ダンガンロンパ・リバイバル ~みんなのコロシアイ宿泊研修~   作:水鳥ばんちょ

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Chapter1 -(非)日常編- 3日目

【ログハウスエリア:折木公平の部屋】

 

 

 ――チュンチュン、チュンチュン

 

 

 どこからともなく、鳥のさえずりが聞こえてきた。

 

 新しい一日を知らせる様に、いつもの日常を象徴する様に、小さな生命は声を鳴らしていた。

 

 窓を開け放てばその姿を拝めるのではないか…そう錯覚してしまう程その声は澄んでいた。

 

 

「…………朝か」

 

 

 だけどここには、この世界には、俺達人間以外の形ある生物は存在していない。朝起きる度に聞こえていたこの声の主は…音だけでしか、その存在を認知することが出来ない。これがこの世界、『ジオ・ペンタゴン』の当たり前。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 ……何となく、この世界の常識を押しつけられたような気分になってしまった。俺は憂鬱な思いを吐き出すように息をついてしまう。

 

 

「昨日よりかは…寝起きは良い方、か……」

 

 

 だけど、一日の始まりがため息だからと、その日の気分が特別優れていないというわけではない。…むしろ、昨日はモノパンとあまり関わらなかった分ストレスが軽減され、比較的良好な寝起きの状態まであった。

 

 絶好調の一歩手前…そのぐらいの気分だ。

 

 俺は、部屋の壁に備え付けられた壁掛け時計を見上げてみた……時計の短い針は5を刺し、長い針は6の数字を貫いていた。…今現在の時刻は朝の5時半。

 

 

「早めに起きすぎたか……?」

 

 

 俺としては、いつも通りの日常の起床時間と言えた……。だけど、この施設での生活を開始してからたったの2日で、そのいつも通りに体が適応してしまったこと。それに対して、“こうも簡単に慣れるモノなのか…?”と我が事では無いような驚きを表した。

 

 

 ――ここに住み慣れていた訳でもないのに、どうして…?

 

 脳内で、振り払い切れない違和感が渦巻く。

 

 しかし、そんな事を考えても仕方ない…そう俺は脳内の小さな曇りを、単なる気のせいだと切り替え、そのままベッドから立ち上がる。

 

 そして俺は、ほんの数分シャワーを浴びる。すでに昨日の夜に浴びていたので、軽く体を流す程度。上がった後は服の着替え。

 新たにクローゼットから、昨日一昨日と同一の、だけど新品同然の制服に着替えていく。使い終わった昨日の服と下着類は新品の服とは別の場所にしまい込む。

 

 

「よし準備は良いな……」

 

 

 まだ皆との生活が慣れていないせいか、少し準備に力を入れてしまった様な気もする。しかし、コレも1つの身なりにおけるマナーのようなモノ……毎朝続けられるか微妙として、三日坊主にはならないようにしよう……俺はたわいも無い決意を抱いた。

 

 

「少し早い気もするが…」

 

 

 炊事場に行ってみるか……朝のアナウンスが始まるまでまだ1~2時間もある。倉庫も購買も開いているはずも無い…朝食の準備も完了している訳がない…それでも俺は何となく、早めに部屋を出てみようと考えた。

 

 もしかしたら俺のように朝早くに起きすぎて時間を持て余している人間がいるかもしれない……誰もいなかったとしても、いつもの数倍静かな森を満喫してみるのも良いかもしれない……。

 

 そんな風にして、俺は頭の中でほどよい柔軟性を保ったままに、自分の部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

【噴水広場】

 

 炊事場へ向かう道中、一つ気になることを発見……というより発聴した。俺がログハウスエリアを出てから数分後の、噴水広場へと足を踏み込んだ時…。

 

 

「――――!」

 

 

「ん?………」

 

 

 誰かの声……少しかん高かったので、恐らく女性の声のようなものが聞こえた気がした。方角的には……グラウンドの方だった。

 

 

「少し…行ってみるか……」

 

 

 炊事場に行ってもやることはないという腑抜けた事情があった俺は、頭に広がる当初の予定表に、興味本位で、新たにグラウンドへと向かうことを書き加えた。そしてそのまま方向を向き直し、グラウンドへと続く遊歩道に沿って歩き出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

【グラウンドエリア】

 

 

 

「――――っ!!」

 

 

 グラウンドに近づくにつれて、声は徐々に大きさを増していく。…その声色には勢いがあり、剣道とか柔道をする時に発するニュアンスに近い声であった。

 

 

「―――――はっ!!」

 

 

「まだまだ脇が甘いよ!!」

 

 

 グラウンドへ到着してみると、そこでも2人の女子生徒が激しくバトルを繰り広げられていた。片方はまるで合気道をしているかのように、袴の袖をまくる小早川。もう片方は、シスター服のまま激しく動き、小早川の攻撃をいともたやすくいなす反町だった。

 

 …どうやら、反町達が前に話していた護身術…確か名前は「反町流喧嘩殺法」……だったろうか?俺はその稽古現場に遭遇してしまったらしい。

 

 気づいていないところで悪いが。少し見学してみるか…。

 

 その護身術というものに好奇心が湧いた故に、二人から少し離れた場所から傍観を始めていった。

 

 

「ここです!!!」 

 

 

 教え子である小早川は右拳を固く握ったまま、地面に片足がめり込むのでは無いかというほど激しく踏み込む。そして踏み込んだ時に発生する瞬間速度と、自分自身の体重を利用し、無防備な反町めがけて握りこぶしを携えた腕ごと突き出した。その勢いには、護身術に関して門外漢の俺にですら分かるほど、真っ直ぐな気迫が乗せられていた。

 

 

「――――今度は足!!」

 

 

 小早川からの強力な一撃を腰を低くしながら、回るように躱す反町。そして躱した勢いを維持し、そのまま小早川の膝元まで潜り込む。反町は腕をラリアットをするように伸ばし、小早川の足を金魚すくいの如く、華麗にすくい上げた。

 

 

「がはっ……!」

 

 

 反町のカウンターをもろに受けてしまった小早川は、空中をキレイに一回転。前方倒立回転飛びを失敗してしまったかの如く仰向けに倒れてしまった。倒れた余波によるモノなのか…ほんの数センチ、地面に体が弾んだように見える。

 

 

 …あの様子と言葉から、倒れた拍子で肺全体にダメージがいったな………多分数分はまともな呼吸が出来ないだろう……。と、他人事にそう独りごちた。

 

 

 ………しかし、このようにゴチャゴチャと横から解説を入れているのだが、よく考えてみよう。何度も言うとおりコレは護身術の訓練だ。間違っても自ら攻撃を加えるような挑発的な術では無い……はず。

 

 だが俺には、教えられる側であるはずの小早川が、反町に対して攻撃を加えていたようにしか見えなかった。…見方によっては、小早川が悪漢という役柄で反町に襲い掛かり、それを実際の技を使って身を守る実践演習のようにも見えなくも無い……。

 

 だけど、最初に言ったとおり、小早川が使っていたのは自分の体幹を利用した原理の技であり、素人がするような動きでは無かった。明らかに必殺技の類いである。反町流喧嘩殺法……護身術と言い張ってはいるが、恐らくも無く、格闘術の一種だ。俺はそう確信した。

 

 

「ハァー、ハァー。反、町、さん…息が、できません」

 

「あ~…ちょっとやりすぎたかもしれないね……すまん小早川」

 

 

 地面に倒れ、なけなしの酸素にすがりながら胸を上下させる小早川。それを、指導に熱を入れすぎてしまったと申し訳なさそうに見下ろす反町。……なんだかバトル漫画の修行シーンのように見えなくもなかった。

 

 

「……おい、さすがに大丈夫では無いだろう……小早川」

 

「ハァ、ハァ、あれ……?折木、さん?いつのまに?」

 

「おーう、おはようさん…………何だかみっともないところを見せちまったみたいだね」

 

「ああ、おはよう……だが、朝っぱらからずいぶんと激しい運動をしていたみたいだな。若さがあって良い、と言うべきか。それとも朝から無理のしすぎだ、と言うべきか?」

 

「後者さね。人に教えるのは初めてだから、ちょっと加減が分からなくてね……コイツの飲み込みも良いことも手伝って、つい力を入れ過ぎちまったよ……」

 

「ええ、!初めて、だったん、ですか?」

 

 

 小早川は首を上げ、驚いた顔を反町に向けた。

 

 

「……それで良く伝授しようと考えたな」

 

「前々から技術の伝承ってのがやってみたくってねえ…何事も挑戦だと思って無理矢理こんな機会を作ったのさね。……それに、やりたいことをふんわりとさせとくのは、アタシの性に合わないし、聖書にも何か……こう……努力しなさい的な事が書いてあった気がするからね!」

 

「いや聖書の部分がふんわりしてちゃだめだろ……」

 

 

 はぁ……ここまで大雑把でシスターが務まるのだろうか?…だがまあ、反町の場合…シスターとしてだけで無く、孤児院を経営しているという部分も評価されての超高校級のシスターなのだろうが……。

 

 俺がコソコソとした反町に対して疑問を抱いていると……突然、“あっ!”と腕に付けられた時計を見ながら、気づいたかのような声が反町から上がった。

 

 

「ああ…もうこんな時間かい……このままじゃ!!朝ご飯が間に合わなくなっちまうよ!」

 

 

 右手で頭を掻きながら、反町は焦ったような顔を歪ませる。

 

 …確か、俺が部屋を出たのが5時半で……そして今の時点で30分ほど経っているから丁度今は6時くらい……だろうか…。

 

 

「…まだ朝のアナウンス前だろ?倉庫はまだ開いていないと思うぞ」

 

 

 そう、モノパンの提示したジオ・ペンタゴンの規則の1つには、夜時間の間は倉庫は立ち入り禁止になるという項目がある。夜時間というのは夜の10時~朝の7時までの間の時間……つまり、今はまだ夜時間の範囲内なのだ。

 

 

「それなら心配は無用さね!昨日の夜のウチにバッチリ仕込んどいたからね!……ちなみに今日のメニューは、パンとホワイトシチューだよ!」

 

 

 そうか、成程。確かに前日の内に作っておけば、朝のアナウンス前でも食事の用意ができる……。だけど…それを加味しても、早すぎる気もするが……。

 

 

「それにアンタも聞いてると思うけど、今日は陽炎坂の奴が運動会だか何だかを開くとか言ってたじゃないかい?そのイベントのための昼食の準備もしなくちゃならないんだよ……」

 

 

 しょうがなさそうにに頭を掻く反町を見ながら俺は一人合点をする。

 

 そうか、だから焦ったようにしていたのか……。

 

 

 

「朝食に加えて…運動会の準備もするのか……さすがにオーバーワークじゃないか?俺に出来ることなら協力するぞ?」

 

「何年何十人ものガキ共、それに加えて舎弟共の飯を作ってきたと思ってんだい?こんなもん造作もないさね!むしろ、食ってくれる奴が大勢居てくれるだけで作りがいがあるってもんだよ!!」

 

 

 “アタシにまかせな”と言わんばかりの気概で胸を張る。その勢いに、俺はわずかに押されてしまう。…流石は孤児院の経営者であり、関西最強の不良集団のトップと言ったところだ……後半はあまり関係ないと思うけど……。

 

 

「…流石の気概だな」

 

「……そこでなんだけど…折木。その料理の方はアタシに任せて貰いたいんだけど…それとは別に頼まれてくれるかい?」

 

「…ん?ああ、良いぞ」

 

「……そこで倒れてる、小早川の事、見といてくれないかい?……料理をするのと、人を看るのとでは、どうしても体が足りなくてね……」

 

「ふぅー、ふぅー」

 

 

 ああ、成程。確かに1人じゃ出来ないな。俺は納得した。

 

 

「…それは、かまわないんだが……何か具体的にしなければならん処置はあるか?生憎、怪我とは無縁な人生であったから……この状態からの処置が分からん」

 

 

 …確か、人生の中で怪我をしたのは、中学の体育の授業の一環である柔道の時間に腕を折ったことと、前居た高校で疲労骨折をした位……どちらも救急車に運ばれて事なきを得る位の怪我だったから……本当に分からない。

 

 

「……まあ、別に大した事はしなくても良いよ。とにかく呼吸が落ち着いてきたら、立たせてあげて、あのベンチに座らせてあげてほしいさね。でも、もし何か様子がおかしそうだったら、アタシに言うさね」

 

「了解した…」

 

 

 成程、それくらいだったら、俺にでも務まりそうだな…。お安いご用と俺は何の不安も無く引き受けた。

 

 

「それじゃあ小早川…無理せず今日はゆっくり休みな。キツそうだったら明日の稽古は無しにしても良いから」

 

 

 反町のその言葉に、“えっ!”ッと言うように、首をまた曲げながらまた反町を見上げる。首

 

 

「い、いいえ。大丈夫、です!だいぶ、楽になってきましたから…すぐに、良くなると、思います!だから、明日も、稽古を、続けましょう!反町さん!」

 

「その倒れながらの首を曲げる体勢は、楽とは言い難いんじゃ無いか?」

 

 

 真っ直ぐな瞳で反町を見つめながら、たどたどしい語調で、そう答える小早川。

 

 ……俺も人よりかは真面目な方という意識はしているが…小早川も大概な律儀さだな……。何となく共通点を見いだせたようで、少し嬉しくなる。

 

 

「そ、そうかい?じゃあまたいつも通りの時間で続けさせてもらうけど……無理しすぎなさんなよ?……それじゃあアタシ行くからね?もし何かあったらすぐに言いに来るんだよ?すぐにだよ!」

 

「お前は親馬鹿の母親か…」

 

 

 ……荒々しいが、どこか優しさがにじみ出る行動の数々…。その漏れ出た優しさに惹かれて、幼い子供達や、その舎弟が反町に懐いたりするんだろうな……いや、輩に懐かれるのは、正直考えたく無いな。

 

 反町を見送った俺は、仰向けに倒れる小早川の容態が落ち着くまで、静かに見守り続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

 

 

 

「……すみません折木さん。わざわざベンチまで運んでいただいてしまって……重くありませんでしたか?」

 

「いや、気にするな。……それに、別に重くもない。むしろ軽い方だ」

 

 

 まぁ……実はそこそこ重さがあったというのは内緒だ……。だけど、女性に対して重さの話をするときは全神経を使って気を遣え、と姉さんから教わっているから…ここでは今のセリフが出てきたのは、普段の心がけによるものだ。

 

 

「フフッ。そこまで気を遣わなくても良いですよ?私そんなに体重気にしてませんし…むしろお師匠からはもっとふくよかになれって言われているくらいですから」

 

 

 予想外にも、自分の体重については気にしていない、むしろ歓迎という様子の彼女。だけど、そのふくよかになるその目標へは、もう少し時間が必要だろう。何故なら、その全ての栄養の行き先は…言うまでも無く、その胸に……。

 

 

 いや、コレはデリカシーに欠ける反応だな、止めておこう。

 

 

「そ、そうだ!小早川。お前の話に出てくる、そのお師匠というのは……一体どのような人なんだ?」

 

 

 男として尊厳を保つためということ反面、純粋に興味があったということから、小早川の師匠の話に切り変えてみる。

 すると小早川は少しキョトンとした顔になり、そしてすぐに顔を緩ませ、思い出を語るように静かに話し始める。

 

 

「…お師匠はお師匠です。私に華の道の基礎を教えてくれた偉大なお方です。凜々しくて、美しくて、何よりも格好良い。あの皺だらけの手から作り出される生け花の数々は、あの人の人柄をまるっと写したみたいで、気品に満ちあふれていました……」

 

 

 頬を両手で包み、まるで恋する乙女のように空を見上げる小早川。…師匠に対して相当お熱のようだった。俺自身も、思わず頬をほころばせたくなるような、幸せな表情だった。

 

 

「成程…正しく師匠って感じだな…」

 

「はい!華道の源流たる小早川流の頂点、師匠の中の師匠…まさに”すーぱー”師匠なんです!!」

 

「…一気に幼稚な表現になってしまった気がするが……でも、そんな素晴らしい人に師事できるなんて…やはり超高校級のお前だからこそ…とも言えるな…」

 

「えへへ……そうでしょうか。折木さんにそう言われると…なんか嬉しくなっちゃいますね……でも…」

 

「…どうした?」

 

「華道以外にもお化粧とか、料理とか、女性としての道もみっちり教え込まれたんです……日常の1つ1つの所作全ても華道なりって」

 

「……へぇ。普段の中でもストイックなんだな…」

 

「…いや、正確には”あいきゅー”が圧倒的に低くても、家事が完璧なら、嫁のもらい手は引く手あまた……でしたかね?何であんなこと言っていたんでしょうか…そもそも、あいきゅー、って何でしょうか?」

 

 

 いや、師匠もしかして…日常が厳しいんでは無くて、小早川の将来が厳しい…と思って色々教えていたのか?…だとしたら、相当苦労したんだろうな…。

 

 俺はまだ見ぬ師匠というお方へ、心の中で静かに敬礼をした。

 

 

「……しかし、女性としての基礎……ということは、師匠は女性なのか?」

 

 

 さっきの発言から、何となく引っかかっていた事を言葉にしてみる。まあ…別に女性で無くても、そういう事も教えられるとは思うのだが…。確認の意味を込めて、聞いてみた。

 

 

「ええそうですよ。もう90に程近いおばあちゃんです…座右の銘は『年の功は華の功』という、まさに華道一本筋のお人です」

 

「…90歳」

 

 

 ……俺のおばあちゃんでもそこまで長生きはしなかったから、どんな感じなのか想像がつかんな…。

 

 

「しかし、もう大往生の域の年齢だな……。それに、その年になるまで一つの事を極めている……と言うことに、驚きよりもとてつもない凄みを感じるな」

 

 

 …加えて羨ましくもある。たった1つの道を究めるということは、その道を死ぬまで歩き続けると言うことに同義…。並の人間では出来ない所業だ。凡人の俺だったら……足がすくんで、歩むことすら修羅の道。

 

 

「ですよねー!もうあの熟練された動きは誰もマネなんて出来ません!!私も形式程度には何とか模倣は出来るんですけど……やっぱり、あの美はあの人にのみしか出せない神業なんですよ!」

 

 

 興奮したように、師匠について大げさに語り出す。……これは恋する乙女というよりは、重度のアイドルファンのみたいな装いだ。いや、でもそれを模倣するだけでも、相当な技術がいると思うが…。

 

 

「そんな技巧の持ち主がこの世に居たなんて……そのお師匠様の名前はなんて言うんだ?是非とも教えて欲しい」

 

「えっ!お名前…ですか?ええと、言っても良いですけど……その……」

 

 

 大した質問では無いハズなのに…先ほどの興奮した様子からは打って変わって…何故か、しょぼんとした表情へと沈んでしまう小早川。どうしてためらっているのだろうか…のぞき込むように、俺は体を傾ける。

 

 

「名前……言いにくいのか?それなら…別に…」

 

「い、いいえ!そんなことはありませんよ!!ええと、名前は『小早川 小金(こばやかわ こがね)』……と言います。はい…」

 

「…”小早川”……?というと……お前と同じ名字だよな…もしかして…身内か?」

 

「………はい」

 

 

 そう聞くと、さらに肩を竦める小早川。

 

 まあ考えてもみれば、小早川流の家元なんだ…その名前を自身で襲名しても可笑しくないとは思っていたが……まさか、本当に血の繋がっている家族とは……。

 だけど…身内にそんな偉大な人が居るのなら、むしろ鼻が高いというか…先ほどの高らかさをもっと前に出して良いと思うんだけどな……。

 

 

「何だか…訳あり…みたいだな」

 

「…はい。訳ありです…」

 

 

 この様子を見るに…彼女にとって、その血が繋がっていることそのものに、表情が優れなくなった原因がりそうだ。

 

 

「……悩みがあるなら…話は聞くぞ?」

 

「い、いいえ……流石にこれは、会って間もない方々に話せるような…話では無いので…

 

 

 …それもそうだよな。俺達はたった2.3日顔を合わせた程度のクラスメイト。そこまで踏み込むには…もっと時間が必要だ。少しずつ…頑張っていこう。

 

 

「……で、でも…………折木さんにだったら…」

 

「ああ…その通り。人には様々な相があるけど…必ずしも全てに異なりがあるわけでは無い……。僕達は同じ人間なんだ、同じ部分があっても不思議じゃない……」

 

「「……ん?」」

 

 

 突然ベンチの後ろ側から人の声が飛び出した。振り返ると……そこには手にギターを抱え、ジャジャーンと弦を一撫でする落合がこちらに背を向け座っていた。

 

 

「……落合。いつの間に……」

 

「…気づきませんでした」

 

「君達の会合よりもほんの数時間前……と答えるべきかな?小早川さんと反町さんとの鍔迫り合い、君達の和やかな一時…どれも僕の詩的センスを刺激するには…充分なくらいだよ」

 

 

 つまり反町達の稽古から今まで、此所で息を潜めていたということか…。影が薄いと言うべきなのか、自然と一体になっていたというのか…まったく存在を視認することが出来なかった。

 

 

「ええと、落合さんは…何故、ここに?」

 

「フッ……僕は風そのものさ。君達の傍らでユラユラ流れ続ける風……どこに居ても不思議では無いし…どこか別の場所にいても……それもまた不思議では無い、ということさ」

 

 

 つまり適当にここで陣取っていたら、たまたま今までの場面に遭遇した…というわけか。完全にあってるかは別として、大方そんなもんだろう………何となくコイツの言動に慣れが出てきてしまった事に、自分でも呆れがでてしまう。

 

 

『キーン、コーン、カーン、コーン……』

 

 

『ミナサマ!おはようございまス!!朝7時となりましタ。起床時間をお知らせさせていただきまス!それでは今日も、元気で健やかな1日送りましょウ!』

 

 

 すると施設全体に、いつもの如くアナウンスが流れ出した。昨日はログハウスの中で聞いていたこともあり、施設全体にアナウンスがキレイに反響して、また違った風に聞こえるようだった。

 

 

「……もうそんな時間か。まあ話の切りも良いし、反町も首を長くして待っているだろうから、朝ご飯でも食べに行くとするか」

 

「……………」

 

「小早川?」

 

「…そ、そうですね!急がないと、反町さんにドヤされてしまいますからね!」

 

「さあ友よ、共に歩もうではないか……僕の体は今…力なく脈動している」

 

「…腹が減ったんだな……」

 

「うう…やはり難解でございます」

 

 

 

 俺は“もう少しわかりやすく話せないのか……”と儚い願いを胸でつぶやきながら…小早川、落合と共に再度炊事場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

【炊事場エリア:炊事場】

 

 グラウンドでの一幕を終え、炊事場へと向かった俺達。炊事場のテーブルには、すでにさっき発言したメニュー通り、パンとシチューが几帳面に並べられていた。

 

 パンは先ほど焼き上げたばかりなのか、サクサクと音を立てそうな焦げ茶色でコーティングされている。シチューは、スプーンですくえばトロトロとしそうな程、見事な出来映えだった。

 

 

「うわぁ美味しそうですね!ささっ、折木さんも座りましょ、座りましょ」

 

「ああ…」

 

 

 小早川に促されるように、俺は席に座り、生徒全員が来るのを待とうとしていると…。

 

 

「人は食欲という抗い難い枷に縛られてしまっている…その鎖から解き放つためには、刹那的に自分を満たすことしかない……今の僕はとても強い力で、その枷に締め付けられている……」

 

「…落合、きちんと皆揃ってから食べるんだ。抜け駆けは他の生徒達の反感を買うことになるぞ…」

 

 

 今にもかぶりつきたそうに、手元をうずうずとさせる落合に俺は待ったを掛ける。

 

 

「まあそう言うなよ、これは泡沫の夢。目をつむって開けば終わってしまっているような、儚い物語なのさ」

 

「……どうせすぐ集まる。もう少し辛抱しろ」

 

 

 そんな風に、落合と小さな牽制をし合っていると、なにやら炊事場の入り口付近が騒がしくなってきた事に気づく俺達。もしかしたら、朝のアナウンスを合図に他の生徒達が集まってきたのかもしれない、と予想を立ててみる。

 

 

「ぅぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!今回は!!!!俺の!!方が!!!早かったぜええええええええええええええ!!!!!」

 

「い、今、誰と、競争、してた、の?」

 

「俺は!!!常に!!自分と!!!時間と!!人生と!!!競争をしている!!!!今日は!!!俺の!!!勝ちだぜええええええええええ!!!!!!!」

 

「…勝、敗、の、基準、が分からない、よ」

 

 

 最初は贄波と陽炎坂がやって来た。しかも体を鍛えるためなのか、陽炎坂は贄波をおんぶした状態での入場である。…いや朝からハード過ぎないか?

 

 

 「つまり!ボクの灰色に染め上げられた脳細胞がこの謎を解き明かし、そして真実へと導いたのさ!!コレは未だに外部へと公表されていない特ダネ中の特ダネさぁ!!ミス朝衣?この事件を記事にしてみないかい?勿論!!一面の写真にはこのボクを…」

 

「残念だけど…その事件はすでに調査済みよ…それに、この話は当の本人達から口止めされているから記事には出来ないわ……人のプライバシー優先よ」

 

「何てこった!!もうすでに取材済みとは…さすがミス朝衣!!いや、ね。勿論公表してはいけないということはボクも知っていたさ!ああ勿論だとも!キミ!」

 

「一体どこまで本気で、どこまでが冗談なのかしら…理解に苦しむわね……」

 

 

 続いて朝衣とニコラスが炊事場に姿を現す。何やら、興味深い事件の話で盛り上がっている?ようだった。

 

 

「おっ!できとるやんけ~できとるやんけ~。朝は起きたてホヤホヤの時が腹減りのピークやからな~…それじゃあ、ほんの一つまみおば……」

 

「こ~らっ!つまみ食いは重罪だよ!それにアンタ…今日はちゃんと間食してないだろうね~。お残しせず、きっちり全部平らげるんだよ!」

 

「わ~っとるって。安心せーや。ウチの腹の減りは既に臨界点を突破しとる……用意されたもんぜ~んぶ平らげたる準備はもう万端や」

 

「ダメだよ!鮫島くん!カルタもお腹ペコペコなんだから。きちんとカルタの食べる分も残してから、全部頂いちゃってよ!」

 

「いや拙者達の全員の分も残すでござるよ!平等に分け合うという精神は無いのでござるか!?」

 

「なんや?沼野、まさか、今のことマジに受け取ったんか?それは引くで~」

 

「そうだよ。フードファイターでも無い鮫島くんが、そんな人外みたいな事できるわけないじゃ~ん」

 

「ねぇ~?」

 

「なぁ~」

 

「いじめでござる!!いじめが始まったでござる!!この者達が拙者を排斥しようとしているでござる!!誰か、誰かこの者達に天誅をーー!」

 

 

 食事を前にしていつも通りギャーギャーと騒ぎ出す鮫島と、沼野、そして水無月。まるでコントのような登場だ。

 

 

「う~まだ眠いよ~二度寝したいよ~」

 

「朝ご飯を食べるまでの辛抱です。私は食べたら速攻バタンキューを決めてやるです」

 

「いや、それはそれで体に毒なんだよねぇ…逆流性食道炎になっちまうんだよねぇ…」

 

 

 まだ眠気と格闘しつつ、のんびりとした様子で炊事場に足を踏み入れる長門、古家、雲居。そして――。

 

 

「アンタら遅すぎだよ!!朝ご飯が冷めちまうだろ!!」

 

「くっ、何故人々は夜に行動せず、朝に活動的になるのだ!人類は、太陽が差している時に目覚めた時点で進化の仕方を間違えたと言える!!ワタシは全力でその常識に遺憾の遺を唱える!!」

 

「知るかそんなもん!早く席に着きな!!」

 

「……ぐぅ」

 

「風切さん、まだ夢の世界に居る様なんだよねぇ……しかも立ったまま……」

 

 

 俺達が炊事場に来てから大分時間が経って、雨竜と風切がやって来る。あまりにも時間に無頓着な態度だった故に…雨竜は反町に蹴りを入れられていた。

 

 

「ワタシは決して寝坊を犯したのでは無い……!人類の正しい進化の仕方を、この身で…!体現したのだけなのだ……!」

 

「寝坊の言い訳にしてはチョイと反応に困るヤツなんだよねぇ……」

 

「はぁ……もう分かったから、大人しく席に付きな……」

 

 

 

「せやから沼野、さっきのは虐めとちゃう…所謂コミュニケーションの方法の1つや。沼野の場合、やり過ぎな位が丁度ええと思たからハブっただけや」

 

「こんなことも読み取れないとは…お主もまだまだ修行が足りんのぅ。フォッフォッフォッフォッ」

 

「何でござるかその安っぽい言い訳は!いくら拙者が貧しい人間だったとしても、その安さに惑わされはしないでござるぞ!!」

 

 

 

「…心を無にするのさ。この体が訴える干からびを抑制するためには…自分の心が無であると嘘をつかなくてはならないのさ……」

 

「わかったぜえええええええええ!!!!!!俺は今!!!!猛烈に!!!!頭空っぽだぜええええええええええ!!!!」

 

「空っぽ、に、するところ、間違えてる、と、思う、よ?」

 

「無って…何なのかしらね……何だか哲学的な話になってしまったわね」

 

 

 

「良いかいキミ達!このボク、ニコラス・バーンシュタインは実に頭が切れ、腕の節も強く、そして顔も良い!!紳士淑女にモテにモテるナイスガイなのさ!」

 

「……眠い言葉の羅列」

 

「良い子守歌だよ~」

 

「すみません、聞いて無かったです」

 

「清々しい程のスルー具合じゃ無いか、キミ!」

 

 

 

「賑やかになってきましたねー」

 

「ああ、この施設に居る全員が集合したんだ。うるさくならない方が可笑しい」

 

 

 数十分前までの静寂はどこえやらと、テーブルの周りは喧噪に包まれ始めていた。朝とは思えないほど、楽しげで、そして微笑ましい様な光景のようだった。

 

 

「――だけど、変に静かすぎるよりは、ずっと良い」

 

 

 俺はそう言って、あまりよく発達しているとは言えない頬を持ち上げ、目を細める。……こんな毎日が、ずっと続いてくれれば良いのに……そう考えてしまう。

 

 

「よーし!アンタ達!全員揃ったんだ、頂くとしようじゃないか!!お残ししたヤツにはアタシから天罰が下るか覚悟するんだよ!」

 

 

 

 反町の物騒な脅しに何人かが顔を引きつらせる。……まあ多分冗談だろう、多分。

 

 

 俺達は気を取り直し、それぞれのタイミングで手を合わせ、“いただきます”と言う。いつも通りに美味しい反町の朝ご飯に楽しみながら、その日の朝を終えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

【グラウンドエリア】

 

 

 朝の食事を終えた俺達全員は、ジャージに装いを変え、グラウンドへと赴いていた。

 

 理由は勿論、陽炎坂主催の運動会である。グラウンドの森の近くには沢山のレジャーシートが敷かれていたり、タイムボードが用意されてあったり、白線でキレイなトラックが描かれていたりと、準備万端と見えた。

 

 ……ていうか、これいつ用意したんだ?朝俺達がいたときは用意されていなかったはずなのだが……。

 

 

『宣誓いいいいいいいいいいいいい!!!!我々!!選手一同はあああああああああああああ!!!!!………」

 

 

 そんな疑問もつかの間、陽炎坂がグラウンドの壇上で、主催者らしく選手宣誓を始める。マイクが壊れるのでは無いかと心配してしまうほどに、音をビリビリと震わせていた。

 

 俺達はと言うと、ゲリラ的に開催した自由な形式の大会であるため、整列するというわけでも無く。それぞれがそれぞれの位置で宣誓に耳を傾けていた。

 

 

 『……絆を!!!胸に!!!!正々堂々と!!!!!!戦うことおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!誓います!!!!!!!!』

 

 

 そうやって、陽炎坂による雑音まみれの選手宣誓は無事に終わりを迎えた。大会の始まる前から酸欠をするのではないかと疑ってしまうにその音量はすさまじかったが…陽炎坂の様子を見る限りまだまだ余裕そうだ。

 

 

「それにしても……こんなに選手宣誓に力を入れる人って居るものなんですね……」

 

 

 陽炎坂の宣誓からの静かすぎる余韻が流れる中、隣で聞いていた小早川が静けさを壊さない程度のひそひそ声を俺に向けてきた。

 

 

「…陽炎坂の選手宣誓は世間的に見ても結構有名だぞ?インターハイ時の選手宣誓で大会のマイクを一つショートさせたり、あまりにも大声過ぎて、マイク操作担当の人の鼓膜を破ったりと逸話が数多くある」

 

「碌な伝説が無いですね…」

 

「悪いことばかりでは無い…あの声量に選手達も身を引き締めたり、奮い立たせたりと、感覚的な効果があるらしい……俺はスポーツ選手では無いから実感は湧かないがな……」

 

 

 まあ伝説にも良い悪いの二面性があるものだ…陽炎坂の場合はその悪いほうの色が濃いだけにすぎない。

 

 

「まあ、その悪い方の逸話のせいで、陽炎坂が宣誓を行う際はマイク無しになってしまったんだが……陽炎坂の奴、選手宣誓の際は特に気合いを入れるようでな。素の状態でもうるさいから、観客を含め、大会関係者の一部は耳栓をするのが通例になっているらしい…」

 

「……それって宣誓の意味無いんじゃないですか?」

 

 

 実際、周りをよく見てみると、多分陽炎坂の話を聞きかじってたからなのだろう…朝衣や水無月とかは耳栓をして予防策を張っていたりしている。

 俺自身は生で聞いてみて心が高揚するのかどうか気になっていたからノーガードで聞いている……しかし今のところ変わりは無し……ただうるさいと感じているだけだった。

 

 

『てめぇらあ!!!これから!!!!運動会を!!!!開催するんだぜええええええええええ!!!!!」

 

 

 宣誓を終えた陽炎坂は、その時使ったマイクをそのままに手にし、俺達にこれから始めるプログラムを伝えてくる。その熱すぎる勢いから、まるでバンドのライブに来ているような感覚に陥ってしまう。

 

 

「よぉーし!!頑張るぞーー!ひっくり返すぞーー!えい、えい、おーーー!!!」

 

「…貴方の中ではもう、劣勢に立たされている状況なのね…」

 

「ていうか……えっ…いきなり始めちゃうのかねぇ?」

 

「まあええんとちゃう?ベニヤ板で補強したんかっちゅうくらいの即興の大会みたいなもんやし…タイミングも順序も適当でもウチはモウマンタイや」

 

「いや、それあんただけなんだよねぇ…」

 

 

 生徒達から、当惑してしまう声が上がり出す。かくゆう俺も、少し戸惑い気味だったりする。

 

 

「ミスター陽炎坂。この大会を円滑に進めるために…1つ質問なんだが…この大会にルールはあるのかい?それともボク達の裁量で自由に思いのままに行動しても良いのかい?」

 

 

 ニコラスは帽子の鍔を上げながら、陽炎坂へと疑問を投げる。

 

 

『うおおおおおおおおお!!!!派手に!!!言い忘れてたんだぜえええええええええ!!!!!!!俺達は!!!!これから!!!白組と!!!赤組に!!!分かれ!!!そして!!!!競い合うようになってるんだぜええええええええええええ!!!!!!!』

 

 

 マイクを派手にハウリングさせながら、陽炎坂は咆哮する。正直、うっかりして忘れていたようなテンションには見えない。

 

 

『そして!!!!競技を行うことで!!!!点数を取り合い!!!!!その総数で!!!!勝者を決めるんだぜええええええええええ!!!!!!!』

 

「はいは~い、さらにしつも~ん。じゃあ紅組と白組の組み合わせってどうなってるの~?それと~点数の配分は~どうなるの~?」

 

 

 長い腕を天高く伸ばしブラブラと揺らしながら、長門はニコラスに追随するように疑問を重ねていく。

 

 

『赤組と!!!!白組は!!!!俺様が!!!!事前に決めてある!!!!!そして!!!!!点数に!!!ついては!!!!!競技が始める前に!!!!随時!!説明を挟むんだぜえええええええええ!!!!!』

 

 

 壁に向けて投げたボールが倍速になって返ってきたかのように、陽炎坂は勢い良く言葉を突き返す。すると陽炎坂は演説台から飛び降り、俺達に近づいて何かの紙を1枚1枚渡しはじめる。

 

 もらった紙を見てみると、上側に手書きとは思えないほどの達筆な字で赤組と白組と記されており、その下には俺達の名前が書き並べられていた。

 

 

   赤組                 白組

 陽炎坂 天翔               折木 公平

 鮫島 丈ノ介               雨竜 狂四郎

古家 新坐ヱ門               沼野 浮草

落合 隼人      ニコラス・バーンシュタイン

 雲居 蛍                 朝衣 式

 風切 柊子     水無月 カルタ

 反町 素直                長門 凛音

 小早川 梓葉               贄波 司

 

 

 以上のように振り分けられて、これから運動会が始まるらしい。…しかし、こうして字面だけ見てみると本当に全員参加しているんだなと感慨深く感じてしまう。

 陽炎坂も運動が不得意そうな雲居や古家まで良く参加させることができたものだ。と思わず感心してしまったが……十中八九、彼の面倒くさい押しに負けたからなのだろうと、すぐにその感心を霧散させた。

 

 

 『この!!!!紙の通りに!!!!!向こうに敷いてある!!!!レジャーシートに!!!!集まってくれええええええええ!!!!!そこに!!!!赤と!!!白の!!!!ハチマキが!!!!あるんだぜえええええええええええええええ!!!!!』

 

 

 森の側に敷いてあるレジャーシートへと指を差し向ける。その指先ははち切れんばかりのエネルギーを孕んでいるかのように震えていた。

 

 

「…すまない……分かれる直前に言わせてもらっても良いか?そちらの赤組に陽炎坂が居るというのはかまわないのだが……少し公平さに欠けないか?徒競走とか、リレーとか、走る系統の種目では間違いなくそちらに高得点が入ってしまう」

 

「あっ言われてみればそうだね!このまま超高校級の走り屋の陽炎坂君に完封されちゃうよ!」

 

『それについては!!!!!!問題!!!無しなんだぜえええええええええええ!!!!』

 

 

 その当然とも言える質問は、彼によってノータイムで跳ね返される。

 

 

『この大会のプログラムには!!!!!様々な!!ギミックを用意してある!!!!故に!!!タダ走るだけでは!!!!ダメなんだぜええええええ!!!!!!!』

 

 

 …そうか、超高校級の陸上部である陽炎坂にとっても一筋縄ではいかないほどの何かしらが用意されている、ということか……。そう1人納得してみるが……段々と、陽炎坂でも手こずる仕掛けに、俺達の身が持つものだろうか?と、不安覚えてしまった。

 

 

「……ちなみに、そのギミックっていうのかねぇ?事前に教えてもらえたりとかは…」

 

『勿論!!!出来ないぜええええええええ!!!!ていうか!!!!俺も知らないんだぜええええええええええええええ!!!!」

 

「まあそりゃあそうですよね…陽炎坂も選手として参加するわけですし…」

 

 

 そんな感じで、全員の合意が得られたと察した陽炎坂は、全員に“レジャーシートに突撃なんだぜええええええ!!!”と宣言し、走り出す。しかし、陽炎坂は以外は全員徒歩だった。

 

 レジャーシートへと振り分け通りに集まった俺達は、箱に詰められたハチマキを手に取り、付けていく。それぞれ頭に付ける者も居れば、奇をてらって腕に付けたり、手の甲に付けたりと、様々であった。

 

 

「じゃあ白組の皆、今日一日宜しく。チーム一丸となって赤組を下していくわよ」

 

「み、みん、な。頑張ろう、ね?」

 

「勿論さぁ!なんと言っても、この超高校級の名探偵であるニコラスバーンシュタインが存在して居るんだ…それすなわち、このチームに敗北という二文字は無い!!!つまりそういうことなのさ!!」

 

「陽炎坂くん程じゃないけど、カルタも燃えてきたよー!うおおおおおお!!って言いたい気分だよ!!」

 

「私もだよ~~うおおおおおおお~~~~」

 

「何故かは分からぬが、拙者も妙に燃えてきたでござる!!!皆の衆!拙者足には自信がある故、存分に期待してもかまわないでござるよ!!」

 

「フハハハハハハハ!!!逆にワタシは自信が微塵たりとも無いので、期待しない方が良いぞぉ!!!」

 

「そこに自信を持ってどうする……だがまあ、全力を尽くしていこう」

 

 

 チームの全員が一言一言言葉を発していく。各々の言葉にはやる気が満ちており、今日一日、チームとして、仲間として、ゲームに挑んでいこうという気概が伝わってきた。

 

 

『それじゃあ!!!!改めて!!!!!始めるんだぜええええええええええええええ』

 

 

 俺達の準備が整ったのを見計らった陽炎坂は、マイクを再び取り、叫び出す。

 

 

 ――凡人の俺を加えた超高校級の運動会が、今始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【第1競技】 アスレチック徒競走

 

 

 最初の競技は、様々なギミックで埋め尽くされたグラウンドを走り抜ける、全員参加型タイムアタックというものだった。

 

 先にゴールすればするほど高得点が手に入る点数方式らしいが…名前にアスレチックとついている通り、コースには何かしらのギミックがこしらえられ、一位を取ることを妨害してくる…。

 

 

 例えば……

 

 

「うおおおおおおおおおおお!!!!俺様が!!!!1番!!なんだぜええええええええええええ!!!!!あっ――――――」

 

 

 ……落とし穴。

 

 

「だははははは!!主催者が早速落ちとるでぇ~、アッホやでホンマぁ!あっ――――――」

 

「語って落ちてるんだよねぇ。あっ――――」

 

 

 子供のイタズラのような仕掛けではあるが、後先考えず突っ込めばすぐにドボンというほど、その数はおびただしかった。そして落ちた先には……。

 

 

「なんだこれはあああああ!!!臭い!!臭いぞ!!!ワタシは!今!何に飲まれてしまっているのだあああああ!!!助けを!助けおおおおおおぉ!!!」

 

「……ボールプール……何か安心する……眠い」

 

「ちょっとこれトマトじゃないかい!?食べ物を粗末にしたらダメじゃないか!!!」

 

 

 このように定番の物からゲテ物まで、様々である。だがまあ、それはほんの1割くらいで、俺のように5回落ちて、5回とも普通の落とし穴といったケースが殆どである。

 ちなみに後から知ったことだが、全生徒の中で落とし穴に落ちなかったのは贄波と落合くらいで、落ちた回数が最も多かったのは陽炎坂の15回とのことだった。

 

 

「これは……平均台で、ござるか?」

 

「そのようだな……だが、その平均台の下に張られた網はいかにもという怪しさがあるな」

 

「フッ、拙者には意味を成さない物でござる…バランス感覚には自信があるでござるからな。いざ……………――――むむ。この平均台なんかヌルヌルするでござる、いくらの拙者でもこれでは、足が滑って………あべryあじゃじょいめうくwq¥rぜふあじさdl!!!」

 

 

 ただの平均台に見せかけた、電流トラップ地獄。平均台に足が滑りやすくなるような何かが塗られており、落ちたりすると電流が通った網の餌食となる。

 といっても電流自体の電圧は大したことなく、食らったとしても静電気より少し強い程度のお遊び感覚の威力……だから網の上でノビてる沼野は、きっと何かの手違いにすぎない、はずだ……。

 

 

「ええと……これを掴んで、向う岸までたどり着くようにすれば良いんですかね?」

 

「いわゆるターザンロープだね!!何で何本もあるのか分かんないけど……まあどれでも良いよね!!!」

 

「水無月さん。ここは慎重に選んだ方が良いと思うわ……今は落ち着いて……あっ、行っちゃった………そして、ロープが途中で切れてしまったわ…」

 

「下の泥水へ一直線に行ってしまいましたね……」

 

「……微かに彼女の悲鳴が木霊してるわね」

 

 

 さらに…当たれば僥倖、外れれば泥水に真っ逆さま、運試しターザンロープなんて物もあれば。

 

 

「か、風が………髪が乱れるです……」

 

「風は、僕の良き、隣人、さ……だから、目をそらさずに、こんな風に、抱きしめるようにすればあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

「風に、飛びつかれたちゃったみたいだよ~」

 

「この大会に芸術点があれば満点ですね、きっと……」

 

 

 強力な向かい風の中を、己の身一つで突き進む物もあったり。

 

 

「ゴールはもうすぐ!このニコラス・バーンシュタイン!!堂々の1位を誇って勝利の凱旋というものさ!!!」

 

「……!!ニコラス、君、そこ、見るから、に落とし…!」

 

「え?あっ――――――」

 

「ニコラス、君……」

 

 

 最後の最後でまた仕掛けられていた落とし穴が待ち受けてたりする。ちなみに最後のは特に深い物だったようで、落ちたニコラスは抜け出すのに苦心し、結局最下位となってしまっていた。

 

 

 最終的には、

 

 1位 贄波

 2位 小早川 

 3位 鮫島

 4位 ……

 

 

 という順位となった。

 

 贄波が一位を取ってくれたは良いのだが、残りの俺達がワーストを占めてしまい、チームとしてはあまり大きな点数とは言えなかった。

 

 だけど……さすがにこれほど大がかりな仕掛けをいつ作ったのか。気になった俺は、陽炎坂に詳細を聞いてみると。

 

 

「モノパンに!!!!頼んだら!!!!全部!!!!用意してくれたぜええええええ!!!!!ちなみに!!!!前準備も!!!アイツに!!!!頼んだぜええええええ!!!!!!」

 

 

 成程、それならこんな大がかりな仕掛けも、いつの間にか準備が為されていた運動会のセットの謎にも納得がいく。

 

 

 それにしても……居ても居なくても何かしら一枚噛んでるな…アイツ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

【第2競技】 何でも借り物競走

 

 

 

 

 第2競技は、『何でも』とついているが、いたって普通の借り物競走だ。

 

 走ってすぐの地面に並べてある紙を拾い、そこに書かれてある物、あるいは人を手に、ゴールインする。何ら変わった仕様は無い、普通の借り物競走だ。

 

 しかし、物が出てきて場合だと話は別だ。その物の殆どが倉庫にある物なので、炊事場まで取りに往復しなければならない。足の速さとは別に、そもそもの運も必要となってくる競技のようであった。

 

 今回の競技は、白組、赤組双方からそれぞれ2名の選手を選抜。計4人で競走を行い、その順位によって点数が決まる方式らしい。

 

 

 最初に、赤組から鮫島と反町、白組から沼野と長門が選抜された。

 

 

「何々…ええっと、『ペンタ湖の水(バケツに満杯で)』……えっ。これ最下位確定でござらぬか?」

 

「ウチは…『イジりがいのある友人』……。うん!古家やな!」

 

「『氷』……地味に難しい物をせがんでくるねえ。まあ沼野よりマシさね」

 

「ええと~『マカンゴソース』~?これはこれはタイムリーだね~」

 

 

 それぞれ1位が鮫島、2位が長門、3位が反町。そしていつまでも帰ってこない沼野が自動的に最下位となった。

 

 続いての第2レース、赤組から陽炎坂、風切の2人と、白組から贄波とニコラスが選ばれる。

 

 

「うおおおおおおおお!!!!『鉄球』!!!気合いで!!!持ってくるぜえええええええええええええ!!!!

 

「……『雑草』?……そこら辺ので良いか…」

 

「モ、『モノ、パン』……!き、棄権、しま、す」

 

「『仲の良い同性の友人』…か!さぁ男子諸君!!!ボクと友達なってくれる人を急遽募集させてもらうよ!!締め切りは10秒後まで、急いでくれたまえよ!!」

 

 

 このレースでは1位が風切、2位はニコラス、3位は鉄球をへえこらと運び続ける陽炎坂、最下位は途中棄権の贄波であった。

 …余談ではあるが、ニコラスの友人募集には俺が志願しておいた。30秒経っても手が上がらなかった時のニコラスの姿が、あまりにも寂しげであったからだ。

 

 

 第3レースは赤組から、小早川と雲居、白組からは水無月と雨竜が出場することになった。

 

 

「んん?『本』ですか……はぁ、ログハウスまで行くんですか?面倒です……」

 

「こ~れ~は~『世界に一つだけの物』ー?うん!決まりだね!!!一緒にゴールしよ!お姉ちゃん!!」

 

「なっ……!『夢』……だと………」

 

「こ、これは!……ううっ…………お、折木さーん!」

 

 

 このレースにおいては、腰に常に付けている”紫髪の人形”を持ってゴールした水無月が1位、何かは分からなかったが、とにかく俺を借りた小早川が2位、かなり疲弊しながら分厚い本を持ってきた雲居が3位、そして膝をついたまま動かない雨竜が最下位となった。

 

 何かあったのは明白だが…どうにも聞ける様子では無かった。

 

 

 そして最終レースは、白組から古家と落合、赤組から俺と、朝衣という組み合わせとなった。

 

 

「え…?『自分、自身』…?いや、それもう徒競走になっちまうんだよねぇ」

 

「何も求めず…そして何も得ないこと…それも1つの幸せの形というものさ……」

 

「俺へのリクエストは…め、『メモリーカード』?なんだこれは……『目盛り』とついているから、新手の定規か何かか……?」

 

「……『A4ノート』……?普通の借り物で良かったわ……」

 

 

 最終的に、1位は鮫島と共に気恥ずかしそうにゴールした古家、2位は小さめの封筒を持った朝衣、3位はなんとかメモリーカードという謎の物体を知ることが出来た俺、4位はそもそもスタートすらしなかった落合という結果になった。

 

 こうして全員がレースに参加し終え、それと同時に借り物競走そのものが終わりを迎えた。借りてくるモノが、外れもあれば当たりもあったりと、実に歯ごたえのある内容であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

『これより!!!!お昼ご飯の!!!時間なんだぜえええええええええええええ!!!!皆!!!!ゆっくり休んでくれえええええええええ!!!!」

 

 

 借り物競走が終わり、連続で第3競技が始めると思っていたが、どうやら丁度お昼ご飯の時間だったようで…ハウリングが耳に痛い陽炎坂のマイクから休憩の声が発せられた。俺はその声に従い、自分の陣地であるレジャーシートへと向かうことにした。

 

 

「どうやらやっと一息つけるみたいね。…それにしても、何だか、あっという間だったわね?」

 

「朝衣……ああ…だけど、まだまだ動かし足りない気分だな」

 

 

 その途中、同じチームである朝衣に声を掛けられた。

 

 

「…あら、折木君は結構運動する方なの?」

 

「いや、運動はむしろ苦手な方だ……だけど、何だか…こう、俺自身が思っていた以上に、自分に体力あったというか、いつのまにか体力がついてしまっていたような…」

 

「あら…それは。確かに、不思議ね?」

 

「ううむ………自分で言っていて変な感じがするな…」 

 

 

 いつも通りだったら、第1競技の時点で既にバテて、借り物競走も覚束ない足取りで挑むものだと予想していたはずなのだが……今の俺は、何故かいつも通りに体力が尽きていない。

 

 

「つまりそれは…予想以上に自分の運動能力が向上していた…?ということかしら」

 

「…向上してたって……そんな大げさな。俺達はここに来て間もないはずだろ?その表現は少し可笑しい…」

 

「………ええ。そうだったわね。ごめんなさい、今の言葉は忘れて」

 

 

 少し言い方に妙な部分はあったが……だけど確かに、彼女の言うとおり不思議な気分だった。

 

 

「まあ多分、この運動会事態が楽しいから、なのかもな……人は本当に楽しいときは、疲れ知らずに動き続けることができる、と聞いたことがあるからな」

 

「ふふっ、貴方がそう言うのなら、そうかもしれないわね?…はぁ、その一方で、私はもうバテバテよ……折木君の言うとおりだとすると……まだこの運動会を楽しみ切れていないのかもしれないわ…」

 

 

 何となく悟ったように遠くを見つめながら、おでこに撒いた白組のハチマキを取り、朝衣は手の甲で汗を拭う仕草をする。凄い汗だな、と感想を漏らす。

 

 

「…………そうだ、丁度良かった。コレ、返すよ…」

 

「それは…」

 

「一昨日借りた”ハンカチ”だ。キレイに洗い直したばかりだから、新品同然の状態だ…」

 

「わざわざ洗い直してくれたのね……私が言った手前、そのまま返してくれても良かったのに……」

 

「そうはいかん…立つ鳥後を濁さないように、借り受けたモノは濁したまま返すことは、俺の人情に反する」

 

「…やっぱり貴方って、律儀な人ね……ありがとう、大事に使わせてもらうわ」

 

 

 朝衣はそのハンカチを受け取ると、そのままハンカチをポッケに仕舞う。…いや、汗拭かないのかよ。と思うのもつかの間…彼女はどこからか、鉛筆とメモ帳を取り出した。少しイヤな予感がした俺は立ち止まる。

 

 

「それはそうと……今から休憩時間なのだけれど……丁度良いからその時間を使って、貴方の才能について…インタビューしても宜しいかしら?」

 

「……一旦俺達は距離を置いた方が良いみたいだ」

 

「いーえ、それは無理なお話よ。既に私達の席は確保済みだから」

 

 

 見てみると…確かにレジャーシートはチームメイトに殆ど占領され、わざとらしく一角が空けられているのみの状態になっていた。

 

 …既に根回し済み…ということか。流石はジャーナリストだな。どうやら、観念せざるを得ないみたいだ。目の前でキラキラとした瞳の彼女に…俺は、小さくため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

 俺と朝衣がレジャーシートに戻り着いた時には、既に重箱のような弁当を広げられていた。重箱の中身は定番とも言える、様々な料理が並んでおり、見ているだけでも腹が鳴ってしまうほど美味しく見えた。

 

 

 だけど…その前に――――。

 

 

「…それで早速なんだけど……ここに入学が決まってから、自分の才能について思い出したことはあるかしら?」

 

 

 俺は、朝衣の独占インタビューに応対しなければならない。でもお互いに、腹は減っているので、つまめる程度の食事をしながらの対面であった。

 

 

「うーん………ここに来てしばらく立つが………思い出したことは、未だに無いな」

 

「そう…なら、ここに来る前のことは、覚えてる?」

 

「……ああそれなら…覚えてるよ。確か、特待生として入学が決まって、それから下調べをして……そして満を持して希望ヶ峰学園に来たと思ったら……こんな場所に放り出されてた……確かそんな感じだ」

 

「……調べていた、というと…自分の才能について…?」

 

「後は、この同期の連中について…少しな。ネットの掲示板を通したり、希望ヶ峰学園に電話をしたり…な」

 

「…ふむ、中々の腰の入れようね…」

 

 

 俺の話に耳を傾けながら、朝衣はメモに俺の言葉を丁寧に書き出していく。

 

 

「…それで、調べた末の収穫は?」

 

 

 朝衣からのその疑問に、俺は否定の意味を込めて首を振った。

 

 

「…全然だったよ。掲示板を見ても、分かったのは水無月や陽炎坂のことくらい…問い合わせてみても…答えることはできない、の一点張り……結局他人の事ばかりで、自分の事なんて何一つ掴めなかった」

 

 

 要約して”収穫は無かった”という結論に、彼女は自分の書く手を止め、”成程”…小さく漏らす。

 

 

「初めは…自分の才能は、”幸運”か何かだと思っていた……」

 

 

 俺は、今重箱の中身をまるでバキュームのように食らいつくしている贄波に目を向けた。

 

 

「でも、ココで贄波と会って……それで、俺は幸運として入学したんじゃ無い…そう確信したんだ」

 

「……確信?」

 

「ああ…元々、ツイているとは言えない生い立ちだったから……万が一にでも幸運なんて身分は、俺にふさわしくないだろうって、考えてはいたんだ」

 

「……昔から…ね」

 

「……何年も前のことで…おぼろげにしか覚えてないんだが……両親曰く…中々の物だったらしい」

 

「………」

 

 

 ネガティブすぎる答えだったろうか?少し…気まずい空気が流れる。

 

 

「…私も。この希望ヶ峰に入学するに当たって…様々な事を調べたわ」

 

 

 ふと、朝衣は語り出し…続けていく。

 

 

「特に念入りに調べていたのは…今期の入学生に…つまり貴方たちのことについて」

 

「俺と同じ事をしていたのか…」

 

「……そこで分かったのは…今期入学するはずだった生徒は…総勢48名……”3クラス”あったということ」

 

 

 確かに…そんな事が掲示板にあったような…。でも、だとしたら……。

 

 

「他のクラスメイト達は…?」

 

「さあ…現状何一つ分からないわ……。もしかしたら…私達と同じでも、別の場所で、こんなことに巻き込まれているのかも知れない……」

 

「……」

 

 

 それは…恐ろしい話だ。こんな悪趣味なゲームが、ココ以外でも開かれているなんて…。

 

 

「まああくまで…仮説の段階だけどね。それよりも、私は別の事が気になっているの…」

 

「別の事…?それは、一体…」

 

「さっきも言ったけど、私は今期入学するはずの全ての生徒達を調べ尽くした。だけど…」

 

 

 含ませるような、その言い方に。俺は妙な緊張を抱え、息を呑んだ。

 

 

「…貴方以外の、此所にいる15人の生徒の素性を知ることが出来た……でも」

 

「…でも?」

 

「…貴方以外に1人…肩書きがよく分からない――――」

 

 

 

『昼飯が食べ終わったな!!!!てめぇら!!!!!運動会の!!!午後の部!!!!これから始めるんだぜえええええええええええええ!!!!!』

 

 

 朝衣が何かを言おうとした言葉に被さるように、陽炎坂の大音量がグラウンドを覆い尽くした。俺は跳ね上がるように驚き、中心に居る主催者へと…目を向けた。

 

 

「………どうやら…タイムリミットみたいね……」

 

「ああ…そう、みたいだな……でも結局、俺が一方的に情報をもらったみたいになってしまったな」

 

「いいえ…全然よ。私も、有益な情報は得られたから問題無いわ」

 

「…そうか。それならよかった」

 

「ええ……続きは、また今度にしましょう…そのときは、今よりももっと落ち着いた場で、ね?」

 

 

 そう言いながら、朝衣は俺に軽いウィンクをする。微笑むように見下ろす彼女に、俺は頬を染めてしまう。誤魔化すように、咳き込み、”そうだな、約束だ”…そう返した。

 

 

 

 …ふぅ……午後の部も頑張るとするか。

 

 

 残ったご飯を口に放り込みながら、気持ちを切り替えていく。

 

 

 “今度はどんな競技があるのだろうか”…そんな考えを巡らせ、俺は胸を高鳴らせていった。

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 午後の部はまたさらに嗜好が凝らされていた…。

 

 

 俺は最初、午前中の様に走り中心の競技が始まるモノだと考えていたが……始まったのは、皆で走り合うような競走などでは無く。誰が、誰よりも早く寝れるのかという『お昼寝競走』であった。

 

 

 多分、食べ抜けの過度な運動は体に毒と考えた、陽炎坂なりの配慮なのだろう。

 

 

 グラウンドの芝生には、いつのまにやら日なたぼっこをするには持ってこいとも言える、人数分のリラックスチェアが並べられており…。何だか見ているだけで眠気が押し寄せてくるような気分がよぎってしまった。

 

 

 そして俺達は、スタートの合図と共に椅子に体を落ち着け、寝息を立て始める。俺自身も知らないうちに午前中の疲労をため込んでいたらしく、早々に夢の中に行ってしまった。

 

 

 どうやら終わりの時間は特に設定していたというわけでは無かったので。全員が起き上がったのは、競技開始から3時間後であった。

 

 

 起きた後に、どうやって誰が早く寝たのかを判定するのかを陽炎坂に質問してみると……モノパンがこっそりと側に近寄ってきて、俺達が寝ているのかどうかを判定してくれていたらしい。

 

 

 

 そのモノパンからの報告によると、1番早かったのは、風切であった…さすがは昼寝の達人と言ったところだ。2位は雨竜で、昨夜は徹夜で天体観測をしていたらしく、疲労困憊の状況だったことが勝因と言うのが本人の弁だ。――――いや、寝ろ。

 

 3位は意外にも俺であったらしく。思わぬ加点であった。

 

 

 そんなダイジェストのような感じで、【第3競技】は終わりを迎えた。じっくりと休んだので、次の競技は万全とも入れるコンディションだった。

 

 

 起きた直後に行われたのは、グラウンドだけで無く、このエリア1をまるごと使った全員参加の『リレー対決』。ちなみに、コレが【最終競技】らしい。昼寝に時間を費やしすぎたとのこと。

 

 

 それぞれの組の8人は、誰がどのコースを走るのか、そして誰がアンカーを務めるのか。作戦会議が開き、思考を巡らせ…。赤組は陽炎坂がアンカーを務めないことを条件に順番が組まれ。俺達白組は運動神経の良い沼野を中心に据え、順番が決定された。

 

 

 両組の準備が完了し、最後の競走が始まった。

 

 

 そしてその競走は、俺は今まで経験したどの『リレー対決』よりも個性的な内容で在ったと断言できる。1人1人の印象深いシーンを思い起こしてみると、こんな風になる。

 

 

 ――――開始早々見事な転倒を見せた鮫島。

 

 

 ――――走っているのかどうかすら怪しい速度で走る長門。

 

 

 ――――バトンを渡す相手を間違えてしまった小早川。

 

 

 ――――走り始めてから数十秒の時点でヨレヨレの雨竜。

 

 

 ――――真面目に走ろうとしているのに様々な妨害(主に水無月と鮫島)を受ける古家と俺。

 

 

 ――――走る直前で寝始めた風切。

 

 

 ――――“拙者に任せるでござる!”と言いながら目の前の木にぶつかる沼野。

 

 

 ――――見事にコースを間違えた陽炎坂。

 

 

 ――――普通に頑張って走った贄波。

 

 

 ――――そもそもバトンを渡す場所に居なかった落合と水無月。

 

 

 ――――疲れるからと自分の分までアンカーの反町に走らせた雲居。

 

 

 ――――最後の最後ですっころび、1位をかっさらわれてしまった朝衣。

 

 

 本当に、それぞれの、それぞれの個性が光り輝く、面白おかしく賑やかな最終競技であった。

 

 

 最終的には赤組の勝ちとなってしまったが、そこにあったのは敗北でも、勝利でも無い……少し臭い言い方をするなら…“友情”であった。

 

 

 勝てたことに喜び合い、何故か鮫島を胴上げしてキレイに地面に落としていた赤組。負けたのを自分のせいだと涙ぐむ朝衣を、全員で励まし合った白組。

 

 

 様々な感情が俺達の間で錯綜しているけど、皆、共通して喜びを持っていた。他愛も無い話で盛り上がったり、互いに気安く冗談を言い合ったり、肩を組み合ったり……それくらい俺達の仲はとても近くなっていた。

 

 

 

 本当に……本当に楽しい一日だった。

 

 

 “この学園に入学できて良かった”と思えた。

 

 

 “こんな風に笑い合えるなんて夢のようだ”とも思えた。

 

 

 こんな素晴らしい友人達と、素晴らしい一日を過ごせたことを…俺は誇りに思えた。

 

 

 あわゆくば…こんな日が、明日も、明後日も、そのまた明日も……続いていけば良い、と。そう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけど――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな俺の思い描く毎日は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タダの一抹の夢でしか――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なかったんだ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

【ログハウスエリア:折木公平の部屋】

 

 

「フゥ…ようやく寝れるな……」

 

 

 

 俺達はあの後、運動会のフィナーレということで、夕食も兼ねたBBQに行った。そこでも俺達は肉を取り合ったり、野菜を押しつけ合ったり、反町にぶん殴られたりと、祭りが終わってもてんやわんやであった。

 

 もうその宴の中ではすでに、白組と赤組という垣根も無く…たった1つの『クラス』ができあがっていた。

 

 ……しかし、どんな楽しい一時にも終わりというものは存在する。やっとこさ1つの集団にとなることが出来た余韻にいつまで浸れるわけでも無く、日も落ち着いてきたタイミングで、食事も終わりを迎えた。

 

 が……その後すぐに、男子は男子、女子は女子で集まって、それぞれの武勇伝やら、小話やら、雑学やらを披露し合ったり。明日は何をしようか、折角だからもう一つイベントでも催さないか、なんて一息つけばすぐにやって来るような未来の話をし合ったりなどを始めてしまっていた…。

 

 

 結局その小さな親睦会は、モノパンの夜時間のアナウンスが放送されるまで続き。むしろアナウンスが終わってからが本番の様な雰囲気も合ったが…さすがに疲れたのでお開きとなった。

 

 

 お開きの後にも、俺は帰り道に沼野やニコラス(借り物競走の時からちょっと馴れ馴れしい)と雑談をしながら自分のログハウスまで帰ってきたのだ。

 

 

 

 …そして今に帰結する。

 

 

 

「本当に…今日もいろんなことがあったな……」

 

 

 だけど、その全ては良いことである。俺にはもったいないほどに、楽しさにあふれていた。

 

 …少しだけでも、皆と距離を縮められた事に嬉しさを隠せなかった俺は、いつもの仏頂面を変に歪ませてしまう。何となく気恥ずかしさを覚えてしまったので、誰に見られている訳でもないのにベッドに顔を埋めてみた。

 

 

「…凡人の俺は、場違いなのかもしれない……なんて考えていたが。杞憂だったのかもな……」

 

 

 皆、年はバラバラかもしれないが、それでも高校生なのだ。

 

 俺と同じで、年相応に笑顔を見せることが出来るし、友達にも、親友にも、恋人にもなれる。

 

 

「凡人の仲でも、ことさら不器用な俺でも……此所に居る全員と友達になれるのかもしれないな……」

 

 

 初日の頃の俺と比べれば…まさに天と地のような考えの翻しぶりだ。あのときの生真面目過ぎる俺が嘘のようだった。

 

 

 そう、俺は楽しげに独白を頭の中で繰り返していると…。

 

 

 

 ――――コンコン

 

 

 小さなノックの音が、俺の部屋に転がり込む。…そこそこ遅い夜ではあるが、一体誰だろうか?一応この生徒の中の誰かだろうが、モノパンの可能性もあるので、多少の警戒を持って扉に近づいてみる。

 

 

「はい…」

 

 

 俺はガチャリとドアを開く。……しかし、目の前には誰も居ない……。扉の周辺を見回しても、誰も居ない。

 

 

 …もしや俺の予想した通り、下を見ればモノパンが居るなんて事は……。

 

 

「折木、どこ見てるですか……下ですよ、下。もしそれが当てつけなら、スネに蹴り入れるですよ…」

 

 

 俺が予想した、紳士然として低くも無く、高くも無い男の声では無く。非常に幼く、少し舌足らずで、本当に高校生の声なのか怪しい女声が下から湧き出してきたのだ。

 

 

「なんだ…雲居か…」

 

 

 下に目を向けてみると…そこには蓄えられたいつもの目元のクマとそこそこ長い髪の毛を肩に垂らすようにお下げにしている、雲居が立っていた。

 

 ……俺の顔を見上げるその顔が何となく不機嫌そうなのは、デフォルトである思いたい。

 

 

「まあどうせいつも通り小せぇな…みたいな事を考えていると思うですけど……今回は折り入ってお願いがあるので多めに見てあげるです」

 

 

 別に考えていないような俺の考えを垂れる雲居。そして俺に負けないくらいの不機嫌そうな顔を維持してはいるが、どことなく照れているように、そう呟いた。

 

 

「折木…ちょっと話に付き合うです」

 

 

 少し意外な一言が出てきたことに、一瞬間を空ける。

 

 

「…急にどうしたんだ?」

 

「…なに驚いているですか……単に話がしたかっただけですよ…ほら、あんた読書が趣味って言うですから……」

 

「あ、ああ確かに俺は読書が趣味だが…人前で公言したことは……」

 

 

 少なくとも、この生徒の中で俺の趣味が読書と言ったのは水無月くらいだ。だのに何故……俺は口元に手を付け、頭を傾げる。

 

 

「?…あんた見てないですか?ほら、この学生カードにちゃんと書いてあるですよ」

 

 

 鏡のように頭を傾げる雲居は、俺に平たい黒いカードのようなモノを見せる。そこには、『超高校級の図書委員 雲居 蛍』という未来チックな電子文字が並べられていた。

 

 

「な、なんだそのハイテクそうな機械は!?…待つんだ雲居、この通りだ…もしや俺はお前に何かしてしまったのなら謝る…だからそのハイテクそうな精密機械を俺に近づけるな…!頭から火が出てしまう……!」

 

 

 俺の慌てぶりに、何か珍獣でもみたかのような表情をする雲居。そして、呆れたように手をおでこに当て、ため息を吐いた。

 

 

「精密機械に何のトラウマがあるかは理解しかねるですが…これは『電子生徒手帳』ですよ?ここに来た初日に、あの憎ったらしいパンダに渡された奴です…忘れたですか?」

 

 

 その言葉を聞いて、俺は姿勢を正し、ゆっくりと思い起こしてみる。…初日には確か、モノパンの演説があったよな…そこでコロシアイを宣言されて……それで……あっ。

 

 

「……………確かに渡されていたな、『電子生徒手帳』。……すっかり忘れていた。多分、今は机の上に放ったままだったような……」

 

「はぁー…アホですね。本当にあんた特待生ですか?学生証なんだから、ちゃんと身につけていないとダメですよ…まったく」

 

 

 なけなしの記憶を思い起こす俺に、雲居は2度目の大きなため息を吐いた。

 

 どうやらすっかり呆れ返されたようだ。何だか申し訳ない気分になるな……ふむ、これからはできるだけ持ち歩くことにしよう…。

 

 

「できるだけーとか考えてないですよね…?常に持ち歩くです…絶対後悔するですよ」

 

「なっ…お前俺の心の中が読めるのか!?」

 

「別にそれは………―――いや、実は私、人の心が読めるエスパーなんです……だから折木の心の中は全て筒抜けなんですよ?」

 

 

 そ、そんなバカな…まさか超能力者なるものがこの世に存在するとは…!!まずい、雲居を馬鹿にするような事を考えないようにしなくては……このままでは俺の知能指数の低さが露呈してしまう……!!

 

 

「待て、俺に考えを読ませるわけにはいかん…!手でガードせねば……!!」

 

 

 俺は頭を抱えるようにし、考えを読ませないように手で防ぐ。…これで防御は完璧なはずだ……!

 

 

「はぁ……一体何回私を呆れさせれば良いんですか……超能力を物理的にガードできるなんてどうやって思いつくですか?…それに、エスパーなんて嘘ですよ、タダの勘です。まあ、折木の場合、その無表情臭い表情なのに顔に出やすいですから、思っていることがバレバレなだけですけどね」

 

 ニヤニヤとしてその表情で、俺を見る。…背は完全にこっちの方が上のはずなのに、見下されているような気分だ。

 

 俺は“コホン”と姿勢を正して咳き込む。

 

 

「…ところで、雲居。確か読書の話だったな…俺で良ければ付き合おう」

 

「あっ…誤魔化したですね……まっ、良い物見れたから別に良いですけど……。とりあえず趣味の話に移るです。ここじゃ何ですから…入り口の前の階段で話すです」

 

 

 そう言って、雲居は俺を玄関の外のバルコニーのような開けた場所に手を招く。…しかし、イヤなところを見られたな……後で口止め料をはずまなければ…。

 

 

 俺はそんなこすいことを考えつつ、雲居の手招きに従い、外へと場所を移していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

【ログハウスエリア:折木公平の部屋前】

 

 

「まあ突然押しかけたのは私なんですから、私から話を振ってやるです……単刀直入に聞くです。折木は今まで読んだ本の中で印象的なヤツとかあるですか?」

 

 

 少し上から目線だが(背が低いのに)、俺にジャブ程度の質問をかけてくる。その問いに対して俺は、指で顎を挟みながら考える仕草を挟む。

 

 …俺自身も人よりかは読書をする派なので、その手の知識に負けるつもりは無い、が…相手が超高校級の図書委員となると、言う内容を考えてしまう…。

 

 

「うーむ、俺の印象的な作品は…『考えそうで考えていない、実は少し考えている人』とか『蜜と唾』…とかだな」

 

 

 とりあえず、本を良く読む人間であれば、知る人ぞ知るという本を挙げてみた。その列挙したラインナップが意外だったのか…少し驚かれる。

 

 

「へぇ面白いところを読んでるですね……。結構西洋付近の小説とか読む派ですか?」

 

「いや。ノンジャンルでいろいろ読んでいるが……もし強いてあげるとすれば、推理小説を好んで読んでいるな…例えば…『万有の視覚』とか『螺旋法廷』などが面白かったな」

 

 

 俺のなりの主観ではあるが、日本の推理小説は中々に読み応えがあると思っている。……ドロドロとした人間関係があるタイプのは苦手だからな。だからそのジャンルについては……かなりの数は読破していると自負している。

 

 

「ふーん…中々見る目があるですね、少し変わったところだと、『ウグイス嬢が泣いている』とかは読んだことがあるですか?」

 

「ああ…!あの恋愛小説か!勿論読んでいる。それを読んでいる間は、プロ野球観戦がマイブームになっていたな……」

 

 

 推理小説以外にも、恋愛小説なんかも手を出している。勿論、ドロドロとした修羅場込みはでは無く、純愛モノだがな。

 

 

「割と本に影響されるタイプなんですね…まあ、そういうの嫌いじゃ無いですけど……」

 

 

 俺の反応に気分を良くしたか、雲居は口角を上げながらそう告げる。

 

 

「…それじゃあ似たジャンルで聞いてみるですかね……『磯の香りの消えぬ間に』はどうですか?私一押しの一冊なんですけど……」

 

 

 雲居はまるでコレが1番聞きたかったかのように、少し語気を強めて聞いてくる。

 

 

「ああ…!あの本は俺も何度も読み返したよ……あまりにも読み込み過ぎて、両親に頼みこんで漁師の体験までさせてもらったくらいだ……」

 

「……一押しの本を読んでいる同士が居て嬉しい限りですけど……そこまで入れ込んでいると聞くと逆に引くですね……」

 

「本をより良く深く楽しむための一環に過ぎんさ……」

 

「……何かあたしより読書家している気がするですよ………」

 

 

 ヤレヤレとしたように首をふる雲居。

 

 何だかまた呆れられた気がするが……今回は少し違うな……何となく尊敬の念を感じる…悪い気はしない。

 

 

「そこでなんですけど…好きな作者さんとかいるですか?……ちなみに私は勿論!腐川先生ですね!彼女の純愛小説群は私にとってもはやバイブルに他ならないですよ!」

 

 

 先の『磯の香りの消えぬ間に』の反応から予測は出来ていたが、やはり雲居は腐川冬子先生好きか……確かに俺も彼女の小説は何度も読み返すくらいには好んでは居る……だが……。

 

 

「俺は、そうだな……推理小説を読みあさっている俺としては……浅森先生、だな」

 

 

 未来の文豪と名高い腐川冬子先生と双璧を為し、すでに超高校級の推理小説家として希望ヶ峰学園に入学している天才高校生作家、浅森 すう(あさもり すう)先生。

 雲居にとってのバイブルが腐川先生の本であるなら、俺にとってのバイブルは浅森先生の推理小説全てである。

 

 

「浅森先生…ですか……まあ、最初の好きな本に『螺旋法廷』とか入れてる辺りから勘ぐってはいたですけどね…」

 

「フッ…それだけでは無い…『朝露が堕ちる』も、『償いのデンドロビウム』も全て読破している……浅森先生の作品関しての知識だけで言えば、俺に死角は無い……」

 

「相当な読み込みようですね……超高校級の図書委員の私としても、身震いするぐらいですよ……」

 

 

 ……そうやって、俺と雲居はお互いに好きな本、作者、内容、読書に関すること全てについて語り合い、趣味を共有し合った。何となく、雲居と仲良くなれた気がした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

「ところで雲居。ずっと聞こうと思ってたことなんだが……急にどうして、俺と話をしに来たんだ?こんな夜遅くなんかに」

 

 

 趣味の話もそこそこに、俺は雲居にこんな夜遅くに尋ねてきた理由について聞いてみる。すると雲居は、顔を難しげに変化させ、答え辛そうな、そして少し不安げな雰囲気を醸し出し、口を動かす。

 

 

「……何となく、ですけど……眠れなかったんです……。いつもだったらベッドに入ればすぐに寝息を立てられるはずなのに、今日に限って、妙に、寝付けなくて……」

 

「昼にやった、お昼寝競走のせいか?」

 

「………だと良いんですけどね」

 

 

 頬を片方上げ、自嘲するように鼻で笑う。

 

 

「理由は分からないですけど、それで眠れなかったから、気を紛らわそうと思ってこうやって趣味の話をしに来たわけです……」

 

「そうか…」

 

 

 雲居はモヤモヤとしたようにそう答え、俺は返す言葉が思いつかず生返事をしてしまう。

 

 

「まあ…ここに来て正解だった気もするです……折木とは案外話が合いそうだって事も分かったですし……大好きな本の事も十分よりちょっと手前くらいまで語れたですし……。良い気分転換になったです」

 

 

 雲居はそう口にすると、目を細め下を向いてしまう。

 

 

「雲居がそう言ってくれるなら、力になれて良かったよ……」

 

 

 口ではこうは言ってるが、得体の知れない不安はまだ拭えていないようにも見える。雲居は今まで、少しひねたような言動が目立っていたが、その実、とても繊細な子なのだろう。こうやって1対1で交流してみて、それが何となく分かったような気がする……あくまで、『分かったような』だが……。

 

 

「……その…一応礼を言っておくです……ありがとうございますです」

 

 

 独りごちる俺に、雲居は照れたような面持ちで体を向け、ぺこりとお辞儀する。

 

 

「それじゃあ、私は部屋に戻るです。夜更かしのしすぎはダメですよ?折木……後、明日からはきちんと電子生徒手帳、持ち歩くんですよ?」

 

 

 “じゃあお休みです…”そう言葉を残し、雲居はトテトテという効果音を立てるように、自分のログハウスへと帰っていく。

 

 

「不安…か」

 

 

 俺はそうつぶやながら雲居を見送ると、すぐに背を向け部屋へと入っていく。

 

 

 そして流れるように寝る支度を整え、電気を消し、床につく。雲居がこぼした不穏の予感、それが俺の心に小さなしこりとして残ったまま、俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【モノパン劇場】

 

 

『………………』

 

 

『……ワタクシは』

 

 

『今……怒っていまス……』

 

 

『コロシアイどころか、あんなに楽しくキャッキャウフフとしやがっテ……』

 

 

『キミタチがすべきことは…他にあるはずなの二……』

 

 

『あの運動会だって…誰かの殺人の計画だと思って加担したのニ……』

 

 

『……がっかりでス………』

 

 

『…………………』

 

 

『そろそろ……そろそろ本腰を入れないと、いけないみたいですネ……』

 

 

『くぷぷぷぷプ……』

 

 

『くぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷプ……………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生き残りメンバー:残り16人』

 

 

 

【超高校級の特待生】折木 公平(おれき こうへい)

【超高校級の陸上部】陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう)

【超高校級のパイロット】鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ)

【超高校級の忍者】沼野 浮草(ぬまの うきくさ)

【超高校級のオカルトマニア】古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん)

【超高校級の天文学者】雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう)

【超高校級の吟遊詩人】落合 隼人(おちあい はやと)

【超高校級の錬金術師】ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein)

【超高校級のチェスプレイヤー】水無月 カルタ(みなづき かるた)

【超高校級の華道家】小早川 梓葉(こばやかわ あずは)

【超高校級の図書委員】雲居 蛍(くもい ほたる)

【超高校級のシスター】反町 素直(そりまち すなお)

【超高校級の射撃選手】風切 柊子(かざきり しゅうこ)

【超高校級のダイバー】長門 凛音(ながと りんね)

【超高校級のジャーナリスト】朝衣 式(あさい しき)

【超高校級の幸運】贄波 司(にえなみ つかさ)

 

 

 

 




 どうもこんにちは、水鳥ばんちょです。ええと、運動会の部分は、脳みそを空っぽにして見ていただけると、アリガタイです。それと、途中で出てきた原作キャラと見覚えの無いキャラ……まあなんかのフラグだったりします。ご想像にお任せしマスです。


↓以下コラム


○出身校


折木 公平(おれき こうへい):夜桜高校(よざくらこうこう)

陽炎坂 天翔(かげろうざか てんしょう):太陽ヶ丘男子高校(たいようがおかだんしこうこう)

鮫島 丈ノ介(さめじま じょうのすけ):八百万八幡工業高校(やおよろずはちまんこうぎょうこうこう)⇒クーコー航空学校(くーこーこうくうがっこう)

沼野 浮草(ぬまの うきくさ):鬼ヶ島高校(おにがしまこうこう)

古家 新坐ヱ門(ふるや しんざえもん):鵐ノ商業高校(しとどのしょうぎょうこうこう)

雨竜 狂四郎(うりゅう きょうしろう):Z大学附属高校(ぜっとだいがくふぞくこうこう)

落合 隼人(おちあい はやと):シラカミ森林高校(しらかみしんりんこうこう)

ニコラス・バーンシュタイン(Nicholas・BarnStein):スコットランドハイスクール(Scotland high school)


水無月 カルタ(みなづき かるた):玄宗学園(げんそうがくえん)

小早川 梓葉(こばやかわ あずは):平安学院(へいあんがくいん)

雲居 蛍(くもい ほたる):紫雲高校(しうんこうこう)

反町 素直(そりまち すなお):天馬女子学院(ぺがさすじょしがくいん)

風切 柊子(かざきり しゅうこ):氷山農業高校(こおりやまのうぎょうこうこう)

長門 凛音(ながと りんね):西表山根高校(いりおもてやまねこうこう)

朝衣 式(あさい しき):アカデミックアカデミー(Academic Academy)

贄波 司(にえなみ つかさ):螺旋高校(らせんこうこう)
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