ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~   作:水鳥ばんちょ

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Chapter3 -(非)日常編- 14日目

【エリア1:折木 公平のログハウス】

 

 

『キーン、コーン、カーン、コーン……』

 

『ミナサマ!おはようございまス!!朝7時となりましタ。起床時間をお知らせさせていただきまス!それでは今日も、元気で健やかな1日送りましょウ!』

 

 

 

 ――――午前7時、俺はいつものようにアナウンスの声と共に起き上がる。

 

 

 

「これは……?」

 

 

 すると、1つ…昨日まで何の変哲も無かった部屋の机の上に”封筒”が置いてあることに気付いた。

 

 やや幅の広い、書類やお金を入れるタイプの間くらいの大きさの封筒が置いてあった。

 

 一体何なのか…そう思った直後、封筒の傍らにメッセージカードが添えられていた。字は直筆ではなく、ワープロで書かれたようなフォントであった。

 

 

 

『よく頑張りました♡』

 

 

 カードには……見るだけで無性に腹の立つ一言が書かれていた。今にもこの封筒をゴミ箱に捨ててしまいたい気分にかられた。

 

 だけど活字のみでここまで業腹にさせるメッセージが添えられるのは…ただの一匹、考えこまずとも、モノパンからの贈り物だとすぐに分かった。

 

 またアイツは勝手に……。息をするように不法侵入を繰り返すパンダに辟易しながら、俺はため息を吐き、封筒を手に取った。

 

 

「…そうか、昨日のスタンプラリーの報酬か」

 

 

 手に取ってすぐに、この贈り物が一体何なのか、見当がついた。

 

 ”明日のお楽しみ”と、焦らされた…。そして分かったように”碌な物ではない“…と暗に表現していた報酬。

 

 それがコレ。

 

 

「とりあえず…見てみるか」

 

 

 別段、口にするような言葉では無かったが…モノパンのあの不気味な態度を思い出した俺は、微かな緊張を感じていた。

 何でも良いから言葉を口にして、と少しでも落ち着かなければならない…。そのためにあえて言葉を漏らした。

 

 あのモノパンからの贈り物であることを踏まえて、細心の注意を払って、封筒の口に手を添える。

 

 

 …まるで一番最初の、モノパンからの手紙を思い出すようだった。

 

 

 俺の場合は、『お前は超高校級の不幸です』なんて、今考えれば悪口のようなもので。イマイチピンとくることも無かった内容であった。

 

 だけど、――――周りは違った。陽炎坂は違った。だから第1の殺人が起こった。

 

 だからこそ、この鼓動を感じるときは大抵良いことなんて無い、そうすり込まれてしまった。

 

 だからこそ、心臓は激しい鼓動を繰り返していた。

 

 

「…」

 

 

 意を決して、その封筒の口を――――破った。

 

 中を探る。1枚の……とても鋭いような、冷たいような感触が手に伝わった。

 

 これは……”写真”だ。

 

 手触りだけでそう理解が出来た。

 

 中身を抜き取った。やはり写真だった…。丁度裏側だったから、その中身をすぐに拝むことはできなかった。

 

 一体……この写真には何が写っているのか?俺の盗撮写真か?それとも昨日の遊んでいるときの写真か?

 

 予想が付かない不安を払拭するために…あえて、平和的に、そう仮定する。

 

 ゴクリと…唾を飲み込み。ゆっくりと……――――写真を翻した。

 

 

 

 瞬間…――――息を呑んだ。

 

 

 

「――――――――――!」

 

 

 

 そして、言葉も声を、失った。

 

 

 

 その写真に写っていたのは…殆どが俺の予想通りだった。

 

 

 そう、殆ど。

 

 

 それはとても楽しげで、とても微笑ましてくて…まさに思い出といえるような光景がそこに写っていた。

 

 

 

 だけど、俺は喉も体も硬直させてしまった。

 

 

 

 だって、昨日の写真でも、今までの俺達の写真を写した物ではなかったから

 

 

 

 

 

 ――――”身に覚えがなかった”から。

 

 

 

 

 

 

 ――――見知らぬ”教室”の中で微笑み

 

 

 

 

 

 

 ――――――まるで旧来の友のように肩を組み合う

 

 

 

 

 

 

 ――――”俺達”が写っていたから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア1:炊事場エリア】

 

 

 

 ――――午前8時

 

 

 

 俺達は炊事場に集まっていた。一昨日とは違い、満遍なく、全員が。今まで孤高を気取っていたニコラスや、気まずいと応じなかった雲居でさえも、集合していた。

 

 緊急であったから。それに、誰もが意見を混じり合わせるべきだと思ったから。

 

 

 目の前に並べられた、”5枚”の写真について。

 

 

「…これに写っているのって…私達…ですよね?」

 

「ああ…」

 

 

 小早川が、確認するように、一言。

 

 

 ――――1枚目は、俺が受け取った、教室でのとある一場面。

 

 

 席の並べられた教室に、黒板で何かを決めあおうとしているような場面だった。

 

 

 だけど話合いなんてそっちのけで、俺達は自由に、怒っていたり、笑っていたり、慌てていたり、適当に過ごしていたり…様々な表情がちりばめられていた。

 

 

 

 ――――2枚目は体育祭の一場面

 

 

 体操着を着て、グラウンドで競走したり、木陰で一休みをする俺達。

 

 

 

 ――――3枚目は修学旅行らしき一場面

 

 

 

 浴衣を着て、枕投げをしていたり、月見をしている俺達。

 

 

 

 ――――4枚目は文化祭の一場面

 

 

 

 頭にかぶり物をつけて店を巡ったり、店で売り子をしていたりする俺達。

 

 

 

 

 ――――5枚目は冬山での一場面

 

 

 

 分厚いジャンパーを身につけて、スキーを楽しむ俺達。

 

 

 

「そうだね…どう見てもボクらだ」

 

 

 どれも、これも俺達だった。何気ない思い出の一ページ。アルバムのために取られたような、そんな写真が今、目の前にあった。

 

 その写真の中には――――。

 

 

「朝衣さん…陽炎坂、さん」

 

 

 黒板の前で、何かの評決を取ろうと声かけをする朝衣。本気で走りすぎて、体育祭で極限にぶれている陽炎坂。

 

 

「鮫島君…」

 

「…凛音ちゃん」

 

 

 俺や古家と無理矢理肩を組んで、カメラに向かって笑顔を浮かべる鮫島。写真の隅っこで、どーでも良さげに、空をぼーっと眺める長門。

 

 それぞれの写真に、亡くなってしまったはずの彼らも…当たり前のように収められていた。

 

 

「…………」

 

 

 それぞれの紙に映し出された、知らない俺達。…喜びに溢れた、ありえないはずの俺達。

 

 

 のぞき込む俺達は…反して、激しい動揺に溢れていた。

 

 

 

 ――いつ、どこで撮られた?

 

 

 ――どうして死んだアイツらも写っている?

 

 

 ――そもそも何で俺達が写真の中に?

 

 

 

 答えの出せない疑問が、脳内で飛び交う。これは何なのだと、脳は回り続ける。

 

 

「えと、えと…ええ?なになに、なんなの?…カルタ達って、誘拐されてるん…だよね?だから、だから…」

 

「ああ…その誘拐を覆す方法を模索していた…」

 

「はぁ…頭が痛くなってきたですよ」

 

「くっ、また面妖な…」

 

 

 俺達は、ココから脱出する術を考えていたはずだった。ココが何処なのかを理解するために動いていたはずだった…だのに。

 

 

 また大きな疑問が、俺達の中心に投下された。今までやって来た前提を覆す可能性を孕んだ、大きな疑問が。

 

 

 今までの命題に、さらに上の命題が重なってきたようだった。一体、何をどうすれば良いのか。この問題を、どう取り扱っていくべきか。

 

 まだまだ青い俺達は、そのあり得ないはずの光景を前に…当惑することしかできなかった。

 

 

「いや、待て…。まだコレが本物だと決まった訳ではない。ねつ造の可能性も考えられるはずだ」

 

「そ、そうさね!きっと、どっかから既存の写真を持ってきて、そこにアタシ達の顔とかを合成させれば…」

 

「―――いんや、…ねつ造の可能性は低いんだよねぇ」

 

 

 ねつ造という疑問に、すぐさま反意を挙げたのは、驚くことに古家であった。しかも、今までの弱気な語威はそこには無く。ハッキリとした自信を持って言っていることが見て取れた。

 

 

「…古家?」

 

「ほほう、随分と意気のある断定ではないか…。であれば勿論、ちゃんとした根拠が存在するのであろうな?」

 

「…確かに。今までに無い自信」

 

「い、いや……根拠って言うには、かなり弱いんだけどねぇ…」

 

 

 だけどすぐに、弱気な姿勢になり、じれったさが見え始めた。

 

 

「それでも全然大丈夫です!!しょぼいかどうかは、私達で判断します!はい!」

 

「そう言って貰えると助かるんだよねぇ……じゃあ、言うねぇ?…まず先に、写真がねつ造かどうかで重要なのは、被写体や、文字、そして色、明るさ、コントラスト、ブレ…なんだよねぇ」

 

「…コント?プレイ?…」

 

「…言葉で説明するよりも実物を挙げてみた方が良さそうだねぇ」

 

「うん、その方、が、私達素人でも、分かりやすい、ね?」

 

「ええと…例えばこれ。この写真に写ってるあたしたちを見て欲しいんだよねぇ」

 

 

 そう言って、古家は教室のでの一風景を収めた1枚の写真に指を差した。俺達は上からのぞき込むように顔をで円陣を作る。

 

 

「ねつ造した写真だと、こういった被写体のあたしたちには必ず不自然さが見られるはずなんだよねぇ」

 

「不自然さ…でござるか?それはどういった?」

 

「さっき列挙した色とか明るさ、コントラスト…あとはブレ、そして影なんだよねぇ」

 

「ほう…」

 

「それらを踏まえて写真を見てみると、色にも加工の跡は見られないし…影はキチンと出来てるし、写真特有のブレもちゃんとおさめられてるんだよねぇ」

 

 

 ふむふむと、講座のように話す古家の声を俺達は傾聴する。

 

 

「それらの情報と、さらに古今東西あらゆる心霊写真を看破してきたあたしの目を合わせて考えてみると…この写真には偽の情報が一切ない…つまり本物で間違いないんだよねぇ」

 

 

 古家は人差し指を上に向けそう言った。思いのほか丁寧に説明してくれたことに加えて、俺自身は納得したのだが……肝心の説得される側の反応については…。

 

 

「………」

 

 

 どうやらあまりよろしくないみたいだった。

 

 

「だが…それは貴様の所感であろう?」

 

「まぁ…そうだねぇ…機械に掛けたわけじゃないから…ねぇ」

 

「であれば、その根拠は却下だ」

 

「たははは、やっぱり弱かったかねぇ…」

 

「ええええ!!!どうしてですか!!」

 

「確かに古家のプロとしての腕は認める。だが、貴様のそれは確たる証拠ではなく、あくまで一個人の意見だ。ワタシが言いたいのは、そんな曖昧な言葉ではなく…ちゃんとしたエヴィデンスを提示しろ…ということなのだ」

 

「エビ……海老?」

 

「梓葉…証拠って意味だよ。…態々英語にする意味は分からないけど」

 

 

 特に、発起人の雨竜は納得しなかった。確かに、古家の意見は、古家自身による視覚的意見。ちゃんとした分析を掛けているわけでもない故に、その根拠はあまりにも脆弱。雨竜の言いたいことにも一理あった。

 

 だけど…。

 

 

「いや、そうとも限らないのではないかな?ドクター雨竜。ミスター古家は、素人ではなく、玄人…超高校級の専門的知見だ…あっさりと切って捨ててしまうのは頂けないんじゃないかい?」

 

「…貴様に意見を促した覚えは無いのだが?」

 

 

 ニコラスは、その意見を逆に尊重した。しかし、その発言が気にくわなかったのか…いやニコラスが発言したことが気にくわなかったのか…雨竜は怒りを押さえ込んだような声を漏らす。

 

 

「はははっ、そう邪険しないでおくれよ。泣いてしまいそうになるじゃないか」

 

「そうは見えんのだがなぁ…むしろ楽しんでいるように見える」

 

「言えてるぅ!」

 

「……まぁ、ボクの真意についてとか何とかは、正直どうでも良いのだよ……ドクター雨竜。良いかい?聡いキミであれば分かると思うが。今ここには既に、生徒全員が意見を交わし合う場となっている…誰1人として、人の言葉を却下する権利なんて誰も持っていない、ボクはそう思うのだけど……キミの意見を聞かせてもらえるかな?」

 

「ああそうだとも。人には確かに色の差はある…だけど、根本的に人は人…混じり合うことも、肩を組み合うこともできる、素晴らしい生き物なのさ」

 

「落合、微妙に論点がずれてるし……あと、お前には聞いてないと思うぞ」

 

「…ワタシは貴様の意見”は”聞いていないと言ったはずだが?」

 

「ボクは意見を言った覚えは無いよ?ボクはミスター古家の、写真の真偽について意見しているのだよ?」

 

「あ、あの…お二人とも少々気を張っているように窺えるので…もう少し穏便に…」

 

「…でござるな。頭を冷やすのが懸命かと」

 

 

 いち早く尖った雰囲気を察した小早川達が、2人の間に仲裁に入る。

 

 確かに、両者とも何となく落ち着きに欠けている様には見え…。その通り、言葉の節々に棘を感じられた。手は出てないが、いずれは出てくることになるだろう。

 

 

「ふん…」

 

「オーライ。そう思わせてしまったのなら…すまなかった。勿論、反省してるとも!」

 

 

 本当に反省しているのか定かではなかったが…いつものひょうきんブリだと、スルーすることにした。

 

 

「あのさあのさ…じゃあさ、良い考えがあるんだけどさ?」

 

「は、はい!水無月さん、何なりと!」

 

「本物かどうかはさ…モノパンに聞いてみれば良いんじゃない?」

 

 

 一瞬、間が空いた。そ、そういえばそうだな、と思った。

 

 

「……確かに」

 

「盲点…それは神が人に与えた、愛すべき欠点。それがあるからこそ、人は人を愛し、そして人を人たらしめる者なのさ」

 

「…そこまでは言ってない」

 

「ふん…ヤツに真偽を左右されるのは気に食わんが…それ以外に確実な方法がないのは確かだ」

 

「そんな御託は抜きにして。さっさとあのパンダす呼ぶさね!!

 

 

 

 ――――――――――モノパン!!!出て来い!!!!!」

 

 

 

 と、言い出しっぺの反町による原始的な呼び声がエリア1に強く響く。

 

 

 しかし――――――

 

 

 

「こ、来ない…珍しいでござるな」

 

 

 何故か現れなかった。今まで何かしらの動きがあれば、必ずと言って良い程、余計な説明を加えてきたのに。

 

 

「くっそ…肝心なときに姿を現さないなんて…」

 

「ははは…それにしても大きな声なんだよねぇ…」

 

「…流石です」

 

「話を折るようで悪いが…ミス風切、キミはいつから敬語になったんだい?」

 

 

 そう言って、静かに落胆するような声が上がり出す。

 

 

 だけど――――

 

 

「うーーん…じゃあさ、じゃあさ…モノパンが来ないんだったら。もうひとつ良い?」

 

 

 水無月は続けて、意見を重ねていった。

 

 

「まだ。何かあるのか?」

 

「…カルタ達だけで、この写真について考えを深めてみよう、って提案」

 

「考えを深めるとは…一体どのようにでしょうか!!」

 

「えっとねえっとね……もし仮にね?この写真がねつ造じゃないとしたら……ここに写っているカルタ達って、誰なの?って感じで」

 

 

 すると、水無月があっけらかんという風に、そんな意見を投下した。

 

 もしも…?誰…?意見の内容が上手く捉えられなかった俺は首を傾げた。しかし、その意見に、また雨竜が”馬鹿者”と一言。

 

 

「……さっきから言ってるだろ…これは本物では無い…。我々を陥れるためのモノパンの策略の1つだ」

 

「断定できるほど揃ってないのに、決めつけないでよ!それに、も・し・も・の話だって!……この写真がさ、本当にニセモノだったらさ、”はいそうですか”って、この意見を交わし合う場?っていうのかな?…それがおしまいになっちゃうでしょ?」

 

「この話合いの場を有意義に使おうってことかねぇ?」

 

「グ~ッド!!」

 

「…確かに、終わっちゃう。そして解散して部屋で寝る」

 

「スケジューリングに一切の無駄がないんだよねぇ…!」

 

「いや、うたた寝の時点で無駄な時間を浪費しているござる」

 

「……ほら、また脱線しているよ。それで?水無月。続けてな」

 

「だから、敢えて本物だったの可能性も考えとこって言ってるの!」

 

「何のタメにだ?」

 

「分かんない!!」

 

「……はぁ」

 

 

 いや、分かんないのかよ……。

 

 

「つまりカルタが言いたいのは、頭の堅い誰かさんみたいに切り捨てるんじゃなくて…もっと柔軟に、受け入れて物を考えようって話」

 

「誰が頭が堅いだぁ!!!!」

 

「落ち着くさね!!」ガン!!

 

「がばぁ!!」

 

 

 飛びかかりそうな雨竜を、反町はすぐさま沈ませる。やり方はどうあれ、ナイスプレーに思えた。

 

 

「で、ですが…か、仮にと言われても…」

 

「ううむ…難しい話でござる。拙者、このような摩訶不思議な事態、初めてでござるし」

 

「あんただけじゃなくて、全員初めてですよ。ていうか…なんなんですか?…私は写真について聞きに来たと思ったら…今度は妄想会議を始めようだなんて…のんきすぎやしないですか?」

 

「私も、帰りたい…たたき起こされたから睡眠が足りてない」

 

「風切!シャキッとしな!」

 

「…はい」シュッ

 

「本当にシャキッとしたんだよねぇ!?」

 

「………」シュ~

 

「雨竜、くん…大丈、夫?」

 

「目覚めとは、生き返るか、死ぬか…その瀬戸際の選択とも言える…彼は今、覚悟を決めようとしているのさ」

 

「こっちでは無駄に壮大な物語が展開されてるんだよねぇ…」

 

 

 と、水無月からの議題は出たものの…出題された側の俺達は何となく乗り気ではないような雰囲気を漂わせる。…というよりも何故か”考えないようにしている”…そう見えた。

 

 俺は、その生徒達の有様に微かな違和感を覚えた。

 

 

「本物だったのなら…か…………ははっ、そんなの――――1つしか考えられないんじゃないか」

 

 

 そう思った直後、ニコラスはそう言った。

 

 

「答えは1つ…って…何か心当たりがあるのかねぇ?」

 

「さっさと言うさね!」

 

 

 いつの間にか、おもちゃのパイプをくゆらせるニコラスに数人が食いかかる。何故か焦る生徒達の中でも、ニコラスは…まるで傍観者のように酷く落ち着いていた。

 

 

「…ボク達は

 

 

 

 

 

 

   ――――”記憶喪失”になっている。そう考えるしかない」

 

 

 

 

「―――き、記憶喪失だとぉ!!」

 

「あ…起きた」

 

 

 ニコラスの発言に、数秒前まで気絶していた雨竜が飛び起きる。他の生徒達も、ザワザワと小さく驚きの声を漏らす。

 

 

「あ、あの……き、きおくそう、しつ………どういう意味なのでしょうか?」

 

「「「……」」」ガクッ

 

 

 そんな小早川の腰を折るような疑問に、数人の生徒達が首をガクリと下げる。当の発言者である彼女は、首をひねらせていた。

 

 

「つまりだミス小早川、ボク達は――――」

 

「――――既に、出会っていたのさ。止めどない人生の、その一部、何処かで…しかも席を並べ合い、そしてつき合わせる程に、その仲は親密だった」

 

 

 ニコラスが言おうとした…あり得ないはずの可能性を…代わって落合が言い切った。何故お前がかは置いておくとして……その言葉に、生徒達は騒然としていた。

 

 

「………」

 

 

 だけど何人かは、少なくとも、否定していた数人は、分かっていたように沈黙していた。

 

 何となく予想はついていた。そう分かっていたが……漫画や小説でしか見たことの無い、そんな展開に現実味を感じていない、そんな本音が見えるようだった。

 

 

「だけど……僕らには…その覚えすら無い。何て…何て空しい話なんだろうね。」ジャララン

 

 

 そう……覚えていない。きっとそれが俺達が留まっていた理由なのだろう。目の前の記録に…存在しないはずの記憶に…どんな言葉を並べれば良いのか…考えることが怖かった。

 

 

 だって…もしも、それが本当だと認めてしまえば…それは――――――。

 

 

「で、でもあたし達は、入学式の時、確かに意識を失って、それで気付いたらここ居たんですよ…!」

 

「……私も覚えてる。……だから、記憶喪失なんて…そんなの事実無根」

 

「そうだ!我々のことは、我々がよく知っている!!自分自身を!記憶の有無もだ!!」

 

 

 すると、数秒前まで沈黙を守っていた、会議否定派の生徒達は、分かりやすいほど焦ったように迫った。

 

 

「我々はここに誘拐されてきたのだろう!?あのモノパンという狂ったパンダに、ここに連れ込まれ、そしてコロシアイをさせられているのだろう!?」

 

「……ああ、そうだね。蠱毒のようにね。実に残酷な話さ」ジャラン

 

「…なら。…こんな写真はあり得ない……だって私達はここで初めて会ってるんだから」

 

「いやぁ、まあ…ねぇ…あたしらとしても、そうだと思うけどねぇ…」

 

「だから言ってるんですよ。無い記憶について議論しようなんて、無駄も良いところなんです。だからさっさと、会議を切り上げるのが吉なんです」

 

 

 まるでこれが現実ではないと、自分に言い聞かせているように。現実味を知りたくないと、拒むように。雨竜達は言葉を並べ続けていた。小さく、恐怖しているように見えた。

 

 

「そんなに…怖いのかい?」

 

「はぁ?どういうことですか。何が、怖いっていうんですか」

 

「真実を知ることにだよ…」

 

「…何だい?真実ってのは…」

 

「……ボク達が…その失った事実すらも”忘れてしまっている”という事実をさ」

 

「事実、も…?」

 

「ふん!!!訳のわからんことをのたまいおって…まるでワタシ達が記憶操作を受けたような言い分だ!ますます信じられん!!」

 

「…えーだったらさ

 

 

 ――――――実際に受けたんじゃない?記憶操作?ってやつ」

 

 

 荒波の立つ議論の中に水無月は、キョトンとした様に、あまりにも突拍子もない言葉を言い放った。俺達は、その結論とも言えるその一言に…言葉を止めた。

 

 だけどニコラスは――――。

 

 

「ああ…そうだとも。ミス水無月。それが真実だ……。ボクらは、記憶を操作されている」

 

 

 強く同意を示した。

 

 

「そんな…!」

 

「まさかあたし達に身に、そんなSF的な事が…」

 

「あまりに非現実的すぎるでござる」

 

「ああそうだね。ボクもこの天才的頭脳がイジられただなんて、余りにも突拍子もなさすぎるし、反吐がでるほど信じたくないさ」

 

 

 いや、そこまでイヤなのかよ。というツッコミは、今のところおいておくことにした。

 

 

「だけど、もしも入学式から、いつまでかは予想が付かないが…ここに連れ込まれるまでの記憶を、穴抜けにされていたことが真実ならば。……こんなありもしない記憶の欠片が目の前にあるのも頷けるというものさ」

 

「勝手に頷くなです!!ていうか…何でコレが本物前提で話してるですか!まだ決まったわけでもないですよ……!」

 

「妄想に妄想を重ねるな!!貴様は名探偵である前に、一端の研究者であろう!!事実的根拠を述べてから、結論を言え!!」

 

「はぁ……ああ、良いとも。そんなに欲しいのなら、――――その根拠とやらを提示しよう」

 

「えっ……あるの?」

 

 

 そう言いたげに雨竜達も動揺を示した。俺自身も、そうだった。

 

 

 ニコラスは淀まず、続けていった。

 

 

「――――今まで起こった事件、その原因こそが根拠さ」

 

「今まで…?」

 

「長門さんの…事件のことですか?」

 

「ああ、そしてミスター陽炎坂の事件も含めてね」

 

 

 そう言われてすぐに、俺は、今までの事件の経緯を思い出す。陽炎坂の、そして長門の事件を。

 

 

 確か――。

 

 

「まずミスター陽炎坂の場合だ。最初、あの事件の発端はモノパンからの手紙だった。だけど手紙を渡されたとき、彼は大きなギャップを持ち…嘘だと信じてモノパンに詰め寄った――――でも、モノパンに、それが現実だという証拠を突きつけられて、根拠を見せられて…あんな凶行に走った」

 

 

 1つ目の事件は、陽炎坂の幼なじみの事故死。その事実を突きつけられたが故の、アイデンティティの喪失。

 

 

「ミス長門の場合は、手紙の延長戦上に居たが故の凶行……きっかけは違えど、原因は同じだった」

 

 

 2つ目の事件は、鮫島の思いも寄らない失言……だけど根本には、祖父の死が関係していた。

 

 

 そうやって、改めて思いだし…そして俺は思い至った。ニコラスの言いたいことを。

 

 

「キミ達も、あの手紙を貰ったとき、ミスター陽炎坂よ同じような違和感を持ったはずじゃないかい?……”昨日まであんなに元気だったのに…どうして?””昨日まで無事だったのに…どうして?…とね」

 

 

 確かに、鮫島や、陽炎坂、長門の手紙を聞いたとき。まるでどこかの未来の一部を切り取られたような錯覚はあった。

 でも、深くは考えようとはしなかった。きっと、俺達がこの中に閉じ込められて、それから起こった事だと、思ってしまったのだ。

 

 俺には分からなかったが…手紙を見たとき、生徒達はそんな出来事の切れ端を、事態の結末を、いきなり見せられたようだったのだろう。

 

 だけど、もしも、切れ端が、結末が過去の、それも何年も前のものだったのなら……この写真もその過去の一部であったのなら……その違和感に対する辻褄も合う。

 

 そしてそれを認めるということは、写っている俺達が…俺達本人だという真実に他ならなかった。

 

 

「…」

 

 

 真実を叩きつけられた俺達からは、今までの様な強い反論は見られなかった。何故そんなにあっさりと、…その理由は薄々分かっていた。

 

 

 俺達は、感じていたのだ。俺達には何かが足りていないと。心の中で燻り続ける違和感を満たすような、正体の見えない物が、存在することを。

 

 

 でもそれが何なのか分からなかった。だから、今まで口にすらしてこなかった。

 

 

 だけど今日、今、この瞬間……その正体が、目の前に現れた。落ちてきた。

 

 

 記憶の一部。…忘れてはいけない空白の思い出。

 

 

 納得できなくても、納得することを強いるような…あまりにも突然すぎる答え合わせ。

 

 

 とてもじゃないが、ニコラスのように…冷静ではいられなかった。

 

 

「でも……どうして、ですか?」

 

「…どうして?」

 

「……記憶を操作する理由が分からない…意味不明」

 

 

 動揺を隠せないまでもなお、食い下がる雲居達にも、ニコラスは飄々とした態度を崩さず。ふむと、考える仕草をする。

 

 

 ――――だけど、その疑問に答えたのは、全く別の生徒だった。

 

 

「理由……?そんなの簡単じゃん」

 

 

 水無月だった。今、風切が放った”理由”に向けて、無邪気にそう声を上げた。俺は、強ばった表情のまま、言葉を待った。

 

 

 

 

 

 

「――――絶望させようとしてるんだよ。カルタ達の事を」

 

 

 

 

 

 俺だけじゃなく、生徒達も、言葉をなくした。先ほどよりも、とても痛い、沈黙が、流れるようだった。

 

 

「ああ、そうだとも。その通りさ…………モノパンの本来の目的を…コロシアイをさせることそのものではなく……ボク達を、絶望させること…」

 

 

 

 

『ワタクシは絶望を求めているのでス。より具体的に言うなら、ただ絶望している姿が見てみたいんです』

 

 

 

 

 忘れた訳ではなかった。でも、思い出したくもなかった。だけど確かに言っていた。あまりにも醜悪な笑みを浮かべて、俺達に向けて言ってのけたあの言葉を。

 

 

「こうやって時間的事実を隠匿し、結果だけをボクらに伝え、混乱させる。あわよくば、殺人を犯すための、材料にする……そしてボク達を絶望させ、さらに殺人を誘発させる……」

 

 

 まるで全てを見透かしたように、ニコラスは考えを述べ続けた。反論する人間をねじ伏せるように、言葉を続けた。

 

 

「これも…恐らくその1つさ。ボクらを凶行に走らせる、…”動機”の1つと…暗にモノパンはそう告げているのさ」

 

「…動機」

 

 

 言い聞かせるように、ニコラスは俺達に向けて言葉を放った。

 

 

「であれば…拙者らの呼びかけに珍しく応じてこなかった理由もわかるでござるな」

 

「カルタ達にこの写真を中心に争わせて…不和を持ち込もうとしてる…ってシナリオかな?」

 

「ああそうさ、ボク達は試されているのさ。この事実を目の前に、自分自身のエゴに駆られ…先人達のような二の舞をしないかどうか…とね」

 

 

 まるで事実を叩きつけられているような気分だった。まるで、言葉の…いや事実の暴力のようだった。今になって、目の前に並べられた写真が恐ろしく映って見えた。

 

 

「…信じがたいけど。確かに、モノパンのアホの事を考えれば、納得出来ちまうさね」

 

「わ、私は、余計に訳が分からなくなってきたような…」

 

 

 度重なるその事実の列挙に、生徒達は信じられないと、苦しむように俯いていた。

 

 

「ぐぐぐ…信じんぞ。ワタシはそんな……信じはせんぞ……!!」

 

「本当に、馬鹿みたい、な話だ、ね……」

 

「うわー、何かヤバめな感じ?……いや、最初っからヤバいか……」

 

 

 俺達のその姿は、信じていないのではなく、まるで信じないようにしている、そう見えて仕方がなかった。

 

 だって、それが本当だったなら…友達だったはず俺達が、コロシアイを演じさせられていた。

 

 

 こんな幸せそうな顔で過ごす写真の中の俺達が…。

 

 

 今では、私利私欲に駆られて、自分のエゴで、殺しあっている…。

 

 

 そして生き残る俺達も、そんな仲間達を自分たちの手で吊るし上げている。

 

 

 自分達が生きるために…今まで犠牲にしてきた。

 

 

 これほど、……残酷な話は無かった。

 

 

 

「ああ…くわばらくわばら…」

 

「……はぁ…きっつ」

 

「何で、何で私らが……ただ、希望ヶ峰学園に入学してきただけじゃないですか」

 

「………」ジャラン

 

 

 ただでさえ、監禁、殺人強要……度重なる精神的苦痛がすぐ側にあるのに。それに加えて、記憶喪失…そしてかつての仲間達とのコロシアイ、こんな碌でもない真実はもう沢山だと、生徒達は悲鳴を上げているようだった。

 

 

 俺だって…今にも泣き出したくなりそうだった。

 

 

 だけど――――。

 

 

 

「皆の者…1度、注目でござる」

 

 

 暗い面持ちを並べる俺達に、酷く真剣な表情で沼野が手を叩き視線を集めた。

 

 

「何だ…沼野。今は貴様の存在感のアピールする場では無い…後にしてくれ」

 

「そうだー!お前は一生影の薄いキャラでアリ続けるのだーー!」

 

「折角絶妙な所で間を取ったというの…そこはかとなく不本意でござる……」

 

「ま、まぁまぁ。みなさまも、そうないがしろにせずとも………それで。沼野さん、如何為さりたいと?」

 

 

 小早川の擁護に、”かたじけない…”と律儀にお礼を言いつつ、沼野は続けていく。

 

 

「……いやぁ、もう見ても分かる通り…現状、かなりどんよりとした空気ござろう?だから――――ここで1つ、話合いはお開きにして、お食事にしてはどうかと…」

 

 

 かなり、というか、だいぶ疲弊しているようではあった。否定する側もまともに否定できない程に……。誰が見ても、話合いを続けられる状況とは思えなない程に…。

 

 だからこそ、沼野のその提案は何よりも魅力的に思えた。

 

 

「ナイスアイディアだぜ!ミスター沼野!ボクもそろそろ解散しても良いんじゃないかと、そう思ってたのだよ!」

 

「…ふん、我々を言葉で弄ぶのに飽きただけだろ」

 

「おいおいドクター雨竜。偉くけんか腰じゃないか!…それとも何かな?本当に拳と拳を交わし合おうというのかな?ボクはいつでも買う準備は出来ているぜ?」

 

「…止めるです!…頼むから、もう余計ないざこざは勘弁して欲しいです…」

 

 

 また、一触即発な雰囲気が漂い始めた2人に、雲居は怒鳴る。その姿を見て、沼野はやはりと、冷静に頷く。

 

 

「と、このような有様では、会議もままならんでござる……1度冷静になってから、明日改めて話合いを?……どうでござるか?」

 

 

 そう言って、チラチラと俺達の表情を伺う沼野。

 

 

「だねぇ…時間も良い感じだし。朝ご飯もまだ食べられてないからねぇ…」

 

「眠い…お腹減った…帰りたい……でもお腹減った」

 

「食欲、と、睡眠欲、が、せめぎ合ってる、ね?」

 

「時とは、永遠に流れ続け、決して止まることはない…人の体も時と同じく進み続け、やがて衰えていく……もしかしたら、空腹はその衰えのサインなのかもしれないね?」

 

 

 沼野の提案の声に、少なくない、”まぁ良いんじゃないか?”との声が上り始める。それを聞いた反町が、”よし!!”と大声を上げた。

 

 

「じゃあ早速、飯にするさね!…ちょいと遅めだけど」

 

「は、はい!そうしましょう!!話合いはまた、後日、ということですね!よろしいですね!」

 

 

 と、完全に乗っかった二人を最後に、多少の強引さはあれど、会議はお開きとなった。

 

 

 そして俺達は――――午前9時という…少々遅めの朝食にありつくこととなった。

 

 

 その皮切り以降、食事中の間は写真に触れることはなかった。

 

 きっと…話し出しても、平行線を辿って仕舞うだろうから。俺自身も、進んで何かを言うことはなく。先送りにするように、淡々と食事を頬張っていった。

 

 折角、久しぶりに全員が集まったというのに、寂しさと、険悪さの残る、朝食となってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ……食事をする中で、俺には1つ、疑問が残っていた。

 

 

 

 

 別に、記憶云々とは関係ないことだが…。何となく、ふと、思ったこと。

 

 

 

 

 モノパンは確か、プレゼントの中にはさらに上のプレゼントがある……そう言っていた。

 

 

 

 

 じゃあ……。

 

 

 

 

 

 ――――一体どれが…どの写真がそうなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 俺達の知らない、何かが、映り込んでいるのだろうか……?

 

 

 

 

 

 それとも、誰か、個人にとって特別なのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 あるいは―――――

 

 

 

 

 まさか――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はあるかもしれない微かな可能性を考えてしまった。

 

 

 

 

 

 背に、一筋の冷たい汗が流れるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア1:ログハウスエリア】

 

 

 ―――――午後6時半。

 

 

 長引いた議論、遅めの朝食、そしてしばらくの自由時間…様々な出来事を過ごし切った俺は、そろそろ休もうかと、自分の部屋への帰路についていた。

 

 

「――――今日は、色々とありすぎたな」

 

「…いやーそーだねー。もう参っちゃうよねー」

 

「…そうは見えないんだが?」

 

「あ、バレちゃった?」

 

「そんなのんきそうな顔をしてれば…誰だって分かる…」

 

「なはは~」

 

 

 同じく、自分の部屋に戻ろうとしていた水無月と一緒に。たわいもない、漫才みたいな雑談を繰り返しながら。

 

 

「…そういえば、水無月」

 

「何かな?公平くん…?この水無月カルタちゃんになにか質問でも?」

 

「ああ…今日の――――」

 

「先に言って置くけど、カルタのスリーサイズは上から…」

 

「いや、そうじゃないそうじゃない……何でそうなる……午前中の、会議での話だ…」

 

 

 ”ええ~違うの?”と何故かふてくされたようにおふざけを続ける水無月。俺は、真面目な話だ、と言うと、渋々ながら聞く姿勢を取り始める。

 

 

「確か、あの話合いの時、テーブルの上には写真が5枚並べられてたよな?」

 

「あーそうだねー、梓葉ちゃんと公平くん、後は沼野くんと古家くん、司ちゃんの提出物だったとはずだよ」

 

「流石の記憶力だな」

 

「へへーん」

 

「………だけど、何でそんなに少なかったんだ?」

 

「少なかった?」

 

「ほら、あのスタンプラリーに参加した人数に比べてだ」

 

「あー」

 

 

 あれほど乗り気な人間が多かったはずなのに、どうして枚数が少なかったのか。純粋に、気になった。たかだかスタンプを集めるだけだというのに。

 

 

「ていうか…お前が一番乗り気だったろ……何で持ってないんだ?」

 

「ん~…何だろうなぁ。飽きちゃったって言うか…ジェットコースター乗ったら、もうパークを全部楽しんだ気持ちになっちゃったから…かな?」

 

「テンションが極端すぎだろ…」

 

「いや、本当に、急にスーッとやる気が消えたんだよね」

 

 

 何とも、気分の波が激しい水無月らしい理由だと思った。

 

 

「他の皆も同じ感じだよ、気まぐれっていうか、飽きっぽかったというか…偏っていたというかー…」

 

「…成程、お前のように途中で止めたヤツと、1つの施設にずっと居続けたヤツが居た、と言うことだな」

 

「おおお!!よく分かったね!!ピンポンピンポーン」

 

「…アイツらの性格を考えれば、何となく分かる」

 

 

 短いスパンとはいえ、あれだけ濃密に接していれば、イヤでも性質は分かるものだ。

 

 

「……もしかしたら!その察しの良さって、写真の中の公平くん譲りなのかも知れないね!」

 

「写真の?」

 

「うん!!!…反応的に多分気付いてないと思うけど。いろんな写真に写っている公平くん、実は皆の事をよ~く見てたんだよ?」

 

「…気付かなかった」

 

 

 別に人間観察が趣味というわけではないのだが…。どうやら彼女にはそう見えたらしい。

 

 

「だから、きっとその名残が、今も公平くんの体に息づいているんだよ。だから、そうやって皆の行動を予想できるんだよ」

 

「……そうか?」

 

「きっとそうだよ!!」

 

 

 …信じ切れないというか、自信は持てないが。これだけ真っ直ぐに言われると、何となくそうかもしれない、と思えてしまう。何とも不思議な話だ。

 

 

「だとしたら。だとしたらですよ?公平くん」

 

「…何がだとするんだ?」

 

「そうやって染みついた気持ちが公平くんにも残ってるなら、きっと皆の心にも同じよーに残ってるかも知れないのですよ」

 

「ほう…」

 

「だから、きっともうコロシアイなんて起き無いよね!!」

 

「染みついてたら…で、そこまで飛躍するのか?」

 

「もぉ~察しが悪いなぁ。良い?カルタ達って、今は覚えてないだけですっごく仲は良かったみたいだったでしょ?」

 

「見た限りだと…そうだな」

 

「だったら、友達同士でこれ以上コロシあうのは、きっと皆もしたくないって思うはずなんだよね!」

 

「……そうだな」

 

 

 確かに、その可能性が限りなく高い今。今まで犠牲にしてきた4人の呵責も踏まえて、これ以上のコロシアイは、今まで以上に望むべきことではないのは明らかだった。

 

 午前中の、生徒達の反応を見れば、尚更そう思えた。

 

 

「だーかーら。もう安心、安全、快適!意志が無ければ、コロシアイも始まらない!…いやぁ、モノパンも悪手を差しちゃったね。過去の記憶が合わさったカルタ達の友情パワーの底力を甘く見ちゃったからこうなるんだよ」

 

「今はまだ…友情パワーの欠片も見当たらないんだが…」

 

 

 少なくとも雨竜とニコラスには、深い溝は見受けられた。

 

 

「今だけだよ。お互いに頭が冷やして、また明日話し合えば、きっと足並みも揃っていくよ…絶対に!!」

 

 

 でも、先ほどの彼女の言葉の力を考えると。そう思えてしまう。きっと大丈夫だと、根拠のない自信が湧き出てくるようだった。本当に、不思議な話である。

 

 

「だと、良いな」

 

 

 だから、俺は彼女の言葉に、小さく微笑みながら、そう肯定した。

 

 

「あっ!!もう着いちゃったね。じゃあここでお別れだ!!…お休み!!」

 

「ああ、お休み」

 

 

 エリアの中心にたどり着いた俺と水無月は、話の切りも良いからと、短く言葉を交わしあう。

 

 

 そのまま、それぞれの個室へと向かい、そして…扉に手をかける。

 

 

 

 

 ――――その時のことだった。

 

 

 

 

 俺は、俺の部屋の…扉の隙間に…”封筒”が刺さっていることに気付いた。

 

 

「…何だ?」

 

 

 余りにも不自然な突起物であるそれを、俺は恐る恐る抜き取り、表と裏を眺めてみた。

 

 封筒には、宛名や差出人の名前は書かれておらず。今朝の写真のようにメッセージカードも添えられていなかった。

 

 俺は、微かな疑心を持ちながら…ビリビリと上を破る。そして…中の綺麗に折りたたまれた手紙を取り出し…広げていった。

 

 

『本日お配りした写真について、改めて説明をしようと思います。

 

…午後7時、モノパンタワーにてお待ちしております。できるならミナサマで来ていただけると幸いです。

          モノパンより

 

 

 ps.パンダは熊の仲間ですが、冬眠はしません』

 

 

「…うん?」

 

 

 中身にはちゃんと差出人の名前が書かれていた…今朝と同じくモノパンからのようだった。

 

 内容は俺達生徒達の招集。朝に現れなかったので、改めて写真の説明おば…と。その上、どうでも良い雑学のようなものまで付け足されている。

 

 …な、何なんだ?一体?写真の次は、手紙?…度重なる普段から微妙にズレた出来事の数々に、俺は頭を悩ませる。

 

 同時に、何故紙媒体でこんな手紙を寄越してきたことそのものにも…俺は疑念を重ねていた。何故なら、贈り物をするときは、前回の動機の手紙宜しく、何も言わずに部屋にポンと置いて帰っていった。

 

 だけど招集を掛ける際は、アイツは普通、アナウンスを使っていたはずだ…。こんな気付かないままだと絶対に俺達伝わらない、不完全な伝達は、アイツらしくない。

 

 そう疑念を加速させる。

 

 でも、もしこの疑念が、本当だとしたら…この手紙は――――。

 

 

「こ、公平くん!!」

 

 

 手紙を眺めながら思慮に耽る俺の元に、血相を変えた様子の水無月が現れた。何事だ?そう思ったが、彼女の手元に俺と同じような封筒が握られていた為、その慌てる理由にすぐアテが付いた。

 

 

「…お前もか?」

 

「う、うん!!これ…」

 

 

 俺は水無月に差し出された、俺が受け取ったのと同じ手紙を眺める。集合時間も場所も、一言一句全て同じだった。唯一違うとすれば、パンダについての雑学の内容が違うこと。…これについては、本気でどうでも良かった。

 

 

「でも7時って…あと30分しかないな」

 

「ど、どうする?何か怪しさ百点満点って感じだけど……」

 

 

 彼女の言葉を聞いて、俺はまた思考を深めた。今までのモノパンの手口。そう考えれば、これは明らかに、呼び出しのための手紙。鮫島の時と同じような、思惑の張られた呼び出しの手紙。

 

 考えたくはないが…俺達の中の誰かからの……。

 

 

「……」フリフリ

 

「公平くん…?」

 

 

 俺は首を振って、無理矢理否定した。もっと別の可能性がある、と考えの視野を広げた。

 

 あのモノパンの事だから、もしかしたら本当に気まぐれで今回だけは手紙で呼びつけてきた可能性も十分にありうる。来なかったら、来なかったで…集まったヤツにだけ情報を渡して、後は適当に共有して下さい…そんな適当さを見せても…可笑しくは無い。

 

 

「だ、大丈夫?」

 

「ああ…すまん、大丈夫だ」

 

 

 ……もしも、もしも俺だけにこの手紙が渡されていたのなら、行かない、の一択であった。だけど、水無月にも届いているという事は……。

 

 

「お前にも届いたって事は…他の皆の手元にも同じモノがある可能性もあるには、あるよな…?」

 

「う、うん…多分…カルタも今さっき気付いたばかりだから…わかんないけど…」

 

 

 俺達以外の全員かは怪しいが…手元に届いている可能性を考慮すれば、そう行き着ける。

 

 

「だったら…誰かしらはモノパンタワーに向かっているかも知れない……」

 

「…だね!」

 

 

 ――――だったら、選択肢は1つしか考えられなかった。

 

 

「念のため行ってみるか……何も無かったら、さっさと帰ればいい話だからな」

 

「うん!!じゃあ急ごう…!公平くん!」

 

 

 俺と水無月は、躊躇いつつ、互いに背中を押し合うように、指定されたモノパンタワーへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア3:モノパンタワー 1階】

 

 

 手紙の指示通りに、タワーの1階に足を運んだ俺達。

 

 …来てみると、反町、水無月、贄波、雲居…そしてニコラス。俺と小早川を含めて、全部で7人の生徒達がタワーの一階に集結していた。

 

 

「あっ折木さん!それに水無月さん!」

 

「おっす梓葉ちゃん!さっきぶり!」

 

「おっすです!!」

 

 

 タワーに入って早々、元気に挨拶を交わし合う2人。俺自身も軽く”おっす”と返事をしつつ、話を本題に移していく。

 

 

「…お前達も、この手紙で?」

 

「…ああ、そうさね。部屋に帰ろうとしたら、扉に挟まってたんよ」

 

「…同じくです」

 

「このボクにもさ!!やはりモテる男というのは辛いね!キミ!!」

 

「珍しい話でしょ?ニコラスくんにさえも渡ってるなんてさ~」

 

「おいおいおいおい!このボクを仲間はずれにするのは当たり前という風潮は、実に良くないと思うんだけれどね!」

 

 

 案の上、生徒達は、同じ手口で届けられた手紙で、同じように呼び出されたらしい…。手元にある俺達の持っているのと一緒の封書を見て、その確信を強めた。

 

 これだけの人数に行き渡っている…ということは――――この手紙はほぼ全員の元に届けられている、と見て良さそうだった。

 

 だとしたら――――

 

 

「…他の皆はどうしたんだ?」

 

「あ!そうだよ!全然見当たらないみたいだけど…?お手洗い?」

 

「違うさね……変な話、殆ど見当たらなかったんだよ」

 

「えっ、マジめに?」

 

「そう、本気って書いてマジさね。手紙を貰ってすぐに探したんだけど…」

 

「呼びかけ、る、皆が、居なかった、のかな?」

 

「部屋にもか?」

 

「同じくさね」

 

「でも、古家さんと雨竜さんは先ほどこのパーク内でお見かけしました!でも…用事があるって…断られてしまいました」

 

「落合、くんにも、会った、けど…観覧車、の、方に、行っちゃった」

 

「成程、だからこれだけなのか…」

 

 

 だけど、今出てきた3人は、少なくともこの周辺に居ることは確かなようだった。

 

 

「にしもて珍しいな…特に古家はこういう集合には参加すると思ってた」

 

 

 あいつのビビりやな性格を考えれば…手紙を受け取ってすぐに飛んできそうなイメージはあった。

 

 

「まぁ…確かに、急な話ではありましたから……用事があるのなら、いくらの古家さんでも仕方ありませんよね…」

 

「――――違うですよ。逆ですよ逆」

 

 

 そんな俺達の言葉を聞いて、やれやれと、雲居はため息を吐きながらそう言った。

 

 

「逆?どういうこったい?」

 

「こんなあからさまな怪しい手紙に乗せられて、馬鹿正直に来ることの方が、危機感の塊のアイツらしくないって言いたいんですよ」

 

「ははっ!同感だよ!…それにミスター鮫島の件も踏まえてみれば、ミスター古家だけじゃなくと来ない選択をとることに不思議はないさ!」

 

「でもお前ら来てるだろ」

 

 

 と、ツッコミを入れたが…ニコラスはあからさまに無視をした。何やら、また何かを隠しているような素振りに見えた。

 

 しかしそう思うのもつかの間、そんなニコラス達のやりとりを聞いていた小早川達が、”えっ!?”と大声を上げた。

 

 

「そうなんですか!?これモノパンからの手紙じゃないんですか!?」

 

「何で言ってくれなかったんさね!!本当に呼び出されたと思って、馬鹿正直に来ちまったよ!!」

 

「あんたらマジで馬鹿ですか。いや多分馬鹿ですよね。お願いですから馬鹿って言って下さいです…」

 

「そこはかとなく馬鹿にされながら頭を下げられてしまいました…!」

 

 

 そこはかとなく悲壮感のあるお願いに思えた。本気で言っている分、ことさら悲しくなってきた。

 

 

「じゃあさ、じゃあさ、だったら何で2人とも態々来てるの?…怪しいって分かって癖にさ…あっ!!もしかして、ねずみ取りのネズミの気持ちを感じにきたとか?」

 

「実に興味深い体感ではあるけど…残念ながら違うのだよ。これは、あれだよキミ…名探偵としての勘が…行った方が良い…そう告げていた…だからボクはここに来たのだよ」

 

「第六感というやつですね!!!」

 

 

 と、ニコラスはそう言うが…何か取り繕っているような感じが否めなかった。やっぱり、何か、言えない事情とやらかあるのかもしれない。俺は、小さな確信めいたものを感じ取った。

 

 

「じゃあ雲居は…?」

 

「もしも、のためです」

 

「もし、も?…どういう、こと?」

 

「本当にモノパンが手紙を出してたらって場合を考えたんです。アイツが急に思考を変えて、集まった連中以外を虐殺しだすかもって…そう考えたんですよ」

 

「どんなデスゲーム思考だよ」

 

「もうデスゲームですよ。それに、襲われたら襲われたで、対策用の本を持ってきたですからね」

 

「…随分と分厚い本だな」

 

「刺されても貫通しないようなヤツを持ってきたです」

 

 

 雲居の持ち出した本には『襲われても大丈夫な本』と、書かれていた。見た目通り、安全性しか感じなかった。ていうか、そう考える雲居も、古家に負けず劣らずの危機感の塊のように見えた。

 

 だけど、そこまで念入りな準備を見ると…鼻を垂らしてノコノコとやって来た俺達が、何となく恥ずかしく思えてしまった。

 

 

 そうやって、雑に賑わいながらも、短いようで、それでも長いように、時間はコチコチと進んでいく。段々と約束の午後7時まで、じりじり迫っていく。

 

 

 すると――――

 

 

「でも、何だか今の雲居の話を聞くと……やっぱりもう一回アイツらのこと探してきた方がいいかもしれないねえ」

 

 

 あと数分もないというのに、反町がそんなことを言い始めた。

 

 

「えっ…!集合時間までそんなに間もありませんよ!?」

 

「何だかムズムズするんさね!あれだよ、あれ。ニコラスの言う、エックス線みたいな!!」

 

「おいおいおいおい!!レントゲンを撮るときの電磁波と一緒にしないでくれ給えよ!!キミィ!!」

 

「どっちでも良いさね!取りあえず、古家とか、風切あたり探して、連れてくるから、ちょっと待ってなーーーーー!」

 

「ちょ、反町さん!!」

 

「素直ちゃん!!カムバーーック!!!……あ~あ行っちゃった」

 

 

 …とニコラス達の指摘も聞かず、反町はタワーの外へと飛び出していってしまった。人に言われたからとはいえ、何ともせっかちな即決であった…。

 

 

「たっく、落ち着かない奴です。小早川、飼い主ならちゃんとアイツの手綱握っとくですよ」

 

「…反町さんは狂犬かなにかなのでしょうか…」

 

「似たようなもんですよ」

 

「思いっきり毒を吐いていくな……というか、元はと言えばお前の発言の所為だろ…」

 

「もしもの話を鵜呑みにするほど単細胞だとは思わなかったんですよ…」

 

「…反町さん…もしかして私よりも、単純…?」

 

 

「「「「それは無い」」」」

 

 

「何で声を揃えてしまわれるんですか!!!」

 

 

 何処かに行ってしまった反町と、表情をコロコロと変えながらリアクションをとる小早川を好き勝手にあれこれ言っていると…

 

 

 

 

 

 

 タワーの壁に掛けられた時計が――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――――午後7時を示した。

 

 

 

「あ………時間、ですね」

 

 

 何が起こるのか。手紙の通りであれば、この時間に。モノパンか、それかモノパンを装った誰かが、現れるはず……。

 

 

 

「…………」

 

 

 そう思ったのだが…。

 

 

「………………」

 

 

 

 ……。

 

 

 

「…………」

 

「何も…起こらないな」

 

「…そ、そうだ、ね?」

 

 

 モノパンも、誰も…姿を表わすことはなかった。俺達は互い顔を見合わせた。

 

 

「うーん?モノパンだったら時間になればすぐに現れるし、でも現れないって事は…」

 

「……?」

 

「たっく…結局いたずらですか…」

 

 

 雲居はため息を吐きながらそう言った。

 

 

「でも何か…変だよな?」

 

「うん……」

 

 

 呼び出されたというのに、その怪しい本人が現れないというこの状況。俺達の間に、安堵のような、落胆のような、不可解なような…そんな空気が広がっていっているようだった。

 

 

「……まっ!ボクとしては、どうせこんな事だろうと思ったけどね!キミ」

 

「威張るなです!!…はぁ…、態々対策までしてたのに、無駄に骨を折ったみたいですよ……」

 

「あはは……?」

 

「なので、私、疲れたので帰るです」

 

 

 そういって、雲居はそそくさとタワーの外へと消えていこうと歩き出す。

 

 

「あっ、雲居」

 

「あんたらも、さっさとここからおさらばしといた方が良いですよー。何か不気味ですからねー」

 

 

「………ほ、蛍ちゃん…――――行っちゃった。まっ、無理もないか」

 

 

 雲居は…此方に背を向けながら手を振り、そのままタワーを出て行ってしまう。残された俺達は、どうしたものかと、顔を見合わせる。

 

 

「…どうしましょう?」

 

「何か、不穏だけど、ね。でも、何にも、無いわけだか、ら……」

 

「1度、帰っとく?」

 

 

 そう言って、水無月は此方をのぞき込む。俺は、ふむ、と思考してみる。

 

 俺達を呼び出した本人…そいつは、俺達全員の部屋の扉に、ここへと呼び寄せる布石を敷いていた。具体的な時間も指定し、さらにはそこまで労力を費やしたというのに…結局本人は来ない。

 

 雲居はいたずらと一蹴したが…にしては、大げさすぎるし、あまりに無駄が多い。呼び出した本人に何のメリットも、感じられない。

 

 ただそうやって俺達を惑わせようと遊んでいる可能性もあるが…そんなしょうもない事なんて、俺達の中にいないはず。

 

 

 ――――どうにも…腑に落ちない。

 

 

「…いや…俺はもう少しココにいる。もしかしたら…当人が遅れてる可能性も捨てきれないからな」

 

 

 と、言ってはみたが…本当は、直感的にココで帰ってはいけない……何となくそう思ってしまったから。本当に、何となく。

 

 

「そう?公平くんがそう言うなら、止めないけど……じゃあ、カルタは先に帰ってるね?」

 

「ああ、お休み…」

 

「お休みなさい!!どうかいい夜を!!」

 

「うん、お休みなさ~い!」

 

 

 しかし水無月はそうは思わなかったらしく…雲居達と同じく、此方に手を振りながらタワーから出て行ってしまった。

 残されたのは、俺を含めた、小早川、贄波、ニコラスの4人。最初の人数の半分程となってしまった。

 

 

「…ということだ。俺は残るが、お前達はどうする?」

 

「私、も…もうちょ、っと、居よう、かな?…気になる、し」

 

「折木さんが残るなら、私も残ります!!それに、反町さんが戻ってくるかも知れませんからね!」

 

「…そういえばそうだったな」

 

 

 ちょっと忘れていたのは内緒だ。 

 

 

「おいおいおいおい!まさかこんな眉唾な手紙をまだ信じるつもりかい?それはあまりにピュアすぎるってもんだぜ?」

 

「…お前はあれだろ?元々いたずらだって分かってたんだろ?だったら、もう帰っても良いんだぞ」

 

「おいおいおいおいおいおいおいおいおい!!マイフレンド。その聞き方はずるいぜ?仲間はずれが大の苦手なボクがそう言われちゃ、残らざる終えないじゃないか!キミぃ」

 

 

 と…何ともおちゃらけた模様のニコラスではあったが、結局残るようだった。でも、何となく、ニコラス自身も同じように、ココからでてはいけない…そう思っているように感じた…。

 

 

 

 そうやって、さて待ちましょうか…と残った俺達は小さな雑談を混じり合わせようと、そう思った……。

 

 

 

 

 ――――そのときだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――――――ガシャアン!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、巨大な何かが割れたような…、そう思わせる轟音が、タワー内に響き渡った。

 

 

 上からだった。

 

 俺達は一斉に、上を向いた。

 

 

 

「な…!」

 

「何ですか!今の音は!!」

 

 

 俺達はお互いに目を合わせた。普通では無いその音を前に、一瞬で血の気が下がったような…逆に上がりきってしまったような…”焦り”が体中を駆け巡った。

 

 

「上…から…!」

 

「ああ…だけど…何で」

 

 

 先ほどの穏やかな雰囲気なんて夢だったみたいに、俺は何をどうしたら良いのか、訳が分からなくなっていた。俺だけじゃなく、小早川や贄波も。

 

 強い焦焦燥を持って、お互いの顔と天井を、交互に視線を移すことしか出来ないでいた。

 

 

 だけど…1人。周りを見る中で、既に居なくなっている人物がいた。

 

 

「に、ニコラ、ス…?」

 

 

 ――――その人物は、ニコラスはまるで瞬間移動をしていたかのようにエレベーターの中へと移動していた。

 

 

 

「ニコラス!」

 

「ミスター折木。話は後だ……早く乗りたまえ!」

 

 

 そのあまりにも迅速すぎる行動に不可解さを持った俺は、彼の名を呼んだ。

 

 だけど彼は言い切らずに、後回しにして、それだけを言って此方に来るよう顎を回した。

 

 確かに言葉数は少なかったが、それでも、たった数言、行動で、彼が今、何をしようとしていること……そして俺がするべき事が理解できた気がした。

 

 

 考える前に…まずは動くんだ……取り返しの付かない事になる前に…。

 

 

 そう感じ取った。

 

 

「……分かった」

 

 

 俺は急いで、先ほどよりも落ち着いた心持ちで、エレベーターに駆け込んだ。

 

 

「私も乗ります!!」

 

「わ、わたし、も…!」

 

 

 小早川、そして贄波も、その思いに乗っかるように、エレベーターへと駆け込んでいく。少し気が引けたが、ニコラスを見ると、分かったと、その気持ちを汲み取るように頷いていた。だから、俺も頷いた。

 

 

 全員が入ったことを確認した俺達はすぐに、エレベーターを動かした。

 

 

 尋常ではない音が響いた、――――ダンスホールへ向けて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

 

 

 タワーのエレベーターは、とても静かだった。

 

 

 裁判場へと向かうもののように…無駄な雑音を響かせず。ただ静かに俺達をダンスホールへと運んでいっていた。

 

 

 …ささやかに重力を肌に押しつけながら。

 

 

 

 だけど、ビリビリと微動する、重力と違うその感覚は、まるで裁判場へと向かうものと同じに思えた

 

 

 

 内装も、設備も…全くと言って良いほど違うはずなのに。

 

 

 

 同じか、それ以上の…緊張感が走っているようだった。

 

 

 

 とても…とても不快な…吐き出したくなるような緊張感。

 

 

 

 他の生徒達も、同じように感じているのか……静かに沈黙を保ち続けていた。

 

 

 

 

 だけど、その沈黙は長くは続かなかった。

 

 

 

 ――――チン…と音が響いたから。

 

 

 

 ダンスホールへ、エレベーターがたどり着いた合図が鳴ったから。

 

 

 

 そんな中でも、俺達は無言を貫いた。

 

 

 

 

 吐き出したくなるような鼓動を無理矢理押し込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ただ真っ直ぐに――――ゆっくり開かれたドアを、見続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――まず始めに目に入ったのは、巨大なシャンデリアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 だけどそのシャンデリアは、前に来たときと同じ”形”をしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 豪華絢爛を表現するように垂れ下がっていた光りのアートは……

 

 

 

 

 

 

 ――――落ちて、粉々に粉砕されていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと、落ちてしまった弾みの所為だろう。きっと、さっきの音の正体はこのシャンデリアからだったのだろう。

 

 

 

 

 

 小さな考えを巡らす俺達の視界は……少し薄暗かった

 

 

 

 

 

 シャンデリアという大きな光源がないために、室内は壁に取り付けられた、小さな光りで照らされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 …でも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも…――――――分かってしまった。

 

 

 

 

 

 落ちた巨大なシャンデリアの真下……

 

 

 

 

 

 そこに、あってはいけない、”モノ”があることに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピンポンパンポーン…!』

 

 

 

『死体が発見されましタ!』

 

 

 

『一定の捜査時間の後、“学級裁判”を開かせていただきまス!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血はまるで蜘蛛の巣のように床に広がっていた。

 

 

 

 

 まるで血の入った風船が、シャンデリアに押しつぶされてしまったように広がっていた。

 

 

 

 

 

 だけど、押しつぶされていたのは、風船でも何でも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――”人”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一目で、死んでいると…理解できてしまう。そんな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――超高校級の忍者“沼野 浮草”の、死体が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア3:モノパンタワー 2階『ダンスホール』】

 

 

 

「な…何で……」

 

 

 ――――むせかえる血の匂い、まき散らされた血の水たまり。

 

 

 ――――目の前で粉々に砕け散る、シャンデリアの骸

 

 

 ――――生々しく、そして激しく傷つけられた遺体。

 

 

 

 視覚が、嗅覚が、目の前にある全てが、俺から冷静さを奪い去ろうと刺激する。

 

 

 

「沼野…!」

 

 

 感じ取っていたはずだった、覚悟していたはずだった。だけど俺は…冷静さを欠いていた。今日まで、自由に動いて、話していた友人の名を、震えた声で呟いた。届くはずも、宛ても、何処にもないというのに…。

 

 今朝まで話をして、そして分かれたばかりの、また明日と分かれたばかりの沼野が、何故…ココで死んでいる?何故、シャンデリアに押しつぶされている?

 

 俺は絶え間無く、どうして、どうして…宛てもない問いを繰り返す。覚束ない足取りで、沼野の死体に近づいていく……。

 

 

 ――――しかし。

 

 

「ミスター折木…ストップだ」

 

 

 肩を掴まれ、制された。ニコラスだった。彼が、俺の震えを抑えるように、落ち着けと言っているように、堅く肩を握りしめていた。少し痛かった。

 

 

「に、ニコラス…」

 

 

 その痛みが俺の冷静さを、少しだけ取り戻させてくれた。そして、俺だけじゃなく、ここには小早川や、贄波も居たという事実も思い出させてくれた。

 

 

「うっ……」ガタッ

 

「小早川、さん!」

 

「こ、小早川…!」

 

 

 瞬間、小早川は蹲る。近くに居た贄波が、倒れないように彼女を支えてくれた。

 

 俺はすぐに彼女たちの元に駆け寄った。見てみると…小早川は今に吐きそうな位に、顔を青くしていた。俺は上着を脱いで、袋のように形を作り、彼女の目の前に差し出した。

 

 

「すみません…本当に、すみま、せん……まさか、こんな…こんな…」

 

「…大丈夫、気にするな。替えはいくらでもある。今は…自分の事だけを考えろ」

 

「折木、くん…」

 

「大丈夫だ………ああ、俺も、……大丈夫だ……」

 

 

 確かに冷静は取り戻した。でも、俺自身も大丈夫ではなかった。俺よりも酷い小早川を見て、ただ相対的に余裕をもっているだけだった。

 

 無理もなかった。見えるに耐えないほど、無惨な状態の沼野を見て、正常なままでいろと言う方がおかしいのだから。

 

 そんな俺を、贄波は見透かしているようだった。それでも、”分か、った”と、とどめてくれた。

 

 

「ミスター折木」

 

 

 安心させるよう、小早川の背中をさする俺に、ニコラスは声を掛ける。苦しげな顔で、真剣さを崩さない表情の彼と相対した。

 

 

「…良いかい?今から言うことを、よく聞くんだ」

 

 

 表情とは裏腹に、声色には、僅かな動揺が見えた。

 

 だけど、決して冷静さを失わないように、自分で自分を抑える自制しているようにも見えた。俺は黙って、彼の言葉を待った。

 

 

「キミとミス小早川は今すぐに下に行ってくれ…そして全員にこのことを…――――」

 

 

 きっと、沼野の訃報を下に居るはずの生徒全員に伝えるんだ…そう言いたかったのだろう。

 

 

 

 だけど言い切る前に…

 

 

 

 

 

 ――――ぱっ、と暗闇が辺りを包んだ

 

 

 

 

 

 

「な、何だ…!」

 

 

 突然の暗転…。光りの消失。周りに居た生徒達を一瞬で見失ってしまった俺は、焦りを助長させ、暗闇に瞳を巡らせた。

 

 

「お、折木さん…」

 

「ふ、二人、とも…離れない、で!」

 

 

 立ち上がろうとした俺の服を誰かが掴んだ。同時に、手も掴まれた。恐らく声の聞こえた二人のどちらか。

 驚きもあったが…誰かが側に居るという実感に触れたことで…とても強い安心感を覚えた。

 

 

「手を掴んでるのは誰だ…」

 

「わ、私です…」

 

「服は、私、だよ?」

 

「良かった…………―――――ニコラス!」

 

 

 二人の安否を肌で感じた俺は、もう一人の、さっきまで側に居たはずの彼の名を呼んだ。できるだけ離れていないでくれと、そう思いながら強く叫んだ。

 

 

「ああ聞こえているとも!」

 

 

 暗闇がこの場を支配する中で、明朗な声が返ってくる。先ほどまでの動揺は何だったのかというほど…酷く落ち着いていた声色だった。

 

 声の大きさから、どうやら彼もすぐ側に居てくれているようだった。また少し、安心できた。

 

 

 

 すると――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――ガン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 安堵したのもつかの間、何かが落ちたような音が…また”上から”響いた。

 

 

 俺は…上を見上げ、息を呑んだ。

 

 

「な、何ですか…!今の…!」

 

「しっ…静かに」

 

 

 驚きの余り取り乱す小早川の声を、ニコラスが制する。俺達は息を殺しながら、何も見えない宙を見上げた。

 

 

 

 

 ――――カタ…カタ…カタ…カタ…………

 

 

 

 

「……!」

 

「……」

 

 

 再び音が響いた。今度はとても小さく、まるでガラスを踏みしめるような、引き締まるような音だった。

 

 

 だけど待て、俺は黙ったまま自分で自分に問いかける。

 

 

 そんな足音が上から降ってきたということは……もしかして…何かが…

 

 

 いや――――誰かがこの上にいるのか?

 

 

 だけど、上にあるのはガラス張りの天井だけのはず……。

 

 

 考えるまでもなく怪しい音の数々に、心臓を包み込むような恐怖を感じた。握る手に、力がこもる。

 

 

「諸君……聞きたまえ。ゆっくりと、こっちに来るんだ」

 

 

 すると、ニコラスの声が俺の背後から聞こえる。俺はすぐに振り返る。何も見えないが、エレベーターのある方角であることは分かった。

 

 

「ニコラス…!」

 

「良いから!こっちに…!このエレベーターを使って、このダンスホールから早く脱出するんだ…」

 

「えっ…どうして…」

 

「キミ達も聞こえただろ?…上からの音を……あれは足音だ。上に、誰かが潜んでいるのだよ」

 

「そんな…一体何のタメに…!」

 

「分からない…だけど、態々上に足を乗せているということは…このダンスホールに侵入する以外考えられない…。そして、そんなイレギュラーな方法で入ってくるヤツに、碌な輩は居ないものさ」

 

 

 それはすなわち、このダンスホールに碌でもない事を考える輩が、碌でもない事をしようと降りてくる…そう言っているようだった。

 

 確かに…途轍もない説得力のある理由だった。俺は大きく頷き、足音を立てないよう、ゆっくりと、エレベーターへと近づく。

 

 エレベーターの側、恐らくボタンがあるであろう場所に手を置き、スイッチを押した。

 

 

 だけど……

 

 

「つ…点かない…」

 

「何で…!」

 

「もしかし、て…電気、が、落ちてる、から……動かな、い」

 

「そ、そんな……!」

 

「――――そうか、成程ね」

 

 

 何かを理解したように、暗闇から彼の声が漏れた。

 

 

「ボクらは、どうやら退路を断たれたみたいだ」

 

「退路を…!」

 

「………もはや、ボクらに逃げ道はない…つまりそういうことさ」

 

「じゃあ、どうすれば…」

 

「ははっ、なぁに、此方もそれなりの対処方法を用意してあるさ。安心したまえ」

 

「方法って…」

 

 

 その対処法とやらに、一縷の希望が見えた気がした俺は…詳細を彼に聞く。

 

 

「物理的行使…それ以外に無いとは思わないかい?」

 

 

 だけど返ってきたのは、希望の欠片も、そしてこれ以上考えられない程…シンプルな解決方法であった…でも。

 

 

「いやダメだ…危険すぎ――――…!」

 

 

 

 ――――――カタ、カタ、カタ、カタ

 

 

 

 また。動き出した、音が、段々と此方に近づいてきているような気がした。恐怖が、目の前まで迫ってきている、そう直感した。

 

 

「……!!」

 

「だけど、これ以上の策は他にない…良いね?ボクに何かがあれば………ミスター折木

 

 

 

 

 ――――後は頼んだよ?」

 

 

 

「ダメだ、ニコラス――――」

 

 

 

 ――――何処かに行ってしまう

 

 

 

 そう思った俺は、暗闇の向こう側へ、追いかけようと身を乗り出した。だけど、握られた手の力と、服を掴まれる力が強くなった。

 

 

 ”行ってはいけない”と止められたようだった。

 

 

 俺はその恐怖を埋めるように、お互いに、身を寄せ合った。それでも心臓の鼓動は治まらなかった…今にもはじけ飛びそうなくらい、強く動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――タッタッタッタッタッタ……タン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 極限の緊張の中で…何故か…――――走るような音が聞こえた。

 

 

 

 

 そして……飛び跳ねるような音を最後に…音は消え去ってしまった。

 

 

 

「…何だ?…何が起こった?」

 

 

 

 …辺りは頭が痛くなるくらいの静けさを取り戻していた。暗闇の中に取り残される俺達はその状況を飲み込めず、小さく首を傾げていた…。

 

 

「居なくなった…のか?」

 

 

 意味の分からない音の集まりと、意味の分からない不審者の行動。その不自然に不自然を重ねた出来事の数々に、疑問符を浮かべていた。

 

 

 

「そ…それよりも…ニコラス!」

 

「……――――ああ大丈夫さ。ボクが動き出す前に…どうやら、いなくなってしまったみたいだからね」

 

 

 友人のその声に、強く安堵した。張っていた肩の力を抜くように、大きく息を吐いた。

 

 

 ――――良かった、無事で

 

 

 そう思った俺の、握られていない手にはじっとりとした汗が滲んでいた。

 

 

「で、ですが…何も起こらなかったようで…良かったです。本当に…」

 

「うん……でもまだ、暗い、から……それまで、は、動かない、ように、しよ?」

 

 

 驚くほど何も無かったことに首を傾げながらも…”そうだな”…と贄波の案の通り、俺達は待った。

 

 

 しばらく、動かず、時計も見えない暗闇の中で、時間を待ち続ける。

 

 

 

 何分?いや何十分…いや、何時間?

 

 

 

 とにかく長い時間を、世界が光りを取り戻すまで…待ち続けた…。

 

 

 

 

 そして――――。

 

 

 

 ――――パッと……光りが灯った

 

 

 

「電気が…」

 

「復旧したみたいだね…」

 

 

 シャンデリアに押しつぶされた沼野。エレベーターの入口近くで、手を握る俺と小早川とそして服を掴む贄波。

 

 微動だにせず立つニコラス……暗くなる前と少し距離は近くなっただけで、特に、変わりは見られなかった。

 

 色々とイレギュラーな事態は多々あったが…これで、一安心……――――ではなく早く、沼野のことを伝えねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけど――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピンポンパンポーン…!』

 

 

 

『死体が発見されましタ!』

 

 

 

『一定の捜査時間の後、“学級裁判”を開かせていただきまス!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………!??!??!!」

 

 

 

 

 何故か、もう一度アナウンスが鳴り響いた。俺は声にならないほどの驚きを表わにした。

 

 

 

「…ど、どういうことだ!!!!」

 

「…沼野さんはここにいるのに……何で」

 

「……もう一度、鳴った…て、ことは…」

 

「ああ……つまり――――そういうこと、みたいだね」

 

 

 目元が見えない程ハンチング帽を深く被り直すニコラス。俺はすぐに、そんな彼に目を向け、言葉を投げた。

 

 

「……ニコラス、これは」

 

「ミスター折木。緊急事態だ……ここはボク達に任せて下に行ってくれ…!」

 

 

 今までに無いほど切迫したニコラス、そして俺を見て頷く贄波と、小早川……。

 

 

 今、何が起こったのか、その瞳と、姿を見て、何もかもを理解したくなくても、理解してしまった。

 

 

 俺は…”頼んだ…”そう低く呟き、エレベーターに飛び乗った。

 

 

 

 

 

 

 ――――――鉛のような、重苦しい不穏を押し殺しながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア3:噴水広場】

 

 

「…何だ…?これ…」

 

 

 タワーを降りてまず目に入ったのは…。

 

 

 

 

 

 ――――噴水の中心に刺さった、大きな”籠”だった。

 

 

 

 

 

 ――――それは、どう見ても気球に用いていた籠だった。

 

 

 

 

 

 ――――その籠が、堂々と目の前の噴水に突き刺さっていた。

 

 

 

 

 

 

「…何で、籠が、こんなところに……――――いや…それよりも…!」

 

 

 

 

 明らかに不自然な光景は…気になって仕方が無かった………

 

 

 

 だけど問題は、それではなかった。

 

 

 

 

 アナウンスの出所の方が今の俺にとって、最も重要な問題だった。

 

 

 

 すぐさま、頭を切り替え、周りを注視する。

 

 

 

 

 

「……どこか…人だかりは」

 

 

 

 

 

 …アナウンスが鳴ったということは、3人以上に死体が発見されたということ。

 

 

 

 

 

 つまり何処かに、それらしい人だかりがあるはず。

 

 

 

 

 

 そう考えた俺は急いで、噴水広場で周りを見回った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 見回った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、酷くあっさりと――――その人だかりを見つけてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お菓子の家の前だった。

 

 

 

 

 ”お菓子の家だった”、粉々に倒壊した何かの前に。

 

 

 

 

 俺は、足をズルズルと、運んでいった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……」

 

 

 

 

 

 俺は、疲れているわけでもないのに。――――何故か、深い呼吸を繰り返していた。

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ………はぁ………」

 

 

 

 

 

 ずっと心臓が、はじけそうな位に脈動を続けていたから。落ち着かせるには、どうしても、呼吸が必要だったから。

 

 

 

 

 

 

 それでも…心臓は激しく動き続けていた。俺を冷静にさせてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

「…折木」

 

 

 

 

 

 誰かが、呼吸を止めない俺の名前を呼んだ。

 

 

 

 聞こえているが…聞こえていないふりをして…人混みを手でかき分け、突き進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…!……はぁ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 それは聞こえないふりをしなくちゃならないくらい……周りに気をさいていられないくらい……心が言い様もない不安にとらわれていたから。

 

 

 

 

 

「はぁ…………――――――――」

 

 

 

 

 

 押しのけられるがままの生徒達を押しのけ…

 

 

 

 

「……ああああ――――――――――」

 

 

 

 

 ……その向こう側へと…

 

 

 

 

 

 ――――――――俺はたどり着いた

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああ………!!!」

 

 

 

 

 

 

 とある1人の…結末に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今までも…今も、これからも――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと…一緒にいるはずだった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、逝ってしまった。

 

 

 

 

 

 いなくなってしまった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超高校級のチェスプレイヤー”水無月 カルタ”は――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――どこにも…いなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生き残りメンバー:残り10人』

 

 

【超高校級の特待生】⇒【超高校級の不幸?】折木 公平(おれき こうへい)

【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)

【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)

【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)

【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)

【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)

【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)

【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)

【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)

【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)

 

 

 

 

 

 

 

『死亡者:計6人』

 

【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)

【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)

【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)

【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)

 

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