暗い……あまりにも…   作:薄氷の仮面

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第2話 怪鳥の復活

趙が大軍を起こし、燕へ攻め込んだという情報はすぐに秦にまで伝わった。しかしその時既に、秦は韓に大軍で攻め込んでいるため、趙には攻め込めないはずだった。

 

「昌平君よ、韓に大勝して国民は活気づいている。そして趙との国境は、がら空きだ。攻め込まない手はない」

「いえ、趙の今代の王、悼襄王はそこまで愚かではありません。秦への備えとして、劇辛将軍を燕から買い戻したという情報が入っています」

「しかしそれでも国境を守る兵は少ないだろう。韓へ侵攻し、目的を達成した軍の一部を連れ戻し、徴兵した民と合わせれば趙の城を奪い取ることが出来る」

「……張唐殿を南の守備に置くという条件で」

「許す。そして趙への侵攻の最大の目的は、言わずもがな分かるな?」

「韓皐城でしょう?」

 

しかし趙の重要拠点である韓皐を奪い取るには、燕に大軍を送り込んでいる今しかないと秦の呂不韋と昌平君は判断した。本来のキングダムの流れでは秦趙同盟を李牧が持ち掛けた際、呂不韋に吹っ掛けられたことで秦に奪われた韓皐城だが、秦趙同盟だけは絶対にあり得ないという悼襄王の存在によってその原作の流れは崩壊した。

 

韓皐城は悼襄王が即位する前から城の増強の着手をしていたが、まだ完成はしていない。その完成を前に、奪いに行こうと軍を起こしたのが今回の秦軍であり、その総大将には王騎が据えられた。

 

その秦軍が趙と魏の国境付近にある、韓皐城向けて進軍を開始したという情報が入った時、趙王である悼襄王は怒り、怒鳴り散らす。そして李牧に援軍を任せた所で、燕に遠征中の廉頗から情報が入る。

 

判子で封をしてある伝令は、使者から悼襄王の手に渡る。読んだ直後、悼襄王はそれを木端微塵にして叫んだ。

 

「燕軍16万を相手に奮闘中だが押されていて援軍が欲しい、だと!?ふざけるなぁ!李牧!お前が勝てると言ったよなあ!?」

 

そして悼襄王は酒の入った盃を李牧に向けて投げるが、李牧はその酒を黙ったまま被った。李牧の側近達は少し苛立った声を漏らしたが、それを李牧が御す。

 

「申し訳ありません。私の計算違いでした。しかし必ずや侵攻してくる秦軍を打ち破り、反転して燕軍を葬り去りましょう」

 

その後、小部屋で軍議が行われる。参加者は少なく、部屋にいるのは悼襄王と僅かな私兵。そして郭開と李牧と李牧の側近達だった。

 

 

 

燕を攻めている最中に秦軍が攻めて来たので作戦タイム。この小部屋には今現在、絶対に口を割らない人しかいません。郭開?コイツは自身の立ち位置さえ保障しておけばわりと功臣寄りです。どちらかと言うと李牧の側近達の方が心配なレベル。カイネとか特に暴走しそうだから見ていてハラハラする。

 

「すまなかったなあ、李牧。燕からの詳細な戦況を今から伝えよう。

現在武陽を落とし、燕軍燕人合わせて1万人を捕虜にしたようだ。大勝だ。しかし援軍を率いるオルドが上手く撤退したようで、主力はあまり削れなかったと」

「なっ!?えっ?」

「そうでしたか。武陽を落としたとなれば、その周辺の平定で大忙しでしょう。そんな中、燕軍が解放するために攻めて来ることを考えるとあまり軍は引き抜けません」

「それは分かっている。となれば、あの王騎相手に兵力少数で当たらなければならない。

……追い返すだけなら可能か?李牧」

「……王騎が死ぬまで撤退はしないでしょうから、結局王騎の首を狙うことにはなりそうですね」

 

悼襄王の燕相手に大勝したという情報で、驚いた声を出したのは李牧の傍にいたカイネだけだった。近衛兵達は俺が演技派だって知ってるからもう驚かないし、ちょっと新鮮な反応。逆に傅抵は黙り込み、こちらを信じられないものを見たかのような目で見つめて来る。男に見つめられても嬉しくねーよ。そして俺が燕からの報告に真逆の反応をすること、李牧はカイネに伝えてなかったのか。これは知将李牧。

 

秦からの侵攻を読めなかった時点で恥将でもあるけどそれは俺もなのでセーフ。いやだってマジで韓には大軍で攻めていたし、こっち来るとは思わないじゃん。キングダムを読んだことのある人なら、ほぼ確実に好きな武将トップスリーには入るであろう王騎将軍。その王騎が敵だと思うと憂鬱な気持ちになる。王騎の配下達も強いし劇辛で耐えられるかは不明。

 

「最悪劇辛を餌にしても良いし、王騎は必ず討ち取れ。龐煖なら勝てるだろ。一騎討ちに李牧が交ざって2対1でも良いぞ。

あと郭開は、ちゃんと秦王の母の実家を突き止めたんだろうな?」

「は。きちんと捕縛してあります」

「ならばよし」

 

郭開には郭開で指示を出しており、秦王の母親の実家を突き止めて捕縛するよう言ってある。あの光の王に対する、良い交渉材料になるから重要な任務だったけど無事達成した模様。やっぱこいつ功臣だわ。絶対に重用はしないけど。

 

劇辛将軍が率いている直下兵と、秦との国境付近に展開する軍は合計で3万人ぐらい。そこに李牧と龐煖が5万を率いて合流するけど、それでも計8万人か。……キングダム世界だと少なく感じる数だけど、10万を超える大軍を燕に派遣しながら秦相手にこれだけの軍をぶつけられるって人の数が異常だわ。

 

なお王騎が率いる軍の規模は、15万ほど。どうやら韓との戦で、一回も交戦しなかった部隊が多くいたようで、そいつらが合流しているから単に徴兵しただけの軍じゃない。あの王騎がほぼ兵力倍で攻めて来るとか糞ゲー過ぎるわ。というかこれがこれからずっと続くとか不安しかない。

 

……攻めて来る秦軍には、キングダム主人公の信もいるだろうね。後々強大な敵になると分かっているし、可能なら早めにぶっ殺したいけど今はまだ知名度も皆無な数多くいる百人将の1人だからなあ。まあ趙軍全体に若い指揮官は後々厄介になるから早めに殺せと伝達するしかないわな。これで効果があるかは知らん。

 

燕に攻めこんでいる軍は、まだ余力がありそうな魏加と姜燕の軍を中央に戻して転戦させる。何なら王騎と龐煖の一騎討ちの時、弓矢で横やりを入れて王騎を貫いても良いよ。というか貫け。あれを早いこと殺さないと、趙としては中華統一の難易度が2段階ぐらい上がる。

 

下手を打ったと言えばそれまでだけど、燕のことは舐め過ぎていた。劇辛将軍を引き抜き、趙の原作で強かった将軍をズラリと並べて、精鋭の騎馬隊を揃えれば武陽どころか燕の国都である薊まで落とせるかと思ったけど、そこまで進軍するにはやっぱりかなりの犠牲を払わないといけないらしい。廉頗がそういうならきっとそうなんだろう。この時期の趙ってだけでやっぱり難易度ハードだわ。

 

現時点では、対秦の国境にいる3万の兵と劇辛将軍が王騎率いる秦軍をどれだけ耐えられるかという勝負にもなっている。……いやそういえば、対秦軍のために秦との国境付近には万極を配置していたな。万極の直下兵達は原作通り長平の戦いの遺児達で構成されているし、特に防衛戦なら勝手に死兵になってくれるはず。

 

劇辛将軍の直下兵も結構な数が趙に移籍したし、李牧と龐煖の援軍が間に合う前に韓皐城が落ちることはないだろ。完成していないとはいえ、現時点でも結構な堅城だし、城主は一応原作キャラの豪紀様だし。

 

「豪紀には撤退をするなと伝えてある。というか撤退したら死罪だと伝えた。劇辛将軍の精鋭部隊である毒犬と毒猫は趙の精鋭の騎馬隊を遥かに超える速度を持っているし、万極の軍は決して士気が費えることはない。……どうだ?王騎を討つ策略は見えたか?」

「……ええ、僅かにですが」

「ならばさっさと行け。あと邯鄲の兵は貸さんからな」

「今邯鄲を含む王都圏を手薄にしてしまえば、魏や楚に攻め込まれた時に対応出来ませんよ。最悪斉が水軍を使って一気に王都圏へ攻め入って来る恐れも」

「分かっているならさっさと行け」

 

李牧に現時点での趙が秦相手に割ける戦力を全て任せて、出陣を見送る。というか蹴り出す。うん、総大将李牧の時点で凄く不安だ。「勝った!」と確信したドヤ顔を見せた後に「ん?」とか言って凄い見落としをして大敗しそう。

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