ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~ 作:水鳥ばんちょ
【学級裁判】
【再開】
――――罪を背負うとは、一体どういう気持ちなのだろうか?
つかの間に出来た休息。ソレが終わる頃、ふとそんなことがよぎった。
何も罪を犯したことも無い。世の中を黒さを何も知らない俺だからこその、そんな疑問。
――――犯人は今、どんな気持ちで、この裁判に臨んでいるのだろうか?
俺達をほくそ笑んでいるののだろうか?
哀しみにくれているのだろうか?
焦燥に駆られているのだろうか?
今まで殺人を犯した陽炎坂は、長門は……何を思ってこの場に立っていたのだろうか?
聞く暇なんて無かった。だけど聞く場面でも無かった。
それでも、今更になって、本当に、徐に…アイツらは、そしてこの事件の犯人は…俺達の仲間として、何を思って、ココに立っているのか…理解したくなくても…理解したくて仕方無かった。
だけど人々は皆、口を揃えてこう言うのだろう。
――――”死にたくない”
――――”生きたい”
そんな単純明快な理由で…仲間をだましてでも生き残りたい、そう思ってココに立っている、と
でも――――
――――それが本当に向き合う…という事なのだろうか?
それが、目を背けないという行動の表れなのだろうか?
――――何か”別の思い”を持って、ココに立っているかも知れない。
――――何か”別の感情”を持って、ココに立っているかも知れない。
だからこそ…
きっとこれは、そう簡単に切り離せる問題じゃ無い。
いや、簡単に切り離しちゃいけない問題なんだ。
簡単じゃ無いからこそ、永遠に考え続け無ければいけないんだ。
ずっとずっとずっと…彼らが死の果てへと逝ったとしても…考え続けなければならないんだ。
それが…今までの、過去を、陽炎坂の、長門の、水無月の罪を罰した俺が背負い続ける…
凡人である、俺なりの
――――覚悟なのだから
【裁判場】
反町の負傷によって、一時休廷となってから暫く。
この裁判場には…沈黙とも言い難いささやかな喧騒が流れていた。
「……そろそろ、でございますかネ」
すると、タイムキーパー的役割のモノパンが、再開の旨を示す言葉を漏らした。
「ふー、やっと休憩は終わりみたいだね。いや、ね…良いタイミングの休廷だったよ」
「と、本格的な再開の前に…一応確認させていただきますネ。反町サン…お体の方は如何ですカ?」
モノパンは、珍しく心配の色を孕んだ声で、彼女に言葉を掛ける。
「……まだクラクラするけど、議論をする分には支障は無いさね」
「うう、それでも心配です」
「中々の転び具合だったですからね…」
「くぷぷぷぷぷ、そうですカ、そうですカ。反町サンの容体も落ち着いてきたみたいな・の・で……裁判を再開したいと思いまース!!それではミナサマ、思う存分、議論をして下さいまセーー!」」
モノパンは値踏みするようにニヤけた笑みを見回しながら、裁判の再開を高らかに宣言した。
「ははっ!では開幕の宣言に甘えて、始めようとしようじゃないか!それじゃあまずは……ええと、何を話していたんだっけかな?」
「さっきまでは、犯人がどうやって折木の部屋に侵入したのかを議論していたですね。んで、後は犯人が崖をどうのこうのって感じの話が残ってるですね」
「ならば!!今度は後者の話をしようじゃ無いか!!」
と、取り仕切るような口ぶりで、俺達を先導する。
「…いや、何でアンタが取り仕切る流れになってるんだい」
「同感だ。貴様が舵を切ると、また会議が踊る。隅っこで大人しくしていろ」
だけど開幕直後から今まで、議論をすっちゃかめっちゃかにしていた影響か、その調子の良さに突っかかる生徒もまたいた。特に反町と雨竜は、かなり翻弄されているためか、特に業腹な様子だ。
「そんな悲しいこと言わないでおくれよ!こう見えてボクは寂しがり屋、かつ構ってちゃんなんだぜ?」
こう見えてもというか、どう見てもそうだろう…というのが俺達の総意だった。
「ぐぬぬぬ、減らず口がぁ…。やはりあの時、礼を言ったのは間違いだったかぁ…?」
「…一々指摘しても、埒があかないです。さっさと議論を始めるです」
相変わらずのテンションに、こりゃダメだ、と呆れた様子の雲居はこの場を改めた。何とも締まりの無い狼煙の上りだ。
「で、ですよね!ええと、もう一度まとめさせて頂くと……先ほどの折木さんの部屋に侵入したとか、羨ま……じゃなくて決して許されない話しの結論は…モノパンの七つ道具の1つび『秘密の愛鍵』が利用された、だったと思います!!」
「……今の失言は危険な匂い」
「…………」
「そして僕らが次に目指すべきは、世界の狭間にそびえる大地割れを犯人は”どうやって渡ったのか”…なけなしの僕の知識だけじゃ解決不可能な問題だ」
「なけなし、なのは自覚してるんですね」
…コレまでの話しをまとめると、彼女の言うとおり犯人は美術館で『鍵』を…そして凶器として使われた『拳銃』、この2つを借りていた。
だけど犯人は、未だ想像のつかない何かしらのトリックを使って、エリア4の間にある、あの大きな崖を渡った。
今議論されるべきは、その崖をどうやって渡ったのか…それが主題なってくる。
「……考えられるとしたら。また、あの7つ道具が使われたとか?」
「僕らが心の奥底に抱える亀裂の様なあの大地割れを超えるための一筋の蜘蛛の糸。前人未踏の世界へと、まさに風のように飛び去る…あの…」
「確か!!まだ美術館にはアレが!!ええと…”わいやー”とか何とかを発射する…アレですよね!!!」
「”どこでもワイヤー”のことかい?」
「ああ!はい!!そうです!!それです!!それのことです!!」
「…ううむ、ソレやらアレやら…主語を明確にしろ、主語を」
「まぁ良いじゃ無いか!語彙力が壊滅的なのも彼女の魅力だからね!……とにかく、だ。確かに例のワイヤーを使うことができれば、あの崖は渡ることは可能だとも」
「う、うん…で、も…」
贄波とニコラスは、どこでもワイヤーを”使うことができれば”、崖を渡ることが出来る。その可能性の示唆をする。だけど、彼らはあからさまに言葉を濁す。
理由は明白。礼のどこでもワイヤーは、”使うことができなかった”。
何日も前から…ずっと。使うことができなかった。
【コトダマセレクト】
【故障したどこでもワイヤー)
「これしか…ないっ…!」
「…いや、どこでもワイヤーを使われた可能性は低い」
「ええ!!どうしてそう断言出来るのですか!!!」
確実に俺達が閉じ込められた直後の事を頭から抜かしている小早川の声。…仕方無い、と改め、俺はあの日起きた、イレギュラーな出来事を口にしていく
「忘れたのか?あのワイヤーは…故障していたんだ」
「こしょー?」
「そうともさ。キミ達がエリア4に閉じ込められた日と同時に、とても都合良く、どこでもワイヤーは故障し、美術館から姿を消していたのさ」
「……あっ、そういえば閉じ込められた次の日の朝に、そんな事聞いた気がする」
「事件発生の、後、も確認した、けど…ちゃんと、そのときも、無かった、よ?」
ニコラスが美術館を調査していた場面を共有していた贄波も、ニコラスの証拠に補強を加えていく。
「既に修理が終わっていて、延々と今も借りられ続けている可能性はないのくぁ?」
「忘れた、の?…犯人は、『拳銃』、と『鍵』…を借りているん、だよ?」
「……あ、美術館のルールってヤツですね?」
「……この世界にある美しい物全てを手に取る事は人間である限りは不可能。何故なら僕ら人間は手が2つしか無いから、その美しい宝もまた2つしか手に入れることができない」
「…制限以上に物を借りられない。だから、どこでもワイヤーを借りる余裕が無かった」
そう。ワイヤーが使われたことを否定する材料として、もう1つ。モノパンが最初に設けていた特別な道具を借りられるのは、最大2つまでというルール。
既に借りられていた、という可能性を弱めるには、充分に効果のある意見だ。
それに…
「さっき風切の話していた、犯人の目撃証言も思い出してほしい。犯人は風切から逃げ去る際、”崖を渡っていたんだ”…そうだよな?風切」
「うん…間違い無い。ちゃんと…”立って渡っていた”」
「た、立って…?ぐぬぬぬ、であれば……」
「はい!!もしもどの、どこでもワイヤーなる代物を利用したのであれば……したのであれば………したのであれば……ええと」
「風切の目撃した光景と矛盾する…。そう言いたいんだな?」
「は、はい!その通りです!!」
あの視界が悪い中で、風切は犯人があの崖を…立って渡っている姿を見ていた。だとしたら、もしもワイヤーを使って、備え付けの滑車を利用した場合、犯人は空中を飛んでいる姿に映って見えるはずだ。
「じゃあ…どこでもワイヤーを利用したって可能性は、完全消滅って訳だね」
「……だけど」
「ああ…”崖を立って渡った”、とはな」
もしも道具を使ったという可能性が潰れてしまったのなら…。
持ち上がるのは…犯人が橋も無い崖を足で渡っている…という事実。これが、方法の見えない主題の答えなのだろう。
だけど…その事実を受け止めるには余りにも不可思議すぎる。そんな、空気が流れているようだった。
「ああー、結局あの話しの議論からは逃げ切れないって感じですよねー」
「勿論さ!それが今回の本筋、メインディッシュさ」
「うーむ立って…かぁ。恐らく何かしらの手品のタネがあるのだろうが…。全くもって、理解不能だ」
「まさに空中浮遊…じゃなくて空中歩行さね」
「そう…まるで大宇宙の奥底、果ての果てにある未知の惑星に住む未確認生物……そして人の脳に模したニューロンのような惑星位置…」
「余計訳が分からなくなってるですよ。もう裁判関係無い証明が入ってきてるですし…」
「僕らには立派な2本の足がある。だからちゃんと、歩くことが出来る。だから旅をすることができる。ははっ、どうしてこんな当たり前なことに気づけなかったんだろうね?…本当に、不甲斐ないよ」
「こっちはこっちで重傷ですし…」
「……大丈夫。また戻ってくると思うし。コレもいい所だから」
「風切、さん。それは、甘過ぎ、ない?もっと、強めに、言わない、と」
「いや…お前落合に厳しすぎないか?」
……ともかく。崖を立って渡る方法…か。
その方法にかすりもしていない状況からして、凡人の俺には到底たどり着けないモノなのだろう…。
だからこそ、ここは俺一人じゃ無く、全員の意見を聞いて、これまで手に入れた、特にニコラスが集めてくれた証拠を照らし合わせて行こう。
今は我慢の時だ。少しずつ、皆の知恵を積み上げていく時なんだ。
もう一度、頭を冷静に……集中していこう。
【ノンストップ議論】 【開始】
「崖を立って渡る方法…」
「考えられる分だけ、挙げてみようじゃないか!」
まーたリーダー気取りさね…
ま、まぁそう突っかからずに…
「実は崖には、不可視の『ガラスの橋』が存在していて…」
「それを単純に歩いた…というのはどうだ?」
見えない橋…ですか
…あり得そう
でも、雪が積もりそう、じゃな、い?
「天空に垂らされた『一筋の糸』」
「ソレは自身を縛り上げ…」
「そして自分を鳥のように見せたのかも知れないね」
ワイヤーアクションですね
わ、わいはーぺんしょん…ですか?
…聞こえ方が酷い
「実は『人形』か何かを使って…」
「そう見えるよう演出していた…なんてのはどうだい?」
成程…
実は渡っていませんでした…ということか
人形なら確かに危険は少ないね!キミ
「そもそもの話し…」
「『崖に細工』があった可能性も考えられるです」
崖、に…?
実は秘密の通路がありました…なんてね
「うううううううう…」
「詰めれば詰めるほど…」
「考えれば考えるほど…」
「沼にハマっていく様な感じがます…」
【湿った岩壁)⇒『崖に細工があった』
「それに賛成だ…!」
【BREAK!!】
これまで同じくらいに、十人十色な意見が飛び交う中で…1つだけ。
コレまでの証拠に引っかかる、ある意見があった。
「――――”崖に細工”。確かに…そうかもしれない」
俺はその意見を逃さず、そう言葉を挟んだ。
「ありゃ…まさかそこに目を付ける感じですか?」
だけど思いも寄らなかったのか、案を口にした雲居は驚きを表わした。確かに、そう反応するのも当然だ。
「細工をしたって言われても…あの地割れにどんなトリックを仕込んだってんだい?」
「…人1人がどうこうできるサイズじゃない」
そう、細工をするには余りにも規模が大きすぎるのだ。比率で言えば100:1の様な差のある大小関係の中で…犯人1人に、あの崖をどうできるのか。
…もしかして心当たりがあるのか?そんな僅かな期待が、言葉では無く、視線から読み取れた。
「いいや、あったんだよ。あの崖には、普段とは違う、”違和感”があった」
だけど俺が答えられるのは…そのトリックの端くれ。小さな小さな、タネの中の細胞の1つを示唆することだけだ。
「違和感…?」
「ああ。だけど詳しくは、その違和感を抱いた当人に聞いてみよう……ニコラス。頼めるか?」
その小さな細胞を見つけたニコラスに、俺は説明を求めた。答えではなく、見つけた経緯を。一斉に生徒達はニコラスへと視線を移した。
「ん?ああ、そうだね。そうだった…うん、そんな気がしていたよ。ボクのターンが回ってきたみたいだね」
「またアンタかい……」
「はは!まぁそうイヤそうな顔をしなくても良いじゃ無いか」
「これまでのアンタの散々たる行いを顧みれば、イヤな顔一つ位したくなるもんですよ?」
「その程度で済んで良かったと思うが良い」
流石にその言葉には、俺も擁護しきれなかった。彼の調子の良さは、まさにオリンピックレベルのなのだから。
「まぁ良いじゃ無いか!結局はボクの力は必要なわけだし…水に流してお茶でも!」
「そういう発言はもう良いから、早く頼む」
「OKマイフレンド……。では諸君、先ほどボクが話した…崖の底にて明らかに使用済みのジャンパーが川の上で引っかかっていた…その話しは覚えているね?」
「はい!はい!!覚えておりますとも!!!」
「うん、良い返事をありがとうミス小早川。だけど実はね、諸君。ボクは何も、ジャンパーだけを崖のそこで見つけた訳じゃないのだよ」
「……まだあるの?」
「そうともさ。ボクはね、命綱をつけて崖を下っていた時…いや実に興味深い”違和感”を見つける事ができのだよ」
「面白い、違和、感?」
「むむむ…また回りくどい言い回しを…」
もったい付けるような言い方に、再び怒りが飛び出してきそうなになる。
今までの彼の言動と行動からして、これはもう仕方の無い、というかどうしようも無い部分ではある。…だからこそ、話しがこじれてしまうので、ココは一度彼らにも抑えて貰いたい。
「あの崖の、降りしきりる雪が消えてしまうような少し深いところまで命綱を垂らし、そして下っていった時…ボクは徐に、岩壁を触れてみたのだよ」
「徐…それは時として起こる人生の気まぐれ。だけどそれこそ、僕らが生きるこの世界で最も重要な言葉…いや行動なのさ」
「…隼人。ここは黙ってて」
少し落合に甘くなった風切も、流石にガチトーンで制した。それ以降彼が口を開くことは無かった。
「…それ、で…岩壁、を、触れて、みて…どうだった、の?」
「――――”濡れていたのさ”…雪も届かない、丁度崖と底の中間の岩壁が、”満遍なく酷く濡れていた”。具合からして、ごく最近の、実に新鮮な痕跡だったよ」
「……ごく最近?……それってどういうこと?」
「…それはね、キミ………………………」
「…………」
「…………」
「……………」
「「「……………」」」
「………いや、何も言わないのかぁ!!」
ニコラスが、何を言うのかと期待したような無言の間に終わり無く、すぐさま雨竜がツッコミを入れる。
「ははっ!ボクはあくまで、そういった痕跡を提出しただけ。…それ以降の考える方はキミ達に任せるよ」
「…名探偵自称してる癖に、肝心なときに推理しないんですね」
「大層なご身分さね」
「はは!褒めても何も出ないぜ!」
「……褒めようともしてない気がする」
まるで未だ分かっていないような振る舞いを続けるニコラス。
だけど、諸々の言動と、渡された証拠の偏りからして…恐らく彼は、敢えて言わないだけで――――――既にトリックにたどり着いている。
ならどうしてこんな言動を取りづけるのか…それは、この事件の推理は全面的に俺に任せる腹づもりなためだ。
理由は未だ読めないが…ニコラスはこの事件を俺に解かせたがっている。だから彼は今、ヒントを小出しにして、槍玉に上げられる役割に徹しているのだ。
「…それでも、ニコラスが言うように…つい最近まで、その岩壁が濡れていた。だったら話は簡単だ。あの崖は――――
――――水で満たされていた。それも、濡れていた高さ以上まで」
だったら……俺も、俺自信の役目を真っ当しなければならない。俺が、この事件をまとめ上げなければならない。
だから俺は、犯人が用いたかも知れない…そのトリックの一部を呈した。
「水で、満たされていた……だとぉ?」
「…まったく想像がつかない」
だけどやはり大半の生徒達は、その水で満たしたという方法に対して理解し切れていない様子だった。
「そうですよ!いきなりそのような事を言われても…水らしきものなんて一体どこから持ってきたというのですか!崖の底の川以外に水に関連するモノなんて…」
「それだと、思う、よ?その川の水を、崖を水で満たす、のに、使った、ん、じゃないか、な?」
「へ?川の水をですか?」
「そう。その川の水を”増水させたんだ”。それが崖に施された細工…犯人が崖を渡ったトリックの一部始終なんだ」
「…思いつきと、理解は必ずしも強く結びついているわけじゃない。発想とは時に、世の中から放逐されてしまうものだからね」
「つま、り…分からないって、こと、かな?」
「…うん、多分そう言ってる」
「ううむ。だが確かに、もし川の水の量を捜査できれば、そのような発想は現実的になるな…」
「え、ええと、では、では!!お次は、どうやって、ぞーすい?というのが、できたの教えて頂きたいです!はい!!」
そこから出てくる疑問は、どうやって川の水を増水させたのか。
それを克明にするためには、あのエリアの…水に関連する、あの施設の設備について、説明する必要がある。
【コトダマセレクト】
【水管理システム)
「これだっ…!」
「――――水管理室。俺達と電話をしていたときに使っていたあの施設のこと……全員覚えているよな?」
「アンタ達がエリアに閉じ込められてから、足繁く行き来してたんだからね、覚えてるよ」
「ああ、ワタシもだ。しかし…態々その施設に触れてきたということは……貴様の言う、川の水をどうにかするシステムが、その施設に存在する…ということだな?」
「そう。そこには、雨竜の言うように、川の水の量を調節する、水管理システムというモノが備え付けられているんだ」
「水管理システムって…ネーミングがまんまですね」
「……あ、あそこって…電話をするためだけの施設じゃなかったんですね」
「……当たり前」
殆どの生徒が水管理システムの役割について、何となく気付いていたようだが…一部、呆けた認識をしている人物がいたのは残念な話しではある……。
「でも、具体的にそのシステムはどういうものなんですか?誰か説明してくれる人がいたら、とても助かるんですけど」
そして話しは、水管理システムの詳細について。一応、ニコラスがまとめた概要から説明は出来るのだが…これはもっと説明の上手い、システムを熟知している人間にお願いした方が良い。
そう思った俺は、モノパンに目を向ける。気付いたヤツは、コホンと咳き込み、行儀悪く椅子の背もたれを足蹴に立ち上がる。
「良いですとモ!!やはりそう言った細かい施設概要については、施設の長であるワタクシ、モノパンにお任せを――――!!」
「いやいや!このボクが説明しようじゃないか!!何故ならボクの方が施設について詳しいはずだからね!!」
モノパンが、要望通り、システムについて答えようとしていた矢先の話し。何故かニコラスが我が物顔で言葉を遮る。いや何でお前だよ、と説明したがり彼に内心つっこんだ。
「がーん…ずーん……シーン」
「……あ、息止まってる」
「喜ばしいことですね」
お株を奪われたモノパンは、効果音を口で言いながら、珍しく落ち込みながら沈黙した。……とんだ茶番である。
「では早速。まずはあの崖をこんな風に、縦に割った断面図で解説しよう」
「まず崖はこのようになっていて、底には流れる川があった。そしてその両極には水門というものがあった」
「すいもん…?」
「ダムとかに取り付けられた、水を完全にせき止めたり、流したりするための門です」
「そう…水管理室はその水門の開け閉めを遠隔で行えるように、施設が設けられているのさ」
「水門の先には何があるんですか?」
「恐らく、ジオ・ペンタゴン全体へ、だろうね。エリア1の湖、エリア2のプールや図書館の水、エリア3の噴水。全てに平等かつ適量に行き渡らせるために、崖の底で貯めたり、流したりと…ミス雲居が今言った、ダムのような役割を、エリア4は担っているのだろうさ」
「……成程。それが貴様らの言う水管理システムの詳細、ということか。どうなのだ?モノパン」
「シーン…」コクコク
「…息絶えながら頷いている」
「分かりやすいかつ、素晴らしい反応ですね」
モノパンが言葉も無いという様子に、おおよそはニコラスの説明したとおりなのだろう。つまり、水管理室は文字通り、施設全体の水を司る施設であったのだ。
「とすると…水管理室で、川の両極にある水門を閉じることで、水を貯める事が出来る」
「…それ、も、崖を覆い尽くす、位、ヒタヒタになるまで貯め、た」
「……そっか。だから崖の岩壁が濡れてたんだ」
そこでニコラスの証言した、崖が満遍なく濡れていた原因。水が貯められていたという痕跡。
「………それじゃあ。その水を貯めた事と、崖を渡るという”とりっく”は、どう関係してくるのでしょうか?」
「…………それは」
「変な間ですね。まさか、まだ分かっていないとかですか?」
実を言うと、その通りだ。肝心のトリックが、未だ分かっていない。どうにも、水を貯めた事と、風切の証言が、どうしてもかみ合わないのだ。
「ふふふ…何を言っているのだ?小早川、そのような問題など容易も容易なはずだ」
俺は犯人が崖を渡ったかも知れないトリックの決定打に詰まっていた中で、雨竜が横からそう自信に満ちた表情を掲げる。何事かと、生徒達は彼に注目した。
「ほほう、随分と大きく出たものじゃないか。折角だ、キミの推理とやら、聞かせて貰えるかな?」
「ふっ、言われなくてもな。至極単純に考えれば、崖を渡ったトリックは完成するのだよ」
至極簡単に…と言われも、どんなに簡単に考えても思いつかないままの俺を首を傾げる。
だけど、もしこのトリックを解決出来るのであれば、まさに猫の手も借りたい状況のために、こんな風に誰かが推理を披露してくれるのは助かる。
それにもしかしたら、本当に雨竜はトリックを解き明かしているのかも知れない。
雨竜の頭の良さを考えれば、その期待もひとしおだ。
だからこそ、耳を掻きほぐし、聞いてみよう。彼の推理とやらを。
【ノンストップ議論】 【開始】
「このワタシによる偉大かつ、有り難き推理…」
「しかとその耳に刻み込むが良い!!」
…今までまとも推理してこなった癖に
尊大な風を感じるね
先が思いやられるってんだよ
「…はぁ。そういう偉そうな前置きはいいですから」
「さっさと推理を述べるですよ」
…蛍の言うとおり
そう、だね
「良いだろう!!」
「まず、例の『崖の状態』からして…」
「エリア4にある【特有のシステム】を利用し…」
「水を崖をギリギリまで貯め…」
「そして犯人は…【泳いで渡った】のだ!!」
お、泳いだ?
ええええええええ!!!
あの、エリア、内で?
「お、おお、泳いででございますか!?」
「まさかそんな…『しんぷる』な…方法で?」
確かに簡単だね!!
泳いだ…ということは…
まぁ…あり得ない話しじゃないですね
「そう、すなわち…!」
「この事件の犯人は…」
「【水に入っていた可能性のある人物】…」
「つまり犯人は寸前まで『濡れていた人物』が怪しいと見たぁ!!!」
「ふはははははははははははははははっ!!」
【エリア4の気温)⇒【泳いだ渡った】
「それは違うぞっ…!」
【BREAK!!】
「……雨竜。折角披露してくれた推理のところ悪いが……崖に貯めた水を泳いで渡るの不可能だぞ?」
雨竜の堂々たる推理を、心苦しい中で反論する。
「ぬわぜだぁ!!ワタシなりに一生懸命考えたというのに!!」
当然のように、雨竜はオーバーリアクションで反応。頭を抱えながら、何が問題なのだと、否定された理由を求める。
「忘れたのか?そもそも、あのエリアは、水に入れるような環境では無かったはずだ」
「環境…かい?ええっと……エリア4は…冬の気候で…そんで…………あ!!そういうことかい」
「冬の気候………………ぐはぁ!!そ、そういえば…!!」
致命的なほころびに気付いた雨竜は、またオーバーにダメージを受けた仕草をする。
「ああ、あのエリアは気温は極端に低い環境だった。報告によると、事件当日、あのエリア-10℃を下回っていたらしい」
「……誰の報告?」
「勿論ボクさ!」
「……知ってた」
「だからこそ雨竜。あんな環境で、それも今にも凍り付きそうな帰庫の中で寒中水泳なんて、自殺行為も良いところ…そう思わないか?」
「ぬぬぬぬぬぬ、確かに…言えている…」
心臓麻痺とか、凍傷と、とにかく相当鍛えていなければタダでは済まないはずだ。医学的見地を持ってる雨竜ならば、尚更どうなるか想像がつくはずだ。
「……それに私は、立って渡った所を見たって言った。…もしも狂四郎の推理が本当なら…普通泳いでいる姿を私は証言してる」
「ぐはぁ!!……それも忘れていた……!!」
「……どんだけ忘れれば気が済むんですか」
そして風切の証言を本当に飛ばしていたためか、完全にノックアウトされたような声を上げる。…少し、彼の推理に期待していたのだが…どうやら答えに至れなかったみたいだ。
「…………?」
でも……待てよ?
「…そうだよな。あのエリアは…相当な寒さ…だったんだよな?」
そう、相当な寒さに包まれていた。それも、濡れたタオルもすぐに凍てついてしまうような…そんな寒さが。
……だとしたら。
「………」
もしかしたら……トリックが分かるかも知れない。
崖に貯め込まれた水を利用し、かつ立って渡る姿を目撃されるような…方法が。
少し、考えを深める必要がありそうだ。
深く深く、今まであり得ないような答えを導いてきたように。
【ロジカルドライブ】
Q.1 崖の状態は…?
1.水で満たされていた
2.橋が架かっていた
3.崩れていた
A.水で満たされていた
Q.2 エリア4の気温は…?
1.高音だった
2.低温だった
3.常温だった
A.低温だった
Q.3 風切が見た犯人は…?
1.泳いでいた
2.浮いていた
3.走っていた
A.走っていた
「……推理は繋がったっ!!」
【COMPLETE!!】
[newpage]
たどり着いた答えがあった。
これまでの証拠と、証言、それらを照らし合わせて導いた…たった1つの答え。
あり得ないかも知れない。だけど在るかもしれない答え。
……まさかコレが……崖を渡った犯人のトリックなのだ?
導いた俺自身も半信半疑。その説を信じて良いのか、このまま言葉として紡げば良いのか…。言いあぐねる。
「どうなさったんですか?折木さん」
「急にブツブツ呟いたと思ったら、黙りこくって……」
いや、でも…この考えは、今このとき、この場面でしか言えない。
この場面ほど、絶好の機会は無い。
俺は心の中で、小さな覚悟を胸に秘め…。
「あのエリアは…極寒だった。ジャンパーを着ていなくては耐えられないくらいの寒さがあった」
滔々と、語り出す。
「繰り返さずとも、イヤというもう分かっているわ…貴様、何が言いたいのだ?」
「方法だ。その極寒の状況下でしかできない。ただ一つの崖の上を渡る方法…それを今、説明する」
目に見えた動揺が、波紋のように広がっていく。口々に、どういうことだ、本当か、それは一体どんな方法だ…今まで何度も聞いたような反応がいくつも返って来る。
だから俺は、その声に応えるためにコツコツと、何をどう説明するべきなのか、積み上げていく。言葉を整理していく。
「――――――凍らせたんだよ。スレスレまで貯めた川の水を、エリア4の極寒の気温を利用してな」
「………はっ?こ、凍らせた!?」
「ままま、まさか犯人は、人智を超えた異能力の持ち主だったというのかぁ…!」
「雨竜、妄想がすぎるですよ。でも…そう思うのも無理ないですね。これは」
驚きの声が次々と上がる。そして同時に…
「……凍らせたって言っても、あの崖は相当な大きさのはず。……あれを凍らせるなんて」
「まさに人の域を超えた、生命の偉大さを感じざる終えないね」
「……そこまでは言ってないと思う」
どうしてそんな結論にたどり着いたのか…そんな疑問の声も上がる。最もな疑問だった。
だけど…
「何も崖に貯め込まれた水を、全て凍らせたと言っているワケじゃ無い。それに、俺はさっきも言ったように、エリア4の極寒の気温を利用したとな」
「気温…水………まさか!!……いや……確かに……あの気温ならば…できるのか?」
「えっ?えっ?えっ?何がどういうことなんですか?まったく読めないのですけど?」
聡い生徒は既に方法にたどり着いているようだったが…勿論全員では無かった。
だから俺は…またメモに絵を描き、丁寧に説明を加えていく。
「つまり犯人は……」
「崖を水でヒタヒタになるまで満たし…そして暫く放置した」
「……放置?」
「ああ…その結果……極寒のエリア4の気温によって水の表面はグングンと冷やされ」
「やがて固まってしまった」
「固まった…ってことは………じゃあまさか…その上を?」
「ああそうだ。犯人は…
――――満たされた水の表面に出来た氷の上を渡った」
コレが俺の考える、犯人の崖を渡ったトリック。
俺が今までの証言、証拠、崖に関する全ての情報を総動員した結果、導いた答え。
まるであり得ないレベルの、あるかも知れない答えだ。
「納得できません!!!どうしてそんな都合良く冷やされて仕舞うんですか!」
「そこは!!少し話しが難しくなるから、代わりにボクが説明しよう」
ここで求められるのはより化学的な、メカニズムの問題。そこに、ニコラスはまた補足するように横から言葉を挟む。
「水には密度というものがあるのはご存じかな?」
「常識だ。何を当たり前なことを……………と思ったが、その当たり前から説明しないといかんのだったな」
「どうして私の方を見るんですか!!!実際によく分かりませんけど!!」
いや、本当に分からないのかよ。…そこは流石に認めちゃいけない所だろ…。
「続けるよ?キミ達……今言った密度というのは、値が高い程物質は重くなり、低いほど軽くなるという原理がある」
「もっと言うなら、暖かい水ほど密度は高く、そして重い。逆に冷たい水ほど密度は低く、軽い……ということだ」
「その原理に沿って言うなら、温かい水は底に沈んで、冷たい水は上に浮いてくるって事になるですけど」
「理解が早くて助かるよ!水の中は全て温度が均一な訳じゃ無い…暖かい部分と冷たい部分というモノが出来てくる。今回の場合で言う、崖を満たした水だね。こいつも例に漏れず、そう言った層ができあがる」
「さっきミス雲居が言ったように、暖かい水は崖の底に溜まり…密度の低い冷たい水は満たされた水の表面に集約される。その結果、元々低温だった表面はエリア4の外気温によってドンドンと冷やされ…」
「そし、て、凍り付いた、って事、なんだ、ね?」
「……どれ位の時間満たされていたのかで、ちゃんと人が立てる厚さに凍ったのかは変わってくるけど……ほんの数センチほどの厚さであれば…多少の時間があれば可能さ……」
「可能…か」
「随分とサイエンスチックな話しですね…」
「でもこれで解決ということですね!!!」
「……いや、あんた。それはキチンと理解した上で言ってるですか?」
「いいえ!!何となくそういう雰囲気かと思って!」
……まぁ飲み込み切れないとは分かっていたため、ニコラスは特には気にしない様子だった。俺的に問題なのは、それに何のコメントも無く目をつぶっている落合の方に思えた。遠目からだが…多分アイツ、途中から寝てる。
「…とまぁ、ボクからの補足説明は以上さ、後は任せたよ?ミスター折木」
そこで、ニコラスによる有り難い講義は一度帰結。話しの舵は、再び俺へと引き継がれていく。俺は改めるように、一度咳払いをする。
「そして…犯人はその即席で作り上げた氷の橋を使い、ホテル側へと渡ったんだ」
「じゃあ…私が目撃した光景は…」
「…そうだ。風切が見たのは、犯人が実際に氷の橋を渡って――――」
【反論】
「世迷い言はそこまでさね!!」
【反論】
「ちょいと待ちな…いや大いに待ちな!」
「どっちだよ……でも何を待つって言うんだ」
「どうにも納得できないんさね!水が凍り付いてたとか…水の上を渡ったとか…意味不明って感じだよ」
「……そうだな。少し答えを急ぎすぎたかもな」
「分かってるじゃないか。ニコラスのおかげで鬱憤も溜まってたんだ、ココで一度言葉の殴り合いといこうじゃ無いか」
「……俺で晴らすのか」
【反論ショーダウン】 【開始】
「前から…」
「いや今まで何度も思ってたけどね…」
「どうにも今回の事件ってやつは…」
「とっちらかり過ぎてる」
「それに加えて…」
「アンタとニコラスのおかげで…」
「ことさら煩雑になっちまってるってもんだよ」
「…そうだな」
「確かに、入り組んでいる…いやそんな一言で済ませない程、難しくなっているのは事実だ」
「ちゃんと理解しているようで…」
「安心したさね」
「だったら…」
「アタシの疑問…」
「いや…」
「納得できない部分も…」
「ちゃんと理解してるんだろうねえ?」
「お前の口ぶりからして…崖に水が溜まって…凍り付いた
「…その話しに納得がいかないんだろ?」
「その通りさね!」
「そもそも水が崖に溜まってたことが…」
「意味不明だってのに…」
「ソレが凍り付いただなんて…」
「さらに訳がわからないってもんだよ」
「実際にアンタは…」
「【凍っている崖の姿】を見たってのかい?」
「【本当に凍ってたってのかい?】」
「どうなんだい!!」
「ああん!!」
【氷の欠片)⇒【本当に凍ってたのかい】
「その言葉、切らせてもらう!」
【BREAK!!】
「……残念だが、お前が今求めている、氷の橋があったという決定的な光景は…誰も目撃していない」
何故なら、最も間近で目撃したとされる風切自身は崖を渡る場面を見ただけで、足場まで見ていないから。
もし見ている人間が他にいるとしたら…それはもう犯人以外に居ない。
「じゃあ…!」
「だけど形跡はあった」
「形、跡?」
俺は頷き、再びニコラスへと視線を移す。
また頼む、と言葉も無しに小さく頷く。気付いた彼もまた、分かったと、頷き返す。
「何故なら…ボクはあの崖の底に流れる川に…凍っていたと思われる形跡があったのさ」
「な、何が川にあったって言うんですか?」
「――――氷の欠片さ。崖の底の川の表面に。…残骸のように浮かぶ氷の塊がそこかしこに浮かんでいたさ。異常なまでにね」
最初、この証拠を渡されたとき、一体どういう理由で記録したのか…どうやって議論に使えば良いのか、まったく分からなかった。
だけど…川が凍りつき、そして犯人はその上を歩いた、という事実を踏まえてみれば…この氷の欠片は、決定的な証拠と確信できた。
……もしもこれが全て、ニコラスが推理しているとおりだとするなら…この場面がやってくると予期していたことになる。
どこまで、彼はこの事件を知っているのだろう。どこまで、彼を俺達に隠し事をすれば気が済むのだろう。そう思えて、仕方が無かった。
「自然に出来た物が、そのまま漂流していた可能性は無いんですか?」
「いや。もし崖の底で凍結物が発生するような事案があれば……水の管理にも支障がでてしまう」
「え?どーいうことですか?」
「つまりは川が詰まって、施設に水が行き届かないと考えてみれば良いのさ!そうだろ?モノパン」
「………シーン」コクコク
「まだ、消沈、して、る」
「永遠にこのままで在ることを願うですね」
「ううむ…だがそう頷かれてしまっては…」
「認めざる得ない…って感じだね」
そう。モノパンへの確認のおかげで…”崖の底では川は凍り付かない”という事実が分かる。
つまり…水はエリア4の地面まで貯め込まれ、急速冷凍された事も同時に証明される。
確実に…問題は解決の方向へと変わっていっているのが分かった。
ようやく…この事件の肝とも言える犯人がホテル側へとやって来た方法が見えた。
今までに無いほどの、達成感と、そして真実へと向かうための大きな一歩を踏み出せたような気がした。
「……じゃあもしかして。私が見たのって」
「十中八九、犯人が自分で作り上げた氷の橋を渡っている瞬間だ。見間違いでも何でもない、決定的な場面だよ」
そして風切は、まさに答えとも言える瞬間を目撃していたのだ。
もしも彼女が証言してくれなければ、きっと方法も分からず、考えあぐねていただろう。いやそもそも、俺達への疑いが永遠に晴れずに終わっていたかも知れない。
「…じゃあ私が、形振り構わずちゃんと追いかけていれば。こんな馬鹿みたいなトリックを解くのも…苦労しなかったってんだね」
「そんなことは無い。お前はお前に出来る最大限の行動をしてくれた」
「そうですよ!!むしろ、何も出来ずに、部屋の中でのほほんと捜査をしていた私の方が不甲斐ない話しで……」
「……でも」
「そう悲しい顔は止しておくれよ。確かに見るべき瞬間、真実ともとれる瞬間を君は見過ごしてしまったのかもしれない…だけど代わりに僕の命を繋いでくれた。大事な友もまとめて、独りになんてしようとしなかった……君は良くやっているよ」
「……隼人にそう言われたなら仕方ない」
「「…………」」
どうやら俺達の言葉ではなく…落合の言葉には死ぬほどあっさりと割りきる風切。…俺も小早川も見るからに釈然としない様子であったが……彼ら的にはそれで良いのなら、もう良いかと、無理矢理納得することにした。
「でも、さ。そこに、水を貯めるの、って…結構、リスクがあるんことなんじゃ、ない、かな?」
「”りすく”…でございますか?」
すると、これまでの経緯を踏まえて何かを思ったのか、贄波はそんな疑問を呈した。俺自身も、彼女がどういう意図を持って言ったのかと、首を傾げてしまう。
「うん、リスク……崖の底を流れる川、って、施設に送るための、水なんだよ、ね?……じゃあ、その水を、エリアに集中させちゃう、と…他の場所、にも…影響がでるんじゃないかな、って?」
「……ほぇ?」
「……もしもだよ、キミ。例えば、3つの村があったとして…それぞれは同じ水源を使い、水を分け合って生活していた。だけど1つの村が水源を独占してしまいました……さて、他の2つの村の水はどうなる?…ということさ」
ニコラスの例えば話を聞いて、俺は贄波が何を言いたいのか、リスクとは何なのか、その詳細を理解した。
「………水が、水が…ええと…はい。どうなるんでしょう!その答えは!!」
「いや、今はどう見ても考えてみなって投げられてる問答だと思うけど…」
「逆に質問を返せばもしかしたら反射的に返ってくると思って!!学校でも同じ事をして乗り切った記憶がございます!!」
「…シスターのアタシもビックリな神頼みな学校生活さね」
「知識はあっても、それを使わなければいずれ錆び付いてしまう。何を言いたいのかというと、僕の頭の中にある原理は既に錆び付いてしまっている…学ぶべき教科書が、所々破れてしまっている、ということさ」
「……隼人も分からない感じ」
「あー、アホ2人は置いておくとして。つまりあんたらが言いたいのは…エリア4に水が集中したんだから、他のエリアに、何らかのしわ寄せがくるってことですね?」
流石に埒があかないと判断したのか、雲居がその答えらしき返答をする。
そう、あの崖のサイズからして、トリックを準備する際相当な量になるまで川の水を増水させたはず。
つまり…。
「その増水によって、周辺に何らかの影響が出て…俺達に異変を勘づかれてしまうのでは…ということか?」
「うん、そういう、こと」
「周辺の…だとぉ?…そう言われても、ワタシは何も…」
「いや…そんな事無いです。私、その影響の心当たりはあるです」
「ほ、本当ですか!!雲居さん!!」
「それを言うならアタシもだね……つまりは、あの現象の事を言ってるんだろ?」
「反町さんも!?」
……確かに、彼女達の言うとおり…その贄波の言うリスクは発現していた。
水にまつわる現象がエリア4以外にも…あったのだ。
ニコラスが集めてくれた中で、一際目を引いた、その現象。
それも、エリア1と、エリア3で起きた…あの出来事。
【コトダマセレクト】
【消えた湖)or 【噴水)
「これしか…ない…っ!」
「消えた湖と…そして止まった噴水……お前らはその事を言っているんだよな?」
「です」
「間違い無いさね」
その例の現象を間近で見ていた雲居と反町は大きく頷き、正解であると体で表現した。
「………何の話し?」
「勝手に理解し合ったように視線を交わすな!!ちゃんと説明しろ!!」
だけど、やはり言葉少なであったために、憤った様に説明を急かす。俺は頷き、その示し合わせた出来事を口にしていった。
「エリア1の湖、そしてエリア3の噴水…そこで水が減っていく、水が出なくなる、…そんな不自然な現象が起こっていたんだ」
「……ぬわんだぁ?その不気味な現象は」
「言葉の通りです。エリア1の湖が、徐々に無くなっちまったんです」
「同じく、エリア3の噴水が、少しずつ減っていっていたっていうか、出てこなくなった感じさね。いつもだったら寝る間も惜しんで馬鹿みたいに流れてるソレが急におかしな状態になったもんだから。イヤでも記憶に残っちまったよ」
「ふむぅ…確かに…どちらも水関連…それもニコラスの説に添うような現象だ」
「………じゃあそれが、水をエリア4に集中させたしわ寄せ、ってこと?」
風切の結論に、俺は頷いた。
「そうだとも!!実際に異変は起こっていた…だけど、結局は…」
「ただ呆然と見守るだけだったですよ……だってジオペンタゴンの水事情なんて、知るよしも無いですし…興味も無かったですから」
「まぁ、アタシらも、まさかエリア4に水が溜まってるなんて、氷の橋を作るために貯めたなんて、考えもしなかったんだからね」
「何かをすべきだったとは…僕は決して思わないさ。それは景色の最果てを吹きすさぶ竜巻を見ているように、何が起こっていて、ソレが何を誘発してしまっているのか…ちっぽけな僕らじゃ、考えが及ばない」
「そっ、か、じゃあ、リスクあっても、危険は少ない、って、こと、だね」
異変に気付かれてしまうというリスクは確かに存在する。だけど彼女達の言うように、それが犯行に使われたなんて想像もつかなかった。つまり、ほぼノーリスクという事である。
「では…具体的に、いつからいつまでその…不可思議な現象は起きていたのだ?」
「ええと…私がその現象に気付いたのは、大体7時半から1時間くらいですね」
「アタシも同じくらいさね」
「でも、7時半に水門を利用して水を貯めたとしたら、ホテル側に犯人が現れるまでに多少のラグが発生するはずだから……7時半よりも少し前、水が溜まる時間も考えて、大体7時くらいに…水が止まってしまったのだろうね」
「ですね…私も気付くのが遅れてたですから。多分、もうちょっと前にその兆候はあったと思うです」
「アタシはエリア3に入るときと、出るときに見ただけだから…そこんところは悪いけど不透明さね」
反町達の現象を踏まえてみると、古家が殺される1時間以上も前から崖の水は貯められ、そして1時間を過ぎた頃にまた水門を開き…施設へと水を送り直し……そして氷の橋の証拠を隠滅した。
施設の概要を良く理解した、とても大胆な犯罪計画である。これまでも充分緻密であったが、それにひけを取らないクオリティだ。
「そう考えると……いや本当に”だいなみっく”な”とりっく”でございます…大仕掛け過ぎて、もう全然脳みそがついて行ける気がしません」
「そもそも、今まで追いつけてたんですか?」
「そ、そうでした……!!追いつける脳みそが…私には無かった…!!」
「梓葉…痛ましすぎる自覚さね」
「いいや、小早川さん。そう恥じることは無いさ。恥じるべきなのは…限界がココにある決めつける自分自身。まだまださ、君はまだまだ充分にやれる。人間の可能性は、僕らが思う以上に無限大なんだからね」
「…………うう、追いつけません」
「…隼人の言葉を理解するのは不可能に近い」
本当に悲しすぎる話しである。そして誰も否定しないことが、その悲しさをさらに助長させているように思えた。
「……どぅあが。それならそれで、話しは早い」
「?何が早いって言うんですか」
すると、また何か気付いたことがあったのか、雨竜は不気味な笑みを浮かべる。ソレを見て、また始まったと、呆れた声色で雲居が構う。
「ふはっ、知れたことを…それは……」
「つまりアレだね!”犯行時刻”の事をキミは言いたいのだね!!」
「へ??……は、はんこうじこく?」
「貴様ぁ!!今ワタシが言おうとしたことを横取りするんじゃぁない!!!」
横取りも何も、よく雨竜が言おうとしたことを遮れたなという気持ちが強かった。だってほぼノーヒントだったのに…心を読んでいるような聡さであった。
「だけど…どういうことなんだ?」
「…水を貯める際、犯人は必ず水管理室に行かないとならない。それは分かるね?」
「…うん、分かる。方法のための設備を利用しなくちゃ話しにもならない」
「だったら、その水を貯めて、そして渡り、犯行を行い、戻り…そして水を放流する…これは全部でおおよそ1時間半~2時間…具体的には7時から8時半までの間、犯行は行われた」
それが示すことは…水を貯めてから、放流されるまでの時間の間、犯人はエリア4にいた。
つまり…
「その水、の、増減がある、時間、内に、アリバイの無い人、が、犯人って、こと、かな?」
「ああ!そうなるだろうね!!ここで改めて問おうじゃ無いか!!!犯人くん…?いや…さん?はさっさと自白することをオススメするよ?」
そんな素っ頓狂なアドバイスは、空しく、裁判場に響くだけ。痛い静けさが、一瞬現れる。
「……ここで自白してたら、ここまで苦労してないですよ」
「うん。そうだ、ね…流石に、厳しい、よね」
だけど…犯行が可能な人物か。
ニコラスのメモに寄れば、犯人が潜んでいると考えられるペンタゴン側の生徒達は全員…どこに居たのかというアリバイがある。
でも…それは…。
【ノンストップ議論】 【開始】
「はんこー時間が分かってしまえば…」
「後はこっちのモノです!!」
「そうですよね!!」
………そう、ですけど
ああ!間違い無いとも!!
貴様が肯定するな!!
「『自由』とは何なのか…」
「『束縛』とは何なのか…」
「ソレを今、【語り合うとき】が来たみたいだね」
「勿論、僕は前者が全てだと…考えているさ」
もう議論する気、ない、よね?
コイツ回り道どころか…
別ルートに入って無いですか?
「……でも【犯行時間】が分かってても」
「ペンタゴン側の全員は…」
「……私達と同じように」
「……どこに居たのか」
「…【アリバイがある】はず」
【生徒達のアリバイ B)⇒【アリバイがある】
「それは違うぞっ…!」
【BREAK!!】
「いや…誰が何処にいたのか…それを証明するのは難しい」
誰かがどこに居て、そして誰になら犯行が可能なのか……でも全員にアリバイがる。
それは大きな間違いだ。
「…?どうして?」
否定を返された風切は…多少ムッとしながら、俺に疑問を投げかける。他の生徒達も、同様に答えを求めるような表情をしていた。
「ペンタゴン側の生徒達がどこに居たのか、そのアリバイ、というか……居場所は確かに分かっている。だけど……それと同じように、誰1人、自分がどこに居たのかを確実に証明をする人が居ない…」
証明する人が居ない。
それはつまり、全て生徒それぞれの自己申告ということ。誰かが誰かと一緒に居たとか、見たとか、そんな目撃証言が、一つも無いのだ。
「ぐぬぬぬ…た、確かに。よくよく考えてみれば…証明できぬ…」
「…こういう時に限って、何でバラバラに行動したもんですかね」
「こんなことならパーティの一つでも催しておくべきだったね!キミ」
「…気にくわないけど。そう思えて仕方無いよう」
では、誰一人自分の居場所を確実に証明できないということは…
「だったら……考えられる可能性はただ1つ…だな」
「――――――お前達の誰かが嘘をついている…」
俺はハッキリと、真実をココに示した。
犯人が潜んでいるかも知れない…5人の生徒達に指を差し向け、そう告げた。
「う、嘘…ですか?」
これでハッキリした。今まで仲間意識とか、友情とか、そういうモノもあって、上手く思い切れなかった。
だけど…ニコラス、贄波、雨竜、反町、雲居。
この5人の誰かが…この事件の犯人。
今なら、そう言い切れる。
誰かが、古家を殺したことから、目を背けようとしている。
誰かが、罪から免れようと、嘘をついている。
誰かが…俺達を犠牲にしようと、この裁判場に立っている。
「……確かに、誰も証明できないなら…嘘をついているとしか考えられない」
今まさに、俺はこの場所が、命がけの騙しあいする場であることを、深く実感していた。
命がけの信頼、命がけの疑いあい、命がけの学級裁判。
だけどこれが初めてなんかじゃない。
4度もだ。4度も、俺達はこの感触に触れている。
全くもって酷い体験談だ。笑い話にも、思い出話にも出来ない…。
――――だけど、唯一の救いと言うなら
少なくとも、ホテル側の生徒達はシロと考えられるということ。小早川、落合、風切の3人は、確実に信頼できるラインに居るという事。
これまでの道具の貸し借りや、大がかりな崖のトリックから考えて…ホテルに居ては出来ないことが殆どであるから。
もし共犯者だったと言われれば苦しいが……だけどそれを行うメリットが余りにも見えない。結局脱出出来るのはクロ1人だけなのだから。
故に、棄却することができる。
だからこそ、心の救いとなり得る。
「あ、あたしらの中に…ですか?」
俺は深く頷いた。その通りだと、この意思を曲げることは無いと…そう思わせる様に。
「…だ、誰なの?嘘をついているのは?」
信じられないような瞳で、風切は…小早川は、渦中の5人に目を向けた。
「…あ、あたしは嘘なんかついてないですよ!?だって、嘘なんて、私が一番嫌うことなんですから…」
「勿論ワタシもホントの事を言っている!!図書館に居たことは事実なのだ!!!その時間いつも通りお勉学に励んでいたのだからな!!」
「アタシだってそうさね。実際、水の現象とかも見てるわけだから…これ以上無いアリバイだよ」
「ははっ!往生際が悪いぜ諸君、さっさと嘘をついているのは自分ですと、吐いちまえよ!」
「「「アンタ(貴様)(あんた)も同類だろうが!!」」」
「そこまで強く言われると逆にワクワクするね!!キミ達、そんなにボクの事が好きなのかい?」
「……日本語は通じてない」
「コミュニケーション、って、難しい、ね?」
そしてやはりというか、案の上、”嘘”という単語に対して、そして疑いの矛先が確実に自分に向いたことに、生徒達は敏感に反応し、大きな動揺を広げていく。
「難しい話しだね。誰かが自分の本当の心の声をさらけ出してくれれば、こんな難しい話しにはならなかった。でも…人はそう単純なものじゃない。永遠に解けない迷路のように…入り組んでいる。…本当に、難儀な話しだよ」
「……そうだな」
少々難解だったが、確かに落合の言うとおりだった。
彼らは脳みそを持った生き物なのだ。自分は嘘はついていない。本当の事を言っていると…常套句のような自己弁護を口々に言い始めるのも無理は無い。
何故なら彼らの中のたった一人が、焦っているから。この事件の犯人が身の潔白を証明しようとしているのでは無く、真実を誤魔化そうと、躍起になっているから。
だから、話しがこじれてしまうのだ。
自分は嘘をついていない。自分には不可能だと。
”たった一人”…まるで暴風雨の様な嘘を振りまき、そしてこの場を吹き荒らしているのだ。
「ワタシはぁ!!」
「あたしは…」
「アタシは!!」
……だったら、この喧騒の中でも、俺は俺の耳で…真実を聞き分けなければならない。
「嘘などついておらんわぁ!!」
「嘘なんてついてないんですよ!」
「嘘なんかついてないさね!!」
そして…この吹き荒れる真実の中に潜む矛盾を…見つけ出さなければならない。
何が可能で、何が不可能なのか。
何が嘘で、何が本当なのか。
確実に、打ち抜かなければならない――――――
【パニック議論】 【開始】
~~~~~~~~~~~~~~~
[Forum 1]
「確かに!これまでの【推理通り】であるなら…」
「ワタシ達の中に犯人がいる…」
「その可能性は大いにあり得る」
「いや…もしかしたら無いのかも知れんが…」
――――――――――――――
……自信が途中で消えていってる
うう…そのお気持ち…よく分かります
―――――――――――――――
[Forum 2]
「嘘つきが私達の中に居るのはわかったです」
「でも…」
「それは私では無い事は確かです」
「私は絶対的に…」
「【真実オンリー】の出来事しか述べてないんですから」
――――――――――――――
それだったらボクも同じ事を言えるさ!
だったら、その心を詩にしてみたどうかな?
――――――――――――――
[Forum 3]
「随分と決めつけた言い方してくれるじゃないか!」
「アタシらの中に犯人がいるだなんて…」
「中々視野が狭いって話しじゃないのかい!?」
~~~~~~~~~~~~~
* * *
~~~~~~~~~~~~~~~
[Forum 1]
「ほう…キミにしては随分と煮え切らない態度だね」
「もしかして【キミが嘘つき】だったりするのかな?」
「隠し事が恥ずかしくて、そして抑えきれなくて…」
「つい口が動揺を示してしまっているんじゃないのかい?」
――――――――――――――
確かに怪しいですね
何故ワタシの時だけここまで疑われるのだ!!
―――――――――――――――
[Forum 2]
「ええっと…これは…私、も…」
「弁解した方が、良いの、かな?」
「うん、私も、同じ、だよ?」
「気分転換に、【プール】に、行ってたこと、は…」
「本当、の、こと」
――――――――――――――
うう…どれも本当の事に思えて仕方在りません
だけどこの中に、僕らを欺く矛盾があるのさ
――――――――――――――
[Forum 3]
「…もしかして…【私達の中に犯人】がまだいる…」
「…そう考えてたり?」
「……でも、無理も無いか」
~~~~~~~~~~~~~
* * *
~~~~~~~~~~~~~~~
[Forum 1]
「そそそそそそ、そんなわけ無いであろうがぁ!!」
「ワタシはその時間は…」
「キチンと時間通りに…」
「【図書館】にてお勉強に興じていたのだ」
「もし疑うのなら…」
「勉強内容を今ココで講義しても良いのだぞ!?」
――――――――――――――
講義はイヤです!!
…恐ろしい拒否反応
―――――――――――――――
[Forum 2]
「という訳で…贄波と私は確実にシロです」
「何故なら…私には証言があるからです」
「私は事件の最中、【減っていく湖】を見ていたんです」
「こんな明細で…それも嘘くさい怪しい証言…」
「クロだったら絶対にしないです」
「もし私がクロなら、もう少し現実的な証言をするです」
――――――――――――――
確かに…
まるで嘘みたいな話しがあって…でも信じられなくて…人の心は難しい
――――――――――――――
[Forum 3]
「まさかまさかのホテル側のキミ達の中の誰かが…」
「嘘つきだとでも言うのかな?」
「いやいや…それは根本的におかしな話しだよ」
「だって【全ての発端はペンタゴン側にある】のだからね」
「まぁもしも共犯者がいたのなら…話しは別ではあるけどね」
~~~~~~~~~~~~~
* * *
~~~~~~~~~~~~~~~
[Forum 1]
「…そんな個人的過ぎる話しはどうでも良い」
「…今重要なのは」
「…今までの犯行が」
「コレまで分かった時間の中で」
「…【誰になら出来た】ってこと」
――――――――――――――
誰に、なら、?
その通りであるな!!早く明確にせぬば!!
―――――――――――――――
[Forum 2]
「それが根拠になるなら…」
「アタシだって同じさね!」
「【エリア3】で…アイツらの墓参りをしている所で…」
「アタシは様子のおかしい噴水を見たんだ」
「コレがアタシがエリア3に居たって言う」
「明確なアリバイになるさね!!」
――――――――――――――
あたしと同じタイプの証言だったですからね…
…なら…素直と蛍は…容疑者から外れる?
――――――――――――――
[Forum 3]
「ですが【共犯者】などというものを考えて仕舞っては…」
「本当に一から何もかもを考え直さなくてはいけません!!」
「私はイヤです!!」
「ていうか…もうこれ以上頭を使うのは…」
「体に良くないので!!」
~~~~~~~~~~~~~
【水管理システム) ⇒【誰になら出来た】
「…聞こえたっ!!」
【BREAK!!】
「いいや…誰にならできたんじゃない……"誰にでも”出来たんだ」
そう、誰にでも出来た。それも、誰が何処にいても…態々エリア4の水管理室に赴かなくても、簡単に崖に水を貯める方法が……ある。
「だ、誰にでもって…システムを使うのも、時間も覆す…そんあ欲張りセットみたいな事が出来るって言うんですか?」
「ああ、そうだとも。そんな方法があるのだよ、キミ」
するとニコラスが、そこはボクが説明しよう、まるで解説キャラのような態度で、また口を挟む。
「説明不足も甚だしいぞ…最初っから全部綺麗に話せ」
「まぁそう急かさずに、物事には順序という物があるからね。……ええと、どこまで話したかな」
「……まだ何も話してない」
「わざとボケてるんですか?」
「そうだった!!そうだった!!いや、申し訳ない。では順序よく説明していこう。……あー、前述の水管理室に備えられた水の増減を左右するシステム…というのは実にタイムリーな情報だと思うのだけれど…勿論覚えているね?」
「勿論覚えてるさね。そのしち面倒くさいシステムについての話しが、焦点になってるんだよ」
その通り、つまり犯人は水を貯めて、さらに放流するというプロセスをクリアするために、一々水管理室に行かないければいいけない…そんな時間の無駄とも言うべき問題を彼らは指摘しているのだ。
だけどニコラスが言うように…その問題を覆す方法もまた存在する。
「ああそうさ、確かに面倒臭い…だけど、今まで言うまでも無いと思っていたけど、実は例のシステムには”タイマー機能”、というものがついていてね」
「たいまーきのう?」
「僕が何処かに居ても、決められた事項は施行され。決められた事項があっても…僕は何処にでも居られる……つまりそういうことだね?」
「…………」
「ええと、ミスター落合の話は置いておくとして。つまりあれだよ、誰が何処にいても、予め設定しておけば、水は時間通りに増減させる事が出来る…ざっくりと言えばそういう機能だね」
「えっ…彼処に、そんなあからさまな代物がついてたってのかい…」
「本当に欲張りセットみたいな機能ですね。…まさに犯罪のために用意したとしか思えないシステムです」
確かに、雲居の言い分も分かる…。
だけど実際の所…あの施設の役目は施設へ送る水量の調節。普段は自動だが、緊急の場合に備えて手動で捜査できるように作られている。だから、タイマー機能なんてモノも取り付けられているのだろう。
「…じゃあ具体的に何時何分にタイマーを設定してたの?」
「始まりの時間は、大体7時位と考えて……特に重要なのは、終わりの時間さ」
「始まりがあれば終わりがある…逆に言えば、終わりが無ければ始まりも無い…まさに虚無さ。その点、時間というモノは素晴らしい…必ず終わりと始まりのピンを打つ事ができる…皮肉な話しだね」
「……何処が皮肉なんですか。…でも、その時間が具体的に分かれば…」
「犯人が、逃げおおせるため、の、タイムリミットも明確にできる、よね?」
その終わりの時間を具体的に、示すなら…あの証拠しか無い。
この事件の始まりを告げる…あの証拠。
【コトダマセレクト】
【モノパンファイル Ver.5)
「これしか…ない…っ!」
「古家の死亡時刻…夜8時32分…恐らくコレが崖から水が抜かれ始めた時間…そして水を放流するタイマーをセットした時間だろう」
そう考えれば、反町や雲居が、水が元に戻ったという証言とも辻褄が合う。
つまり、古家が殺された時刻は、この事件の始まりでもあり、ある意味で終わりでもあった…ということだ。
「では……今まで考えられていた手間暇を”たいまー”でどうにかできるとするなら」
「……犯人にとってかなりの時間的余裕が出来る。逃げる時に出来る選択肢も増えてくる」
犯人は最初っから、たった1時間というタイムリミットを設け、ホテルへと侵入。そして殺人を犯した後、すぐさま逃げ出し。そして、美術館へと借りたモノを返すなどの、隠蔽工作をした。
「だからこそ…お前達が口々に言うアリバイ…」
「殆ど不成立に…という結論になるね」
これらの可能性と、そしてペンゴン側の生徒達のアリバイは全て自己申告という事を踏まえれば…。
誰でも嘘をつける。
誰でも犯行を行うことが出来る。
「ほ、本当にどなたでも…可能、ということになる…のですか…?」
瞬間――――――身が引き締まるような、血が冷たくなるような、そんな感覚が走った。
それは目の前で古家を殺されたからこそ感じる恐怖。俺を殺そうとしたからこそ分かる執念。
そんな深い深い殺意のような心を持っている殺人鬼へと、真実へと、確実に近づいている。
その事実が、確信できた。
でもそれが、誰が行ったのか、誰が嘘をついているのか…肝心な所がわからなかった。いや、わからないからこそ…俺はこんは恐怖をいだいているのかもしれない。
誰しもが普段通りの口ぶりと、身ぶり手ぶり…一見誰もが違うと判断してしまいそうなこの光景を目の前にしているから。
知らないからコソを、恐怖を、俺は今、実感している。
その裏に、何が潜んでいるのか、どんなドロドロとした意図が渦巻いているのか。
……怖がるな…と言う方が無理な話だった。
「……じゃ、じゃあ結局誰が嘘をついてるの?全然情報も無いし、このままじゃずっと堂々巡りしたまま」
「いやもう既に、目に見えて堂々巡りをしているね!!」
「そこを自信満々に言う事か?」
それにこの間延びした状況にした原因はお前にもあるんじゃないか…と言ってしまいそうだったが…今は口をつぐんでおいた。
「そう…そこでだよ、キミ達。ボクに、そんなイタチごっこのこの状況を打破する…良い考え方がある」
「………考え方?」
「ああ、勿論あるとも、それは風に聞いてみること。風は僕の知らない所まで、全てを把握している…からね」
「ちょっと、だまって、て?」
「……ゴメン。ウチの隼人が」
「そんな事は無いさ!こういう箸休めは定期的に入れるのが僕ららしい。ええと……うん、そう誰が嘘をついているのか、確かめる方法が…いや確定させる方法が、今この場に存在しているのさ」
「本当ですか!!!!」
「えー、またそんな都合の良い…」
場を改めるように、ニコラスは含みを持たせた言葉を発した。俺達は、急にそんなことを言われたモノだから、すぐさま当惑を露わにしてしまう。
「とはいっても…どうやって確定させるというのですか?」
「勿論今すぐにでも答えたい所だけど……それを言う前に………ミス贄波…そしてドクター雨竜」
「な、なんだ?」
「…どうした、の?」
すると、意外な組み合わせの二人の名前をニコラスは呼んだ。二人も同様に、不意を突かれたように言葉をどもった反応をしてしまっていた。
「いやね、そこまで身構えなくても良いさ。ただ、キミ達が居たというエリア2について聞きたいことがあってね」
「…あのエリアについてか?」
そう言われて、確かに彼らに共通して言えることといえば…事件前エリア2に居たという事だった。俺は手元にある、アリバイの証拠を見て思い出す。
「何を、聞きたい、の?」
「簡単なことさ。そのエリア2において、シスターや、ミス雲居の様に、水に関連する不思議な現象は起きていたのかどうか、ということさ」
……そういえば、と俺は思った。
あの反町と雲居は、エリア4に水を集約したことによって現れた、水の現象を目の当たりにする中で。
エリア2にいたハズの彼らは、その現象について一切言及していなかった。
これまでの定理からすると、反町達が証言したような目撃情報があっても可笑しくないのに…。
「…いや、特に変化は無かったな。ああ、そうだとも。ワタシ自身図書館にはいたが…そこ流れている水に、変化は無かった」
「同じ、かな?プールの水も、何も…」
だけど彼らは、その定理に反するように首を振った。
「OK、だったら話しは簡単さ」
そしてその答えを聞いて、まるで確信したように、そう言葉を紡いだ。
一体何を言おうとしているのか、未だ犯人の尻尾すら掴めていない俺は、まったく見当がついていなかった。だからこそ、俺は、いや俺達は彼の言葉を待つ他に選択肢が無かった。
「施設の水について、ボクは今まで…何処かに水源があって、そこからから引っ張っている…そう言っていたね?」
「うん、そう言ってた、けど…」
「でもね…それは”間違え”だった。彼らの言葉を聞いて、そう確信できたのだよ」
「間違いって…!今までのソレが覆されるんだったら、事件の根本から考え直しになっちまうですよ!」
「………また面倒臭くなる」
「ははっ!いやいや、そんな砂の城をぶち壊すような事じゃ無いさ。さっきも言っただろ?犯人を確定させる方法があるって、簡単に、ね?」
「まどろっこしいさね!今までの水源から引っ張ってきているってのが間違いだったら、他にどこから水を持ってきてるって言うんだい!!」
確かに遅延行為とも言えるニコラスの御託に、それぞれしびれを切らした発言が増えてくる。また、憤った雰囲気が蔓延り始める。
「ああ良いとも…僕の推理によれば…」
だけど、ニコラスは、そんな野次にも流されず、ただ静かに、淡々と、その真実を語り始めた。
「このジオ・ペンダゴンそのものに水源は無く、水そのものが――――施設全体で循環している」
「……じゅん、かん?」
的を得ない彼の結論に、彼らは首をひねる。俺自身も、彼が何を言っているのか、さっぱり分からなかった。だけど彼は気にせず、続けていく。
「いやぁ、ね。これまでの経緯を踏まえて、常々思っていたことがあってね」
「何を、思ってた、の?」
「何故、エリア4に水管理室なんて物を設けているのかということさ」
「………?」
「…どうして水の量を、あの場所で調節する必要があるのか…と思っていたのさ」
「うう…もうちんぷんかんぷんです」
「安心しな、アタシも意味不明さね。……ニコラス!もっと分かりやすく説明しな!!」
難しい返答に、ニコラスは他の生徒から催促が入る。彼は仕方無い、とまた神経を逆なでするようにぼやく。
「つまり!このジオペンタゴン全体は川のように水が巡回していて、崖の底の水はその通り道の1つ…と言う訳なのさ!」
そして結論とおぼしき発言を聞いた俺達。だけど、再びシーンと、という音が鳴ったように静まりかえる。
……コレが意味するのは…何を言っているんだ?コイツ…ということだった。
「……どういうことなのだ?モノパン」
そして最終的に、流石の雨竜も、詳しく知っているであろうモノパンへと助けを求めた。これまでにない光景故に驚くべき事なのだが…それ以上に掴めない状況のため、リアクション無く進行していってしまう。
「えー説明がよく分からない方がいらっしゃっておりますが…確かに…ニコラスクンの言うとおりでございまス」
「…当たってるの?」
「ええ!!そうですとモ!!まずは此方のフリップをご覧下さイ」
「この施設全体には…国道とも言うべき大きなパイプが通っておりまして…この施設を一周するように通っております。…そしてその大きなパイプからいくつもの小さなパイプが枝分かれし、それぞれの設備へと送られていきます。ですが全ての水が送られているのでは無く、大きな川とも言うべき主流の一部を水をくみ上げている、といった感じです」
「故にこのジオペンタゴンの水はこのように恒久的に流れ続け、そして使用済みの水はそれぞれのエリアの間に張り付けられているろ過装置を通し…そしてそれぞれのエリアの水としてまた再利用していっているのでス。言わば、この施設全体が水の貯蔵庫のようになっているのですネ」
「……じゃあトイレの水も、エリア2の農業用水も、使われたて、また再利用してるってこと?」
「そうなりまス!!ですがだからといってここの水を飲みたくないとか、もう料理作れないとか思わないで下さいヨ?この施設の浄水装置はマジで完璧なので、マジで完璧な循環システムが完成しているので、安心して今後もお使い下さイ」
「いや…それは良いですけど…。あたし達が聞きたいのは…どうしてそんな周囲と隔絶したような構造なってるんですかってことですけど」
「他から水を引いた方が手間も少なくなると言うのになぁ…」
確かに、雲居達の言うとおり…どうしてこの施設にそんな一つで完結した設備が備わっているのか?……それじゃあまるでシェルターだ。設備の中で再利用を繰り返し、そして延々と生活する、シェルターの様に思えた。
「まぁ細かい事は置いておくとして……つまり、ニコラスクンの言っている循環とは、そういうことを差しているのだと思いまス……OK?」
「勿論OKだとも!!ボクはそう言いたかったのだよ!!」
「……調子良い」
だけどモノパンは以降決して説明を加えず、そのまま話しを本筋へと軌道を戻していった。…少し気になったが…確かに、今はそんな事を考えている余裕は無いのもまた事実であった。
それでも…今の情報、裁判中ではあるが何か有益な情報だ。一応メモに加えておこう。
コトダマUP DATE!
【ジオ・ペンタゴンの全体図)
「成程…だからワタシ達のエリアに水の現象が波及していないかった…ということか」
すると雨竜がモノパンの説明から、いち早く何かに気付いた。
「ふぇ?…どうしてそうなるんですか?」
「水の現象が起こったエリアは、エリア4の両脇に位置していた。そして先ほどのモノパンの示した画像、水の流れ、循環…それらの事を考えれば、水の増減によって我々のエリアは直接影響は無かった…いや少ないということだ」
「恐らく!エリアの繋がりからして湖の水をそのまま使って、延命治療をしていたのだろうね!」
「………どういうことですか?」
「目の前に4つに仕切られた水があった、その中の1つに水を集中させた……すると、周囲の水はドンドンと無くなっていく…だけど最も離れた両隣じゃ無い水は…影響はあっても少ない…この理解で大丈夫だよ思うよ?」
「………どういうことですか?」
「……聞かなかったことにしてる」
つまり。水門を調節して流れを少なくしても、そこから離れた場所に位置するエリア2への水は通常通り供給される、ということか。…うん、自分で言っても、上手く説明できないな。俺の説明も落合レベルかもしれない。
「…それにしても、よくお分かりになりましたネ~。この施設の謎の1つである水の大量循環に、ノーヒントでたどり着いただなんて、驚きの余り、解き明かしたアナタにベストウォーターマン賞を差し上げたい気分でス」
「謹んでお断りさせてもらうよ、キミ!」
グッドのハンドサインを、清々しくモノパンにぶつけた。確かに要らない、と心の底から同意した。
「だけど…それが事件とどう関係するってんだい?」
「おいおいおいわざと言っているのかい?ボクが言いたいのは、この流れの事を念頭に置けば――――誰が犯人なのか分かる、ということさ」
「犯人がですか!?」
「何処をどうやって犯人を見分けられるというのだ!」
「ソレを説明する前にに……今言った水の流れの原理…これをもう一度考え直してみれば、自ずと答えは見えてくる………そうだろ?ミスター折木」
もう一度考え直してみれば……?
俺は自分に向けられた様なニコラスの言葉を、聞いて…頭をひねり出す。
誰も彼もを置いてけぼりにするような彼の発言の数々。
そしてそこからパスされた、犯人を特定するための…答えの要求。全くもって、焦るばかりだった。
だけど、冷静に考えてみれば…彼は水の流れに焦点を当てている。
だとしたら…その水の流れを突き詰めてみれば……分かるかも知れない。
【ノンストップ議論】 【開始】
「まずはヒント…」
「とかく重要なキーセンテンスは…」
「…『水門』」
「これで分かるかな?」
え…それだけですか?
むむむむ…いや、ここまでくればなんとか
貴様には無理だろう…
無理とは何ですか!!
「……水門?」
「ううん…ダメ、もっと欲しい」
同じ気持ち、同じ思考……それはつまり
同じ、く、ヒントが欲しい…ってこと?
…誰でもそう考えるですよ
「欲しがりさんだねキミ達というやつは…」
「仕方無い…」
「より具体的に言うならば…」
「いや根本的に言うならば…」
「崖は『水門を閉めなければ』、水は溜められない…」
「それで良いかな?」
…少ない、それにしょぼい
マジでどういう意味さね
「何を当たり前の事を言っているのだぁ!!」
「水を貯めるには…『水をせき止める』必要がある…」
「そんなわかりきっていることの…」
「何処が『ヒント』になるのだ!!」
考える…考える…考える
…不味いですね
若干小早川が壊れてきてる気がするです
「いやいや、その当たり前が重要なのさ」
「だけど同時に、水を貯めるには…もう一つ」
「『川の流れ』が重要になってくるのさ」
『水をせき止める』⇒『川の流れ』
「お前達なら…証明できる!」
【BREAK!!】
「……そうだ。もしも…水を貯めなければならないのなら、川の流れを…1度”せき止めなくてはいけない”………だよな?」
「そう、だね。しなかった、ら、水は貯められないもの、ね?」
「オーケイ、良いよ、キミ達……ここまで来れば、後はトントン拍子さ」
……贄波の言うとおり、水門を閉めなければ、せき止めなければ、崖に水はたまらない。だけど…。
「……”水門の両方を閉めてはいけない”。何故なら、水を供給しなければならないから…」
「……どっちも閉める必要が無い…てこと?」
「グッド…では…大詰めだミスター折木。それはどちらの水門を閉める必要があると思う?」
…どちらか。
そんなこと…今までの議論を顧みれば、すぐに分かるはずだ。
例の崖の川は、入口から見て右から左に流れていた。
だったら…………
だった、ら……………
……………………
…………………
【スポットセレクト】
Q.閉められた水門はどっち?
↓
「………!」
――――瞬間だった
…ゾクリ。
と、あの時、ホテルの中庭で感じた、鋭い悪寒が再び走った。
そして同時に…理解してしまった。
――――――”誰が嘘をついているのか”
誰が――――犯人なのか
誰が……古家を殺したのか。
でもどうして……アイツが?こんな事件を?
………いや、今はそんな事を考えている場合じゃ無い。
ソレよりも…やるべきことはある。…心を乱すな。真っ直ぐ前を向け。
「………エリア4から見て…川は、右から左に流れていた。だとしたら…水を貯めるために、せき止めるには左側の水門を閉める必要がある」
「……左、側、うん、そうだよ、ね…川の流れは、通りに、ね?」
「じゃあもう片方は…」
「そちらは供給側の水門、つまり―――――エリア4に流れ込んでくる川の水門は閉める必要がないのさ」
水を供給させ、そして崖に貯めるためには、閉めるのは左側の水門だけで良い。
そしてココで必要になるのは…
…モノパンの言う流れが…全体が分かるような………例の図。
【コトダマセレクト】
【ジオ・ペンタゴンの全体図)
「そうか…!」
「それ、は……全体図か?」
そう、先ほどモノパンが示したジオペンタゴン全体の水の流れの図。
コレが――――――決定打になる
「ああ、この全体図と、エリア4の水の流れを重ねて見ると…」
「こういう風に流れていることになる…」
そう、つまり……
「閉められた側の…”エリア1”の水への供給は断たれ…今まで話していた水が出なくなるという現象が起きることになる………だけど…供給側の水門は――――――”閉められなかった”…そうすると」
「……閉められなかって」
「え?ええ?」
「つまり…エリア1の…蓄えられていた湖の水がエリア2、エリア3…と通常通りに循環していくことになる」
エリア2にはエリア1湖の水が供給され、エリア2の水はエリア3へと…だけどエリア3の水は……エリア4を通り…エリア1へと戻っていく。だけど今回ばかりは…エリア1には戻っていなかった。
それが意味するのは…たった1つ。
「つまり――――――――――
――――――”エリア3”側の水門は閉める必要は無く、水は今まで通りに供給される。おかしな水の現象は起こりえなくなるんだ」
「な…では……まさかぁ……!!」
だとしたら、嘘をついていた人間が誰なのか自ずと見えてくる。
証言の中で…『エリア3の水が変だった』と、そう証言した人物が。
そいつがこの事件の…
――――――――――――”犯人”
【怪しい人物を指定しろ】
⇒ソリマチ スナオ
「お前しか……いない!!」
「――――反町。お前、エリア3の噴水がおかしかった…そう言っていたよな?」
嘘をついているかも知れない。
俺は、その可能性を持つ彼女の名前を…口にした。
そして静かに、彼女を見やり、返答を待った。
「………」
「え、どうして…反町さん…?」
だけど彼女から、答えは返ってこなかった。
周囲は、急にどうしたのだと、反応を見せない反町に視線を向けていた。
「……?」
だけど、緊迫したステージに昇華していることに気付いていた。今まででは考えられない、俺が反町にすごむ光景が今目の前で繰り広げられていたのだから。
だからこそ、どもったように疑問を呈したり、同じように何も言わず静観に徹したり、それぞれの反応を示していた。
まさに異様な雰囲気であった。
「…答えてくれ、反町」
「……」
催促するように、彼女の名を呼ぶ。だけど、何も返ってはこない。
返答する言葉を思案しているのか、それとも何も言えず困っているのか…理由は分からない。
だけど…少なくとも…。
きっと、俺の疑問が何を意味しているのか…その先に何があっているのか…彼女自身、理解しているだろう。
だからこそ、彼女は言葉に詰まっている。
「反町」
「…………」
「……反町」
「………ああ、ああ、言ったよ、間違い無く、言ったさね」
彼女の名を繰り返した。そして、ついに沈黙を破った。
そして投げやりに、彼女は認めた。その事実を、現象の有無を認めた。
瞬間、俺は小さな愕然を感じた。同時に、諦観のようなモノも、同時に感じた。
ああやっぱり…そんな静観を。
「だとしたら…おかしく無いか?もしも湖が減るような影響が、お前が居たエリア3にも影響が出ていたのなら……エリア2…雨竜達の居た場所にもそれと同じ現象が発生していたはずだ」
「え、あ…あの……折木、さん?それって…どういう」
「でも、湖の延長線上にあったエリア2には何の不可思議なことも起こっていなかった…だとしたら、お前の居たエリア3も、エリア2にと同じように、水の現象は起こっていなかったハズなんだ」
吐き出したくなるような辛さを抑えながら……コツコツと、コツコツと、今までの事実を重ね、重ね、重ねていき…詰めていく。
……起こっていない現象を見たなんて言い張っていたのか。どうして知るよしも無い期間を知っていたのか。
「………」
「だけど…お前は証言した。ニコラスに言ったはずだ……エリア3で噴水の様子がおかしかったと」
反町が…嘘の証言をしていた。
その事実を、白日の下にさらすために。
「う…うむぅ、確かに、ワタシ達を例に挙げるならそうなるが…」
「………姐さん?」
「……」
生徒達も、その矛盾に気付き始める。そしてそれが大きな意味を持つ矛盾であると、この裁判の行方を左右するほどの矛盾であると…気づき始めていた。
「………反町。お前、どうして知っていたんだ?水が無くなっていたことも、そしてどれ位の時間…減っていたなんて細かい事まで」
そしてその矛盾が何を意味しているのか。
どうして嘘をつく必要があるか。
そんな理由は…誰しもが理解できていた。
「…………」
――――だから苦しかった
表情には出さなかったが、とても辛かった。
「反町…答えてくれないか?」
本心では、答えて欲しくなかった。
コレが真実であって欲しくなかった。
反町の言葉を聞きたくなかった。
いつも真っ直ぐな彼女が…嘘をつく姿なんて――――――見たくなかったから。
「………すぅーーーーーーーーはぁーーーーーー」
だけど返ってきたのは………大きな大きな大きな…ため息だった。
煙が漏れるような…深い深いため息だった。
肺が膨張し、そして縮小するのが、服越しでも分かるくらいの…深い呼吸だった。
「――――――知っていたからに、決まってるさね。どうしてそんな当たり前の事を聞いてくるんだい?」
続いて返ってきたのは、事実の否定だった。自分自身の証言の肯定であった。あっけらかんと、いつものように、何を馬鹿な事を聞いてるんだと…そう言うように。
でも…
「………いや、お前は嘘をついてる。今までの証拠を組み合わせてみても…」
「……はぁ?」
「だから…」
「…はぁ?」
「……………」
「はぁ?」
「あの…今は何も言ってないような…」
確かに何も言っていない。だけど、言葉を返す事ができなかった。
……たった一言
たった一言に、その圧力に…思わず足を引いてしまいそうになったから。いや、実際に怖じ気づいて、手から汗が止まらないでいた。そして黙ってしまったのだ。
「……アンタらの言う能書きはもう良いさね。要はアンタは、今、アタシが嘘こいてる…っつー事を言ってるんだろ?」
「……そうだ」
だけど流石に悠長かと判断したのか…彼女は俺の言いたいことを代弁していく。その代弁に俺は肯定する…それを見た彼女はヤレヤレと首を振った。
またやってるよと、呆れたものだと言うような…そんな挙動。
いつも通り、馬鹿をやってる俺達の姿に呆れる彼女の挙動。
「水が減っているはずが無いから、水門がどうだから…お前は嘘をついてる……そう言ってるんだろ?」
「……そうだ」
「はっ……どーいう理屈でそうなるんだい?」
「いや理屈じゃないさ…論理的に、キミは隠し事をしている。いや、知るよしの無い出来事はキミは証言していたと言ってるのさ」
だけど、いつも通りでは無い反町の言動。いつも通りでは無い彼女の反応。
そんな彼女に怯む俺を見てなのか、ニコラスが割って入る。そしてつらつらと、軽口のように言葉を並べていく。俺と同じ真実を持って、同じ意思を持って、並べていく。
「ニコラス…今度はアンタかい」
「ああ、そうさこのボクさ。キミには本当に…一瞬でもだまされそうになったよ。いの一番で証言をしてきたキミが、実は嘘をついていたのだからね」
「嘘じゃないさね。アタシは――――」
「いいや、嘘だね。…そうつまりその証言はまさに悪手だったのさ。本当は何も不思議な事は無かったと、証言するべきだった。何も言わなければ、こんな明らかな矛盾に引っかかることは無かったんだからね」
ニコラスは自分が情けないという風に、自嘲するように、言葉を重ねていく。彼女の気迫に負けないほどの勢いで、言葉を重ねていく。俺と違って、怖じ気づくような様子は無かった。
「恐らくキミは…この水循環のシステムを理解し切れていなかった。それこそ、ボクが先ほど説の一つとして挙げていた、この施設は一つの水源から水を引っ張り上げ、そして施設全体に行き渡らせている仕組みと想像した。だからキミは、不思議な現象が起こっていたと証言した。きっと他のエリアも同じだと思ったんだろう…と思ってね」
「……何度言わせれば気が済むんさね…さっさと結論を言いな」
「でも…違った。本当はこの施設全体が水の貯蔵庫であり。水源なんて何処にも無く、ただ全体で水を分け合って、再利用し…恒久的に流れ続けていた」
「だから!!!!」
「だからこそ!!!キミの証言は嘘と化した。嘘が嘘を呼ぶように、矛盾が矛盾を呼ぶように…キミは見ても居ない光景をでたらめに繕い、そしてソレが命取りとなった」
ニコラスは…反町に指を差し向けた。
「キミこそが――――――――――この事件の犯人。ミスター古家を殺した犯人なんだよ」
静まりかえった。
今までの喧騒なんて吹き飛ばすほどの、痛い程の沈黙。
この場の、この裁判の”答え”を口にした。
ニコラスは反町、確かな意思を持って、告発したのだ。
「――――いい加減にしな」
耳に響くよう静謐の中で…。
低く、地獄の底から煮え出す様な…声が響いた。
「反町…」
凄みだった。
その一言には… 超高校級のシスターであり、関西圏最強の不良集団を束ねる長の凄みがあった。
二度と退かないぞと、ひとことでもふざけたことを言ったら…本気で容赦しないぞと…声だけで無く、迫力で語っているようだった。
「……ふざけんじゃないよ」
「反町…さん」
小さく。小さく呟いた。怯えるように、小早川も彼女に視線を向ける。
「――――――ふざけんじゃないよ!!!!!!!」
「………!!!」
「ひっ…」
ダンっ!!!!と、証言台を足蹴にした激しい音がこだました。
その目には、今までのような憤りの表情ではなかった。
「何度も何度も何度も何度も何度も何度も………」
本気の、怒りだった。
「理屈理屈理屈理屈……だから嘘つきだとか嘘吐きだとか…」
ココから逃げ出したくなってしてしまう位の、怒気がそこにあった。今までドラマなんかで、気迫というモノはただの効果だと、テレビを面白くするための演出だと、鼻で笑っていた。
「…いい加減耳にたこができちまうってんだよ!!!」
でも…今目の前にしている気迫は…そんなちゃちなものじゃない。本物の気迫だった。オーラだった。
……正直、ちびりそうだった。
「………」
その怒りに押されて、黙りこくる俺達に、反町は反論していく。いや、これは反論では無く。純粋な文句のようにも見えた。
「気持ち悪いんだよ…。アタシが言ってることに何一つ答えずに。あるかもしれない、可能性…目に見えない、空想を並べまくって…罪を償う云々の前に頭がいかれちまいそうさね」
あることないことをこねくり回し、そしてコレが真実だと叩きつける俺達にそのものに、反抗しているのだ。
「ニコラス、特にアンタだよ。いつもいつも適当に推理して、場をすっちゃかめっちゃかにして…落合を犯人扱いしたと思ったら、今度はアタシを槍玉に挙げて。心変わりにも限度があるんじゃないかい?」
「……名探偵にとって、疑うとは呼吸をするようなものさ。そして何よりも…ボクは無意味な疑いはしない」
「へー、じゃあ何か?今までの大立ち回りは全部意味があってやってたってことかい?」
「当たり前さ、何故なら無意味な議論なんてこの場には存在しないからね。全ての可能性を疑い尽す…一つの可能性に縛られては、真実にたどり着く物もたどり着けない。コレがボクできること。役目何だかからね」
特に強い圧力を受けているのはニコラスだった。確かに今までの彼の言動と行動は、事情を知っている俺ですらも目に余る数々だったから。だけど、当の本人はぶれているようには見えなかった。彼の図太さ、というか、偉く肝の据わったところは…本当に羨ましいくらいに凄い。
「はっ、どうだかね。だけど…アタシはちゃんとこの目で見たんだよ。水が止まっている光景を、嘘なんて何処にもないんだよ。穴一つとしてね」
「……そ、そうですよ。反町さんもこうやって見てると言っている事ですし。やはり犯人は別に…」
「…しかしこれまでの証拠からして確かに反町が嘘をついている可能性もぉ…」
「――――ああぁ?」
「…………ふ、ふあはははははは!!!!いやもしかしたら無かったかもしれんなぁ!!!!」
「……弱い。…でも狂四郎の言い分を…そう突っぱねることも無い様な」
「――――ああぁ??」
「…すいません、出過ぎたマネでした」
「移り気が酷すぎですよ。本当に、肝心な所でヘタレですね」
「ぬわんだとぉ!!!肝心なとき位ワタシだって活躍できるわ!!!」
「……今がその肝心な時だと思うですけど。…でも確かに、反町が嘘をついてたって決めつけるのも…今までの証拠からして言いにくいですね」
「…蛍も若干ビビってる」
そんな反町を擁護に走る生徒も居た。確かに、彼女の言い分も分からなく無いと。それ位に、俺達の推理にもいくつも穴が在るのは、自覚していた。いや…どっちかというと彼女の怒りに触れないよう、敢えて擁護に近い事を言っているようにも見えるが。
だけど半信半疑…という状況であることは間違いは無かった。
「このままでは平行線だね。もはや、この場を吹き飛ばすほどの爆弾でも落とさない限り、議論が進む気配が無いと見たよ」
「………そうだな」
「さえずるんじゃないよ!!アタシを嘘吐きやら、犯人呼ばわりするんだったら…決定的な証拠でも持ってくるこったね!!」
――――決定的な証拠。
そうだ。
彼女がそう求めるなら、それしかない。
彼女ならできたかもしれないなんて…そんな細い可能性なんかじゃなく。
――――――その逆
彼女がホテル側にいたという可能性を…示すしかない。
【ノンストップ議論】 【開始】
「おうおうおうおうおうおうおう!!!!」
「名探偵だか、【迷探偵】だか知らないけどねえ…」
「アタシはハッキリとしないヤツが大っ嫌いなんだよ!!」
「それをアンタらときたら…」
「やれ【水門】がどうたら…エリア3がどうたら…」
「そんで犯人扱い…?」
「いい加減にするどころの話しじゃないさね!!」
ひぇぇぇ…
ふ、ふん…!どうってこと無い迫力であるな!!
…足がブレブレ
「はは…とんだ言い草だね」
「コレはもう…歴とした証拠がなきゃ…」
「ただの【迷惑人間】として…」
「ボクは彼女の前で完結してしまうそうだ」
…迷惑人間なのは自覚してるんだ
自覚してるからこそ…
尚更面倒臭いんだけどね
「だった、ら…犯人である…証拠」
「反町、さんが…犯人である、可能性」
「反町さんが…【ホテル側に、居た】…」
「証拠が、必要、だよ、ね?」
…素直が…ホテル側に居た可能性?
そ、そんな証拠なんて…
「……アタシの目の前でコソコソコソコソ…」
「本気でアタシをクロに上げようってなら…」
「本気の証拠をアタシに突きつけてみるんだね!!」
「【何処にも無い証拠】ってヤツをね!!」
【風切の銃弾)⇒【何処にも無い証拠】
「その矛盾、捕らえたぞ…っ!」
【BREAK!!】
――――――――――もしも
コレまでのトリックが本当であるなら…
もしも反町が犯人であるなら…
彼女が、ホテルの側に居たというのなら…
――――――たった1つだけ
今まで不確かだった…あの証拠…
なんてことも無い、そういえばそんなこともあったような…些細な証拠。
それが意味を持ってくるはずだ。
その意味を掴みきれば…彼女が…反町が犯人であることを
――――――証明できるかも知れない
「ある……たった1つだけ。犯人がお前だという証拠が、あるんだ」
「おお、折木さん!!!どうして…どうして…そんな…疑って……!!反町さんはそんな人では…」
「小早川さんは、黙って、て!今は、そんな言葉で、治まるような、簡単な場じゃ、無い、の!」
「――――――っ……でも…でも!!」
明らかに感情論に走る小早川を贄波が声を張り上げ、制する。今までに無い、珍しく荒げた声の贄波の言葉に押された小早川は、涙ぐみ、そして俯く。
「………何を、言うつもりなんだい?ニコラスみたいな下手に藪をつつこうもんなら……ニコラスごとアンタに焼きを入れるよ」
「おいおい!何故ボクまで被害を被っているんだい?するんだったら、張本人であるミスター折木だけじゃないのかい?」
「……それ本気で言ってるですか?」
いや言うまでも無く本気だろう。だけど、むしろそのつもりでココまで来たんだ。彼自身も内心本望の展開だと感じているだろう。
だからこそ、俺は今、彼女に、例の、決定的証拠を…突きつけないといけない。
あの証拠を――――
「どぅあが?その決定的と宣う証拠とは…一体何なのだ?」
「………思い出して欲しい。風切が。犯人を追いかける前に、一度ライフルで犯人を撃ったということを」
『…犯人が放った1発、私が撃った1発、そして犯人が隼人を撃った1発。計3発』
「た、確かに、議論中に出てた話しですね」
「……うん。間違い無い。私は撃って、でも…犯人は止まらなかった」
「もしもその誰かに銃弾が当たっていたら…きっと止まっていた。でも…止まらなかった……何も起きることの無かった結果だけが残ってしまった……と覚えているよ」
だけど今更何故そんなことを、と、毒にも薬にもならないような一つの場面に、何の意味があるのかと。
そんな疑問が飛び交った。
だけどたった1人……
――――――反町だけは、何故か焦っていた。
表情には出ていなかった。
だけど確実に、彼女に纏う空気が変わったのが分かった。
今までの強気な姿勢が…少しずつ衰えようとしている。そして焦燥を走らせていると……揺れる瞳が、それを語っているようだった。。
「風切が放ったあの銃弾…そのあと、かん高い音が鳴っていたよな?」
「……う、うん鳴ってた。間違い無い」
「ああ。その音だったら、僕も耳にしたことがあるかな?とてもかん高い、金属音のような、それも何かが壊れるような音が…僕の耳につんざいたよ」
俺は頷いた。
落合の言う――――”何かが壊れる音”…と言う表現。
それこそが、まさに俺が言いたいことだったから。
「そう…壊れた音。そんな音が鳴っていた……」
「あ、アレは外れたって…アンタらは結論づけてたはずじゃなかったのかい?」
「いいや、あの銃弾はちゃんと”着弾していたんだ”……それも犯人じゃなく…
――――”犯人の持っている物”に、着弾したんだ」
「も、持っている物って…」
俺が強調した”持っているモノ”という言葉。
その言葉に、数人の生徒は、その言葉が差す…”物”に、当たりを付けているように見受けられた。
当然だ。
彼女の事を、長く見てきた人間ほど、よく分かる。
あの…代物。
「そうだ…それは――――」
そんなのたった一つしか無い。
反町が持つ、金属で出来た…たった一つのモノ
閃きアナグラム
ペ ト の ン
町 ダ ン 反
『反町のペンダント』
「これしか…ないっ…!!」
「――――――――――――お前の持つ、十字架のペンダント。銃弾は、それに当たったんだ」
俺は反町の首元を…弧を描き首に巻き付く鎖に指を向けた。
周りの生徒達は、青ざめたように…俺の指の延長線上…その先に居る彼女に視線を集中させた。
「……ああそうだとも。ミス風切が放った銃弾は、犯人の、ペンダントに当たった」
すると、ニコラスが改めるように、俺が言った結論を反復した。
「……では諸君。キミ達に問わせてもらおう。もしも…時速1600 m/sのゴム弾が彼女の持つ小さなペンダントにぶち当たったとき…ソレは、どんな状態になっていると思う?」
言葉を紡ぎながら、ニコラスは、自分の証言台から降りだした。
まるでプレゼンターのような手癖で、俺達に声を掛けていく。
そしてツカツカと、さっきとは真逆に、反町へと近づいていった。
「…凹んでしまっているか、折れてしまっているとか…きっと、タダでは済まない状態のはずさ」
そしてニコラスは、反町と対峙した。そして手を、彼女の首のチェーンにかけた。何をされても可笑しくないような距離だった。
だけど反町は、今までの言動、そして荒ぶるような行動が嘘のように、何もしなかった。
ニコラスの手に対し、反抗の意思は見られなかった。
その沈黙が何を意味しているのか、俺には分からなかった。
「確認させてもらっても…良いかな?…キミのペンダントを」
確認するようで、だけど結局有無を言わせないように、ニコラスは彼女の首元に掛けられたペンダントを引き上げた。
そして――――――
「……完全に、折れているね」
――――――ポッキリと、先が折れてしまった十字架のペンダントがそこにはあった。
「…………」
「どうなんなんだ?…反町」
瞳を一点に集中させたまま、反町は無言を貫いていた。
俺は願うように…彼女の言葉を待った。
「………………」
何故ならコレは、一種の賭けだったから。
もしも壊れてしまったなんて…日々の最中で、ペンダントを折ってしまったなんて誤魔化されたら…この話しはお終いだったから。
もしも隠されてしまったら、彼女が犯人である決定的な証拠では無くなってしまうのだ。
でも意味の無い賭けはしない。
意味があるから、勝算があるから…この賭けに出られるんだ。
何故なら――――あり得ないから
反町が…あのペンダントを適当に扱うなんて……
反町が大切にする…孤児の子供の送り物をぞんざいに扱うなんて…
彼女の大切な思い出をぞんざいに扱っていたなんて…
俺が今まで見てきた彼女なら…。
彼女が、俺の信じる彼女なら…。
――――そんな事は絶対にあり得ないから
あり得ちゃいけないことなんだ。
「…………………」
なら…どうして、あり得ないはずのペンダントが壊れてしまったのか。
「反町」
そんなの簡単だ。
それは犯人である反町も予期しない、事故が起こったからだ。
逃げる際に、不意に…
超高校級の射撃選手である…風切の弾丸が直撃してしまった。
そんな避けようのない事故が起こったからに他ならない。
「………………」
俺は彼女の答えを待った。
「………………………」
彼女を信じ続けた。
「……………………………………」
俺の知っている彼女を…信じ続けた。
「……………………………………………」
[newpage]
「――――――何を…言ってるんですか…?」
そんな時、鈴の転がる様な…震えた声が、どこからか響いた。
少なくとも反町からではなかった。彼女は未だに、口すら開いていないのだから。
だったら…誰なのか。
黙する反町を庇うような声を上げるのは誰なのか。
………そんなの、決まっていた。
「何で、何でそんなこと言うんですか………!」
――――小早川以外にいなかった。
彼女は震えるように、怯えるように…そして葛藤するように。
本気で言っているのか?
今までの彼女から向けられたことの無い、そんな目で、そんな言葉を向けられていた。
「どうして…反町さんのことを………そんな風に言うんですか…!!」
まるで反町の目の前に佇む、彼女はそんな言葉を繰り返していた。
「小早、川……」
それは反町の仲間として、友人としての…叫びだった。
「反町さんが、反町さんが……!!犯人なんて…あるわけないじゃありませんか…!」
「………」
反町を庇うための、叫びだった。
そんなことはあり得ないと。そんなこと間違っていると。
強く、強く、強く、強く、強く、強く………
否定していた。拒絶していた。
真実を、事実を…現実を。
「あれだけ仲間思いだった反町さんが…」
それは今までの反町の人となりを知っているから。
「誰よりも皆さんの為に体を張ってきた反町さんが……」
今までの反町の姿を、誰よりも近くで知っているから。
「古家さんを殺しただなんて……そんなことあるわけないじゃないですか!!!!」
信じたいという。確かな叫びだった。あまりにも悲痛な…慟哭だった。
「………」
「だから…だから……だから…!!」
それは同時に、懇願とも取れた。
本当は…心の中では……反町が今、どういう立場に立たされているのか。
そして、事件はどう終わりを迎えようとしているのか――――分かっているのかも知れない。
そんな悲しい答えはイヤだ。そんな結末は認めない。
だから、振り絞るように、声を溢していた。
俺はその声を黙って、ただ黙って、聞き続けた。
「小早川……」
「……折木、さん」
その心を知ってくれ、理解してくれ。
今までの俺の様に、信じてくれ。
そう…瞳で語っていた。
でもそれは――――
「だったらお前に…1つ、質問をさせてくれ」
「………何ですか」
「その言葉は、反町への、信頼からきている言葉なのか?」
「……?」
「反町を信じているから、違うと言い切っているのか?」
「………」
「聞かせてくれ」
信頼と謳うその声に、真意を問うた。
彼女の答えを待った。
――――――――決して、あってほしくない。その答えを待った。
「……そうです。そうに決まっています!!!!私は信じているんです…!反町さんは…そんな事はしないって!!」
彼女は健気に…そう言い切った。真っ直ぐに、
ソレこそが、あってほしくない答えだった。
息苦しくて、辛くて、目眩がするような葛藤があって、自分自身がボロボロだと分かっていても。
「…………いや、それは違うぞ」
否定した。
「お前のその信頼は…本当の信頼じゃ無い」
そして俺は、口にしたくない、現実を、彼女の目の前に突きつけた。
「どうして…どうしてそんな酷いことを言うんですか!!!」
「……ああ、そうだな。酷いんだろうな、酷すぎる」
「だったら…!どうして……!!!」
「本当の信頼はお前が今考えている物とは大きくかけ離れてるからだ。…仲間だからとか、友達だからとか、親友だからとか…そんな理由で、違う、と手放しに信じることは…”本当の信頼”なんかじゃない…」
嫌われても良い。
「疑って、信じて、疑って、信じて…」
信頼が崩れても良い。
「疑う余地の無いほど信じて…信じる余地の無いほど疑って…それを繰り返して」
それが間違いであったとしても…
「繰り返して、気が遠くなるくらい繰り返して…」
それが自分自身を傷つけることであっても。
「その果て…たどり着いた先にあるものが…本当の信頼なんだ」
お前達の、お前の命を救うことになるなら…安い物だ。
「お前のその感情は。放棄だ…何も考えてない、手放しの甘えだ」
「私だって考えてます!!!甘えなんかじゃないんです…!!今までの反町はこんなことは絶対しないって…!!あり得ないって…!!」
「それが違うと…言ってるんだ!!」
「違いなんてありません!!!!」
「違う!!!!」
「折木さんは分からず屋です!!!」
俺達は短い言葉を飛び交わし、にらみ合う。彼女と対峙した。
「どうして…どうして信じてくれないんですか!!!反町さんは仲間なんですよ!?」
その瞳には、今までの真っ直ぐな意思なんてモノは何処にも無かった。
俺と反町、どちらを信頼すれば良いのか…どちらの真実を受け入れれば良いのか…ずっと迷うような瞳だった。
「……反町さんは…!」
だけど、庇われる側に居る反町自身は…。
「………………」
終止、無言を貫いていた。強いモノを盾に…後ろで震えながら隠れる彼女らしくない…弱々しい姿を晒していた。だからこそ…その姿は同時に、卑怯だとも思った。
大切な友人あるはずの小早川の後ろに隠れる、反町素直という人間を…俺は初めて、軽蔑した。
「どぅあが……小早川よ。そこまでヤツをかばい立てするならば……犯人じゃ無い、明確な根拠はあるのか?…例のペンダントが壊れていた問題をどう説明するのだ?」
そんな激しく飛び交う叫びの中で、雨竜がそう疑問を呈した。
「あれは……あれは!!!先ほど、転んでしまった時に壊れてしまったんです!!あの事故の所為で、壊れてしまったんです!!!今壊れたのなら、風切さんの弾がぶつかったなんて、決定的な証拠にならないんです!!」
…そういえば。
盛大に、前のめりに転んでいた事を俺は思い出した。
確かに…あれの拍子に壊れてしまったというのなら…納得できた。
「……いいや。それはあり得ない」
だけど俺は、また否定した。
確実に…ペンダントは裁判以前から壊れていたハズ…そう言い切った。
『これから先の…生徒達の行動をつぶさに見ておいた方が良いね。…特に、”学級裁判が始まる直前の動き”を注視することをオススメするよ?』
『それも”今までの彼らの動きと”照らし合わせながらね?』
今になって、そんなニコラスのアドバイスを思い起こしていたから。
俺と、そして贄波は、裁判が始まる前…反町を含んだ彼らの一挙一動を観察していた…その事実を思い起こしていたから。
「どうして…!…どうして全部否定してしまうんですか!!!!あのとき……私の味方だっていってくれたじゃ無いですか!!!」
「…………」
『誰がなんと言おうと…俺はお前の味方だ』
その言葉も同時に、思い出していた。
――――痛かった、激痛だった。
今まで味方であると、俺自身が味方だと、言ったはず彼女を目の前に…俺は敵対していたから。
…コレも、ある意味で裏切りなのだろう。
俺は心の中で…ごめんと…呟いた。何度も何度も何度も何度も…つぶやき続けた。
だけど…俺は向き合った。彼女の言葉に、彼女の全てに向き合った。
彼女が間違った道へ行ってしまわないように。
彼女が仲間として…友達として、信じあえるようにするために。
見過ごしてはいけない裏切りを……許さないために。
【反論】
「反町さんは…犯人なんかじゃありません!!」
【反論】
【ファイナルショーダウン】 【開始】
「折木さん…!」
「どうして…どうして…!」
「そこまで反町さんの事を…」
「反町さんは…そんな事を…」
「古家さんを殺すような人ではありません!!」
「折木さんを殺そうとする人でもありません!!」
「信じられる人なんです!!!」
「……………」
「……いや…それは違う」
「どうして…また…」
「折木さん…言ってくれたじゃありませんか!!!」
「私の味方だって…!」
「私の事信じてくれるって…!!」
「言ってくれたじゃ無いですか…!」
「だったら…私が信じる…」
「反町さんを…」
「信じて下さいよ…!!」
「…言ったはずだ。それは信じることじゃない」
「それは手放しの甘えだ」
「それに。反町が犯人であることを…証明する…ペンダントの証拠を覆す材料にはなら無い」
「私も言ったはずです!!」
「反町さんのペンダントは…」
「反町さんの大切なペンダントは…」
「ニコラスさんに飛びかかろうとした時に…」
「綺麗に転んでしまった時に…」
「壊れてしまったんです!!!」
「風切さんの銃弾なんか…」
「当たったなんて嘘っぱちなんです!!」
「コレが…」
「コレが私の信じる真実なんです!!!」
「反町さんのペンダントは、裁判の中で壊れてしまったんです!!!」
り
前の お祈
裁判
【裁判前のお祈り)
「その矛盾、断ち切ってみせる!!」
「――――いいや…あの時、転んだ拍子にペンダントは壊れなかった。確実に、風切の銃弾によって、あのペンダントは破壊されたんだ」
「どうして…言い切れるんですか……!!!」
「……」
「どうして……!」
――少し、迷う
それは今にも涙を流してしまいそうな。いやもう頬を伝っている雫を目の前にしてしまったから。
信じていると、反町を思う気持ちが…明確に伝わってしまったから。
さっきまで決意していた覚悟が、そんな些細な事で揺らいでしまう。
でも――――
「言い切れる……真実があるからだ」
言わなければならない。言い切らなければならない。
俺の知っている反町なら。
俺の信頼している反町なら。
”あの仕草”をしていたはずだったと。
ニコラスにアドバイスされなければ、決して気付かなかった、本当に小さな仕草。
俺が信じた顛末を…ココに。
「……お祈りだ」
「…へ?」
あのときも…
『――――全員の顔が、よく見える』
『――――不安そうに小さく震える者、”祈る者”、真っ直ぐと見据える者』
あのときも…
『…俺と同じように、落ち着き払おうと深呼吸をする者、目をつむり瞑想をする者、”首に掛けた十字架のペンダントを握りしめる者”。種類は様々』
あのときも…
『そんな気持ちが張ってんなら、景気づけにお祈りでもするかい?多少は気分も晴れるかも知れないよ?』
『暗い面持ちが周囲を満たす中、首元の十字架のペンダントを見せびらかし、笑いながら反町は提案する』
「反町は、今まで裁判に始まる前…必ずお祈りを捧げていた――――――ペンダントを握りしめながらな」
喉元が酷く詰まりながら…俺は言葉にしていく。
「だけど……今回の裁判だけ…反町は何もせず。呆然と裁判場を見つめるだけだった」
最初はただの偶然だと思った。反町だって人間だ…たまには、抜けてしまう時もある。
…そんな些細な違和感だった。
でも…ペンダントが壊れていた。
その事実が分かったとき。
「そのルーティーンを、今さら止めてしまうだなんて……敬虔な彼女には…超高校級のシスターである彼女ではあり得ない行動だ」
些細な違和感は…疑惑に変わった。
「でも、ね?もしも…お祈りに使うペンダントが…人には、見せられない状態に、なってたとした、ら…もしもそのペンダントが壊れてしまった、のか、聞かれたくなかったと、したら………」
その疑惑は…答えを出すにつれて、蝕むようにジワジワと、その意味を強めていった。
「だから反町は裁判前の祈りを省いた。…変な疑いを、もたれないために」
だから…俺は反町を…。
「でも…でも…!……そんなの、一時の……偶然…、で…今だけ、やらなかった……だけで…」
小早川は、明らかに、動揺を広げていた。
まるで、痛いところを突かれてしまったように。
図星だというように。
――――――もしかしたら
…彼女自身も…俺達と同じように”違和感”を抱いていたのかもしれない
でも…それは、同じように、小さな違和感くらいで…。大した事無いだろうって思って。
でも…ペンダントの話しが持ち上がった時……その違和感が何かイヤな予感も湧き出てきてしまって。
だから…あんな風に、取り乱したように、反町を庇っていた。
そんな疑惑と、現実と、葛藤と、信頼…揺れ動かされながら。彼女は気付かないふりをしようとしていた。
どうして?
どうして?
どうして?
何度も、何度も、何度も…鳴り止まない言葉がこだましていた。
何度も見ていた、彼女の表情だからこそ、その気持ちが…痛い程よく分かった。
「…違います」
「………」
「…違うんです」
「………」
「違うに、決まってるんです…!」
「……」
小早川は、顔を伏せ、肩をしゃくり上げる。
否定して、否定して、否定して…
現実から目を背けようと…否定し尽そうとしている。
「……梓葉」
「小早川さん…」
彼女の惨状を見て、落合も、風切も…傷ましく表情を歪めていた。普段よりも近く過ごしてきたからこそ、普通よりも彼女の人となりを知る機会があったからこそ湧き出る…悲哀だった。
「――――――――もういい」
また、声が転がった。その声は、小早川でも、贄波でも、ニコラス達でも無かった。
「もういいさね」
…俺が待ち望んでいた。反町の声だった。
そこには、諦めのような、疲弊したような、嬉しさのような…そんな色があった。
「反町…さん」
涙で目元を腫らした小早川は、顔を上げる。
「………まさかそんな小さな所作までつぶさに見られてたなんて思わなかったよ」
ガシガシと頭を掻きながら、ため息混じりに言葉を並べる。
「……そんな大事な所作を怠っちまった姿が決め手になっちまうとは…情けなさ過ぎて、アイツらに合わせる顔が無いって話しだよ」
「………反町」
「まっ……合わせる顔なんて、何処にも無いわけだけどもね」
「………?それって、どういう…」
「だからこそ!大事な事を、偶然やりませんでした…なんて…嘘でも言っちゃいけないってこった………超高校級のシスターとしてね」
聞こうとした声を遮り、憑きものが落ちた様な表情で、ハッキリと…認めた。
ソレは偶然じゃ無いと、意図的に…やらなかったと。
コレがどういう意味を持っているのか。…誰にだって分かった。分かるしか無かった。
「……折木。いつものまとめ、頼んだよ」
変わって、反町は声を暗くしながら俺の名を呟いた。
――――――此方には、一切の目もくれずに
俺は黙って頷いた。
「事件を…まとめよう」
肩にのしかかる、尋常ではない重圧。嗚咽さえ出てきてしまいそうな、吐き気。およそ終わるはずの無い…感じる必要の無い罪悪感。
でも……コレで…区切りをつけなくちゃならない。
一度、終わらせなければならない
――――――この最後の、まとめで
【クライマックス推理】
「これが、事件の全てだ…!」
――ACT.1
「事件の始まりは、古家が殺される1時間以上前。犯人はまず、エリア2の美術館で2つの道具を持ち出した」
「1つは今回の事件に使われた”拳銃”…『ロシアンワルサー』」
「そしてもう1つは『秘密の愛鍵』この2つを借り…」
「さらに、自分が自分であるとバレないよう…入口にかけてあったジャンパーとフードを身に纏った」
「そしてエリア4への…とある場所へと向かった」
「――――それは『水管理室』だった」
「水管理室は、ホテル側とペンタゴン側の間に隔たる、崖の底に流れる川の水量を管理している場所で…犯人は、その施設を使って水量を調整し…崖を水でヒタヒタに満たした」
「満たされた水、そして極寒といえるエリア4の気温……その条件が重なった結果、水面は薄く凍り付き…」
「崖には…即席で作られた氷の橋ができあがった」
「犯人はその橋を渡り…”ペンタゴン側の生徒”でありながら、ホテル側へとその身を移した」
―ACT.2―
「だけど犯人には、不鮮明な箇所があった」
「それは、”俺達の部屋の割り振り”だった。ペンタゴン側だったために、電話口からでしか情報を得られなかった貯め…犯人は、まずホテルの外側を周り…窓から誰がどこに居るのかを確認した」
「そして…その確認している姿を…古家、落合、そして小早川の3人に目撃したんだ」
「でも、怪しまれることは無かった。犯人は、ジャンパーを着ていたから。3人はジャンパーを着ている誰かを…俺と小早川、そして古家の誰かだと誤解していたから」
「そんな誤解の中で…犯人はある程度、俺達の居場所を把握した上で…ホテルの中へと侵入した」
「そして人目を避けるため…”ある場所”に身を隠した……それは"個室”。それも”俺の部屋だった”」
「灯台もと暗しの言葉の通り、小早川達が捜索する中で決して目にも留めない…”鍵のおかげで侵入不可能のはずの場所に”」
「…だけどそれは犯人も同じ条件だったが。でも犯人の手には”鍵”があった。恐らく犯人は最初っから、この手を使って身を隠すつもりだったんだろうな」
「……それに…もしも部屋を探索されたとしても、それもまたは狙い通りでもあったから」
ACT.3――
「何故なら…犯人は最初っから、俺の命を狙っていたから」
「もし部屋を開けたとしても、開けてくるのは俺以外に居ないから。開いた瞬間、すぐに殺せる、言わば不意打ちを考えていた」
「だけど俺は来ることは無かった。何故なら俺達はその犯人を捜していたから。ある意味で、自分の存在が殺人計画に支障を与えていた」
「そんな中で、一つ転機が訪れた。それは部屋の前で犯人の捜索について話し合う俺達の声だった」
「恐らくそこで、俺が庭園に向かうという情報を掴んだ」
「だから…誰にも見つからないように庭園へと向かった」
「そして、計画通り庭園で俺と1対1で対峙した犯人は、もう1つの道具…”拳銃”を取り出し――――発砲した」
「だけど放たれた弾丸は俺に当たることは無かった。…その銃弾は無情にも俺を守ろうとした古家に着弾した」
「……それでも犯人は焦らなかった。怯まずに、俺を再度狙おうとしたんだ」
―ACT.4―
「だけど1つ、問題が起こった」
「発砲音を聞いて姿を現した風切の乱入があったからだ」
「そして風切が常備しているライフルを向けられた事に驚き…犯人はすぐに逃げ出した」
「風切はすぐに背を向けた犯人にライフルのゴム弾を発砲した」
「直後、かん高い音が鳴り響いた。――キンって…金属音のような物がな」
「それでも逃げ出す犯人を見て、俺達は弾は外れたと思っていた」
「だけど…それは間違いだった。ゴム弾は確かに着弾していた。犯人がいつも首から下げている…大切な”十字架のペンダント”に」
「その結果…ペンダントは破損してしまった」
「犯人は…ペンダントを犠牲にして…逃げることに成功した」
「だけどその犠牲こそが…自分自身を犯人と決定づける…最大の矛盾となってしまった」
ACT.5――
「逃げ切る途中にあった氷の橋は…水管理室で予め設定しておいたタイマーによって…1時間後には崖の底にある”弁”が開いて、表面だけ凍った崖の水を元の位置に戻るようにしておいた」
「だから犯人は、ただ真っ直ぐに、水管理室では無くペンタゴンの内部へと戻るだけで…崖を渡った証拠を隠滅できた。美術館に戻り道具を元の場所へと返す余裕も生まれた」
「だけど、その水の調整にもリスクはあった。それは犯人が理解しきれていなかった部分でもあった」
「このジオ・ペンタゴンの水はその殆どが循環していて、エリア4に水を集中させると…その”両脇のエリアの水”にも影響を及ぼすということが分かっていなかった」
「だけど犯人は、予め保険として用意しておいた言い訳に、矛盾が生まれてしまった」
「自分は誰も寄りつかないであろう『エリア3』に居た…そしてそのエリアの噴水の様子がおかしかった…信憑性を高くするために、細かな部分も含めてそう証言してしまった」
「だけどされは間違いだった」
「供給される側のエリア3は弁を閉める必要が無かったから…つまり噴水の様子がおかしくなることなんてあり得なかったのだから」
「それが…自分自身が犯人である決定的な証言になってしまったんだ」
「反町 素直…これが、お前が引き起こした事件の真実だ…!」
事件の全てをまとめ終えた、しばしの余韻。
「……………」
「…反町…さん」
流れるのは静謐と、ぽろぽろと涙をこぼし、嗚咽を上げる小早川の声だけ。
生徒達は、暗く表情を歪め、彼女達を見ている。
それ以外に、何も出来ることが無かったから。何かをするべきだと、考える場合では無かったから。
これが、信じ切った先にあった真実だった、ただそれだけ。
余りにも、救いなんてなかった。
神も仏も、どこにも居ない。ソレを思い知らされた様に…ただ黙り続けていた。
「……慣れない殺しなんて。死んでもやるもんじゃないね。…肩書きだけじゃなくて、コイツにも、泥をぬっちまった」
反町は、誰にも目を向けず、一人、ペンダントを指で転がし出す。
感謝と、悲哀、そして諦観、どれもがこもったような笑み、それに向けていた。
「ある意味でアタシを守ってくれて、ある意味で…神様にも見放されちまった…ってこったね」
小さく、消えてしまいそうな声で…そう呟いた。
そんな彼女の姿を見て…俺達が思うのは、”何故”という感情だけ。
何故彼女が殺しを行うことになってしまったのか。
何故古家を殺しながら、自分の罪を隠そうとしたのか。
何故…俺を殺そうとしたのか。
今までのトリックとか、穴とか、そんなものじゃない…何もかもが…知りたくて、仕方無かった。
「――――くぷぷぷぷ、良いですね、実に心地よい…音でス」
だけどこれが終わりじゃ無かった。
「疑惑と、欺瞞と、信頼がガラガラと崩れるような…とても気持ちの良いいい音が聞こえてくるようでス」
「…………」
モノパンは人を徹底的に侮蔑するような、酷い笑みを浮かべ…何か、大事な事を忘れていないか?そんな風に、言葉を並べ始めた。
「頃合いでス。この事件の全てに、決着をつけるお時間でス」
この事件の本当に終わり…終着点。
投票タイム。
また…"仲間を殺す時間”が始まるんだ。
「投票の結果、クロとなるのは誰カ!?」
俯くままに…
呆然とするままに…
鉛のように重い、震え続ける手をスイッチの上に置いていく。
生徒達の表情には…既に答えがあった。誰もが、理解したくない答えを持っていた。
もう議論の余地は、何一つ残されていない。
残されないくらいに、ハッキリとしているから。
「その答えは正解なのか不正解なのカっ!?」
俺は震え続ける手で、空しさばかりがのしかかるこの手で――――――スイッチ押し込んだ。
カチッという音が…また裁判場にこだました。
【〉VOTE〈】
/ソリマチ/ソリマチ/ソリマチ/
【学級裁判】
【閉廷】
『生き残りメンバー:残り9人』
【超高校級の特待生】⇒【超高校級の不幸?】折木 公平(おれき こうへい)
【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)
【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)
【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)
【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)
【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)
【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)
【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)
【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)
『死亡者:計7人』
【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)
【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)
【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)
【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)
【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)
【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)
【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)
終わりっす。
コラム(意外にやってなかった人間関係編)
(人の名前)
仲が良い⇒男子: 女子:(好意とかも含めて)
苦手⇒男子: 女子:(嫌いという意味では無い)
〇男子
・折木 公平
仲が良い⇒男子:ニコラス 女子:贄波
苦手⇒男子:沼野 女子:朝衣
・陽炎坂 天翔
仲が良い⇒男子:折木 女子:贄波
苦手⇒男子:落合 女子:長門
・鮫島 丈ノ介
仲が良い⇒男子:古家 女子:水無月
苦手⇒男子:雨竜 女子:反町
・沼野 浮草
仲が良い⇒男子:ニコラス 女子:雲居
苦手⇒男子:鮫島 女子:反町
・古家 新坐ヱ門
仲が良い⇒男子:鮫島 女子:雲居
苦手⇒男子:雨竜 女子:水無月
・雨竜 狂四郎
仲が良い⇒男子:折木 女子:反町
苦手⇒男子:ニコラス 女子:風切
・落合 隼人
仲が良い⇒男子:古家 女子:風切
苦手⇒男子:鮫島 女子:贄波
・ニコラス・バーンシュタイン
仲が良い⇒男子:折木 女子:贄波
苦手⇒男子:落合 女子:水無月
〇女子
・水無月 カルタ
仲が良い⇒男子:折木 女子:朝衣
苦手⇒男子:落合 女子:贄波
・小早川 梓葉
仲が良い⇒男子:折木 女子:反町
苦手⇒男子:雨竜 女子:朝衣
・雲居 蛍
仲が良い⇒男子:古家 女子:贄波
苦手⇒男子:沼野 女子:長門
・反町 素直
仲が良い⇒男子:雨竜 女子:小早川
苦手⇒男子:ニコラス 女子:朝衣
・風切 柊子
仲が良い⇒男子:落合 女子:小早川
苦手⇒男子:陽炎坂 女子:反町
・長門 凛音
仲が良い⇒男子:折木 女子:反町
苦手⇒男子:折木 女子:小早川
・朝衣 式
仲が良い⇒男子:ニコラス 女子:水無月
苦手⇒男子:落合 女子:長門
・贄波 司
仲が良い⇒男子:折木 女子:雲居
苦手⇒男子:落合 女子:水無月