バトルスピリッツ 怪異札奇譚   作:アイリスせんせー

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本作はバトルスピリッツの二次創作、通称架空バトスピです。
バトルパートではオリジナルカード(通称オリカ)が登場する予定となっております。
苦手な方は、予めご了承の上でご覧下さい。


第一章 メリーさんの電話 其ノ壱

私立 月宮学園(つきのみやがくえん)

広大な敷地面積を誇るその高校には数多くの優秀な生徒が在籍している。

この物語の主人公、神童 一夜(しんどう いちや)もその一人だ。

陸上部に在籍する彼は、高校生でありながら短距離走からフルマラソンまで、あらゆる距離の走りにおいてレコードを更新してきた天才的アスリートだ。先日の大会を終え、部や彼の友人達はその祝勝会で盛り上がりを見せていた。

 

「優勝おめでとーう!!!」

 

放課後の教室、十数人の友人達がスナックやジュースを片手に神童を囲む。祝勝会と言っても大した規模のものではなく、子供のパーティ程度のものだ。それもそのはず、神童が走りで勝つのはいつもの事。各分野において優秀な生徒が多数在籍する月宮学園にとっては、取り立てて話題にするような出来事ではないのだ。

 

 

 

「ありがとな。でも大したことじゃないだろ、あんなの」

 

俺は皆から贈られる祝辞に照れ臭くなりながらも返す。

 

「大したことあるっての!本番前は対抗意識で目ェギラギラされてた他県の代表、終わってみればお前の走りにビビって顔真っ青だったぞ?」

「記録の更新を逃したのは惜しかったけど、それでも二位をぶっちぎってゴール!カッコ良かったなぁ〜!」

「最近は他の運動部からも助っ人のお誘いが来てたわよ。野球部、サッカー部、ラグビー部とか…あと、変わったとこだとゴルフ部とか!」

「いやゴルフで何やらされんの俺、球拾いか?」

「確かに一夜ならすぐに拾って戻ってきそうだな!取ってこ〜い、なんて!」

「何それ、犬みたい!」

 

大きな笑い声が教室を包む。

ご覧の通り、勝利を祝うという大義名分はあれど、結局のところは楽しく騒ぎたいだけの生徒達の集まりだ。

それは俺も同じ。ゴールの瞬間に感じる孤独を塗り潰すかのように、共に笑っていた。

 

いつも通りならば、そのまま愉快に笑いあったままで宴は終わる事だろう。しかし、今日はそうではなかった。

この祝勝会で祝われた先日の大会、その内容がいつも通りではなかったからだ。

 

「そういえばさ、どうしてゴールの手前で減速したんだ?あれが無かったら記録更新できてたろ」

 

皆が何となく触れる事を避けていた話題。誰かがそれに触れると、場の空気が少し変わった。

 

「減速っつーか、完全に足が止まってたよな。何かあったのか?」

「私も後でこっそり聞こうと思ってたんだけど、どこか痛めたの?マネージャーとしてはやっぱり気になるな」

 

誰かが一度穴を開ければ、疑問を閉じ込めていたダムは一気に決壊した。

その質問攻めを苦い表情で受けている事だろう。それは聞かれたくない事を聞かれたからではない、自分では答えられない事を聞かれたからだ。

 

「俺にもよく分からない。何か追いかけられてビビってた、のかな?」

 

思い出す。あの時背中に感じた気配、声、その名前を。

 

「変な事を聞くかもしれないけどさ、あの時俺の後ろに、誰かいなかったか?」

 

変な事を聞かれて周囲は目を丸くした。全員の答えは同じだ。

 

「いない、いる訳ないだろ。他の奴ら、途中からは追いかけてるのかも分からないくらいに離れてたぞ?」

「そうか…いや、そうだよな」

 

そうだ、それでいい。だってあの気配も、あの声も、常識的に考えればあるはずがないものだ。

きっと気のせい。そう信じて、他の事を考えてあの幻覚を忘れよう。

必死に意識を逸らしていると、別の疑念をふと思い出した。

 

「あれ?今日って確か校内対抗リレーの合同練習があったよな。こんなとこで遊んでていいのか?」

 

後日に開催される月宮学園の体育祭、その目玉競技の一つであるリレーのメンバーとして選ばれていた神童たち陸上部の数名は今日の放課後、すなわちこの時間に合同練習を行う予定だったのだ。

 

「それなら中止になったよって、昨日の夜にグループトークで連絡入れたじゃない。グラウンドの予約がダブルブッキングしてたって話、もしかして気付いてなかった?」

「んんー、あー、はいはい。確かに聞いたかも?うん、聞いた気がするわ」

「いや忘れんなよ!今朝も“ゴルフ部がグラウンドで何やるんだよー!”って盛り上がってたじゃねーか!」

 

いやマジで何やるんだよゴルフ部。

違う、今はゴルフ部の活動内容はどうでもいいんだ。

実際のところ、俺はその連絡を聞いていなかった。来ていたのだろうが、見ることが出来なかったのだ。

 

「いや、実は   

 

 

 

   実は、スマホ忘れてきたんだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りはすっかりと暗くなっていた。

連絡を見ていなかった件を適当な嘘で誤魔化した後は、特に大きな出来事もなく祝勝会はお開きとなった。

ゴルフ部の謎の儀式も終わっていたらしく、俺は空いたグラウンドを使わせてもらって自主練習に励んでいた。生徒の得意な才能を伸ばすことを第一に考える校風故か、申請さえすれば深夜であろうとも学園のあらゆる設備を自由に使わせてくれるのは非常にありがたい。

とはいえ、時刻は既に夜の11時を過ぎている。こんな時間になれば、俺以外の人間はほとんど学園に残っていないのではないだろうか。

 

 

周囲に誰の人影もないことを確認する。

 

   よし」

 

ナイター設備に眩しく照らされたトラックの上に立ち、俺はバッグからスマートフォンを取り出すと、一日ぶりにその電源を入れた。

この通り、俺が連絡を見落とした理由は単純で、スマホの電源を入れていなかったからだ。ただ、その理由を聞かれると答えにくいので、忘れてきたと言うありがちな嘘で誤魔化したのである。

では、なぜ電源を切っていたのか。その理由もまた、一目瞭然である。

 

 

 

 

 

 

不在着信

不在着信

不在着信

不在着信

不在着信

不在着信

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不在着信

不在着信

不在着信

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不在着信

不在着信

不在着信

不在着信

不在着信

不在着信

不在着信

 

 

 

これだ。この画面を埋め尽くす無数の不在着信の通知、これに嫌気がさして電源を切ったのだ。

ストーカー被害にあっているわけではない。しかし、昨日の大会が終わってから無数に続くこのコールは電源を切るその時まで鳴り続けた。

そして今、電源を入れたならば…

 

♪〜

 

ほら、今日も来た。

静寂に包まれた学園に軽やかな着信音が鳴り響く。発信元は不明と俺のスマホは教えてくれるが、俺には分かる。

しっかりと覚悟を固め、その着信を受けると   

 

 

『わたしメリーさん、今月宮駅(つきのみやえき)の前にいるの』

 

   昨日の、あの声だ。

 

 

俺にはオカルトの知識は全く無い。それでも、『メリーさんの電話』という都市伝説は何となく知っている。

とある少女がメリーさんの人形を捨てると、その夜にメリーさんから電話がかかってくるのだ。わたしメリーさん、今ゴミ捨て場にいるの、と。その後少しずつ少女の場所に近付いてくるメリーさんから何度も電話がかかってきて、最終的には少女の後ろに現れる。

確かこんな感じだったはずだ。詳しくないので後ろに現れた後にどうなるかとかは知らないが、この手の怪談話の定番の結末としては、やっぱり呪い殺されるのだろうか。

まだこの電話の主が本物のメリーさんだと決めつけているわけではないが、だとすれば確かめたい事は色々とある。

 

俺は湧き上がる恐怖を押し殺して、メリーさんの電話に返答した。

 

「俺は神童一夜さんだ、今は月宮学園のグラウンド、そのトラックのスタートラインに立っている。この後は段階を踏んで近付いてくるつもりかもしれないが、話したい事がある。さっさと来い」

『え?』

 

電話の向こうから驚いたような声が聞こえた気がしたが、俺は言いたいことだけ伝えて一方的に電話を切った。

お話通りの展開になれば、メリーさんに背後を取られて殺されるのかもしれない。しかし俺にはそんな事への恐怖感は全く無かった。

何故なら、俺は既に一回メリーさんに背後を取られている。それでいて、今もまだ生きているのだ。

確認したい事の一つはそれだ。さて、メリーさんが現れたら何から聞こうか?何故俺はまだ生きているのか、そもそも彼女は本物のメリーさんなのか、何故昨日は電話ではなく直接語りかけてきたのか…

 

「いや、俺にとって一番重要なのは   

 

 

♪〜

 

最初の電話からどれほどの時間が経ったのか、メリーさんから二度目の着信が来た。

俺はスマホを足元に置くと、スピーカーモードにした足元のスマホ、そして背後から、彼女の声が聞こえた。

 

『わたしメリーさん、今あなたの後ろにいるの』

 

約束通り、早速後ろまで来てくれたらしい。俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()彼女に問いを投げかけた。

 

「最初に確認するが、お前は本物のあのメリーさんなのか?」

『ええ、その通りよ。怖いでしょう?泣いてしまいそうなんじゃないかしら?』

「なるほどな、だから唐突に背後に現れることが出来る訳だ」

『そうなの。どこに逃げたって、逃げられないんだから!』

「そうか、それは良い」

『うふふ!怖いでしょ…え、今なんて?』

 

またもメリーさんの困惑するような声が聞こえたが、知ったことではない。

彼女がどんな理由で俺に狙いを定めたのかは分からない。だが、お前が勝手に俺を狙い続けるならば、俺もまたお前を勝手に利用してやる。

 

「俺は陸上やってんだ。一着以外を取ったことが無いくらい、足には自信がある」

『へ、へぇ…凄いですね…?』

「そんな中での、昨日の大会だ。ゴール直前、誰もいないはずの俺の後ろに、お前が現れた」

 

あの日、あの瞬間の記憶を思い返す。そうだ、あの時は確かに   

 

   怖かった」

 

その一言を告げた途端、メリーさんの声色はぱあっと明るくなった。きっと満面の笑みを浮かべているに違いない。

 

『ええ!ええ!そうでしょう!なにせ私は泣く子もさらに泣き出す恐怖の怪異、メリーさんだもの!』

「でもな、初めてだったんだよ、全力で走る俺の背中を捕まえるヤツは。背後に気配を感じる緊張感、追いかけられる焦燥感、どんな相手との走りでも感じた事が無かった!だからあの感覚はきっと恐怖じゃない、楽しかったんだ!」

『ええっ、何でそうなるのよ!?』

 

後になって思えば、俺はとんでもなく意味の分からない事を言っているのだろう。だが許してほしい。圧倒的強者であるが故の孤独、それを満たしてくれるかもしれない存在に初めて出逢えたんだ。その相手が人間のライバルではなく、怪奇現象と言うのは奇妙な話だが、本気で楽しめる走りが出来るならば何だっていい。

 

「だから頼む、もう一度俺の背中を追ってくれ。あの高揚感をもう一度与えてくれ。お話の結末として俺を呪い殺すつもりだろうが構わない。どこに逃げても逃げられなくとも、俺はどこまでだって逃げ続ける!」

『何この人、怖い…』

 

脚に、全神経を集中させる。呼吸を整え、前方を睨む。

 

「さあ、捕まえてみろ」

 

俺は勢い良く駆け出した。

後ろのメリーさんも、少し反応が遅れたようだが俺を追ってきているのを感じる。

スタートダッシュは上出来。俺の走りは速度、加速、持久力、どれを取っても最高峰だという自信がある。いいスタートが切れたならば、その瞬間に並の短距離走者(スプリンター)とはサヨウナラだ。

それでもメリーさんならば付いてくるのだろう。これからどれだけの距離を走ることになるかは分からない。だから最初は体力の温存の為にも、トラック一周だけ。4()0()0()m()()()()()()()()()()()()()()()

 

100mを走り終え、最初のカーブに入る。俺の最速にも追いつくであろう相手だ、減速は最低限に。加速の勢いを殺さずにカーブを抜けたら、バックストレート。半周を全力で駆け抜けても、疲労は全く無い。正しくは、感じないほどにこの走りを楽しんでいた。

だって今だけは後ろを走る相手がいる。俺の後ろには、メリーさんが   

 

 

 

 

   あれ、いなくね?

おかしい、背中に気配を何も感じない。そういえばスタートしてから声を聞いていない気がするぞ?アイツ、どこ行った?

そしてその疑問は、最後のカーブの途中にて氷解した。

 

トラックの上、スタートラインから50m程の所に、何かいる。

フリルの付いた可愛らしい服を着た金髪の少女が、その場所に倒れ込んでいた。

 

『ぜぇ、はぁ…何なのよ、あなた…』

 

近くへ駆け寄ってみれば、その少女は息を切らしてゲッソリと横たわっているではないか。写真を撮ればヤ○チャのコラ画像が作れそうなやられっぷりである。という訳で一枚…おっと、スマホはスタートラインに置いてきたままだったか。

しかしこの声、間違いない。この子がメリーさんだ。

 

「もう一度確認するが、お前は本物のあのメリーさんなのか?」

「え、えぇ…その通り、よ…。もうちょっと、怖がりな、さいよ…」

 

虫の息でこちらを睨みつけてきた。初めて顔を見るが、かなりの美少女だ。ちょっとタイプかもしれない。

このまま話を続けるのもなんだか可哀想なので、少しベンチで休ませてやることにした。

別に可愛い女の子に情が湧いたとかそんなんじゃ無いんだからね。

 

 

 

 

「ぷはーっ!この濁ったお水、とっても美味しいじゃない!」

 

()()メリーさんはスポドリの力で息を吹き返した。

この段階で俺は確信を持てたが、彼女は本物の都市伝説ではなく、ごっこ遊びをしている女の子なのだろう。俺の突飛な言動に困惑するような感情を持ち、50m走っては息を切らし、買ってやったスポドリを美味しそうに飲んでいる。そんな残念な怪奇現象が存在する訳がないからだ。

 

「あなた、意外といい人ね!お名前はなんて言うの?覚えてあげるわ!」

「はぁ、どうも。俺は神童 一夜(しんどう いちや)って言います…って、さっきも言ったんだがな」

「イチヤ、イチヤね?それじゃあ、わたしも特別に自己紹介してあげる!」

 

いや、知ってますよ既に。わたしメリーさん、だろ?既に何回自己紹介されたと思って   

 

「わたしメリーさん、4()9()1()()()()()()()()よ」

   よんひゃくきゅうじゅういちだいめ?」

 

少女は不可思議な事を言い出した。491代目ってどういう事だ?過去に他のメリーさんが490人いるってこと?え、なに、メリーさんってそういうシステムなの。

 

「あら、よく分かってない顔ね。いいわ、今は気分が良いから質問があれば答えてあげる!」

「え、じゃあまず。491代目って、なに」

 

どうしてもコレは聞かずにはいられなかった。

もしもゆっくりと話をする機会があれば何を聞こうか予め決めてはいたのだが、目の前に新たな爆弾を投下されては、やはり気になってしまう。

 

「簡単な話よ、わたしたち怪異(かいい)には結末って言って、寿命のようなものがあるの。目標に取り憑くみたいなそれぞれの結末を迎えたり、或いはその途中で悪いモノとして祓われたりしちゃうと、その怪異は消滅して無くなるの」

「なるほど。って事はつまり、消滅した怪異の名を継いで、また新しい怪異が生まれるってわけか?」

「だいたいそんな感じ。でもね、継ぐのはあなたたち、人間なのよ」

 

自称メリーさんはニヤリと笑うと、自慢げに解説を続けた。

 

()()()()()()の。怪異は一度消滅したって、伝承として語り継がれる限り、何度でも蘇るの。人間の恐怖の記憶そのものである怪異は不滅なのよ」

 

人間が覚えている限りは滅びないか。なるほど、実に想像力豊かで、オカルトに対して面白い捉え方をする子だ。

 

「じゃあ、メリーさんは語り継がれる事で何度も復活して、君の代までに490人もの人間が呪い殺されてきたってことか?」

「あっ、いやぁ、それは…」

 

どうした事か、急に表情を曇らせ始めた自称メリーさん。苦い表情のまま、恥ずかしそうに問いを投げかけてきた。

 

「あなたは、メリーさんが電話の相手の背後に現れる、その後の結末を知ってるかしら…?」

「その後って、呪い殺されて終わりじゃないのか?」

「当然、そんな結末も過去にはたくさんあったわ。じゃあ、他には?」

 

ほか?メリーさんの電話の結末って、色々あるのか。言われてみれば、語り継がれる伝承だ。その途中で内容が変化してゆくのは不思議ではない。だけど俺はその手のオカルト話には詳しくない。最もメジャーであろう死亡エンド以外のお話なんて、知っているわけが   

 

   いや、そういえばこんな話だったら聞いた事があるな。

 

「電話の相手が壁にもたれかかってたから、後ろに現れたメリーさんは壁に埋まってしまいました。ってやつ?」

「それ、126代目のわたし」

 

実話なのかよ、それ。

そんな結末も含むのであれば他にもいくつか聞いた事はある。最近ではメリーさんといえば、怖い話よりもパロディの笑い話の方が多いかもしれない。

あれ?という事はメリーさんの被害者って実はそこまで多くないのでは?

 

「わたしは恐怖の怪異なのよ!どうして皆わたしの事をギャグキャラや萌えキャラ扱いするのよ!納得いかないわ!」

 

そう言って涙目で喚き散らす自称メリーさんの姿は、うん、確かに萌えキャラだわこの子。とっても可愛かった。

 

「無駄に高い場所に住むなんて面倒なだけじゃない、意味がわからないわ!それにあの厳つい顔の男は何者だったのよ!どうしてニッポンの駅はあんなに複雑な構造なの!?あーもう、こんなんじゃわたしの怪異カーストが下がる一方じゃない!」

 

ここでもまた、自称メリーさんは気になる単語を口にした。

 

「怪異カースト?怪異の間でも上下の格差があるのか?」

「ええ、多くの人々に恐れられる存在が上で、そうでないものは下。あなたたち人間の格差よりも単純な仕組みじゃないかしら」

「だとすると、メリーさんの階級はだいぶ下だな。今回も『普通に走って逃げられました』って結末(オチ)がついたわけだし」

「まだ終わってませーん!491代目メリーさんのお話はまだ途中だから!わたしの恐怖伝説はここからが本番なのよ!」

 

すると自称メリーさんは先程の萌えキャラモードから一転、真剣な面持ちで俺を睨んだ。

 

「このお話の結末は『将来を約束された天才アスリートの死』。これでメリーさんの怪異カーストは大逆転ってわけ!だから、わたしはこれからあなたを呪い殺すわ!この()()()()を使ってね!」

 

そう言うと、彼女はポケットから怪異の札とやらを取り出した。その黒い御札はかなりの枚数があるようで、分厚い束になっていた。

 

「全盛期のメリーさんなら睨んだだけで全身の血液を沸騰させるくらいは出来たんでしょうけど、今のわたしは人々の恐怖が薄れて力も奪われてるから、この怪異の札を使わせてもらうわ。これ凄いのよ?いろんな怪異や呪術の類が一枚一枚に封じ込められてるの」

 

なんて評判の怪異の札だが、俺は一目見て何となく違和感を覚えた。

御札ってもっと縦に長いイメージだったんだが、意外と小さいんだな。それに何より御札の模様だ。不思議な模様なんだけど、どこかで見覚えがある気が   

 

   いや、バトスピじゃんそれ」

 

バトルスピリッツ、通称バトスピ。この世界で流行しているカードゲームの一つだ。

俺も男子高校生の端くれ。学園にデッキを持ち込んでは休み時間に友人と遊ぶ、プレイヤーの一人である。

 

「それなら俺も持ってるぞ、ほら」

「うそ!あなたも怪異の札を!?」

 

俺はバッグからデッキの一つを取り出し、自称メリーさんに見せた。彼女はカードの裏面を見せてくれたが、俺のカードはスリーブに入っていて裏面が見えない。なので俺が見せたのは表面、デッキの一番下に置かれていたカード、遺跡草原だ。

 

「むむむ、あなたが無防備なら一方的に呪い殺せたのに。お互いに怪異の札を持っているなら、バトルをするしかないわね」

 

この一言で、全ての謎が解けた気がした。

そうか、彼女はバトスピがしたかっただけなんだな。だけど普通に誘うのが恥ずかしいから、こうやってメリーさんごっこを通じてバトルをする口実を作ろうとしていたのだ。

それなら俺が彼女の誘いを断る理由は無い。

 

「わかった、バトルだな。相手はするけど、友達と軽く遊ぶ程度の実力だからお手柔らかに頼むよ」

「へぇ、初心者さんなのね。一方的にボコボコにしてあげるから、安心しなさい!」

 

デッキは何種類か持ってきている。何を使おうか、まずは緩めのファンデッキでも使って様子見かな?…とも思ったが、煽られて少しムッとしたので多少は自信のあるデッキ、今まさに手に持っているコイツで相手をしてやろう。

 

「準備はいいかしら?さっそく始めるわよ!」

「いやいや、準備と言ってもベンチの上じゃやりにくいだろ?食堂はもう閉まってるし、どこかテーブルのある場所は   

 

遊びやすい場所を探そうかと思ったが、そんな事はお構い無しにと彼女は遮る。

 

「ゲートオープン、界放!」

 

自称メリーさんはお決まりの掛け声を高らかに叫んだ。

するとどうだ。俺の視界は、意識は、深い闇の底へと沈んでいった   

 

 

 

   次に目を覚ました時には、俺はいくつもの事実を思い知る事になる。

彼女の正体はごっこ遊びの女の子ではなく、正真正銘のメリーさんである事。

けっこう呑気してたが、命の危機が眼前に迫っていた事。

そして何より、手加減したデッキ選択をしなくて本当に良かったなぁ、と。


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