧れの光景だったらしく…目をキラキラとさせながら、手を重ねていた。まさに、比喩抜きで今にでも食いつかんばかりに前のめり具合であった。

 

 

「うわぁ…こうゆうのって絵本の世界でしか存在し得ないと思ってたけど…実際に存在するんだねぇ…」

 

「ふっ…某ネズミの国では到底マネできん施設だが…下らんな……本当に菓子で出来ているのか?」

 

「注意書きがありますね…ええと…『この家は全て本物のお菓子で出来ています。ご自由にお食べ下さイ…』…本物のみたいですね!!どうしましょう…はしたないかもしれませんが…一口食べてみても…?」

 

 

 イマイチ信用できない口ぶりの看板だったが、触ってみたり、匂いを嗅いでみると本当にパンやらクッキーで家は構成されていた。乾燥してパサパサになっているわけでもないし…衛生面から見ても口に含んで問題無さそうだったが…。

 

 

「甘い物は苦手だ……試食は貴様らに任せる」

 

「お、親には外で変なモノを食べてはいけないってきつく言われてるからねぇ…あたしもパスさせてもらうんだよねぇ…」

 

 

 しかし、何か変なモノでも混ざっているのではないかという疑いは残っているために、殆どは遠慮をしていた。

 

 

「うん、おいし、い!」

 

「………やっぱりお前が食べるのか」

 

「体と食欲は比例しないように、小柄な彼女にもその身に合わない大きさを持っているみたいだね…ああ、人の食べる姿はどうしてもこうも美しいんだろうね」

 

 

 そう贄波を賞賛する落合の手にも、チョコレートらしき物体が握られていた。どうやら気付かないうちに、そそくさとつまんでいたようだった。何とも読めない奴である。

 

 そんな彼の様子に毎度ながらため息をつく俺は、家の中を調べてみようと、チョコレート製のドアノブをヒネり、中へと侵入。

 

 

「…部屋の中は…俺達の部屋の間取りと変わらないみたいだな」

 

「トイレとシャワールームを除いてシンプルにした感じだねぇ…大きな違いと言ったら、気持ち悪いくらいに甘ったるい匂いが充満してるところ位なんだよねぇ…」

 

 

 部屋の中には、板チョコで出来た椅子に、ベッド…棚や机が、並べられており、様々な菓子類か発せられる甘ったるい匂いが部屋の中に立ち込んでいた。正直な話、お菓子が苦手じゃない人間でも、頭が変になりそうな匂いの密度であった。

 

 

「特に目につくようなモノは無し、か……贄波、小早川、そっちは……」

 

「「…え?」」

 

 

 気になるモノはあるか…?そう聞こうと見てみると…彼女達の口元にはクリームがべったりと付いており、手元には歯形の付いたケーキが握られていた。明らかに、さっきのつまみ食いを未だに続けているようだった。

 

 

「……美味しいか?」

 

「はい!!」

 

「うん、おいしい、よ…」

 

 

 照れながら微笑む彼女達に、俺は苦笑いを浮かべた…。…朝ご飯を食べたばかりだというのに、想像以上の食い意地を目の当たりにしたようだった。

 

 流石に節操がなさ過ぎるな…とりあえず、反町にこのことは報告しておこう……。そう心に決め、俺達はまた別の場所へと足を運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

【エリア3:メリーゴーランド】

 

 

 エリアの説明の際に、モノパンは一部の施設は稼働していないとは言っていた。だけどこのメリーゴーランドはその例に漏れているらしく、馬やカボチャの馬車と言った乗り物が、中心の柱を起点にし、目の前を元気に回転していた。

 

 

「折木さーーん!!!見てますかーー!!!楽しいですよーーー!!!」

 

 

 メリーゴーランドに乗りながら、心底楽しそうに大きく手をふる小早川"達"に、俺は手をふりかえす。どんな角度から見ても微笑ましい光景だった。

 

 

 

「くそ………何故追いつかんのだぁ……既に標的は目の前に居るというのに……駆けろ、駆け抜けるのだぁ…!!我が愛馬よぉ…!」

 

「そりゃあ追い越すように作られてないから、到底不可能なんだよねぇ……正直みっともないから結構止めてほしいんだよねぇ」

 

 

 小早川だけでなく、雨竜と言った歳不相応な連中も混ざる光景の中に、俺自身も入りたいとは思った。だけど…昔家族と遊園地に行った際、俺が乗ったアトラクションが悉く故障するというイヤな思い出が未だに残っているために、遠巻きに眺めるに留まっていた。

 

 …時々思うのは、俺が機械を苦手としているのではなく、機械が俺を苦手としているのではないだろうか…そう思って仕方が無かった。

 

 

「…まるで運命の輪のように、この世界は回り続ける………ああ、だけど残念だよ。運命とはこんなにも単純ではない、入り乱れ、そして交差する…実に複雑で、そして面白いもの…そう思わないかい?」

 

「落合君、は、別の意味、で恥ずかしい、ね?」

 

「この世に恥ずかしいことなんて無いさ……羞恥とは世界ではなく、人が決めるモノだからね?」

 

「…流石は既に羞恥の限界点に居る人間、説得力が違うんだよねぇ」

 

 

 全員思い思いに話をしていて収集がつかないが……とりあえず、楽しそうで何より。そう心で締めくくることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア3:射的場】

 

 

 予想以上にメリーゴーランドを楽しんでしまった俺達は、探索を再開し、対面にある別のアトラクションへと足を進めていた。

 

 

「見た目以上に…細長い施設、だ、ね」

 

 

 施設は長方形の体を為していた。中は、2:8の割合で区画が分かれており、前者は何やら物騒な銃やらボーガンやらが棚に収められた所謂射場といえる場所で、後者は殆どが空き地のようだが最奥には流鏑馬に使うような的が設置されていた。

 

 見たところ…この施設は射的場であるといえた。

 

 

「むむむ…射撃用のライフルだけじゃなくて、拳銃とか、果てにはアーチェリー用の弓まで完備されているなぁ…何とも物騒な…」

 

「こちらのおは庭…思った以上に距離もありますね。多分弓道で言う的場に当たる設備だと思いますが…的がまるで豆粒のようです…」

 

「どの道具を使っても文字通り的外れになりそうだねぇ…」

 

 

 小早川の言うとおりだと思った。射場から的までのその距離は凄まじく…素人の俺達ではもう当てられる気が起き無いような間隔に思えた。

 

 …総括すると、射撃選手である風切しか楽しめ無さそうな施設だな、と思った。

 

 

「なぁに、そう心配することはないさ。初めてというのは継続の最初の試練、1度使ってしまえば案外慣れてしまうかもしれない。僕も最初は、この相棒を弾くときは同じように臆していたものさ」ジャラン

 

「楽器を弾くと、拳銃を引くとではだいぶ仕様が違うと思うけどねぇ……ていうか銃には一生慣れたくないんだよねぇ…」

 

 

 見たところ、ここに置かれている武器は本物ではないようだが……確かに、進んで触るべきものじゃないな。

 

 

「……それにしても、なん、で、ここも、停止中、って扱いなのか、な?」

 

「的にも、お暇が必要ということなのでしょうか…?」

 

「中々に不気味な可能性だけど…きっとここにも何かしらの仕掛けがあって、今はそれを調整してる最中だと思うんだよねぇ…」

 

「仕掛け……か。…この雨竜狂四郎…そういった遊び心というのは大の好物……いずれはこの試練へと立ち向かい、その仕掛けとやらを拝ませて貰おうではないかぁ…」

 

「…既に楽しむ準備万端みたいだな」

 

 

 しかし使用ができないのであれば長居は無用、ということで、俺達はそそくさと施設を出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア3:電気室】

 

 

 西エリアの端まで探索の足を広げていると…ぽつんと建つ白い正方形の建物が目についた。

 

 恐らく、目立たないようにエリアの隅っこに立てられているのだろう。だけど…色とりどりな施設が連なるエリアの中で、その素朴さが逆にその存在を際立たせているように思えた。

 

 何となく入りづらい不気味さが漂っている故に微妙に足踏みを仕舞っている俺達。

 

 だけど、これではいけないと、妙な重たさと冷たさを持つ扉に手をかける。かん高い金属音と共に扉は開き、俺達はその内装を目にすることとなった。

 

 

「…ここは…なんだ?」

 

「何でしょう…この厳かな雰囲気のお部屋は。息が詰まるというか…勝手に入ってはいけない場所に来てしまったような趣を感じます…」

 

 

 部屋の中は、鉄製の棚のような四角形が連立していた。…その全てに扉が取り付けられ、扉の表面には雷を現したマークが記されていた。

 

 

「…少なくとも、アトラクションの1つ、とは、言えない、感じか、な?」

 

 

 贄波の言葉に俺は頷いた。今までのアトラクションと呼ばれて施設はここまで機械的な雰囲気を纏っていなかった。このことから、この施設は、楽しませるのではなく、支える側の、所謂裏方的な施設なのだ合点がいった。だけど…一目見てもどんな役割を持った施設なのかまでは分からなかった。

 

 

「何の変哲も無い平凡な世界にあった、非凡な秘密。これはきっと真実さ。この部屋こそ、世界が語る真実の一端なのさ」

 

「驚くほど的外れな意見は置いといて……多分、これって配電盤とか分電盤とかじゃないかねぇ…」

 

「はい、でん…ばん?」

 

「ええっと簡単に説明すると…使いすぎることのないように電気を各施設に送る…中継地点を担ってくれる設備のことなんだよねぇ」

 

「な…なるほど!!」

 

「…一応分かったことにしておくんだよねぇ……。ココは恐らくだけど…その配電盤とかが集められた電気室か何かじゃないのかねぇ…。あたしが在籍してた研究所にもこんな風な部屋があったから分かるんだよねぇ…」

 

「そうか、あれか。絶対に目につかない場所に設けられてる…あの部屋のことか……学校にもあったよな」

 

「…業者や職員以外は立ち入りを禁ずる場でもあったがなぁ……ふっ懐かしいな…冒険と称しそういった場を跋扈している最中…適当にイジって学校中の電気を落としたことをなぁ…」

 

「…よく怒られなかったな」

 

「どう見てもやってることテロリストなんだよねぇ…」

 

 

 …いや本当にコイツ大丈夫か?

 

 深掘りしていくと、もっとヤバい埃が出てきそうなのがその恐ろしさをさらに助長させているように思えた。

 

 

「…でも何でこのエリアだけ…このような設備が」

 

「きっと、ここって、一杯、電気を喰う、から。管理して、おかない、と、停電になっちゃう、とかか、な?」

 

「…あっ、成程。そうですねアトラクションを動かす電気量って、馬鹿にならなさそうですし…」

 

 

 確かに、今のところ断定は出来ないが…ここはエリアの電気を一手に引き受けている部屋のようだった。一見地味に見えて…かなり重要な場所だと思った。

 

 

「ふむ…だとするなら、ここはべたべたと触れるべき場所ではないな…ヘタにイジるとこのエリアの電気が止まりかねん」

 

「実際に止めた人間が言うんだから、言葉の重みがちがうんだよねぇ…」

 

「ですが……電気が止まってしまうと…実際どうなるんでしょう……」

 

「多分、エリア、が真っ暗に、なるんじゃない、か、な?」

 

「ひゃー。そりゃ大変だねぇ…そうと分かれば、さっさと退散とするんだよねぇ…触らぬ神に祟りなしなんだよねぇ」

 

「小さき物ほど強大な力を持つ…まさにこの世の理を現出させているようだね……」

 

「…言い方はどうあれ…エリアのアキレス腱な事に変わりは無いな…」

 

 

 そう思うと何となく居づらい…そんな感覚に陥った俺達は、逃げるように電気室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア3:気球乗り場 着地場】

 

 

 電気室を離れた俺達は、東エリアの端っこ、深い灰色に塗りたくられたような平地へと足を踏み入れていた。地面は無地の灰色というわけではなく、丸い円に加えて、『H』と文字が大きく刻まれていた。

 

 

「うーん…こりゃあねぇ……見たところヘリポートのように見えるけどねぇ…」

 

「……このエリアでヘリを飛ばすのか…?」

 

「ふっ、天井にぶつかって確実に御陀仏だろうなぁ…」

 

「…キメ顔で、言う、事、かな?…でも、ヘリじゃない、なら、何なんだろう、ね?」

 

「そんな悩める若人達に説明をしてあげましょウ!!」

 

「うわ!!さっきぶりに出たんだよねぇ!」

 

 

 如何にも何かありそうな灰色の地面から、まるで生えてきたかのように現れるモノパン。悩んでいる最中であった故にぎょっとしてしまったが、いつも通りのことと、俺達は平常を取り戻す。

 

 

「実はここ、『気球の発着場』なのでス」

 

「…ききゅう?」

 

「人間のツボに温熱的刺激を与え、疾病を治癒する…」

 

「それは『お灸』でス」

 

「よく漫画などで、拳銃を撃つ際の効果音に使われる…」

 

「それは『ばきゅーン』」

 

「きっとあれさ、ありがとう、を英語に訳した…」

 

「それは『サンキュー』!!もう!!わざとやっていますネ!!!気球は、あの巨大な風船に人を乗せられるくらいのかごを吊して飛ぶ、あの気球でス!!」

 

「「「あーー」」」

 

「…ぐぐぐぐ、キミタチ中々にワタクシを舐めてきてますネ…」

 

「どっちがだ…」

 

 

 少なくとも今までの行いからして、舐められるのは当然とも思えた。

 

 

「もう、良いですカ!?このエリアはとても広イ!!呆れ程に広イ!!!そんなだだっ広いエリアを地に足を付けながら右往左往するのはとても時間がかかル!!このような手間暇を解消するために用意されたのが、気球、名付けて『モノパンバルーン』なのでス!!」

 

「…そうか成程…では、その気球とやらは今どこにあるのだ?」

 

「ええと、気球は安全の最終チェックを行わなければならないのデ、現在は運営を停止しておりまス。キミタチも、気球の飛行中に墜落はしたくないでしョ?」

 

 

 …確かにイヤだな。整備を行ってしまった故に事故死なんて、洒落にもならない。

 

 

「まあ最終チェックの段階なので、近いうちに営業は再開しますヨ」

 

「そういえば……地図を見た時に、…ここの他にも…同じような発着場があったが…あれも発着場か?」

 

「そうですネ。東側の隅に設置された発着場でございまス。予約が入り次第、好きな方角から、対する着地場まで、気球を飛ばす事が出来まス。ただし、気球はたった一つだけ…泣いても笑っても早いモノ勝ちということだけは覚えておいて下さいナ」

 

「成程……エリア内で完結するお空の旅…とっても”ろまんちっく”な匂いがします!!」

 

「……貴様が操作する気球とやら…長い目を見て楽しみにしておくとしよう…」

 

「え?何言ってるんですカ?…いやいやいヤ、冗談はよしこちゃんしておいてくださイ……操作するのは"君達"ですヨ?」

 

 

 モノパンからの言葉に俺達はえっ……と同時に声を出してしまった。

 

 

「ええ!!!む、無理です!!私気球を操作したことないんですよ!?」

 

「小早川さんだけじゃなくてあたし達全員そうなんだよねぇ!!鮫島君ならわからないけど……てっきり、あんたが添乗員をしてくれるものと…思ってたのにねぇ」

 

「ノンノンノンノンノンノン、前から言っていますがワタクシは激しく忙しい身、一々気球を飛ばすために現れては、体がいくつあっても足りませン…。ですが心配はいりませン。何故ならワタクシ自慢の気球はそんじょそこらの平凡なモノとは比べものにならないくらい簡単に操作できるものですかラ」

 

「だ、だけど…」

 

「それに、最初はワタクシが簡単にレクチャーしてあげますので、ご安心下さイ」

 

 

 いや、操作方法ではなく、操縦することそのものに不安があるのだが……。

 

 

「ワタクシの説明は以上でス!!ではでは、今一度パークをごゆるりとお楽しみ下さーイ!!」

 

 

 しかし、そんな俺達の気持ちはお構いなしと…何とも不安の残る空気を残し、去っていってしまったモノパン。

 

 どうしたものかと、先行きへの心配をくゆらせる俺達は…仕方なしと発着場を離れ、エリアに東側のへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

【エリア3:お化け屋敷】

 

 

 東側エリアの始め目についたのは、何ともおどろおどろしい雰囲気を漂わせる施設であった。そして看板らしき板には、でかでかと『おばけ屋敷』と書かれていた。

 

 

「ふん…作られた心霊が住み着く愚か者共の館か…非現実的この上ない下らん俗物だな…」

 

「そう言う割には、だいぶ足が震えてないか?」

 

「…ふっ…………気のせいだ」

 

 

 …今の間は。絶対内心怖がっているようにしか思えなかった。…ちょっと笑みが引きつってるし。

 

 

「……あの、古家さん。すこぶる震えていますけど…大丈夫ですか?寒気があるなら、反町さんの所に戻りましょうか?」

 

「ああ、いや…お気になさらずに…ちょっとお化け屋敷が個人的に、ねぇ……」

 

「お前、もしかしてお化け屋敷…苦手だったりするのか?」

 

「うう……オカルト好きとして恥ずかしい話だけど。どうにもお化け屋敷はねぇ……不自然に現れる怨霊ならまだしも……こういう、人を驚かせるためだけに作られた怖さってのがどうにも苦手でねぇ…」

 

 

 …まあ確かに、お化け屋敷は人の恐怖のツボをつくのが生業だしな…。超自然的な怖さよりも、人工的な怖さが際立つの仕方の無い話だ。恐らく古家は、その後者に強い恐怖を持つタイプなんだろう。

 

 

「ふっ…まだまだ未熟だなぁ?古家よ…ではこう思ってはどうだ?幽霊など、そんな非現実的な現象この世の存在し得ないと、そう宣言すれば、多少の恐怖は消えるのではないか?」

 

「…商売上あたし的にそれタブーなんだけどねぇ…」

 

 

 オカルトマニアとして、確かに雨竜のそれは禁句である。ていうか…どんだけ怖いんだよ。

 

 

「でもねぇ…あたしとしてはこの苦手を克服したいと思うわけで……そうだ!!折木君…今度一緒に入らないかねぇ…!!誰か信頼できる人と一緒に入れば、少しは怖さを軽減できそうな気がするんだよねぇ…!!」

 

「えっ…」

 

「い、一緒に!?それは聞き捨てなりません!!何て言うか、少し納得がいかないというか……そのような楽しげなことに私も混ざりたいです!!!折木さん!!私とも行きましょう!!!」

 

「……3人で入るのか?」

 

「入れる、のは、2人までっ、て書いてある、よ?」

 

「…ええ…では先約である古家さんに譲るしか…。……であれば、先ほどの気球などはどうでしょう!!あれに一緒に乗りましょう!!きっと面白いですよ!」

 

「あれって俺達が操作するんだよな………。でも、そうだな……折角だし、乗ってみるか」

 

 

 どうせやることも限られているわけだしな…。不安は限りなくあるが…案外、小早川の反応込みで、楽しいフライトになるかもしれない、そう想像できた。

 

 

「うむむむ……我々は何を見せられているのだ…?幽霊の存在を否定するのではなかったのか?」

 

「人の感情の巡り会い……これもまた人が人たらしめる現象の一つなのさ」

 

「…折木君、人気、だね?……ね?」

 

「贄波…妙な圧が感じられるぞ…………何か気に触ったか?」

 

「そんなこと、ない、よ?きっと、気のせい、だよ…」

 

 

 いや…その貼り付けたような笑顔は怖い。普通に。俺は引きつらせながら、笑顔を返すことしかできなかった。

 

 

「こ、これって…あたし約束を取り付けない方がよかったかねぇ…何か若干の後悔が…」

 

 

 焦ったような古家。何だかゴチャゴチャさせてしまったようで…申し訳ない。少々気まずい空気を残しながら、俺達は次のアトラクションへと向かっていった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア3:ジョットコースター乗り場】

 

 

 お化け屋敷の隣には、何かの乗り場らしき施設の入口が立てられていた。看板には『モノパンコースター』と書かれて、大きく刻まれていた。

 

 

「『モノパンコースター』……どう見てもジョットコースターの類いだな…ふんっ、下らん」

 

「あんた下らんって言っておけば恰好がつくと思ってると思うんだけどねぇ…今までくだらないって言ってなかったの、メリーゴーランド位なんだよねぇ…」

 

「貴様ぁ!!メリーゴーランドは良いであろう!!」

 

「何か逆ギレされちまったんだよねぇ!?あれそんなに楽しかったかねぇ!?」

 

 

 ……知らないところで雨竜の趣味が露呈してしまっているみたいだが…取りあえず面倒くさそうなので無視しておこう。

 それよりも、この『モノパンコースター』についてだ。確かに、言われてみれば、エリア3を取り囲むように流れる大きなレールはココから始まっているみたいだった。

 

 

「ですが……この看板の状態からして…ジョットコースターの方も、乗れそうにないみたいですね……」

 

 

 看板には準備中とでかでかとぶら下げられており、他の施設同様、運営を一時休止をしているようだった。

 

 

「あと…もう1枚…この掲示板に地図らしきものが張ってありますね…ええと…『かん…』『かん…』……………」

 

「……『完成予定図』だな」

 

「……読めてました」

 

「本当か…?」

 

「本当です…」

 

「「…………」」

 

 

 お互いに沈黙。

 

 

「え…折木君?小早川さん?なな、何でちょっとピリついてるのかねぇ?変なこと起きてたかねぇ…?」

 

「手を取り合うことも重要だけど、時には摩擦を起こすこともまた創造を生む原動力となる……これもまた真実なのさ」

 

「…ふははは!!……若いな…あまりに若すぎる……そのような煩わしさなどワタシには不必要と言えよう…」

 

「誰もあんたの事を言ってない気がするんだけどねぇ…」

 

「……………」

 

「あっ…これは確実にあたしの所為だねぇ」

 

 

 また少し気まずくなってしまったが…俺達は気にせずその完成予定図とやらに目を向ける。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 掲示板に貼り付けられていたのは、小早川の言うとおり地図のように見えた。だけど……それは噴水広場に張ってあったのとは違い…各施設の名前は消され、代わりにジョットコースターのコースと、コースのポイントなどが明記されていた。

 

 そして左端には、恐らく作者と思わしき誰かの手書きのの似顔絵も付け加えられていた。

 

 

「…この地図は、モノパンの手書きみたいだな」

 

「こういうところ、なにげ、に、細かい、よ、ね?」

 

 

 手書きにしてはなんとも言えないうまさであった。率直に言うなら、下手くそとも上手いとも言えない…微妙なラインに思えた。

 

 

「ふふ…でも。ここは要チェック、だ、ね…?」

 

「お前…妙に楽しそうだな」

 

「そんなこと、ない、よ?きっと、気のせい、だよ…」

 

 

 いやその笑顔は純粋に楽しんでいる笑顔だ。俺には分かる。もしかしたら、このエリアに来て一番はしゃいでいるのは、実は贄波なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

【エリア3:ゲームセンター】

 

 

 特有の蛍光が施設内部を満たし、整然と並べられた筐体から流れるけたたましいBGM。

 

 そのポップかつサイバーパンク的な様相から、ここがゲームセンターである事が容易に分かった。

 

 俺達は、この施設の営業が停止していないと分かるやいなや、とある筐体…『イニシャルなんたら』という筐体を前に腰を下ろし、コントローラーらしきハンドルを握っていた。

 

 

「ふはははは!!!ゲームセンター!!!とうとう、とうとうワタシの腕の見せどころがきたぞぉ!!!!」

 

 

 これから始まるであろうゲーム対戦に、気持ちを高ぶらせている雨竜。そして対戦相手である俺、古家、贄波の3人は…そんな彼とは逆に、物々しい雰囲気を醸し出していた。

 

 

「うわぁ…何だか不安になってきたんだよねぇ…こうゆう場所ってあんまし縁が無くてねぇ…怖いねぇ…」

 

「…俺も自信は無いな。いろんな意味で…」

 

「…気合い入れ、な、きゃ……」

 

「みなさん!!頑張って下さい!!及ばずながらも、観客として応援させていただきます!!」

 

「ゲームのメロディだけでは、物足りないだろうから、BGMは任せておきなよ…さて…リクエストは何かな?」

 

「サイレントでお願いするんだよねぇ…」

 

「ああ承ったよ…では皆さん聞いて下さい…『凪 feat.僕』…」

 

「…どう打ち返しても敵無しだな…」

 

 

 そして本当にジャカジャカとギターを鳴らし始める落合。俺達はできるだけ気にしないよう、始まる寸前のゲーム画面へと顔を戻した。

 

 

「ふっ…では小早川よ!!ゲームスタートの合図をしろぉ!!」

 

「ええと…げーむかいししぃぃぃぃぃ!!!…でよろしいでしょうか?」

 

 

 

 

 

 ~~数分後~~

 

 

 

 

 

「………負けた…だと」

 

「「「…よ…弱い」」」

 

 

 ゲームを開始してしばらく、あっけなくその勝負は終止符を打った。1位が贄波、2位が古家、3位が雨竜、そして早々と筐体を故障させた俺は問題外という、実に解せない結果となった。

 

 ちなみに3位の雨竜と2位の古家とは…まさに圧倒的としか言えない差が広がっていた。敗因は言うまでも無く…ゲーム内でも法定速度を守ってしまった事だろう。

 

 

「雨竜君……あんたどんな縛りプレイしてるんだよねぇ……」

 

「ゲームの前提を覆す、斬新なプレイの仕方だったな…」

 

「……まさか時速40キロで競り合おうとは…逆に恐ろしい度胸に思えます」

 

「この世界の風には、君は少しリズムに乗りきれなかったのかな?はは、別に悪い事じゃ無いさ…この世には、適材適所と言う言葉があるんだからね」

 

「それに…ずっと、前のめりになって、運転してた、ね…」

 

 

 次々に浴びせられる様々な言葉に雨竜はぬぉぉぉぉとうなだれる。途中から観戦に徹していたが…確かにへっぴり腰な運転模様であった。…ゲームなのに。

 

 ていうか…そんなことよりもだ。

 

 

「なあやっぱり、俺の筐体壊れてないか?」

 

「…折木君、は、これ以上、機械には触れない、方が良いと思う、よ?」

 

「あの…私も、同意見かと存じます…はい」

 

 

 きっぱりと、お前は機械に触るなと言われてしまった。何だろうか…2回目の裁判くらいに傷ついた感じがリフレインしてきたように思えた。

 

 

「うむむむむ…このままではワタシの不敗神話に泥がついたまま…であれば、やはりここはリベンジマッチとしよう……贄波、そして古家よ…それまで首を洗って待っているのだなぁ………」

 

「あ…あのざまで不敗神話を語り継いでいたのかねぇ…」

 

「ふっ…一度も勝負していなければ誰でも不敗神話を語れるのだよ…」

 

「凄まじく無理矢理な理屈を並べられたような気がしました……」

 

「…そのリベンジマッチの中に、俺は含まれていないんだな……」

 

「まず貴様はスタートラインに付けるように善行を積んでおけ…」

 

 

 善行って……俺ってそんなに悪徳を積んできたのだろうか……。

 

 

 俺はまた、小さなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア3:観覧車】

 

 

 ゲームセンターから少し離れ、エリアの中央付近へと戻ってきた俺達。その目の前、エリア3のシンボルであるタワーの隣、負けずとも劣らない見上げるほどの大観覧車がそこに堂々と佇んでいた。

 

 しかし、アトラクションは佇んだまま微動だにしておらず…この施設も準備中であることがよく分かった。。

 

 

「やはり!遊園地と言えば観覧車!!ですが…ピクリとも動いてくれないとは……楽しみにしていた分残念です…」

 

「ああだけど、素晴らしいね。動かずともこれほどまでの美しさを備えているなんて……まさに人が作りし至宝とも呼べる傑物だよ」

 

「落合…お前…観覧車好きなのか?」

 

「はは…その答えは…君達がよく知っているはずさ」

 

「知らないから聞いてんだけどねぇ…」

 

 

 ココまで聞いてるのに…好きなものすらストレートに言えないとは…。だけど好きなことに変わりは無いようで……落合の意外な好みが見られた気がした。

 

 

「だが…動かないのであれば巨大な鉄くずに変わらん下らんものよ…さっさと行くぞ」

 

「なぁに、永遠に吹かない風が存在しないように…佇むだけの観覧車もまた、存在しないのさ…時を経ることで君達もこの美しさをしることになるはずさ。歴史を重ねることで人々の賞賛を手に入れた…名作のようにね」

 

「できるなら稼働してる間に賞賛をかって欲しいんだけどねぇ…」

 

「でも…好きなのは、わかる、ね?」

 

「はい!!そうですね!!!やっぱり愛って大事ですよね!!」

 

「どう転んだらそんな所に行き着くんだ……お前、その意味…分かって言っているのか?」

 

「…意味って…折木さん……もう…言わせないで下さいよ!!」ドスッ

 

「うごぉ……」

 

 

 照れながら…思いっきり腹をどつかれてしまった…。…一瞬何かが出てきそうになったが、何とか踏みとどまった。流石にココで出すのは不味い…。

 

 

「わわわわ…ごめんなさい…つい…恥ずかしくなってしまって……」

 

「いや…大丈夫だ…問題無い」

 

「流石毎日稽古してるだけ合って…相当力がついてきてるんだよねぇ…あれ以上の拳が来たら、悶絶では済まなさそうなんだよねぇ…」

 

「ふん…ワタシでは骨が折れているな…」

 

「…それは虚弱体質にも程があるんだよねぇ…」

 

「たまに、変なところ、で、かっこつけるよ、ね?雨竜君…って」

 

 

 腹を抱えて悶絶する俺を介護しつつ…一行はエリア最後の施設…モノパンタワーへと足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア3:モノパンタワー エントランス】

 

 

 …満を持して、俺達はこのエリア3のメインとも言えるモノパンタワーへと足を運ぶ段階となった。別に勿体ぶっていたわけではない。ただ、自然とココは最後にしようという、抑止力のようなものが働いた気がしたから、このように後回しになってしまったのだ。

 

 と何処へかも分からない弁明を並べつつ、俺達はタワーの中へと侵入していく。

 

 タワーに踏み入れてまず目についたのは、中心にそびえる巨大な観葉植物であった。その鉢植えの周りには取り囲むようにソファも取り付けられていた。見たところ、待ち合いか、もしくは休憩用のスペースのように見えた。

 

 中心から視線を外し、壁際に目を向けてみると、売店らしき店が4つ、そして店と店の間にはトイレがあった。店の方は営業をしている様子は見えないが…トイレの方は使えるらしい。まぁ使えなかったら逆に問題だと思うが…。

 

 

「シンボルとは言っていたが……至って平凡なエントランスって感じだな…」

 

「…はい…安心半分、肩透かし半分のように思えます」

 

「あたしゃ何にもなくても安心10割なんだよねぇ…」

 

 

 そんな当たり障りのない構造を見て、身構え損だったと、お互いに肩の荷を降ろす。そう思えるくらいには、気になる場所は殆ど見受けられなかった。

 

 

「…でも、この扉は…」

 

「何なんだろうねぇ…」

 

「どう見ても…エレべー、ター、だよ、ね…」

 

 

 そう”殆ど”見受けられなかったのだ。俺達が入ってきた入口の対面に位置する場所には扉があった。一見、何の変哲も無いもに見えたが…、扉の横には上下を示すボタンが付けられ、さらに階数を示しているであろう数字が扉の上に表示されていた。贄波の言うとおり、それはエレベーターの扉そのものであった。

 

 恐る恐るボタンを押してみると、矢印は光りを発し、そして滑車とワイヤーの摩擦音が扉の向こうで低く響き始めたのが分かった。

 

 

「…動くみたいだな」

 

「そりゃあ、上はあるはずだよねぇ…タワーなんだからねぇ…はぁ、気が休まらないんだよねぇ…」

 

 

 ざわざわと胸騒ぎがよぎる中、エレベーターは音を立て、俺達の目の前でその口を開け放つ。

 

 

「ふぅ…行ってみる他あるまいな…探索できる所は探索し尽くす…ただそれだけだ」

 

「口を開き、天上へと誘う鉄の箱。何があるのか、何が僕らを待ち望んでいるのかとても楽しみだね」

 

 

 別段代わり映えしないただのエレベーターのようではあった。だけど、どうしても裁判場の例のエレベーターを思い出してしまったが故に、俺達は入ることを、ためらってしまった。

 

 だけどそんなことではいけない…と俺達に自分自身に発破を掛ける。

 

 吸い込まれるように、扉の中へと入り、タワーの最上部へとエレベーターを動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

【エリア3:モノパンタワー 2階 『ダンスホール』】

 

 

 上から降りかかる微かな重力を堪能し終えた俺達は、動きを止めたエレベーターの扉を潜る。

 

 

「何ていうか、ありきたりな言葉だけど…めちゃくちゃ綺麗なんだよねぇ…」

 

 

 そして部屋の中に入ってすぐに、古家はそうこぼした。

 

 他の全員もそう思った。

 

 何故なら目の前に、余りにも豪奢かつ巨大な『シャンデリア』が垂れ下がっていたのだから。壁から生えた4本のチェーンが根元に集中し、落ちないようにその巨体を支えていた。

 

 さらに見てみると、そのシャンデリアが付けられている天井は、なんと『ガラス張り』であった。理由は今のところ定かでは無いが……このおかげでエリアの空を、この目で間近で確認することが出来た。今俺達が、手を伸ばせば届くほどの高さにいる…そう教えてくれているようだった。

 

 

「それではキミタチ!!注目!!!」

 

 

 案の上というかお決まりのように、フロアの中心からモノパンはまた姿を現した。目的は、やはりこの部屋について…初見でどんな役割を持った部屋なのかを見抜けなかった俺達に、説明を加えにやって来たのだろう。

 

 

「現れたか……では淀まず、先んじて質問をしておいてやろう……まずあのシャンデリアは何なのだ?何のタメにつけてある。そして何故天井がガラス張りなのだ?」

 

「ここって…どういう場所なのかねぇ…展望台かと思ってきてみれば…外の景色、空以外一切見えないしねぇ…」

 

「それにあの階段と、ここを囲むように取り付けられた足場は何なんですか?」

 

「あああーーもうーーーそんなにいくつも質問をぶつけないで下さイ……一個ずつ丁寧に答えていきますかラ…焦らず、ゆっくり、落ち着いて耳を傾けて下さイ。えーまずシャンデリアをぶら下げている理由ですが……それはここが、『ダンスホール』だからなのでス」

 

 

 ダンスホール?…要領を得なかった俺達は、そう単語を反復させた。

 

 

「はいそうでス。ここは巨大なシャンデリアの下で踊り狂い、そして星空をプラネタリウムが如く眺めながらアダルティックな雰囲気を楽しむ…そういう場所なのでス」

 

「あ、"あだるちっく"な…夜を……楽しめる…」

 

「なんだかそそられるん言い方なんだよねぇ…」

 

「どこがだ……」

 

「ふっ…まだまだあおいな折木よ。このようなローマンチックなスポットこそ、遊園地の醍醐味…色恋も知らん貴様では理解できん感覚だろうよ………ちなみにワタシは書物で知っていながら…そういった色恋を知らない……」

 

「むしろ、悲惨、だ、ね…」

 

「良いじゃないか…叶わ存在こそ人は求めて止まぬ物……世界に恋い焦がれる、風の旅人の僕もそんなちっぽけな存在の1人なのさ」

 

「こっちはスケールが違いすぎて、色恋じゃなく思想を感じるんだよねぇ…」

 

 

 モノパンのこのホールの使い方について聞いた途端、何故か食いつく生徒達。どうにもそういった経験が浅い故に、何となく理解に苦しむ。

 

 

「そしてこの階段と足場については、空をより間近に、そしてゆったりと楽しめかつ、エロティックな夜を堪能していただくために作らせていただきましタ…」

 

「「「エ、エロティック…!!」」」

 

 

 そしてモノパンの話に耳を傾けすぎている3人は、また前のめりになってモノパンへと顔を近づける。その光景を端から見ていた俺は、心底馬鹿馬鹿しく思えてきてしまった。変な気構えを持ってしまった、反動が来たのかも知れない。

 

 モノパンも、生徒達を煽るような事を続けているようで、これ以上の説明も無さそうに見えた。

 

 

「はぁ……そろそろ…探索は終わりにするか」

 

「今日はもう遅い、から、報告会、は明日、だ、ね?」

 

 

 

 それもそうだな…と、未だに驚いたようなリアクションをとり続ける3人は置いておき、俺と贄波はモノパンタワーを離れ、エリア3の探索に区切りを付けた。

 

 

 …ちなみに、落合は知らないうちに何処に行ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア1:ログハウスエリア】

 

 

 新たに開放されたエリア3、通称モノパンパーク。通常のエリアよりも広く、施設の数も…その殆どはまだ準備中であったみたいだったが、倍近く設けられていた…。

 

 そんな中でも、探索できる所は探索したし、手に入れられる限りの情報も手に入れた。だけど結局、脱出の糸口になるような答えは見つけられなかった。

 

 

「……はぁ」

 

 

 念入りとまではいかずとも、細かな箇所まで目を光らせているつもりであった。だけどまさか、脱出に繋がりそうな隙が、アリの巣一つほど見つからないなんて……。

 

 そう思うと、どうしても2回目の動機である『強制退出』…あれが無くなってしまった事を悔やんでしまう。長門が、あんなマネをしなければと、何度も思い返してしまう。

 

 自然と表情を暗くさせてしまう。

 

 もうどうしようもないことのはずなのに。いくら考えても、今を生きるということ以外…俺達に出来ることはないのに。

 

 あの出来事は、生徒達にとっても、俺にとっても、あまりに辛い痛みであったことが、染みついているようだった。

 

 

「こーうーへーいーくーーーーーーーん!!!!」

 

「どぅあっ!!!」

 

 

 そんなブツブツと影の落ちた思考をしていると、聞き覚えのある俺の呼び名と共に、腰の辺りに強い痛みが走った。その勢いは中々に強烈で、ギャグ漫画のように地面に顔からダイブしてしまった。

 

 

「……み、水無月…か…」

 

「そうその通りなんだよ公平くん!!貴方を照らすまばゆい女神!!水無月カルタちゃんここに見参だよ!!」

 

「女神にしては…慈愛もへったくれもない、…物騒な挨拶じゃないか?」

 

「ええー良いじゃんこれくらい。ほら、カルタ達ってここに連れてこられて以来の親友なんだし、軽いスキンシップみたいなものだよ!」

 

 

 いや軽いというレベルの小突きではなかった。完全に重いとしか表現できないドロップキックであった。どこの邪神ちゃんだお前は。

 

 

「そんなことよりもだよ公平くん!!!次のエリアって遊園地なんだってね!!!さっき司ちゃんに教えて貰ったときはビックリしちゃったよ!探索するときに何で誘ってくれなかったの!?」

 

「いや…お前、一日中何処にも居なかったし…」

 

「暇なときカルタはいつも部屋に居るんだよ!!忘れちゃったの?」

 

「普通に初耳だ」

 

「じゃあちゃんと迎えに来てよ!!」

 

「初耳と言わなかったか…?それに家まで迎えに来いって……幼少期来の幼なじみじゃあるまいし」

 

「幼なじみじゃなくても迎えに来るのが公平くんの役割でしょ!?」

 

「いや俺の身分理不尽すぎないか?」

 

 

 昨日のこともあったんだ。今日一日はそっとしておこうと、不器用なりに気遣ったつもりだったのだが…。彼女のこの様子からして、大人しく見守るという判断は少々悪手であったようだ。

 

 

 

「それにだよ!!公平くん今日のウチ、いろんな人とデートの約束をしたとかなんとかってことも聞いたよ!!」

 

「で、デート…って…俺としては、軽い交流のつもりだったんだが…」

 

「司ちゃんがそう言ってたよ!!」

 

「…あいつ」

 

 

 何だ…?贄波のやつ、やっぱりちょっと怒ってたのか?俺、何か悪いことしてたか?顧みてみても、当たり障りの無い関係は築けていたと思うのだが…。

 

 

「水無月…贄波の奴、他に何か言ってなかったか?」

 

「……別に怒ってないよ?…とか?」

 

「俺の思考が先読みされている…」

 

 

 あいつ、やっぱりエスパーか何かか?どこまで俺の考えが読まれている…?

 

 

「いや…贄波の事は置いておくとして………確かに、今日アイツらと約束はしたが…デートとは少し違うような…それに片方は古家だし。男だし…。」

 

「違わない違わない!!!どんなことであれ、遊園地で何かしらの約束をすることは全部デートって言うんだよ!!

 

「えらく偏っているな…」

 

「そんなうらやまけしからんことを…それもカルタを差し置いて~…ブーイングの暴風雨だよ!!」

 

「ブーイングの嵐な……」

 

「そこでカルタからも提案します!!テーマパークがまともに使えるようになったら、カルタともデートしてよ!!はい!決まり!!」

 

 

 細かにボケらしきものを拾っているウチに妙な約束を取り付けられてしまった。うむむ……ここまでくると何かしらの思惑を感じてしまうな……。

 

 まぁ。約束してしまった物のは仕方が無い。体の壊れない範囲でちゃんと守ろう。しかし……水無月の誘いに乗ったとして、何処へ行けば良いのだろうか。…何かしらのアテはあるのだろうか?

 

 

「ねぇねぇねぇねぇ…何処行く?何処行く?」

 

「いや、決めてなかったのかよ…」

 

「だって何があるか分かんないもん…」

 

「よくそれでデートしようと思ったな…」

 

「いやぁ……それほどでも…」

 

「はぁ…どこも褒めてない。…………じゃあ、ダンスホールでも、見に行くか?」

 

「だんす、ほーる?」

 

「新エリアに大きなタワーが建っていてな……その頂上に、シャンデリアのぶら下がった社交場のようなフロアがあるんだ」

 

「へぇ面白そう!!!じゃあそこに行こっか!」

 

「かなりアバウトに決めたが…良いのか?」

 

「公平くんが良いならモーマンターイ!だよ!……ええと次は日にちだよね……うーーーん……明日だと心の準備が出来てないから~~……明後日にしよっか!」

 

「ああ…そうするか」

 

「よぉ~し。そう決まるとなると何だか楽しみになってきたね!!じゃあまた明日ね!!」

 

 

 そう言った水無月は、手を大きく振りながら自分の部屋へそそくさと姿を消していく。

 

 

「相変わらずの直進ぶりだったな……」

 

 

 …だけど同時に元気そうで良かった、とも思えた。さっきも言っていたが、昨日の出来事は俺達の関係性に少なくない打撃を与えていった。そんな中で、水無月のあの調子を再確認できたことは、とても喜ばしいことだった。

 

 水無月以外の沼野や風切といった他の連中はどうなのかは分からないままだが……明日にでも何か話すきっかけを作って、様態を見てみよう。

 

 

 ――ニコラスが勝手に作り出した、わずかな溝。

 

 

 でも埋まるかどうかも未定のまま……この状況を、俺が、何が何でもどうにかしなければ。…そのために、あのエリア3をどんどんと有効的に活用していこう。

 

 

 俺は小さな決意を胸に、部屋に戻っていく。そして今日という日を締めくくるように、静かに寝息を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モノパン劇場』

 

 

「秋と言えば娯楽、娯楽と言えば、現実逃避…現実逃避と言えばテーマパーク!」

 

「ということでやって参りました新エリア、モノパンパーク!!」

 

「いやぁ…テーマパーク。絶叫マシーン、観覧車、ゲームセンター、迷子センター…実に様々な楽しみなことが連想できる…夢の集合体……言わば夢の国」

 

「そこででス。ミナサマ。…このように思い浮かべられる全ての施設の中で、"どれ"が最も集客できる施設なのか…ご存じだったりしまス?」

 

「……ここだけの話…"トイレ"なんでス」

 

「ええ?…ふざけるな?…くぷぷぷぷ、そんなことありませんヨ。考えてもみて下さイ?トイレはひっきりなしに人は入るし、時には長蛇の列が出来ますし、無かったらブーイングの嵐が吹き荒れるんですヨ?」

 

「これを人気施設と言わずして、どう表現すれば良いですカ!!ワタクシはそう言いたイ!!」

 

「ですが待って下さい……そう考えると……夢の国のシンボル…つまり、夢の代表格はトイレだっタ……?」

 

「………何だか、そう言われると…果てしなく夢の無い話ですネ…夢の世界なのに……」

 

「でも案外…それこそが夢の真実だったりするかもしれませんネ?」

 

「くぷぷぷぷ…くぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生き残りメンバー:残り12人』

 

【超高校級の特待生】⇒【超高校級の不幸?】折木 公平(おれき こうへい)

【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)

【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)

【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)

【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)

【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)

【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)

【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)

【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)

【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)

 

 

『死亡者:計4人』

 

【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)

【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)

【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)

【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)

 




お世話になります。頭を空にして、執筆してました。



【コラム】


↓エリア3の地図


【挿絵表示】



↓エリア3 各施設内装


【挿絵表示】



↓エリア3 ジョットコースター コース

【挿絵表示】

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