ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~   作:水鳥ばんちょ

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Chapter4 -(非)日常編- 17日目

 

 ~~~~~~

 

 

『キーン、コーン、カーン、コーン……』

 

『ミナサマ!おはようございまス!!朝7時となりましタ。起床時間をお知らせさせていただきまス!それでは今日も、元気で健やかな1日送りましょウ!』

 

 

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【エリア4:ホテルペンタゴン『食堂』】

 

 

 決められた時間に毎度飽きること無く鳴り響く朝のアナウンスに起こされながら、決められた約束を守るために、食堂へとやってくる。

 

 そして、決められた人間である俺は、向こう側へと繋がる受話器を耳に押し当てていた。

 

 

「…んで、今回は決められた当番が私だったわけです」

 

「…そうか」

 

「不満ですか?」

 

「…当番制なんだから不満も何もないだろ」

 

 

 開口一番からの、今回の連絡係である雲居の卑屈な発言。通常通りとはいえ、思わず頬を引きつらせてしまう。

 

 

「なら良かったです。んじゃ本題に入るですね、昨日の監禁生活の具合はどんなもんだったですか?」

 

「…モノパンの唐突な動機発表以外に大きな変化は無い」

 

「ふーん、そっちは平和そのものの日々だったみたいですね。何よりです。…こっちもニコラスを村八分にしてる位で大した事は起きてないです」

 

「…十分大したことが起きている気がするんだが」

 

 

 そういえば、と。昨日、"距離を置かれてる”とか何とかニコラスは冗談めかしに言ってたことを思い出す。嘘か本当か定かでは無かったが…まさか偽りなく壁を作られていたとは…。

 

 

「過ぎたこととはいえ、不貞をいたした輩に変わりは無いですから。当然の処置です」

 

「…あまりやり過ぎるなよ、そっちは女子の方が人数が多いんだから」

 

 

 女性間のそう言ったもめ事は極めて生々しいと聞くからな。

 

 

「別に過度な心配しなくても大丈夫ですよ。あんたが想像しているよりも深刻な雰囲気はないです…馬鹿みたいに自信に満ち満ちあふれたあいつの鼻っ柱を小突いてるくらいの状況です」

 

「…そうか。なら良いんだが」

 

 

 良いのだろうか?…と再度考えてみたが、何のそのと笑い飛ばすニコラスの姿が思い浮かんだため、良いということにした。

 

 

「それに、こんなことでコロシアイに発展するんだったら、もっと犠牲は増えてるはずですし。コソコソ隠してた今までの連中のディープな過去に比べたら、かわいいもんですよ」

 

「……確かにな」

 

 

 そう聞いて、俺は大事になっていないことにホッと安堵する。

 

 

「まぁでも、その10股された女性が私達の中に潜んでいたなら…話は別ですけど」

 

「………」

 

 

 一瞬寒気がよぎってしまったが…もしそれが本当だとしたら、初日の顔合わせの時に既に刺されているかぶん殴られているはずだから、恐らく心配は無いだろう。俺は、改めて安堵する。

 

 

「んで話を元に戻すですけど…――朗報と悲報が1つずつあるんですけど…どっちが聞きたいですか?」

 

「……」

 

 

 どこぞのアメリカ映画のような質問に、しばし逡巡。

 

 

「でも悲報から話すと順序が成り立たなくなるんで、朗報から話すですね」

 

 

 だけど考える隙間も無いと、雲居は話を続けていく。じゃあ聞くなよと思ったのは、誰もが考えることだろう。

 

 

「えーっとまず朗報ですけど、雨竜の奴が部屋から出てきたんです」

 

「雨竜が!?」

 

 

 願っても無い出来事がしれっとこぼれたのだから、俺はつい大声を出してしまう。周りの小早川達が、驚かせてしまう。

 

 

「んで…悲報の方は…雨竜の奴がまたこもり始めたんです」

 

「……えっ」

 

 

 続けざまに、雲居は雨竜に関する新たな情報を注いでいく。その浮き沈みの速度に、脳みそがついて行けずに居た。

 

 

「しかも図書館に」

 

「と、図書館?」

 

「そうです。おかげで私の貴重な読書の時間がお流れになってしまったんです。……どうしてくれるですか?」

 

「……えっ、俺の所為か?」

 

「ただの八つ当たりです。あんたの所為ではないですけど、はけ口が無いので観念するです」

 

「………」

 

 

 急に仲間の安否が確認されたと思った、急に仲間から責任がおっかぶされる……どう考えても理不尽が過ぎる一連の流れであった。

 

 

 だけど…それ以上に…。

 

 

「でも…雨竜の奴、部屋から出てこれたんだな…」

 

 

 裁判から今日までずっと姿を表わさなかった彼が、やっと確認できた。その情報だけでも、悲報を覆すほどの朗報に思えた。

 

 

「確かに安心はしたですけど…困ったもんですよ。散々心配掛けた挙げ句、今度は知識の独占。何がしたいんだか…分かったもんじゃ無いです」

 

「……」

 

 

 と、彼の安否に対しての思いは当然個人差があるみたいで、雲居はイライラを隠せないでいるようだった。だけどまぁ、業腹な理由は、どう考えても”図書館に引きこもる”ということなのは考えるまでも無かった。

 

 

「…だから、今日は1日使って図書館前にて抗議活動を行うつもりです」

 

「…革命でも起こすつもりか?」

 

「場合によっては 武力行使もいとわない所存です」

 

 

 いや過激派過ぎるだろ。日本でも中々無い攻撃性だぞ。

 

 

「……くれぐれも穏便にな」

 

「あいつの出方次第ですね。…でもまぁ、色々言ったですけど、雨竜の事は進展があったらまた夜にでも話すですよ」

 

「ああ…頼む」

 

 

 俺は心を込めて、そう雲居に伝える。

 

 …雲居のことだから武器は使わずとも、手は高確率で出る心配がある。時々、反町より喧嘩っ早い性分を見せる時があるからな。…ていうかウチの女子生徒、物騒な奴多すぎないか?今更だけど。

 

 

「…ところで、話は変わるですけど。折木」

 

「何だ?」

 

「あんた、昨日贄波に何か吹き込んだりしたですか?」

 

「…………………………いや、何も」

 

 

 唐突に変わった話に、俺は小さくない間を置いて返事をする。

 

 

「…嘘ですね」

 

 

 だけどあからさまに身に覚えがあると踏まれたため、すぐに雲居からダウトを受ける。

 

 

「ぐっ…」

 

「何故なら、今日の朝から、つまりあんたと電話をした翌日に、妙に張り切って料理の練習してたからです。それも"グラウンド"で」

 

「…ぐ、グラウンド」

 

 

 いや、まず場所の時点で不安しか持てない。十中八九料理のための材料を採取しているのだろうが…今時料理に”現地調達”という言葉は余りに時代錯誤が過ぎる様に思えた。

 

 

「そんで、試食会みたいなのを今日やらされたです」

 

「……どうだった?」

 

「言わずもがなです。未だに口の中から大自然の風味が残ってるです」

 

「………そうか」

 

 

 …バランスは良さそうだな。という言葉が出てきそうになったが、グッとこらえ、代わりに心からの謝罪を口にする。こう言っておかないと、また彼女から毒を吐かれそうだったから。

 

 

「……そんで被害を被った反町から伝言です。"帰ってきたら覚えとけよ”…だそうです」

 

「………」

 

 

 だけど雲居からでは無く、別の生徒からの背筋も凍るような”脅し”を受けてしまった。

 

 

「じゃあ切るですね」

 

 

 ガチャリと、冷たく音を切り離される。俺は頬を引きつらせながら、受話器を耳に当て、向こう側で流れるツー、ツー、という音を耳に流がし続ける。

 

 

 何となく……余計向こうに帰るのが段々嫌になってきた気がする。

 

 

 不謹慎ではあるが、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア4:ホテルペンタゴン『ランドリー』】

 

 

「……」

 

「……」カチャカチャ

 

 

 ゴウゴウと服が回る洗濯機の音が響くランドリー。タダでさえ静けさが目立つ室内で、おもちゃをイジるようなプラスチック音もまた流れ、沈黙を助長させていた。

 

 俺は、その発信源である隣に目を向けた。

 

 そこには、椅子に腰掛け、黙々と作業に没頭する風切が居た。彼女が対するテーブルの上には、いつも背中に携えていたライフルが分解された状態で並べられていた。

 

 

「いつもやってるのか?その作業」

 

 

 その酷く複雑な工程を眺めながら試しに一言。

 

 

「…うん、毎日やってる」カチャカチャ

 

 

 その没頭具合から返答があるか怪しかったが…メンテナンス道具らしき長い棒に綿をくくりつけたようなもので筒をほじくりながら彼女はそう答える。

 

 

「…そういえば、お前と初めて会ったときから今までずっと背中に張り付けていたよな。しかも埃一つ無い綺麗なまんまで」

 

「大切な相棒だから、当然。だからこそ、毎日体調を整えてあげてる」

 

 

 そう言いながら、まるで我が子を愛おしむように、バラバラになったライフルを、いつも無表情の彼女からは考えられないほど穏やかな表情で眺める。

 

 

「…それに、この子はそこらの代物の中でも特に一筋縄じゃいかないヤツ…だから念入りにご機嫌を取らないと、すぐに拗ねちゃう」

 

「ご機嫌を取らなかっただけで照準がぶれたりするのか?」

 

「…うん、もの凄くブレる。1回メンテナンスを怠けただけで、2~3発撃ったら弾詰まり」

 

 

 それただの欠陥品なんじゃないか?と思ってしまったのは内緒だ。

 

 

「…それに良く言う。できの悪い子ほど愛おしいって」

 

「……できが悪いのは自覚してるのか」

 

 

 …同時に、それは人では無く銃ではないか?と口にしそうになったが、流石に無粋だと、寸前で飲み込んだ。先ほどの彼女の表情からしても、目の前のライフルは友達、もしくは家族同然の存在。だからこそ余計にそう思えた。

 

 

「だから今私は大事な対話の時間を過ごしてるから………テーブル、揺らさないでね?」

 

「………」

 

 

 静かにしていろじゃなく、揺らさないでね、と言われたのは初めてだったが…そのとんでもない集中力を邪魔するのもまた無粋であった為に、テーブルから一定の距離を取っていく。

 

 そんな中で、ふと気になることがあった。といってもたわいも無いし、どうってことない、雑談程度の気になること。

 

 

「でも…何で個室でやらないんだ?あっちの方が断然静かだし、気が散ることもないだろ?」

 

 

 どう考えてもこのランドリーよりも環境としてはあの部屋の中の方が上のはずなのに。そう思ってのもっともな質問。

 

 

「…あの個室、いつも寝てた本来の場所より埃っぽいから集中できない」

 

 

 聞かれた彼女は筒に目を通しながら、あっさりと答えていく。

 

 その返答に、意外に神経質な所もあるんだな…と彼女の新たな一面を見て思った。正直、俺達の中で1,2を争う図太い奴と認識していたから。

 

 

「…まぁでも確かに、エリア1よりは息が詰まる所はあるかもな」

 

 

 だけど俺自身も彼女に同意見であった。

 

 今までは世界に張り付けられた風景のおかげもあり、限りなく屋外に近い世界の中で過ごせていた。だけど今は、寒空の所為でホテルの中という明確に室内の中と認識させられる環境に変わり…より鮮明な閉塞感を感じてしまっている。

 

 

「うん…だから、早くココから出て、ログハウスエリアに戻りたい」

 

「……今はここに閉じ込められて2日だから…後2日の辛抱だな」

 

 

 モノパンが昨日放送していた”最低でも4日はかかる”という言葉を鵜呑みにすれば…の話だが。

 

 

「…ついでにこのジオなんたらからも出たい」

 

「………それは…未定、だな」

 

 

 そこまで言うと流石無理があった。無理と思うべきなので無いが…そう簡単なことじゃない。

 

 風切も自身も分かっているのだろう、はぁ、とため息。

 

 

「…でも、気付いたら…もう半月もこの施設の中で過ごしてる」

 

「……」

 

 

 すると風切は、メンテナンスの手を止め、宙を眺めたまま、しみじみと振り返り出す。

 

 そういえば、と、俺自身も。激動の毎日を駆け抜けてきた所為で実感を持っていなかったが、恐らく風切が言った位の日にちが経ってしまっている。時の流れは早いと言うべきなのか、

 

 

「…途中から数えて無いけど…そんなに経ってるのか」

 

「…うん」

 

 

 だというのに、それなのに助けも無くて、何処にも脱出の手がかりも無い。

 

 加えて、もしかしたら既に何年後かも分からない未来に立っているかも知れない、俺達の希望ヶ峰学園がただならぬ事態に見回られているかも知れない。そして、脱出の手がかりを見つけようと、このエリアを探索しに来たというのに。

 

 

「むしろ、状況が悪化しているような気がするよ…笑えない話だけどな」

 

「…本当に、ね」

 

 

 しょうが無いとも言えた。どんなに諦めずに探索をしたりしても、どんなに努力してきても結局手がかりなんて見つからない。

 

 だのに、仲間が1人、また1人と消えていく。コロシアイ、疑いあいが続いていく。日々が過ぎる度に、刻々と深刻さは増していく。またため息をつきたくなる陰鬱さがぶりかえすようだった。

 

 

「ねぇ…公平は…」

 

「……?」

 

「………もう嫌になったとかってある?」

 

「……」

 

 

 風切は俺を視線で射貫く。今の俺自身を、文字通り貫くような質問であった。つまりそれは、脱出することが、何かを探すことに嫌気が差したのか。ということに他ならなかった。

 

 

「そんなことはない……」

 

 

 だけど、その答えに時間を要することは無かった。でも…。

 

 

「そんなことはない……だけど」

 

「…けど?」

 

「…………少し疲れてきたのは…ある」

 

 

 回答には、時間はかからなかったが…ハッキリとした答えでは無かった。それでも俺は言い切った。どちらも、俺自身の嘘偽り無い答えであったから。

 

 

「………そっか」

 

 

 そしてそれは弱音とも言えた。俺は情けなくなる様な気持ちを噛みしめる。

 

 

「……じゃあ、今の時間は大切にしないとね」

 

「…え?」

 

 

 だけど、そんな情けない弱音の吐露から帰ってきたのは、励ましでも、叱責でも無く、全く別の…より添いの言葉であった。俺は、思わず呆けた顔になってしまう。

 

 

「…昔、”センパイ”に言われた。誰かに弱音を吐くことは恥ずかしいことじゃない。…重い気持ちを軽くするための人にとって大切な行動だって」

 

「…また、例の”センパイ”とやらの受け売りか」

 

 

 前にエリア2の時に話した、彼女の恩人、この希望ヶ峰学園に来た理由とまで言っていた、あの話を思い出す。

 

 

「うん、私が”塞ぎ込んでた”時期に…”センパイ”が言ってくれた」

 

「………塞ぎ込んでた?」

 

「そう、今の公平みたいに。でもセンパイにそう言われて、いっぱい怒って、いっぱい話して、いっぱい泣いて、いっぱいまた泣いて…そんないっぱいを繰り返してたら…不思議と心が軽くなってた」

 

「………」

 

「…だから、やっと今みたいに生活できるようになれた」

 

「……風切?」

 

「…だから、やっと自分の罪に向き合えるようになった」

 

「………」

 

「…だから、やっと…”翔斗(しょうと)”と、向き合えた」

 

「………?」

 

 

 

 唐突な、風切の続けざまの言葉に…俺は、首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのね、公平。私……――――――――――”自分の家族を殺しかけたことがあるの”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雷に打たれたような、そしてとても冷水をぶっかけられたような。

 

 そんな強い衝撃としびれが体に走るようだった。

 

 だってなんてことも無い1日の雑談の中で…しかも俺なんかの前で、風切は目の色を変えること無く、自分が殺人未遂を犯したことがある、そう告白したのだから。

 

 俺は”えっ…?”と呟きながら、酷い硬直に陥る。

 

 

「……ごめん、急にこんなこと言って」

 

「いや…でも……」

 

 

 ぺこりと頭を下げ風切に、俺は当惑してしまう。

 

 

「何でそんな大事な事を、急に?」

 

「…”今”、言うべきだと思った」

 

「今?」

 

「……動機発表、あるでしょ?……あれは誰かの、恥ずかしい過去を発表するもの」

 

 

 そう言った風切の理由に、俺はハッと、ようやく合点をいかせた。

 

 

「……もしかして、今のが、お前の?」

 

 

 風切は、コクリと頷いた。

 

 

「…うん、きっと…家族を、――――――”弟を殺しかけた”…それが私にとっての酷い過去、動機」

 

 

 モノパンがいずれ発表するであろう、風切にとっての動機。俺は、彼女の真剣な眼差しと向き合った。

 

 

「弟、を……」

 

「…前に、私の家は猟師の家系だって話したの、覚えてる?」

 

「あ、ああ…そこで銃のノウハウを学んだって言ってたよな?」

 

 

 そして、何故ハンターから射撃選手に転向したのか…そこははぐらかされたのも覚えている。

 

 

「……もしかして、その事件が、お前が射撃選手に転向した理由なのか?」

 

「…鋭い、その通り」

 

 

 あのときは何で、そう思って違和感を持っていたが…その理由が頷けた気がした。…家族を殺しかけたから何て…口が裂けても言えない。

 

 でも……。

 

 

「詳しく…聞いても良いか?」

 

「ココまで話したんだから、公平には骨まで呑んで貰う」

 

「……もう既につっかえそうなんだが」

 

「…しょうがない。……でも、殺しかけたと言っても、明確な殺意を持ってとかじゃない」

 

「というと?」

 

「…その日は、月に一度の姉弟だけの狩りをしてた。でも途中で、予防が足りなくて、弟が迷子になって、そっちに気を取られている間に、私は熊に背後を取られた」

 

「く、熊にか」

 

「うん、私より背丈のある…でかいヤツ」

 

 

 彼女の背丈から考えると…大体古家くらいの大きさと考えられた。

 

 

「…そしてすぐに木に追いやられた。私、尋常じゃ無いくらい震えてた。目の前に死が迫ってることに恐怖しかなかった」

 

 

 そう思うのも無理は無いと思えた。だってただでさえ人を殺傷するのに長けている熊が、目の前に迫っていたのだから。大きさから考えても、爪でひと掻きされたら、タダでは済まない。

 

 

「だから、私、手に持ってた猟銃で、撃った。自分自身の命を守るために。弾は熊の心臓を貫いた」

 

 

 焦っても超一流というべきか…流石の射撃能力と思えた。

 

 だけど風切はすぐに、”でも…”と声を暗くする。

 

 

「でも、弾は貫通した。そして、後ろで、熊の影になってた弟に…」

 

「当たって、しまった…」

 

「……うん。当たり所も悪かった。すぐに血を止めて、家に駆け込んだ、病院に運んだ」

 

 

 まさに悲劇であった。銃を撃たなければ自分は死んでいたからこそ、最善の答えが無い、極限の悲劇に思えた。そのときの彼女の心境は、考えるまでも無い計り知れないものだっただろう。

 

 

「何とか一命は取り留めたけど……でも、後遺症は残った。片目が見えなくなってた」

 

「…………片目を」

 

「おとーさんもおかーさんも、事故だった、仕方ないって…慰めてくれた。2人とも生きてくれてて良かったって、言ってくれた」

 

「………」

 

「でも私はトラウマとしてずっと記憶の中に残り続けてた」

 

 

 無理も無い、そう思わざる得なかった。もしも自分が同じ立場ならと考えたら、ぞっとしてしまう。

 

 

「だから、銃も手放した……勿体ないって止められた。でも私は銃で、”生物”を撃てなくなってた。イップスみたいになってた」

 

 

 それは彼女にとって、その道の終わりとも言えた。俺は、何を言うべきなのか…何も言わないべきなのか…それすらも分からなくなるほど…重い気持ちを感じていた。

 

 

「でも……本当は辞めたくなかった。おとーさんみたいな立派な猟師になりたいって…ずっと思ってたから……それに、翔斗のせいにしたくなかった。翔斗を撃った所為で、夢を諦めたくなかった」

 

 

 今も生きる弟に気に病んで欲しくないという責任感と、弟を撃ってしまった罪悪感に板挟みにされている様に見えた。一体どれほどの、重圧と戦っていたのか、凡人の俺には決して分からなかった。

 

 

「そんな時に、”センパイ”に出会った」

 

「…例の?」

 

「同じ高校で、変人って言われて遠巻きに皆に避けられてたけど…でも、私の悩みを無関係なのに親身に聞いてくれた……」

 

「………」

 

「…そういう他人にばっかり優しくする所は、公平にちょっと似てるかも知れない」

 

「そう、なのか」

 

 

 思わぬ所で重ねられた事に、少し動揺してしまう。他人にばかり、というのは少し引っかかったが。

 

 

「それから、いっぱい話を聞いて貰って、いっぱい相談して、いっぱいどうしようかって考えて…それでちょっとずつ治していこうって…」

 

「……それで、射撃を?」

 

「…幸い、エイム力は誰にも負けなかったから。動かない的のど真ん中に当てることなんて簡単だった」

 

「流石だな…」

 

「それでも、中途半端だって、自棄なってたときもあったけど…”中途半端でも貫き続ければ1つの道になる”って…また励ましてくれた」

 

「本当に…親身になってくれてたんだな。メンタルトレーナーみたいだな」

 

「うん、でもセンパイの本業は環境委員」

 

「……そうなのか」

 

 

 ますますセンパイとやらの人物像がぼやけていくようだった。でも、確実に彼女の人生の助けになっていることはひしひしと伝わってきた。

 

 

「おかげで、弟とも和解できた。そこでやっと、私は持ち直せた」

 

「……センパイとやらの取り持ちでか?」

 

「…うん。本当に頭が上がらない」

 

 

 ココまで聞いて、何故か彼女がセンパイにこだわるのか、何故希望ヶ峰学園に態々お礼をしに来たと言ってのけたのか、頷けた。まさに、恩人と言うべき存在であり、彼女に確かな影響を与えた存在だから。

 

 

「でも…風切。なんで、そんな大事なことを…俺に話そうと思ったんだ?」

 

 

 純粋な疑問であった。決して笑い話になんてできない悲劇を、凡人である俺に、それもこんな時に告白してきたのか…どうしても分からなかった。

 

 風切は、小さく間を開ける。そして、静かに息を吐いて、吸って…

 

 

「…私はもう、”救われてる”から」

 

 

 ――――救われているから?

 

 

 言われた俺は、首を傾げた。

 

 

「そう、翔斗と仲直りして、過去と向き合って、向き合い尽くして、清算してるから」

 

「……」

 

「……今の公平は昔の私に似ている表情をしてた」

 

「……お前の言う、塞ぎこんでたってやつか?」

 

「…うん、だからそんな苦しさ、少しでも和らげられたらって…思った」

 

 

 ”センパイ”が私にしてくれたみたいに”

 

 

 微笑みながら、風切は付け加えた。

 

 

「そして、今度は私が誰かを救えたら、って思った。……だから、公平に話した」

 

「………」

 

 

 

 ――――強いな、本当に

 

 

 

 ――――凡人の俺が、矮小に見えるくらいに

 

 

 

 黙って受け止めた俺は、すぐにそう思った。

 

 

「…どう?少し、楽になった?」

 

 

 だけど…気付くと、俺は今までの疲れが、苦しさが、確かに軽くなってるような気がした。

 

 

「…………そう、だな、お前の話を聞くと、俺の悩みなんてちっぽけなもんだ」

 

「…なら、良かった。センパイが褒められてるみたいで、”コーハイ”として鼻が高い」

 

「…慕ってるんだな」

 

「うん、恩人だから当然」

 

 

 ドヤっと、淡泊な表情からでも分かるほど誇らしげに胸を張った。その態度が、何故か可笑しくて、つい笑ってしまう。

 

 

「はは……そんなに慕ってるんだったら…実は、好きだったりするのか?」

 

 

 こういうのはセクハラ、に当たるのだろうが…冗談めかしに風切に聞いてみる。ある意味、気になっていたから。

 

 

「無い…人としては尊敬できるけど、恋愛対象としては全然ダメ」

 

「……」

 

 

 だけど彼女はそう即答した。

 

 一体、センパイという存在は一体どんな者なのか、ますます分からなくなってきた気がした。

 

 

 そして、徐に、首をひねって時計を見てみると…長針と短針が12時で重なり合おうとしていることに気付いた。

 

 

「…そろそろ、だな」

 

「…本当だ」

 

 

 俺の言葉に、風切も時計に目を向け、そう言った。

 

 

 そして――――

 

 

『ピンポンパンポーン』

 

 

「…来たか」

 

 

 昨日と同じチャイムの音が鳴り響いた。俺達は、覚悟を持った表情で、そのアナウンスに耳を傾けた。

 

 

『再びやって来ましタ!またもやってきましタ!お楽しみの動機発表タ~~~~イム!!!』

 

 

『楽しみして下さいましタ?楽しみすぎて、もだえ死んでたりしていませんカ?』

 

 

『だけどそんな事はこのモノパンが許しませン!断固!!キュン死!!萌え死!!』

 

 

『…と、御託はこのくらいにして…ではでは今回の動機発表の第2の犠牲者を発表といたしましょウ!!』

 

 

『今回の犠牲者は~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――小早川梓葉サンで~~~ス!!」

 

 

「……梓葉の?」

 

 

 

 だけど今回は、小早川のようで。見ると、風切はどこか、ホッとしているように思えた。

 

 俺も何故か、ホッとしてしまう。

 

 そしてすぐに思考を切り返す。

 

 秘密とは無縁そうな小早川。一体何が彼女の恥ずかしい過去なのか、また、昨日のニコラスのようなしょーもない事でも話すのだろう。

 

 

 

 俺は耳を塞ぐことも忘れて、そのアナウンスに耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

『超高校級の華道家である小早川梓葉サン、実は――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――"偽名"を使っている』

 

 

 

 

 

 

 

「――――――えっ?」

 

 

 

 

『以上!!FMモノパンでしタ~~~、ミナサマ良い夢見ろヨ~~~!!』

 

 

 

 ブツリと、モノパンは音を閉じた。

 

 

 俺は呆けた表情で、その場に固まってしまっていた。何か良くないことを聞いてしまって、どうしたら良いのか、どう行動したら良いの分からなくなったような硬直を。

 

 

 

「……どういうこと?偽名って?」

 

 

 銃のメンテナンスも中断し、風切は俺に目を向け、そう声を掛ける。 

 

 

 そんなの、聞きたいのは俺の方だった。

 

 

 …偽名?何故?

 

 

 では、小早川梓葉という生徒は、小早川梓葉では無いということ?

 

 

 彼女からは考えられないような内容に、秘密に…暫く、言葉を失ってしまう。

 

 

 ――――だけど

 

 

「………!!」ダッ

 

「え…公平!」

 

 

 俺はすぐさま、ランドリーから掛けだした。

 

 

 何か、”胸騒ぎ”がした。

 

 

 そう直感したから。

 

 

 俺は渦中の…小早川を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア4:ホテルペンタゴン『入口』】

 

 

「……ここに、いたのか」

 

「………」

 

 …フロントに入ったとき、新鮮な寒さを微妙に感じたから。たったそれだけの理由で出入り口に手をかけてみると。入口の階段に腰を下ろす、小早川が居たのだ。

 

 そして、俺は白い息を切らしながら、目の前の、入口の階段に座り込む小早川にそう声をかけた。彼女は漫画みたいにピンと跳ねる。多少、驚かせてしまったみたいだった。

 

 

「……急にいなくなるもんだから、探したぞ」

 

「え、ええ?…ど、どうしたんですか?何か、あ、ありましたか?」

 

 

 振り向いた彼女は開口一番、あからさまな動揺を孕んだ、しどろもどろな口調で言葉を紡ぐ。俺は軽く、ため息をついた。

 

 

「…小早川」

 

「……すみません、何かありましたよね」

 

 

 はぁ、と彼女は俺のが伝染したみたいに息を吐き、またガックリとこと垂れる。

 

 

「…本音を言えば、ちょっと隠れちゃってました。少しだけ1人になりたかったので……でもこんな早く見つかってしまって…やっぱり折木さんって探し物が上手なんですね」

 

 

 取り繕った笑顔で、動揺しているのがバレバレの言葉でまた取り繕う。少し1人になりたかった…というとやはり…。

 

 

「やっぱり、あの放送が…?」

 

 

 ――――小早川梓葉は、偽名である

 

 

 それが真実であると、そう示すように無言で、力無くコクリと頷いた。

 

 ”そうか…”そう言いながら、俺は彼女の隣に腰掛ける。雪もしんしんと降っている中で寒かったが、中で話をしよう、とかそう言う空気では無かったから。

 

 

「……話、聞かせてくれるか?」

 

 

 殆ど無関係な間柄だというのに図々しい話だが…でも、まだ何も知らない関係だからこそ聞けることがある。何も知らないからこそ、言える言葉がある。

 

 そう思いながら、俺は静かに彼女の言葉を待った。

 

 

「…そう、ですね。話をしてみれば…少しは楽になるかもしれませんしね…」

 

 

 その思いが通じたのか、何かを決心したようにそう言葉を漏らす。

 

 

「少しだけ、長くなってしまいますが…宜しいですか?」

 

「ああ、お前の気持ちが軽くなるなら幾らでも聞いてやる」

 

「…ありがとうございます」

 

 

 さっきの風切にされたように、俺自身も仲間の力になりたいから。彼女はその言葉に大してなのか、深々と、礼儀正しく、お辞儀をした。

 

 

「折木さん。『四條(しじょう)』…ってお名前を聞いたことはおありですか?」

 

「………ああ、世事に疎い俺でも聞いたことはある。”あの”四條だろ?茶道とか、弓道とかで有名な」

 

 

 突然、彼女の口から出てきたその”名前”。俺は、声色だけでは分からないが、内心少なくない驚きで満たされていた。

 

 ――――”四條”

 

 それは弓道、茶道、薙刀道、そして華道といった日本の伝統文化に精通した血を脈々と受け継ぐ由緒正しき家元。それこそ、希望ヶ峰学園へ入学するような一流の逸材を幾人も排出してきたまさに名家中の名家。

 

 

「まぁ、日本舞踊のみにおいては"西園寺”様のお宅には負けてしまいますけど…」

 

 

 だけど一芸に特化する家元も勿論あるわけで、その1つが西園寺家…。

 

 とまぁ、そういった例外を除けば、まさに金の卵の宝庫。あの”十神財閥”に勝るとも劣らないブランド力を持っていると言っても過言では無い。

 

 

「……それで…その家と、お前がどういう関係なんだ?」

 

 

 ―――――だけど…そんな”四條家”と彼女に、何の関係が?こみ上げる疑問の声を抑えながら、俺はまた彼女の言葉を待っていると…。

 

 

「私…その家の娘なんです」

 

「……………………」

 

「本当ですよ?」

 

「……まじか?」

 

「おおマジです」

 

 

 今までの彼女の雰囲気からして俄には信じがたかったが……その真剣な眼差しと、言葉の重みで、本当に本当の事実ということが理解できた。

 

 

「じゃあつまり…お前は名家のお嬢様、ということになるのか?」

 

「…そう言われると、どうにもむず痒く思います」

 

 

 と、複雑そうに顔をしかめる。

 

 

「…でも今は、小早川?」

 

「はい…そうなんです…それをどう説明したものかと…」

 

 

 分かりやすいくらいに考えこむ小早川。俺の想像以上にこんがらがった事情あるように見えた。

 

 

「ええと……まず家族関係がゴチャゴチャしておりまして……ええと、私のお父様は…3人お母様とご結婚?…いや、ご本命いらっしゃっていて…その隣に…”側石”?」

 

「…側室のことか?」

 

「ああ!!はい、側室です!!……それで、2人お姉ちゃんの母親はいわゆる本命?でして、…私と、妹の瑞葉(みずは)のお母様は……その側室でして…」

 

「………とにかく、身内の女性関係問題が酷かったんだな」

 

「はい!!その通りです!!」

 

 

 彼女の明るい返事とは裏腹に、中々にディープな滑り出しである。

 

 だけど、そこまで聞いて思ったのは。世間で超一流の名家と言われる四條には……なにかしらのタネがありそうだということ。それも、極めてグロテスクなタネが。

 

 

「でも、どうして…そんなに、その…奥方が?」

 

 

 とても言いにくかったが…気になるところに疑問を投じる。1人の男性が複数の女性との婚姻だなんて、まるで平安時代だ。現代の日本では認められていないはずなのに…。

 

 

「元々四條という家は…普通よりもお金持っているということだけが取り柄の、なんてことも無い家だったんです。でも、私の、四條の家系の中で最も野心家だったと言われる曾祖父はそのお金を利用して、今よりもさらに地位を上げようとしたんです」

 

「…地位を?」

 

「その方法が、名家の血を、お金を使って買い、一族を…はん、はん、はんえい?…させるということでした。簡単に言うと、超一流の血を手に入れて、”さらぶれっど”なるものを、作り上げ、成り上がろうとしたんです。そしてその行動は、驚くくらい上手く転がっていきました」

 

「………周りは、何も言わなかったのか?」

 

「いいえ。何も……時代が時代だったのもありますし…それに…その”こーせき”…?が認められてしまって…国のお偉い様もその活動を、余計に知らんぷりするようになって…そんな周りの方々からの助けもあって…四條の家は、ただのお金持ちから、超一流のお金持ちに成り上がっていったんです」

 

「……そして今では知らない人はいないほどの名家中の名家、か」

 

 

 ……過去に作り上げた基盤によって、家は守り。そして一族の繁栄という刻印のような教えが…今でも受け継がれ続けている…ということか。

 

 何とも、スケールが大きすぎる話である。俺みたいな凡人になんて、想像できないくらい。

 

 

「……お前は、何も不思議に思わなかったのか?」

 

 

 …同時に、小早川のような四條の子供達は、結局なんなのか。と思ってしまった。家を繁栄させるためだけに生まれてきたような彼女のそして彼女の姉妹の人生とは何なのか…。

 

 

「案外、家の中居るときは…不思議に思わないものです。生まれたときから、ずっと言い聞かされ続けてきたことでしたから」

 

 

 そう言って、小早川は空しそうに、ケラケラと笑う。

 

 

 まるでのロボットのような、歯車のような……その人道に背くような刷り込み。俺は人知れず、四條という家に、静かな怒りを抱いていた。彼女の空っぽな微笑みが、余計にその気持ちを強くする。

 

 

「…仕方の無いことなんです。私は、あの日、あの場所で、この家に生まれてしまった。だからこそ、家の教えに、伝統の通りに……そしてその”ぶらんど”を守るために…動くしか無かったんです」

 

 

 生まれたときから決定づけられた、自分の生き様。まさに呪い。子供の自分にはどうしようもない、あまりに無力な世界。きっと…俺が感じているこの静かな怒りも、結局その家の力の前では同じように無力なのだろう。

 

 考えれば考えるほど、心が折れてしまうようだった。同時に、そんなことで折れてしまう、自分に腹が立った。

 

 

「そのために、私や姉妹達は子供の頃からあらゆる"えーせーきょーいく"を施されてきました」

 

「…英才教育だな」

 

 

 …そんな伝統にがんじがらめにされた名家。その子供というからには、それ相応の、格式に見合うような教育が待っているのは道理に思えた。きっと、想像を絶するような教育が彼女を襲ったのだろう。

 

 

 だけど…。

 

 

「……気を悪くするようなことを聞くんだが……ついて行けたのか?」

 

「…………」

 

 

 その沈黙から、ついていけないことを暗に示していた。

 

 

「で、でも!お花の種類を覚えることだけは得意でした!!」

 

「…フォローになっているのか?」

 

 

 当時のことを考えると…あまり上手くはいってなかったのが想像するにたやすかった。

 

 

「…それじゃあ、何で…名字が変わるような…ことになっているんだ?」

 

 

 肝心の”偽名”という部分の説明がついていなかったことに気付いた俺は、話を戻すように彼女に聞いてみる。すると、また小早川は声を暗くし、また言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「……四條の家の”えーさいきょーいく”には、学校で習うようなお勉強は勿論のこと、弓道や茶道といった実技のお勉強も含まれておりました。むしろ…お家の繁栄がかかっていたので、お勉強よりもそっちの方に重視されていました」

 

「……」

 

「姉達や妹は、私よりも”勉学”においては、何倍にも優れておりました」

 

 

 ”でも”…切り返すように、彼女はさらに声色を暗くする。

 

 

「でも…彼女達はそれ以外に”何にも”優れていなかったんです」

 

「……というと。華道に?」

 

「それだけじゃありません。弓道にも、茶道にも、何にも」

 

 

 あっさりと、彼女は言い切った。俺は驚くほど冷たく言い放つ彼女に、小さな自信を感じるようだった。

 

 

「だからこそ、勉強は出来ないくせに、華道に優れた私が…目障りだったんです」

 

「嫉妬…か」

 

「………ただ思われるだけだったら、どれほど楽だったか」

 

「…何か、あったのか?」

 

「衣服を…その燃やされたり…私の私物が盗まれたり、倉に閉じ込められたり…思い出せるだけでもキリの無い数々です」

 

「酷いな…」

 

 

 気にくわなかったにしても、限度があるように思える。四條という家への評価が、再び下がっていく。

 

 

「ちなみに聞くんだが……学校では…大丈夫だったのか?」

 

「はい!!特に嫌がらせはありませんでした!!学業は全ての分野で壊滅的だったので!!人権は無かったと存じます!!」

 

 

 むしろ別の大丈夫じゃないよう部分が見えた気がした。

 

 ……嫌がらせせずとも自分から転げ落ちていくから必要無いと考えたのだろうな。

 

 

「…次第に…お父様達も、できの悪い部分を見るようになって、私を叱るようになっていきました。きっとこれも姉たちの所為だと思いますけど…」

 

「何か確証があるのか?」

 

「告げ口しているところを、見てしまったんです」

 

「…そうか」

 

 

 その光景を見て、信頼も地の果てまで落ちてしまった…そんな感情が読み取れた。もしも俺が自分の姉そんな事をされたら……と思うと、考えたくもなかった。

 

 

「…色々言われて、叱られて、褒められることも無くて……だから私、決めたんです。この家から出て行こうって」

 

 

 道を真っ直ぐ進んでも、戻っても、どっちも地獄。その場に立ち続けても自分に居場所は無い、だから逃げるしか無かった……そう考えるの無理も無いようの思えた。

 

 

「…そして家を飛び出した私は…ええと、お父様の側室の本当のお母様の母親の…」

 

「……つまりお前の祖母……"小早川 黄金(こばやかわ こがね)"さんを…尋ねたのか?」

 

「名前、覚えててくださったんですね!!はい、お師匠に弟子入りをさせて頂いたんです!!」

 

 

 あれだけ濁されたら…むしろ印象強く焼き付く。俺は最初にあのエリア1で話した内容を思い出す。

 

 

「……でもそう簡単なお話ではありませんでした」

 

 

 表情を暗くしながら、小早川はイヤな事を思い出すように呟く。反射的に”えっ?”と言ってしまう。

 

 

「お師匠と私のお母様は親子関係ではあるんですけど…その…四條の家にお師匠に無断で嫁いだ際に、酷く激高してしまいまして…その…えっと…お母様と、ぜつ、ぜつ……」

 

「絶縁?」

 

「あっ、はい!絶縁してしまっていたんです!……だから、その絶縁した、それも四條の娘の私が来たわけですから…」

 

「……無視、されたのか?」

 

「…はい、関わりたくないって…門前払いをされてしまいました」

 

 

 覚悟を決めて家出をしたというのに…災難続きな彼女の人生に、涙が出てきそうになる。

 

 

「でも私には考えがあったんです、お師匠の首を縦振らせう素晴らしい方法が!!」

 

「最後の…?」

 

「土下座です!!」

 

「………えっ?」

 

「とにかく土下座をして、土下座をし続けるんです!!何日も、何日も、何日も!!家の前で!!扉を開けてくれるまで!!!」

 

 

 驚くほどシンプルな方法であった。確かにお願いするときとか謝るときによくする誠意の示し方ではある。俺の父さんも母さんの前で土下座をしていたのは記憶に新しい。

 

 だけど…と、俺は彼女の言葉の一部に気になる点があることに気付く。

 

 

「……小早川…ちょっと良いか?…何日もって…」

 

「はい!!何日もです!!!ちなみに3日ほどしていたと思います!!!」

 

「み、3日も……」

 

 

 …よく耐えられたな。というのが率直な感想であった。ニュアンス的に、昼も夜も、雨の日も、風の日も土下座し続けていそうだったから。

 

 

「お姉ちゃん達の行いに比べればへのかっぱでした!」

 

「……」

 

 

 だとしても、相当な忍耐力である。

 

 …だけど、家に戻らない彼女の覚悟を考えてみれば…できても可笑しくないと思えた。

 

 

「土下座を続けたはや3日!!やっと!!お師匠が門を開いて下さったんです!!そして真っ先にご飯を頂きました!!」

 

 

 …これってそのお師匠とやらが餓死する可能性を考えたから門をあけたのでは?…と邪推を考えてしまったが、すぐに飲み込んだ。あまりにもデリカシーが無い。

 

 

「それでなんやかんやあって!弟子入りに成功したんです!!」

 

 

 そこが聞きたかった、というのは内緒である。

 

 

「……そして私、自分の『四條』という名前を捨て、お婆さまの…いいえ、お師匠の『小早川』の名前を頂いたんです!!」

 

 

 誇り高いというように、彼女は胸を張る。俺自身も、今まで苦労してきた彼女がやっと報われてくれたことが何よりも嬉しく思えた。

 

 そして、それが彼女が偽名を使っていた、本当に理由だということも理解できた。というかむしろ…。

 

 

「偽名なんて……それこそでたらめじゃないか。お前は小早川になったんだろ?」

 

「………いいえ。そんなことはありません」

 

 

 動機の意味を理解し、そして改めて俺は小早川の嘘を否定する。だけど、彼女はそれすらも違うとハッキリ言った。

 

 

「私は”四條”の人間です。」

 

「…何で」

 

 

 どうしてそこまで頑なに否定するのか、そう聞こうと思った。だけど彼女は、すぅっと、彼女自身の電子生徒手帳を床に滑らせ、此方に寄せているのが見えた。

 

 

「…起動してみて下さい」

 

 

 よく分からなかったが、俺は彼女の言うとおり、電子生徒手帳を手こずりながらも起動する。

 

 

「……『四條 梓葉』」

 

 

 画面を起動したときに、最初に出てくる自分のフルネーム。

 

 小早川の場合、そこには『小早川 梓葉』と表示されなくてはなら無い。だけど、そこに表示されていたのは…彼女が誕生したときの、彼女が嫌う、彼女自身の名前だった。

 

 

「モノパンも変な所でしっかりしてますよね…この電子生徒手帳を起動したときに出てくる名前は私の本名『四條 梓葉』で登録されておりました」

 

「………」

 

「……このことは自分から言うべきか…言うべきじゃ無いのか…迷ってはいたんです。皆様にお会いしたあのときから今まで、ずっと、ずっと…」

 

 

 ”でも…”小早川は、複雑な表情で胸の前で拳を握る。

 

 

「その画面を起動する度、私は皆さんに嘘をついてる。嘘をついて、黙ってしまっている。そう実感させられて、何だか、苦しくなってしまって」

 

「……」

 

「そのままずっと先延ばしにして、言い出せずにいて……もうこのまんま言わなくても良いかな~なんて、ちょっと考えてたら…」

 

 

 

 

 

『超高校級の華道家である小早川梓葉サン、実は――――――――"偽名"を使っている』

 

 

 

 

 

 

「…あの放送が流れてしまった」

 

「…どういうことなのか、説明する責任が突然出てきちゃって…話すべきだって、自分では分かっていたんですけど…急に怖じ気づいてしまって……」

 

 

 嘘をつけない彼女の性格から、変に自分を追い込んでしまい、そしてココに隠れてしまった。

 

 

「自信を持って、胸を張って…私は小早川という名を自分の名前だって名乗れます。でも…やっぱり言うのは辛かったんです。名前を引き出すと、どうしても昔の事を思い出してしまって」

 

「………」

 

「それに…名前を偽ってるということは…皆さんに嘘をついてるってことになります。その所為で、皆さんから嘘つき呼ばわりされて…友達として信じてくれなくなるんじゃないかって…思ってしまって」

 

「……」

 

 

 そんなことはない…。無責任にそう返すことはできなかった。何よりも、彼女が覚悟をして打ち明けてくれたことを否定することは、俺にはできなかったから。

 

 

「…”小早川”」

 

 

 俺は、俺自身が知っている彼女の名を呼んだ。俺に出来ること、するために。

 

 

「…大丈夫だ」

 

 

 それは、彼女の覚悟を受け止めることだった。

 

 

「俺は、お前を嘘つき呼ばわりはしない。例え皆がお前を突き放しても…俺は味方で居続ける」

 

「………」

 

 

 ニコラスが言ってくれた俺に出来る、仲間を受け止め、信じるということを。

 

 

「だから…大丈夫…お前に嘘なんか無い」

 

 

 俺は…そう言い切った。

 

 

「………」

 

 

 …言葉を受け止めてくれたのか、それとも聞き流してしまった。彼女は俯き続ける。

 

 

「折木さんと話していて、私分かった気がします」

 

 

 すると、ポツポツと、小早川はつぶやき始める。

 

 

「私の小早川という名前も…”四條という名前”も全部嘘じゃ無いって。全部、全部、私の一部なんだって」

 

「…小早川」

 

「嘘でも本当でも、自分で分からなくても…きっと誰かが認めてくれるって。認めて、受け止めてくれるって…」

 

 

 顔を上げて、微笑みながら俺の顔と向きあった。今までの乾いた笑みでも何でも無く、何かつきものが落ちた様な朗らかな笑み。

 

 

「だから……私の方こそ、ありがとうございます。…こんな暗い話を聞いて頂いて。そして信じてるって言っていただいて」

 

 

 ぺこりと…改まったように頭を下げる。すぐに、顔を上げる。

 

 

 そして…。

 

 

「やっぱり………」

 

「…?」

 

「…折木さんは、私の思った通りの方でした」

 

「……どういうことだ?」

 

 

 要領を得なかったために、思わず聞き返してしまう。

 

 

「ふふっ、何でもありませんよ」

 

 

 ニコニコとしながらそう言った。俺はそこにどういう感情が宿っているのか、分からなかったから、”そうか…”と答えるしかなかった。

 

 

 気付くと、先ほどの重い雰囲気は不思議と無くなっていた。

 

 すると、彼女は立ち上がる。内心驚きながら、俺は彼女を見上げた。

 

 

「はぁーー!!今まで言えなかった事を言えて、何だかスッキリしちゃいました!やっぱり、溜め込むっていけないことですね!!」

 

「…そう思ってくれたなら、何よりだ」

 

「だからこそ!!この勢いは大事にしないといけません!!なので、私ココにいる皆さんにもう一度話してみようと思います!」

 

 

 急な思いつきに付いて行き切れず、困惑してしまう。

 

 

「……辛くは、ないのか?」

 

「折木さんが大丈夫って言って下さったので、大丈夫です!!きっと!!」

 

「……そうだな」

 

 

 少し責任が重くなってしまったような気がするが…だけどいつもの彼女の快活さが戻ってきてるようで良かったと笑顔で返す。

 

 

「で、ですけど…やっぱり、皆さまにお話しするとなると、少し、ほんの少し不安なので…宜しければなんですけど…」チラチラ

 

 

 チラチラとお願いしますと言いたげに視線を送る。

 

 

「…付き合うよ。お前が満足するまで」

 

「ありがとうございます!!!」

 

 

 そう言って、つきものが取れた表情の小早川と共に、俺はホテルの中へと戻っていった。

 

 また少し、小早川との距離が縮まった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【エリア4:ホテルペンタゴン『食堂』】

 

 

「成程ねぇ、あの放送の後でそんな事があったんだねぇ」

 

 

 夜時間に入ってからの1時間後、夜の定期連絡の時間。俺は、古家達の先ほどの小早川とのやりとりを話していた。先ほども小早川から話したのだが…案の上、説明下手だったためだ。

 

 

「――――――――」

 

 

 そして本来であれば、普段は俺が電話を取る役割なのだが…自分から変わってくれと立候補したために、今回ばかりは小早川に連絡を任せている。ちなみに、通話先の相手は話し方から反町のようだった。

 

 …しかし、自分で説明するとは言ったものの…だいぶしどろもどろになっているため、うまく連絡できてるのかは怪しい。

 先ほどの古家達の説明もだいぶ不安定だったために、後で補足を入れてやらないといけないかもしれない。

 

 

「道理で…彼女のあんな晴れやかな姿をしていた、そのワケが理解できたよ。そして彼女にそんな物語がかくされていたなんて、行間を読み誤ったね」

 

「敢えて深掘りはせず黙って聞いてたけど…本当にねぇ。人は見かけによらないとは言うけど、驚きなんだよねぇ」

 

 

 そう彼らのコメントを聞いて、確かに、と考える。よくもまぁあんな人生を送っていて、あれほど健気に育ったものだと、感心を通り越して、奇跡の様に思えてしまう。

 

 

「…でも、心配かけて悪かったな。多分、あいつはきっと、大丈夫だ」

 

「ははっ、別に心配はしてすらも無かったさ。何故なら僕ら人間にとって名前は飾りのようなものだからね。だけどただの飾りでも、彼女には、彼女に似合った飾りがある。それを言い続けることが、僕らにできる最善の行動なのさ」

 

 

 と、こんがらがってはいるが…きっと落合なりに心強い言葉を返してくれているのだろう。落合は無駄なことは多いが、無駄を削いでいけば意外と良いこと言っていることが、ココで過ごしてきて分かった。

 

 

「それにしても、あんた、結局の話どうするのかねぇ?」

 

「………どうするって、何をだ?」

 

「何って…そりゃあ決まってるんだよねぇ。小早川さんの事なんだよねぇ」

 

「……………どういうことだ?」

 

「えっ…マジで言ってるのかねぇ?ほら、男女関係的なコレだよコレ」

 

 

 そう言って、小指を立てて俺に見せつける。ソレを見て、俺はやっと合点をいかせる。

 

 ちなみに、小早川は今絶賛電話中で、風切はうたた寝をし始めているため、必然的に俺と古家、落合の軽い男子会が開かれていた。…だからこそ、”この手”の話題は定番とも言えた。

 

 

「…いや親父かお前は」

 

「細かい事は良いんだよねぇ…もう一度聞くけど、あんた気付いてるんだよねぇ?」

 

「……ああ、そのことか。大丈夫、気付いてるぞ」

 

 

 最初は本気で何を言っているのか分からなかったが……彼が何が言いたいのか、つまり小早川を”恋愛的”に意識しているかどうか。そう言っているのだろう。

 

 

「そうだよねぇ…あんなにあからさまにアプローチされたらねぇ」

 

「…俺だって鈍いわけじゃ無い」

 

 

 

 贄波といった女子生徒と話しているのを見られるとちょっと不機嫌そうしていたり、妙にスキンシップが多かったり等女性が気のある男性にする行動全般を綺麗にクリアしていた。この前なんて”重い女性はお嫌いですか?”と涙目で言われた。……そのときは本当に回答に困った。

 

 

 

「折木君の場合鈍いじゃ無くて、若干衰え始てる気がするんだよねぇ」

 

「…人を勝手に老化させるな」

 

「老いとは決して退化ではない。だけど決して進化とは言わない。そのどちらでもない積み重ねを何枚も何枚も重ね続けることを言うのさ。だからこそ、だ折木君。自分自身の老いを決して悔やまないで欲しい」

 

「お前も乗るな」

 

 

 邪推を入れてくる彼らを多少うっとおしく思えてしまう。ますます、男子会らしくなってきたような気がした。

 

 

「んで?んで?…あの子の気持ち…どう決着をつけてくつもりなのかねぇ?」

 

「……勿論、ないがしろにするつもりは無い。ちゃんと誠実に向き合うつもりだ……」

 

「じゃあ…」

 

「でも……」

 

「…でも?」

 

 

 何をどうするのか、その答えを口にしながらも、俺は古家の言葉を遮るようにそう区切った。

 

 

「……今すぐには…答えは出せない」

 

「えっ…」

 

「……自分勝手な話、今は自分の事で精一杯だからな」

 

 

 この施設に閉じ込められたことだけじゃなく、施設のエリアに閉じ込められている。目先にあるのは問題だらけ。今、別の気持ちにうつつを抜かすわけにはいかない。

 

 それに……”俺自身”についても。俺は知らなければならない。

 

 小早川が自分自身の嘘と向き合ったように、俺自身に紛れ込んだ、”真実の正体”と向き合わなければならない。

 

 それをしなければ、俺はその気持ちに答えを出す資格すらない気がしたから。

 

 

「……その問題を解決するまでは」

 

「…はーん、成程ねぇ」

 

「だけど絶対に……答えは出すつもりだ」

 

「ん~、まぁ折木君のことだからないがしろにしないだろうから心配は無いけどねぇ」

 

「信頼とは、言葉を交わし合う数によってその強度は変わっていく。だからこそ、僕と君の…折木君の信頼は足りている、僕は今そう確信したよ」

 

「……悪いな」

 

 

 何故かお通夜みたいに表情を暗くしてしまう俺に、古家達は”そこまで深刻に…?”と励まし声を上げる。

 

 

「別に悪かないけど…もし答えが決まって、実ったらお祝いしてあげるんだよねぇ」

 

「…何だか照れくさいな」

 

 

 ”でも…”…古家は意味深げに、言葉を翻す。

 

 

「…くれぐれ彼女を泣かせたらいけないんだよねぇ」

 

「彼女の涙は…あらゆる世界を敵に回すだろう。まるでラグナロクもかくやの災害級の大敵をね」

 

 

 そう言われた俺は身震いする。…小早川の人徳は俺が想像している以上にある。だからこそ、無碍にした場合の代償は計り知れない。

 

 

「……ああ、肝に銘じる」

 

 

 想像するだけでも恐ろしい話だ。反町あたりからは死ぬよりも恐ろしい仕打ちを受けそうだ。いや想像しなくても、わかりきったバチかも知れない。

 

 

「あの~お二人でコソコソとどうなされたんですか?」

 

「…怪しい」

 

「「「いや、何でも無い(んだよねぇ)(さ)」」」

 

「…はや」

 

「ええ…」

 

 

 困惑する彼女達。俺達は断固として何も言わないと示し合わせる。

 

 男ならではの絆が垣間見えた気がする。

 

 俺達は、困惑する小早川から、特に問題無く事情を話したこと、そして向こう側での現状維持の報告を受け取る。

 

 

 そして、部屋へと各自戻っていった。

 

 

 こうして、俺達はこのエリアでの3日目を終えていく。

 

 

 

 

 ――――あともう少し

 

 

 

 

 ――――明日が終われば、このエリアを脱出できる

 

 

 

 

 ――――凍えるような監禁から解放される

 

 

 

 

 そんな小さな期待をもって、俺は自分の部屋で寝息を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『モノパン劇場』

 

 

「突然ですがミナサマ、"自分がこの世界に必要な人間なのかどうか"…と考えたことはありませんカ?」

 

 

「勿論ありますよネ」

 

 

「世間の荒波に揉まれ、壁にぶつかれば、誰しもが考えること…考えない人間は…相当な楽観主義者か、壁にぶつかったことも無いお坊ちゃんくらいでス」

 

 

「まさに人生の命題の1つとも言える事柄でス」

 

 

「ですが、引き合いに出したワタクシが言うのも何ですけド…この問題って、そもそも考える必要のないことですよネ」

 

 

「だって必要かどうかなんて、自分が決めることじゃないんですかラ」

 

 

「相手が居てこその概念」

 

 

「相手と歯車がかみ合うことでこそ成立する概念」

 

 

「自分一人で決めるなんて、おこがましいにも程がある話でス」

 

 

「ですが…もしも必要とされたいと、心から願うのであれバ…」

 

 

「"まずは自分から誰かを必要とする"、それが大事な一歩なのかも知れません」

 

 

「そうすればきっと…アナタは必要とされる人間に、なれるのかも知れませン」

 

 

「――――以上、モノパンの無理矢理人生相談でしタ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生き残りメンバー:残り10人』

 

 

【超高校級の特待生】⇒【超高校級の不幸?】折木 公平(おれき こうへい)

【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)

【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)

【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)

【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)

【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)

【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)

【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)

【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)

【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)

 

 

『死亡者:計6人』

 

【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)

【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)

【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)

【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)

 

 




どーも、お世話になります。
交流パートでした。少しというか、かなり深掘りしたつもりです。



【コラム】

サブキャラ紹介


風切 翔斗(かざきり しょうと)
cv.石原夏織
 風切柊子(以降柊子)の弟。姉と月に一度の"狩り"をしている最中、調子に乗ってしまった翔斗自身が森で遭難。姉を探していると、彼女が熊に襲われそうになっているのを発見。背後を突いて熊を気絶させようとしたが、柊子が撃った猟銃の流れ弾が直撃。意識不明の重体となる。柊子とその両親の必死の治療もあって一命は取り留めるが、片目を失明してしまうと言う後遺症が残ってしまう。
 姉に恨みは無く、むしろ自分の所為でこんなことになったと自責の念を持っているが、”センパイ”の取り持ちもあって、姉弟共に話合い、今では何ら問題無く過ごせている。名前の由来はshot(ショット)から。


”センパイ”
cv.浅沼晋太郎
 風切が世話になったという高校時代の先輩。本名、"炭谷 渓十朗(すみたに けいじゅうろう)"。希望ヶ峰学園第76期生、『超高校級の環境委員』。サングラスにアロハシャツ、さらにはサンダルというチャラチャラした恰好をしている。かなりとぼけた性格らしいが…風切曰く、性格は公平に似ているかも知れない、とのこと。公平本人は心外とのこと。



小早川 黄金(こばやかわ こがね)
cv.京田尚子
 小早川梓葉(以降梓葉)の実の祖母であり、四條 漱石(しじょう そうせき)の2番目の妻、四條 棗(しじょう なつめ)の母親。義理の息子を中心とした女性問題に呆れ果て、絶縁状態(現在は修復済み)。
 しかしあるとき、その娘である梓葉が自分を訪ね、『弟子にしてくれ』と、言われる。血縁上は祖母、孫の関係ではあるが、あの愚かな義理の息子と娘には関わりたくは無かったため、当初は気にも掛けていなかった。しかし、自分の家の前で雨に降られようが、カンカン照りに晒されようが土下座し続ける梓葉の我慢強さと強情さ、ひたむきさに負け、家に上げ、仕方なく弟子に取る。それからは、彼女の華道の才能の片鱗に触れながら、厳しくも優しく向き合い続け、現在では弟子でも孫でもなく、娘のように可愛がるようになっている。
 華道の才能については、あと数年もすれば自分を超えていく評する程認めているが…それ以上に、彼女の頭の悪さにも危機感を持っている。それも『これでは嫁のもらい手も出てこない』と本気で悩むほどに。後々の梓葉の人生のためにお花以外の家事、化粧、作法、言葉遣い諸々をたたき込んだ。おかげで料理も化粧も上手になりました。良かったね。



小早川の姉妹達
 姉は二人おり、上から静葉(しずは)、鈴葉(すずは)。妹は瑞葉(みずは)。全員勉学は良く出来るが、肝心な実技に才能が無かった。才能に恵まれた梓葉を疎み、嫉妬しするようになる。そして家から必要無くなるという恐怖心に負けてしまい、彼女を排斥するようになる。
 梓葉の家出後は、実技に才能が無いことが露呈し、父から愛想を尽かされることとなってしまった。



四條 漱石(しじょう そうせき)
 小早川梓葉の父。四條家の繁栄のため、あらゆる伝統文化に特化した女性を金をかき集める。才能がある子には優しく接するが、無い子には興味すら抱かない。梓葉に対しても、逃げ出したために能なしの烙印を押していた。…が、梓葉が華道として大成したことで連れ戻そうとした。しかし、師匠である黄金(こがね)とその梓葉以外の弟子達に袋だたき合い、二度と梓葉の近くに寄るなと誓わされる。


四條 牡丹(しじょう ぼたん)
  小早川の義理母。四條漱石の本妻。弓道の達人。


四條 棗(しじょう なつめ)⇒小早川 棗(こばやかわ なつめ)
 小早川の実母。四條漱石の2番目の妻。華道の達人。娘である梓葉に愛情はあったが、夫である漱石に媚びることに精一杯であったため、愛する余裕が無かった。しかし梓葉の家出後、目が覚め、四條の家を出る。そして母親である黄金と、実の娘である梓葉の前で渾身の土下座をする。最初は許されなかったが、その頭を下げる姿が誰かさんに良く似ていたため、いろんなことが馬鹿らしくなり、和解する。


四条 百合(しじょう ゆり)
 小早川の義理母。四條漱石の3番目の妻。茶道と薙刀の達人

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