ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~ 作:水鳥ばんちょ
【エリア5:ホワイト・デッド・ルーム】
こんなどうしようもない世界で、私はこれまで受け入れがたい現実というものを何度も目にしてきた。平穏に時間が過ぎていってほしいとう期待感も、何も起こらないでほしいという願望も、すべてを踏みにじるような現実を。
何度も…数えたくないほど、何度も。
「……」
それでも現実に負けたくないから、私は今まで、何度でも立ち上がってきた。”あの人”のように、希望も絶望も、全ての望みを捨てずに。何もかも背負って歩み続けていた。覚悟を持って、立ち向かってきた。
だけど。
その一握りの希望を持って立ち上がることを、目の前の現実は許してくれなかった。想像をはるか高く超えるような絶望を、私達にたたきつけてきた。
「”折木”…なんですか?」
誰かがそうつぶやいた。おそるおそると、ささやくように。目の前に横たわる”炭色の死体”の名前が”あの人”の名前だという可能性を。その現実は、これまで背負ってきた絶望なんて紙切れのような重さだったということを思い知らせるかのような事実だった。
「こ、小早川。本当に…そいつは折木なのか…?本当に、間違いないのか!?」
雨竜くんも同じように、そして信じられないというように、目の前で膝をつく”小早川さん”へと叫びともとれる怒鳴り声を浴びせかけた。
どうして呆然と座りこくる彼女に語気を荒げるのか。理由は明確だった。
この異様な匂いを放つ誰かの死体の名前を口にしたのが小早川さんだったから。この場で、この事実を最も受け入れられていない小早川さん自身だったから。
「ドクター、気持ちは分かるがミス小早川に食ってかかっても仕方ないだろ、キミ。今現在この場で生きている人間を数えれば、この死体が何者なのか自ずと理解できるはずさ」
「風切と落合は部屋の外にいるですし、今この場にはその2人と折木以外の生徒が、集まってるです…」
「で、では…やはり、この死体ハ…」
――――超高校級の特待生。折木公平の死体である。
私こと――”贄波司”も、この場で膝から崩れ落ちそうだった。小早川さんのように、自分を見失いそうだった。
「折木、くん」
またささやくように、今度は私自身が、大切な”あの人”の名前を口にした。誰にも聞こえないほど、私にしか聞こえないないほど、小さく、そして重く。
「……」
膝をつきながら固まる小早川さんの両手には、跡形もなく焦げてしまった”何か”が握りしめられているのが見えた。本当は余裕なんてどこにもないのに、見えてしまった。
多分、それが答えなのだと瞬時に理解できた。この死体が折木くんのモノであることを決定づけた理由なのだと。
本当だったら、真っ先に声を上げるべきだったのかもしれない。それが大切な証拠になるかもしれなかったから。
でもできなかった。
その一枚のモノを握りしめる彼女の手が震えていたから。何も言うことができなかった。きっとそれは、小早川さんと、そして折木くん、その二人の間で交わされた、大切な”思い出”だったのかもしれなかったから。
今にも涙が零れ落ちてしまいそうな彼女に向かって、その大切な思い出を指摘することは、私にはできなかった。
「ぐぬぬぬぬぬぬ…くそぉ、ワタシはまた…仲間を…」
「何なんです…一体何なんですか。どうして、また、コロシアイなんて…」
「ままならないものだね…キミ」
各々が今の心を表すように、声を吐き出した。
私自身は、声を上げることすらできなかった。いや、できなかったんじゃない。ただただ抑えつけていた。声を上げて、泣き散らしてしまいそうな悲しみを。血が出そうなほど拳を握りしめながら、力づくで。
――――”あの絶望”を味わった時と同じように。
「あ、ああああああ…そ、そんなことが…まさカ……!!」
モノパンもまた、私達の声を同じくするように、この光景に焦りを露わにしていた。そのコロシアイの元凶とも言うべき首謀者がオロオロと、現実を受け入れられていない姿を晒していたのだ。
まるで夢を見ているかのようだった。この場で最も狼狽していたのがあのモノパン。ふざけているわけでも、白々しいわけでも、思惑があるわけでもなく。ただただ想定外といわんばかりの慌てぶりを晒していた。
「……これは、なんの匂い?」
「………」
そんな大きく矛盾したような状況を前にしていた私達の元に、風切さんと彼女に付き添う落合くんが遅れて現れる。異様な煤と、焦げた血液の匂いに、2人とも不快そうに眉を顰めていた。
「……!そ、それって?」
「記憶に刻み込まれたこの匂い。何者なのか、この世界の誰なのか。欠けた1枚の存在が、その意味を証明する」
「死体、だよね。誰が…殺されたの?……でも、ここにいないのは…まさか」
「折木が…殺された可能性があるです」
「…!公平が……殺された…?!」
「言うべきことは何もない。悲劇に参列するのは僕たちの影…一体何度目の狼煙だろうね」
雲居さんは小早川さんを一瞥しながら、落合さんたちにそう伝えた。2人もまた、折木くんが殺されたこと事実に顔を青ざめさせる。5度目となってしまった死の事実に、いつもマイペースな2人にも大きな絶望をたたきつけられたようだった。
「…ああそうだね。本当に何度目になるのか、数えるのも嫌気がさすよ」
「あああ、そんな、まさか、まさか…こんな結末になるなんて………あれ?………あっ!そうでございましタ!少々失敬」
未だ狼狽を隠せずにいるモノパンは何かに気づいたように突然立ち止まり、姿を消した。……ほんの数秒経った、数えるまでもないタイミングで。
『ピンポンパンポーン…!』
『死体が発見されましタ!』
『一定の捜査時間の後、“学級裁判”を開かせていただきまス!』
これまでに5度の、いや厳密には6度。でも一度として聞きたいと感じたことのなかった合図のチャイムが鳴り響いた。
このチャイムを聞いたことで、また私たちが仲間を1人失ってしまったことを認識させられた。とても大切な仲間を。だけどこの死の事実は、あまりにも、私やそして未だ動けずにいる小早川さんにとって重いものであった。
「ふぅ…ワタクシとしたことが取り乱してしまったばかりに筋を通すことを失念していたみたいですネ」
「本当に…なんであんたが取り乱す必要があるんですか。首謀者のくせに」
「カメラが使えない状況なんですから当たり前でございまス!!ワタクシは臨機応変が苦手なパンダでございますからネ!!」
蛍ちゃんが軽く小突いているが…確かにさっきのモノパンは、異様だった。何度も殺人をたきつけてきたくせに、たった1人の殺人にあれほどまで動揺するなんて。いくら状況が分からないからといっても普通ではなかった。だけどそれほどまでに、今回の事件もまた普通ではないのかもしれない。…いや、コロシアイに普通もなにも無いのだけれど。
「信じられん…本当に、あの折木が殺されたなどとは…!」
「…私も同感」
「今更ですよ、これまでにも信じられないことは何度も起きてるはずです。それにこの場にいない人間の数えれば、折木が殺されたと考えるのが普通です」
「……」
逆に考えれば、その”人数”という事実しか、この死体が折木くんだと証明できていない。あとはずっと固まってしまっている小早川さんの手元にある”モノ”だけ。雨竜くんたちが信じられないと言うのも無理もない気がした。
「普通とは憶測であり、憶測とは幻影である。この場で話し合うべきはこの場になし」
「…ごめんね。そうだよね。もっと準備してから、話し合うべきだよね」
「一体あんたらの間ではどんなやり取りが繰り広げられているんですか…!」
「うらやましいとは微塵も思わんが、便利な翻訳ではあるな」
「それよりもだよ、キミ達。捜査を始める前に、確認しておきたいのだけれど。今回の事件、ミスター折木が殺されたんた。例の”特別ルール”、その存在を忘れていないだろうね……モノパン?」
そう言って、ニコラスくんは自分の電子生徒手帳をモノパンに見せつけた。
[№13]超高校級の不幸である折木様を殺した場合、学級裁判後コロシアイはただちに終了いたします
たったのその1文。反町さんの殺意を湧き起こした、まさに今回の”動機”とも言うべきルール。
「そう、ですね。そこんところどうなんですか」
「……ええ勿論でございまス。こうなることは低いながらも予期していましたのですから、当然でス。ただし、クロをきちんと選択できれば、のお話でス。その犯人へのオシオキが完了したのち、ミナサマを解放いたしましょウ」
解放。2つ目の動機の時以来久しく耳にしなかったその言葉。通常であれば飛んで喜ぶべき知らせだった。
だけど…。
「……」ジャラン
「うん、私も最悪の気分」
「とうとう言葉ではなく音で会話し始めている…だと…」
折木くんが死んでしまったこと。ようやくこのコロシアイに終わりがつくこと。その極致ともいうべき両端が同時に引き起こされたことに、戸惑いを隠すことができなかった。口下手ぶりがさらに加速している落合くんを見れば、動揺は生徒全員に等しくいきわたっていることが分かった。
「しかし、今回の場合は特殊ケースが発生しておりまス」
「特殊ケース…だとぉ?」
「これまでどおりであれば、ミナサマのご存じの通り施設内に隠された監視カメラでどなたが犯人なのかをワタクシが把握し、裁判の結論をジャッジすることになりまス。ですが…」
「”カメラの、停止”…それが、あなたの言う、特殊ケース?」
確かに爆破事件が続いていた最中に何度かカメラが停止していると言っていた気がする。施設の管理に必要と同様に、事件の審判をする際にも、きっとカメラを利用していた。つまり…。
「その通りでございまス。今回の事件、”ワタクシにもこの中のどなたがクロなのかわかっておりませン”。お恥ずかしい話、現在進行形でワタクシの瞳に搭載されたカメラのみしか頼りがないのでございまス」
「いつカメラが停止したかはわからないですけど。録画で確認はできないんですか?」
「機能そのものが停止しておりますので、記録の確認もできませン。かろうじてアナウンスのみが生きている状況でございまス」
「……じゃあなんでモノパンは動けてるの?アナウンス以外の装置は壊れてるのに」
「緊急的にタブレット操作を行える準備はしておりましたからネ。ワタクシの目のみが頼りというのは、つまりそういうことなのでございまス」
「くっ、使えん奴だ。判断がつかぬのであれば、お前の想定する段取りも根底から崩壊し、特別ルールも適用されるかもわからんではないか!」
「ええ、ですのデ……――――ワタクシも捜査、そして裁判に加わりましょウ」
「「「「……は?」」」」
堂々とモノパンは私たちに”そう”宣言した。その意味を理解するのに数秒時間を要し、綺麗なくらい変な声を揃えてしまった。
「き、貴様が捜査だと?」
「そうですとモ。これまでは玉座から地上を見下ろし、地獄への審判を行っていたワタクシでしたが、この際なりふり構ってはおれませン。共に捜査を行い、ミナサマとの議論に加わりましょウ」
「…意味不明」
「カメラが使えない、なら、確かに気持ちは、わかる、けど」
モノパンの参加に、全員があまり歓迎していないムードをかもしだす。前提を踏まえればその参加意思は頷けるけど…それが本心で協力しようとしているのか定かじゃなかったから。カメラが動かないことが大嘘の可能性もないことも一因だ。
「ミナサマがどう言おうとワタクシの裁判への参加を妨げることはできませんヨ?何故ならワタクシが捜査に参加してはいけないなんてルールはないのですからネ」
「『モノパンは殺人に関与することはありません』この辺りの校則に触れる恐れはないのかい?」
「それは殺人そのものの幇助を行われた場合に適用される校則ですからネ。ワタクシは殺人を調べようとしているのでス。校則は”絶対”ですが、ルールの無い領域では自由ですのデ」
その頑なな姿勢。これ以上反論しようにも、モノパンは参加への意思を覆すつもりはなさそうだった。私を含めた、生徒みんながため息を吐く。
「はぁ…わかったよ、その件についてボクから言うことはないさ。だが1つ確認だ、キミ。裁判の最後に多数決でクロを決めるタイミングがあるだろう。そこにもキミは参加するのかい?」
「『投票タイム』についてですネ。その点について、答えは”ノー”でございまス。ワタクシの一票でミナサマからあらぬ疑いがかかってしまう恐れがございますので。あくまでジャッジは、ミナサマの手で平等に行いまス。いかがですカ?」
「つまり捜査にも議論にも参加はするですけど、投票には参加しない。ということですね。あんたの1票が1000票分。なんて事態は容易に想像できるですから、投票タイムへの不参加については賛成です」
「………」ジャラン
「隼人も反論はないって」
「貴様はギターでの会話をやめろ!風切の通訳が便利なことに気づくな!」
”…だがワタシも反論はない”そう雨竜さんが締めくくった。私も”特になし”と意思表示をする。そしてみんなは”小早川さん”へと視線を集中させる。何となく、全員の意思を確認しておこうという空気が流れたから。
「…………」
だけど回答は返ってこなかった。ただ眼前にある焼死体のみに視線を注ぎ、じっと動かずにいた。黒焦げの”何か”を握りしめたまま。
「…小早川、さん」
全員、何も言わなかった。いや何も言えなかった。
私も、小早川さんの名前しか呼ぶことができなかった。彼女だどれだけ折木くんのことを慕っていたのか、今までの日常を切り取ってみれば、痛いほど理解できていたはずだから。励ましの言葉も、同情の言葉も、気遣いの言葉も…かけることができなかったのだ。それくらい、彼女は私達と隔絶しているように見えたから。
「沈黙は是なり…そう捉えておくことにしましょウ」
そんな様子にモノパンもヘタにつつくことはなく、そのまま流す。極めて珍しいことのように見えたが、今のモノパンはおちゃらけるほどの余裕を抱えていないのだろう。
「ではさっさと始めるといたしましょウ。ワタクシも捜査に加わるのですかラ、チャキチャキとネ!」
「何を偉そうに先導してるんですか。新参者は先輩の顔を立てるのが筋というもんですよ」
「風になびくは大いなる威光。小さきも風も、大は小を兼ねず」
「何か偉そうに先輩風吹かしてる」
「聞こえてるですよ!」
「……言っておくが、不審な動きをしたらただではおかないぞ。一度は救われた命だが、規則違反上等で殴り飛ばす」
「ええ心得ておりまス。裁判への参加は正々堂々…これはワタクシの好きな言葉の1つでございまス」
バチバチと不惑の視線を交わすモノパンと私たち。これまではシロとシロ同士が協力して捜査をして証拠をあつめる構図であったはずなのに…今回は違う。第3勢力が攻めてきたような、そんな感覚だ。
複雑な気持ちを抱えながらも、ようやく私たちは5回目の捜査を開始した。
【捜査開始】
「…と開始したところでお約束のコレをお渡ししましょう――――『ザ・モノパンファイルVer.6』!!」
開始早々に差し出されたのは、既に見慣れてしまった大きめのタブレット。ついに6枚目へと到達したその事実に、私達はやりきれない気持ちを共有する。これまで犠牲になった生徒全員分の重さを肩に背負わされたような感覚だった。
「…一応このファイルは配られるんだ」
「ええ、ルールですのデ。ですが見ての通り情報は皆無に等しいので、無い物と扱ってもかまいませン」
私達は躊躇いつつも、モノパンファイルを開く。中身は紛れもなく、殺害された…折木くんの死因に関しての情報だった。
――――――――――――――――――――――――
モノパンファイル Ver.6
被害者(暫定):【超高校級の特待生】折木 公平(おれき こうへい)
死体発見現場はエリア5、『ホワイトデッドルーム』。死亡推定時刻、死因は共に不明。爆発により身体は殆ど焼き焦げている。
――――――――――――――――――――――――
確かにほとんど無いに等しい情報量。死亡推定時刻も、死因も何もかも不明。あえて隠されていたりするパターンはあったが、今回は裏や意図もない、本当に何もわかっていない状況。
しかしそのファイルの情報の中で、ひと際目を引くのが被害者の欄にある『暫定』という2文字だった。
「暫、定?」
「はイ。カメラで折木クンが殺された瞬間をとらえたわけではありませン。それに死体が折木クンだという証明は消去法で決めたようなものなので、暫定という形を取らせていただきましタ」
「決定的じゃないのは確かにそうであるが…」
「随分とまあ、思い切った書き方をするね、キミ」
「それはもう証明する品がないからですヨ。もしあるというのなら是非ともご提供いただきたいですけどネ。といっても、クロ本人の証言くらいだと思いますけド。それによく言うでございましょウ?憶測こそ最大の敵であると」
カメラが無いからとか、被害者を証明する物がないからとか、言いたいことは分かる。だけどさっきの慌て具合も相まって、まるで”殺されたことを信じたくない”ようなその態度に、違和感がぬぐえなかった。
コトダマGET!!
【モノパンファイル Ver6)
…被害者(暫定):【超高校級の特待生】折木 公平(おれき こうへい)
死体発見現場はエリア5、『ホワイトデッドルーム』。死亡推定時刻、死因は共に不明。爆発により身体は殆ど焼き焦げている。
「捜査を行うにあたっての当面の配置だが…ワタシはこのままこの部屋に残り死体の検死をする」
「信頼性は担保するべきですから…もう1人見張りを構えておきたいところですけど」
「…………」
「コイツに願うのは心苦しいが…人手が足りない故、誰もいないよりはマシだ。ここには小早川とワタシが残る。全員それでもかまわないか?」
「ボクに異議はないよ。検死結果はどれくらいでまとめられそうだい?」
「身元もわからないほど黒焦げだからな、そう時間はかからん。1時間後くらいには終えているだろう」
「了解いたしましたヨ!ではミナサマ!張り切って参りましょーウ!」
そう言い残し、場違いなほど揚々としながらモノパンは姿を消してしまう。多分、捜査に向かったんだと思う。誰とも組まずに単独で、これまでとスタンスは大きく変わらないみたいだ。
「なんか調子狂うですね。まあ今回は協力してくれるみたいなんで、いつもよりは面倒くさい対応はしなくて済みそうですけど」
「意図は見えずとも。きっと君の言葉は僕らに届くさ。風はいつでも自由だからね」
「…早く捜査始めよう、だって」
「今のポエムは催促の意味だったのかい?」
私は雨竜くんの検死を終えるそれまで他の場所を調べることにし、一旦ホワイト・デッド・ルームを後にした。
* * *
【エリア5:武器庫】
「贄波。ちょっと良いですか」
「…?どうしたの、蛍ちゃん」
「これから気になる場所の捜査をするんですよね。あたしも同行して良いですか」
”ホワイト・デッド・ルーム”を出て、隣の武器庫に入った直後、蛍ちゃんに呼び止められる。アリバイチェックかなにかだと思ったけど、予想外の提案の内心驚いた。だけどその提案に断る理由もなかった。
「良い、けど……やっぱり1人、だと、不安?」
「恥ずかしい話…その通りだったりするです。今までこんな風に不安に感じたことはなかったんですけど」
「これまで、の、裁判は、折木くん、が、中心で回ってた所も、ある、からね…」
「そういえばそうですね。アイツがこれまで積み上げてきた功績ってやつなんですかね」
そう。今まで折木くんやニコラスくんが推し進めていた捜査や議論をこれから全員でやらなければならないのだ。私1人だとできることは限られる。できるだけ協力して捜査する必要があるのだ。
「そうと決まれば、まずどこを捜査するのか当たりを付けることから始めるですか」
「…まずは、この武器庫を、含んだエリア5の部屋全部。あと、爆発が起こった場所、とか?」
「後は、美術館と折木の部屋ですね」
「………そっか、そういえば美術館でも、問題があったんだよ、ね」
今朝の話だっただろうか。確か、『爆弾』と『鍵』が盗まれたとかなんとかモノパンが憤っていたのを朧気ながら覚えている。覚えが悪い方ではないのに、記憶が消えかかっていた自分に驚いてしまう。
「ですです。それに盗みもそうですけど…今朝の異常はそれだけじゃなかったですよね」
「うん。言いたいこと、は、わかる、よ?あの、眠気、だよね」
朝食を食べ終えた途端、私は異様な眠気に襲われた。私だけじゃなく、蛍ちゃんの話を聞く限り…多分他の皆も多分同じだと思う。それに最初の爆発が起きた時のことを思い出してみると、モノパンも似た状況に陥っているように見えた。
「あの眠気、多分”睡眠薬”かなんかですね。タイミング的にも朝食のメニューにも問題があると見たです」
「……」
確定とは言えないけど、他に考えられるタイミングはなかった。だとしたらエリア1を調べるときは念入りに調べた方が良いと思った。
「仮に朝食に睡眠薬が混入していたとするなら、怪しいのは…言いにくいですけど、小早川ですね」
「……」
蛍ちゃんの言う通り、最も怪しいのは朝食を準備していた小早川さんになる。そしてモノパンの果物の最も傍にいたのは紛れもなく小早川さん。蛍ちゃんが疑いの目を向ける理由としてこれ以上の理由はなかった。
けど……。
「…あの放心具合が演技だとするなら、正直人間不信になるレベルですね」
「うん…」
死体を前にして、何もかも手に付けられない様子の彼女を思い出す。本当だったらすぐに話を聞きに行きたいところだけど、現状不可能と言えた。
……だからと言って疑わないという選択肢はない。この事件にどんなトリックが盛り込まれて、どんな結末を迎えるかなんて、誰1人として予測はできない状況なのだから。
コトダマGET!!
【盗まれた7つ道具)
…事件が起こる数時間前に、『バグ弾』と『秘密の愛鍵』が盗まれる。
【異様な眠気)
…朝のお食事の後に異様な眠気に襲われる。食事の中、そしてテーブルに置かれていた果物に睡眠薬が入れられていたのかもしれない。
「当面の捜査方針はそんなところですね。まずはこの武器庫の捜索としゃれこむですか」
私は頷くと、恐らく爆弾が並べられていたと思われる棚を調べてみる。見てみると、埃がポッカリと乗っかっていない箇所が”5つ”。何かが直前まで置かれていたとことが見て取れた。
「埃の空き具合から見て、爆弾の数は、5つ。間違いなく、置かれてた、みたいだ、ね」
「だけど全て持ち去られてるです。それもエリア3で見たあの片手で運べるサイズの爆弾が5つ、ってところですね。各エリア1度ずつ爆破できるようにと言いたげな数です」
「ええと、爆弾の仕組みも、単純だった、よね」
「お猿さんでもわかるようにボタンをポチポチと押すだけだったです。裏設定も、秘密のパスワードも、面倒くさいオプションが備え付けられているようには見えなかったです」
間違いなくこの武器庫に置いてあった5つの爆弾が。一連の事件で使われていた。私たちが眠らされている間に爆弾は持ち出され、それぞれの爆破箇所に置かれ、タイマーがセットされたのだと思う。
コトダマGET!!
【武器庫の爆弾)
…爆弾は元々5つあったが、全て持ってかれていた。使い方も至ってシンプル。
「ここで調べられそうなのはこのくらいですね。他に行くとするですか」
「うん、じゃあ隣の、化学室に行って、みよう。あそこは、いろんな薬品が置かれてた、はずだ、し」
「例の睡眠薬ですね」
私たちは頷き合い、化学室へと向かっていった。
* * *
【エリア5:化学室】
「おや、ミス贄波にミス雲居。奇遇だね」
朝食に仕込まれていた睡眠薬の件。その原因があると思われる化学室へと来てみると、ニコラスくんと鉢合わせる。彼はいつも身に着けているシャボン玉のパイプを吹かせながら、まるで自由時間の時のように片手で挨拶をする。
「あんたもここに来てたんですか。一服のじゃまでもしちゃったですか?」
「ははっ、ここで吸殻を吹かそうものなら迷いなく関節技を決めてやるとも」
「もしかして…ニコラス、くんも、眠気が、気になって?」
「どうやら目的は同じみたいだね。そう通り、今朝の食事に思うところがあってね…」
思った通り、こちらと考えていることは一緒のようだった。私は問題の薬品が並べられている棚に目を向けた。
「それど、成果の方はどうなんですか」
「順調…なんて捜査の時に使う言葉ではないね。ボチボチといったところだよ。だからこそこんな風に趣味を嗜んでいるわけさ」
「そのシャボン玉がですか?」
「ああそうだとも」
そう言って、おかわりというように胸元の小瓶からパイプ型のシャボン器へ液体を注いでいく。初めてシャボンの原液を見たけど、僅かに花のような香りがした。
「はぁ、相変わらず掴めないですね。比較的余裕そうなのはわかるですけど」
「ボチボチって、ことは、目当ての物は、見つかった、の?」
「ああ、これを見たまえ」
ニコラスさんは棚に壁際から1つの液体瓶を取り出し、目の前のテーブルに置いた。
「これは…」
「『スグネルミン』だよ」
「スグネル…ミン?」
まるでどこぞの商品名かのようなふざけた名前に、思わず眉をひそめてしまう。
「かの有名な『元超高校級の睡眠学者』である”奥闇 茂(おくやみ しげる)”氏が開発した睡眠薬さ」
「睡眠学者のくせにですか?」
「睡眠学者であり、化学者でもあったのさ。過去にも『ヨクネルミン』といったこの睡眠薬の前身を開発し、世の不眠症に苦しむ多くの人々を救った英雄さ」
「へぇ…そりゃ失礼しましたですね」
「そして、老齢ながらもその開発意欲に衰えはなく、巷では『ソクネルミン』なる睡眠薬を開発しているという噂も…」
「わかった!あんたがその人のファンだというのも、わかったです…んで、その睡眠薬が使われた形跡があるんですか?」
「もちろん、バッチリとね」
珍しく饒舌に名探偵としてではなく化学者である側面を見せたニコラスくん。その希望ヶ峰学園のOBの人が開発した睡眠薬が使われていたというのなら、あの強力な睡魔も頷けた。
「その証拠にほら、ココを見たまえよ」
「…?」
ニコラスくんは促すように瓶の側面を指差した。そこにはマジックペンと思われる太い線が目盛りのように引かれていた。
「この線、は?」
「ここには危険な薬物がいくつもあったからね。万が一のことも考えて、使用されたかどうかがわかるように元々の量の目盛りを記しておいてのさ。この睡眠薬に限らず、全ての薬品瓶にね」
「準備いいですね。まるで事件が起きることがわかっていたかのような周到さです」
「万が一と言っただろう?100%事件が起きないわけじゃないこの状況で、最低限の準備をしておくのは名探偵としての基本さ」
皮肉交じりの雲居さんの発言にも、ニコラスくんはのらりくらりといったように躱していく。私は気にせず、目盛りと薬品の液面を見比べてみる。
「…間違いなく、使われてる、ね」
「それもかなりの量ですね。目盛りよりも大きく下回ってるです」
ニコラスくんが付けてくれた黒い線と瓶底の丁度半分くらいまで減っていた。不自然なくらいにあからさまに使用された形跡であった。
「…ちなみに、この睡眠薬の…『スグネルミン』だっけ、どんな効能、が、あるの?」
「大きな特徴は3つ。1つは”即効性”。含んでから数十分後、驚くべき眠気を服用者にもたらす。ボクも眠れないときはよく使っていたものさ」
「意外な話ですね。苦労の『く』の字も知らない人生を歩んでいるものと思っていたです」
「はははっ!誰にでもそういった経験の1つや2つはあるものさ、キミ」
”それともう1つ”とニコラスくんは人差し指を立て、続けていく。
「”持続性”さ。量にもよるけど、この薬は長時間睡眠作用を有している」
「持続性…ですか。であたしたちが寝ていたのは2時間そこらだったはずですけど」
「そこなんだよ、キミ。ボクも気になっていたんだ。一介の化学者としてこの薬品の効能を間違えることはないのだけれど…不思議な話だよ、キミ……いや、でももしかしたら…」
「何か、気になる、の?」
「…いや、まだ言うべきじゃない。情報が少なすぎるからね」
「また出たですよ。いずれ聞けることを祈るばかりです」
「ははっ、ちゃんと説明するさ。まだ推論の段階だからね」
…私自身も何となくその”仮説”は考えてはいる。だけど、その特徴を聞いての直感のようなものだ。ニコラスくんと同じように、もう少し吟味する必要がある。
「それじゃあ…ニコラス、くん。もう1つの特徴、は?」
「あまり事件には関係ないかもしれないけど…いわゆる”不揮発性”、だね」
「蒸発しにくい、ってことですか?」
「その通り。単体で放置しても、何かと混ぜても、効能が飛んでしまうことはない。流石に熱を加えてしまえばさっさと消えてしまうけどね」
「不揮発性…。具体的に、どれくらい、蒸発、しない、の?」
「おおよそで申し訳ないけど…24時間だったかな。詳しくは自分で試しておくことをオススメするよ」
「…今更、人体実験をしてる暇は無いですね」
「……」
ニコラスくんは関係ないと言っていたけどmその特徴もまた気になる。こういったことは逐一にメモしておくことにしよう。私はメモ帳にペンを走らせていく。
コトダマGET!!
【使用された薬品)
…『スグネルミン』という強力な睡眠薬。『即効性』と『持続性』そして『不揮発性』有している。
「さて、一休みもこのくらいにしてだ。ボクは次の部屋の捜査に行くとするよ。キミ達はどうするんだい?」
「私達もここまでです。これ以上の情報はココにはなさそうですからね。次に行くとするです」
「そう、だね。今度は隣の、モノパンルーム、だね」
「じゃあボクは、下の爆破現場に向かうとするよ。まだドクター雨竜の検死は終わってないみたいだからね」
そう言って、私と蛍ちゃんは部屋を出て行き、その場でニコラスくんと分かれそれぞれの捜査に向かっていった。
* * *
【エリア5:モノパンルーム】
化学室の隣、モノパンが操作している監視画面が連綿と連なるモノパンルーム。
モノパンから何度も機能していないという話を聞いていた。爆破事件の時も、さっきも。だけどこれまでの余罪から、”機能してない方が面白いと思ったから”…なんてことを言ってくる疑念を拭えないので念のため来てみたのだけれど。
「画面、全部消えてる、ね」
先日この部屋に来たときは備え付けられた画面全てに施設内の映像が流れていたはずなのに…今は黒い画面しか映しておらず、停電でも起こってしまったかのように部屋は真っ暗だった。
「モノパンのことですから、どうせ大嘘を吹いてるかと思って確かめに来たですけど…お化け屋敷よりも雰囲気あるですね」
大嘘どころか、けたたましく作動していた機械音も鳴りを潜め、ほとんど無音。まるで廃墟のような出で立ちに足をすくませてしまう。悔しいけど、モノパンの話は事実を捉えるしかないなさそうだった。
コトダマGET!!
【モノパンの監視カメラ)
…原因不明の故障。モノパンが目覚めた際には既にカメラの機能は停止していた。現在も停止中。
気になっていたことを確かめられた私達は、再び別の部屋の捜査に向かった。
* * *
【エリア5:生物室】
「ううー、寒いですね」
モノパンルームのついでに生物室も見てみようと入ってみたけど、やはり寒い。青ざめたような部屋の内装も相まって、ガチガチと歯を鳴らしてしまう。
「何もないですね。はい、次に行くとするです。これ以上ここに居ると凍え死にそうになるです」
「うん、そうだ、ね」
そそくさと出ようとする蛍ちゃんとは対照的に、私は少し念入りに部屋を見回してみる。そこで、私はこの部屋に”アレ”が無いことに気づく。
「どうしてんですか?早く出たいんですけど…」
「…この部屋には、”アレ”が無い、ね」
「えっ?……アレってなんですか?」
私がアレといっても、合点がいかない蛍ちゃんは首をかしげる。私は示すように、壁際を指さした。
「”通気口”。ほら、武器庫と、化学室、モノパンルームにも、あった、でしょ?」
「………悪いですけど、覚えてないですね。でも…これから調べる資料室にそんな”穴”が無かったことだけは覚えてるです」
「そこは、ブレない、ね…えっと。多分、モノパンルームの熱を、放出するため、の、穴だと、思うんだ、けど」
武器庫と化学室、そしてモノパンルームに3つ。そして廊下に4つ。排気口が取り付けられている。これまで実際に見てきたのだから間違いない。
「もしかして…そこを人が通った可能性がある、みたいな話ですか?」
「いや、全然、人が通れるような、穴ではないんだ、けど」
小さすぎて、多分入口でつっかえてしまうと思う。私が言いたいのは、それぞれ3つの部屋と、廊下はつながっているという事実。誰かが通れなくても…何か別の”物”を通すことはできるかもしれない、ということ。
「へぇ…でもそれが何か気になるですか?」
「…エリア5で、起きた事件、だから。このエリアの仕組みも、大事かな、って」
とは理由付けてみたけど、実際は本能みたいものだ。でも私は自分の本能を、勘を、直感を信頼している。それで私は、”あの時”も含めて、何度もこの直感で命を守ってきたから。
コトダマGET!!
【エリア5の通気ダクト)
…エリア5の生物室以外の部屋、そして廊下に4つある。
「………あれっ?」
ほかに何か不自然な点はないか、もう少し見回す。キョロキョロと、極寒とも言うべき環境の中で。
そこで私は、僅かだけど…明確に"違和感"を感じ取った。それが何なのか、それがどこにあるのか…
私はたぐい寄せるようにその正体を―――
「贄波!早く行くですよ!」
「……あっ」
だけどその言葉で私は現実に引き戻される。パチパチと目をまばたきさせながら、頭をかしげる。
…勘違い、だったのかな?
「うん、今行く、よ」
夢のようにも思えた…でも確かにあったはずの”違和感”。勘違いだったのか、思い違いだったのか、それとも考え違いだったのか…何故か感じてしまう名残を惜しみながら…私たちは生物室を後にした。
* * *
【エリア5:資料室】
「……この部屋、前と様子が違うですね」
資料室の中に入るやいなや、蛍ちゃんがそうつぶやく。そしてそそくさと棚に近づき、じっくりと、舐めるように観察し始めた。
「何か、変、なの?」
「変も何も、まるっきり配置が変わってるんです」
「もしかして、資料棚の、資料の場所が?」
私の問いに蛍ちゃんは頷いた。続けて彼女は”特にこの辺りとかです”と、”開かずの扉”の傍にある棚を指差した。
「この列の「才能狩り事件』に関わる1~10の捜査ファイル。最初と位置が全然違うんです。真ん中の段にあったはずなのに、下の段に移動してるです。それに…この『天災』についてのスクラップブックも、一番上の段から真ん中の段に」
「どういう、こと?」
「あくまで推測ですけど…この棚の資料、一度バラけてるですね。全部引っ張り出して戻したとかじゃなくて、資料がまとめて崩れてしまって…慌てて戻した感じです」
「そんな細かいところ、まで…もしかして、資料室の配置、全部覚えてる、の?」
「これでも”超高校級の図書委員”ですからね。本の配置を覚えることなんて、大したことじゃないです。それにエリア2の図書館にある本の量に比べれば楽なもんですよ」
確かに、一度だけ図書館の本を持ち出して、ここで良いかと思って棚に戻したとき。”ジャンルが違うです!!これはココにまとめる!!”と怒られた記憶を思い出した。本当に、覚えているのだろう。
「…でも、どうして、崩れちゃった、の、かな。地震が、起きた感覚も、なかった、けど」
「あくまでそれは物の例えです。気になるから、もう少し調べてみるとするです」
「何を、するの?」
「もう1度棚の本を引っ張り出して、異変が無いか確かめるんです」
「……全部?」
「ザッツライトです」
……少し気が遠くなりそうだったけど、私は蛍ちゃんと一緒に、棚の本を一冊ずつ取り出し、パラパラとめくり、異変が無いかどうか。地道な捜査を開始した。
「………」ペラッペラッ
「………」ペラッペラッ
黙々と、そして淡々と資料をめくりつづける。紙と紙がかすれ合う音だけが部屋の中で響くだけ。首が痛くなりかけながらも、私と、私の倍の速度で蛍ちゃんは丁寧に、かつ迅速に資料をめくりつづける。
―――すると
「あっっ!!こ、これは…」
「どう、したの」
そして突然大きな声を上げた蛍ちゃんに目を向けると、その資料の異変に示すように、私に見せつけた。
「これ…”血”ですよね?」
資料集に挟まれた1枚のページに、血痕のようなものが付着していた。べっとりというほどではないが、指を切ったとかでは説明できない不自然なくらいの量が。何故こんな場所に…と疑念が湧き出してきたが、一旦その事実だけを記録しておいた。
コトダマGET!!
【資料の血痕)
…資料室の資料の一冊に血痕が付着していた。
「思いがけずとんでもないものを見つけてしまった気がするです。でも、どうして…」
「うん。さっぱり、だね」
この施設に解析する術はないけど、今のところ可能性があるのは…。
「もしかして、折木くん、の…?」
「ええっ…。ますます意味不明ですよ」
「……そうだよね。でも」
勿論犯人の血痕の可能性もある。だけど、今いるメンバーで怪我をしている様子はなかった。仮にこの血痕が、折木くんのものだったのなら…。どうして折木くんは、こんなところに?そんな疑問が新たに湧き出てくる。
頭で茶が沸けそうなほど、グルグルと悩んでしまう。
「……?」
そう考えながら残りの資料をパラパラとめくっていると、もう1つ、かすかな”異変”に気が付いた。
”ちょっと…ふやけてる?”
その資料の数ページが妙に”ふやけていた”のだ。そして微かに嗅いだことのある”匂い”に気が付いた。
…これが何を示すのかはわからないけど、覚えておいた方が良い…また私の”本能”がそう言っている気がした。
【ふやけたページ)
…1冊の資料のページがふやけていた。微かに嗅いだことのある匂いが香る。
「そろそろ、1時間、だね」
「ですね。雨竜の検死結果を聞きに行く、いいタイミングかもしれないですね」
彼の宣言通りとするなら、そろそろ検死結果が出ているはずだ。私たちは資料室の丁度隣にある、ホワイトデッドルームへと向かっていった。
* * *
【エリア5:ホワイト・デッド・ルーム】
「雨竜くん、来た、よ?」
ホワイトデッドルームの中心。爆発の”焦げ跡”がくっきりと残った傍で雨竜くんは胡坐をかきながら鎮座する。そして私たちを見ると、”ようやく来たか”と胡坐をほどき、立ち上がった。
「どう、だった?」
「身元も分からんひどい状態だったが…"2つ"、収穫ありだ。1つは死体の前頭部。そこに”殴打”の形跡があった」
「…本当ですか!正直戦果なしも予想してたですけど…嬉しい誤算です」
「ふっ、ワタシを誰だと思っている。超高校級の天文学者である雨竜狂四郎だぞ」
「いや、その肩書に説得力はないです」
蛍ちゃんのツッコミを雨竜くんは気にすることもなく。”まだそれだけじゃないもう1つある”、と死体の身体を指さした。箇所を示してるわけでもなく、死体全体を指し示すように。
「不思議な話だが…この死体。体中に”細かい傷跡”が残っていた」
「傷、跡?」
「ああ。それも新しいものではなく…とても”古い”ものだ」
「古傷ってやつですか。…えっ、てことは折木、実は武士みたいな壮絶な人生歩んでたってことですか?」
「それが不思議な話なのだ。”天災”として、何度も大きな事故に巻き込まれたのは間違いないはずなのだが…それがこの古傷に符号するかと言えば微妙なところだ」
「うーん。大津波に、飛行機事故、豪華客船沈没、大火事……言われてみればそうですね」
残念ながら思い出してみても、これまで折木くんの裸を見たことはないので細かい古傷があったかどうかはわからない。逆に見られたことはあるのだが……それは恥ずかしくて口にできなかった。
コトダマGET!!
【雨竜の検死結果)
…前頭部に殴打の形跡あり。また体中に多数の古傷がみられる。
「とりあえず貴重な情報ですから記録しておくとして……小早川のやつはどうしたんですか」
「……そういえば、いない、ね」
蛍ちゃんに言われて初めて気づいた。確かに、周りを見渡しても彼女の姿が見えない。今まで死体の傍で石のように固まっていたはずなのに。
「うむ…それが…」
~~~~~
『調べなくては、いけません…』
『うん?何か言ったか?』
『調べなくては、いけないんです…』
『調べなくてはって……あれっ?もう行ってしまったのか…?』
~~~~~
「そう言って、忽然と姿を消してしまったのだ」
「なんで止めなかったんですか!!」
「呼び止めるまでもなくいつの間にかいなくなっていたのでな!仮に呼び止めようとしたとして、なんと声をかければ良いのかわからなかったがな!!」
「自信満々に情けないこと言うんじゃないですよ!!このヘタレ!!木偶の坊!!唐変木!!」
「貴様ぁあ!!言っていいことと悪いことがあるはずだぞ!!ワタシは、ワタシは決してヘタレなどでは…いやギリギリ木偶の坊やらは当たってるかもしれんが…」
「そこは、全部、否定しよう、よ…」
色々と苦悩している雨竜くんの評価は置いておくとして…とりあえず、死体の検死結果は聞けた。なら、これ以上この部屋で調べることはないように思えた。
「小早川の件は保留にするとして、これでエリア5全体は見たって感じですね」
「じゃあ今度、は、爆発が起きた場所を巡って、いこっ、か」
「ですね。あんたはどうするんですか?雨竜」
「他の奴らもいずれ来ることだろう。ここで座して待つのみだ」
私達はお互いに頷き合い。エリア5の捜索に区切りをつけ、下のエリアへと捜査の範囲を広めていった。
* * *
【エリア1:炊事場エリア】
「あっ…小早川、さん」
「案外、あっさりと見つかるもんですね」
最初に爆発が起こったエリア1。雨竜くんがどこかに行ってしまったと言っていた小早川さんが、そこにいた。私たちに気づいた彼女は気まずそうな表情浮かべながら、捜査の手を止めた。
「あっ…雲居さんに贄波さん。えと…先ほどはご心配をおかけいたしました」
「いきなり謝罪から入るなんて、相当追い込まれてるですね。……まだキツそうですか」
「あはは…」
蛍ちゃんがそう声をかけてみても、力なく笑うだけ。どう見ても体調が悪そうだだった。私も人のことを言えないが…未だに折木くんの死を受け入れられていない。そう物語っているかのようだぅた。
「でもまあ、こうやって会話できるだけ回復してくれただけ僥倖ですよ。さっきは微動だにしてなかったですからね」
「はい…恐縮です」
声をかけるたびにドンドンと衰弱するようだった。今までの様なハツラツとしていた雰囲気は消え去っていると言ってもよかった。
「それにしても…ここで、一番最初、の、爆発が起こったん、だった、よね」
気を取り直して、深い睡眠からたたき起こされた原因とも言える爆発の諸元。3つある倉庫のうちの1つに目を向ける。未だ爆発の跡が残っており、モヤモヤと残火が煙を揺蕩わせていた。あのときの爆発相当なものだったことが、その威力を物語っているかのような光景だった。
「今思いだしてみても…えげつない轟音だったです。未だに耳の奥で響き続けてる気がするです」
「でも、爆発が起きただけ、で…何か、証拠らしいもの、は見当たらない、ね」
今ここにあるのは、爆発が起きたという残骸と事実だけ。それが何につながるかと言えば今まで以上にどもってしまう。
「あの、少しよろしいですか?」
「うん?何ですか?」
「私の方でも今朝のことについて思い出しみたのですけど…」
「…やっぱりそこですよね。朝食についてですよね」
「はい。どうしても今朝の”めにゅー”が気になってしまいまして」
多分、雨竜くんが聞いた”調べなきゃ”、というのはこのことだったのかもしれない。小早川さん自身も、今朝の朝食に何かが仕込まれていた。そう考えて…ココにいたのだろう。
「このように思い出せる限り書き起こしてみたんですけど…」
小早川さんは、走り書きしたメモ帳をおずおずといったように差し出した。
『雨竜:ごはん 味噌汁 おひたし 納豆 コーヒー
落合:トースト スープ 果物 牛乳
ニコラス:トースト スープ 紅茶
雲居:ごはん 味噌汁 おひたし コーヒー
小早川:ごはん 味噌汁 おひたし お茶
風切:トースト スープ 果物 オレンジジュース
贄波:ごはん トースト 味噌汁 スープ おひたし 果物 水』
そこには今朝のメニューの一覧について、それも私達全員分の食事だけでなく、付け合わせや飲み物の内訳について書かれていた。
「よくここまで細かく思い出したもんですね」
「皆様の好みは把握しておりましたので…でも飲み物だけは思い出すの時間がかかってしまいました」
「飲み物は人の気分によって変わるですからね…ニコラスみたいに紅茶オンリーのやつもいるですけど」
「それでも、ありがとう。無理させちゃった、かな…」
「いいえ。”すたーと”が遅れてしまった分、取り返さないといけませんので」
「まっ無理のない範囲で頑張るですよ。それにしても……改めてみても統一感が全然ないですね」
蛍ちゃんの感想に私も同意する。例えば雨竜くんだったら朝はごはんには納豆派だったり、風切はパンと果物ジュースじゃないと調子がでなかったり。それぞれの好みに合わせてるメニュー。…私のように用意された食事を全部食べちゃうパターンもあるし。
だからこそピンポイントで何かに入れて、例の睡眠薬が全員に行き渡るようにするのは難しく映って見えた。
「…確か小早川は前日に仕込む派だったですよね。具体的にどんな準備をしていたのか、それも思い出せるですか?」
「はい。えと、具体的にと言っても、炊飯器の”たいまー”なるものを設定しておいて…ええと、あとは事前に切っておいたおひたしや果物、それと冷やしておきたい飲み物を冷蔵庫に入れておいやくらいです」
「炊飯器、に、冷蔵、庫…」
確認のためにキッチンを見てみる。傍には炊飯器があり、中には乾いたごはんが残っていた。そして冷蔵庫を開けてみると確かにタッパーに詰められたおひたしと果物、そしてそれぞれの好みに合わせた飲み物が入れられていた。
確認を終えた私は、冷蔵庫の扉を閉める。すると、その扉に”一枚のメモ”が張り付けられていた。
「これは…」
「そういえば今朝も貼ってあったですね……小早川、この冷蔵庫の扉に貼ってあるメモはなんですか?」
「ええとそれは…時々何を作ろうとしていたのかを忘れてしまうことがあるので、全部の品目をメモに起こしてるんです」
「そのメモがこれってことですか…確かに、下準備の献立が書いてるですね」
「はい。失くしては元も子もないので…」
「成、程」
前日の時点で小早川さんが仕込んでいたことを踏まえると、そのどれかに睡眠薬を入れておけば、私達に服用させることができる。…現時点でどれに含まれていたのかはわからないけど。
確か例の…ええと『スグネルミン』だっけ。不揮発性の特徴があったはずだから…熱を加えない限り24時間ほど効能は残り続ける。
つまり事件が起こる前日…”誰にでも”朝食に睡眠薬を混ぜることは可能ということになる。
コトダマGET!!
【今朝の朝食メニュー)
…今朝のメニューは味噌汁とごはん、そしておひたし。さらにパンやスープなど朝の気分に合わせて用意。飲み物も色々と用意していた。盛り付けはそれぞれに任せている。メニューは忘れないようにメモとして残しており、キッチンに置いてある。
雨竜:ごはん 味噌汁 おひたし 納豆 コーヒー
落合:トースト スープ 果物 牛乳
ニコラス:トースト スープ 紅茶
雲居:ごはん 味噌汁 おひたし コーヒー
小早川:ごはん 味噌汁 おひたし お茶
風切:トースト スープ 果物 オレンジジュース
贄波:ごはん トースト 味噌汁 スープ おひたし 果物 水
【小早川の仕込み)
…炊飯器のタイマーをセットしておく、おひたしを漬ける、果物を切ってタッパーに詰める、飲み物を冷やしておく。などをしている。
「ここはこの辺で切り上げですかね。何となく光が見えた気がするです」
「そう、だね…色々情報、ありがとう、ね。小早川、さん」
「はい!あの…私もできるだけ…頑張ってみます!」
本当は無理をしないでほしいと言いたかったけど、人がほとんどいなくなってしまった今、そうも言ってられない。私たちは小早川さんに別れを告げると、次の爆発が起こったとエリア2へと向かっていった。
* * *
【エリア2:温泉】
「ここが2か所目ですね」
「うん」
爆発によって破壊された温泉施設。エリア1と同じように爆発の影響は残っており、煙が狼煙のようにモクモクとたなびいていた。匂いも強烈で、焼けた木材の匂いがエリア中に充満しているようだった。
「かすかだった、けど、爆発音が聞こえた、から、…ここに来たん、だったよ、ね?」
「風切の言い出しっぺです。あいつのの耳は犬並みですからね。エリア間の音くらいだったら聞き分けられても不思議じゃないです…にしては良すぎる気もするですけどね」
「……私を疑ってるの?」
怪訝な蛍ちゃんの言葉に応えるように風切さん、彼女に連れ添うように落合くんも。4回目の事件以降すっかりコンビ感が板についてきた2人が現れる。
「…聞こえたのは本当。それにあのとき少し揺れたと思うし」
「揺れも何も感じなかったですけどねぇ…」
「風切さんの、言うこと、は本当だ、よ?それに、だけど。実は私も、かすかに聞こえてたの、を、覚えてる」
「え゛っ…贄波にも聞こえてたんですか」
「……」ジャラン
「隼人もそうだって」
「……えっ…もしかして少数派なのは私の方ですか。あんたら野生人が世間でいう一般ってことなんですか」
蛍ちゃんは何故か追い詰められたような表情をひきつらせる。言われてみれば、風切さんも、落合くんも耳が鍛えられているし。私は…”あの時”の経験があったから耳もよい。
だからこの場では、蛍ちゃんはむしろ少数派なのだ。かわいそうなことに。
「念ため、記憶を、共有しておこう、と思うんだけ、ど。あのときの爆発音、って、みんなは、何回聞いてる、の?」
「…私は3回」
「……」ジャランジャラン
「隼人も3回だって」
「音で数を伝えるなです。てか2回しか弦を鳴らしてないじゃないですか。……ちなみに私は1回です。エリア2の爆発音は聞こえなかったですし、エリア3の爆発は事前に止めてたから、ノーカンです」
…私も風切さんたちと同じく3回。確認のために聞いてみたけど、そこに相違はなさそうだった。
「共有は大事なのはわかるですけど、これがどうだって言うんですか?」
「念のため、かな。ここの爆発音は、聞こえてる人と、聞こえてない人が、いたみたい、だし」
「…そうですね。実際私が少数派だったみたいですし」
言葉の通り、念のため。ついでにさっき、ニコラスくんや雨竜くんにも一応聞いていて、彼らも”1回”と言っていた。
「それじゃあ…みんなから、他に、気になること、とか、ある?」
「…ある。爆発音”以外”にも。だよね?隼人」
「……」ジャラン
見て分かる通り、落合くんからの疑問ようだ。蛍ちゃんはうんざりしたようにため息を吐く。
「落合ですか。また変な妄想をひけらかすつもりじゃないですよね」
「妄想。まさに人の思う夢、希望、そして想像。それは天の声とも言えるね」
「つまり……どういう、こと?」
「……朝食の後、私達は寝てしまっていた……そのとき隼人は変な夢を見たんだって」
「夢って…。本当にそのレベルであやふやな話だとは思わなかったです」
”ああー何だか頭が痛くなってきたです”とつぶやく蛍ちゃん。内心、私もその意見に同意する。本当に真に受けても良いことなのか、と。とにかく何かしらのヒントになると願うばかりだった。
「それで?一応聞いてやるですけど…どんな夢を見たって言うんですか?」
「…えっと、毎日鳴る”アナウンス”があるよね。その夢を見たんだって」
「朝と、夜の、モノパンの?」
「是とは肯定、僕はいつもその言葉を、沈黙とも呼んでいる」
「…そうです、だって」
「ふーん。そりゃ何度も聞いてるですから、頭に残ってたんじゃないですか?夢くらい見てもおかしくないはずです」
「現実は夢であり、夢は記憶である。僕は決して夢想も、そして妄信はしたりもしない」
「…現実味がありすぎる夢だし、しかも2回聞こえたんだって」
「これ…風切も信じてるんですか?」
「………ノーコメント」
風切さんも受け止め切れてないような様子で、およそ賛成1、反対3くらいの判定に思えた。
「でも、2回って、ことは…ちょうど朝と、夜のアナウンスの総数と、一致する、けど」
「世迷言ですよ。気に留めておくだけで良いです」
蛍ちゃんはそう言ってるけど念のため、メモには残しておこうと思った。何故なら、奇しくも私が考えていた”仮説”に付随する話でもあったから。
そういうことなら、今まで気にしてなかったアナウンスの仕組みも、モノパンに確認しておいた方が良いかもしれない。
コトダマGET!!
【聞こえた爆発音)
…生徒、モノパンともに2回聞こえている。風切さんだけは3回聞こえている。
【落合の夢)
…アナウンスが聞こえる夢を見た。それも2回。
* * *
【エリア2:美術館】
落合くんたちと別れ、同エリアの美術館へとやってきた私たち。目的は、今朝に発生した盗難事件の調査のため。
「これが盗まれた状態、って感じですかね。初めて現場を見たですけど、確かに荒らされてるですね」
「今朝聞かされて、すぐに寝ちゃった、から、ね」
…現場に来てみて、改めて盗みが本当に発生したのだと理解した。7つ並べられていたはずの道具が2つ虫食いのように抜けてしまっている。『バグ弾』と『秘密の愛鍵』がそこにあったのだと思う。
「”鍵”は分からないですけど…気になるのは『バグ弾』の方ですね」
「うん。今回の、キーワードは、『爆弾』それに…」
「今モノパンが陥っている監視カメラの不具合と関連している可能性もあるですからね」
「多分、ね。復習の、ために、『バグ弾』の、仕組みについ、て、見てみよっ、か」
今回の事件で使用された可能性の高い『バグ弾』。それが飾られていた台に刻まれている、説明文を改めて読み返してみる。
『爆弾に見えますが、爆発しても誰も傷つかない煙が凄いだけの超平和的アイテム!だけど周りの機械はおしゃかになるので注意!』
「下に注意書きが”2行”あるですね」
「ええと、読んでみる、ね。『※この爆弾は時限式です』、『※焦げ跡は残りません』…だって」
「ふーん、時限式ですか。使い方もついでに見てみたですけど…武器庫の爆弾と変わらないみたいですね。ポチポチタイマーを押して、放置して、ドカン」
「そうなん、だね」
特に目新しい部分はなさそうに見えたが、一旦『バグ弾』の使い方、そして効果を記録していった。
コトダマGET!!
【バグ弾の機能)
… 『爆弾に見えますが、爆発しても誰も傷つかない煙が凄いだけの超平和的アイテム!だけど周りの機械はおしゃかになるので注意!』
※この爆弾は時限式です
※焦げ跡は残りません
* * *
【エリア3:噴水広場】
「ここは…あたし達が寸前に止めた箇所ですね。爆発した場所と言われれば厳密には違うと思うですけど」
「でも、犯人が爆発、させようとした、場所だから、ね」
犯人の意思が読み取れるように、噴水広場の傍にある電源の落とされた爆弾が静かにたたずむ。爆発する恐れはないとはいえ、近寄りがたい雰囲気をムンムンと醸し出している。
「さっき止めた、爆弾、は…まだ残ってる、ね」
「さっさと処分したいところですけど、大事な証拠だから手を出せない。なんとも歯がゆいですね」
「おやおやおヤ?くぷぷぷぷぷ、キミタチもココを調べに来たのでございますネ」
「うわっ!びっくりさせないでほしいです!!」
すると背後からモノパンが突然現れる。なにも予兆がなかったために、私たちは振り向きざまに飛び跳ねてしまう。
「モノパンも、ココが、気になって、るの?」
「ええそうですとモ。なんせワタクシはこの現場を見るのは初めてでございますからネ。キミタチが来る前に周辺を見てみたのですが……まったく証拠らしい証拠はございませんネ!芸術的なくらい無被害と見ましタ」
「…爆発の、寸前で止めた、から、ね。それじゃあ、さ、気を取り直して、いくつか、質問しても、良い?」
「ン?ワタクシに何か聞きたいことでモ?」
不本意ではあるけど、モノパンの言う通り、この場所には何もない。でも、ちょうどよくモノパンが現れたことは都合が良い。聞きたいことがいくつもあったから。それにここまで来て収穫なしという時間の無駄遣いはしたくなかったし。
「ここの、爆発を止めた時、に、モノパンは、突然、驚きながら現れてた、よね」
~~~~~~~
『えっと、今エリア3の爆弾を止めましたから順番からして――――――』
『どっひゃあああああああア!!!!』
『のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
『きゃああああああ!!!!』
『いい、い、いきなり飛び出てくるとは何事だぁ!!』
『爆発が聞こえましたァ!!ワタクシの!!そばで!!うぇ、めちゃめちゃ煙もきておりまス……』
『え、そんな…エリア3の爆弾は止めたはずですよ!?』
『ここじゃなくて、別の場所が爆破されたんじゃないですか?』
『はい!まさに、まさにその通りでございまス。エリア5に……至急エリア5 に集合してくださイ!』
~~~~~~
「ええ、爆発音が聞こえたでございますからネ。動揺しない方が失礼でございましょウ?」
「どこの誰に無礼を働いたと言うんですか…でも思い返してみれば変ですね。こっちの爆発を止めたのに。モノパン側では…聞こえていた」
「多分、エリア5、の、『ホワイト・デッド・ルーム』の爆発音だと、思う」
「……つまり何故エリア5で起こった爆発音が、贄波サン達の方では聞こえなかったといことでございますネ。その点についてはお答えしましょウ!!それはエリア5とほかのエリアは明確に"境界線"が引かれているからでございまス」
「境界線?」
「防音設備と思って差し支えございませン。エリア5は特殊でございますから、エリア全体を隔離するように防音加工を施しいるのでございまス。だから、ワタクシ側でしか音が聞こえなかった、ということでございまス……つまりワタクシは爆発音は、”エリア1”と、”エリア5”の2回しか聞いてないのでございまス」
だとしたら…そこに違和感を覚えてしまう。それこそ、1番最初の爆発音が聞こえた時。だってあのとき、まるで”モノパンも爆発が聞こえていたかのように”現れたのだ。
~~~~~~~~
『な、何事…でございますカ!!!先ほどの爆発音……はっ!?』
『ようやくきたか…遅いぞ!貴様の施設が燃えていたのだ!今まで何をやっていたというのだ!!』
『――――――はっ!……えっ?えっ?』
~~~~~~~~
エリア5と他のエリアが隔絶していたのなら、モノパンが聞いた”最初の”爆発音はいったいなんだったのか。
「………」
でも今はそれを議論する時間ではない。1つの議論の種として、記録を残しておくに越したことはない。
コトダマGET!!
【防音設備)
…エリア1~4とエリア5は隔絶されており、完全に防音。
コトダマUP DATE!!
【聞こえた爆発音)
…耳の良い風切さん、落合くん、私(贄波)は3回。モノパンは2回、蛍ちゃん、ニコラスくん、雨竜くんは1回、爆発音を聞いている。
「モノパン、もう1つ、教えてほしいんだけ、ど。いつもかけてる、朝と夜の、アナウンスって、録音?」
「ああ。さっきの落合の話ですね…」
「ン?落合クンがどうかなさったのでございますカ?」
「こっちの話だから気にしないで良いです」
「意図はよくわかりませんガ…贄波サンのおっしゃる通り、あのアナウンスは基本的に”録音”でございまス。決まった時間に、決まったタイミングで、決まった映像と音を流しておりまス。”特例”が発生した場合は、こちらがオートで操作する仕組みになっておりますけどモ」
「特例っていうのは、例の盗みが発生したときみたいにですね。……まあそれが今回の事件に関係しているか不明ですけど」
”その通りでございまス”と、モノパンは素直に肯定する。
蛍ちゃんの言う通り、この話が今回の事件に関係しているのか、それすらわからない。何故ならこれは、落合くんの夢の延長線のお話。さっきも、今も、信じ切っているとは言わない…不確定で、不可解で、不思議な話。
でも私の”仮説”を補強するためには、この仕組みは踏まえておく必要があるのだ。
コトダマGET!!
【アナウンスの仕組み)
…朝と夜のアナウンスは基本的には録音。特例があった場合はモノパンルームで操作している。
* * *
【エリア1:ログハウスエリア(折木公平の部屋)】
”今朝からの折木くんの行動がわかる情報はないだろうか”
これまでの証拠からはどうにも掴み切れない折木くんの動きを知るために。例のごとくモノパンに扉を開けてもらいながら私たちは、ずかずかと部屋へと押し入っていく。
「……」キョロキョロ
部屋の中を軽く見回してみる。折木くんは積極的に部屋に招くタイプじゃなかったけど、一度だけ訪れたことはある。部屋はその時と変わらず整然とした様相で、掃除も行き届いており、家具の配置も整っていた。
…しかし物は少なく、昨今の高校生の部屋としては、少し物足りないような印象だった。
「殺風景ですねえ…」
「やっぱり、そう思う、よね。でも、そういうところ、も、1つの魅力、だったん、だよ?」
「ふーん、そんなもんですかね。まそれはそれとして…早速中を調べてみるとするですかね。こういうときはベッドの下とかゴミ箱とかに隠されていると相場で決まってるです」
「”そういう”、本とか?」
「あいつがそういうの隠してるイメージは湧かないですね。同年代とは思えない枯れっぷりですからね…」
「でも、前に、覗きはしてた、よね」
「あのときのあいつ等はスケベを通り越してむしろ面白かったですけど……意外とあんた、根に持つタイプだったりするですか?」
「思い出を、大切にする、タイプ、だよ」
”そ、そうですか”と蛍ちゃんは頬を引くつかせる。そう、私は大事なことはちゃんと覚えておくタイプ。誓って根に持つタイプじゃない。決して。
…気を取り直して、軽く目星をつけていたゴミ箱。ベッドの下をそれぞれ探索していく。というか他に調べられそうなところがなかったからとも言えたけど。
「ん?……これは、何かあるですね。贄波ちょっと見るです」
「本当?どれ、どれ…」
ベッドの下をのぞき込む蛍ちゃんが何かを見つけたのか私を手招く。誘われるがままに、一緒にのぞき込む。はたから見れば滑稽な光景に見えるかもしれない。男子の誰かがここにいなくて良かったと心からそう思った。
「うーーーん…あっ、取れたです」
蛍ちゃんが精いっぱい腕を伸ばし、指を滑らせ、一枚の紙をベッドの下から取り出す。何かしらの文字が透けて見えたので、手紙が裏側のままベッドの下に落ちていたようだ。
「じゃあ、見るですよ」
「…うん」
ゴクリと生唾を飲み込みながら、その紙を思い切って裏返す。
そこには―――
『真実を知りたければ、本日夜。”資料室”に向かわれたし』
「……!」
「こ、これは!!」
折木くんを呼び出すようなこの手紙。『資料室』という文字が走っていることに私たちは驚きを隠せなかった。
「…思わぬ形で、あの部屋と繋がったもんですね」
「うん。…でも」
蛍ちゃんと捜査して見つけた。部屋の中での争った形跡の理由に説明がつくことを一瞬で理解できた。だけど私たちは、その”事実”にまだ動揺を抑えられずにいた。
「…まずは、まずは、分かることから整理するです。この呼び出しの手紙からして、本当の犯行現場がホワイトデッドルームじゃなくて、”資料室”…行ったタイミングも、睡眠薬を盛られた後…になるんですかね」
「うん、それで間違い、ないと、思う。私が、今朝尋ねた時、寝息が聞こえてた、から」
実際に耳を扉に当てて確かめたから間違いない。…そう、そこ”まで”は良い。そこまでは。私たちが疑問を尽かせずにいるのは”そこ”じゃない。手紙の最も”気になる部分”。
「『本日の夜』…とてつもなく気になるワードですね。これまでのストーリーだと、あたし達が睡眠薬を盛られた後すぐ、折木は手紙を受け取ってそして資料室へと向かった。そう思っていたはずです」
「……」
そう、”はず”なのだ。事件が起こったのは今日の昼の話。なのに…”夜”と書かれている。掴めなかった折木くんの行動が、ますます掴めなくなっていくようだった。
仮にこの手紙で折木くんが資料室に呼び出されたとしたら、時間の矛盾が出てきてしまうのだ。その所為で、この手紙が本当に折木くんへと宛てられた手紙なのか、それすら疑ってしまう。
だけど…事件に全くの無関係であると断定する理由もまたなかった。
コトダマGET!!
【折木宛ての手紙)
…折木の部屋で見つけた手紙。『真実を知りたければ、本日夜。資料室に向かわれたし』と書かれている。
【折木の行動)
…生徒達とモノパンが睡眠薬を盛られた朝9時以降、資料室に向かい、殺害後…”ホワイトデッドルーム”に運び込まれ爆破される。
『キーン、コーン…カーン、コーン』
『えーお話ししたいことは山ほどあるのですが、ワタクシも捜査している身ですので、手短ニ』
『ある種、ある意味今回の事件が最後となりまス』
『当然でございまス。終わりが始まるということは、終わりがあるということ。最初があるのだから、結末があるということ」
『そしてそれは雷鳴のように突然と、恋のように突然に、ご都合主義のように突然に』
『だからこそより一層の引き締めを。ワタクシも含めテ』
『中央棟、赤い扉の前にて落ち合いましょウ。ワタクシはそこにおりませんガ』
『勝手に乗って、勝手にお越しくださイ』
『ちなみにこの音声と映像は録音、録画となりまス。一定時間の後に爆発することはございませんのであしからズ』
悶々と考えを巡らせている最中、見計らったかのようにアナウンスは鳴り響いた。タイムアップ。この長いとも短いとも感じた捜査時間の終わりを告げる合図であった。
「あいつ…わざわざ録音までしてたんですね。律儀なもんですよ」
「モノパンも、捜査していた、みたいだから、ね。余裕、なかったの、かな」
実際にエリア3で会った時も、どこか焦っている様にも見えたし、しょうがないのかもしれない。
「腹くくる準備はできてるですか?」
「うん、あとは、出たとこ勝負」
「頼もしい自信ですね」
…とは言ってみたけど。今回の事件、”違和感”しか感じない。こうやって証拠をかき集めても、何1つ真実が見えてこない。トリックだけじゃない、犯人が何をしたいのかも含めて、まったく。
「……」
分からないのなら、議論の場で見つけていくしかない。というか、今までも、そんな風に挑んできた。いつも通り、平常心で、言葉の弾の準備をしていくしかない。絶対に、真実を掴んで見せる。
「んじゃ、行くですか」
「うん」
私は覚悟を持って、赤い扉へと向かっていった。
* * *
【中央棟エリア】
アナウンスに導かれ、中央棟の赤い扉の前に集まった生徒達。私たち二人が最後みたいで、全員の視線が集中する。扉の前にはニコラスくん、雨竜くん、落合くん、風切さん、そして小早川さん。全員がそろい踏みだった。そう、全員だ。
「…少なくなったもんですね」
改めて、誰にも聞こえないくらいの声で蛍ちゃんはそうこぼした。
――――たったの7人。
既に半分以上の生徒たちが亡くなってしまった。
じわじわと、少しずつ、1人、また1人といなくなっていって、そして今。首を緩く、そして段々と強くしめられていくように、世界がどんどん寂しくなっていく。
そして―――また1人。この中の誰かが…。
折木くんを殺した誰かが、また犠牲になるということに。
「……」
「……」
誰も言葉はなかった。全員、すでに裁判に集中しているような、鋭く、そして厳しい空気を感じる。これまでにないほど、張り詰めた雰囲気だった。
――――ガコン
私達が着いてから間もなく、揃ったことを感知したからなのか、赤い扉は…その口を大きく開いた。まるで生贄を待ち構えるように、生贄を欲するように。
「言葉はいらないな。全員覚悟は決まっているな…行くぞ…」スタスタ
「何が答えなのか、何が疑いなのか、それは足りずとも、自ずと見えてくるだろうね」スタスタ
「……全然捜査できなかった」スタスタ
「ああ、心配はいらないとも。何故ならこの”超高校級の名探偵”であるボクがついているのだからね」
雨竜くんを皮切りに、落合くん、風切さん、ニコラスくんがエレベーターの中へと吸い込まれていく。残されたのは、小早川さん、蛍ちゃん、私の3人だけ。
「小早川…あんたは、行かないんですか」
「…ええ行きますとも。絶対に犯人を見つけてみせます。その言葉に二言はございません」スタスタ
極めて珍しかった。先ほどのおどおどした雰囲気が、今の小早川さんからは感じられなかった。とても引き締まった、いやむしろ締め付けられたように…赤い扉へと向かっていった。
「…緊張しているのが丸わかりですね。暴走しすぎてあらぬ方向に行かないと良いですけど」スタスタ
正直、人のことは言えないと思った。蛍ちゃんもまた、その小さな手を震わせながら、緊張した心を隠せずにいた。だけどそんな様子は見せない蛍ちゃんも、みんなの後を追って扉の中へ。
最後は私。誰もいない中央棟で、1人、息を大きく吸い、そして吐いていく。
「…見てて。折木くん」
この裁判を絶対に生き延びてみせる。その言葉と決意を持って。
大切だったあの人の名前を、お守りようつぶやき。扉の中へ。
そして全員がエレベーターへと入ったところで。
――――ガコンッ
扉が閉まり、その鉄格子の塊は下へとくだっていく。地獄の道行へ…私たちを誘っていった。
* * *
――――浅く、そして深く重力が体を抑えつけエレベーターは下っていく
――――耳鳴りを響かせながら、ゴウンゴウンと
――――生贄を飲み込もうと、私達を底へと運んでいく
「……」
――――底まで運ばれるその途中。
――――私たちの間には、無言の空間だけがあった。
――――誰も、何も言わず、エレベーターの下降音だけが響きつづけるだけ。
――――まるで見えない壁が、見えない境界線が、この小さい箱の中で私たちを隔てているようだった。
――――誰も言おうとせず、誰も聞こうとせず、誰も見ようとしていなかった。
――――今までの信頼も、全てなくなってしまったように。
きっと…そうなんだと思う。
たった1文の特別な規則によって、1人の命が奪われたのだから。
誰かがその1文によって命を粗末にしようとしているのだから
反町さんのように、繰り返してしまったから
きっと信じられないことなのだろう。
信じられないからこそ、私自身も、皆様自身も、きっと今まで以上の疑心暗鬼が蔓延っているのだと思う。
この世界から出たいというエゴなのか、それともこのコロシアイを終わらせたいというエゴなのか。
きっとそれはたった一人しかわからない。
折木くんを殺した、犯人だけ
そのまま、誰1人として言葉を交わさず
チーン――――――
到着の合図と共に、入口である鉄格子が、ガラガラと開いていった。
* * *
【裁判場】
「…」
―――学級裁判場。
目の前に広がる、今やおなじみともいえるこの舞台。誰一人として、この舞台に二度と、もう三度と立ちたくないと、そう思っていたはずの、この空間。
「お待ちしておりましタ。モノパンの学級裁判場Ver5、それは5回目を意味しておりますが、まあ最後のバージョンと言ってもよろしいでしょウ。どこぞの仮面なんたらよろしく、ファイナルフォーム」
「………」
そして裁判場はこれまでと同じように、またその様相を変化させていた。
床も壁も、薄暗い黒で塗りたくられ、その中でまるで血管道をのようにさらに黒い筋が描かれている。黒い筋の中には赤く、青く、黄色く、小さな粒が点滅しており。沢山のサーバーに囲まれているような、近未来的な様相。まるで暗い未来を表現するかのようなデザインとなっていた。
そしてもう一つ、部屋の内装以外に違うところがあった。
「お、おいその席はワタシの席ではないのか!」
モノパンが、今まで座り込んでいた玉座から、目の前にあった雨竜くんの席に立っていた。今まで自分が立っていた彼からしてみれば、指摘せずにはいられなかった。
「だってこの玉座から議論に参加すると色々面倒でございましょウ?ワタクシ、そういう細かいところはきっちり線引きするタチでございますのデ」
「いや確かに議論に参加するのだから貴様にも席が必要だが…何もワタシの席を奪う必要はないであろう!」
黙って席へと着いていく生徒達の脇で雨竜さんとモノパンは言い争う。そこにモノパンがいるということは、必然的に、雨竜くんは押し出されてしまうことになる。自分はどこで議論に参加すれば良い、そう困惑していた。
「では他の方の席をお使いくださイ。ほら、丁度折木クンの席が空いておりますヨ」
そう言われて初めて気づいたけど、確かに折木くんの席だけぽっかりと空いていた。不自然なくらい、”何も”置かれていなかった。
「モノパン、恒例の悪趣味な遺影はどうしたというんだい?」
「今回はワタクシは多忙を極めておりましたので、遺影の準備ができておりません。それに最後なんですから、正直もう必要ないでしょウ」
「必要も何も、やめてもらって清々するです」
「…同感」
蛍ちゃん達の小言も気にせず、モノパンはそこに座れと雨竜さんを指図する。ため息をつきながら、雨竜くんは折木くんの席におさまった。とても気まずそう。
「ふぅ、玉座で座っている景色よりも少し低くなっただけですが、やはり空気は全然違いますネ。まるで宇宙と地表のような感じです」
「全然違うどころか有るか無いかのレベルではないか…」
「だけどこちらも不思議な気分だよ。さながら最終決戦のようにね」
「まったくです。これからあんたを鬼詰めできるのが楽しみで仕方ないですよ」
「くぷぷぷ、今回はむしろワタシはアナタ達を詰める側ですからネ。そこはあしからズ」
軽いジャブのような言葉を交わしあい、そして私たちは再び向き合う。互いと互いを。エレベーターでの壁も、境界線も、全て、無理やり取っ払って。空気がまた少し、引き締まるのを感じた。
「痛みは常にこの胸に。始まりの夕刻。終わりの刻限。極致を見せてあげようじゃないか」
「風切…今奴は何を言ったのだ?」
「…これは私にもわからない」
………
――――私は視線を裁判場の中央へと移す
たとえどんなに変わり種の状況でも。どんな事態でも。
命をかけて、私達は私達を疑い切らなければならない時間。
”あの人”を殺した犯人を突き止めるための、時間がやってきた。
――――『超高校級の不幸』…いや『超高校級の特待生』“折木 公平”
あまり自分のことをしゃべらないけど、とても実直で、とても真摯で、とても一生懸命な人だった。仲間同士のコロシアイという異常な状況の中で、誰よりも真実に進み続け。殺しを起こしてしまった仲間に誰よりも向き合っていた。
何よりも…私にとって、大事な人だった。友達として、いや友達以上の…。
――――その大事な人を殺したクロが…この中に居る
いつぞやかに…折木くんは言っていた。”信じているから、疑うのだと”
その言葉が、今になって何度も何度も頭の中で反響する。
そして同時に思う。私は、折木くんのようにできるのだろうか。
いざクロと対峙して、私は臆さず、折木くんのように真実を求めることができるのだろうか。愚かな私が、どこまで、この事件解き明かすことできるのだろうか。
バチンッ!と私は両の頬をはたく。
悪いイメージが頭の中を支配してしまいそうだったから。”あの時”の不安感が蘇ってきそうだったから。
そうだ。難しく考えても仕方ない。
――――私にできる最大限の努力するしかない。
――――私にできる最大限の真実を求めていくしかない。
――――だって私は…”探偵”でも何でもないんだから。
『生き残りメンバー:残り7人』
【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)
【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)
【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)
【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)
【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)
【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)
【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)
『死亡者:計9人』
【超高校級の不幸】折木 公平(おれき こうへい)
【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)
【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)
【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)
【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)
【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)
【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)
【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)
【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)
いつもお世話になっております。
約1年ぶりの投稿になります。
人数の少なくなってきたので、短めです。
【コラム】
〇名前の由来コーナー 折木 公平(おれき こうへい)編
作者から一言:お前動かしづらいんだよ!
コンセプトは探偵…助手役。主人公タイプというわけではなく、いわゆるシャーロックホームズでいうワトソンみたいな№2タイプのキャラクターをイメージ。
性格としては寡黙な武士をイメージ。愚痴ると寡黙すぎてとにかくしゃべり方がむずい。ずっと「ああ…」しか言ってない気がする。
名前の由来は小説『氷菓』の『折木奉太郎』の"折木(おれき)"。また原作『ダンガンロンパ(無印)』の主人公が『誠(まこと)』なので、リンクした名前にしたいと思い”公平(こうへい)”という感じで決まりました。一番最初に決まったと言っていい名前。