ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~   作:水鳥ばんちょ

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第四章『デッド・ボックス・ヒーローズ』
Chapter4 -(非)日常編- 15日目


 

 

 

 

 

 

 

 言葉の聞こえない声が、周りを満たす。

 

 

 知らない人々が、周りを行き交う。

 

 

 今では無い風景が、目の前に広がる。

 

 

 …これで、何度目のことだろうか。

 

 

 もう何度目から、数えなくなってしまったのだろうか。

 

 

 焼き付いたように離れない記憶の風景。

 

 

 夢だとはっきりと分かる、とぼけた感覚。

 

 

 まるで張り付けられたような、浮いた感覚。

 

 

 朧気な世界の中心で、縁日のように賑わう人々の中心で、自分は立ち尽くす。

 

 

 顔の知らない、だけどあったはずの人々が、目の前を交差し続ける。

 

 

 そんな中に、一つ。

 

 

 面影が…あった。

 

 

 また、見覚えのある。いや、今ととても近いような。その姿が。

 

 

 どうしてなのかは分からなかった。

 

 

 何故か、自分は。

 

 

 

 ”大きく、手を上げた”

 

 

 

 手を、上げた。

 

 

 

 瞬間――――だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――バンっ!

 

 

 

 

 

 

 …巨大な爆発音が、耳を貫いた。

 

 

 夢だと分かっているのに、知っている記憶のはずなのに、思わず耳を塞いでしまう。

 

 

 自分だけでは無かった。

 

 

 その音に驚いた人々は、声を張り上げる。そして走り出す。そして頭を抱える。そして呆然と動きを止める。

 

 

 色とりどりに、分かりやすいくらいに、焦りを行動で表わしていた。

 

 

 …気付くと、霧のような黒い煙が、少しずつ周りにたゆたい始めているのが分かった。

 

 

 爆心地は”自分が覚えていた”よりも、とても近かったみたいだった。

 

 

 口を塞いでみた。自分はこうしていた、そう覚えていたから。

 

 

 …記憶の自分は、それで終わる事は無かった。自分のやるべきことは、まだ残っていたから。

 

 

 真っ直ぐに、逃げ惑う人混みを貫くように、面影の元へ…走り抜けて行った。

 

 

 手を届かせるために、少しでも近くにいるために。

 

 

 だけど…距離が無くなるにつれて、面影の輪郭は次第にぼやけていくのが分かった。

 

 

 たどり着くことはできない、そう言い聞かせられているように…

 

 

 

 

 ――――あの場所へ

 

 

 

 ――――あの記憶の元へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四章 デッド・ボックス・ヒーローズ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【エリア1:折木公平の部屋】

 

 

『キーン、コーン、カーン、コーン……』

 

 

『ミナサマ!おはようございまス!!朝7時となりましタ。起床時間をお知らせさせていただきまス!それでは今日も、元気で健やかな1日送りましょウ!』

 

 

 チャイムの音が、意識を覚醒させる。

 

 

 朝だ。

 

 

 朝という時間が、今日という日がまた来てしまった。

 

 

 目を開けなくても、それがハッキリと分かった。

 

 

 ゆっくりと…瞼を開く。

 

 

 ぼやけた世界が最初に見える。もう一度瞬きをして、世界を切り替える。はっきりと、世界を認識する。

 

 

 そして、今やもう見慣れてしまった、自分の部屋の天井を見つめる。

 

 

 そのすがら…ふと、昨日の事を思い出す。自然と、思い出そうと考えてしまった。

 

 

 ――――裁判の後に示された、水無月が例の凶行に走った原因とも言える例の写真。

 

 

 そして、風切の瞳が一瞬だけ捉えた、外の世界の風景。

 

 

 あのとき、俺達は風切にその記憶を思い出して欲しい、一心にそう呼びかけた。

 

 

 だけど…。

 

 

『ごめん…やっぱり気分悪い。…続きは明日にして』

 

 

 彼女はどうしても優れなかった。仕方の無い話だった。

 

 

 水無月の死体蹴りを見た後に、さらには一目で凄惨と表現できるような光景を立て続けに見てしまったのだから。

 

 だからそうやって俺達に返した。だから俺達は、以降、何かを聞く事は無かった。また明日にしよう、別に今話さなきゃいけない訳でもない。

 

 そうして話は終わった。ふらつく風切を支えながら、俺達は裁判場を後にした。

 

 

 だけど実際は、区切りをつけることなんてできていなかった。

 

 

 ――水無月の動機

 

 

 ――沼野の殺意

 

 

 ――風切が見た、写真の内容

 

 

 ――そして雨竜の様子

 

 

  その数々が、自分自身の中で渦巻いていた。

 

  その所為で、部屋に戻っても上手く寝付くことはできなかった。浅い眠りを繰り返し、そしてまた繰り返していった。

 

 おかげで今、俺は半分寝不足気味だった。これから食べるご飯を腹に押し込んだら、また眠くなってしまう知れない。そんな予感のする感覚だった。

 

 だけど、そんな自堕落にすることはできない。

 

 

 別段、特別大事な日ではないのだが、この朝だけは、今日だけは、何もしない訳にはいかなかった。

 

 

 これからのことを、少しでも早く話し合わなければならないから。

 

 

 誰かと、対策を共有しなければならないから。

 

 

 そうしないと、不安で仕方なくなってしまうから。

 

 

 ふぅ…と、区切りをつけるように小さくため息をつく。同時に、起き上がる。

 

 

 誰がいるかも分からない、もしかしたら誰もいないのかもしれない炊事場に向けて、俺は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

【エリア1:炊事場エリア】

 

 

 ふらついた脳みそを携えながら、炊事場へとやって来た。

 

 今までの日々が嘘のように静かなってしまったその場に、1人。

 

 恐らく朝一番にココに来たのであろう小早川が、コクリコクリと船を漕ぎながらポツンと席に座っていた。

 他に、生徒達の気配は見られなかった。

 

 何となく起こすのは気が引けたが…。取りあえず、声を掛けてみる。

 

 

「小早川」

 

「………えっ!…あっ!!折木さん!おはようございます!!ええと…おはようございます!」

 

「あ、ああ、おはよう」

 

 

 瞬間目をパチリと開けながら飛び起きる。そして開口一番に挨拶が2回も飛び出てくる。少し驚く。

 

 見てみると、テーブルの上には食事が並べられていた。キチンと、人数分。裁判を終えてから、数時間も経っていないというのに…。恐らくも無く、彼女が用意したということが一目で分かった。

 

 …いつも通りの事ではあったが…それでもこのいつもが、今だけは身に染みるようだった。

 

 

「…悪いな。疲れ目なのに」

 

「い、いいえ!いいえ!!そんな…ぜ、全然疲れてませんから!!全然大丈夫です!!はい!」

 

 

 さっきまでうたた寝しかけていた姿を見ているので、どう考えても空元気なのだが…あえて触れないようにした。

 

 

「………反町は、まだ来てないんだな」

 

「…はい。今日一日休ませてくれって」

 

 

 いつもだったら誰よりも早く来て、そして俺達に”とにかくメシを食え”と健康を押しつけてくる彼女でも…流石に昨日の出来事はクルものがあったようだった。

 

 

「他の皆もか?」

 

「ええと…皆さんではないのですが…一応ダメ元で、雨竜さんとか雲居さんにも声を掛けてみました…」

 

「…いきなりそんなハードな方から行ったのか」

 

 

 中々に肝が据わっているな…と思った。

 

 

「でも、やっぱり”いらない”って……はぁ」

 

 

 ため息をつく彼女の言葉に、俺は”…そうか”と返すことしかできなかった。

 

 仲間達のコロシアイに、疑い合い、そして騙し合い。息をついたころに何度もやって来るその悲劇。

 

 昨日の裁判を含めて、これまで積み重なってきたストレスに限界を迎えてきても、無理も無いように思えた。

 また起きるかも知れない、また誰かが死んでしまうかも知れない、今度は自分が死んでしまうのかも知れない。その不安が…その身を重くしてしまっているのかもしれない。

 

 だからこそ、彼らの対応が間違っていると、否定できなかった。

 

 

「それでも…態々用意してくれたのか?」

 

「…前に反町さんがやって頂いたことの繰り返しみたいですけど……でもやっぱり、どんなに辛いことがあってもお腹は減るものですし…それに、裁判でお力になれなかった分、こういう時にこそお力添えにと思いまして…」

 

 

 何となく、前者よりも、後者の方が強い理由に思えた。あくまで、彼女の性格からしての考えだが。

 

 

「あと、お師匠も仰っていました!”鯛も1人は旨からず”…と!」

 

「へぇ、良いこと言うんだな。受け売り…ってやつか?」

 

「………………はい!多分そうです!」

 

「……ちなみに、どういう意味かわかってるのか?」

 

「………………はい!勿論です!!」

 

 

 答えは”どんな旨いモノでも1人きりでは不味い。でも大勢で楽しく食べれば一層美味しく感じられる…”という意味である。

 

 …きっと食事時にそのお師匠とやらが口酸っぱく言っていたのを見まねで言ってみたのだろうな。

 

 その言葉をポケーっとした表情で聞く彼女の姿が目に浮かぶようだった。

 

 だけど…今までの修羅場を潜ってきたはずなのに…俺でさえここに来るだけでも、精一杯だったのに…。とそのひたむきさと、明るさをこうやって目にすると、つい涙ぐんでしまうようだった。

 

 

「ど、どうなさったんですか!折木さん!!何か私、気に触るようなことを!?」

 

「…いや、何でも無い。ただお前の言う師匠も苦労してるんだな…って思ってな」

 

「どういう意味ですか!!」

 

 

 …あえて口にしないように言葉を選んだつもりだったが、選択を間違えてしまったみたで、少し怒られてしまった。

 

 

「……――――それでも。ありがとう…本当に…いつも助かる」

 

 

 そう言って、軽く頭を下げる。今込められるだけの、最大の誠意を込めたつもりだ。

 

 

「お、折木さん…そんな、改めて真っ直ぐに言われると…て、照れてしまいますよ」

 

 

 だけどその誠意が伝わっていないのか…何故か両手を頬に当てながら顔を隠す小早川。…いや別に照れるような事を言ったつもりは無かったのだが…。

 

 …どうにも、最近の彼女との交流はかみ合わない。

 

 

「――――あの~、お取り込み中のところ悪いんだけど…ねぇ」

 

 

 そうやって、お互いによく分からない間が在る中で、声がする。向くと、何やら気まずそうに古家が立っていた。

 

 

「古家…!」

 

「あっ!古家さん!おはようございます!」

 

「ちなみに、あたしだけじゃなくて、落合君も居るんだよねぇ」

 

 

 そう言うと、古家は俺達の後ろを指さす。その指先の延長戦、炊事場の椅子に落合が座っていた。今にも、弾き語りを始めそうな体勢であった。

 

 

「……いつの間に」

 

「気付きませんでした…」

 

「朝焼けはいつも美しい。今僕らの心の底に溜まる淀みを、全て浄化してくれそうな程優美さだ。この薄紫色の空の向こうには…一体何があるんだろうね?」

 

「…知るよしも無いんだよねぇ」

 

「贄波を呼んできた方が良かったか?」

 

「贄波さんはまだ熟睡中だったみたいで…返事はございませんでした」

 

 

 そうか…。どうにも俺の解釈だけでは落合とコミュニケーションを続ける自信が持てない。 だけどまぁ…逆に安心するくらいの彼の出だしだな。そう思えた。

 

 

「そ、それにしても…本当に閑散としちまってるねぇ。つい一週間も前だったら、この倍以上の参加率だったんだけどねぇ…流石に昨日のアレで、K点越えしちまったのかねぇ…」

 

「…皆、一杯一杯なんだろう。今日だけは、このメンバーでどうにかしよう」

 

「………」ジャラン

 

 

 古家の蒸し返しに、少し、沈黙が走る。

 

 

「と、取りあえずご飯にしましょう!!このままではご飯が冷めてしまいますからね!!」

 

 

 だけど小早川が慌てたようにこの場を改める。彼女の提案に、俺達は頷きを返していく。

 

 

「…そうだな。用意してくれた小早川に、悪いしな」

 

「早速準備手伝うんだよねぇ!」

 

「何か、という形があるのか、わからない大切なモノをつかみ取るためには、少なからず努力が必要なものさ。だけど…時には待つことも大事なんだよ?何故なら、つかみ取るためには、一握りの運…というものが肝心だからね」

 

「あんたも手伝うんだよねぇ!」

 

 

 それから暫く、用意された食事を含みながら談笑を交わしあう。俺達は短くも充実とした一時を共有し合う。

 

 すると――――

 

 

「……おはよ」

 

「…!風切」

 

 

 少し疲れた様子の風切が、炊事場にやって来た。少し予想外だった人物の来訪に、驚く俺達。

 

 

「か、風切さん!良かった、来てくれたんですね!!どうぞどうぞ!椅子です!座って下さい!」

 

「……ありがとう」

 

「飲み物、どうするかねぇ?お茶?紅茶?それとも、ウーロン茶?」

 

「…え、何でお茶縛り?……でも、ありがとう」

 

 

 あからさまというか…分かりやすい位に手厚い気遣いに、ポーカーフェイスの風切も流石にちょっと引いている。

 何となく此方に”何があったの?”と疑問符が飛んできているように見えた。取りあえず見守ることにした。

 

 

「いやぁ!嬉しいねぇ!1人でも来てくれると、安心感が違うんだよねぇ!」

 

「…………そっか。皆来てないんだ」

 

「雨竜も、反町も、ニコラスも、贄波も、雲居も……来る様子は無いな」

 

「…そっか」

 

「うう…何人かの方には声を掛けてみたのですが…空振りになってしまって…」

 

「そっか…あの扉の音は梓葉のだったんだ…ゴメン普通に寝てた」

 

「確かにそんなことがあった気がするねぇ。確か……5時くらい?」

 

「……そんな早くにか?」

 

「はい!その通りです!!」

 

 

 時間までは聞いていなかったが…。まさかそこまでとは…そりゃあ誰も応答しないはずだ。人によってはキレられそうな時間帯だ。特に雲居辺り。

 

 

「……?でも待て、俺はそんな呼びかけはされた覚えは無いんだが…」

 

「えっ!!…あっはい…えとえと…なんていうか…その…あの…どう説明するべきか。ちょっと、声をかける勇気が出なかったというか…まだ部屋に入るのは、これからを考える上で早すぎるというか…その……」

 

「あー、成程ねぇ」

 

 

 また先ほどと同じように指をモジモジとさせる小早川。ソレを見て何かを察したような古家。

 

 …俺はそんなに声の掛けづらい人間なのだろうか?確かに仏頂面だし、言葉少ななのは自覚してるが…面と向かって言われると少し傷つくものがあるな。

 

 でも…優しい彼女の事だから、もしかしたらもっと深い意味があるのかも知れない。後で古家に聞いてみよう。

 

 

「…話を変えてみても良いかな?そもそも風切さんは何のためにここに来たのかな。詩を歌いに?それとも小鳥のさえずりを聞きながらお昼寝をしに?」

 

「え…普通に食事。…ていうかまだ朝だし、昼寝はまだ早い」

 

「昼寝はする前提なのか…」

 

「あ!!!ごめんなさい、そうでした!!今から風切さんの分もご用意しますね!少々お待ち下さい!」

 

「それじゃあ、あたしも手伝うんだよねぇ」

 

 

 気付いたようにパタパタとキッチンに移動していく2人。それを見ながら目を細める風切。

 

 

「…元気だね」

 

「…アイツらの長所だな。本当に…助かるよ」

 

「……うん。そうだね」

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

 

 

 

 それから、また用意された食事を楽しみながら、雑談に花を咲かせること十数分。

 

 

「風切…そろそろ本題に入っても良いか?」

 

 

 そろそろ頃合いか。そう思い、俺は風切に言葉をかけた。

 

 

「………」

 

「折木さん…?」

 

「昨日の写真のこと、今なら…大丈夫そうか?」

 

「……うん、良いよ」

 

 

 その言葉に風切は分かっていたように頷く。

 

 少し重い空気が辺りを包む。折角和らいだムードに水を刺すようで少し罪悪感を感じるが、それでも話さないわけにはいかない。イヤなことは、さっさと終わらせていこう。

 

 

「もう一度だけ…思い出してくれるか?モノパンの持っていた写真に、何が写っていたのか…。でももし気分が悪くなったら、すぐに思い出すのを止めて良い」

 

「……うん、大丈夫」

 

 

 それから風切り俺の言葉に応えるために、再び昨日の写真の話をしていく。

 

 荒廃した世界…死体の山…くすんだ曇天。…そしてボロボロになった”希望ヶ峰学園”。

 

 

「…前半はともかくとして…後半はもう聞くだけでもおぞましいワードなんだよねぇ…」

 

「ああ、そうだな。そっちについてはあまり考えすぎないようにしよう…。だけど、希望ヶ峰学園…か」

 

「ねつ造写真…でしたっけ?その可能性は…」

 

「だったら多分堂々と見せびらかすハズなんだよねぇ。きっと見せたくない位の本物の写真だから…ああやって勿体ぶったと思うんだよねぇ」

 

 

 小早川の懸念をバッサリと否定する古家。流石はプロフェッショナル、と思った。

 

 

「だとしたら…ああ…希望ヶ峰学園…我らが未来の母校には僕らの預かり知らない何かが、いや、もしかしたら知っている厄災が…はたまた人災が起こっているのかも知れないね」

 

「というと?」

 

 

 いつも通りではあったが、発言が不穏であったために、落合の言葉を深掘りする。

 

 

「…決して逃れることの出来ない”天災”が…世界に降りかかっているのかもしれないね?」

 

「…天災?」

 

 

 彼が返した”天災”というワードに、思わずそう反応してしまう。

 

 前にニコラスと似たような話しをしていたためだ。まさか、あれから数日経って、またそのワードを聞くことになると思わなかった。

 

 だけど…その疑問の声に彼らは気付かず…深刻な面持ちのまま話は続いていく。

 

 

「…うん。どんなことがあったのかは分からない…けど。でも…私達がこの施設の中に閉じ込められている間に外の世界では…」

 

「”何かが起こってしまった”ってねぇ。それこそ、落合君の言う”天災”に近い何かが…ねぇ。うーん」

 

 

 憶測ではあるが…風切の見た写真からなぞらえて、生徒達は考えを示していく。明るい未来の見えない、いくつものマイナスの可能性。どう考えても…そう考えざる得ないいくつもの推測。

 

 すると――。

 

 

「”また”…起こって仕舞ったんでしょうか?…あの…”天災”が」

 

 

 ”また”というワードに、微かな違和感を覚える。視線を彼らに移すも、特に補足が入ることも無かった。さらに違和感は、増幅していく。

 

 

「……断定という言葉は…安易には使いたくないけど…あの世の中だ、可能性が無いわけじゃない」ジャラン

 

「それだけはあって欲しくない…かな」

 

「でも、時期がねぇ…バッチリ、っていうからねぇ…どうしてもねぇ…勘ぐっちまうんだよねぇ」

 

 

 何故か、置いてかれているような…そんな感覚を覚えた。生徒達が交わす言葉の数々。そのどれもが、俺の中に当てはまらなかった。

 

 今彼らは…――――何を言っているのだろうか?

 

 何か俺の知らない、皆が周知している何かが、今飛び交っているように思えた。

 

 でも、ソレを聞いて良いのか…全員が知っていることなのだから…聞く必要が無いんじゃないか?そんな、拒否反応にも似た感覚を感じた。まるで…決して開いてはいけない…開かずの鍵が掛けられているような。

 

 

「その他に、何か気付いた事とかはあったのかねぇ?」

 

「……ううん。ごめん…本当にチラッと見ただけだから、これ以上は」

 

 

 

 そう逡巡するのもつかの間…話は一転していく。俺は疑念を振り払い、意識を輪に戻していく。

 

 古家からそう声をかけられた風切は、分かりやすいくらいに沈んでしまう。これ以上自分に分かることは何も無い…とお手上げの様子だった。

 

 …正直、もう少し要素は欲しかったが、無い物ねだりも甚だしかったことと、彼女の記憶を克明にするのも酷な話、そう思った俺は、”そうか、分かった”と話を切る。小さくありがとう、と言葉を添えながら。

 

 

「それにしても…よくあの状況から盗み見できたもんだねぇ。モノパンのやつ手元でひた隠しにして意地でも見せないようにしてたのに」

 

「写真をひらひらしてたときとかにちらって…盗み見して…それで…」

 

 

 視認できた。というのだから、まさに超人的な反射神経と視力である。

 

 

「とてつもない視力でございます…改めて思いました。風切さんって、本当に超高校級のスナイパーだったんですね…」

 

「…今までなんだと思ってたの」

 

「………お昼寝マニア…でしょうか」

 

「そんな…」

 

「圧倒的今更なんだよねぇ」

 

「はは、落ち込むことは無いさ。きっといつか、君の魅力に気付いてくれている人は必ず存在するさ…きっとね」

 

「………」

 

 

 フォローしようとしているのか、しようとしていないのか捉えにくい意見である。だけどまぁ…確かにそう言われても可笑しくない日々の過ごし方だったのは間違い無い。

 

 その反応に不満げにすね始めた風切を眺めていると…”1つ”、思い出した事があった。いや、今気付いた事、といった方が厳密なのだが。

 

 

「……そういえば。モノパンの奴、今日は来ないんだな」

 

「確かに…ねぇ?いつもだったら裁判が終わった次の日にゃは、あたしらの前に厚い面の皮を張り付けて現れるっていうのに」

 

「…新しいエリアの開放、だっけ…。毎度恒例みたいなアレ…まだ連絡無い」

 

 

 その疑問に、言われてみれば、と生徒達は同じように頭をひねりながら違和感を感じ始める。

 

 

 すると――――

 

 

「あっ!!忘れてしました!!」

 

「…何を?」

 

「これです!!これ!!」

 

 

 何かを思い出した小早川は1枚のメッセージカードらしきモノを慌てて此方に差し出した。

 

 輪の中央に置かれたカードをのぞき込むと、カードには簡潔に『エリア4、開きました』と一言メッセージが添えられていた。本当に、ただシンプルにそう書かれてあった。

 

 のぞき込んだ全員が同時に、顔を難しくする。

 

 

「何コレ…?」

 

「エリア4って書かれてるけど…小早川さん、これはどういった経緯でねぇ?」

 

「今朝炊事場に来た時テーブルの上に置かれておりました!どういう意味なのか分かりませんでしたが、取りあえず預かっておりました!」

 

 

 ハッキリとそう伝えられた俺達は、その突然の出来事に、少し、面食らう。同時に、そんな大事なモノを忘れるなよ…と言いたかったのは内緒だ。

 

 

「…にしてもねぇ、おっそろしい位に今回は手抜きなんだよねぇ」

 

「最初は堂々と宣言しにやってきたと思えば、放送になったり、今度は伝言になったり。手数が多いのは良いが…段々、適当になってきてる気がするな」

 

「世の中はこのメッセージカードくらい簡単な方が良いのさ。僕達人間が住むこの世界という名の箱庭は、あまりにも余計なモノが多すぎる」

 

「たった一文で話をそこまで広げられるのはあんた位なんだよねぇ…」

 

 

 全くもってその通りである。

 

 

「……でも、”エリア4”…だって」

 

 

 落合の様子に呆れながらも、すぐにとうのメッセージに焦点を戻し、風切は静かにそう一言。

 

 

「うーーん。ありきたりな表現かもしれないけど…来るところまで来たって感じなんだよねぇ」

 

 

 続いて出てきた古家の言葉に、俺達は頷く。

 

 確かに、エリア1から始まったと思えば、気付けばエリア4まで開放されて仕舞っていた。

 

 だけどそれは、何人もの犠牲が積み重なってきたことの証左とも言えた。そう考えると、頭の中でその犠牲になった生徒達の顔がよぎるようだった。小さく、誰にも気付かれない位に、唇を噛みしめる。

 

 

「今度は、どんな所なんでしょうね?」

 

「キャンプ場に始まって、田舎みたいな田園、そんでテーマパーク」

 

「…全然予測がつかない」

 

「予測がつかないからこそ人生。未来が分からないからこそ今がある…だからこそその未知を楽しむのもひとしお…僕はそう思うよ」

 

「…お前って悲観的なのか、それとも楽観的なのか?」

 

「僕から言わせてみれば、どちらでも無く、どちらでも無い…かな?」

 

「いや、答えが余計枝分かれしちまったんだよねぇ」

 

 

 まぁこれも落合の良さということで、話は落ち着いた…が。

 

 俺からしてみれば…興奮よりも、怖さが、今度はどんな施設が待っているのか、どんな光景が広がっているのか…肌寒いような、そんな不安な予感が胸を支配するようだった。あえてメッセージカードで伝えるということそのものにも、何らかの意図を感じてしまっている程に。

 

 だからこそ、落合の様にあっけらかんとした気持ちを持つことは出来なかった。

 

 

「…今更ビビっても仕方ないよな。よし、早速エリアに行ってみよう。他の奴らも、来る様子は無さそうだしな」

 

「お料理の方はどう致しましょう?」

 

「…ラップでも掛けとけば?」

 

「そうするかねぇ。あと書き置きと、このメッセージカードも添えとくかねぇ」

 

「良いですね!」

 

 

 そうやって、後から来るであろう生徒達に向けて準備をしつつ…俺達は新エリアへと、足を向けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【中央棟】

 

 

 目の前にそびえる、”4”と記された丸扉。それに対面する…俺、小早川、古家、風切、落合の5人。

 

 緊張した面持ちを張り付けながら、恐る恐ると近づいてみる。すると、扉はシュンと空気を抜いた様な音を立て、素早く開く。

 

 

「確かに…開いてるみたいだねぇ」

 

「…腹くくるか」

 

「既にくくっていますとも!!」

 

 

 今までの事があって多少疑い深くなってしまったために、ちゃんと開いてくれた事に安堵する。そして扉の向こうに現れた階段を、カツカツと弾くようにしながら登っていく。

 

 そのエリア4へと向かうしばしの間…その中で段々と…小さくも明らかな変化が、肌を震わせた。

 

 

「…気のせいかも知れないけど、何か寒くなってきてないかねぇ?」

 

「いや、気のせいじゃ無いと思うぞ。俺も、そう思ってる」

 

 

 そう、寒いのだ。エリア2とは真逆に、とても寒い風が俺達を突き抜ける。

 

 その寒冷さは両腕で体を抱えないと震えが止まらない程で、吐く息も目の前でユラリと白くたゆたっていた。

 古家に至っては何度かくしゃみをしてしまっている。取りあえず懐にあったポケットティッシュを渡しておいた…。

 

 

「うう、手の震えも少しずつ増してきているように思えます」

 

「…そうかな?」

 

「地球の上に立つ僕らに大きな違いは無いように、世界の何処かもまた違いは無いのさ。風の音、星の空、人々の笑顔…ほら、思い起こしてご覧。とても良く似ているだろ?」

 

「ええっと、これってあたしらが少数派なのかねぇ?確かに温室育ちは自覚してるけど、常識の範囲内の体質だと思うんだけどねぇ」

 

「…できれば多数派であってほしいな」

 

 

 だけど風切と落合に関しては、その寒さは何のそのといったみたいで…顔色1つ変えずにずんずんと先陣を切っていく。

 

 落合の場合は世界中を旅していたために、これぐらいの気温差は大した事は無いのだろうが…風切の反応は意外であった。暑いエリア2の時は結構文句を言っていたと思うのだが…。

 もしかしたら、かなり寒い地帯に身を置いていた経験があるのかもしれない。思い起こして見れば…前に、山奥に住んでたとか何とか言っていたような気もする。

 

 と、懐かしくも無い位の事を思い出しながら、冷ややかな風を肌に滑らせている間に、俺達は入口にたどり着く。

 

 そこで俺達はエリア4へと繋がる扉を見て、驚きを露わにした。

 

 

「うわわわわっ!!見て下さい!!入り口に氷が張ってますよ!!こう、じわっとした感じに!!」

 

「…入口から冷気が漏れてるのが見える」

 

「中はかなりの寒さ…みたいだな」

 

「ひえぇぇ…もう既に探索する気概が無くなっちまいそうなんだよねぇ」

 

 

 …道中で何となく分かっていたが、やはりエリア4は相当な寒冷地帯のようだった。その証拠に目に見えるほどの冷気が入口から漏れ、氷は入口の周りを浸食していた。

 

 

「暑い、涼しいに続いて、寒い…まさに春夏秋冬、四季折々…この世の美しさをひとまとめにしたようだ」

 

「しき…おり…おり?」

 

「一個前の言葉と同義だ。…多分、あえてそういう風に作られてるんだろうな」

 

「…無駄に凝ってる」

 

「気温差の所為で風邪を引いちまいそうだし、既にくしゃみが止まらないときてるんだよねぇ…ああ、先が思いやられるんだよねぇ…」

 

 

 俺達の時間感覚を狂わせるためなのか…はたまた特に意味は無く、単なる設計者のこだわりなのか。一体何のためにこんな施設を作ったのかすらわからないというのに…謎がことある毎に増えていくようだった。

 

 ただ分かるのは、このままだと本当に風邪を引いてしまいそうだということだけだった。

 

 

「…?これは」

 

 

 見てみると、他の入口とは違う際に気付く。物かけが、そこにあった。かなりの厚手のコートが吊す、物かけが、入口の側に取り付けられていたのだ。そしてその下には、厚底のブーツも。

 

 

「ええと…『このエリアに入られる際は、このウィンドブレーカーとブーツをご着用下さい』…ねぇ。一応あたしらへの配慮は利いてるみたいだねぇ」

 

「…そうだな」

 

「でしたら早速羽織りましょう!このままではエリアに突入する間もなく凍え死んでしまいそうです!」

 

「…大袈裟すぎ。私はいいや、靴だけで」

 

「ええ…マジなのかねぇ。落合君は?」

 

「同じく、かな?世界の声は自分自身の肌で常に感じていたい…そういうポリシーが僕にはあるのさ」

 

「…靴も要らないのか?」

 

「……」ジャラン

 

「凍傷には気をつけろよ?」

 

 

 と、いうことなので、戦慄しつつも2人を除いた俺達はウィンドブレーカーとブーツを着用していく。そのおかげで、先ほど感じていた寒さが嘘みたいに無くなってしまう。寒い寒いと言っていた2人も同じように、顔色を良くしていた。

 

 

「じゃあ、行くか」

 

「そうだねぇ」

 

「はい!!」

 

「…おっけ」

 

「………」ジャラララン

 

 

 エリアに入る前の準備を終えた俺は、彼らの様子に頷く。…そして、新しい世界への第一歩のために、入口の扉を開いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

【エリア4:入口】

 

 

「うひゃー、こりゃおったまげなんだよねぇ」

 

 

 入口を出た先に待っていたのは、一面の白銀…すなわち雪であった。

 

 エリア1に負けず劣らずに植えられた針葉樹林。そして茂る森林に被さる雪。

 

 時々ドサリと落ちる雪の音が、その密度と重さを伝えてくれるようだった。

 

 

「”こーと”で寒さに備えているはずなのに…うう…何故か凍えてしまいそうです…」

 

「…この位じゃまだ足りないくらい、このエリアが低温なんだろう。耐えられないなら、戻っても大丈夫だぞ?」

 

「…!い、いいえ!そんなことはございません!!…ええ!決して消沈などしていませんとも!!さぁさぁ皆さん!参りましょう!!」

 

 

 そう言ってザクザクと整備された舗道に積もる、浅い雪を踏みしめていく小早川。

 

 

「ありゃりゃ、なんか変なスイッチ入っちまったかも知れないねぇ…」

 

「…責任問題?」

 

「…確かにちょっと言い方がキツかったかも知れないな」

 

「いいや、この世には間違った事なんて何一つだって無いさ。間違って聞こえるのは、人が人を思い違ってしまうからさ」

 

 

 落合の励ましらしき言葉に苦笑い。少し、言い方がキツかっただろうか?

 

 …だけど、先ほどの小早川の言う事も分からなくも無かった。このエリアを包み込む雪を作り出した、この寒さは相当であり。服の隙間から感じられる小さな冷気の所為で、かじかんで、今にもしゃがみ込んでしまいそうになる位だ。

 

 

「…とにかく、小早川に付いてこう。見たところ、道も整備されてないみたいだし、見失うかもしれない」

 

 

 そう、先ほど整備されているとは言ったが、エリア1やエリア3ののように几帳面にではなく…森林の獣道を無理矢理道として、切り開いたような、山のハイキングコースのような曖昧具合であった。

 

 だからこそ、小早川が先んじてしまったら…最悪遭難する危険性がある。

 

 

「ああ~確かにねぇ。一応エリアにも果てはあるから良いけど、迷子になられたらねぇ」

 

「なぁに、人間は誰しも人生の迷い子さ。何処かで行き違ったとしても、この空の下に居る限り、会えない事なんてあり得ないのさ」

 

「…迷いすぎに注意。それよりも早く行こ、梓葉を本当に見失いそう」

 

 

 俺達は風切の言葉を聞いて慌てながら小早川に追いついていく。そして彼女を先頭に、縦並びになりながら森をかき分けてゆく。

 

 

「あ!見て下さい!!」

 

 

 先頭を歩く小早川は何かを見つけたらしく、足を速める。

 

 

「…看板?」

 

 

 目の前に立てられたその”看板”であった。小早川は降り積もった雪を振り払い、表面に書き込まれたソレをのぞき込む。

 

 

「みたい…ですね。ええと…右に行くと『水管理室』、真っ直ぐに行くと…『ホテル・ペンタゴン』?…」

 

「水管理?…何かお堅い感じ」

 

「ホテル…と言ったら、あのホテルかねぇ?」

 

 

 聞き慣れない単語に首を傾げつつも、その言葉の意味を解釈していく。

 

 

「うーん、どちらも気になりますけど…」

 

「…どっちが近いんだろう?」

 

 

 生い茂った木々の所為で、看板に書かれた設備がどんなモノかも遠目では分からないし…そこまでどれ位在るのか分からない。故に、どちらも未知の状態から手探りで探索していくことになる。

 

 

「…分かれて、行動するかねぇ?」

 

 

 ココに分岐点があるなら、人数を割いて探索していくのが効率的な方法だ。だからこそ、古家の意見には賛成である。

 

 

「僕は思うんだ。この旅路というものは、それほど急ぐモノなのかな?落ち着いて、そしていくつもの視点を得ることで、見つけられる真実も、増えていくと感じはしないかい?」

 

 

 だけど、落合はそのニュアンスからしてだが、反対のようだった。

 

 …すると。

 

 

「…まぁ、確かに。別にそこまで調査を急いでる訳じゃ無い」

 

「そうですね!!落合さんの言うように、皆さんでゆったりと余裕を持って探索していきましょう!!」

 

 

 女性陣側はその落合の意見に賛成みたいで…エリア3の時のように全員で行こうと加勢していく。その話を聞いた古家は成程、と一言。

 

 

「多数決的に考えるなら、仕方ないねぇ。…全員って方向性でいくとするかねぇ……ええと、じゃあどっちに行くとするかねぇ?」

 

「ホテルに行きましょう!!ホテルに!!!何だか暖かそうな趣を感じますし!!」

 

「…え、そういう感じで決めるの?」

 

「良いんじゃ無いか?小早川らしいしな」

 

「じゃあ…決まりだね」ジャラン

 

 

 そういうことで。小早川のささやかな独断で、ホテルに行くことに決まった俺達。

 

 看板に書かれた『ホテル・ペンタゴン』たやらが在ると思われる矢印の方向へ。また森林をかき分け、目標地点へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

【エリア4:桟橋~ホテル・ペンタゴン前】

 

 

 看板の矢印に従い、真っ直ぐとまだ見ぬ『ホテル・ペンタゴン』へと向かっている途中の事。

 

 俺達は、森の出口らしき”開き”をやったとついたか、とそう思った矢先のことだった。

 

 

「お…おお……」

 

 

 俺達は立ち止まり、思わず驚嘆の声を漏らしてしまう。

 

 何故なら…その開きの先にあったのは…。

 

 

「――――――が、崖」

 

 

 そう”崖”であったのだ。

 

 幅跳びの要領で飛び越えることは決してと思えない引き裂かれた地面。

 

 確認しなくても、落ちればきっとひとたまりも無いと、そう思い知らされるほど底の見えない奈落。

 

 一目見ただけで、血が冷たくなるような、恐怖と思われる物が湧き上がるようだった。

 

 

「それにこれって…橋?」

 

「しししし、しかもただの橋じゃないんだよねぇ…吊り橋なんだよねぇ…」

 

 

 だけどそこにあったのは何も、崖だけでは無かった。水の無い岸と岸を繋ぐ、唯一の通行手段とも言える…吊り橋がそこにあった。目算で言うと、大体50メートル行くか行かないか位のサイズ。

 しかも、ドラマなどでよく見るような、見るからに落ちそうな雰囲気を醸し出す、木と紐で構成された古びた桟橋であった。

 

 

「………引き返す?」

 

「賛成なんだよねぇ!」

 

 

 そう言って、後ずさりしてしまうのも仕方なかった。今目の前には、暗闇が口を開けて待っているような崖に加え、どう見ても不安の残る作りの桟橋のみ。

 

 ホテルに行くのに、何故こんな試練のようなモノをクリアしなければならないのか。もし落ちたら最後、きっと命は無い。ただでさえ命のやりとりをしてきた後だというのに、こんな物理的な恐怖なんてイヤでイヤで仕方ないハズだ。

 

 だけど…。

 

 

「いや、一度決めたからにはホテルまでは頑張ろう。今このエリアを探索するのが、俺達の負うべき役目なんだからな」

 

「同感です!!勿論私もお供しますよ!」

 

「安心とは、満足と同義では無いのさ。満ち足りた人生を歩むためには、時には危険に自らを追いやることもまた必要なのさ」

 

「…あばーー」

 

「ひぇぇぇ…責任感が、押し寄せてくるみたいなんだよねぇ・・」

 

 

 その前向きなのか、向こう見ずなのか分からない様なその言葉を受けて、古家達は顔を引きつらせる。もう進むしか無い、そんな雰囲気になっている事を察したようだった。ちょっと、申し訳ない気持ちになる。

 

 

「…ま、いっか」

 

「こ、こういうときだけは初志貫徹を曲げて欲しかったんだけねぇ……でもねぇ…そこまでの気概をみせられちゃあねぇ…あああ~~~ナンマイダーナンマイダー、主よどうか臆病者なあたしをお守りしたまえ~~」

 

 

 軽く流す風切とは対照的に、そ様々な宗教をミックスさせたような念仏…所謂、願掛けみたいなモノを唱え始める古家。

 

 …よし。どうやら満場一致のようだ。

 

 

「大丈夫ですよ!!吊り橋と言っても、結構頑丈そうだし。万が一にも、落ちることはないハズですよ!ほら!見て下さい!!」

 

 

 そういってグラグラと橋を揺らし、強度を見せつける小早川。いや、どう見ても揺れてる。すっごいギシギシいってる、その行動はむしろ不安を煽っているようにしか見えない。

 

 古家の念仏もさらに勢いを増す。手から火が出るのでは無いと言うほどこすり始めていた。

 

 そしてすぐに、小早川は揚々とした態度で先導する。恐る恐るながらも、俺達も続いていく。

 

 

 

 その途中。

 

「ああ、足が…!足が動かないんだよねぇ!やっぱり…やっぱり引き返した方が…!」

 

 橋を渡っている途中にも関わらずそんな弱音を吐く古家がいたり。

 

 

「新坐ヱ門…トロい。早く行って…」

 

「だだ、だからといってあんたの背中のチャカをあたしの背中に付けないで欲しいんだよねぇ!!」

 

「チャカじゃない。ライフル」

 

「どっちでも良いんだよねぇ!!一応聞いて置くけど、本当に!…それって実弾入って無いんだよねぇ…!?」

 

「それは本当。ただ高速でゴム弾が飛んでくるだけ」

 

「それはそれで痛いんだよねぇ!?」

 

 

 持っていたライフルを古家の背中に突きつけ、脅すように歩かせる風切がいたり。

 

 

「大丈夫ですよ!!この小早川梓葉が先陣を切り!!そしてつゆ払いをしてみせますとも!!」

 

「…小早川前には誰も居ないぞ」

 

「間違えました!この橋が崩れても、この私が盾になりますよ!!」

 

「いや崩れたら全員逝くぞ…」

 

「はっ!でも待って下さい!今私の後ろには折木さんが…!ということは、俗に言う吊り橋効果というのも期待できるのでは…?」

 

「話を聞いてくれ…頼むから…」

 

 

 何処にそんな自信があるのかズカズカと力強く橋を踏みしめる小早川がいたり。

 

 

「旅は道連れよ世は情け。と言う言葉があるよね?…これは僕の所謂、座右の銘の1つなんだけどね。それを今僕は直に体感している気がするんだ。本当に、嬉しくて仕方ないね」

 

「だからといって俺の服を掴んで、本当に道連れにしようとするな…歩きづらい」

 

 

 暗に、落ちるときは一緒だよと道連れ覚悟で俺の服を思いっきり掴む落合がいたり…。

 

 

 …そんな紆余曲折はあったが。何とか俺達は、無事に渡りきる。

 

 

 疲労困憊の中であった俺達は、少し休憩し。そして橋の先にあった森林の続きの中の探索を再開した。

 

 目的であるホテルを目指しながら…また、申し訳程度に整備された林道をかき分けていく。

 

 …そしてもう一つの森に入って数分。開けた所に出た俺達は、目の前にそびえるホテルと思わしき、”平べったい大きな施設”を目の当たりにした。

 

 

「はぇぇ…これが…『ホテル・ペンタゴン』…かねぇ」

 

「…中々荘厳」

 

「ああ…どう見てもこのエリアの核、といった所だな」

 

「気になりますね!」

 

「やったとたどり着いた先にあったのは…そう。僕らが生まれた頃から持ち続ける好奇心を刺激する何か。面白いね、本当に、人の心というモノは」

 

 

 思いのほかでかく、そして堂々と佇むホテルを目の前にして、感想を一言。

 

 デザインは見るからに日本風では無く、英国の、つまりはバロック式の左右対称の建物であり。その美しさ故に、感想の殆どは、感嘆であった。

 

 だけど、見たところ普通のホテルのように2階、3階があるわけでは無く。旅館のような平屋になっているみたいだった。

 

 …そんな風にして、言葉を並べるのもつかの間。俺達は心の準備を整え、扉へと手をかける。そして、このエリアの核と思われる、『ホテル・ペンタゴン』へと足を踏み入れていった。

 

 

[newpage]

【エリア4:ホテルペンタゴン『エントランス』】

 

 

 ホテル探索の第一歩。その先で俺達は立ち止まる。

 

 

「おお……!」

 

 

 そう、初見の小早川は一言口にするのだが…。

 

 

「…結構こざっぱりしてるんだねぇ」

 

 

 古家の言うとおり、こざっぱりとした、至って庶民的なビジネスホテルのエントランスといった、様相であった。

 

 小さな花瓶が乗ったガラスの机を、四方から囲むように並べられたソファ。

 

 そして奥にはフロントらしき茶色い長机。壁際には、俺達が入ってきたドアを含めて4つ、四方に張り付けられていた。

 

 あの見た目のからには、中はどんな豪奢な作りをしているのだろうか…と少し身構えて施設の中へと踏み入れてみたのだが…思ったよりも肩透かしな印象であった。

 

 

「いいや。こんなシンプルさもまた良い物なんだよ。朝にも言っただろう?物事はシンプルな方が良いって…。つまり、余計なモノを全て取っ払った先にあるただ一つこそが、究極…そういうことなのさ」

 

「…余計なモノが一杯付いている人が何か言ってる」

 

 

 と辛辣な風切の言葉はあったが…俺は共感していた。もしも扉の先に見た目通りの豪華な内装が施されていたら…何だか落ち着かないというのが正直な話だった。

 

 変にジャラジャラとしているよりも、こうゆう無駄を取っ払った素朴な方が、俺の性に合ってる…そう思った。

 

 何て…そんな俺の好みの話なんて置いておいて…とにかく探索だ。

 

 ”さて、何から調べてみたモノか…”

 

 そうやって周りに目を走らせていると…。

 

 

「…あ!!!折木さん!電話です!!電話がありますよ!!」

 

「ほ、本当なのかねぇ!」

 

 

 小早川の”電話”という単語に引かれた俺達は、このエントランスの奥に置かれてたフロント前に集合した。

 

 見てみると、確かに机の上には電話がのっかっていた。しかも、コードが繋がれた、電気の通っている状態で。

 

 だけど――。

 

 

「いや、”ダイヤル式”って…いつの時代のなのかねぇ」

 

 

 そう昔の映画やアニメに登場するような…10個の丸い穴が付けられた子機が、そこに置かれていた。時代遅れな性分を自覚している俺ですら、古いとさえ思った。

 

 

「ええっと…どうやって使えば」

 

「お前の師匠はこのタイプは使ってなかったのか?」

 

「お師匠はこのタイプでは無く”すまーとふぉん”派だったんです!!」

 

「…最先端なご老人だったんだな」

 

「…新坐ヱ門は使える?」

 

「あたし、ボタンタイプのしか使ったこと無いんだよねぇ……変にいじくって見ず知らずの人とかに繋がりたくないんだよねぇ…だから、パス」

 

「知らないものを知ることはとても大切なことさ。だけど、知っていることをまた知ると、その深みというモノも感じ取れると思うんだ」

 

「…使い方分かるの?」

 

「その答えは、君自身が知っているはずさ」

 

「……はぁ、頭を打ち抜きたい」

 

 

 オロオロとどうしたら良いのかと慌てる小早川達。それに何だか意味も無く殺気立っているようにも見える。

 

 …その様子を仕方ないと考えた俺は、横からかっさらうように受話器を手に取り、ガラガラと音を立てながらダイヤルを回していく。

 

 

「…何で使えるの」

 

「慣れてるだけだ。祖父の家がこのタイプだったんだ」

 

 

 断じて、俺が時代遅れの人間であるから使える…そういうわけでは無い。というかそう思われそうだったから一歩引いていたのが本音だが…流石に見てられなかった。

 

 

「ええと…どこに掛けようとしてるのかねぇ?」

 

「実家だ」

 

 

 自分の記憶の中で最も明確で、そして俺自身が最も安否が気にしている電話番号を入力していく。

 

 ボタンを押し終え、そして淡い期待を胸で踊らせながら、受話器を耳に当てる。

 

 周りの生徒達も、緊張した面持ちで此方に注目する。密かなれど、大きな緊張が胸を打つ。

 

 

『ツー、ツー、ツー』

 

 

 だけど聞こえてきたのは、呼び出しのベル音ではなく、機械的な信号音。これはつまり、どこにも繋がっていない、という合図。

 

 緊張の糸が切れたのと同時に、ため息を漏らす。そして俺は全員に、ダメだったと首を振って伝える。

 

 

「………そう、ですか」

 

 

 周りから落胆の声が上がる。だけど何となく予期していたのか、それほど暗い雰囲気は感じられなかった。まぁ、こんなことだろうといった様子だ。

 

 …あのモノパンが、こんな堂々と外へと繋がるかも知れないホットラインを残しておく訳がない。悲しい話だが、これも仕方の無いことだ。

 

 それに俺達は今まで、それ以上の最悪のケースを目の当たりにしてきたんだ。この程度で一喜一憂するほど、やわになっていない。

 

 

「くよくよしても仕方在りません!もっと別の場所を探索していきましょう!」

 

「そうだねぇ。もしかしたら、他にも何らかの手段がひょっこり出てくるかも知れないからねぇ」

 

 

 案の上、すぐに切り替えていこうと別の部屋の探索へと乗り出す生徒達。だけど心の奥底では不安に思っていたのか、少し安心の気持ちが顔を出す。

 

 

「………」

 

 

 だけど、気になるのは。あの電話…ホットライン自体はまだ生きていた。つまり、まだどこかに繋がっている可能性はあるように思えた。

 

 …なのに、番号を入力しても、何処にも繋がらなかった。

 

 

 だったら…一体、あの電話は何処に繋がっているんだ?この施設の何処かに繋がっているのだろうか?

 

 俺は、小さな疑問を抱く。

 

 だけどそんな疑問も考え込む暇も無く、生徒達は次の扉へと…入口から見て左の扉に手をかけていた。

 

 俺は慌てて、ホテル内の探索を再開する生徒達の背中を追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア4:ホテルペンタゴン『通路 with 個室』】

 

 

 扉を開ける。その先には、少し曲がった通路があった。

 

 通路の外側…つまり入ってきた側から見て”左側”に2つ、奥の方にドアが1つ張り付けられていた。

 

 

「…ドアの後にまたドア」

 

「ぞ、増殖しているようでございます…一体どれから調べていけば…」

 

「まぁ急がず、1つ1つ潰していくしか無いねぇ」

 

 

 そう言って迷い無く、身近に張り付けられた左側のドアを攻めていく古家。彼の後に続いて、その部屋の中をのぞき込む。

 

 

「個室…みたいだな」

 

「ホテルって言うからねぇ、そりゃ個室ぐらいあるよねぇ」

 

「…でも見たところ、私達のログハウスと大差ない」

 

「本当ですね!」

 

 

 彼らの言うとおり、個室は俺達の部屋と同じように、ベッドに机、トイレにシャワールームがついていた。それ以外に別段変わったところは無かった。

 

 強いてあげるとするなら、個室の内側からは、”手動”で鍵を掛ける仕組みになっているようで。そして外側からも同様で、鍵穴があった。

 肝心のルームキーについては、部屋の中を入ってすぐ側の壁に、カランと不用心に掛けられていた。…といっても金品なんて盗む奴なんて何処にも居ないわけだけども。

 

 だけどこれで、最低限のプライバシーは守られることは分かった。

 

 

 次いで、外側に張り付いたもう一個のドアも調べてみたが、それも先ほどの個室と同じ様相であった。

 

 

「どうやらこの安らぎの館の通路は…全てこんな風に個室が取り付けられているようだね」ジャラン

 

「…そうなのか?」

 

「ああうん、そうだねぇ。この通路に来る前に、対面のドアもチラ~っと開けてみたんだけど…ここの通路と同じ感じだったんだよねぇ」

 

 

 成程…どうやらこういった通路の外側には個室に繋がっているドアがあるらしい。つまり、この平べったいホテルは、通路が個室フロアになっている…しかも、1つの通路につき2つずつ。

 

 ある程度の探索を終え、納得した俺達は…個室とは繋がっていない奥の方のドアへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア4:ホテルペンタゴン『医務室』】

 

 

 通路を抜けた部屋の中は、膨大なアルコールの匂いが充満していた。

 

 普通とは違うその環境に一瞬、顔をしかめる。

 

 だけどすぐに、ココが学校の保健室のような、医療設備であることが理解できた。

 

 

「どっからどう見ても…保健室なんだよねぇ」

 

「…うん」

 

「懐かしい感じではあるな」

 

「そうですね!よく先生に匿って貰ったことを思い出します!!」

 

「…何に?」

 

 

 …綺麗に埃が掃き取られた青いタイル状の床に、傷一つ無い真っ白な壁。整然と並べられた2つのベッドとその間を通る薄めのカーテン。

 

 部屋の隅っこに置かれた事務机に、のしかかるように壁に張り付く大きな棚。棚の中には、消毒液やら、家庭用薬品やら、プロテインやらが、段々に敷き詰められていた。

 

 そして、エントランスと同じく、ホテルの内側へと繋がるドアがまた張り付けられていた。

 

 

「…救急箱も、あるみたいだな」

 

 

 扉については最後に調べるとして。棚の一番上の段には赤い十字マークが印字された白い箱が気になったの俺は、試しに取り出してみる。

 

 

「道具も一式揃ってるねぇ」

 

「ではどんな大けがでも、たちまちに対処できる!ということですね!」

 

「流石に限度があるんだよねぇ…」

 

「例え計り知れない傷であろうと、例え深く刻み込まれた闇の刻印であろうと…浄化することができる…とおいうことなんだね」

 

「だから限度があるって言ってるんだよねぇ!!後半に至ってはもうどうしようもないんだよねぇ!!」

 

 

 …それに加えて、今も絶賛傷を増やしている…とは言わない方が良いのだろうか?いや…言ったとしても軽く流されそうではあるが。

 

 

「うーん、30点。固い。…個室のが良い」

 

「いや何で勝手にくつろごうとしてるのかねぇ…それにこうゆう施設のベッドに品質は求めるものじゃないと思うけどねぇ…」

 

「……zzz」

 

「寝るの早すぎなんだよねぇ!品質と体質はイコールじゃなかったんだよねぇ!!」

 

 

 ベッドに横たわろうとする風切を無理矢理起き上がらせ、俺達はまた次の部屋へと繋がる通路へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

【エリア4:ホテルペンタゴン『食堂 and キッチン』】

 

 

 医務室から繋がれた通路を抜けた部屋からは、アルコールでは無くとても良い匂いがした。

 

 嗅いでいるとつい腹の虫が鳴いてしまうような。そんな匂いが。

 

 見てみると、部屋には大きめのテーブルに兄妹のように並べられた椅子が数個置かれ、部屋の奥の方には横長にくりぬかれた壁…さながら受け渡し口の様な”空き”があった。

 

 この、また学校で見た事のあるような、特に昼ご飯などを取るのに利用するあの場所に似ている…という既視感があった。

 

 

「食堂…?だよな」

 

「です、ね。……あー、壁の向こうにはキッチンも…あるみたいですよ!ええと、コンロに冷蔵庫、オーブンにトースター、炊飯器…設備も申し分なしですね!」

 

「本当だねぇ。えらく整ってるんだよねぇ。あー…冷蔵庫の中もちゃんと食材が揃ってるねぇ……それにしても、こんなエリアの隅っこみたいな所の食材にまで気が配るなんてねぇ」

 

「……本当に1匹なのか怪しい」

 

「本当に1匹であって欲しいがな…」

 

 

 小早川を先頭にして、キッチンを中心に調べていく俺達。…確かに、彼らの言うとおり、この食堂はエリア1の炊事場に負けず劣らずの設備に加え、色とりどりの食材などが蓄えられているようだった。整いすぎて、何故ここまで気合いが入っているのか疑問に思ってしまうくらい。

 

 まぁホテルと銘打っている訳だし、神経を注ぐのも分からなくも無いが。

 

 ……だけど、何というか、この感じ。最初にこの巨大な施設、ジオ・ペンタゴンに初めて来た時と同じ感覚。あの気持ちが蘇るようだった。

 

 

「人の心と体はとても深く…そして密接に繋がっている。だからこそ、誰も見ることができない心を、その体がつまびらかに表現してくれる。そうは思わないかい?」グゥ…

 

「…あんた朝ご飯食べたばっかりじゃないのかねぇ」

 

「人は時に、限界というものを超えていく存在なのさ」ジャラン

 

「…限界なの?それ…」

 

 

 だけど他の生徒達…というか落合が蘇らせたのは別の感覚でだったようで。

 

 どうやら、この食材の匂いに釣られて…生徒達はお腹に手を当てていた。腹が減っている…のジェスチャーである。。

 

 

「でしたら!!折角なので何か作ってみましょう!」

 

「…良いのか?」

 

「勿論ですとも!折木さんも是非お召し上がり下さい!!」

 

「へぇ!だったらあたしもご相伴に預かろうかなぇ…ちなみに小早川さん。今回は何を作ってくれるのかねぇ?」

 

「よくぞ聞いてくれました!!ここはやはり、腕によりをかけた師匠直伝の”ふるこーす”…すなわち和食中心の満漢全席なるものを…!!!」

 

「いや、そこは軽食で済ませてくれ」

 

「…賛成」

 

 

 …と、偉く気合いの入って目に炎を浮かべる小早川を落ち着かせ。彼女の作ったメシで軽く腹を満たす俺達。そしてすぐに、また別の部屋へと場所を移していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア4:ホテルペンタゴン『娯楽ルーム』】

 

 

 続いてやってきた部屋は今までの設備と大きく雰囲気が異なっていた。

 

 紫色の床に、金色が張り付けられた天井。部屋の輪郭を沿うように走った蛍光ランプ。

 

 そして部屋の隅々に並べられた…ビリヤード台、スロットマシーン、雑誌掛け、ダーツ、それと場違いな感じはあるが掃除用具を入れるためのロッカー。

 

 …先ほどの落ち着いた雰囲気とはまるで違う。チャラチャラと、そしてキラキラとしたむしろ逆の感じの部屋であった。

 

 

「へぇ…このホテルって、ゲームセンターも完備してるんだねぇ」

 

「…ゲームセンターというよりは…遊技場に近い」

 

「そう、みたいだな」

 

「如何にも、大人な遊びができる…という感じですね!」

 

「それちょっと語弊がある言いなんだよねぇ…」

 

 

 食堂や医務室の様な必需さは、ここからは特に感じられなかったが…それでも極寒の表ではなく室内で楽しく遊べる場所…そのための部屋に思えた。

 

 

「…遊べるのは分かったけど。ちょっと辺境過ぎる気がする」

 

「………」

 

 

 もっともに思えた。俺達が寝泊まりしているエリア1から、ここはかなり距離がある。だのに、態々こんな微に入り細を穿った作りに、何らかのこだわりか…もしくは意図を感じざる終えなかった。

 

 

「それもた娯楽なのさ。良く言うだろう?待ち望む出来事は、その前…準備をするときがとても楽しいと…ここはそういう施設なのさ」

 

「…態々ウィンドブレーカーに着替えて、雪の森とか吊り橋を越えてねぇ?」

 

「それもまた人生さ」

 

「無理矢理人生に落とし込まれたんだよねぇ…」

 

「まるで落とし穴みたいな話だな…」

 

 

 と、たわいも無いやりとりをする俺達は…微かな疑問を残しつつ、この娯楽室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

【エリア4:ホテルペンタゴン『ランドリー』】

 

 

「ここは…」

 

 

 娯楽室に繋がる通路を抜けたその部屋。

 

 …壁際にみっちりと並べられた、透明な半球が張り付いたいくつものドラム型洗濯機。直角方向に同じように並べられたまたドラム型の乾燥機。

 

 そして大きめのテーブルに、足にキャスターの付いた洗濯籠が数個。

 

 …見て分かるとおり。ここは”ランドリールーム”のようだった。

 

 

「へぇ、自分で洗濯できるんだねぇ。それは有り難い話なんだよねぇ」

 

「いつもは俺達、モノパンのクリーニング屋を使ってるからな」

 

 

 このように、ランドリーを目にした俺達はそういった少しズレた感想を口にする。その理由は簡単で、俺達は普段洗濯を自分でしないから。殆どを、炊事場の購買部にくっついたモノパンのクリーニングを利用しているから。

 

 そう、態々服を店に持ち込んで洗って貰い、それを受け取る…というのを繰り返していたのだ。

 

 だからこそ、自分で洗える設備があることに、多少の嬉しさがあった。…何故そんな嬉しさあるのか…それは単純にモノパンに洗って貰うこと事態がイヤだからである。なにかされたたけではないが…何かをされそうだから。

 

 

「えっ!そうなんですか!!ご自分で洗わないんですか!?」

 

 

 だけど小早川はその例に漏れているようだった。少し、イヤな予感がした。

 

 

「お前…いつもはどうやって洗っているんだ?」

 

「桶を使って、手洗いです!」

 

「いつの時代なんだよねぇ…どこにそんな洗う場所が…」

 

「丁度近くに湖もありましたからね!!」

 

「……確かにあった」

 

「限りない純白を手に入れるために…時には自分自身の手を汚してしまうこともいとわない。僕はそんな人間でありたいね」

 

「ですよね!たまに落合さんもいらっしゃいましたよね!」

 

「…いやお前も手洗いかよ」

 

「旅をしていたときは…そうだね。ソレが僕にとっての常識だったんだよ」

 

「…その光景を想像すると中々にシュールなんだよねぇ。現代のあるべき風景なのかどうかを疑っちまうんだよねぇ」

 

 

 なんと言えば良いのか…俺よりも時代に取り残された人間は居るものなんだな…。と思ってしまった。いや取り残されたというか自ら逆行したように見えるが。

 

 …そんななんとも言えない気持ちを感じた俺達は、次の部屋へ…いや、”外”へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア4:ホテルペンタゴン『庭園』】

 

 

 俺達が次に向かったのは…エントランス、医務室、食堂、娯楽室、そしてランドリー。それぞれの部屋に共通してついていた、このホテルの中心へと繋がる扉。

 

 即ち、”中庭”のような場所へと繋がる道であった。

 

 その扉を開けてみると、そこには案の状、屋根も何も無い雪が自由に降り積もる…中庭…ではなく”庭園”が広がっていた。それも、見るからに固そうな木々や、何の溜めにあるのか分からない無作為に置かれた岩石。まさに日本庭園、といった様相であった。

 

 この場所の役目は、ただの観光名所というだけではなく…恐らくこのホテルの中継地点。その証拠に、それぞれの部屋に繋がっているであろう扉が、俺達が出てきたモノを含めて”5枚”、張り付けられていた。

 

 

「それにしても…本当に綺麗だな」

 

「はい!!この松の木に雪が乗っている姿に、言い様もない趣を感じます!!」

 

「…うん、確かに綺麗……。でも今更思い出したけど…梓葉は華道家だった」

 

「はい!!ていうか、お忘れでしたか!?」

 

「…正直、忘れてた」

 

「そんな!?…一体私を何だと思ったいたのでございますか!」

 

「…お手伝いさん?」

 

「酷いです!!」

 

「…朝の仕返し」

 

 

 そんな庭園の優美さに声を漏らしている最中に、何とも微笑ましいやりとりが見られた気がした。

 

 

「いとおかし…『いと』とはとてもということ、『おかし』とは素晴らしいこと。まさにこの景観を表わすのにピッタリな言葉だね」

 

「ああうん、いとおかしだねぇ…いとおかし」

 

 

 逆に此方は芸術的なほど適当なやりとりをしている。この2人、前の事件からか妙に仲が良い感じである。

 

 と、この庭園を最後にエリア4の探索を調べ尽した俺達。

 

 ここでしみじみと時間を費やすのも悪くはないが、他の生徒達への報告もある。

 

 だから、そろそろ戻ろうか…。

 

 

 

 そう考えていると――――――

 

 

 

 

 …ジリリリリリ

 

 

 小さく、ベルの音が響き始めたのが聞こえた。それに気付いた俺達は、何事かと顔を見合わせる。

 

 

「…なんだ、この音?」

 

「古今東西あらゆる音を耳にしてきた僕の記憶から導き出される答えは……電話の音…かな?」

 

「…方角からして…エントランス」

 

「えっと…じゃあきっとフロントにあった子機の音じゃないのかねぇ?………――――――えっ!ちょちょちょ、ちょっと待つんだよねぇ。じゃあ何処かから電話が来てるってことなのかねぇ!?」

 

「取りましょう!!そうしましょう!!!」

 

「…急ごう」

 

 

 もしかしたら、もしかするかもしれない。俺達は突如訪れたそんな小さな希望を抱き、急いで庭園からエントランスへとその足を戻していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

【エリア4:ホテルペンタゴン『エントランス』】

 

 

 エントランスのフロント。このホテルの入口へとやって来た俺達は、ジリリ、ジリリ、と少しやかましい位に鳴り響く電話を見下ろす。

 

 

「誰が…とるかねぇ?」

 

「…お先どうぞ」

 

「ええ…お、落合さんは?」

 

「………」ジャララン

 

「あっ、そうですよね。イヤですよね…はい」

 

 

 …と、やはりいざとなると不安にかられてしまうのか、出ることそのものに足踏をしている生徒達。俺は一息つき、彼らをかき分け、代表者として受話器に手をかける。

 

 

「…もしもし?」

 

 

 生徒達から注がれる視線に気が散りながらも…俺は第一声を”向こう側から”ではなく此方から発する。そんなありきたりな言葉であるはずなのに、途轍もない緊張感が含まれているようだった。

 

 俺は向こう側から返ってくる言葉を、息を呑み、待ち続けた。

 

 

 

『…おや、どうやら繋がったみたいだね。いやぁ良かった…ボクだよ、超高校級の錬金術師であり、そしてこの地球史上最も偉大な名探偵として名を残す予定の――――』

 

「…ニコラスか?」

 

『…態々名乗る必要は無かったみたいだね。ああそうだとも、名探偵ニコラス・バーンシュタインさ』

 

 

 彼の名前を聞いた途端弛緩する。オウム返しした言葉を聞いた周りの生徒達も、大きなため息を吐き、見るからに落胆した態度を取る。

 

 …まぁ確かに、先ほどの淡い期待が先攻していた故に、電話の先が彼であったことでその期待が崩れてしまい、ほんの少しだけ残念に思ってしまった。……と、言うのは内緒にしておこう。

 

 だけど、それよりも…。

 

 

「…いや、そもそも何でお前から電話がかかってくるんだ?」

 

 

 この施設には、ココ以外に電話機はどこにも無かったはずなのに…と至極真っ当な疑問を受話器にぶつける。

 

 

『何、あれさキミ。答えはそう急ぐモノじゃ無い。まずは順序立てて、ゆっくりと説明していくのが………えっ?早くしろって?』

 

「…何だ、他にも誰かいるのか」

 

『ああ、ボク以外にも、ミス雲居、シスター反町、ミス贄波もいるよ、キミ』

 

 

 どうやら雨竜以外のそれも朝食に出席していなかった全員が側に居るみたいだった。…であれば彼の先ほどの余計な言葉の数々は抑えられるだろうと、少し安心する。

 

 

『とにかく、どうやってボクから電話がかかってよりもまずは確認だ。キミたちは今、”ホテル”にいる。それは間違い無いかい?』

 

「ああ、そうだが…そっちは?」

 

『看板を見てくれたのならば話は早いのだけれど……今ボク達は『水管理室』といった場所に居るのさ』

 

 

 その単語を聞いて、成程、と思い出したように一言。

 

 確かに、入口をでてすぐに看板があって、その2択の中にそう言った施設があった気がするな。つまり、俺達が探索を終えていない、設備も何も分からない未知の場所。

 

 そのことから、ニコラス達は今『水管理室』とやらにいて…そこから電話をかけていることが間接的に分かった。

 

 

「あの道を右に行った先にある施設のこと、だよな?…勿論分かるぞ。じゃあ…その管理室から、ココに電話をかけている、ってことか」

 

 

 ”その解釈で間違い無いさ、キミ”と鼻につく言動で、そう肯定する。

 

 

『だけど、キミの声が聞けて安心したよ』

 

「…急にどうした?気持ち悪いぞ」

 

『ごく稀に思うのだけれど、キミは友人の心を深くえぐってくる時があるよね?』

 

「気のせいじゃ無いか?」

 

『本当に?』

 

「ああ」

 

『ふむ…そうだね。今のはボクの早とちりとしておこう。うん』

 

 

 何とも不思議なやりとりをしつつ、俺達は浅く居場所についての情報を共有していく。

 

 …だけど思うのは…。何故、態々電話を掛けてきたのだろうか?しかも、まるで今まで心配であったような口ぶりで。

 

 態々こんなまどろっこしいことをせずとも、直接ホテルに来れば安否なんて簡単に確認できるのに。

 

 

「…実はこっちの施設の探索はもう終わって、今からそっちに向かおうと思ってたんだ。報告は後でするから、そっちの皆は先に帰ってても大丈夫だぞ」

 

 

 微かに感じた疑念を携えながらも、俺は心配する必要も無い、そんな意味を込めたつもりでニコラスに言葉を並べていく。

 今まで面と向かってしか話したことがなかったために、こうやって電話口で話すのは何とも変な感じではあるが…。

 

 そう言って、彼の返答待つ。

 

 

 

『…………』

 

 

 

 だけど、彼から返ってきたのは”沈黙”であった。ぱったりと、何故か声が消える。

 

 

 

「…ニコラス?」

 

 

 その突然のだんまりに、思わず彼の名前を呼んでしまう。何か、変な事でも聞いてしまったのだろうか?そう不安を募らせてしまう。

 

 

『……ミスター折木』

 

「…な、何だ?」

 

 

 一瞬無くなってしまった声が、再び顔を出す。少し安心しつつも、その深刻な声色に思わず声をどもらせてしまう。

 本当に、彼らしくない。一体、どうしたのだろうか?さらに首を傾げてしまう。

 

 

『ミスター折木、とても言いづらい事なのだけれど………』

 

「……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血の気が引いたようだった。

 

 一瞬で血が逆流するような、そんな感覚が走った。

 

 ニコラスから告げられた信じられない話を聞いて、俺は絶句しながら、そんな短い声を上げた。

 

 

「どういう…ことだ?」

 

 

 一も二も無く、間髪も無く、俺は聞き返してしまう。ニコラスから聞かされたその”現象”があまりにも突飛すぎたから、信じられなかったから。

 

 

『……そのまんまの意味さ。キミ』

 

「……」

 

「お、折木…さん?」

 

「……――――っ!!!」ダッ

 

「ええ!?どうしたんですか!?」

 

「んあななな、何が、何がどうしたのかねぇ!?」

 

 

 その告げられた事を確認するために、ガシャンと受話器を放る。その突然の行動に、小早川達は驚きを表わす。

 そして、そんな彼らにも目もくれず、俺はホテルの外へと走り出した。

 

 

「ええ…何事?」

 

「さぁ…だけどただ事では無い。彼の生き様、そして行き様を見てきた僕が言うんだ…間違い無い」

 

「あんたのしち面倒くさい推論なんかどうでもいいんだよねぇ!!早く追いかけるんだよねぇ!!」

 

「待って下さーーーい!!折木さーーーーん!!!」

 

 

 小早川達の声を背に、血相を変えた俺はエリアの架け橋である桟橋へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

【エリア4:桟橋】

 

 

 

「な――――――――……!!!」

 

 

 

 俺はホテルの出入り口から小さな小道を抜け、そして桟橋へとたどり着く。

 

 そして、声になら無い悲鳴を、驚愕の感情を爆発させる。

 

 俺達が恐る恐ると渡った、あの桟橋。

 

 エリアの岸と岸のその架け橋であるはずのものが…

 

 

 

 

 

 ――――――――無くなっていた

 

 

 

 

 

 

 そんなものなんて、最初っから存在しなかったように。

 

 崖しか、そこには無かった。

 

 初めて崖を見たときとは比べものにならない位に、血が冷たくなった。体の内側から、凍てつくような感覚が、全身を走った。

 

 

 

「折木さーーん!!一体、一体どうしたというので………どええええええええええ!!!!!橋が、そんな…!!」

 

「あああばばばばば…ここここ、こりゃあ、こりゃああ…ははははは、橋無くなっちまってるんだよねぇ…!何が、ど、どうなっちまってるのかねぇ…!」

 

「…イ、イリュージョン」

 

「………」

 

 

 後からやって来た生徒達も、同じように顔を青くさせる。

 

 その崖の向こう側には、ニコラスが立っていた。ニコラスだけじゃ無い。贄波や、反町、雲居も、雨竜以外の生徒達がそこに立ち尽くしていた。

 

 

「おおーーーーーい!!!梓葉ぁーー!!折木ーー!!古家ぁーーー!!!風切ーーーー!!!無事なのかーーーい」

 

 

 そんな俺達の姿を目視した反町が、先陣を切って、此方に大声で呼びかけてきた。

 

 

「大丈夫でーーーーす!!!ご安心くださーーーい!!!」

 

「……あれ?どうしたことだろうね?僕の名前は、どこか遠くへと旅立ってしまったのかな?それとも風が声を、僕の名前をかき消してしまったのかな?」

 

「…かき消されたんでしょ」

 

「成程…なら良かったよ」ジャラン

 

「……良いんだ」

 

 

 いや、呼ばれてなかったと思う。現に今は、無風の状態である。

 

 

 …って…違う違う、そんなことよりも…!今は…。

 

 

「何で橋が…無くなってるんだよ…」

 

「そ、そうですよね!まずはそちらを聞いてみましょう!ええと……反町さーーん!!どうして橋が無くなってしまっているんですかーーーー!!!」

 

「それを聞きたいのはアタシのほうさね!!!このエリア入った時点で、どこにも橋なんてなかったんだよ!!!」

 

「…エリアに入った時点で?」

 

「あたしらが来た時は、ちゃんとあったっていうのに……!!ああ、もう…!訳がわからないんだよねぇ…!」

 

 

 そうやって、焦りを段々と助長させる古家。

 

 俺自身も何がどうなっているのか、今どんな状況で、誰が窮地に立たされているのか、この状況で何をすべきなのか。古家と同様の焦りを内心で爆発させていた。

 

 だけど、冷静では無い頭の中でも分かることはあった。俺達が渡りきって、それから向う岸のアイツらが来てから…こんな都合の良いタイミングで橋が消え去ってしまうなんて。

 

 どう見ても何かしらの思惑が働いているとしか考えられなかった。

 

 

 そしてそれが誰の思惑だなんて、考えるまでもなかった。

 

 

 

 

『ピンポンパンポーン』

 

 

 

 

 その瞬間ことだった。

 

 死体発見の時とは少し違うトーンの音が、突如鳴り響く。その音の方向へ、すなわち上空に俺達は一斉に顔を向けた。

 

 

『えー連絡事態が発生しましたので、お知らせ致しまス』

 

『エリア4にございます。桟橋が、何者かによって落とされてしまいましタ』

 

『そのため、運悪くホテル・ペンタゴンいらっしゃるミナサマは、桟橋の修理が終了するまで当施設にてお過ごし下さイ』

 

「ちょっ…待っ………!!!」

 

 

 ”それでハ、それでハ”そう言って、放送を切ってしまったモノパン。一方的にかけられ、そして一方的にぶち切られ、声を上げる暇すらも無かった今の時間。まるで突風のような一瞬であった。

 

 

「え?ええと…?」

 

「……これって結構ヤバい、よね?」

 

「………」

 

 

 だけどこのその突風は、余りにも致命的な打撃を俺達に与えていた。

 

 まだ何もかも始まったばかりだというのに…。まだ裁判が終わってから、間もないというのに…。

 

 俺達5人は、絶海の孤島と化したエリア4、この雪の荒野に取り残されてしまった。

 

 絶望的な状況がさらに悪化した。そうとしか言えなかった。

 

 俺達は思わず泣き出してしまいそう程の”不幸”なこの状況に、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 

 誰もこの状況どうにかすることなんて出来ないから。誰もそんな余裕なんて欠片たりとも残って無いから。

 

 俺はやるせない気持ちのままに…強く、唇を噛みしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【モノパン劇場】

 

 

 

「ミナサマもお分かりの通り、人間、というのは特別な生き物でス」

 

「理由は勿論、『考える』ということができるからでス」

 

「故に…人は生物の中で唯一、明確な愛憎で他を傷つけることが出来まス」

 

「考えるという唯一無二のアイデンティティを持っていながら、ソレが逆に、牙となって我々を襲い掛かってくるのでス」

 

「しかも、とても些細な理由で、思ったよりも平気で他人を傷つけることを自分に許しまス」

 

「例えば、隣の部屋でうるさくしていたから、進路を妨害したから、間違いを指摘されたかラ」

 

「時には、善意のつもりで行ったことが、死傷に繋がることだってございまス」

 

「…理不尽ですよネ?理不尽極まりないですよネ?」

 

「ですが、それは本当に理不尽なことなのでしょうカ?」

 

「ただ分からないだけで、本当はその行動に悪意が満ち満ちているのかも知れませんヨ?」

 

「そう…知らないこと、気付かないことこそが…最大の悪、最大の罪…」

 

「アナタの方こそが…理不尽なんでス」

 

「くぷぷぷぷ…くぷぷぷぷぷぷプ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生き残りメンバー:残り10人』

 

 

【超高校級の特待生】⇒【超高校級の不幸?】折木 公平(おれき こうへい)

【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)

【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)

【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)

【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)

【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)

【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)

【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)

【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)

【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)

 

 

『死亡者:計6人』

 

【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)

【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)

【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)

【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)

 

 

 




お疲れ様です。水鳥ばんちょです。後半戦、開始って感じです。

2022.12.14 【通路 with 個室】の一部の文を加筆・修正させて頂きました。


【コラム】


エリア4の地図↓




【挿絵表示】




エリア4(ホテル・ペンタゴン内部)↓



【挿絵表示】



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