ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~ 作:水鳥ばんちょ
【エリア4:ホテルペンタゴン『個室』】
『キーン、コーン、カーン、コーン……』
『ミナサマ!おはようございまス!!朝7時となりましタ。起床時間をお知らせさせていただきまス!それでは今日も、元気で健やかな1日送りましょウ!』
くぐもった音のチャイムが室内に響き、飽きれる程耳にしたモノパンの言葉が告げられる。
その音と共に俺は覚醒する。
視線の先にあったのは、別の、初めて目にする景色だった。
「……そう、だったよな」
包み込むような暖かさ包まれながら、つい昨日の出来事を思い出す。
…本当に、突然の出来事だった。
同日に開放されたエリア4へと踏み入れ、そして施設を見回っていた俺と小早川、古家、風切、落合の5人は…エリアの中心に吊された桟橋、ジオペンタゴンとエリア4を繋ぐ命綱とも言うべき代物が、突然無くなっていた。夢なんかでは無く、今俺が座り込むこの現実で。
結果、そのまま俺達は、いつも寝泊まりしていたはずのエリア1では無く。このエリア4に予め用意されていたこのホテルの中で寝息を立てることとなった。
突然の事でまともに寝れられるかどうかも怪しかったが、予想外にも快眠であった。
理由は分からないが、三度目の裁判を乗り越えてすぐだったり、まともな睡眠が今まで取れてなかったり、この個室がいつも寝泊まりしていた場所とそう変わらない内装であったりなど…考えられるだけでも、原因はいくつも考えられた。
「……」
その快眠のおかげか、体調はすこぶる良かった。…決して認めたくは無いが…その誤算だけは、数少ない心の救いだったと思えた。
「……雪か」
ふと個室に取り付けられた窓の向こう側に目を向ける。ガラスの目と鼻の先には雪の森がうっそうと茂り、その植えにパラパラと小さな白い粒が舞い落ちる。雪は思ったいたよりも重かったのか、時々ガサリと、塊が落ちていた。
「……はぁ」
寝て起きても、目をつぶってもこすっても決して変わらない景色にため息をつきながら、俺は起き上がる。あまりにも辛気くさい出だしではある。が、それで現状がどうにかなるわけでも無い、そう自分に言い聞かせながら、普段とは違う設備で、今までと変わらない支度を始める。
――――トントン
その最中。小さく跳ねるようなノック音が耳に転がり込む。少し、身構える。…仕方の無い話だ。今までこの音がしてから、ズカズカと部屋に入り込んできたり、蹴破られたり等、碌な記憶が無かったのだから。
…まぁ鍵を掛けろと言われれば、ソレまでの話なのではあるが。
『折木さん…?お目覚めでしょうか?』
だけど、そんな心配とは裏腹に壁越しのくぐもった声が此方に届いた。この丁寧な言葉遣いからして、小早川のものであるようだった。
「…ああ。起きてるよ」
『なら良かったです!朝食のご準備が整いましたのでご挨拶も兼ねてこのように!』
「ありがとう、今行くよ」
『はい!お待ちしております!』
そう言って、カシュっカシュっと靴をすり減らすような小さな音は遠ざかっていく。彼女がドアの前からいなくなった、と言うことが分かった。
「……ノックする奴って。不法侵入をしてくるわけじゃないんだな」
と、これが彼女が来て、そして帰ってから数秒で出てきた言葉である。正直自分でも見当外れ、というか非常識なコメントに思う。
だけど、先ほども言ったように仕方の無い話なのである。一番最初に厚顔無恥な連中……まぁ今はもういない水無月とか鮫島らの事だが。彼らの所為だとすぐにアテがつく。
今や懐かしい、最初の会合。今思い返しても、本当に、図々しい奴らだった。
迷惑ではあったけど…でも、悪くない、なんて、心の片隅で考えてもいたな。
何とも、慣れとは恐ろしくもあり、哀しいものである。
……また…老け込みそうだな。アイツらにまた老いぼれてるとか、年食ってるとか、笑いながら馬鹿にされそうだ。
俺は懐かしむように小さく笑顔を作る。そして何も無い部屋の中で、手を合わせる。突発的に思い浮かんでしまったアイツらの顔を思い出しながら…祈る。
ほんの少し朝食は遅れてしまうかも知れないけど…俺は短いその時間を、大切に費やしていった。
* * *
【エリア4:ホテルペンタゴン『食堂』】
「…取りあえず、忘れないうちに昨日あったことをまとめていくか」
午前8時前。…時計を見て、まだ”あの時間”まで、間があるな…そう考えた俺は、朝食を食べ終えた生徒達へ切り出した。
生徒達は、お互いに目を合わせ、突然の切り出しに困惑しながらも頷く。それを合意と見た俺は続けていった。
「まとめると言っても、昨日の桟橋が無くなって、そんでエリアを分断されてからの事だ」
「…良かった、昨日の朝のことからまとめると思って内心ヒヤヒヤした」
「流石に遡りすぎだし、いくらなんでも疲れると思ったからな」
「…ニュアンス的にやる気持ちはあったことに怖さを感じるんだよねぇ」
いくらの俺でもそこまで几帳面にはなれない。あの"時間"まで猶予があるといっても…有限だ。まとめてる間に期限が来てしまって中途半端に尻切れになったらグダグダになる。
「でしたら!!はい!はい!!橋が無くなってから私達は策を練っておりました!!勿論!閉じ込められなかった側…と………………あれ?閉じ込められた側……閉じ込められかけた……側…?あれあれあれ?」
「…ニコラス達とも策を練ったんだよな」
「はい!!そうですよね!!」
唐突にバグる彼女の頭に冷や汗をかきながら、話を折らないように補足を入れていく。
「そして、その輪の中心にあったのは…鳥が空を飛ぶ方法に気付くように、何か僕らが大空を羽ばたく方法。そうだったね?」
「そこまで人間を止めるつもりは無いけどねぇ…でも飛び越える方法を模索したのは合ってるんだよねぇ」
そう、桟橋が落ちてすぐ、エリア4に取り残された俺達5人と、対岸のニコラス達は何とか崖を渡る方法を模索した。大声で話し合うのは、端から見て滑稽と思ったために、一度ホテルに戻って電話を介しながら。
橋を1から作り直す。とんでもない大ジャンプで宙を跨ぐ。マジで翼を生やす。…正直、挙げるだけでも碌でもない策しかでてこなかったのが事実であり、現実的な解決方法は中々出てこなかった。
…そんな中で。
「…それで道具を使おうって…話になった……だっけ?」
「ああ、それも美術館に展示されていた…『どこでもワイヤー』をな」
何処でも、誰でも使えるモノパンの7つ道具の1つ。『どこでもワイヤー』。前の前の事件で使われたきりだったあの道具を利用すれば、この地割れを渡りきれる。
やっと現実的かつ、即効性の在る光明を見いだした――――そのはずだった。
「…これで勝った!!とか、問題解決っ!って雰囲気だったんだけど…ねぇ?」
「まさかその道具事態が"おしゃか"になって仕舞われているとは…」
「………」
美術館に向かったニコラス達からそう聞かされた時は耳を疑った。
今まで壊れた事なんて聞いたことも無かったあの道具が…しかもピンポイントで『道具が壊れてしまったので、しばらく修理に出しておりまス』…だなんて。
…この崖を何が何でも渡らせないためのモノパンの根回し。どう見方を変えようにも…そうとしか考えられなかった
モノパン自身に文句をつけようと呼びかけても、姿を見せず。何処かに隠れているのでは無いか、と探し回っても見つからず。
もはや解決できない話の1つと、敗北に近い決着がついてしまった。
「そんで、時間も時間だから仕方なくココで夜を明かそうってなったんだよねぇ」
「…何処に誰が寝るかとか決めた」
「部屋割りだけじゃなく、お掃除とか、お食事の当番とかもですよね!」
彼女達の言うとおり、崖の渡り方について保留となった後、俺達はホテルでの住み方について話し合った
まずは誰がどの部屋に住むのかという事。例として、殆どの食事当番を引き受けてくれた小早川はこの食堂の隣に、そしてそのさらに隣に風切。そして残った部屋を、俺達男性陣が好きなように陣取っている…といった配置だ。…加えて、各々の部屋には、エリア1のログハウスのように誰が誰の部屋なのかというサインが付けられている訳ではないので、それぞれの個室に簡易的なサインが設けられている。後はまぁ余談ではあるが……鍵は常に掛けるようにしている。これはプライバシーの問題である。
その他にも、掃除当番とか、先ほども出てきた食事当番についてもあるのだが…一部の生徒がまったく協力的ではないことを除けば特段言うことは無い。
「で、最後に…」
そう言って、古家はテーブルの中心に置かれた”黒電話”に、視線を集中させた。
「『毎日の朝と夜のアナウンスが鳴ってから1時間後に連絡を取り合う』…だったかねぇ?」
古家の回答に俺は頷く。部屋の配置や、食事当番等の決め事をした昨晩。突然、入口に置かれた電話が音を鳴らした。
ニコラス達からであった。内容は、先ほど古家が話したとおり『連絡を取り合う』…というもの。
安否の確認を主に、何か分かったことや現状を報告する毎日の朝と夜のアナウンスが鳴ってから1時間後に連絡を取り合おう。そう、提案してきた。勿論、俺達は二つ返事で受諾した。なんせ、オレ自身も向こうの出来事も安否も気になるから。
…とまぁ、ここまで言えば分かると思うが…つまるところ、俺達が食事を終えて未だ解散とならないのは、朝のアナウンスから1時間経った8時に来る"その電話"を待っているからである。
「……でもこの電話、よくここに持って来られたね」
「隠されしは雷光迸る洞穴…そう僕らは、時間という名の限界と、極まりし寒さを乗り越え、そしてその二ツ穴を見つけることが出来た。まさに一つの大冒険だったよ」
「たまたま見つけただけとか言ってなかったかねぇ…?」
「それは過去の僕の過ち、けっして相まみえることのできない、もう一人の僕がしでかしたことさ」
「…現在進行形で過ちを犯している気がする」
「ですが、まさか入口だけに限らず、この部屋にも"こんせんと”があったとは…まさに"らっきー”でしたね!!」
「そうだな」
加えて、電話が来る毎に態々フロントに出向いて連絡を取り合う、というのは些か面倒。そう考えた俺達は、どうしたものかと考えを巡らせていると、落合が偶然食堂に同じコンセントが取り付けられていることを発見したため、このように食堂に持ってきた…という次第である。
「此方は受話器を取るのに時間はさほどかからない。かたや反町さん達側は、この地帯までご足労頂く……うう、些か忍び在りません…」
「…それは仕方ない。あっちから提案した来たことだから」
「気に病む心は塵のよう…積もり積もれば山となり、人の心を覆い尽くし心を蝕んでいく……そう気に病む必要はないんじゃないかな?小早川さん」
「…もっとこう。回りくどくない励まし方はないのかねぇ?」
「善処……しようかな?」
「せめて嘘でもすると言って欲しかったんだよねぇ!?」
そうやって、コレまでの経緯を何とか限られた時間内でまとめた俺達。コチコチと音を立てる時計を見てみると――――丁度約束の時間に針が重なろうとしていた。
「……そろそろ時間?」
「………ああ」
なんてことも無い。ただの連絡の取り合いだというのに、少しだけ緊張が走る。ドキドキとした感触が手の先にまで響き渡る。
…何事も一番最初というのは、一重にソワソワとしてしまうものだ。加えて、電話に出る役目は、主に"俺"に一任されている。理由は分からないが、何故かやれとは言われた。それ故に緊張もひとしお、ということだ。
カチリと音が鳴る。時計を見てみると、丁度長針が12の数字を刺し、短針が8の数字を刺していた。
そして――――
――――ジリリリリリリリリ
初めて鳴ったときと同じように、電話はけたたましく騒ぎ出す。…鳴るとは分かっていたが、そのタイミングは突然であったために、ほぼ全員がビクリと体を揺らしてしまう。
…だけどすぐに、時間通り連絡が来てくれた、と安堵する。…代表者として連絡を受け取る俺は、一呼吸置き、受話器を手に取った。
『おは、よう。…元気?』
「…その声は、贄波か?」
電話は、昨日と変わって、贄波が受話器の向こうに立っているようだった。またニコラスでも電話口に立っていると思っていた俺は、驚きを含めながら彼女の名を呼んだ。
『うん、昨日は、ニコラスくん、だった、から…かわりばんこで、やろう、って、ことに、なって、ね?1人だけに、負担は、かけさせないよう、に…ね?だから、今この部屋に、私1人なん、だ』
「そうか…確かにそっちは距離もあるしな。…こっちは俺が主に電話に出るようにしてるんだけど……そっちに合わせた方が良いか?」
『ううん、別に決まりとか、そういうのは、無い、から…大丈夫、だよ。そこまで気遣って、くれなくても、大丈夫、だよ?』
「…分かった、じゃあそうするよ」
滞りなく、昨日のあれからや、今日の朝のこと。少ないながら、連絡を取り合っていく。俺以外の生徒達は、妙な緊張を保ちながら俺と贄波の電話を聞くことに徹している。…ちょっと話しづらいというのが本音ではある。
『……取りあえず、ね?崖を、どうにかできる方法が、まだ無いか、こっちで、も、色々、探してみる、から…待ってて』
「分かった。そっちだけじゃなくて…俺達も方法を模索してみるよ」
やはり、まだ見つからないか。その結果に当然、落胆する気持ちはあったが…そう簡単に見つかるものではない、と声色には含まず、励ますように言葉を選ぶ。
『うん、ありがとう、もう少し、辛抱、だから。………………あと…ね?…その……』
贄波は不自然に、話を切ったような間を作る。俺は眉根を寄せながら、"どうかしたか…?”と聞いてみる。
『いや、その…ちゃんと、ご飯、食べて、る?』
「…今さっき食べ終えたよ。そっちは?」
『こっちも同じ、だよ。反町さん、が作ってくれたん、だ。美味しかった、よ』
「俺達も小早川に作って貰ったんだ。だけど、アイツに負担は掛けすぎないように…夜は古家が作ることになってる」
『そっか…羨ましい、な』
「そっちは違うのか?」
『うん、ずっと反町さん、料理を作ってくれてる、らしく、て……』
「……?反町は料理が得意だし、むしろ毎日の楽しみが増えて喜ばしいことじゃないのか?」
『……私も料理作るって…いってるん、だけ、ど…中々、やらせて、くれなく、て…』
あちゃー、やってしまった、とおでこに手を付ける。
『他の人達、に、相談しても、全然、取り合って、くれなく、って』
「……そ、そうか。それは大変だな」
贄波にキッチンに立って欲しくないという反町達の思いが見て取れた。同時に、その話題が出た瞬間の蒼白になった表情もまた目に浮かんだ。
「…何だか、料理を、させないように、避けられている、ような…気がし、て」
「いや、そんなことはない。全然避けられてなんか無いぞ…全然、全然」
「………もしかして…私って、料理、ヘタなの…かな?」
「下手じゃ無い、むしろお前が作る料理は絶品だ。絶品過ぎて気絶するくらい絶品だ」
むしろ今まで自分の料理に違和感を持っていなかったことに戦慄してしまったが…俺は傷ついて欲しくないという気持ちのままに、贄波を励ますような言葉をかぶせてしまった。
内心、勘弁してくれと、悲鳴を上げているのだが…彼女の悲しげな声を聞くとそう言わざる終えなかった。
「そう、かな?」
「そうだよ。やみつきになる患者を増やさないために、反町はあえて避けるようにシフトを組んでるんだよ」
声色が少し明るくなるのを察した俺は、たたみかけるように彼女の背中を後押ししていく。笑えるくらいに嘘に嘘を上塗りしていく。もう自分が何を言っているのか分かっていないまである。
『………そっか、うん……そうだよ…ね。反町さん、そんな酷い人じゃ無い、もん、ね?』
「ああ、その通りだ」
すまない反町。と心の中で土下座しながら、肯定していく。
『…じゃあ、今度、折木君がこっちに戻ってきたら、また作ってあげる、ね?』
「………あ、ああ。楽しみにして……待ってるよ」
正直もの凄い後悔をしているが、そう言うしか無かった。ちょっぴりだけ、このエリアに居続けたいという思いがよぎってしまった。情けない話である。
『…ありがとう。ごめんね、急に、相談事みたいな、こと、しちゃって…』
「……そんなことはない、他でもないお前の相談だ。いつでも聞いてやる」
『本当、に?』
「ああ、本当だ。自分で言うのも何だが…俺は約束は必ず守る男だ」
「…そっか……うん……そうだよ、ね…折木君は…そういう人だったもんね……えへへ」
…できれば料理関連以外の相談にしてほしいと言うのが本音だが。
いつもと違う彼女の照れ笑いに、俺も釣られて口角を上げてしまう。
「…………」
「…………」
……何だか気恥ずかしい間が…出来ているようなそんな感触がする。無言のまま、何となく話を出しづらいというか…むしろこのままで良いかもしれない…とか…。…いや、そうじゃなく。
「……そろそろ、終わるか?」
『………うん、そう、だね?もっと話してたい、けど…皆もいるし、ね?終わろ、っか?』
「ああ、そうしよう」
『私、ね?明日も夜に、電話する、から…そのときも、ちゃんと、出て、ね?』
「約束する。…じゃあな」
『うん、また、ね?』
そう言って彼女は先に受話器をガチャリと置く。ツー、ツー、という電子音が流れる。
俺は、フー、と弛緩するように息を吐きながら同様に受話器を置いていく。
「……といった感じだ。向こうもこっちも問題無く………」
今話した内容を伝えようと生徒達を見てみる。すると何故か彼らはボーッとしたように此方に目を向けていた。
「……どうかしたか?」
「…折木さんって、贄波さんと話す時って結構…」
「贄波と話すとき?」
「いつもより口数多めに聞こえるんだよねぇ」
「……そうか?」
「…うん、確かに思った。…今までの三倍くらい多い…それに感情の起伏もある」
「割り増ししすぎだし…起伏についてはお前に言われたくない」
俺はそこまで口数は少なくない、もう少し言葉は足りるくらい付け加える方だ………多分。
「でも、…司との電話…後半から個人的な会話になってた気がする」
「ああ~確かにねぇ。こう、カップルの電話みたいな雰囲気になってたんだよねぇ!」
「僕らは知らないのかも知れないね。…彼らは月日を数えながら逢瀬を交わし、そして尋常では無い関係を築いちまってる、ということに」ジャラン
「じ、尋常では無い関係!!!折木さん!!それは聞き捨てなりませんよ!!!」
「…俺は言っていないぞ」
「言ったのは僕だよ」
「言っている方は関係ありません!関係があるのは折木さんと贄波さんとの間柄です!!…さぁ!教えて下さい!!どうして贄波さんとあのような甘美な"むーど”になっていたのでありますか!!」
「いや、どうしても何も……贄波とは……至って清い友人関係だ」
その言葉の通り、生徒達が考えるような関係では勿論無い。
…ただアイツと話すときは、他の奴らよりも少し口が軽くなるのは…あるかも知れない。あくまで、主観だが。
「…おお?適当にほじくってみたけど…もしかするともしかするのかねぇ?」
だけど妙な表情が凶と出たらしく、古家は邪推を続ける。初めてコイツを殴りたいと思った。
「…古家、ヘタな突っつきはやめろ。俺と贄波は、本当にそういう関係じゃ無い」
「でも!!今絶対贄波さんのことをお考えになっておりましたよね!!!」
「…考えることすらもまずいのか?」
「不味くはありませんが!!納得できません!!」
「理不尽すぎるだろ…」
「…もしかしてこれって修羅場?」カチャカチャ
「修羅場だねぇ」ボケー
憤り小早川を横目に、風切は背中のライフルの手入れをし始め、古家は天井を見ながらボーッとし始めていた。どっからどう見ても、この状況を野次馬感覚で見物しているようにしか見えなかった。
「修羅場…それは誰もがくぐり抜けなければならない鬼の道。さて、折木君、君はこの試練をどうやって躱していくのかな?」ジャラン
落合はもうどうしようも無いペースでギターを弾き始めていた。コイツは別にアテにはしてない。
「………」
「折木さん!!」
酷く憤る小早川に、傍観者のようにノータッチの古家達。
…朝からこんな面倒臭い状況になるなんて誰が想像していただろうか。できればずっと落ち着いた状況でいて欲しかったが、贄波が電話口に立っていたのが運の尽きであった。
どう説明したものか。俺は頭を軽く抱える。
学級裁判で培った思考力を駆使し、俺は貴重な朝の時間を弁明と釈明に費やしていった。
* * *
【エリア4:ホテルペンタゴン『娯楽室』】
小早川の暴走と古家達の悪ノリから数時間。
ホテルに留まる俺達は、自由時間へと入っていた。
それぞれ自由の名の通りに思い思い過ごしており、風切は個室で居眠り、落合は寒い中庭でのんきに歌を、小早川は食堂で昼の準備をしていた。
そして残った俺と古家は。
「………」
娯楽室にて高校生らしくダーツに興じていた。
ちなみに今は、古家は片目をつむりながら、親指と人差し指で挟めたダーツを標的へめがけている最中である。
「いやぁ、ダーツなんて初めてだけど……」
そう言いながら、ヒュッと手首を軽くスナップさせながら投射。
ビイイイン、と、ダーツの刺さった機械は音を立て、光の点灯と点滅を繰り返す。…刺さった場所は真ん中とはほど遠い、右の端っこ。それもあまり点数の高くない場所。
ソレを見た古家は、"あちゃ~"と、悔しそうに頭を掻く。
「手元が狂っちまったみたいだねぇ…ビギナーズラックもあるかと思ったけど…そう上手くはいかないもんだねぇ」
「勝負の神様もそこまでチョロくないってことだな………でも結構楽しいだろ?ダーツ」
「…最初はチャラチャラした輩の遊び道具だって思って気が引けたけど…やってみると案外って感じなんだよねぇ」
一通りプレイした後の彼の感想を聞き、少し安堵する。合うかどうか不安ではあったが、思ったよりも受けは良かったようだ。
「…でも驚いたもんだねぇ。折木君ってばこういうのには疎いイメージがあったんだけどねぇ」
「いつもは何を楽しんでそうなイメージだと言うんだ…」
「うーん、お手玉とか…折り紙とか……習字?」
「……枯れすぎだろ。確かに全部出来るけど」
「出来ることは出来るんだねぇ…」
何故かやっぱり、という表情をされる。しょうが無い話である。だって俺はおじいちゃん子なのだから。
「そういえば、皆から聞いてるけど…あんたってば他にも漁師とか、乗馬とか、鷹匠とか、気味悪いくらい色々やってたことがあるんだってねぇ?」
「…気味悪いは余計だ。でも…そうだな、やったことはある。あくまで体験程度で」
「他にも、そういう体験っていうのかい、やったことあるのかねぇ?」
「………スカイダイビング、クルージング、あとは…化石掘り、妊婦体験」
「そ、想像以上だったんだよねぇ…いやぁ、どこにそんな行動力があったんだかねぇ」
古家は突き刺さったダーツを抜きながら、絶句した口調で反応を示す。……確かに、思い返せば思い返すほど結構な数のことを経験してきたような気がする。きっと趣味:読書、なんて書いたときには鼻で笑われてしまうくらいには。
………でもどうして、こんな馬鹿みたいに人生を謳歌しているのか。考えてみれば、その理由は簡単であり、そして酷く身近であった。
「……きっと姉さんの影響…だな」
「あれ、折木君ってお姉さんいたのかねぇ?」
「……ああ、まぁな」
そういえば水無月くらいにしか話してなかったな、と思い返す。
「…じゃあそのお姉さんの話、聞かせて欲しいんだよねぇ。この前はあたしの身の上話したんだから、今度はそっちの番なんだよねぇ」
「……それもそうだな。…でも、どう説明したものか…」
「一言では説明が付かないって感じかねぇ?」
「ああ、こう絶対将来は大物になるなって風格?オーラ?…のような人柄を持ってる人…って言えば良いのか?」
「ほほう、中々ダイナミックな表現なんだよねぇ」
「それに…俺とは真逆で、とにかく好奇心が旺盛で、冒険心が人一倍あって…何事も味を見たり、叩いて聞いたりして絶対に確かめる意志の強い人、だな。覚えてるのだと、味が気になるからって言って、ミミズを料理して食ってたな」
「…身内の前で言うのもなんだけど、大物過ぎるし、変人すぎるんだよねぇ。…もしかして芸術家?」
「いや、姉さんは大学生だけど…芸大ではなかったはずだ。でも……確固たるこだわりとか独特なセンスを持っていることは確かだな。おかげで友達が出来にくいとか何とか、前に愚痴られたことがある」
「…その気持ちは分からないでも無いんだよねぇ」
「で、その好奇心に、俺はいっつも付き合わされて、いろんな所で、いろんな経験をさせてもらった?いや、させられた……のか。まぁ体験させてもらった全部を覚えてるわけじゃ無いけど…」
「ははは…どんだけ付き合わされてたのかねぇ…」
いや本当におびただしい数の経験をさせられたし、連れ回されたな。普通そういうのは両親が先導する者なんだが…。
…でもその経験があったからこそ、自分の視野の狭さに気づけたし、自分やり続けたいこととかの選択肢を増やせたことはある。全てが全てデメリットに終わったわけではない。
「あたしゃ一人っ子だったから、あんまし姉弟って関係にはてんで疎いもんだけど……聞くだけだと姉弟仲はすこぶる良好だったみたいだねぇ」
「…そんなに歳も離れてなかったしな。喧嘩も良くした分、距離感も近かったのかもしれん」
まぁ喧嘩しても一度も勝てたことは無かったがな。
「色々言ってはいるけど、あたしからしたら羨ましいんだよねぇ」
「…羨ましい?」
「いやねぇ。あたしもそういう引っ張ってくれる上がいてくれたら、アウトドアな引きこもりになれたかも知れないねぇ。って思ってねぇ」
「アウトドアな引きこもりって……矛盾しすぎだろ」
それに、結局引きこもりに帰結するのか…。悲しすぎるだろ。
「あたしは引きこもりであったからこそココにいるからねぇ。所謂1つのアイデンティティ…ステータスなんだよねぇ」
「……顔に似合わずポジティブ」
引きこもりと胸を張って自慢する奴初めて見たな。俺からしたら、古家のその自己肯定感がむしろ羨ましい。
…そんな風にして俺の姉の話に花を咲かせて、数分。一通り話し終えた俺達の間に、手持ち無沙汰な空気が少しできる。
「……なぁ古家」
そんな中で、俺は神妙な面持ちで彼の名を呼んだ。
「ん?どうしたのかねぇ?」
「聞きたいことがあるんだが…良いか?」
「ほぇ?…急に改まったりして、どうしたのかねぇ?」
突然の言葉に案の状呆けた顔をする古家。俺は心の中で怯えながらも、意を決する。
「…お前、"怒ってるか"?」
「怒ってる?…何をかねぇ?」
「昨日の事だ。橋が…ほら、崩れる前の渡るときのことだよ…お前行きたくないって、ずっと言ってただろ?」
「ああ~…そんなこともあったねぇ。確かに」
「…あのとき、俺はお前達の事を無理に引っ張ってきてただろ?」
お互い気安い関係でもあるために、今まではなぁなぁで過ごしていたが…。
俺自身は心の中でずっと、このエリアに古家達を連れてきたことを後悔していた。同じように、古家達も目に見えて後悔していた。そして、その監禁の原因となった俺達に、恨みを持っているんじゃ無いか…そう思えて仕方なかった。
「俺達がそんなことしなければ、お前らは向う岸で、変に不安にかられずに過ごせていたのにって…」
「………」
「だから…もし怒りがあるなら…ごめん」
少し沈黙。俺は叱責と、そして1発ひっぱたかれる覚悟で、古家の言葉と行動を待った。
「……確かに、あんな事があってすぐには…ちょっとばかし怒りはあったかもしれないねぇ。…あのときあたしの言う事を聞いてればこんなことにはならなかったって、感じでねぇ」
「………」
「でもそれは、昨日までの話なんだよねぇ」
先ほど抜いてきたダーツを指でいじりながら、ポツポツと、古家は言葉を紡ぎ始める。俺は黙って、彼の一言一言に耳を傾けた。
「……つまるところ…仕方の無い話ってことで蹴りがついちまうんだよねぇ。結局あんたの言葉に背中を押されて付いてきたのはあたしだし、このエリアを探索したかったってのも本心だったからねぇ」
「……そうなのか?」
「だから、さっきの『怒ってるか?』の答えは、NO、『別に怒ってないよ』…なんだよねぇ」
「………」
「多分、風切さんもおんなじ気持ちだと思うんだよねぇ」
「…」
彼らの懐の深さに、思わず涙ぐみそうになる。俺みたいなちっぽけな人間よりも、よほど輝いて見えた。
「それに…いつ、目の前の人がいなくなるかも分からない現状だからねぇ。そんな些細なやりとりとか、いざこざだけで永遠にお別れなんて……鮫島君の時だけで十分なんだよねぇ」
哀愁を漂わせながら、古家は呟く。
「あと何だかんだ隔離されたって言っても今更の話だし。これでおっ死んじまうって訳じゃなかったしねぇ。このホテルのおかげで割と快適に生き残れてんだからねぇ」
”まぁ……でもこんな立派な根城が無かったら…ちょっとキレたかもねぇ”…と聞こえた気がしたが…取りあえずスルーしておいた。
「だからこそ、この話をしてくれたは良い機会だったかもしれないねぇ。そんなわだかまりを抱えられたままじゃ、その快適さもどこえやらになっちまうからねぇ」
「……そうだな」
「だから、昨日の事は恨みっこ無しってことにして………ええっと、今度はビリヤードでもやってみるんだよねぇ」
そう言って、高校生らしく無邪気に娯楽室を楽しみ始める古家。
"いつ、永遠にお別れになってしまうかも分からない"
響き続ける古家の言葉を反芻させる。今まで別れすらも言えなかった生徒達の顔を思い浮かべながら。
そうだよな…俺だって、古家だって、小早川達だって…いつどうなるかなんて分からない。
だからこそ…せめて、この時間、この瞬間だけは、大事にしよう。
俺は固く、そう思った。
* * *
【エリア4:ホテルペンタゴン『食堂』】
「…てことがあったんだ」
昼の12時、古家と娯楽室で別れた俺は、食堂にて。先ほどの古家との話を、小早川、落合の二人にしていた。
「はぁ…古家さんには足下を向けて寝られません…」
「彼の人間性を感じるね、やはり人とは成長するもの…というわけだね」
「…お前が言うと少し薄っぺらく感じるな」
ちなみに此方の2人は、古家達とは真逆で、ガンガン進もうぜと橋を渡ることを推奨していた派で、同じくそのことを重く捉えていた。
…落合はどうなのかは読めないが。
「――――ですが、やっぱり……分かりません」
唐突に話題を変えるよう、何かについて疑問を生やす小早川。"何がだ?"と詳しく聞いてみる。
「モノパンが、私達をここに閉じ込めた理由です」
まさに核心とも言うべき話題であった。すると、隣いた落合がピン、っと高音の弦をはじく。俺達は、彼に視線を集中させる。
「答えは常に闇夜に存在する。だけど、もしかしたら手の届くような場所にあるかもしれない…そういうことかな?」
「全然違うと思います」
「…どうやら闇から逃れる術はないらしいね」
真顔で小早川に否定される落合。実に珍しい光景である。珍しいが故に、落合も珍しくピタッとギターを弾く手を止めていた。目に見えてダメージを受けているように見えた。
「あー、俺なりに、閉じ込められた理由を色々考えてみてが、やっぱり…分断されて慌てふためく俺達を見て、楽しむため…とか」
「考えそうですね!マンネリ化してしまった展開にテコを入れるためとか!!そんな理由で!」
「……アイツが俺達を弄んで楽しもうとしてる…ということで良いよな?」
「はい!差し支え在りません!!」
ありきたりかつ、モノパンの考えそうな事を考えてみる。でも、それが確信かと言われれば、どうにも頷きにくい。…とても煮え切らない。
「無難すぎる…もっと深い意味こそある…裏の裏を見ていくのが定石さ」
「…じゃあ、お前はどう思うんだ?」
「…言葉にするのは難しいけど」
「いや、難しいのはお前の言葉だ」
「…その理由は、決して目に見えることの無い"脅威"のようなものが原因なのかも知れない」
明らかに無視されたことは置いておくとして、彼の引っかかる言い方に"脅威?"と俺は思わず聞き返す。
「その"脅威”とは、何も地中に埋もれていたり、目に見えないほど微細であるということではない。何故ならそれは僕達の中に、いや僕達の心の中に潜むモノだからさ。それを感じたモノパンは、無理矢理と言うなの断絶を引き起こし、そしてこの世界と僕らの関係に亀裂を入れた」
「……というと?」
「僕達を開放しようとしたのさ、がんじがらめに縛り上げようとする運命からね?」
「………」プシュー
「…つまり、あれか?俺達を、何かから切り離そうとした……ということか?」
贄波がいない分、できるだけ自前で解釈しようよ考えた結果を口にしていく。すると、ジャランと、調子よくギターを鳴らす。
「どう捉えるかは君達の自由さ…」
「成程!!」
「……」
当たりか?と思わせといて、答えを示そうとしない。その言動に一瞬手が出そうになったが…取りあえず一呼吸。
……だけど、もし落合の言葉をまともに解釈しようとしたなら……モノパンは俺達をその何かから…遠ざけようとした…?ということになる。
…でも、何から?何のために?それも、何故モノパンが?
落合らしい、ありきたりじゃない、的外れとも言えない、ある種独特な立ち位置の意見。
思い返せば、落合はちゃんちゃらおかしな意見を発言したことはあまり無い。まぁ、彼の言葉の意味を捉えられればの前提はあるが。
だからこそ、引っかかってしまうし、捨てきれない。俺は思い詰めたように、顔をしかめ、彼の言葉を真面目に思案してみる。
すると――――
『ピン、ポン、パン、ポーン』
「…?」
「何だ…?」
思考の最中、突然その音は響いた。昨日の、無くなった橋を目の前にした時と同じ調子のチャイム。
昼に何かそういう決まり見たいなものはあっただろうか?…そう思って、時計を見てみる。針は丁度12の数字に重なっていた。
『あーあー、えー………ミナサマおはこんにちハ。ミナサマのミナサマのモノパンでございまス、これより、お昼の放送を開始いたしまス』
普段とは明らかに違う異質なアナウンスに、俺は息のつまるような面持ちでモノパンの声に耳を傾けていく。
『えー、突然の放送に驚かれる方は多いと思われますガ……まずはその理由を説明する前に…昨日修理に出しました橋についてご報告致しまス』
内容はやはり橋の事。態々こんな時間に報告することと言えば、それぐらいしか思い浮かばなかった。少し、緊張がほぐれる。
『えーワタクシとしたことが、このエリア4に関しては少々手が回っておらず、橋自体の老朽化が顕著に進んでおりましタ。そのため、突然の改修工事か決定づけられましタ』
「…白々しいな」
「何も私達が此方を探索している時に持っていかなくても良かったではないですか!!」
モノパンに聞こえているのか分からないのに、俺達は責めるような声を上げていく。
『えー改修につきましては、今日を含めて約4日を必要とするため、その最低でも4日間は今いる場所での生活を続けて頂きまス』
「よ、四日間…」
「長いような…短いような…」
「なぁに、僕らが生きる人生に比べたら、とても短いものさ。気にすることなんて自由への冒涜に等しい」
「………」
…ええと、つまり…俺達が無理に崖を渡ろうとせずとも、4日間この生活を続けていれば、ここから脱出できる…。モノパンはきっとそう言っているのだろう。
これまでの出来事に遺憾はあれど、仕事はきっちりとするモノパンの言葉を聞いて、僅かながらも安心感を持つ。
『と、ここまでが昨日までの報告となりまス…続きまして先ほど濁させて頂いた本題について、発表させていただきまス』
「……さっきのが本題ではなかったのですね」
小早川の言うとおりだと思った。一体何を言いたいのか、もどかしいような気持ちで再び耳を向けていく。
『えーまずは結論から言わせていただきまス。これより
――――――――”動機発表”を、行いたいと思いまス』
「…――――!!???」
"動機発表"その言葉を耳にした途端、思わず飛び上がる。ガタンと椅子が転がってしまう。小早川も驚いたように口を塞ぎ、落合もギターのチューニングの手を止めてしまう。
『と、この言葉に多少なりとも驚いている方がいらっしゃると思いますが…今回は少々仕様が異なりまス』
少しの混乱を抱えている俺達なんてお構いなしに、モノパンは続けていく。俺は頭の整理は付かずとも、今は目の前のモノパンの言葉に集中していく。
『まず始めに説明を致しますのは、今回の動機の内容。それは今生き残っていらっしゃるミナサマを対象とした…――――”恥ずかしい過去の大公開”…でございまス』
「…恥ずかしい過去の」
「大公開…ですか」
『えー仕様が分からないと言う方のために例に挙げますと、一番最初に亡くなられた朝衣式さんの場合”実はコーヒー好きだが、ブラックは絶対に飲めない”…といったようになりまス』
「何か勝手に人の過去をバラし始めたぞ」
しかもよりにもよって朝衣の…。小さな怒りが、心に走る。
…――――いやそうじゃなくて。ていうかそれって恥ずかしい過去なのか?恥ずかしい習慣じゃ無いのか?と、内心つっこんでみる。
『と、このような恥ずかしい過去を…――――”1日1人ずつ”読み上げさせて頂きまス』
「い、1日、1人…」
『1日1人』…生き残っている俺達の誰かの黒歴史を暴露していく。俺かも知れないし、小早川かも知れない。そして今が恥ずかしい過去なのではないかという落合かもしれない。
まだ前回の裁判から2日も経っていないのに…。俺は昨日から続いていくハプニングの数々に、頭を抱えてしまう。
だけどそんな俺達の事なんて知らないと…一通りの説明を終えたモノパンは、"ではでは"と、間を置き。そして嬉々とした声で続けていく。
『まず最初の動機発表を行いと思いまス!!ご静聴下さイ!!第1の、動機発表の犠牲者は~~~~~』
――――誰が来るのか、誰のどんな過去が暴露されるのか。
その緊張感が、喉を枯らす。それを潤すように、息と、唾を呑みこむ。だけど、その程度では緩和されることは無かった。
モノパンの、焦らすようような、息を吸う音が聞こえる。
そして――――
* * *
『――――――――…ニコラスバーンシュタインクンでーーース!!!』
「……に、ニコラスの?」
思わぬ人選に、つい声がこぼれてしまう。
「不意の人選、まさかこの人…よくある話だね。僕もよくあるよ」
「……あるのか」
「確かに意外ですけど…それよりもニコラスさんの秘密、って…一体」
確かに小早川の言うとおり…気にならないと言えば嘘になる。何故彼からなのか、疑問は尽きないが…思わず、耳をすましてしまう。
モノパンは朗々とした口調を崩さず、続けていく。
『超高校級の錬金術師であるニコラスクン。実は昔…
――――10人の女性と同時に交際していた経験があル』
「……へ?」
『――――――以上、動機発表で第一弾でしタ~」
「………」
「……じゅ、10人…」
大層な間をあけて何を言い出すのかと思えば…
いや、しょうもな…
それが率直な感想であった。
どれほど恥ずかしい過去なのかと…いや暴露された本人的にはきっと相当な黒歴史なのだろうが…それでも固唾を呑んで座して待っていたはずなのに……何だか心の準備が無駄に終わったような感じである。
『それでは、また明日12時にお会いしましょウ!アデューーーーー』
『ピン、ポン、パン、ポーン』
「……何だったんだ?」
「……さぁ」
同じく困惑する小早川と目を合わせて一言。落合に目を向けても、答える気は無い、そう思わせるようにただニヒルな笑顔を見せるだけ。
それ以上に会話は無く、ただ呆然とした奇妙な静けさだけが、食堂を包み込んでいた。
* * *
【エリア4:ホテルペンタゴン『食堂』】
「――――それで…何か言う事はあるか?ニコラス」
『不本意の一言に尽きるね、キミ。流石のボクも10人の女性は抱えきれない。せいぜい7人が限界だよ』
「…複数の女性との交際は認めるんだな」
『前にも言っただろう?ボクは探偵であると同時に、化学者なのさ。事実を事実と認めてこそ、ボクをボクたらしめる。……まぁ否定しなかったおかげで、こちら側のマドマァゼェル達には、埋まるかも分からない距離を置かれてしまっているけどね!』
「置かれてるのか…」
夜のアナウンスから1時間、俺達は変わらず食堂にてニコラス達からかかってきた定時報告を受けていた。内容は勿論、先ほどの”動機発表”の放送。
これまでの経緯については友人として色々と言いたいことはあるが…。だけど彼の発言から、さっき流された動機と言う名の”情報”。それは単なるねつ造では無く、事実であったことが確信できた。
『…ともかく、今日始まったモノパンの放送。あそこから流される情報は、細かい精度にムラはあれど…信じるに足るモノが含まれている。そしてそれが、また明日も流される……ということになるね、キミ』
「…だよな」
コロシアイの火蓋を何度も切ってきた動機発表。前回はゲームを最後までクリアしたモノのみに特典として渡し、その内の1つに爆弾を仕込むという方法で。そして今度は、全員分の過去を欠片のようにチラチラと降らしていくというスタイル。
…こざかしいというか、鬱陶しいというか。よくまあこんな嫌らしい寸法を毎度毎度考えつくものだ。
だけど俺達を不安にさせる材料として、その方法は申し分ないのが何ともムカつく話である。
「何か…動機をスルーできる方法は無いのか…」
…その方法を何とか止めたいという気持ちはある…だけど動機発表の元栓はモノパンの絶対領域ともいえる放送から。そこを潰さない限り、その発表を止めることはできない。
すなわち、俺達がとれる対策は。
「全員で放送の時に耳に蓋をする…という方法は?」
そういった原始的な方法しかなかった。”あっ!それ良い方法ですね!”と、外野から小早川の言葉が聞こえる。あまり頼もしいとは言えない賛同である。
『…やってみるに越したことはないだろうけど、果たしてモノパンが許すかどうか、と言ったところだね』
案の上、電話の向こうのニコラスは気乗りしないように返す。俺自身も、正直こんな粗末な方法が対策になるのか…そんなことも気付かないほどモノパンは馬鹿なのか…そう思えて仕方なかった。
つまる所この話題の結論は…お手上げ、ということである。
『でもまぁ、かれこれと言ってきたボク達だけど…何よりも最優先で注意すべきなのは明日の放送さ。一体誰のどんな情報を開示するのかは定かでは無いが…気を引き締めておいた方が良い』
「……」
『確かに今回の場合は、まぁ自分で言うのも何だけど…大したことではなかった。でもあれはきっと前哨戦、ボクシングで言う挨拶程度のジャブ、野球で言う見せ球用の煽りストレートさ』
「…いや、前者はともかく後者は分からん」
『とにかく……あのモノパンの事だ、きっと準備くらいはしているはずさ。ボク達の中に潜んだ、決して触れてはいけないパンドラの箱のようなモノをね』
「………」
俺は、視線を周りを4人の生徒に向けていく。生徒達は、どうした?そんな表情で答える。
――――もしも、生徒達の中に……あまり考えたくないが…俺達の中に、決して探られて欲しくない何かを抱えている生徒がいたとしたら…。
それが暴かれる、バレる…そんなのイヤだ…そう思った誰かがいたとしたら…。
それを、無理矢理にでも塞ごうとすることに誰かがいたら…。
きっとまた…起こって仕舞う。…コロシアイが、学級裁判が。
…まるで地雷原に無理矢理押し出されたような気分だった。いつ誰を至らしめても可笑しく無い、特大の地雷地帯。
酷い痛みが、脳の中を駆け巡る。
それでも…。
「……それでも、俺は」
『ああ、キミはそれで良い』
「…え?」
『キミは、ボクらを信じることに専念すれば良い。そしてボクらを疑うのは名探偵であるボクの役目だ。…その方が、きっとキミにとっても、ボクにとっても最適な分担のはずさ。…違うかい?』
「……ニコラス」
『アプローチの仕方は違えど、キミとボクの終着点は一緒。真実にたどり着くことに変わりは無いさ』
「ああ……そうだな。そうだよな」
疑う余地の無いくらいに信じる俺と、信じられない余地の無いほど疑うニコラス。みたび修羅場をくぐり抜けてきたからこそ、彼のその言葉に強い確信と理解を持てた。
同時に、俺にとって、それ以上に心強い言葉は無かった。
『……少しクサいことを言い過ぎたかもしれないね。そろそろ良い時間だから、報告はこれぐらいにしておこう。今回はボクが特例でミス雲居からチェンジしているけど…明日からはちゃんと別の生徒に任せる予定だから、そこんところは宜しくだぜ?キミ』
「いきなり特例を使うのか…」
『常にイレギュラーを想定し、そして動いていくのがボクなのさ』
「……はぁ、そうか。だったら。切る前に、少し良いか?」
ニコラスが電話を切ろうとする。その間際。ふと気になったことがあった。俺は、彼の置こうとするその手を言葉で制止させた。
『……何だい?』
「”雨竜”の様子は…どうだ…?」
前回の裁判から二夜も明けての彼の現状を聞いてみる。今のところ、生きているという事は伝わっているのだが…具体的な様子は分かっていなかった。
『………キミの期待する結果では無い事は確かさ』
だけど、気を使って濁してくれているのだろうが……きっとまだ部屋か出てきてすらいない…と暗に答えてくれているのだろう。
"そうか…”俺は察した声色で、小さく頷いた。
『安心したまえよマイフレンド。彼のことはボクら任せたまえ…大丈夫、生きてキミ達の目の前に引っ張り出して見せるさ。キミ達は何よりも、橋が直るまでそこで生き残ることにベストを尽くしておくれ』
「…そうだな、ありがとう」
『ははっ!礼には及ばないさ!!なんせこのボクは超高校級の錬金術師であり!!超高校級の名探偵!!!ニコラ――――――』
――――ブツっ、と切った。一方的に、きっと面倒くさくなると思ったから。
そして俺は、すぐさま今ニコラスと話した内容を生徒達に伝えていった。
「――――と、いうことらしい」
「…ええとまとめると…私達の現状は未だ安全とは言えない、雨竜さんは今もお部屋の中に、そしてえーっと…動機発表については、対策不能…。うう……もう頭がこんがらがってしまいそうな数々です」
「全部まとめて考えちまうと、ストレスで夜も寝れなくなっちまうんだよねぇ。今は目の前の1つ1つを丁寧に解決いくしかないみたいだねぇ」
「……いや、私は眠い」
「例外がいた所為いちまったんだよねぇ。ていうかあんた昼間っからずっと寝てたきがするんだけどねぇ」
「しょうが無い…生物とはとにかく寝ることが仕事だから」
「…開き直りの仕方がもう清々しいんだよねぇ」
「でも睡眠は美容に良いですからね!!」
「……その通り、今私は美容活動をしている」
「過ぎたるは及ばざるが如しということが、あるよね?微量は薬となり得、過剰は猛毒と化す良薬のように、風切さんは今、ほどほどから逸脱した領域に達しようとしているのかもしれない。限度とは…ああそうさ…自分で決めるモノだけど、時には人の言葉を信じてみるのは…どうかな?」
「…うるさい」
「……」チャラン
…長い口上が一言で一蹴されてしまった。…案外落合って、シンプルな言葉に弱いよな。皮肉な話だが。
「……とにかく、今日はこれぐらいにして、解散にするか」
「まぁ他にやることは無さそうだからねぇ、さっさと寝床に付くとするかねぇ」
「分かりました!!では皆さん!また明日ですね!!」
「…おや」
「………」ジャラン
解散の言葉と共に、生徒達はそれぞれの部屋へと散っていく。
俺も、その後に続いて、部屋へと戻っていく。
また明日…何が起こって仕舞うのか。何が俺達を待ち受けているのか。どこまでもつきまとう不安にかられながらも、俺はその日に、エリア4での監禁生活の2日目に区切りをつけていった。
【モノパン劇場】
「突然ですが、ミナサマは”占い”を信じていたりしますカ?」
「――――ええ、勿論かなり信心深い方もいらっしゃれば、まったく信じない、アホくさいと言う方もいらっしゃることでしょウ」
「…そういうワタクシは、実は結構信じちゃうタイプでしテ」
「その日の朝にテレビの最後で流されるコーナーを見て、もし自分の星座が上位にあったのなら気分良く、悪ければ気分悪く…典型的な”信じる”タイプでしタ」
「ですが……そういった日常を繰り返している内に、ふと思ったんでス」
「…もしも導き出された運勢が全て幸福なら、全て不幸なら…と」
「その結果が人生を大きく左右されるわけでは無いですガ…前者であれば、きっと誰もが晴れやかな表情で1日を過ごせることでしょウ」
「きっと、此方を望む方は多いと思われまス」
「ではもしも逆であれば……皆は暗い面持ち二?……いえ、むしろ面白いと思うかも知れませんネ。信号無視、皆で渡れば怖くない、と言ったよう二」
「あまりそういった終末的な考えの方は…できれば多くはあっては欲しくないですネ」
「……まぁワタクシはその少数派側なんですガ」
「えっ?どうしてそんな辛気くさいことを考えるのかっテ?」
「それはもう、そっちの方が”嬉しい”からですヨ」
「もうね…皆、不幸になって死んでしまえば良い…そう思ってすらいまス」
「…あ、流石に死んで欲しいは言い過ぎでしたネ」
「――――でもまぁ、結局のお話。そんな占いなんて、面白くもなんとも無いですよネ」
「だってみーんな幸福だったり、不幸だったりしたら全然優越感なんて感じられませんもン」
「誰かより結果が良いからこそ、占いは面白いんでス」
「それを全部平たくしてしまったら、もう娯楽として成り立たなくなってしまいまス」
「善し悪しがあるからこそ、それは娯楽として受け入れられるのでス」
「そう、善し悪しがあるからこそ…でス」
「以上、為にも薬にもならない、モノパンの独り言でしタ~」
『生き残りメンバー:残り10人』
【超高校級の特待生】⇒【超高校級の不幸?】折木 公平(おれき こうへい)
【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)
【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)
【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)
【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)
【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)
【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)
【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)
【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)
【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)
『死亡者:計6人』
【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)
【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)
【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)
【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)
【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)
【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)
お世話になります。水鳥ばんちょです。
短めですが、日常編です。
↓コラム
〇生徒達の家族構成……と
男子の場合
・折木 公平⇒父、母、姉
・陽炎坂 天翔⇒父、母(離婚)
・鮫島 丈ノ介⇒父、母、妹(重病)
・沼野 浮草⇒義理の父、義理の母、義理の兄(死亡)
・古家 新坐ヱ門⇒父、母
・雨竜 狂四郎⇒父、母(死亡)、長兄、次兄、弟
・落合 隼人⇒父(行方不明)、母、弟、
・ニコラス・バーンシュタイン⇒父、母、兄
女子の場合
・水無月 カルタ⇒父、母、姉
・小早川 梓葉⇒父、義理の母、長姉、次姉、妹
・雲居 蛍⇒父、母、妹
・反町 素直⇒父、母(死亡)
・風切 柊子⇒父、母、弟(重傷)
・長門 凛音⇒祖父、父(死亡)、母(死亡)
・朝衣 式⇒父、母、長兄、次兄
・贄波 司⇒父、母