ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~   作:水鳥ばんちょ

3 / 42
プロローグ -2-

【舗道(噴水広場~炊事場エリア:???】

 

 小早川達との挨拶を終えた俺達は、元来た道を辿って噴水広場へ戻り、1つ右隣の道……つまり『野外炊事場』へと続く道を歩いていた。

 

 先行する水無月は、相も変わらず楽々とした雰囲気で、大空を仰ぎ見ながらと大きな歩幅で歩き続ける……。そんなゆったりとした空気の中で、俺は周りの木々を見回す。そして、先ほどの小早川達との会話を思い返す。

 

 

『ココには生物はおろか、虫一匹すらも存在しない』

 

 

 俺達の周りに生い茂る木々は、どこからともなく吹きすさぶ風に身を委ね、サラサラと音を鳴らしている。……その音はとてもやさしく、心が安らぐような、そんな気持ちにさせてくれる……しかし……。

 

 先ほどの会話からだろうか、もしかしたらもっと前からだっただろうか?俺はこの葉と葉が静かにこすれ合う音に、違和感……というか、どこか無機質な、作り物じみた感覚を感じ取ってしまっている。別に今見えている木が偽物とは思わない……どこからどう見ても正真正銘の緑である……だが、どうしてこんなに無感動に捉えてしまうのだろうか……どうして……こんな違和感を感じ取ってしまっているのだろうか……なんとなく知りたいような、知りたくたくないような、そんな矛盾した気持ちを俺は巡らせていた。

 

 

「公平くん!公平くん!見て見て、炊事場が見えてきたよ!!」

 

 

 思考の海に沈んでいた俺を引き上げるように、水無月は声を上げ、人差し指で道の先を示す。8本ほどの柱に支えられる三角型の屋根の下に、台所と思わしき設備が備えられた大きな建物が見えた……。きっと、あれが炊事場なのだろう。

 

 

「しかし、まだ距離があるな……」

 

 

 といっても、さほどの長さは無い。少し歩き疲れる位の絶みょうんな距離である。

 

 

「さあ公平くん!!ここから競争だよ!先にキッチンにタッチした方が勝ちだからね!!よーい、ドン!!」

 

「……え?」

 

 

 いきなりのスタートの合図に変な声を上げてしまった俺を無視し、水無月は子供のようにはしゃぎながら走り出していってしまった。

 

 

「お、おい!また転んでしまうぞ!!」

 

 

 気づいた俺は水無月に注意を促すが、聞く耳を持たず……その差は徐々に広がっていく。

 

 

「ハァ……」

 

 

 ・・・・・・あいつ本当に高校生なんだよな?日本きってのチェスプレイヤーなんだよな?

 

 何度目かわからないため息をつき、俺は水無月の背中を追いかけていった。結局、競走してしまっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *   *   *

 

 

【炊事場エリア:炊事場】

 

 

 

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・疲れた・・・・・・」

 

「やったぁ!いっちば~ん!」

 

 ・・・・・・水無月の底なしの体力に呆れつつ、俺自身が思った以上に体力が無かったことに、なんとも言えない悲しみを感じていた。俺は、こんなにも衰えていたのだろうか…?まだ10代なのに。

 

「ハァ・・・・・・予想よりも、規模がでかいな・・・・・・それに、設備も整っている・・・・・・」

 

 疲労感を拭えないままではあったが、俺は息を切らしながら炊事場を間近で見た感想を簡潔に述べていった。

 

「そうだねー!調理器具も最新式だし、シンクもピカピカ、冷蔵庫にレンジもある・・・・・・それにホラ!IHコンロだよ!!」

 

「ハァ、ハァ・・・・・・確かに・・・・・・屋外で・・・・・・IHを見るのは、初めてだが・・・・・・!」

 

 何故その点に注目したのだろうか・・・・・・?イマイチ真意が飲み込めない、おそらく真意も何も無いのだろうが。

 

「しーかーもー!でっかいテーブルなんかもあるし、パーティも開けそうだよ!」

 

「ハァ・・・・・・そうか、ハァ・・・・・・」

 

 テンションについて行けなくなった俺は、適当に返事を返し、息を整えることに集中した。

 

「?公平くん!他にもなんかあるっぽいよ!!」

 

「スゥーハースゥーハー・・・・・・ん?」

 

 まともに話せる状態に戻すための深呼吸をしながら、俺は炊事場以外にも、このエリアにはいくつか建物があることが確認できた。

 

 建物は全部合わせて4つほどあった。1つは商店のようなこじんまりとした施設で、入り口の上の看板に『購買』と書かれている。もう3つはすべて同じ様相の建物で、それぞれ『第1倉庫』、『第2倉庫』、『冷凍倉庫』と表記されている。位置的には、入り口近くにある炊事場から見て、左に購買、右に3つの倉庫が左右に並んで建っている。倉庫は、炊事場に一番近いので『第1倉庫』、そして左に『第2倉庫』、『冷凍倉庫』と順に並立している。

 

「購買もあるのか・・・・・・それにしても・・・・・・」

 

 ―――揃いすぎている。

 

 16人の生徒に16戸のログハウス、そして大人数で食事ができる大きなテーブル。明らかに、俺たち16人(まだ全員とは会っていないが)にココで生活してくださいと言っているような、そんな不穏な雰囲気を感じとってしまった。

 

「ねぇねぇ公平くん!どこから見ていく?」

 

 そんな不可思議な状況の中でも、水無月は何とも思っていないのか、俺へと無邪気に話しかけてくる。

 

「そ、そうだな・・・・・・まずは購買にでも行くか・・・・・・少し喉が渇いてしまった」

 

 ログハウスで目覚めてから一滴も水分を取っていないことに気づいたように、俺の喉は極度の乾きを訴え始めていた。

 

「あ!いいねぇ~。・・・・・・公平くん!奢って!」

 

 水無月という少女には遠慮という言葉が存在しないらしい・・・・・・。光速でたかりに来るとは…。そんな図太さに、俺の顔は思いっきりしかめてしまった。だけど水無月は意志を曲げる様子はなかった。

 

「合って間もない俺にいきなり金を出させるのか・・・・・・はぁ…まぁいいか」

 

 何を言っても押し切られてしまうイメージしか湧かないために、俺は断るのを諦めて、観念して奢ることを決意した。取りあえずポケットを確認して、小銭が入っているかどうか、持ち合わせを確認してみた。

 

 不幸なことに…ちゃんとあってしまった。

 

 希望ヶ峰学園入学初日に金をたかられる生徒は、俺くらいなのではないか?そんな自分を嘆きつつ、その足で購買部へとむかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

 

 

 

【炊事場エリア:購買部】

 

 

 購買部の中は、よくあるコンビニのように品物が陳列され、出入り口の近くには会計場が設置されていた。しかし、そこには店員の姿は無く、卓上に『勝手に持って行かないでね?』と書き置きが置いてあるだけであった。

 

 ”休憩中なのかな?”と水無月が疑問を溢すが、何も分からない俺は首を傾げることしか出来なかった。

 

 品物が並んだ棚を回ってみると、商品の手前に値札が掛けられていた。しかし……変なことに、何故か値札の部分には『円』ではなく、『枚』と記されていた。これでは飲み物も買えない。

 

 

「円が通貨じゃ無いのか……おかしいな……ココは日本のはずなのに……」

 

「この『枚』って何のことだろうね?まあ、どっちにしてもジュースは買えそうにないみたいだねー」

 

 

 残念そうに気落ちする水無月は”小腹も満たせると思ったのにー”と小さく文句を垂れていた。

 

 ……俺の聞き間違いで無ければ、コイツ俺に食事まで奢らせようとしてなかったか?……いや、恐らく聞き間違いだろう…多分。そう思うことにした。

 

 

「……ずいぶんとにぎやかになってきたと思ったら、水無月……やっぱりあんただったかい」

 

 

 購買部の中をウロウロしている俺達に、もう1人、水無月では無い別の誰かからの声がかかった。とても気の強そうな女性の声に、俺たちは顔を向けた。

 

 ーーーー立っていたのは1人の女子生徒であった。その女子生徒は、修道服と思わしき改造装束を身にまとっており、頭もベールで覆われている…が、髪の色はクロであることだけは分かった。首元には金色に輝く十字架…十中八九宗教関係の方だとは思うが…如何せん、柄が悪そうだった。

 

 やっぱりというか…希望ヶ峰の生徒は全体的に濃い服を着ている生徒がとても多い気がする。水無月にいたってはゴスロリだから制服でも無いし。わざわざ制服を着てきた自分が、妙に浮いているように感じてしまう。

 

 

「・・・・・・隣のあんたは見ない顔だね、誰なんだい?水無月」

 

 

 そんなどうでも良いことを考えている俺を、女子生徒は鋭い目つきで射貫き、水無月へと疑問を投げる。

 ……なんというか、尋問を受ける寸前のようで、体が変に固まってしまうようだった。原因は彼女の鋭い眼光だろう…まるでゴーゴと対面している気分だ。

 

 

「素直ちゃーん!ねー聞いてよ!ここ普通のお金使えないんだよー!?絶対おかしいよ!」

 

「確かにそれはあたしもおかしいとは思ったけど……ハァ……ちゃんとアタシからの質問。聞いてたかい?」

 

 

 話のキャッチボールを受け取らない水無月は”ん?”と首を傾げる。その反応に”素直”と呼ばれた可愛らしい名前の女子生徒は頭を抱えて再度ため息をついていた。少し、シンパシーが湧いた。

 

 

「水無月に聞くよりも俺が自己紹介した方が早そうだな……俺は折木公平、初めまして……だな」

 

 

 その苦労人としての親近感で、多少肩がほぐれた俺は、気楽な気持ちで自己紹介を済ませていった。彼女自身も、”それもそうだね…”と、同意を示し…続けていった。

 

 

「……アタシは反町素直(そりまち すなお)、【超高校級のシスター】だよ」

 

 

 

_______________________________________________

 

 

 

【超高校級のシスター】 反町 素直(そりまち すなお)

 

 

_______________________________________________

 

 

 

 

 見た目は完全に女性なのに、妙に雄々しい口調で、俺へと自己紹介を返してくる反町。

 

 

 先ほど感じたという……親近感は早々に撤回した方が良いかもしれない。さっきは水無月に意識を向けていたから感じていなかったが……彼女のナイフのような鋭いそのオーラ……明らかに人を1人か2人殺めてきたかのような…そんな凄みを感じた。

 

 

「シスター……そうか、よろしくな反町」

 

 

 平静を装いつつも、内心おびえながらなんとか返答の言葉を返していく俺。あまり表情に出ないという特技…というか性質が…ここで吉と出てくれた気がした。

 

 

「あんた……今あたしのこと『シスターという雰囲気では無いよな?』とか考えてたね?」

 

「………………そんなことは無い。多分」

 

「あー絶対考えてたでしょー!顔に出てるよ~?でも大丈夫だよ公平くん!!カルタなんて最初は『スケバンだー!!』って言って逃げ出しちゃってたもん!!」

 

 

 顔に出すどころか、体や声にも心の声を出していた水無月に俺は顔を引きつらせる。チラリと反町を見てみると、目をつぶったまま眉間をピクピク揺らしている……おそらくと言わないにしてもイライラしているようだった。

 

 

「……偏見だが、シスターとは穏やかな風貌が一般的だと考えていたからな。顔に出てしまっていたのなら……すまん」

 

 

 ココは自分の気持ちを正直に話した方が穏便に済みそうだと考え、刺激しない程度の言葉を並べていってみた。しかし、その返答が意外だったのか、呆けた表情から一転、”はっはっはっ!”と大きな笑いが返ってきた。…一体俺が何をしでかしてしまったのだろうか…怪訝な表情で、反町の顔をのぞき込み。

 

 

「大抵のヤツは萎縮するか喧嘩ふっかけてくるのかの2択だったのに、あんたみたいに冷静に話してくるのは…珍しいねえ。…安心するさね……今のはちょっとからかってみただけだよ」

 

 

 ”からかったという割にはかなりの圧があったがな……”とそんな余計なことを考えつつ、特にヤキを入れられる心配の無くなったことに俺は安堵した。

 

 

「ねーねー素直ちゃんはココで何してたの?調査?それとも買い物?」

 

 

 少し蚊帳の外にいた水無月が”そういえば”と言葉を乗せて、反町の服をつまみ、理由を尋ねだす。確かに…何故彼女がココに1人で居るのか…正直気になっていた。

 

 

「ん?ああ……もちろん調査だよ。といってもココで分かったことなんて、あんた達がさっき話してたこと位だし……ほぼ収穫無しさね」

 

 

 さっき話してたことというと……この購買の通貨のことと店員が居なかったことか。だったら…そうだな、俺達とほぼ変わらないな。

 

 

「あそこに並んでる、倉庫の方も調べたのか?」

 

「そっちは別の奴らに任せてるさね……多分そっちの方が有意義な情報が出てくると思うよ……ここは何か…絶対に無いって感じがするからね」

 

 

 どうやら、反町の他にもこのエリアを調べている生徒達が居るらしい。情報収集のため、そいつらともコンタクトを取らなければな……。俺は、外の倉庫を見ながら、そう軽い予定を立ててみた。

 

 

「ココを調べ終わっているんだったら、そろそろーーーー?」

 

「ん?どうしたんだい?」

 

 

 調査を切り上げようかと提案しようとしたが、窓の向こうにある倉庫から、2つの人影が出てくるのを確認した。恐らくあの2人が、反町の言う、別の奴ら、なのだろう。

 

 

「ああ、どうやらあいつらも調査が終わったみたいだね……それじゃあココの探索も切り上げて、報告にでもいくとするかね」

 

「そうするか。水無月、店から出る……ぞ……?」

 

 

 あたりを見回してみて水無月が居ないことに気づいた俺……。さっきまで話に加わっていたはずだったのに忽然と消えてしまった。

 

 あちこち店内を見回していると、トントンと反町に俺は肩をたたかれた。反町は窓の外にある何かをアゴで指し、そちらに俺の注意を向けさせる。購買部の外である炊事場には当の探し人である水無月がおり、倉庫から出てきた奴らに向かって走っているのが見えた。

 

 

 ……本当に子供みたいなヤツだな。

 

 

 何度目か分からないため息をつきながら、苦笑する反町と共に購買部を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【炊事場エリア:炊事場】

 

 

「そっか~、それじゃあ食糧面の心配はしなくて良さそうってことなんだね!」

 

「うむ、あの潤沢具合を見ると、2~3週間は余裕でござるな」

 

「ちょっと高いところにあるのがネックですけどね……」

 

 

 先に出ていた水無月は早くも2人の生徒と情報共有を開始していた。遠巻きながら話の聞こえた限りだと…どうやら倉庫には食糧が大量に保管されているらしい。…これもまた、不思議な情報だ。

 

 

「おーい!雲居、沼野。倉庫の探索お疲れさん」

 

 

 隣を歩いていた反町が2人の生徒のものと思わしき名前を呼び、快活にねぎらいの言葉をかけていく。

 

 

「ん?……おお!反町殿。そちらも一段落ついたのでござるか?」

 

「段落もつけないでここに戻ってきてたら怒るですけどね……」

 

 

 反町は2人の返答に軽く返事をして、3人の会話に混ざっていった。…俺も話に加わっても良かったのだが、人数が多い所に入っていくというのは存外勇気が必要である。反町の斜め後ろあたりを保ちながら、見知らぬ2人の生徒を少し観察してみることに徹してみた。

 

 まず、最初に”ござる”とか言う、キャラしか感じない語尾の深緑色の髪をした男子生徒から。青年は甚兵衛にサンダルと靴の中間のような何かを履いた、これまた変わって服装をしていた。

 もう片方の、ちょっと卑屈そうな女子生徒はセーラー服に短めの2本のお下げと、正統派の女子高校生の服装をしていた。だけどーーーーとても背が低かった。あの陽炎坂よりも低いかもしれないほど、背が低かったのだ。

 

 結論を言おう、どちらも個性的な見た目。これに尽きてしまった。

 

 

「終わったっちゃあ、終わったけど……あんまり成果は期待しないでおくれよ?」

 

 

 頭を掻きながら反町は手持ちの情報のつたなさを事前に伝えておく。案外、小心なところがあるのかもしれない。また少し親近感を感じた。

 

 

「もお公平くん、素直ちゃん!遅いよー!どこで道草食ってたのー?」

 

「……」

 

 

 反町が態々用意した前置きを吹っ飛ばし、大げさな身振りでプンプンと怒る仕草をする水無月……会って間もない間柄ではあるが、コイツのことはしばらく無視しておこう。腕を組み、目をつぶりながら俺は軽く決心した。

 

 

「いやいや、どんな些細なことでも今は必要な事柄……問題なしでござる」

 

「そう言ってもらえると助かるさね……」

 

 

 反町と男子生徒も同じく、何事も無かったかのように会話を再開。しかし、背が極端に低い女子生徒は太陽を眺めるかのように目を細めて俺を見ていることに気がついた。

 

 

「さっきとも言わず、今もかなり気になってたんですけど……私達のことジロジロ見てるあんた、誰ですか?」

 

「おお!拙者も聞きかったでござる!気になりもうしていたが、いささかタイミングを見誤ってしまっていたでござる」

 

 

 ござる口調の男は”ナイス!”と言わんばかり女子生徒にサムズアップを図る……”フン”とそれを鼻で吹き飛ばすなど、その対応はしょっぱかった。

 

 

「申し遅れた……俺は折木公平、よろしく」

 

「成程!!折木殿と申すのでござるか……よし、覚えたでござる!」

 

「はぁ。そういうリアクションは本当に疲れるですから…さっさと紹介を済ませるです・・・・・・私は【超高校級の図書委員】、”雲居 蛍(くもい ほたる)”です。ちなみに、チビって言ったら殺すです」

 

_____________________________________________________

 

 

 

【超高校級の図書委員】 雲居 蛍(くもい ほたる)

 

 

______________________________________________________

 

 

 「むむ!先を越されてしまったござるか……拙者は【超高校級の忍者】、"沼野 浮草(ぬまの うきくさ)”と申すでござる。……あ!本物の忍者では無いということは先に言っておくでござるよ」

 

_____________________________________________________________

 

 

【超高校級の忍者】 沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

 

_____________________________________________________________

 

 

 

 物騒な物言いをする雲居と、物騒な肩書きを持つ沼野……悪い奴らでは無いとは思うのだが、なんとなく近寄りがたい気を感じてしまった。

 

 

「雲居に沼野、か……それにしても、どちらも聞き慣れない才能を持ってるんだな」

 

「いやいや、さっきも言ったでござるが、拙者は忍者ではござらん。いわゆる”ぱふぉーまー”に近いでござる」

 

 

 ”パフォーマー?”不自由そうな言い方で出てきた意外な言葉に、俺はそう反復した。

 

 

「多分あれかなー?時代村とかで忍者の衣装を着て、殺陣みたいなことをする人」

 

 

 “そう!それでござる!”と、水無月の説明に沼野は指を差し、肯定する。成程、京都に広がっている、ああいう時代村のことか。

 

 

「いやー、最初は”あるばいと”として働いていたのでござるが・・・・・・なんと!気づいたら忍者になっていたでござるよー」

 

「忍者に…なってた?」

 

「すんごい頑張ってパフォーマンスしてたら、もう忍者並みの動きブリだね!!って言われて…それが一人歩きして、忍者ってことでここに入学したんだよねー!」

 

「その通りでござる!!流石、詳しいでござるな!!」

 

 

 あっけらかんとした態度で何故か照れた仕草をする沼野。気づいたら委員長にされていましたみたいに言うので、しばし呆然としてしまった。

 このまま、本当にあり得るのか?と質問したら、実際にあり得てるのでしょうが無い、と愚問として流されるのだろう。そんな鮫島の時のような軽さを感じてしまった。

 

 

「何度聞いても現実味の無い話だよ……まっ希望ヶ峰学園にいる連中なんて、大抵こんなもんなんだろうけどね」

 

「なんですか?自分もその現実味の無い人間の1人って、自慢したいんですか?」

 

 

 反町の感想に、雲居が突っかかた物言いをする。およそ常人には出来ない反町への口の利き方に俺は少し身震いをしてしまう。

 

 

「まあ自慢ってわけじゃないけど、自覚はあるさね」

 

「そのとーり!まったくもってそのとーーーり!」

 

 

 反町は堂々とした態度と、水無月の強い同調。“フン、つまんない反応です”、ぼそりと雲居は独りごちる。

 

 

「ていうか、こんなところで才能談義なんてくだらないことに時間を掛けるより、さっさと報告を済ませるですよ」

 

「あーごめんねー?脱線し過ぎちゃってたね。えーっと……何だっけ?」

 

 

 俺と反町は同時にこける。改めるように咳き込み、気を取り直していく。

 

 

「購買部における情報は、俺たちの使う通貨は通用しないこと、店員の存在がなかったこと、その2つに尽きる」

 

「そうそう!どーだ!大したことないだろー」

 

 

 何故お前がそんなに自信ありげの態度なんだ。意味の無い虚勢に、俺はため息をついた。

 

 

「本当にたいしたこと無かったですね・・・・・・真面目に調査したんですか?」

 

「もちろんさね。コイツらよりも長く購買部を調査してたアタシが保証するよ」

 

 

 雲居からの指摘はあったが、反町が細かい補足をしてくれたおかげで俺たちの報告は無事終了。本当に泣けてくる位、短かった。

 次に、沼野が”反町殿達が後から来た故、もう一度倉庫について話をするでござる”と前置きをして、さっきまで話していた倉庫についてのことを話し始めた。

 

 

「炊事場から見て1番左の『第1倉庫』には、タオルやティッシュなどの生活用品が納められていたでござる。そのほかにも、ロープやボーリングの玉など実に様々な物品が揃っていたでござる」

 

「『第2倉庫』はインスタントラーメンとか、ジャムとか、常温保存が利く食べ物が蓄えられていたです。逆に『冷凍倉庫』には肉や魚、その他冷凍保存が必須の食べ物がぶち込まれてたです」

 

「いやぁ、もう無限と言わずとも、まさに大量であったでござるな!」

 

 

 打ち合わせをしてきたかのようにスラスラと説明を重ねていく沼野と雲居。それを聞いて俺は…少し思案を深めてみる。

 

 『第1倉庫』についてはーーーーまあ生活必需品は良いのだが、どうやら生活には関係ない娯楽用とか災害用のグッズなんかも揃っているみたいだった。

 次に『第2倉庫』と『冷凍倉庫』について、備蓄された食糧が保存されていた…とのこと。この万端具合に不安を覚えながらも…取りあえず、有事の際でも食事は問題無さそうだな、そう思えた。

 

 

「…ふーん、まるでここに住んでくださいと言わんばかりの充実っぷりじゃないか」

 

 

 今俺が考えていたことを代弁するように、反町が手を腰に置き、口を開いた。

 

 

「まあでもー。もしココに住むーってことになっても、それはそれで良いかなーなんて思ってもみたり?」

 

「水無月に同意するのもアレですけど、私もそう思うです。図書館が在れば、100点どころか120点をあげてたですけどね」

 

「もー!蛍ちゃん!!“アレ”ってどーいうことー!!何か含みを感じるぞー!」

 

 

 ”そのまんまの意味ですよ”と水無月を煽る雲居。小さな小競り合いが始まろうとしているように見えた。

 

 それを沼野が”まあまあ”と2人の間に立ち仲裁する。ここに来てしばらくが立っているが故の慣れもあるのだろうが、その光景に微笑ましさを感じるようになってきた。

 

 

「それじゃあ、ココの調査も終わったことだし、どうするかね?」

 

「ねーねー折角目の前にキッチンがあるんだからさ、お茶にしない?カルタ喉渇いちゃった」

 

 

 水無月の言葉で、喉を渇かしていたことを思い出した俺も”少し休憩したい”と同意の意を示した。すると、”よしきた!”手のひらに拳を当てて反町が景気の良い声を上げる。

 

 

「なら、ちょっと待ってな。あたしの特製ミルクティーをごちそうしてあげるさね」

 

「おお!したらば拙者も、秘蔵の茶葉を使った緑茶を一つ……」

 

 

 そう言って、反町に追随するように…沼野は腰のポーチに手を入れ、ガサゴソと物色し始めた。それから数秒…。

 

 

「ん?中々見つからないでござるな……あっ!!!しまった!ログハウスに置きっぱなしだったのをすっかり忘れていたでござる!……無念!」

 

「何1人で勝手に騒いでるんですか・・・・・・早く席に着くですよ忍者」

 

「何か雑に忍者扱いされてるみたいで、釈然としないでござるな……まぁなんちゃって忍者なのは間違いないのでござるが…」

 

 

 もっともな雲居のツッコミに、とぼとぼと歩いて椅子に座る沼野。ちなみ俺は個人的に、その緑茶が気になったので、後で頼んで飲ませてもらおうかな?なんて考えていたりする。

 

 俺達は反町特性のミルクティーに舌鼓を打ちながら、しばしお互いに交流を深め合った。こんな不穏な空間の中で、俺は初めて安らぎの感覚を感じることができたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【舗道(噴水広場~???)】

 

 

 

 小さなお茶会を終えた俺達は、反町達と炊事場で分かれ、炊事場への道の隣にある『グラウンド』へと続く道を歩いていた。

 ちなみに反町達は、”もう少しココについて詳しく調べてみる”と言っていたので、今も炊事場での探索を進めているはずだ。

 

 

「それにしてもさー、素直ちゃんの作ったミルクティー。おいしかったね」

 

「ああ。とても飲みやすかった。クッキーなんかがあったら、より美味しかったかもしれないな」

 

 

 ”だねー”そう同意を示しながら、水無月は朗らかに笑う。

 

 なんとなく、俺達の間の距離感は、さっきよりは近くなれたように感じた。先ほどの交流が効いてるのかも知れない。

 だけど、それでも…こんな他愛も無い話をしている中でも、俺は周りの環境へと冷静に頭を割いていた。未だ、なにか生物の痕跡が無いだろうか、熊でも良いからガサリと茂みを揺らして顔を出してくれないだろうか。そんな淡い期待を抱きながら。生物の気配を探していた。

 

 しかし生物の声は音だけであり、生命の影は一つとして見当たらない。

 

 

 ――すると、サラサラと鳴る森の声と重なって、ギターのような無機物的な音が聞こえることに俺は気がついた。

 

 

「なんだ?このギターの音は?」

 

「んー?あー確かになんか聞こえるね。ギターの音っぽいけど……あっ、もしかして」

 

 

 なにか思い当たる節でもあったのか、水無月は先を急ぎ始める。俺はそれに合わせるように足早に走ってみた。

 

 音に気がついた場所から数十メートル歩いたところで水無月は止まるとーーーー体を横に向け、茂みに向かい…背伸びをして葉をかき分け出す。

 

 

「あーやっぱりー」

 

 

 水無月が見つけた場所は、人1人が寝転がるにはちょうど良いくらいにひらけていた。そして、そのちょうど良いスペースに1人、男が木に体をを預け、目をつぶって腰を下ろしていた。寝ているかのように静かな男は、大きなギターを持ってどこか感傷的な雰囲気に浸れる、美しい曲を奏でていた。

 

 風貌としては緑のローブに緑の大きな帽子と、フィンランドを舞台としたアニメに登場する吟遊詩人のような、どこか浮世離れした格好をしていた。

 小早川や長門、反町に沼野と続きまた変な恰好のヤツが現れた、と思ってしまった。やっぱり、雲居のような普通の制服を着込んだ人の方が珍しいのかもしれない。

 

 

「やっぱり落合くんだ!でもこ~んな見つかりにくい所に居るってことは…サボり~?」

 

 

 会って早々のたいそうな物言いに、少し驚く。どうやらこの風来坊然とした男は”落合”、というらしい。

 

 

「今日も良い天気だね。水無月さん。こんな日は、歩いているよりも木陰に座って詩を詠う方が有意義とは思わないかい?」

 

「つまりサボりなんだね!……あ!紹介するね!彼は折木公平くん、カルタ達と同じ新入生だよ!」

 

 

 開口一番、回りくどい言い回しをし出す落合という男に、水無月は強引な解釈をして話を進め、俺の名前を出していく。

 

 

「折木公平だ。よろしく」

 

 

 俺は握手を求めて手を差し出す。落合はにやり顔を作りながら手を握り返し、ついでにといったように手に力を加え俺を利用して立ち上がった。ギターの重さも相まって、妙に重かった。

 

 

 

「”落合 隼人(おちあい はやと)”だよ。【超高校級の吟遊詩人】・・・・・・しがない旅人さ」

 

__________________________________________________

 

 

【超高校級の吟遊詩人】 落合 隼人(おちあい はやと)

 

__________________________________________________

 

 

 

 吟遊詩人。その恰好からしてそれ以外考えられない才能だとは思ってしまった。しかし同時に…そのどうしようも無いくらい浮世離れした男と、どう接すれば良いのか測りかねる気持ちに陥ってしまった。

 

 

「時に折木くん。風は好きかい?」

 

 

 そんな距離を測りかねている俺へ突然、落合は質問を投げかけた。

 

 出されたのは、風についてという、藪から蛇のような質問だった。”何を言っているんだコイツ”と、表情に出してしまったのは、仕方の無いことだと思う。

 …しかし、真面目に言うと風についてなんて、今まで深く考えたことなんて無かった。強いて言うなら、何故発生するのか程度にしか興味を持ったことが無いくらいだ。

 

 

「風は……まあ、そよ風くらいなら嫌いじゃ無いが、強いのは少し苦手だな」

 

 

 できうる限り具体的な返答をひねり出し、落合の返答を待つ。

 

 

「そうだね。僕も風は好きだよ。なぜなら、自由で気ままだからね……憧れるよ、君もそう思わないかい?」

 

 

 風にそんな生物的な感性は無いと思うのだが……というツッコミは抑えつつ、もう少し彼という人柄を考察してみる。

 聞いた感じだと、どうやら落合にとっては風は尊敬できる対象らしい。

 

 

「自由かどうかは別だが、まあ生き方としては突き抜けていて好感は持てるな」

 

 

 ”お前のようにな……”という言葉をぎゅっと飲み込み。当たり障りの無い回答を並べていった。

 

 

「君は話が分かる人だね。とてもすばらしいよ。うん、実にすばらしい」

 

 

 ほぼ適当に答えたのだが……何故か好感を持たれてしまったらしい。あまり嬉しくないのが本音ではある……。

 

 

「公平くん公平くん。落合くんは不思議ちゃんだから、まともに答えていたら疲れちゃうよ?」

 

 

 お前も十分不思議ちゃんだと思う、というのは置いといて。ほんのひととき蚊帳の外に居た水無月が、俺にアドバイスを入れてくる。確かに、いつもより会話に頭を使って、疲れた気がする。

 

 

「確かに、中身の無い会話だったな。なあ落合、風の話は置いとーーーー」

 

「ココは不思議な場所だよ。生命の息吹というのは常に風の如くボク達の側にあり続ける。というのに、すぐ側にはその音だけで、姿形は見えもしない」

 

 

 “不思議に思わないかい?”また突拍子の無いことをくどくどと表現し、何か意味があるように目を細くして俺に聞く。だけどよく考えても意味があると思えなかった。

 

 

「つまるところ、何が言いたいんだ?」

 

「側にあるようで、無い。無いようで在る。この世界の生命は音と感覚だけで、他は何も無い……ということさ」

 

 

 ”後は君たちで考えることだね”そう言って、俺の横を通って茂みを超え、ギターを弾きながら噴水広場へと歩き始めていった。

 

 

「どこに行くんだ?」

 

 

 少し声量を上げて、落合に尋ねる。落合は振り返らずに歩き続けながら…こう答えた。

 

 

「風の向くまま、気の向くまま、僕はどこにでも居るさ」

 

 

 結局わけのわからないまま、噴水広場へと姿を消していった落合。総括すると、徹頭徹尾、物語に出てくる旅人のように自由気ままで、飄々とした意味の分からないヤツだった。

 

 

「ん?終わったの?」

 

 

 途中で言葉を挟んでから話に加わらなかった水無月は、地面に絵を描き暇を潰していた。どうやら落合との問答は水無月にとっては飽きやすいものだったらしい。

 

 

「……ああ、おそらくは」

 

「そっか。じゃあ行こ!」

 

 

 まるで風のような出来事であった。突然吹いたと思ったら、通り過ぎて、結局何事も無く今が進んでいく。アイツ自身が風だったのでは無いだろうか?と支離滅裂な可能性を考えたが、すぐにあり得ないと振り払う。

 

 

 俺達は再び歩き始める。少し強めの向かい風が、頬をかすめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【グラウンドエリア】

 

 

 

 落合との会合を終えた俺達は、目的地であるグラウンドへとやって来ていた。

 

 グラウンド……というよりは、グラウンド+公園と言った方が適切なのかもしれない。

 

 エリアは大きく二つのブロックに区画されて、片方には芝生が広がっていた。実際に、エリアの半分を占めている緑色の大地を手で触ってみると、ふわふわとした質感が伝わってきた。ふと、寝転がってみるととても気持ち良さそうだな、そう思えるような触り心地だった。

 

 そして、芝生の広場の隅っこの方には、ぽつんと、公園に良く在るきのこ型屋根のベンチが設置されているのが分かった。

 

 そしてもう片方は、まさにグラウンドといった様相で、芝生とは逆に寝心地の悪そうな見た目であった。巻き上がる砂塵が、中学生の頃によく見た風景を思い出させる。ちゃっかりと白線なんかも引かれており、よりその雰囲気を助長させていた。

 

 そんな中で俺達は、きのこ型屋根のベンチに座っている、1人の少女と対峙していた。

 

 

「……ぐぅ」

 

 

 おそらく、というか思いっきり寝ていた。さっきの落合のコソコソとしたサボりが矮小に見えるほど、そのサボりっぷりは堂々としていた。寝息を立てている少女の姿は大変絵になるのだが、側に置いてある大きな鞄がそのキャンパスを台無しにしてた。

 

 形状からして、明らかに”スナイパーライフル”である。実に物騒な第一印象だ。

 

 

「……ううむ」

 

 

 寝ているだけでゲテモノな雰囲気を醸し出す少女に対して、俺はどのようにして声を掛ければ良いのか分からず、数十秒ほどたたずんだまま沈黙を貫いていた。痛い沈黙である。主に俺にとって。

 

 

「もーじれったいなー。公平くん、一旦どいて」

 

 

 同行していた水無月は、もどかしさを振り払うように少女へと近寄っていく。そして隣に体を寄せて、耳元付近まで顔を近づけると。

 

 

「起きてー!柊子ちゃん!紹介したい人が居るのー!」

 

 

 ユサユサと肩を揺らし、鼓膜を壊さない程度のうるささで少女を呼びかけた。普通であればすぐ起きるモノだが…揺らされてから数秒ほどで柊子と呼ばれた少女はうっすらと目を開き、半目のまま水無月を見やった。相当深い眠りについていたようだった。

 

 

「ん……おはよう、カルタ」

 

 

 少女は何事も無かったかのように朝の挨拶を交わす。空の見た目からして…今は昼である。すると、半目を維持したまま、少女は水無月の隣に立つ俺のほうへと目を向けた。見慣れない俺をボーッと、寝ぼけたように眺めて数秒……。

 

 

「……誰?」

 

 

 コテリと首をかしげ、俺の存在について疑問を投げかけた。当然である。

 

 

「俺は折木公平。お前達と同じ新入生だ」

 

「そう・・・・・・挨拶されたなら、挨拶し返す」

 

 

 少女は重たそうな鞄を肩に担ぎ上げ、眠たそうにふらふらと立ち上がる。重量のありそうな鞄であるために、その足取りの覚束なさに危うさを感じた。

 

 

 

「【超高校級の射撃選手】……”風切 柊子(かざきり しゅうこ)”……よろしく」

 

_________________________________________________________________

 

 

 

【超高校級の射撃選手】 風切 柊子(かざきり しゅうこ)

 

 

_________________________________________________________________

 

 

 

 射撃選手、という言葉を聞いて、背中にしょっている物騒な代物について、合点をいかせた。成程、だからスナイパーライフルなのか、と。

 

 

「射撃選手……ってことは、その肩に担いでいるのはーーーー」

 

「そう……私の愛機であり…そして相棒……」

 

「食事をするときも、寝るときも一緒にするほどの仲良しさんなんだよねー!ねー!」

 

 

 水無月の言葉に首を縦に振って怠そうに肯定する。射撃選手らしく、文字通り、愛用の銃とは一心同体と言えるほどの関係らしい。…銃を人のように形容しているのは…今は触れないでおこう。

 

 

「うん……トイレでも一緒……家族同然……」

 

 

 家族にしては、さすがに一緒に居過ぎな様な気もするが……本人がそれでも構わないということなので、多分、大丈夫なのだろう。何が大丈夫なのか分からないが。

 

 

「柊子ちゃんはどうして寝てたの?休憩中?」

 

 

 さっきまでの落合に対して雑な態度とは打って変わって、今回はいつも通りのテンションで会話を始める水無月。

 水無月にも人の好き嫌いがあるのだな、と、超高校級の生徒である彼女の一般的な部分が垣間見えた気がした。

 

 

「疲れたから……寝てた。もう一眠りする予定……」

 

 

 水無月と俺に顔を向けて淡々と語る風切。くどい表現を使わないストレートな発言だが、要は落合と一緒の時間を使い方をしていたようだ。風切のマイペースぶりに”まだ寝るんだ…”と俺は軽く苦笑いをする。

 

 

「……一緒に寝る?」

 

 

 風切の目には、俺達が寝ることにうらやましさを感じている映っていたらしい。一緒にお昼寝でもどうかと誘いを掛けられてしまった。

 気持ちの良い風が吹きすさぶこの場所で昼寝をしたらさぞ気持ちの良いことだろうーーーーと一瞬考えもしたが、心の中でその考えを振り払った。

 

 

「とっても魅力的な提案だけど、公平くんの顔合わせが済んでないからまた後でね!」

 

「俺もさっきまで寝ていた身分だったからな。遅れを取り返す必要があるんだ……悪いな」

 

 

 水無月も同様に考えていたらしく、遠慮の意思を一緒に伝えてくれる。

 

 

「そう……それじゃあ、何かあったら起こして……お休み」

 

 

 そう言葉を残して、再びベンチに戻り寝息を立て始める。目をつぶって数秒で寝たぞ…コイツ。のび〇か?

 まあ、さっき無理矢理起こしてしまったから、その眠気がまだ脳の中に残っていたのだろう。俺は勝手にそう納得することにした。本当に勝手な納得の仕方ではあるが。

 

 

「柊子ちゃんも寝ちゃったことだし!グラウンドに行こっか!」

 

「……ああ」

 

 

 俺達は眠りにつく風切に背を向けグラウンドに足を進めていった。ーーーーもう1人の新入生に会うために。

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラウンドにはボサボサな青い髪をロケットのように突き立てた男が1人、眉間をしかめながら俺は孤独であると言いたげにたたずんでいた。

 

 白衣の袖に通した腕を、がっちりと胸の前で組み、ただじっと空を見上げ続けていた。たとえ大雨に見舞われようが、台風にあおられようが決して動かないという気迫を放ち、脳の片隅にまで残る集中力を微塵も残さず使い切ろうと、空をにらみ続けていた。

 

 俺は逡巡する。限界まで張り切った弦の如くピンっと立ち続けるその男に、軽々しく話しかけて良いものかと。俺という雑念が思考の邪魔になってしまうのではないかと。そう思ってしまった。

 

 

「雨竜くーん!!何やってるのー?」

 

 

 しかし、俺の心の内などどこ吹く風というように、俺とは真逆の感性を持つ水無月は軽いフットワークで男に近づいていく。俺自身も、便乗するように水無月の後を追い、男に近づいていく。

 

 そして……間近まで来て見て分かった。

 

 この雨竜と呼ばれた男、異様に背が異常に高い。さっきの長門も高かったが、同じくらいか、それ以上に高い。まるで人では無く高層ビルを見上げているように錯覚してしまった。

 

 

「……水無月か。ワタシは今、天文学的見地を用いて検証と検討を繰り返している最中だ……あまり話しかけないでもらおうぅ……」

 

 

 天から降ってくる、重みと深みを併せ持つ声色で雨竜という男は水無月を突き放す。やはり俺達は邪魔だったみたいだ。

 

 

「えーでもー……」

 

「雨竜……と言ったな。俺は折木公平」

 

 

 食い下がるように唸る水無月の言葉を遮り、先手必勝と挨拶の言葉を並べてみた。すると、その行動に水無月は少し驚いた顔をしつつも、すぐに笑顔になり、俺の言葉に追従していった。

 

 

「カルタたち以外にもまだ新入生が残ってたんだよ!どう?興味持ってくれた?」

 

「ほう……成程、それは興味深い。我ら以外にももう1人、希望に選ばれし者がいたとはなぁ……ククク」

 

 

 すると突然、”フハハハハハ!”と雨竜は高笑いをし始めた。今まで、重みのある落ち着いた雰囲気を身に纏っていたはずなのに…このテンションの上がりよう。その巨体から放たれるキャラの変容具合に、酷い困惑を持ってしまう。

 

 

「フッ、すまんな。驚かせてしまったかなぁ?」

 

「いや、問題ない」

 

 

 いや、2mを超えるような長身の男に圧のある笑いをされれば誰でも驚くとは思う。

 

 

「ならば重畳……しからば、我が真名を貴様に告げてやろう。ワタシの名は”雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)”!!【超高校級の天文学者】にして、この世界の観測者である!折木よ、つまり貴様の全てはワタシに見透かされていると思うが良い・・・・・・。フフ、フハハハハハハ!!!」

 

___________________________________________________________

 

 

 

【超高校級の天文学者】 雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)

 

 

___________________________________________________________

 

 

 

 天文学者という今まで聞いた中でおそらく最も衝撃的な才能と、頭をうちつけるように降り注ぐ高笑い。正直な話、情報量が多すぎて頭の中はめちゃくちゃだ。だが少なくとも”真名”だとか”世界の観測者”だとか、明らかに通常会話では使わない”カッコよさげな”言語をしゃべるっていることから、雨竜と言う男はもしかしなくても……。

 

 

「なあ、水無月……」

 

「うん!中二病だよ!」

 

 

 水無月に耳打ちで確認を取ろうと思ったのだが、俺が聞いてくるのを予測していたのか素早く応答する。しかしモロに声に出してしまったため、耳打ちで聞いた意味が無くなったことは言うまでもない。

 

 

「ククク……ワタシが中二病?まさか、そのような言葉ごときでワタシを縛ろうなどとは100億光年早いわぁ!!」」

 

 

 もちろん内容が聞こえていた雨竜は、不本意に思ったらしく強めの否定をする。いや……光年は年数では無く距離ではなかっただろうか?

 

 

「ま、まあ一旦落ち着こう。それよりも……なあ雨竜、さっき空を見て何を考えていたんだ?」

 

 

 これ以上の会話は俺の脳内処理速度的にアウトなので、言葉につまりながら話の方向転換をはかってみた。それを聞いて、雨竜は目を細めながら、俺を軽く見下ろした。

 

 

「ほう……貴様はワタシの深淵に触れる気かぁ?ワタシと言う名のパンドラの箱に手をかけるというのかぁ………そうか、そうか・・・そうなのだなぁ……良いだろう…そこまで聞きたいというなら聞かせてやろう…いや、傾聴させてやろう!!」

 

 

 そこまで懇願した覚えは無いが、どうやらお聞かせ願えるらしい。水無月も”聞きたい聞きたーい”と悪ノリをし始め、拍手までしていた。

 

 

「確信をズバリと口にしても良いのだがーーーーまあ、まずは天文学者らしく…プロセスからだ……。質問を質問で返すようで悪いが、貴様らは今あるこの空を見てどう思う?」

 

 

 いきなり…俺達の真上に広がる空について聞かれてしまった。どう答えるべきだろうか、落合とは別の意味で頭を使い…どんな答えを言ったモノかと一瞬迷う。

 

 

「どう思うと言われてもーーーー」

 

「良い天気だよね~、心が洗われるっていうのかな?なんとなく陽気な気持ちにさせてくれるって思うよ?」

 

 

 俺が答えるよりも先に水無月は自分の所感を述べた。水無月らしい、ポジティブな主観だった。

 

 

「俺も……どうなんだろうな、イマイチ掴めた感想は言えないが、かねがね水無月と一緒だ」

 

 

 俺達のフワッフワの答案を聞いた雨竜は”フハハハハ”とまた高笑いを始めた。聞くのは野暮だろうが…そのテンションを続けるのに疲れは出ないのだろうか?若干肩で息をしているように見えるのは、気のせいだろうか?

 

 

「…ふぅ…水無月、そして折木よ。貴様らの意見は実に凡庸だ、本質を理解していない」

 

 

 小馬鹿にした風味を含んだ言葉に、俺は”お前が聞いてきたんじゃないか……”と多少の苛立ちを見せた。

 

 

「じゃあ出題者の雨竜くんは本質を理解しているの?」

 

 

 首をかしげて水無月は雨竜に問いかける。もっともな質問だと、内心頷く。

 

 

「当然だぁ!!!!…と言いたいところだが…現時点では理解……ではなく理解しかけている段階なのだがぁ…………しかぁし、今の段階で結論づける事柄はあるにはある」

 

 

 雨竜はもったいぶるよう態度見せる。答えをを待ち望む俺達へ向け、”単純な答えだ”そう前置きし、告げていった。

 

 

 

 

「この世界の空は、いやこの世界そのものは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                          

 

 

 

                        ニセモノなのだぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【階段(噴水広場~???)】

 

 

 

 カツン、カツン、と音が反響する。足を突き出し、重力に身を任せ、一段、もう一段と下ろしていく。

 

 俺と水無月の間に流れるのはどこまで続くのかもわからないほど深く流れる鉄製の階段を降りる音と、降りた先の下層から今まで俺達が探索を続けていた森林生い茂る空間へと流れる風の音だけ騒がしいとも、静かとも言えない、絶妙な静けさであった。

 

 先ほどまでの大自然が懐かしく感じる。生い茂る木々の緑の匂いや、ゆらゆらと流れる風の感触も音も……今の俺達の周りを囲うのは、規則的に敷き詰められ、生命の一つすら感じることのできない無機質な鉄のチューブのようなトンネル。

 

 『中央棟』へと続く道を進んだ先の、木と木の間に空いた大きな穴を突き進んで行き着いた結果の道。誰かの手によって作られた、都会で育った俺がいつも目にする作られた美しさを持つ、機械的で冷たい空間が俺達の周囲を満たしていた。

 

 ……作られた、と言う点では今までとは何一つ変わっていないのかもしれない。俺は、ほんの数分前に話していた雨竜との会話を思い返す。

 

 

『断言しよう、この世界はオレ達が想像する大自然という物を、綺麗に形作っただけのまがい物……この空も、プラネタリウムのように映像を写し出しているだけぇ……理解できたかぁ?凡人共よぉ…』

 

 

 俺からしてみれば、理解の範疇を超えた、あり得ないと切り捨てることの出来る事項だ。今の時点でも、まだ”本当に、本当にそれで良いのか?”とあやふやな状態である……だけど、どこか納得してしまっている俺も存在していた。

 今までの探索で得た情報や、見て感じた感覚を思い起こし、まとめてみると、雨竜と同じような結論に行き着いてしまうから。

 

 ――この世界の全ては作り物

 

 雨竜だけじゃない、ここにいる何人かは、この考えに行きついているのかもしれない。俺は今まで感じていた、”心が洗われる”といった感情が、今更になって馬鹿みたいに思えてきた。これだから…。

 

 

「雨竜くんとの話、思い出してるの?」

 

 

 難しい顔をして考えにふける俺を見かねたのか、水無月は後ろ向きに階段を降りながら心配の色を含んだ言葉を掛けてきた。”危ないぞ”と言おうとしたが、転ばぬ先の杖といったように手すりに手を滑らせていたので、杞憂と思考し、水無月の質問に答えていった。

 

 

「ああ。雨竜と話す前からもこの世界に妙な違和感はあったが、まさかーーーー」

 

「見える景色ぜーんぶニセモノだったのには驚きだったよね~。まっ!カルタも、なんとなーくだけど気づいていたけどね!!」

 

 

 どやぁ、という効果音が付きそうなほどに、死角で胸を張る水無月。コイツの肩書きからして、本当なのか嘘なのか読み取ることは出来ないが、俺ほど頭を悩ませず、素直に受け入れているということだけはわかった。

 

 

「でもさ。雨竜くん言ってたよね?『しかし、まだオレはこの世界の真実とやらに近づいてはいない。だからこそ今なおも空を観測し続けるのだ!!フハ!フハハッハハハハハハハ、ウェエッ、ゲホッゲホ』ってさ。あれって、どういう意味なんだろうねー?」

 

「えづく部分まで再現しなくても良いと思うぞ……そうだな、単にボーッと見ているだけのように思えたが、どうなんだろう……わからないな」

 

 

 タダでさえあいつの言動にすら振り回され気味なのに、行動の真意を読み取るとなると相当というか、ほぼ不可能に近いのでは無いだろうか。なんせ天文学者なのだし…多分常人では計り知れない思考回路を持っているのだろう。

 

 

「まあいつか分かるよね!そーいう難しいことは頭のいい人に任せて、カルタ達は探検に集中集中!」

 

 

 “お前もその頭の良い方に分類されると思うのだが……”と水無月に聞こえるぐらいの音量でつぶやいてみたのだが……。聞いていないのか、聞かなかったことにしているのか、返事は無かった。

 

 そのまま水無月は正面を向いたまま、先ほどよりも速いペースで階段を降り始めた。

 

 反響音と風の音だけが響くトンネルの中に、雑談という音を加えながら、俺達は階段の奥へとコツコツと、突き進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【中央棟】

 

 

 

 長かった階段にも終わりが見え始め、少しずつだが降りる際に感じる傾斜が低くなっていくのがわかった。そしてトンネルの終わりと見える出口の部分には、らせん状に切れ目が入る近未来的な扉がはめ込まれていた。近づくと、センサーか何かが反応したのか、自動で回転をしながらその口を開いた。

 

 扉の先にあったのは、キレイな円をかたどった広場と、広場の真ん中に鎮座する機械的な装いを呈する大きな柱、そしてこの入り口とは別に壁に埋め込まれた複数の扉であった。

 

 扉にはそれぞれ『2』、『3』、『4』と刻みこまえれており、俺達が今まで居た空間とは別の何かがその先にあることが見て取れた。

 

 

「おやおや?どうやら来客のようだね、キミ」

 

 

 自動扉の音で気づいたのか、中央の柱の側に立つ2人の生徒がこちらに目を向け、そう声を上げた。今まで出会った人数的に、まだ会うことが出来ていなかった最後の新入生であることが分かった。

 

 先ほど口を開いていた男子生徒……恐らく外国人と思われるソイツは、金髪にハンチング帽、茶色のインバネスコート着用した、所謂…英国紳士調の出で立ちであった

 もう片方の、口を開こうか開くまいかと決めあぐねている様子の女子生徒は、灰色のセーラー服に、青色の長いポニーテール、雲居ほどではないが少々小柄な体格。微妙におどおどとした態度と相まって小動物のように見えた。

 

 

「ハローハローニコラスくん。そして司ちゃんも…元気してた?」

 

 

 俺の隣に居た水無月は、聞き慣れた明るい声色で2人に話しかける。水無月のフットワークの軽さもあるが、最後の自己紹介も俺が後手に回ってしまった。多少の申し訳なさを感じつつも、積極的に行こうと、今度は隣に立ってみた。

 

 

「こ、こんにち、は。み、水無月、ちゃん」

 

「ごきげんようミス水無月。そして、名前の知らないキミもごきげんよう?」

 

 

 ニコラス、司と呼ばれる2人の生徒は、水無月からの言葉に気前よく挨拶を返してくれた。見たところ2人とも穏やかな雰囲気で、今までよりは話しかけやすい気持ちになった。

 

 

「俺は折木公平、よろしく」

 

「は、初め、まして」

 

 

 司と呼ばれた少女は、丁寧に頭を下げる。俺も釣られて頭を下げた。何とも微妙な空気感である。

 

 すると、ニコラスと呼ばれた青年は大きく咳き込み、視線を自分に集中させ、続けていった。

 

 

「では諸君、満を持してボクの名を示そうでは無いか!ボクは”ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)”……世間では【超高校級の錬金術師】、と呼ばれているよ」

 

 

 

 

_________________________________________________________________

 

 

 

 

【超高校級の錬金術師】 ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)

 

 

 

_________________________________________________________________

 

 

 

 演劇をしているかのように大げさな身振りを振りかざし、ニコラスは自身の名と才能を告げる。その中で俺は錬金術師、という単語に頭をかしげてしまった。

 

 

「れん、きん、じゅつし・・・・・・・?」

 

 

 現実味の無い、フィクションのようなその肩書きを聞き、当惑してしまう。そのせいなのか、発する言葉も少々不自由になってしまった。

 

 

「ミスター折木。どうやら目に見えて、困惑をしているようだが、錬金術師という言葉に惑わされてくれるなよ?これは異名のようなものさ」

 

 

 異名と言われても的を得ることが出来ず、顔をまた歪める。

 

 

「金属専門の化学者って考えれば楽だと思うよ?」

 

 

 水無月は尽かさず助け船を出す。かみ砕いた表現に俺はやっと合点をいかせ、“なるほど”と声を上げた。

 

 

「その通り!……しかし、ボクの才能はね、それだけでは無いのだよ。何を隠そう、ボクは【超高校級の名探偵】でもあるのさ!」

 

 

 ニコラスの付け加えるような情報のアップデートに、俺は頭を掻く。錬金術師に加えて、名探偵…?また訳のわからない話になってきたと…助言を求めて水無月に目を向けてみるが、どうやら初耳だったらしく、苦笑しか返ってこなかった。

 

 

「ニ、ニコラス、くん……」

 

 

 水無月の代わりに贄波という少女がニコラスのコートをつまみ呼びかけた。

 

 

「おっと!すまないねぇ…いやぁ、ね?キミたち。どうやら、少し高ぶりすぎていたようだ。すまない、1度はこうやって堂々と名探偵と名乗ってみたかったのだよ。良くあることだ、気にしないでいてくれたまえよ。キミ」

 

 

 息継ぎ無しのハイペースなニコラスのまくし立てに、俺はまるで一人舞台を目の前で見せられているように錯覚する。よくまあこんなキャラの濃い留学生をらしき人物を、希望ヶ峰は呼んだものだ。

 

 

「さあミス贄波、次はキミの出番だ」

 

 

 エスコートをするかのように贄波に言葉を掛け、俺達の視線を彼女へと向けさせた。”あ、ありが、とう”と述べ、贄波は緊張をほぐすように深呼吸を2,3回繰り返し、言葉を紡ぐ。

 

 

「え、えと、私は・・・・・・”贄波 司(にえなみ つかさ)”。【超高校級の幸運】、なんだ。よ、よろしく、ね?」

 

______________________________________________

 

 

 

 

【超高校級の幸運】 贄波 司(にえなみ つかさ)

 

 

 

______________________________________________

 

 

 自分の名前、才能についてドモリつつもしっかりと芯の通った声で俺達へ届けた。そして同時に、俺の中で驚きの感情が走った。

 

 幸運とは入学以前に知っていた才能であり、当の自分がその才能であるのではないかと予想を立てていた肩書きだ。だけど…今目の前にその肩書きを持つ生徒がいると言うことは……。

 

 

 ――俺の才能は、幸運では無い。

 

 

 ”特待生”という、完全に独立した肩書きなのだ。あてが外れたという落胆もあるが…自分に秘められている可能性への期待感……それを再確認できたような気がした。

 

 

「ど、どうした、の?折木、くん?」

 

 

 自己紹介を終えた贄波が少々困ったような表情を俺に向けていることに気づいた。様々な感情を巡らせていた所為で、少し顔が強ばってしまっていたみたいだ。俺は”――――いや、何でもない”、と、取り繕うような言葉で、ごまかした。

 

 

「さてミス水無月、ミスター折木。お互いの素性を知ることができたところで、早速質問タイムといこうじゃないか。まず第一に、この空間について何か思うところがあるかい?」

 

「はいはいはーい!ありますありまーす!!ココっていっぱい扉あるよね?アレって何?どこに繋がってるの?」

 

 

 話の内容は一転、この“中央棟”と言う場所についての話へと置き換わる。水無月は相変わらずの積極性でおそろしくざっくりとした疑問をニコラスへと投げた。

 丁度、俺自身も、1~4と数字が刻まれたドアについてやーーーー大きな機械柱にはめ込まれた、赤い扉についても気になっていたところなので、渡りに船のような気持ちだった。

 

 

「グッド!ではその質問にお答えしよう!!……と言いたいところなのだがーーーー」

 

「と、扉は全部、開かない、の。だから、何にも、わからない、の。ご、ごめんね?」

 

 

 何でも聞いてくださいというような勢いはどこへやら、2人は行き詰まっているという旨の言葉を並べていった。贄波はいたたまれないような表情をしているのだが、ニコラスは終始笑顔を貫いていた。激しい温度差である。

 

 

「……じゃあココ『中央棟』については……」

 

「何も分からない!!実に簡単な答えと思わないかね?諸君?」

 

 

 野外炊事場の水無月よろしく、大きな態度で堂々と分からない発言をぶちかますニコラス。凡人の俺には中々出来ない大立ち回りだ、と、心の中でひねたような皮肉を漏らした。

 

 

「しかし、だ、キミ達。ボクとミス贄波は全ての扉を調べ、全ての扉が開かないという調査結果を導き出すことが出来た……これも立派な情報の1つと言えるのだよ」

 

 

 ……まあ確かに、開かないという事実も、情報としてはとても大切なことだが、如何せん態度が開き直ってるが故に…何とも受け入れにくい。

 

 ――――いや、待てよ?俺達が最初にいたキャンプ場のような場所に出入り口らしき道は『中央棟』へと続くトンネルくらいしか無かった。

 

 

 そしてこの中央棟に存在する全ての扉も開かない…となるとーーーー。

 

 

「待ってくれ・・・・・・じゃ、じゃあ、俺達はここから、どうやって出ればーーーー」

 

 

 

『キーン、コーン、カーン、コーン』

 

『新入生のキミタチにお伝えします!至急グラウンド中央にお集まりください。繰り返します、至急グラウンド中央にお集まりください』

 

『くぷぷぷぷ、長ったらしいプロローグはこれでおしまい……と思っちゃうじゃないですカ?残念でした!まだまだ続きス!……楽しみにしていてくださいネ?』

 

 

 ブツリと音が切れ、俺達の周りをほんの少しの静寂が満たした。

 

 

 ……俺達新入生の中の誰でも無い、聞き覚えの無い声だった。

 

 酷く懐かしくも感じる声色であったが……それ以上に、不快というか、怖いといった感覚を俺は感じとった。ほんの少し、体が震えているのがわかった。しかし、何をおびえているのか、何に怖じ気づいているのかは分からない。その小刻みな震えを止めるように、堅く、拳を握りしめた。

 

 

「なになにー?何かのイベントー?」

 

「ああ勿論だとも!!流れ的に見て、恐らく主催者からの挨拶と見たよキミ」

 

「うぉおおおお、何か燃えてきたね!!カルタ絶対優勝してみせちゃうよ!!そうと決まれば……早く行かなきゃね!!」

 

 

 放送に対して思うことが無かったのか、水無月は誰よりも早くこの場を去り、階段を駆け上がっていってしまった。

 

 

「まぁ…何のイベントが待っているのかは…分からないけどね」

 

 

 意味深な発言を残しつつ、ニコラスはゆっくりとした足取りで、階段を上り始めていってしまった。残されたのは、俺と贄波。

 

 

「お、折木、くん。大丈夫?」

 

 

 先ほどのアナウンスから、暗くうつむいている俺を心配したのか、贄波は声を掛けてくれた。

 

 対して、俺は”あ、ああ”と心配を助長させるような返事をしてしまったが…贄波はそんな俺を気遣い、”そっか”と笑顔を向けてくれた。

 

 そして彼女もゆっくりとした足取りでこの場を後にしていった。残されたのは…俺1人。

 

 

 1人になった俺は、心の内でほんの少し不安感と、恐れ、あらゆる負の感情が渦巻かせていた。

 

 ”行きたくない”、”何か悪いことが起きる”、”…不幸を呼び込み続けてきた俺が感じる、防衛本能のような何かが警報を鳴らしているようだった。

 

 ーーーーでも、行かなきゃもっと不幸な目に遭う。ごまかしとも違う核心が、俺の心の奥底にある気持ちが背中を押していた。

 

 

「頼む……何も起こらないでくれ……」

 

 

 そうつぶやきながら、中央棟を離れ、グラウンドへと向かっていった。

 

 

 何も起こらず、平穏な未来が待っていることを信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぷぷぷ、"何も起こらない…?”そんなこと、この世界であるわけないじゃないですカ」

 

 

 

「何か起こるかラ、ワタクシが居るのでス。何かを起こしたいから、ワタクシは現れたのでス」

 

 

 

「つまり……キミタチを待ってるのは、暗くて、むなしくて、生きることすらツラくなるだけの残酷な未来だけなんでス」

 

 

 

「残酷で、最悪な…絶望的な未来がネ…?」

 

 

 

「くぷぷぷぷ、くぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生き残りメンバー:残り16人』

 

【超高校級の特待生】折木 公平(おれき こうへい)

【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)

【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)

【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)

【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)

【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)

【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)

【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)

【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)

【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)

【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)

【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)

【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)

【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)

 




どうもこんにちは、水鳥ばんちょです。
次から、コラム載せます(迫真)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。