ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~   作:水鳥ばんちょ

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Chapter3 -非日常編- 14日目 裁判パート 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   【学級裁判】

 

 

    【再開】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――静謐という音が…鳴り響いているようだった

 

 

 

 ――――耳をすましても、聞こえないはずなのに

 

 

 

 ――――耳を凝らしても、何処にもないハズなのに

 

 

 

 ――――耳鳴りのように

 

 

 

 

 ――――シンっ…と鳴り響いているようだった

 

 

 

 

 ――――この場所で

 

 

 

 ――――この”学級裁判場”で、反響していた

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 音の主は、俺達だった。誰もが口を閉ざし、声も出さずに、静謐を作り出していた。

 

 

 

 ――――その沈黙の中心ともほど近い。全ての視線が一点に集まるその場所で…。

 

 

 

 

「この事件の犯人は――――被害者である水無月自身だ」

 

 

 

 その場所で俺は、この事件の、答えとも言える真実を口にしていた。

 

 それを発した途端、生徒達の視線が、さらに、突き刺さるようだった。

 

 ピリピリと、ビリビリと肌を刺激するようだった。

 

 

 

 ――――まるで、台風の目に立たされているみたいだった

 

 

 

 穏やかで、静かで…。

 

 

 だけど、本当はそうじゃなくて。

 

 

 決して心安らげる場所でも、時間でもなくて。

 

 

 

 嵐の前の、途轍もない不穏が押し寄せてくる寸前のような。仮初めの平穏が、この世界を、俺自身を、包み込んでいるようだった。

 

 

「水無月、さん、が……」

 

「…あの、カルタが?」

 

 

 信じられないと、そう言いたげに言葉を紡ぐ生徒達。

 

 無理も無かった。

 

 その真実は、すなわち。俺達を友人だと、仲間だと言い張っていた彼女が……この事件の犯人であり、そして虐殺紛いなことを行った黒幕である。

 

 そう言っている以外に他ならなかったのだから。

 

 ――――数人を除いて。

 

 でも俺を含む殆どの生徒達は、その真実に躊躇いを表情を向けていた。

 

 

「で、でも…それって、あくまで仮定の話なんだよねぇ…?絶対にそうであるかどうか、わからないんだよねぇ…?」

 

 

 怯えきった表情を向け、古家はその躊躇いを言葉にする。

 

 凡人の俺がその立場に居たなら。その真実を聞かされた側に立っていたなら。きっと、何も言えず、ただ呆然と立っているだけしかできなかったはずだ。

 

 だのに、それでも…事実を飲み込んでもなお、友達を信じようとする姿勢は…尊敬に値した。

 

 だからこそ、少しでも可能性を見いだそうとするその言葉に…また心をガリガリと削られていくようだった。

 

 

 だけど――――。

 

 

「……だけど、あいつがココまで大がかりなことを計画していた事を踏まえれば、考えられたくも無いはずだ。――――いや、違う。俺は、かもしれないじゃなく、ソレが答えだと、思ってる」

 

 

 苦悶に表情を歪めた俺は言い切った。かみ砕くように、かみ切るように…。古家の切り開いた光明すらも、言葉で閉ざしていく。

 

 彼は顔をしかめ、諦めたように、沈めていく。

 

 

「折木……アンタ、本気で…?」

 

 

 そんな毅然とした態度を繕う俺に…続けざまに反町は、そう言葉を掛けた。まるで母親に、本気でこの道で生きていくのか…そう問いかけるように。

 

 もう後戻りはできないぞ、と、念を押さている気持ちになった。

 

 

「……ああ、本気で思ってる。水無月は、沼野を殺害し、そして俺達も、殺害しようとしていたんだ」

 

 

 でも、反町への答えに迷いは、俺の中には無かった。取り繕ったモノではなく、即興的に組んだ物でも無い……揺るぎない確信を持って、俺はこの推理を貫いた。

 

 

「……反町さん……折木君はわかっている。そう、わかっているのさ。彼の目を見てごらん。僕が旅をしようと意気込んでいた、そのときの目とそっくりだ。ああ、とても懐かしい気分だよ」

 

「…この状況で感傷に浸れるあんたの図太さが羨ましいですよ」

 

 

 反町は、その落合の言葉を聞いてなのか……俺の目をジッと見つめる。反町のその目からは、憤りとも、哀れみとも取れる、複雑な感情が読み取れた。

 

 俺には、その目を見続けた。

 

 言葉ではなく、態度で示せと、そう言われているようだったから。ジッと、相対し続けた。

 

 

「シスター反町、キミも言いたいことは山ほどあるのだと思う…だけどこれ以上の言葉は、不要…そうは思わないかい?」

 

 

 ニコラスの言葉を受けて…反町は、瞳を閉じ、そして小さく鼻でため息を吐いた。鋭い雰囲気が、少し取れたような、そんな印象をに変わった気がした。

 

 

「………わかったさね。これ以上は、もう言わないよ」

 

 

 納得の語感は無かった。非合理を、事実を飲み込んで、そして、自分を納得させているようだった。

 

 

「…ありがとう」

 

 

 ただ、その言葉が何よりも嬉しかった。アタシはアンタを信じる…そう言ってくれた気がしたから。

 

 もし、彼女に強い語気を持って詰め寄られていたら……きった何かが、変わっていた。揺らいでいたかもしれない。

 

 真実かどうかの疑念を持ってでは無く、極めて個人的で、自己本位的な理由で。

 

 それほどまでに、俺は、この導き出した答えに疑いを持っていた。いや、迷っていたんだ。

 

 でも、生徒達の言葉で、生徒達の黙認で、何とか意志を貫けるような気がした。いや、今貫き通そうと、確信を持てた。

 

 迷い無く、曇りの無い意志で。

 

 

「………」

 

 

 アイツが、”水無月”が、こんな”愚かで”、凄惨な事件を引き起こした。

 

 

 他の誰でも無い…アイツが起こした事件。

 

 

 俺は追求しなければならないんだ

 

 

 ーーアイツの仲間として

 

 

 公平に、公正に、一切の私情を排除した心を持って。真実を求めなければならない。

 

 

 ――アイツの友達として

 

 

 

 俺はまた右手を強く握りしめた。

 

 血が出るのでは無いか。そう思ってしまうほど、深く、強く。戒めるように、自分を罰するように。

 

 

「であれば、であればだ…折木よ。何故…ヤツは…水無月は死んでいる。何故犯人である水無月が、被害者として見つかっているのだ?」

 

 

 雨竜はこぼした。

 

 この事件の、最たる謎と言うべき点を、何故…彼女は死んでしまったのか、という疑問を。

 

 

「……」

 

 

 …正直な話、俺自身も、その疑問に対して、考えあぐねていた。

 

 沼野の殺害、生徒達の招集、エリアの停電、気球の利用、そしてタワーにいた俺達の殺害。

 

 水無月が行ったと思われる数々の計画。

 

 だけど、その当人は、俺達に悟られず、死去してしまっている。

 

 

「確かに、私達を殺そうとしていたのなら……」

 

「……どうして公平達が生きて、逆にカルタ死んでるのか…訳が分からなくなる」

 

 

 生徒達も、同じく、頭をひねらせていた。彼女が被害者として現れた所為で、その謎がさらに深まってしまっているのだ。

 

 殺される寸前だった俺が言うのも何だが…証拠を見る限りだと、計画は途中まで上手くいっていたはずだ。

 

 だったら、何故、彼女が死んでしまうという、訳のわからない結果に結びついてしまっているのか。

 

 その過程の中で“何が”起こってしまったか。

 

 ソレが分からなかった。

 

 

「でも確実に分かる、こと、は…水無月さんの、計画、は、失敗した、って、ことだよ、ね?」

 

「…”たーげっと”と思われる私達が、今も息づいていることを考えれば、そうですよね…」

 

 

 確かに、贄波達の言うとおり。今も俺達は生きている。俺がさっき思ったように、水無月の計画は、”途中まで”、上手くいっていた。

 

 つまり、最後の最後で、彼女は何らかの失敗を犯した。

 

 その結果、彼女は死んでしまった。

 

 きっとその失敗には、何か意味があるはずだ。

 

 推測することでしかたどり着けない、深い意味が…。

 

 

 その中で……一つ。真っ先に考えられる事は…あるにはある。

 

 

 それは――――

 

 

「…まさか…”自殺”?」

 

「えぇ……ここまで壮大な前振りをして、どうして最終的に自殺なんて手段を選ぶですか」

 

 

 そう“自殺”。

 

 俺も捜査中、一瞬そう考えたときもあった。何故なら、あのタワーの屋上と、お菓子の家は隣接していた。つまり、屋上から飛び降りたり、気球から身を投げれば、お菓子の家に落ちることができる。

 

 …つまり今回の事件現場と同じ光景にたどり着けるのだ。

 

 

「……逃げ切れないと踏んだから、というのはどうだ?」

 

「逃げ切れない?」

 

「時系列を考えてみれば…ヤツはファイル通りの時間に沼野の殺害は完了していたはずだ…午後5時にダンスホールで…」

 

「ああ。今までの証拠品と状況からして…間違い無い」

 

「そして水無月は折木達を一箇所に集め、全員を殺そうと考えたんですよね?」

 

「そう、そこまでは計画通りだった。だけど何らかの理由で計画が頓挫し…その結果逃げられないと踏んだヤツは…失意の内に自殺した……こういう線はどうだ?」

 

「無理矢理な感じは否めないけど…確かに考えられるっちゃあ、考えられるねぇ…」

 

 

 確かに、非道い話ではあるが…無くは無い…そう思った。

 

 だけど、もしその線が正しいとするなら…。

 

 

「だったら、あの気球やらはどうなるんだい?」

 

 

 そう、気球。

 

 今回の事件で水無月が利用したと思われる気球。そしてその気球が墜落している事実が宙に浮いてしまうのだ。

 

 それに、俺自身が生徒達にはまだ言っていない、様々な証拠の数々。

 

 その余りにも多くのことも煩雑に”残ってしまう”。捜査の中で見つけた、様々な痕跡が、残されてしまうのだ。

 説明の付かないこれらが残されたままでは、この事件の全てを解明したことにはならない。

 

 そこだけは、俺は確信めいたものを感じていた。

 

 

「う、ううむ…そうだな。不自然に残されてしまうなぁ…」

 

「…それに、これ程まで大層な事件を起こしておいて。はい、終わり終わりー、もうダメだー、と即断即決で自ら命を絶つだなんて…言い方はあれだけ、こんな尻切れな終わりはボクは……いや、キミらも納得できないんじゃ無いかい?」

 

「終わりは常に突然起こりうるモノ。人生と同じさ。いつ病に倒れても、いつ鉄の塊に体を引きずられても可笑しくないのが人生。……だけど今回に限っては、例外とも言えるね」

 

「余計な話が横から入ってきた所為でさらに混乱モノですけど…雨竜の案はしっくりはこないですね」

 

「だとしたら…ニコラス、アンタはどうかんがえるって言うさね」

 

 

 ニコラスのしたり顔見て、何かを察したのか…反町は顔をしかめ、言えと言わんばかりにそう返す。

 

 

「それは勿論!!…――――“犯人がもう1人いる”…そう考えるのが妥当だと、ボクは思うのだよ、キミ」

 

「――――――!」

 

「も、もう1人…犯人が?」

 

「何という事だ…!」

 

 

 ニコラスのその言葉に、俺は目を見開いた。俺だけじゃ無く、他の生徒達も、言葉だけで無く、口を開けたり、目をパチクリとさせたりして…驚きを露わにしていた。

 

 

「…その考えに至った理由は何なの?」

 

「…ミス水無月の計画が失敗に終わってしまったのは…計画した本人が遂行不可能になってしまったから…。つまり、何らかの理由で彼女は死んでしまったから…とボクはまず、そう考えたのさ」

 

 

 ニコラス、その暗にたどり着いた経緯を…淡々と語り出す。

 

 

「気球から足を踏み外すほど彼女はドジでは無い…それこそ、計画の中で最も力を入れていた部分に等しいこのセクションだ…細心の注意を払って行動していたはずさ」

 

「…だから。カルタは、本人とは無関係の何らかの要因によって?」

 

「ああそうさ。その要因こそが…」

 

「もう1人、の、犯人」

 

「そう…彼女の計画に入り込んできたイレギュラー…もう1人の犯人」

 

「水無月さんは、自殺ではなく殺されたと…!?」

 

「って…アイツは気球に乗ってたはずだよ?アタシらから見て、手も届かない高さに居たんだよ?」

 

「うん…空を飛んでる状態でカルタが殺されたなんて…想像が付かない」

 

 

 だけど、その答えに納得するかと言われればそうでは無く。状況的に難しいのでは無いか…そう考える生徒達が多数を占めていた。

 

 確かに、全員の証言を聞いた限りだと、俺達生徒達は、一部を除いて地上に居たはずだ。生徒達はそれを理解しているからこそ、首を傾げているのだろう。

 

 

「だけど…自殺があり得ないとするなら、殺されたと考えるのが普通さ…。それにキミ達は既に、もう1人の犯人…その影に触れているはずだと思うのだけれどね」

 

 

 その足がかり?触れている…?そう言って、此方へとウィンクをするニコラス。

 

 勿論キミなら分かっているよね?と言いたげな瞬きであった。

 

 俺も、俺達も…どういうことだ?とまた首をひねり出す。

 

 

「もう一度、今まで出てきていた証拠品と、ルールについて考えてみれば、自ずと答えが見えてくるはずさ」

 

 

 そう言われた俺は今までの話合いを思い出しながら、考えを巡らせた。

 

 

「ルールと言えば…この施設の、でしょうか?」

 

「ノンノンノン…もっとコンパクトかつ、ピンポイントなルールさ、ほら、よく考えてみなよ、キミ」

 

「…絶妙にウザい」

 

「分かってるならさっさと言うさね」

 

「ああ分かっているとも。それはこの世のしがらみさ。自由を愛する僕らが嫌うべき、この世界を縛り付ける強固な鎖のことだね」

 

「あああーー。さらに訳が分からなくなってきたんだよねぇ…」

 

 

 相変わらず鼻につく言動を繰り返すニコラス。それにもどかしい気持ちながらも罵りで返す生徒達。

 

 

 そんな中で、俺はニコラスの示す…それらしいルールを思い出していた。

 

 

 もしかして…美術館の?

 

 

 だとしたら――――

 

 

 

【コトダマセレクト】

 

 

【七つ道具のルール)←

 

 

「これだっ…!」

 

 

 

 

「そうかっ…七つ道具のルールか…!」

 

 

 もう1人、関係者がいるかもしれない鍵を一つ、思い出し、口にした。

 

 ニコラスは、その通りと、パチンと指を鳴らす。

 

 

「七つ道具って…美術館のあれかい?」

 

「そういえば…借りられているって話がでてた」

 

「うん、出てた、ね。古家君、と、落合君、から…」

 

「古家…お前確か、道具は”3つ”借りられている…そう言っていたよな?」

 

 

 確認するように証人であるの方へと目を向ける。本当は落合にも聞いておきたいのだが…彼はアレなので眼中にも入れなかった。

 

 

「ああ…そうなんだよねぇ。この目でしっかりと見たんだよねぇ。だ、だよねぇ?落合君?」

 

「楽しさという記憶は、思い出として残りにくい。逆に悪い思い出はこびりつくよう残り続ける。……僕はその大半の人間に入ってしまっているようだね。覚えていないよ」

 

「言い切ったんだよねぇ!!数時間前のことなのにねぇ!!」

 

「それ以上に、捜査時間を楽しい一時と思うあんたの神経に驚きを隠せないですよ…」

 

「褒めても何も出てこないよ?」ジャラン

 

「一箇所も褒めてないんだよねぇ…!」

 

 

 …一応確証は取れているみたいなので、俺は話を続けていった。

 

 

「……そう。古家達が言うように、3つ道具は借りられていた……つまりコレはどういうことかわかるか?」

 

「…分かりません!!!」

 

「清々しいな…」

 

 

 …分かっては居た。だけどそこは分かって欲しかったいうのは本音であった。

 

 

「つまりアレさ!道具を借りるには、1人2つまで…そういうルールが美術館にはあった。そうだね?モノパン」

 

「はい。その通りでス。3つ以上借りようとする不届き者には、ワタクシの有り難い説教が2時間聞くことになりまス」

 

「たったの2時間で良いのかい?」

 

「………2時間で充分だと思っ次第でス」

 

 

 …2時間は少ないと思ってしまった俺は、相当感覚が麻痺しているのかも知れない。モノパンの方が何となく穏便に思えてしまう。

 

 

「とにかく、3つ以上の道具の貸与は禁止事項。だってそんなに借りられたら、どこぞのバグ主人公並に無双されてしまいますからネ!」

 

「つまりだ、諸君。ルール上、ミス水無月は2つまでしか、ゴーグルと、毒薬のセットしか借りることはできないことがココに証明されている」

 

「だけど、この事件には3つの道具が借りられ、使われていた」

 

 

 

 今ニコラスが言った、ゴーグル、毒薬、そして――――。

 

 

 

【選択肢セレクト】

 

 

1.バグ弾

 

2.秘密の愛鍵

 

3.モノパワーハンド

 

4.ロシアンワルサー

 

 

A.モノパワーハンド

 

 

 

「そうか…!」

 

 

 

 

 

 

「…美術館から、ゴーグルと毒薬の他に、”モノパワーハンド”が借りられていた」

 

 

 この状況が物語る事実…それは。

 

 

「…水無月さんじゃない誰かによって借りられた…ってことかねぇ」

 

「カルタじゃない…?」

 

「そうともさ、キミ。だって、1人の人間が道具を3つ借りられないのなら、誰か別の人間がもう一方の道具を借りた…そう考えるのが道理というものさ」

 

「もしかして、それ、が、犯人が、もう1人居るかも知れない、っていう、理由?」

 

「イグザクトリー。そうこれが、犯人がもう1人居るかも知れない…その根拠さ」

 

「具体的に何処でどのように使われたのかは…」

 

「勿論!!!……分かっているわけ無いじゃないか、キミ」

 

「「「………」」」

 

 

 まあ…確かに、美術館のルールを踏まえて考えてみれば…もう1人、借りた人間がいることは分かる。そう、”借りた人間がいたこと”は。

 

 

「おやおや?なにやら芳しくない空気が漂っている思えて仕方ないのだけれど…これはボクの気のせいかな?」

 

「…気のせいでは無い」

 

「使われたかも知れない。居るかも知れない…確かに納得はできる…だが…明確に事件に関係しているかどうかなどはまだ不明では無いのか?ニコラスよ」

 

「…………」

 

「まさか…根拠ってそれだけだったのかねぇ」

 

「…………ははっ!そんなこと、わけあるわけ無くは無いじゃないか、キミぃ!」

 

「どっちなのだ…!」

 

「…どっちでも良いから隠さず言って欲しい」

 

 

 見るからに冷や汗をかいているように見えるが…。本人的には、まだ何かしらの理由はあるようだ…。

 

 それでも本人のあの飄々とした態度と言動の所為で、真偽が分からない無い。

 

 

「勿論さ、今からその心当たり、いや、確信とも言える根拠をココで聞かせてあげようと思っていたところさ!」

 

「本当ですか!!」

 

「ああ!!本当だとも!!ナイスな反応、感謝するよ!ミス小早川!」

 

「かなりの大見得に見えるですけど…まぁ、期待ぐらいはしとくですよ」

 

「その心の裏にあるのは、答えか、誤りか…ソレを知っているのは、神のみ…ということだね」

 

「こんがらがりすぎて、運命に身を委ね始めてんだよねぇ…落合君」

 

 

 何となく頼りなさげな雰囲気ではあるが…それでもニコラスはコレで終わるわけでは無さそうだった。

 

 だけど、事件の関係者がもう1人いるかも知れないもう一つの理由…か。見当外れかも知れないが…一つだけ、俺はとある考え、いや記憶がよぎっていた。

 

 

「まず前提条件として、この事件には、例の道具を扱おうとしていた人間が水無月を除いて…もう1人いた」

 

「論理的に考えれば…そうだねえ。で、その誰かが、どこのどいつかってのを議題にしてるさね」

 

「そもそもそのどこのどいつが事件に関係しているのかすら疑わしいがな…」

 

「そう!ボクがこれから推理するのは、そのどこのどいつが、実際どのように動き、何処に身を潜めていたのか…その事実をここに提示しよう!」

 

「そんな事がわかるのかねぇ!?」

 

「そうだとも!!」

 

 

 勢いにも、調子にも乗ってきた、ニコラスは…高々に話を広げていく。

 

 そして俺自身も、ニコラスの言いたいこと…すなわち、関係者が何処で、どのように動いたか。それが分かってきた気がした。

 

 

「…でも、停電の時の居場所は…皆把握している」

 

「はは…その答えは追々ということで…今は結果の話が先さ、ミス風切」

 

 

 未だ冷や汗をかきながらだが、その言葉の雰囲気には、確かな自信が感じ取れた。

 

 …きっと…俺が微かに感じている、同じ可能性を、彼は提示しようとしているのかも知れない。

 

 もしかしたら…俺だったら…いやあのタワーのいた生徒達なら…分かるかも知れない。

 

 

 

 

 

【ノンストップ議論】    【開始】

 

 

 

 

「この事件に関わって居るであろうもう1人の犯人」

 

「仮にX(エックス)と名付けよう」

 

「その人物は、一体どこに居たのか…」

 

「その何処で、何をしていたのか!!」

 

 

 なんともキザな仮称だ…

 

  じゃあアンタだったら何て付けるさね

 

 未知数と不可思議の頂点…ダークマター

 

  ニコラス君の方がマシなんだよねぇ…

 

 

「…勿体ぶらないで」

 

「…さっさと結論を言って」

 

 

 私!気になります!!

 

  焦らしすぎ、は、禁物、だよ?

 

 

「ボクの推理はこうさ」

 

「犯人であるXは、何と!」

 

「【タワーのてっぺん】にいたのさ!!」

 

「しかも、停電の最中にね!」

 

 

てっぺん…?

 

 あのタワーの…ですか?

 

 

「てっぺんって…」

 

「急に【ピンポイントな所】を言い切ったんだよねぇ!!」

 

 

ピンポイントっていうか

 

   もう答えですね

 

 

「どこにそんな証拠があるんさね!!」

 

「あの停電の中で…」

 

「一歩でも間違えれば真っ逆さまになっちまう…」

 

「あんな高所に居るだなんて…」

 

「【あり得ないにも程がある】さね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【天井からの足音)⇒【あり得ないにも程がある】

 

 

「それは、違うぞ…!!」

 

 

【BREAK!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いや、反町。ニコラスのその推理はあり得ない話じゃ無いんだ」

 

 

 俺はニコラスの推理に同意を示すように、反町の、強い否定に反論した。反町は、いぶかしげに眉をヒネらせ、此方に視線を移す。

 ニコラスも同様に、此方は逆に、”待ってました”と、そう言っているような視線を向けてくる。

 

 

「どうやら…ミスター折木はボクの考えていることを、理解してくれているみたいだね?」

 

「どういうことさね!!折木!詳しく聞かせな!!」

 

「ああ、勿論そのつもりだ。だけど、その説明をする前に、一つ。予め言わなければならないことがある」

 

「言わなければならないこと?…何です?」

 

 

 予め言わなければならないこと、そう前置くと、雲居は首を傾げる。

 

 

「前に…俺達が停電の所為でタワーのてっぺんに閉じ込められた、そう言っていたことがあったよな?」

 

「ああ~、言ってたねぇ。だから、水無月さんに殺されそうになったとこだったよねぇ?」

 

「…それがどうかしたの?」

 

「閉じ込められた俺達はタワーの中で暗闇に翻弄されている最中、ある”音”を…耳にしていたんだ」

 

「音…どぅあと?」

 

「あっ!!天井から響いた、あの足音とおぼしきもののことですか!!」

 

「足音って、どういうことだい?そんなの初耳さね!!」

 

 

 初めて聞く情報に、事件当時タワーに居なかった生徒達は、どういうことだと身を乗り出す。

 

 

「足音とというのは、言葉の通り足音さ。ボクらはそこで、”誰か”がタワーの屋上に居ることに気付いたのさ」

 

「だ、誰か…?」

 

「ハッキリ言ってしまうなら、ダンスホール内に居た人間以外…つまり、タワー外に居たキミ達の誰かが屋上に居たのさ」

 

「アタシらの中の!?」

 

「何だか分からないけど…疑いの矛先急に変わってきた気がするんだよねぇ!!?」

 

「疑いとは言わば空気のようなものさ。周りにあって当たり前、だけどそれは、決してイヤなものじゃなくて…好奇心の様に無邪気な心でもあるのさ」

 

「落合ぃ!話を揺るやかにかき乱すなぁ!!」

 

「ああ、分かったよ。じゃあ、僕はまた世界の何処かで小さな調を奏でているとするよ」ジャララン

 

「誰かそいつからギターを没収するです」

 

 

 ニコラスの、いきなりの疑いのベクトルに戸惑う、タワー外にいた生徒達。当然の如く、何故そうなると、混乱が生じ始める。

 

 

「……その足とが、カルタのものの可能性は」

 

「もし、水無月、さんだった、ら…きっと、わたし、達、は、もう死んじゃってるんじゃない、かな?」

 

 

 風切の可能性の定時に、贄波は少々物騒な反論で返していく。

 

 …これまでの推理通りだとするなら、確かに水無月ではありえない。計画が失敗したことを踏まえれば、彼女は、タワーの天辺にはたどり着けなかったことになる。

 

 必然的に彼女は容疑者から除外される。ということだ。

 

 

「ちなみにですけど…足音の数は?」

 

「1人だ」

 

「…成程。じゃあ屋上で争った線は消えるですね」

 

「はい!!争うようなゴタゴタ音は一切聞こえませんでした!!」

 

 

 そう、たったの1人。たった1人の足音に、俺達は不安を煽られていたんだ。

 

 イヤでも、耳に焼き付いてしまっている。

 

 

「…成程、納得したさね。だからあり得なくないってわけなんだね」

 

「その通りさ!恐らく、我々の頭上に蠢いていたそのXこそが、ミス水無月の計画を頓挫させ…そして」

 

「水無月さんを…殺害した犯人て訳かねぇ…」

 

「むぁだXを続けるかぁ…」

 

「…最初は突拍子も無い推理だと思ってたけど」

 

「は、はい…突拍子も無いながらもじわじわと事件に近づけてる実感ございます!」

 

 

 そう、紆余曲折はアリながらも、着実に事件は紐解かれている。そう感じ取れた。

 

 タワーのてっぺんには”誰か”が潜んでいた。

 

 そして今度は、その”誰か”という存在の行動、そして正体を…俺達は紐解いていかなければならない。

 

 

「その怪しい輩の存在が証明されたのは分かったけど…当のソイツはどうやってあんな高所に行ったって言うんだい?」

 

「確かに気になるねぇ。あんなタワーの屋上なんて危険極まりない場所に行く手段がねぇ」

 

「気球は水無月のヤツがジャックしてたわけですから…この方法は無し…って考えても良いですよね?」

 

「ああ!そう考えた方が楽だと思うよ!」

 

 

 まず、その怪しい輩の行動。すなわち…どうやってタワーの屋上へと移動することが出来たのか。

 

 この議題から、ジワジワと、真実を白日の下にさらしていこう。

 

 

 

 

【ノンストップ議論】    【開始】

 

 

 

 

 

「その犯人らしきヤツが…屋上に居たというのは分かったが…」

 

「ではどのようにして…」

 

「タワーの屋上まで向かえたというのだ?」

 

「やはり超能力か…!?」

 

 

 それはあり得ないさね…

 

   まだそれ引っ張ってるですか…

 

 

「…無難に考えるなら」

 

「…ロープとか、手に入りやすそうな『道具を使った』とか」

 

 

 もの凄く無難なんだよねぇ

 

   だが余りにも選択肢が多すぎる

 

 

「ああ~確かに道具をを使ったのはあり得そうだねぇ」

 

「それこそ、モノパンの『七つ道具』とかも怪しんだよねぇ…」

 

 

 …また七つ道具

 

    借りられた中には

 

 

「道具以外だと、『アトラクション』などが怪しいですよね!!」

 

「具体的に示すなら…」

 

「『もう一つ気球があった』というのはどうでしょうか!!」

 

 

 もう一つあったら…

 

  アタシらが流石にすぐに気付いてるさね…

 

 

 

 

 

【止まったジェットコースター)⇒『アトラクション』

 

 

「それに賛成だ!!」

 

 

【BREAK!!】

 

 

 

 

 アトラクション、その単語を聞いた瞬間。俺は、捜査中に見つけた例の乗り物を思い出した。

 

 同時に、それがとある場所に、不自然に止まっていたことを。

 

 

「そうだ、思い出したぞ…!」

 

「お、折木さん?…一体何をお思い出しに?」

 

「屋上を捜査しているときに見つけた、止まったアトラクションをだ。そうだよね?贄波」

 

「うん、あった、ね」

 

「………」

 

 

 止まったアトラクション?その単語に、分かりやすいくらいに首を傾げる生徒達。

 

 …その反応になるのも当然か。”あれ”を見ていたのは、俺と贄波くらいだったからな。

 

 

「ニコラス達にタワーの屋上の捜査を押しつけられたときの話だ」

 

「押しつけたとは人聞きが悪いね!!ボクはお願いしたつもりだったんだけどねえ!!」

 

「押しつけ、た、でしょ?」

 

「…………」

 

「…撃沈はや」

 

 

 す、凄い圧だ…。どうやら俺だけじゃ無く、贄波もそれなりに気にしていたみたいだ…。

 

 

「と、とにかく、俺達はタワーの近くで不自然に止まっていた、ジェットコースターを見つけてたんだ」

 

「じぇ、じぇっとこーすたー?」

 

「うん、ちょっとジャンプ、すれ、ば…届くと思う位、近く、に止まっていたん、だ。レールの上に、ね?」

 

「ちょ、ちょっと待つさね。ジャンプをすればって………まさか!」

 

「ああ。屋上に居た、そのヤツは、ジェットコースターを使って、タワーのてっぺんまで上り詰めた…その可能性がある」

 

「えええ!!」

 

「ままま、ま、マジなのかねぇ!?」

 

 

 数ある可能性の中で、ジェットコースターは予想外だったのか…生徒達は驚愕を露わにする。

 

 

「はははは!流石はボク、やっぱりあそこには何かある事は、この灰色に塗りたくられた脳細胞が感知していたとも!!」

 

「ふ、ふん…このワタシもすでに理解していた…ああ!!理解していたともぉ!!」

 

 

 と、明らかに取り繕ったような態度の2人を無視し、俺と生徒達は話合いを進めていった。

 

 

「……って言っても。ジェットコースターを使って登った云々よりも、何であえてその手段が使われたんさね」

 

「それは…あのジェットコースターの”仕組み”を使えば、簡単に、タワーを登ることができたからなんだ」

 

「…し、仕組み?」

 

「うん。それに、その仕組み、は…ジェットコースター、に、乗ったことがある人だったら、一度は、目にしたことがある、の」

 

 

 

 贄波の言う、その一度見たはずの代物…説明を円滑に進めるために…まずはそれをつきつけていこう。

 

 

 

 

【コトダマセレクト】

 

 

【ジェットコースターのパンフレット) 

 

 

「これだっ…!」

 

 

 

 

 

「このジェットコースターのパンフレット…乗ったことがあるヤツなら知っているよな?」

 

 

 復習も兼ねて、俺はそのパンフレットを全員に見せつける。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「ええっと確か………はい。…いいえ!勿論覚えていますよ!!ただ、ちょっと掘り起こすのに時間がかかっているだけで…決して覚えていないというわけでは!!」

 

「…無理するもんじゃないさね。梓葉」

 

「改めて、説明した方が、良いんじゃ無い、かな?」

 

 

 贄波のアドバイスを聞いて、俺は、”そ、そうだな”と頬を引きつらせる。

 

 

「…注目して欲しいのは、このパンフレットの右下に書かれている”注意書き”だ」

 

「ええと、『140 cm以上の方しか乗れません』、『安全バーは外さないでください』…もしはずした、ら……あっ」

 

 

 気付いたように言葉を止める古家。俺は頷きながら、続けていく。

 

 

「そう…あのジェットコースターには安全装置がついているんだ。乗った際に掛けられるあの安全バー、あれが外れた場合、ジェットコースター緊急停止するという、安全装置がな」

 

「滅多なことでは外れないのですガ…万が一外れてしまった場合…慣性の法則云々で吹っ飛んでしまう可能性を抑えるため、急ブレーキがかかりまス。まっ、その勢いで結局バーが外れた人は吹っ飛びますけどネ?」

 

「じゃあほぼ無意味な装置なんだよねぇ…」

 

「いえいえ、そんな事はありませんヨ?例えば、ジェットコースターがレールを登り始めている時とか、落ちる寸前の時とかは有効に機能しまス」

 

「……え、ってことは」

 

「タワーの側、が、登っているとき、だか、ら。安全に、止まれるよ、ね?」

 

 

 贄波の言うとおり、その止められるという機能を用いれば…。すなわち、登り切っているときに安全バーを外せば、事件の様な光景を再現できるのだ。

 

 そんな中で“だとしても…”と言いながら小早川は続けていく。

 

 

「…安全バーなんてそう簡単に上がるものなんですか?」

 

「先ほども言いましたが…滅多なことでバーは外れませン。何故なら、単純にバーそのものが堅く固定されているからでス」

 

 

 小早川の疑問に、覆し様のないよう補足を入れるモノパン。

 

 しかし再び翻すように”ただし…”とニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「相当な”パワー”で無理矢理持ち上げられたら…話は別かもしれませんけどネ?」

 

 

 ”相当なパワー”…そのフレーズに…聞き覚えがあるような、無いような、そんな雰囲気が漂い始める。

 

 

「モノパンからの補足を聞いた諸君。では、ここで思い出して欲しい。ボクらはさっき、モノパンの言う相当なパワーを放出するための特別な道具の話をしていたことを、覚えているかい?」

 

「………そうか!モノパワーハンド!」

 

「ああ、そうだ。どんな力の弱い人間でも、怪力を手に入れられるあの手袋を使えば…安全バーなんて簡単に外せる」

 

「その、証拠、に、一番前の安全バーだけが無理矢理外されていた、ような、形跡が、あったん、だ」

 

「……まさかここで道具が繋がってくるなんて。驚き」

 

「てことは…七つ道具を借りたもう1人のヤツと、水無月を殺害した犯人は…同じってことかい…!?」

 

 

 次々と出てきては繋がっていく事実の数々に、生徒達は驚愕と同時に、納得の色に表情に表わしていく。

 

 俺自身もそうだった。

 

 だけど、ここまで考えられる証拠を顧みてみても…確かにそうとしか考えられなかった。

 

 

「そう、つまり。この事件に関係するもう1人の人間は、あのジェットコースターを使い、そしてタワーの屋上へと――――」

 

 

 

【反論】

 

 

 「そこは見過ごせないんだよねぇ!!」

 

 

                 【反論】

 

 

 

「ふ、古家…?」

 

「折木くん…悪いけど、流石に、今の言葉は見過ごせないんだよねぇ」

 

「……どこが見過ごせないって言うんだ?」

 

「ジェットコースターが使われたとそのものなんだよねぇ…」

 

「お、大きく出たな…」

 

「そうだねぇ…だいぶ根本的な話しなんだよねぇ……でも、大事な話だからねぇ」

 

「ああ、分かった。納得のいくまで、話し合っていこう」

 

 

 

【反論ショーダウン】 【開始】

 

 

「まず改めて確認するんだけど…」

 

「つまり折木君は…」

 

「もう1人の犯人らしき人物」

 

「そいつは、ロープも何も使わずに…」

 

「アトラクションの一つの」

 

「ジェットコースターに乗って…」

 

「タワーの近くまで登り…」

 

「そんで、直接屋上に乗っかった…」

 

「そういう理解で良いのかねぇ?」

 

 

 

「ああ、そうだ」

 

「その解釈で間違ってい無い…」

 

 

 

「だとしたら…」

 

「状況からしてみても」

 

「エリア3が【停電しているとき】に」

 

「犯人はジェットコースターを発進させて」

 

「タワーへ登った風に聞こえるんだけど…」

 

「そこんとこ、どうなのかねぇ?」

 

 

 

「…それもお前のその解釈で間違い無い」

 

「当人は、エリア3を停電になった時に、ジェットコースターを利用したんだ」

 

 

 

「もらったんだよねぇ!」

 

「大きな」

 

「大きな」

 

「大穴が、今、見えたんだよねぇ!!」

 

「良いかねぇ?」

 

「エリア3は停電になっていた…」

 

「だとしたら、エリア全体の電気は、完全に止まっていた…」

 

「そういうことになるんだよねぇ!!」

 

「なら電気で稼働していたはずの…」

 

「あのジェットコースターが動いてるのは…」

 

「余りにもおかしな話なんだよねぇ!!」

 

「つまり!!」

 

「停電したエリアで…」

 

「【ジェットコースターは動くはずがない】んだよねぇ!!」

 

「あのジェットコースターは…」

 

「停電した直後に…」

 

「【偶然タワーの側で止まっちまった】だけなんだよねぇ!!」

 

 

 

 

 

【電気室の配電盤)⇒【ジェットコースターは動かない】

 

 

「その言葉、切らせて貰う!!」

 

 

【BREAK!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――確かに、停電が引き起こされたということは…電気の供給が無くなる。つまり、殆どのアトラクションは停止してしまうことになる」

 

 

 俺は古家の反論に対し、確かに、と小さく首肯した。

 

 

「やっぱり、そうなんだねぇ!!」

 

「――――だけど、停止したアトラクションの中で、ジェットコースターだけは例外なんだ」

 

 

 そして同時に、否定を重ねた。古家は、ええっ、と目に見えて困惑を露わにする。

 

 

「え…例外?…」

 

「それは…どういう意味なんでしょうか?」

 

 

 ”例外”という言葉に、生徒達はすぐさま疑問符を向ける。俺は、余計な混乱を避けるために説明から省いていた、”電気盤の特徴”を滔々と掘り起こしていく。

 

 

「アトラクションの電気を司っている電気室にある電気盤…そこには特徴があってな。ジェットコースターの電気を供給するスイッチが、そこには”無かったんだ”」

 

「まるで、敢えて外したよう、に、ね?」

 

「な、何故!!無いのですか!!」

 

「それについてはワタクシがお答えしましょウ!」

 

「貴様がぁ…?」

 

 

 俺と贄波が話を展開する中で、アトラクションの責任者であるモノパンが横からひょっこりと生えてくる。

 いぶかしみながらも、俺達は静聴した。

 

 

「ジェットコースターを司る電気は、電気室には備わっておりませン。何故なら、それは安全面の観点から考えてのためでス」

 

「……安全面?どういうこと?」

 

「例えば、電気室にイタズラされて、起動中のジェットコースターが止まってしまったとしましょう。もしそのジェットコースターに、誰かしらの生徒が乗っていた場合、どうなりますか?」

 

「……驚いちまうねぇ」

 

「そんでクレームをつけるさね」

 

「後は、辞世の句を残しておくかな?」

 

「人生を諦める理由が些細すぎるぜ!ミスター落合!」

 

「と、この通り、大変面倒……じゃなく、大変危険な状況になってしまいまス。故に、ジェットコースターはジェットコースターで電気を司って貰っているのでス」

 

「な、成程…」

 

「それに安全バーの件も含めて、ジェットコースターは、ジェットコースターで電気を管理して貰わないと困る事が多いのでス」

 

 

 モノパンは経営者目線で、その電気室と、アトラクションの設備について補填していく。

 

 思いも寄らない助成ではあったが、これで、ジェットコースターを用いたタワーへの到達は可能かも知れない。その光明が見えた気がした。

 

 

「だとしたら…停電の最中にいつ発車させるのかねぇ?辺りは真っ暗だし、気球がタワーの側に近づくタイミングに、都合良くジェットコースターをねぇ…」

 

「モノパンゴーグルは少なくとも水無月の手元にあったはずだからなぁ…」

 

「…いや別に難しくは無いんじゃないですか?例えば、停電になった瞬間に発車させた…とか」

 

「……あっ、確かに、それならベストなタイミングかも知れないねぇ!!だったら納得なんだよねぇ!!」

 

 

 雲居の可能性の提示に、古家はすぐさま成程と頷き、事実を受け止めていく。何という代わりに身の速さであろうか。

 

 

「停電当時…いや事件当時、ジェットコースターはタワーの頂上、その側にあった」

 

「そ、そして、タワーの近くには気球もあった」

 

「だとしたら…停電当時、気球と、介入してきた人物との位置関係は――――」

 

 

 

【スポットセレクト】

 

Q.介入してきた人物の位置は?

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「ここだっ!!」

 

 

 

 

「介入してきた人物は、水無月が気球でタワーの近くに居た瞬間、すぐ近く…つまりタワーの屋上に立っていた」

 

「丁度、私達が、2階に、閉じ込められている、とき、に…」

 

 

 俺は当時の、停電中の出来事を思い出す。

 

 周りで何が起こり、そして何が耳に響いていたのか。

 

 こびりついて落ちない、不穏な音を。

 

 

『――――――ガン!!!!!』

 

 

『――――カタ…カタ…カタ…カタ…………』

 

 

『――――――カタ、カタ、カタ、カタ』

 

 

『――――――タッタッタッタッタッタ……タン!!』

 

 

 

「まるで人が居るかのような、足音が聞こえた」

 

 

 

 あのとき聞こえた、足音とおぼしき音。

 

 やっぱりアレは、誰かも分からない”人が居た証拠”。

 

 ジェットコースターに乗って、人が、水無月じゃ無い、この事件のもう1人の関係者が、タワーの天井へと降り立っていた証拠。

 

 

「じゃ、じゃあ、その犯人は、タワーの天辺に立って…そして一体どこへ消えたというのですか!!」

 

 

 存在が証明された、ならば…今度はその次。その存在のその後の行動。

 

 話は、そこへと転じていく。

 

 

「た、確かに、結局その犯人は、停電後は見つからなかったんだよねぇ?」

 

「ああ、そうだとも!人っ子1人見当たりゃしなかったよ?キミ」

 

「…まるで煙のように消えてちまっているさね…」

 

「存在していたのか、いや、そもそもいなかったのか…それを知るにはまず――――」

 

「また推理を覆すような発言は今は控えておくですよ、余計こんがらがるです」

 

「ははっ、手厳しいね」ジャラン

 

「当然です…」

 

 

 存在していたというのなら、そいつは一体何処へ行ったというのか。

 

 どうやって、そこから居なくなってしまったのか。

 

 

 この事件の重大なピース。たどり着けば、それが誰なのか、分かるかも知れない、重要なピース。

 

 その方法を、今、解き明かしていこう。

 

 慎重に、そして確実に…。

 

 

 

【ノンストップ議論】    【開始】

 

 

「貴様らの発言からして…」

 

「タワーの天井に、怪しき影が存在していたのは分かった」

 

 

 ここまで証明されたら…

 

    納得することしかできないんだよねぇ

 

 未だに夢の中って感じです

 

 

「…でもその怪しい影が何処に行ったのか『分からないまま』」

 

「…行方不明」

 

 

 もう1人、施設の中で潜んでいる可能性は…

 

   そしたらとっくのとうに見つかってるですよ

 

 

「分からない…ということは」

 

「何処かに『移動した』のかも知れませんね!!」

 

 

 まぁそうとしか考えられんなぁ…

 

   でも流石に大雑把すぎる

 

 

「だったらどこに移動したって言うですか?」

 

 

 それが分からないんだよねぇ…

 

 

「タワーの近くというと…」

 

「『観覧車』…?」

 

 

 観覧車…は…

 

  はは、ボクの故郷が答えの中に入っているのかな?

 

 ふ、故郷…

 

 

「そういうなら、『コースターのレール』に…」

 

「戻った可能性も…」

 

 

 でもあそこって…

 

  うん…かなりの急勾配

 

 

「無難に『タワーの中』は…」

 

 

 実際に中に居たボクらは…

 

  気配は無かった、けど…

 

 まさか…!!

 

 

「物事は、常にシンプルに考えるべきなのさ」

 

「そう、例えば」

 

「『天高く飛びたった』…とかね?」

 

 

  …シンプルすぎる

 

しかも飛び立ったって…

 

  それはもう自殺なんだよねぇ…

 

 

 

 

 

『移動した』⇒『天高く飛び立った』

 

 

「…お前達なら、証明できる!!」

 

 

【BREAK!!】

 

 

 

 

 

 

 ……あり得るかも知れない。

 

 

 そう一瞬思った俺は、早かった。

 

 

「てっぺんに身を潜めていた人間は…消えたんじゃ無かったんだ」

 

「だから、その消えた方法を考えてるんじゃ無いのかい?」

 

「まさか、何か思いついた事が…?」

 

「ああ、落合の飛び立った、その言葉で思いついた」

 

 

 そのアイディア元を聞いた瞬間、少し時間が止まる。

 

 何故か落合でさえも、ギターを弾く手を止めてしまっていた。

 

 いや、お前が言ったことだろう…。

 

 

「とととと、飛び立った…って…ええ…ま、まさか…」

 

「ああ、そうだ。想像の通り、タワーの天辺に居たそいつは…飛び上がったんだ。それも…――――”気球”にむかって」

 

 

 その可能性を、少なくないはずの逃げ道を俺は提示した。

 

 

「と、飛び移ったって…」

 

「い、いやいやいや。確かにタワーの近くに気球はあるのは分かってるけど…ねぇ」

 

「……折木、状況を考えてみるです。周りは停電だったはずなんですよ?アンタが言ってることは、結構無謀ですよ?」

 

「そ、そうなんだよねぇ!!き、危険すぎるんだよねぇ!!」

 

「だけど、飛び移った可能性を示唆する、証拠だってある」

 

「……そんな都合の良い証拠が、あるの?」

 

 

 そう、落ちてきた気球の籠を調べたときに見つけた、些細な痕跡。

 

 一番最初に見つけた、小さな痕跡。

 

 

 

【コトダマセレクト】

 

 

【気球の手すり)

 

 

「これだっ…!!」

 

 

 

 

「落ちてきた気球の籠、その手すりに…不思議な”跡”があったんだ。まるで、強く手で掴まれたような跡がな」

 

「そういえば…あの気球の籠にあったなぁ………まさかあれが!?」

 

「覚えて、る?みんな。元々…犯人の手元、には…例の手袋が、あった、はず、だよ、ね?」

 

「…モ、モノパワーハンド」

 

「まさか、その手袋を履いた手で……空中の気球に?」

 

 

 風切の推測に、俺は頷いた。

 

 そいつは、飛び上がり、そして気球の籠を鷲掴みにし…そして気球の中へと乗り込んだ。

 

 

「…それにだ、キミ。周りが暗くて見えずとも、気球には必ず種火が点火されていたはずだ。恐らく、その火を目印にし、近づいてきた時を見計らって…ぴょん、と。実に一歩間違えれば自分の命を絶っていたかもあしれないギャンブルな手段だ、ボクであれば絶対に取らない手段さ」

 

「ああ、そうだな。だけど…ソイツは飛びきった、だから何処かへと消えさり…水無月は命を落とした」

 

 

 あくまで結果論ではあるが…そうでなくては、水無月が死亡した理由が分からない。ソイツが飛び移ってきたからこそ、水無月の計画は破綻し、俺達は今も生きていられているのだ。

 もしも違うのであれば…それこそ、本当に超常現象的事象が起こったとしか考えられない。

 

 

「………………確かに、それ以外考えられないですね。違うぞ、言っても、正直他の可能性を提示する自信は無いです。想像しがたい話ですけど…認める以外に無いみたいですね」

 

「ああ、仮定としては分かった…どぅあが…」

 

「まだ、何か疑問でもあるのか?」

 

「忘れたのか?あの気球は上空で破裂して、そして噴水に落ちてきていることを…」

 

「確かにそうさね!アタシらが丁度エリアに戻ってきた時、気球は落ちてきたさね!」

 

「…何で落ちてきたのか。犯人は何処に行ってしまったのか…そこが分からない」

 

「……………」

 

 

 そうだ。確かに…気球は最終的に、墜落している。水無月の計画を止めたソイツも乗っていたはずの…気球が。……つまり、その関係者は、気球から、また何処かへと消えてしまったという事。

 

 次から次へとなだれ込んでくる疑問の数々に、正直参ってしまう。

 

 そんな風にして、内心疲弊した気持ちを吐露していると…。

 

 

「あれ?でも…あの気球って、色々機能がついてませんでしたっけ?えーっと…確かに…何か大事ことを、忘れてしまっているような」

 

「う…ううむ…確かに、ワタシも同じ事を思っていた…」

 

「…………」

 

 

 

 色々な、”機能”?

 

 

 そういえば、確かにあった。

 

 

 方向転換するための機能とか…高さを変える機能とか。

 

 

 そしてあと一つ…かなり物騒な名前がついていた装置もあったよな…?

 

 

 ええと…アレの名前は…確か…。

 

 

 

 

 

 俺は冷静に、呼吸を繰り返しながら、その装置の名前を思い出していく。

 

 

 

 

 

 

閃きアナグラム

 

 

モ ト ロ バ モ ッ

 ナ シ イ チ ス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シナバモロトモスイッチ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか…分かったぞッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうかっ!!それだ!…あの怪しいスイッチ」

 

「は、はい!!そうです!!あのドクロマークのついた!!今の今まで忘れてしまっていました!!!」

 

「ああ~~~…そうであったぁ~~!あの一切触れられずに終わった例のアレのことかぁ…!!」

 

 

 スタンプラリーの際に、同乗していた小早川、そして雨竜は思い出したように、そうだったと手を叩く。

 

 

「ああ~、言われて思いだしたけど…スタンプ集めの時にそんなもの見かけたねぇ…」

 

「気味が悪すぎて触れたことも無かったさね」

 

「……もしかし、て…気球が墜落した原因、って」

 

「恐らくあのスイッチだな……」

 

 

 それ以外に墜落する原因があるのかどうかすら怪しいレベルである。

 

 

「確か、名前は『シナバモロトモスイッチ』……でしたでしょうか?」

 

「…名前の時点で物騒すぎる」

 

「是非ともお目に掛かりたくないスイッチだね、キミ」

 

「全くもってその通りだぁ……どぅあが、ここまで確定的な見当がついたのだ…。そろそろ焦らすのを止めて詳細を話しても良いのではないか?モノパンよ」

 

 

 あのスイッチは結局なんなのか、その詳細を知るモノパンに俺達は目を向ける。

 

 するとモノパンは”くぷぷぷ”と、いつもの含み笑いを返し、続けていく。

 

 

「どうやらその方が良いみたいですネ。ミナサマも、何とな~く勘づいているみたいですし、出し惜しみするほどの理由も、もう無いみたいですシ。そう、キミタチの言うとおり。あのスイッチは、気球を緊急墜落させるスイッチとなっておりまス」

 

 

 強く迫るように聞かれたモノパンは、渋ること無く、ハッキリとスイッチの詳細を白状していく。

 

 その名の通り、”シナバモロトモスイッチ”とやらは、本当に物騒な機能を有していたみたいだ。

 

 

「いや、何でそんな必要なさそうな装置を付けちまったのかねぇ…」

 

「そりゃあもう無理心中用ですヨ!」

 

「…臆面も無い」

 

「面の皮が厚すぎてですよ」

 

「人という生き物は、何をしようにも必ず誰かの足を引っ張ることになる。家族、友人、知人、怨敵…その選択肢は実に豊富だ。最悪、死さえもその身に降りかかるかもしれない…」

 

「アンタは今どこの話をしているさね…」

 

 

 だけど。これで墜落してしまった理由は、コレで判明した。そして、実際に気球が墜落した事を踏まえれば、そのスイッチは“誰か”によって、押されたと言うことになる。

 

 

 ――――だけど。

 

 

「気球の墜落方法は分かったとしても、乗ってた犯人は結局煙のように消えたまんまなんだよねぇ…」

 

「そ、そうですよね!!気球は墜落していたということは、乗っていた犯人もタダでは済まないはずです!!」

 

「…でも。それらしい人は何処にも転がってなかった」

 

 

 そう…乗っていたハズのヤツの行方が未だ消えてしまったままなのだ。

 

 普通であれば、墜落と同時に乗っていたヤツ自身も死体として、噴水の周辺で発見されているはず。

 

 だけど、どこにも、それらしい影はなかった。

 

 

「転がって無かった、とした、ら…」

 

「ああ、墜落するその瞬間に…何処かへと犯人は移動したことになるね?」

 

 

 移動…した…。

 

 であれば…どこに?

 

 飛び降りれば、水無月と同様に地面に叩きつけられる。その周りには、高いとっかかりも…見当たらない…。

 

 

 

「――――――待てよ」

 

「どうした、の?」

 

「気球が落ちた場所って…確か噴水広場…だったよな?」

 

「そうですね。それがどうしたんですか?」

 

「………」

 

 

 噴水広場の近く、つまり…それは入口の周辺とも言え変えられる。

 

 確か…。その周辺で気になる発言をしていたヤツがいたよな?

 

 ソレも、あの気球が墜落した直後。

 

 

 

【コトダマセレクト】

 

 

【雲居の証言) 

 

 

「そうかっ…!」

 

 

 

 

「…なぁ雲居…お前確か、あの気球が墜落した直後に…”上から音がした”、って言っていたよな?」

 

「言ったですよ。丁度…入口周辺の真上辺りから西へ遠のくような音が……聞こえたですね」

 

「真上…――――――成程。ちなみにだが、ミス雲居。その音はどんな感じだったか、覚えているかい?」

 

「どんな感じって…」

 

「俺に説明したみたいに…擬音で構わない」

 

「…そうですね。『カンカンカン』、って堅いモノを叩くような音だったですね」

 

 

 ――――カンカンカン

 

 

 ――――堅いモノを叩くような音。

 

 

 俺はそれと”似た音”を、あそこで、タワーの中で聞いている。

 

 だけどその答えを言うよりも先に…まずは入口の真上に何があったのか…。

 

 それを確認しておこう。

 

 

 

【スポットセレクト】

 

Q.入口の真上に在ったモノは?

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ↓

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「分かったぞ…っ!」

 

 

 

「入口の真上に在ったモノ…それは……”ジェットコースターのレール”だ」

 

「…レール?あの?」

 

「地図を見た限りだと…確かに、あるさね」

 

「……そうですね。最初は真っ暗でそのときは分かんなかったですけど」

 

 

 恐らく、停電時に雲居が立っていた場所は入口と、噴水の間…。

 

 丁度、その真上に引かれているものはジェットコースターのレールしかない。

 

 

「つまり、音の出所はそのレールから、ということだね?」

 

「ああ、それに雲居が聞いた音と似た音を…俺は、いや俺達はタワーの中で聞いている」

 

「……ああ!!天井の足音ですか!!」

 

 

 そう、天井の足音。それが、雲居の真上で、レール上で発せられていた。

 

 つまり、ソレが示す答えは…。

 

 

「………まさか”犯人”…が、レール上に?」

 

 

 風切の答えに、俺は深く、頷いた。

 

 

「ああ、気球に乗っていた人物は、墜落の最中でジェットコースターのレールへと飛び乗った」

 

「気球の次はレールの上…まるでバネみたいに動き回るですね…」

 

「まるで赤い帽子の髭おじさんのようだね!キミ!!」

 

「僕はね、鳥になる事が夢だったんだ。果ての無いこの雄大な空を、自由に飛び回りたくてね。だけどたまに雲にも、憧れを抱くときもあるんだ。何も思わず、何も考えず、悠然と空を浮かぶその姿――――」

 

「うるさい!」

 

「………」ピン

 

「あ、弦切れた」

 

 

 …そう。難しいかもしれないが。気球に乗っていたヤツは、まるで鳥のように空を飛び回り、そして採取的にジェットコースターのレールへと羽を降ろした。

 

 そして、足を使い…

 

 

「犯人は西エリアの方へ、消えていっ、た……」

 

「恐らく…ジェットコースターの発着場へと向かったんだろうね?そこ以外、降りられる場所が無いわけだらね」

 

「…そうだ。そして、そのジェットコースターを使って、タワーへと登り切った事を踏まえれば…」

 

 

 

 つまり、事件に関係して居るであろう人物は――――限りなく絞られる

 

 

 

「――――”西エリアに居た人間”の中に…関係者は居るはずだ」

 

「じゃ、じゃあ…」

 

 

 一筋の汗を垂らしながら、生徒達は恐る恐る、怪しい人物”達”の方へと目を向ける。

 

 

「……まさか。狂四郎、隼人、新坐ヱ門の、中の……誰かが?」

 

 

 風切は疑わしい、3人の名を口にする。

 

 

 ――――瞬間、彼らは大きく焦燥を露わにし出した。

 

 

「いや、いやいやいやいやいやいや…あたしは違うんだよねぇ!」

 

 

 真っ先に強く否定をする、古家。

 

 

「ぬぉ…勿論、ワ、ワタシもだ!!」

 

 

 そして雨竜も同様に、強く反発する。

 

 

「クロかどうか。シロかどうか…それは君達が決めること。ああ、そうさ、僕はどんな真実でも受け入れてみせるとも」

 

「………」

 

 

 ………一部を除いて、我先にと。西エリアに居た生徒達は、自分では無いと、言葉を並べ始める。

 

 

「ワタシは停電中!!ゲームセンターに閉じ込められていたのであるぞ!!」

 

「あ、あたしも!あたしも小屋から抜け出せなくて…めちゃくちゃ困ってたんだよねぇ!!」

 

「なぁに、何処でも良いじゃ無いか。僕は何処かにいて、同様にどこにでも居る…それもまた君達が決めることさ」

 

「貴様は話をややこしくする気しかないのか!!」

 

 

 詳細に、自分たちが居た場所の事を、そして無理だという理由を口々に言い出す。

 

 

「そ、そうでしたよね。それぞれ停電前の居場所は割れておりましたし…」

 

「…それにお互いの場所の証明をしあっていた」

 

 

 しかし今までの証言と、証拠からして、彼らに犯行が可能なのかどうかも…断言しきれない。

 

 

「ははっ、そうでもないさ」

 

「…どういうことだ?ニコラス」

 

「彼らが証明し合っているのは、あくまで施設へと向かう姿のみ……そこさへ乗り越えてしまえば、後はどうとでもなる。すなわち、彼らの中の誰でも…今までの犯行を可能なのさ」

 

「ニコラス貴様…意地でも我々を犯人にしようとしているのかぁ…!」

 

「それ以外にどう捉えられるのかな?キミ」

 

「身体能力が足りないんだよねぇ!!」

 

「モノパワーハンドの存在を忘れているのかい!運動神経がドベ以下のキミ達でも、これ程までの大立ち回りはできるはずさ!!自信を持ちたまえよ!」

 

 

 だけど、ニコラス自身は、その中に怪しい人物が潜んでいると…そう確信している様に思えた。

 

 そしてそんな彼の声に追従するように、また生徒達は、3人へ疑惑の眼差しを強めていく。

 

 もしかしたら…まさか…そんな声が瞳から聞こえてくるようだった。

 

 

「あばばば…そんな怖い目をあたしらに向けないで欲しいんだよねぇ…あたしは、本当に…本当に犯人じゃないんだよねぇ…!」

 

「貴様!自分だけ信じられよう躍起になるでない!!姑息であるぞ!!」

 

「しょうが無いんだよねぇ!!あたしはもう余裕がからっきしなんだからねぇ!?」

 

「良いじゃ無いか。真実はこうやって、調を奏でていても、やってくるものさ」

 

「「貴様(あんた)は黙っていろぉ(ってるんだよねぇ)!!」

 

 

 その不穏な雰囲気に触発されてか、3人(2人?)のボルテージは、一気に上昇しているように見えた。

 

 とてもじゃないが、まともに進行できるのか怪しいような落ち着きであった。

 

 

「うう…何だか誰も犯人では無いような…そうでないような…」

 

「…結局誰なの?」

 

「取りあえず1人ずつぶん殴って吐かせていくかい?」

 

「拷問、は、不味いんじゃ、ない、かな?」

 

「少なくとも2人はえん罪で頬を腫らすことになるですね」

 

 

 疑いの矛先を向けている側の女子達は、埒があかないと思ったのか…危ない話合いをし始めている。

 

 素早く答えを見つけないと、少々彼らの身が危ないのかも知れない。

 

 実際に身の危険を感じたのか、3人は、さらに言葉数を多くしていく。

 

 

「ワタシはぁ!!」

 

「ああああ、あたしは!!」

 

「さてと…一体誰が」

 

 

 

「犯人ではない!!」

 

「犯人じゃ無いんだよねぇ!?」

 

「犯人なのかな…?」

 

 

 

 だったら、この荒れ狂う声の中で、真実を貫けば良い。

 

 

 耳に神経を集中させて、そして聞き分けて行けば良い。

 

 

 大丈夫。前のように、いつもの平常心で、慎重、そして迅速やってのければ良い。

 

 

 

 ――――俺は深く息を吐き、そう1人呟いた。

 

 

 

 

【パニック議論】   【開始】 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

[Forum 1]

 

 

「ワタシは停電の被害者なのであるぞ!?」

 

「たかだか【ゲームの練習をしていただけ】のワタシを…」

 

「このような場に立たせ…」

 

「終いには糾弾し、矢面に立たせようとするとは」

 

「じつに不愉快な話だ!」

 

 

――――――――――――――

 

 不愉快って…

 

 …でも不憫な感じはする

 

 

―――――――――――――――

[Forum 2]

 

 

「さっきも言ったかは覚えてないけど…」

 

「あたしは停電中…」

 

「【お化け屋敷から出られなかった】んだよねぇ!!」

 

「ライトも全部消えちまってたから…」

 

「迷いまくってたんだよねぇ!!」

 

 

――――――――――――――

 

 暗闇の中に…

 

 暗所恐怖症にとって気絶ものだね!!

 

――――――――――――――

[Forum 3]

 

 

「知っているかい?」

 

「この世界は、【様々な因果でがんじがらめにされている】」

 

「それは運命とも表現できるね」

 

「僕はその運命に従って…」

 

「世界を渡り歩いていただけさ」

 

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~

[Forum 1]

 

 

「アンタの機嫌なんてどうでも良いんさね!」

 

「アンタらの中の誰かなら…」

 

「【犯行ができるかもしれない】…」

 

「アタシらの論点はそこなんさね!」

 

 

「言い方はあれでございますが…」

 

「かねがね反町さんと一緒のご意見と存じます!」

 

 

――――――――――――――

 

 ぐぅ…ツーマンセルを組んでくるとはぁ…

 

――――――――――――――

[Forum 2]

 

 

「…そもそも1人でお化け屋敷に行く」

 

「その考えに至っていること自体が不思議なんです」

 

「終わった後にうだうだ言うくらいだったら…」

 

「【部屋で大人しくしておけば良かった】んです」

 

 

「…確かに」

 

「…何でお化け屋敷になんて行ったの?」

 

――――――――――――

 

 めちゃめちゃ疑われてるんだよねぇ!?

 

 そう思わせるのも仕方ないかと…。

     

 

――――――――――――

[Forum 3]

 

 

「思い出話じゃなく、て」

 

「せめて、言い訳くらい」

 

「して欲しかった、かな?」

 

 

「しょうが無いさ!ミス贄波」

 

「これも【彼の個性】なんだ」

 

「尊重してあげるのが…」

 

「大人の対応というモノだぜ?」

 

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~

[Forum 1]

 

 

「ワタシは観測者である前に…」

 

「1人の人間であるのだぞ!?」

 

「【ゲームセンターに閉じ込められた】可哀想な人間を…」

 

「思いやる心は貴様らにないのかぁ!!」

 

「貴様らの血は何色だぁ!!!」

 

 

――――――――――――――

 

 また変に興奮し始めてるさね

 

 ていうか、自分から可哀想言うですか…

 

――――――――――――――

[Forum 2]

 

 

「ただ自分の苦手を克服しようとしただけなんだよねぇ!!」

 

「本当に!苦手を何とかしようと…!」

 

「それ以外の思惑とか、何とかは…」

 

「【一ミリたりともない】んだよねぇ!!」

 

「お願いだから!信じてほしいんだよねぇ!!」

 

 

――――――――――――――

 

 出来れば日を改めて欲しかったような…

 

 本当に、最悪のタイミングですよ…

    

――――――――――――――

[Forum 3]

 

 

「感謝するよ…」

 

「でも、僕にだって考えはあるというものさ」

 

「それは存在の真偽」

 

「例の【発着場に人は存在し得なかった】のか」

 

「それとも存在しえたのか…」

 

「はは…それもまた神のみぞ知る…ということなのかな?」

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

[Forum 1]

 

 

「赤って答えとけば良いのかい?」

 

「何を言っても否定されて」

 

「結局ゲームセンターに居たの一点張り…」

 

「はぁ…お話になら無いさね」

 

 

 

「諦めてはダメです!!」

 

「ここはやはり、お話を!!」

 

「最悪、【実力行使をすれば】!!!」

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 貴様らは何故最終的にぶん殴ってくるのだぁ!!

 

     …発想が蛮族過ぎる

 

――――――――――――――

[Forum 2]

 

 

「…信じるも何も」

 

「そもそもの話…」

 

「あんたらが【何もしてない証拠が何処にも無い】んですから」

 

「疑いたくなくても…」

 

「疑わなければいけないんですよ」

 

「…これは学級裁判なんですからね」

 

――――――――――――――

 

 確かに…

 

 …一ミリの疑惑も残してはいけない

 

――――――――――――――

[Forum 3]

 

 

「自分の弁護をするどころか…」

 

「堂々とボクらに疑問を返してくるなんて…」

 

「面の皮の厚さが違い過ぎるというものだね!!」

 

「その部分、ボクも見習わなければね!!」

 

 

「見習わなくて、も」

 

「ニコラス君は…」

 

「【十分、厚かましい】と思う、よ?」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

【モノパワーハンド) ⇒【発着場に人は存在し得なかった】

 

 

「…聞こえたっ!!」

 

 

【BREAK!!】

 

 

 

 

 

「いや、落合。あの乗り場には…絶対に犯人はいたんだ」

 

「おや?その口ぶりからして…やはり存在し得たのかな?僕もいつか、そういう存在になっていたいものさ」

 

「……続けて良いか?」

 

「かまわないさ」ジャラン

 

 

 落合とのやりとりに早々に見切りを付けた、俺は”何故なら”と付け加え、続けていく。

 

 

「その発着場の近くにはこの道具が――――“モノパワーハンド”が隠されていたから」

 

「ああああ、あの手袋がですか!?」

 

「うん、出入り口の、茂みの、中に、ね?」

 

「何で最初に言わなかったんさね!!」

 

「混乱を避けるために、敢えて伏せさせて貰った」

 

「えええーー…」

 

「ぐ、ぐぬぬぬぬ…良いように裁判を捜査されているようで納得がいかん…!」

 

 

 意図的に情報を伏せた固めに少し反感を買ってしまっているように見えるが……でも真実を見つけるためには仕方の無いことだ。

 

 …それに他にも隠されていた道具はあるしな。でも…これは、まだ残しておくべきだ。心配そうに視線をむける贄波に“大丈夫”そうアイコンタクトをとった。

 

 …このゴーグルが発着場に隠されていたと言う事実、そして”この証拠”と組み合わせれば…

 

 …俺は…一度小さく息を吐いた。

 

 

 ――――この証拠を提示する

 

 ――――この事実を提示する

 

 

 それが、真実へと近づくための、大きな一歩だと、そう感じたから。

 

 

 水無月の計画を壊した、張本人を見つけ出す、決定打になる…そう思ったから。

 

 

 俺は右手を強く握りしめ、そして――――――この証拠を突きつけた。

 

 

 

【コトダマセレクト】

 

 

【停電時の居場所)

 

 

「これだっ!!」

 

 

 

 

「この、今まで調べてきたこの居場所の証拠を、ジェットコースターの事実を組み合わせれば…誰なら可能なのか…ソレが見えてくる」

 

「……そ、それって…ねぇ」

 

 

 それはつまり、この事件のキーパーソンとも言える最重要人物が誰なのか…それを言っているに他なら無かった。

 

 

「では、改めて西エリアにいた3人が居た場所を、確認しようじゃないか!」

 

「お三方が居た場所は、ええと、確か、観覧車、お化け屋敷、そして”げーむせんたー”」

 

「ああ。その中で、最もジェットコースターの入口に近い施設…そこにいたヤツが」

 

「…犯、人」

 

「ち、近い場所って…それじゃあ…!」

 

「え、ええ…えええええ」

 

「まさか…」

 

 

 だとしたら…怪しい人物は”1人”に絞られる。

 

 

 停電が明けた直後に、絶対にその例の人物と鉢合わせていなければならないはずのアイツにしか…。

 

 ジェットコースター乗り場の”目の前にあった施設”…にいたはずの…アイツにしか。

 

 

 今までの犯行を。

 

 今までの行動を。

 

 

 ――――遂行することは出来ない。

 

 

 ――――可能とするこが出来ない。

 

 

 

 俺は、自分の指を、”その生徒”に向けて…つきつけた。

 

 

 

【怪しい人物を指定しろ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⇒ウリュウ キョウシロウ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前しか……いない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、その真実に向けて。

 

 

 雨竜という1人の生徒に向けて…瞳を差し向けた。

 

 

「………」

 

 

 瞳の先に立たされた雨竜自身は、眉を歪ませる。

 

 ”何のことだ?"

 

 そう言っているような表情であった。

 

 

「雨竜…お前、最初に言っていたよな?『ゲームセンターを出た直後に、それぞれの施設から出てきた2人と合流した』…と」

 

「…それって、つまり…それ以外の、人と、は、会ってない、ってこと、だよ、ね?」

 

「……………」

 

 

 雨竜以外の生徒達自身も、騒然とした態度を崩さない。

 

 一言一言が、決定だともなり得るような…張り詰めた状況に思えた。

 

 

「じゃあ、ジェットコースターから、出てきた、はずの、人と会っていない、なら…」

 

「お前自身が、乗り場を出入りしていた張本人…そういうことになる」

 

 

 そしてこの一言は、お前こそが水無月の計画の邪魔をした…もう1人の事件の関係者である…そう言っていることと他ならなかった。

 

 言葉を向けた雨竜は、先ほどの騒がしさなどどこへやらと…静かに、目をつぶる。

 

 まるでそんな声など聞こえないというように、瞠目していた。

 

 

「う、雨竜さん、が…?」

 

「ゲームセンターに、閉じ込められていたはずの……コイツがかい?」

 

「いや、ゲームセンターにいたからこそ…とも言えるんじゃないかな?キミ」

 

「いたからこそって……そうか!施設の位置関係のことかねぇ!」

 

「ああ、既に分かっていること、そしてエリアの構造から考えれば…ジェットコースターの入口へと向かったソイツと、ゲームセンターの入口から出てきた雨竜は…その時点で鉢合わせしてなければ可笑しい」

 

 

 勿論、停電はその時点で直っていた。だから、暗くて見えなかったという言い訳もできない。

 

 追い詰めるように淡々と並ぶ言葉に…沈黙を貫く雨竜。そんな彼の反応の所為なのか、周りの騒がしさが、少しずつ増しているように感じた。

 

 

「……それ、に、雨竜くんだった、ら…ジェットコースター、を、利用しやすい、と、思うんだ…」

 

「え…」

 

「いや、むしろ雨竜にしかできないとも言える。何故なら、古家達の言い分通りなら、ゲームセンター方面に行ったのは、雨竜タダ1人なんだからな」

 

「だ、だから…西エリアの端に居たはずの、雨竜さんが…」

 

「犯人…てわけなのかねぇ…」

 

 

 俺達がコレまでの出来事をまとめる中でも、雨竜は俯き、黙り続ける。…右手を、白衣にしまい込みながら、沈黙を貫き続ける

 

 

「……っ、雨竜!!どうなんだい!!」

 

 

 下を見続ける雨竜にしびれを切らした反町は、強い剣幕で言葉を浴びせる。

 

 

 ――――本当にそうなのか?

 

 

 陽炎坂や、長門にかけてきた言葉と同じような…

 

 

 強い悲哀と、怒りのこめられた…複雑な 一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――すると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ふはっ、ふはははは…」

 

 

 からからと……笑いだした。

 

 

「はははは…」

 

「雨竜、さん?」 

 

 

 今までのかっこつけた笑いでは無く、静けさをそのままにした気味の悪い笑い。

 

 雨竜は、小さく笑い続ける。

 

 そんな姿を見続ける俺達の中の不穏さは…徐々に徐々に密度を上げていく。

 

 

 徐々に徐々に…不安さが、表情を覆っていく。

 

 

 

 ――――今までのクロであった彼らを思い出してしまったから

 

 

 ――――今までの彼らの淀みを、思い出してしまったから

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 ひとしきり笑い終わった雨竜は、余裕綽々と言ったように一息つく。

 

 俺達は沈黙を守り続ける。いや守り続けるしか無かった…彼の言葉を…待つしか無かった。

 

 

「ふっ――――まさか…?ワタシが?…何を世迷い言を…そんな事があるわけ無いであろう…。ワタシは、超高校級の天文学者にして、観測者である雨竜狂四郎であるぞ?」

 

 

 肩書きを見せびらかし、雨竜は自分は犯人では無いと…我を通していく。

 

 

「…ドクター。名前や肩書きなんてどうでも良いのさ…必要なのは、キミなら可能かどうかだけだ。ソレを答えてくれキミ」

 

「ふん、勿論……不可能であるな…何故ならワタシは本当にゲームセンターの中で暗闇をさまよっていたのだから」

 

「それはさっきも聞いたです。私達が言いたいのは…停電後のことを聞いているんです」

 

「…直後に犯人は狂四郎と会っていたはず。でも…」

 

「会っていないから…それでワタシが犯人だとぉ?」

 

 

 まるで不愉快だという風に、言葉の圧を強めた。

 

 そして、それがどうしたと、そう言うように鼻息を、フンっ、と鳴らす。

 

 

「妄想も、世迷い言もそこまでにしておけ。我々はおとぎ話を創作しているのではないのだぞ?」

 

「いや雨竜。これは妄想でも、世迷い言なんかじゃない。本当にあったことを話し合っているんだ」

 

「口だけならどうとでも言える。ワタシは観測者だ。形ある証拠、それこそが事実を事実たらしめるのだ。もし証明することさえできないのであれば、出来ない時点でワタシに疑惑を向ける資格は、貴様らには無い」

 

「…何が言いたい」

 

 

 ギロリと雨竜は此方を睨む。俺は、負けじと、にらみ返す。

 

 

「証拠が無い、と…そう言っておるのだ。今まで貴様らが引き合いに出していたのは、あくまで証言。しかもどれも精度の低いものばかり」

 

「…だから、精度の高い、物的証拠をこの場に提示しろ?…そう言いたいのかい?」

 

「分かっているのなら皆まで言わせるな。ワタシがそのような非現実的なパルクールをしたという、そしてワタシが犯人とやらに鉢合わせしていたかもしれない……決定的な証拠を突きつけてみろ。であれば…ワタシも納得しよう」

 

「…何でそんな偉そうな態度なのかねぇ」

 

「劣勢のはずなのに、優勢のように感じてしまいます」

 

「つーか、注文多いですね」

 

 

 彼らの言うとおり、何故か先ほどから余裕の態度を崩さない。

 

 まるで天高くそびえる城壁の如く、そびえているようだった。

 

 …その言葉を宣うのも頷けた。

 

 何故なら…雨竜が今までの推理を実行した

 

 それを証明できる、物的証拠は――――――

 

 

「………いや、今俺の手元には無い」

 

 

 そう…無いのだ。

 

 提示できるのは、雨竜の言うとおり形の無い状況証拠。

 

 彼がやったかどうか、決定づける証拠は、”手元には無い”のだ。 

 

 ソレを聞いた彼は大きく”はっ!”と鼻で笑う。

 

 

「脆弱な話だ!…貴様のトリックには根拠も、真実も、何もかもが足りない!論理のなんたるかを貴様は知らないのか?」

 

「うっ…」

 

「いや、小早川さんがダメージ受ける所じゃ無いと思うけどねぇ…」

 

 

 証明が出来ないと分かった雨竜は、さらに自信を強めていく。

 

 やはり自分には不可能だ。

 

 もっと他の可能性を考えろ。

 

 そう言うように、雨竜は言葉を並べていく。

 

 

 

 ――――――――だけど

 

 

 

「――――――雨竜…何か勘違いしてないか?」

 

 

 雨竜の好き勝手な良いように顔をしかめる俺は、そう制止した。

 

 

「ぬわんだと?」

 

「…俺の手元に”は”無い…俺はそう言ったはずだ」

 

 

 そう言うと、雨竜、何故か一瞬たじろぎ、一滴の汗が流れるのが見えた。

 

 理由は分からなかった。だけど、この一言で分かるとおり…雨竜は内心、相当焦っている。

 

 今までの態度なんて、取り繕っただけの、脆い牙城なのだ。

 

 

「ど、どういうことだ?」

 

「証拠は、別の所にある…そう言っているんだ」

 

「…ふん、ハッタリだ…!そう言ってワタシを惑わそうとしているのだな…!このペテン師めぇ…!!」

 

「ハッタリじゃ無い…形のある、事実だ」

 

「形の在るモノ、無いもの…それを認めるのは人の勝手さ。でも、本当に在るモノが目の前にあったのなら、それはもう…現実と見て間違い無いんじゃないかな?」

 

「……落合。今は勘弁するさね」

 

 

 

 …そして俺は知っている、決定的な証拠痕跡が…どこにあったのかも。

 

 

 どこに、真実を示す道しるべがあったのかを。

 

 

 俺は、水無月の手元に落ちていた、あの証拠品を取り出した。

 

 

 

 

 

 

【コトダマセレクト】

 

 

【血の付いたナイフ) 

 

 

「これしか、ないっ…!」

 

 

 

 

 俺は、水無月の側に、不自然に転がっていた…証拠品を取り出した。

 

 

 

 これが…これこそが、この血の付いたナイフこそが――――

 

 

 

「…お前と水無月の死を関連付ける、確かな証拠だ」

 

「………?」

 

「ええと…どういうことなんでしょうか?」

 

「このナイフは、水無月の死体の側に落ちていた。そして関連付けるように、ナイフには血も付着していた」

 

「……カルタの血じゃ無いの?」

 

 

 そう、初めて見た時、俺もそう思った。

 

 

「でも、水無月さん、の、体を、調べても…そんな、刺したような傷跡は、なかったんだ…」

 

「じゃ、じゃあそのナイフの血は何だって言うんさね…?」

 

 

 前置きのように、このナイフについて説明を重ねる俺と贄波。

 

 それでも合点がいかないのか、殆どの生徒達は首を傾げる。

 

 …俺と贄波、ニコラス。そして…”雨竜”以外。

 

 分かりやすいくらいに、動揺し…そして彼は、彼自身”右手”を、一瞬後ろに下げた。

 

 

「そろそろ…出しても良いんじゃ無いか?いや、それとも…出せない理由でもあるのか?

 

 

 

 

 ――――――――その右手」

 

 

 

 俺は、捜査が始まる寸前も、裁判が始まる前も、白衣のポケットにしまわれていた、雨竜の右手を指さした。

 

 雨竜は、しまった、と…自分の行動の浅はかさを悔いているようだった。

 

 

「そ、そういえば…お菓子の家に集まる前から…隠していたさね」

 

「…なんのことだ。これはタダのかっこ付けに過ぎん。よくあるであろう…白衣に手を突っ込みたくなる…淡い少年心…」

 

「……雨竜、隠し事はココでは無しだぞ」

 

 

 強く冷たい視線で、雨竜を射貫く。言い訳をしようとした彼は、言葉を止めぐぬぬと、後ずさりする。

 

 

 すると…。

 

 

「ハァ……キミが見せないというのなら仕方ない…」

 

 

 そう言うと、隣の席に居たニコラスが、彼の右腕を強く掴み上げた。

 

 

 非力な雨竜は、ニコラスに勝てるはずも無く…

 

 

 生徒達に見せつけるように、その右手を掲げさせた。

 

 

 

 

 

「…!!そ、それは…」

 

「ほ、包帯…?」

 

「……っ」

 

 

 掲げられた雨竜の右手首には、応急処置の直後と言わんばかりの”包帯”が巻かれていた。処置が最低限行われているようだったが…それでも不十分な所為で、若干血が滲んでいた。

 

 だけどその痛々しさと生々しさから見て、明らかに最近付けられた傷跡という事が分かった。

 

 

「その傷って…まさか、ナイフの…?」

 

「ああそうだ。その傷は、雨竜と水無月が”争った時に出来た形跡”」

 

「争った…形跡?」

 

 

 雨竜の傷と、血の付いたナイフ。

 

 それが何を示すのか、何と何をつなぎ合わせる証拠となるのか…生徒達は薄々勘づき始める。

 

 

「ジェットコースターを使い、タワーの天辺へと登ったお前は…水無月の乗る気球に乗り込んだ」

 

「勿論、そこで、争い、は、起こった、よね?だって、いきなり、乗り込んでくるんだから、ね?」

 

「だけど水無月は、恐らく護身用に…予めナイフを所持していた。そして雨竜、お前はそのナイフによって――――その傷を付けられた」

 

 

 決めつけるようなその一言に、雨竜はニコラスの手を振り払う。そして違う!、と大きく声を張り上げた。

 完全に、先ほどの余裕な態度は崩れ去り、動揺を表に出していた。

 

 

「ぐぐぐ…こ、これは、事件が起きる前に切ってしまって…それを即席で治療をしていただけだ…!」

 

「じゃあ何故隠していたんだい?」

 

「あ、あらぬ疑いを掛けられぬようにだ!!」

 

「…でも、この状況だとむしろ疑いが深くなってる」

 

「そうですね。それに雨竜、あんたってば自称医者だったですよね?だったらなんで、そんな治療がおざなりなんですか?」

 

「これは!!ゲームセンターで傷を付けてしまったからだ!!彼処には救命箱も、無かったのだからな!!!手元にあった包帯で我慢するしか無かったのだ!!」

 

「包帯は手元にあったんだねぇ…」

 

「流石ですね!!」

 

 

 何故その傷が付いたのか、何故傷を隠したのか…俺達は、じわじわと、雨竜を追い詰めていく。

 

 雨竜は、右手を抱え、俺達から向けられる疑惑の視線に、瞳を右往左往とさせる。

 

 

「お前が何を言おうと、それこそが決定的な証拠だ…。きっと傷跡と、ナイフの切っ先を照合すれば、間違い無く合致するはずだ。…どうだ?雨竜、何か言い返すことはあるか?」

 

「黙れ!!無理矢理認めさせようとしても、そうはいかんぞ!!!この傷は事件とは関係ない!!」

 

「疑い、それは己の正しさを証明するには欠かせない必要な鍵。それを乗り越えることこそが…本当の信頼を築く、柱となるはずさ」

 

「貴様は本当に黙ってろ!」

 

 

 確かに…その傷が事件と関係あるか、真の意味で結びつけることは困難だ。

 

 だけど、布石を打つことは出来た。だってアイツの、雨竜の焦燥を引き出すことが出来たんだから。

 

 見るからに焦りを表出し始める雨竜。その姿を見ている所為か、俺は逆に落ち着いていくようだった。

 

 …だけど、少し優勢な立場が戻っただけで…一歩も間違えてはいけない状況に変わりは無い。

 

 俺は自分に活をいれるように、小さく息を吐く。

 

 

「こんな傷など、何の証拠にもならん!!それに、結局状況証拠であることに変わりないでは無いか!!」

 

「はぁ、何を言うのかと思えば。それはキミの求める、精度の高い証拠のはずだ…これで納得する約束だったじゃないかい?」

 

「黙れ黙れ!!そもそも約束など知らん!!この程度ではワタシは納得せん!!納得せんぞぉぉおお!!」

 

「…はぁ。…ミスター折木。素人目に見ても、彼は大きな焦りにとらわれている…であれば、必ず、言葉の穴が、見えてくるはずだ。決して…決して、見過ごさないようにね?」

 

「…折木、くん…がんばって…!」

 

「……」

 

 

 発言の穴…か。

 

 確かに、焦ったように言葉を振りかざす雨竜に、余裕はもう無い。

 

 だとしたら、ニコラスの言う通り、ヤツの発言の中から必ずほころびが見えてくるはずだ。

 

 嘘が嘘を呼ぶように。

 

 嘘が真実を真実たらしめるように。

 

 なら……やることはただ一つだ。

 

 この事件の真実を導いてみせること…。一ミリの疑念も抱けないほどの…真実へと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――――――その”先にある”真実も。

 

 

 導いていかなければならない。

 

 

 

 

【ノンストップ議論】    【開始】

 

 

「事件が起きる前に怪我をしたなんて…」

 

「ハッキリ言って、苦しい言い訳です」

 

「それに、自称なりとも医者を自負してるあんたが…」

 

「そんな酷い傷を、そんな不甲斐ない処置ですませるハズが無いです」

 

「そろそろ白状するですよ…」

 

 

 見るからに不十分な治療跡でございます!!

 

     雨竜君らしくない話なんだよねぇ…

 

 

「そ、それは…」

 

「周りに設備がなかったからだ!」

 

「なにせ、ゲームセンター内で傷を負ってしまったからなぁ…」

 

「このような処置になるのは、自明の理である!!」

 

「だから、このワタシを犯人呼ばわりする…」

 

「確固たる理由にはなり得んのだ!!」

 

 

 ゲームセンターの何で怪我したんだい?

 

   …ちょっと、想像できない、かな?

 

 

「…だけどそれ以上に」

 

「…ジェットコースターを最も利用しやすい位置に居た事は…」

 

「…間違い無い」

 

 

 真正面だったからね!!

 

   ”たいみんぐ”的に、犯人とも接触していたはずです!

 

 

「ワタシ以外にも利用できる!!」

 

「何故なら…」

 

「古家も落合も、嘘をつけば…」

 

「【誰にだって犯行は可能】なのだからなぁ!!」

 

 

 あたしゃ嘘はついてないんだよねぇ!!

 

    僕の詩にも、嘘もヘチマもありはしないさ

 

 でもそこをつかれると痛い

 

 

「…誰にだって…ですか」

 

「こっちが有利な状況だったはずなのに…」

 

「何だかこっちも苦しくなってきた感じがするです」

 

 

 見事に逆転してしまったね!!キミ

 

     何でちょっと、嬉しそう、なの?

 

 

「ふはっ!」

 

「そうであろう!!」

 

「つまり!!その入口に手袋と【ゴーグル】を…」

 

「誰だって隠すことが出来る…」

 

「そういうことになり得るのだ!!!」

 

 

 

 

【モノパンゴーグル)⇒【ゴーグル】

 

 

「その矛盾、捕らえたぞ…!」

 

 

【BREAK!!】

 

 

 

 

 

 

「雨竜…ボロを出したな」

 

「…なっ!」

 

 

 雨竜が今、一番言ってはいけない一言。

 

 それを彼は、今、この瞬間、口走ってしまった。

 

 発言の穴。…墓穴を、彼は掘ってしまったのだ。

 

 これが、ほころび。焦りから生まれた、矛盾。

 

 

「皆、思い出してくれ…雨竜が言った言葉。ジェットコースターに入口に手袋と…何を隠せると言った?」

 

「……っ!」

 

 

 言葉を反芻するように、頭を傾げる生徒達。

 

 雨竜はそに一言に、一瞬で顔を蒼白とさせる。

 

 自分が何をしでかしてしまったのか、何を溢してしまったのか…それを一瞬で理解してしまったようだった。

 

 

「ええと、確か…手袋と………………”ゴーグル”?」

 

「ああ、そうだ。”ゴーグル”だ」

 

「………あれ?そういえば、何で…」

 

 

 首を傾げる生徒達。先ほどの思い出すような傾きとは違う、今度は、何故その言葉が出てきたのかへの疑問。

 

 

「全員には黙っていたが…ジェットコースターの側には、手袋の他にもう一つ置かれているモノがあった」

 

「そ、それって、まさか…」

 

「ああ、雨竜の言うとおり――――――ゴーグルが隠されていた」

 

「……言うとおり…じゃあ」

 

「そしてこのことを知っているのは…俺と、一緒に居た贄波だけ」

 

「もしも、そのことを。知っている人が、他に居る、なら…」

 

 

 贄波は、少し間を置き、雨竜へと…目を向ける。

 

 確実な自信を持って、彼を射貫いた。

 

 

「それはもう、”犯人”しか、居ない、よね?」

 

「ああ~、一応言っておくけど…勿論ボクも初耳さ。何故なら、ボクとドクターは、ジェットコースター乗り場なんて、一度も捜査していないんだからね?」

 

 

 わざとらしく。ニコラス…決定的な証言を付け足していく。雨竜の顔は、みるみるうちに、青く、暗くしていく。

 

 

「雨竜、どうしてゴーグルのことを知っているんだ?」

 

「………」

 

 

 俯く雨竜に、俺は問いかける。

 

 事件には関係ないと言い張っているはずの雨竜が、知っているはずの無い証拠。

 

 だったら何故、知っているのか。その理由を問いただす。

 

 

「……雨竜」

 

「………………………」

 

 

 

 

 静かに、語りかけるように…。問いかける

 

 

 雨竜は……。

 

 

 

 

「……………………………」

 

 

 

 

 

 俯き、そして――――――沈黙を貫き続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはっーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――ふはははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 高く、笑い上げた。

 

 

 先ほどの乾いた笑いとは、全く別な位。

 

 

 今までに無いほど、高らかに、明朗に…。

 

 

 

 

 

「よくぞ…よくぞたどり着いたなぁ……」

 

 

 

 

 高笑いの余韻のように、ケタケタと不気味に笑う雨竜、こらえるように、噛みしめるようにそう呟く。まだ全ては終わっていないはずなのに。

 たどり着くことを、待ち望んだような、セリフを吐き出した。

 

 

 

「超高校級たるこのワタシを、観測者足るこのワタシを……よくぞ、よくぞココまで追い詰めた……!!!実に、実に素晴らしい!!!素晴らしすぎる!!!!」

 

「う、雨竜…?」

 

 

 RPGに登場する魔王が如く、俺達を褒め称える。追い詰められているのは自分のハズなのに。威風堂々に、両手を高く広げる。

 

 

「褒めてやろう、我が才覚を持って、我が叡智を駆使し練りに練った計画を、こうもあっけなく看破されてしまったのだからなぁ…」

 

 

 …………だけど、悔しさも、往生際の悪さも…そこには無かった。

 

 その様子はむしろ、どこに”嬉しさ”のようなモノが、含まれているように感じた。

 

 ”本当に、よくここまで導いてくれた”

 

 そう言っているようだった。

 

 

「リクエストに応じ、ここに宣言しよう…そう、その通り…このワタシこそが!!この超高校級足る観測者である雨竜狂四郎こそが!!!!!この事件の犯人、水無月カルタを殺害したクロ……張本人!!!」

 

「言い切った!!」

 

「…意地汚さも無いくらい、清々しく言い切ってる」

 

「僕は嫌いじゃ無いよ?この爽やかさ、爽快さ…複雑な人間性の対になるような言葉だと、僕は思うよ」

 

 

 自分自身こそが、犯人。開き直るように、雨竜はそう豪語した。生徒達はその発言に、信じられない、とばかりの…非難の目を、雨竜へと向けていく。

 

 いや、非難と言うよりも、戸惑いに近いかも知れない。

 

 こんなにも、呆気なく終わりを迎えてしまったことに…動揺を隠せないでいるようだった。

 

 

「じゃあ、水無月の計画を潰したのも…気球を墜落させたのも…」

 

「その通り!!!!ふははは…予めヤツの計画を推察し、そして乗っ取らせてもらったよ……。そうつまり!!全てワタシの仕業だったのだぁ……実に面倒ではあったが、それを覆すほどに楽しかったぞ?」

 

「何で、そんな…良心の呵責は、あんたにはないのかねぇ!!!」

 

「有るわけ無い…むしろ痛快であったぞ?ヤツを暗闇のそこへ叩きつけたときはなぁ!!!」

 

「この大馬鹿モノ!!そんなことは、冗談でも言っちゃいけないさね!!」

 

「ふあはは!!冗談では無い!!紛れもない我が本心だ!!」

 

 

 全てを認め、全てを真実と肯定する雨竜。

 

 戸惑いを覚えていた生徒達は、口々に、雨竜の今までの行動、これまでの言動に対し、言葉の槍を向けていく。

 

 今までの沈黙が、嘘だったように、この場は怒号に満ちていた。

 

 

「…理由がわかりません!!どうして、水無月さんを殺すようなマネをしたのか…その理由が!!!」

 

「理由?…ふん、そんなのどうでもいいであろうがぁ!!」

 

「ど、どうでも…!?」

 

「ああどうでもなぁ!!!何故なら、理由など決まっているから…この世界から出たかったから…それ以外に何も無いのだからなぁ!!」

 

 

 薪をくべるが如く、雨竜は高らかに自分自身の罪を告白していく。生徒達は、ただただ怒りでその身を震わせる。

 

 ――――どうしてそんなことを

 

 

 ――――俺達は仲間だったんじゃ無いのか

 

 

 哀しみを滲ませたような、怒りだった。

 

 

 

「出てかったからってだけでなんて…信じられないんだよねぇ!!」

 

「充分であろう!!!ワタシはこのような、まがい物の天体が包む世界など、とうの昔飽き飽きしていたのだ!!」

 

 

 雨竜はそんな俺達はお構いなしに言い張る。

 

 理由も何も無い、ただ窮屈だから、水無月の計画を頓挫させ、そして彼女を殺したと。

 

 追求すればするほど、雨竜は次々に罪をその口から発していく。

 

 その罪への罪悪感は全く感じさせず…むしろ、開き直った態度を彼はとり続ける。

 

 その態度が、生徒達の怒りのボルテージを底上げさせていた。

 

 

 

 すると――――――

 

 

 

 

 

「改めて…もう一度…聞かせてくれないかい?」

 

 

 

 ニコラスが、コレまでも出てきた真剣な声色を持って、それでいてとても冷たいような言葉を溢した。

 

 

 

「キミが、ミス水無月の計画を邪魔し…そして、殺害した」

 

 

 本当にキミがやったんだね?と言質を取るような、尋問するような…言葉で語りかけていく。

 

 

「ああそうだ!!ヤツの計画に相乗りすれば…クロになるはずだっヤツが死ぬという…奇妙な構図が出来る。つまり捜査を攪乱することができる。これ以上無いほどの舞台であろう?」

 

「雨竜…言葉を慎むさね!!」

 

 

 雨竜の、計画を乗っ取った理由も自ら、言葉にしていく。捜査を攪乱し、自分が犯人であることをわかりにくくするため…と。

 

 

 

「……決まり、みたいだね」

 

 

 

 

 その一言を聞いたニコラスは、そう呟いた。

 

 

 

 目をつぶり…小さく、鼻で息を吐く。

 

 

 

 ――――完璧に理解したよ

 

 

 

 ――――事件を、裁判を…終わらせよう。

 

 

 

 そんな、雰囲気を、俺は感じ取った。

 

 

 

 

「ドクター雨竜。やはり、キミこそが…ミス水無月を気球から”突き落とした”張本人。つまりこの事件の――――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――いいや。それは違うぞ…ニコラス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――だけど俺は、その言葉を制止した

 

 

 

 ――――強い意志を持って、言葉を撃った

 

 

 

 ――――理由は簡単だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨竜は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――”犯人じゃない”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強く、ハッキリと、俺はそう言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、裁判場内全ての視線が…俺自身に集まるのが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水無月が犯人だと、そう言ったときと、同じ感覚だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――はっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな間を空けて、まるで想定外と言うように、誰かからの声が小さく上がった。

 

 

 また暫く、沈黙が流れた。

 

 

 

 

「……それは、どういうことかな?ミスター折木」

 

 

 

 その沈黙を破るように、先ほどまで疑い終わった態度だったニコラスは、そう疑問を呈した。

 

 

 

「その言葉の通りだ、雨竜は水無月を殺していない――――無実なんだ」

 

 

 

 手のひらを返すような一言だと思う。

 

 

 生徒達の意図をひっくり返すような、とんでもない発言かも知れない。

 

 

 だけど…俺は。”最初から”…そう考えていた。

 

 

 

 

「な、何をいっているのだ!!ワタシこそが犯人だと言ったはずだ!!貴様も、そのつもりで、ワタシを詰めてきたはずだろ!」

 

「………」

 

「そ、そうですよ…折木さんが、雨竜さんのことを犯人と……言って……………あれ?」

 

 

 小早川は言い切る前に、待てよ、と言葉を止めた。

 

 

「そ、そういえば…」

 

「ああ…俺は今まで、雨竜が犯人だなんて“一度も言っていない”」

 

 

 

 これまで俺が言ってきたのは、関連する人物、関係者、介入者、第三者……。

 

 タダの”1回”も、犯人と、言ったことも、思ったことも無い。

 

 

「確かに、一貫して…キミは言っていなかったね。今気付いたよ」

 

「な、何を、貴様は…」

 

 

 今までの矢面に立たされていた雨竜は、狼狽を加速させる。

 

 何が起こっているの、まるで分かっていないという風であった。

 

 

「じゃあ…折木。あんたには雨竜が犯人じゃ無い根拠が、あるって言うですか?」

 

 

 雲居の疑問に…間を置いて…ゆっくりと頷いた。

 

 

「そ、そんな……証拠など…どこに、も」

 

 

 先ほどまで自分を犯人だと言っていたはずの雨竜は…今度は、別の意味で否定の言葉を繰り返す。

 

 まるで嵐のように巡り巡る、学級裁判。

 

 きっと誰も、今何が真実なのか、分かっていないのかも知れない。

 

 だけど…俺は…この事件を畳みかけなければなら無い。

 

 紛れもない、真実へと…導かなければならない。

 

 

 

 

 

 

 雨竜が…犯人では無いと言う…真実を示すために。

 

 

 

 俺は、雨竜が言葉少なに口にした…証拠。彼が犯人では無い、その証拠を取り出した。

 

 

 

【コトダマセレクト】

 

 

【モノパンファイル Ver.4)←

 

 

「これだっ…っ!」

 

 

 

 

 

 それは、事件の基盤とも言える、証拠品だった。

 

 

 始まりとも言える…水無月の死が、たった1枚に集約された、その記録を…取り出した。

 

 

 

「それは…モノパンファイル……?しかも水無月の…どういうことですか?」

 

「…っ……そのファイルが何だというのだ!!それがなんの証拠になるというのだ!!!」

 

 

 意図の掴めないまま進み続ける現状に戸惑う雨竜は、強い語調で質問を投じる。

 

 その質問に応えるために、俺は、死因、外傷、そして死亡推定時刻に場所の中のとある部分に指を添えた。

 

 

「このファイルの中に書いている…水無月に付けられた”右手のアザ”。ココが…雨竜、お前が犯人じゃないという証拠だ」

 

「アザ…だと?アザだけで…何が言える!!」

 

 

 アザ、というあまりにも説明不足な結論を返す。当然のように、雨竜は食ってかかってきた。

 

 …先ほどとは真逆の状況に、少しこんがらがってしまいそうになる。

 

 

「…そうだな。アザだけだったら、それがどんな意味を持つのか…まったく理解できない」

 

「だけど、意味があるから…その証拠を示したのだろう?ミスター折木」

 

 

 ニコラスの問いに、俺は”ああ”と肯定を返す。

 

 

「俺と贄波は、水無月の死体を目の前にしたとき、実際に右手にあったアザも確認してきた」

 

 

 贄波も、しっかりと頷く。

 

 

「そのアザを見た俺と贄波は、共通して、まるで“腕を掴んだようなアザ”だと、思った」

 

「それも、ただ、掴んだだけじゃ、ない…誰かが、腕を、引っ張ったような……手のアザが…ね?」

 

 

 

 

「――――――」

 

 

「腕を引っ張るようなって…!!」

 

「まさか…」

 

 

 

 

 

 俺は、俺自身の信じる…その答えを…口にした。

 

 

 

 

 

「雨竜。お前は水無月を殺そうとしたんじゃ無い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水無月を――――――“助けようとした”んじゃないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 酷い静けさが、辺りを包んだ。埃の落ちた音さえ聞こえそうな程の…俺が水無月を犯人と言い切った時と同じか、それ以上の静けさが。

 

 

 そんな中でも、右手を握りしめた俺は、真っ直ぐに、視線を雨竜へと送っていた。

 

 

 まるで、信じていると…そう言っているような視線を。

 

 

 

「…………」

 

「何を…」

 

 

 

 

 

 小さな、小さな吐息のような声が、漏れ出した。

 

 

 

 

 

「……何を、言っているのだ?」

 

 

 

 

 

 吐息は段々と大きさを増していき…。

 

 

 

 

 

「貴様は…何を…言っているのだ!!!!!!!」

 

「ひっ…」

 

 

 強く、強く、その否定を込められた声を、俺に浴びせかかってきた。

 

 向けられた訳ではないはずの、別の生徒が怯えてしまうほど、その圧は凄かった。

 

 

 

「…お前は、ジェットコースターを利用し、タワーのてっぺんへ。そして、モノパワーハンドを使い、気球へと飛び乗った」

 

「………だから…!」

 

「だけど…それは水無月を殺すためじゃない。水無月の計画”止めるため”に、お前は気球に飛び乗ったんだ」

 

「と、止めるために…」

 

 

 そう、だけど――――。

 

 

「当然、水無月、そして雨竜、お前達の間に争いが起こったハズだ」

 

「人の思いと思い、そして正義と正義は…決して同じ世界に居続けることは出来ない……必ず、軋轢と言う名の、ヒビが生まれてしまうものさ」

 

「そして、その争いの最中に、水無月は気球から落ちかけてしまった…」

 

「雨竜君、は、水無月、さんの…助けるために、右手で、水無月さんの、”右手首”を掴ん、だ」

 

「じゃあ、水無月さんの右手首のアザは、そのときできたもの……って訳かねぇ?」

 

「……狂四郎の右手の傷は」

 

「水無月さん、が、ナイフを、使って、傷つけて、できたもの…だね。こう、雨竜くんの、腕を刺して、ね?」

 

「確かに、だったら何で腕に傷があるのか…説明がつくですね」

 

「え……ちょちょちょ、ちょっと待って下さい!!だとしたら…水無月さんは」

 

 

 何かに気付いたように、慌て始める小早川。俺は頷き、その言葉の先を引き継いでいく。

 

 

「…ああ。水無月は、雨竜の救助拒否による

 

 

 

 

 

 

    ―――“自殺”…ということになる」

 

 

 

 

 

 

 

「……自殺!?」

 

「……それが、この事件の…俺達の一連の推理…そして結論だ。何か…異論はあるか?」

 

 

 

 俺と贄波が言い切った推理を聞き終えるが…未だ夢の中のように、お互いに顔を見合わせる生徒達。

 

 

 とてもじゃないが、そんな結論に、自分の意志を起きかねているようだった。

 

 

 そんな中で……ワナワナと、下を見続け…震える雨竜。

 

 

 

「ある…」

 

 

 

 彼は、低く、そう溢した

 

 

 

「――――――あるに決まっているであろうが!!!」

 

 

 

 そして彼は大きく宣った。慟哭とも言える、激しい反論であった。

 

 

 

「ワタシが!!!ワタシこそが犯人だと!!そう言ったはずだ!!そのような妄言は、貴様の想像に過ぎない!!!」

 

「いや、お前のそれこそが思い込みだ…お前は水無月を殺してなんかいない。逆に命を救おうとした…これこそが…この事件の”真実”なんだ」

 

「ふざけるなふざけるなふざけるな!!!ふざけるな!!!ワタシこそが…この手で…ヤツを……殺したんだ!!!何故否定する!!」

 

 

 全くもって違うと、完全な否定を口にしていく。

 

 すると、”ミスター折木”と、緊迫した状況の中で、俺に声を掛ける。

 

 

「…こう彼は言ってるが…どう思う?キミ」

 

「俺の意志は変わらない…雨竜は、犯人じゃ無い」

 

 

 堅い決意を持って、そう答えた。

 

 誰がなんと言おうと、この推理以外で全ての証拠を繋げることは出来ない。

 

 だから、俺は…そう言い切った。

 

 だけどニコラス自身は、何となく、この答えを納得しているようには見えなかった。雨竜と同様に、否定の顔色がうっすらと見えた。

 

 

「……成程。ではボクも、キミに習って、自分自身の意志を信じよう。ボクの場合、ドクター雨竜は犯人…すなわちキミの意見とは対立するわけだ」

 

「じゃあ、私は、折木くん、に、つくね?私自身の、意志、で…」

 

「……私達は2人が退治している状況を見ていない。気球で何かあったのかなんてどうとでも言える」

 

「なんて言えば良いのかねぇ、あたしは、折木君側かねぇ……何故かっていうと…主観だけど、雨竜君には、きな臭さが、感じられなくてねぇ…」

 

「風邪の流れは、きっと雨竜君には向けられていない…だったら、人のいない…群れの少ないところが、僕の性に合っているかな?」

 

「あんたは何処であまのじゃくを発揮してるですか…。でも、雨竜のヤツの思惑が分かるまで…私的には、折木寄りの意見ですね」

 

「梓葉、あんたはどうするんだい?」

 

「勿論!!折木さんの意見に私は全面賛成です!!」

 

「………だと思ったさね。なんとやらは盲目とはいうけど。まぁ良いか」

 

 

 生徒達は、それぞれがそれぞれの言葉を、意見を出していく……見た感じ、五分五分。綺麗に、意見が分かれてしまったように見えた。

 

 

「…物の見事に、真っ二つになってしまったね?」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

 そう、これはつまり――――。

 

 

 

「真っ二つ…今、また真っ二つとおっしゃいましたね!?」

 

 

 すると、モノパンが、待ってましたと、また自慢のステッキを振りかざし、そう言った。

 

 案の上、ヤツが口を挟んできた。

 

 

「まさか…」

 

「そう、そのまさか!!再び、このジオペンタゴンが誇る変形裁判場の出番でございますネ!!」

 

 

 モノパンは持っていたステッキを、目の前に現れた装置へと突き刺した。

 

 

 すると、俺達が立っていた証言台は……螺旋状に入り乱れ…そして横並びに終着し…目の前にはニコラスを犯人と主張する生徒達が並んでいた。

 

 

 真横には並ぶのは…それは違うと…俺と同じ意見を主張する生徒達が立っていた。

 

 

 雨竜が犯人か、否か…。

 

 

 だとしたら…この戦い…決して譲るわけにはいかない。

 

 

 絶対に、退くわけにはいかないんだ。

 

 

 事件の真実を、導くために。

 

 

 

 

 

 

 

 

    = 意= =対=

      = 見= =立= 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【雨竜は犯人なのか?】

 

 

犯人だ!       犯人じゃない!

 

 

『ニコラス』      『折木』

『風切』        『小早川』

『落合』         『古家』       

『反町』        『贄波』             

『雨竜』        『雲居』

            

 

 

 

 

 

【議論スクラム】   【開始】

 

 

 

ニコラス「Hey!正気かい?キミ達。彼自身が自分を犯人と呼んでいる…これ以上の【真実】は無いと思うのだけれど…」

 

「贄波!」

 

贄波「本当に、【真実】かどうか、は、もっと、話し合ってみないと、分からないん、じゃない、かな」

 

 

落合「嘘か本当か…真実か虚偽か…この戦いはまさに切迫の一言だ。一時の【無駄】も許されない。僕はそう思うよ」

 

「古家!!!!」

 

古家「いやいや、あんたのスッカスカの反論が今まさに【無駄】になってるんだよねぇ…」

 

 

反町「本当に水無月は自分で死んだっていうのかい?それを【誰が見た】っていうんだい?」

 

「雲居っ!」

 

雲居「逆に聞くですけど。本当に、そして確実に、雨竜が殺した光景を【誰が見た】んですか?」

 

 

風切「…雨竜がクロじゃ無いなら…カルタが自殺なら…私達は誰に【投票】すれば良いの?」

 

「小早川!!」

 

小早川「ニコラスさんも最初に聞いてたじゃ無いですか!!この場合は、被害者である水無月さんに【投票】すれば良いのです!!」

 

 

ニコラス「だったら何故…ミス水無月は、自ら【死】を選んだんだい?」

 

「俺が!!」

 

折木「その【死】の理由を雨竜が曖昧にしているからこそ…話合いを続ける必要があるんだ!」

 

 

雨竜「このワタシこそが犯人だと自白しているのだぞ!!!何故頑なに【認めない】!!」

 

「俺が!!」

 

折木「ああ、【認めない】さ。全ての証拠が、お前は犯人じゃ無いと言わしめているんだからな!!」

 

 

 

 

 

 CROUCH BIND

 

SET!

 

 

 

 

「これが俺達の答えだっ!!」

「これが私達の答えでございます!!」

「これがあたし達の答えなんだよねぇ!!」

「これが、私達の答え……!」

「これが私達の答えです」

 

 

 

【BREAK!!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――皆が言うように、雨竜が犯人の可能性も確かにある」

 

 

 

 

 …甘い理想なのかもしれない。

 

 

 

 

「…だけど、雨竜が犯人では無い可能性も…同じく高いんだ」

 

 

 

 …ぬるい幻想なのかもしれない

 

 

 

 

 でも――――――

 

 

 

 

「だったら俺は…犯人では無い可能性に賭けたい…!」

 

 

 

 

 

「もう、これ以上…誰かを疑いあったり…命を掛け合ったりすることなんて…俺はもう、イヤなんだ…!!」

 

 

 

 

「だから頼む…」

 

 

 

 

「皆――――――俺を信じてくれ…!!」

 

 

 

 

 

 もう、仲間を失いたくないから…

 

 

 

 

 もう、命を失う光景なんて、見たくないから…

 

 

 

 

 俺は、魂を込めて…全力を持って…そう言いきった。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「…折木」

 

「公平」

 

 

 

 

 

 これ以上の疑い合いを終わらせるために。

 

 

 これ以上のコロシアイを止めるために。

 

 

 

 

 

「――――――…っ……馬鹿馬鹿しい…!!あまりにも呆れた話だ!!」

 

 

 

 そんな叫びにも似た懇願を、雨竜は否定する。

 

 決してそんな真実を認めることは出来ない、と。

 

 決して譲るわけには行かない、と。

 

 そう同じく、叫んでいるようだった。

 

 

 

「もう誰かを犠牲にするなんてイヤだ…?だからワタシは犯人じゃ無い…?……あまりにも愚かな結論だ…!!」

 

 

 雨竜は……話合いを経ても…今もなお、自分自身への疑いを取り下げることを、否定していく。

 

 俺とは全く逆の姿であった。

 

 真逆の正義、真逆の意志を掲げるように、俺達はにらみ合った。

 

 

「これは学級裁判なのだぞ!!誰かを犠牲にしなければ…生き残れない…!!!それがこの狂いきった世界の現実だ!!!!そのような甘ったれた理想を振りかざす貴様など真実を知る資格も、我々を導く資格など、粉みじんたりとも無い…!!!」

 

「仲間を犠牲しなければならない真実なんて…そんなのこっちから願い下げだ…!」

 

「甘ったれるな!!」

 

「甘ったれでも良い!!俺はお前を、信じている!!」

 

「まだ言うか……!!」

 

「ああ、何度でも言うぞ…。何度でも、お前は、犯人なんかじゃ無い……何度もな!!」

 

 

 

 怯まず、臆さず…俺は雨竜と対峙する。

 

 

 絶対退く事なんてできやしないから。一度でも退けば…また誰かがいなくなってしまうから。

 

 

 ――――また1人、誰も知らない何処かへと行ってしまうから。

 

 

 迷うわけにはいかなかった。

 

 

 

「……………成程。貴様が何を言っても聞かない事は、イヤという程分かった…!!であれば仕方ない」

 

「…雨竜?」

 

 

 すると、何かを取り出そうと雨竜はごそごそと、懐をまさぐり始める。

 

 

 …今度は何をしようとしているんだ?

 

 

 俺は懐疑の瞳を向ける。

 

 

 

「これだけは…”これ”だけは使いたくは無かったが…――――――これを見るが良い!!!!」

 

 

 

 そう言うと、”それ”を取り出し、此方へと見せつけた。俺達は注目した。

 

 

 それは“瓶”だった……。

 

 

 何処か見た事があるようで、でも、違う。

 

 

 ”あれ”とよく似た、褐色に着色されたその”瓶”

 

 

 そうあれは――――

 

 

 

「――――"即効性…絶望薬”」

 

「まさか、今まで行方不明になっていた、あの…!?」

 

「……やはり、キミが隠していたんだね」

 

 

 今まで存在は示唆されていても、決してのその姿を見せてこなかった。7つ道具の一つ、”即効性絶望薬”。

 

 ソレが、今ここに現れた。

 

 俺達は驚きとともに…何故雨竜がソレを持っているのか…その疑問が尽きなかった。

 

 だけど分かるのは…今まで無かったはずの物が…雨竜の手元にあるという…現実。

 

 雨竜は引きつったような笑みを浮かべ、息を荒くする。

 

 

「何で…アンタがそんなモノを」

 

「決まっているであろう!ワタシこそが犯人だからだ!!!」

 

「…答えになってない。何で狂四郎がソレを持っているのかを聞いてる」

 

「ワタシが最初から持っていたからだ!!そうつまり………ふははは、ここで、貴様らの求めてやまない、本当の真実とやらを教えてやろう…

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――このワタシ、雨竜狂四郎こそが、今まで解き明かされた全ての計画を遂行し、そして全ての殺人を行ったからだ!!!」

 

 

 

 

 突然だった。

 

 雨竜はその口から、今までの推理を覆すような、発言を宣った。

 

 今まで分かっていたのは。水無月の計画を失敗に終わらせた、その事実だけ。

 

 だけど今になって、沼野の殺害も…自分自身がやったと。そう宣言したのだ。

 

 俺達の間に、今までに無いくらい疑問が走り抜けた。

 

 焦りすぎて、狂ったか。そう思ってしまうくらいの、突然の発言だった。

 

 

「いや…でも半分以上は水無月が行ったはずです。それに、毒薬も水無月自身が借りたモノで…」

 

「いいや違う!!!このワタシが美術館から毒薬とゴーグルを持ち出し…そして、沼野を殺害…水無月も同時に殺してやったのだ!!!」

 

「ええええ!??それって今まで導いてきたことと全くの逆の話になっちまうんだよねぇ!?」

 

 

 古家の言うとおりだった。だけど雨竜は、そんな俺達の装いなんてお構いなしに、全ては自分の仕業と言って聞かなかった。

 

 

「ああそうだ、その通りだ!!全ては逆だったのだよ!!!気球を用いたのも…気球を墜落させたのも、このワタシだぁ!!!」

 

「あばばばば…もう頭がこんがらがってきちまったんだよねぇ…」

 

「安心して下さい!!私もです!!!」

 

「だから安心できないんだってばねぇ!!!」

 

「これ以上あんたらはアホをやるなです!!余計に状況が訳わからなくなるです!!」

 

 

 生徒達は既にてんてこ舞い状態。俺自身も、何故雨竜が持っているのか……いや多分、乗り込んだときに水無月から取り上げたのだろうが…。

 

 だけど、気球を用いた理由が分からない。

 

 どうして沼野を殺害した。

 

 様々なありもしない事実が駆け巡り、俺達の脳内をかき乱す。雨竜の焦りの渦にとらわれてしまったようだった。

 

 

「だけど…水無月の部屋に遅効性の毒薬は置かれていた」

 

「ふん、簡単だ。そんなもの…ワタシがあえて置いておいたに決まっているであろうが!!ヤツに罪をかぶせるためになぁ!!!」

 

「待ちたまえ…ボクはキミと共同で捜査をしていた。そんなスキも暇は無かったはずだ」

 

「トイレタイムくらいはあったであろうがぁ!!」

 

「………確かに。そういえばあった気がするよ。まさに盲点だったね、キミ」

 

「納得するなよ…!」

 

 

 頼みの綱であったはずのニコラスも、何か勢いに飲まれたように、頷いてしまった。

 

 完全に、雨竜の口から飛び出てくる、無理矢理かつ行き当たりばったりの発言の数々に踊らされているようだった。

 

 

「ふははは!!どうだ!!これこそがワタシを、犯人たらしめる証拠だぁ!!!!」

 

 

 だけど、正直な話…コレ覆すような、明確な証拠は、手元に無かった。

 

 まさに爆弾の如き主張。

 

 そんな酷い混乱の最中で…。

 

 ――――何故、雨竜はそうまでして、自分を犯人と言い張るのか。

 

 それがどうしても引っかかっていた。

 

 まるで自分自身を、クロとして処刑させようと、俺達を強引に誘導しようとしている様にしか見えなかった。

 

 

 何が彼をここまで駆り立てるのか。

 

 何が彼を焦燥の坩堝に引き込んでいるのか。

 

 どうしても分からなかった。

 

 

「…折木、くん」

 

「………贄波?」

 

「考えていることは、分かる、よ?…でも今は、目の前の、事に、集中して…」

 

「――――――そうだな」

 

 

 贄波、頬を叩かれたような言葉を投げかけられた。

 

 ……確かに、その通りだった。

 

 今は、雨竜の即席で作ったような、そんな反論をどうにかしなければならない。

 

 

 このままじゃ、ただ圧に押されて、最後には取り返しの付かないことになってしまうかもしれない。

 

 

 誰かが、アイツの発言に待ったを掛けなければならない。

 

 

 おかげで…少し、落ち着けたような気がした。

 

 

 …やっと、本当の意味で前を向けた気がした。

 

 

「頑張って…折木、くん」

 

 

 俺はその小さくも強い言葉に頷いた。

 

 

 右手に、力を込めた。アイツが勇気をくれた、右手に。

 

 

 ――――ここで…俺はヤツの、つぎはぎだらけの偽りを暴いていく。

 

 

 ――――矛盾を貫いてみせる。

 

 

 

 

 ――――だって俺は、雨竜…お前を信じているから…!

 

 

 ――――誰よりも命の尊さを知っているお前が…

 

 

 ――――殺人なんて起こすわけないと…信じているから…!

 

 

 

 

 強い意志と、確信を持って…俺は雨竜と向き合った。

 

 

 

 

 

 

【反論】

 

 

 「このワタシこそが!!犯人なのだ!!!」

 

 

                 【反論】

 

 

 

 

 

 

 

 

【ファイナルショーダウン】 【開始】

 

 

 

「この毒薬こそが全てを物語る…!」

 

「この毒薬こそが、ワタシを犯人たらしめる…!!」

 

「物的証拠なのだぁ!!」

 

「それでもワタシを!!」

 

「このワタシを!!!」

 

「犯人と!!」

 

「言い切らんつもりなのか!!」

 

「折木公平ぃ!!」

 

 

 

「ああそうだ。今までの推理にも、言葉にも、嘘偽りは無い」

 

「だってお前は、誰1人として殺していないんだから…!!」

 

 

 

「甘い…」

 

「甘い、甘い、甘い!!」

 

「甘い!!!」

 

「甘い!!!!」

 

「甘い!!!!!」

 

「甘すぎる!!!」

 

「貴様は偽善者だ!!」

 

「貴様は愚か者だ!!」

 

「目の前の真実から目を逸らそうと」

 

「ただ躍起になっているだけの…」

 

「現実逃避者にすぎないのだ!!」

 

 

 

「甘くても良い、馬鹿でも良い、愚かでも良い…」

 

「俺は、俺自身の信じる意志を貫き通す!!」

 

 

 

 

「まだ宣うかぁ…!」

 

「まだ認めぬかぁ…!」

 

「この超高校級の観測者足るワタシの言葉を…」

 

「全てを知り、全てを見透す…」

 

「このワタシの言葉を、証拠を…!!」

 

「何故だ!!」

 

「ワタシは黒幕なのだぞ!!」

 

「事件の全てを知り得ているのだぞ!!!」

 

「何が足りないというのだ!!」

 

「ワタシは超高校級の観測者なのだぞぉ!?」

 

 

 

 

 

「そのワタシが知らぬことなど、何一つとしてないのだぞ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

    毒

 

 

入れた   場所

 

 

    を

 

 

 

 

【毒を入れた場所)

 

 

「その矛盾、断ち切ってみせる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨竜自身が犯人…その主張を崩すためには。

 

 

 ただヤツが犯人じゃ無いことで対抗しては、埒があかない。

 

 

 

 

「お前が犯人だというのなら…全ての計画を実行した黒幕というのなら…1つ、聞かせてくれ」

 

「………ぬわんだ」

 

 

 

 だったら…犯人だった知っていることを、聞いてやれば良い…。ないハズの…行った計画の記憶を掘り返させれば良い。

 

 

 

「沼野の毒殺はどうやったんだ?」

 

「ふん…そのような初歩的なことを…。ワタシはヤツの食事に毒を混ぜ、そして死に至らしめたに決まっているであろう」

 

「そこまでは、議論で出ていることを踏襲しているだけだ。俺が聞きたいのは…沼野の食事のどこに…つまり朝食のどこに、毒を入れたんだ?」

 

「……!!」

 

「お前自身が犯人であるハズなら…ソレがわかるはずだ」

 

 

 そう、どこに。

 

 犯人であるなら、沼野の殺害はとても慎重に行ったはずだ。

 

 勘の鋭い沼野なら、きっとすぐに看破してしまうから。

 

 だけど、沼野の殺害に成功している。きっと、どこか、あの沼野ですら気付かないような、綿密に計画された場所に、毒を仕込んだハズだ。

 

 それが言えないのであれば…雨竜が犯人とは言い切れない。

 

 計画なんてそもそも無かった…そう答えているようなものなのだ。

 

 

 

 

 

「……………」

 

「どうなんだ…?雨竜」

 

 

 

 

 

 俺は、雨竜の言葉を…待った。

 

 

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボロを……出したなぁ?…折木よぉ……」

 

 

「………?」

 

 

 

 意図返しのように、雨竜はそう返す。少し予想外だったその反応に、俺は内心面食らう。

 

 そのまま彼は、ほくそ笑みながら、続けていく。

 

 

 

「どこに毒薬を振りまいた…だと?そのような些事、このワタシが知らないわけではないであろうがぁ」

 

「………」

 

「全く予想外の反応、といったところだなぁ……。ふはっ!このワタシは超高校級の観測者なのだぞ?貴様の思惑など、既に見当がついているわぁ!!」

 

 

 全て見透かしていると言わんばかりに、大声を張り上げる。

 

 

「大方、犯人しか知り得ない情報を引き出させ、その揚げ足を取らせようという魂胆だったのだろうが…ふっ…どうやら失敗のようだな?」

 

「折木、さん…?失敗って、どういう…」

 

「折木よ、どうやら質問が来ているみたいだぞ?それに答え無くて良いのか?……もっとも、ワタシはそれすらも答えられる自信がある。何故なら、ワタシは全てを既知としているから、貴様らの全ての特徴を把握しているのだからなぁ…」

 

 

 そう言って……見るからに勝ち誇った顔で此方を見下す。

 

 

 そう、だったな…

 

 

 学級裁判前の俺とニコラス、そして小早川の話を、雨竜も聞いていたんだったよな。

 

 

 

 

【コトダマセレクト】

 

 

【生徒達のこだわり)

 

 

「………」

 

 

 

 

「俺達の食事中の、こだわり…お前はそう言いたいんだな?」

 

「…こだわり?…それってもしかして。あの話のことかい?」

 

「ああ、全員の食事の時の特徴。…といっても決まった食器を使ったり、コップとか箸なんかの細かなものだけどな」

 

「ふふふふ…そうだ、その通りだ!!!折木よワタシはその”食器の中”に、毒を入れた!!!コレがワタシの計画の、言わば”のろし”とも言える方法!!!すなわち貴様の疑問への回答だ!!!!どうだ折木ぃ…何か言い返すことはあるかぁ!!!」

 

 

 食器の中に…毒を入れた。

 

 単純なれど、わかりにくいその方法。

 

 

 その言葉を、答えを聞いた俺は、珍しく、小さく口角を上げた。

 

 

 そして思った。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――勝った、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後の最後で、迂闊だったな。いや、そう言わざる終えないように、俺”達”が、仕込んだんだけどな」

 

「……達…だと?」

 

「…ああ、そうだね。ミスター折木」

 

 

 名前を呼んだわけでも無いのに…そう言って、物知り顔で横から入ってくるニコラス。

 

 最初っから最後まで分かっていたかのような、そんな笑みを浮かべながら…彼は肯定する。

 

 その様子に、一転して、狼狽し始める、雨竜。

 

 

「何だ、どういうことだ…?何を笑っている…!?何が可笑しいのだ!?ワタシは、今ハッキリと答えを…!!」

 

「そうだとも、間違い無く言ったさ………”間違った答え”を…ね?」

 

「な、何、だと……!?」

 

 

 顔を青ざめさせる雨竜、何が自分の身に起こっているの、どんな地雷を踏んでしまったのか。

 

 

 全くと分かっていない状況であった。

 

 

 だったら、今自分何を言ってしまったのか…その理由を突きつける。

 

 

 そしてこの証拠で……長かった学級裁判に、決着を付けてやる。

 

 

 

 

 

 これが――――――最後の証拠だ。

 

 

 

 

【コトダマセレクト】

 

 

【ポーチ紛失事件)

 

 

「これで、終わらせる!!!」

 

 

 

 

 

「何故間違った答え、なのか………そんなの簡単だ。毒を入れた場所が…”違う”からだ」

 

「違う…だとぉ…!?」

 

「そうさ、キミ。まぁ最も、何も見えていなかったキミが、このこと知っているはずなんて無いから、仕方の無い話だけどね」

 

「見ていないとは…観測者として聞き捨てられん!!どういうことだ!!説明してみろ!!」

 

 

 自分のしでかした出来事が気になって仕方ないように、指を突きつける。

 

 俺はそのリクエストに応じて、”とある生徒”に、答えを託した。

 

 

「今から、説明するよ。頼めるか?…反町」

 

 

 ニコラス、そして彼女しか知らない…あの事件について。俺は話を委ねた。

 

 

「わかったさね。……朝食の前…いや、報告会の始まる前、ちょっとした事件が起きてたんさね」

 

「…事件?何それ?」

 

「朝早くのことだったから、アンタは居なくて当然さね」

 

「……確かに」

 

「事件…って…――――――――ああ!!もしかしてあの事件のことですか!」

 

「あたしも覚えがあるんだよねぇ!!ええっと…確か……」

 

「見た感じ、古家達は知っているみたいですけど…どんな事件が起こったって言うんですか?」

 

 

 雲居からの話の深掘りに、反町は、また詳しく、話を進めていく。

 

 

「沼野がいっつも腰に付けてたポーチ、あっただろ?…あれが、朝、しばらくの間、紛失しちまったんさね」

 

「うん、凄く慌ててた、ね?それで、”そのとき居たメンバー”、で、ポーチを探したんだった、よね?」

 

「でも結局見つからずに…そのまんまズルズルと報告会。でも、報告会が終わったと思ったら、ひょっこり出てきたんさね」

 

「僕らの知らぬ所に…真実有り。その供宴に、是非とも参加したかったよ」

 

「ただの落とし物捜しなんだけどねぇ…」

 

 

 雨竜自身も“そんな事があったのか”と、今にでも言いそうなほど見開く。

 

 俺は予想通りの反応を尻目に…言葉を続けていった。

 

 

「その無くしてしまったポーチの中に入っていたのは、古いクナイに手裏剣、そしてメモ帳、墨、”お茶っ葉”」

 

「……お茶っ葉」

 

 

 もしかしたら…可能性があるかもしれない。

 

 そんな、小さな希望とも言える…可能性を、風切は呟いた。

 

 

「そう、お茶っ葉だ。その中で、沼野の口に入っていくモノなんてソレしか考えられない」

 

「きっと、その葉の中、に、毒を混ぜたんだ、ろう、ね?」

 

「確かに、その日も、自分のお茶の葉で、緑茶を作ってたさね…」

 

「沼野さん…」

 

 

 俺達は次々と、”雨竜の知らない事実”を積み重ねていく。

 

 雨竜自身は、自分が何をしでかしたのか…それに気付いたように…顔をじわじわと俯かせてゆく。

 

 

「では、ここからが本題だ。シスター反町。そのポーチを探していた者達の中に…ドクターは居たかい?」

 

「……居なかったさね。ていうか、雨竜はいつも朝はギリギリさね」

 

 

 その事実は、生活習慣が生み出した、ボロとも言えた。

 

 朝早く来る者、時間通りに来る者、遅めに来る者。

 

 その中で、朝早く来ていた者だけが……その事実を知り得る。

 

 

「まったく…計画実行日だというのに、ドクターは随分と重役出勤だったみたいだね?…では逆に聞こう…その生徒達の中には、誰が、居たんだい?」

 

「…………」

 

「アタシと、小早川、沼野、贄波、古家…そんで………」

 

 

 その事実が示す答えは、明白だった。

 

 

「…水無月さね」

 

 

 そう言い切った。

 

 それはつまり…沼野を殺す布石を打てた。

 

 その可能性があるのは…朝早く来た者の内の誰か。

 

 

「一応、アラを指摘される前に、加えて聞いておこう…シスター。朝食としゃれこみ、そしていざ食器を運ぼうとしたとき、誰か、不審な動きはしていた生徒はいたかい?」

 

「…いいや。誰も、そんな事をしてるヤツは…見かけなかったさね」

 

「わ、私も、皆さんを見ていましたが…そのようなお方は…」

 

 

 

 だとしたら…全ての計画のために周到に動いていた。

 

 そのたった1人しか、考えられない。

 

 

 

 

 

 ――――――水無月カルタ

 

 

 

 

 彼女が、この事件の黒幕…犯人なのだ。

 

 

 

 

「これで…決まりだ」

 

 

 先ほどのニコラスの言葉を繰り返す。

 

 

「……ドクター、実にキミらしくない、浅はかな反論だったよ。いや、無理も無いか…」

 

「何故ならお前は…何も見ていないから、何も知らないから…だから、今のような失言をしてしまったんだ」

 

 

 

 

 超高校級の観測者と自負する雨竜にとっては、余りにも皮肉な穴だったとも言える。

 

 

 才能を否定しているような…いやそもそもコイツは天文学者なのだが…。

 

 

 それでも、彼の自信を打ち砕いてしまったような罪悪感を覚えてしまう。

 

 

 でも、この否定でお前の命を救えるなら…。

 

 

 

「お前の負けだ…雨竜」

 

 

 

 俺は喜んで、お前に引導を渡してやる。

 

 

 言い切った俺の言葉を聞いてか…手すりを掴み、裁判場の中心に目を落とし、瞳をうつろわせる雨竜。

 

 

 

「……ち、違う…違うのだ…ワタシが……毒を…」

 

 

 そんな彼から出てきたのは、否定の言葉であった。

 

 

 この事実を、無理矢理にでも認めようとしない、余りにも脆弱な否定であった。

 

 

 まるで取り憑かれたように、彼は食い下がる…。

 

 

「雨竜、何で…そこまで自分を…」

 

 

 最後まで分からなかった。

 

 あんな、誰にでも分かるような、まるで小学生の駄々のような反論を。何度も何度も、堂々巡りのように。

 

 それが、分からなかった。

 

 

 

「ワタシが犯人だから……!!!あのとき…!!手を…離してしまった犯人だから…!!」

 

 

 だけどその出来事に、気球の中であった出来事の中に…答えがあるような気がした。

 

 

 今の言葉で、俺はそう思えた。

 

 

「で、でも、手を離してしまったのは…」

 

「ああ、水無月が雨竜の右腕に、ナイフを突きつけたのが原因だ…」

 

「そ、そうなんだよねぇ!その拍子に、雨竜君が手を離したんだったらねぇ!雨竜君が犯人とは…!」

 

「だから…水無月は意図的に、自分を死に追いやった…つまり、水無月の自殺。お前が責任を感じる必要は――――」

 

 

 

「――――違う!!!」

 

 

 

 裁判場に強く響くような、大声が空気を揺らす。

 

 

 

 

「オレがこの手を離さなければ…!!ヤツは死ななくて済んだはずなのだ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

「だのに、オレは…あのとき、手を離してしまった……!!!だからヤツは…!!だから……!!!!」

 

 

 

 

 

 

「死んでしまったんだ…!!!オレが原因なんだ……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼む…!!後生だ…!!――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ワタシを……罰してくれぇ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 懺悔するように、懇願するように、彼はそう言った。

 

 

 食いしばるように慟哭するその姿を見て、俺は、やっと、彼の真意がわかった気がした。

 

 

 何故、ここまで雨竜が自分を犯人と言って、聞かないのか。

 

 

 何故、自分自身をクロに仕立て上げようとしているのか。

 

 

 その叫びで……この事件の全てが理解できた気がした。

 

 

「雨竜…お前」

 

 

 

 

 命の尊さを誰よりも理解している、雨竜だからこそ…

 

 

 命を失うことがどれだけ重いのかを、知っている雨竜だからこそ…

 

 

 俺達仲間の命が…どれだけ大切なのかを、分かっている雨竜だからこそ…

 

 

 

 ――――水無月の死に、強い責任を感じてしまっていたのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ドクター雨竜。どうやらキミはまだ分かっていないようだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中で、ニコラスは唐突にそう雨竜に声を掛けた。

 

 何を言おうとしている?

 

 俺は、ふと、首を傾げた。他の生徒達も、同様だった。

 

 

「……な、何だと?…何が言いたい…!!!!」

 

「ニコラス…?」

 

 

 生ぬるい、悪寒が…背中に走る。

 

 

 何か、俺の知らない事を…想像もしないような事が出来そうな…予感がした。

 

 

 いや…”知っていても、分からない様にしていた”ような言葉が…出てくるような気がした。

 

 

 

 

 

 

「良いかい?ドクター、キミは…

 

 

 

 ――――ミス水無月に利用されたんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニコラスは、そう言い切った。

 

 

 雨竜は、いや、俺達も時が止まったように…硬直した。

 

 

 

「利用…された…だと…?」

 

「ミス水無月の…本来の目的。キミは…キミ達は忘れたわけでは無いだろう?」

 

「…本来の目的?」

 

「ええと……確か、私達をタワーに呼び寄せて…」

 

「――――――俺達全員を、殺すこと…それが……水無月の目的だ」

 

「………!」

 

 

 そうだ。そうだった。水無月は、そもそもニコラス達を殺すために、あんな計画を立てた。

 

 俺達はその真実を見いだした。

 

 でも、今更…何で…?

 

 だけど、何人かの生徒達は、何かに気付いたように…顔を青ざめさせていた。

 

 

「もしも…だ。ボクらの殺害が、失敗に終わったと分かった時…つまり、邪魔が入ってしまったとき……」

 

「…今がその状況、だ、ね?」

 

 

 そして、時間が経つにつれて…。

 

 

「彼女は…もう1つ計画を用意していたのさ……いやもしくはキミが邪魔に入ったときに思いついたのかも知れない…それも自分の手を下さない、人の感情を理解し、そして利用した…実にチェスプレイヤーらしい方法をね」

 

 

 ニコラスのその言い回しに…俺自身も水無月の、――――”もう一つの計画”に思い至ってしまった。

 

 

「それはドクター、”キミ自身を凶器”とした…我々の殺害をね?」

 

「…凶、器?」

 

 

 瞬間、先ほどまでの生ぬるいモノでは無い、酷い冷たさの悪寒が走った。

 

 

「彼女は、自分が死ぬことで…キミがこれまでのように動くことを…分かっていたのさ」

 

「………」

 

「…分かった上で、彼女はまるでキミが手を離したことが原因で、死んでしまったと…錯覚させようとした」

 

 

 雨竜の腕を刺し、自分の所為なのか、それとも水無月の所為なのか…どちらか原因かを分からない様に…彼女は自ら命を絶った。

 

 それすらも…彼女の計画だった。

 

 自分の死すらも勘定に、無理矢理ねじ込み…そして雨竜に…。

 

 

「そして、案の上キミは、思惑通り動き…考え至らせた。もしも、仮に……その真実に従い、投票を行ってしまったとしよう。その場合、これが“間違い”だと、モノパンに認められてしまったら…どうなると思う?」

 

「――――――血の殺戮…そして悲嘆する間もなく、消えゆく命。きっと、そんな未来が、僕らにあったのか、無かったのか…全てを解き明かした今となっては、分からないことさ」

 

 

 

 俺達全員に…間違ったクロに投票させ……――――全員を”処刑”させる。

 

 

 

 まるで悪夢だった。

 

 無垢な彼女の頭から考え出てきた事とは思えない。悪夢のような、その計画。

 

 

 

 

 雨竜は、自分の立たされている立場を理解してしまったのか……虚ろに瞳を揺らし、こと垂れる。

 

 

「…………」

 

 

 

 同時に、どうしてそれほどまでに、俺達を執拗に、殺そうとしたのか。

 

 それがまた、分からなかった。

 

 だけど、その理由も…そもそもソレが本当なのかどうか…真実かどうかは…被害者である、水無月しか知らない。

 

 だけど、今までの彼女の執念を考えれば…この計画を、実際に行った可能性は考えられなくは無かった。

 

 友達として、ここまで導いてきたはずなのに…。

 

 

 ――――あんまりだ

 

 

 ただ一言。

 

 そう思うしか無かった。

 

 

「ミスター折木。時間だ…」

 

 

 そう言って、ニコラスは…俺に瞳を向けた。

 

 

 ”後は頼む”、そして“この事件を終わらせてくれ”そう言うように…。

 

 

「――――――ああ、分かった」

 

 

 俺は、決して内心穏やかでは無かった。だけど

 

 

 本当の意味で、この事件に終止符を打つために…こんな悪夢を終わらせるために…了承し…

 

 

 そして――――

 

 

 

「ここまでの事件を、改めてまとめていこう」

 

 

 

 俺は静かに、そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【クライマックス推理】

 

 

 

「これが、事件の全てだ…!」

 

 

 

 

 

――ACT.1

 

 

 

『事件の始まりは、今日の朝…俺達が集まる午前8時よりも前からだった』

 

 

『今回の事件の黒幕である犯人はまず、既に集合している生徒の、とある持ち物に目を付けていた』

 

 

『それは、今回の被害者の1人である沼野のポーチだった』

 

 

『スキを見て沼野からポーチを盗み出した犯人は、とある道具を取り出した』

 

 

『それは美術館から借りてきた7つ道具の一つ、”遅効性絶望薬”だった』

 

 

『その毒薬を、ポーチの中に入っていたお茶の葉に含ませた。折を見て、分かりやすいところにポーチを置き、沼野の手元に戻した』

 

 

『――――報告会が終わった午前9時。遅めの朝ご飯が始まり、沼野はいつも通りに自前のお茶の葉で緑茶を作った。そしてそのお茶を口にした瞬間、沼野の死が8時間後に確定してしまったんだ』

 

 

 

 

ACT.2――

 

 

 

『朝食を終えた犯人は次に、沼野へと招待状を送った』

 

 

『俺達に配られたような招待状ではなく…全く違った文面の招待状を』

 

 

『”貴方の計画は知っています。公にされたくなければ、午後5時にモノパンタワー2階のダンスホールへ来て下さい”…と』

 

 

『沼野は、その招待状の通りダンスホールへと向かった…』

 

 

『結局、どうして沼野は誘われるがままに向かったのか…そしてその“計画”がなんだったのか…当事者が既にいない今…もう分からない』

 

 

『…話を戻そう』

 

 

『そして午後5時、ダンスホールへと現れた沼野は…8時間前に盛られた毒によって、その場で力尽きた』

 

 

『沼野の死を見届けた犯人…その後、午後6時にとある行動に移っていった』

 

 

『それは――――ダンスホールの天井につり下がる、シャンデリアのチェーンを切ることだった』

 

 

『予め用意してあった強力なハサミを使い、四方に繋がれているチェーンを断ち切った』

 

 

『そしてこのシャンデリアは完全に支えきれない状態となり…1時間後の午後7時に、落下するように仕向けたんだ』

 

 

 

 

 ―ACT.3―

 

 

 

 

『これでダンスホール”内”で行う全ての作業を終了させた犯人は、次の計画へと取りかかっていた』

 

 

『犯人は、沼野以外の生徒達にも招待状を送りつけていた』

 

 

『午後7時、タワーの1階へと来て下さい』

 

 

『モノパンの名前を騙りっていたことは明白だったために…殆どの生徒達は、怪しんでいたが…犯人にとって多少来てくれるだけで問題は無かった』

 

 

『そして招待状は自分にも送りつけていた…まるで今自分も受け取ったいう風に。そして、居合わせた俺と共にモノパンタワーへと向かっていった』

 

 

『ある程度の生徒達が集まっているのを見届けた犯人は…“手紙の主は来ないから、部屋に戻る”そう言って…午後7時になる寸前に、すぐにタワーを出て行った』

 

 

『次の計画を…要とも言うべき、計画の実行のために』

 

 

 

――

 

 ACT.4

 

     ――

 

 

 

『――――午後7時、その時間に落ちるように仕組まれていた、シャンデリアの音がタワーの一階に響き渡った』

 

 

『残っていた俺達は、その音に驚き、すぐに2階へと向かった』

 

 

『そこで俺達は…まるでシャンデリアに押しつぶされたような姿の沼野の死体を発見することになったんだ』

 

 

『沼野の死体を発見したと時と同時刻…犯人は電気室とやってきていた』

 

 

『俺達が死体を見つけたことで鳴り響いたアナウンス…その瞬間を狙って、犯人は電気室にある全ての電源を落とした』

 

 

『そして、エリア3は一点の光りも無い、暗闇に包まれてしまった』

 

 

 

 

 

 

 

――ACT.5

 

 

 

『電気室の電源を落とした犯人はその中で、気球の発着場にある気球を動かした』

 

 

『暗闇の中で無謀かと思うが…犯人は予め借りて置いた”モノパンゴーグル”を使っていたから、暗闇の中でも自由に動けたんだ』

 

 

『犯人は自分にとって有利な状況を利用して、気球をタワーの頂上へと動かしていったんだ』

 

 

『懐に忍ばせていた…もう一つ”即効性絶望薬”を取り出しながら…』

 

 

『そのとき…タワーの2階、ダンスホールに居た俺達はとあるトラブルに巻き込まれていた』

 

 

『それは、1階と2階を繋ぐ唯一の手段であるエレベーターが動かない…つまり俺達はタワーの2階に監禁されていたんだ』

 

 

『そしてそれが…犯人の狙いだった。2階に閉じ込め、俺達の逃げ場を無くすこと』

 

 

『すなわち…犯人が懐に忍ばせていた即効性絶望薬が最大の効果を発揮する、場を作るためだったんだ』

 

 

『何故ならこの毒薬は、気体になると空気よりも軽くなるから。つまり…室内に瓶を投げ込んでしまえば…その中ですぐに気化し、毒ガスが充満することになる』

 

 

『逃げ場の無い俺達をそのガスを使って大量殺人をすることが、犯人の計画の肝だったんだ』

 

 

 

 

ACT.6――

 

 

 

『だけど…その計画に気付いていた人物がいた』

 

 

『それは、雨竜だった』

 

 

『雨竜は、犯人が計画する大量殺人を防ぐための行動をしていた』

 

 

『そのためにはまず、気球に乗った犯人に近づく必要があった。だから…タワーの頂上へと足を運ぶために…そして停電になったのと同時に、電源が独立していたジェットコースターを動かしたんだ』

 

 

『何故なら、ジョットコースターが登り上がる時、コースターはタワーへと急接近するから。しかもゆっくりと』

 

 

『その時を狙い…雨竜は予め美術館から拝借していたモノパワーハンドを使い、コースター安全バーを無理矢理取り外した』

 

 

『…そして備え付けられていた安全装置が起動し、機体は緊急停止してしまった』

 

 

『雨竜はそのジェットコースターからタワーの屋上へと飛び移ったんだ』

 

 

『このときのカンカンカン、という音が…俺達の聞いた謎の音…つまり足音だったんだ』

 

 

 ―ACT.7―

 

 

 

『タワーへと飛び移った雨竜は次に、驚くべき行動を取った』

 

 

『雨竜は、タワーへと近づいてくる犯人の乗った気球へと飛び上がったんだ。目印である、気球の種火に向かって』

 

 

『モノパワーハンドを付けて、気球の手すりを掴み、そのまま気球内部へと乗り込んだ…』

 

 

『犯人はとても驚いたハズだ。なんせ暗闇の中から、自分の計画を阻止しようと雨竜が乗り込んできたんだからな』

 

 

『犯人と雨竜はそこでもみ合いとなった。恐らく、そのもみ合いの折に、犯人の持っていた、暗視ゴーグルと即効性絶望薬を奪い取ったのかも知れない』

 

 

『だけどそのもみ合いの拍子に、犯人は気球から落下しかけてしまった』

 

 

『元々計画を阻止するために動いていた雨竜は、勿論助けようと手を伸ばした』

 

 

『犯人の右手を、雨竜は右手で掴み…宙ぶらりんの様な体勢となった』

 

 

『だけど何故か犯人は、懐に忍ばせていたナイフで、雨竜の右腕に刺した。痛みに耐え慣れなかった雨竜は…つい手を離してしまった』

 

 

『そして、犯人はそのままお菓子の家へと落下してしまい、息を引き取ることとなった』

 

 

『その結果、犯人は、犯人でありながら、被害者として発見されることとなってしまったんだ』

 

 

 

――

 

 ACT.8

 

     ――

 

 

 

『残されてしまった雨竜は、手を離してしまったこと、その全てを自分の所為だと考えてしまった』

 

 

『雨竜は犯人の暗視ゴーグルを使い、気球を誰も被害の出ないよう噴水の上へと動かした』

 

 

『そして雨竜は、気球に取り付けられた”シナバモロトモスイッチ”押し、気球を墜落させ、入口の真上にしかれたレールに乗り移り…ジェットコースター乗り場へと移動した』

 

 

『停電が明けた直後、雨竜は持っていた道具を全てジェットコースターの入口近くに隠した。そして何食わぬ顔で俺達と合流し、死体を発見した』

 

 

『それから雨竜は、まるで自分が犯人であるかのように振る舞った。“自分は停電時、ゲームセンターに居た”と…嘘をついてまでして』

 

 

『――――裁判によって、自分自身を裁いて貰うために』

 

 

『犯人を殺してしまったのは自分の所為だから、自分が手を離した所為で犯人は死体となってsima

ったから……』

 

 

『だけど…そんな雨竜の感情までも犯人は理解していたんだ。そして予想していたはずだ。きっと、生き残った生徒全員は雨竜を犯人だと糾弾し、犯人を吊し上げるだろうと』

 

 

『間違ったクロを選択したことによって、俺達をまるごと処刑になる、そんな残酷な未来を…』

 

 

『死ぬ間際に、犯人はその恐るべき計画考えついたんだ』

 

 

『…本来の目的である、皆殺しを完遂するために――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう…この事件の犯人…黒幕こそ…被害者の1人、水無月カルタだったんだ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――全てを、言い切った

 

 

 

 塊のような物が喉につっかえたような。

 

 

 重苦しい、非道い後味。

 

 

 

「……………」

 

 

「………」

 

 

 沈黙でこの事件の真実を…真実だと肯定する生徒達。

 

 そんな中で、膝をつき、全てが終わったと、全てが終息してしまったと…完全な沈黙をしつづける雨竜。

 

 

 

「雨竜…さん」

 

 

 巨体である彼の姿は、まるで幼子のように、小さく見えた。

 

 そして抜け殻のように、消沈していた。

 

 今まで自分がやってきたことは、なんだったのか。

 

 今まで自分が行動は、何を意味していたのか。

 

 

 全てを頭で巡らせているような。後悔しているような、懺悔をしているような。

 

 

 そんな弱々しい、姿に見えた。

 

 

 

「くぷぷぷぷ、最後の方に色々とゴタゴタと投票先がまどろんでおりましたガ…どうやら、答えを決めてくれたみたいですネ」

 

 

 

 そしてまた、この裁判にも、終わりがやってきた。

 

 それもそのはずだった。だって、これ以上議論すること何て何一つ残っていないのだから。

 

 それが分かっているからこそ…今までの全てを見守っていたモノパンは…そう告げた。

 

 

 

「それでは、緊張の投票タイ~ムと参りましょウ!ミナサマは、お手元のスイッチを押して投票して下さイ…投票先の分割については……見たところ必要なさそうなので、統一させておきますネ?」

 

 

 

 俺は、俯くように、手元で光るスイッチを見下ろした。

 

 

 

 すると――――

 

 

 

「……折木よ」

 

「…………?」

 

 

 呟くように、俺の名を呼ぶ人間がいた。

 

 

 

 ―――雨竜だった

 

 

 

 俯く彼が、震えた声で、俺の名を呼んでいた。

 

 

「何故だ…?」

 

「………」

 

「何故貴様は、水無月を疑いきった…何故、水無月を信じなかった?アイツは、貴様の友達だったのでは無いのか?」

 

 

 その口からでた言葉は、疑問だった。理由だった。水無月を、恐らくもっとも一緒に居る時間が長かったはずの俺が、どうして彼女を犯人と決めつけ、そして迷わなかったのか…その理由を、雨竜は問うていた。

 

 

 

 だけど、その答えは…既に決まっていた。最初っから決まっていた。

 

 

 

 

「――――友達だからだ」

 

 

 

 ―――――友達だから

 

 

 

「アイツの友達だから…俺はアイツの間違いを、行いを、明かさなきゃらならない。決して曲げずに、迷わずに」

 

 

 使命とも思えた。その使命を貫くことが、俺のするべきことだと思ったから。

 

 それが、死んだアイツにできる、最後の供養だと思ったから。

 

 

 

「…その間違いを諭すのも、友達の役目だから…」

 

「……」

 

「――――だから俺は、アイツを信じたんだ」

 

 

 

 ――――彼女を信じて、彼女を疑いきった

 

 

 長門の時と、同じように。

 

 

 俺は水無月を信じたいから…疑いきったんだ。

 

 

 俯く雨竜は、手を震わせる。

 

 

 彼も、今も光り続ける、投票ボタンを見下ろしている。

 

 きっと、彼も迷っているのだ。

 

 自分の押すべきか、彼女のを押すべきなのか。

 

 どこに指を置くべきなのか…選択しているのだ。

 

 何を押すべきかは、本人が一番、よく分かっているはずなのに。

 

 

 

 

 

 

「………そうか」

 

 

 

 

 

 雨竜は、ただ一言。顔も上げずに、そう返した。

 

 

 

「投票の結果、クロとなるのは誰カ!?その答えは正解なのか不正解なのカっ!?くぷぷぷぷぷっ!やっぱりこの瞬間…ぞっくぞくしますネ!!」

 

 

 そして。そんな小さな会話を断ち切るように、モノパンは高らかに宣言する。

 

 

 俺は、再び、スイッチに目を落とす。

 

 

 

 ――――そして

 

 

 

 ――――導き出した答えを持って

 

 

 

 

 ――――迷いも無く、淀みも無く、だけど言い様もない空しさを持って

 

 

 

 

 

 俺達は…ゆっくりと、スイッチに手を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【〉VOTE〈】

 

 

  /ミナヅキ/ミナヅキ/ミナヅキ/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    【学級裁判】

 

 

     【閉廷】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生き残りメンバー:残り10人』

 

 

【超高校級の特待生】⇒【超高校級の不幸?】折木 公平(おれき こうへい)

【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)

【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)

【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)

【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)

【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)

【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)

【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)

【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)

【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)

 

 

『死亡者:計6人』

 

【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)

【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)

【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)

【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)

 

 




遅くなって申し訳ないです。
とりあえず、学級裁判編、終了です。




↓コラム


〇タイトルの由来コーナー

『きっと君は素敵な何かで出来ている』
⇒マザーグースの歌『男の子って What are little boys made of』の歌詞の1文、『女の子はお砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ている』から。『君』、というのは犯人である彼女のこと。

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