さて、王よ。
貴方は今、『最期に何か言い遺すことがあれば、言ってみるがいい』とおっしゃった。
『何かひとこと』ではなく、『言い遺すことがあれば』と。
つまり私に言い遺すことがあれば、無限にしゃべり続けても良い、ということだな?
ハハハ、もちろん無限にしゃべり続けるつもりなどはないさ。
私はこう見えて口下手でね。
ホラ、魔女ってのは、基本的に引き籠りだからさ。
他人とまともに会話したのなんて、今回を除けば、もう何千年も前になるんじゃあないかな?
なあんちゃって、ジョーク、ジョーク。
魔女のジョーク、魔ジョークさ、大爆笑だろ? アハハハハ!
おおっと、話が飛んだようだ。
えーっと、どこまで言ったっけ……そうそう、『無限にしゃべり続けるわけじゃない』の下りだった。
そりゃあ、無限にしゃべるワケじゃないけどさあ。
ただね、こっちだって、言い遺したいことは、たっくさんあるんだ!
時間にすると、そうだね、多分、10分か20分、もしかしたら30分くらいになるかな。
長いけど、ちゃあんと、喋らせてくれる、と。
王様、そう言う事だね?
うん?
よし、言質は取ったよ。
それじゃあ、話させてもらおう。
さあて、私の斬首刑見たさに集まった賢明なるドンブラ国国民の皆様!
私は、裏の森の最奥に棲む、魔女である。
ドンブラ国とは、浅からぬ縁があってね。
50年前、この国にぐるりと巨大な防壁を造ったのは、私だ。
40年前、疫病から国を救ったのは、私だ。
30年前、国の大半をしめる毒土を栄養たっぷりの腐葉土に変えたのは、私だ。
20年前、不治の病にかかった王妃を治療したのは、私だ。
10年前、大量発生したイナゴを滅ぼしたのは、私だ。
そして今年、干ばつに苦しむドンブラ国に、雨を降らせたのは、私だ。
大いに感謝されて、しかるべきじゃないか?
もちろん、タダではない。
毎回、対価を貰っている。
今回は、1億ゴールド出すなら雨を降らせる、と王に話をし。
王は『雨を降らせることができたなら、1億ゴールド出す』と約束をしたんだ。
なのに王と来たら、約束通り雨を降らせたのにもかかわらず、やれ『たまたま偶然降っただけだ』だの、やれ『金額が高すぎる』だの。
結局『詐術を使い、人心を惑わせた罪』とやらで、私はこうして、斬首刑にされようとしているわけだ。
……なに?
『確かに助けてくれたのはありがたいが、いくらなんでも値段が高すぎる』、だって?
ああ、賢明なるドンブラ国国民の皆様!
言っておくけど、私、魔女の中ではゲロ甘に優しい方だからね!
だって、魔法の対価が、ただの、お金だよ?
呪いもかけないし、命も取らないし、人間を小鳥にしたりもしない。
ドンブラ国には少なからず思い入れがあるから、お金を取るだけにしてあげてるんだ。
それを……ぐあッ!
ちょ……なんだよオイ、人が話している最中だぞ、勝手に斬りつけるなよ。
ああん?
私の首が斬れるわけないだろ、魔法で硬くしてるんだから。
どうしても斬りたければ、この首と同じ太さの鉄が斬れるヤツを呼んできたら良いよ。
なぁ……あのさぁ、王よ。
さっき、言い遺したこと、喋っても良いって、言ったよね?
また、約束破るのか?
まぁ、良いや、斬首したくたって、この辺の兵士では無理だからね。
私は私で、勝手にしゃべらせてもらうさ。
さて、どこまで話したっけ……ああ、そうそう、『魔法の対価が高い』のところだったね。
だってさぁ、雨を降らせるのって、要は、餓死から多くの人々を救ったってことだぞ?
あったりまえじゃん、高いのなんて!
いや、1億ゴールドっていうお金にしてもさぁ。
ホントのこと言うと、手間賃すら取ってない、ボランティアなんだよ?
今回、雨を降らせるのに集めた材料は、モチロン
いくつか挙げていくと……えーっと……ペンギンの風切り羽に、カエルの臍のゴマに、ホヤの手足に、アノマロカリスの肉片に……。
つーか、ぶっちゃけ、アノマロカリスの肉片だけで、末端価格1億ゴールド余裕なんですけど!
2億取っても、余裕で赤字ですわ!
私ってば、マジでゲロ甘すぎ!
……さて、というわけで、私がなんでこんなに怒っているのか、賢明なるドンブラ国国民の皆様は、理解してくれたかと思う。
そして。
当然私は、おとなしくここで殺されるつもりは……ぐえッ!?
……。
……。
……うっわー……えー……すっごい……マジで驚いたわ。
まさか本当に、斬鉄できるヤツがいるなんて、なぁ。
ああん?
なんで死なないかって?
首を落とされただけで死ぬわけがないだろ?
私は魔女なんだぞ?
ったく、毎回毎回、話の腰を折ってくるなよ、なぁ、王様?
……おいおい、どうしたんだよ、そんな青い顔をして。
まさか本当に、『ドンブラ国の森の魔女』を殺せると思ってたのかい?
なるほど、これがキングのジョーク、ジョーキングか、大爆笑だね、アハハハ!
……さてと、
ああ、そうそう、
そんなわけでさ、流石の私も、この国に、ほとほと愛想が尽きかけていたのよ。
だから、ちょっと、こんな復讐を、考えてみたんだ。
せっかく、今回の魔法を使う材料でペンギンの風切り羽に、カエルの臍のゴマに、ホヤの手足に、アノマロカリスの肉片なんかが余ったからさ。
この国に、大雨を降らせてやろうとおもっていたんだ。
まずは魔法で防壁の門を固く閉ざす。
国の外へは一人も逃がさない。
そんな状態で、海をひっくり返したような大雨を、七日七晩降らせよう。
雨だけじゃ、つまらないかな。
溺死なんて、生ぬるい。
この国にある固形物質は、欠片も残さない。
家も。
田んぼも。
城も。
王も。
防壁も。
そしてもちろん、賢明なるドンブラ国国民の皆様も。
一人残らず、一つ残らず。
みんな仲良く、
……なあんちゃって、ね。
そうは言っても、やっぱり私はこの国に思い入れがあるし、多分世界で一番ゲロ甘な魔女だ。
私の条件を聞いてくれれば、今回のことは、全部なかったことにしてあげようと。
そんなことを、考えていたわけだ。
フフフ、どんな条件か、聞きたい?
それはね。
……ん?
どうしたんだい、王も、国民も、皆でぽかんとして。
え、既に、私の首と胴体は、離れているだろう、って、言いたいのかな?
あ、ちょっと、何か勘違いがあるみたいだから、言っておくね。
私、言ったじゃん?
『……さてと、
ああ、そうそう、
うん。
『
……ん?
まだ分からないって顔をしている人もいるね。
まあいいや。
それでは、賢明なるドンブラ国国民の皆様に、
今から、1週間後。
つまりは、来週に。