ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~   作:水鳥ばんちょ

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Chapter3 -非日常編- 14日目 捜査パート

 

 

 きっと分かっていた

 

 

 

 きっと知っていた。

 

 

 

 きっと、理解していた。

 

 

 

 何が起こって、何が終わってしまったのか。

 

 

 

 何が無くなって、何が始まろうとしているのか。

 

 

 

 

 誰がいなくなって、誰が残っているのか

 

 

 

 

 誰が生きて、誰が終わってしまったのか。

 

 

 

 

 

 

 ――”あのとき”から分かっていたのかもしれない。

 

 

 

 

『じゃ、お休み!』

 

 

 

 そう、あの時から。

 

 

 

 たわいもない1日の別れの言葉を告げたあのときから。

 

 

 

 それが永遠の別れになる…。それが分かっていたのかも知れない。

 

 

 

 その予感をを証明をするように

 

 

 

 ――血を飛び散らせ、まるで壊れた人形の様に四肢を崩しながら

 

 

 

 …”水無月”は横たわる

 

 

 

「…何で」

 

 

 

 だけど、俺にはできなかった。

 

 

 俺には不可能だった。

 

 

 目の前の現実を受け入れろだなんて。

 

 

 ココで出来た、大切な友人の――――…”死”を受け入れることなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――”お前”の所為だ

 

 

 

 唐突に、誰かの声が木霊した。

 

 

 …え…?俺の所為?

 

 

 誰でもない誰かから向けられたその言葉。

 

 

 ココにいる誰でもない声の色を持った…誰かの言葉。

 

 

 俺は視線を周りに移し、声の源を探そうと瞳を走らせた。

 

 

 

 

 ――――お前の所為で、死んだんだ

 

 

 

 ――――お前がココにいるから

 

 

 

 ――――お前が、水無月を、沼野を殺したんだ

 

 

 

 だけど誰もその言葉を放つ者は見つからなかった。

 

 

 見つからないはずなのに、何処かから、俺へ、謂われのない言葉で、責め立てる

 

 

 

 ――――朝衣も、陽炎坂も

 

 

 

 ――――鮫島も、長門も

 

 

 

 ――――お前が、皆を”死”に追いやったんだ

 

 

 

 分からなかった。何故俺がそんなことを言われなければならないのか。何で全て俺の所為にされなければならないのか。何一つ分からなかった。

 

 

 

 ――――お前が全てを…”不幸”にしているんだ

 

 

 

 ――――”今まで”のように

 

 

 

 だけど、一番分からなかったのは。

 

 

 何度も何度も聞こえてくる言葉を…――――素直に受け入れる”俺自身”だった。

 

 

 怒りもせず、哀しみもせず…ただ黙って、”当たり前”のように聞き入れる、俺自身が、分からなかった。

 

 

 

 

「――――――パンパラパンパンパ~ン!!痛みを知り、孤独を知り、そして絶望を知る紳士……怪盗モノパン…ココに推参!」

 

「………!」

 

 

 ハッとなった。濃霧の中から引っ張り出されたようだった。目の前には、今まで読んでも姿すら現さなかったモノパンが、現れていた。

 

 

 

 ――――俺は今まで、何をしていた?何を考えていた?何を聞いていた?

 

 

 ――――俺は、どれくらい、ココに立っていた?

 

 

 

 

「いやぁ、やっぱり始まってしまいましたねえ!のろしが再び上がってしまいましたねえ!!かつて仲間と呼び合っていたはずの超高校級の逸材達よるコロシアイ。そしてなんと!!今回は2人も!!……友情というなの絆はかくも脆く、そして儚いものですネ……」シクシク

 

 

 俺1人が混乱する最中でも、何1つ現実を理解できていない最中でも…モノパンは決して緩めず、自分自身の言葉を優先していく。わざとらしい泣き真似までして、俺達をあおり立てる。

 

 

「そんな哀愁は置いておくとしテ…さぁさぁさぁさぁ!!!一体誰なんでしょうネ!!水無月サンを、そして超高校級のなんちゃって忍者こと、沼野クンを殺害した犯人ハ!!」

 

 

 ズカズカと、許可も無く話を進めていくモノパンは。さらりと、沼野の死を安易に告げる。その訃報を始めて聞いた、俺以外の生徒達は、強い驚きを露わにした。

 

 

「……!ぬ、沼野…も…殺されたっていうですか…!」

 

「ぬわんだとぉ…あの沼野がか…!!」

 

「ふふふ、2人も、揃ってって、ねぇ?そんな……ええ?」

 

「だから、2回もアナウンスが……鳴ったの?」

 

「イエス!!イエス!!!……そう、かのモノパンタワー、ダンスホールにて、シャンデリアの下敷きとなってご逝去なされましタ。ウウウ…なんとも彼らしくない派手な最期でございまス……」

 

「折木…本当なのかい?…あのタワーで…沼野が…」

 

 

 モノパンの発言の真偽を問うような、質問が反町から投げられる。同時に、他の生徒達の鋭い視線が集まった。俺は、コクリと、俯きながら、小さく首肯した。

 

 

「………くそっ!!」

 

「くぷぷぷぷ…実に愉快、そして実に実に!!愉悦!!!そして心地よい程の、空気の圧力!!やはりコロシアイはたまりませン!!くぅ~~!!この1発が止められないんですよねェ!!」

 

「そ、そんな駆け付け一杯的に人の死を嘲笑うんじゃないんだよねぇ!!」

 

「不愉快がすぎるぞ…貴様」

 

「くぷぷぷ、心地よい熱視線、あまりの熱さに興奮してしまいそうでス。…でも、嘲笑うとか、人の死を悼むとか、ワタクシに言わせてみれば知ったこっちゃ無いんですけどネ。そういう難しい事を考えるのは、キミタチのお仕事なんですからネ」

 

「…そういう言い方、止めて」

 

「おおっと怖い怖い…そんな食い殺さんばかり睨まれてしまったら………もっと興奮しちゃうじゃないですカ…」

 

「こいつ…無敵か…!」

 

 

 おちょくるように、他人事のように…このデスゲームを仕組んだモノパンは言葉を並べていく。何の感慨もなく、タダ無情に、俺達に言葉をあびせかける。

 

 対して、怒りを募らせながらも、強く反抗すること出来ないことに、俺達は悔しさを滲ませる。

 

 

「ワタクシの性癖については置いておくとして…問題なのは、これからキミタチにまた重大な場面が待っているという事…そして今から始めるのはその準備…すなわち捜査タイム。もう2度も経験しているキミタチなら、もうご存じですよネ?」

 

「……ああ、わかっているよ。世界のために歌い、そして世界と肩を抱き合い、心を共有させる…あの時間が来た事なんて、誰だって理解しているさ」

 

「9割9分外れてるんだよねぇ…」

 

「くぷぷ、まぁざっくりと言えばそんな感じス」

 

「訂正することも諦めちまってんだよねぇ…!」

 

「そして捜査タイムにはお約束があることもご存じのハズです。ですが今回は特別なので、少々張り切って言っちゃいますネ~。――――たらららったら~、ザ・モノパンファイル Ver.3 アンド Ver.4!!」

 

 

 そう言って掲げられた2つのタブレット。

 

 その掲げられたタブレットをモンパンは、俺達に有無を言わせずに押しつけていく。立ち尽くす俺にも、落とすなと言わんばかりにタブレットを強く握らせる。

 

 

「…まさか2冊まとめて貰う時くるなんて、ねぇ…」

 

「…今日は厄日さね」

 

「………」

 

「それでは時間制限の間際まで、ふるって、調査を行って下さいまセ。ワタクシはいつもどーり、裁判場でお待ちしておりますのデ。あー今日は定時で帰れそうで何よりでス」

 

 

 “では、ばいっくま~”そう言って、モノパンは忽然と消していく。

 

 ヤツが去った今でも…俺はただ呆然と、目の前の水無月の死体を眺め続けるだけ。

 

 何を思って、何をすれば良いのか…分かっているはずのに…体が動かなかったから。哀しみで、今にも倒れそうだったから。だから、俺は今も、立ち尽くす。

 

 

「――――折木!!」

 

 

 肩を掴まれた。強く、痛く。また反町に呼ばれた。先ほどとは違って、少し憐憫を含んだ声色で。

 

 俺は何処を見ているのかも分からない、虚ろな瞳を反町へと向けた。彼女の真っ直ぐと揺れる瞳が俺を突き刺した。後ろの生徒達も、同じように俺を見ていた。

 

 

「…折木。悪い事は言わない…アンタは向こうに行ってるさね」

 

 

 そう言って、噴水広場の方を指を差す。

 

 

「……」

 

「アンタ、目に見えて酷い有様さ……ここは、アタシらに任せて、向こうで休んでな」

 

「うん…あたしもそうした方が良いと思うんだよねぇ…本当に…ねぇ?」

 

 

 ココにいたら、邪魔だ、そう言いたいのだろうか。でも優しい彼らのことだ、きっとそう突き放すように言っているわけではない。

 

 無理をするな、そう言っているだ。だけど、何もかもに取り残されたような俺には、俯くことでしか応えることはできなかった。

 

 

「行かないんだったら、無理矢理にでも連れてくですよ……そこ突っ立っててもらっちゃ、捜査の邪魔になるんです」

 

「ちょちょ、そういう言い方は、なんかねぇ…もうちょっと、やわらか~い言い方ってもんがねぇ…」

 

「大丈夫、蛍は、キツそうだったら…一緒に付いてく?って言ってるだけ」

 

「…どう捉えたらそう解釈できるですか」

 

「…真面目に解釈してる」

 

 

 分かっていた。今の俺は、平常ではないと。今までの様に、まともに捜査できるほど切り替えができる状態じゃないと、何をすべきかを判断出来る程の余裕は無い、と。

 

 

 だから…。

 

 

「いいや……良い。捜査の邪魔にだけは、なりたくないから……1人で充分だ」

 

 

 俺は、優しい彼らの足手まといに、なりたくなかった。真実への追求の邪魔をしたくなかった。

 

 

 だから俺は…その場を、離れることにした。

 

 

 水無月の死体に、背を向けながら。トボトボと。

 

 

 現場を離れる間際も、背中から、全員の視線を感じていた。

 

 

 とてもじゃないが、振り返ることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

【エリア3:噴水広場】

 

 

 お菓子の家から離れてから数分。

 

 俺は、ベンチに腰掛け、こと垂れていた。

 

 こんな日が来るなんて思わなかったから。

 

 大切な友人が、居なくなってしまった現実を受け止められていなかったから。

 

 流すべきはずの涙も、何処かへ、消えていってしまったようだった。

 

 

「折木」

 

 

 噴水広場のベンチに座る俺に、誰かからの声が掛ける。

 

 

「雨竜…」

 

 

 雨竜だった。右手をポケットに入れながら、不機嫌そうに顔をしかめ此方を見下ろしていた。

 

 

「あれ、雨竜……?……何で…お前、検死は…」

 

 

 そして何故、彼がココにいるのか、俺は一瞬理解できなかった。彼は、今まで死体の検死をやっていた、だったら、今回も同じように死体と向き合っているはずだ。

 

 だから、理解できず、瞬きを早めた。

 

 

「貴様と同じ戦力外組だからだ…」

 

「………」

 

 

 どういうことだ?言葉にはせずとも、表情でそう言った。

 

 

「………………血が、苦手なのだ」

 

「…え?」

 

「ワタシは血を見ていられないほど、気絶してしまうほど、苦手なのだ」

 

 

 血が、苦手…?何故急にそんな、今までだって。

 

 

「今までは、運が良かったのだ。血が出る死因はなかったからな」

 

 

 朝衣の溺死、鮫島の縊死…からの焼死。確かに、遺体から血の出るような死因ではないが…。

 

 

「故に…今回ばかりは、ワタシは検死もまともに出来ない…木偶の坊と化しているのだ。自分で言うのもなんだがな。…だから、ワタシは貴様と同じように、あそこから締めだされたのだ」

 

 

 だけど今回に限って…雨竜は、血の所為で、今回の捜査がまともにできない。それだけは理解できた。つまり、俺達は…同類ということだった。

 

 

「……そう、だったのか………」

 

「見張りは反町と風切、雲居…捜査は古家と落合がやるそうだ…」

 

「落合が…?」

 

「ふっ、珍しいことにな…あの落合が急に捜査をしようだなんて、遠回しにではあるがそう言ってきた」

 

「………想像できないな」

 

「同感だ。直に目にしたワタシでも。未だ信じられん」

 

 

 ”だけど”…そうつぶやき雨竜は続けていく。

 

 

「ヤツがそう言わなければならないほど…今我々は、限りなく切迫している状況にいるということだ」

 

「……」

 

 

 …そうか、そうだよな。

 

 水無月だけじゃなく、沼野も死んでいる今。場所が場所なだけに見張りも四人にしなくてはならない。

 

 あまりにも、人手が足りなくない。ただでさえ、捜査なんて慣れない行為を行わなければならないというのに。

 

 

「それにだ。奴らも…お前やワタシ、そしてニコラスを頼りっぱなしではいかんと思ってるのか……いやに張り切っている」

 

「……そうか」

 

 

 付け加えるように、そう言った。一連の報告を聞き終えると、急に彼は”さてっ!!”と意気込むように、大声を吐き出した。

 

 

「…雨竜?」

 

「今から、ワタシも捜査に赴こうと思ってな…」

 

「え、でも…お前、血が苦手なんじゃ」

 

「死体を見ずともできることは山ほどある。ワタシは、ワタシなりにやれることをやるつもりだ」

 

「やれる、こと」

 

「それに、死体についてはこのファイルに事細かく書かれている。今までのファイル宜しく、悔しい話だが、ファイルの情報は正確だ。これを読んでおけば、出遅れずにはすむはずだ」

 

「………」

 

「水無月と沼野が……亡くなってしまったことは…気の毒な話だ。だが…二の足を踏んでいては、自分の命が危ぶむ…自分の気分ごときで、甘えてはいられん」

 

「雨竜…」

 

「それに奴らは奮起している。生き残るために、水無月達の死を乗り越えるために、このデスゲームを早く終わらせるために」

 

「……」

 

「そのような気概を見せられては、超高校級の観測者の名が廃る。ヤツらのやる気に、負けていられんというものだ」

 

 

 

 生き残るために、水無月達の死を乗り越えるために。

 

 

 俺は反復した、そして同時に今の自分を顧みた。

 

 

 2人の大切な友人を失って、頭が真っ白になって、仲間から肩を支えられなければならないほど倒れそうになって。

 

 

 何も思わず、彼女たちとの思い出を思い出しているだけ…。

 

 

 受け止めきれなくて、甘ったれて、皆の気遣いを素直に受け取って…。

 

 

 こんなの、タダ生きているだけじゃないか。

 

 

 生きようとしていないじゃないか。

 

 

 こんなの、死骸も同じじゃないか。

 

 

 水無月達と一緒に、死んだも同じじゃないか…!

 

 

 

 ……そうだ。

 

 

 これから、学級裁判が始まってしまうんだ。

 

 

 

 俺達の中に潜む、クロをあぶり出すための。

 

 

 

 そのための助走を…今俺達はしているんだ。

 

 

 

 その助走を怠ってしまえば、俺達は真実をつかみ取ることも難しくなる。

 

 

 

 俺達には、いや俺には…足踏みをしてる時間なんて、一分一秒だって無い……。

 

 

 

 だって、ここで終わってしまえば、2人の死を悼む俺達すら死んでしまうかも知れないんだ。

 

 

 だったら…

 

 

「……俺も、やる」

 

 

 俺も真実を暴かなければ…。友達を葬った犯人を見つけ出すために。

 

 

「…ふっ、その息だ。その言葉を待っていたぞ、折木公平よ、貴様に貴様がやるべき使命を果たすときがきたようだぞ…」

 

「…雨竜。俺は、やるぞ…!」

 

「そうだ…やるのだ…俺達は!!」

 

「俺はやるぞ、やってやるぞ!」

 

「もぅっと声をだすのだ!!俺ハァ!!!やるぞぉお!!!となぁ!!!」

 

「俺は、やるぞ!」

 

「リピート!!」

 

「俺は!!やるぞ!!」

 

「アゲイン!!」

 

「俺は!!!!――――「うるさいですよ!!!!」」

 

「「…………」」

 

 お菓子の家の方角から、やまびこのように雲居の怒声が木霊した。どうやら、かなり近所迷惑だったらしい…。

 

 そ…そうだよな、今は捜査タイムなんだよな。

 

 

 少し騒がしくしすぎたと、お互いに反省する。

 

 

 だけど雨竜が宣言したように、俺も深く強く、言い切った。……つもりだ。

 

 

 何となく、心に余裕が出来たような気がした。何となく、心が軽くなったような気がした。

 

 

 これなら今までよりは、上手く動けるかもしれない。何とか、まともに捜査ができるかも知れない。

 

 

「ん?おい、あれは…?」

 

 

 そんな決意表明をした供御、何かに気付いた雨竜が、タワーへと視線を向けていた。

 

 向いてみると、此方に向かって走ってくる贄波が見えた。

 

 

「はぁ…はぁ…折木、君。良かった、居て、くれて…」

 

 

 肩で息をする贄波は、俺達にそう声をかける。尽かさず、俺は意識の外の置いていたモノパンタワーの現状について聞いてみた。

 

 

「贄波…ダンスホールの方は、小早川は大丈夫なのか?」

 

「反町さんが、来てくれ、た、から。大丈夫そう、だよ?…見張りも引き受けてくれるっていう、から、私とニコラスくん、も捜査、してこい、って」

 

「ふふふふ…どうやら、かの名探偵様も動き出すみたいだな。そして、我らの希望の星たるコイツも、無事に立ち直った………ふっ、我々に勝機あり、と見た」

 

「希望の星は止めてくれ。そこはかとなく恥ずかしい」

 

「そうか…?では希望の一等星」

 

「二文字追加してどーする」

 

「ふふふ…」

 

「贄波?」

 

「心配してた、けど元気そう、で、良かった、って、思って」

 

 

 やはり、お菓子の家の連中だけじゃなく、贄波達にも心配を掛けてしまったようだ。

 

 

「ああ…でも大丈夫だ。始めよう、生き残るための…捜査を」

 

「その、粋、だよ!」

 

 

 ニコラスだけじゃない、俺だって…やってやる。もう、弱音を吐く時間なんて何処にも残されてないんだからな。

 

 

 水無月、沼野……。

 

 

 絶対に……お前達を殺した犯人を、見つけてみせる。

 

 

 絶対に……!

 

 

 

 

 

 【捜査開始】

 

 

 

 

 まずは、事件の概要を把握しなくちゃな…。そう思った俺はすぐに、先ほど握らされたタブレットを、無事に起動させる。

 

 

 すると…

 

 

「…折木よ、口頭良いから、要約してもらえるか?」

 

 

 そう言って、雨竜は目を背けたまま、二つのタブレット俺の目の前に差し出す。

 

 

「画面越しでも無理なのか…」

 

「言ったであろう…血は大の苦手だ」

 

「えっと…何だか、よく分からない、けど…難儀、だね?」

 

「そうだな…難儀だな」

 

「仕方ないであろう…血を見たときのワタシの気絶は凄いぞ、それこそきゅーっと!」

 

「どんな自慢だ」

 

「そんな、漫画みたい、なことって、あるんだ、ね」

 

 

 …何だか、先の思いやられる出立だな。

 

 

 俺達は小さなやりとりをしながら、ver.3の沼野のファイルに目を通していく。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 モノパンファイル Ver.3

 

 被害者:【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

 

 死体発見現場はエリア3、モノパンタワー2階の『ダンスホール』。死亡推定時刻は午後5時あたり。体全体に無数の外傷が見られる。外傷以外では、被害者は激しく吐血したことが確認できる。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 写真に写るのは、シャンデリアによって押しつぶされた、沼野の死体。

 

 苦しむように目を見開らかれ、ファイルに説明があった激しく吐かれたとされる血が、口元を彩どっていた。

 

 

「…ううむ。口頭で聞いたところでは…沼野は…圧死?の線が濃厚か?」

 

「ああ…”字面”だけだったらな」

 

「ん?何か含みのある言い方であるな…どういう意味なのだ?」

 

「もしも雨竜の言うとおり圧死であったなら。沼野はシャンデリアに押しつぶされて死亡したことになる。だけど…俺達の耳が正しければ…シャンデリアが落ちたのは恐らく午後7時のはずだ」

 

「んんん?疑問が尽きぬが、ファイルには午後5時に死亡したと書かれているぞ?」

 

「そう、死亡推定時刻、と…合わない、の」

 

「むぅ…であれば、確かに不思議な話であるなぁ」

 

 

 ファイルに書かれている情報は、今までの経験上、意図的に隠された情報でなければ、十中八九正確だ。

 

 つまり、沼野は確実に午後5時に死亡している。だけど、俺達の身辺で起きたことを踏まえてみると、明らかなタイムラグが存在していることも事実。

 

 …恐らくこの時間差には、何かしらのトリックが隠されているのだろうが…今の時点ではまだ何も思いつかない。

 

 考えるのは後にしよう、そう割り切った俺は、もう一つのファイルに手を伸ばした。伸ばしたのだが…。

 

 

「……」

 

「再三聞くが、いけるのか?」

 

「大丈夫だ…さっきも言ったろ?俺はやるぞ…って。もう覚悟は出来てる」

 

「…じゃあ、見ていく、ね?」

 

 

 少し止まってしまったが、それでも大丈夫と…もう一度確認するように心の中でそう呟いた…そして

 

 

 ――――もう一つのモノパンファイルに目を通した。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 モノパンファイル Ver.4

 

 被害者:【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

 

 死体発見現場となったのは、エリア3のお菓子の部屋。死亡推定時刻は午後7時30分頃。死因は体全体を高所から打ち付けた事による『転落死』。外傷は他に、強く掴まれたようなのアザが見られた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 死体の写真は、とてもじゃないが見ていられないほどの様相であった。

 

 体の四肢が、あらぬ方向に曲がり、割られた水風船のように血をまき散らす。

 

 沼野に負けずとも劣らない凄惨さであった。

 

 

「…」

 

 

 苦しむように目をしかめながらも、ファイルをスクロールし情報を整理していく。

 

 落ち着きをはらいながら、改めて記憶を掘り起こし、そしてアイツの行動の時系列についてかんがえてみた。

 

 

 水無月が死亡したのは午後7時30分…。そしてアイツがタワーを出て行ったのは7時ちょっと過ぎ…。

 

 …つまり水無月はタワーから離れてから、大体30分後に彼女は死亡した。タイミング的には、例の停電が起こった前後、もしくは最中。そう考えられた。

 

 だとしても…。

 

 

「何で、”転落死”…?」

 

「…ああ。ワタシもそこが気になっていた。気になった固めに色々考えてみたのだが……このエリア内で、かつお菓子の家の中で転落死……絶好の高所と言えばタワーとまでは結びつけられるが…」

 

 

 雨竜はそう言ってタワーを見上げた。

 

 

「……だとした、ら……ドンピシャ、だけど」

 

 

 贄波は何となく信じがたいように顔をしかめていた。だけど逆に俺は、内心あり得るかも知れないと頷いていた。

 

 

 …タワーのダンスホールに居たときのこと。

 

 

 

『――――カタ…カタ…カタ…カタ…………』

 

 

 

 足音のような音が…タワーの上から聞こえていたことを、俺は思い出す。

 

 

 

『――――――タッタッタッタッタッタ……タン!!』

 

 

 

 それに加えて、跳ねるような音も聞こえていた。

 

 

 そこから考えれば、雨竜の意見も信憑性が高くなる。

 

 

 問題なのは、あの天井からの音が水無月のものであったのなら…どうやってモンのパンタワーのてっぺんに登ったのか。

 

 いや…そもそもの話、何で水無月は屋上にいるのかも分からない。アイツは、約束の時間の直後に、すぐログハウスエリアへと向かっていったのだから。

 

 まるで、瞬間移動でもしたみたいだ。

 

 

 

「……意味が分からないな」

 

「その通りだな、全くもって意味が分からん。…だが、それも含めた謎を究明するための学級裁判だ。深くは考えるのは後回しにしよう。今は、情報集めが先決だ」

 

「…そう、だ、ね」

 

 

 俺は雨竜の言うとおり、自分の推理ではなく、今分かっている事実のみをメモに書き記していった。

 

 

 

 

 

 

コトダマGET!!

 

 

【モノパンファイル Ver.3)

…被害者:【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

 

 死体発見現場はエリア3、モノパンタワー2階の『ダンスホール』。死亡推定時刻は午後5時あたり。体全体に無数の外傷が見られる。外傷以外では、被害者は激しく吐血したことが確認できる。

 

 

 

【モノパンファイル Ver.4)

…被害者:【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

 

 死体発見現場となったのは、エリア3のお菓子の部屋。死亡推定時刻は午後7時30分頃。死因は体全体を高所から打ち付けた事による『転落死』。外傷は他に、強く掴まれたようなのアザが見られた。

 

 

 

 

 

 ファイルをメモに記録した俺は、すぐに移動を開始する。目指すのは、まずこの噴水広場の中央。

 

 その広場のマストである、噴水。そして美しいシンメトリー調のオブジェに、不自然に突き刺さる、大きな籠に、俺達は目をやった。

 

 エリア3の目玉として、西エリアと東エリアを空中浮遊しながら往復できる気球。

 

 その籠が今俺達の目の間につき刺さっていた。上にくっついていたはずの風船は何処にもなく。両者をつなぎ止めていたと思われる多数の糸も、垂れ下がり、噴水に身を沈めている。

 

 

「…この籠って気球に使うアレ、だよな?」

 

「ああ、乗った経験のあるワタシ達であれば、なおさら見間違えられん」

 

「でも、何で、ここに?」

 

 

 水無月の転落死に加えて、噴水へ不自然に突き刺さる気球の籠。まるで空間がねじ曲がったように意味の読めないこの光景。

 

 だけど、何も読めない空間の中でも、たった一つだけ分かることはあった。

 

 

「分からないが……少なくとも俺達が2階に上がる前は、何も無かったハズなんだけどな」

 

 

 そう、何も無かった。タワーの入口越しからでも、噴水が見えるために、ココに突き刺さっていれば俺も俺以外の誰かがすぐに気がついたはずだ。

 

 だとしたら、ここに籠が置かれたのは…俺達がタワーに2階に上った後…ということになる。

 

 

「…籠自体には変わった様子は……」

 

 

 そう言って、見上げる形で噴水に突き刺さる籠を調べていく。贄波たちも、ジロジロと、外周を回りながら観察していく。

 

 

「あ!…彼処!」

 

「何か見つけたのか!」

 

 

 すると贄波が普通よりも大きめの声を上げる。聞きつけた俺達は彼女の元に集まっていく。

 

 

「あの、縁の部分」

 

 

 見てみると、籠の手すりの一部分が大きく”凹んでいる”のが見えた。

 

 

「…形からして、何かが引っかかったように見えるなぁ……丁度、この手でぶら下がれば、同じような跡ができるかもしれん」

 

「じゃあ、やって、みる?」

 

「まずあれをここに降ろさなければならんだろうに…」

 

「時間的にも、検証している暇は無さそうだな……それにしても奇妙な跡だな…」

 

 

 些細な事かも知れない。だけど、できうる限りの情報はこまめに記録しておこう。

 

 俺は気球のこと、そして籠の手すりの凹みについて記録していった。

 

 

 

 

 コトダマGET!!

 

 

【気球の籠)

…噴水に突き刺さった遊覧用の気球。少なくとも、タワーに集合した時には突き刺さっていなかった。

 

 

【気球の手すり)

…大きく凹んだ跡があった。丁度、手を引っかけた位の大きさの凹み。

 

 

 

 

 気球の籠については他に気になる点はなさそうだな…。

 

 

 そう思い、そろそろ噴水広場から出て行こうか…そう考えていると。

 

 

「貴様らに今一度問いたいのだが…」

 

 

 頃合いと思ったのか、雨竜は俺達にそう言葉を向けた。

 

 

「…?」

 

「先ほども言っていたが……貴様らは、停電当時、あのタワーの中にいたのか?」

 

「……ああ、そうだったな。ついでだから、今説明しておくか。俺達、沼野の死体を見つける前に、とある手紙でタワーの一階に呼び出されていたんだ」

 

「とぅえがみぃ…?」

 

「ほら、これだよ」

 

 

 そう言って、俺は受け取った封筒と手紙を雨竜に見せる」

 

 

「『午後7時に来て下さいモノパンタワーにてお待ちしております。できるならミナサマで来ていただけると幸いです…モノパンより』…ううむ、確かに…。だけどワタシは知らんぞ」

 

「部屋の扉に突き刺さっていたんだぞ…部屋に戻ってきたときに見てないのか?」

 

「今日一日、部屋には戻っておらんかったからなぁ…」

 

「じゃあ、小早川さん、から、何か聞いて、ない?」

 

「………ううむ。覚えては…いや、待て――――そういえば…小早川のヤツ、停電が起こる前に血相を変えて何やら大変だ大変だと騒ぎ立てていたなぁ……何が言いたいのか詳細は掴めなかった故に、自分の用事を優先したが」

 

「…小早川」

 

 

 落ち着かないまま手紙の事を伝えてたのか…。その様子だと、恐らく古家の場合も同じ様子だったのかも知れないな…。それじゃあ来る者もこないだろうに…。

 

 

「じゃあ改めて説明すると…俺達は……――――俺とニコラス、贄波、小早川、反町、雲居の6人は部屋を介して渡された手紙を受け取って、午後7時にタワーの1階に行ったんだ」

 

「…集まったのは分かるが、そもそも何故そんな怪しい誘いにのったのだ?」

 

「……モノパンの名前が、書かれてた、から…かな。万が一、ってこともあったし…それに、配られてた対象、も、1人じゃ、なかったし…」

 

「ふぅむ…。それで結局モノパンはきたのか?」

 

「いや…来なかったよ…」

 

 

 7時になっても、時間を過ぎても…結局何も起こらなかった。

 

 この結果を踏めて、改めて考えてみると…恐らく、この手紙はモノパンじゃない誰かが書いたんだろう。モノパンは、性格は余りにもアレだが、時間にだけは几帳面だったからな。

 

 

「成程…午後7時に、タワーの1階に集まっていたということは分かった…それで集まった後に何があったのだ?すぐに停電が起こったのか?」

 

「いや、とても大きな音が2階から響いたんだ……巨大なガラスが割れたような音が」

 

「十中八九シャンデリアだな…。そうか、だから先ほど、シャンデリアの音を聞いたと言っていたのか…」

 

「うん、その音を聞いた私達、は…すぐに上に向かった…んだ」

 

「そして、そこで沼野の死体を見つけたんだ」

 

「ぬぁるほど…それで1回目のアナウンスが鳴り響いた、という訳か」

 

 

 だとするなら、俺達は多分、タワーの1階に誘導されたのかもしれない。シャンデリアの件と言い、沼野の死体があったことと言い…あまりにもタイミングができすぎている。

 

 少々込み入ってる話だが。恐らくこの時系列は、今回の事件の指標になる記録だ。ちゃんと整理して、少しでもぶれないようにしなければ。

 

 

「ところで、雨竜…お前が小早川に話しかけられたときに言っていた用事って、結局何だったんだ?」

 

「………ああ、そのことについてか。いやぁ……」

 

「…雨竜?」

 

 

 別に大した事を聞いたつもりではなかったのだが…何故か言いあぐねる雨竜。もしかして…言いづらいことなのだろうか?

 

 

「雨竜、くん。もしかして、変なこと、してた、の?」

 

「いいや断じて無い!…無いのだが少々恥ずかしいでな………実は、貴様らがタワーに集合している解き、ワタシは”ゲームセンター”にいたのだ」

 

「ゲームセンター?」

 

 

 俺と贄波は互いに顔を見合わせる。

 

 

「これまた…何で?」

 

「…せ、雪辱戦のためだ」

 

「雪辱、戦?」

 

「前回、貴様らに負けた事がどうしても悔しくてな…夜な夜な、あのセンターのあの筐体で密かに練習をしていたのだ」

 

「練習って…」

 

「何としても貴様らから輝かしき白星を奪い取ってやりたかったのだ…ぬぬ、笑いたければ笑うがい良いさ!ふはははははははははは!!!」

 

「お前が笑ってどうする」

 

 

 それに、だからってこんな夜遅くにコソ連することもないだろうに……どんだけ負けず嫌いなんだよ…。

 

 

「でも、待てよ…てことは。あの停電の時も、ゲームセンターにいたのか?」

 

「ああ、ゲームセンターでの修行中、いきなり例のアナウンスが流れてな…驚いて施設から出ようとしたのだ……出ようとした瞬間、いきなりゲーム機の電源と、電灯が一斉に消えてしまってな」

 

「確かあそこって自動扉だったよな?」

 

「ああ、その所為で扉は開かず…あの暗闇の中で閉じ込められていたのだ」

 

「そうだったのか…」

 

「何だか、気の毒な話、だね」

 

 

 確かに…まぁ気の毒な話だが…俺達もあのダンスホールに閉じ込められていたようなものだから、似たようなものだとも思う。

 

 

「そのゲームセンターに行く最中とか、行った後に誰かの事を見たりしていないか?」

 

「ふぅむ………そういえば、ゲームセンターに行く途中で、古家と落合を見たな」

 

「あの2人を?」

 

「ああ、古家は確かお化け屋敷の前でなにやらブツブツつぶやいていたのと…落合の場合は…既に観覧車の中に乗っているのを目撃している」

 

「何やってたんだ…アイツら…」

 

 

 事件が起こった当日にだというのに、自由に動きすぎだろ…。

 

 

「じゃあ停電の、後は…どうな、の?」

 

「ゲームセンターを出た直後に、それぞれの施設から出てきた2人と合流し、そのままお菓子の家に行った」

 

「何で、行こうと思ったんだ?」

 

「遠目から人混みが出来ていたからな。だけどまさか、行く途中でもう一度アナウンスを聞く羽目になるとは思わなんだ」

 

 

 苦い顔をしながら雨竜はそう言った。

 

 成程、その集まった直後で水無月の死体を発見した…というわけか。何となく、雨竜以外の連中の動きも分かったが…その他の連中の視点からの話も聞いた方が良さそうだな。

 

 

 

 

コトダマGET!!

 

 

【配られた手紙)

…『本日お配りした写真について、改めて説明をしようと思います。午後7時、モノパンタワーにてお待ちしております。できるならミナサマで来ていただけると幸いです。モノパンより』

 

 全員に届けられた手紙。しかし時間になってもモノパンは来ず、恐らくモノパンじゃない誰かが書いたと思われる。

 

 

【停電時の居場所)

折木、贄波、ニコラス、小早川⇒モノパンタワー2階『ダンスホール』

雨竜⇒ゲームセンター

 

沼野⇒モノパンタワー2階『ダンスホール』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア3:モンパンタワー 2階『ダンスホール』】

 

 

 噴水広場を離れた俺達は、真っ直ぐにタワーへと向かっていた。

 

 

 大層な理由ではなかった。

 

 

 どうしても、第2の事件現場であるお菓子の家に、すぐに向かう心の準備は出来ていなかったから。

 

 

 でもいつかは向き合わなければならない、その気持ちはある。今は、そのときでは無い、そう思っただけ。

 

 だから、俺と贄波、そして雨竜はダンスホールへとやって来ていた。

 

 視界に大きく広がるのは、未だシャンデリアに押しつぶされたまま、痛々しく血を広げる沼野の死体が一つ。

 

 

「これは…むごいな」

 

 

 実際に目の前にした雨竜はそうこぼした。

 

 

 その通りだと思った。

 

 

 …砕けたガラスで隈無く傷つけられた沼野の死体。思わず目を背けたくなるほどの酷い有様であった。

 

 

  ”何でお前まで…殺されなきゃ…”

 

 

 水無月と同じように、そう口からこぼれそうだった。でも口にはしなかった。言ってしまえば、また、足踏をしてしまうと、そう思ったから。自分自身の覚悟を、今更踏みにじりたくなかったから。

 

 

「やぁ、諸君…。そしてミスター折木…見たまんまのこと言わせて貰うけど、だいぶ参っているみたいだね」

 

 

 その側で、死体なんて見慣れているように留まり続けるニコラス。彼は飄々とした態度と口調を保ちながら、此方に近づいてきた。

 

 

「ならばあえて口にするな野暮助が…。…お得意の軽口は、今だけは控えておけよ」

 

「……ああ、言われなくても。分かっているとも」

 

「なら言わせるな」

 

「……」

 

 

 あのニコラスからも、そんな口ぶりをさせてしまうなんて…もしかしたら俺は今も、相当酷い顔色なのかも知れない。

 そう思うと、少しだけ苦しくなってしまう。

 

 

「小早川さん、の方、は…大丈夫、そう?」

 

 

 だけど、これ以上皆に木を遣わせるわけにはいかない。そう思った俺は、自分自身を誤魔化すように話題を振った。

 

 

「………ああ、シスター反町が来てくれたおかげで、多少はマシになったよ。今では、見張りをお願いできるくらいには、回復してくれているさ」

 

 

 彼が指を差した先に、反町と談笑する小早川が。まだ無理をしている印象は受けたが…それでも、俺がタワーを出たときよりもマシな状態に見えた。自分で言うのも、何だがな。

 

 

「……早速だニコラス。ここで掴んでいることを今すぐ報告しろ。貴様のことだ、既に何らかの証拠は見つけているのであろう」

 

 

 確信を持って追求してくる雨竜の言葉に、”勿論さ、キミ”そう軽く返事をし、すぐに続けていった。

 

 

「結論から言おう、どうやらミスター忍者はこのシャンデリアによって死んだわけではないみたいだ」

 

「…シャンデリアによる圧死…じゃないのか」

 

 

 それほど驚いた印象ではなかった。元々不可解なことだと勘ぐっていたために、この結論に対しては妥当な反応であった。

 

 

「ああ、そうとも。彼はどうやら、別の死因で死亡し…横たわった状態で、このシャンデリアに押しつぶされたみたいだね、キミ」

 

「横たわった状態で…?」

 

「そのような根拠があるのか」

 

「あるともさ。ほら、彼の周辺にある血は乾いてる…少なくとも数時間前に飛び散った証拠だ。それに、引きずられた跡もある」

 

「本当、だ…血が、かすれ、てる」

 

「…それを見た、貴様の見解は?」

 

「まぁそう答えを急がずともーーと言いたいところだが…勿体ぶるのは後回し。これはつまり、ミスター忍者を予め殺害され、そしてこのシャンデリアを落とすことで、1階にいるボクらを誘導し、死体を発見させる…そう見ているよ。ああ、勿論ボクらが手紙で呼び出された事については、知っているね?ドクター」

 

「ああ、既知の情報だ。だがしかし…聞けば聞くほど何とも残酷な手間の掛け方だ…」

 

 

 雨竜の言うとおりだと思った。予め…だとするなら。今回の犯人は、すでに事切れた沼野を、俺達を誘導するためだけにこれ程までに傷つけたことになる。

 重なるように……本当に俺達の中の誰かがそんな事をしたのか…?そう思ってしまった。でも長門の例もあるために、その疑問は初めから度外視で考えるしかない。そう思うほか無かった。

 

 

「でも、予めって、まとめてるけど、どんな、方法で、殺したのかはわかってたり、する、の?」

 

「さぁね、さっぱりだよ、キミ。仮にもミスター忍者は超高校級の忍者、腕っ節でも、不意打ちでも勝てるのか怪しい相手だ……彼が死んだことすら分かっていないような、相当な搦め手を使った…とボクは睨んでいるよ」

 

「…周辺には小細工に使われた小道具は見当たらんがなぁ」

 

 

 …確かに周辺には凶器らしき代物はなかった。…だとしたら、犯人はどうやって沼野を殺害したのだろうか…?運動神経だけで言えば、俺達の中ではトップクラスのあの沼野を…どうやって。

 

 

「ふむ…そういえば、シャンデリアは何故落ちていたのか聞いていなかったな……報告しろ」

 

「…また高圧的だな」

 

「これくらい無理矢理せんと、またどうでも良い口を叩き始めるであろう?」

 

「その通りさ、キミ!ボクの事を段々と理解してくれているようで、とても嬉しい話だね!」

 

「誰が好きこので貴様を知らねばならんのだ…!…ワタシの興味の対象は常に生命と、宇宙の神秘だ!」

 

「――――と、無駄話はこれ位にして…シャンデリアの件だったね簡単なことさ。あのシャンデリアは4本のチェーンを切っておとされたのさ」

 

「話をきけぇい!」

 

 

 雨竜を無視して、さらに続けるニコラスに、贄波も無視を決め込み、”切る…?”と反応を示した。

 

 

「ああそうさ、ほら、ここに始めて来たときに教えて貰っただろ?シャンデリアを支えるチェーンの存在を」

 

 

 そういえば、モノパンからの説明の中に、シャンデリアをさせる四方に伸びた鎖についてのがあったな…。

 

 見てみると、確かに…その支えているはずのチェーンが、根元の方で切られているのが遠目から見えた。

 

 

「成程。確かに、その4本切れば、残りは垂直に支える鎖が真ん中の1本になる。そしてシャンデリアそのものの重さと重力に耐えきれず…そのままドボン。あり得ない方法ではないな。むしろ高いまである」

 

「でも1本の鎖でも、落ちるのに時間はかかるんじゃないか?」

 

「ボクも気になってついさっきモノパンに質問を投げてみたんだが……どうやら…約1時間程時間がかかる、そう言っていたよ」

 

「1時、間」

 

「そこから考えるに、犯人はその時間を利用し、ボク達をここに誘導した…そう思い至ることができる」

 

 

 であるなら、落ちた時間を踏まえて、シャンデリアのチェーンは俺達がここに来る1時間前には切られていた…。つまり…午後6時には…チェーンが切られていた…ということか。

 

 

「そしてその切断を決定づけるように、こんなハサミが、上の観覧用のベンチの側に落ちてたよ」

 

 

 ニコラスは、エレベーターの側にたてかけてあった、鋭利な枝切りハサミを指さした。

 

 

「…これで切ったのか」

 

 

 あからさまに立てかけられたそのハサミを見て、シャンデリアが落とされた方法について完璧に理解し、確信する。

 

 

「そしてもう一つ。キミ達に見せたい物があるのだよ…」

 

「はぁ…勿体ぶるのは止めてくれよ?」

 

「ははっ、勿論さ。実はね、ミスター忍者の懐を探ってみた所、面白い物が見つかったのさ」

 

 

 自分に注目する俺達に、”これだよ”ニコラスは懐から一枚の封筒を取り出した。

 

 

「それって、俺達が受け取った手紙が入ってた…」

 

「ああ、だけど持ち主が違う。これはミスター忍者に宛てられた手紙さ」

 

 

 確かに封筒には、沼野様へ…。俺達の封筒には書かれていない宛名が書かれていた。

 

 

「まぁ…折木たちの口ぶりからして、それは我ら全員に宛てられたのであろう。であれば…ヤツに送られていても不思議ではないな」

 

「それだけじゃないよ、キミ。…面白いことに、彼の封筒の中身だけは、ボク達に宛てられた物とは、少し変わった内容が書かれていたのさ」

 

「内容、が?」

 

 

 そう話ながら彼は封筒を解き、中身を此方に見せる。

 

 

『貴方の計画は知っています。公にされたくなければ、午後5時にモノパンタワー2階のダンスホールへ来て下さい』

 

 

 中身を見た俺達は、絶句とまではいかないが、強い衝撃を受けた。

 

 

 

「これは…」

 

「私達、の、ヤツと違って、脅迫してる、ような、書きぶり、だね……」

 

「うむぅ…しかも5時…死亡推定時刻一緒ではないか!」

 

「ああそうともさ。ミスター忍者は、この手紙で呼び出され、そして殺された…」

 

 

 沼野がころされた時間。シャンデリアの切断と落下時刻。そして俺達の誘導。大まかにではあるが、沼野殺害の経緯が見えてきたようだった。

 

 

「…一応確認なのだが…その沼野と、折木達に宛てた手紙の主は、同一人物なのか?」

 

「勿論同一人物さ!」

 

「いやにハッキリと言うんだな」

 

「ああ!キミ達も見て分かっていると思うが、この手紙は直筆なのさ。だったら、こうやって、筆跡を見比べてみれば一目で分かるさ、キミ」

 

 

 そう言って、ニコラスが受け取った手紙と沼野が受け取った手紙を照らし合わせる。確かに、同じ筆跡であった。俺達は、”成程”と納得の声を上げた。

 

 

「それにしても、沼野君への手紙に書いてある、この”計画”…って、何のこと、なの?」

 

「残念ながら、その計画をしていたであろう彼が、今はもう仏様になってしまっているからね、それについては迷宮入り……この事件の犯人に聞くしか無い」

 

「…霊媒をして無理矢理聞くのも…難しい話か」

 

「古家辺りに頼めばいけるか?」

 

「ミスター落合の言葉を借りるなら、適材適所…人には可も不可もある…そう言わせて貰うぜ」

 

 

 良い考えだと思ったが…予想以上の反論をされてしまった。まさかニコラスからツッコミを受けることになるとは…。

 

 

「計画云々については置いておくとして…少なくともこの手紙で分かるのは…犯人は午後5時にミスター忍者をココに呼び出し、そして殺害…シャンデリアのチェーンを切り…そして1階にボクらを呼び出した…つまりそういうことだね」

 

「…綿密な、計画、だね」

 

「ああ。長門の事件と同じか…それ以上の作為を感じるよ」

 

 

 確改めて考えてみれば…俺達全員を呼び出した上で、そしてさらに沼野を殺害、発見させるためにシャンデリア落としたのだ。恐ろしい行動力である。

 

 

 

 

 コトダマGET!!

 

 

【落ちたシャンデリア)

…沼野の死体に落下したシャンデリア。四方に4本の鎖、そして中央のチェーンで支えられていた。四方のチェーンを切断すれば、重さに耐えきれずに約1時間で落下する。

 俺達が集合した午後7時よりも1時間前の午後6時には鎖は切断されていた模様。

 

 

【切断用のハサミ)

…チェーンの切断に使われたと思われる枝切りばさみ。ダンスホールの観覧席に隠されていた。

 

 

 

 

 

 コトダマUP DATE!!

 

 

【配られた手紙)

…『本日お配りした写真について、改めて説明をしようと思います。午後7時、モノパンタワーにてお待ちしております。できるならミナサマで来ていただけると幸いです。モノパンより』

 

 全員に届けられた手紙。しかし時間になってもモノパンは来ず、恐らくモノパンじゃない誰かが書いたと思われる。

 

 しかし、沼野への手紙には『貴方の計画は知っています。公にされたくなければ、午後5時にモノパンタワー2階のダンスホールへ来て下さい』と書かれていた。筆跡を見たところ手紙の主は、同一人物。

 

 

 

 

 

「しっかし、この手紙…直筆にしてはいやに達筆であるなぁ……本当に人間が書いたのか?」

 

 

 すると雨竜は、また手紙に話を戻し…今度は筆跡についての議題を投下する。

 

 

「人間じゃなければ誰が書くというんだい?」

 

「………星の使徒の仕業というのはどうだ…!」

 

「論外だね、キミ」

 

 

 ぐぬぬぬぬ…と歯を食いしばる雨竜。俺もそう思う。

 

 

「筆跡が分かってるなら、じゃあ、みんな、の筆跡を、見比べてみるのは、どう?」

 

「OH!それはナイスアイディアだぜ!ミス贄波。早速全員の筆跡を鑑定していこうじゃないか!」

 

「え゛…まさか、貴様、今から全員のを確かめに行くのか…?」

 

「そうともさ!思い立ったらすぐ行動するのが名探偵だけでなく、研究者として大事な事だからね!それじゃあ手始めに、まずは、キミ達のを見させて貰っても良いかな?」

 

 

 そういって、ニコラスは懐から何かの紙の切れ端を此方に差し出した。俺と贄波は、にべもなくサラサラと書いていく。そして雨竜もいくらか渋りながらも書いていった。

 

 ニコラスは俺達を吟味するように眺め始める。

 

「ふーむ、良いね。実に良い。諸君の個性がよく現れているよ」

 

「自分の字をじろじろ見られると…少し恥ずかしいな」

 

「ミスター折木の字は、とても角付いているね!もう平仮名が全部カタカナに見えるくらいにはカクカクだ。キミのしっかりとした性格が表れていてグッドさ」

 

「何にグッドしてるんだよ」

 

「ドクター雨竜のは、普通に汚いね…実に不得意というか、活字を書くことそのもの嫌悪しているように見えるね!!国語は苦手とみたよ、キミ」

 

「ぬぬぬ…何故分かるのだ…確かに…国語の成績はいまいちだが…もっと頑張りましょうと太鼓判を押されているが…!」

 

「じゃあ、先生の言うとおり、もっと頑張ろう、ね?」

 

「お次にミス贄波の場合なんだが……………うん。まずキミは、字を覚えよう」

 

「「字じゃないのか!?」」

 

 

 ハモった俺達は、贄波の字を見せて貰う……確かに、芸術的と言うには余りにも前衛的すぎる字であった。少なくとも俺達と同じ字を書いてはいない。でもなんでか意味は伝わる字。それ以上に表現できるは出てこなかった。

 

 

「……だけどこの中には手紙と同じ筆跡は見当たらないね。一番近くて、ミスター折木だけど…微妙に癖が違う」

 

「貴様の字はどうなのだ。今なら、この観測者たるワタシが隅々まで鑑定してやるぞ?」

 

「おいおい、書道のしょの字も知らないような字を書く人間に、このボクの字を鑑定する資格があるとでも思ってるのかい?」

 

「ぬわんだと貴様ぁ!!誰が知識もクソも無い間抜けだ!!もういっぺん言ってみろ!!」

 

「いや、確かに悪口だが、そうは言ってなかったぞ」

 

「はは、繰り返さずとも、ボクが今からする行動を見れば、言いたいことは大方伝わると思うけどね!!…ハン!」

 

「ぬわfんぱrjんpfこいえrんjm!!!」

 

 

 思いっきり鼻で笑ったニコラスに、雨竜は頭をカンカンにさせ、顔を赤くする。俺はその様子を見て、また始まった…と頭を抱える。

 

 

「でも、楽しそう、だよ、ね?」

 

 

 何処でそう見えるのか分からなかった。だけど贄波には、そう写っているらしい。俺達が呆れる中でも、彼らは気にもとめず、未だ口論を続ける2人。

 

 

「…長くなりそうだな」

 

「無視して、2人で次、行っちゃおう、か?」

 

「そうするか…」

 

 

 これ以上付き合いきれないと思った俺達は、言い争う2人を置いておき、沼野の死体から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

「反町!ちょっと良いか!」

 

 

 大きな声で、反町を呼びかけた。彼女は振り返る。

 

 

「ん?…折木と贄波かい…なんの――――」

 

「はい!!何でしょう折木さん!!何かお困り事でしょうか!!であれば、不肖、小早川梓葉…どこでも参りますよ!」

 

 

 一応反町の名前を言ったつもりだったのだが…何故か、小早川も釣れてしまった。

 

 

「梓葉…呼ばれてるのはアンタじゃないよ…」

 

「あ……そ、そうでしたか……すみません、折木さんの声が聞こえたので、つい…。えと、…捌けますね」

 

「いや、証言は多い方が良いからそのままで大丈夫だ……」

 

 

 そうフォローするよう言うと、”本当ですか!!”と元気さを取り戻し、また此方に距離を詰め直す。何とも単純というか、純粋な女性である。

 

 

「…で?折木…わざわざアタシを呼んだって事は…何か聞きたいことでもあるんじゃないのかい?」

 

「ああ…約束の時間になる直後、タワーを出た後の事を聞きたいんだ」

 

「ほら、風切さんたち、を呼びに行く、って、啖呵、切ってた、でしょ?」

 

 

 ”ああ~あのことかい”そう合点いかせる反町。

 

 

「…あれからは、確か…誰かしら居るかなーって思って、すぐにログハウスの方に向かったんよ」

 

「ログハウスエリアに…」

 

「そんで、その直感通りに風切のやつ、部屋で眠りこけてたから、首根っこ掴んでエリア3に戻ってきたんさね」

 

「……少々気の毒な起こされ方に思えますね」

 

 

 まったくもってその通りである。

 

 

「じゃあ、風切さん、には、会えたん、だ?」

 

「そうさね。後、エリア3へ戻る最中に、t中央棟から歩いてくる雲居とも鉢合わせしたよ」

 

「雲居さんともお会いしたんですね!!」

 

「出て行ったタイミングと合わせれば……頷けるな」

 

 

 風切と合流して、そして…戻ってくる雲居と会っていた……ん?だとしたら…。

 

 

「…水無月も同じくらいに出て行ってたと思うんだが…すれ違ったり、会ったりしなかったか?」

 

「……?いんや…雲居だけだったさね」

 

 

 まるで記憶に内容に首を振る反町。見たところ嘘をついてる感じではなかった。

 

 それを聞いた俺は…どういうことだ?水無月のやつ、真っ直ぐ帰ったんじゃないのか?…そう思考を巡らせた。

 

 

「他に、気になった、こととかはあ、る?」

 

「はぁ…それ態々聞くかい?もうありありのありさね」

 

「…何があったんだ?」

 

「アナウンスに停電、もうイレギュラーの見本市みたいだったさね」

 

 

 ”ああ…”と俺達は察した声を上げる。

 

 

「エリア3に戻ろうとしたらアナウンスが鳴るわ、急いでエリア入ったらまっくらだわ、入ったら入ったで暗闇をさまよってたら”破裂音”が響くわ…もうすっちゃかめっちゃかさね…」

 

「………いや、ちょっとまて…破裂音?」

 

 

 アナウンスに加えて、停電までは分かった。だけど”破裂音”という聞いたことの無い話に俺は食いつく。反町は少し慌てたように、”あ、ああそうさね”と肯定する。

 

 

「…でかい破裂音が上から響いて、そんでドシンって、少し離れたところに落ちたんよ…。これは風切も、雲居も一緒だったから、同じく聞こえてたはずさね」

 

「それで、その音の正体は如何に…!」

 

「停電が明けて見てみれば、噴水にでっかい籠がぶっささっててね…多分音の正体はそれだね」

 

「籠…ですか?」

 

 

 掴みきれない様子の小早川に対して、思い当たる節があるために、しばし考えこむ俺と贄波。

 

 じゃああの籠は、あの停電の中で落ちてきて、それで…噴水に刺さっていた。ということか?

 

 …一応納得してみたが、端から見ても不思議な話である。

 

 

「籠を、見つけた、後は…?」

 

「お菓子の家が崩れてるの気がついて、もしかしたら彼処が事件現場かって思って駆け付けたら、水無月の死体を見つけたって、流れさね」

 

「それでアナウンスが鳴り響いたわけか」

 

「そうさね」

 

「雨竜達はその後に集まってきたのか?」

 

「…ええっと、アタシら3人が最初で、落合、古家、雨竜って来て…そんでアンタって感じだったね。死体を見た直後だったから、うろ覚えだけど」

 

 

 成程。…そういう経緯があったのか。

 

 

「どうだい?何か気になることであるかい?」

 

「……いいや。今のところは大丈夫だ。話を聞かせてくれてありがとう」

 

「お礼なんて必要無いさね!また聞きたくなったら、いつでも聞きにきな!」

 

「うん、そうさせて、もらう、ね?」

 

「はい!私も、何かお力になれることがあれば、何でも言って下さい!!」

 

「き、気持ちだけ受け取っておく」

 

 

 ていうか、お前は殆ど俺達と一緒だったから…特に聞くことは無いんだが。まぁ言うだけ野暮か。

 

 

 それにしても破裂音、か。あの噴水の籠の件も含めて、もう少し調べた方が良さそうだな。

 

 

 

 

 コトダマGET!!

 

【強烈な破裂音)

…停電中にエリア3の上空で響いた音。

 

 

 

 

 コトダマUP DATE!!

 

 

【気球の籠)

…噴水に突き刺さった遊覧用の気球。少なくとも、タワーに集合した時には突き刺さっていなかった。

⇒反町達からの証言から、停電中に突き刺さった可能性あり。

 

 

【停電時の居場所)

折木、贄波、ニコラス、小早川⇒モノパンタワー2階『ダンスホール』

雨竜⇒ゲームセンター

反町、雲居、風切⇒エリア3の入口

 

沼野⇒モノパンタワー2階『ダンスホール』

水無月⇒???

 

 

 

 

「ミスター折木、ミス贄波!少し良いかい?」

 

 

 反町との話の最中、切りの良いところで…雨竜ともめていたハズのニコラスが此方に声を掛けてきた。もしかして喧嘩の仲裁でも頼まれるのではないかと、一瞬考えたが…。

 

 

「実はね、キミ。ちょいと頼みたいことがあるのだけど…良いかな?」

 

 

 少しイヤな予感はしたが…仲裁でないことにほっと胸をなで下ろす。しかし二つ返事も思慮がなさ過ぎると思い、話は聞くだけ聞くと、と返事をする。

 

 

「いや、なに少々調べて置いて欲しいところがあるのだけれど…」

 

「欲しいところ?」

 

「何処を調べて、欲しい、の?」

 

「彼処だよ」

 

 

 ニコラスは天井を指さしながらそう言った。

 

 

「天、井?」

 

「ほら、よく見てみたまえよ。あの隅っこの方に小さな扉があるだろ?」

 

 

 見てみると、確かに正方形の形をした、まるで屋根裏へと繋がっている様な小さな扉が天井に張り付いているのが見えた。

 

 

「あれは屋上へ行くための扉さ。ボクも、ここに来てしばらくは気付かなかったけどね」

 

「別に調査する分には構わないが…何で委託する?お前は調べないのか?」

 

「ボクはもうちょっとここで調べたい事があってね。別にキミ達にキツそうなことを任せているわけではないさ、ああそうだとも!!!…だろ?ドクター」

 

「ああ、ワタシも同じくだ」

 

「……お前らいつから仲良くなった」

 

「ふん、仲良くはなったわけではない。お互いに利用価値があると思ったから、一時的に共同戦線を張ったまでだ…ああそうだとも、決して、決して高いところがイヤだからとか、そういうわけではない!」

 

 

 にしては共通の認識を持って、俺達に全力で押しつけようしているにしか見えない。ううむ…仲が悪いんだか、良いんだか…よく分からん2人である。

 

 

「うん。分かった、よ。じゃあ、折木くん、行ってみよ、か!」

 

 

 何とも、貧乏くじを引かされた気分だが…贄波が行くというのなら、それに付いていくほか無い。だって、よく分からないけど嬉々としているのだもの。

 

 小さくため息をつきつつ、俺は近くに据えられたベンチを移動させ、足場にし、淀みない動作でカチリと、扉の鍵を外し、扉を開く。

 

 俺達は、今までかすりもしてこなった、屋上へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア3:モノパンタワー 屋上】

 

 

「風は思ったより吹いてないみたいだな…」

 

「これな、ら、あおられて、落ちる心配は、無さそうだ、ね?」

 

「…縁起でも無いこと言うなよ…」

 

 

 ニコラスに頼まれて…いや押しつけられて、捜査をタワーの2階から屋上へとやってきた俺達は、そんな風に小さくやりとり。

 

 まず始めにと、カタカタと足音を立てながら、ざっくりと周りを調べてみることにする俺達。

 

 俺は迷い無く、西側…水無月が死亡していたお菓子の家がある方角へと向かっていった。

 

 落ちないように、ギリギリまでを四つん這いになりながら、タワーの端っこへと寄っていく。

 

 

「……」

 

 

 ひょっこりと、屋上から顔を出し、下を見てみる。案の上、めまいがしそうな程の高さが目の前に。

 

 落ちないように、しっかりと膝を踏みしめ、真下にある崩れたお菓子の家へ向けて目を細める。

 

 

「…水無月」

 

 

 倒壊したお菓子の家には、見張りとおぼしき雲居と風切。そして仰向けになりながら、ぐにゃりと四肢を曲げた仰向けの水無月。

 

 

 こうやって、死体現場をこんな高さから見ることになるなんて。

 

 

 まるで宙に浮いてしまったような、不思議な感覚を感じた。

 

 

 何も思えず、何も考えず、何も分からず、宙に投げ出された。そんなようだった。

 

 

 そんな虚無に包まれた気分。

 

 

 きっと、転落した水無月も、同じように宙に身を投げ出されて…そして……。

 

 

 俺は唇を強く、噛みしめた。

 

 

 そしてパチンと、両頬を叩いた。

 

 

 痛みを持って、自分自身を現実へと引き戻す。何となく、このままだと自ら落ちて行ってしまいそうに思ったから。贄波の言っていたことが現実になってしまうところであった。

 

 

 本当に、縁起でも無いことだ。

 

 

 切り替えて――――この事件について、この屋上に立ってすぐに思ったことに、俺は頭を巡らせる。

 

 

 ここに来て、歩いた時のガラスを踏みしめたときに聞こえた、小さな単音を思い出す。

 

 

 

『――――カタ…カタ…カタ…カタ…………』

 

 

『――――――カタ、カタ、カタ、カタ』

 

 

 

 あのとき、停電中に聞こえた小さな単音。あの音とそっくりな、ココでの足音。

 

 

 聞き間違いと捨てられないほど、よく似ていた。

 

 

 ――――だとするなら。

 

 

 …やはりあれは人の足音。つまり、あの暗闇の中、屋上に、ココに…”誰か”がいたのだ。

 

 

 ――――だったら、誰が屋上に居たんだ?

 

 

 素直に考えれば、死因と、死体発見場所を重ね合わせれば……被害者である『水無月』

 

 

 つまり、水無月はここに来て、そしてお菓子の家に真っ逆さまに落ちていった。

 

 

 そう考えれば、何故水無月が転落死していたのか、その理由に説明が付く。

 

 

 …であれば、何故こんな所に?

 

 

 何故、下に落ちようとした?何故、そんな自殺紛いなことを?

 

 

 いや…もしかしたら、本当に…自殺?

 

 

 なら、何故そんな事をする必要がある。

 

 何故、自殺なんて道を選ぶ必要がある。

 

 何故転落という恐怖を抱えながら自ら命を絶つ必要がある。

 

 

 様々な疑問が、泉のように湧き出てくる。あまりにも意図が見えない所為で、考えがうまくまとまらない。

 

 

 なら考えられることは…。

 

 

 …今の時点で考えるには、”圧倒的に情報が足りない”ということ。

 

 

 今の俺は、明らかにドツボに嵌まっている…。

 

 

 だったら、ここで答えを出すには余りにも早すぎる。

 

 

 ――もっと捜査を続けてみよう。考えるのは、後でもできる。

 

 

 今は、その記憶をしっかりと書き留めておくことが先決だ。

 

 

  雨竜に言われたことを、何度も心の中でそう反復させ、メモに記していく。

 

 

 

 

 コトダマGET!!

 

 

【天井からの足音)

…停電時、ダンスホールの真上から聞こえたカタカタとした音。恐らく、足音。

 

 

 

 

 メモを終えた俺は、いつ落ちるかも分からない高所から早く出ていきたい一心で、また屋上を踏みしめながら周りを隈無く探してみる…。

 

 

「ねぇ。折木、くん」

 

「…どうした?」

 

 

 すると、一緒に来ていた贄波が服をつまみながら声を掛けてきた。振り向く俺に”アレを見て”、と彼女は促すように指を向ける。方角はタワーの北側。

 

 

「あそこに、止まってる、の、って……ジェットコースター、じゃ、ない?」

 

「…えっ」

 

 

 見てみると、確かに。タワーのすぐ側、ジャンプすれば飛べそうな程近くに、ジェットコースターがレールの上で停止していた。

 

 そのあまりに不自然すぎる光景に、顔をしかめた。

 

 

「こんな所にジェットコースター?何で…」

 

「うん…変だよ、ね?」

 

 

 俺達は側に近づきすぎないように、近寄っていく。いくらジャンプすれば届きそうというが、ヘタに踏み外せば、真っ逆さまに落ちてしまう。だからこそ、細心の注意を払って、慎重に。

 

 

「ねぇ折木、くん……一番前の、席の、安全バー」

 

 

 ”一番前の安全バー?”…俺は言葉を繰り返しながら、足下に神経を集中させつつ、目をこらす。すると、1番前の席の安全バーが”1つだけ”、上げられていた。

 

 もっと眉間に力を入れて、適度な距離を保って見てみると……無理矢理こじ開けたのか、留め金の部分のネジが飛んでしまっているのが確認できた。

 

 

「安全バーが上がってる?まさか…」

 

「……うん、アレが、原因だ、ね」

 

「…何か心当たりがあるのか?」

 

 

 イヤに確信めいた口ぶりの彼女に、俺はすぐに疑問を呈した。

 

 

 

「コレ、見て…」

 

 

 すると贄波は、懐から蛇腹に折りたたまれた、一枚のを取り出す。見ると、その紙は、このエリアに来たときに貰った、例のジェットコースターのパンフレットであった。

 

 

「この、右下の、注意事項…」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 その欄を見て、そうかそういうことか、と俺も納得した。何故、ジェットコースターが停止してしまっているのか、何故安全バーが原因であるのか、その理由が。

 

 

「成程。バーが外れた所為で……ジェットコースターは、”緊急停止”したのか」

 

「どうしてココで止まってる、か、とか、どうやって…まで、は…わからないけど、ね」

 

「………確かにな」

 

 

 止まっている原因が分かったからといって、なぜなにまでは、まだ分かっていない。

 

 意味の分からない状況に説明を付けるには、まだ情報が必要そうだが…それでもこの事件と何かしらの関係があるかもしれない。そう直感した

 

 

 俺はすぐに、この状況をメモに書き留めていった。

 

 

 

 

 

 コトダマGET!!

 

 

 

【止まったジェットコースター)

…タワー屋上のすぐ側。ジャンプすれば届きそうな距離に、レール上で停止していた。一番前の安全バーは無理矢理外されており、恐らくバーを外したことにより、ジェットコースターが停止した模様。

 

 

【ジェットコースターのパンフレット)

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

【エリア3:お菓子の家】

 

 

 …タワーを降りて、すぐに俺たちは――――第2の殺人現場へと赴いていた。

 

 そこには、タワーの屋上でも見たとおり、見張りをしている、風切、雲居がいた。

 

 

「公平…」

 

「……」

 

 

 2人は此方に気付くと、まるで門番のように俺達の前に立ち塞がった。

 

 

「見張り、任せて悪いな」

 

「別に問題無いですよ……それよりもあんたの方です。具合はどうなんですか?」

 

「………大丈夫だ」

 

「無理矢理感が否めないんですけど…」

 

「大丈夫だ」

 

 

 言葉を強める俺をじっと難しい顔で見つめる雲居。その対応に、禅問答をするかもしれないと直感したのか、彼女はすぐに隣に贄波に視線を移した。

 

 

「安心して、雲居ちゃん。…私が、見てる、から…」

 

 

 彼女はぎこちない笑みを浮かべながら、そう返した。

 

 

「そうですか。わかったですよ…」

 

 

 顔をしかめながら、言葉少なに雲居は離れていった。

 

 すると逆に、コソコソと風切が口に手を添えながら、口を近づける。

 

 

「あのね、気が立ってる様に見えるけど…蛍、公平が向こうにいってからずっと心配してた」

 

「……」

 

「きっと、今も思ってる。だから、気を悪くしないであげて」

 

「……ああ、分かってる。ちゃんとな」

 

「なら良かった……」

 

「ありがとう、風切、さん」

 

 

 そう言い残した風切は、再び見張りに戻っていった。

 

 

「折木、君…愛されてる、ね?」

 

「……」

 

 

 確かに、その厚意は嬉しかった。だけど逆に…その気遣いが、俺自身の首をしめてきているように思えて仕方なかった。

 

 嬉しいはずなのに、喜ぶべきことなのに…感じてしまうとても強い罪悪感。

 

 

 未だに、その理由も、根拠も、分からなかった。

 

 

 

 俺は頭を振り、考えすぎないように、水無月の死体へと近づいていき…。

 

 

 ――――そして向き合った。

 

 

 また、目を背けたくなった。

 

 

 ――――あらぬ方向にねじ曲がり、ズタズタになるほどまで叩きつけられた水無月の死体。

 

 

 酷い死に様だ、改めてそう思った。

 

 

 彼女が大切にしていた、『おねぇちゃん』と呼んでいたぬいぐるみも…水無月のピンク色の血で侵され、本来の色を失ってしまっていた。

 

 

「水無月…」

 

「折木、くん」

 

 

 水無月……お前の敵は…俺が取ってみせる…!

 

 

 誰も気付かない心の中で、決意を込めてそう宣言した。

 

 

「……?」

 

 

 俯瞰しながら水無月の死体を見ていた俺の視線の先に…キラリと、死体となった彼女の側に何かが転がっているのがチラついた。

 

 …俺はそれに近づき、地に膝を付ける。

 

 

「…ナイフ?」

 

「うん…それに先っぽに、血が付いてる、ね…」

 

 

 切っ先に血まで付いた、ナイフが落ちていた。お菓子の家には似つかわしく無い、明らかに持ち込まれたような、不自然な物。

 

 

「……水無月が、持っていたのか?」

 

 

 水無月の丁度手元付近に落ちていたそのナイフ。…

 

 

 落ちていた場所から考えて、もしかしたらと思った。だとしたら、何故…何のために?

 

 

 妙に浮いたように転がるソレらをみて、様々な憶測が頭を飛び交う。だけど、答えには行き着かない。

 

 

「……とりあえずメモしておくか」

 

 

 

 モヤモヤとした感覚に陥りながらも、俺は焦らずに、この証拠品をメモに残していった。

 

 

 

 

 

 コトダマGET!!

 

 

【血の付いたナイフ)

…水無月の死体の側に落ちていたナイフ。切っ先に血が付いている。

 

 

 

 ナイフを見つけた後も、何か、事件に繋がりそうな証拠品はないか。そう思いながら、俺達は彼女の周辺を見て回る…彼女の懐に何か無いかと、服も探ってみる。

 

 

 だけど、見つかったのは、俺達と動揺に宛てられた封筒と手紙だけ。

 

 

 想像以上に、何も見つからない。

 

 

「めぼしい証拠は無し…か?」

 

 

 証拠品以外にも、死体の側にも、遺体そのものにも…変わった箇所はない。分かるのは、ファイルに書かれていた通り、体を強く打ち付けたために、全身が複雑骨折していること。

 

 そして右手首に、青いアザがあること。何ら、間違いも、追求できそうなことは見当たらなかった。

 

 

「このアザ…水無月さん、が、転落したとき、に、付いた物、なのか、な?」

 

 

 だけど。贄波は、何か引っかかる物でもあったのか、その青いアザに目を付け、知恵を貸してくれと言わんばかりにそう聞いてくる。

 

 言われてみれば、確かに不思議なアザだった。何かに掴まれたような、何かに握りしめられたような…。

 

 丁度、気球の籠に付けられた、あの凹みに、よく似ていた。

 

 

「…籠の手すりの跡とよく似てる、けど…何か、関係でもあるのか、な?」

 

 

 どうやら贄波も同じ考えのようだった。ソレを最後に、良い考えは浮かばない。

 

 とりあえず、情報は頭に残しておこう、アザについて違和感を感じた事を書き記し、水無月の死体の調査を終わりを告げた。

 

 

「なあ二人とも、ちょっと良いか?」

 

「ん、なんですか?」

 

 

 そしてすぐに、見張りをする風切と雲居の二人に話しかけた。

 

 

「停電の、時…の話なんだ、けど」

 

 

 内容は勿論、反町の証言の確認。

 

 証言の信憑性を高めるために、俺達はさっき聞いた反町の話を彼女たちに復唱した。

 

 聞き終えた二人は、うん、お互いにうなずき合う。

 

 

「ん…その流れで間違い無い」

 

「ですね。反町にしては正確な情報伝達ですね」

 

「じゃあ、反町と風切は、タワーを出た後の雲居と合流して、それで…」

 

「…アナウンスが鳴った直後にエリア3に急いで戻ってきた」

 

「です。それから停電になったエリア3と遭遇したわけです。…念押しで言っておくですけど、途中で水無月のヤツとは会わなかったのも本当ですよ?」

 

「…そうか」

 

 

 どこか見落とした箇所があるかも知れない。そう考えて聞いてみたが、やはり答えは同じ。

 

 …水無月のヤツ、結局停電中、どこにいたんだ?どうにも変な箇所が多い。そもそも何で転落死したのかも…分からないわけだし。

 

 ううむ…不可解だ。

 

 

「それで、停電に遭遇してる、最中、に…上から、もの凄い、破裂音、が、響いたんだよ、ね?」

 

「…そしたら何かでかい物が落ちた音が聞こえて、音の方向へ真っ直ぐ進んで…やっと電気が復旧したと思ったら、目の前に噴水に刺さったでかい籠があったんです」

 

「うん…多分…その落ちた物は…あの籠で間違い無いと思う」

 

 

 やっぱり、あの気球の籠は、空から落ちてきたもの…。これで間違いはなし。

 

 じゃあ…もしかしてあの停電中で…気球が浮いていた、ということか?

 

 あの暗闇の中で、どうやって?…これもまた不可解だ。

 

 

「あっでも…」

 

 

 今までの話を聞く中で、何か思い当たることがあったのか雲居は、話にメスを入れる。

 

 

「私だけかもしれないですけど…破裂音に乗じて変な音も聞こえてたです」

 

「変な音?」

 

「どんな、音、だった、の?」

 

「カンカンカン…って、叩くような音が真上から響いた気がするんです」

 

「へぇ…知らなかった」

 

「破裂音の所為でパニクってたですからね。…とくに風切が」

 

「あれはパニックじゃなくて…慌ててただけ」

 

「日本語にしても意味は同じですよ…で、停電明け後は、反町の言うとおりの流れで、ここで遺体を発見したって感じです。これで満足ですか?」

 

「うん、よく分かった。ありがと、雲居、ちゃん」

 

「………あの、贄波。今更言うのも何なんですけど。そろそろ、ちゃんづけは止めて貰いたいんですけど」

 

「え、でも…可愛い、よ?」

 

「いや、可愛いとかそういう問題じゃなくて…ごく個人的な話みたいな」

 

「…え。じゃあ私も蛍ちゃんって呼ぶ?」

 

「じゃあもクソもないですよ。どこでなけなしの協調性を使ってるですか」

 

「でも。もう呼び慣れ、ちゃった、し…」

 

「……呼ばれ慣れなさすぎて、鳥肌が止まらない気がするんですけど」

 

「雲居、ちゃん?」

 

「……あー寒寒」

 

「誤魔化した………蛍ちゃん」

 

「あーーーーーー寒寒寒寒」

 

 

 そう言って火花が散りそうなほど体をこすり出す雲居。明らかな照れ隠しであった。

 

 途中から傍観に徹していたが…。目の保養と言うべきか…何とも微笑ましい光景似思えた。途中で姿を消そうと考えてみたが…いなくなったら殺す、と雲居に一瞥されたために…結局動くに動けなかった。

 

 

 それにしても…――――カンカンカン…っか……音だけだと、俺達が屋上で聞いた音と同じような擬音に思える…。

 

 

 だけど入口周辺の真上…。何か、そんな音のするような物でも合っただろうか?

 

 

 

 

 コトダマGET!!

 

 

【雲居の証言)

…停電中、雲居が耳にしたカンカンという叩くような音。入口の真上から響いたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア3:電気室】

 

 

 事件当時に起こった、例の停電。その原因を探るために、俺達はお菓子の部屋を離れ、1度電気室へと赴いていた。

 

 相変わらず、施設の中は薄暗く、小さな電灯でじめっと照らされるだけ。中に居るだけで、息が詰まりそうになほどの厳かな雰囲気がひしひしと伝わってくる。

 恐らく、エリア3全体がテーマパークの様そうであるがために、その温度差がここで浮き彫りになっているのかも知れない。

 

 

「…停電。といえば、ここ…だよな?」

 

「うん、だけ、ど…」

 

 

 そして、恐らくこのエリアの出力を管理しているであろう、電気盤の扉を開き。いくつも並べられた、それぞれの施設の名前が書かれたスイッチに目を走らせる。

 

 

「…分からないな」

 

 

 首をひねっていた。動かされた形跡も、イジられた形跡も…あるのかないのか…イマイチ分からなかった。触ってみても、動かされたかもしれな生暖かさはあるが…それが機械熱の所為なのかそうでないのか…未だ判別がつかない。

 

 

「でも、埃の掃け具合、を、見ると…触られては、いるの、かな?」

 

「…言われてみれば、そうだな」

 

 

 見てみると。確かに、スイッチに薄く積もっていた埃が、半分ほど拭われているようにも見えた。ここに取り付けられている、スイッチ全てにそれと同じ形跡があった。

 

 小さな根拠ではあるが、これらの形跡を見てみるとやはり、停電が起こった原因は電気室をイジられたためと考えて良さそうだった。

 

 ていうか、それ以外の原因が思いつかなかったのがために、もうこれでいいだろと少々投げやりになっているのが本音だった。

 

 だけど、埃以外にも、もう一つ気になることがあった。

 

 

「…この電気盤。ジェットコースターの欄が見当たらないな」

 

「…!本当、だ」

 

 

 スイッチの上に貼られたラベルを見ても…当のアトラクションを司るスイッチは無く。そしてその他の電気盤を見てみても、見つからなかった。

 

 これはつまり――――

 

 

「ジェットコースターの、電源だけは、独立してる、て、事なのか、な?」

 

「ああ……」

 

 

 恐らく、起動したコースターが途中で止まったしまった場合でも、無事に帰島させるためなのだろう。

 

 ……だけど、だからどうしたと、独立してるからどうだ…と言われてしまえばそれまでだった……でもタワーのすぐ側で止まっていたこともあって…どうにも気になってしまう。

 

 どんなときでも、直感を大切にする。俺は、いつか言われた水無月の教えを思い出し、メモに書き留めていった

 

 

 

 コトダマGET!!

 

 

【電気室の配電盤)

…イジられた形跡があったため、恐らく停電の原因と思われる。しかし、ジェットコースターを司るスイッチは見られなかったため、この施設の電源だけは独立している模様。

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

【エリア3:ジョットコースター乗り場】

 

 

 タワーのてっぺん付近に止まっていたジェットコースターがあったこと、そして電気室のことも踏まえて…何かしらの痕跡があるかも知れない。そう思った俺達は、その本体を乗り降りする、入場口へと足を運んでみた。

 

 

 運んでみたまでは良かったのだが…。

 

 

「驚くほど、何も無いな…」

 

「本当、だね…」

 

 

 施設”内”には、何も見当たらなかった。何処かしらに、怪しい証拠があるのではないかと期待してみたが…

 

 

「ううーん。やっぱり思い過ごしなのか?…でもジェットコースターが何で彼処にあった理由が……」

 

「…でもこの中には、何も無い、みたい、だし…他の所に、行って、みる?」

 

「そうするか。悪いな、付き合わせて…」

 

「うううん。全然、良い、よ。折木くん、の、向かうところ、に、私は付いてくだけ、だから」

 

 

 そう言われると何となく主従関係のようで、妙に恥ずかしくなる。でも気にしたらよりそう思えそうだったので、それ以上は何も言わず、施設の外へと出て行く。

 

 

「…うん?」

 

 

 すると……施設の入場口を出てすぐ、近くの茂みに中に何かが落ちているのが見えた。

 

 

「……?」

 

「どうか、した?」

 

 

 膝を曲げ、のぞき込むように茂みをかき分けていく。

 

 

「……!」

 

 

 そのかき分けた先に…まるで隠すように、この場には決して無いであろう浮いた代物が落ちていた。しかも…"2つ"。

 

 

「なぁ、贄波…これって」

 

「…美術館に置いてあった、あれ…だよね?」

 

 

 大層な装飾の施された黒いゴーグル。そして手の甲にモノパンの顔が描かれた、ゴムのような質感の手袋。見せるように持ち上げたソレらを見て彼女はそう言った。

 

 間違い無く、美術館に展示されていた、モノパンの七つ道具の内の2つだった。

 

 

 片や『赤外線放射機能を搭載し、どんな暗闇でも、どんな暗夜でも、何でも見通す究極のゴーグル!』

 

 もう片方は、『てこの原理やら何やらを駆使し、どんな小柄な人であろうと、軽々と自分より重い物を運ぶことが出来る超スーパーアイテム』

 

 

 

 とか何とか、だったよな?

 

 

 

 なんでこんな目に見えにくい所にその2つが…。

 

 

 …でも、ここに隠されていた、ということは…もしかしたら今回の事件と関係しているかも知れない。

 

 数秒前とは打って変わって、俺は真剣な眼差しで怪しげな証拠品の記録を付けていった。

 

 

 

 

 

 コトダマGET!!

 

 

【モノパンゴーグル)

…赤外線放射機能を搭載し、どんな暗闇でも、どんな暗夜でも、何でも見通すことができる。ジェットコースターの入場口近くの茂みに落ちていた。

 

【モノパワーハンド)

…どんな小柄な人であろうと、軽々と自分より重い物を運ぶことが出来る。ジェットコースターの入場口近くの茂みに落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア1:沼野 浮草の部屋】

 

 

 エリア3の調査を一通り終えた俺達は、被害者である2人の部屋向かおうと、エリア1へと場所を移していた。

 

 まず手始めに、ダンスホールで死体となって発見された沼野の部屋から。

 

 

 彼の部屋に赴いてみて思ったのは、この部屋の内装は他と一線を期す装飾が施されている…ということだった。

 

 

 床には一面の畳が敷かれており、壁には絶対に読むことの叶わない何かの草書体の掛け軸がいくつも掛けられていた。

 

 加えて、俺達が使っている机よりもとても低い形状の、ちゃぶ台が置かれていたり、椅子の代わりに座布団が敷かれていたり。何故か、水もないのに音を鳴らし続けるししおどしが置かれていた。

 

 

 武家屋敷のような、徹底した和の強調がされたその風貌。とにかく、彼の才能に合わせたような部屋作りがされてるな、と思った。

 

 

 そんな沼野の部屋に先客がいた。

 

 

 ――――古家と落合であった。

 

 

 俺達よりも先に捜査を開始していた2人が、俺達と同じ考えを持ってか、部屋の中を物色していた。

 

 

「あー、折木君、さっきぶりだねぇ…贄波さんは…ええと、いつぶりかねぇ?」

 

「6時間と数分ぶりだね…昼過ぎに出会い、そして民謡について話していたとも」ジャラン

 

「…そうだねぇ。何かそんな話をしていた気も……てかなんで知ってんだよねぇ!?」

 

「風に運ばれて来た気分屋の僕も、そこ居合わせただけのこと…気付かないのも無理は無いさ」

 

「気持ち悪いくらい気付かなかったんだよねぇ…」

 

「お前ら何で漫才してるんだ」

 

「…2人は、通常運転、て感じ、だね」

 

 

 いつも通りツッコむ古家に、ギターのチューニングに没頭する落合。最初はどうなるかと思ったコンビだったが、此方が苦笑いしかできないほど、問題無さそうに見えた。

 

 

「いやぁそうでもないんだけどねぇ。ほら折木君がカを緑色にしてたときとか、あたしも今にも卒倒しそうだったしねぇ…正直見張りしてたら、もう捜査どころじゃなかったねぇ、ありゃあ」

 

「そうか…そうだよな」

 

 

 仲間があんな壮絶な死を遂げたのだ。すぐに目を背けたくなるのは、誰だって同じだ。その気持ちはよく分かる。

 

 

「折木君、そういう君の心の声はどうなんだい?」

 

「こころのこえ?」

 

「荒波にさいなまれ、そして鳥さえとべないような無風に見回られ、君はどんな心の表情をしていたのか…そう思ってね」

 

「ああ~多分、調子はどうですか?って言ってると思うんだよねぇ」

 

「よく、分かる、ね?」

 

「そりゃあ捜査中同じ事を何度も聞いてたら…翻訳できちまうんだよねぇ…」

 

「……俺は大丈夫だ、心配かけたな」

 

「なぁにどうってことないさ。それよりも僕は今、酷く感動しているのさ。君は涙も浮かべない、人間にしては希薄な心を持っている…そう思ってた。だけど、今さっき、君は心の底で膝をついていた」

 

「…また始まったねぇ」

 

「それに、誰が希薄な人間だ」

 

「僕がそう思っただけ、たった一つの窓から見ただけの僕の感想さ。でもいつかそのときの気持ちを教えておくれ。きっと良い詞が書けると思うんだ」

 

「…あんた励ましてんだろうけど。言い方を考えるんだよねぇ…」

 

「本当に、ぶれない、ね…落合くん」

 

 

 もっともである。でも…こいつのこの普通では無い普通さが…何となく今はホッとしてしまう。

 

 

「それよりも。調査の、進捗は、どう?」

 

「ああ~やっぱり聞いちゃうかねぇ……」

 

「…芳しく無いのか?」

 

「お恥ずかしい話、今のところそうなんだよねぇ…いやぁ申し訳ない」

 

「……」ジャラン

 

 

 そう言って、落胆するようにため息をつく古家。言葉には出していないが、落合も同じ心境のようだった。いつもより音色に覇気が無い。

 

 

「難しいもんだねぇ…ニコラス君達みたいにって思って色々調べてみたけどねぇ」

 

「人の存在価値は真似事をすることで始まる。学ぶとはつまり、習うこと、…だから、古家君。君のやろうとしていることに、決して間違いは無い。例え茨の道だろうと、そこに無駄なんてものは存在しないのさ」

 

「贄波。つまりどういうことだ…?」

 

「”僕達のやっていること、に、間違いは無い”……て、言いたいの、かな」

 

 

 成程。流石は贄波だ。…俺にはさっぱりである。

 

 

「ああー、でも。念のために何かしら道具が関与してるかって思って、美術館には行っきたんだよねぇ」

 

「……!本当か。どうだったんだ?」

 

「3つ、7つ道具のショーケースから無くなってたんだよねぇ」

 

「「…3つ?」」

 

 

 その発言を聞いて、俺達は同時に疑問の声を漏らした。

 

 

「確かグローブと、スコープと…あと……」

 

「毒薬…ああそうだとも。人を死に至らしめる、悲劇の液体……それが存在を消していたとも」

 

「毒薬が…!」

 

 

 今のところ俺達は、無くなった3つの内の2つを見つけていた。そういう経緯もあって、七つ道具のがなくなっていたこと自体には、そこまでの衝撃はなかった。

 

 だけど…3つの道具がなくなっていたこと。特に、毒薬、つまりあのセットで置かれていた、確か名前は…『即効性絶望薬』と『遅効性絶望薬』。だったよな。

 

 それぞれの効果は、

 

遅効性の方が…

『服用から8時間きっかりで効果が現れるため、アリバイ作りに持ってこい!』

 

 

即効性の方が…

『服用後すぐに野垂れ死ぬ優れもの。さらに空気よりも軽いため、気化して部屋中にガスを蔓延させること間違いなし!』

 

 

 だったよな?

 

 

「それらの所在についてはまだ分かってないけど…でも、この3つが事件に関与している事は確かって………そう思ったんだよねぇ?落合君?」

 

「…………」ジャララン

 

「せめて言葉で肯定して欲しかったんだよねぇ…」

 

 

 借りられた3つの七つ道具…古家達の言うとおり、それらの内のいくつかは事件が起きたエリア内で見つけた…つまり、関与している事は確定。

 

 これらの情報もメモに残して――――。

 

 

「でも、折木くん、それって、変、だよ、ね?」

 

「…何が変なんだ?」

 

 

 すると、コソリと、贄波は俺にそう耳打ちをする。どういうことだ?といぶかしげに顔をしかめる。

 

 

「だって、考えて、みて?……彼処の道具は、1人、”2つまで”…なんだ、よ?」

 

「……そうか…!そうだよな…そんな制限、あったよな」

 

 

 ついつい忘れていたが、あの美術館の道具は1人2つまで。モノパンがあの美術館を紹介したときにそんな条件を行っていた気がする。

 

 

「だとしたら…だよ?今回の事件って…」

 

 

 今、贄波が言おうとしているのは……犯人は1人だとしたら…道具の数と人数が合わない、ということ……つまり。

 

 

「――――2人以上の人間によって、道具を使われた」

 

「…うん」

 

 

 ということが考えられた。毒薬に、ゴーグルに、手袋……。それぞれが何らかのために使われた。それらが具体的にどのように使われたかは分からないが……少なくとも。水無月と沼野の死に、絶対に絡んでいるはずだ。

 

 それだけは確信できた。

 

 俺は、水無月の発言も含めて、メモに記録していった。

 

 

 

 

 コトダマGET!!

 

 

【即効性絶望薬 and 遅効性絶望薬)

…モノパンの七つ道具の一つ。

 

遅効性絶望薬:『服用から8時間きっかりで効果が現れる毒薬』⇒所在不明

 

即効性絶望薬:『服用後すぐに人を死に至らしめる。さらに空気よりも軽いため、気化して部屋中にガスを蔓延させることもできる』⇒所在不明

 

 

【七つ道具のルール)

…道具を借りられるのは、1人二つまで。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、そうだな。……2人の停電の前後の話を聞いても良いか?」

 

「ああ、停電ねぇ…衝撃的なことだったからよく覚えてるんだよねぇ」

 

 

 美術館の情報を貰った俺達はすぐに、古家達に停電時のアリバイを聞いていく。

 

 すると”あのときは大変だったんだよねぇ”と、何故か哀愁を漂わせた一言を添える古家。

 

 

「…何かあったのか?」

 

「何かあったって言うか…停電中、あたしずっと、お化け屋敷に行ってたんだよねぇ…」

 

「お化け、屋敷?変わった、所にいた、ね?」

 

「そうなんだよねぇ…あっ、これは多分落合君とか、雨竜君辺りが証言してくれると思うんだけど…ねぇ?」

 

「巡り巡る僕の記憶…ああ、確かにそうだとも。君と雨竜君は、東エリアに身を置いていた。天空から見下ろしていた僕が言うんだ…間違い無いとも」

 

「お前は…観覧車、だったよな?」

 

「タワーに、集合する前から、入っていた、よね?」

 

「そうともさ。流れゆく凛音の歯車…この世の全てはそこで帰結する」

 

「観覧車に対して思いを込めすぎなんだよねぇ……観覧車からしてみれば荷が重すぎるんだよねぇ」

 

 

 本当に好きなんだな…気持ちは分からないが。…だけど、落合の言葉も踏まえてみても、雨竜の言っていたことと、古家達の言っていたことは共に合致する。

 

 

「でも、何でまたお化け屋敷に1人で。お前、あそこ苦手だったはずだろ?」

 

「苦手はそのまんまにしてたらどうにも寝覚めが悪くてねぇ…それにあの程度のクオリティだったら一人でも大丈夫かなーって…ちょっとばかしのチャレンジ精神で行ってみたんだよねぇ」

 

「あの程度って…最初行ったときは尻尾巻いて逃げてなかったか?」

 

「…あれは不意打ちだったから仕方ないんだよねぇ」

 

「不意打ちするのが、お化け屋敷だと思う、けど…」

 

「…………いやあ!!!でも、まさか屋敷に入ってる最中に…あんなことが起きるなんて思わなかっただんよねぇ!!!」

 

 

 あ、明らかに誤魔化した。あからさまに焦りを隠せず大声緒を張り上げた古家にジト目をむける。

 

 

「でも…屋敷に入っている最中…って、どういう、こと?」

 

「古家…お前もしかして……停電中もお化け屋敷の中に居たのか?」

 

「アナウンスが鳴った瞬間こりゃ大変だって思って、出口まで走ってねぇ……その途中で停電にあっちまってねぇ…」

 

「それは…災難だったな」

 

「永遠の暗闇は、人の孤独をより浮き彫りにする…君はそのとき、自分自身の闇と戦っていたんだよ…。きっとそれは、明日へ進むための財産となり得るはずさ」

 

「無駄に壮大にされてるけど…あれって、ロッカーに閉じ込められているのと殆ど変わらない体験だと思うんだけどねぇ」

 

「…その表現もどうかと思うぞ」

 

 

 何とも触れにくい思い出の一端を聞いた気がする。流石の落合も、ギターを弾く手を止めていた。

 

 

「でも落合…そういうお前は何で観覧車に?」

 

「人生は観覧車と同じさ…全てが回り…巡り続ける運命の輪に、身を委ねていたのさ…これほど素晴らしいことはないだろ?」

 

「何で観覧車に乗ってたんだ?」

 

「観覧車は人生と同じさ…全てを回し、自分の思い出すらも巡らせ、懐古させる。その世界に、僕は浸っていたのさ。これ程素晴らしいことはないだろ?」

 

「…わかった。…観覧車にずっと居座って、弦をはじいていたんだな?」

 

「物好き、だね」

 

「物好きにしては引くレベルなんだよねぇ…」

 

「はは…暗闇の世界がこの世を包んだその時もそうさ。こんな何もかも孤独になってしまった世界でも…運命の輪に身を任せ続けていたい…そんな人生も悪くはない…そう思っていたさ」

 

「成程…な」

 

 

 言い方はどうであれ、これで…古家、落合、雨竜…。停電当時のこの3人が居た場所は把握できた。

 

 それに、この3人は、お互いにお互いのアリバイを証明し合っている。停電時に身動きが取れなかったみたいだし…それはすなわち、3人はシロ寄り…と見て良いのだろうか?

 

 

「でも…」

 

 

 そう思考を巡らせていると…落合は弦を弾く手を止め、翻すように一言呟いた。

 

 

「何か気になる点でもあったのか?」

 

「…そうだね。ああ、あったとも…1つだけ、気になる”現象”は…あるにはあったかな?」

 

「…現象?…何だ?それは」

 

「だけどそれは泡沫の夢のように一瞬で、明確な記憶と言うには曖昧で…実に刹那的な…」

 

「良いから、話し、て…」

 

「うわ。圧凄いんだよねぇ…」

 

 

 あまりのまどろっこしさに、贄波は少しばかりすごむ。普段そういう態度を見せない分、ちょっと意外に思えるし…普通に怖い。

 

 落合も、同じように思ったのか…少し押し黙る。そしてすぐに、本題へと入っていく。

 

 

「…………”火”が、見えたのさ」

 

「火…?人魂か何かねぇ?」

 

「確かに…そうとも言えるね。何も無い、無が轟く闇の合間に…闇に包まれた大空の向こう側に…火が浮かんでいた…まるで人魂のようにフワフワとね」

 

 

 火…?人魂…?それも上空に浮いていた…?…どういうことだ?貯めたにしては、何だかオカルティックな話だ。

 

 

「まぁ…その火も、光りの再生する寸前に消えてしまったけどね…」ジャラン

 

「なぁ落合。その火って…どこら辺に浮かんでたか、覚えてるか?」

 

「近くとも遠からず…僕には、計り知れない何処か、透明なる巨頭のほど近く……火は揺らめいていたかもしれないね」

 

「透明な巨頭って…」

 

「モノパン、タワーの、こと、かな?」

 

 

 落合の言う事だから…イマイチ精密性に欠けるが…それでも無駄な証言とは思えなかった。

 

 もしかしたら、とても重要な証拠になり得るかも知れない…。そう思った俺は、2人の証言と、火についてメモを記した。

 

 

「ああ、そうだ。ついでに…停電が終わった後のことも、確認ついでに聞いて良いか?」

 

「うーん、そうだねぇ。あたしがお化け屋敷をやっとこさ抜け出したときは、丁度落合君と鉢合わせしてたねぇ」

 

「…顔を向け合い、そして言葉を向け合うことで、出会いは始まる…。僕達はそこで、運命というヤツに巡り会ったのさ」

 

「あんたとあたしは初対面じゃないんだけどねぇ…」

 

「そのまま、2人、でお菓子の家、に向かった、の?」

 

「ああ~、そうだねぇ、あたし落合君が合流して、そのすぐ後にゲームセンターから走ってくる雨竜君と会って…そんで西エリアが騒がしいな~って思ったらアナウンスがまた鳴ってねぇ」

 

「そして、屍と化した我らが友と、向き合えない目を、交わし合ったのさ」

 

 

 何ともしんみりとする表現で終止したが…どうやらそこで、反町達と合流した…というわけらしい。何となく、生徒達の時系列が分かってきたような気がするな。

 

 

 コトダマGET!!

 

 

【上空に浮かぶ火の玉)

…停電時、観覧車に乗っていた落合が目撃。モノパンタワーの近くに浮かんでいたらしい。

 

 

 コトダマUP DATE!!

 

 

【停電時の居場所)

折木、贄波、ニコラス、小早川⇒モノパンタワー2階『ダンスホール』

雨竜⇒ゲームセンター

落合⇒観覧車

古家⇒お化け屋敷

反町、雲居、風切⇒エリア3の入口

 

沼野⇒モノパンタワー2階『ダンスホール』

水無月⇒???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア1:水無月 カルタの部屋】

 

 

 沼野の部屋を調べ終えた俺達は、落合達と分かれ、水無月の部屋へと捜査の場所を移していく。

 

 

 ガチャリと、自分の部屋と変わらぬ動作でドアノブを回し、部屋へと入っていく。水無月の部屋を見回す。

 

 

 そして思ったのは、彼女の部屋は至ってシンプルな内装だな、ということ。

 

 

 いくつかの本棚に、机の上に積まれた山のような紙の資料。床に適当に投げられたような、紙の資料。そして部屋の真ん中にポツンと鎮座するガラスの丸テーブルとチェス盤。

 

 

 チェス盤の乗った机以外を除いて言えば、とても殺風景な部屋だな、そう思った。

 

 

 同時に彼女らしくない、とも思った。彼女のキャラクターからして、ぬいぐるみや、何やらが山のように積まれたファンシーな内装を勝手な想像をしていたが…それに反するようにとても勤勉そうな風貌であった。

 

 その勤勉さをさらに助長させるように、ベッドに放り投げられた厚めの本、そして本棚や、机や、床に落ちた資料は全てチェス関連の代物ばかりであった。

 

 本にはおびただしい数の付箋が挟まれ。紙の資料には、多数の書き込み。めまいがしなそうな程の情報量であった。

 

 

「よく、研究されてる、ね」

 

「ああ…」

 

 

 端から見てもチェスを極めようという、血の滲むような努力が見て取れた。あれほどまでに俺達を盛り上げようとひた走る彼女からは想像が付かない勤勉さ…とても意外な一面だと思った。

 

 

 そんなあいつが、…死んでしまった。

 

 

 このおびただしい資料に目を通す人間も、活かす人間も、今はもうどこにも居ない。

 

 

 何てあんまりな話だろう…そう思わずにはいられなかった。

 

 

「……?…っ!折木、君…!これ、見て!」

 

 

 居ない人間へと、思いを募らせる俺に、贄波は焦ったように声を掛けてきた。彼女にしては珍しく、動揺を隠せていなかった。

 

 俺もその様子に釣られて、小さな焦燥にかられながら贄波の居る机に近づいていく。

 

 

「……瓶?」

 

 

 机の資料の影に隠れて、この場に似つかわしくないような様相の瓶が1つ置かれていた。褐色の、何処かで見た事があるような…。

 

 いや違う、実際に目にし、そしてごく最近聞いたはずの…。

 

 

「七つ道具、の…一つ、だよ、ね」

 

「…”絶望薬”」

 

 

 

 俺が思い出すよりも先に、贄波は答えを示し、それに俺も続いた。

 

 ラベルには、“遅効性絶望薬”そう刻まれていた。確かに、彼女の言うとおり…これはあの美術館に置かれていた毒薬。

 

 古家から聞いた、美術館の道具の貸し借り。その中の2つの所在は掴めていた。だけど、残りの一つ、いや二つと言うべきか。『即効性絶望薬』と『遅効性絶望薬』の二つの居場所は分かっていなかった。

 

 

「こんなところに…何で」

 

 

 そう言葉が出てしまうのも無理はなかった。だって、被害者である水無月の部屋に置かれているなんて…あまりにも突飛すぎるから。

 

 

「でも。もう片方は、見つからない、ね?」

 

「…ああ、そうだな」

 

 

 すると贄波はそう言って、もう片方の所在についても言及する。確かに、恐らくセットで貸し借りが行われたはずのこれらの内、その片方だけが見つかるなんてことも、不思議な話である。

 

 

 でも、そんなことよりもココにその毒薬があることに、俺の思考はとらわれていた。

 

 

 複雑に、思考をくねらせる。ココにある理由、そしてその用途について…考え始める。

 

 

 そして同時に…。

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 コトダマUP DATE!!

 

 

【即効性絶望薬 and 遅効性絶望薬)

…モノパンの七つ道具の一つ。

 

遅効性絶望薬:『服用から8時間きっかりで効果が現れる毒薬』⇒水無月の部屋にて発見。

 

即効性絶望薬:『服用後すぐに人を死に至らしめる。さらに空気よりも軽いため、気化して部屋中にガスを蔓延させることもできる』⇒所在不明

 

 

 

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

 

 

「――――――!!」

 

 

 

 考えを深めうと俯いた直後、そのチャイムは鳴り響いた。

 

 

 

『光あるところ影がアリ…影ある所さらに深き影がある…すなわち闇…シロあるところ…クロがあル。それは不変であり、決して重なり合うことのない永遠の因果』

 

『しかし、永遠に必要なのは………さてさて、時間でス…狂気の連続殺人の答え合わせのお時間でス』

 

『つまりは審判、つまりは選択、つまりは裁判の時』

 

『捜査を今もシコシコと続けているミナサマにお告げを致しまス』

 

『さっさと切り上げテ!!赤い扉の前に集合ダ!!!分かったなァ!!制限時間は10分!!!』

 

『年貢の納めタイムもクソもありませんからネ!時間はきっちり守れヨ!絶対守れヨ!!絶対だかん――――――』

 

 

 

 ――――――――――ブツッ

 

 

 

 

 脳に直接響くような程のチャイムの音と同時に流されるタイムリミットの合図。

 

 

 そしてモノパンの尻切れなアナウンス。

 

 

 とうとう、来てしまった。

 

 

 とうとう、やって来てしまった。

 

 

 3度目の学級裁判の時間が…

 

 

 3度目の命がけの審判の時間が…

 

 

 血が冷たくなるような…熱くなるような…気持ちの悪い感覚が体中を巡った。今にも吐きそうな、嫌悪感が同時に思考を覆った。

 

 

「いよいよだな」

 

「うん。そう、だね……」

 

 

 ………………。

 

 

「なぁ…贄波」

 

「ん?…なぁに?」

 

「………………」

 

「折木、くん?」

 

「その…あれだ……」

 

「…?」

 

「今回の事件何だが………――――いや、すまん。何でも無い」

 

「…?変な、折木くん」

 

 

 

 ……嘘だった。言いたいことは、あるはずだった。

 

 

 でも…勇気が出なかった。

 

 

 もしかしたら…この事件は……。

 

 

 そう思ってしまった、考えついてしまった…

 

 

 とある”可能性”を。

 

 

 思いついてはいけないはずの…1つの可能性。

 

 

 ”そうかもしれない”…そう言われるのが怖かった。

 

 

 だから、言うに言えなかった…。

 

 

 言葉にする自信が、持てなかった。

 

 

 

「じゃあ…行こ?」

 

「…ああ」

 

 

 

 

 だから俺は、何も口にせず。大事な事を、付き添ってくれた、信頼しているはずの相棒に、何も言えず。

 

 

 ただ不穏な予感をよぎらせながら、共に学級裁判へと赴くための中央棟へと向かっていくことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【中央棟エリア】

 

 

「やぁミスター折木、そしてミス贄波。捜査の成果は順調だったかい?」

 

 

 中央棟に集合した直後、既に集まっていたニコラスからそう声を掛けられた。隣には、ポケットに右手を突っ込んで恰好を付ける雨竜が居た。

 

 俯瞰的に見たところ、まだ扉は開いてはいないようだった。

 

 

「ぼち、ぼち、かな?」

 

「贄波の言葉の通りだ…。だけどできる限りのことは調べたつもりだ」

 

「ははっ相変わらず頼もしいね。いやぁ、ボク達の方は少々証拠の集まりが悪くてね。正直、ボクの力を十二分に発揮できなかった、というのが今回のハイライトだったね、キミ」

 

「ふん、貴様が無駄な講釈で時間を引っ張った所為であろうが」

 

「いやいやキミが死体を前に立ちくらみを何度もするからじゃないのかい?」

 

「いや貴様が…」

 

「どっちでも良いから…それで。何か分かったことがあるなら、今のうち共有しておこう」

 

「オーケイ!じゃあ良いニュースから言わせて貰うよ!」

 

「その口ぶりからして、悪いニュースもあるのか?」

 

「特に無いとも!」

 

 

 いや、無いのかよ…。

 

 

「まぁ何を隠そう、例の筆跡の件についてなのだけれど……実はついさっき、照合を終えた所なのだよ。いやぁ大変地道な作業だったさ…あれはそうだね、ボクがまだ真実のうま味という者を知らなかった頃の――――」

 

「貴様の昔話はどうでも良いのだ!さっさと話を進めろ!はぁ…何故ワタシがこんなチマチマした作業をしなければならんのだ…」

 

 

 あきれかえる雨竜に、ニコラスは”おおっ!そうだったね!キミ!”と、快活に応える。この様子を見てみると……案外、悪くないコンビ感で捜査をしていたのかも知れない。裁判前に、大変疲れそうではあるが。

 

 

「話を戻そう、筆跡の鑑定結果、だったね。…キミ達も聞きたくてウズウズしているんじゃないのかい?」

 

「……さっさと教えろ」

 

「オーケイ…任せたまえよ、キミ」

 

 

 そう言って恐らく全員分の文字が書かれた紙を取り出し、眺める。そして、まるで何かの結果発表をするように溜めていく。

 

 

「今回のボクら独自の調査を報告しよう――――残念ながら…誰1人として手紙と合致する生徒はいなかったさ、キミ」

 

「…えっ…い、居なかったのか?」

 

「ああ…このワタシによるダブルチェックも込みで、そう結論づけた」

 

「どういう、こと?」

 

「さあね。だってほら、見てみたたまえよ…この手紙の筆跡と、全員の筆跡を…物の見事に癖が違うだろう?」

 

「…本当だな」

 

 

 本当に、全員が全員、個性をもろに出したような字を書き連ねている。十人十色と言う言葉があるのだが…それを今目の前に提示された気分だった。

 

 これなら…誰1人筆跡が合わないと言えるのも頷ける………だとしたら…誰が―――――――――――

 

 

 

 

 あれ?

 

 

 

 

 だけど…何だ?手紙の、この筆跡……最初はどうとも思わなかったが…なんでか、既視感が…?どういうことだ?

 

 

 この字…どこかで……見た事が…あるような。

 

 

「しかしだよ?諸君、この結果を元にして、分かったことがあるにはあるのだよ」

 

 

 考えに没頭しようとした矢先、ニコラスがそう高々と宣言する。その言葉に俺は、現実に引き戻される。

 

 

「……一応聞いておくが、何が分かったのだぁ?」

 

「分からないことが分かったのさ!!どうだい素晴らしい調査結果だろ?」

 

 

 ガクッと、俺達は体を傾ける。続けてため息を1つ。大層な間を作った癖に結局何も無いと言う結果だったのだ、そう反応してしまうのも無理はなかった。

 

 

「とまあ、こういった結果であったことに変わりは無いが、だけどこういった証拠も何かしらの役に立つはずさ……良いかい?」

 

「…わかった」

 

 

 重要そうにはまったく見えないが…ニコラスが言うなら、念のため頭には置いておこう。

 

 

 

 でも…さっきの感覚は…どういうことなのだろうか?…一応、この直感もメモに書き記しておくか。

 

 

 

 

 コトダマUP DATE!!

 

 

【配られた手紙)

…『本日お配りした写真について、改めて説明をしようと思います。午後7時、モノパンタワーにてお待ちしております。できるならミナサマで来ていただけると幸いです。モノパンより』

 

 全員に届けられた手紙。しかし時間になってもモノパンは来ず、恐らくモノパンじゃない誰かが書いたと思われる。

 

 しかし、沼野への手紙には『午後5時にモノパンタワー2階に来い』と書かれていた。筆跡を見たところ手紙の主は、同一人物。⇒しかし筆跡鑑定の結果、誰1人筆跡が合致する生徒はいなかった。

 

 …だけど、俺自身は何処かで見た事があるような…そう思えて仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

「あ!あの…ニコラスさん!」

 

 

 筆跡についての話をしてしばらく。そろそろ赤い扉が開くのではないか、その間際、俺達の元に…手に何かしらのメモを握った小早川がやってきた。

 

 

「Oh!ミス小早川!待ちに待っていたよ!キミ!」

 

「は、はい…。あの頼まれた代物です」

 

「サンキュー!ミス小早川。実に迅速な働きだ。…ふむふむ成程成程」

 

 

 小早川から、手元にあった何らかの紙を渡されたニコラスは、わざとらしく頷き、メモに目を走らせる。

 

 

「小早川?何か頼まれたのか?」

 

「ええと、タワーの見張りをしている最中に、ニコラスさんから今朝の献立について教えてくれって言われまして。それで…」

 

「献、立?」

 

「そういえば、何やらコソコソと頼んでいたなぁ……まさか献立如きだったとは」

 

 

 渡されたメモを覗きこんでみると…確かに俺達が今朝食べたメニューが羅列され、1人1人の生徒達の食べた食事と、飲み物が丁寧に記されていた。

 

 

「でも、今朝のメニューなんて、ほぼ全員一緒で、教えるほどのものではないような…」

 

「本当だ。皆、殆ど一緒…だね」

 

「ううむ。どうやら、無駄足だったようだな?ニコラス」

 

「いいや、そうでもないぜ?ミス小早川。ちょいと追加で聞いても良いかい?」

 

「は、はい…なんなりと」

 

「この食事メニュー以外に、生徒それぞれに何かしらの個人差についても聞いて良いかな?」

 

 

 個人差…?俺は頭を傾けながら、小早川に向き直る。

 

 

「あるにはありますけど…あの”ぷらいばしー”の配慮については…」

 

「良いから良いから、後でどうとでもフォローするさ、キミ。ほら、彼らのこだわりなんかを洗いざらい言ってくれたまえよ」

 

「不安しかありません…」

 

 

 小早川の気持ちは分かるが…それにしても…こだわりか。

 

 偏見かも知れないが、ここにいるのは癖の強い連中が多い故に、何となく小さなこだわりが満ちあふれているイメージはある。

 

 

「でもわかりました…ご飯そのもののこだわりではなく、その周辺の環境の違いについてお話しさせていただきます…」

 

「周辺の、環境?結構、そういうの、皆、気にするん、だ」

 

 

 お前の場合は、まず普通の食事をすることにこだわりを持とう…と言おうと思ったが。話が脱線しそうだったので、やめておいた。

 

 

「は、はい。味は勿論のこと、飲み物、調味料…それに、食事に使う”食器”などにも違いが」

 

「成程………食器も、かぁ」

 

 

 その”食器”という言葉にニコラスはピクリと耳で反応を示したのが見えた。

 

 

「例を挙げるなら、お皿とかお箸、ですね……コレじゃ無きゃヤダっと言うお方が、チラホラと。特に、お箸などは半分以上自分専用のお箸を使っていらっしゃいます」

 

「きづかなんだ…」

 

「いや、雨竜さんが特に多い方なんですけど…」

 

「うぐ………ふ、ふははは!!勿論ワタシは常に自分自身のモチベーション管理に余念はないからな!!当然と言えよう」

 

「誤魔化したな」

 

「誤魔化しましたね」

 

「誤魔化した、ね?」

 

「ははっ!焼きが回ったもんだね!キミ」

 

 

 ……そういえば。俺がご飯当番だったときも、水無月や雨竜、それにニコラスにも皿やコップはこれにしてくれとか、割り箸を置いてもすぐに席を立って別の箸に取り替えた連中もいたな。

 

 

 そう考えていると…

 

 

「ミスター折木」コソコソ

 

 

 小早川達が話している中で、小さくニコラスが此方に声を掛けてくる。まるで気付かれては不味いというように、彼女たちにはバレないような形で。

 

 

「どうした…?」コソコソ

 

「実はシスター反町から、一つタレコミがあったのだけれど…聞いてもらえるかい?」

 

「別に構わないけど…何で皆に言わないんだ?」コソコソ

 

「ちょっとした工夫さ、キミ」コソコソ

 

 

 工夫って…まぁ彼がそうしたいのなら、言わないでおくが。

 

 

「実は朝、炊事場にボク達が集合する前に、ちょっとした出来事があったらしいのだよ」コソコソ

 

「何があったんだ…?」コソコソ

 

「紛失事件さ、ミスター忍者が食堂に集合したときの話なのだけれど……どうやら彼のポーチが無くなっていたらしくてね。中には、古びたクナイやら手裏剣、メモ帳に、墨、それに彼が愛飲しているお茶っ葉が入ったそうだ」コソコソ

 

「随分物騒なものが入ってたんだな……で、その後は…どうなったんだ?」コソコソ

 

「報告会の後、すぐに見つかったらしいさ。どうやら机に置かれていたらしい…」コソコソ

 

 

 成程…沼野のヤツの持ち物が消えて…そしてすぐに見つかったのか。でも、これって結構怪しい話じゃないだろうか?

 

 

「でも尚更分からないな…何で、そんな大事な事を皆に共有しないんだ?」コソコソ

 

「ミスター折木、敵を欺くにはまず味方から、だよ。キミ」コソコソ

 

「…どういうことだ?」

 

「はは、いずれは分かるさ、いずれね」

 

「いずれって……」

 

「それよりもだ…良いかい?コレはボクとキミ、そしてシスター反町しか知らないことだ。勿論彼女にも口止めをしている。この情報を披露するときは、ボクが合図する。良いね?」

 

「…わかったよ」

 

 

 気は進まなかったが、ニコラスが戦略を立てたというのならそれを無碍にするわけにはいかない。俺はうっかり口を滑らせないよう、心に決めた。

 

 

「いやぁーミス小早川、献立のについて、そして食器について教えてくれてサンキューだぜ!これでまた一歩、真実へと近づけた気がするよ、キミ」

 

 

 一瞬の密談を行ったニコラスは、切り替え、そう言いながら彼は小早川達に向き直る。テンションは同じなのだが…食えない感覚である。

 

 

「そ、そうでしょうか。でも、うう…ゴメンなさい、こういう細かいことでしか、お力になれなくて……」

 

「なぁに、そう蹲ることはないさ。キミの一握りの努力こそ、クロを貫く牙となりえるものなのだよ」

 

「……ああ、ニコラス言うとおりだ。小早川、お前のその記憶…きっと力にしてみせる」

 

「うん、だから…後は、任せ、て」

 

「ふはは!鼻から貴様の脳細胞に一ミリとて期待はしておらん…安心しろ!」

 

 

 いや、その言い方はどうかと思う。

 

 

「折木さん…皆さん。――――そ、そうですよね!はい!!何だか私らしくありませんでしたよね!!まだ事件の概要すら掴めておりませんが、裁判でも、お力になれるよう頑張ってみせます!」

 

「流石に、概要は頭に入れて置いた方が良いんじゃないか?」

 

 

 少々不安は残るが…でも小早川の方も、何とか、しおれすぎずに済んだようだった。

 

 

 コトダマGET!!

 

 

【生徒達のこだわり)

…生徒達はそれぞれ自分の食事にこだわりをもっていたらしい。食事中に飲む飲み物、使う箸、茶碗、などそれぞれ違っていた。

 

 

【ポーチ紛失事件)

…朝の報告会の前に起こった小さな事件。沼野のポーチが何処かに消えたらしいが、報告会の後、すぐに見つかったらしい。

 ポーチの中身は。古びたクナイやら手裏剣、メモ帳に、墨、お茶っ葉。

 

 

 

 

 これらのことをメモし…そして今までの情報を整理していると。

 

 

 ――――ガラガラガラ

 

 

  そうやって、音を立てながら、赤い扉が開いた。

 

 

「扉…開きましたね」

 

「…そうだな」

 

 

 また、空気が重くなったようだった。

 

 

 生徒達は、覚悟を決めたように…無言のまま次々とエレベーターの中へと入っていく。

 

 

 俺も続かなければ。事件と向き合うために、強い覚悟を持って。

 

 

 くよくよしてる時間も、怖じ気づいている時間も、俺には無い。

 

 

 真実を確かめる場へ…早く向かわなきゃいけない。

 

 

 生き残るために、2人の死の真相を究明するために。

 

 

 

「……………」キュッ

 

「ん?贄波…どうした?」

 

 

 エレベーターへと向かおうと足を速めようとする俺の服をつまむ贄波。じっと、吸い込まれそうな瞳を此方に向けてきた。

 

 

「折木、くん…右手、出して」

 

 

 向き合う俺に、贄波は急にそんな事を言った。

 

 少し呆けてしまう。

 

 

「こう、手のひらを、上に、するように…」

 

「………こうか?」

 

 

 何の事か分からないが、言われるがままに俺の手のひらを出す。

 

 すると、彼女はその右手を両手で優しく包み上げる。そして、目をつぶる。

 

 急にそんな事をされたものだから。少し頬を染める。何んなのか、聞こうと考えた。でも、余りも真剣なその雰囲気に押されて、つい押し黙ってしまう。

 

 ほんの数秒。彼女のぬくもりに包まれた右手を眺めていると、彼女は目を開き、此方に微笑みかける。

 

 意図の読めなかった俺は、首を傾げることでしか返せなかった。

 

 

「…?」

 

「おまじ、ない…」

 

「おまじない?」

 

「今、折木くん、の手のひらに、おまじないを、かけた、の」

 

「……」

 

 

 そう言われた俺は、自分の右手をジッと見つめてみた。

 

 

「折木くん、今、とっても、怖い顔してた、から……それに、とてもつらそう、に見えた、から」

 

 

 俺は、えっ?とそんなこと初めて聞いたように目を見開いた。

 

 

「気付かな、か、った?」

 

「…正直」

 

 

 自分がそんな顔をしていたなんて、思いもしなかった。自分で自分の事を、客観的に見ることなんてあまりないものだから。

 

 

「これは、ね?…勇気の出る、おまじない」

 

「勇気の?」

 

「今、折木君の右手には、勇気が、こめた、の」

 

「………」

 

「きっと、折木くん。今とっても、怖がってる。裁判に行くことに、真実を、知ろうとする、こと、に」

 

 

 ――――怖がってる。

 

 

 自分では何なのか、言われても分からなかったが。

 

 何となく、腑に落ちてしまった。

 

 今まで経験してきた裁判でも、今まで求めてきた真実を求めるときも。俺は…。

 

 

「陽炎坂くんや、長門さんの時、みたい、に……自分に、自信を、持てなくなる、時が、くるはず。迷って、迷いながら、無理するとき、が来るはず…」

 

「……」

 

「だから……怖くなったり、不安になったら、右手を胸に当てて、みて?」

 

 

 俺は右の手のひらをもう一度見つめてみた。

 

 

「きっと…折木、くん、の力になれる、はず、だよ」

 

「…………」

 

 

 勇気の出る、おまじない…。

 

 

 子供っぽい、そう思った。だけど何となく、贄波が唱えてくれるなら、言葉にできない安心感が持てるようだった。不思議な話だった。

 

 

「…………まだ、不安?」

 

「いや…そんな事は無い。凄く、心強いよ」

 

「そっか…なら、良かっ、た」

 

 

 俺は出来る限りの笑みを浮かべた。ぎこちなかったかも知れないけど、でも今までしてきた表情よりは、ずっとマシに思えた。

 

 

「でも…こんなおまじないなんて、いつ教わったんだ?」

 

「…私の、お母さん。私が、いつも不安になったとき、いつでも勇気を持てるようにって…こうやって、してくれた、の」

 

「お前の…」

 

「歌も歌って、くれてたん、だけ、ど……でも私、歌下手くそ、だから…」

 

「いや…充分だよ。ありがとう…」

 

 

 …この手のひらに、目に見えない勇気がある。そう思うだけで、不思議と心強い暖かさを感じた。

 

 

「……頑張ろうな、贄波」

 

「うん…!」

 

 

 そう言い合い俺は、贄波と共に開いた扉の向こう側へと、歩いて行った。

 

 

 落とさないように、話さないように…強く、堅く、右手を固く握りしめながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

【裁判場】

 

 

 

 ――何度目かも分からないエレベーターの下降音

 

 

 ――まるで首を締め上げるように、下から上へ湧き上がるような反重力

 

 

 ――深く深く、唸り上げながら、エレベーターは下っていく

 

 

 ――深い深い、地獄の底へと俺達を運んでいく

 

 

 

 そんな低い重圧が蔓延る中、俺達の間に言葉はなかった。

 

 

 全てが無音。ヘタな沈黙ではなく、張り詰めたような強い沈黙。

 

 

 まるで誰かに話すことを禁じられているのではないか、そう錯覚してしまうほど…俺達の間に会話という会話はなかった。

 

 

 無理もなかった。

 

 

 俺達に配られた今朝の写真。俺達の知らないはずの大切な思い出。

 

 

 それはすなわち、俺達が仲間だったクラスメイトだった証。

 

 

 その証を破り去るように、コロシアイが起こってしまった。

 

 

 しかも、2人。

 

 

 その事実が、全員の口をこんなにも閉ざすように、仕向けている。

 

 

 誰1人として言葉を出すことは出来ないように、抑えつけている。

 

 

 

 ――――そのまま、誰1人として言葉も発さずに

 

 

 

 チーン――――――

 

 

 

 到着の合図と共に、入口である鉄格子が、ガラガラと開いていった。

 

 

 重圧から解き放たれたはずなのに、エレベーターの中で感じていた重苦しい感覚は未だ続いていた。

 

 

 まるで牢屋から出されるような。そんな罪を背負った感覚だった。

 

 

「今晩はミナサマ……三度、我が学級裁判場へご足労頂きまして感謝致しまス」

 

「……」

 

「くぷぷぷ、芸術的なほど悲痛そうでございますネ。そんな辛気くさいままでは、目の前に迫った真実とやらも逃げて行ってしまいますヨ?」

 

 

 俺達の苦しげな様子を、おもちゃを触るようになじるモノパン。今の俺達に、それへ反応できるような余裕はなかった。俺は、そんなモノパンを視界に入れないよう、耳も、目もそらしていった。

 

 見てみると…裁判場の内装も、また前回に引き続いて変化していた。風船と花吹雪が飛び交い、まるで物語に出てくるようなお城が壁に描かれている。恐らく今回の事件現場である、モノパンパークにちなんで着色されたのだろう。

 

 

「それではミナサマ。いつもどーり、自分のお席にお着き下さいまセ」

 

 

 俺達は、相変わらず言葉も無く、続々と自分たちの定位置へと立っていく。

 

 

 その淀みの無さに、これまで経験が込められているようで…イヤに悲しかった。

 

 

 そしてまた、俺達は向かいあった。いや、向かい合ってしまった。

 

 

「ははっ…できるなら…3度と拝みたくない光景だったんだけどね。キミ」

 

「仕方あるまい。殺人が起きた今、この中に潜む愚か者をあぶり出すには、この方法しかないのだからな」

 

「ひぇ~、心臓が口から飛び出してきそうなんだよねぇ…もう心臓以外にも自分の知らない未知の内臓が出来そうなんだよねぇ…」

 

「…それは出し過ぎ。普通にグロい」

 

「はぁ、そんな気持ちが貼ってんなら、景気づけにお祈りでもするかい?多少は気分も晴れるかも知れないよ?」

 

 

 暗い面持ちが周囲を満たす中、首元の十字架のペンダントを見せびらかし、笑いながら反町は提案する。

 

 

「いや、お祈りって景気づけにするものじゃないと思うんですけど…」

 

「そうかい?…じゃあ1人でやってるさね」

 

「あっ、結局1人でやってしまうのですね」

 

 

 静かに、ポツポツと会話が繋がるこの中で、モノパンはソレを見てまたくぷぷと笑い出す。

 

 

「くぷぷぷ、最初はどうなるかと思いましたが…案外元気そうですネ。でもまぁ、いつもより、静かなのは事実。なんていったって…今回の事件はこのクラスの賑やかし担当である2名が、とうとう消えてしまったのですかラ」

 

 

 …そう言われた瞬間、また、小さな圧が俺達の間にかかり始めた。

 

 

 今まで口には出さなかった、事実。出せば、きっとまたさっきような沈黙が、また走ってしまう。

 

 

 そう思って、誰も口にはしなかった。だけど放たれてしまった。

 

 

 思った通り、俺達の間には酷い重苦しさが、再び蔓延していた。

 

 

 わかっていながら、口にするなんて……何て嫌みなヤツなのだろう。本当に、コイツには、嫌悪感しか感じられない。

 

 

 だけど、分かっていても、どうすることもできない俺。逃げるように、事件の被害者である二人の席に視線を移した。

 

 

 そこには既に遺影が立てられていた。

 

 

 ――――『超高校級の忍者』“沼野 浮草”…影が薄いとか、忍者くずれだとか様々な野次を飛ばされて、でも俺達の間の不和を誰よりも早く察して、身を乗り出してでも穏便に済ませようと努力していた。

 

 彼の遺影は、まるで誰なのか分からない様に、顔を筆で塗りつぶされていた。

 

 

 ――――『超高校級のチェスプレイヤー』”水無月カルタ”…俺達の中で随一のムードメーカーで、例えどんな暗い状況だろうと、自分がどれだけコロシアイを嘆いていたとしても、必死にこの場を盛り上げてようとしてきた。そして、俺がここに来て、初めて出会った最初の友人。

 

 彼女の遺影には、朝衣や鮫島のように×が描かれていた。だけど、その線は、チェスのキングとクイーン。チェックメイトを表わすように、倒れかかっていた。

 

 

 そんな2人が居なくなってしまった。俺達の思い出の中でしか…彼らは生きることができなくなってしまった。

 

 

「それでは早速、上げていきましょう…キミタチ人生最期になるかも知れない生の分岐点…学級裁判、そののろしを」

 

 

 

 きっと今、俺は冷静じゃない…この中の誰よりも焦燥に駆られている。

 

 

 

 

 この震える体が、その尋常じゃない焦りを証明している。

 

 

 

 右手に力を込める。

 

 

 

 それでも俺は……真実を導いてみせる。

 

 

 

 

 誰が二人を殺したのか…その全てを、絶対に暴いてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――例えソレが…どれほど残酷な真実であったとしても…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇証拠一覧

 

【モノパンファイル Ver.3)

…被害者:【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

 

 死体発見現場はエリア3、モノパンタワー2階の『ダンスホール』。死亡推定時刻は午後5時あたり。体全体に無数の外傷が見られる。外傷以外では、被害者は激しく吐血したことが確認できる。

 

 

 

【モノパンファイル Ver.4)

…被害者:【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

 

 死体発見現場となったのは、エリア3のお菓子の部屋。死亡推定時刻は午後7時30分頃。死因は体全体を高所から打ち付けた事による『転落死』。外傷は他に、強く掴まれたようなのアザが見られた。

 

 

 

【気球の籠)

…噴水に突き刺さった遊覧用の気球。少なくとも、タワーに集合した時には突き刺さっていなかった。

⇒反町達からの証言から、停電中に突き刺さった可能性あり。

 

 

 

【気球の手すり)

…大きく凹んだ跡があった。丁度、手を引っかけた位の大きさの凹み。

 

 

 

【配られた手紙)

…『本日お配りした写真について、改めて説明をしようと思います。午後7時、モノパンタワーにてお待ちしております。できるならミナサマで来ていただけると幸いです。モノパンより』

 

 全員に届けられた手紙。しかし時間になってもモノパンは来ず、恐らくモノパンじゃない誰かが書いたと思われる。

 

 しかし、沼野への手紙には『貴方の計画は知っています。公にされたくなければ、午後5時にモノパンタワー2階のダンスホールへ来て下さい』と書かれていた。筆跡を見たところ手紙の主は、同一人物。⇒しかし筆跡鑑定の結果、誰1人筆跡が合致する生徒はいなかった。

 

 …だけど、俺自身は何処かで見た事があるような…そう思えて仕方なかった。

 

 

 

【停電時の居場所)

折木、贄波、ニコラス、小早川⇒モノパンタワー2階『ダンスホール』

雨竜⇒ゲームセンター

落合⇒観覧車

古家⇒お化け屋敷

反町、雲居、風切⇒エリア3の入口

 

沼野⇒モノパンタワー2階『ダンスホール』

水無月⇒???

 

 

 

【落ちたシャンデリア)

…沼野の死体に落下したシャンデリア。四方に4本の鎖、そして中央のチェーンで支えられていた。四方のチェーンを切断すれば、重さに耐えきれずに約1時間で落下する。

 俺達が集合した午後7時よりも1時間前の午後6時には鎖は切断されていた模様。

 

 

 

【切断用のハサミ)

…チェーンの切断に使われたと思われる枝切りばさみ。ダンスホールの観覧席に隠されていた。

 

 

 

【強烈な破裂音)

…停電中にエリア3の上空で響いた音。

 

 

 

【天井からの足音)

…停電時、ダンスホールの真上から聞こえたカタカタとした音。恐らく、足音。

 

 

 

【止まったジェットコースター)

…タワー屋上のすぐ側。ジャンプすれば届きそうな距離に、レール上で停止していた。一番前の安全バーは無理矢理外されており、恐らくバーを外したことにより、ジェットコースターが停止した模様。

 

 

 

【ジェットコースターのパンフレット)

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【血の付いたナイフ)

…水無月の死体の側に落ちていたナイフ。切っ先に血が付いている。

 

 

 

【雲居の証言)

…停電中、雲居が耳にしたカンカンという叩くような音。入口の真上から響いたらしい。

 

 

 

【電気室の配電盤)

…イジられた形跡があったため、恐らく停電の原因と思われる。しかし、ジェットコースターを司るスイッチは見られなかったため、この施設の電源だけは独立している模様。

 

 

 

【モノパンゴーグル)

…赤外線放射機能を搭載し、どんな暗闇でも、どんな暗夜でも、何でも見通すことができる。ジェットコースターの入場口近くの茂みに落ちていた。

 

 

 

【モノパワーハンド)

…どんな小柄な人であろうと、軽々と自分より重い物を運ぶことが出来る。ジェットコースターの入場口近くの茂みに落ちていた。

 

 

 

【即効性絶望薬 and 遅効性絶望薬)

…モノパンの七つ道具の一つ。

 

遅効性絶望薬:『服用から8時間きっかりで効果が現れる毒薬』⇒水無月の部屋にて発見。

 

即効性絶望薬:『服用後すぐに人を死に至らしめる。さらに空気よりも軽いため、気化して部屋中にガスを蔓延させることもできる』⇒所在不明

 

 

 

【七つ道具のルール)

…道具を借りられるのは、1人二つまで。

 

 

 

【上空に浮かぶ火の玉)

…停電時、観覧車に乗っていた落合が目撃。モノパンタワーの近くに浮かんでいたらしい。

 

 

 

【生徒達のこだわり)

…生徒達はそれぞれ自分の食事にこだわりをもっていたらしい。食事中に飲む飲み物、使う箸、茶碗、などそれぞれ違っていた。

 

 

 

【ポーチ紛失事件)

…朝の報告会の前に起こった小さな事件。沼野のポーチが何処かに消えたらしいが、報告会の後、すぐに見つかったらしい。

 ポーチの中身は。古びたクナイやら手裏剣、メモ帳に、墨、お茶っ葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生き残りメンバー:残り10人』

 

 

【超高校級の特待生】⇒【超高校級の不幸?】折木 公平(おれき こうへい)

【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)

【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)

【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)

【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)

【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)

【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)

【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)

【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)

【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)

 

 

『死亡者:計6人』

 

【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)

【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)

【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)

【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)

 




捜査編です。
情報量は大変多いですが、比較的分かりやすい事件だと思います。






【コラム】
〇名前の由来コーナー 沼野 浮草(ぬまの うきくさ)編

作者から一言:NARUTOに出てきそうな名前にしたかった

 コンセプトは争い事を嫌う、穏やかな青年……だったのですが途中から、そんなに薄くはないけど影が薄いとイジられるタイプの騒々しいキャラに転じました。小説って面白い♡
 名前は一言でも言ったように、NARUTO風味の名前(『海野イルカ』みたいな)にしたかったのが始まりでした。次にそーろんの全キャラが載ったサイトを閲覧しました。名前被りがイヤだったので、50音中で一番使われていない最初の音を調べたところ、唯一『ぬ』から始まるキャラが居ませんでした。なので…ぬから始まる名前にしようと思いました。
 その結果、『沼野(ぬまの)』が最初にでてきました。次に名前ですが、初めは『蛙(かわず)』だったのですが、何か不格好だったので、色々調べて『浮草(うきくさ)』に行き着きました(沼に生息する生物図鑑…みたいなのを見て決めたんだと思います)。こういった試行錯誤を繰り返した過去があるため、かなり思い入れの深い名前です。

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