ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~   作:水鳥ばんちょ

25 / 42
Chapter3 -(非)日常編- 13日目

【エリア1:折木公平の部屋】

 

 

『キーン、コーン、カーン、コーン……』

 

『ミナサマ!おはようございまス!!朝7時となりましタ。起床時間をお知らせさせていただきまス!それでは今日も、元気で健やかな1日送りましょウ!』

 

『…とここでもう一つお知らせがございまス!!至急エリア3、「モノパンパーク」へお越しくださイ……それでは、それでハ…』

 

 

 朝の起き抜けにそんなアナウンスが部屋中を包んだ。眠気に気を取られ、少し反応が遅れかけたが…そのアナウンスは確かに頭の中に響いていた。

 

 

「……」

 

 

 言外に、パークが完成しました、そんなアナウンスだと思った。妙に嬉しそうに言っていたことも含めて、そうと思わずにはいられなかった。

 

 

「それにしても、ニコラスの言うとおりだったな…」

 

 

 ベッドに横たわり、朝特有のだるさを抱えながらそう呟いた。ニコラスの予想の通り、本当に今日のウチにパークは再開した。今までのモノパンの迅速さを考えれば、思い至るにたやすかったが…やはりひっかかるところはあった。

 

 

「………」

 

 

 だけど、そんな些細な事を考え込んでも仕方が無い。昨日取り決めたとおりに、エリア3の探索の再開しなければならない。それに加えて、知らずのウチに重ねてしまった約束も果たさなければならない。

 …正直な話、安請負をしすぎたと、もう少しスケジューリングに余裕を持たせるべきだったと、今更ながらに思えてきた。

 

 

「…はぁ……でも行かなきゃならないよな」

 

 

 俺はそう腹をくくるようにベッドから立ち上がり、急いで身支度を済ませる。そして、皆が待っているであろうエリア3へと向かっていった。

 

 

 

 *  *  *

 

【エリア3:入口】

 

 

 『至急』という言葉にあてられ早歩きでやってきたエリア3の入口には、俺以外の殆どの生徒達が集まっていた。殆ど後ろ姿であった故に、どんな面持ちかは分からなかったが…どこか落ち着かない雰囲気であることは分かった。

 

 その原因は勿論、そんな彼らの目の前にいる紳士の化け物モノパンである事は言うまでも無かった。

 

 

「折木さん…。おはようございます」

 

「ああ…おはよう…何か進展はあったのか?」

 

「いやぁ…それが」

 

 

 控えめに気付く小早川の隣にこそこそと移動した俺は、現状について聞いてみる。しかし微妙な表情でモノパンを見たため、何も始まってすらいないのだと理解した。

 

 

「くぷぷぷぷ…全員集合とまではいきませんでしたが…まぁ良いでしょう、なんら支障はないのでちゃっちゃと進めていきますカ」

 

 

 俺が来たタイミングでモノパンは集まった顔ぶれを眺めながらそう言った。見たところ、殆ど集合しているように見えたが…たった1人、ニコラスだけが集合していないことはわかった。 

 

 

「えーミナサマ、このようにお集まりいただいたことを心より、嬉しく思いまス…本日はお日柄も良く……」

 

「おーい御託は抜きにして…さっさと本題に入るさね!」

 

「…姉御の言うとおり、早くして。寝不足気味だからイライラしてる…」

 

 

 …えっ、なんで姉御?

 

 風切から出てきた思いも寄らない言葉に反応しそうになる。しかし、誰も反応していなかったので、そのままスルーしておくことにした。

 

 

「折角のパークの再開記念だというのに……初っぱなからこんな野次が飛んでくるなんて。ワタクシどれだけないがしろにされているのでしょうカ…」

 

「少なくとも人間という存在として扱っているつもりは無い」

 

「いやぁ、そもそも人間じゃないからねぇ…」

 

「要はアンタの長話は聞き飽きたってことさね!」

 

「ちぇー、分かりましたヨ。もう…徹夜してスピーチの内容考えたのに、キミタチの所為で台無しになってしまいましタ」

 

 

 …そう妙な罪悪感を俺達に押しつけながら、モノパンは切り替えるようにクルリと一回転、海を割ったモーセのように両手を掲げる。

 

 

「えー!ではミナサマ!今回の招集の理由は言うまでも無くエリア3こと『モノパンパーク』の全アトラクション営業再開をお知らせのためでス!」

 

「だと思ったでござる」

 

「ではまず、あちらをご覧下さイ!あの空中を龍が如く舞い踊ろうとするジェットコースターを!!」

 

 

 見てみると、確かにシンボルであるモノパンタワーの向こう側に、今にも落ちますよとじわじわと力を貯めるジェットコースターがレールを上っていた。そして瞬間、機体は滑りだし、コースターを豪速で駆け巡りだした。

 

 

「ふぉぉおぉ!!!めっちゃめちゃ早い!!楽しそう楽しそう楽しそうーーー!!もうワクワクが止まらないよ!!」

 

「むむむ…下らん…あのような俗まみれのアトラクション…乗る価値も見いだせんな…乗るならロケットであろう…」

 

「それはアトラクション域越えちゃってるんだよねぇ…」

 

「ですが、こんな遠くから見ても迫力満点としか言いようがありません!!」

 

「な、なあ贄波…あれに乗るのか…?」

 

 

 想像以上にハードな乗り心地の予感がした俺は、改めて贄波に話しかける。

 

 

「そうだ、よ?…ダメ?」

 

 

 ダメではないが…正気を保てるだろうか。もしくは、機体が故障してストップするのではないか。という不穏がよぎっているのが正直な気持ちだった。だけど”イヤ、ダメではない”としか、答えられなかった。

 

 

「…それで、です。モノパン」

 

「はいはイ、どう為されましたカ?雲居サン」

 

「このエリア3が完全に再開してることは分かったです。でも、何で態々アナウンスを使ってまで私達を招集したんですか?」

 

「確かに気になるでござるな。集めずとも、報告だけして放っておけば良い物の…」

 

「どういうことさね!モノパン、前置きは無しにしてさっさと答えな!!」

 

「くぷぷぷぷ、やはりそうきましたネ」

 

 

 そんな些細な疑問にモノパンは、待ってましたと言わんばかりに、口角らしき部分をつり上げる。

 

 

「何故なら、この記念すべきモノパンパークの完全開放に併せて。ミナサマの為に一つ、催しをご用意したからなのでス」

 

「催、し…?」

 

 

 笑みを崩さずモノパンはそうのたまう。俺達は、今までに無かった出来事に困惑と同時に、”何か思惑があるのでは?”と勘ぐった。自然と体は、身構える体勢となった。

 

 

「それは…一体何なんだ?」

 

「――――スタンプラリーでス」

 

「…す、すたんぷ?」

 

 

 想定していた催しに、思わず拍子抜けの声を風切が漏らす。俺や生徒達も例に漏れず、呆けた表情をモノパンに向けていた。

 

 

「ええ、そうでス。やはり遊園地と言ったらスタンプラリー!子供の事めちゃめちゃ楽しかったのに、成長するにつれて何でこんな事が楽しかったと考えてしまう筆頭のイベント!」

 

「わ、分かるようで分からないんだよねぇ…」

 

「カルタはまだ結構好きだよ!!」

 

「…貴様の脳内レベルで考えれば妥当だな」

 

「なーにおー!」

 

「まぁまぁまぁ…でも、どうして…」

 

「そちらについては後ほど説明させていただきまス。まず先に、こちらのそのスタンプを押すためのカードをお配りしまス」

 

 

 動揺を隠せない俺達にモノパンは1枚1枚丁寧に、それこそ電子生徒手帳を配布したときのように、手元にスタンプカードらしき紙が回していく。

 

 紙は5つの空き枠が設けられており……まあありきたりなタイプのカードデザインであった。

 

 

「それにしてもスタンプラリーとはね…アンタのことだからもっと派手な企画を用意してると思ったよ。例えばそうだねえ…殴り合いのデスマッチとか」

 

「僕らを僕らたらしめるための終わりのない音楽会も、魅力的に思えるね」

 

「えー!もうノンストップ耐久ジェットコースターはぁ?」

 

「どんな催しですカ!!キミタチは鬼か何かですカ!!コロシアイ好きなれど、拷問はワタクシの趣味ではありませン!」

 

 

 不本意ではあるが、ここはモノパンの言うとおりだと思った。ていうか、それお前らがやりたいだけだろう…。

 

 

「はぁ…では次に質問のあった何故?についてお話しさせていただきまス」

 

 

 コホンと、モノパンは咳払いを挟み、続けていった。

 

 

「このように、オリエンテーションを企画した理由としましてハ…ミナサマに、再開したアトラクションを満遍なく楽しんでいただきたいと思ったからでス」

 

「満遍なく…でございますか?」

 

「はイ。だった折角再開したのに、一度も楽しんで貰えないなんテ、悲しすぎて野生が目覚めてしまいそうじゃないですカ…。そうならないためのワタクシなりの粋な計らい、と捉えていただければ幸いでございまス」

 

「粋…?どぅあと?」

 

「どう見てもエンタメの押し売りですよ…」

 

「まぁ…物騒な要素がない分、今までよりマシでござるな」

 

 

 と、モノパンの言葉に苦言を並べる中で…モノパンは”具体的なルールについてですガ”…と再び続けていく。

 

 

「今話したとおり、ミナサマには今回開業したばかり、気球に射撃場、お化け屋敷、ジョットコースター、そして観覧車…それぞれの場所でスタンプを押していただきまス」

 

「…スタンプを押すというと…それぞれのアトラクションにそういったスタンプ台が設置されている…という認識で良いでござるか?」

 

「ノンノンノン…ノットグッドでス。忍者くん」

 

「…せめて名前を呼んで欲しかったでござる」

 

「良いですか?そんな台だけ置いていたら…楽しみもせずにスタンプを押して帰る輩が続出してしまうでショ?ちゃんと楽しみ終わった後に、ワタクシが直々にスタンプを押しに来まス。少々骨は折れますガ…」

 

「…思考が読まれてる」

 

「ちっ…対策してきたですか」

 

「いやあんたら本当にやる気だったのかねぇ…面の皮厚すぎなんだよねぇ…」

 

 

 雲居達だけではなく、他何人かから舌打ちをする音が聞こえた気がした。…いやウチのクラス、ものぐさな連中多すぎだろ…。

 

 

「ええー、そしてもう一つ大事な説明があるのですガ…」

 

「ねぇ~早く始めようよー、大事とか言ってるけどどーせ大した内容じゃないんでしょー」

 

 

 モノパンが何か含みを持たせた言葉を遮るように、水無月は我が儘を漏らす。しかしモノパンは、その”クマ―!!”と怒りを露わにする。

 

 

「だまらっしゃイ!!水無月サン!!本当に重要なことなんです、と・く・に!水無月サンにとっては朗報中の朗報なはずでス」

 

「むむむむむ…そう名指しで言われるとすっごーく気になっちゃうよ!」

 

「何と!!全ての枠を埋めたスタンプカードをワタクシに渡すと…スッペシャルなプレゼントと引き換えができるのでス」

 

 

 その言葉を聞いた途端、予言通り水無月は”ええ!!本当に!?”と目を光らせ、モノパンに詰め寄った。いや、扱われ易すぎだろう…変わり身の早い彼女を見て、そう思った。

 

 

「”すぺしゃる”なプレゼントですか……それこそ”すぺしゃる”な趣を感じますね!」

 

「ただ脳死でスタンプを集めるだけじゃなくて、ちゃんとご褒美があるってんなら…多少なりとも気合いが入るさね」

 

「確かに、モチベーションが上がってくるんだよねぇ」

 

 

 しかし、それは水無月だけに言えたことではなく…他の生徒達も同様に、楽しみな面持ちを持っていた。これを見ると、やはり超高校級といえど、思春期の高校生なのだな…そう思えた。

 

……まぁ俺もその思春期のまっただ中にいるのだが…。

 

 

「…あと言い忘れる前に行っておきますガ。スペシャルな物の中には、さらに一段上のスペシャルなプレゼントをご用意しておりますので、お楽しみ二…」

 

「もうスペシャルな横文字がインフレしつつあるんだよねぇ…」

 

「…漸次的に唯一性が損なわれてる気がしてならんなぁ…」

 

 

 そもそもそのプレゼントがなんなのか分からないのだから、喜ぶに喜べないまである。だけどモノパンがここまで渋るのだから、本当に特別なプレゼントであることは確信できた。

 

 

「一応聞いておくけど…その1番特別なプレゼントってのは、1番早くスタンプを集めたらとかで、受け取る奴を決めるのかい?」

 

「…いいえ、誰が受け取れるかはランダムとなります…言ってしまえば、ワタクシの気分次第という事でス」

 

 

 …何ともモノパンらしい決め方だと思った。だけどその個人的裁量に、何人かが”じゃあ、急がなくても良いのか…”と安心した声が聞こえた。

 

 …そんなに楽しみなのか…。まだ何が手渡されるのかも分からないのに…。俺は驚愕した。

 

 

「くぷぷぷぷ…良い感じにバイブスが上がってきたようですネ。では要望通り、開演の時間と致しましょうカ…ミナサマ、夢のような良い一日をどうかふるってお過ごし下さいまセ…それではそれでハ…」

 

 

 全てを言い終えたモノパンはマジックのように姿を消していく。いつ何時、見ても見事な瞬間移動だと今更ながら思った。

 

 

「……はぁ…帰りたい」

 

「いきなりバイブスが急転直下しちまってる人がいるんだよねぇ…今までの盛り上げを無に帰す初動なんだよねぇ…」

 

「たっく…仕方ないやつさね…昨日みたいにアタシが気合い入れといてやるよ…」ゴキゴキ

 

「…」シュッ

 

「えっ…何で拙者の後ろ…?頼ってくれてる?もしくは盾扱い?」

 

 

 間違いなく後者であろう。だって服を掴んで逃げられないようにしてるし。

 

 

「よーし!!それじゃあ皆!陰気な雰囲気なんて吹き飛ばして、頑張って、スタンプを集めよーーう!!」

 

 

 そう言って水無月は再度盛り上げるように、片手を高々に上げる。しかし、その様子に雨竜が”おい!”と怒気を孕んだ声を出し、制止した。

 

 

「水無月、あまり羽目を外しすぎるなよ…これはレクリエーションという名は被っているが、本来は調査が目的だ。何か脱出のヒントらしき物が見つかれば、すぐに報告するのだ…良いな!!」

 

「大丈夫大丈夫、ちゃんと探索もやっておくから……それじゃあ公平くん!!用事が終わったらタワーで会おうね!」

 

 

 そう言って、羽を広げるようにパークの西エリアの方へと向かってく水無月。本当に分かっているのかどうかは、怪しい返事に思えた。

 

 

「たっく腕白娘が…年齢を考えろ年齢を………」

 

「まぁ、暗い顔のまま過ごされるよりは数倍マシなんじゃないかねぇ…」

 

「ええ。元気なお姿を見られて、私も嬉しいです。あっ!折木さん!!私も気球の発着場でお待ちしておりますので!どうぞ、時間が空いたときにでも…」

 

「ジョットコースター、も、忘れない、で、ね?それじゃあ、行こ?雲居ちゃん…」

 

「はぁ、何か裏技とかないんですかね……ないですよね…」

 

「…まだ、模索してるん、だ、ね…」

 

「ああ…もう皆行っちゃう感じなのかねぇ…だったらあたしも流れに乗って、行っちまうとするかねぇ……折木君、あたしとの約束は……いや、ぶっちゃけ来なくても大丈夫だから…それについては折木君に任せるんだよねぇ…」

 

「人は何処へ行くのか…彼方の向こう側か、それとも内側か……僕はどこへむかうのかって?それは、風の向くまま、気の向くまま、さ」

 

 

 水無月に続き、次々とアトラクションの方へと吸い込まれていく生徒達。一応調査という深刻な目的もあるが…それほど堅い雰囲気は見られず、リラックスしているように見えた。

 

 それを見て、俺自身も、久しぶりに変に力を入れずに楽しめそうな予感が出てくるようだった。

 

 

「馬鹿やろお!!沼野ぉ!!!今気合い入れようととしてるんだ!!避けんじゃないよ!!!」シュッシュッシュッ

 

「ええ!!何で!!拙者が!!理不尽!すぎで!ござるよ!!…風切殿!隠れるの!!止めて!!いただきたい!!」

 

「…後は頼んだ」

 

「風切殿おぉぉぉぉぉぉぉぉ…!!そんなご無体なぁあああああああ!!!」

 

 

 それにしても…アイツらは一体何をやってるんだ…。いきなり朝稽古の続きを始めてるぞ…。しかももの凄い迫力で。

 

 あまりにも常識外れな取っ組み合いをしてる姿に、俺は一ミリも理解を示せなかった…。だけど少なくとも、一切関わらないことが最善策ということだけは理解できた。

 

 

「…俺も、そろそろ行くか…」

 

 

 俺自身も、本腰を上げてパークを見て回ろうと、フンっと意気込んだ。

 

 

 

「さて…どこから攻めていこう――――」

 

 

 

 …調査の他に、約束も重なってるからな…柔軟に、尚且つ丁寧に遂行していこう。ニコラスと反町の忠告の通り、慎重に…な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア3:気球発着場】

 

 

「折木さん!!お待ちしておりました!!」

 

 

 気球の発着場に着くなり、小早川が晴れ渡るような笑顔で此方を出迎える。俺はおうと、手を上げた。炊事場で何度も繰り返してきたやりとりだ。

 

 発着場の中央に目を移してみた。そこには、火を爛々と吹かす気球が屹立し、骨組みの部分には紐が巻き付けられ、空中に放り出され無いよう固定されていた。

 

 いつでも浮き上がれるよう準備されていることに驚いたが…しかし…。

 

 

「……思ったより小さいんだな」

 

 

 想像よりもこじんまりとしていたことに、驚きを持って行かれてしまった。

 

 

「そのようですね…モノパン曰く、おおよそ3~4人が限界だそうです!!」

 

「見た目通りの人数制限だな…」

 

 

 俺の予想ではもっと巨大な風船に、7~8人は乗れる籠が吊されている物だと思っていた。この発着場の広さから、そう思っても不思議ではなかった。

 

 

「何はともあれです!!広いと持て余してしまいますし。ち、近いのでお互いに話もしやすいですよ!!」

 

「それも…そうだな?」

 

 

 上手く良さが読み取れなかったが…彼女が良いのならそれで良いのだろう。

 

 

「では!!いざ、参りましょう!!」

 

 

 と、前向きに天に拳を上げ、さあ乗りましょうか…という流れになるが……その前に俺は待ったを掛けた。

 

 

「…?どうかなされましたか?」

 

「小早川。お前操縦の仕方わかるのか?」

 

「…も、モノパンに予め聞いて置いたので…大丈夫かと…」

 

「…何か不安げじゃないか?」

 

「あの…いえ…そんなことは…」

 

「本当か?」

 

「…………ちょ~っと説明が難しかった…ような?」

 

 

 俺は頭を抱えた。まさかそんなおぼろげな状態で乗ろうとしていたとは…このまま乗船しなくて良かったと思えた。仕方ないから、復習も兼ねてもう一度モノパンに聞いてみようかしら…そう考えていると。

 

 

「ふん…こんな事だろうと思ったわ」

 

「雨竜…」

 

「雨竜さん!」

 

 

 すると、端から見ていたのか呆れた様子の雨竜が此方に近づいてきた。

 

 

「お前…どうして」

 

「ふふふ…小早川の可哀想な脳みそを考えれば、貴様らがまともに運転できずにここで停滞することなど容易に想像できたのでな…助け船を出しに来てやったのだ」

 

「か、可哀想……否定できないのが悔しいです…」

 

「そこは否定しとけよ……だけど雨竜、気遣い痛み入る」

 

「ふはははは、泣いて喜ぶが良い!!!そして後悔しろ、この世の全てに許しを請いながらなぁ…」

 

「どっちだ…」

 

「どちらともだぁ!!」

 

 

 俺はまた別の意味で頭を抱えた。

 

 

「でも…助け船って事は…お前だったら完璧に操縦できるって事か?」

 

「よくぞ聞いてくれたぁ!!」

 

 

 えらく調子に乗った様子の雨竜が大げさな身振りを振りかざす。また始まった、と思った。

 

 

「貴様の疑問に、端的に述べてやろう!!」

 

「その時点で端的とは言わん」

 

「本当に、ワタシは完璧に気球を操縦できるのか?その通りだとも!!!」

 

「凄いです!!私ですら半分も理解できなかった部分を、100%網羅して仕舞うだなんて!」

 

「…今、半分って言ったか?」

 

「い、言ってません!!」

 

「そこは否定するのか…」

 

 

 もう何を肯定すれば良いのか分からなくなってしまってきた。

 

 

「何故ワタシがこれ程までの自分自身に絶対の自信を持ってるのかだって?それを愚問というのだ」

 

「だから端的に話してくれ。有言実行しろ…」

 

「良いだろう。何故なら、貴様らがここに来訪する前に、この雨竜狂四郎もまたモノパンから講習を受け、そして完全にマニュアルを理解したからだ!!」

 

「圧倒的に予想通りだな…」

 

 

 むしろそれ以外の方法が考えられない。

 

 

「だけど…やけに準備が良いんだな」

 

「ふはっ!」

 

「何故そこで笑う…?」

 

「なぁに。ただここへノコノコと現れただけでは、貴様らの空中デートを邪魔しに来ただけだろと、言われてしまう…そう思っただけの事……」

 

「く、空中デートだなんて…そんな」テレテレ

 

「……照れるところか…?」

 

 

 …段々小早川の感情の動きが分からなくなってきた気がした。いや、何と無くは理解できるのだが…。

 

 

「ワタシとしても邪魔者扱いはあまりにも不愉快!!であるが故に、貴様らを邪魔する大義名分として…このような圧倒的知識をぶら下げワタシはやってきたのだぁ!!!」

 

「もう裏の目的らしきことが露呈してるぞ」

 

「ふっ…気のせいだ…」

 

 

 コイツ、いつも以上に意味が分からなくなってきてる…!

 

 

「それに…知識不足による墜落で事故死など、それこそあってはならんことだからなぁ………むしろそちらの方が強い理由まである」

 

「「確かに……」」

 

 

 その妙に説得力のある理由に俺達は一瞬で納得してしまった。

 

 

「貴様ら本当に分かってるのか…」

 

「「あんまり…」」

 

「ぐぬぬぬ、この低脳生物共もがぁ……」

 

 

 何故か恨めしげに此方を睨む雨竜は、1度大きく呼吸をする。そしてまたキメ顔らしき表情で言葉を続けていった。

 

 

「まあ良い!!!改めて、この雨竜狂四郎。貴様らが進む天空の旅路の添乗員として花を添えてやろうではないかぁ!!」

 

「もっと控えめな添乗員の方が落ち着くんだがな…」

 

「だまらっしゃい!!」

 

「…すまん」

 

 

 あまりにも迫力があったのでつい謝ってしまった。

 

 

「さて、そろそろ出立の時間だ!!貴様ら死地へと赴く準備は出来ているかぁ!!」

 

「その表現は縁起が悪いぞ…」

 

「――御託は抜きだ!!いざ、のりこめえええええええええええ!!!」

 

「話を聞け……陽炎坂か、お前は…」

 

「あははは、賑やかな旅になりそうですね……はぁ」

 

 

 と、何故かため息を漏らしながら小早川そう言った。

 

 いや、賑やかすぎるだろ。と内心思った。

 

 

 俺達は雨竜のペースに巻き込まれないよう、ズルズルと籠に乗り込んでいく。固定用の紐を解くと同時に、炎の力で膨張した風船は、ふわりと浮かび上がった。

 

 今まで地べたを歩いてきたとは違うその不思議な足触りに、小さな緊張感と、高揚感が同時に心を覆った。

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

 気球を発進させてしばらく、俺はその立っているとも言い切れない感覚に文字通り浮き足立っている様な気分だった。

 エリアを上から見下ろす光景はとても新鮮で、落合のマネをしてるわけではないが、まるで鳥になったような気分だった。

 

 まぁ…実際は風船をくくりつけたでかい箱に乗るという、羽ばたくとはかけ離れた状態なのだが…。

 

 

「それにしても雨竜、聞いても良いか?」

 

「ぬわぅんだ?ワタシは知識人だ、何でも聞くが良い」

 

「一々余計だな…じゃなくて……気球って確か、風の力で動くんだよな?」

 

「ああ、原理としては炎を焚くことで空気を膨張させ、その火力よって高さをを調節する。そして天空の風向きを利用し、動く方向を決めている……その見解で間違ってはいない」

 

「じゃあ、この気球内で捜査するのは、その火力、つまり高さだけってことだろ?」

 

「ああ、そうだ。……それがどうしたのだ?」

 

「だったら…お前の前にあるその『操作盤』は何なんだ?」

 

 

 俺は雨竜の目の前にあるいくつかのボタンとレバーがついた操作盤を指さした。

 

 実は雨竜はこの気球に乗ってから、今言っていた炎を調節する操作は一切しておらず、代わりにその操作盤をイジることだけに集中していた。

 

 気球に乗るなんて初めての俺でも…彼は今、通常とは異なる方法で気球を動かしていることは明白であった。

 

 

「はい!そのことについてでしたら、私がお答えしましょう!」

 

「無理だなぁ」

 

「無理はしなくて良いぞ?」

 

「あんまりですよ!」

 

「……冗談だ」

 

「冗談というなら目をそらさないで下さい」

 

 

 冗談半分、本気半分だというのは口に出さないことにした。

 

 

「納得できませんが、話を戻しますね?ええと…この操作盤はこの気球の所謂”こんとろーらー”なんです」

 

「コントローラー?」

 

「ああ、これに付いているボタンを押すことによって火の勢いを調節し、ワタシが今握っているレバーを使って向きを調整する……簡単に言えばそんなものだ」

 

「…向き?お前さっき、気球は風の吹く向きで気球は動くって言ってなかったか?」

 

「折木さん、それは時代の最先端ではないんですよ…。この気球は、自然風が無くても動かすことが可能なんです!!…………でしたよね?雨竜さん」

 

「……折木、首を外側に出して、風船の横を見てみろ」

 

「今、無視をされたような…」

 

「ふっ、頭の悪いヤツは嫌いだからなぁ……わざとしてやったのだよ…」

 

「…………」ギュム

 

「んぎゃああああああ。貴様つねったなぁ!!ワタシは今操縦桿を握っているのだぞぉ!!」

 

 

 傍らで言い争いを始めた2人をほっておいて……俺は言われたとおり、籠から顔を出し上を見上げた。すると、気球の真横の部分に扇風機のような羽根のジョットエンジンが取り付けられているのが見えた。俺はつかさず、質問を重ねた。

 

 

「あれが風無しで動く理由か?」

 

「そうだ…あのエンジンが動力となり気球の向きを決めているのだ」

 

「あんな小さなエンジンでどうにかなるものなんだな」

 

「どうにかなってしまってるのだから仕方ないであろう」

 

「それに、エンジンが小さいから、気球も合わせて小さいのかもしれせんね!」

 

「………それを加味しても破格の技術であるがなぁ…本当にどこからこんな技術が出てきたのやらだ…」

 

「こうやって操作盤一つで気球を動かせるから、モノパンの奴も”誰でも動かせる”って言ってたんだな」

 

「はい!!私程度でも出来ると、モノパンに言っていただきました!」

 

「おい小早川…そこはかとなく馬鹿にされているぞ」

 

「…そこに気付かんとは……本当に馬鹿だなぁ」

 

「馬鹿と何度も言わないで下さい!!!テストの成績はオール1でしたが、勉強をおろそかにするほど愚かではありません!!」

 

「努力を重ねているのならなおさら取り返しがつかんではないかぁ…」

 

 

 努力込みで成績なのだとしたら…もしかして、本当に取り返しの付かないレベルで学業が壊滅的なのかも知れない。

 

 

「あの……雨竜さん」

 

「今度は貴様か…ぬわんだ?」

 

「先ほどモノパンの説明の中で、最も理解できなかったことなのですが……”このボタン”って結局何なんですか?」

 

 

 小早川は指先で操作盤にある、ドクロマークがついてる怪しげなボタンを指さした。確かに、俺も気になっていた。だけど見るからに、触ってはいけない禍々しいオーラを放っていたため。どうにも聞けずにいたのだ。

 

 

「ふむ…これか…ワタシも気になって聞いてみたのだが……」

 

「はぐらかせれたのか?」

 

 

 少しだけ答えるの逡巡した雨竜に、俺はそう言った。ニコラスに負けず劣らずの勿体ぶり屋のモノパンだったら、分からなくもなかったから。

 

 

「…ううむ結果的にはそうだったのであろうが……奴はこのボタンの事を「シナバモロトモスイッチ」と読んでいた」

 

「…見た目通りに不穏さ満点のネーミングだな」

 

「絶対に触れない方が良さそうですね………押した後については…何とおっしゃっていのですか?」

 

「そこは折木の言うとおりはぐらかさされた。加えて奴は”押してからのおっ楽しミ~”と、歯を見せて笑いやがった…ふん!忌々しいパンダだ」

 

「不気味でございます…」

 

「なおさら押すのが躊躇われるな…」

 

 

 小早川の言うとおり、滅多なことでは押さないようにした方が良さそうだとはっきり思えた。小さな疑問は残りつつも、それ以上の会話は無く、しばらく空の旅は続いた。

 

 そんな中で、俺はちょっとした好奇心が湧いてきた。

 

 

「……なぁ雨竜…一瞬で良いから気球の操縦を俺にもやらせてくれないか?」

 

 

 やはり自分も男であるが故に、こういった装置というものには憧れを抱いてしまう。だからこそ、どうしても触ってみたくなってしまった。しかし――――。

 

 

「貴様も小早川の馬鹿が移ったか?それともクラッシャーの血が騒いだのか?…気球を墜落させるつもりなら、貴様1人の時にやれ」

 

「何故だ」

 

「あの、折木さん、私も命は惜しいので、できれば…というか絶対触れないで下さい…」

 

「何故だ…」

 

 

 折角だからやってみようと思っただけなのに…ひじょーに不本意な旅の終盤であった。

 

 

 *  *  *

 

 

「はいはいはーイ!短いながらも長い空の旅、ご苦労様でしタ~。ご褒美と言っては何ですが、スタンプを押していきますネ?さっさとカードを出して下さーイ!」

 

 

 気球の旅は終わりを告げ、無事に着陸を果たした俺達の前にモノパンが忽然と現れた。その手元には小さなスタンプが握られていた。どうやら、これでスタンプを手に入れる条件は満たしたらしい。

 

 俺達はそのまま素直にカードを差し出し、スタンプをポチポチと押していってもらった。

 

 

 すると――

 

 

「あの…折木さん」

 

「…どうした?」

 

 

 スタンプを貰って、よし次は何処へ行こうか。そう思ってた矢先、小早川に呼び止められた。

 

 

「その……」

 

「……?」

 

 

 もじもじとしながら何か言いたげな様子に俺は怪訝な表情を変える。

 

 …何を言い出すのだろうか、彼女の様子からついドキドキとしてしまう。もしかしたらと、思ってしまう。

 

 だけど――――

 

『アンタの事を元気づけようとしてるんさね』

 

 俺はそこで、昨晩の反町の言葉を思い出した。俺は妙に納得したような気持ちになった。

 

 

「ありがとう…」

 

「えっ…」

 

 

 俺はできうる限りの穏やかな表情でそう言った。俺からの言葉予想外だったのか、小早川は目を見開き、思わず笑ってしまいそうになるくらいに、表情を呆けさせる。

 

 

「俺を…元気づけようとしてくれたんだろ?態々、約束まで取り付けて…」

 

「…あ、はい!!そうです!!その通りです!!……折木さん、裁判の時から、ずっと、暗い面持ちでしたので…」

 

 

 アタフタと手をグルグルとさせながら、小早川は何故か取り繕うように投げ返す。

 

 

「……き、気付いていらしたんですね。その…私が励まそうって躍起になってたのを…」

 

「反町から聞いたからな。でも、そんなに心配を掛けてたとは思わなかった。気遣わせたみたいで…悪いな…」

 

「い、いえいえいえ!私こそ、もしかしたら……いらないお世話だったのかと…思ってしまって」

 

「いや…そんなことは無い…。今思えば…正直俺、裁判の後から気を張りすぎてた……」

 

「…折木さん」

 

「でも小早川のおかげで元気になれた気がするよ……だから、改めて言わせてくれ……本当に、ありがとう……」

 

 

 俺は丁寧に、頭を下げて感謝を表わした。大体45度くらいのお辞儀であった。

 

 

「ああ折木さん!顔を上げて下さい!!そこまでされると、何だか恥ずかしいです!!」

 

「す、すまん。こう気遣われるなんて慣れてなくて…どう言葉にすれば良いのかわからなかったから…つい」

 

 

 そう言って俺は顔を上げ、彼女と見つめ合う。何だかこの光景がどうにも不思議で、お互いに吹き出してしまった。

 

 

「ふふふふ…何だか、どっちが元気づけられてるの分からなくなっちゃいますね」

 

「ああ…そうだな。可笑しいよな…俺達もしかしたら似たもの同士なのかもな?」

 

「……そうかもしれませんね」

 

 

 本当に、ちぐはぐになってしまったようだった。だけど、彼女の真っ直ぐさが俺の心をほぐしてくれたこと…それだけは間違いなかった。

 

 

「でも、お前のおかげで、持ち直せた気がする…。その、良かったらでいいんだが…また、何かあれば誘ってくれ…」

 

「はい!喜んで!!」

 

 

 ……いや待てよ。この場合は俺から誘った方が良かったのだろうか?…でも見たところ。彼女は特に気にして無さそうだし……ううむ………まぁそれは後から考えるか。今は、今の幸福を噛みしめていよう。

 

 

「おい……!まさかこのワタシの存在を忘れている訳ではなかろうなぁ…!!」

 

 

 向き合う俺達の横から、まるで大木のような影がかかる。見てみると、今にも血の涙を流しそうなほど顔を食いしばる雨竜がそこに立っていた。

 

 

「すまん…ちょっと忘れてた」

 

「…申し訳ありません。私もです」

 

 

 似たもの同士故か、お互いに素直に言ってしまった。雨竜はさらに表情の皺を増やしていった。

 

 

「良いか貴様ら!よく聞けけぃ!!ワタシのあずかり知らぬ場で、人目も気にせず、みっともはずかしい交友を繰り広げるのは構わん…!!」

 

「いや…確かにお前のことを意識から外してしまっていたのは悪かった…でも――」

 

「どぅあがしかぁし!!ワタシの目の前で堂々と不純異性交遊のは断じて許さんぞ…!!断じてなぁ……!!」

 

「そ、そうでしょうか…私達、そういう風に見えてしまっていたでしょうか…」テレテレ

 

「小早川…お前もせめて言い返せよ…!」

 

 

 かなりご立腹名様子の雨竜と、どこに照れる要素があったのか体をくねらせる小早川。正直な話、収集の付かない状況であった。

 

 

「ふん!!やめだやめだ!!!こんな不愉快な気持ちで、スタンプラリーなどやってられるか!!!部屋に帰らせて貰う!!」

 

「え、ええエ~~ワタクシのモノパンパーク、楽しまずに帰ってしまうんですカ~そんなご無体ナ~」

 

「ひっつくな!!ワタシはこれから日課のお勉強の時間なのだ!!貴様などに構っていたら、叡智の具現化たるワタシの頭脳が風化してしまうわぁ!!」

 

 

 そう言って白衣をひっつくモノパンと格闘しながら…雨竜は何処かへと行ってしまった。…何だか悪い事をしてしまったような気がする。

 

 

 小早川も同じ事を考えていたのか、お互いに顔を見合わせて、苦笑いを漏らした。

 

 

 本当に、似たもの同士だな、そう改めて思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

【エリア3:射的場】

 

 

 ――――――パァンッ!!!

 

 

 俺が施設に入った瞬間、そんなかん高い音が、激しく響き渡った。

 

 

「な、何だ?」

 

 

 あまりにも聞き慣れないその破裂音に、何事かと思わずのけぞってしまう。

 

 見ると、施設の射場にはとても重たそうなライフル銃を構える風切の姿があった。足下には数発の薬莢が転がっており、先ほどの音は彼女の持つライフルから出た物だと理解した。

 

 そしてそんな風切の後方には感心するように首を縦に振る反町と、沼野が立っていた。

 

 

「す、凄い音だな」

 

「折木殿!はははは、本当に正しく雷が如き轟音でござった。拙者今でも耳がキーンと鳴り続けているでござるよ…」

 

 

 俺が入った来た事に気付いた沼野が手を上げて此方に手を招き寄せる。先ほど乱闘をしていたはずだが…どうやら事態は収拾しているようだった。

 

 

「それにしても、どこからどう撃っても百発百中じゃないか!流石超高校級の射撃選手さね!」

 

「…恐縮です」

 

 

 銃口の延長線上を見てみると、見事にド真ん中だけがぽっかりと空いた小さな的が煙をたゆたわせていた。確かに、ど真ん中を打ち抜いたのがわかる。さらに、足下の空薬莢からして、後に撃った弾も同じド真ん中に潜らせしまったのだろう。まさに超高校級の銃の腕前である。

 

 

 ――――だけどだ… 

 

 

「なぁ…風切っていつから反町に敬語になってたんだ?」ヒソヒソ

 

「言わずとも分かるであろう…昨日からでござるよ」ヒソヒソ

 

 

 2人に聞こえない様耳打ちをし合う俺と沼野。

 

 …昨日というと、確か反町、水無月、風切、沼野の4人で軽い探索に出かけた日のことだよな?

 

 

「まさか…探索中にか?」ヒソヒソ

 

「かなり無理に連れ回されていたでござるからな…その影響でござる。いやぁ…壮絶な時間でござった」シミジミ

 

「一応聞くが…探索しに行ったんだよな?」ヒソヒソ

 

「…でござる」ヒソヒソ

 

「壮絶って…どんな表現の仕方だよ」ヒソヒソ

 

「口にするのも恐ろしい光景でござった、あの水無月殿でさえ言葉を失っていたでござる」

 

 

 本当になにがあったんだ…。凄く気になるが…あまりにも怖くて聞くにきけなかった。

 

 

「十発撃って、十発ともど真ん中だなんて…人間業じゃ無いさね。風切、アンタ本当に天才だったんだね」

 

「自分、昔からこういうのが得意でしたから…」

 

「軍人かお前は……でも本当に凄いな」

 

「超高校級だし…普通」

 

「ただ食っちゃ寝てを繰り返す睡眠ロボットじゃなかったんだねえ!!」

 

「…恐縮です」

 

 

 あっ…反町以外の相手には通常通りなのか…。実に切り替えが面倒臭そうだ。

 

 

「でもどうやったらそんなに上手くなれるんだい?」

 

「…沢山銃を使って、経験しました」

 

「でも普通、銃なんて町中じゃ使えないんじゃないかい?…銃刀法違反、とかでねえ」

 

「家柄が銃を扱うとか…」

 

「どんな家柄だ」

 

「……いや、浮草の言ってることは…間違ってない」

 

 

 そうなのか?と再度確認してみる。彼女は頷いた。

 

 

「…ウチは元々猟師の家系だった。だから、銃は常に生活の側にあった」

 

「へぇ~狩人ってやつかい。そんじゃあ、その猟銃を使って山の獣を狩って生計を立ててたって事かい?」

 

「…はい…一応。家が山の奥の奥の奥でしたから」

 

「その家、遭難してないか…?」

 

「もはや辺境を飛び越えた秘境に住んでいたみたいでござるな…いやぁ何だか親近感が湧いてしまったでござるなぁ」

 

「アタシもだよ…山ごもりして心身を鍛えた時を思い出すよ」

 

 

 逆じゃないのか?普通。こいつら、いつもどんな生活してたんだ…?むしろ都会に住んでた俺の方が少数派ってどんなアンケートだよ…。

 

 

「でもWi-Fiは飛んでた」

 

「…思ったよりも都会風の秘境だったんだな」

 

 

 どうやって飛ばしてんだよ。本当にどんな所に住んでたんだ?逆に住んでみたいと思えてしまった。

 

 

「成程ねぇ…猟師として親御さんの手伝いをして、その道中で銃の扱いを学んで…ってことかい」

 

「…はい」コク

 

「何辛気くさい顔してるさね!中々できることじゃないよ!もっと胸張りな!」

 

「…恐縮です」

 

 

 お前はオウムか。さっきから恐縮しかしてないぞ。俺は内心ツッコんだ。

 

 

「成程……しかし、それなら何故今は射撃選手に転向を?銃を扱うのは同じでござるが、思いも寄らぬ所に着地しているような…」

 

「何か、理由があるのか?」

 

「……………言いたくない」

 

 

 ムスッとした表情で口を結んでしまった。無表情ではあるが、顔をしかめ、不機嫌になったのが分かった。

 

 

「話は以上……もう聞かないで」

 

「風切…?」

 

「………聞かないで」

 

 

 静かにではあるが、強い語調だった。何だか、これ以上は踏み込むなと、壁を作られたようだった。

 

 

「…そうかい。それなら仕方ないね。深掘りはしないよ」

 

「…助かります」

 

 

 反町も何となく踏み込んではいけないラインを見えたのか、これ以上聞かないと、そう言った。俺も沼野も習って、それ以上は言わなかった。

 

 小さく気まずくなってしまった中で…”ねぇ…”と風切が俺達に小さな声をかけた。

 

 

「私はもう撃ち終わったけど…他に誰かやる?」

 

「…なぁ沼野。一応聞いておくんだが…この射撃場でスタンプを貰う条件って…」

 

「折木殿のご想像通りでござる。ここでのスタンプのノルマは、あの的に何かを掠らせるというものでござる」

 

「…やっぱりな」

 

「あ、ちなみに拙者と反町殿はもう終わってるでござる」

 

「えっ…?お前も反町も銃を撃ったのか?」

 

「拙者は撃ってはいないでござるよ」

 

 

 話の結末が掴めなかった故に、再び”えっ?”と返してしまう。そんな俺を見かねたのか、反町が”あれだよ、あれ”と、反町は顎で。風切が貫いていたのとは別の的を差す。

 

 的のど真ん中には、黒くて小さな、手裏剣が刺さっていた。

 

 

「……お前がやったのか?」

 

「無論でござる!!忍者でござるからな!!」

 

 

 と胸を張る沼野。

 

 そう簡単そうに言うが…この射場から的まで20メートル位の距離くらいあったはずだ。忍者屋敷の手裏剣体験場とは訳が違う。

 だのに…ここからど真ん中に突き刺すとは……どれだけ精密性と腕力を彼は持っているのだろうか…?

 

 

「でも銃弾じゃなくても良いのか?」

 

「とにかく当てれば良いらしいでござる」

 

 

 とするなら、野球選手だったらボール、やり投げ選手だったら槍でも良いわけが。…にしては自由形すぎる気もする。

 

 

「風切もそうだけど、沼野の手裏剣さばきも見事だったさね。アンタ…実は本物の忍者だったりかするんじゃないかい?」

 

「ふははははそれは企業秘密でござるよ!!……あ、すまぬ少々鼻が……はっ…はっ………ぶえっくしょん!!!」

 

「…ばっちい」

 

 

 盛大なくしゃみに、先ほどの得意気な顔はどこえやらと、間抜けズラを晒す。何か恰好が付かないな…。

 

 

「沼野は分かったが…反町はどうやって当てたんだ?」

 

「アタシはマシンガンを撃ってたら、適当に当たっちまったさね」

 

 

 マシンガン…?と怪訝な顔で的場を見ると、明らかにズタボロになった的が一つあった。恐らくも無くアレである。

 

 いや…どんだけ派手に撃ちまくったんだ…。ていうか普通にマシンガンって……本当に何でもありだな。

 

 

「…じゃあ、クリアできていないのは…俺だけってことか」

 

「てっわけだね。折木!男見せてきな!」

 

「…銃は何を使うの?」

 

「折角だし、ライフルでやってみるよ」

 

「丁度、指導役にピッタリな風切殿もいるでござるし…良い選択でござるな!」

 

「…うん、手取り足取り教える」

 

「…お手柔らかに頼む」

 

 

 

 俺はそう言って、棚に置いてあったライフルを取り出し…そしてゆっくりと射場にの台に銃を置く、ゆっくりと銃口を的に向け、そして一呼吸。片目をつむる………そして引き金を思いっきり引いた。

 

 

 ――――カチッ

 

 

 

「「「…………」」」

 

 

 何度も引き金を引いても、何も出てこない。これは……。

 

 

「…すまん、ジャムった」

 

 

 全員に冷たい目を送られた。だって仕方ないだろ…弾詰まりなんて予想が付かないんだから。

 

 ちなみに、他の銃を使ってみたが…軒並みジャムった。さらに視線が冷たくなった。精密機械の類いではなかったはずのだが…。

 でもこれは流石にモノパンの整備不足だろ…俺の所為じゃない……多分。

 

 

 ライフルが使えないと分かった俺は…何とかアーチェリーで誤魔化し、モノパンからスタンプを手に入れた。

 そこで分かったのは…俺って意外とアーチェリーの才能あるのかもしれない、ということだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 *  *  *

 

 

【エリア3:お化け屋敷】

 

 

「ああー…来てくれたんだねぇ」

 

 

 相変わらずおどろおどろしい、いやむしろ初めて来たときよりも湿度が高い雰囲気を放つお化け屋敷。その前に設置された待合所に古家は座っていた。

 俺が来た事に気付いた彼は、少し微妙な表情で俺を出迎える。

 

 

「悪い…待たせたな」

 

「あー別にそれほど待ってないから、お気になさらずねぇ……それにしても、大丈夫だったかねぇ?」

 

「何がだ?」

 

「ほら、あの子達のことだよねぇ…」

 

 

 あの子達、というと…恐らく小早川達の事だろうか。やはりというか、気にしていたのか。神経質な古家らしい心配の仕方である。

 

 

「いやぁねぇ…どうにもねぇ、部外者のような感じがしていたたまれなくてねぇ…」

 

「すまんな…何だか気を遣わせたみたいで。だけど、心配しなくても、アイツらはそんな細かい事を気にしたりはしない……多分な」

 

 

 そもそも怒らせたことは、覗きの件ぐらいでしかないので…彼女らの沸点は分かっていないのが本音だが。

 

 

「なら…良いんだけどねぇ…後で制裁があったらイヤだねぇ…」

 

「どんだけ後ろ向きに考えてんだ…むしろお前の方が先約のはずだろ…」

 

 

 別に不利というか、むしろ謝られる側のはずなのに…何とも不憫な性格である。

 

 

「そうだねぇ…気にしすぎない方が良いよねぇ。じゃあ、気を取り直すことにするんだよねぇ…」

 

「ああ、そうしてくれると助かる…――所で、このお化け屋敷のスタンプを貰う条件って…」

 

「あー先に説明があったんだけどねぇ…。ええっと…ここのスタンプは、入って出れば貰えるらしいんだよねぇ」

 

「だよな…むしろそれ以外の方法が知りたいくらいだよな…」

 

「ええっと…巣食うお化けを除霊できたら…とか」

 

「どんなエクソシストだよ…」

 

 

 古家と反町くらいだろ…そんなことできるのは。

 

 

「流石のあたしでも除霊はできないんだよねぇ…反町さんは分からないけどねぇ…暴力でアンデッド辺りは沈められそうだけどねぇ……」

 

 

 …出来ないみたいだ。でも反町については…完全に否定できないという方が怖かった。

 

 

「じゃあ、そろそろ行くとするかねぇ…」

 

「ああ、一応塩振りかけとくか?」

 

「……勿体ないから止めとくんだよねぇ。一応お経は読めるから…仮にも本物が来ても、多分大丈夫なんだよねぇ…」

 

 

 流石はオカルトマニア…心強い限りの言葉だった。

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

 所々に火の玉が飛んでいたり、うるさいくらいにモノパンとおぼしき笑い声が響く館の中。俺達は支給された懐中電灯を片手に、墓場のように演出された夜道を歩く。

 

 その道中――――

 

 

「なあ古家……」

 

「んん?何かねぇ?」

 

「気に触るかもしれないこと…聞いて良いか?」

 

「……内容によるんだよねぇ」

 

「お前って……”引きこもり”だったのか?」

 

「んががががっ」ズルッ

 

 

 隣で何かをブツブツと呟きながら歩く古家に俺はそう投げかけた。余りにも素直に聞きすぎたのか、躓かせるようなリアクションをさせてしまった。

 

 

「…すまん、やっぱりまずかったか?」

 

「イヤ…う~ん…いやぁ…まずかないんだけどねぇ、急に聞かれたもんだからねぇ…ビックリしちゃったんだよねぇ…」

 

 

 苦笑いをしながら、しょうが無いと声を漏らす。どうやら、自分の短所である無神経さが出てしまったみたいだった。…申し訳ない。

 

 

「おおっぴらに聞くような事じゃないし……2人になった時にでも話そうと思ってたんだが……」

 

「ははは…成程ねぇ…」

 

「昨日の朝に反町の朝稽古の流れの中で溢していた事が…どうにも気になってな」

 

「あ~…そんなこと口走ってた気がするねぇ…」

 

「ああ、口走ってた」

 

「…そこまで清々しく聞かれたら、もう答えるしかないんだよねぇ……うん…ちゃんちゃら嘘でもないからねぇ」

 

 

 古家は…視線を前から外さず続けていった。

 

 

「それに…折木君は友達だからねぇ、隠し事はできないんだよねぇ」

 

「そう堂々と言われると。何だか、むずがゆいな」

 

「今さっきの、お返しなんだよねぇ…」

 

 

 そうは言うが……それでも、その言葉は嬉しかった。

 

 

「…折木君は。幽霊って存在を信じるかねぇ?」

 

 

 一呼吸置いて、古家はそう聞いてきた。俺も同じく間を置いて、考えてみた。だけど…。

 

 

「…分からないな」

 

「だろうねぇ…多分、皆そう言うと思うんだよねぇ、諸説アリだからねぇ…」

 

「…雨竜辺りだったら、いないって断言しそうだがな」

 

「確かに、言えてるんだよねぇ…」

 

 

 ケラケラと笑いながら、そう同意してくれた。

 

 

「…あたしはねぇ…子供の頃、霊感体質って奴が強かったんだよねぇ…」

 

「霊感体質…?」

 

「人に見えない物が見える類いの人間…て言えば良いのかなぇ?…幽霊とかねぇ」

 

「この館に居る幽霊とは違うんだよな?」

 

「全然違うんだよねぇ…」

 

 

 俺のヘタな冗談を軽く流しつつ…しみじみとした表情を古家は浮かべた、。

 

 

「まだまだ幼さの抜けない子供のあたしには、わきまえってものがなくてねぇ…。見えないものを見えるって…信じてくれって周りに言い張って、他の子達に壁を作られてたんだよねぇ」

 

「……排斥されてたのか?」

 

「有り体に言えば、そういうのを"いじめ"、言うんだろうけど。あたしゃぁシカトされてたんだよねぇ…」

 

 

 古傷に触るように語るその中の”いじめ”という単語を聞いて、俺は長門の事を思い出した。脳がピリつくようだった。

 

 

「多分、長門さんの事を思い浮かべてるだろうけど…でも安心して欲しいんだよねぇ。長門さんのように中傷を受けたり、物理的に攻撃されたりはなかったからねぇ」

 

「そうか…」

 

 

 とは言っているが、内心俺は全くと言って良いほど安心していなかった。古家のそれは、辛い記憶であることに変わりなかったから。

 

 

「でも、ヒソヒソと陰口をされる。仲間ハズレにされる……先生も力にはなってくれない。むしろ、避ける側に立っていた…なんてのはよくあったんだよねぇ」

 

 

 あれは…ツラいんだよねぇ………。まるで共感するように、古家は言った。俺は黙って、傾聴を続けた。

 

 

「だからあたしは自然と、学校がイヤになっちまってねぇ…」

 

「それで…」

 

「…部屋にこもるようになったんだよねぇ」

 

 

 周りに理解されないからこその、排斥。人間誰しもが持っている、普通とは異なる人間に対して行う本能とも言うべき行動。彼はそれに耐えられなかった。外を嫌悪してしまうのも無理はない、俺はそう思った。

 

 

「でもねぇ…折木君。引きこもりってのは…普通に生きていく以上に、大変なんだよねぇ」

 

「…そうなのか?」

 

 

 塞ぎ込んだ経験の無い俺は、その言葉を理解できなかった。だからこそ、そう無神経に、聞き返してしまった。

 

 

「最初の方はねぇ、いろんなしがらみから解放されて、ああ良かったって……まぁ心の傷はまだまだ癒えてないから多少の恐怖心は残ってるけど、穏やかな気持ちになるんだけどねぇ」

 

 

 ”でもねぇ…”翻すような言葉で繋げる。

 

 

「それをずっと続けてくと、段々辛くなってくるんだよねぇ。自分はこのまま何もせずに、ずっとこの部屋の中で生を全うすることになるのかな…って、悲嘆に暮れちまうんだよねぇ」

 

「…確かに、それは辛くなってくるな」

 

「だから気付いたら、部屋でオカルトの研究を始めちまってたんだよねぇ…」

 

 

 ”何もしたくない”をしたくないから…。古家はきっと、そう思って何かを始めようとした。それがオカルトの研究だった。……でも。

 

 

「何でオカルトに手を付けようと思ったんだ……?正直、不登校になった原因みたいなものだろう?」

 

「あたしが引きこもっちまった原因が、自分は分かってるのに分かって貰えないってことだったからねぇ…それがどうしてもイヤで…そのトラウマを乗り越えるつもりで、ヘタながらにオカルトを勉強して存在を証明しようって頑張ったんだよねぇ」

 

「そして研究を続けた結果…」

 

「…超高校級のオカルトマニアなんて、変な称号を貰っちまっててねぇ…」

 

 

 まるでシンデレラストーリーを聞いているようだった。タダでは立ち上がらないその反骨心が彼をここまで導いたとするなら、これ程の美談はなかった。

 

 

「最初に…」

 

「…?」

 

「最初に、あの子と…長門さん会ったとき、あたし何となく……シンパシーのようなものを感じてたんだよねぇ」

 

「……」

 

 

 古家は明確に、彼女の名前を口にした。

 

 

「…最初は雰囲気だけで、何となくそうかなって、気のせいかなって思って……深くは踏み込まなかったんだけどねぇ…」

 

「…でも」

 

「うん……あの子の動機を聞いたとき…"ああ、どうして気のせいだって、思ってしまったんだろう"って思ってねぇ…」

 

 

 ―――深い後悔のこもった、言葉だと思った。言い表せない空しさが、心を包むようだった。

 

 

「世の中…ままならないもんなんだよねぇ…」

 

「古家…」

 

 

 彼女と殆ど同じ経験を持っていたからこその…言葉だと思った。何と声を掛けるべきなのか…いやきっと何も聞かずに、黙って聞くことが最善なのだろう。

 

 

「んが…」

 

 

 ――――すると。古家はふと、此方に見開いた目を向けた。…いやこれは俺でなはなく、俺の後ろを見ながら固まっているようだった。

 

 俺は恐る恐る、後ろを見てみると…顔面にゾンビメイクを施したモノパンが此方を恨めしそうににらみつけていた。

 

 

「んぎゃああああああ……やっぱり怖いんだよねぇーーーーーー!!!!」

 

「…古家」

 

 

 先ほどまでの寂寥感はどこえやらと、一目散に古家は暗い道の向こう側へと消えて言ってしまった。俺はポツンと、暗い夜道に取り残される。

 

 

「……そんなにリアクションされるとは思いませんでしタ。ファンシーをテーマにメイクしたのに」

 

「お前、本物だったのか…」

 

 

 ていうかファンシーって…お化け屋敷の醍醐味が消えてないか…?

 

 

 結局、置いてかれた後は、出口につくまでに古家と合流することはなかった。

 

 その後古家に、死ぬほど謝り倒されたが…とりあえず…大丈夫だからこの件は忘れよう、ということにし、モノパンからスタンプを貰った。

 

 だけど小さく”もう一度入ったらいけそうな気がするんだよねぇ…”と密かに聞こえた気がしたが……そのときは別の人とお願いしたいと思った。

 

 

 終わりに締まりは無かったが…古家との交友を深められたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

【エリア3:ジェットコースター乗り場】

 

 

 約束のために、ジェットコースターにやってきた俺は、そこで当の贄波と…付きそいと思われる雲居と合流していた。

 

 

「…早速、乗っていくか」

 

「うん、楽しみだ、ね?」

 

 

 俺と贄波はお互いにうなずき合い、入場しよう施設へ踏み入れようとした時……雲居はピタリと足を止めた。

 

 

「どうした、の?雲居、ちゃん」

 

「仲睦まじく入場しようとしている所で悪いですけど、私、これに乗るのは無理です」

 

「えっ…どうし、て?」

 

「乗り物が苦手なのか?」

 

「違うです」

 

「もしかし、て、肩身が、狭かっ、た?」

 

「それも違うです」

 

 

 じゃあどうしたのだろうか?もしかして調子でも悪いのだろうか…?そう思っていると、雲居は手元にあったジェットーコースターのパンフレットを広げ、此方に見せつけた。

 

 

「ジェットコースターの説明書き……それがどうしたんだ?」

 

「そうです。そんでパンフレットの…ココ、見るですよ」

 

 

 雲居は、パンフレットの右隅にある注意書きの部分に指を差した。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「……『身長140センチメートル以上の方しか乗れません』……雲居お前…」

 

「身長は130後半、少なくとも140は無いです」

 

「ああー…そうか…そうだったか…」

 

「……ごめん、ね。リサーチ、不足、だった…」

 

「別に問題なしですよ。問題があるのはこのアトラクションです…酷い身長差別を受けた気分ですよ」

 

 

 そういって入場口の柱部分に足を乗せる。どこからか、”ワタクシのアトラクションを足蹴にするなァ!!”と聞こえた気がしたが……気のせいということにした。

 

 

「でも、何、で…乗れないの、か、な?」

 

「きっと安全バーの問題ですね」

 

「安全バー?」

 

「多分ある程度の身長がないと、安全バーが肩に掛からないんですよ。かからないと、ジェットコースターに放り出される危険があるですから」

 

「…それは怖いな」

 

「だったら、なおさら、乗るのは止めた方が、良い、ね?…ごめん、ね?」

 

「さっきも言ったですけど…別に贄波達の所為じゃないですよ…ここのアトラクションが欠陥だらけなのがいけないんです。だから、2人で自由に楽しんでくるですよ」

 

 

 また”欠陥だらけとは何ですカ!!”と、また聞こえた気がしたが…やっぱり気のせいということにした。

 

 

「…ああ、ありがとう」

 

「じゃあ、行ってくる、ね?」

 

「んー」

 

 

 少々気まずい気持ちを引きずりつつも…俺達はジェットコースターに乗り込んでいった。

 

 

 

 ~~数分後~~

 

 

 

 

「だ、大丈夫?」

 

「…………」

 

 

 そのたった数分後…俺はベンチに腰を下ろし、膝に両手を乗せ、ズンと俺は俯いていた。そんな俺の背中を贄波がさすっていた。

 

 正直に話すと…大丈夫ではなかった。想像以上のGと不慣れな乗り物の極限の蛇行は、俺にとって相当な負担であったらしい。

 …まさか、あれほどまでの重圧を一身に受けることになるとは…。たかがモノパンの作った物と、タカをくくった罰が当たった気がした。

 

 

「ふん、神経まで老化してるですね…」

 

 

 降りてきた俺達と合流した雲居は、そんな俺を見て一言。

 

 

「老化ではない…ただ乗り物酔いをしただけだ」

 

「冗談ですよ……でもこれだけグロッキーになるなんて…乗らない方が良かった気がするですよ」

 

 

 確かに俺は気持ち悪さを巡らせていたが……雲居の言うように、正直乗らない方が良かったかも知れないと思ってしまった。だけど口には出さなかった。…流石に贄波に申し訳なさ過ぎるから。

 

 

「これ…飲、む?」

 

 

 そんな内心を抱えている中、贄波はどこから出したのか、ミネラルウォーター此方に渡す。

 

 

「ああすまん…」

 

 

 俺はありがたい、と受け取り、ラベルの貼られていないペットボトルを傾けて一口。…だけどその一口に”違和感”を感じた俺は、顔をしかめた。

 

 

「…ん?何か、変な味がするな…」

 

 

 化学物質の味ではなく、妙に自然臭い、というか…なんというか。少なくともミネラルウォーターの味ではなかった。

 

 

「えっと、多分…手作り、だから、かな?」

 

「…手作り?」

 

「何か、イヤな予感が漂ってきたですね……」

 

 

 少なくとも水は手作りする物ではないはずだが……。

 

 

「ペンタ湖、の湖水、を、ろ過して、作ったん、だ」

 

 

 俺は吹き出した。

 

 

「だ、大丈、夫?」

 

「うわぁ…気の毒に…」

 

 

 正直にもう一度言おう、大丈夫では無かった。 まさか倉庫から持ってくるとか、水道水を入れて冷やすでもなく…自然に流れる水を持ち出してくるとは…。

 何故ラベルが貼られていないのか、その理由が分かった気がした、心なしか、ちょっと茶色く見えてきた。

 

 

「ごめん、ね。つい、癖、で…」

 

「どんな癖だ…聞いたことが無いぞ…」

 

「…今までどんな生活してたんですか…」

 

 

 前々から思っていたが、彼女はサバイバーか何かだろうか…?実は原始時代からタイムスリップしてきたとか……。

 

 

「それは…ちょっと…言いにくい、かな?」

 

 

 贄波はたじろぎながら、そう拒否した。

 

 

「あ、あと、ね!お弁当、も作ってみたん、だ…!」

 

「…お弁当」

 

 

 流石の贄波もこの不穏な状況を察したのか…切り替えるように、小さな楕円型の弁当箱を取り出した。

 

 俺は過去に起きた悪夢のような昼食を思い出し、逆に不穏が加速するようだった。

 

 彼女は”どうぞ召し上がれ”と言わんばかりの笑顔で、弁当箱を開く。

 

 

 ――俺は表情を失った。

 

 

 そこら辺に生えていたであろう雑草のサラダ。そこら辺の木からとったであろう樹液のドレッシング。そこら辺に生えていた可能性の高いボロボロのキノコのソテー。そこら辺の泥のような色合いのゼリー。そして申し訳程度の白飯(何か湖水の匂いがする)。

 

 といった緑色と茶色と白色の献立が敷き詰められていた。

 

 明らかに倉庫から取り出したとは思えないラインナップであった。

 

 

「泥は、ちゃんと、落としてる、よ?」

 

 

 そういう彼女を見て、再び弁当に目を落とした。問題そこじゃなかった。いや…もう問題がありすぎて、どれが問題なのか分からないまであった。

 

 

「やっぱり、食べれそうに、ない?」

 

 

 いや、これを見て躊躇うなという方が可笑しい。だってそこら辺の匂いがするんだもの。いくら贄波の手作りという形容詞が付いていても、これは流石に……。

 

 しかしそんな躊躇する俺を見て、少し元気の無さそうな表情をする贄波に、チクチクとした罪悪感が募っていくようだった。

 

 

「折木、骨は拾ってやるですよ」

 

 

 雲居に肩を叩かれる。恐らく他人事だからと、適当に言っているのであろう。正直コイツの顔にぶちまけてやりたかったが…色々な方面に喧嘩を売りそうだったので早々にやめておいた。

 

 そんな風に、全部お前の為のものだからお前が完食しろと、雲居のいらないゴリ押しを受けた俺は……

 

 

「……………頂きます」

 

「うん!…めしあが、れ!」

 

 

 

 ――また虫のような食事に口を付けることにした

 

 

 ――やはり彼女の笑顔には、勝てなかった

 

 

 何とかかんとか弁当を完食した俺は、胃もたれとも違う究極の違和感を腹に感じつつ…ほくほく顔の贄波、そして目をそらし続ける雲居と別れ…次の場所へと足を運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

【エリア3:観覧車】

 

 

 スタンプラリーのチェックポイントの一つ、観覧車。俺はその目前に立ち、宙を見上げていた。

 

 

「…にしても大きいな」

 

 

 じわじわと回転を続けるその巨体を見て、改めて感想を呟いた。1度見て、そしてもう1度見て、また同じ事を言ってしまう位、本当にでかい。

 

 

「…乗るか」

 

 だけどじわりじわりと回り続ける観覧車を見続けてる程、俺は暇じゃない。

 

 長い時間をかけて回る故に、少し退屈かも知れないが…まぁ休憩するつもりで乗ってみる気持ちで乗り込もう。

 俺はそう消極的なことを思いつつ、観覧車の一部に乗り込んだ。

 

 

「それで――――何でお前が乗ってるんだ」

 

「さあね…僕が言えることは……このささやかな偶然の出会いというの大切にするべき、ということだけさ」

 

 

 そのたった一つに、ミスター神出鬼没の名を欲しいままにした落合が乗っていた。いや…どんな確率だよ。だけど、先ほどの少し退屈かも知れないという言葉は撤回しよう。むしろ、面白くなりそうな予感がしてきた。

 

 

「…そういえば…お前と2人だけというのも、珍しい話だな…」

 

「いついかなる時も、誰かと話すことに容易さは存在し得ない。だからこそ、僕達詩人は、詩を歌って、世界と繋がるのさ」

 

「繋がって、それからどうするんだ?」

 

「それはその時の僕に任せるさ。詞とはすなわち、心の歌だからね」

 

 

 相変わらずボールの投げ合いが出来てるのか出来てないのか分からない、何とものっぺりとした会話の滑り出しだった。

 

 

「折角の機会だ、歌じゃなくて、言葉で繋がってみないか?」

 

 

 だけどここで、はいそうですか、と言い切ってしまえば延々と沈黙が流れそうだった。それだけは防ぎたかった俺は、そう切り返した。

 

 

「へぇ…そそられる歌だね。じゃあ君は、どんなプレリュードを聴かせてくれるのかな?」

 

「…お前がどうして吟遊詩人になったとか」

 

「素晴らしいね。それは実に素晴らしい」

 

 

 何とか食いついてくれたみたいだった。俺は密かに胸をなで下ろす。

 

 

「早速、聞かせてくれよ」

 

「そうだね。…じゃあ始めようか…僕の回顧録をね」

 

 

 ジャラランとギターを鳴らす…今にでも歌い出しそうな様相であったが…今まで通り意味の分からない詞を紡ぐのだろう。紛らわしいモーションである。

 

 

「あれは、僕が赤子だった頃の話だ…」

 

「えっ…」

 

 

 俺は一瞬固まった。

 

 

「我が故郷とも言うべき、母なる海から僕は産み落とされた…あれはそうだね…まさに真の目覚めと言うべき――」

 

「ちょちょちょ、ちょっと待て…お前、どこから話す気だ!」

 

「それは勿論、僕の生誕からさ。ああ、ごめんね。精細を欠いていたみたいだ…前世の話からすべきだったよ」

 

「遡りすぎだ…それに前世に関してはもう妄想の域だろ…」

 

 

 また斜め下の切り出しに俺は、やはり一筋縄ではいかない、と内心戦慄する。何処まで本気なのか分からないことも含めて、本当に癖が強い。

 

 

「俺が知りたいのは、お前が吟遊詩人となった経緯だ。お前の出産記録なんて誰も知りたくない」

 

「ははっ、そうだね。もっともな指摘だ。人とのセッションは本当に学ぶことが多い。特に、君との問答は本当に面白いね」

 

「俺は疲れる」

 

「…君は冗談も上手いんだね」

 

「…冗談のつもりはないんだが」

 

「照れなくても良いさ。恥じらいは美徳、しかして過剰は卑下にも繋がる…」

 

 

 今までよりは言葉の理解はたやすいが…やはりやりにくい。それに、コイツには変なところで頑固な一面があるように思えた。

 

 

「ああ、そうだった…そうだったよ…僕が風を愛する風来坊となった起源を話すんだったね?」

 

「…そうだな。ちょっと忘れてた」

 

 

 …危ない。うっかりコイツのペースに巻き込まれるところだった。

 

 

「じゃあ先刻の添削を踏まえて…僕がまだ世界の広さも知らない、赤子同然の存在だったときのことからを話そう」

 

「まだわかりにくい…それは具体的に何歳ぐらいだ?」

 

「13の年月を数えていた事は記憶しているよ」

 

 

 じゃあ13歳くらいか。そこは素直に言って欲しかった…。

 

 

「この話をするのはいつぶりだったからな?覚えてるのは風が僕を連れ去ってから、初めてだったように思えるね」

 

「前座はもうやりきってるだろ……今話してくれ」

 

「ああ良いとも。友人の言葉は、僕の胸の内に――」

 

「まともに話せ…13から年齢が進めてないぞお前」

 

 

 本当に話が進まない。勘弁してくれ。

 

 

「そうだね…13の年月が流れてまもない春の始まりのことだったよ。…青臭く、そして脳みそも何もかもを生け贄にしたような僕はね…とある絵をみたんだ」

 

「絵…?」

 

「ムー〇ンという芸術品をね?」

 

「それアニメーションだろ」

 

 

 まあ芸術品には入るが…。ていうかコイツ、サブカルチャーに触れてた時期があるのか…。

 

 

「その中で僕は人生の師を見つけたんだ…」

 

「まさか…」

 

「ああ…スナフキ〇さ」

 

 

 …何となく予測は付いたが…まさか本当に言ってのけるとは。ていうか何でそこだけ素直に言うんだよ。

 

 

「僕は彼を見て世界の広さを知った…」

 

「思わぬフィルターを通したな」

 

「そして僕は、旅に出たのさ。小さな鞄とギターを片手にね」

 

「マジか…」

 

「マジだとも」

 

 

 つまりコイツは、アニメの影響で吟遊詩人の道に進みんだ、ということか…。客観的に見ても末恐ろしい行動力だな。いや、純粋さ、というべきなのだろうか。

 

 

「それで、旅に出た後は…どうなったんだ?」

 

「我が師と同じように、詞を歌ったさ…あらゆる町を巡りながらね」

 

「その時点でだいぶ逸脱した人生だな」

 

「はは…そうとも言えないさ」

 

「…どいうことだ?」

 

 

 そう言うと、落合は俺の瞳をのぞき込むように顔を近づける。

 

 

「君も――似たような物だろう?…とても曲がりくねり、人の道を外れたような数奇な運命を人生の中で辿ってきたみたいだからね」

 

「…俺はごく普通の人生だ」

 

「はは、目を見れば分かるさ……君の瞳には、とても複雑な、まるで自分自身すら見失わせるような暗闇が、霞のように漂い続けている。まるで君の心を包み込んでいるみたいだ……」

 

 

 …闇?…またコイツは…俺をおちょくっているのだろうか?

 

 またペースに巻き込まれそうになった俺は、怪訝な目つきで沈黙を返す。落合は、また誤魔化すようにギターを一撫でした

 

 

「少し…話が飛んでしまったね。どこから話したら良いかな?……この後の話というか、後日談を話すべきかな?」

 

「もう後日談か?」

 

「ああそうさ。何故なら、僕の人生に波こそあれ、波乱は存在しなかったからね。風にのって歌を歌い続けていたら…気付けばこの希望の園にきていたのさ」

 

「恐ろしい才能だな…」

 

 

 素直に旅をして、そのまま誰もが認める吟遊詩人とは…。末恐ろしいを通り越して畏敬の念を感じてしまう。

 

 

「僕の歌には…大した力なんてないさ…あるのはミュージック…この世の美しさを奏でる力だけさ」

 

 

 それだけでも充分だと思うが。だけどそれをものともしなからこその、超高校級なのだろう。

 

 

「折木君……どうやら……そろそろ時がきたみたいだ」

 

「えっ…?」

 

「この運命の輪はまた1度の生を終えようとしている。…お別れの時間さ」

 

「もう観覧車が一周したのか…!そんな時間が経っていたのか…」

 

 

 信じられないことだが、俺達が乗っている観覧車はまた乗り場の横に付けるための体勢になっていた。まさかコイツとの会話で時間を忘れるとは…これもコイツの才能だったりするのだろうか?

 

 

「…ああとても名残惜しい話さ、こんな時間が無限であったのならどれだけ嬉しいか…君もそうは思わない会」

 

「…………そうだな。今なら少しだけ、そう思えるよ」

 

 

 悔しいが、ちょっとだけコイツとの会話は楽しいと思えた。かなり寄り道は多い分、疲労は大きいが。

 

 

「……ははっ、涙が出そうだね。こんなしがない音楽家の僕との対話に、そんな言葉を向けてくれる何なんてね…」

 

 

 しかしその言葉は落合にとって予想外だったのか…少し目を見開くのが分かった。何だか彼の人間らしい部分が見られたような気がした。

 

 

「だけどだ…落合…ちょっと待ってくれ」

 

「良いとも、僕の流れる時間は常に自由、幾らでも待ってみせるさ…」

 

「それはありがたいんだが………お前もしかして、まだ乗ってるのつもりか?」

 

「至高は、何度見ても至高であるように…素晴らしき芸術は何度経験しても飽きはこないものさ」

 

「…1人でか?」

 

「旅人は、いつでも孤独なものさ。出会いの中にある相乗りはあっても、永遠の道連れは…僕の中には無いのさ」

 

 

 つまり、今まで、これからも…コイツは1人で、旅を続けていく。そいうことだろうか。何とも、寂しい話である。だけど、コイツがそうしたいのなら、俺もそれを尊重すべきなのだろう。

 

 …今乗ってるのは観覧車というのは、置いておくとして。

 

 

「……そうか、それなら仕方ないな。じゃあ、また相乗りしような」

 

「だとしたら、それほど嬉しいことはないね…」

 

 

 俺は落合を残し、観覧車を降りていく。

 

 最後まで彼は、手を振らずに、目をつむりギターを弾き続けていた…だけどそれが彼なりの別れの挨拶なのかも知れない。

 

 …縮まったのかどうか分からない交流ではあったが、少しは落合のことを知ることが出来た気がした。そしてもっと落合のことを知りたい…そう思えるような時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

【エリア3:モノパンタワー『ダンスホール』】

 

 

「おっ!公平くん!やっときてくれたんだ!」

 

「…約束だからな」

 

「もう待ちすぎて首がぐーんって伸びちゃうところだったよ!」

 

「大げさに言うな。入口で分かれてから、そんな時間は経ってないだろ」

 

 

 モノパンタワーの2階、ダンスホール。アトラクションなんてへったくれもない、タダ雰囲気だけの施設…そこで俺は、予め示し合わせていた水無月と会っていた。

 

 

「でも待ってる側って結構なが~い時間を感じちゃうもんだよ?」

 

 

 しかしお相手である彼女は、少々不満気味なのか。わざとらしき頬を膨らませて俺に抗議する。

 

 

「…待たせたなら…すまん。具体的に時間を決めておくべきだったか?」

 

「……ぷっ、本気で怒ってると思ってやーんの。カルタってば旅行のプランは時間も決めないで雑に立てる派だから、別に怒ってないよ?」

 

 

 どうやら今のは本当にわざとだったらしい。少し空回ったような気分だった。

 

 

「でもでも~よくすっぽかさなかったね、公平くん、今日ってば結構立て込んでたみたいだったのに…」

 

「他ならぬお前のお願いだから…すっぽかすわけにはいかない」

 

「うわっ!今の言葉ドキッてした!もしかして…これって不整脈…?」

 

「どういう着地の仕方をしてるんだ…」

 

 

 普通恋とか何とかだと思うが、そこは流石の水無月。落合ほどではないが、此方のペースをケラケラと笑いながら乱してくる。

 

 

「…ふふふ~、良いねー。こういう短いうやりとり、デートって感じする!」

 

「まだ言ってるのか……」

 

「カルタがデートって言ったらデートなの!」

 

「どんなごり押しだ…」

 

 

 デートかどうか何て、些細な問題のはずなのに…どうしてそこまで。そこだけは分からなかった。

 

 

「……それにしても水無月。何度も聞くようで悪いが…ココで良かったのか?本当に何も無いぞ?」

 

「大丈夫大丈夫、公平くんと2人で話したかったから誘ったんだし」

 

 

 妙に思わせるようなその一言に、普段ならどうってことはないのだが…。場所が場所なだけに、意識をしてしまう。勿論、表情には出さないようにはしているが…。

 

 

「…ジョットコースターもあったのにか?」

 

「ああいうのは1人で乗りたい派だから。別にモーマンタイ!」

 

 

 珍しい…というか、水無月にしてみれば意外な一面であった。

 

 

「ん~雑談も良いところに…折角2人になった訳なんだし…何話そっか?このまま何の中身も無い話を続けてもカルタは楽しいけど…」

 

「…前にお前の話を聞いたことがあるから…今度はお前の好きな話題で良いぞ」

 

「じゃあ好きな人の話とか?」

 

「……え゛っ」

 

「うん!!それによう!!」

 

「いや…」

 

「女子でも構わないからさ、誰か良いなーってあったりする?あっ、男子はダメだよ!……どうしたの?」

 

「…その話題は、無しにしないか?」

 

「え~何でも好きな話題で良いって言ったじゃ~ん。レギュレーション違反だぞ~」

 

 

 グリグリと指を俺の頬に押しつける。

 

 …正直ムカつく。

 

 なので俺はコイツの頭も同じく手でワシャワシャ仕返す。彼女はキャーと言いながら、楽しげに笑いながら受け入れる。…端から見れば、兄妹のやりとりに見えなくもないやりとり。

 

 

「だけど…好きな女性か…」

 

 

 確かに何でも良いとは言ったが…そんなパーソナルな話が出てくるとは思わなかった。普通こういう話題って、女子会とか男子会とかで話内容ではないのだろうか?俺はどう言って良いものか、と…使い慣れてない部分の脳を回し出す。

 

 

「友達として聞いてあげるから…ね?」

 

 

 揺さぶられながら、キラキラとした目を向けられる。どうにも断りづらい雰囲気になってきた。

 

 

「はぁ……分かった。だけど、周りにはあんまり言いふらすなよ?」

 

「やりぃ!公平くんの秘め事ゲット!」

 

「語弊のある言い方をするな…」

 

「ゴメンゴメン…っで?誰が気になってるの?」

 

 

 ここまで純粋に聞かれることには慣れないが…そうだな。

 

 

 ――――………。

 

 

 俺は決意をしたように、息を吐き、口を開いていった。

 

 

「1人だけ……居る」

 

「1人だけ…良いね良いね。そういうのもっと頂戴よ!…それで?誰の事?梓葉ちゃん?司ちゃん?」

 

 

 あえてその2人を出してくる辺り、コイツもしたたかだな、と思った。…だけど、残念ながらその2人では無かった。

 

 

「…………すまん。正確には…”居た”……だな」

 

「居た…?…何だか変な言い方。…どういうこと?」

 

「今はもう。この世にはいないってことだよ…」

 

「えっ…?それって…どういうこと?」

 

 

 きっと初めてだろう。こんな事を言うのは…。まだ誰にも話したことがない。本当の本当に、胸に奥底に秘めていた心の声。

 

 

「一番最初に、誰よりも早く…”殺された”んだ」

 

 

 今俺は、この世の誰よりも穏やかな笑みを浮かべていただろう。とても穏やかで、どこか寂しげな…そんな笑顔を。

 

 

「もしかして…」

 

「――――”朝衣”だ」

 

 

 密かに秘めていたものではあったが…友達として、聞いてくれる。そう思って、吐き出した。水無月は、本当に驚きだったのか…声も上げずに固まったまま此方を見ていた。それでも俺は続けていった。

 

 

「………覚えてるか…?朝衣と俺が初めてあったときのこと」

 

「う、うん。覚えてるよ。だって、ずっと側に居たもん」

 

「…俺はあのとき、アイツに見惚れてた。…一目惚れかは分からないが……充分な位、目を奪われてた」

 

 

 彼女は綺麗だった。整った顔立ちの多い女子生徒達の中でも、特に俺は彼女に目を惹かれていた。

 

 

「…」

 

「それからはアイツを見る度に、ドキドキしてた」

 

 

 ……もしかしたらそれは憧れに近い感情だったのかもしれない。凡人の俺にとって朝衣は、高嶺の花のような存在だったから。

 

 

「話すことは少なかったし、交流する場面は少なかったけど…いろんな側面を見ることが出来た………だから」

 

 

 でも…それでも朝衣と過ごした4日間は…彼女の人柄を知るにはあまりに短すぎた。だけど、仲間を思って先陣を切ろうとする彼女を見続けて……俺は。

 

 

「……不思議と好きなんだな。って思えてな」

 

 

 それがlikeなのかloveなのかどうかは、今はもう判断が付かない。…だってアイツはもう、この世には居ないんだから。後ろに居た仲間に、殺されてしまったから。

 

 

「俺はアイツがいなくなって…これからはもう、あのクールそうに見えてコロコロと変わる表情、途中までは完璧なのに詰めの甘いちょっと抜けた姿がもう見られないなんて…思うと」

 

 

 ――――どうしようもなく、胸が苦しくなるんだ

 

 

 今でも、涙が出そうになる。ちゃんと、あの裁判の後に、流しきったと思ったのに。あの湖で、気持ちに蹴りをつけたと思ったのに……付き添ってくれた贄波に申し訳が立たない。

 

 

「そっか…そうなんだ」

 

「ああ…少しずるい回答かも知れない……でも」

 

「自分の気持ちには嘘はつけない…って?」

 

「……」

 

「式ちゃんのことを…」

 

「好きだったんだろうな…って。いや、きっとアイツが生きてたら、好きになってたんだろうな…って」

 

 

 今となっては、こうやって憶測でしか思いは計れなかった。でも、確実に、そう思った。だって俺の気持ちなんだから…隠し事なんて出来ない。

 

 

「…………」

 

「水無月……?」

 

「――――かなわないなぁ」

 

「……何にだ?」

 

「ううん。何でも無い。気にしないで…ただちょっと予想外な展開だったから……」

 

 

 …?どういうことなのか、上手く掴めなかったが…首を振る彼女の言うとおり気にしないようにした。深く、追求するほどのことだと、思わなかったから。

 

 

「でも…やっと分かった気がしたよ」

 

「…何が…分かったんだ?」

 

「初めての捜査、初めての学級裁判……全部が初めてのことばかりだったのに。公平くんは誰よりも捜査を頑張って…裁判にまっすぐ向き合ってた……その理由がさ」

 

 

 どうして、凡人の俺の、どこにそんな度胸があったのか。理解できていなかった。水無月にそう言われて、何となく俺も納得できたような気がした。

 

 

「覚えてる?式ちゃんの部屋で、式ちゃんの日記を見たときのこと」

 

「…ああ。覚えてるよ」

 

 

 アイツがどれだけ俺達を導こうと躍起なっていたのか…それを痛感させられたあの日記だ。…忘れる方が可笑しい。

 

 

「あのときの公平くん…今にも泣き出しそうになってた。手元にあった日記をそのままくしゃくしゃにしちゃうんじゃないかってくらい…悲しそうだった。……それを見てカルタね、きっと自分なんかよりも…ずっと式ちゃんの死を…悔やんでるんだって…表情を見て分かったの」

 

「分かりやすい短所がそこにも出てたんだな……何だか、恥ずかしいな」

 

「公平くん…前にも言ったけど、分かりやすいって事はカルタにとって美点なんだよ。…だから、全然卑下することじゃないよ」

 

 

 今までに無いくらい…水無月は真剣な顔で、そう言った。俺は”そっか、そうだよな…”…苦笑しながら、頭を掻いた。

 

 

「…でも…安心したな」

 

「何が、安心したんだ?」

 

「皆、学級裁判のこと、全然話題にしないから……式ちゃんのこと、忘れようとしてるんじゃないかって…むりやり振り払おうとしてるんじゃないかって…思っててさ」

 

「そんなことは無い。誤魔化してる部分はあると思うがな…」

 

 

 きっと触れてしまったら…あの辛い記憶を思い出してしまうから。だから、皆……。

 

 

「でも…こうやって、直接公平くんの口から聞けて、本当に良かった」

 

 

 “涙を流してくれる人が…カルタだけじゃなくて良かったよ…”

 

 

 そう言って、満面の笑みを溢す水無月。俺も、目を細め、笑顔を浮かべた。

 

 

 しばし、沈黙。

 

 

「何かしんみりしてきたな…少し話題を変えるか。……お前は、誰が好きとは、気になるとかはあるのか?」

 

 

 俺は水無月から貰った質問を、そのまま返した。聞かれた彼女は”うーーーん。好き、か”と…俺以上に難しく表情を歪めた。

 

 

「まぁ、悩みどころだよな」

 

「…いやー。そういう決められないとかどうかの悩みじゃなくてさ」

 

「…?」

 

 

 どういうことだ?俺は首を傾けた。

 

 

「カルタってさ。そういう愛っていうの?…あんまり信じてないんだよね」

 

「信じて、ない?」

 

 

 思ってもみないその答えに、俺はさらに疑問を深めた。

 

 

「…ちょっと昔話…しても良い?」

 

「ああ、別に構わないが…」

 

「ありがと……あのね、昔話って言っても…カルタだけのじゃなく、カルタの家族の昔話ね」

 

「家族の…?」

 

「うん、カルタの家族。公平くんには、前にも家族の事には触れてたよね」

 

「水無月竹斗さん、だったよな…才能豊かなプロ棋士の」

 

 

 元・超高校級の棋士であり、生きる伝説として、今なお棋界でその才能を振るう、水無月竹斗。俺は、勿論覚えていると、頷いた。

 

 

「うん……そう。才能溢れた、ね。でもねとっても才能に恵まれてたのは、パパだけじゃないんだ…。ママもおねぇちゃんも…皆…カルタよりもすっごい才能にまみれてたの」

 

「姉に、母親も?」

 

「ママはね…元・超高校級の弁護士…だったんだ」

 

「その肩書きの時点で…母親も、もの凄いことが分かるな」

 

 

 棋士に弁護士…もう何と表現して良いのか分からないが……誰もがうらやむほどのエリート家系であることだけは理解できた。

 

 

「…肩書きだけだよ、ママは。希望ヶ峰学園でパパと出会った、学生結婚して、弁護士にならずに専業主婦になってたから」

 

「そ、そうか……弁護士の道には進まなかったのか」

 

 

 昨日聞いた雲居の話に出てきた人と同じようだ…そう思った。

 

 

「でも、学生結婚か。きっと才能がある者同士…惹かれ合うものがあったんだろうな」

 

「…あったのかな。よくわかんないけど……」

 

 

 何故か苦い顔で、水無月は怪訝に言葉を濁す。少し、気になったが…水無月は続けていった。

 

 

「まぁそんなわけで、才能溢れる2人の遺伝子が合わさって、お姉ちゃんとカルタが生まれたの。そして両親の思い通り…カルタはチェスプレイヤーとして、カルタのお姉ちゃんは特殊な能力を持って世の中に広まっていったの」

 

 

 ”両親の思い通り…”その言葉に引っかかりは覚えたが…それ以上に気になる言葉があった。

 

 

「……特殊な、能力?」

 

「所謂、瞬間記憶能力者、って言うのかな?何でも覚えて、何でも、いつでも、すぐに思い出せる…そしてその記憶は、”一生”無くならない」

 

「聞くだけでも…バグみたいな能力だな……」

 

「ほんと、バグみたいだよね。まるで神様から直々に渡されたような天才的な頭脳。…そんなおねぇちゃんは、去年『超高校級の記憶力』って肩書きで入学してるんだけど………公平くんは知ってる?」

 

「…確か、そんな女性が…いたような…」

 

 

 そういう人がテレビでチラチラ見かけたことは何度かあるし、ネットの掲示板でも僅かだが…情報が載ってたような…。ううむ、名前が思い出せない……なんだったろうか…日本のおもちゃと同じ名前があったような…。

 

 

「…でね、だよ?公平くん。カルタがしたいの家族自慢じゃなくて…愛について…忘れてないよね♪」

 

「そ、そうだったな。お前の家族が凄すぎて、一瞬、話の基点がぶれるところだった」

 

 

 本当に…別の意味でペースを乱されるところだった。危ない危ない…。

 

 

「カルタの家族は…確かに才能に満ちあふれてた…でもね………家族愛は、無かったの」

 

「…どういうことだ?」

 

「そのまんまの意味だよ。パパは将棋一辺倒で、休日には部屋にこもってばっか。おねぇちゃんは、記憶力の関係云々で、ずっと寝て過ごす……ママは、そんなおねぇちゃんにかまってばっか……」

 

「み、水無月?」

 

「パパが部屋から出てきたと思ったら…カルタを将棋で虐めてくる……おねぇちゃんは、何にも興味ないフリして…カルタのやってることには興味を示して、カルタのマネばっかしてくるし…ママは……そんなカルタに目もくれない」

 

 

 水無月はまるで拗ねたように…そうブツブツと家族の小言を連ね始めた。だけど、言葉を重ねていくウチに…段々と寂しそうに俯く水無月。

 

 だけど、すぐに彼女は顔を上げ、此方に作ったような笑顔を向けた。

 

 

「だからね、公平くん!カルタが言いたいのは…愛は確かに存在はするんだろうけど…誰しもが持ってるとは、限らないってこと!カルタの家族がその典型!」

 

「典型って…」

 

「そう……だから、好きな人って言われても、カルタ的にはあんまりピンとこないんだ……ごめんね、何かずるい回答しちゃって」

 

「いや…別に構わないんだが……でも…」

 

 

 彼女の言葉を聞いて、まるで渇望しているように思えた。愛はあるけど、でも手に入らないものだと…そう思ってるのに…欲しく欲しくてたまらないような、飢えてるような。子供っぽくも、だけど無くてはならない感情の揺らぎが、見て取れた。

 

 今まで俺は、分かりやすいと散々言われてきたが…水無月も、十分分かりやすい、そう思った。

 

 

「ふぅ……ああーー、スッキリした!!!」

 

 

 すると、水無月は立ち上がり、ぐぅっと両手を上げて伸びをしながらそう言った。いきなりそんな事を言うもんだから、俺は”どうしたんだ…?”と眉根を寄せた。

 

 

「何かさ今まで抱えた気持ちをさ、公平くんに色々話したら、だいぶ楽になった気がする。やっぱりカルタ、結構溜め込んでたんだねー」

 

 

 知らないうちに、何故か自己完結した彼女の姿に俺は戸惑いを隠せなかった。

 

 

「ごめんね?何か愚痴みたいになっちゃって」

 

「いや…問題は無いが…だけど。大丈夫か?」

 

「ん?何が?」

 

「いや…家族の事で悩んでたんじゃないのか?」

 

「え~別に~、確かに変な家族だったけど…それはそれとして受け入れてたから…全然深刻には考えてないよ?」

 

 

 だけど、水無月はなんてことも無いと、そう言い切った。彼女が良いのなら…それで良いのだろうか?俺は納得のいかないままであったが…そう考えておくことにした。

 

 

「でもね――――肩の荷が下りたのは、本当だよ?聞いてくれて、ありがと。公平くん」

 

 

 それでも、水無月は少し晴れやかな表情を浮かべていた。何となく、俺も安心するようだった。どうやら、俺の考えすぎだったみたいだ。

 

 

「またさ…溜まってきたって思ったらさ…こんな風に公平くんに話しに来ても良い?」

 

「ああ、いつでも良いぞ」

 

「良かった…何か、気が楽になった気分」

 

 

 そう言って、俺と水無月は軽い雑談を交わし合う。しばらく時間が流れ…そして俺達は別段不祥事も何も無くモノパンタワーを降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

【エリア3:入口】

 

 

「モノパン。枠を全部埋めてきたぞ」

 

 

 既定の設備を回り終え、スタンプを集めきった俺はモノパンにカードを渡した。約束を全て果たした上で、スタンプも集める……目的と手段が入れ替わった気もしなくもないが……十全な結果と思えた。

 

 

「はい!!承りましタ!!確かに……全部、回っておられますネ!!お疲れ様でしタ~」

 

 

 かつてこれ程までに嬉しくないねぎらいの言葉はあっただろうか。いやきっと、後にも先にもコイツだけだろう。それほどまでに、コイツの言葉には何も伝わってこなかった。

 

 

「…それで、お前の言うプレゼントってのは…結局何なんだ?」

 

「くぷぷ…それは明日になってのお楽しみでス」

 

「はっ?お前、朝、埋めきったカードを渡せば、引き換えるって…」

 

「別に、今日渡すとは一言も言っておりませんのデ」

 

 

 コイツ、また屁理屈をこねだして…。コイツはこういう奴だと学ばない俺にも、非があるにはあるが…。いい加減に止めて欲しい…。

 

 

「お前なぁ…」

 

「くぷぷ…クレームは事務所の電話を通してから…ということデ」

 

「事務所も、電話も何処にもないだろ…!」

 

 

 適当なことで誤魔化して…本当に今にも殴りたくて仕方が無い気持ちが満載だった。でも殴れば、校則違反、ジレンマである。

 

 

「まぁまぁ落ちついて…プレゼントは明日の朝、折木クンの机の上に置いておきますので…お楽しみ二…あっ、それがスペシャル中のスペシャルな品物なのかは…今は伏せさせておりまス」

 

「…はぁ。分かった…明日だな……期待しないでおくヨ」

 

「分かっていただければ、幸いでス」

 

「……なぁ、ダメ元で聞いてみるんだが、そのプレゼントの中身…今は教えられないのか?」

 

「…それを言ってしまったら。濁してる意味ないじゃないですカ…つまらない事聞かないで下さいヨ」

 

 

 キッパリと教えませんと言われてしまった。何故そこだけはぐらかさずに言うのか…その神経が理解できない……。…まぁどうせ碌でもない物だろう。モノパンのストラップとか…モノパンクッキーとか…。

 

 

「くぷぷぷ…そうとも限りませんヨ?」

 

「…どういう意味だ?」

 

 

 含みのあるその言い方に俺はいつも以上に表情をしかめる。息を吸うように思考が読まれたのは置いておくとして…とにかくその含みだけは聞き逃せなかった。

 

 

「どういう意味も無く、そのまんまの意味ですヨ」

 

「…それが分からないと、言っているんだが…?」

 

「くぷぷぷぷぷ……それは明日になってのお楽しみ……」

 

 

 そのオウム返しに、俺はまた深いため息をつく。これ以上は禅問答だ、時間の無駄だと考え”分かった、もう良い”…と突き放す。

 

 モノパンは”理解が早くて助かりまス”とまた揺さぶるような一言を重ねてくるが…今は我慢して、沈黙を貫いた。

 

 

「…さて良い時間となってきましたのデ、そろそろワタクシも撤退するとしますかネ」

 

「撤退…?閉園するのか…?」

 

「ええ、言うまでも無く…このモノパンパークは10時以降は営業停止に含まれる施設となりますのデ…」

 

「…成程」

 

「あっでも、一部の施設には出入りは可能ですヨ。お菓子の家とか、ゲームセンターとか…」

 

 

 いや、ゲームセンターは不味くないか?夜更かしする生徒が出てきそうな予感がするし…。

 

 

「そして忘れてはいけないのが…忘れられない夜を楽しんでいただくためのモノパンタワーは夜通しで入ることは可能でございまス」

 

「…一言余計だ」

 

「くぷぷぷぷ…と、これでは雑談はこれ位にして、ワタクシは業務に戻らせていただきまス…モノパンは朝も昼も夜もなく、働き続ける歯車なのですからネ。それでは、ばいっくま~」

 

 

 そういって施設の黒い部分を匂わせながらモノパンは姿を消していく。

 

 そんなモノパンに、いつも以上の疲れが与えられた俺は、真っ直ぐ自分の部屋に戻る。

 

 

 今日は本当に、生徒達との交流が濃密な時間であった。でも悪くない一日だった。

 

 

 どうか明日、明後日も…こんな日々が続きますように……そんな思いを胸に、俺は部屋で寝息を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モノパン劇場』

 

 

 

「思い出とは、2つの種類に大別することが出来まス」

 

 

「『良い思い出』と『悪い思い出』」

 

 

「これら二つに、記憶は分けることが出来ます」

 

 

「何にも無い、平凡な毎日。それは平和の証拠…良い思い出でス」

 

 

「誰かに怒られた、大切な物をなくした…それは自分にとってのエラー、悪い思い出でス」

 

 

「そしてその二つには残りやすさというものがありまス」

 

 

「『良い思い出』は、記憶に残りにくイ。だってそれらが人生の大半を占めているかラ…」

 

 

「『悪い思い出』は残りやすイ。だってそれらは人生のごく一部だかラ」

 

 

「しかし、悪い思い出を全てが全て覚えられる訳ではありませン」

 

 

「人間は忘れることのできる、唯一の生物ですからネ」

 

 

「ですが時に、人は本能的に思い出を忘れる事がありまス」

 

 

「何故なら、忘れてしまわないといけないかラ」

 

 

「忘れてしまうわないと……心が持たないから…」

 

 

「ではもしモ…」

 

 

「そんな絶望的な思い出したとキ…」

 

 

「思い出の鍵が開け放たれたとキ…」

 

 

「その人は自我を保っていられるのでしょうカ?」

 

 

「その人は…その人でいられるのでしょうカ?」

 

 

「実に、興味深いものですネ…」

 

 

「くぷぷぷぷぷぷ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生き残りメンバー:残り12人』

 

 

【超高校級の特待生】⇒【超高校級の不幸?】折木 公平(おれき こうへい)

【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)

【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)

【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)

【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)

【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)

【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)

【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)

【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)

【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)

 

 

『死亡者:計4人』

 

【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)

【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)

【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)

【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)

 

 




引き続いて交流回。
思った以上に長くなりました。




↓コラム


〇趣味(才能に関係すること以外)


男子
・折木 公平
⇒しおり作り


・陽炎坂 天翔
⇒水泳


・鮫島 丈ノ介
⇒野球観戦


・沼野 浮草
⇒農業(バイトではない)


・古家 新坐ヱ門
⇒落語を聞く


・雨竜 狂四郎
⇒プラモデル作成


・落合 隼人
⇒アニメ(ムーミ〇)のイベントに行く


・ニコラス・バーンシュタイン
⇒乗馬


女子
・水無月 カルタ
⇒お人形遊び(シルバニ〇ファミリー)


・小早川 梓葉
⇒和菓子作り


・雲居 蛍
⇒ヨガ


・反町 素直
⇒キックボクシング


・風切 柊子
⇒美化活動(ゴミ拾いとか)


・長門 凛音
⇒刺繍


・朝衣 式
⇒カフェ巡り


・贄波 司
⇒食糧調達
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。