ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~   作:水鳥ばんちょ

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Chapter5 -(非)日常編- 21日目

【エリア1:炊事場エリア】

 

 朝早くに目を覚まし、習慣と支度を終えた私は今日もまた炊事場での家事に没頭していました。昨日と同じような、代わり映えのしない、油断をすればあくびでも出てしまうような作業でしたが…今日だけは違っていました。

 

 

「~~♪」

 

 

 思わず鼻歌を口ずさんでしまうほど、浮き足立っている。そんな自分が、手に取るように分かりました。

 

 理由は間違い無く、昨日の夕方に折木さんとお話出来たからです。裁判が終わってからず~っとお話をしたいと思っていて、やっとそれが叶ったものですから…私は目に見えて舞い上がっていました。

 

 

「ふぅ!これで今日の分は終わりですね!」

 

 

 そんな高揚感が燃料となり、あっという間に支度を終えてしまいました。何かと言い訳を並べてモジモジとするのは、やはり自分にはあっていなかったんですね。少々浮かれすぎではないかと雲居さんからご指摘を頂きそうですが、それだけ気持ちに余裕があると"ぽじてぃぶ"にとらえることにしましょう!

 

 

「………」

 

 

 ですが…

 

 

「終わったのは良いのですが……うーん」

 

 

 私はとある"物"に目を向けました。

 

 

「この”果物の山”は一体何なのでしょう?」

 

 

 それは朝、炊事場に来てからずっとあったもの。気にせず作業を続けていたのですが、やはり昨日と明らかに違う部分なので目につきます。

 いつ、誰が、この果物を置いていったのか。自分にはまったく身に覚えがないので恐らく贄波さん達の中の誰かが置いていったものだと思うのです…。

 

 

「もしもモノパンが置いていったものだとしたら…」

 

 

 一体何よからぬ物入ってるかも知れず、気味が悪いです。が…皆様の誰かの好意で置かれているものだとしたら、そこは食卓に並べるのが筋とも思いますし…。

 

 

「うーん……」

 

 

 私はこのなんてことも無い、しかして難題を目の前に首を傾げます。

 

 

「触らぬ神に畳みあり…?のようなことわざもあったと思いますし…」

 

 

 やはりここは皆様が来るまでの間は保留、ということにしておきましょうか?実際の所、それが最善に思います。

 

 

「あとで考えましょう!!」

 

 

 …と小さな結論を導いていた瞬間でした。

 

 

 

『キーン、コーン、カーン、コーン……』

 

『ミナサマ!おはようございまス!!朝7時となりましタ。起床時間をお知らせさせていただきまス!それでは今日も、元気で健やかな1日送りましょウ!』

 

 

 チャイムが鳴り響きます。もうそんな時間か、とそれぐらいの気持ちで半ば聞き流していました。

 

 …しかし今日の”あなうんす”は一味違っていたのです。

 

 

『――――加えてミナサマにお伝えすることがございますのデ、至急炊事場へお集まりくださいまセ』

 

 

「…?」

 

 

 私は思わずピタッと止まってしまいます。そしてすぐに音源があると思われる空を見上げてしまいました。それもそのはずです、こんなことは今までに一度だけあったくらいの珍しいことなんですから。

 

 

「……」

 

 

 ”あなうんす”を聞き終えた私の胸中は嫌な予感でいっぱいでした。…何故ならその前回というのは、動機発表があったときだったから。

 また私達をコロシアイへと誘おうと、モノパンが何か良くないことを企んでいるのではないか。そんな予感を皆さんが炊事場に集まるまでずっと漂わせていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

「これで全員揃ったか…?」

 

 放送から暫くして、集まった方々の顔を見回しながら雨竜さんがそう口にしました。確かに、滅多にないモノパンからの招集なものですから。昨日姿を見せなかった方々もいらっしゃっていました。

 

 ですが……

 

 

「いや、折木のヤツはまだ来てないみたいですよ」

 

「……本当だ。いない」

 

 

 はい、その面々の中には、折木さんの姿だけはありませんでした。一瞬、折木さんの身に何かあったのかと心配が先行してしまいます。

 

 

「折木の行方を知ってる奴はいないのか?」

 

「ん?彼の行方を知っている素晴らしい友人はいないのかって?ははは!では彼の親友であるこのニコラスバーンシュタインが答えて――――――」

 

「えと、私、部屋の扉を、叩いてみたんだけ、ど…反応はなかった、よ?耳も当ててみた、ら、寝息が聞こえた、から、まだ寝てる、の、かも?」

 

「生活リズムが年老いてるあいつにしては珍しいですね」

 

 

 その話しを聞いてほんの少し安心します。ですが確かに、以前でしたらアナウンスが鳴る前にはここにいらしていた方なので起きているはずなのですが、少々気になるお話でした。もしかしたら…今の生活が折木さんにとっての生活リズムを狂わせているのかもしれない。なんて思ったりもします。

 

 

「日常とは非日常の裏返しであり、非日常とは日常の裏返しである。その表裏はいつ何時切り替わるかは誰にとってもわからない」

 

「…うん何か変だね」

 

「何で翻訳できるようになってるんですか。…ええと、つまり何て言ってるんですか?」

 

「公平にしては珍しいねって」

 

「ただオウム返ししただけですか…もう芸術品見て良さを語る評論家みたいによく分からないです」

 

「その例えは分かりたくても分かれません…」

 

「ふぅ…とはいえ本題はだ、キミ達。モノパンは一体何を考えているのだろうね。早朝に急に呼び出しをかけるなんて、どうにも穏やかじゃない」

 

「ふんっ。どうせまた碌でもない動機とやら発表なのだろう。わかりきっていることだ、聞くまでも無い」

 

「右に同じです。何を言われても左に受け流す準備はできてるです」

 

「う〜ん。そうなの、かな。何か、いつもより、怒ってるように、も聞こえた、けど」

 

 

 言われてみれば、あの”あなうんす”のモノパンはいつもの上機嫌な雰囲気はなかったように思えました。もし何か企んでいるのなら、もっと含みを持たせたような、嘲笑うかのような"とーん"で集合をかけそうなものとも思います。

 

 

「……ミナサマよくお集まりいただけましタ」

 

 

 ポツポツと何が飛び出てくるのかを話している途中、ニュルリと、モノパンは現れました。そして実際に対面して、贄波さんの言う通り、いつもとは様子が違う。厳粛な雰囲気をを漂わせているように見えました。

 

 

「今度は何の様だ、モノパン。態々アナウンスを使って呼び出しおって。くだらん用事なら帰らせてもらうぞ」

 

 

 喧嘩腰に雨竜さんがモノパンに声をかけます。モノパンはその言葉に反応して、雨竜さんをギロリとにらみつけました。

 

 

「何の様ダ?下らん用事?…よくもまぁそうヌケヌケとした言葉を吐けますネ」

 

「ぬ……?」

 

 

 普段であれば人の心を土足で踏みにじるような笑みを浮かべる中で、今回は見るからに青筋を浮かべ凄むモノパン。その様子の違いに気づいた雨竜さんは後ずさり、私達も思わず固唾を呑んでしまいます。

 

 

「昨夜、ワタクシが誇る美術館に”盗人”が現れましタ」

 

「……盗人?つまり、泥棒?」

 

「ええそうでス。言い方を変えればコソ泥。そんな不届き者が現れたのでス」

 

「…はは!それは実に興味深く、そして滑稽な話題だね、キミ!怪盗みたいな身なりのマスコットが泥棒をされるなんて、実に皮肉な話じゃないか」

 

 

 モノパンの代わりというように煽るニコラスさん。私はこれ以上神経を逆なでしないでほしいと内心祈ります。

 

 

「どこ、で、何を盗まれた、の?」

 

「深夜に”美術館”へ何者かが忍び込み、モノパンの7つ道具である『ヒミツの愛鍵』、そして『バグ弾』が盗んだいってしまったのでス」

 

「カメラを見返せば良かろう。そういう違反やらを裁くためにあれだけの設備を用意しているはずだろ」

 

「ワタクシもそう思って録画を見返したのですガ…顔も体型も見分けられないような装いだったので判別がつきませんでしタ」

 

「映像鑑定とかできないんですか?」

 

「それがそもそもできないからこのように招集をかけたのでス。そんなことも理解出来ないなんて、頭大丈夫でございますカ?」

 

「…もしあたしがここの責任者ならさっさとあんたを串刺しダルマにしてるですよ」

 

「お、お、落ち着きましょう雲居さん!」

 

 

 大した事をいってるわけでも無いのに、ここまで言ってくるなんて。相当機嫌は斜めのようです、そして雲居さんも底をついた機嫌がさらに底抜けしております。

 

 

「人知れない闇の中、知る努力を怠らぬことは不可能だったのか、それは誰にも分からない」ジャラン

 

「ええと…なんでその場で確保しなかったのかって」

 

「……どうやら何者かが、ワタクシのタイムスケジュールの隙をついて、盗みに入ったようでございまス」

 

「隙って…のんきにグースカしてたんですか?」

 

「否定はしませン。ワタクシも一応生物なわけですので、睡眠を取らないとパフォーマンスが落ちてしまうのでス。なのでちまちまと仮眠を取り、このようにミナサマのコロシアイを全力サポートしているのでス」

 

「人生において最も必要無いサポートだな」

 

 

 …そういえば、エリア5を探索していたとき最近忙しくて眠れないとかなんとか、仰っていたように思います。やはりモノパンにも生活リズムというのがあるみたいですね。勝手に24時間営業の便利屋さんのつもりで接していました。

 

 

「そして、その休憩時間をいつのまにか把握され、スラリと盗みを犯されてしまいましタ」

 

「…じゃあこの招集で、その盗人とやらが誰なのか名乗り出ろっていう定番のアレをしにきたわけですか」

 

「その通りでス!さあさあさあさあさあ!今ならまだ私の愛用ステッキ100回舐めさせてあげる刑で許して差し上げますヨ!!」

 

「…叩くんじゃないんだ」

 

「おいおいおいそんな強引なことをしてもむしろ逆効果じゃないかい?もう少し交渉術とやらを身につけることをオススメするよ」

 

「話しが早くて結構でス。ニコラスクン。アナタが犯人ですカ?」

 

「会話すら成り立たせず疑ってくるなんて、相当業腹のようだね!キミぃ!」

 

 

 ですがニコラスさんの言う通り、この怒りようからして、名乗り出ればきっとタダでは済まない。だからこそ、この招集と脅しは逆効果と思います。怒り心頭といった具合なので、きっと盗まれたのにすぐ気がついてすぐに私達を呼び出したのでしょう。とても迷惑な話です。何をするにしても、私としては本当に、全く身に覚えがないので犯人の自首を待つ以外選択肢はないのですが。

 

 

「まぁニコラスクンの指摘もよく分かります。では…後で名乗り出るというのなら、今回ばかりは舐めるにプラスで***で許して差し上げましょウ」

 

「何か刑が重くなってるですし、しかも言葉では表現してはいけない内容ですし!」

 

「ですが…もしこれ以降名乗りでることがなければ、それ相応の措置を致しますので、お覚悟ヲ」

 

「か、覚悟…」

 

 

 ゴクリと生唾を飲んでしまいます。こういうときのモノパンはとことんやる。それを今まで痛い程理解しています。それこそ連帯責任とかなんとかで難癖をつけてくるかもしれません。

 もはや自分ではない盗人の方に、早く名乗り出ていただくのを祈ることしか出来ませんでした。

 

 

「くぷぷぷぷぷ…それでは――――――ん?んんん???んんんんんんん????おやおやおヤ?これはこれは?これはこれはこれハ?」

 

「あっ……それは」

 

 

 帰り際、モノパンは私が今朝から気になって仕方無かった…”謎の果物の山”に注意を向け、ノタノタと果物のそばに寄っていきました。先ほどまでの苛つきをどこえやらと、一転して喜びの声を上げ始めました。

 

 

「これは!!実に見事な果物のでごさいますネ!!しかもこんなニ!!」

 

「果物、好き、なの?」

 

「くぷぷぷ、いやいや隠すほどの事でも無いのですが…ええその通り、何を隠そうワタクシ大の果物通でして。果物という概念がなければ、一日で世界中に忘れられないほど刻み込めるくらいにはマジで好きでございまス」

 

「……何か舞い上がってる」

 

「パンダなんだから笹でも齧ってろと思うです……んで?どうなんですか小早川。コレをどうするかの権利は用意したあんたにあるですよ」

 

 

 是非とも分けてくれと語るように、瞳をウルウルとさせるモノパン。…といっても、そんな目を向けられても困ることしかできないのですが。

 

 

「……ええと、そう言われても私自身それを用意した覚えはないんですけど」

 

「何?どういうことだ?」

 

 

 他の皆様も、私が準備していたものだと思っていたのか、キョトンとします。そしてすぐに、この果物への視線は疑惑のものへと変わっていきました。

 

 

「朝から置いてあったんです。少々不気味でしたが、皆様の誰かが用意したものかもしれなかったと思い、そのまま置いておいたんです」

 

「何と!!ではこの果物に誰一人所有権もへったくれも無いということですネ!」

 

 

 それは”らっきー”と言わんばかりの声を上げたモノパンは、果物の入ったバケットを、これは私のものだというように持ち上げます。

 

 

「いやいやいや、誰の物でも無いならちょっとくらい私たちにも…いや正直いらないですけど……独り占めは行儀が良くないと思うですよ」

 

「ふん!果物を分け合うだなんて、ワタクシが果物を分け与えるときは地球が2つに割れてもう一度くっつくくらいありえないことなのすヨ!キミ達は黙ってそこにある目玉焼きでもつついていなさイ」

 

「どれくらいありえないのか壮大すぎて分かりかねるね!キミ!」

 

 

 どういう意図で言っているのか分かりかねますが、私の料理が馬鹿にするためのダシに使われたようで少々不服に思いました。

 

 

「くぷぷぷぷぷ、これはワタクシが大切に処理するという事で、サヨ~ナラ~」

 

「お、おい!待て!結局盗人の件は……」

 

 

 さきほどの憤慨なんて忘れ去ったように機嫌を良くしながら、モノパンはさっさと帰って行きました。あまりの展開でよく分かりませんでしたが、あらぬ疑いでステッキを舐めさせられるような事態は避けられたようなのは確かでした。緊張が切れた私は一息つきます。

 

 

「行っちゃ、った、ね?」

 

「全く、結局曖昧なまま締めくくりおって」

 

「ですけど盗人…ですか。確かに気になる話しではあるですね」

 

「……実際の所どうなの?誰がやったの?」

 

「わわわわ、私は何にも知りませんよ!?昨夜はちゃんとお部屋で過ごしておりましたので!本当に!全然!」

 

「…そういうと余計怪しく見える」

 

「知るはやすし、話すは難し。だけど知らないことを話すなんて、この世に出来る存在はどれだけいるのだろう」

 

「知らないですよ。結局、私たちにそういう不和を植え付けようと、モノパンが勝手にやったとか、そういう落ちじゃないですか?いわゆる自作自演です」

 

「…でも、嘘っぽい、感じではなかった、ように思う、けど」

 

 

 私も同じくそう思いました。期限を良くしていただいたからその場は凌げましたが、あの目は真剣と書いてマジのように思えました。

 

 

「うーん、だとしたら、だとしたらです。その盗人には正直ナイスと思うですね」

 

「へっ?」

 

「ああ、そのとおりだな。久々に見るヤツの焦りよう。今まで百杯と食わされてきた分、ヤツの一杯食わされてる姿を見るのは痛快であったな」

 

 

 てっきり盗人が何とかと落ち着かない状態になってしまうのかと心配していたのです。が、モノパンが慌てふためく姿を見られたからなのか、皆さまの周りには悪くない雰囲気に包まれておりました。

 

 

「……実はその盗人が公平だったりして」

 

「アイツの性格からしてあり得なさそうですですけど…全くもってあり得なくはないですね」

 

「皆さん!いくらここに折木さんがいないからと好き勝手言わないでください!」

 

「落ち着け小早川。あくまで可能性の話しをしているだけだ。誰も本当にヤツがやったとは思っていない」

 

「ううーー…」

 

 

 確かに絶対にありえないなんて言えないのは分かりますが、またしても折木さんにあらぬ疑いがかかって、しかもからかうように話題にされることに不満なだけです。

 

 それに――――――

 

 

「ですが皆さん!モノパンの七つ道具が盗まれたんですよ?あれだけ殺人の道具に利用されていた道具のアレコレが!!そんな呑気に構えてて良いんですか!?」

 

「毒薬が盗まれたとかなら気にするですけど、特にはですね」

 

「へ?」

 

「鍵はともかく、爆弾はコンピューターを故障させるだけの害のない代物だからなぁ…」

 

「へっ?へっ?何で気にしないんですか?」

 

「まあつまりはアレだよ、キミ!現時点でアレコレ焦って考えたところで何の進展もない。だったらさっさと食事を済ませるのが最善、というわけさ!」

 

「ううう…だからそんな悠長な」

 

「…梓葉は考えすぎ。今はご飯」

 

「うううううう…」

 

「食は百薬の長であり、どんな万能な薬にも勝る物はないのさ」

 

「ううううううううううううううう……」

 

 

 納得はしませんでした。それでも皆さんの言葉に無理矢理、納得するとしかできませんでした。

 

 …ですが、その言葉の数々に何となく、皆さんがその話題を避けようとしてるように感じたのは気の所為ではないように思えました。久しぶりの賑やかな食事だったというのに、私の頭の中では、納得できない心配と不安、そして何か起きるのではないかという"予感"が渦巻き続けていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その予感は、最悪の形で当たってしまうことに、今の私には知る由もなかったんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

【エリア1:ログハウスエリア『小早川梓葉の部屋』】

 

 

 朝ご飯を食べてから数十分。体の”異変”に気付いた私は部屋に戻ってきました。今朝は何ともなかったはずなのに、それは突然やってきたんです。

 

 

「眠い…」

 

 

 眠たい。

 

 とにかく眠たい。

 

 人生で1番というほど眠たい。

 

 理由は分かりません。ですが食事を済ませたあと、異様な睡魔が、私を襲いかかってきたんです。とても強烈に。今にも倒れてしまいそうなほどでした。

 

 今までこんなことなんてなかったはずなのに。早寝早起きを心がけてきて、心身共に健康な生活を心がけてきたはずなのに。確かに今までお昼を食べた時にも眠たくなるときはあります。ですがこの眠気は、その比ではありませんでした。

 

 

「うう…まだやりたいことがあるのに」

 

 

 途切れゆく意識の中で、時計を見てみると、朝の9時にもなっていませんでした。

 

 本当でしたら昨日と同じ流れで色々と仕込みをして、あわよくば折木さんとまたお話でもしようと考えていたんです…。1秒と、無駄な時間は過ごせないというのに。

 

 

「あ…もう無理です」

 

 

 今日の予定を思い浮かべるそんな私は、虚しくもベッドに倒れ込んでしまいます。かすかに残る意識は確実に削れていき、頭がカクンと布団の中で弾みます。

 

 

「折木、さん…」

 

 

 沈みゆく中で、意中の人の名前をつぶやきながら、私は抵抗することもできず、意識の奥底へと落ちていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カチ、カチ、カチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カチ、カチ、カチ、カチ、カチ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カチ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――ドゴォン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひゃぁぁ!!!!」

 

 

 突然殴られたかのように響き渡る、激しい爆発音。

 

 自分でも驚いてしまうくらいの大きな声を上げながら私は飛び起きました。文字通り、跳ねるように。そのままバチン、と勢い余って床と接吻を交わす羽目になってしまいました。

 

 

「いててて…なななな、なんですか!何事ですか!!」

 

 

 途轍もない轟音が部屋中に…いや恐らく施設中に響いたのです。私は未だ動きの鈍い瞼を無理矢理起こし、痛みの走る鼻をさすりながら、私は周囲を見渡します。

 

 時計を見てみると、”10時とちょっと”を過ぎていました。先ほどの記憶を辿ると約1時間くらいの睡眠をしていたようでした。

 

 

「ええとええと、これって…ええ?」

 

 

 ――――――ドンドンドン!!

 

 

「ひゃっ!!もう!!今度は何ですか!?」

 

 

 中途半端な睡眠のせいだったのか途轍もない倦怠感に襲われている私は、叩き壊すほどの強さで叩かれる扉からの音にまた跳ね上がります。落ち着く間もなかったので思わず口を荒げてしまいました。

 

 

「小早川!!小早川!いるですか!いるんなら返事をするです!そして早く出てくるです!」ドンドン

 

「雲居…さん?はい!はい!!今、今でます!」

 

 

 声の主が誰なのかを理解した私は、血相を変えて、外へと飛び出していきました。扉を開けた先には、肩で息をする雲居さんがいらっしゃいました。乱れた髪が、どれだけ急いでここに来たのかを物語っているようでした。

 

 

「小早川!はぁ、良かった。無事だったんですね」

 

「ぶ、無事?どういうことですか?状況がうまく飲み込めません!」

 

「それは私も同じです。でも、さっきの音…」

 

「は、はい!!ただ事では無い音と思います!!」

 

「話しが早くて助かるです…」

 

「おい!何だ今の音は!」

 

「……酷い目覚まし」

 

「妨げるのはほんの1刻。あのときの現実は夢か、それとも正夢か」

 

「寝ぼけているせいなのか今日は輪を掛けて理解不能の言葉だね!キミ!」

 

「お互い、さま?」

 

 

 音に釣られて部屋から続々と皆さんが出てきました。結果的に、生徒全員がエリアの中央に集結しました。ですがその最中でも、折木さんの姿は見当たりませんでした。

 

 

「あ…!みんな、見て…!」

 

 

 何かに気づいた贄波さんは、とある方向へと指を差しました。その指先の延長線上に目を向けると、その光景に目を見開いて驚きを露わにしました。

 

 

「ぬわんだぁ!あの煙は…!」

 

 

 大火事でもあったのかというほどの煙が、上空にモクモクと立ち昇っていたのです。どう考えても、先ほどの爆発音があった場所としか思えませんでした。

 

 

「方角からして、炊事場ですね」

 

「…見るからに穏やかな様子では無いみたいだ。これは、長い一日になりそうだね、キミ」

 

 

 私達は音源があると思われる炊事場へと駆け抜けて行きました。そんな中でも、私はこの状況に折木さんがいないということに、不安を抱かずにはいられませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

【エリア1:炊事場エリア】

 

 

 ニコラスさんの言う通り、この炊事場エリアは穏やかな様子ではありませんでした。穏やかどころの話しではありません。今目の前で事件が起こっていたんです。

 

 燃えていました。

 

 3つある倉庫の内、1番左の倉庫が燃え上がっていたんです。テレビやドラマでした見たことがないほどの炎上が起こっていたんです。煙はこちらまで来ていないはずなのに、思わずむせてしまいそうになります。

 

 

「これは、酷い…!」

 

「図書館が燃えたほどじゃないですけど。十分ヤバい状況ですね」

 

 

 なんの拍子でかは分かりません、ですがあの轟音を皮切りに倉庫は燃えていることだけは分かりました。そして、この火事を目撃して何をするべきなのか。私は瞬間的に行動で示しました。

 

 

「け、消さなくちゃ…!」

 

「小早川…?」

 

 

 私は急いで台所のそばにあるバケツを掴み、水を溜めはじめました。しかしその手を雨竜さんに止められてしまいます。

 

 

「止めておけ!これほどの規模の炎に近づくのは危険すぎる!!」

 

「で、でも…!」

 

「ミス小早川。ドクターの言う通り、この状況で避けなくてはならないのは2次被害だ……理解してくれるね?」

 

「うううう……」

 

 

 落ち着けと言わんばかりのお2人の言葉に、私は顔を伏せることしかできませんでした。

 

 

「そうです!!モノパン…モノパンはどうしたんですか!図書館が燃えたときは、アイツが火を消してたはずです!」

 

「そ、そうなんですか!?であればモノパン!はやく出てきて、何とかしてください!!」

 

 

 私が声を張り上げても、何も起こりません。ただただ倉庫が燃え上がる音だけが鳴り続けるだけ。毎度毎度呼びかけに応じることはありませんでしたが、このような施設の異常にはいち早く駆け付けるはずなのに。と不自然さを感じます。皆さまも同様に思ったのかそれぞれ疑問の声を上げ始めます。

 

 

「どういう、こと…?」

 

「うむむむむむ…この施設の惨事だというのに、何をしているというのだ!」

 

「…こうまでしヤツが来ないというのなら、やむを得ない。少しでも鎮火しよう。諸君、ボクとドクター雨竜が水をかける。キミ達は水をくみ、それをボク達にリレーのように回してくれたまえ」

 

「ワ、ワタシもやるのか…」

 

「ゴチャゴチャ言わずにさっさと動くです!」

 

 

 私達は数十分、ただひたすらにバケツを渡し合い、倉庫に水をかけ続けました。

 

 頼む、消えてくれという私達の願いが通じたのか、幸運なことに、火の勢力はみるみると収まっていきました。最後には燃える場所を失ったように、炎は消えていきました。

 残ったのは倉庫の残骸だけ。施設内の物という物は炭となってしまいました。

 

 

 すると――――

 

 

「な、何事…でございますカ!!!先ほどの爆発音……はっ!?」

 

 

 その無残な姿の倉庫を見てなのか、驚きのあまり、冷や汗をかくモノパンが現れたのです。私達は反射的に怒りの矛先を、今更現れた管理人に向けました。

 

 

「ようやくきたか…遅いぞ!貴様の施設が燃えていたのだ!今まで何をやっていたというのだ!!」

 

「――――――はっ!……えっ?えっ?」

 

「なに惚けてるですか!カメラか何かで見てたんじゃないんですか?!わざとやってるなら悪質にも程があるですよ!」

 

 

 そんな怒鳴り声にもモノパンは発汗を増やすだけで、回答ができていません。いまさらですが機械が汗を流すのは可笑しいですが、それ以上にその様子のおかしさに私たちはとある可能性を感じました。

 

 

「キミ…何も知らない様子に見えるのだけれど」

 

「まさか…今の今まで寝てましたとか言わない、ですよね?」

 

「はえっ?!……あっ、いや…」

 

「おい!どういうことだ!!」

 

 

 これ以上ないほど歯切れが悪く、これ以上ないほど慌てふためくモノパンの姿に私達は愕然としてしまいます。

 

 

「う、嘘ですよね、図星とか無いですよね?」

 

「………」

 

「沈黙は是なり。この世にYesという言葉がなければ、この無の言葉こそが真実を表わしていたんじゃないかな」

 

「……有罪」

 

「キ・サ・マというやつは――!」

 

「――――…待って!」

 

 

 すると風切さんが、何かに気付いたように後ろを振り向き、声を張り上げました。思いもしなかった私達は、時間が止まったように動きを停止させ、彼女に注目しました。

 

 

「風切さん?」

 

「何か…遠くで音が聞こえた気がする。かすかだけど」

 

「へっ?本当ですカ?」

 

「貴様ボケているのか!!それよりも風切!!どこからだ!どこから音は聞こえたのだ!」

 

「…ついてきて」

 

 

 先ほどの怒りは焦りへと変わり果て、私達は言われた通り、風切さんの後を追いかけました。

 

 

「これは…これは、どういうことでございますカ?ワタクシは…今まで…どういう…」ボソボソ

 

 

 何かを呟くモノパンが気になってしまいましたが…今は風切さんについて行くことしか出来ませんでした。

 

 

 

 

  *  *  *

 

【エリア2:温泉】

 

 

 

 全く同じ光景でした。

 

 炊事場の倉庫と同じようにエリア2に立てられている温泉から。恐らく更衣室のある家屋が燃え上がっていました。

 

 

「一度ならず二度までも……」

 

「モノパン!!またキミの施設が燃えているんだ!パンダと言えど、けじめの付け方くらいは理解しているはずだろう!」

 

「い、言われずともそうさせていただきますヨ!!おーーい出てこーイ!!」

 

 

 いつの間にかついてきていたモノパンはそう呼びかけると、カンカンとサイレンを音を鳴らす消防車を呼び出します。そして私たちがセコセコとバケツリレーをするよりも遥かに早く、施設の火は鎮まっていきました。

 

 だけど残ったのは、倉庫と同じように炭となった骨組みだけ…温泉という施設はどこにも見当たりませんでした。

 

 

「ぐぬぬ。強烈な爆発音にたたき起こされたと思ったら、次から次へと…一体何が起こっているというのだ!」

 

「知らないですよ!あたしだって急に眠くなってベッドで休んでたら、いきなりドカンです!」

 

「……かなり良い睡眠だったのに」

 

「え…雲居さんも、それに風切さんもそうなんですか?」

 

「ワタシも同様だ」

 

「私、も」

 

「驚いたね。ボクだけではなく、全員が同じ状況とはね」

 

「ヌヌヌヌヌヌヌ、こんなこと…こんなことガ」

 

 

 ですがそれだけに飽き足らずモノパンまでもが私達と同じ体験をしていた。こんな偶然とは思えない状況に、何か底から湧き出るような薄気味悪さを感じてしまいます。

 

 

「それよりもです。この騒ぎの火種は一体何なんですか」

 

「あの大層な音からして、爆弾と考えるのが妥当だろうね、キミ」

 

「……私もそう思う」

 

「爆弾!?爆弾なんてそうやすやすと手に入るものじゃ無いはず…」

 

「いやミス小早川、よく思い出してくれまえよ。新しく解放されたエリア5に武器庫があったはずだろ?」

 

 

 そうニコラスさんにヒントのような物を出された私は、ハッと気付きました。

 

 

「あ!!はい!!た、確か5つ!!爆弾が!!あったと思います」

 

「まさに使って下さいっていうくらいデカデカと置かれてたですね」

 

「…そうやすやすと爆弾は入手できた、ということか」

 

 

 そして加えて思い出しました。武器庫のあの棚を調べたとき、爆弾は確か全部で5つ並べられていました。

 

 だとしたら…。

 

 

「じゃあ、あと、3回、爆発が起きるの、かな」

 

「既に2回発動してるのなら、そうなのだろう。まだ武器庫を見てみないことには判断がつかんが」

 

「まだ憶測ですけど、エリア1、エリア2…と法則的に続いてはいるですね」

 

「……じゃあ次はエリア3?」

 

「未だ可能性を超えることはできずとも…その価値にはそれ相応の意味がある」

 

「よし!そうと決まれば先を急ごうじゃないか!だけど念の為だ、モノパンとミス風切とミスター落合は武器庫の爆弾がいくつ持ち出されているのかを確認してもらっても良いかな」

 

「……分かった」

 

「任されたよ」ジャラン

 

「…ワタクシに命令するとは随分と偉くなったとものですネ。ニコラスクン?」

 

「モノパン、これは施設の管理者であるキミの責任でもあるんだ…それは分かっているはずと思っているのだけどね」

 

「………そう詰められては苦しいですネ」

 

 

 無理矢理納得させるように頷いたモノパンを見届けた私達はエリア3へ、モノパンと風切さん達はエリア5へと二手に分かれ、向かって行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

【エリア3:中央噴水広場】

 

 

「あったぞ!!あれだ!!」

 

 

 エリア3にたどり着いた私達は、あっけなく”それ”を見つけてしまったのです。噴水の側に、タイマーが進んでいる爆弾が置かれていました。時間は2分を切っていました。

 

 

「急ぐです!確かそのボタンを押せば止まるはずです!!」

 

「ぬおおおおおおおお!!!」ポチッ

 

 

 全速力の雨竜さんが爆弾に近寄っていき、タイマーを止めました。まさに間一髪の"たいみんぐ"と言えました。

 

 

「ふぅ、止め方も簡単で良かったです」

 

「はぁ、はぁ…疲れたぞぉ…」

 

「お、お疲れ様です」

 

 

 汗を滝のようにだらだらとかく雨竜さんをねぎらいます。

 

 

「しかし、だ。倉庫、温泉、そして今度は噴水…ふむ」

 

「何か、気になる、の?」

 

「いや、ね。ボク達の予測通り爆弾があったわけだけど。ならば現時点で考えられる、爆破箇所について共通点はないかと思ったんだけどね…いかんせんヒントが少なすぎる」

 

「はぁ、はぁ…目に付きやすい、ところを、爆破してる、というくらいだなぁ」

 

「辛いんだったら息を整えてから話すです。でも共通点っていうほど、大雑把すぎる気もするです。無作為にも感じるですし」

 

「じゃあ、今は、考えるのは難しい、の、かな?」

 

「はい……」

 

 …他に考えられる事は、そもそも誰が爆弾を置いたのか、という事。

 

 まず考えられるのはモノパンですが、あの焦りようは、私はどうしても演技とは思えませんでした。そうなると、残されている被疑者は私達だけ。

 

 皆さんはあえて議題に挙げないようにしている風に見えますが…聡明な皆さまの事ですから、内心その可能性に勘づいているかもしれません。……ですがこんなおちょくるようなことを私達の誰かがやったなんて…考えたくありません。

 

 ……うう、モノパンの自作自演でしたと言ってくれればこれ程までに考え込まなくても良いのに…

 

 

「……それもそうだね。考えるのは爆弾を全て止めてから。ゆとりができてからだね」

 

「ふぅ…ようやく落ち着いてきた。ならば急ぐぞ。インターバルがどの程度かは分からないが、犯行がここで打ち止めというのも考えにくい」

 

「えっと、今エリア3の爆弾を止めましたから順番からして――――――」

 

「どっひゃあああああああア!!!!」

 

「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「きゃああああああ!!!!」

 

 

 恐らく次の爆弾が仕掛けられているかもしれないエリア4へと赴こうか、そう言おうとした矢先。突然モノパンが悲鳴を上げながら現れ出てきました。

 私や雨竜さんは驚きのあまり腰をぬかしてしまいます。

 

 

「いい、い、いきなり飛び出てくるとは何事だぁ!!」

 

「爆発が聞こえましたァ!!ワタクシの!!そばで!!うぇ、めちゃめちゃ煙もきておりまス……」

 

「え、そんな…エリア3の爆弾は止めたはずですよ!?」

 

「ここじゃなくて、別の場所が爆破されたんじゃないですか?」

 

「はい!まさに、まさにその通りでございまス。エリア5に……至急エリア5 に集合してくださイ!」

 

「おい!風切と落合は無事なのか!!」

 

「ワタクシ達がいる場所で、直接爆発が起こったわけではありませんのでご安心くださイ!それよりも早ク!!」

 

 

 モノパンが無事だと言うのですから、無事という事に間違いは無いと思うのですが…やはり不安は拭えませんでした。

 

 恐ろしい形相で急かすモノパンに、私達は息つく間もなく、エリア5へと向かっていきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

【エリア5:廊下】

 

 

 

 エリア5に入った途端目に入ってきたのは、壁にもたれかかる風切さん、そして彼女の側に寄り添うように落合さんがいらっしゃいました。そしてその周りをアワアワとモノパンは動き回っているのが、目に付きました。

 

 

「風切!どうしたんですか?!」

 

「もしやさっきの爆発のせいか!?傷があるなら見せてみろ!」

 

「…安心しておくれよ。盛大なる音を隣で聞いてしまった故に、反動を受けてるだけさ。命の源に揺るぎは無い」

 

 

 珍しく私でも意味の分かる言葉に、ホッと胸をなで下ろします。

 

 

「あわあわあわあわあわあワ」

 

「あんたは何をやってるですか!!目障りですよ!!」

 

「近くで爆発音が聞こえたのですヨ!?これで慌てず何時慌てろというのですカ!!」

 

「意味の分からん所で堂々とするな!」

 

「ヌヌヌヌ…今のワタクシはミナサマと”同じ土俵”でしか状況を確認できないのでス。しょうが無いでしょウ!」

 

「…?それって、どういう、こと?」

 

 

 ”同じ土俵”…その言葉にひっかかったのか、贄波さんが疑問を呈しました。

 

 

「じ、実はモノパンルームのシステムが停止しておりまして、施設中の状況が分からないんでス」

 

 

 さらりと、発覚した事実に私を含めて、皆さんがあんぐりと口を開いてしまいます。つまりそれは、この事件の事実を知っているのはモノパンを除けば、犯人しかいないというのことに他ならないのですから。

 

 

「システムが?爆発でサーバーがおしゃかになったとかですか?」

 

「……俄に信じがたいですガ」

 

「そんな大事なことを何故先に言わなかったのだ!!」

 

「言うタイミングを見失っておりましたァ!!」

 

 

 だとするなら、あのとき歯切れが悪かったのも、最初の爆発にも遅れて現れた理由にも納得いきました。"しすてむ"なるものが落ちてしまったから…この状況も理解出来ずに現れることしかできなかった。ということなのだと思いました。

 

 

「ぐぬぬヌ…つまり今!!もはや!!ワタクシは!!己の瞳のみが頼りということでス!!ぷはははははハ!!どうですこの戦力!!素晴らしいでしょウ」

 

「開き直るなぁ!!それよりも大事な事が残っているだろ!!どこだ、どこでさっきの爆破音が聞こえたのだ!」

 

「…武器庫。それも……奥の部屋……だと思う」

 

 

 壁にもたれかかった風切さんは、震えた声で静かにその場所を告げました。

 

 

「奥の部屋…ですか」

 

「えっと、奥の部屋、なら、ホワイト、デッドルー、ム?」

 

「……風切さんには僕が付いてるよ。君たちは君たちの道を進んでおくれ」

 

「了解した!では諸君、先を急ぐとしよう!」

 

「ワタクシもついて行きますヨーーー!!」

「何か、もうどうにでもなれみたいな感じですね……ちょっと同情するです」

 

 

 私達は武器庫の中へとなだれ込むように入っていき、そしてすぐに奥の部屋、『ホワイトデッドルーム』へと続く扉に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――手をかけました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

 

 

 

「…っ!」

 

「うっ…」

 

 

「ぬわっ…この匂いは!」

 

 ホワイトデッドルームに入った瞬間でした。そこには目を背けたくなるほどの、異様な匂いが部屋中に満ちていました。エリア1、エリア2で爆発が起こったあとに立ち込めていた火薬の匂いに加えて漂う…異質な匂い。

 

 だけどそれは”これまでにも嗅いだことのある”、匂いでした。

 

 

「――――!!」

 

「なぁ…!」

 

 

 だからこそ、目の前にある"それ"にも気づきました。

 

 そこには

 

 

 ―――――煙をたなびかせる黒く横たわった"死体”がありました。

 

 

 鮫島さんの時とは違う、完膚なきまでに焼け焦げたその死体。一体誰なのか、素性もわからないほど無残なものでした。

 

 

 

「………」

 

「し、死体…ですか…!?」

 

 

 その今まで出てくる予兆すらなかったその死体に、呆然と立ち尽くすことしかできませんでした。

 

 

「…………」

 

「こ、小早川?」

 

 

 私は声も上げず、瞳を震わせながら、ジリジリと、そしてユラユラとその死体に近づいていきました。

 

 これ以上死体なんて見たくも無いはずなのに、体が吸い寄せられていきました。

 

 

「………」

 

 

 理由は…分かっていました。分かりたくなくても、分かっていました。

 

 何となく…私はその”可能性”に気づいていたから。気付きたくなかったのに、気付いていたから。

 

 

 

 この死体

 

 

 ――――――その正体が一体誰なのかを。

 

 

 だけどその現実を受け入れられなくて、その真実を理解したくなくて。

 

 私の体はこの黒焦げの死体に吸い寄せられていました。

 

 それが”あの人”の死体であるという、その根拠を探したくて。

 

 

 

「…っ!!」

 

 

 

 でも――――見つけてしまった

 

 

 

「あああ、ああ……!!」

 

「ど、どうしたのだ小早川!!」

 

 

 その事実に気づいてしまった私は、顔を覆い、体を崩してしまいます。

 

 顔や体型、何もかも黒くこげてしまったはずなのに。

 

 見つけたくなかったのに、だけど、私は”それ”を見つけてしまった。

 

 違う理由を探していたはずなのに、探し当ててしまった。

 

 

「ああああああああああああ……」

 

「おいしっかりしろ!」

 

 

 尋常ではない様子の私を心配する雨竜さん達に介抱されながら…私は震える手で、”それ”に指を向けました。

 

 

「ん?指を差してどうしたというのだ?……なんだ、この薄っぺらいものは」

 

 

 死体の側に落ちていた、何の変哲も無い長方形の紙っ切れ。

 

 でも私にとっては意味のある紙切れ。

 

 それはあの日、あのとき、あの人に渡した――――――。

 

 

 ――"栞"

 

 

 そう、私が"あの人"にあげた胡蝶蘭が挟まれた栞。

 

 丹精込めて、元気になってほしいと、"あの人"に渡した栞。世界に1つしかない、”あの人”の栞。

 

 

 それがこの死体の側に落ちていた。

 

 

 だとしたら…この死体は…

 

 

 

 

 

 

「折、木…さんっ!」

 

 

 

 

 

 ――――”超高校級の特待生”折木公平のものである

 

 

 

 それが真実である。そう示している他に、なかったのですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生き残りメンバー:残り7人』

 

【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)

【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)

【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)

【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)

【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)

【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)

【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)

 

 

『死亡者:計9人』

 

【超高校級の不幸】折木 公平(おれき こうへい)

【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)

【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)

【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)

【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)

【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)

【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)

 




お世話になっております。
人数も少なくなってきたので、展開もそこそこにですね。
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